独立財政機関の定義とその評価基準1

ECO-FORUM Vol. 31 No. 1
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独立財政機関の定義とその評価基準1
上
野
宏
(一財)国際開発センター研究顧問
元神戸大学国際協力研究科教授
近年、独立財政機関(independent fiscal institutions, IFIs)の新設が急増しており、
それぞれの国情により多種多様なIFIsが存在し、その結果IFIの定義が難しくなっている。
また、望ましいIFIとは何かを測定する評価基準については、いまだ合意ができていない。
そのような状況から、本小論は、多くの既存文献に当たり可能な限りの定義と評価基準を集
め、比較検討して、当面の定義(第1節)と評価基準(第2節)を抽出することを目的とする。
1.独立財政機関の定義
基本的な必要条件からの定義
IFIは新しい概念・制度・組織であり、一般に合意された定義はまだできあがっていない。
各組織・研究者がそれぞれに定義している状況である。既存文献を調べ、それらのうち代
表的と思われる4組織・研究者の五つの定義をまとめたものが表1である。名称だけから見
てもいろいろあり、IFI以外にindependent parliamentary budget office (独立PBO、独
立国会予算局)やfiscal council (FC、財政協議会)などと呼ばれているが、どれも同じ
ものとして扱われている。これらを類似概念で集めてみると、表1の最左列のような項目
にまとめることができる。最左列は大きくは、定義の本体をなし必ず使われている必要条
件と、IFIの定義の中に“時には入れても構わない”という使われ方をしている非必要条件、
との二つに分かれる。必要条件だけからIFIを定義すれば、IFIとは以下のような九つの性
質を備えた機関であると定義できる。
1
本小論は、基本的に上野(2013、2014、2015)に基づいており、これらを統合・改善・拡充し
たものである。上野(2015)は上野(2014)の改定版であるので、読者は上野(2014)を参照す
る必要はない。
ⓒ2015
Institute of Statistical Research
ⓒ2015
advise on fiscal policy &
performance
advise on fiscal policy &
performance
staffed by non-elected
professionals
publicly funded entity
non-partisan
independent fiscal institutions
財政協議会,Fiscal Councils
4
Hagemann(2011)
contribute to the use of unbiased
macroeconomic and budgetary forecasts in
budget preparation
facilitate the implementation of fiscal policy
rules
cost new policy initiatives
identify sensible fiscal policy options, and
possdibly, formulate recommendations
assess against macroeconomic objecrtives
related to the long-term sustainability of
public finance, short-medium- term
macroeconomic stability and others
provide advise and guidance
from either a positive or
normative perspective
provide oversight of fiscal
assess government's fiscal policies, plans and performance and policy from
performance
either a positive or normative
perspective
permanent agency
with statutory or executive mandate
independent from partisan influence;publicly
財政協議会,Fiscal Councils
3
Debrun=Kinda(2014)
in the national law…, through
provisions of binding force
and permanent character,
preferably constitutional
5
EU Member States(2012)
独立監視機関、Independent
Institutions for Monitoring
5:EU Member States(2012), The Fiscal Stability Treaty (formally the Treaty on Stability, Coordination, and Governance in the Economic and Monetary Union), March 2,p.12.
4 :Hagemann, Robert (2011), “How Can Fiscal Councils Strengthen Fiscal Performance?,” OECD Journal: Economic Studies, Vo.2011, 1, pp.75-98。,p.76.
3 :Debrun, Xavier and Tidiane Kinda (2014), Strengthening Post-Crisis Fiscal Credibility: Fiscal Councils on the Rise – A New Dataset, IMF Working Paper 14/58, April,p.9.
2 :OECD(2014)”Recommendation of the Council on Principles for Independent Fiscal Institutions,” February 13,p.1.
(出典)1 :OECD(2015a) “Principles for Independent fiscal Institutions and Country Notes,” prepared by Budgeting and Public Expenditure Division, Public Governance and Territorial
Development Directorate, OECD, April 16,p.4.
