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平成 25 年度
東北復興次世代エネルギー
研究開発プロジェクト
研究成果報告書
本報告書は、平成 25 年 4 月から平成 26 年 3 月までの成果をまとめたものです。
平成 26 年度は、これらの成果をさらに発展させ、スピード感を持って震災被災地の復興に寄与したいと考えます。
これからも皆さまの御支援と御鞭撻をお願い申し上げます。
はじめに
研究代表
東北大学大学院環境科学研究科長
田 路 和 幸
東日本大震災は、津波被害地のみならず、内陸部
に於いても甚大な被害をもたらした。さらに、福島原
発の事故による放射能汚染と風評被害により、東北地
域の活力は極めて低下した。このような状況のもと東
北人の意志の強さが、復旧、復興活動の支えとなっ
ている。このような地元自治体を中心とする復興ア
クションの中、地元の中心大学である東北大学は、総
長のリーダシップのもと東北地域の復興を支援するた
め、東北大学復興アクションを組織し、震災直後から
活動を開始した。このアクションの一つとして東北大
学環境エネルギープロジェクトを立ち上げた。ここで
は、被災自治体と協調し、東北各地域に根差した再生
可能エネルギーの活用と新産業の創生、そして世界に
復興を発信できる災害に強い低炭素まちづくりを通し
て、東北復興を牽引したいと考えている。
本プロジェクトの中核機関である東北大学は、震
災直後の平成 23 年 6 月 17 日に震災復興に向けた第 1
回震災フォーラムを皮切りに、合計 7 回の震災フォー
ラムを通して、東北各地の被災地域の現状と復興に関
する検討を進めると伴に、平成 23 年 11 月 17 日には、
東北地域の大学ならびに全国の大学と次世代エネル
ギーと活用に関する「東北復興に向けたクリーンエネ
ルギー研究開発シンポジウム」を開催した。このよう
4
な活動の中で、東京大学からは、岩手県久慈市、宮城
理システムである。これまで、再生可能エネルギーは、
県塩釜市において、波力発電と潮流発電の提案が生ま
商用電力と系統連携する形で利用されるのが実情であ
れ、筑波大学と東北大学の合同グループから宮城県仙
る。しかし、このような再生可能エネルギーの活用に
台市において微細藻類の活用、さらに東北大学と東京
は限界がある。このことから、再生可能エネルギーを
大学が協力して、宮城県石巻市が進めるバイオマスタ
如何に社会システムの中に組み込み、新たな文明社会
ウン構想や宮城県大崎市が進める温泉熱活用などに不
を構築していくかについては、まったく未知数である。
可欠な移動体を活用した地域エネルギー管理システム
新たな次世代エネルギーとそのエネルギー管理システ
の構築という具体的な復興に向けての環境エネルギー
ムを日本の社会に浸透させ東北復興を牽引する社会を
を基本とする本プロジェクトがまとまった。
構築するためにはどうすればいいか。その方策と解決
エネルギーは人類文明史の在り方を根本的に規定
策を参画する大学と地方自治体がコンソーシアムを組
してきた。火の利用から始まって、化石燃料の利用そ
んで、実証も含め具体的に復興に寄与することが本プ
して原子力の利用にいたるまで、人類のエネルギーの
ロジェクトの最終目的である。
利用と文明史の転換はきわめて密接にかかわってい
る。しかも、エネルギー利用が社会システムの根幹
を形成し、文明の展開に大きくかかわっていることを
人々が実感するのは、危機の時代・文明の転換期であ
る。その契機が 3.11 東日本大震災と福島原子力発電
所の事故によって作られたと言える。このような考え
本プロジェクトは以下の 3 つの研究課題により東北
復興のための研究開発を推進する。
課題 1:‌三陸沿岸へ導入可能な波力等の海洋再生可能
エネルギーの研究開発
を基に東北地域の優位性である再生可能エネルギーポ
課題 2:微細藻類のエネルギー利用に関する研究開発
テンシャルを生かし、近代西洋文明に代わって、21
課題 3:‌再生可能エネルギーを中心とし、人・車等の
世紀の世界をリードする日本独自のエネルギーシステ
ムの構築は、東北地域の復興を推進するものと考える。
そのキーワードは、次世代エネルギーとエネルギー管
モビリティ(移動体)の視点を加えた都市の
総合的なエネルギー管理システムの構築のた
めの研究開発
5
はじめに
4
研究成果報告
中核機関
8
課題 1
三陸沿岸へ導入可能な
波力等の海洋再生可能エネルギーの研究開発
課題 2
微細藻類のエネルギー利用に関する研究開発
13
18
課題 3
再生可能エネルギーを中心とし、人・車等のモビリティ
(移動体)の視点を加えた都市の総合的なエネルギー
管理システムの構築のための研究開発
3-1
公共施設用 EMS の研究開発
24
24
3-2
ヒューマンインターフェースとしての
アクティブサイネージの研究開発
3-3
エネルギー&モビリティ統合インターフェースの研究開発
3-4
エネルギーモビリティマネジメントシステムの研究開発
3-5(1)
EMS 制御バイオマスエネルギーシステムの研究開発
3-5(2)
EMS 制御複合型微細藻バイオマス生産システムの研究開発
3-6
EMS 制御地中熱エネルギーシステムの研究開発
28
32
36
42
46
50
3-7
EMS 制御温泉熱利用バイナリー発電エネルギー
活用システムの研究開発
54
7
中核機関
概 要
中核機関では、プロジェクト全体の進捗の把握や執行に関わる公的書類の準備、関連省庁への対応、研究開発
に関わる各種調査といった運営に関する様々な事柄を司ると共に、シンポジウムの開催や次世代エネルギー関連
展示会への出展、広報物の発行などの研究成果広報活動を通じてプロジェクトが実施する研究開発の周知を図り、
全体の計画が被災地域に受け入れられる形で円滑に実施されるよう努めている。平成 25 年度は、各課題の進捗
を相互に把握し運営上の問題点について協議する運営委員会を 2 回、一般市民に向けてプロジェクトの実施内容
を周知するためのシンポジウムを 5 回実施、展示会に 3 回出展した。調査事業としては、温泉熱を活用した地域
活性化ならびに新産業の創出について国内外の先進的な事例 17 件を調査し、課題の進展に寄与した。また、次
年度以降の復興事業の継続のため、関連自治体の協力を得、関連省庁に対し要望書を提出し事業への理解を求め
た。こうした活動と平行して、情報発信のために各課題進捗状況の映像による記録化を進めると共に、ウェブペー
ジ更新管理、報道情報の収集、予算執行管理を日常的に行い、プロジェクトの進行を支えている。
担 当 者
実施内容
東北大学大学院 環境科学研究科
事業の円滑な運営のため、各課題の参画機関や自治
教 授 田路和幸(兼務)
体との共同体制強化に努めると共に、課題間の連携を
特任教授 霜山忠男(兼務)
図る。また、シンポジウムやフォーラムの開催、記録
准 教 授 木下 睦
動画製作配信、パンフレット製作、ウェブページの運
助 教 梅木千真
営、展示会への出展等を通じ、事業を国内外にアピー
助 教 吉田友美
ルすると共に、連携自治体住民の理解と参加を得るこ
助 教 平野伸夫(兼務)
とを進めることとし、平成 25 年度の主な活動は以下
助 手 三ケ田伸也
のとおりである。
研究支援者 篠原章太朗
室 長 熊谷 功
1.広報活動
助 手 物部朋子
平成 25 年度は、
「第 2 回東北地方将来エネルギー
事務補佐員 日下房子
フォーラム」
「第 1 回大崎市・東北大学フォーラム」
「第
事務補佐員 齋藤智子
2 回大崎市・東北大学フォーラム」
「東北復興次世代
事務補佐員 吉田和美
エネルギー研究開発プロジェクト第 2 回国際シンポ
ジウム」
「東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェ
クト特別講演会」を開催した。
8
Fig. 1-1 第 2 回東北地方将来エネルギーフォーラム 2013
Fig.1-2 第 2 回東北地方将来エネルギーフォーラム 2013
一方、本プロジェクトは東北大学復興アクションの
3.シンポジウム等実施内容
一つとしても位置づけられており、3 月 9 日に開催さ
1)‌第 2 回東北地方将来エネルギーフォーラム 2013
れた東北大学災害復興新生研究機構シンポジウムにお
-東北地方の将来エネルギーを探る-
いても田路教授がプロジェクトの活動等について講演
東北地方で暮らす人々の生活を守り、産業を育成す
を行っている。こうしたシンポジウムの運営・参加に
る観点から、東北地方に適するエネルギービジョンを
加え、展示会にブース出展し、来訪者と対話しながら
打ち出すことを目的としたフォーラム。東日本大震災
のプロジェクト紹介に努めた。
(シンポジウムならび
被災地域の復興を目指して、森林や海洋など自然・天
に展示会内容については「3.」に記載)
然資源、産業構造、自治体構成、人口構成なども考慮
また、本プロジェクトで実施する研究開発の内容を
した将来エネルギービジョンについて、公演とパネル
よりわかりやすく公開するため、課題それぞれの目的
ディスカッションを行った。
と進捗状況の映像化を進めた。映像はウェブページに
開催日時:平成 25 年 10 月 6 日㈰ 13:00 ~ 17:00
て公開すると共に、今後のシンポジウムや市民フォー
開催場所:仙台ガーデンパレス 2 階 鳳凰
ラムで上映するなどしてより効果的な訴求のツールと
主催:‌東北復興次世代エネルギー研究開発機構、東
して使用することとしている。
北大学大学院工学研究科、東北大学大学院環
境科学研究科、東北大学未来科学技術共同研
2.運営関係・調査事業
継続的な研究開発の実現に向け、関連自治体の協力
究センター
後援:‌日本機械学会東北支部、電気学会東北支部、
を得、7 月下旬に関連省庁へ要望書を提出し、本プロ
エネルギー・資源学会、廃棄物質源循環学会
ジェクトに対する理解を求めた。また、調査研究事業
東北支部、日本地熱学会、東経連 他
では、国内外で既に実施されている温泉熱等を活用し
参加者:計 34 名
た農作物・水産物等特産品開発ならびに再生可能エネ
2)‌第 1 回大崎市・東北大学フォーラム「温泉熱と再
ルギーの地域での活用事例合計 18 例について現地視
生可能エネルギーを使った地域産業創出可能性」
察を交えて調査を行い、その成果は今後の研究開発と
温泉熱や再生可能エネルギーを使って事業を行ってい
実証試験、並びに被災地復興・地域振興に反映するこ
る事業者の具体的な事例を通じて、鳴子における温泉
ととした。運営会議については 2 回開催し、課題相
熱や再生可能エネルギーを使った起業の方向性を検討
互の進捗把握と運営上の問題の共有と解決に努めてい
するために開催。片岡ファーム、株式会社開成による
る(内容は「3.」参照)
。
報告の他、プロジェクト担当者を交えたパネルディス
カッションが行われ、エネルギーとしての温泉利用に
ついて、実際的な意見交換がなされた。
9
Fig. 2-1
Fig.2-1、2-2 第 1 回大崎市・東北大学フォーラム・パネル展示
開催日時:平成 25 年 10 月 9 日㈬ 13:30 ~ 16:30
(独)産業技術総合研究所東北センター
開催場所:大崎市鳴子公民館ホール
後援:経済産業省東北経済産業局 他
主催:‌東北復興次世代エネルギー研究開発コンソー
参加者:‌10 月 24 日 2,472 名、25 日 2,576 名、26
シアム
日 6,810 名
参加者:計 28 名
4)おおさき産業フェア(ブース出展)
3)エコプロダクツ東北 2013(ブース出展)
「おおさき」でつくられた製品・技術・商品・特産
NPO 法人環境会議所東北は、
「環境と地域を中心と
品を広く市内外に宣伝紹介し、出展者相互の連携を深
した経済の両立」に向け、環境ビジネスの促進を目的
め産業の活性化を図ることを目的とする。当プロジェ
に、様々な活動を行っている。その活動の一環である
クトが大崎市鳴子地区で実施している課題内容の理解
「エコプロダクツ東北」は、
環境に配慮した製品やサー
ビス(エコプロダクツ)の普及を目的とした東北最大
級の環境総合展である。当プロジェクトは課題全体の
と市民の意見を得るために参加。
開催日時:‌平 成 25 年 10 月 25 日㈮ 10:00 ~ 16:
00、26 日㈯ 10:00 ~ 15:00
実施内容を周知し理解を求めるため参加した。
開催場所:大崎市古川総合体育館
開催日時:‌平 成 25 年 10 月 24 日 ㈭ ~ 26 日 ㈯
主催:おおさき産業フェア実行委員会
10:00 ~ 17:00 *最終日は 10 時~
参加者:25 日 1,000 名、26 日 1,600 名 16 時半
5)‌東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクト
開催場所:夢メッセみやぎ
主催:‌NPO 法人環境会議所東北、
(財)みやぎ産業
交流センター
協賛:産 業環境管理協会、エコプロダクツ 2013、
Fig.3-1 エコプロダクツ東北 2013
10
Fig.2-2
第 2 回国際シンポジウム
再生可能エネルギーの研究開発に先進的に取り組ん
でいる研究者を国内外から招待し講演頂くとともに、
東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクトの活
Fig.3-2 エコプロダクツ東北 2013
Fig.4-1 おおさき産業フェア
Fig.4-2 おおさき産業フェア
Fig.5-1
Fig.5-2
Fig.5-1、5-2 東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクト第 2 回国際シンポジウム
動状況を紹介した。
引率により見学。その後、フォーラムにおいて研究成果
開催日時:平成 25 年 11 月 29 日㈮ 13:00 ~ 17:00
報告・地域活性化の方向性の提言とディスカッション
開催場所:ホテルメトロポリタン仙台 3 階 曙
により鳴子地区の市民の皆様の意見交換を行った。ま
主催:‌東北復興次世代エネルギー研究開発コンソー
た、頂いた意見は今後の鳴子地区における具体的な事
シアム
業推進計画を検討する上での参考とすることとした。
参加者:計 150 名
開催日時:‌平成 25 年 12 月 20 日㈮
6)‌第 2 回大崎市・東北大学フォーラム「温泉熱等を
9:30 ~ 12:00 実証サイト見学会、
利用した再生可能エネルギーの創出と活用」
フォーラムに先立ち、鳴子~中山平~フィールドセ
ンターの 3 つの実証サイトを、プロジェクト担当者の
Fig.6-1 第 2 回大崎市・東北大学フォーラム
13:00 ~ 15:30 研究成果報告会
開催場所:‌見
学会(中山平温泉、鳴子温泉、東北大学フィー
ルドセンター)、フォーラム(鳴子公民館ホール)
Fig.6-2 見学会
11
主催:‌東北復興次世代エネルギー研究開発コンソーシ
機関並びに、地熱利用による生産事業者
アム
との意見交換
参加者:計 39 名
7)東北大学イノベーションフェア 2014
東北大学の最先端研究シーズと社会のニーズの出会
9)‌東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクト
特別講演会-環境・エネルギー・未来-
いの場の構築。地域に密着した産学連携研究・開発の
未来に向けて再生可能エネルギーを活かしながら自
推進と成果還元による地域貢献・震災復興の実現を目
然と共生した夢のある震災復興を実現するために、持
指すとともに、社会に開かれ、親しみやすい科学・技
続可能なまちづくりの具体像について考える。
術の交流の場の提供と研究への理解醸成を行う。当プ
日時:平成 26 年 3 月 12 日㈬ 10:00 ~ 16:35
ロジェクトは東北大学復興アクション 8 プロジェク
場所:‌東北福祉大学 けやきホール(仙台市青葉区
トの一つ「環境エネルギープロジェクト」として参加
し、来場者に対し活動状況や進捗について報告した。
開催日時:2014 年 1 月 28 日㈫ 10:30 ~ 17:00
開催場所:仙台国際センター 2 階 橘・萩
