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ビジネスシステム応用研究(社会人大学院科目)
2003 年 8 月 2 日
Eric & Brothers Co., Ltd.
三洋電機と海爾集団公司(ハイアール)の提携
グループ 4: Eric & Brothers, Co. Ltd.
池田 周之(037B204)
河合 伸(039B217)
杉本 宏治 (036B230)
野嶋 晋(038B243)
矢倉 敏行(030B256)
1. はじめに
「世界の工場」として名を馳せた中国。それは 80 年代の日本の電機企業進出を契機とする。
その時行われた対中投資や技術移転は中国電機産業へ成長をもたらし、現在では国際市場に
おいて日本企業と競争を繰り広げるまでになっている。更に、産業の発展によって購買力を増し
た中国は、今や発展途上の巨大市場となり、2001 年 12 月の WTO 加盟を経て、各国企業がそ
のビジネスチャンスを狙って続々と進出している。
そんな中、三洋電機グループと海爾集団公司(以下一部を除き、ハイアール)は、2002 年 1 月
に「広範な分野での包括的提携」の合意を発表した。日中を代表する両社は何を目的とし、何を
得るために提携に合意したのであろうか。当グループの発表では、提携を合意した両社の概要と
その成長戦略を基礎として、両社の提携の狙いを考察するとともに、現状の評価に基づく
Win-Win 提携となるため今後の課題を考察する。
2. 日本と中国市場の特徴と企業進出
2.1.中国市場の特徴
2.1.1.安価生産を目的とした中国進出とそれによる技術発展
中国が「世界の工場」として機能したきっかけは、特に人件費の安さによる安価生産が可能で
あったことによる。80 年代、多くの日本企業は人件費の安さを求めて相次いで中国への直接投
資を行い、生産工場を設立してきた。それにより、原料から製品に至るまでのサプライチェーンが
確立されていった。そして、世界中からの生産が集中したことで部品の調達システムへの魅力も
が増大し、コストの安い部品の現地調達率を高めることで原価を半分にできるというメリットまでが
生まれ、中国は「工場」としての地位を確立、生産技術のみならず、様々な知識を含めた技術を
充実させてきた。中国の技術力充実の度合いは 90 年代にユニクロが日本に持ち込んだ中国製
品の高品質によっても伺うことができる。
2.1.2.市場としての中国の発展
中国が生産工場として機能し、産業が発展するにつれ、中国国民の経済力は充実し、購買力
を持つようになった。それによって、中国は「生産基地」から「市場」への変貌を遂げた。2001 年
12 月、中国が WTO に加盟したことにより、ルールに基づいた自由貿易が解禁された。これによ
って、中国の経済力は更に発展することが見込まれるため、各国企業は未開の巨大市場でのビ
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ジネスチャンスを狙って続々と進出している。
1992 年の鄧小平による南巡講話を境に勢いを増した中国の経済発展は、着実に進歩を続け、
1997 年に起こったアジア通貨危機においても影響が小さく、結果として ASEAN 諸国よりも評価
を上げることになり、その可能性を盤石なものとしている。
世界企業の中国進出の傾向は家電市場においても同様である。現に、冷蔵庫やテレビなど中
国における家電の「三種の神器」の需要はうなぎのぼりの状態であり、中国家電市場は 2010 年
までには世界最大になると注目されている。
2.1.3.文化の違いによる進出の難しさ
中国に進出するに当たり、現地の国民性や商習慣など市場について知ることは当然重要であ
るが、中国市場を理解することは多数の複雑な要因が絡み合い極めて困難である。
中国理解の難しさは、経済・経営問題が政治体制と複雑に絡み合っていることに起因する。例
えば、社会主義国という特殊な社会体制により、日本企業は中国で生産することはできても、原
