2015 年度 i.school レギュラー・ワークショップ第 6 回 「Experience Design in India」開催レポート 0)はじめに 2016 年 2/18 日∼2/22 日、「Experience Design in India」というテーマのもと、今年 で第 4 回目の開催となる、インド工科大学ハイデラバード校(以下 IITH と記述)と i.school との共同ワークショップが開催されました。技術大国として有名でありなが ら、 「人間中心イノベーション」を提唱しその発案方法を体得する日本の i.school の学 生と、経済や産業の急成長するインドで、高度な数学力や IT スキルを持つことで評判 のインド学生の中でも特に競争率の高い試験をくぐり抜けてきた IITH の学生が集った 結果、一体どのようなイノベーションが生まれたのでしょうか。 1)Day1 成田から約 10 時間のフライトを経てインドの地に降り立った i.school 生を待ちかまえ るハイデラバード国際空港には、ぴりりと鼻を刺激するスパイスの香りが立ち込めてい ました。時間に遅れて到着したバス、至る場所に野犬が走る道路、彫りの深い眼差しの 男性たちと色とりどりのサリーを来た女性たちに囲まれて、一同は期待半分、緊張半分 にホテルを目指します。 ・Basix 見学 早朝に鳴り響く礼拝の音で目を覚まし、ホテルのビュッフェの朝食でインタビューのミ ーティングを済ませ、洪水した川のような交通量の道をくぐり抜け、古びた建物にたく さんのトロフィーの並ぶ一角の部屋に、2016 年度ワークショップ最初の目的地である Basix 社はありました。 Basix 社は、「Equity for Equity」 を理念に持ち、インドの最も経済的に恵まれない 層を意味する Bottom of Pyramid にいる人々の生活水準の向上を目指し、資金援助や 職業訓練を行う企業です。1996 年に創設され、現在では数多くのグループ会社を持ち、 インドのみならず中東やアフリカ諸国をはじめとする世界各国で活動を展開していま 1 http://ischool.t.u-tokyo.ac.jp す。 同社の活動はマイクロファイナンスを中心に、農業技術支援、職業教育や物資援助、施 設の提供など多岐に渡り、傘下のグループ会社ではハイデラバード空港などをはじめと する大型のクライアントに対するコンサルテーション等も行っています。また近年では、 インドの社会的課題を新しいアイデアによって解決するノウハウの蓄積を活かし、社会 変革を促すイノベーション教育に力を入れています。 同社 CEO である Mr.Vijay Mahajan は、イランに古くから存在する「人々の頭のなかで 生まれたよきアイデアは、一旦外化された後には全世界の公共財として扱うべきであ る」、という理念を大切にしていました。また、イノベーションは技術変革だけでは不 十分であり、あくまでも人間や社会を中心に据えたものであるべきであると繰り返し強 調していました。自分たちが日頃から耳にしてきた理念がインド亜大陸でも共有される ものであることに、i.school 生は喜びと誇りを感じるのでした。 写真:Basix のオフィスにて ・ インタビュー 2 http://ischool.t.u-tokyo.ac.jp 同日午後、ワークショップの初期視点を検証し、解決すべきテーマを見つけるための事 前準備として、インド新中間層世帯に対する自宅訪問型生活者インタビューを行いまし た。 とある班が向かったのは、新中間層の中でも良好な労働条件と高い生活水準を持つ家庭 で育ち、現在はキャリアウーマンとして金融会社で働く独身女性のお宅です。 同地域に稀有な好立地のマンションのドアの向こうでは家族全員が待ち構え、日本から の突然の来客を暖かく迎い入れてくれました。「インタビューに応じるのは初めてだか ら、うまく出来なかったらごめんなさいね。」そういいつつも堂々とした出で立ちと満 面の笑顔で i.school 生を迎えた女性。ハイデラバードにある大学で会計を専攻し、現 在は金融系の企業で働きながら MBA の取得を目指しているのだそうです。 日本では、インドにおいてはカースト制度の名残のために女性の労働条件がよくないこ となどをよく耳にします。しかし女性へのインタビューから見えてきたのは、高等教育 の普及や恵まれた労働条件を背景に、夫から経済的に自立しながらも仕事と家庭の双方 に責任を負うことを目指す現代インド女性の像でした。このエクストリームユーザーへ のインタビューは i.school 生の予想を覆し驚きを与える事となり、以後のサービス・ イノベーションを発案する上での大きな助けとなりました。 3 http://ischool.t.u-tokyo.ac.jp 写真:インタビュー中の様子 4 http://ischool.t.u-tokyo.ac.jp 2)Day2 2 日目、眠たいまぶたをこすりながら目的地を探す i.school 生が目にしたのは、土埃 の立つコンクリート造りの巨大な建物。広大な土地の中に未完成のまま忽然とそびえ立 つその姿は、急激な経済発展を遂げるインドの姿を凝縮したかのようでした。 写真:会場である IITH 新キャンパスに向けて歩く i.school 生 このワークショップの目的は、インドの新中間層を対象にした集合知を用いたイノベー ションのアイデアを考案すること、またその課程で手段と目的の掛けあわせやアナロジ ー発想により人間中心イノベーションを発案する i.school の手法を IITH の学生ととも に経験的に学ぶことでした。 