みなみ赤塚クリニック(茨城県水戸市)

特集
糖尿病と妊娠
妊娠中の特性を知り
個々の状況に即した応用力を
2010年に妊娠糖尿病診断基準が変更され、
血糖コントロールが必要な妊婦
を従来よりもきめ細かく区分することになりました。糖尿病合併妊娠と妊娠糖
尿病
(GDM)
とでは胎児への影響が異なるため、
それぞれに適したケアが必要
です。
また、
産後早期に2型糖尿病へ移行する可能性の高いハイリスクGDMで
は、
経過観察が重要。
このように、
妊娠中の糖尿病ケアでは、
CDEを中心とした
メディカルスタッフが妊娠に特有な病状を学ぶことが欠かせません。そこで今回
は、
妊娠糖尿病診断基準検討委員会のメンバーでもある清水一紀先生に、
診断
基準の変更にいたる経緯やその意義、
妊娠中のケアについてうかがいました。
心臓病センター榊原病院糖尿病内科 内科部長
清 水 一 紀 先生
ものを、GDMと明らかな糖尿病についてそれぞれ設定
従来の基準で見逃されていた
「明らかな糖尿病」
しました(表1)。
新基準では「空腹時血糖値92mg/dL以上、負荷後1
時間値180mg/dL以上、負荷後2時間値153mg/dL
2010年7月に施行された妊娠糖尿病(GDM)の新
以上のうち、1点以上を満たす場合」をGDM、「空腹
診断基準の狙いは、従来の基準ではGDMの中に紛れて
時血糖値126mg/dL以上、HbA1c値6.5%以上、随時
いた「明らかな糖尿病」を除外するとともに、産後早期
血糖値200mg/dL以上、糖尿病網膜症が存在する場合
に2型糖尿病へと移行する可能性の高い「ハイリスク
のうち、いずれかを満たす場合」を明らかな糖尿病と
GDM」を通常のGDMと区別することで、それぞれに
しています。GDMのうち2時間値が200mg/dL以上
適切なケアをしていこうというものです。
の場合には、明らかな糖尿病の基準に照らして判断し
日本ではそれまで、1997年にアメリカ糖尿病学会
ます。このとき、「HbA1c値が6.5%未満」であれば、
(ADA)が提唱するGDMの定義を採用してきました。
ハイリスクGDMに分類されます。
しかし、これでは本来のGDMである「妊娠中にみられ、
新基準が明らかな糖尿病をGDMから除外した理由は、
分娩後に改善する軽度の耐糖能異常」のほか、「妊娠
この群に該当する妊婦には、妊娠前から糖尿病と診断
中に発症して出産後も継続する糖尿病」や、「妊娠前
されていた「糖尿病合併妊娠」に準じたケアが必要だ
に発症していて妊娠中に初めて診断された糖尿病」ま
からです。胎児の成長過程は、8週〜24週の「胎児形
で含まれてしまう懸念がありました。
成期」と24週〜40週の「胎児成長期」に分かれてお
このため新基準では、「妊娠中に発症したか、もしく
り、前半の胎児形成期に母体の高血糖が持続すると、
は初めて発見された耐糖能異常」という従来の定義に、
奇形発症リスクが高まると考えられています。つまり、
「明らかな糖尿病は含めない」との一文が加筆されま
糖尿病合併妊娠や明らかな糖尿病で最も注意しなけれ
した。診断基準は、75g糖負荷試験(OGTT)の結果
ばならないのは、胎児の奇形です。ほかに、妊娠によっ
をもとに「空腹時血糖値100mg/dL以上、負荷後1時
て糖尿病や増殖網膜症が悪化するおそれもあります。
間値180mg/dL以上、負荷後2時間値150mg/dL以
一方、胎児形成期には正常血糖であり、妊娠末期だ
上のうち、2点以上を満たす場合」とひとくくりだった
け食後高血糖になるGDMとハイリスクGDMでは、奇
2
形発症のリスクは正常妊婦と変わりません。しかしな
日本独自に設定した
「ハイリスクGDM」
がら、これらの群では胎児成長期に高血糖になるため
に、胎児が十分発育しなかったり、反対に巨大児にな
ったりするリスクがあります。巨大児は新生児低血糖、
高ビリルビン血症、多血症、低カルシウム血症、呼吸障
これまで臨床では、妊婦の血糖値が上がるほど胎児
害などを合併するケースがあるうえ、早産や帝王切開
が巨大化することは知られていたものの、巨大児が急
を招くことも多くなります(表2)。また、母親も分娩
激に増える血糖値の境目が見つかりませんでした。最
後に糖尿病を発症する確率が高く、特にハイリスク
終的には臍帯血のCペプチドが高くなる点を基準にし
GDMの場合は早期に移行する例が多いことから、少な
ていましたが、臍帯血は採取が難しいためにデータが
くとも1年間は血糖値などのフォローアップが必要です。
集まらなかったのです。IADPSGの原案は胎児に高イ
糖尿病合併妊娠とGDM、ハイリスクGDMを区別す
ンスリン血症が起こる閾値を基準にしており、日本で
ることで、それぞれの病態に応じてより的確な血糖コ
の考え方と方向性が一致したことから、概ね同意が得
ントロールが可能になるのです。
られました。
ところが、一つだけ問題がありました。「75gOGTT
表1:妊娠糖尿病の診断基準
妊娠糖尿病gestational diabetes mellitus(GDM):妊娠中に初めて発見または発症した糖
尿病にいたっていない糖代謝異常である。
明らかな糖尿病
(overt diabetes)
は含めない。
診断基準:
妊娠中に発見される耐糖能異常hyperglycemic disorders in pregnancyには、1)妊娠糖尿病
(GDM)、2)明らかな糖尿病overt diabetesの2つがあり次の診断基準により診断する。
1. 妊娠糖尿病(GDM)
2. 明らかな糖尿病 overt diabetes
75gOGTTにおいて次の基準の1点以上を満
たした場合に診断する。
空腹時血糖値≧92㎎/dL (5.1mmol/L)
1時間値≧180㎎/dL (10.0mmol/L)
2時間値≧153㎎/dL (8.5mmol/L)
以下のいずれかを満たした場合に診断する。
空腹時血糖値≧126㎎/dL
HbA1c(NGSP) ≧6.5%
随時血糖値>200㎎/dL*
*随時血糖値>200㎎/dLの時は、
空腹時血糖値かHbA1cで確認
糖尿病網膜症が存在する場合
注1. 妊娠中の75gOGTT2時間血糖値≧200㎎/dLの場合は、
明らかな糖尿病診断基準項目①∼④について検討し、