13.新規提案される政策のコスト予測をする
12.財政ルールの実施を支援する
11.マクロ経済と予算の、バイアスのない予
測により予算編成に貢献する
10.財政政策と財政業績についての助言・
提言
非必要条件
9.監視・分析は、公共財政の長期的持続可
能性、マクロ経済の中短期安定性などにつ
いてのマクロ経済目標に関して行う
oversight & analysis of fiscal
policy and performance
8.政府の財政政策・財政計画・財政業績の
監視・分析を行う
publicly funded
under the statutory authority
of the executive or the
legislature
independent body
non-partisan
(2)Fiscal Council, 財政協議会
or財政審議会
have a forward-looking exante diagnostic task
oversight & analysis of fiscal
policy and performance
publicly funded
independent body
non-partisan
(2)Fiscal Council, 財政協議会
or財政審議会
7.将来についての事前診断的な仕事を行う
6.職員は、議員ではなく、専門家であること
4.公的資金で運営される
5.常設機関である
3.行政府又は立法府の法的な権限、あるい
は憲法により設置されている
必要条件
1.独立した組織
2.非党派の立場から、公衆に公開での活動
定義の項目↓
2
独立財政機関, IFIs
OECD(2014)
表1 各種の独立財政機関(IFI)定義の比較
(1)independent parliamentary (1)independent parliamentary
同時使用されている同義語→
budget office, 独立国会予算局 budget office, 独立国会予算局
定義される組織名→ 独立財政機関, IFIs
定義した組織・専門家・文書→ OECD(2015)
1
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(1) 独立した組織である。独立とはすべてからの独立であり、とりわけ政党・政治・政治
家から影響を受けないことと、政府から影響を受けないことを意味している。すなわち、
IFIはそれ自身が持つべき、客観的・科学的・論理的な原則のみに従って活動する。
(2) 非党派の立場から活動を行う。そのために、透明性・公平性を非常に重視し、どの
党派に対しても同じ財政分析情報を提供し、市民に対しても同じ情報を提供する。
(3) 法的根拠(時には憲法)に基づき設置されることにより、独立・客観性を維持する。
(4) 公的資金で設立され運営されることにより、独立性・客観性を保つ。
(5) 常設機関であり、短期的な審議会等とは異なる。
(6) 職員は議員ではなく、専門家であることにより、客観性・科学性を保ち、議会・政
府・行政・マスメディア・市民の信頼を獲得する。同様の財政分析や財政予測を行う
政府・行政機関・民間会社・NGO・学者・市民・国際機関等に対しては、自己の分析
内容の客観性・科学性によって競り勝つことにより、信頼を構築する。
(7) 財政とその背景の経済の将来について事前予測をし、それを診断することを主な活
動とする。たとえば米国の議会予算局(CBO)は時に75年先までの予測をする。
(8) 政府の財政政策・財政計画・財政業績の監視・分析を行う。
(9) 監視・分析の目的は、公共財政の長期的持続可能性、マクロ経済の中長期安定性の
達成である。
目的からの定義
IFIの設立とその活動の目的はほとんど合意ができており、これを使ってIFIを定義する
ことができる。通常以下の3目的が提言されており2、この小論もこれらを採用する。
第1には、財政規律の維持、すなわち、財政赤字が増加しないようにし、政府負債の長
期的な持続可能性を達成することを目的とする。しかもこの目的を、事後的にではなく、
事前に政策形成過程・予算編成過程で達成しようとする3。 第2には、立法府支援、すなわ
ちIFIがどこに所属しようとも立法府を支援することを目的としている。そのためにどうし
ても必要とされる目的として、第3には、透明性、すなわち財政の透明性の維持とアカウ
ンタビリティー(accountability、信任結果責任4)の達成を目的としている。この第3の目
的の理由は、財政情報とその分析に関するあらゆる情報を国会と市民とマスメディアへ提
供し、その結果として政府・国会自身がアカウンタビリティーを果たし、また“情報を得
た市民(informed citizen)”が財政を理解し、それに基づき政府・国会へプレッシャーを
OECD (2011, p.17)。
OECD (2011, p.3)。
4
accountabilityは通常、説明責任と訳されているが誤訳と思われるので、小論では信任結果責任
と訳してある。
2
3
