日本工業出版 建築設備と配管工事(2009 年 5 月号)掲載記事原稿 支 援 ソフト 建物管理業務のコスト削減と品質向上、さらにはアフター営業を支援するシステム <建物レスキュー> ■はじめに ㈱FMシステム 木村 圭介 管理や障害の分析を行う業務管理、および定期的な点検の 既存の建物と設備をより快適に、効率よく管理する手法 スケジュール管理や写真管理など、現実に行われている障 としてファシリティマネジメント(FM)が注目されてい 害対応業務をIT化したものである。導入ユーザーにとっ る。建築は建設コストよりも運用コストの方がはるかに大 ては業務を行う上で必要不可欠なシステム、 「働き続けるF きく、FMによる運用コストの削減と内部統制は施設オー M支援システム」を目指している。 ナーのみならず利用者全体の課題・関心事となっている。 「建物レスキュー」は、以下の4つのアプリケーション FMシステムとして、スペース管理、インベントリ管理 から構成され、実務で培ったノウハウをもとにパッケージ など種々の分野があるが、その中で建物の障害・クレーム 化されたシステムとなっている。 処理の分野がある。すなわち、障害受付業務、工事業者手 ①業務管理 配業務、進捗管理業務、点検業務の分野である。筆者らは この分野を統合的に処理する情報処理システムを設計した。 このシステムはすでに数社に導入され7年の実績を経て、 充分な経営効率を上げている。以下、システムの概要を紹 介し、システムの導入による経営効果を述べる。 なお、このシステムは建物の救急隊という意味で、 「建物 レスキュー」というシステム名を付けている。 工事完了までの進捗管理や障害分析、マスタ管理を行う ②コールセンター 利用者(顧客)からの障害を受付け、協力会社への手配 を行う ③写真記録管理 点検写真を取り込み報告書を作成する ④スケジュール管理 点検スケジュールを管理する ■システムの概要 特に注目すべき点は、顧客データ、建物データ、手配先 「建物レスキュー」は、建物の利用者から障害通報を (協力会社)データを連携させることによって、スピーデ 受けて工事業者を手配するコールセンター、工事の進捗 ィに障害受付を行い、顧客満足度向上を意識しているとこ 建物点検・ 建物のアフターフォロー業務を支援するFM支援システム 日本工業出版 建築設備と配管工事(2009 年 5 月号)掲載記事原稿 ろにある。筆者は、この「建物レスキュー」が CRM(Customer Relationship Management) + FM(Facility Management) 要なアプリケーションをインストールしてもかまわない。 システム管理者にとっても効率的な運用が可能な構成とな っている。 = CRFM(顧客連携施設管理) として、これからのFM支援システムのあるべき姿の代 表的な一つになるだろうと考えている。 システム管理者にとってもう一つ重要になるのが内部統 制関連の機能である。ユーザーごとのアプリケーションの 利用権限やアクセスログ、印刷ログも簡単に操作可能とな ■シンプルなシステム構成 「建物レスキューV3」では、障害・クレーム情報、進 捗情報、建物情報、入居者情報、協力会社情報など業務に っている。また、顧客情報漏えい防止を目的としたスクリ ーンキャプチャボタンの禁止対応や顧客情報記載物の印刷 権限設定など、セキュリティ機能も充実している。 必要な情報がデータベースに一元化される。データベース (兼ファイル)サーバー1台あれば、あとはクライアント ■単なるコールセンターとは違う PCに必要なアプリケーションをインストールしてすぐ利 手配が複雑なFMコールセンターによる障害受付 用を開始できる。 基本アプリケーションを説明する。 サーバーの OS は、Windows Server 2003 が推奨だが、 まず、①業務管理、②コールセンターについてである。 Windows Xp や Windows Vista でも可能。データベース このふたつは建物の障害・クレーム受付と協力会社への手 ソフトは Microsoft SQL Server 2005 で、Express 版(無 配の業務を支援するアプリケーションである。 償版)の利用も可能である。 ②コールセンターの開発は、 2001 年に受託のシステム開 ■管理しやすいアプリケーション 発を始めた頃に遡る。当時より顧客管理や通信販売用のコ ユーザーは「建物レスキューV3」の基本4アプリケー ールセンターシステムは存在していたが、建物の障害受付 ションから自分の業務に必要なものを選択できる。パッケ 用というものはなかった。建物の障害受付業務が他のコー ージ版はそれぞれの同時接続利用 PC のライセンスを購入 ルセンターシステムとは違う点として する形態となる。アプリケーション利用のライセンス数の ・必ずしも家から電話をかけてくるわけではない 管理はサーバー側で行うため、社内で使う PC すべてに必 ・障害の内容ごと手配する協力会社が異なる 「建物レスキューV3」を利用するためのネットワーク構成。 通常の社内ネットワークであれば問題ない。ちなみに、②コールセンターを利用するためには、NEC インフロンティア社 製の IP-PBX(Aspire)と電話機(Dterm85)が必要となる。 日本工業出版 建築設備と配管工事(2009 年 5 月号)掲載記事原稿 ・協力会社が多岐にわたる 電話着信時の表示画面 ・障害受付業務を行うオペレータのITスキルは必ずしも 高くはない などがある。 