則として単独では販売ができないという規制があったことが挙げられる。
また、大国故、その国民性や貧富の差をはじめ、地域ごとに独特な社会が存在し、独自の文
化や価値観があるため、中国市場に受け入れられる商品・サービスを投入するには多様なマー
ケットのニーズを把握し、中国の生活者や彼らの社会に適した商品・サービスを作り出す必要が
あることは無視できない。
商習慣においては、課金システムのデザインに問題が多い。例えば、代金回収の仕組みが複
雑であることに加え、国民性も影響した売掛金の不良債権化が起こりやすいということがある。自
国の商習慣にとらわれず、現地の仕組みを理解しなければ思うように債権が回収できないことは、
市場進出において重要な要素である。
更に、日本のバブル景気を考えるにつけ、今後の中国においては好景気時代での戦略が鍵
を握ることが考えられる。中国が日本の轍を踏むのなら、2008 年の北京オリンピック、2010 年の
上海万国博覧会で膨れ上がったバブルの大風船が、それ以降の建設需要の不足に端を発する
不況によって一気に破裂に向かう可能性がある。
2.2.日本企業の中国進出
2.2.1.松下電器の中国での動き
中国進出について、松下電器(以下松下)のケースを見ると、松下の中国進出は 80 年代に始
まり、現在に至るまで中国で生産を始めて 20 年以上の歴史を持つ。
松下は 2001 年にはエアコンの中核部品を米国で生産することを中止し、中国に生産を移管し
た。背景にあったものは、米国販売先であるエアコンメーカーが次々と中国企業に生産を委託し
ており、このままでは市場がなくなるという危機感である。移管当時、エアコン事業は黒字であっ
たが、市場の動向を読み、先手を打つ形で生産体制を見直し、その結果、R&D(研究開発)→
調達→生産→販売が全て中国でおこなわれることになった。
日本企業の中国進出ケースでの留意点
中国に参入した日本企業の多くは現地企業との合弁会社を作って販売チャネルを構築しよう
とした。しかし、①人員や制度が現地化されていなかったこと、②売掛金の回収問題、③代理店
の教育が充分に進まず複雑な現地の流通の仕組みを活用できなかったこと等により失敗に終わ
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った例が多い。
中国市場を獲得しようとすれば、既に中国市場を支配している現地企業とも競合することにな
る。従って、現地企業に打ち克つことが出来るかどうかは、豊富な部品調達ノウハウと先進的な生
産技術をどうやって中国ローカルに適用するかにかかっている。
2.3.中国企業の日本進出
2.3.1.日本進出のための条件
日本市場に進出しようとして失敗している例は、韓国の現代自動車や NICS(あるいは NIES)
製品をはじめ多く見られる。成功するための条件は何であろうか。それは、過去 NICS 製品が日
本市場でシェアを奪えなかった原因から以下のように推測できる。1
世界市場で有名ブランドに成長すること
先発企業を凌ぐマーケティング投資を数十年のスパンで継続すること
技術開発・新製品開発で先発企業を凌駕する能力を身に付けること
以上の 3 点が、日本市場でシェアを奪うことの必須条件として挙げられる。
2.3.2.日本進出の壁(ハイアールと松下電器産業との比較)
ハイアールは中国全土で 12,000 カ所のアフターサービス拠点と 53,000 カ所の販売拠点をも
っている。一方、松下電器産業は日本で 20,000 店の小売店舗網(最大時 50,000 店舗)を有す
る。量販店を含めた販売拠点数ではハイアールを越える。人口密度で換算すると、松下電器は
ハイアールの 5 倍以上の営業網をもつことになる。この状況を見るに、どんなに巨大な企業でも
日本市場で松下電器を上回る周密な営業網を持つことは困難であると思われる。日本市場攻略
の壁は、日本企業が持つ途方もない営業網の壁なのである。この鉄壁ともいえる販売網を撃破
するためには、莫大な金額の投資、人的資源の投入、販売ネットワークが必要になる。
ハイアールにとって、日本企業に新たに販売ネットワークを構築することは容易なことではなく、