国見 1-8-1)
主催:‌東北復興次世代エネルギー研究開発コンソー
シアム、東北大学大学院環境科学研究科
共催:‌東 北福祉大学、東北学院大学、NPO 法人環
主催:東北大学
境エネルギー技術研究所、いのちを守る森の
共済:‌
(公財)みやぎ産業振興機構、
(一社)みやぎ
防潮堤推進東北協議会
工業会
後援:‌東 北経済産業局、宮城県、仙台市、
(独)科
学技術振興機構、他
参加者:計 650 名
10)その他
第 3 回運営委員会
開催日時:平成 25 年 7 月 5 日㈮ 13:30~15:30
開催場所:‌東北大学大学院環境科学研究科 エコラ
ボ大会議室
第 4 回運営委員会
開催日時:‌平成 26 年 2 月 24 日㈪ 13:30 ~ 15:30
開催場所:‌東北大学大学院環境科学研究科 エコラ
ボ大会議室
次年度以降への課題
本プロジェクトは現在、多様な課題がそれぞれの目
的に沿って研究開発を進めているが、最終的な目標は
Fig.7 東北大学イノベーションフェア 2014
8)‌温泉熱を活用した先進的エネルギー創出海外調査
(ニュージーラント)
連結することで系統に依存しないエネルギー供給網を
創出し、地域全体の再生可能エネルギー地産地消と
調査期間:‌平成 26 年 2 月 25 日㈫~平成 26 年 3 月 2 日㈰
管理を可能にすることである。その第一段として、次
調査場所:‌ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド(GNS サ イ エ ン ス、
年度には課題 3-1 と課題 3-4 の開発を連動させ、課題
ワイラケイ地熱発電所、モカイ地熱温室
3-1 で開発してきた公共施設用 EMS に EV の情報を組
栽培設備、テフカ発電所、タウポ湖周辺
み込むことが当面の課題となる。施設と移動体のエネ
視察)
ルギー管理をまず可能にすることで、さらに地域全体
調査員:霜山忠男、木下睦、三ケ田伸也
調査目的:‌再生可能エネルギー、
特に地熱エネルギー
の有効利用に関する調査研究と現地研究
12
各地に開発された再生可能エネルギーの拠点を EV で
に広がる管理システム構築の実現を狙う。
課 題 1
三陸沿岸へ導入可能な波力等の海洋再生可能エネルギーの研究開発
概 要
産学官の協力により、新しい海洋再生可能エネルギー発電システム(波力発電、潮流発電)を開発し、久慈市、
塩竈市の地元企業等により製作し、
発電した電力を地元に供給(地産地消)する。これにより、新ビジネスを育成し、
東北復興に貢献することを目的とする。平成 25 年度は以下を行った。
■ 波力発電
地元漁業関係者の協力を得て、波力発電装置を久慈湾の玉の脇漁港の外側に設置することを決定した。設置海
域の波浪特性を把握するため、波高計を設置して観測を実施した。波力発電装置の部品を擬装したベンチ試験装
置に加振器、各種センサーを取付け、発電制御ロジックの開発を行った。コンテナ等に電力線、各種のモニター
信号線などを配線した陸上サブステーションを製作した。波力発電装置を取付けるための海洋ジャケット構造物、
波を受けるラダーの構造解析、耐波設計を行い、波力発電装置の詳細設計図を完成させた。
■ 潮流発電
塩釜市と協力して、文化庁に潮流発電装置の設置許可を申請した。潮流発電装置の部品を艤装した陸上ベンチ
試験装置を製作し、発電量を最大化するための発電制御ロジックを完成させた。コンテナに電力線、各種のモニ
ター信号線を配線した陸上サブステーションを製作した。海洋ジャケット構造物(3 セット)の詳細設計を行い、
その図面に基づき、部材を製作した。部材 1 セットを仮組し、現地用ロータ(直径 4m)、鉛直軸等を取付け、強
度確認テストを行った。
担 当 者
東京大学 生産技術研究所
教 授 林昌奎
特任教授 丸山康樹
名誉教授 木下健
特任研究員 小林豪毅、永田隆一、広部智之
シニア協力研究員
高橋毅、瓦谷ロバート孝一、広瀬学
研究計画
5 カ年の研究計画(表 1)に従い、波力発電システム、
潮流発電システムの開発を進める。波力発電について
は、平成 27 年度の夏期の静穏時に、久慈市の玉の脇
漁港外側に設置し、発電した電力を地元(玉の脇漁協
組合)に試験供給する(地産地消)。潮流発電につい
ては、平成 26 年度に、防潮堤等の復旧工事の邪魔に
ならない工夫を行い、塩竈市寒風沢水道に設置し、発
電した電力を地元(浦戸東部支所)に試験供給(地産
地消)する。
13
海洋再生可能エネルギー研究開発(波力、潮流)
概略スケジュール(案)
H24 年度
(2012)
H25 年度
(2013)
H26 年度
(2014)
H27 年度
(2015)
H28 年度
(2016)
水 深 測 量
40kW 発電装置工場テスト
玉の脇漁港周辺調査
40kW 構造物製作
夏期の静穏時
40kW 海域設置
電力供給試験
要素技術開発(40kW):陸上ベンチ試験、simulation 等
総合性能評価
潮流発電システム実証試験(塩竈市)
流速・深浅
測量調査
5kW1台製作
要素技術開発(水槽実験、陸上ベンチ試験等)
ちである。
2.波浪スポット観測
玉の脇漁港の外防波堤前面海域において、9 月 6 日
波力発電システム実証試験(久慈市)
波浪レーダ設置
ドレーダによる波浪観測については、総務省の許可待
5kW1台製作
防潮堤復旧工事に合わせて
設置時期を調整
より約半年間、スポット的な波浪観測を実施した。そ
の結果、台風 24 号時の高波浪(有義波高で約 4.5m)
の観測に成功した(図 3)。この結果から、波力発電
電力供給試験
総合性能評価
表1研究スケジュール
装置の海洋構造物の設計外力(有義波高 4.0m、有義
波周期 12s、最大波高 6m)を決定した。
3. 加振器の取付け・陸上ベンチ試験装置の改良と調整
平成 25 年度の実施内容
加振器に各種センサー(ストローク等)を取付け、
岩手県久慈市、宮城県塩竃市の協力を得て、以下を
一式(加振器、制御盤)をベンチ試験装置の設置場所
実施した。
に搬送した。ベンチ試験装置の鋼製フレームに加振器
■波力発電
を取付け、調整を行い、波力発電装置の油圧 RAM シ
1.波力発電装置の設置場所の決定
リンダを往復運動させ、設計通りの性能を確認した
深浅測量の結果、JOGMEC 前面海域は水深が浅く、
(図 4)。この改良したベンチ試験装置を用いて、現地
波力発電装置(図 1)の設置に適さないと判断された。
波浪データを入力条件とした発電試験を実施し、発電
地元関係者と海域設置の難易度を考慮して検討し、地
機の回転数、トルク値などの最適制御方法を検討した
元漁業関係者の理解も得られたので、波力発電装置は
(図 5)。油圧モータのキャビテーション防止対策、発
久慈湾の玉の脇漁港の外側に設置することに決定した
電機の過回転防止、蓄圧器の最適設定圧力等の検討を
(図 2)。なお、JOGMEC 管理棟屋上に設置した X バン
行った。また、コンテナにエアコン、電力線、各種の
波力発電装置(40kW)の構造
斜板オイル
モータ
蓄圧器
オイルタンク
40kW永久磁石発
電機(PMG)
油圧ラムシリンダ
(2対)
鋼製ジャケット構造物
ラダー(Rudder)
図 1.波力発電装置(40kW)の構造
14
図1
図2
波力発電装置の設置場所 :玉の脇漁港・外防波堤
■潮流発電
5.文化庁申請
波浪観測点
(2013年9月~)
潮流発電装置は、塩竃市の松島湾入口に位置する浦
400V AC三相
発電機出力
戸諸島の寒風島水道において、津波で流出した浮桟橋
跡に設置する予定である。松島湾は特別景勝地のため、
40kW波力発
電設置場所
漁港施設へ配電
塩竈市と協力して、潮流発電装置を設置した場合の景
陸上サブステーション
(パワコン、トランス)
玉の脇漁港
設置予定
観図(CG 図面)をもとに文化庁に設置申請を行った(図
新設6.6kV配電線
7)。年度内には設置許可が得られる見込みである。
既設6.6kV配電線
6.ロータ水槽試験
図 2.波力発電装置の設置場所:玉の脇漁港・外防波堤
昨年度に引き続き、東京大学千葉実験所(津波高潮
モニター信号線などを配線した陸上サブステーション
実験棟)にて、3 セットのロータ(鉛直軸)に 油圧ポ
を製作した(図 6)
。
ンプをマウントし、増速機+発電機により発電試験を
4.海洋ジャケット構造物の詳細設計
行った。油圧ポンプを工夫(直列接続)することによ
波力発電装置の海洋構造物の概略設計を行った結
り、ロータ数を増やすことでエネルギーがほぼ比例関
果、
構造物重量が過大になることが判明した。そこで、
係で得られることが分かった(図 8)。現地では、3 セッ
動的荷重に注目した設計法を考案し、波浪観測データ
トのロータを採用する計画である。
を入力条件としてラダー面積等を再検討した。その結
7. 陸上ベンチ試験装置の改良と調整
果をもとに、油圧発電部品(重さ約 11 トン)を艤装
潮流入力を模擬する駆動モータ(3 セット)を鋼製
するための海洋ジャケット構造物、
ラダーの構造解析、
フレームに取付けた陸上ベンチ試験装置(5kW)を製
設計波が入力するときの耐波設計(滑動安定性)を行
作し、発電量を最大化するための発電制御ロジックを
い、
波力発電装置(40kW)の詳細設計図を完成させた。
開発した(図 9)。
図3
玉の脇前面波浪観測結果(平成25年9月)
発電した電力を送電する電力線、各種のモニター信
5
有義波高(水圧)
4.5
4
有義波高4.5m
有義波周期(超音波)
3.5
3
2.5
2
1.5
1
波高計設置状況(2013年9月6日)
11/7
11/6
11/5
11/4
11/3
11/2
11/1
10/31
10/30
10/29
10/28
10/27
10/26
10/25
10/24
10/23
10/22
10/21
10/20
10/19
10/18
10/17
10/16
10/15
10/14
10/13
10/12
10/11
10/9
10/10
10/8
10/7
10/6
10/5
10/4
10/3
10/2
10/1
9/ 30
9/ 29
9/ 28
9/ 27
9/ 26
9/ 25
9/ 24
9/ 23
9/ 22
9/ 21
9/ 20
9/ 19
9/ 18
9/ 17
9/ 16
9/ 15
9/ 14
9/ 13
9/ 12
9/ 9
9/ 11
9/ 10
9/ 8
0
9/ 7
0.5
9/ 6
有義波高 (m)
台風24号(10月16日~17日)
2013年9月6日~11月6日 玉の脇漁港
波高計(超音波式・水圧式併用)
図 3.玉の脇前面波浪観測結果(平成 25 年 9 月)
15
図5
図4
波力発電装置のベンチ試験装置の概要
波力発電装置のベンチ試験装置の概要
油圧発電装置
加振器
発電機(40kW)
ラダー部
図6
図
5.波力発電装置のベンチ試験装置の概要
波力発電装置の陸上サブステーションの製作風景
加振器の
駆動部
図 4.波力発電装置のベンチ試験装置の概要
号線を配線した陸上サブステーションを製作した。
図 6.波力発電装置の陸上サブステーションの製作風景
8.海洋構造物の製作
みし、現地用ロータ(直径 4m)
、鉛直軸等を取付け、
現地の水深を測定した結果、海底面が凸凹で、平成
強度確認テストを行った(図 11)
。
24 年度に考案した着底式潮流発電装置は設置が困難
なことが判明した。そのため、
流速データ(最大 1.2m/
その他
s)をもとに、フロートで水面に浮かせる軽量な海洋
・課題 1 の活動報告ウエッブサイトの運営
構造物(ポンツーン形式)に変更し、詳細設計を行っ
・波力、潮流発電に関する最新海外情報の収集分析
た。その設計図に基づき、海洋ジャケット構造物の部
・波力発電装置の特許申請(2013 年 9 月 27 日)
材を製作した。直径 4m の現地用ロータ(図 10)
、鉛
・‌運
営委員会の開催:第 1 回(塩竃市)
:6 月 13 日、
第 2 回:2 月 27 日(東大千葉実験所)
潮流発電装置の設置状況(カラーはグレーに変更予定)
直軸、フロート等を製作した。部材 1 セットを仮組
図 7.潮流発電装置の設置状況
16
図7
図8
水槽実験用模型:ロータ数(1~3セット)
・広報活動:
河北新聞「潮流発電の実用性探る」
(6 月 14 日)
0.3
0.25
1次変換率
‌河北新聞「焦点/潮流・波力・風力;海洋エネ、
高まる期待」
(7 月 8 日)
河北新聞「潮流発電、理解深めて」
(7 月 12 日)
塩竃市鉄工組合にて講演(11 月 6 日)
久慈市・岩手県共催セミナー講演(12 月 16 日)
0.2
0.15
0.1
0.05
NHK 放送(盛岡放送局、8 月 14 日)
エコプロダクト東北 2013 出展(10 月 26 日)
水槽全体のエネルギーに対する1次変換率
0
0
1
2
ロータの数
3
4
図9
図 8.水槽実験用模型:ロータ数(1 〜 3 セット)
潮流発電用のベンチ試験装置
岩手日報、デーリー東北(12 月 17 日)
次年度以降への課題
潮流発電(平成 26 年度、塩竃市寒風沢水道設置予
定)、波力発電装置(平成 27 年度、久慈市玉の脇漁
港設置予定)について、5 年間の研究計画(表 1)に
基づき、以下を実施する。
・‌電気事業法の定める工事計画認可申請書(経産大臣
承認)の作成
・‌潮流発電装置については、電気事業法の定める電気
主任技術者の外部委託手続き
図 9.潮流発電用のベンチ試験装置
直径4mのロータの開発状況
図10
・公有水面利用申請(塩竃市、久慈市)
・東北電力との系統接続協議(潮流発電、波力発電)
・‌波力発電装置の 3 次元 CG 作成(潮流発電装置は文
化庁申請用として作成済み)
■波力発電
波力発電装置の部品を完成させ、久慈市の工場に運
搬し、海洋構造物を製作して部品を艤装し、完成させ
る(設置は平成 27 年度の静穏な夏季を予定)
。
・波力発電装置の部品の改良、性能評価
・波力発電用海洋構造物の製作・部品の艤装
図 10.直径 4m のロータの開発状況
現地用潮流発電装置の仮組状況(東大千葉実験所)
■潮流発電
設置予定地点(塩竃市寒風沢水道)の防潮堤等の復
旧工事の邪魔にならない工夫(復旧は平成 27 年度以
降にずれ込む見込み)を行い、
塩竃市の工場にて組立・
ロータ
艤装を行い、認可が得られしだい、海域に設置する。
・潮流発電装置の部品の改良・調整
・アクセス桟橋等部品の製作・調整
・潮流発電装置の組立・据付・調整
鉛直軸
図 11.現地用潮流発電装置の仮組状況(東大千葉実験所)
17
課 題 2
微細藻類のエネルギー利用に関する研究開発
概 要
水処理は下水に含まれる固形有機物の除去、有機物の活性汚泥による CO2 への分解、有機窒素やリン酸などの
分解、除去により行われている。微生物群集である活性汚泥は、沈殿濃縮され産業廃棄物として多量の化石燃料
を消費して処理されている。有機物を利用して増殖する Aurantiochytrium などのオイル産生従属栄養性藻類と、
窒素・リン酸等の富栄養化因子を利用して増殖する Botryococcus などのオイル産生独立栄養性藻類とを、組み
合わせて用いることにより、新エネルギーを創生する技術を東日本大震災により甚大な影響を受けた仙台市の南
蒲生処理施設において確立する。ラボスケールでの実験により、藻類バイオマス生産に関する基礎的知見と個別
基盤技術を開発するとともに、南蒲生浄化センターにおいてパイロットプラントを建設して、将来的に仙台市の
下水処理場で活用可能な実規模プラント設計の基盤技術を確立する。具体的には、実用化に向けて、以下の研究
項目を実施する。
⑴ ラボスケールでの基礎研究および基盤の整備
⑵ 屋内ベンチプラントによる藻類バイオマス生産システムの開発に不可欠な要素技術・システムの開発
⑶ 屋外パイロットプラントの設計・構築・運転
担 当 者
筑波大学 生命環境系
教 授 渡邉 信
教 授 冨重 圭一
教 授 彼谷邦光
准 教 授 中川 善直 教 授 井上 勲
准 教 授 松下 洋介
教 授 白岩善博
助 教 齋藤 泰洋
教 授 石田健一郎
助 教 田村 正純
教 授 鈴木石根
東北大学大学院 環境科学研究科
助 教 吉田昌樹
教 授 スミス リチャード Jr.
