無停止型サーバによる CC-Link IE コントローラネットワークの高信頼化 平島 山本 冨塚 岡崎 栄一* 丈博* 潔* 仁則* High Reliable CC-Link IE Control Network with Fault-tolerant Server 要 旨 近年の FA(Factory Automation)システムの製造工程では, (注1) ションクリティカルなシステム,24 時間 365 日稼働が必 IT(Information Technology)システムおよび CC-Link IE 要なシステムのためにハードウェアを高信頼化した無停止 コントローラネットワークなどの高速なネットワークが大 型サーバ“ftServer”上で動作し,搭載された 2 枚の きな役割を担っている。IT システムやネットワークに障害が CC-Link IE ボードをアクティブ/スタンバイ方式で二重化 発生した場合の生産性への影響は大きく,システム全体の高 することにより高信頼化を実現している。万一,ハードウ 信頼化ニーズは高い。その一方で高信頼化のための二重化シ ェア障害が発生した場合,本ソフトウェアがスタンバイ側 ステムの導入費用や運用コストを抑制したいというニーズ の CC-Link IE ボードに自動で切り替えることで,継続動作 も高い。 を可能とする。 三菱電機インフォメーションテクノロジー(株)(MDIT)で は,無停止型サーバ“ftServer (注 2) 無停止型サーバ“ftServer”に,二重化した CC-Link IE ”に 二重化して搭載し ボード,CC-Link IE ボード冗長化ソフトウェアを搭載する た CC-Link IE コントローラネットワークインタフェースボ ことにより,FA システムと連携する IT システム基盤として ード(CC-Link IE ボード)を制御するための CC-Link IE ボー 活用でき,FA システム全体の高信頼化を実現している。 ド冗長化ソフトウェアを開発した。本ソフトウェアは,ミッ 冗長化例 無停止型サーバ“ftServer”に,CC-Link IE ボード冗長化ソフトウェアと二重化した CC-Link IE ボードを組み合わせることで,IT システムの高 信頼化を実現した。無停止型サーバ“ftServer”上にデータ収集システムを構築すると,万が一,無停止型サーバ“ftServer”の片系ハードウェアが故 障しても,CC-Link IE ボード冗長化ソフトウェアが自動的に CC-Link IE ボードを切り替えるので,継続して上位の MES サーバ等にデータの送信を 行うことができる。 *三菱電機インフォメーションテクノロジー株式会社 (注 1) CC-Link は三菱電機株式会社の登録商標であり,CC-Link 協会が管理する商標である。 (注 2) Stratus,Stratus Technologies ロゴ,ftServer は,Stratus Technologies Bermuda Ltd.の商標ないしは登録商標である。 (注 3) Ethernet は富士ゼロックスの登録商標である。 やデータの同期を行うために,停止時間が長くなる傾 1. ま え が き 向がある。 近年の FA システムの製造工程では,IT システムおよび高 (2) 速なネットワークが大きな役割を果たしている。 構築・運用コストの増大 HA クラスタシステムでは,主系システムと従系シス FA システムの製造実行システム(MES: Manufacturing テムの各々にハードウェアや OS・ミドルウェアが必要 Execution System)は,統合基幹業務(ERP: Enterprise となり,コストが約 2 倍となる。また,構築・運用す Resource Planning)システムや供給連鎖管理(SCM: Supply るエンジニアに対してもクラスタシステムの専門教 Chain Management)システムなどの基幹系 IT システムからの 育が必要となる。 データを元に生産計画を立案し,製造・制御システムや計装 (3) 制御システムへ作業指示を出している。 制御過程で出力さ FA ネットワークインタフェースの単一障害点 (SPOF:Single Point of Failure)化 れた製造・品質データ等は ERP システムや SCM システムに集 一般的な HA クラスタシステムは IT システムに関わ 約され,生産状況や設備情報を管理する他,生産性の向上に る部分は二重化されているが,FA システムと接続する 活用されている。 ネットワークインタフェースまでは二重化されてお これらの IT システムと FA システムをつなぐネットワーク らず,単一障害点(SPOF)となってしまう。 には,より大容量かつ高速な通信が求められている。これは, 各データを元に生産計画を立案することから生産性の向上 3. 無停止型サーバ“ftServer”および のために大量のデータが IT システムと FA システムの間で送 CC-Link IE コントローラネットワーク 受信しなければならないからである。