IITH からは、90 名以上の応募から選ばれた、デザインからエンジニアリングに至るま での多岐に渡る学問を専攻にする学部生から大学院生が集まりました。 ワークショップのプロセスは、 1)目的に関する構造的類似性の分析、 2)手段に関する構造的類似性の分析、 5 http://ischool.t.u-tokyo.ac.jp 3)それらを掛けあわせたイノベーションの考案、 の主に 3 つから構成されていました。 ワークショップはまず、 APIS NOTE を使った自己紹介から始まりました。生まれて初 めて聞くインド英語の音声を頭の中で英語に対応させてから日本語として理解しなが ら自分の考えを英語として表現し相手に伝える。難易度の高い作業が互いを隔てるかと 思いきや、互いを理解しようとする姿勢と礼儀正しい互いの国民性が互いを結びつけ、 簡単に解けあう事ができました。 写真:APISNOTE を使って自己紹介している様子 ワークショップのプロセス 1)では、ユーザーインタビューで得られた情報を幾つかの 初期仮説から整理し、潜在的な課題を洗いだした後、それらの課題を更に抽象化し、班 ごとに二つの解決すべき社会課題として抽出しました。 インタビューで i.school 生が収集した情報を議論の壇上に載せ、それに対して IITH の 学生がコメントをすることで、インタビュー内容が相対化され、インド新中間層の社会 6 http://ischool.t.u-tokyo.ac.jp の全体像が徐々に見えてきます。 その結果、専攻する学問や職業選択における両親の圧力の存在、都市部と農村部の機会 の不平等、宗教的慣習に起因する婚礼儀式の煩雑さ、オンラインショッピングへの信頼 性の低さなどがそれぞれの班で解決すべき課題として洗い出されました。 IITH の学生は高い理解力と IT リテラシーを持ち、ワークショップのプロセスをすぐに 理解し、初めて見る APISNOTE を使いこなし、日本人学生が焦りを感じるほど積極的に ワークショップを進める姿は印象的でした。 初日の夜、旧校舎付近の野外のゲストハウスで歓迎会が開かれました。両校の学生はイ ンド料理を片手に、それぞれに歓談し、互いの国の歌やダンスを披露し合うなどして親 睦を深めました。ワークショップで良いアイデアを生むためにはチームメンバーの信頼 が必要不可欠ですが、この歓迎会を通じて互いの距離を一気に縮めることができました。 写真:歓迎会での様子 3)Day2 ワークショップのプロセス 2)では、既存のサービスの構造的類似性を分析し、アナロ 7 http://ischool.t.u-tokyo.ac.jp ジー思考によるアイデア発想を目的にしました。このプロセスでは参加者はまず日本に ある既存のサービス事例を分析し、次に、それらを一日目に作成した社会課題と掛けあ わせ、イノベーションのためのアイデアを作成し、グループ毎にプレゼンをした後、最 もよいアイデアを班ごとに 2 個選び出しました。昼食後、それぞれの班が二つに別れ、 アイデアをブラッシュアップし、プレゼンに備えました。 アイデアの分類はややもすれば表面的類似性に走ってしまいがちですが、IITH の学生 はくら寿司や Amazon に共通する構造的類似性を示すプレゼンを見て、構造的類似性と いうコンセプトを素早く理解することができました。また、短い発表準備の時間の中で、 役割分担やアグレッシブな議論を交わしながらプレゼンを完成させ、最終プレゼンに備 えました。 職業選択の自由を保証するためのデータベース、学問選択と就職の時間差を解決するた めの先読み雇用発表システム、仕入業者の格付け、新しい婚礼儀式を推奨するクラウド ファンディング、ヘルスケアに関する情報を提供するカフェなど、それぞれのグループ がインドの社会課題に対して、集合知の特性を最大限に活用した解決手段を考案しまし た。 写真:ワークショップ中の様子 日本とインドの間には、地理的距離は言わずもがな、言語の壁、文化や風習の壁という 二つの大きな壁が存在しています。言語の壁による情報損失はワークショップにおいて 8 http://ischool.t.u-tokyo.ac.jp 致命的な障壁になりえますが、互いを尊重し相互理解を図ろうとする参加者の態度やポ ジティブ思考、また APISNOTE という知の記録・構造化手段の助けを借り、参加者は障 壁を乗り越えてイノベーションを起こすことができました。また文化や風習の壁は、議 論を通じて学生の思考に化学変化を起こし、破壊的なイノベーションを起こすための起 爆装置として働きました。 今回のワークショップを通じて、参加者はインドという異国の地で、慣れない食事や生 活習慣、ままならない意思疎通を乗り越え、IITH の学生の聡明さと友好さに感激を覚 えながら、i.school の目指すスキルセット、マインドセットに磨きを掛け、モチベー ションを獲得する結果となりました。 写真:ナマステのポーズで参加者全員で集合写真 9 http://ischool.t.u-tokyo.ac.jp i.school2015 年度パイロット生 守崎美佳 10 http://ischool.t.u-tokyo.ac.jp
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