マークの話 平成23年9月29日 マ ー ク の 話 1 はじめに 日常の取引やPRなど、種々の場面で使用するマーク(商標、イラスト、 キャラクターなど)が、他人のマークと類似している場合、使用して良いの かどうか?問題になることがある。 そこで、取引等で使用されるマークの保護に関して、どのような法律が問 題になるのか、どのような場合に権利侵害が生じるのかについて、基本を整 理するとともに、主に外観に絞って権利侵害の有無の判断例を概観する。 2 マークの保護法の比較 (1)マークの保護については、商標法、不正競争防止法(以下、不競法) 、著 作権法が関連する。それぞれの法律における権利内容等の比較を示す。 分類 権利等発生 保護範囲(要件) 商標権 商標登録 指定商品・指定役務が同一または類似 かつ 商標が同一または類似の範囲内 不競法 2条1項1号 周知性 同一または類似の商品等表示を使用 出所混同を生じること 不競法 2条1項2号 著名性 同一または類似の商品等表示を使用 フリーライド、ダイリューション、ポリュー ション等を生じること 著作権 著作物の完成 複製 相対的権利(独自の創作は権利及ばず) これらの法律のうち、商標法と不競法は、マークに化体した取引上の信 用を保護するものである。従って、いずれも出所混同(営業主体が同一ま たは何らかの関係があると需用者に混同させること)が一つの重要な観点 となる。 これに対し、著作権法は、マークの表現上の創作性が保護対象である。 従って、出所混同を生じるか否かは問題とはならない。 (2)商標権 ア 商標登録されていることが保護の前提となる。商標登録されているか否 か、および指定商品、指定役務の内容は、特許電子図書館(無料)で調べ ることができる。 特許電子図書館 http://www.ipdl.inpit.go.jp/homepg.ipdl イ 商標の類似とは、 「同一または類似の商品に使用されたときに、需要者に 1 マークの話 平成23年9月29日 出所混同を生じさせること」と解されており、出所混同を擬制できる状態 の商標を類似と称している。 ウ 2つの商標が同一・類似か否かの判断(類否判断)は、外観(見た目)、 称呼(呼び名)、観念(意味)を総合的に考慮してなされる。2つの商標の 外観・称呼・観念の一部が同一・類似だからといって、ただちにそれらの 商標が同一・類似と判断される訳ではなく、非類似の部分の影響の大きさ を考慮して類否判断がなされることになる。 エ 商標権の侵害事件においては、対象商標が商標的使用態様と言えるか? が問題になることもある。 (3)不競法2条1項1号 ア 商品等表示とは、商標の他、商号、商品形態、パッケージなど営業を表 示する広汎な概念である。不競法では、そもそも商品等表示と言えるかが 争われることが多い。 イ 周知性は、局地的なものでもよい。「周知」だからといって、 「有名」と いうレベルまでは要求されていないようである。14%程度の人が知って いるというアンケート結果で「周知」と認定した判例もある。実際には、 商品販売からの経過期間、広告宣伝の方法・費用などに基づいて判断され る。 ウ 出所混同が要件ではあるが、商標のように、商品や役務の同一、類似は 要件となっていない点に注意を要する。 「シャネル」をスナックの名称に用 いたところ、いわゆるブランドの「シャネル」と出所混同を生じると判断 された判例がある。 (4)不競法2条1項2号 著名であることで、出所混同の有無を問わずに保護される。ただし、条 文上は明記されていないが、フリーライド、ダイリューション、ポリュー ションといった不正行為が要件とされている。同号による判例としては、 ノーパン喫茶ニナリッチ事件、ポルノランドディズニー事件などがある。 (5)著作権 ア 著作権には種々の支分権があるが、マークについて最も問題となるのは 複製権である。 イ 複製とは、 「既存の著作物に依拠し、その内容および形式を覚知させるに 足りるものを再製することをいう」と解されている。つまり、依拠性と同 一性が要件とされている。同一性と言っても、わずかな相違も許さない趣 旨ではなく、その判断においては、表現上の特徴を直接感得することがで きるかという基準で判断される。 2 マークの話 平成23年9月29日 3 マークの外観類似・複製の実例 以下では、マークの外観に絞って、商標法、不競法、著作権法における判 例を示し、その判断手法、保護範囲の相違について検討する。