助 教 出村幹英
助 教 相田 卓
研 究 員 福田真也
東北大学大学院 工学研究科附属超臨海溶媒工学研究
研 究 員 恵良田真由美
18
センター
研 究 員 甲斐 厚
教 授 猪股 宏
東北大学大学院 工学研究科
准 教 授 佐藤 善之
教 授 青木 秀之
助 教 大田 昌樹
研 究 員 野中利之
のために AF-6 培地(淡水性緑藻用の人工培地)も使
研究教育支援者 小野 巧
用した。その結果、下水では AF-6 培地を上回る良好
H24 年度
(2012)
H25 年度
(2013)
H26 年度
(2014)
培養・抽出・利用の
最適化
藻類オイル生産利用の
大規模化のための基礎実験
屋外施設の
設計
H27 年度
(2015)
H28 年度
(2016)
高次システム構築に
向けての基礎実験
エネルギー効率化の
データ取得
藻類オイル生産の最適化の
ためのデータ取得
研究スケジュール
な増殖を示し、培養 26 日間で 1.5g 以上の乾燥藻体が
得られた。また、同様に炭化水素生産も良好であった。
今後は、未滅菌下水での増殖試験も検討予定である。
さらに、下水から富栄養化因子となる有機窒素やリ
ン酸連続的に除去できる B. braunii BOT-22 の連続培
養系の開発を目的として、人工合成培地による連続培
養を行った。2 種類の合成培地、4 × K 培地(50 日間)
と AF-6(81 日間:継続培養中)による連続培養に成
功した(図 1)。生産量(乾燥重量)はそれぞれ平均
実施内容
0.138 g/L/day(最大 0.158 g/L/day)、炭化水素含有
⑴ラボスケールでの基礎研究および基盤の整備
率 30.0%(最大 33.2%)、平均 0.111g/L/day(最大 0.211
(1-1)‌藻類生産への処理水の利用性の評価と安価な補
助培養液成分の探索
g/L/day)、炭化水素含有率 29.5%(最大 37.0%)であっ
た。これらは B. braunii の人工合成培地によるバッチ
本年度は、南蒲生浄化センターから提供された下水
培養と同程度の生産量であり、最大生産量ではそれを
を利用して、Botryococcus braunii BOT-22 の増殖お
上回っていた(Eroglu et al. 2011)。また現在南蒲生
よび炭化水素生産量がどのように推移するのかを検討
浄化センターから提供された下水(一次処理水)によ
した。使用した下水は、南蒲生浄化センター内に流入
る連続培養を開始しており(26 日間 : 継続培養中)、
してくる流入水、接触酸化と曝気後の越流水(一次処
サンプリング 1 回における生産量は 0.087 g/L/day、
理水)の 2 種類である。これらの下水は培養前に大
炭化水素含有率 44.0% であり、生産量は合成培地よ
きな沈殿物の除くためにろ過した後、オートクレーブ
り低いが、炭化水素含有率では上回る結果であった。
滅菌(121℃、20 分)を行った。また、下水との比較
本年度は、筑波大学から提供された Botryococcus
図 1.連続培養装置と連続培養での細胞増殖
19
濃度 1.75%)が至適増殖条件であり淡
水環境では生育する事が出来ない。そ
のため本株を当該プロジェクトで用い
ることを想定すると、脱塩のプロセス
が不可欠となり、それには莫大なエネ
ルギーと費用が必要となる。この問題
を解決する為に我々は淡水環境で生育
出 来 る 様 に Aurantiochytrium18W-13a
の品種改良を行い、下水に含まれる塩
濃度とほぼ同等の条件で培養できル株
を確立した。
品種改良への応用を視野にいれて、
図 2.‌藻体サンプルの熱水可溶化実験フロー図(A)、藻体サンプルの熱水可溶
化液(B)、可溶化液中の全炭素・窒素測定で使用した TOC/TN 測定装置
(TOC-VCHS TNM-1 付加,島津製作所製)
(C)、形態別リン・窒素分析で使
用した連続流れ分析装置(QuAAtro 2HR, BLTEC 製)(D)
世界最高水準のゲノム解読のノウハウ
と実績をもつ沖縄科学技術大学院大学
の佐藤教授らの研究チームと連携して、
braunii BOT-22 に 加 え て、Aurantiochytrium、 仙 台
オーランチオキトリウム NYH-1 株の全ゲノム解読を
市南蒲生浄化センターから提供された下水汚泥など、
行っている。これまでに、最新の超高速 DNA シー
様々な固形有機成分の可溶化実験を行った。藻類サン
ケンス法を組み合わせることにより、クオリティー
プルは回分式反応装置により熱水処理を行った(図
の 高 い ゲ ノ ム 配 列 コ ン テ ィ グ(N50 コ ン テ ィ グ 長
2)。内容物は濾過することにより、水可溶分、水不
=99.1kb)とゲノム配列スキャフォールド(N50 ス
溶分(固体)、ガスへと分離し、更に回収した水不溶
キャフォールド長 =542.8kb)を得ることに成功して
分をアセトンで洗浄することにより、アセトン可溶分
いる。総コンティグ長や総スキャフォールド長から、
(オイル)とアセトン不溶分(熱水残渣)へと分画した。
オーランチオキトリウム NYH-1 株のゲノムサイズが
各分画成分は全窒素、全炭素(島津製作所製:TOC
約 40Mb であることが明らかになった。
- TN 分析装置)
、全リン(ペルオキソ二硫酸カリウ
ム分解法)
、形態別リン(PO4 - P:モリブデンブルー
(1-4)藻類オイル等有用成分の特定と抽出技術の開発
吸光度法)、形態別の窒素(NO2 - N ナフチルエチレ
本年度は、B. braunii が細胞外に分泌する炭化水素
ンジアミン吸光度法、NO3 - N:銅・カドミウムカラ
の効率的回収ならびに培養液(延いては生細胞)のリ
ム還元―ナフチルエチレンジアミン吸光度法、NH4 -
サイクル利用を目指し基礎実験を行った。培養液と n-
N:インドフェノールブルー吸光度法)
、アミノ酸(ニ
ヘキサンを接触させ、昨年度構築した油脂類分析法を
ンヒドリン法)
、タンパク質(LOWRY 法)
、多糖(NREL
用いて炭化水素回収率を定量化した(図 3)。1 回目の
法)による測定を行い、各分析手法の再現性の評価す
抽出では全ての条件において炭化水素回収率が低かっ
ることにより、実験から分析までの一連の操作の健全
たが、2 週間の培養期間を経て行った 2 回目の抽出実
性を確認した。本年度の分析法に関しては、各元素の
験では炭化水素回収率が向上し、さらに抽出時間依存
回収率だけでなく、可溶化液中の形態別のリンや窒素
性も確認することができた。ここで、回収率の違いは
についてのデータを獲得できるようになった。
培養液中の細胞濃度の相違(1 回目:1.3 g/L、2 回目:
約 3 g/L)が一因と考えられる為、現在評価基準を統
(1-3)下水処理施設に適した品種改良
高 効 率 ス ク ア レ ン 生 産 株 で あ る
Aurantiochytrium 18W-13a は、50% 海 水 濃 度( 塩 分
20
一化し、さらなる回収率の向上に向けてコロニー内炭
化水素と溶媒の接触効率の検討を行っている。
図 3.‌ヘキサン抽出における炭化水素回収率
(抽出実験フローチャートを右図に示す)
(1-5)‌南蒲生浄化センターにおける藻類バイオマス研
究基盤の整備
を求めた(図 4)
。各月の保温に必要な単位面積あた
りの熱量をもとめ、冬場の 12 - 3 月はほかの月と比較
南蒲生浄化センター内での継代培養を安定化させ、
して熱量が多くなった。これは、冬場は培養装置の培
現場実験研究用のバイオマス供給を開始するため、常
養液と気温の温度差が大きくなるためであると考えら
駐研究者をおき、体制の確立を行った。
れる。夏場の 6 - 9 月はほかの月と比較して温熱が少
ないものの、培養液を冷却するための冷熱が必要であ
⑵屋内ベンチプラントによる藻類バイオマス生産シス
ることが示された。これは、気温が培養液の保持温度
テムの開発に不可欠な要素技術・システムの開発
である 25℃を上回り、培養液が大気から受け取る熱
(2-1)‌Aurantiochytrium などの従属栄養性藻類ベン
チプラント培養実験に不可欠な基盤技術開発
一次処理水や可溶化液成分を利用した従属栄養性藻
類培養プラントシステムを設計・設置する予定であっ
たが、現時点で活性汚泥からの安定的な可溶化条件を
確立できていない。しかしながら、可溶化を行う東北
大学と可溶化サンプルを用いて培養試験を行う筑波大
学のグループの連携により、目処が立ちつつあり今年
度中あるいは来年度当初までには確立できる段階にあ
ると想定される
図 4.各月における保温に必要な熱量
量が増加するためであると考えられる。
(2-2)‌低 温地域における Botryococcus などの独立
微細藻類の付着量がより少ない熱交換器の素材を選
栄養性藻類の屋外大量培養システム構築に向け
定することを目的として、4 種類の管に対して微細藻
た検討
類の付着の様子を観察した。図 5 に微細藻類に浸漬
南蒲生浄化センターの気温、風速および日射量を測
した後の管表面を示す。ステンレスおよび銅への付着
定し、B. braunii 培養装置の熱負荷を計算した。年間
量が少なく、ポリエチレンへの付着量が多い傾向が確
を通して培養液を 25℃に保つために、レースウェイ
認された。
型培養装置(深さ 0.10m)の面積あたりに必要な熱量
21
ル抽出率がおよそ 1.5 倍となった。しかしながら、80
MPa におけるオイル抽出率は 30 MPa と比較して低い
ことが明らかとなった。このことから、微細藻類から
オイルの抽出率を増大させる最適な圧力条件があるこ
とが示唆された。さらに、画像解析による粒径分布を
測定し、各実験条件における微細藻類の粒径分布を得
た(図 8)
。10µm 以下の粒子が細胞単体を示し、10
µm 以上の粒子が細胞のコロニーと考えられる。細胞
を破砕することで 10µm 以上の粒子が減少し、3µm
図 5.‌浸漬後の付着の様子(A:ステンレス、B:銅、C:キュ
プロサーモ、D:ポリエチレン)
(2-3)‌大量処理に向けた藻類オイル等の抽出および有
効利用システム構築
付近の粒子が増加した。このことから、細胞同士が形
成しているコロニーを破砕することでオイル抽出率が
高まることが示唆された。
高濃度収穫法として、凝集剤であるポリシリカ鉄
前年度は、微細藻類を破砕する高圧ホモジナイザー
を用いて B. braunii を沈降沈殿させ、培養液の体積が
(図 6)を用い、処理回数がオイル抽出量に及ぼす影
1/10 になるように培養液を回収した。培養液の濃度
響について検討した。今年度は、本装置による処理圧
および回収した凝集体の重量を測定し、濃縮相に藻体
力がオイル抽出量に及ぼす影響について評価した。微
を回収した割合を求めた(図 9)
。凝集体の重量は凝
細藻類 B. braunii を用い、ヘキサンを用いてオイルを
集剤の付着により藻体の重量より 20mass% 大きいと
抽出し、ガス分析装置を用いてオイルを定量した(図
した。その結果、藻体重量あたりの凝集剤添加量が
7)。未処理試料と比較して処理圧力 30MPa ではオイ
1.0µl/mg より多い場合に藻体を回収した割合が多く
なることが示された。
図 6.高圧ホモジナイザー LAB2000(APV 社製)
図 8.画像解析による微細藻類の粒径分布
22
図 7.処理圧力およびオイル抽出率の関係
えられ、中空糸膜などによる排出液からの細胞回収を
行い、細胞密度を維持しつつ、下水の流入量を増やす
ことによって、時間あたりに消費可能な栄養塩濃度を
上昇させることで、より高細胞密度かつ高効率的に有
機窒素、リン酸を除去可能な連続培養系の開発を目指
す。
次年度は、NYH-1 株のゲノム DNA 配列を一般公開
する計画であり、品種改良をふくむ多方面への応用が
期待される。特に、スクアレンの合成やそのステロー
図 9.凝集剤を用いた微細藻類の濃縮
(2-3)屋外パイロットプラントの設計・構築・運転
下水有機物の最適可溶化・培養条件を詰め切れてい
ルへの代謝については、全ゲノム DNA 配列を利用し
て関連遺伝子の有無や発現パターンを調べる計画であ
る
ないため、
システムの概要を設計するに至っていない。
早急に各条件の検討を進め、今年度末あるいは次年度
当初には概要設計を終える予定である
⑵屋内ベンチプラントによる藻類バイオマス生産シス
テムの開発に不可欠な要素技術・システムの開発
今年度の実験結果をもとに微細藻類の保温および冷
次年度以降への課題
却に適した熱交換器を完成させ、実証実験を行う。ま
⑴ラボスケールでの基礎研究および基盤の整備
た、濃縮した微細藻類を破砕することによる効果的な
来るべき大規模化に向けてより低コスト、高効率化
オイル抽出法の開発を行う。
な培養プロセスを確立する必要がある。例えば、培地
についても汚泥可溶化液ばかりでなくボトリオコッカ
スが産生する多糖などの利用を検討する必要があろ
う。また、糖類を分解する酵素を利用することでより
効率的な Aurantiochytrium の培養を実現出来る可能
性もあり、これについても検討を進めている。
緑藻 Euglena gracilis が体内に蓄積する貯蔵多糖で
あるパラミロン(β -1,3 グルカン)はバイオ燃料だ
けでなく、プラスチックやフィルムのような化学製品
の原材料としての利用が期待されている。本研究室で
は、共同研究によって生産量が高い株として見出され
てきた E. gracilis EOD-1 株を利用し、東北大学から提
供された可溶化活性汚泥試料の利用性の検討を行って
いる。
今後、下水の連続培養を継続し、その生産能、また
処理下水と培養液の窒素、リン酸のイオン濃度測定に
より、本培養系における窒素、リン酸の処理能力を評
価する。また本年度の研究結果から、下水による連続
培養では、合成培地にくらべ生産量が低いと考えられ
る。これは、一般的に下水は人工合成培地に比べて栄
養塩濃度が低く、高細胞密度の維持が難しくためと考
23
課 題 3-1
公共施設用 EMS の研究開発
概 要
本課題では第一弾として H24 年度に石巻市立鹿妻小学校に平時も使用可能な非常用蓄電システムを設置し、
EMS によりエネルギー制御するという実証実験を行った。
H25 年度はその研究成果を踏まえて、石巻市内保育園への系統連系型のエネルギー拠点を設置、またエネルギー
をさらに効率よく利用するための手法として拠点間のエネルギー共有化の実証実験を仙台市内の住宅展示場にて
行った。
さらに、エネルギーシェアのもう一つの考え方として憩いの場でありながら携帯充電器などを用意し自然エネ
ルギーを共同利用するというコンセプトのもとにエネルギーシェアシステムを設置し実証実験を行った。
担 当 者
実施内容
東北大学大学院 環境科学研究所
・‌EMS 制御エネルギーの複数住宅共有システムの研究
教 授 田路和幸
開発
教 授 石田秀輝
H24 年度から石巻市を中心にエネルギー拠点を作
教 授 高橋弘
成している。その第一弾として H24 年度の石巻市立
教 授 吉岡敏明
鹿妻小学校があり、今年度には石巻ひがし保育園もエ
准 教 授 馬奈木俊介
ネルギー拠点として活用できるようなシステムを設置
准 教 授 古川柳蔵
した。
准 教 授 李玉友
これらの拠点内部で自然エネルギーを有効活用する
准 教 授 高橋英志
仕組みが最も重要だが、拠点によっては土日祝日に職
准 教 授 佐藤義倫
員などがおらず消費電力が少なくなる、または季節や
助 教 平野伸夫
1 日の中でも時間によって負荷が変動するため、蓄電
助 教 梅木千真
池のバッファでは補いきれず電気が余ってしまうとい
助 教 吉田友美
う事がある。
助 手 三ケ田伸也
この対策として我々は拠点間の電力融通システムを
研究開発し、被災地に増えつつある電力供給拠点の効
率を最大限に発揮できる仕組みのための実証実験を行
うこととした。
実証実験の場としてお借りすることが出来たのは
TBC ハウジングステーション仙台駅東口の管理棟と株
24
H24 年度
(2012)
H25 年度
(2013)
H26 年度
(2014)
H27 年度
(2015)
H28 年度
(2016)
学校向けEMS
システムの開発と
モデル校への設置
EMS 制御エネルギー
の複数住宅共有
システムの研究開発
離島用エネルギー
マネジメント
太陽光発電・蓄電
システムの設置
モビリティ・
エネルギー拠点の
情報を統合
モビリティを含む
地域 EMS 完成
公共施設用 EMS
制御太陽光発電・
蓄電システム設置
エネルギーシェア
システムの研究開発
非接触認証型直流
コンセントシステム
の研究開発
モビリティ情報連携
EMS の研究開発
モビリティを含む
地域 EMS の
実証実験を
石巻市内で行う
石巻市役所内に
見える化ディスプレイ
設置
非接触型二次元
電力供給システム用
インバータ電源の試作
研究スケジュール
・公共施設用 EMS 制御太陽光発電・蓄電システム
H24 年度から実証実験を行っている鹿妻小学校は
築約 40 年の建物であり、もちろん当時は屋根に太陽
光パネルを設置するという想定があるはずもなく、太
陽光パネルの架台を設置するにも、配線を追加するに
も普通にはいかず、大変苦労した。これも鹿妻小学校