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かけることにより政府・国会のアカウンタビリティーを達成させることである5。
活動内容からの定義
既存のIFIsがどのような活動を行っているかによってIFIを定義することができる。代表
的なIFIである8機関について活動内容をまとめたものが付表「既存IFIsの活動内容」であ
る。15種類の活動があり、当然のこととして必要条件からの定義とかなり重複している。
2.独立財政機関の評価基準
評 価 基 準
IFIの評価基準は“IFIが成功するための諸条件”として定義する。これら諸条件につい
てはすでにいくつか提言がなされており、当然のことではあるが、相互に類似した提言が
多いので、類似関係をなるべく比較可能な形で、表2にまとめた。
独立財政機関を必要とする理由と、それによる評価基準のおおまかな順位付け
IFIを必要とする理由をここで再説する。理由は上記で明らかのように、先進国でこの
20年ほどで顕著になってきた財政の赤字拡大と巨大かつ増加しつつある政府負債という
現象である。この問題が発生した主な原因は三つある。第1には、国家予算案を作成する
政府(内閣と行政府)がアカウンタビリティー(信任結果責任)を果たしていないという
原因がある。第2には、その一方で予算を最終的に承認・決定する立法府がポピュリズム
に陥り、むしろ税率削減と歳出拡大を主張するという原因がある6。第3には、民主主義制
度自体の問題としての一般的原因がある。すなわち、現世代が自分の消費のために積み上
げた政府借金を、現時点で民主主義制度に参加できず投票権もない次世代(子・孫の世代)
に返済させるという問題である。これは、現世代が次世代に対して責任を取らないことを
意味する7。これを一般化し、Steuerle and Rennane (2010, p.2) は、「財政民主主義制度
の衰退(decline)
」と呼んでいる。以上3点のIFIを必要とする理由と、上記のIFIの定義と
目的による定義を考慮すると、評価基準の優先順位は以下のようになると思われる。
第1基準:コミットメント
アカウンタビリティーの欠如とポピュリズムという問題の存
在の認識が、財政に関わる政府と立法府に対して、さらにその後ろにいる政権と政党に対
して、財政の持続性達成へのコミットメントを要求する。政府および立法府からのコミッ
5
OECD (2012, p.2)。
途上国においては、これらに加えてあるいはこれら以上に、搾取的政府・汚職といった問題・
原因があるが、この小論では触れない。
7
これは、政治からみれば、現政府・現国会議員にとっては、現在では次の選挙への影響が重要
であり、子・孫のことは次の政府・次の国会議員の問題であり自分は責任はない、という考え方か
ら発生する。同様に、行政府とその役人にとっても、子・孫の負担のことは自分の責任ではなく、
次の担当役人の責任である、という考え方がある。
6
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IFIが成功するための諸条件=IFIの評価基準
表2
1
2
OECD
1.政治的なオーナー
シップ
(local ownership)
IMF
2.独立性と非党派性
(independence and
nonpartisanship)
2.政治からの厳格な独
立性
(independence from
politics)
3.その国のコンテクスト
への適応性
4.担当活動についての
明確・具体的な法的根
拠(文書)があること
(mandate)
5. IFIの活動に見合った
財 政 措置(resources)が
あること
6.政府情報へのアクセ
スの保証
(access to information)
4.政治的介入を拒否し
うる確固とした法的な保
証
Hemming=Joyce3
1.政治的な支援のコミッ
トメント
(political support)
2.非党派性
(nonpartisanship)
2b.準独立性
(quasi-independence)6
7.政治による財政政策
に関わる環境条件整備
(fiscal rule, fiscal
transparency等)
8.十分高い専門性を持
ったスタッフ (technically
qualified staff)
9.透明性
(transparency)
10.立 法 府 に 対 す る ア
カウンタビリティー
(relationship with the
legislature)
11. 自 身 の 活 動 へ の 外
部事 後評 価メカニズム
の構築と存在
(external evaluation)
8.信頼性・客観性
(credibility)
8.分析・予測能力
(analytical plus
estimating capability)
8.客観性
(objective)
8.分析的 (analytic)
能力
9.方法・モデル・デー
タも全て公開による透
明性の確保
9.誰にでも会うが、常
に公正を旨とし、その
反対 派の意 見も聴取
し、バランスをとること。