明らかな糖尿病かどうか判定する。
注2. HbA1c(NGSP)6.5%未満で2時間値≧200㎎/dLの場合は明らかな糖尿病とは判定し難いので、
high risk GDMとし、
妊娠中は糖尿病に準じた管
理を行い、
出産後は糖尿病に移行する可能性が高いので厳重なフォローアップが必要である。
表2:妊娠中と分娩後における母子のリスク
母体
胎児
糖尿病合併妊娠
明らかな糖尿病
ハイリスク GDM
GDM
糖尿病の悪化、
増殖網膜症
糖尿病の悪化、
増殖網膜症
分娩後早期の
糖尿病発症
分娩後の
糖尿病発症
巨大児
新生児低血糖
高ビリルビン血症
多血症
低カルシウム血症
呼吸障害
巨大児
新生児低血糖
高ビリルビン血症
多血症
低カルシウム血症
呼吸障害
奇形
奇形
3
の2時間値が200mg/dL以上かつHbA1c値が6.5%未
に移行する確率はGDM群と変わらないが、移行する期
満のケースをどう扱うか」です。私たち内科医の立場
間はGDM群よりも早く、出産後も継続的に厳格な体重
から見れば、これは紛れもなく糖尿病ということにな
管理などが必要な層として区別する必要がある」と結
ります。糖尿病の診断基準にも、「妊娠中は除外する」
論付けました。そして、「ハイリスクGDM」という言
といった文言はありません。けれども、委員会内には
葉が正式に採用され、日本独自の基準として注釈に挿
「GDMとみなしてかまわない」という意見もありまし
入することになったのです。
た。
一人ひとりのケースに沿った
臨機応変な指導が必須
そこで、委員会の命を受けた私は、国内の医療機関
から旧基準でGDMと診断された1032例を集め、新基
準に照らして分類してみたのです。すると、新基準で
GDMに該当したのは全体の8割にあたる835例で、残
糖尿病合併妊娠やGDMのケアには、妊娠中ならでは
り2割にあたる197例は明らかな糖尿病に該当するこ
の母体の変化をよく認識しておく必要があります。最
とがわかりました。また、新基準のGDMのうち96例
も顕著なのは、「空腹時低血糖かつ食後高血糖」にな
は、明らかな糖尿病の診断基準には当てはまらないも
ることです。前者は胎児が栄養を取り込むことによっ
のの、75gOGTTの2時間値が200mg/dL以上をマー
て起こり、後者は胎盤から産出する成長ホルモンや性
クしていました(図1)。
ホルモンなどのインスリン抵抗性ホルモンの影響で起
ただし、耐糖能異常と周産期合併症については、施
こります。
設によって主治医の介入方法や介入時期に差がありま
特に28週以降は、胎児が成長して旺盛に栄養を取り
す。これを考慮し、GDM診断基準のエンドポイントを
込むため、母体は空腹時の血糖低下が激しくなります。
分娩後の糖尿病発症と規定して再検討すると、利用で
GDMの新基準で、空腹時血糖値が92mg/dLと、通常
きるデータは明らかな糖尿病が139例、GDMが323
の耐糖能異常の基準と比べて低く設定されているのも
例、両者の中間層にあたる「OGTT2時間値200mg/
このためです。実際に、健常な妊婦の血糖値を調べた
dL以上」が60例でした。私はこの中間層を仮に「ハイ
ところ、妊娠24〜28週の随時血糖値は83mg/dL程
リスク群」と名付けて分析することにしました。
度でした。また、妊娠中は慢性的な貧血状態にあるた
分娩後の糖尿病発症率の比較では、明らかな糖尿病
め、HbA1c値も通常より低くなり、正常値で4.8%程
群はGDM群やハイリスク群と比べて糖尿病に移行する
度です。
比率が明確に高かったものの、GDM群とハイリスク群
こうした特性を踏まえ、妊娠中の血糖コントロール
との間に発症頻度の差は認められませんでした。しか
の目標値は、一般的な糖尿病血糖コントロールとは分
し、糖尿病と診断されるまでの期間について比較して
けて考える必要があります。日本糖尿病・妊娠学会で
みると、明らかな糖尿病群での平均発症期間は41.0ヵ
は正常な妊婦の値をもとに、HbA1c値は5.7%以下、
月、ハイリスク群では71.7ヵ月、GDM群では139.7ヵ
グリコアルブミン値が15.7%以下、血糖値は早朝空腹
月で、ハイリスク群とGDM群の間にも有意な差が認め
時95mg/dL未満、食前血糖値100mg/dL未満、食後
られたのです(図2)。
2時間血糖値120mg/dLを提唱しています。
このことから、委員会では「ハイリスク群は糖尿病
ハイリスク群を含むGDMの治療は、この値をめざし
図1:新基準で分類した旧基準の症例
図2:分娩後糖尿病への移行期間
明らかな糖尿病 197 例
139.7
GDM
GDM
835 例
のうち
96 例が
ハイリスク
GDM
1,032 例
ハイリスク
GDM
71.7
明らかな
糖尿病
41.0
0
新基準
30
60
90
120
150
分娩後糖尿病への移行期間(ヵ月)
旧基準
4
表3:妊娠糖尿病の病態変化とケア
●規則正しい生活習慣
●定期的通院
●適切な体重管理
●インスリン療法
●規則正しい生活習慣
●定期的通院
●規則正しい生活習慣
●定期的検査
●適切な体重管理
●インスリン療法
(分娩後は中止)
●規則正しい生活習慣
●妊娠に対する教育
1
●糖尿病発症予防
●体重管理
2
3
4
5
妊娠前の
教育
耐糖能異常の
診断
(妊娠初期)
妊娠糖尿病の
診断
(妊娠中期)
周産期管理
(妊娠末期)
分娩後の
管理
●通常状態と変わらない
●血糖値はほぼ正常
●インスリン分泌が亢
進する
●食前血糖値が低下する ●食前血糖値が低下する ●血糖値はほぼ正常
●食後血糖値が上昇する ●食後血糖値が上昇する ●インスリン分泌が亢
進する
●インスリン分泌が亢進 ●インスリン分泌が亢進
する
する
●なし
●つわりの時期
●つわりののち、食欲
亢進
血糖正常化
糖尿病の発症
体内の状態
患者さんが感じる症状
●なし
●肥満
●浮腫
●肥満
●浮腫
糖尿病ケア.2012年秋季増刊(通巻112号),P.32-41,メディカ出版,2012
表4:妊娠糖尿病のSMBGの具体例
GDM 各食前超速効型インスリン(4-4-4)
朝前
昼前
後
後
夕前
食パン(ジャム)
164
サケ、大豆煮
119
水餃子
高野豆腐
100
スパゲッティ
