韓国におけるインフラ事業の海外戦略

研究員の視点
〔研究員の視点〕
韓国におけるインフラ事業の海外戦略
動き出した「投資開発型インフラ事業」の発掘支援と
「グローバル・インフラファンド」
運輸調査局 主任研究員 奥田恵子
※本記事は、『交通新聞』に執筆したものを転載いたしました
急成長する韓国の海外インフラ展開と問題点
外投資開発型インフラ事業」の発掘支援(以
韓国・海外建設協会の発表(2010 年 12 月
下、発掘支援)の設置と「グローバル・イン
31 日)によると、2010 年の韓国における海
(以下、
GIF)の運用を開始した。
フラファンド」
外建設受注額は 715.7 億ドル(1 ドル≒ 82 円)
「海外投資開発型インフラ事業」発掘支援:
を超え、過去最高を記録した。このうち、全
事業妥当性調査に 100 億ウォン
体のおよそ 8 割を占めるのが中東地域を中
発掘支援は、他国の参入が少ない地域にお
心としたプラント受注で、韓国企業は、政府
いて、新規にインフラ需要を掘り起こす、い
との連携のもとトップセールスや価格競争力
わゆる投資開発型のインフラ展開を検討して
を武器として、近年、怒涛のごとく受注に成
いる民間企業に対して、事業妥当性の調査費
功している。韓国政府は、アラブ首長国連邦
用を支援する制度である。
(UAE) における原子力発電所受注の成功体
発掘支援は、道路、鉄道、空港、ダム、水
験も踏まえ、2010 年 1 月、「海外建設活性
道、物流施設、観光団地、公共施設、環境施
化対策」を策定し、引き続き、中東地域にお
設などの海外インフラ事業が対象であり、規
けるプラント受注を主力として、2012 年ま
模が 2,000 億ウォン(1 ウォン≒ 0.07 円) 以
でに 700 億ドルのインフラを獲得すること
上の事業に対して、各プロジェクトあたり 2
を目標として掲げている。
億ウォンを上限とした事業妥当性調査費用が
いっぽう、政府が、数値目標を掲げて精力
支援されることとなっている。支援の対象に
的に取り組むあまり、民間コンソーシアムに
は、建設事業者や、その投資家も含まれてい
過度なプレッシャーがかかっているのではな
る。
いかという指摘や、現在の中東依存からの脱
対象事業は、国内経済への波及効果や、政
却の必要性などの問題点も浮上してきてい
府が進める資源外交との連携性、環境保全の
る。
視点など、政府の方針に合致していると判断
そこで、今後、中国との価格競争の激化が
されるプロジェクトが選定されることとなっ
予想されるなか、アジアやアフリカ、中南米
ており、海外建設の専門家から構成される実
などの経済成長が期待される新規地域のイン
務委員会で審議された後、最終的に、海外建
フラ建設事業を活性化させ、民間企業の海外
設審議委員会は、政府関係者、外郭団体であ
市場を支援する制度として、2009 年、「海
る海外建設協会、業界、学会、研究機関など
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研究員の視点
の専門家の 20 人前後から構成される海外建
は、官民共同ファンド(国土海洋部主管の水資
設審議委員会において決定される。政府は、
源公社、鉄道公社、鉄道施設公団、土地住宅公社、
2009 年~ 2012 年まで総額 100 億ウォン
道路公社、仁川国際空港公社などの公共機関と、教
を事業妥当性調査予算に投じるとしており、
職員共済会、韓国投資証券などの民間機関) が 4
2010 年上半期に選定された「ハノイ都市鉄
千億ウォンと、プロジェクトファンドが 1
(ベトナム)、
(ガー
道5号線」
「新都市建設事業」
兆 6 千億ウォンで構成されることとなって
ナ)、
「チンポテ下水処理施設」(ペルー)、「シ
おり、すでに、2009 年に、韓国投資信託運
ンディ州有料道路」(パキスタン)などの 4 事
用により、2 千億ウォンのファンドが造成さ
業に対して、6.8 億ウォンが支援されること
れ、 さ ら に 2010 年 に は、 新 韓 BNP バ リ
がすでに決定している。
バ資産運用が、2 千億ウォンのファンドを造
「グローバル・インフラファンド」:官民共同
成している。
出資で 2 兆ウォン
2010 年 12 月には、GIF 初の対象事業と
「インフラファンド」とは、インフラへの
して 2 事業が選定され、韓国水資源公社に
投資を専門とするファンドの通称で、一般的
よるパキスタンの水力発電所事業(総事業費
に、投資家が提供する資金の管理や投資先の
4 億ドル)
、SK建設によるトルコ・ユーラシ
選定等を金融機関が行うことにより成り立っ
アトンネル(総事業費 11.7 億ドル)の各事業に、
ている。
それぞれ 400 億ウォン、1 千億ウォンが投
GIF は、官民共同出資により、2009 年~
資されることが決定した。
2012 年までの間に 2 兆ウォン規模のファ
発掘支援の事業妥当性調査の結果が良好な
ンドに拡大させる予定をしている。その内訳
プロジェクトは、GIF の投資対象となる可能
表 「海外投資開発型インフラ事業」発掘支援の選定事業
区 分
09 年下半期
10 年上半期
10 年下半期
対 象 事 業
南スマトラ鉄道建設
インドネシア
リメイ LNG ターミナル・発電所
フィリピン
ピンホア~ブンダウ間鉄道事業
ベトナム
パダン~マラン間有料道路
インドネシア
幹線道路現代化事業
DR コンゴ
カナン水力発電事業
フィリピン
ハノイ都市鉄道5号線
ベトナム
新都市建設事業
ガーナ
チンポテ下水処理施設
ペルー
シンディ州有料道路
パキスタン
キンシャサ浄水場
DR コンゴ
ラホール公共交通開発事業(都市鉄道、BRT)
パキスタン
ドブロジャ風力発電事業
ブルガリア
出典:国土海洋部(韓国)報道資料より
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対象国家
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性が高くなる。GIF は、インフラ特有の長期
おわりに
的に安定した収益を生み出すことが期待でき
我が国では、「新成長戦略」の具体的シナ
る投資先として、近年、各国で人気を集めて
リオが示されたことに伴い、インフラ事業の
いる。そのため、これらの投資先として、発
海外展開について、他国における官民連携の
掘支援から選定された事業が GIF の投資対
体制に関心が高まっている。韓国では、これ
象となることは、海外インフラ展開における
までの政府主導の体制から民間主導の体制へ
資金運用の安定化が期待されている。なお、
と、我が国と異なる官民連携の再構築の模索
2011 年においては、発掘支援から選定され
が始まっている。韓国は、日本のインフラ事
た事業に対して、GIF の投資対象として約 2
業の海外展開においてライバルとなりえるこ
千 600 億ウォンが投資される計画である。
とから、引き続き、韓国における戦略の動き
と、それを支える新制度の動向について注視
したい。
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