での実証実験で学んだことの一つと言えるが、それを
踏まえて H25 年度に実証実験の場としてお借りする
式会社ウンノハウス様の展示棟である。
ことをお願いしたのは石巻ひがし保育園で、2014 年
管理棟には我々の設置した太陽光発電・蓄電システ
1 月竣工の新築保育園である。この建築工事の段階か
ムがあり、ウンノハウス棟には独自の太陽光発電・蓄
ら我々のシステムが入ることを想定した設計を提案し
電システムがある。これらの発電・蓄電システムを利
組み込んで頂くことで、装置の設置・据付調整費用を
用して、見学客の多い時間帯は管理棟側がウンノハウ
最小限に抑えることが出来た。
ス棟側へ電力を提供、または管理棟でイベント等があ
また、電源システム自体も鹿妻小学校のような UPS
り電力消費量が増えてくるとウンノハウス棟側から電
方式ではなく、系統連系パワコン方式を選択した。両
力を融通してもらうなど臨機応変に電力をやりとりし
者は一長一短でどちらが優れていると言えるものでは
て、発電電力を無駄にしないような仕組みを試作し実
ないが、EV を充電するという事が重要なファクタと
証実験を行っている。
なっている本プロジェクトでは系統連系方式が望まし
管理棟にはその他にもエコウィル、エネファームな
いと考えた。
どの発電システムも連系しており、管理棟内にあるレ
UPS 方式では電力供給量に制限があるため、常にい
ストランに毎日給湯を行うことで安定して発電を行う
つ充電されるか分からない 3kW 分 (200V/15A 普通充
ことが出来ている。
電時 ) の余裕を確保しておかなければならない。この
また、鹿妻小学校同様、発電量・蓄電残量・消費電
制限の中で自然エネルギーを有効利用していくという
力量などの情報を大画面ディスプレイに出力して見え
のはかなり難しいものがある。
る化し、利用者への消費電力削減のサポート、見学客
またガスコージェネレーションシステムについても
へのエネルギー教育にも利用できるようにした。
石巻ひがし保育園では沐浴用として毎日一定量の湯消
費量があるため、その配管に給湯することで安定した
発電量が期待できる。照明も本システムが非常時に供
図 1.管理棟と見える化ディスプレイ
25
給する部分は LED 化し、AC100V を供給するコンセン
3 月以降、定性・定量的に評価する。
トは避難所となる 2F 遊戯室と対策本部となり得る職
この効果の実証によって、震災により劣化が加速す
員室に設置し非常時も利用できるようにした。
るコミュニティを復興に導き、非常時の一時避難場所
発電量・蓄電残量・電力消費量などはこれまで同様
としての役割を果たし、東北らしい賢くエネルギーを
ディスプレイに出力して見える化を行い、利用者への
利用する先人の知恵を継承する持続可能なまちづくり
消費電力削減のサポート、児童へのエネルギー教育に
のモデルを構築する。
も利用できるようにした。
・非接触認証型直流コンセントシステムの研究開発
・エネルギーシェアシステム
現在の一般的なシステムでは、東北電力から交流の
東日本大震災による避難・転居者数は 27 万人にも
電力が供給され、分電盤、コンセントに至るまで宅内
のぼり (2013 年 12 月 24 日復興庁発表 )、被災地では
配線は全て交流である。しかし、実際に使用している
地域コミュニティの劣化が再三問題視されている。こ
電子機器は PC やスマートフォン、TV、電動自転車、
のエネルギーシェアシステムは、そういった中で地域
LED など直流機器であることが多い。さらに、近年一
コミュニティを創成し、環境配慮したエネルギー利用
斉に普及しつつある太陽光発電パネルは直流の電気を
行動への変容を促すための装置である。
発電し、それを蓄電するバッテリーは直流電力を貯め
これをコミュニティの中心となる屋外空間に再生可
るものである。
能エネルギー共有システムとして導入し、その結果生
我々はこういった直流機器を使うために AC アダプ
じるユーザーによるエネルギーの使用量の削減効果と
タを利用する。AC アダプタは、東北電力から供給さ
心の豊かさの向上効果を実証する。
れる交流電力を直流電力に変換するものである。しか
東北地方では、
電気製品が生活の中に普及する前に、
しこの交流→直流変換はロスが大きいことが問題であ
自然と共生し、資源・エネルギーを大事に利用する心
る。多くの場合そのロス分は熱に変換され、AC アダ
豊かな暮らし方が存在した。限られた自然資源やエネ
プタが熱くなる現象は誰もが経験している現象であ
ルギーを共有することによって、強いコミュニティを
る。
維持し、助け合い、人の集いを楽しむ心豊かな暮らし
さらにこれが東北電力からの給電ではなく太陽光発
である。この東北地方が伝承してきた知識を応用し、
電装置からの給電の場合は、発電・蓄電された直流の
東北らしい復興を実現するために、さらにどのような
電気を一度交流に変換し、それを交流コンセントに供
要件が必要なのかを詳細に明らかにする必要がある。
給、その交流コンセントから AC アダプタにより直流
そこで本研究では、それぞれの屋外拠点の電気利用の
変換し直流機器を動作させるという二段階のロスが生
計測結果を現地および遠隔でも確認可能な見える化機
じてしまう。
能をもつ簡易的な EMS を連携し、また、人が集うこ
太陽光発電・蓄電システムを利用した再生可能エネ
とができる機能を備えた、災害に強いシステムを構築
ルギーを有効に利用するためには直流電力を交流に変
し、社会科学的手法を用いてシステム構築が完了する
換せず直流のまま使用することが必要である。
図 2.設置した LED と太陽光パネル・保育園舎
26
本研究テーマでは、DC48V の入力からノート PC の
次年度以降への課題
一般的な電圧である 16V、19V、またスマートフォン
次年度以降ではさらにもう一つエネルギー拠点を追
やタブレット端末の充電ができる 5V の出力を行える
加する。現在検討しているのは石巻市田代島である。
直流コンセントを研究開発する。また、このコンセン
田代島は東日本大震災により、送電用海底ケーブルが
トには非接触型の認証機能を設け、公共のエネルギー
壊滅的な打撃を受け不自由な生活を強いられた。この
拠点において誰がどのくらいの電力を利用したかとい
事例により公共施設に太陽光発電と蓄電池を一括管理
うデータを管理できるものとした。
する EMS の導入が必要と考えた。
この機能により、平時の公共施設での再生可能エネ
また、来年度からは上記の拠点追加に加えてモビリ
ルギー利用効率は格段に上がり、エネルギーの管理に
ティとの連携も図っていく。田代島は徒歩でも数時間
ついても簡単に行えるようになる。
で島を一周できる程度のサイズであり、EV 関連の実
証実験を行うには良い条件である。
具体的には、これまでの EMS による拠点のエネル
ギー情報 ( 発電量・蓄電残量・電力消費量 ) を EV 側
に通知、または EV 側の情報 ( 蓄電残量・GPS 情報 )
を EMS 側に通知することで、平時は最も自然エネル
ギーを有効利用可能な EV 充電スポットをドライバー
に通知し、非常時はエネルギーを必要とする拠点へ
EV が電気を届けるようなシステムを研究開発し、実
証を進めていく。
27
課 題 3-2
ヒューマンインターフェースとしてのアクティヴ・サイネージの研究
概 要
本課題では人とアクティヴ・サイネージの接触層であるヒューマン・インターフェースの最適なハード・ソフ
トウェア・デザインについて注目し、被災地復興支援においても関心が高まっているスマートコミュニティの
EMS 有用情報の表示:
「見える化」手法を主なターゲットとして研究・実証を進めている。
既往の「見える化」は、エネルギー需給制御の最適化装置として機能する情報端末の一面的イメージが強い。
しかし、ユーザーの多様化・個別化が進む今後の社会において、「見える化」技術は、単に新エネルギー需給シス
テムの有用情報端末ばかりではなく、多規範型の低炭素型社会において、これまでにない付加価値創成と生活様
式を誘引する教育啓蒙機能も潜在させている。エネルギーの利活用に関する先導的モデルが供給側からの一義的
な恩恵に留まらず、広く人々の暮らしに豊かさを与えるトリガーとなることは、我が国におけるエネルギー問題
の広義の発展的活用に資する課題と考える。本課題では、次世代エネルギーの多面的利活用を促進する上で、技
術リテラシーの格差によらないユニバーサル型の「見える化」手法を実体化するイノベーティブ・モデルの構築
を目指す。
担 当 者
実施内容
東北大学大学院 工学研究科
項目 1)実施プロジェクト
教 授 石田壽一
○‌東 北大学環境科学研究科蓄電池・機器制御ルーム‌
東北大学大学院 環境科学研究科
エネルギー情報コンテンツ制作
助 手 藤山真美子
東北大学大学院環境科学研究科研究棟/蓄電池・機
東北大学大学院 工学研究科
器制御ルームをフィールドとし、前年度のハード整備
助 手 井上宗則
に続くソフト整備としてサイネージコンテンツ制作を
行った。本設備は、地域のエネルギー情報を統合・発
信する被災地域のコアセンターでの「見える化」整備
を想定し、制作を進めてきた。コアセンターは、市町
村役場や NPO 団体など公的な組織による設置が想定
され、エネルギーを軸としたシビックプライドや将来
的な新産業の形成を促すものと考える。このような施
設では、リアルタイムモニタリング情報を数値として
表示する他、多様なエネルギーリテラシーを持った市
民に対し、広く興味の対象となりうるエネルギー広報
28
H24 年度
(2012)
H25 年度
(2013)
H26 年度
(2014)
H27 年度
(2015)
統合型サイネージの開発
統合型サイネージの
被災地への展開
蓄電池・機器制御ルームによるコアセンター版サイネージ開発
チャージ、スポットとの
リンクプログラム・
コンテンツ整備
統合型・分散型
サイネージの
分散型サイネージの開発
プロトタイプ化
東北大学キャンパス内に
おけるチャージスポット開発
ハード環境整備
H28 年度
(2016)
ソフト環境整備
チャージスポット A
整備
東北大学大学院環境科学研究科研究棟 ecollab(エ
コラボ)をフィールドとして、自然エネルギー利用を
広く一般に無料開放する屋外チャージスポットの制作
を課題 3-1 と連携して行い、同施設の太陽光発電エネ
チャージスポットの被災地への
複数展開
チャージスポット B 整備と
スポット A との連携ネットワーク化
先進事例調査と研究情報発信
エネルギーの
「見える化」
・被災地への実地展開に関するサンプリングリサーチ
SWWスマートウィークの展開(研究情報発信および専門家と被災地住民によるワークショップなど)
被災地への実地展開にあたっての現地リサーチ
ルギーの有効利用を前提とした低蓄電量時商用エネル
ギー連携型のチャージスポット設備を整備した。
課題 3-2 では、自然エネルギーの身近な利用促進を
目的とし、消費エネルギーのリアルタイム情報の見え
研究スケジュール
る化及び、充電口付きコラム設備の制作を行った。課
の役割が求められる。
題 3-1 では供給側の上位モニタリング(発電・消費の
本年度、多くの学外見学者が訪れた蓄電池・機器制
総量)を行い、課題 3-2 ではユーザーに近い下位情報
御ルームにおいて、昨年度制作したハード設備とデモ
モニタリング(消費の詳細な個別量 = 充電量・利用
画面を用い継続的な観察を行った結果、来訪者の興味
時間等)を実施した。供給・消費側の電力測定環境を
を引いたインターフェースやエネルギー情報への複数
並列整備することで、設置時の設備に固定化されがち
同時コンタクトを可能とする特異な操作性やコンテン
な従来のモニタリングに幅を持たせた。「見える化」
ツの在り方が必要な点が確認された。観察を元に、ア
サイネージについてもモニタリング環境の変化に合わ
ンビエント性の高いインターフェースを用いた情報発
せて簡易に更新出来るプログラム制作及びコンテンツ
信の在り方を検証し、より広く情報の認知度を高める
デザインを行った。充電コラムの設置個数を一定の範
「見える化」コンテンツの制作を行った。
囲で自由に拡張・縮小できる柔軟性の高いシステムの
実現と、汎用性の高い「見える化」サイネージの制作
○東北大学環境科学研究科 ecollab(エコラボ)
により、今後、被災地に広範かつ複数供給可能な簡易
屋外チャージスポット制作
設備の設置が期待される。
図 1.蓄電池室・機器制御ルームでのデモの様子 ( 右写真 ) とコンテンツイメージ検討案(左図)
29
図 2.屋外チャージスポットのイメージ検討案
項目 2)‌先進事例調査‌
「台湾におけるグリーンビルディング」
○訪問調査概要
台湾に総本部を置くデルタ電子は、スイッチング電
源装置で世界シェア首位の企業であり、近年、グリー
ンエネルギー事業に積極的に取り組んでいる。環境制
御の優れた要素技術を有する企業が、EMS「見える化」
を含むエネルギーシステムに関するトータルソリュー
ションをいかに構築しているかについて知見を得るこ
とを目的に訪問調査を行った。
○訪問調査結果
今回の調査対象である桃園 R&D センターは、台湾
における先端的なグリーンビルディングであり、太
陽光発電や雨水利用等、種々の要素技術が一元的に
BEMS 管理されている。ディスプレイ・ソリューショ
ンにより多様な測定データを社内で共有することで、
社員の省エネ行動を促進する効果が確認されている。
これはエネルギーの「見える化」が人の行動を含めた
低炭素化就労環境を誘引するトリガーであり、グリー
30
図 3.桃園 R&D センター(上段)とディスプレイ・ソリューション
項目 3)‌研究情報発信‌
「SWW・スマートワークウィークの開催」
ンビルディング性能を最大現に発揮するためには、情
○ SWW 概要
報可視化技術が重要であることが、具体的な実践の中
昨年度に引き続き、オランダ大使館との連携により、
で確認できた。
スマートシティをテーマに「スマートワークウィーク
(SWW)
」を 2 回開催した。共に、
東北大学を会場とし、
日蘭の専門家のよるパネルディスカッションやワーク
ショップを行った。
○ ‌SWW02:スマートシティ&スマート農業セミナー
(2013 年 6 月)
オランダでは、
温室が効率的農業施設ばかりでなく、
再生エネルギー生産施設として機能する等、EMS 情
報の見える化を含むスマートソリューションと先端農
業は関連性が深い。同セミナーでは日本側から東日本
大震災復興に向けたスマート農業の紹介、オランダ側
からアムステルダム市におけるスマートシティの取組
や都市型のスマート農業の事例紹介が行われた。その
後パネルディスカッションが行われ、先進的なオラン
ダ型スマート農業の日本への展開可能性が議論された
が、日蘭の農業形態の相違は、技術面ではなく、制度
面に起因するため、今後の日本におけるスマート農業
図 4.SWW03:プレゼンテーションとワークショップ
のあり方については、産学官が連携して包括的に検討
次年度以降の課題
すべき点が確認された。
311 以降、エネルギー問題をまちづくりの活性化に
連携する被災地気運が高まっている。エネルギー地産
○ ‌SWW03:スマートネットワークと東北復興‌
(2014 年 1 月)
地消やローカルグリッド構築等、エネルギー利用のボ
トムアップ型の取組みの周知や住民参加イベントによ
オランダ王国大使をはじめ、
アムステルダム・スマー
る理解度向上が、新サービスの創造と利用促進に寄与
トシティの主要メンバーを招聘し、東北復興関連の日
するため、次年度以降は、被災地で広範に展開可能な
本企業の参加により、
「スマートネットワークと東北
エネルギー「見える化」設備の汎用モデルを具体的に
復興」をテーマとしたワークショップを開催した。日
検討する。
蘭企業のプレゼンテーション後、オランダ側がテーブ
実施計画としては、本年度のチャージスポットと同
ルホストを務めるワールド・カフェ方式で意見交換を
様の設備を、新たに徒歩圏内に整備し、学内二カ所間
実施した。複数のテーブルでデータセンターの設置や
での情報共有のプログラム構築を行い、チャージス
オープンプラットフォームの構築等が提言され、多様
ポットのネットワーク化を実現する。また蓄電池・機
な取組を統合するインフラの重要性が確認された。ま
器制御ルームのコンテンツ整備に上記二カ所の情報を
た、スマート化を促進するインセンティブ付与が課題
リンクさせることで、ネットワーク化されたチャー
として挙げられた。ワークショップ総括の中で発せら
ジスポットの集中モニタリングのプログラム構築を行
れた “Smart is cool” は、今後のエネルギーの「見える
う。被災地展開を想定したエネルギースポットのネッ
化」のあり方に示唆を与えた。“Smart is cool” は、単
トワーク化及びコアセンターでの情報管理モデルの試
にイメージ形成だけではなく、スマート技術の導入・
行を通じて学内構築を終了し、一部被災地への試行設
活用がライフスタイルの変革を誘発し、更なるスマー
置を進める。先進事例調査や研究情報発信では、被災
ト化の促進につながるという正の循環を生む契機とし
地実装の展開と維持に関して具体的運用のノウハウを
