村田 守啓

薄型テレビや、BD プレーヤーと組み合わせるだけで、迫力あるサラウンド音場を楽しめるサウンドバー。
この新しいスピーカー・ジャンルを創出したのがデジタル・サウンド・プロジェクター「YSP」シリーズだ。
2004 年の登場以来、毎年のように製品を進化させデジタルコンテンツの楽しみ方を広げてきた。
ただ、数あるサウンドバーと「YSP」の間には、一つ決定的な違いがある。それは・・・
01
リアルか、バーチャルか。
それが問題だ
04
自動で音響をセッティングする
「インテリビーム」
02
ヤマハが創出した
スピーカーの新分野
03
リアル、アンビエント、
スイートスポット!
05
使い勝 手を追求した
06
迫力と手軽さを兼ね備えた
07
縦横自在に設置できる
01
リアルか、バーチャルか。それが問題だ
HDMI のリンク機能
最新モデル『YSP-2 20 0』
サブウーファー
開発者プロフィール
まず基本的な事実からおさらいしておこう。一般にワンボディー型のフロントサラウ
ンドシステムは、フロント LR の 2 チャンネルを用いて臨場感を作り出している。左右 2 つ
のスピーカーから出る音の波形に特殊な関数処理を施し、耳の錯覚を意図的に生み出して、
まるで後ろから音が聞こえるような感覚を擬似的に与えているわけだ。世に存在するサウン
ドバー製品の大半はこのバーチャルサラウンド方式を採用している。
一方、この分野の先駆者であるヤマハの「YSP」シリーズがユニークなのは、ビーム化し
た音を壁に反射させて前方チャンネルはもちろん、後方チャンネルまでも再現していること。
サウンドバーのほとんどがバーチャルサラウンド方式を採用する中で、リアル 5.1ch サラウ
村田 守啓
ンドを実現できる「YSP」は圧倒的な存在感を示している。でも、音のビームって一体?
商品開発部
「静かな水面にそっと小石を落としたところを想像してみてください」。商品開発のマネジャー
として「YSP」シリーズ全体をまとめる村田守啓は、その原理について、実直な口調でこ
う説明してくれた。
TV周辺機器グループ 技師
これまでの主な担当製品
・YSP-600
・YSP-500/3000/4000
村田:水 面に同心円状の波 紋が広がって
いきますね。音の伝わり方も同じ。例えば
1 つのスピーカーを鳴らすと、音波は放射
・YSP-900/1100
・YSP-2200
・YSP-4100/5100
状に広がっていきます。ではスピーカーを
2 つ横に並べて鳴らすとどうでしょう? 今
度は小石を 2 つ落としたように波紋と波紋
が 重なり合い、その 結 果、音が 強まる部
分と消えてしまう部分が生じます。さらに
同じ特性を持つスピーカーをたくさん横一列に並べ、同時に鳴らすと、波紋が足し合わさ
れて直進方向の強い波が生じます。この直進する音の波がビームです。ビーム状になっ
た音は、まさに波と同じような物理特性を持っていて、鏡にあたった光のように部屋の壁
に反射します。
YSP-600
趣 味
・読書 ・旅行
特 技
・料理 ・スイミング
YSP-4100
開発者プロフィール
ビームを斜め方向に飛ば
すには、横に並んだスピーカーを
鳴らすタイミングをほんの少しず
つずらしてやればいい。よく見る
と横長のグリル越しに、小口径
のスピーカーがずらりと配置され
て い る の が わ か る だ ろ う。
「YSP」では、高性能なプロセッ
サで処理された信号を用い、これら全てを個別のデジタルアンプで駆動している。つまり 1
つひとつのスピーカーをきわめて精密に制御することで、自由自在に音のビームを作り出し
ているわけだ。このように 5 チャンネル分の音をスピーカーから出すと、重ね合わせの原理
によって 5 本のビームを同時に得ることができる。それら各ビームの角度を調整することで
壁の反射を利用し、リスナーのポジションにサラウンド音場を実現できるのだ。
田中 一伯
商品開発部
TV周辺機器グループ 技師補
これまでの主な担当製品
・ピアノクラフト用スピーカー :NX-E150/
E200/E300/E400/E700
・単品スピーカー :NS-777/555/444/333
村田:音をビーム化してサラウンドを作り
・YSP シリーズ全て ・DVX-1000 ・YHT-S400
出すというアイデアは、以前から社内で基
礎 研究を重ねていたんです。具体 的な商
品プロジェクトに発展したのは、2004 年