そこで,最近では IT システムと FA システムをつなぐネットワーク基盤として, 前述した課題の解決策を述べる前に,本章では無停止型サ 大容量かつ高速通信が可能な CC-Link IE コントローラネッ ーバ“ftServer”および CC-Link IE コントローラネットワー トワークが注目されてきている。 クの概要,特長について説明する。 しかしながら,このような高度な IT システムや高速なネ ットワークが採用される一方で,IT システムやネットワーク 3.1 無停止型サーバ“ftServer” “ftServer”は,ミッションクリティカルなシステム,あ に障害が発生した場合の生産性への影響は大きい。生産の継 るいは 24 時間 365 日稼働が必要なシステムのためにハード 続のためには,無停止での安定動作,すなわち高信頼化が欠 ウェアを高信頼化した無停止型サーバ製品である。特長とし かせない。 て次の 3 点がある。 MDIT では無停止型サーバ“ftServer” に二重化して搭載 (1)ハードウェアの二重化による無停止の実現 した CC-Link IE コントローラネットワークインタフェース 1 台の無停止型サーバ“ftServer”には CPU(Central ボード(CC-Link IE ボード)を制御するための CC-Link IE ボ Processing Unit)・メモリ・チップセットのモジュール ード冗長化ソフトウェア製品を開発した。本稿では,従来の と PCI(Peripheral Component Interconnect)と PCI に接 システムにおける課題について触れた後,本製品の特長と機 続する HDD(Hard Disk Drive)や LAN(Local Area Network) 能,課題への解決策について述べる。 のモジュールからなるエンクロージャが 2 台内蔵されて 2. 従来のシステムにおける課題 IT システムやネットワークの高信頼化の解決策として,通 いる。 この 2 台のエンクロージャをロックステップと呼ばれ 常稼働する主系システムと待機用の従系システムを 2 台の る完全同期処理により二重化している。各エンクロージ PC サーバを用いて構築する HA(High Availability)クラスタ ャは同期しながら同じ処理を並行して実行し,上位層(OS システムがある。HA クラスタシステムは,2 台の両方に など)からは 1 台のハードウェアが動作しているように OS(Operation System)とクラスタソフトウェア,アプリケー 見える。エンクロージャは互いの障害検知と故障部分の ションをインストールする。障害発生時にはクラスタソフト 特定機能を搭載しており,万一の障害発生時には故障部 ウェアが主系から従系にシステムを切り替える。しかし,HA 分を切り離し,正常な部分で処理を継続する(図1)。 クラスタシステムには,次の課題が存在する。 (1) 停止時間の発生 HA クラスタシステムでは,主系から待機系に切り替 えるまでに数十秒~数十分程度の停止時間を要する。 特に待機中の従系システムの電源を切っておくコー ルドスタンバイ方式では,手動で従系システムの起動 図1.ハードウェアの二重化による無停止の実現 (2)シングルシステム同様の操作性 (1)高速・大容量のネットワーク型共有メモリ OS・アプリケーションからは 1 台のハードウェアが動作 全ての機器が全ての機器のデータを共有する N 対 N 型の超 しているように認識するので,OS・アプリケーションのラ 高速リアルタイム通信を採用している。セッションやコネク イセンスは 1 つのライセンスで運用可能である。エンジニ ションを意識せずに,メモリに読み書きする感覚でリアルタ アはシステムの二重化を意識することなく容易にシステ イム通信を実行できる。加えて,データ転送制御にはトーク ムを構築・運用することができる(図2)。 ン方式を採用しているため,伝送遅れの少ない安定した通信 ができる。 (2) 伝送路二重ループ(ループバック通信)による高信頼通 信 標準で伝送路の二重ループを構成しており,各局はケーブ ル断線や異常局を検出すると,異常箇所を切り離して,正常 な局間で伝送を続行する。 図2.シングルシステム同様の操作性 (3) Ethernet 準拠の光ケーブル・コネクタ採用 Ethernet 準拠のケーブル・コネクタ・アダプタを採用して (3)無停止での交換 いる。これにより,配線部品を全世界で容易に入手できる。 正常運転時は 1 台のサーバとして動作するが,障害発生 4. CC-Link IE ボード冗長化ソフトウェア 時は故障部分をエンクロージャ単位で切り離した上で連 続して動作する。切り離したエンクロージャは運転中に無 続いて,本章では MDIT が独自に提供する CC-Link IE ボー 停止で交換・メンテナンスすることができるので,システ ド冗長化ソフトウェアの概要、機能について説明する。 ムを停止させることなく復旧することができる(図3)。 4.1 ソフトウェアの概要 CC-Link IE ボード冗長化ソフトウェアは CC-Link IE ボー ドをアクティブ/スタンバイ方式で二重化するためのソフト ウェアである。OS に常駐し,冗長化ソフトウェアが主系コン ポーネントの障害を検知すると,自動的に従系の CC-Link IE ボードへと切り替えて,通信を継続する。 