101
サバ
後
131
89
ピーマンとじゃこ炒め
112
野菜炒め
132
肉じゃが
野菜炒め
128
春雨スープ
125
かぼちゃ煮、イカ
131
96
ゆで卵、パン
121
天丼
144
アジ南蛮、麻婆豆腐
116
127
サツマイモ
112
卵焼き、サバ
100
天ぷら
野菜炒め
128
ミートボール
142
タラの香草焼き
98
酢の物
121
冷麺
113
153
サラダ
97
大豆ひじき煮
118
山芋天
144
天ぷら
目玉焼き
101
酢の物
101
中華丼
99
目玉焼き
99
ミートボール
151
海藻サラダ
84
つくね
91
納豆
85
※赤字は高いと感じた数値。油ものが多いことがわかる。
糖尿病ケア.2012年秋季増刊(通巻112号),P.32-41,メディカ出版,2012
てまず食事療法から始めます(表3、表4)。ここでは、
妊娠初期から分娩までの治療とケアで最も大切なの
妊婦さん自身が血糖を測ることで自分の血糖変動を把
は、一つひとつのケースをよく観察してリスクマネジ
握し、最適な食事内容や食べる量をみつけてもらうこ
メントをしていくことです。例えば、貧血があると
とが良い治療につながります。明らかな糖尿病とハイ
SMBGの値は高めに出るため、低血糖の判別は難しく
リスクGDMには自己血糖測定(SMBG)に保険が適用
なります。食事療法では「野菜をよくかんでゆっくり食
されるようになったので、積極的に導入してほしいと
べましょう」と言いますが、痩せ型の人が超速効型イ
思います。
ンスリン注射をした後にゆっくり食べていると、食事
GDMでは妊娠高血圧症候群などを合併しない限り、
中に低血糖を起こすこともあるのです。
厳格な周産期管理は必要ありません。ただし、巨大児
また、低血糖になる空腹時の値にインスリンスケー
の場合は新生児低血糖を発症させないために、分娩直
ルを合わせると、食後高血糖を見逃すおそれが出てき
前の血糖コントロールが重要です。この時期にはイン
ますから、必ず食後の測定をするように指導しなけれ
スリンを使用し、分娩後はすみやかに中止します。
ばなりません。反対に、夕方の値が高いのに合わせて
5
持効型インスリンを追加したところ、じつは間食をし
ており、夜中に低血糖を起こしたという例もあります。
低血糖が起きてやむなく間食をとることもあるので、
なぜ、高血糖になったのかを見極めなければなりませ
ん。
注射を打つ位置にしても、臨機応変な指導を心がけ
ましょう。痩せ型の妊婦さんでは胎児の成長に伴って
腹部の皮膚が薄くなり、針を刺すことをためらうこと
があります。こうした場合には、腕や大腿部に変更して
もかまいません。
妊娠は糖尿病のリスクを
早期に発見するチャンス
かな糖尿病やGDMと診断されたことは、糖尿病を発症
するリスクに早期に気づく絶好のチャンスであったと
このように、妊娠中にはいくつものピットフォール
も言えるはずです。「GDMでは奇形は起こらない」
(落とし穴)があるものです。それだけに、CDEのみ
「明らかな糖尿病でも血糖コントロールによってリス
なさんには、「聞き取り力」や「応用力」が求められま
クを減らせる」「分娩後にもSMBGを続けて糖尿病の
す。産科や助産師と共同で勉強会を開くなど連携を強
発症を防ぐ必要がある」といった正しい情報をきちん
めて、わからないことを教え合う態勢ができれば理想
と伝え、安心して治療と出産に臨めるように励まして
的ではないでしょうか。一般の糖尿病とは異なり、短期
あげましょう。
間に成果が現れるGDMの治療は、医療者にとってもや
一家の母親が食事や生活習慣に関心を持ち、自分と
りがいのある仕事です。ぜひ、成功体験と達成感を味
家族の健康管理を実践するのは素晴らしいこと。患者
わってほしいと思います。
さんが「妊娠をきっかけとして、糖尿病になりやすい
妊娠という喜ばしい出来事と同時に糖尿病のリスク
体質であることに気づいてよかった」と、前向きな気
を背負った妊婦さんは、誰もが不安な気持ちを抱えて
持ちで人生に取り組めるように導くのも、CDEの役割
います。しかし、妊娠時のスクリーニングによって明ら
のひとつなのではないでしょうか。
こんなとき
どうする?
Q
血糖コントロールの悪い患者が
挙児を望んだら…
血糖コントロールの悪い女性の 2 型糖尿病患者さんが、挙児を希
望しています。計画妊娠の必要性や妊娠リスクを説明するのですが、
血糖値は改善しません。どのように関わればいいでしょうか。
A
清水先生 妊娠を許可するかどうかの線引きは、大変難しいところです。という
のは、妊娠によって合併症が急激に悪化する可能性が高いからです。例えば、腎
臓が悪く尿タンパクが出ている状態なら、妊娠中に人工透析になるケースが多く、
最悪の場合、死に至ることもあります。軽度の増殖網膜症でも、妊娠で進行が一気に早まり、
失明してしまうこともあるのです。仮に出産が成功しても、人工透析や失明が原因となって
離婚する例も少なくありません。そのようなことになれば、患者さんは不自由な身で、一人
で子育てをしていかなければならないのです。私は過去に 1 例だけ、産婦人科と連携して、
重篤な腎症を合併している患者さんの出産を成功させた経験がありますが、医療者として
軽々しく妊娠を勧めることはできません。患者さんにも、医学上のリスクだけではなく、そ
の後の人生設計全般を含めてしっかりと説明する必要があるでしょう。NICU の設備がある
か、産婦人科の全面的なサポートを受けられるかといった点も含めて、慎重に判断してくだ
さい。
6
国立がん研究センター中央病院
総合内科・歯科・がん救急科
今回紹介した海外雑誌
Obstetrics&Gynecology:オブステトリクス・アン
ド・ガイネコロジー誌はアメリカ産婦人科学会のオフ
ィシャルジャーナルです。産婦人科および関連分野
における臨 床 医 療 の 更なる発 展を目的として、
1953年に創刊された月刊誌です。
大 橋 健 先生
妊娠糖尿病後の顕性糖尿病発症に関する分娩後早期のリスク因子
大橋先生の
Early possible risk factors for overt diabetes after gestational diabetes mellitus.