当初から。イギリスの1 Limited 社(現
NX-E700
Cambridge Mechatronics 社)の 優 れ
Interests
たアプリケーション化技術と出会ったこと
で一気に製品化が進みました。
YHT-S400
基礎研究時に使われていたビームスピーカー
・作曲家の生涯と作品調べ
特 技
・炭火焼(焼魚、焼鳥等)
02
開発者プロフィール
ヤマハが創出したスピーカーの新分野
その年の 12 月に発売された『YSP-1』は、リアスピーカーもケーブルもなしで迫力
あるサラウンド音声を楽しめる初のデジタル・サウンド・プロジェクターとして、ホームシア
ター好きの間で大きな話題になった。その初代モデルからずっと「YSP」シリーズの音を磨
き上げてきたのが田中一伯。機械工学の教授を思わせる彼はそれまでHiFiスピーカーの
開発を担当していた。新しいプロジェクトに自ら加わったのは、ノウハウがまるで確立されて
ない新天地に刺激を感じたからだ。
大久保 茂治
田中:スピーカーというのはかなり成熟し
た分野で、シンプルな部品構成でいかに音
の純粋さを追求するかという作業の繰り返
しです。それはそれで奥 深い世界ですが、
フロントサラウンドという未開拓の領域に
商品開発部
TV周辺機器グループ 技師補
これまでの主な担当製品
・SWK-W10 ・YTS-T500、F500
・YSP-2200
挑 戦 し て み た い と 思 い ま し た。実 際
『YSP-1』の開発では、最初はまるで話に
ならなかった音質が、ちょっと手を加えただけで目に見えて進化したりして。目の前の景
色がどんどん変わっていくようで、新鮮な体験でした。
SWK-W10
YTS-T500
趣 味
とはいえ、最初の開発は困難をきわめた。例えば、ビーム用スピーカーの口径を小
さくし間隔を狭くすると、再生帯域が狭くなってしまう。逆に距離を広くとると薄型テレビの
横幅をはみ出してしまう。スピーカーの数と配置をどうすれば、最も効率的にビームを作り
・ゴルフ ・読書
特 技
・日曜大工(ウッドデッキやラックを作りました)
出せるのか。何回も試行錯誤を繰り返しながら、その黄金比を割り出していった。
田中:個人的に面白かったのは、基本的な音質対策を行うことでサラウンド感も高まるということ。それまで自分の中にも、サラウンドの
完成度を高めるのは
デジタル屋
の仕事、音質を作り込むのは
音屋
の仕事という先入観があったんですね。でもビームスピーカー自
体の性能を上げたり、あとはユニットをきちんと密閉させたり、スピーカー作りでは当然とされるノウハウを入れ込むとビーム技術によるサ
ラウンドの持ち味も生きてくる。この 2 つが相乗関係にあるという発見は大きかったですね。
03
リアル、アンビエント、スイートスポット!
さて、リアル 5.1ch サラウンドの「YSP」を選ぶことで、あなたはどんな価値を享受できるのだろう?
何と言っても大きいのは、壁に跳ね返った音が
実際に
後ろから届くと言うことだ。バーチャルサラ
ウンドの場合、仮想のリアチャンネルが耳のすぐ後方で鳴っているように感じられることも多い。頭の中
で擬似的にサラウンド感を作り出しているため聞こえ方に個人差もあるし、人によっては映画をまるまる 1
本観ると 聴き疲れ してしまうケースもある。さらにもう1つ見逃せないのが、自然なアンビエントだろう。
これこそ本格的なホームシアターシステムにも劣らない「YSP」シリーズの持ち味だと、村田は強調する。
村田:例えば、とても広い部屋でサラウンドシステムを組んだ場合。スピーカーとスピーカーの距離が
空きすぎて、音の 中抜け 現象が起きることがある。5 つの方向から音がバラバラに届く感じになっ
リアル 5.1ch サラウンド再生概念図
てしまうわけですね。一方「YSP」では、壁に反射させたビームが柔らかく広がって各チャンネルの
間も埋めてくれる。映画館のように、部屋中が自然に音で包まれる感覚ですね。
この自然なアンビエント感を表現するため、音作り担当の田中はこれまで大変な苦労を重ねてきた。どうすればリスナーに違和感を抱
かせることなく、その場に居合わせたような体験を再現できるか。それを突き詰めるため、初期の頃はサラウンド音声で収録されたライブ作品
を繰り返し観たという。
田中:バンドの演奏はもちろんですが、コンサートの場合、一番難しいのは拍手を拍手らし
く聞かせることなんですね。客席の真ん中で観ている感覚を味わってもらうためには、前だ