そのため、 電話着信時にすばやく建物を特定する仕組み、 建物の障害履歴や図面などの参照情報をすばやく表示する 仕組み、 建物と協力会社を紐付ける仕組みなどを開発して、 障害受付リストの表示画面 簡単で明快な操作を実現するために多くの試行錯誤を行っ た。 協力会社への電話呼出画面 その結果として②の[コールセンター]が出来たが、障害情 報を工事部門でも閲覧したり、集計分析する必要性もあり ①の[業務管理]が開発された。[コールセンター]がデュアル [コールセンター]の画面 タッチパネルモニタ対応となっており、指で画面を切り替えるよ うにデザインされている。 電話の発信もシステムから行うことができ、着発信の通話はサー バーに保存され、いつでも再生して内容を確認することができる。 ディスプレイにより2画面構成で操作するのに対し、[業務 管理]は1画面で操作を行うため、ノートPCなどでも利用 可能である。また、[業務管理]には手配票(協力会社への 依頼書)の印刷や建物や入居者情報の管理機能もあり、建 物レスキューの中核アプリケーションとなる。 障害受付の絞り込み検索結果画面 コールセンター 業務管理 まいく郎 障害受付の詳細情報表示画面 [業務管理]の画面 コールセンター機能はないが、障害受付業務に必要な機能は備え ている。また、過去の障害内容を細かい条件で絞り込むことがで き、ユーザーごとに検索条件や表示項目を保存することができる。 ■建物点検の報告書作成やスケジュール管理業務の効 率化 マンション管理会社は(法定上は年に1回であるが)通 常、年 4 回程度、建物・設備の巡回点検を行う。点検担当 者が現地に行き、 主に共用部の建物や設備の状況を点検 (写 真撮影)し、障害がないか確認した上で、報告書を作成し コールセンター1セットの構成例 左側のPC(モニタは2台)に[コールセンター]を導入し電話受 付・手配を行い、右側のPCの[業務管理]を使って障害内容の入 力や対応状況の入力を行う。図面や契約書などの情報は電子ファ イリングソフト(まいく郎)を使って呼び出すことも可能である。 管理組合に提出する。 500 物件を管理するマンション管理会社では、月平均 160 物件程の点検を行う計算となり、点検報告書の作成作業の 効率化と品質管理は管理会社の重要課題になっている。 ③写真記録管理、④スケジュール管理は主にマンション の建物・設備点検での利用を支援するツールとなる。 日本工業出版 建築設備と配管工事(2009 年 5 月号)掲載記事原稿 点検スケジュールの一覧画面 [写真記録管理]の画面 デジカメで撮影した点検写真をモバイルPC内の[写真記録管理] に取り込み、報告書を作成し、社内に戻り、写真と報告書情報一 式をサーバーにアップロードする。これらの一連のデータ連携を フラッシュメディアで行うことができる。報告書はExcelテ ンプレートを利用するため簡単に編集することもできる。 ③写真記録管理は、デジカメで撮影した写真をパソコン に取り込み、すばやく報告書を作成するためのアプリケー ションで、点検作業終了後、会社に戻って報告書を作成す るのではなく、モバイルノートPCで作成できるようにな っている。また、報告する内容(コメント)もリスト化す ることにより、担当者による記述レベルの違いをなくし、 報告書の品質を高める。 ④スケジュール管理は、月平均 160 物件の点検業務のス ケジューリングを行うアプリケーションで、緯度・経度、 物件規模、点検班数をもとに自動設定する機能を有する。 また、竣工後 2 年まで実施する定期点検や年 2 回実施する 消防点検のスケジューリングも可能である。 ■建物アフターフォロー業務のシステム化による効果 顧客第一主義 をモットーとし、用地取得から企画・ 設計・施工・販売・管理まで一貫して自社で行っているマ 点検作業の詳細情報表示画面 [スケジュール管理]の画面 建物ごとに点検の実施月、緯度、経度、規模(戸数)などを登録 でき、それらをもとに該当月の点検スケジュールを自動設定する ことができるため、物件が増えてもスケジューリング作業の手間 を軽減できる。 せずに処理できるようになったという。さらに手配先に障 害改修の状況を確認する作業も、[業務管理]に付属してい る 「メール送信自動プログラム」 により大幅に軽減できた。 また、[業務管理]によって、これまで1日がかりで集計 していた月次の受付件数報告書も 10 分で出力できるよう になった。 ■おわりに 最後に建物レスキューの今後の展開について述べてお く。建物レスキューは基本4システムの他に2システム[顧 客管理]、[販売情報管理]が加わる予定である。[顧客管理] は入居者の詳細情報や営業フォロー履歴などを管理する。 [販売情報管理]は入居者が追加工事や家具・什器等の購入 業務を支援する。このように、ビル管理、マンション管理 業務の支援システムであると同時に、 「さらなる収益を生み 出す」システムになることを目指している。 ンションデベロッパの山田建設㈱は、 2005 年より建物レス キューを導入し実績を上げている企業である。 建物レスキュー[コールセンター]の導入により、一人あ たりの電話処理能力が導入前に比べ倍以上に向上し、物件 は毎年増えるにもかかわらず、電話対応スタッフを増員 【筆者紹介】 木村 圭介 株式会社FMシステム マネージャー TEL:03-5228-2491 E-mail:[email protected]
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