Göbl CS, Bozkurt L, Prikoszovich T, Winzer C, Pacini G, Kautzky-Willer A
Obstet Gynecol.118(1):71-8,2011
□目的
□結論
耐 糖 能 異 常、HDLコ レ ス テ ロ ー ル 値50mg/dL未 満、
分娩後間もない妊娠糖尿病(GDM)女性において、メタボ
リックシンドロームに関連した項目など、将来の糖尿病発
および年齢35歳超がGDM後の糖尿病発症の最良予測因
症を最も効果的に予測するための一連のリスク因子につい
子として同定された。 て評価する。
C omment
□方法
分娩後3 ~ 6 ヵ月のGDM女性を対象にベースライン時
の代謝関連項目の測定を行い、以後10年目まで年1回のフ
ォローアップを実施した(N=110)。ベースライン時のメタ
ボリックシンドローム関連指標や年齢、腹囲、人種などの
変数から、糖尿病の発症を予測した。
□結果
妊娠中の代謝異常およびインスリン治療は糖尿病顕性化
と有意に関連した。ウエスト周囲径80cm以上は将来の糖
尿病発症に対して有意な影響を示さなかったが、88cm以
上をカットオフ値とした場合には有意であった。ほかに影
響を及ぼす因子として、耐糖能異常[13名(56.5%)、ハザ
ード比6.77、信頼区間(CI) 2.96 ~15.45、P<0.001]、
HDLコレステロール値50mg/dL未満 [14名(60.9%)、ハ
ザード比2.88、CI 1.24 ~ 6.67、P=0.010]、年齢35歳
超[12名(52.2%)、 ハ ザ ード 比3.06、CI 1.32 ~ 7.12、
P=0.006]を同定した。これらの因子の影響は相加的であ
った。少なくとも2つのリスク因子のある女性はリスク因子
が1つのみの女性よりも糖尿病を発症するリスクが高かった
(ハザード比3.2、CI 1.4 ~ 7.7、P=0.008)。
図:リスク因子別にみた糖尿病発症状況の推移
80
OGTT120分値
140mg/dL未満
60
40
OGTT120分値
140mg/dL以上
20
0
0
500
フォローアップ期間
年齢≦35歳
80
60
年齢>35歳
40
20
0
0
500
1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500(日)
フォローアップ期間
7
糖尿病を発症していない人の割合
糖尿病を発症していない人の割合
(%)
100
1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500(日)
妊娠糖尿病では、妊娠中の管理が重要なのはもちろんです
が、将来の糖尿病発症のリスクが高いことから、出産後も本格
的な糖尿病への移行を予防することが重要です。出産後間もな
い段階で将来糖尿病を発症しやすい症例を同定できれば、生活
習慣改善など糖尿病予防のための介入を積極的に行うことがで
きるでしょう。この研究は、妊娠糖尿病と診断された症例を出産
10年後まで追跡し、出産直後の代謝指標などと糖尿病発症の
関連を検討した前向き観察研究です。
10年間での糖尿病発症率は21.3%
(発症までの期間の中央
値は3.0年)でした。糖尿病家族歴の有無や人種には有意な関
連がありませんでした。最も有効な予測因子として同定されたの
は、①OGTT120分値140mg/dL以上、②HDLコレステロール
値50mg/dL未満、③年齢35歳超の3つです。また、これらの因
子が重なるほど、リスクも高まることが示されています(図)
。これ
までの研究では、出産後からの体重増加もリスクになることが報
告されていますが、本研究では、糖尿病発症群の平均体重増加
は3.4kgにとどまり、有意ではありませんでした。糖尿病発症リス
クの高い症例を出産後早期に同定し、十分な教育や生活習慣
改善のための継続的な支援を提供することが求められています。
妊娠中だけでなく、出産後の長期的なフォローにおいても療養指
導士が貢献できることはたくさんあるはずです。
糖尿病を発症していない人の割合
糖尿病を発症していない人の割合
(%)
100
妊娠中だけでなく、
出産後の長期的なフォローにおいても療養支援を
(%)
100
80
HDL-C値 50mg/dL以上
60
40
HDL-C値 50mg/dL未満
20
0
0
500
(%)
100
1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500(日)
フォローアップ期間
リスク因子0個
80
リスク因子1個
60
40
リスク因子2個以上
20
0
0
500
1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500(日)
フォローアップ期間
チーム力あり !
リーディングホスピタル
Vol.01
患者さんとつながる医療の場をめざして
垣根を超えたチーム医療を展開する
松波総合病院(岐阜県羽島郡笠松町)
岐阜県南部、羽島郡笠松町にある松波総合病院は、高度な専門医療を担う地域医療の中心として地元の厚い信頼を集めてきた。
患者さんを中心に据えたチーム医療、地域クリニックを巻き込んだ病診連携、患者さん一人ひとりに合った療養指導を実現する
ために、院内外に展開する独自の支援活動をうかがった。
患者さんに寄り添った医療を実現する独自の取り組み
松波総合病院の糖尿病チーム体制
糖尿病チームで作成した
教育入院用テキスト
モチベーションアップのためのイベント、
野外実習会
1
医療の垣根を超えた
地域連携型のチーム医療
2
療養指導の要は
患者さんの意識改革にあり!