4.2 図3.無停止での交換 ソフトウェアの機能 CC-Link IE ボード冗長化ソフトウェアはアクティブ/スタ ンバイ方式で動作するので,無停止型サーバ“ftServer”1 3.2 CC-Link IE コントローラネットワーク 台に主系と従系の計 2 枚の CC-Link IE ボードを実装する。 CC-Link IE とは CC-Link 協会が提唱する産業用ネットワー 二重化動作時は主系の CC-Link IE ボードを用いて通信を クである。CC-Link IE のうち,CC-Link IE コントローラネ 実施し,従系の CC-Link IE ボードはスタンバイ状態である。 ットワークは大規模なコントローラ分散制御と,各フィール 主系の CC-Link IE ボードを含むコンポーネントで障害が ドネットワークを束ねる工場内の基幹ネットワークであり, 発生すると,冗長化ソフトウェアが障害を検知して,従系 CC-Link IE ボードの設定を自動的に変更し,通信を維持する。 主に生産制御用ネットワークとして使用する(図4)。 CC-Link IE ボード冗長化ソフトウェアのソフトウェア構成を 示す(図5)。 図4.CC-Link IE コントローラネットワークの位置付け CC-Link IE コントローラネットワークの特長としては次 の3点が挙げられる。 停止時間を抑止する。また,各ハードウェアは常に同期しな がら同じ処理を並行して実施するため,データの同期時間も 不要である。 加えて,故障に伴うハードウェアメンテナンスは“ftServer” システムを停止することなく行うことが可能となる。 5.2 構築・運用コストの低減 無停止型サーバ“ftServer”では,OS・アプリケーション のライセンスは 1 つのライセンス (注 4) で運用可能であるので, 構築・運用時のコストを低減できる。加えて,エンジニアは システムの二重化を意識することなく構築・運用できるため, クラスタシステム特有の OS・アプリケーション,CC-Link IE ボードの設定やリカバリ手順の習得が不要となり,教育コス トを削減できる。 5.3 FA ネットワークインタフェースの二重化 無停止型サーバ“ftServer”は FA システムと接続するネッ トワークインタフェースである CC-Link IE ボードの二重化に 対応することで,単一障害点(SPOF)を排除した。 図5.ソフトウェア構成 6. む 通常,アプリケーションは常に 1 つの CC-Link IE ボードを す び 選択して他の機器との通信を行っている。この冗長化機能 本稿では,CC-Link IE コントローラネットワーク対応無停 では,主系の CC-Link IE ボードを含むコンポーネントでの 止型サーバ“ftServer”の特長と機能,課題への解決策につ 障害発生により,従系の CC-Link IE ボードに切り替わった いて述べた。 時でもアプリケーションからは常に同じ CC-Link IE ボード 従来,無停止型サーバ“ftServer”を IT システムの高信 が動作しているように見える。このため,アプリケーショ 頼性プラットフォームとして提供してきた。今回,高信頼性 ンでの設定変更などは必要ないというメリットがある。 プラットフォームでの実績を踏まえて CC-Link IE コントロ ーラネットワークに対応した製品を投入することにより FA 5. CC-Link IE コントローラネットワーク対応無停止 型サーバ“ftServer”を用いた高信頼化の実現 システムに接続する IT システムの高信頼化を実現した。 今後は対応するネットワークインタフェースを拡大して いくことで,FA 分野における利便性・適用範囲の更なる拡大 これまでに,無停止型サーバ“ftServer”および CC-Link IE を図っていく所存である。 コ ン ト ロ ー ラ ネ ッ ト ワ ー ク , MDIT が 独 自 に 提 供 す る CC-Link IE ボード冗長化ソフトウェアの特長と機能について 述べた。 本章では,2章で述べた次の 3 つの課題について,本製品 を用いた解決策を述べる。 参 考 文 献 (1) ノンストップニーズに対応するフォールト・トレラン トサーバー,三菱電機技報,88,№1,68(2014) (2) 三菱電機インフォメーションテクノロジー(株): (1) 停止時間の発生 フォールトトレラント・サーバー (2) 運用コストの増大 http://www.mdit.co.jp/businessplatform/ftserver (3) FA ネットワークインタフェースの単一障害点(SPOF) .html 化 5.1 停止時間の抑止 無停止型サーバ“ftServer”の二重化されたシステムでは, CPU・メモリ・HDD や LAN に加え CC-Link IE ボードの故障の 際は,瞬時にもう一方のエンクロージャに切り替わることで, (注 4) アプリケーションによっては複数ライセンス必要な場合がある。
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