早期に市場に参入するためには既に出来上がっている販売網を利用することが近道であること
は想像に易い。
3. 海爾集団公司(ハイアール)
3.1.海爾集団の概要
ハイアールの前身は、山東省青島市の国有企業、青島電気冷蔵庫総廠で従業員 400 名ほど
の小さな一郷鎮企業にすぎなかった。1984 年には経営不振のため3度も工場長を代えるなど再
起を図るが、147 万元の赤字を抱え、社員に給与も支給できないほど困窮していた。その後、株
式会社へ改革し海外企業の進んだ経営ノウハウや技術を取り入れて、その後の大発展への第一
歩を歩み始める。1991 年に青島冷凍庫総廠、青島エアコン廠を買収し、琴島海爾集団を成立し
た。1992 年には琴島海爾集団を海爾集団に改称、2000 年には売上高 400 億元(5340 億円)、
利益が 30 億元(約 400 億円)、従業員数 3 万人の巨大企業に成長した。
創業当初の製品は冷蔵庫1モデルだけであったが、2000 年(中国市場のシェア、順位)には
エアコン(30%、1 位)、冷蔵庫(28%、1位)、全自動洗濯機(27%、1 位)、掃除機(23%、1 位)、
電気温水器(16%、1位)、など 69 種 10,800 品目の製品を有する中国 No.1 の総合家電メーカ
ーに成長した。10 箇所 46 工場の製造拠点と 53,000 もの販売拠点を持ち、顧客の常識を上回る
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高いサービスを武器に成長を続けている。
3.2.企業成長戦略
この巨大家電メーカーを 1984 年から率いているのが CEO の張瑞敏氏である。「お客様はい
つも正しい」という単純明快なスローガンを掲げ、「消費者がのぞむものならば何でも作る」と公言
している。
中国を代表する経営者である張氏の船出は決して生やさしいものではなかった。1984 年に
3 人目の工場長が立て直しに失敗し、同年 4 人目の工場長として倒産寸前の青島電気冷蔵庫総
廠に渋々乗り込んだ。同社の上級機構である青島市家電公司の副社長を務めており、次の候補
者がいないことを知っていたからである。8 時の勤務開始から 2 時間後の 10 時には従業員が誰
もいない工場、職場で場所を選ばすに大小便をする従業員など工場内の労働規律は目も当てら
れない状況であった。従業員がトイレで煙草を吸わないよう入り口で待ち伏せしてチェックしたり、
社内禁煙のルールを作ったりするのも CEO の仕事であった。このような従業員を教育し、海外企
業との競争に耐えうる従業員を育て上げるまでの苦労はすさまじいものであったと思われる。ハイ
アールの工場では、現在「6つの S」をスローガンとして掲げている。6つの S は日本語の「整理・
整頓・清潔・掃除・しつけ」に英語の「安全」(safety)の頭文字から取ったものである。
また、「ハイアールの国際化は海爾人各人の国際化にかかる」というスローガンも掲げ、「フォ
ーチュン 500 社に入る」という目標(ビジョン)に向かって成長を続けている。担当管理職が 80%
の責任を、担当社員が 20%の責任を負う「80 対 20 の原則」など信賞必罰の社員評価システムを
もつフラットな組織を構築、中国国内で「麻痺した企業を食う」(吸収合併)により急成長を果たし
た。海外企業との提携や合弁会社の設立も積極的に行っている。2000 年には念願のアメリカ進
出も果たし、グローバル化にも力を入れている。
3.3.中国国内の家電業界における Five Forces
1990 年代に入り、中国家電メーカーは独自の販売網と顧客も驚くようなサービスを武器に、こ
れまで中国国内市場で優勢を誇っていた日本製家電製品を駆逐し始める。そしてシェアを奪い
返し、多くの家電製品で上位を確保している。しかしながら、近年、中国国内市場の販売競争の
激化により、多くの中国家電メーカーは業績を下方修正するなど、経営状態も急速に悪化し始め
ている。中国国内市場だけでは生き残れないことを自覚した家電メーカーは、海外にビジネスチ