患者さんを取り囲んで、
医師とメディカルスタッフが
糖尿病の合併症を防ぐために最も大切なのは、
患者さ
相互に連携し、
オーダーメイドの療養指導で継続的に
ん自身の意識改革。
教育入院では患者さんの理解度に
サポートする。
紹介患者を送り込む地元のクリニック
応じた指導を心がける。
退院後も意欲的に療養を継続
とも病診連携をはかり、
患者さんの情報を共有。
地域
できるよう、
さまざまなイベントを開催。
全体での糖尿病治療の向上に努めている。
8
松波総合病院 生活習慣病管理部のみなさん
糖尿病リンクナースのみなさん
スペシャリストの技能を尊重し、
外来・病棟の垣根を超えた院内連携を実現
地域クリニックとの「病診連携」で
患者さんが安心できる環境を提供する
「同じ医師とメディカルスタッフが継続して診ることは、
糖
地域に向けての「病診連携」
も同管理部が推進する大きな
尿病患者さんにとって安心や治療への意欲向上につながり
取り組みだ。
まず高度な療養システム、
教育入院を充実させ
ます。
そのため当院では平成6年に生活習慣病管理部を立ち
ることで、
地域の糖尿病治療の中心として存在感を高めてき
上げ、
一人の患者さんを病院内外で継続支援するチーム医療
た。
地域連携において林副院長が重視しているのは、
総合病
を構築しています」
と語る林慎副院長。
院と地域クリニックの役割分担である。
同管理部は療養指導や患者会の支援、
スタッフの専門教育
「病院が患者さんの意識や自己管理を高める場だとした
に加え、
病棟と外来の連携、
糖尿病リンクナースの充実、
地域
ら、
地域は患者さんの生活を支えていく場。
病・診が連携し、
クリニックとの連携など、
院内外のネットワーク構築に取り
地域全体で患者さんを支える体制づくりを進めています」
。
組んできた。
管理部の糖尿病チームを率いるのは山田吉子看
地域連携の一環として、
地域のクリニックとカンファレ
護師。
CDE11 名、
兼任となる管理栄養士や理学療法士など
ンスを開き、
紹介患者さんの様子や成果を報告する。
それに
専門スタッフ29名、
各病棟のリンクナース12名をまとめ、
よって指導に一貫性が生まれ、
患者さんも医療の分断を感じ
糖尿病チームとして活動する。
ずに療養に専念できる。
画期的なのは、
外来と病棟の垣根を超えた診療システム
患者さんの療養指導においては、
教育入院での意識改革、
だ。
患者さんを支援するスタッフは担当制で、
例えば入院し
退院後の継続支援が何より重要と山田看護師は語る。
ていた患者さんが外来に戻っても、
入院中と同じスタッフが
「大切なのは患者さんが日常に戻ったときに、
療養を継続
外来に出向いて継続的に支援する。
担当制の目的を、
「スタッ
する意志を持ち続けること。
知識を詰め込むのではなく、
患
フにとっても、
一人の患者さんを継続して診ることでやりが
者さんができることを一つひとつ確認しながら、
ご自分で意
いが増します。
成果はカンファレンスなどで取り上げ、
学会発
思決定するまで手引きするのが私たちの役割です」
。
表も推奨しています。
スタッフのモチベーションを上げてい
退院後は、3年間にわたりフォローアップを継続する。
く、
それは患者さんの療養にも好影響を及ぼします」
と山田
「データを追ってみると、
退院半年後から血糖値が不安定
看護師は語る。
になり、2年ほどは安定しないケースが多い。
最初は1ヵ月ご
病棟では糖尿病看護の標準化を図るため、
院内資格を持つ
と、
半年後からは3ヵ月ごとに面談し、
微細な変化を見逃さな
リンクナースの育成に力を入れる。
現在、
リンクナース自ら勉
いようにします」
と山田看護師。
強会の課題を立て、
所属する部署の目標を掲げて糖尿病治療
心を見据えた支援をすることで患者さんの意欲も高まり、
に大きな役割を果たしている。
リンクナースや兼任スタッフ
気になる症状はスタッフにすぐ相談できる関係性が築かれ
が無理なく糖尿病治療に関わるには「各部署の仕事内容や
る。
そのためには、
医療者が自ら動いて垣根を取り払い、
患者
個々の能力に合わせた仕事配分が決め手」
と山田看護師。
「当
さんが安心できる環境を提供することが肝要だ。
「人が動け
院は総合病院ですから病気は糖尿病だけではありません。
そ
ば、
道ができる」
と林副院長は語る。
医療者が能動的に動き、
れを踏まえた上で、
病院全体で糖尿病治療の水準を上げてい
システムを超えて人のつながりを深めることで、
患者さんに
く姿勢が重要です」
と林副院長は付け加えた。
寄り添った医療を確実に追求している。
9
チーム力あり !
リーディングクリニック
Vol.02
徹底したチーム医療体制で
妊娠糖尿病をはじめとする疾患と対峙する
みなみ赤塚クリニック(茨城県水戸市)
さまざまなオリジナルツールを開発しながら、全スタッフが一丸となって患者さん中心のチーム医療を推進するみなみ赤塚クリ
ニック。地域糖尿病診療の拠点として活動する同クリニックの取り組みについてお話をうかがった。
全スタッフの総力を自然に結集するための工夫
診察前に予診を実施
妊娠糖尿病患者さん用に多くのツールを用意
予診で使われる『糖尿病ミニ知識』
1
医師が診察をする前に
必ず予診を行う
2
妊娠糖尿病患者さんには
血糖自己測定を実施
患者さんは初診、
再診を問わず、
診察室に入る前に必
妊娠糖尿病患者さんに血糖自己測定を行い、完璧な
ず予診室でメディカルスタッフから、
療養指導を受け
血糖コントロールをめざしている。このため、日本
たり、
検査結果の伝達をしてもらう。
その際に用いら
糖尿病・妊娠学会が発行するQ&A 集に加え、妊娠
れるさまざまなツールは、
ほとんどすべてスタッフに
糖尿病に関する基礎知識を記したシート、測定マニュ
よるオリジナル。
日常診療の中から生まれたノウハウ
アルなど多くのオリジナルツールを駆使して、来院
が凝縮されている。
する患者さんの理解と同意を求めている。
10
みなみ赤塚クリニックのみなさん
左から綿引恵子さん
(看護師長)
、高橋秀夫院長、小田由美子さん
(看護主任)
カルテ共有化、
委員会制、
予診の実施。
全スタッフによる取り組みでチーム力強化
妊娠糖尿病は血糖自己測定を推奨。
インスリン投与量は毎日細やかに指示
月間約2300 名の糖尿病患者に対応する地域屈指の糖尿
高橋院長が、
チーム医療と並んで力点を置くのが、
妊娠糖
病診療拠点、
みなみ赤塚クリニック。
2013 年2月1日現在、
尿病への対応。
2012 年度は、