公正に見えるように行
動すること7
10.基本的に、立法府
の議員個人ではなく、
委員会・小委員へサー
ビスすること
9.効果的なコミュニケー
シ ョ ン 戦 略 (effective
communication
strategy)
11.自身の活動へのアカ
ウンタビリティーを持つ
こと
2.非党派性と独立性
(nonpartisan,
independent)
6.多種の情報源と競争
的情報発信
(competitive sources of
information)
8.実証的、厳密な、専
門的な仕事
9.効果的な発信・交流、
特にメディアと
(communications)
Anderson5
4.主な活 動について
の法的な規定、即ち
外部圧力に対する法
的保護規定、の存在
4.役割についての正式
な指示 (formal mandate
specifying the scope and
limits)
4.明確な法的バックアッ
プ (clear legal backing)
6. 信 頼 で き る 統 計 と 統
計システムがあることが
望ましい
7.強固な公共財政経営
システムが整備されてい
ることが望ましい
Steuerle=Rennane4
11.自身の活動へのアカ
ウンタビリティーを持つ
こと (accountability)
12.提言・助言を避け
ること
13.舞台の表に出ない
こと。裏に、控え目に
存在すること
(注)1. OECD(2013, pp.5-8)。 OECDは、これらをIFIsの諸原則(principles)と呼んでいるが、内容は“成功する
ための諸条件”と同じである。
2. IMF(2013, Executive Summary, pp. 41-50)。 ただし、この文献は問題がある。すなわち、この文献は、IFI
を非常に広い意味でのFCと定義して、予算の事前分析を担当する国会予算局と共に、予算の執行を監視する
FCや、予算を事後的に評価する会計監査局までも含めてしまっている点が問題である。したがって、表2では、
これらの内で予算の事前分析に関わる部分のみを抽出している。
3. Hemming and Joyce (2013, pp.211-6)。
4. Steuerle and Rennane (2010, pp.7-14)。
5. Anderson (2008, pp.5-10)。
6. CBOで代表されるIFIの存在意義は、立法府へ財政情報のサービスを提供することである。したがって、そ
の活動において完全な独立性を持っているのではなく、立法府からの分析要請に従わねばならないし、IFIの死
活は立法府からのニーズがあるかないかにかかっている。この意味で、完全な独立ではなく、準独立であると
Steuerle and Rennane (2010, p.11)は述べている。もちろん、予測・分析値(利点と欠点の数値)を変更する
ことはあり得ない。そのようなことをすることは、IFIの根幹たる独立性を損ねてしまう(ibid, pp.10-1)。
7. これは、コミュニケーションにおける公正性(fairness)、普遍不党性(impartiality)と解釈できる。
(出典)それぞれの出典から筆者が表化した。表の各セルへの分類配置は筆者。1~13は優先順位で、筆者が上記の定
義と目的を踏まえて判断した。
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トメントなくして、IFIは成功しない。また、制度として次世代の負担を現世代と対等に考
察する制度なくして、IFIは成功しない。そして、政府および立法府のコミットメントなし
には制度変更はできない。すなわち、評価基準の第1は、政府および立法府からの、財政
持続性達成と次世代への財政責任へのコミットメントがあること、その達成手段の一つと
してのIFIへのコミットメントがあること、を要求する。
第2基準:独立性・非党派性
政治的に、とくに政府・与党および立法府・各党派の議
員からのコミットメントを得るためには、第2の評価基準として独立性、すなわち独立に
非党派的に偏見なく財政を分析することが要求される。これは、政治家・政党・政府・国
会・行政・司法からの独立、そしてもちろん民間利益団体・企業・市民団体等からの独立
を意味している。さらに、現世代の利害からも独立して、次世代の利害も分析することが
要求される。そして、経験的に、独立性の中で最も重要なものが非党派性・非政治性であ
ることが判っている。これら独立性と非党派性によって、異なった利益団体からのコミッ
トメントを得ることができる。組織的な独立に関して、IMF(2013, p.48)は、立法府にも行
政府にも所属しない、完全に独立な組織が望ましいとしている。
第3以降の評価基準
これらは、第1・第2評価基準を具体化したものとして捉えること
ができる。第1評価基準コミットメントは、基本的にはIFIの設立・存在・有効性を可能
にする基準であり、第2評価基準は、IFI自体が備えるべき成功の条件である。第1評価基
準、すなわち政府コミットメントの具体化としては、