て示され、スマートシティ実現及び持続性獲得におけ
構築する観点から実施を行う予定である。
る「見える化」の重要性を再確認した。
31
課 題 3-3
エネルギー & モビリティ統合インターフェースの研究開発
概 要
商用電力の提供が困難な時や場所に、機器が必要とする電力を提供するため、リチウムイオン電池を搭載して、
手軽に運搬可能な形態のインターフェースの実現を目指す。 直流、交流の複数の電源から充電でき、交流、直
流電力の多様な利用形態の機器に出力するために、配電デバイスと充電・配電・変換技術の開発を目指す。重要
課題は、入力電源と 2 次電池、2 次電池と出力機器とを効果的に結合する直流配電スイッチングデバイスの操作性・
信頼性の向上である。多様なデバイス・機器に出力するので、電力系統と制御系統の絶縁性は重要であり、磁気
回路で絶縁を実現している電磁リレー、ブレーカなどの機構デバイスを対象にしている。これら機構デバイスの
信頼性や操作性は、大電流遮断時のアーク放電への対策と電気接点金属の溶融による転移対策に依存する。遮断
時のアーク放電を抑止する過渡電流スイッチ回路を提案し、電磁リレー、ブレーカやヒューズなどを直流の高電
圧大電流 (300V/30A 程度 ) の配電に適用する技術を開発している。これらアークフリーな機構デバイスを用いて、
機器内外での配電経路におけるサージノイズの影響を低減したエネルギー & モビリティ統合インターフェースの
プロトタイプを試作した。交流 100/200V 電源と直流 300V 電源からリチウムイオン電池に充電し、交流 100V お
よび直流 300・12・5V 用の4種のコンセントを具備したインターフェースを試作した。プロトタイプ試作での実
証試験を通じて、市場で求められるインターフェースの利用形態や電力規模についての調査も行う。
担 当 者
実施内容
石巻専修大学 理工学部
エネルギー & モビリティ統合インターフェース
教 授 若月昇
(E&M インターフェース)の研究開発は、装置を構成
教 授 高津宣夫
する機構デバイス研究と、装置としての機能を統合す
教 授 安田隆
る技術の開発とからなる。本年度の実施内容は以下の
准 教 授 佐々木慶文
ような事項である。
准 教 授 水野純
【配電用デバイス研究開発】
直流配電用デバイスとして、複数の入力電源に対応
し、多様な汎用電力機器に対応するには、簡便で高信
頼のスイッチングデバイスで、所望の組み合わせを実
現することが求められる。そのためには、電源や機器
と、制御系の絶縁が必要で、電磁力で開閉する機構デ
バイスが有利である。しかし、従来の機構デバイスで
は電流遮断時に、接点電極間が狭ギャップとなりアー
ク放電が発生する。過渡電流スイッチ回路により、アー
32
H24 年度
(2012)
H25 年度
(2013)
H26 年度
(2014)
H27 年度
(2015)
H28 年度
(2016)
無アーク放電を実現した配電用スイッチングデバイスの
設計・試作および信頼性評価
直流高電圧
大電流の
実験環境の
整備
エネルギー & モビリティ統合インターフェースの設計・試作
インターフェースの操作性・信頼性確認
研究スケジュール
量 10 μ F の過渡電流スイッチ回路を適用したところ、
直流 400V30A の抵抗負荷回路の電流を無アーク放電
条件で遮断できた。モータなどの誘導性負荷に対して
は、外付けのコンデンサによって無アーク条件が実現
できることを確認した。なお、ラッチングタイプを使
うことによって、電磁石駆動回路は複雑になるが、配
電デバイスとしては、長時間のオン状態の持続が求め
られる場合には、大幅な省電力となる。E&M インター
ク放電を抑止できる回路条件があることをと明らかに
フェースのプロトタイプ試作に適用した。
し、昨年度は、300V30A の直流の高電圧大電流での
*アークフリー ブレーカ
動作を確認した。本年度は、接続機器の負荷条件を含
既存の交流用ブレーカを改造して、過渡電流スイッ
めた信頼性の検討に基づく試作と評価を行った。以下
チ回路を適用する検討と、上記の電磁リレーを 3 個
に、個別のデバイスについて実施した内容を述べる。
組み合わせてブレーカ機能を実現する検討を進めてい
*研究開発体制
る。電流検出と電磁リレー機能をマイコンで制御する
電力用機構デバイス開発では、信頼性の確保のため
ことになる。過大電流に対する対応は可能であること
に長年の経験の裏付けが不可欠である。宮城県山元町
は確認されたが、巨大な短絡電流への応答を確認する
に事業所のある(株)日幸電機製作所は、ブレーカ専
手段がない。以下に述べるヒューズとの組み合わせを
業メーカとしての実績がある。東日本大震災の被害か
検討し、E&M インターフェースのプロトタイプ試作
ら立ち直っており、機構デバイスの設計・試作および
に適用した。
評価について、
連携を密にして研究開発を進めている。
*アークフリー ヒューズ *アークフリー スイッチ(電磁リレー)
交流電流に対するヒューズは、電圧のゼロクロス点
交流 250V60A 仕様のラッチングリレーに、並列容
でアーク放電は消弧されるが、直流電流に対しては消
図1 溶断時のアークフリー特性を実現した DC ヒューズの電流電圧特性
33
プロトタイプの試作を行うための目標仕様を決定
し、実現技術の集約を図った。配電に用いる機構デバ
イスは石巻専修大学の構想を㈱日幸電機製作所が設
計・試作している。それらを踏まえて、機器としての
設計・製作は、宮城県石巻市の㈲尾張技研が担当して
図2 機構デバイスの信頼性と関わる接点電極の溶融痕と
アーク放電痕の観察
いる。東日本大震災の被災企業であるが、仮社屋で操
弧には特別な構造的な工夫が必要になる。これまで
自動車を製造している企業であり、E&Mインター
の電気接点の研究では、電流遮断時の電流電圧特性
フェースの試作に必要な技術を保有している。
を詳細に検討したところ、電流遮断の最終段階では、
*プロトタイプ試作のコンセプト
電気回路条件により電流が遮断することを確認した。
インターフェースの試作に当たっては、試作した
ヒューズでも同様の過渡電流スイッチ回路の適用に
アークフリーな機構デバイスの特長を生かし、以下の
よって、電流遮断時のアーク放電点弧を抑止できる。
内容をコンセプトとした。
交流用 30A 仕様の筒ヒューズに 20 μ F のコンデンサ
・商用電力の提供が困難な時や場所に、対象とする
によって実現した。図1にその電流遮断時の電流電圧
特性を示した。
*機構デバイス高信頼化ための電気接点溶融現象の
解明
機構デバイスの信頼性や寿命は、電流遮断時のアー
ク放電現象と電極金属の溶融現象(ブリッジ現象)で
決まる。
業を再開し、JR 東日本の新幹線トンネル用小型電気
汎用機器への必要最低限の電力提供。
・手 動 で 屋 内 外 の 運 搬 可 能 な 形 態 の イ ン タ ー
フェース
・直流、交流の複数の電源から蓄電し、交流、直流
電力を汎用コンセントによる機器への出力
・マ イコンとパソコンにより、電力利用のスマー
ト化
過渡電流スイッチ回路の適用により、両者を区別し
なお、本年度は、機能の確認試作であり、電力容
た実験が可能となった。電気接点の電流遮断後の電極
量や信頼性や操作性に関しては、次年度以降の課題
表面の精密な観察によって、電極溶融現象や初期アー
とした。
ク放電現象と電気回路条件の関係が明らかになりつつ
ある。図2に、クロスロッド電極による電気接点での
*試作内容
電流遮断後の表面写真例を示した。接触力による塑性
本年度の E&M インターフェース試作内容を以下に
変形、
溶融痕と初期アーク痕跡の顕微鏡写真を示した。
示した。
これらの研究成果の一部は、論文題目 “Equivalent
・入力電源:AC100/200V DC300V
Circuit Analysis for Transient Phenomena from Elastic
・出 力 コ ン セ ン ト の 種 類 と 数:DC300V × 1 口、
Contact to Breaking Contact through Metal Melting”
AC100V ×4口、DC12V ×4口、DC 5V ×4口
(The 59th IEEE HOLM CONFERENCE ON ELECTRIC
CONTACT Sep.2013 Newport, RI, USA) お よ び ・コントロール部:電流測定・電圧測定・経路切り
替え・システム稼働状況表示
“Suppression of Arc Ignition for a DC Current Fuse
・搭載蓄電池:リチウムイオン電池 3kW
Using a Transient Current Switched Circuit.”( 電 子 情
・形状:幅 65cm、奥行き 50cm、高さ 70cm。 報 通 信 学 会 Electromechanical Devices International
手押し台車型。 Session Nov.2013 Wuhan, China) として発表した。
搭載したアークフリー機構デバイス
・直流ブレーカ:1 台 ・電磁リレー:7台 ・直
【E & M インターフェースの研究開発】
*研究開発体制
34
流ヒューズ:10 個 プロトタイプ試作であり、電池充電、配電切り替え
スイッチング、供給電力モニタリングなど、基本的な
機能を確認した。
次年度以降への課題
今年度の試作したアークフリー機構デバイスおよび
E&M インターフェースは、直流 300V30A での安定し
た電流遮断・スイッチングの機能は実現できた。しか
し、簡易な操作・運搬を実現するには、形状や重量は
更なる小型・軽量化が必要である。そのためには、アー
ク放電を抑止した実験で明らかとなった新たな溶融現
象についての知見に基づき、機構デバイスとしての電
気接点の材料・構造の見直し、それに対応した開閉用
アクチュエータの検討が必要である。複数の電源と
汎用の機器に対応するためには、インターフェースと
しての安全な操作性と長期信頼性の確保が不可欠であ
る。そのためには、多様な機器の負荷条件に対応した
動作確認や、リチウムイオン電池の状態把握などの技
術が必要となる。さらに、プロトタイプ試作の実証実
験を通じて、対象とする市場で要求される仕様や実装
形態について調査する必要がある。
35
課 題 3-4
エネルギーモビリティマネジメントシステムの研究開発
概 要
災害に強く地域の持続ある発展を支えるため、これまで個別に管理されていたエネルギーとモビリティを統合
するマネジメントシステムの研究開発を行う。エネルギー・モビリティ統合マネジメントシステムに関わる課題
である交通状況の収集と渋滞を解消するための情報提供、それら情報を蓄積しデータベース化、情報の統合化処
理と可視化、情報提供に伴うドライバ行動の把握などを解決することで、平時にはエネルギーの最小化や高齢社
会にも対応したモビリティの最適化、災害時には人の命を守るための避難とエネルギー確保のためのモビリティ
など、平時と災害時の両方において社会的な効果が期待できる。これら遂行するにあたり、下記 3 つの研究課題
の取り組みにより実現していく。
1. エネルギー・モビリティ総合マネジメントシステム
2. 表現・情報提供システムの研究開発
3. 先進モビリティにおける人間行動解析システムの研究開発
担 当 者
36
東京大学 先進モビリティ研究センター
特任助教 藤原研人
教 授 須田義大
特任助教 呂敏
教 授 池内克史
特任助教 コウショウキ
教 授 大口敬
特任研究員 杉町敏之
客員教授 田中敏久
特任研究員 タン ジェフリー トゥ チュアン
准 教 授 鈴木高宏
特任研究員 佐藤啓宏
准 教 授 中野公彦
特任研究員 鎌倉真音
准 教 授 大石岳史
東北大学 未来科学技術共同研究センター
准 教 授 吉田秀範
教 授 長谷川史彦
特任准教授 小野晋太郎
教 授 桑原雅夫
助 教 平沢隆之
准 教 授 西澤真裕
助 教 影沢政隆
准 教 授 大野和則
特任助教 鄭仁成
准 教 授 山邉茂之
特任助教 林世彬
助 教 原祐輔
特任助教 鄭波
助 教 三谷卓摩
特任助教 岡本泰英
教 授 松木英敏
教 授 内山勝
するための情報提供等を行うモビリティマネジメント
教 授 出口光一郎
システムと、電気自動車(EV)によって消費される
教 授 田所論
充電消費電力をマネジメントするためのシステムを統
教 授 一ノ倉理
合したマネジメントシステムである。
教 授 青木孝文
都市圏レベルでの交通状況や電力消費状況を再現す
教 授 内田龍男
る EV 交通シミュレーションの開発では、各車両の充
教 授 小菅一弘
電行動を考慮した EV モジュールを追加することで、
技術専門職員 前田桂史
給電アドバイスの実施や給電ステーションの配置が与
H24 年度
(2012)
H25 年度
(2013)
H26 年度
(2014)
H27 年度
(2015)
H28 年度
(2016)
・DB
・ T Sの要 件 定 義・
エネルギーモビリ
ティマネジメントシ
ステムの開発
・DBの構築
・TSの開発(EV機
能)
・エネルギーモ
ビリティマネジメン
トシステムの開発
・TSの改良
・エネルギーモビリ
ティマネジメントシ
ステムの開発・整
備
・モデル地区での実
証試験
・社会実験の準備
・社会実験の実施
・移動型計測システ
ム設計。
フィールド
選定
・移動型計測システ
ム設計
・フィールド計測
・MRシステム試作
・エネルギーモビリ
ティマネジメントシ
ステムにおける可
視可技術開発
・MRシステム構築・
MRシステム試作
・Dエネルギーモビリ
ティマネジメントシ
ステムにおける可
視可技術開発
・表示コンテンツ制
作
・各システムの改良
・実運用検討
・他地域展開検討
・エネルギー・モビリ
ティ車 両 の 動 特
性計測・解析およ
びシミュレータの
策定
・エネルギー・モビリ
ティ車 両 の 動 特
性を実現可能なシ
ミュレータの構築
・ 人 間 行 動モデル
の開発およびエネ
ルギー・モビリティ
車両の評価実験
・ 試 行フィールドで
の適応性検証
・社会実験における
効果評価
える影響を解析が可能となった。これにより、仙台・
石巻都市圏を対象範囲とし、EV の普及率を1%に設
定した場合の交通状況を再現した結果を図 1 に示す。
この EV 交通シミュレーションでは EV 普及率や給
研究スケジュール
電ステーションの情報提供、給電ステーションの配置
等を変化させた施策シミュレーションが可能となって
いる。また、この EV 交通シミュレーションの再現性
向上のために、けいはんなエコシティ「次世代エネル
ギー・社会システム」実証プロジェクトで得られた長
期観測データから充電行動の分析を行った。長期間行
動分析によって、急速充電を利用する割合は高くなく、
実施内容
自宅や自宅周辺の施設での普通充電の割合が 7 割を
1.エネルギー・モビリティ総合マネジメントシステム
占めることが明らかとなった。さらに、充電行動に交
エネルギー・モビリティ統合マネジメントシステム
通行動を組み合わせて分析した結果、充電行動パター
とは、都市圏における交通状態を把握し、渋滞を解消
ンとして、
(1)夜間充電型、
(2)帰宅後充電型、(3)
図1.仙台・石巻都市圏の交通シミュレーション結果
37
図2.EV 利用者の充電行動パターン
路ネットワークデータを基本とする静的データと、リ
アルタイムに収集される EV の位置、SOC、加速度デー
タを基本とする動的データを定義し、スマートフォン
の GPS 機能を用いることで、秒単位の交通情報を収
集し、DB の構築を行った。管理画面では収集された
情報の簡易的な集計や可視化が可能となっている。
EV からの電力供給は緊急時電源としても効果的で
あるため、公道走行可能な1人乗り小型 EV コムスか
らの電力取出し方法を検討した。コムスが搭載する2
図 3.電力取出し装置
系統のバッテリーの内、容量の大きな駆動用バッテ
リー(72V、規格容量 5.3 kWh)に DC/AC インバーター
を接続し、家庭用電源と同じ 100V 交流の取出しに成
功した(図 3)
。接続したインバーターの最大出力が
3 kW であるため、満充電の状態では 1 時間以上にわ
たる供給が可能である。電気自動車のバッテリーから
より多くの電力を取り出すためには、走行時の電力消
費を抑制して高い電力残存率(残存充電率)を保つ必
要がある。このため、充電電力あたりの走行距離(電費:
km/kWh)を向上させる方法を検討した。駆動用バッ
テリーを鉛硫酸バッテリーからリチウムイオンバッ
テリーに換装することで、電費が 10.77 km/kWh から
22.41 km/kWh へと約2倍に向上した。
電気自動車への充電に関する実証実験に必要な機能
を検討し、物理的接続を要しないワイヤレス給電方式
図 4.ワイヤレス給電ステーション
38
と充電制御のための通信機能を電気自動車と給電ス
テーションに組み込んだ。実証走行車両に適合させ
トリップ後充電型に分類できることを示し、利用者の
た 1 kW、25 kHz 交流送電、最終出力 86.4 V 直流、10
充電パターンに応じたエネルギーマネジメント施策が
A で、高効率化のための自動位置合わせ機能付きワイ