地域産婦人科から約150 名の
常勤3名を含む医師14 名、
看護師6名、
臨床検査技師2名、
妊娠糖尿病患者が紹介されている。
初診時には20 〜30 分
管理栄養士3名、
医療事務 8名体制で活動し、
うち看護師3
程度と十分な時間をかけて診療し、
予診においても、
「冊子を
名、
検査技師1名の計4名がCDE だ。
高橋秀夫院長が、
特に力
無料配布したり、
高血糖が母体と胎児に与える影響について
を入れるのが、
徹底したチーム医療の実践。
そのための具体
ツールを使って念入りに説明するなど、
血糖測定の大切さを
的な施策として、
カルテの共有化、
委員会制、
そして予診室の
理解してもらえるよう努力します」
と綿引看護師長も言う。
活用がある。
「電子カルテには、
医療事務も含めた全職が、
気
療養指導の中心は、
適切な食事療法と運動療法で、
「ほとん
がついたことや、
患者さんとの会話から知り得たことなどを
どの患者さんが、
お腹のお子さんのためを思ってか、
一生懸
細かく記し、
全員が情報共有しながら、
患者さん本位のチー
命取り組んでくれます」
と、
小田看護主任。
また同院では、
食
ム医療を進めています」
と高橋院長は説明する。
後血糖値が140mg/dL を超えるとインスリン療法を導入し
また、
医師を除くスタッフ全員が、
サービス向上委員会、
福
ており、
妊娠糖尿病患者の約17%がインスリン適応となる。
利厚生委員会、
医療安全委員会のいずれかに所属、
年に1 回
「妊産婦さんの高血糖を一日見過ごすと、
流産を来す可能
メンバーをシャッフルして、
誰もが全委員会を経験するよう
性や障害を持ったお子さんが生まれる危険もあります。
即時
にしている。
「院内のさまざまな掲示、展示や、患者さんへの
100 点満点の完璧な血糖コントロールをめざさなければな
情報提供はサービス向上委員会が、診療面での信頼性を高め
らない点が、
ゆっくり地道な改善でも良しとする2型糖尿病
る諸施策を医療安全委員会が、
また患者さんが参加するハイ
患者さんと異なるところです」
と語る院長は、
インスリン適応
キングや料理教室などの行事等企画運営は全員で担当しま
の妊産婦患者から、
毎日電子メールで血糖測定値と体調など
す」と綿引恵子看護師長。
「日頃から
“患者さんのために何が
の報告を受け取り、
それに対して、
インスリン量の変更指示
できるか”
を考えながら、
多職種が一緒に行動するようにな
をオンタイムで出す。
同院ではこの取り組みによって、
2002
り、
自然なコミュニケーションと、
他職への尊敬の念が育まれ
年の日本糖尿病・妊娠学会研究奨励賞を受賞している。
ます」
。
常時5〜10 名程度はインスリン適応の妊産婦がいるが、
ユニークなのが予診室の存在だ。
すべての患者さんは、
医
電子メールを用いた診療行為は、
診療報酬に加算されない。
師の診察前にメディカルスタッフの予診を受ける。
小田由美
それでも続けていられるのは、
「患者さんが無事出産した赤
子看護主任は、
「そこで使う療養指導用のツール(糖尿病ミニ
ちゃんの写真をメールしてくれたり、
ありがとうと言ってく
知識)
を、
スタッフが2人一組になり持ち回りで作製します。
れるから」
と院長が微笑めば、
「患者さんが健康になること
ここでも、
全員でやることで一体感が生まれます」
と話す。
は、
スタッフ全員のモチベーション向上にもつながります」
と
「予診に関して、
患者さんにアンケートを行ったところ、
ほ
綿引看護師長もうなずく。
スタッフがひとつとなった診療体
ぼ100%が肯定的で、
生活面のことなどをいろいろ話ができ
制は、
これからも一層強力に推進されていく。
るのがうれしいという意見でした」
と高橋院長は語る。
11
滋賀県湖南市にある甲西リハビリ病院は医療病棟と介護病棟を併設するリハ
ビリテーションに特化した医療機関です。外来の診療科目には「糖尿病」を標
榜する科はありません。そんな環境の中でCDEとして活躍されている薬剤師
の酒井孝征さん。リハビリ病院での糖尿病療養指導の重要性についてお聞き
しました。
第 20 回
CDEの
活躍の場を
とが
拡げていくこ
目標です。
このコーナー「CDEルーム」では、
糖尿病療養指導士(C D E)として
活躍しているメディカルスタッフの
みなさんを紹介しています。
リハビリ病院で
糖尿病のスペシャリストは
病棟スタッフと一緒に片麻痺の患者さん
へのSMBGやインスリン注射の手技習得
へのアプローチ法を考えたり、インスリ
回復期リハビリテーション病院は、脳
ン注射手技指導だけでなく注射部位にで
血管障害などの後遺症により運動機能が
きるインスリンボールを発見したり、病
低下した患者さんに対して日常生活動作
棟で経験するさまざまな症例をスタッフ
を改善し在宅復帰をめざしています。私
と情報共有しています。
医療法人社団阿星会 甲西リハビリ病院
酒井孝征 さん
(2008 年度 CDE 資格取得)
が勤務する施設は、健診などで高血糖や
夫へのインスリン導入を拒否する妻
くても、糖尿病内科を標榜していなくて
高血圧を指摘されていても放置している
に、夫のリハビリ入院を兼ねて、インス
も患者教育、スタッフ教育のやりがいが
生活習慣病を持つ患者さんが多く、未治
リン導入目的でご夫婦に糖尿病の教育を
あります。また、全国の医療機関を受診
療の糖尿病患者さんも珍しくありません。 行いました。その結果、CDEとして主治
している糖尿病患者さんは全体のうち一
患者さんの多くは、自分が糖尿病である
医、看護師、管理栄養士、セラピストと
部の人たちです。地域医療連携の中で一
という事実をなかなか受け入れることが
情報共有をしながらご夫婦の理解を得る
人でも多くの患者さんをすくいあげてい
できないようです。そのため、糖尿病の
ことができ、インスリン導入ができた事
く活動もCDEの重要な仕事です。CDE
治療と併せて心理的なアプローチが必要
例があります。CDEは薬物療法、栄養管
が必要とされるのは糖尿病の専門施設だ
になります。全国のリハビリ病院で、糖
理、療養指導の知識があるためチームの
けではありません。
尿病の専門医、CDEが勤務する施設は少
キーパーソンとして仕事ができます。
私のCDE活動は、どんな場所でも綿毛
ないと思いますが、私の経験からもリハ
このような活動を院内外で報告するこ
が降り立つところで力強く生きているタ
ビリ病院には糖尿病のスペシャリストが
とにより、院内スタッフから「糖尿病療養