(ⅰ)コンテクストへの適応性、
(ⅱ)
法的な根拠・保護、
(ⅲ)財政措置、
(ⅳ)政府情報へのアクセス、
(ⅴ)財政政策に関わる
環境条件整備、をあげることができる。第2評価基準、すなわち独立・非党派性の具体化と
しては、
(ⅰ)信頼性・客観性、
(ⅱ)透明性、
(ⅲ)立法府に対するアカウンタビリティー、
(ⅳ)IFI自身の活動についてのアカウンタビリティー、(ⅴ)提言・助言を避けること、
(ⅵ)舞台の表に出ないこと、をあげることができる。以下で簡単に説明する。
第3基準:コンテクストへの適応性。IFIがその国の政治・経済・社会・文化に適切に適
応していなければ、その活動を適切に行うことができないし、時にはIFIの存在そのものが
否定される。適応失敗の典型例が、ハンガリーのFC(財政協議会)である。IFI設立後の
選挙で与党となった元野党の新しい政府と国会は財政放漫と信頼性のない政策を採用し、
IFIからの批判を嫌い、設立2年後にIFI予算をほとんどゼロにしてしまった。おそらくこ
の例ゆえに、OECDは、コンテクストへの適応性を第1の評価基準としてあげていると思
われる。この評価基準をあげているのは、表2の中ではOECDだけである。
第4基準:法的な根拠・保護。OECDは、IFIの活動についての明確・具体的な法的根拠
(文書)があることを要求している。IMF (2013, pp.45-47) は法的に、政治家その他から
の内容指示や人事への介入などに対しIFIを保護し、情報入手の権利を保護し、一般市民へ
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コミュニケートすることを保護すること、が必要であるとしている。
第5基準:財政措置。 IMF (2013, pp.46) は、IFIが与えられて任務を遂行するのに必要
で、適切なサイズの、予測可能な、安定した財政措置、が必要であるとしている。
第6基準:政府情報へのアクセス。OECDは、情報を持つ政府とIFIの間にはつねに情報
の非対称性があるので、法的にIFIによる政府情報へのアクセス権を保証せねばならない、
としている。法的に確保せねば、IFIはまともな活動ができなくなる。
第7基準:財政政策に関わる環境条件整備。IMFが最も重視しているのが、財政ルール
の存在である。財政ルールとIFIの両方が存在することにより、財政持続の可能性が高まる。
第8基準:信頼性・客観性。ここから以下は、独立性・非党派性の具体化のための評価
基準である。独立性と非党派性は、まずIFIの信頼性を必要とする。上記のようにお互いに
対立もある利害団体から信頼されねば、IFIは成立しないし、成功もしない。そして、信頼
をかちうるためには、IFIは高いレベルの客観性・科学性を持たねばならない。客観性・科
学性が信頼性を保証する。これらを持たねば、各種の利害団体からの批判・要求に耐えら
れず、影響され左右されてしまう。そのためには、IFIは十分高い専門性を持ったスタッフ
を持ち、高い分析・予測能力を持ち、どのような批判・要求にも答えられるような客観的・
科学的な能力を持たねばならない。
第9基準:透明性と良好なコミュニケーション。各種の利害団体から信頼を得るには、IFI
は信頼性・客観性と同時に透明性を確保せねばならない。さらに、効果的な発信・交流、
とくにメディアとのコミュニケーションが大切である。分析・予測の方法、モデル、デー
タその他すべてを公開し、利害団体からの批判にさらし、それらに答えられねばならない。
そして、各種利益団体と良好なコミュニケーションを保つ必要がある。さらに、主権者で
ある市民の支持を得るためには、市民・マスメディアに対してすべてを公開し、透明性を
保つ必要がある。政党や利害団体からの批判に曝された場合に、最終的には国民・市民の
支持があって初めて独立性を維持できる。そのためにはやはり、国民・マスメディアと良
好なコミュニケーションを保つ必要がある。
第10基準:立法府に対するアカウンタビリティー。上記のIFIの目的の箇所で述べたよ
うに、IFIの目的は立法府に対して、財政に関わる情報サービスを提供することである。す
なわち、IFIの存在意義は立法府へサービスすることにある。したがって、IFIは立法府に
対して、法的に定められたサービスを、適切に提供しているかどうかについて、立法府に
対してアカウンタビリティー(信任結果責任)を負っている。
第11基準:IFI自身の活動についてのアカウンタビリティー。OECD (2013, pp.5-8) も
IMF (2013, p.49) も、IFI自身の活動への外部事後評価メカニズムが構築され、外部事後
評価用の独立機関が存在し、定期的にその独立機関による評価がなされ、IFIの効果的・効
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率的活動を推進すべきである、としている。
第12基準:IFIが政治的に弱い場合は提言・助言を避けること。なぜなら、予算へ影響を
与える政策案や予算の承認・決定は立法府とその議員の権限であり、IFIから提言あるいは