必要であることが示された。図 2 に EV 利用者の充電
ヤレス給電ステーションを仙台市青葉山モデル地区に
行動パターン示す。
設置し、次年度以降の実証試験への準備を整えた。ま
静的・動的なデータを格納する DB の構築では、道
た、携帯端末や電流計測による交通情報の収集に加え、
図 5.公道で環境モニタリング可能な車両の開発
レーザ距離計や全周囲カメラを搭載した道路などの環
の適用候補となる地域を含む東北地方の被災地におい
境側の情報を収集する公道を走行可能な車両の開発を
て、被災・復興の状況を三次元形状および全方位映像
行った(図 5)
。
として記録した。2013 年 5 月および 2014 年 3 月には、
宮城県石巻市環状道路(国道 398 号~県道 240 号~
2.表現・情報提供システムの研究開発
県道 7 号)
、同市日和山、同市牧山、岩手県大槌町、
被災地などの都市空間モデルを構築するための車両
そのほか青森県八戸市から宮城県山元町にかけての太
として、三次元形状計測装置(レーザレンジセンサ)、
平洋岸に沿って、移動型三次元計測システム(初期型)
全方位カメラ、GPS を組み合わせた車載型の移動型計
(図 6)によりデータを取得した。レーザレンジセン
測システムを開発した。レーザレンジセンサと全方位
サは、初期は Velodyne HDL64e を、その後は更に高
カメラ間では、GPS 信号を用いたデータ取得の同期、
および相対位置姿勢関係の算出
(キャリブレーション)
を可能とした。GPS データ、三次元計測データのマッ
チング、全方位カメラ映像から算出したカメラ挙動
データを組み合わせてシステムの自己位置を推定する
アルゴリズムを開発して実験を行い、精度検証を行っ
ている。また、撮影時のカメラの振動補正、高速移動
時のフレーム補間を自動的に行うアルゴリズムも開
図 7.一般道を対象とした実画像合成
発した。エネルギーモビリティマネジメントシステム
図 6.移動型計測システム
図 8.移動型 MR システムの試作
39
精度な Z+F Imager 5010C を組み合わせて用いた。全
び HMI 評価のためのドライビングシミュレータ(DS)
方位カメラは PointGrey Ladybug3 を用いた。
の道路シナリオ作成に関する環境整備を行った。まず、
移動型計測システムにより計測するデータは、エネ
市販の CG 作成ソフトによる DS の3次元シナリオの
ルギーモビリティマネジメントシステムの一部とし
作成が可能な機能を整備した。次に、複雑な 3 次元
て、
仮想化都市空間としてドライビングシミュレータ、
シナリオを作成した場合、CG のデータ容量も大きく
および移動型 MR システムに活用する。移動型計測シ
なり、DS の CG のリアルタイム処理に悪影響を及ぼす。
ステムにより撮影される実写の全方位映像データを背
そのため、効率的なシナリオ作成に関する技術調査を
景、CG ツール等により作成される道路面や信号機な
実施するとともに図 9 に示すように実道路の 3 次元
どの地物を前景として重ね合わせ描画するシステムを
シナリオを作成し、その効果検証を実施した。最後に、
開発した。
これを実在の一般道のテストデータにより、
道路シナリオ上の交通信号機や他車両、歩行者などの
ドライビングシミュレータ上で動作することを確認し
オブジェクトの追加と制御に関する実装方法の技術調
た(図 7)。さらに、災害状況などを仮想的に提示す
査を実施した。また、DS 上で高精度な EV 車両の特
るための移動型 MR システムを試作した。MR とは、
性を再現するために、DS とモデル化した EV 車両の
表示装置を通じて CG と現実風景を合成して提示する
パワートレインの特性を組み込める環境を整備した。
技術であり、本システムはこれを車両上に積載し、移
EV 車両モデルの改良のため、より効果的にデータ計
動しながら提示するものである。本年度は、車載した
測が可能なように i-MiEV 車両に DSRC 車載器を搭載
全方位カメラ映像から取得した現実風景を、ゴーグル
した。
型ディスプレイおよびタブレットコンピュータ上に配
表現・情報提供システムの研究開発で開発された仮
信し、建物等の CG と合成できることを確認した(図
想化都市空間をシミュレータで稼働可能とする環境を
8)。
整備するために、1面で構成された定置型の DS を構
築して基本機能確認を実施した。
3.‌先進モビリティにおける人間行動解析システムの
研究開発
2013 年に東京で開催された ITS World Congress に
平時・災害時におけるエネルギー・モビリティマネ
て、本事業をパネル展示にて紹介した。
ジメントを実現するスマートグリッドの実現のために
は人間行動の解析が必要不可欠である。また、災害
次年度以降への課題
時の避難誘導を実現するためにはドライバ・アウェ
1.エネルギー・モビリティ総合マネジメントシステム
アネスを考慮したヒューマンマシンインターフェー
EV 交通シミュレーションの開発では、着手段階で
ス(HMI)の開発が必要となる。人間行動の解析およ
あることから、EV 普及率の向上、航続距離の延長等、
実映像
40
DS 映像(実車走行データから道路面を生成)
図 9.実コースの 3 次元道路シナリオの作成
エネルギー平準化に影響を与える要素をさらに組み込
んだ上で、EV 交通シミュレーションの精緻化を行い、
平時の省エネルギー化への貢献を定量的に明らかにす
るための施策シミュレーションを実施する。
モニタリングアプリの開発では、実証実験のフィー
ルドや車両構成に応じて、リアルタイムに活用可能な
交通情報システムの運用可能性について確認し、仙台
市青葉山モデル地区周辺での評価実験を実施すること
で、有用な交通情報や車両情報取得のための改良を行
う。
2.表現・情報提供システムの研究開発
移動型計測システムにより同地区の三次元形状・全
方位映像データを取得し、エネルギーモビリティマネ
ジメントシステム内で実時間に可視可できるようにす
る。津波などの表示についても検討し、平常時向け・
災害時向けの情報を切り替えて提示できるようにし
て、デモを行うとともに実運用への課題を抽出する。
3.‌先進モビリティにおける人間行動解析システムの
研究開発
本年度作成した DS 道路シナリオを用いた災害避難
時の人間行動の調査と分析、i-MiEV 車両の走行データ
を利用した EV 車両モデルの改良、モーションと連動
させた実画像合成の機能実装が課題である。
41
課 題 3-5(1)
EMS 制御バイオマスエネルギーシステムの研究開発
概 要
東日本大震災による被害は未だ甚大で、津波被害の大きかった沿岸地域のみならず、内陸部に対しても復興支
援が必要である。宮城県大崎市は豊富なバイオマスや有名な鳴子温泉など、再生可能エネルギーが豊富に存在す
る地域であり、災害時に備えて地域自立型のエネルギー安定供給システムが強く求められている。本課題では内
陸部における地域に密着した高効率的バイオマスエネルギーの産出を目指し、EMS 制御ハイブリッドメタン発酵
システムおよび、温泉熱を利用した小型・高効率のメタン発酵システムの開発を目指した。
まず EMS 制御ハイブリッドメタン発酵の開発では、牛ルーメン液の持つセルロース分解能に着目し、これまで
未利用であった草本木質系バイオマスからのエネルギー生産とその効率化を目指す。また鳴子温泉の温泉熱活用
メタン発酵システムの開発では温泉地を活用したエネルギー生産と省エネルギー化を目指し、温泉熱を利用した
小規模メタン発酵槽を用いて、旅館からでる生ゴミをエネルギー化することで、観光客参加型エネルギー生産に
よる地域経済の活性化を目指す。
担 当 者
実施内容
東北大学大学院 農学研究科
EMS 制御ハイブリッドメタン発酵システムの開発
教 授 中井裕
前年度はモデル物質として古紙を用いたルーメンメ
准 教 授 多田千佳
タン発酵システムの最適条件を評価した。その結果、
准 教 授 李玉友
6 時間のルーメン前処理によりメタン発酵が効率的に
研究支援者 鈴木崇司
進むことが示された。これらのルーメン液から DNA
東北大学大学院 環境科学研究科
を抽出し、PCR-DGGE 法を用いて微生物群集構造を
李哲揆
解析した結果、細菌群集は培養時間とともに変化し、
岩手大学 農学部
Prevotella 属や Clostridium 属といった細菌が繊維分
教 授 佐野宏明
解に関与していることが示唆された(図 1)
。そこで
准 教 授 佐藤繁
今年度は植物体としてナタネを基質としたルーメンメ
秋田県立大学 生物資源科学部
タン発酵を行い、その特性を調査した。その結果、紙
教 授 稲元民夫
の場合と同様に 6 時間の前処理によってメタン生成
助 教 志村洋一郎
量が増大することが示された。またルーメンメタン発
酵システムの分解特性を解明するために、ルーメン処
理中の繊維分解に関わる酵素活性の解析を行った。そ
の結果、植物体のセルロース分解には、ルーメン液中
42
H24 年度
(2012)
H25 年度
(2013)
H26 年度
(2014)
H27 年度
(2015)
H28 年度
(2016)
EMS ハイブリッドメタン発酵システムの草本系
バイオマス分解特性の把握と最適化
EMS ハイブリッドメタン
発酵システムの実証試験
EMS ハイブリッドメタン発酵システム内の
微生物叢解析と機能性植物の検討による最適化
実証プラント内の微生物叢解析と
機能性植物の実証試験
メン液内と他のメタン発酵タンクや温泉熱利用メタン
発酵槽の微生物群集構造をパイロシークエンス法を用
いて解析した結果、それらの組成は全く異なるもので
あり、牛ルーメン内では主に嫌気性の irmicutes 門が
温泉熱メタン
発酵の温度
特性の解明
温泉メタン発酵
システムの作成
と立ち上げ
温泉メタン発酵システムの実証試験と高効率化
研究スケジュール
様々な反応に関与しているものと思われた(図 3)。ま
たこの 16S rRNA を用いた解析でメタン生成菌が検出
されなかったことから、メタン生成菌は非常に少ない
量で存在し、メタン生成に関与していることが明らか
のエンドおよびエキソグルカナーゼが大きく関わって
になった。すなわち細菌とメタン生成菌とのバランス
いることが明らかになった。一方リグニンの分解特性
が効率のよいメタン生成を行う上で重要であることが
解析の結果、リグニンの非フェノールユニットはメタ
示唆された。以上より、植物体を用いたハイブリット
ン発酵のみでは分解されず、ルーメン液処理を組み合
ルーメンメタン発酵システムには様々な細菌や、そこ
わせることで分解されることがわかった。リグニンの
から分泌される酵素が関わっていることが明らかにな
非フェノールユニットは天然リグニンの 80 − 90%を
り、それらはルーメン前処理段階とメタン発酵段階で
占めることから、ルーメン液による処理はリグニン分
は大きく異なることが示された。
解に大きく寄与するものと考えられた。また脂肪分の
ルーメン液に薬理効果を持つハーブとして知られて
多い濃厚飼料を投与した場合、繊維の多い乾草を投与
いるニンニク葉部および粉砕ニンニク球根添加した結
した時に比べて pH が低下し、ルーメン液内の細菌群
果、ニンニク茎葉および粉砕ニンニク球根添加は人工
集構造が単純化することが示された(図 2)一方、ルー
ルーメン内メタン産生に影響を及ぼさないことが示さ
図 1.培養中の細菌群集構造の変化
図 2.乾草、濃厚飼料給与時の細菌群集構造の変化
図 3.16S rRNA 遺伝子を指標としたルーメン液およびメタン発酵槽内の細菌群集の門レベルでの比較
43
温泉熱を活用した EMS 制御小型・高効率メタン発酵
システムの開発
現地に作成した発酵槽の概要を図 5 に示す。発酵
槽は、容積 1400L の FRP 製の角型槽を用いた。発酵
槽の外側にシリコンチューブを巻き付け、廃湯を回収
したタンクで熱交換した温水を内部に循環させて加温
を行った。発酵後の液(消化液)は、消化液タンクに
貯留し、発生したガスは、脱硫タンクで硫化水素を除
去した後、1000L のガスバルーンに一時貯留した。さ
図 4.粗飼料の違いによるメタン生成料の変化
らに、バルーンから貯留タンクにガスを充填し、ガス
れた(図 4)
。
灯などのガス利用機器で使用可能な構造とした。廃湯
さらに現地におけるメタン発酵プラントの作成も行
温度は、降雨や降雪等の天候や外気温の低下による影
い、
本年度は 5m 規模のルーメン発酵槽 2 機とボイラー
響があり、変動が大きかった。廃湯温度の変動はその
等加温機器の作成を行った。現地調査の結果、メタン
他の温度への影響が大きいため、廃湯の回収場所の調
発酵のために用いる牛ふんは敷料由来の繊維質が多く、
整や天候に左右されない改善が必要となった。発酵槽
実際にプラントで使用すると機械やポンプに悪影響を
の温度は、若干の変動はあるものの、約 35℃で維持
与える可能性が考えられた。そこで敷料の変更および
できる傾向がみられた(表 1)。
牛ふんの加水を行う必要が有ることが示された。
種菌を 1.5g/L の生ごみを用いて馴養後、試作した
3
表 1.小型メタン発酵装置の各種フローにおける温度
発酵槽①
(℃)
発酵槽②
(℃)
循環水
(℃)
温水タンク
(℃)
廃湯
(℃)
外気
(℃)
33.9 ± 2.8
34.4 ± 2.7
37.8 ± 4.2
48.1 ± 4.1
59.0 ± 9.8
16.1 ± 6.8
図 5.小型メタン発酵装置のフロー
44
表2. メタン発酵装置の立ち上げ運転の結果
バイオ
ガス量
(L/d)
メタン量
メタン
収率
(%)
pH
T-VFA
NH4+
(L/d)
メタン
濃度
(%)
中和あり
(g/L)
(g/L)
323 ± 92
195 ± 52
57 ± 6
73 ± 16
6.9 ± 0.3
1.0 ± 0.5
0.4 ± 0.2
図 6.メタン発酵装置のメタンガス積算量
装置の立ち上げを行った。種菌約 500L を 3 回に分
要がある。そこで次世代シークエンサーといったハイス
けて投入後、基質としてグルコースと酢酸ナトリウ
ループットな機器を用いて、より詳細な微生物解析を行
ム(0.8 kgm d )を添加して HRT を 20 日に設定し
うことで、発酵特性の解明を行い最適化につなげる。ま
て運転を行った。運転開始後から 20 日程度でメタン
たルーメン内におけるメタン産生の促進作用や制御作
濃度の上昇がみられ、その後の経過 34 日程度でさら
用が期待される植物(飼料、栽培植物、野草等)をヒツ
に 60% 以上に上昇した。メタン濃度の上昇がみられ
ジあるいはウシに給与し、植物を用いたルーメン内メタ
た 20 日以降で平均すると、メタン濃度は約 57% で
ン産生の制御効果を明らかにする。加えてルーメン液へ
あった。メタンガス量もメタンガス濃度の推移と同様
の木質バイオマス添加実験によりセルロースや難分解
に、経過 20 日以降に安定し、ガス量も増加した(図
性物質の消化性などについて、菌叢変化を中心に検討す
6)
。安定した経過 20 日以降のバイオガス日発生量は、
る。また実規模の EMS 制御ハイブリッド型ルーメンメ
323L/d であった。この間の平均メタン収率は 73%で
タン発酵プラントの作成も引き続き行い、来年度中に現
あり、非常に高い値となった(表 2)
地でのメタン発酵プラントの一部稼働を目指す。
次年度以降への課題
温泉熱を活用した EMS 制御小型・高効率メタン発酵
EMS 制御ハイブリッドメタン発酵システムの開発
システムの開発
本年度の結果からハイブリッドメタン発酵システム
本年度の結果から小規模メタン発酵装置を用いた実
は植物体の分解に有用であり、様々な微生物や酵素の作
験では温度変動等の影響があったものの、メタン収率
用で効率的にメタン発酵が行われていることが明らか
約 73% という高い結果が得られた。また T-VFA やア
になった。来年度はより現場に則した実験を行うため、
ンモニアといった阻害物質の蓄積も見られず、良好な
EMS 制御モデル装置を用いて連続試験を行い、植物体
結果であった。今年度はメタン発酵槽の立ち上げのみ
分解およびメタン発酵特性の解明を行う。また本年度
の結果であったが、今後は生ごみの投入を開始し、投
の研究では植物体分解に関わる細菌は明らかになった。
入量を高めた運転を行いながらより高効率化したシス
しかし微生物の発酵能についてより詳しく解析する必
テム設計および運転条件の検討を行う予定である。
-3
-1
45
課 題 3-5(2)
EMS 制御複合型微細藻バイオマス生産システムの研究開発
概 要
有用微細藻大量培養システムを開発するために、基礎的な小容量(<0.25L)培養実験および培養装置(バイオ
リアクター)を試作して中容量(>30L)培養試験を行った。研究のねらいは、効率的培養法確立のために各種微
細藻の増殖特性を把握すること、及び大量生産システム確立のための技術的知見の集積である。そのために今年
度は主に以下の内容の実験を実施して成果を得た。
選択された有用微細藻はナンノクロロプシス(Nannochloropsis )属である。この中の 3 種(N. salina, N.