けでも後ろだけでもなく、その空間全体からウワーッと拍手が沸き上がってくる質感が必要。
ビームスピーカーの特性をうまく生かすと、その包まれる感覚がいい感じで表現できるんで
す。この部分は本当に試行錯誤を重ねました。
また壁反射には、部屋そのものを広く感じさせる効果もある。これは、壁が鏡だと想像
すると分かりやすい。音が自分のところに届くまでの距離が長くなるために、いわば壁のもっと
向こう側にスピーカーが置かれているような感じがするわけだ。いわゆるスイートスポットも広くて、リスニングポイントが多少動いてもサラウン
ド感が保たれる。例えば、恋人同士が横長のカウチに座って映画を観ても、聞こえ方に差が出にくい。
あなたが映画好きなら、あるいはこんな風に考えてみてもいいかもしれない。例えば『フィールド・オブ・ドリームス』を観れば、あなたはケヴィン・
コスナーのように広大なトウモロコシ畑の真ん中に立って、無数の葉っぱが風にさやぐサヤサヤという音を体感できるだろう。『プライベート・
ライアン』であればノルマンディー上陸を敢行するトム・ハンクスのように、耳をかすめた銃弾が後方に飛び去っていく恐怖を味わうだろうし、
『羊
たちの沈黙』であれば真っ暗な地下室に忍び込んだジョディ・フォスターのように、背後で聞こえるガサッという物音に怯えることになる。そ
のリアルで自然な追体験こそが、おそらく「YSP」を手に入れる価値なのだ。
04
自動で音響をセッティングする「インテリビーム」
もちろん、全ての人が「ホームシアター的に最適な部屋」でテレビを観ているわけではない。部屋の形、カーテンや本棚の位置、壁の
材質など、音の響きを左右する室内環境はユーザーによってまったく違う。いやむしろ、ホームシアターとはほど遠い普通の居間で、手軽にい
い音を楽しみたい人のために、ワンボディー型のサウンドバー製品があると言った方がいいだろう。「YSP」ではこのような現実を前提に、ど
んな部 屋でも最 高のパフォーマンスを発 揮できる技 術を盛り込んでいる。2005 年に発 売された第 2 世 代となる商品『YSP-800 /
YSP-1000』から導入された「インテリビーム」がそう。製品コンセプトを考えたとき、部屋に合わせて音響を自動セッティングするこの機能は、
開発チームにとって譲れないポイントだった。
村田:使い方は簡単で、まず使いたい場所に本体を設置し、次に自分のリスニングポイント
に専用マイクを置く。その状態でスイッチを入れるとスピーカーから発射されたビームが自動的
に部屋の壁をぐるりとスキャンし、最適な角度や強さ、音質などを最適に設定してくれます。
お客さまに対して、どんな部屋でも一定水準のホームシアター的サラウンド感を保証できると
いう意味で、これは私たちにとってもこれは大きな進歩でした。
インテリビーム 専用マイク
インテリビームの導入により、サラウンド感はもちろん映画などの音響効果もより正確に再現できるようになったと、田中は胸を
張る。各チャンネルにあらかじめディレイコントロールをかけることで、壁反射した音がリスナーのところに到着するタイミングを完璧に
揃えられるからだ。
田中:例えばアクション映画で、ビルが爆発するシーンがあったとします。爆弾の炸裂音、建物が崩れ落ちる音、大地が振動する音など、
そのサウンドエフェクトには高域から重低音までさまざまな周波数帯域が混じり合っている。制作者が伝えたかった本当のリアリティーとい
うのは、5 チャンネル分の音声がぴったりのタイミングでリスナーに届いて初めて再現できるんです。
05
使い勝手を追求した HDMI のリンク機能
20 05 年頃、オーディオ&ビジュアルの世界には大きなイノベーションが起こった。映 像と音声を 1 本のケーブルで伝 送できる
「HDMI」という新しい規格が、インターフェースの
最終兵 器
として市場を席巻しはじめたのだ。もちろん「YSP」もこの成果をい
ち早く採り入れていった。
村田:HDMI が登場する前、サウンドバーで手軽にいい音を楽しみたいユーザーを悩ませて
いたのは、何よりテレビとスピーカーを結ぶケーブルの煩わしさでした。場 合によっては、
映像用のコンポーネントケーブルが 3 本に、音声用のアナログケーブルが 2 本。音声信号を
デジタルでやりとりする場合にも「同軸ケーブル」と「光ケーブル」の 2 種類があり、接
続が大変でした。ところが HDMI によりそれらが全て 1 本のケーブルで結線できるようにな