助言を受けると、彼らは予算に関わる彼らの権限を侵害されたと思い、IFIを敵視するよう
になる。さらに、ある提言あるいは助言が、利害団体Aへ利益をもたらし、別な利害団体B
には損失をもたらす、ということはしばしば起こる。この場合、結果として、IFIが利益団
体Aを支持することになり、批判を受ける。
第13基準:舞台の表に出ないこと。第12基準の理由と同様に、IFIが華々しくマスメディ
ア等に取り上げられると、立法府・議員・内閣・行政府は彼らの権限が侵害されたと思い、
IFIを敵視する。IFIの存続のためには舞台の表に出ない方がよい。このようにして、IFI
は立法府と市民とに財政分析情報というサービスを提供する機関であり、立法府・議員・
内閣・行政府の権限を侵すものではなく単にサービスを提供する機関である、というスタ
ンスを採用することが必要である。
小結と13評価基準によるIFI評価の試み
以上の13評価基準を使えば、既存IFIが成功する可能性が高いかどうかを評価すること
ができる。既存8IFIsにつき評価する試みは上野(2015)が行っており、結果としては米
国の議会予算局(CBO)が最も成功する可能性が高い、という評価となった。また、上野
(2015)では基準12・13について上記と異なるスタンスを採用するIFIsも存在することが
判明しており、今後の更なる検討が必要であることを示唆している。
【参考文献】
上野宏(2013)
「政府予算案分析のための独立財政機関とそれらの評価」
『日本評価学会第
14回全国大会発表要旨収録』pp.173-1~176-2, pp.8, 12月15日.
___(2014)
「独立財政機関(IFIs)の活動内容とその評価」
『日本評価学会第15回全国
大会発表要旨収録』pp.233~6, pp.4, 11月15日.
___(2015)
「独立財政機関(IFIs)の活動内容とその評価:改訂版」
『日本評価学会第
15回全国大会発表要旨収録』pp.111~8, pp.4, 11月15日.
Anderson, Barry (2008) “The Changing Role of Parliament in the Budget Process,”
keynote address, International Symposium on the Changing Role of Parliament,
SIGMA (Support for Improvement in Governance and Management), Turkey,
October 8-9.
Calmfors, Lars and Simon Wren-Lewis (2011) “What Should Fiscal Council Do?”
Economic Policy, 27, pp.649-95.
Hemming, Richard and Philip Joyce (2013) “the Role of Fiscal Councils in Promoting
ⓒ2015
Institute of Statistical Research
ECO-FORUM Vol. 31 No. 1
46
Fiscal Responsibility,” in IMF (2013), Public Financial Management and Its
Emerging Architecture.
IMF (2013) The Functions and Impact of Fiscal Councils, July 16.
OECD (2011) “Independent Fiscal Institutions,” prepared by Working Party of Senior
Budget Officials, Public Governance Committee, Public Governance and
Territorial Development Directorate, OECD, GOV/PGC/SBO(2011)7, August 31.
この文献の実際の中身は、以下のmimeoである:Kopits, George (2011) “Independent
Fiscal Institutions: Developing Good Practice.”
OECD (2012) “Draft Principles for Independent Fiscal Institutions: Background
Document No.3 for the Session on Discussion on Draft Principles for Independent
Fiscal Institutions,” prepared by Working Party of Senior Budget Officials, Public
Governance
Committee,
Public
Governance
and
Territorial
Development
Directorate, OECD, February 23-24.