ンポポの姿を見習いたいと思っています。
必要です。
指導を通して患者さんとのふれあいの機
そして、少しずつCDEの活躍の場を拡げ
会を持とう」という声が上がりました。患
ていくことが目標です。
現場での活動の結果が
スタッフの心を動かす
者さんの相談会、お話会のような集ま
りを想定しています。ふだん聞くことが
CDEとして院内スタッフの糖尿病に対
できない患者さんの声に耳を傾けようと、
する知識をうまく引き出してまとめるこ
当院ならではの糖尿病教室を計画してい
とができればと思っています。CDEであ
ます。
るからこそ自分の専門職種以外のことを
理解しやすいと考えています。できるだ
け薬局外で活動する時間を増やすことで
専門施設だけではない
CDEの活躍の場
スタッフと情報交換しながら知識のスキ
リハビリ病院でもCDEとして活躍でき
ルアップを図っています。例を挙げると
る場があります。糖尿病の専門医がいな
12
回答者
CDE
順天堂大学医学部附属順天堂医院
看護部
橘 優子さん
ドクター
国立がん研究センター中央病院
総合内科・歯科・がん救急科
大橋 健先生
GDMと診断された妊婦さんに食事のことを質問されたとき、2型糖尿病の患
者さんと同じ指導でいいのかがわかりません。GDMの食事療法について教
えてください。
血糖値の上昇をおそれ、食事摂取量を控えてしまわないように支援。
まず、妊婦さんにとって大切なことは、順調な妊
緒に考えていくと良いと思います。食事療法のみ
娠経過と健全な胎児発育です。これは、糖尿病で
で高血糖が是正されることも多いですが、1日 3 回
あってもなくても変わりありません。そのため、妊
食の食事療法で食後高血糖を認める場合には、分
婦さんは必要十分な栄養を摂取しながら、適正な
割食が必要になります。このように、エネルギー付
体重増加を維持していく必要があります。
加がある点と、状態によって分割食を指導する点
GDM とは、妊娠によって生じた母体の変化でイ
が、2 型糖尿病の食事指導とは異なります。
ンスリン抵抗性が増大し、糖代謝異常が起きた状
GDM の妊婦さんに食事指導をする際に気をつけ
態です。妊娠そのものがインスリン抵抗性を生じ
なければならないことは、妊婦さんが血糖値の上
させているのです。GDM と診断された妊婦さんが、
昇を恐れ、食事摂取量を控えてしまわないように支
必ずしも食事摂取量が過剰だったり、栄養バランス
援することです。妊婦さんには GDM という状態を
に偏りがあったりするとは限りませんから、まずは
わかりやすく正しく伝え、血糖値が下がらなかった
妊婦さんの食事摂取状況や内容を詳しく聞き、妊
場合の今後の対応(分割食やインスリン治療)につ
娠週数に合ったエネルギーを摂取できているかを
いてはじめにきちんと説明しておく必要がありま
確認します。このとき、食事内容を時間帯ごとに記
す。妊婦さんが「しっかり食べて胎児発育を促し、
載できるような、専用の記録用紙を作成しておくと
元気な赤ちゃんを産むために必要時は分割食やイ
わかりやすいと思います。妊娠中は週数によって
ンスリン注射を用いて血糖値を下げる」という基本
50 ~ 450kcal のエネルギー付加が必要ですから
的な治療方針を理解していることで、妊婦さんと医
(肥満妊婦は除く)
、妊婦さんに必要エネルギー量
療者が同じ方向を向いて治療していくことができる
を伝え、現在の食事内容にバランスも含めて修正
と思います。
点がある場合は、食事療法の取り組みについて一
GDM の管理では、胎児の発育に必要十分な栄養
の 2 型糖尿病の方のとき以上に、ストレスや不安へ
摂取の確保と厳格な血糖コントロールとの両立が重
の配慮が必要でしょう。
要です。そのためには適正な量のエネルギーが摂取
また、GDM 既往女性の多くが将来 2 型糖尿病や
できているかどうかだけではなく、積極的に血糖自
メタボリック症候群を発症することを考えると、
己測定を活用しながら食事と血糖値の関係にもより
GDM に対する食事療法の指導を、生涯にわたる健
注意を払う必要があります。妊婦は、GDM と診断
康的な食習慣確立のチャンスとしてとらえることも
されたショックや、自分のせいで胎児に影響が出る
できます。その女性の将来の健康にも影響を与える
かもしれないという不安を抱えながらも、待ったな
かもしれないという覚悟と長期的な視点を、私たち
しでこのセルフマネジメントに取り組まなくてはな
が持って指導にのぞむ必要があると思います。
りません。食事療法に関した指導の場面でも、通常
13
L illy Diabetes
第10回
本誌編集委員のご紹介
DMトレンドジャーナルはおかげさまで創刊から 6 年がたちま
した。今号から新たに編集委員に加わった先生方もいらっしゃ
います。あらためて編集委員の先生方をご紹介するとともに、
本誌に期待することや今後の糖尿病医療への想いをうかがいま
した。
永寿総合病院
糖尿病臨床研究センター センター長 東京大学医学部附属病院
病院長
門脇 孝先生
渥美 義仁先 生
DMトレンドジャーナルの編集委員は医師だけでなく、看
編集委員を長い間させていただき名誉なことと感謝して
護師、栄養士、薬剤師で構成されており、チーム医療を
おります。「クリニカルトーク」や「チーム力あり!」などは、
推進することに役立てればと思います。糖尿病について
私も大いに参考にしています。読者の方々も、ぜひ参考
は治療が大きく進歩し、新しい薬物も開発されてきました。
にしたり刺激を受けてください。糖尿病の治療薬は増え
ただ、糖尿病治療の根幹は患者さんの生活習慣への支援
ていますが、薬が効果を上げるためには生活習慣への介
や服薬、注射での自己管理が基本ですので、このジャー
入が必須です。より効果的に生活習慣への介入が行える
ナルの意義はますます大きくなっていくことでしょう。
よう、もう一頑張り、もう一工夫したいと願っています。
14
国立がん研究センター中央病院
総合内科・歯科・がん救急科 三咲内科クリニック
院長 大橋 健先生
栗林 伸一先 生
本誌を通じて糖尿病の最新トピ
編集委員でクリニック関係は私
ックに触れられると同時に、全
一人です。クリニックで働かれ
国各地の療養指導士のみなさんのご活躍や工夫を知るこ
ている読者も多いと思いますので、その方々にとっても
とができ、勉強になります。これからの時代、糖尿病に関
実践的かつ有益な情報誌にしていきたいと思います。医
わる私たちは、今まで以上に治療のコーディネーターとし