granulata, N. oceanica )を選びその増殖能の温度依存性を比較した結果、種間差はあるが好適水温帯は概ね 1525℃であった。天然環境下における培養の場合、低温(≦ 10℃)及び高温(>30℃)環境への対応が必要であるため、
低温耐性株(≦ 10℃)
、高温耐性株(>30℃)を作成するために突然変異誘導法による実験を行った。その結果、
低温、高温において高い増殖能は持たないが、減少しない耐性株を作成することに成功した。
一般に、小容量培養に用いられる培地は市販薬品を混合した人工培地であるが、高価であるため大量培養にお
ける採算性は良くない。そこで、食品工場廃液を再生処理して作成された培地を用いて培養適性試験を試みた結
果、人工培地と同等の増殖促進効果が確認された。
担 当 者
実施内容
石巻専修大学 理工学部
今年度に実施された研究内容は以下の通りである。
教 授 佐々木洋
①第 2 コンテナ実験棟、および内部に中容量培養器
准 教 授 太田尚志
(>30L のバイオリアクター型水槽)を設置して予備的
ポストドクター 真壁竜介
培養試験を開始する、②少量容器(<0.5L)を用いた
ポストドクター 臼井利典
各種の培養実験により有用微細藻類を選定し、その増
殖特性を把握する、③有用株を用いて突然変異誘導法
による低温耐性株、高温耐性株を作成する、④食品工
場の廃液を再生処理して培養液を作成し、その適用性
を確認する、ことである。
①石 巻専修大学キャンパス内に、昨年度設置された
第 1 コンテナ実験棟(小容量培養実験用)に併設
して第 2 コンテナ実験棟を設置した(図 1)。内部
には複数のバイオリアクター型培養水槽(容量約
46
H24 年度
(2012)
H25 年度
(2013)
H26 年度
(2014)
コンテナ実験棟
の設置
H27 年度
(2015)
H28 年度
(2016)
コンテナ実験棟の整備、使用
基礎培養実験、
耐性株作成試験
バイオリアクターの
試作、改良、予備培養試験
温度耐性株を用いて
廃液処理水利用培養
システムによるバイ
廃液処理水を用いた オリアクターの試験
的運用
培養試験
バイオリアクターに
よる大量培養試験
培養微細藻生産物の抽出分離法の検討
培養生産物残渣の再利用試験、燃焼法の検討、中規模培養
研究スケジュール
40L、図 2)を複数個設置して中容量の培養試験を
開始した。使用した微細藻はナンノクロロプシス
(Nannochloropsis )であるが、
好適水温条件下(1525℃)においては、継続的に栄養分を添加すると約
2 週間経過後に細胞密度はほぼ最大(108 cells ml-1)
に達する。
図 2.‌容量約 40L のバイオリアクター型培養水槽。左の 3
本は培養開始直後、右の 1 本は培養開始から約 10 日
後の状態。適温下(15-25℃)においては約 2 週間後
に、細胞密度は最大で約 108 cells ml-1 に達する。
ため、自然条件の変動を考慮した培養においては、
②少 量容器(25mL から 250mL)を用いて、ナンノ
人工的に水温を制御するか、あるいは冬季の低温耐
クロロプシス 3 種(サリナ:N. salina 、グラニュラー
性株、及び夏季の高温耐性株の使用が必要であるこ
タ:N. granulata 、オセアニカ:N. oceanica )の増
とが示唆された。
殖速度の温度依存性を調べた(図 3)
。3 種ともに
広範囲な水温帯で増殖可能な種類であることが確認
③低温及び高温耐性株を作成するために突然変異誘導
された。増殖に好適な水温は 15-25℃であるが、高
試薬として EMS(メタンスルホン酸エチル)を使
温にやや強い種はサリナ、オセアニカ、低温に強い
用した。適切な濃度の EMS で処理したナンノクロ
種がグラニュラータ、全温度域において平均的増殖
ロプシスを 1 × 104 cells ml-1 となるように f/2-Si 培
能を有する種がサリナであることが分かった。サリ
地(人工培地 f/2 から Si を除去)を含む細胞培養フ
ナは最高到達密度も高く、汎用的有望種である。す
ラスコに分注し、低温下(10℃)及び高温下(30℃
べての種類が≦ 10℃、および >30℃においては増
~ 35℃)で約 2 週間培養を行う。その後、低温及
殖能が低下することは明らかである。石巻市周辺に
び高温耐性株の単離を行うために、f/2-Si 寒天培地
おいては冬季には≦ 10℃、夏季には >30℃になる
上に細胞をひろげ、再び 2 週間培養を行う。耐性
図 1.石巻専修大学キャンパスに設置されたコンテナ実験棟。透明ガラス戸の内側に複数の円柱型バイオリアクター培養水槽が設置されている。
47
ないが、低温における増殖速
度(指数増殖期間の日間分裂
速度の平均値)は野生株が 0.27
であるのに対して、優良な変
異株は 0.34 ~ 0.53 であった。
また高温においては野生株が
-0.03 と減少するが、優良変異
株は 0.08 ~ 0.13 であった(表
1)
。優良株は培養水温を適水
温に回復させると増殖能も復
活することが確認された。こ
れらは冬季の低温期、夏季の
図 3.‌ナンノクロロプシス 3 種(サリナ:Ns、グラニュラータ:Ng、オセアニカ:No、 高温期の培養に使用可能であ
の増殖速度(日間分裂速度)の温度依存性。低温に強い種はグラニュラータ、高温
にやや強い種はオセアニカ、サリナ、全温度域においてサリナは平均的増殖能があ る。
る。≦ 10℃、および >30℃においては増殖能が低下するため自然条件下における培
養には不適。増殖速度μ =0.69 は 1 日に 1 分裂に相当する。
④通常、小容量培養に用いら
れる培地は市販薬品の栄養塩
類(リン酸、硝酸など)を混
合 し た 人 工 強 化 培 地(f/2 な
ど)であるが、大容量培養(数
10L ~数 t)に拡大する場合に
は、高価な薬品の使用は採算
性において不利である。代替
品として水産食品工場の廃液
を処理した人工培地の適性を
検討した。食品工場廃液は有
機物が豊富であるため、それ
図 4.‌ナンノクロロプシスの 1 種(サリナ:Ns)において、人工培地(f/2)を使用して
増殖させた場合の増殖曲線(◆)と廃液処理水(原液を 1/10 に希釈)を使用した
場合の増殖曲線(■)の比較した。両者の増殖曲線がほぼ重複しており、両培地の
増殖促進効果はほとんど変わらないことを示している。
48
らの分解を促進させ、栄養塩
を再生処理できれば培地とし
て有望であるからである。
地元石巻の食品工場から提
株が出現すると、
培養期間後にコロニーが出現する。
供された廃液(薬品類無添加の水産物洗浄水)を用い
コロニー形成株をさらに液体培地で培養して増殖さ
て、200L 水槽に貯留し通気法(マイクロバブル通気)
せた。増殖が確認されたコロニーが耐性株である。
により数日から数週間処理した。通気処理により廃液
実験の結果、サリナの野生株では低温(10℃)お
中の粒状有機物の 90%以上が分解され無機栄養塩に
よび高温(35℃)環境下において、増殖が停滞また
変換されることが確認された。処理水を用いて 3 種
は減少するのに対して、突然変異株においては両環境
のナンノクロロプシスの培養を試みた結果、処理水原
下において緩やかに増殖する株が作成された。複数の
液を 1/10 程度に希釈(栄養塩濃度は f/2 培地とほぼ
変異株間の増殖能に変動はある。それらは適水温帯
同じレベル)して使用すると、人工培地(f/2)と遜
(15℃~ 25℃)における野生株の増殖速度ほど高くは
色のない増殖促進効果が確認された(図 4)
。食品工
場廃液は適切な処理を加
えることにより培養液と
しての使用可能であるこ
とが分かった。
【研究成果報告:原著論文】
1.‌太 田 尚 志、 平 岡 正 明、
佐々木洋、原芳通、
(印
刷中)
、有用海産微細藻
類 Nannochloropsis の
大量培養法に関する基
礎研究Ⅰ、―増殖特性
―、石巻専修大学紀要。
表1.ナンノクロロプシス(N. salina )を用いて作成した優良な低温耐性株、および高温耐性
株の平均増殖速度(5 ~ 8 日間の指数増殖期における日間分裂速度の平均値)と最大増殖速
度(日間分裂速度の最大値)。増殖速度μ =0.69 は 1 日に 1 分裂に相当する。
2.‌佐 々 木 洋、 平 岡 正 明、
太田尚志、真壁竜介、臼井利典、
(印刷中)、有用
ト状に濃縮される。これらを使用して、主に亜臨界
海産微細藻類 Nannochloropsis の大量培養法に関
水分離法(高温、高圧力下における分離)による脂
する基礎研究Ⅱ、―屋外培養の試み―、石巻専修
質画分の分離・抽出を試みる。また他の残渣画分(液
大学紀要。
体画分と固体画分)は再利用処理に使用する予定で
【研究成果報告:学会発表】
ある。液体画分は、培地として再利用が可能かどう
1.‌真壁竜介、臼井利典、太田尚志、佐々木洋、
(2013)、
かについて水質成分を分析し検討の後、栄養塩再生
海産微細藻類 Nannochloropsis 3 種の増殖特性、
処理に使用する。また固体画分は、メタン発酵法に
H25 年度日本プランクトン学会秋季大会、仙台。
よりメタンガス生産を試験的に試みる。メタン発酵
2.‌臼井利典、真壁竜介、太田尚志、佐々木洋、
(2013)、
実験は、本プロジェクト課題 3-5 担当の中井教授、
海産微細藻類 Nannochloropsis 高機能株作成の試
多田准教授(東北大院農・川渡センター)の協力を
み、
H25 年度日本プランクトン学会秋季大会、仙台。
得る予定である。
次年度以降への課題
次年度以降(特に平成 26 年度)に実施を予定して
いる研究項目は以下の通りである。
① H25 年度までに得られた実験結果をもとに、複数
のバイオリアクターを用いた大容量(>100L)の培
養試験を実施する。使用する株は低温期においては
低温耐性株、高温期においては高温耐性株である。
二つの温度耐性株の組み合わせにより 1 年を通し
た培養効率の最適化を検討する。さらに、培地とし
て食品工場廃液処理水を使用する予定である。しか
し廃液処理水は季節により栄養塩組成が一定ではな
いため、培養液の調整においては改良の余地が残さ
れているため、今後の研究課題である。
②培養により得られた生産物は、遠心機によりペース
49
課 題 3-6
EMS 制御地中熱エネルギーシステムの研究開発
概 要
地中熱利用ヒートポンプシステムは、地中を熱源として熱交換を行うことで、省エネルギーを実現するシステ
ムである。図のように、本システムは熱交換を行うための井(熱交換井)と、ヒートポンプ、熱供給を行うため
の装置(本研究では、室内に設置したファンコイル)で構成される。
(図 1)このシステムの特徴としては、(大
気を熱源としているシステムに比較して)システムが高効率(熱源の温度がほぼ一定)であること、ヒートアイ
ランド現象に代表される環境影響が小さいということがあげられる。
しかしながら、熱交換を行うための井戸(熱交換井)を掘削する必要があるため、それが導入コストを押し上
げる原因となっており、いかにこのコストを下げるかが本システムの課題となっている。本研究グループでは、
仙台市の青葉山において既に高効率熱交換井を施工・運用しているが、これらはその地域の地質・地下水に大き
く影響されるため、他地域での導入には十分な実証が必要である。
そのため、実証サイトを石巻市の高台(図 2)に設置し、その稼働実績から、石巻地域において本システムの設
置可能性を探るものである。
地中熱利用ヒートポンプ(暖房時)
電気によって、ヒートポンプを稼働します。それにより、地中から熱を取り室内
へ供給します。
屋内機
GHP
(Geothermal heat pump)
※室内設置も可
地下
冷房期に蓄熱。暖房機にその熱を利用することも可能(蓄熱)
実施内容
平成 25 年度は、昨年度設置した地中熱利用ヒー
トポンプシステムの運用を開始した。本システムは、
①地中へ熱交換用の配管を埋設し、その中に循環流体
(不凍液)を回し、その循環流体をヒートポンプで熱
交換する方式(以下、ブライン方式)
②地中へ銅管
を埋設し、その中に冷媒ガスを入れ、直接地中と熱交
熱交換井(30~40W/mの深さが必要)
図1.地中熱利用ヒートポンプ(暖房時)
換を行う方式(以下、直膨方式)の 2 とおりの方法
で稼働している。このヒートポンプで熱交換した交互
担 当 者
または同時に稼働させることで、地中への影響を取得
東北大学 未来科学技術共同研究センター
することが出来る。
教 授 長谷川史彦
また、これらの地下影響のモニタリングシステムと
技術専門職員 前田桂史
して、各部に温度センサを設置している。①地中との
東北大学大学院 工学研究科
熱交換を行うための熱交換井(25m、50m の深さの
教 授 新堀雄一
井戸 合計 6 本)に 10m 毎の温度変化 ②熱を運ぶため
の循環流体の温度を測定するために、配管の各部の温
50
H24 年度
(2012)
地中熱利用
ヒートポンプ
システムの設置
H25 年度
(2013)
H26 年度
(2014)
H27 年度
(2015)
H28 年度
(2016)
地中熱利用ヒートポンプシステムの稼働データ収集
定している。8 月末頃の温度上昇については、夏の冷
房による地下への廃熱が蓄熱され、やや温度影響とし
てあらわれたものと考えられる。しかしながら、冷房
期~暖房期の中間期(システム停止時期)においては
温度が回復している事が分かる。
直膨方式については、やや温度が上下していると
ころであるが、これはブライン方式に比較して熱負
研究スケジュール
荷が大きい(室内への熱出力が大きい)のが原因で
度変化・流量 ③部屋、外気の温度を 1 分毎に記録し
ており、それをデータベースシステムに収納すること
で、随時必要なデータとして出力が可能にしている。
遠隔地からの瞬時データの確認および、制御(スケ
ジュール制御も可能)を行う事が可能となっており、
試験内容に応じた発停が可能になっている。この遠隔
制御にあわせて、現地での配管切り替えを行う事で、
様々な試験環境を実現し、地下に与える負荷がどのよ
図 2.石巻実証サイト
うな現象として現れるかを確認する。
ポンプ方式(ブライン方式、全直膨方式)と接続して
いる熱交換井(25m × 2、50m × 1)を週替わりで
切り替え、その制御・熱交換井の違いが、どのような
影響を及ぼすかを確認した。
まず、本システムを稼働させた時期の室内のファン
コイルからの吹き出し温度と室温の関係は図 3 のと
おりである。冷房期の吹出し温度は 10 ~ 15℃、暖房
期の吹出温度は 35 ~ 40℃と、空調機として一般的な
温度帯での制御を行っている。なお、空調設備として
みた場合には、建屋に必要な冷暖房能力は全く満たし
22
20
熱応答試験の影響
ブライン方式
18
no1_10m
16
no1_25m
no2_30m
14
no2_50m
12
no3_10m
no3_20m
10
2013/4/7 21:00
2013/4/14 21:00
2013/4/21 21:00
2013/4/28 21:00
2013/5/5 21:00
2013/5/12 21:00
2013/5/19 21:00
2013/5/26 21:00
2013/6/2 21:00
2013/6/9 21:00
2013/6/16 21:00
2013/6/23 21:00
2013/6/30 21:00
2013/7/7 21:00
2013/7/14 21:00
2013/7/21 21:00
2013/7/28 21:00
2013/8/4 21:00
2013/8/11 21:00
2013/8/18 21:00
2013/8/25 21:00
2013/9/1 21:00
2013/9/8 21:00
2013/9/15 21:00
2013/9/22 21:00
2013/9/29 21:00
2013/10/6 21:00
2013/10/13 21:00
2013/10/20 21:00
2013/10/27 21:00
2013/11/3 21:00
2013/11/17 21:00
2013/11/24 21:00
2013/12/1 21:00
2013/12/8 21:00
2013/12/15 21:00
2013/12/22 21:00
2013/12/29 21:00
2014/1/12 21:00
2014/1/26 21:00
本年度は冷房期・暖房期の期間中、2 種類のヒート
直膨方式
19
18
17
16
15
no4_10m
14
no4_25m
13
no5_30m
ておらず、常に全開状態(過負荷状態)で運用してい
12
る。そのため、やや効率は悪い傾向がある(後述)
10
no5_50m
no6_10m
11
no6_20m
このような利用を行いながら、地中の環境に与える
影響を確認した。本システムは、
基本的に週末
(土・日)
は停止しているが、その停止期間の温度(熱交換井の
図4.地中熱利用ヒートポンプシステム(ブライン)停止時の地中温度推移