ャンスを求める方向で企業戦略を立てている。中国企業の進出が特に顕著なのはアジア域内と
ロシアである。これらの市場は未成熟で購買層(高所得層)が限られるため、日本をはじめ先進
国の家電メーカーにとっては進出の魅力が低い。 一方、ハイアールの様に積極的に先進国に
進出している家電メーカーもある。
3.4.提携戦略
青島の一郷鎮企業であった海爾(青島電気冷蔵庫総廠)は、創業当初にドイツの Liebherr 社
から冷蔵庫の生産技術と生産設備を導入している。米国進出でもそうであったが、ハイアールは
ひとつの製品で確固たる地位を確立してから、別の製品や事業に進出する戦略をとっている。冷
蔵庫は設立当初から手がけてきた主力製品である。冷蔵庫の製造技術を確立した後、1993 年
にドラム式洗濯機でイタリア Merloni 社と、エアコンで日本の三菱重工業と合弁会社を設立して
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いる。その後もカラーテレビや業務用エアコンについて日欧の企業と技術提携している。21 世紀
に入りハイアールの海外企業との提携は様子が変わる。これまでは国内での基盤を固めるため
の技術提携や合弁会社の設立であったが、2002 年の三洋電機、台湾の声宝との包括提携など、
海外展開を視野に入れた提携戦略を進めている。
3.5.企業成長マトリックスと三洋電機との提携
アメリカに製造工場を作ったハイアールでも、これまで日本市場への進出は慎重であった。張
CEO は「日本は家電強国であり、米国や EU のように殴り込む形では進出できない。日本の家
電会社と提携するという方法で市場に入ろうと考えている。日本企業と真っ向から競争するような
方法では失敗するだろう。ちょうど日本の家電メーカーも製造拠点を中国に移し始めているし、
互いに提携を結ぶいい機会だ。」(2001 年 10 月)と述べている。そして、この発言は翌 2002 年
1 月 8 日に現実のものとなる。ハイアールが三洋電機と、家電製品の相互販売・製造などで包括
提携をしたと発表したのである。日中の大手家電メーカーがこのような包括提携を結ぶのは初め
てのことである。1990 年代後半から、多くの日本メーカーが中国に製造拠点を移してきた。実際
日本メーカーのブランドをつけた家電製品であっても、中国製の製品であることは大手家電量販
店で製品を見れば一目瞭然である。日本の消費者も生産地に対する敷居が低くなっており、どこ
で生産されたものであるか気にしなくなっている。ハイアールも日本でシェアを拡大する良いチャ
ンスだと考え、三洋電機との提携に合意したものである。
4. 三洋電機株式会社
4.1.三洋電機の概要
その海爾集団公司との「包括的提携」を、2002 年 1 月 9 日に電撃的に発表をした三洋電機を
紹介しよう。三洋電機は、現会長井植敏の父である井植歳男が 1947 年創業した総合家電メーカ
ーである。同社は、創業家である井植一族が経営を握るオーナーガバナンスの強い統治形態を
採る。その特徴は、創業者井植歳男以来引き継がれた「馬上行動」と呼ばれるスピード経営と操
業当初の松下電器の流通網を使用した販売展開を契機とした OEM の経営思想が挙げられる。
創業者井植歳男の先見性のある経営判断とスピード経営により積極的に事業を展開することで、
OEM ビジネスを成立させるだけの技術力を蓄積してきたことが、同社の現在の強みとなっている
といえる。
その同社の方向性を形付け、従業員の規範ともなるものが、「私たちは世界のひとびとになく
てはならない存在でありたい。」という経営理念である。この経営理念は、独創的な技術開発によ
り優れた商品とまごころのこもったサービスを提供し、世界の人々から愛され信頼される企業集団
になることを意味する。同時に、21 世紀社会に向かって、その事業姿勢と事業基盤を端的に表
し、クリーンエネルギーとマルチメディアの事業を積極的に展開していくことを宣言したものとして、
「人と・地球が大好きです」というコーポレートスローガンを設定している。クリーンエネルギー事