療・介護の財源の問題など深刻な社会環境の中で、患者
ての役割を求められるようになると思います。みなさんの
さんに効率的で良質な医療を提供する姿勢が求められて
チャレンジの成果を、ぜひ本誌で報告してください。
いますが、本誌の情報がその一助になればと期待します。
すずき糖尿病内科クリニック
院長 永寿総合病院
糖尿病臨床研究センター 薬剤師 鈴木 大輔先生
小出 景子さん
本誌の編集に携わり、あっとい
新たに編集委員を務めることに
う間の6年でした。今後も時代
なり緊張しております。現場で
のトレンドはもちろん、普遍的な事項に関しても最新の情
活躍されているスタッフの方が紹介されているので、
指
報を取り入れて企画したいと思います。患者さんの個々
導のモチベーションアップにつながっていると思います。
の生活に合わせた治療と、ある尊敬する先生が言われた
チーム医療、連携パスの使い方などさまざまな工夫を報
「患者さんに関わる時間が多ければ多いほど糖尿病は改
告していただきたいです。各職種が特色を生かして血糖
コントロールに寄与できたらと考えています。
善する」という言葉を大切にしていきたいと思います。
京都大学医学部附属病院
疾患栄養治療部 副部長
朝日生命成人病研究所附属医院
看護部 総看護師長
今号より編集委員を担当させ
今回から薬剤師、栄養管理の
ていただきます。多くの医療ス
先生方が加わり、より厚みのあ
タッフの方々に、これまで以上に最新の重要な情報を提
る内容のジャーナルになると期待しております。全体に硬
供できるように頑張りたいと考えています。これからの糖
いイメージですので、一息ぬけるコーナーがあってもい
尿病医療は食事・運動療法が基本であることは変わらな
いかなとも考えています。これからの糖尿病医療につい
いと思いますが、新薬や種々デバイスなど、さらに患者さ
ては、老人医療との関連、若い人達の生活習慣の改善、
んを中心とした医療が進歩していくと思います。
iPS細胞への期待などさまざまな想いがあります。
しで
幣 憲一郎さん
杉田 和枝さん
順天堂大学医学部附属順天堂医院
看護部 橘 優子さん
今後もDMトレンドジャーナルを
よろしくお願いいたします!
栄養士や薬剤師の方も編集委
員となり、より内容が幅広く読
者のニーズに沿えるようになると思います。糖尿病医療
への興味ややる気を起こさせるような情報を提供できれ
ばと考えています。専門職の能力を結集させるためには、
CDEの役割がますます重要になってきます。糖尿病医療
がチーム医療の効果の見本になれればと思っています。
15
のための
学会レポート
「第9回 国際糖尿病連合西太平洋地区
(IDF-WPR)
会議・
第4回 アジア糖尿病学会
(AASD)
学術集会」
レポート
2012年11月24日から27日まで、京都国際会館で「第9回国際糖尿病連合西太平洋地区(IDF-WPR)会議・第4回ア
ジア糖尿病学会(AASD)学術集会」
(IDF-WPR会長:清野裕先生 関西電力病院院長、第4回AASD学術集会会長:堀田
饒先生 中部ろうさい病院名誉院長)が「Exploring Diversity of Diabetes in the WPR ; Science-Navigated Care
and Education(西太平洋地区における糖尿病の多様性の探究;科学的根拠に基づく糖尿病の教育とケア)」をテーマに
開催され、世界43ヵ国から計4,081名が参加しました。西太平洋地区における糖尿病患者の急増を背景に、活発な議論
が行われました。
WPR(West Pacific Region)とは、アジア圏に加えオースト
糖尿病患者は9,240万人(!)にも上る一方、糖尿病治療の医療
ラリアやニュージーランド、また太平洋の諸島を含む、39の国
スタッフは10,000人あたり4.37人と極めて少なく、糖尿病教
と地域から成る地区です。国際糖尿病連合(IDF)は世界を7地
育上、大きな問題となっているそうです。このような状況下、例
区に分割し、糖尿病人口と予測値を発表。これによると、WPR
えばカンバセーション・マップは、通常1人のファシリテーター
の人口は世界の36%を占め、糖尿病人口は約1億3,200万人と
が5〜10名程度を相手に行うところ、10名のグループを2つ同
最多。今後20年で1億8,790万人に増加すると予測していま
時進行させて対応。ある程度糖尿病に対する知識を持った患者同
す。成人人口の糖尿病有病率に関しても、2010年では5.0%で
士のカンバセーションを取り入れることで医療従事者の負担を減
すが、2030年には6.4%まで上昇すると報告しています。
らす試みも行われているとのレポートがありました。
今回、
「糖尿病の多様性の探求;科学的根拠に基づく糖尿病の
海外のメディカルスタッフの方々から、
「他国のメディカルス
教育とケア」をテーマに、これら2つの学会が同時開催されたこ
タッフの人たちと、療養指導についてもっと情報交換したい」
「理
とからも、IDFが警鐘を鳴らす世界的な糖尿病人口の爆発に対し
想は、国家の枠を越えた、共通のプラットフォームなどに基づい
て、この地区で打ち出される糖尿病対策がいかに重要であるかが
て効率的に糖尿病教育できること」などの声が聞かれるなど、今
うかがえます。
学会が、今後の西太平洋地区の糖尿病治療、糖尿病教育の発展
プログラムでは50以上のシンポジウムが開催され、また一般
に大きな刺激となったことが感じられました。
演題登録も800以上ありましたが、特に糖尿病教育や療養指導
また、
「糖尿病に立ち向かう~京都ではじまるアジアの輪~」を
に関するセッションには参加者も多く、非常に活発な議論が行わ
テーマに、市民公開講座や、おなじみの「体がよろこぶ健康いき
れました。中でも注目度の高かったテーマは、糖尿病人口の急増
いき体操」など、さまざまな体験イベントも開催。多くの患者さ
に対する各国の医療資源不足の問題です。
んが参加され、医療関係者、患者・市民にとっても有意義な 4日
北京大学第一医院のワン・ウェイ先生の発表によると、中国の
間となりました。
会場に立ち並んだ各国のブース
会場の京都国際会館、京都タワー、清水寺もブルーにライトアップ
●DM Trend Journalのバックナンバーは、日本イーライリリー株式会社のWEBからも閲覧可能です。⇨ http://www.humalog.jp/
■編集・発行 (株)博報堂 ■ 提 供 日本イーライリリー 株 式 会 社
INS-P538(R0)
2013.06