いずれも判断 手法について、杓子定規な基準、手順がある訳ではないが、判例から、いく つかの重要な観点を知ることはできる。 商標法、不競法については、出所混同の有無が重要なので、需用者層、商 標の大きさなどの取引実状が考慮される。また、離隔観察(時間と場所を離 して対比すること)を前提として類否を判断することも特徴である。 一方、著作権法は創作性が保護対象であるから、図形等のどの部分に創作 性があるのかを見極めることが重要となる。 ■ 最判 H4.9.22 1 一審(東京池判 H2.6.22)および原審(東京高判 H3.7.30) 「大と木」、「森林と林森」の相違により外観非類似である。 2 最高裁 (1) 綿密に観察する限りでは 外観、観念、称呼において個 別的には類似しない商標で あっても、具体的な取引状況 いかんによっては類似する 場合があり。… (2) 以下の理由から外観類似 と判断した ・「大」と「木」の字は、筆 運びによっては紛らわしく なる ・木林森は意味を持たない造 語に過ぎない ・いずれも構成する文字から して増毛効果を連想させる樹木を想起させる ・育毛剤等の需用者が、標章に深い関心を抱くとは限らないこと 3 マークの話 平成23年9月29日 ■ 東京地判 H6.6.29 1 下記理由から外観非類似とされた (1) 原告商標は①の縦線は太線と細線の組合せと なっているのに対し、②は太い縦線と細い縦線の間 が広く開いている。従って、②は「Ⅰ」と見るには 間が開きすぎ、 「Ⅱ」と見るには二本の線の太さが異 なり過ぎる。しかも左右全体が連続して一体となっ ている。よって、アルファベットの「KⅡ」なる文 字ではなく、一体の特殊な図形と認識される。 (2) 一方、被告商標は「KⅡ」である。 2 その他 原告商標は、登録までの審査の過程で、一体である 旨の主張をしていたため、KとⅡとの接合であると の主張は信義則違反であると判断されている。 ■ 東京地判 H8.3.28 1 上側が原告の登録商標、下側が被告商標である。 2 外観類似について (1) 「Asa」は極めて類似している。縁取りの有無で 異なるが、その印象は弱い。 (2) hi は三本の縦方向の平行線と菱形が目立つのに 対し、X は太い斜線と細い斜線の交差が目立ち、印 象が大きく異なる。二文字か一文字か、文字が大き いか小さいかも異なる。 (3) 最初3文字の類似性を考慮しても、全体として非 類似である。 3 その他、称呼、観念も非類似とされた。 4 マークの話 平成23年9月29日 ■ 東京地判 H10.11.27 1 外観類似について (1) CLUB は同好会を意味する 日常語であるから、被告商標は ELLE と CLUB の結合商標であ り、ELLE が要部と言える。 (2) ELLE の部分については、字 体は異なるがいずれも同じ文字 で類似しているから両者は類似 である。 2 その他 被告は①について商標登録を受けているが、②③については、被告の登録 商標(と同一の商標)の使用とは認められなかった。 東京地判 H14.7.31 (1) 原告商標(1)は犬(フラットコーテッ ドレトリーバー)のシルエット、原 告商標(2)では「DOG DEPT」 の文字が付されている。 (2) 原告商標(1)(2)と被告標章 (1)とは次の理由で外観類似と 判断された。 いずれも①尾をほぼ水平方向に延ばし、②左向きで立った姿勢、③黒塗り で描かれているという共通の特徴が需用者に強く印象づけられる。 一方、被告標章(1)の方が①足先が太い、②前足と後ろ足をそれぞれ開き交 互に踏み出している、③頭部が水平方向に向いている、④胴部が全体的にわ たって太い、⑤尾が水平方向よりやや上方に延び、全体に太いという点は被 服のワンポイントマークとして比較的小さく表示されるときにはほとんど目 立たない。また被告標章(1)の犬の種類が、⑥ゴールデンレトリーバーであるという点 は、犬等に特段の感心を持たない者には相違を区別できるとは解せない。 (3) 被告標章(2)は全体を薄い色で塗りつぶし、輪郭を描いたものであるが、同 様に外観類似であると判断された。 (4) 被告標章(2)(被告は商標登録していた)と原告標章との対比では、被告標 章(2)は、①縁取りよりやや薄い色で着色されている(原告標章は縁取りの内 側が白色である)、②耳および首輪が描かれていない、③前足および後ろ足が それぞれ揃っていないから、非類似であると判断された。 ■ 5 マークの話 平成23年9月29日 ■ 東京地判 H18.12.22 (1) 被告は、オシャレ魔女ラブandベリーというゲームの一環としてTシャ ツ、サンダル等に被告標章(1)~(9)を使用していた。 (2) 被告標章(1),(3),(5),(6),(8)は次の理由でそれぞれ外観非類似と判断された。 被告標章(1)は構成の相違から明らか。 被告標章(3)は and が存在することで、Love と Berry が一体ではない印象 を与える。 被告標章(5)(6)はいずれも「&」を明瞭に看取することができる。 被告標章(8)は★が存在し、L と B 以外は小文字である。 (3) 被告標章(2),(4),(7),(9)は次の理由で外観類似と判断された。 被告標章(2)は LOVE と BERRY がくっきりとした縁取りで周辺の文字等と 区別して認識されるから二段に記載されているとしても登録商標に類似する。 被告標章(4)は、 「&」が LOVE および BERRY との間にスペースが存在し ないため一体となり目立たない外観となっているから登録商標に類似する。 被告標章(7)は、★が小さく、LOVEBERRY をやや図案化した印象を与えて いる。 被告標章(9)は、ハートマークが存在するが、LOVE と BERRY がアルファ ベットの大文字で記載されている。 6 マークの話 ■ 平成23年9月29日 東京地判 H10.2.25 (a)原告商品 (b)被告商品 (1) 出所混同を生じ不競法2条1項 1号に該当すると判断された例 (2) 両商品の相違点を、 「液晶表示画 面の周囲のギザギザ状の窪みがな く、全体になめらかな表面となって いる」と認定し、この点は、「液晶 ゲーム機としての重要な構成要素 とはいえず、…デザインの付随的な 部分にすぎない」として、両商品の 形態は実質的に同一であると判断した。 (a) http://blogs.yahoo.co.jp/yhktm283/18680628.html より (b) http://auok.auone.jp/item/item_307644470.html より 東京地判 H12.6.28 (1) ジーンズの後ろポケット部 分の刺繍につき、商品等表示に 該当すると判断した上で、出所 混同(不競法2条1項1号)を 認めた例 (2) 被告標章(1)(2)については、 ①ジーンズのバックポケット に付されている、②左右2つの アーチからなる、③左右のアー チは線対称である、④各アーチ はほぼ平行な二本の曲線から なる、⑤二本の曲線は、両端部 分から…下降し、中心部で交差 している、という点で共通し、 相違は僅かだから類似と判断した。 (3) 被告標章(3)については、①左右のアーチが線対称でない、②左側の曲線は 端部から上方へ進んだ後、下方に進むという弓形である点で大きく相違する から、原告標章とは類似しないと判断した。 ■ 7 マークの話 平成23年9月29日 ■ 東京地判 H15.11.12 (1) 被告イラスト(新聞広告に掲載)が原告イラストの著作権侵害に当たると 判断された。 (2) 原告イラストの著作物性 世界各地の名所を①全体的に淡い色調でメルヘン的な雰囲気を醸し出すよう な表現がされている②個々の名所について、強い個性を発揮しすぎないよう 抑制されている③各名所旧跡について縮尺を変えて高さを揃えている④バラ ンスが保たれるよう配列や重なり具合、向きに工夫が凝らされているから、 創作性(著作物性)が認められる。 (3) 原告イラストと被告イラストの対比 共通点は、①エッフェル塔、ピサの斜塔…という現存する名所旧跡を取捨 選択して描いている、②ピサの斜塔の傾きの方向、ピラミッドの方向とラク ダの向きなど細部に至るまで同一または酷似している、③各名所旧跡につい て縮尺を変えて高さを揃えるように描かれていること等の点である。 原告イラストは、①特徴に乏しい建物、羽根が小さく脚部が二本の風車が 描かれている、②各名所旧跡をデフォルメして描かれているのに対し、被告 イラストは①パゴダ風の建物、万里の長城などが描かれ、②シャープな描線 が用いられ、各名所旧跡も写実的に表現されている。 被告イラストは、原告イラストの創作性を有する本質的な特徴部分を直接 感得し得るものであることができるから、複製権または翻案権の侵害にあた る。 8
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