図 3.吹出し温度
温度)が熱交換井の温度であるとしてデータを抽出し
あると考えられる。また、熱交換井の温度変化を見
た。図 4 は、本システムが停止している期間のある
ても、50m 井は、25m × 2 に比較して温度が安定し
1 時間(週末 日曜日の 21:00 ~ 22:00)の地中温
て推移している。これは、地上 10m 付近は大気の温
度の平均である。
度が影響して、実質的に熱交換を行う事が出来る深さ
このグラフからも分かるように、ブライン方式につ
が 10m 以深出有ることによる影響(25m × 2 の井戸
いては、ピーク負荷 8 月末頃を除けば、熱源としての
は実質 15m × 2、50m × 1 の井戸は 40m × 1)や、
地中温度は極端に上下すること無く(13℃前後)安
25m 付近から変化してくると考えられる地質・地下
51
2013/4/7 21:00
2013/4/14 21:00
2013/4/21 21:00
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2013/9/1 21:00
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2013/10/6 21:00
2013/10/13 21:00
2013/10/20 21:00
2013/10/27 21:00
2013/11/3 21:00
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2013/12/1 21:00
2013/12/8 21:00
2013/12/15 21:00
2013/12/22 21:00
2013/12/29 21:00
2014/1/12 21:00
2014/1/26 21:00
20
-0.5
-1
52
2013/12/2 11:00
2013/12/3 7:00
2013/12/4 3:00
2013/12/4 23:00
2013/12/5 19:00
2013/12/6 15:00
2013/12/7 11:00
2013/12/8 7:00
2013/12/9 3:00
2013/12/9 23:00
2013/12/10 19:00
2013/12/11 15:00
2013/12/12 11:00
2013/12/13 7:00
2013/12/14 3:00
2013/12/14 23:00
2013/12/15 19:00
2013/12/16 15:00
2013/12/17 11:00
2013/12/18 7:00
2013/12/19 3:00
2013/12/19 23:00
2013/12/20 19:00
2013/12/21 15:00
2013/12/22 11:00
2013/12/23 7:00
2013/12/24 3:00
2013/12/24 23:00
2013/12/25 19:00
2013/12/26 15:00
2013/12/27 11:00
2013/12/28 7:00
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2013/12/30 19:00
2013/12/31 15:00
2014/1/1 11:00
2014/1/2 7:00
2014/1/3 3:00
2014/1/3 23:00
2014/1/4 19:00
2014/1/5 15:00
2014/1/6 11:00
2014/1/7 7:00
2014/1/8 3:00
2014/1/8 23:00
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22
ブライン方式
熱応答試験の影響
18
16
14
no1_10m
no1_25m
no2_30m
12
no2_50m
no3_10m
10
no3_20m
直膨方式
19
18
17
16
15
no4_10m
14
no4_25m
13
12
no5_30m
11
図 5.COP
no5_50m
no6_10m
10
no6_20m
図4.地中熱利用ヒートポンプシステム(ブライン)停止時の地中温度推移
図 4.‌地中熱利用ヒートポンプシステム(ブライン)停止
時の地中温度推移
本年度は、冷房期と暖房期の 2 ヶ月弱のデータの
みの短期的なデータ収集にとどまっている。これから
長期的にシステムを運用していくことで、年単位での
温度変化がどうなっていくか、また、これら温度変化
が今後のシステム効率に影響するか等をモニタリング
していくことが必要である。
システム稼働時の温度等のモニタリングの他、10
月には熱応答試験(サーマルレスポンステスト)も行っ
た。この試験は、加熱した温水を強制的に熱交換井の
チューブに流し、この温水が与える熱負荷が、地下温
度にどのように反映されるかを記録・詳細な解析を行
うことで深度別の地下情報を得られるものである。対
象となる熱交換井は、ブライン方式で利用している
50m 井であり、平均加熱量 3.16kW(流量 21.4L/min)
で 71 時間加熱した。また、10 月 20 日~ 21 日には
大雨により熱交換井内に降雨影響が出た(この部分は
水による影響が反映されたものと考えられる。
解析には利用しない)加熱時の作図法による解析、温
暖房期について、2 ~ 3 月のデータ収集がまだであ
度回復時データによる解析により、この熱交換井では、
るため、詳細なデータ解析には至っていないが、12
熱抵抗 0.096[K/(W/m)]、みかけの熱伝導率 2.71[W/
~ 1 月の 2 ヶ月間は、ブライン方式のシステム効率
(m・K)] という情報が得られた。これらの値は、一
(COP)は安定して推移している(図 5)
。なお、COP
般値に比較して、熱抵抗についてはやや高く、熱伝導
(Coefficient Of Performance)とは、冷暖房能力を消
率についても高い値となった。
費電力で割ったものであり、効率を表す係数として使
熱抵抗がやや大きい事については、透水性のある充
われるもので、この係数が大きいほど効率が良い。先
填剤を入れていることにより、自然水位より上の部分
述のとおり、本実証サイトでは、冷暖房能力が不足
の空隙が影響しているものと考えられ、また、熱伝導
しており、常に過負荷状態で使っている状況のため
率が大きい事については、地下水流れが熱伝導に寄与
COP は悪くなる傾向がある傾向がある。
しているということが考えられる。これらは、本シス
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
テムの特徴である地下水流れを積極的に利用するため
の熱交換井の構造による特徴と考えられる。
実証試験場所
深度別の熱伝導率の解析結果により、地下の地質や
(ログハウス)
帯水層といった情報についても、知見を得ることが出
0m
来た(図 6)これらの情報により、水の流れ方向を推
風化帯
10m
測する事が出来るようになり、また、これがどのよう
湧水による池
地下水位
な効果をもたらすかモデル化を行うために重要な情報
20m
となり得る。
帯水層
熱応答試験については、昨年度(2 月 15 日~ 2 月
30m
28 日)
も同地点で行った。今年度行った熱応答試験は、
粘板岩・
砂岩の互層
(古生層)
平成 25 年台風 26 号通過後の 10 月 17 日から開始(10
月 17 日~ 24 日)しており、降雨量・地下水移流の
帯水層
河川 or 海水面と予想される場所
効果が熱伝導に与える影響がどの程度のものなのかを
比較する事が出来た(図 7)
。地下水影響を多く受け
50m
図 6.実証サイト付近の地下水の流れ
ていると考えられる、深度 25m 付近、深度 43m 以深
さでは、前年度と比較して 2 倍以上の熱伝導率を示
している。
地下水の流れが、井戸の性能評価の一つとなると考
えられるため、その地下水流れに影響するであろう水
はけの評価(透水性評価)を行う必要があり、年度内
に石巻実証サイトと、青葉山にある熱交換井とで比較
40m
0
2
みかけの熱伝導率[W/(m・K)]
4
6
8
10
0m
降雨の影響を強く
受けていると考えられる区間
10m
20m
30m
40m
地下水移流による
熱伝導率の変化
評価を行う予定である。
50m
2013年10月の推定結果
次年度以降への課題
今年度は、熱応答試験などで、この実証サイトの基
本的な情報は得られた。さらに追試験等を行い、これ
2013年2月の推定結果
60m
2013年2月と10月での熱伝導率の推定結果比較
(推定した放熱量を使用した場合)
図 地下水移流による熱伝導率の変化
7.地下水移流による熱伝導率の変化
図7
らの情報の確度を高める必要がある。ブライン方式の
システムは、前述のとおり、室内のファンコイル側
の出力が不足しているため、熱負荷試験のための負
荷が低くなっている。これを増強することにより、過
負荷状態の熱交換井の温度変化などを確認する必要が
ある。また、本システムを長期的に運用した場合の地
中に与える温度変化等の影響を継続的に収集すること
で、長期的にシステムの安定運用が可能かどうかと
いった検討を行う。
また、現在は一般的な空調利用を想定したデータを
とっているが、それ以外の条件(農業など)にも利用
可能かどうか、様々なパターンでのデータ取得が必要
であると考えている。
53
課 題 3-7
EMS 制御温泉熱利用バイナリー発電エネルギー活用システムの研究開発
概 要
宮城県大崎市鳴子温泉地区において、井戸元の源泉温度から、入浴に適した 42℃までの温度差分の熱エネルギー
をまず発電に用い、さらに熱や落差を利用しカスケード利用を行って付加価値の高い農産品の生産や加工食品の
製造にも利用することで温泉の魅力を損なうことなく鳴子温泉の対外的な発信力を強化し地域の活力を高めよう
とするものである。
一方で、このようなエネルギー生産システムは、非常時には被災時のエネルギー不足といった課題の解決策の
一つとして再生可能エネルギーを中心とした、人・車等のモビリティ(移動体)の視点を加えた地域の総合的な
エネルギー管理システムを構築するために有効利用できる。
そこで、源泉からの温泉水と熱媒体との熱交換で発電機の駆動力とするバイナリー発電方式での開発を行う。
同時に、本研究では最終的にいくつかの方法で生成された再生可能エネルギーを EMS で制御/管理し、利用先に
供給するシステムに統合することを目的とし、下記の 3 つの項目について研究を進める。
①温泉熱マイクロ発電システムを中心としたエネルギー供給系の構築に関する研究
②エネルギー供給多様性システム開発
③ EMS 制御温泉エネルギーカスケード利用研究開発
25 年度は主に、24 年度に制作したバイナリー発電システム実証試験機を実用レベルで利用するため検討を行っ
た。②③については、EV 充電システム設置とマイクロ水力発電システムの試験機製作と現場試験を行った。
担当者
実施内容
東北大学 多元物質科学研究所
①温泉熱発電システムを中心としたエネルギー供給系
教 授 村松淳司
の構築に関する研究
東北大学大学院 環境科学研究科
バイナリー発電システムは、アンモニア・水混合媒
特任教授 霜山忠男
体によるランキンサイクル式熱機関を採用する。アン
准 教 授 木下睦
モニア・水混合物からなる熱媒体は、有機ランキンサ
助 手 三ケ田伸也
イルでよく用いられる代替フロン低沸点溶媒に比べ地
助 手 物部朋子
球温暖化係数が低くオゾン層破壊にも寄与しないので
研究支援者 篠原章太朗
地球環境保全の面からも優れている。アンモニア・水
混合媒体によるランキンサイクルを採用することを前
提に宮城県大崎市鳴子温泉の㈱鳴子らどん温泉殿が所
有する温泉井 G1 号、G2 号、G3 号から湧出する温泉
54
H24 年度
(2012)
H25 年度
(2013)
H26 年度
(2014)
バイナリー発電実証機の設計製作 スケール抑制等
温泉熱利用周辺
技術の開発
太陽電池パネル
設置
EV 充電器設置
マイク水力発電
試験機の設計
マイク水力発電
試験機の製作
および発電試験
H27 年度
(2015)
H28 年度
(2016)
バイナリー発電の移設・統合
全体システムの統合と EMS 制御
並びに見える化
スマートアグリシステムの
設計製作
全体システムの
運用方法検討
研究スケジュール
熱水を熱源として小型バイナリー発電システムを検討
した。
本試験で利用する温泉井から湧出する温泉熱水は、
図 1.‌バイナリ発電ユニット(アンモニア - 水混合ランキンサ
イクルユニット、蒸発器、復水タンク、凝縮器等)
井戸の坑口で 100℃以上の温度があり、大気圧に開放
すると部分的にフラッシュして水蒸気となるため、本
研究では、フラッシュセパレータによる熱水部分の分
離利用と、ある程度圧力を保った熱水のまま熱交換器
に導入して温泉井 1 本の湧出量の下限でも約 120kW
の交換熱量が得られることがわかった。
発電ユニットの概観を図 3-7-1 に、源泉からの温水
供給配管系の外観を図 3-7-2 に示す。
また、本装置では、アンモニア循環系統の配管およ
び熱交換器上部にアンモニア検知センサーを配置し、
図 2.源泉からの温水供給系の集合配管
万が一の漏えいの際には、スプリンクラーで散水して
吸収し、飛散を防止することが可能である。
②エネルギー供給多様性システム開発
温泉からの湧水による発電形態では、常時一定の発
電量となることが予想される。そこで、様々な形態の
発電システムと組み合わせ、エネルギー供給の最適化
を図るための多様化の検討を行うことと、将来的に、
図 3.エネルギーパーク ( 仮称)構築イメージ
これらを統合したエネルギーシステムを体験型エネル
ギーパーク(仮称)とする設備、システムの構築を行
う。パークの全体イメージを図 3-7-3 に示す。
24 年度に設置した太陽光パネルと合わせて利用可能
な EV(電気自動車)充電装置を図 3-7-4 に示すよう
に太陽電池パネルの制御装置及びバッテリーを格納し
たコンテナに隣接して設置した。
③ EMS 制御温泉エネルギーカスケード利用研究開発
バイナリー発電の 1 次排水でも、まだ温度は浴用
図 4 EV 充電器
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図 5.マイクロ水力発電試験機外観
には高過ぎる 60℃程度である。従って、この熱を利
ケール付着による効率低下といった懸念される影響に
用した温室栽培など、さらなる余剰エネルギーのカス
ついて評価し、材料の表面性状改善などによりこれら
ケード利用と、発電した電気を用いた人工照明による
を回避するための技術開発試験を行う。
電照栽培を目的とし園芸温室(植物工場)を導入する。
全体のシステム統合に向けた EMS による各設備の
一方で、入浴などに利用された温排水でも、最終的な
統合、エネルギーの負荷として予定しているスマート
排出先に達するまでに数 m 以上の落差があれば、そ
アグリシステムの設計製作を進めるとともに、バイナ
の位置エネルギーを発電に利用することが期待でき
リー発電システムを始めとしてシステムの統合を進
る。配管系統を通っていることで自然の水路である河
め、EMS 制御と画像情報等の見える化を進める。
川と異なり、異材の混入回避、年間で比較的安定した
水量等のメリットが見込める小規模マイクロ水力発電
システムを開発する。
モバイルマイクロ水力発電システムの試験機の外観
を図 3-7-5 に示す。水車筐体は、実験時の視認性を確
保するため透明アクリル製とし、実験および製作の容
易性を考慮して四角ダクトとした。これにより、筐体
内部に設置する水車軸保持構造や発電機設置部の設計
製作が容易になる。
内径は 320mm × 320mm で、
長さは 1.0m である。
ダクト長さについては余裕を持って製作しており、水
車を内部に設置した後に横幅は短縮させることも可能
である。
鳴子温泉中山平南原地区の南原穴堰水路
(農業用水)
に設置し、数時間の連続運転試験を行い(図 3-7-6)、
十分に連続稼働が可能なことを試験により実証した。
次年度以降への課題
バイナリー発電システムの実用性を高めるための実
証運転試験を行うとともに、温泉水に含まれる無機塩
類の析出が配管閉塞による流量低下、熱交換面へのス
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図 6.南原穴堰用水路での試験
本研究は文部科学省
「東北復興のためのクリーンエネルギー研究開発推進事業」の
支援を受けて実施されたものです。
平成 25 年度
東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクト
研究成果報告書
平成 26 年 3 月
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