業では、「地球環境を壊すことなく共生していきたい」という想いを、マルチメディア事業では「快
適でより楽しい生活を提案していきたい」という想いを実現していくこととなる。
同社の事業は、“AV・情報通信機器”、“電化機器”、“産業機器”、“電子デバイス”、“電池”、
その他の6部門により構成されている(詳細は「表 1: 三洋電機事業内容及び関係会社」参照)。
主要事業は、成長分野であるデジタルカメラや液晶プロジェクター、携帯電話などの商品を有す
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る“AV・情報通信機器”で、売上構成比は 40%を占める。また、構成比が低いながらも高収益事
業として挙げられる事業が、トップシェアを誇る二次電池や太陽光発電を有する“電池”である。
これらふたつの事業が、総合家電メーカーの中で、同社を特徴づけるポイントとなる。海爾集団
公司との提携対象となる“電化機器”は、ここ数年売上高及び営業利益ともに低下傾向を示して
いる。買い替え需要が中心の“電化機器”市場は、景気悪化による買い控えや低コストな中国生
産商品の流入などにより競争が激化していることから、同社にとって“電化機器”事業のリストラク
チャリングの一環として、今回の提携が行われたことが予想される。
主要製品
主要関係会社
製造会社
販売・その他会社
三洋テレコミュニケーションズ㈱、
三洋マルチメディア鳥取㈱、島根
三洋工業㈱、三洋メディアテック
㈱、サンヨー・マニファクチャリング・
コーポレーション、三洋電機(蛇
口)有限公司、三洋パーソナル
通信(マレーシア)、東莞華強三
洋電子有限公司
三洋セールスアンドマーケティン
グ㈱、三洋電機マルチメディア
セールス㈱、サンヨー・ノースア
メリカ・コーポレーション、三洋ヨ
ーロッパ、三洋電機(香港)有
限公司、三洋アジア
三洋電機空調㈱、三洋ホーム・
アプライアンス鳥取㈱、三洋ホー
ムテック㈱、サンヨー・E&E・コー
ポレーション、三洋工業(シンガポ
ール)、台湾三洋電機股フン有
限公司
三洋セールスアンドマーケティン
グ㈱、サンヨー・ノースアメリカ・
コーポレーション、三洋ヨーロッ
パ、三洋空調設備ヨーロッパ
三洋電機空調㈱、三洋ハイテク
ノロジー㈱、大連三洋制冷有限
公司、大連三洋冷鏈有限公司
三洋セールスアンドマーケティン
グ㈱、三洋電機産機㈱
鳥取三洋電機㈱、新潟三洋電
子㈱、岐阜三洋電子㈱、関東
三洋セミコンダクターズ㈱、㈱三
洋エル・シー・ディエンジニアリン
グ、三洋電子部品㈱、三洋電機
(蛇口)有限公司、韓国東京シリ
コン
三洋セールスアンドマーケティン
グ㈱、三洋セミコンデバイス
㈱、サンヨー・セミコンダクター・
コーポレーション、三洋電機
(香港)有限公司、三洋半導
体(香港)有限公司、新日エ
レクトロニクス㈱
三洋エナジー鳥取㈱、三洋エナ
ジー貝塚㈱、サンヨー・エナジー
(USA)コーポレーション、三洋エ
ナジー(ヨーロッパ)
三洋セールスアンドマーケティン
グ㈱、三洋エナジー(シンガポ
ール)
(AV・情報通信機器)
カラーテレビ、プラズマテレビ、ビデオテープレコーダー、
DVDプレーヤー、ビデオカメラ、デジタルカメラ、液晶
プロジェクター、ハイビジョンシステム、デジタルメモリー
プレーヤー、カーステレオ、コンパクトディスク、光ピック
アップ、ファクシミリ、コードレス電話機、携帯電話
機、PHS電話機、PHS基地局、メディカルコンピュ
ーター、ナビゲーションシステム、液晶ディスプレイ、C
D−R/RWドライブ、DVD−ROMドライブ
(電化機器)
冷蔵庫、フリーザー、洗濯機、衣類乾燥機、電子レ
ンジ、エアコン、掃除機、扇風機、椅子式マッサージ
ャー、食器洗い乾燥機、電磁調理器、トースター、
ジャー炊飯器、生ごみ処理機、システムキッチン、電
気・石油暖房機、空気清浄機、除湿機、電動ハイ
ブリッド自転車、自転車用電装品、ポンプ、医用滅
菌器、医用保冷庫、超低温フリーザー、錠剤包装
機、冷凍・冷蔵・空調用コンプレッサー
(産業機器)