OECD (2013) “OECD Principles for Independent Fiscal Institutions,” prepared by
OECD Network of Parliamentary Budget Officials and Independent Fiscal
Institutions, Working Party of Senior Budget Officials, Public Governance
Committee, Public Governance and Territorial Development Directorate, OECD,
February 12.
OECD (2015b) “Evaluating the Performance of Independent Fiscal Institutions:
Towards a Common Evaluation Framework for Independent Parliamentary
Budget Offices and Fiscal Councils,” draft prepared by Kevin Page, Sahir Khan,
Helaina Gaspard and Lisa von Trapp for 7th Annual Meeting of OECD
Parliamentary Budget Officials and Independent Fiscal Institutions, April 16-17.
Steuerle, C. Eugene and Stephanie Rennane (2010) “The Role of Fiscal Councils and
Budget Offices: Lessons from the United States,” a paper for Conference on
Independent Fiscal Institutions, Budapest, Hungary, March.
ⓒ2015
Institute of Statistical Research
2
略名→
7.個別政策(予算プログラム)提言の財政費用の予測
(costing of policy proposals)
ⓒ2015
×
×
×
×
○
×
○
×
不明
○
○
○5
○
4
スウェーデン
×
○
○
○
○
○
△
○
FPC
財政政策評議会
カナダ
ハンガリー
×
×
×
○
×
○
○
○ 最大75年
○
○
×
×
×
○
○
○
○
△
FC
PBO
財政評議会
○ 可能だが財政
ルールが無いの
で実施していない
国会予算局
英国
×
×
×
×
×
○
○
○
OBR
予算責任局
情報出典: 別な出典の明示がない限り、OECD(2015a); 評価は○: 活動を行っている。×: 勝動を行っていない。
出典: 活動内容の分類は主に上野 (2013、表1)。○△×は主にCalmfors and Wren-Lewis (2011, p.24, Table2)。これらに他の文献を加味して筆者が判断している。
○: IFIが独自予測。△: 独自予測は行わず、政府の予測とそのモデルの分析・評価のみを行う。×: 行わない。
出典: 別な出典の明示がない限り、出典はIMF(2013, pp.24-30)またはOECD(2011)。
Hemming and Joyce(2013)。
○
(注) 1.
2.
3.
4.
5.
○
×
×
○
○
×
15.政党の選挙綱領の経済・財政への影響予測
×
×
○
×
14.財政以外の項目(例えば雇用・経済成長・所得分配・
気候変動など)の分析・評価
11.市民への情報公開と透明性
12.財政の透明性の評価(by IFI)
13.財政の中・長期目的が上位のより基本的な目的(戦
略)と一致しているかどうかのチェック
10.助言・提言 (normative recommendations)
不明
○
○
○
○ 議会各種委員会
が提案する殆どの法
案の費用予測(年間
500-700案件)
6.財政政策の事前審査
(ex-ante evaluation of fiscal policy)
8.立法府からの要請への対応
9.特定重要支出プログラム
(例えば米国のヘルスケア・プログラム)の分析
不明
○ 将来の経済・財
政への影響予測;政
策代替案の経済・財
政将来予測
○
○
○
○
○ 数年に一度50
年間の予測
○ 単年ー3年
○ 通常25年、時
に75年
4.政府予算案の独立した分析; 分析期間
5.予算赤字と政府債務の持続可能性の審査; 審査期間
(evaluation of fiscal sustainability)
○
○
○
○ ベースライン予算
は10年;予算長期予
測は25年だが75年ま
で延長可;毎年更新
○
不明
NABO
3.財政収入と支出の予測と評価; 予測期間
×
○
HCF
韓国
国民会議予算局
○
○
CPB
ベルギー
高等財政評議会
○ マクロ経済は10
年;毎年更新
○
CBO
オランダ
中央計画局
既存IFIsの活動内容 1
2.マクロ経済の予測と評価; 予測期間
(macoreconomic forecasting) 3
1.法令順守の監視、特に赤字・債務上限法等の財務ルー
ルへの順守監視 (compliance to fiscal rules)
活動内容↓
米国
議会予算局
国名
IFI名
付表
ECO-FORUM Vol. 31 No. 1
47
Institute of Statistical Research