り、しかも映像信号もデジタルで送 れるようになった。これは「YSP」の使い勝手にとっても、
大きな進歩でした。
HDMI には、さらに大きなメリットがあった。映 像・音 声 信 号だけでなく、機 器 と機 器 の 間 で 制 御 信 号 もやりとりできる
「CEC」機能が標準化されたことだ。これを用いれば、例えばテレビ側のリモコンから「YSP」の電源をオン/オフしたり、ボリューム
調整/消音などの操作を行うことができる。
村田:CEC に標準装備された機能を用いれば、例えばテレビが選択したソース機器に合わせて「YSP」側の入力を自動で切り換えること
も可能。ユーザーの使い勝手をよりよくするには必須だと思い、積極的に取り組みました。07 年の『YSP-3000 / YSP-4000』から初
めて CEC 機能を導入し、それ以降に発売された「YSP」シリーズでは標準機能として全モデルが対応しています。
06
迫力と手軽さを兼ね備えた最新モデル『YSP-220 0』
型テレビまわりに気軽に置けるワンボディー型で、あくまでリアルな 5.1ch サラウンド
を楽しんでもらいたい─ ─。そんな一貫した目標に向かって、ヤマハの技術者は「YSP」シリー
ズをブラッシュアップし、5.1ch から 7.1ch 対応へと進化した『YSP- 410 0』などさまざま
な バ リエーション の モ デル を 発 表してきた。そ の 最 新 版 が 2010 年 秋 に 発 表 され た
『YSP-2 20 0』だ。最大の特徴は、フラッグシップモデルの実力を受け継ぎつつ、どんなテ
レビやラックにも後から追 加できるデザインを兼ね備えていること。そのため本体を思い切っ
てコンパクト化し、従 来本体に内蔵されていたウーファースピーカーを切り離してセパレート
型のサブウーファーに収めた。ワンボディー型にこだわってきた「YSP」にとっては、初の 2
ユニット型製品となる。
7.1ch
サラウンド再生
概念図
開発チームに課せられた至上命題はシンプルだった。まずテレビのスタンド部分をまた
いで後から追 加できるようにすること。ポンと無造作に置いたときに画面下端とスピー
カーが重ならないほど本体をスリム化すること。それでいて満足のいく 7.1ch サラウン
ドを実現することだ。それにはスピーカー部の高さ方向をぐっと抑えなければいけない。
この難題に設 計面から挑んだのが、ヤマハ入社 2 年目の大久保茂治だった。
大久保:最近の薄型テレビはフレームの幅もどんどん狭くなっています。テレビスタンド
テレビのスタンド部分をまたげ、コンパクトで
迫力と手軽さを兼ね備えた最新モデル『YSP-2200』
をまたぐことを考えると、本体の高さはやはり 50 ミリ程度に抑えたい。しかし「YSP」
の場合、ビームスピーカーの径だけで約 30 ミリはあるし、それ以外にも DSP 回路など
大量の部品を積まないといけないので、これはかなり厳しかったです。構造をゼロから
洗い直し、いろんな部品の厚みや細かい合わせ目の隙間などを徹底して詰めていって。何とかこのサイズに入れ込みました。でも一番大変
だったのは、内部の構造をギュッと緻密化しながら、音質を落とさないようにすることだった気がします。
言うまでもなく、構造と音質は切り離せない。実は大久保は、2 年前まで他の AV メーカーで高級薄型テレビの開発を担当していた。
機構設計のプロフェッショナルだが、単体のスピーカーを手がけるのは初めて。その意味で、オフィスの隣のデスクが田中だったことは彼にとっ
て(そしておそらくヤマハにとってもユーザーにとっても)幸運だった。図面を引き、試作を重ねるたびにすぐ、「YSP の守護神」とも言うべき
人物の意見を仰げたからだ。
「ぶっきらぼうに見えますが、根はすごく真面目。こちらが要望を出すと一途に応えてくれました」と、田中は振り返っ
て笑う。一方、大久保自身も新領域での作業には学ぶところが大きかった。
大久保:ヤマハに来て新鮮だったのは、ディテールへのこだわり。例えば製品を作り込んで
いく過程で、部品同士がビリつき微かな音を出すことがあるんですね。そうするとスピーカー
から出てくる音が、ほんのちょっと濁ったりザラついた感じになったりする。そういう微少な
振動に対しても、いちいち防振材を貼り付けたりして原因を潰しきらないと、品質保証部門
の担当者が OKを出してくれません。その反面、いいものが作れるなら多少手間がかかっても、
工場 側が頑張って応えてくれる文化がある。今回の『YSP-2200』もそうですが、設 計者
の思い入れを実現できる環境なんですね。
高さや厚みのあるテレビスタンドが来てもいいように、スピーカーの脚の高さを無
段階にプラス 10mm 調節できる工夫も導入。洗練されたイメージを出すため、「YSP」
シリーズで初めて、本体にはヘアライン加工のアルミニウム素材を使用した。
大久保:アルミニウムのボディーには、デザイン性や質感だけでなく実際的な効用もい
くつかありました。まず薄さの問題。ビームスピーカーは微 量の電磁 波を出すため、
従来の樹脂筐体では内部にシールド処理が必要でしたが、今回はこれを省くことがで
ヘアライン加工のアルミニウムのボディー
07
きた。剛性が高まり、しかもプラスチックに比べて素材が持つ響きの特性もいいので、
音質改善にも寄与しています。
縦横自在に設置できるサブウーファー
スピーカーを大幅にスリム化したことで、本体に内蔵されていたウーファーは必然的に分離されることになった。これまではユーザーが好
みで追加購入していたサブウーファーを最初から付属させ、そこにウーファー機能も統合させるというスタイルだ。従来と全く異なるシステム構
成で「YSP」の名に恥じないサウンドに仕上げる作業は、「開発史上で最も大変だったかもしれません」と田中は振り返る。ただ、その苦労
のおかげで『YSP-2200』はこれまで以上に迫力ある低音表現を手に入れることにもなった。
田中:そもそもこのシステム構成に踏み切った理由の 1 つに、「YSP」ユーザーの多くがご自分でサブウーファーを別途購入し、低音域を
補強されているという顧客データがあったんです。それならサブウーファーを最初から標準装備することで、最適にマッチングさせた重低音
をご提供した方がいいという考え方も成立します。スピーカーとサブウーファーの調整がうまくいかないと、例えば爆発シーンなどで、破裂
音と地響きが微妙にズレて聞こえてしまったりする。今回『YSP-2200』では、そのような気持ち悪さは完璧に排除できた。縦・横どち
らでも置けるよう設置性にも気を使いました。手軽さと迫力のバランスという意味では、これまでの「YSP」ラインナップの中でも随一だ
と自負しています。
映画、コンサート、スポーツ中継など、視聴ジャンルごとにぴったり合った音場を創成してれくる「シネマ DSP」も搭載。本格的 AV レシー
バーの分野でも評価の高いこのヤマハ独自の技術に加えて、今回は新たに、サラウンド音声のゲームソフトに対応したモードも盛り込まれてい
る。迫力ある効果音はもちろん、BGM やセリフなど、まるでゲームの世界に入り込んだような臨場感を体感できるように、きめ細かくリニュー
アルが施された。さらに、「ユニボリューム」という便利な機能もある。これはテレビ番組から CM に切り替わった際や、さまざまなチャンネ
ルをザッピングしている際などに、音量差を自動的に補正してくれるというもの。これならコマーシャルに切り替わった瞬間音量がアップし、びっ
くりしてソファーから飛び上がるという心配もないだろう。
もう 1 つ、別売の オプション を追加して、iPod や iPhone の音楽を『YSP-2200』のスピーカーで楽しみたいという人には、「ミュージック
エンハンサー」という優れた音質向上テクノロジーが入っているのも魅力と言えるだろう。これは AAC や MP3 などの圧縮デジタル音声につき
ものの「高域の伸び不足」や「中低音の薄さ」を解消するヤマハのオリジナル技術。失われた音声データを独自のアルゴリズムで補間することで、
自然かつ奥行きのあるサウンドを生き生きと蘇らせてくれる。
この数年間で、テレビの薄型化は飛躍的に進んだ。ただ意外に見落とされがちだが、薄型化によって、テレビ自体の音質が落ちてきていると
いうのも事実。発売以来「YSP」シリーズが着実に支持を広げてきた背景には、せっかく充実してきたデジタルソフトを画質面だけでなくサウ
ンドの面でももっと味わい尽くしたいという、ユーザーたちの無言の希求があるに違いない。
村田:テレビと一緒に使っていただく製品ですから、ブルーレイディスクのような高品質な映画・音楽ソフトはもちろん、ニュース番組、スポー
ツ中継からバラエティーショーまで、どんなソースもきっちり楽しめてこそ存在価値があると考えています。あらゆるシチュエーションで、テ
レビのサウンドを飛躍的にパワーアップさせる― ―そんなデイリーで万能スピーカーを作りたいというのが、YSP にかける変わらない私たち
のテーマです。