冷凍・冷蔵・冷水ショーケース、スーパーショーケー
ス、業務用冷凍冷蔵庫、プレハブ冷凍冷蔵庫、製
氷機、パッケージ型エアコン、ガスエンジンヒートポンプ
エアコン、吸収式冷温水機、ディスペンサー、ゴルフカ
ートシステム、チップマウンター
(電子デバイス)
MOS−LSI、BIP−LSI、厚膜IC、液晶パネル、
トランジスター、ダイオード、CCD、LED、半導体レ
ーザー、有機半導体コンデンサー、その他電子部品
(電池)
リチウムイオン電池、ニカド電池、ニッケル水素電池、
リチウム電池、アルカリマンガン乾電池、太陽電池、
太陽光発電システム、シェーバーなどの電池応用商
品
(その他)
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クレジット、物流、保守、情報サービス、住宅関連
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三洋セールスアンドマーケティン
グ㈱、三洋ハイアール㈱、三
洋電機クレジット㈱、三洋電
機サービス㈱、三洋電機ロジ
スティクス㈱、三洋ホームズ
㈱、㈱エヌ・ティ・ティ・データ三
洋システム、大和フーヅ㈱
表 1 三洋電機事業内容及び関係会社(三洋電機㈱の有価証券報告書より抜粋)
同社の最近 5 年間の経営指標をみてよう。90 年代までは確実に売上規模を拡大してきたが、
2000 年以降はデフレ経済の進行による景気低迷の影響を受け、厳しい状況が続いている。創
業者井植歳男に、彼の才能にほれ込んだ住友銀行の鈴木剛氏(後の頭取)が無理に 50 万円を
貸し付けて創業させたという経緯から、同社は借入れ依存体質を継続させてきた。自己資本比率
が低下傾向にあることから、他人資本が増加傾向にあるといえる。キャッシュフローは、2002 年
度に営業活動内で投資活動が行われるようになっており、改善傾向が見られる。
図 1 セグメント別売上高及び営業利益率推移(三洋電機㈱有価証券報告書より抜粋)
売上高及び営業利益率推移
1,000,000
16.0%
900,000
14.0%
AV・情報通信機器
800,000
12.0%
電化機器
産業機器
10.0%
700,000
8.0%
600,000
6.0%
500,000
400,000
300,000
4.0%
その他
AV・情報通信機器
2.0%
電化機器
0.0%
産業機器
電子デバイス
200,000
-2.0%
100,000
-4.0%
0
-6.0%
1999
2000
2001
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2002
電子デバイス
電池
電池
その他
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種別:連結本決算
【収益性指標】 2003年3月期
2002年3月期
2001年3月期
2000年3月期
1999年3月期
当該企業 業種平均 当該企業 業種平均 当該企業 業種平均 当該企業 業種平均 当該企業 業種平均
株主資本経常利益率 -15.7
7.4
0.5
-4.4
11.2
13.4
5.4
7.8
-2.0
4.6
株主資本利益率 -13.4
2.1
0.3
-6.5
6.4
5.7
3.2
3.2
-3.6
-0.1
使用総資本回転率(回) 0.8
0.9
0.7
0.9
0.8
1.0
0.8
0.9
0.7
0.9
売上債権回転日数(日) 110.5
77.3
119.0
86.0
106.1
81.9
101.3
83.1
101.5
85.8
棚卸資産回転日数(日) 59.9
48.8
72.2
56.2
66.4
54.0
72.5
57.4
80.8
63.4
商品・製品回転日数(日)
31.7
12.7
38.5
21.1
34.6
19.7
39.0
16.9
22.3
7.4
半製品・仕掛品回転日数 13.4
9.4
15.6
16.2
14.7
16.1
16.8
12.5
9.4
4.2
売上高原価率 79.9
72.7
80.7
74.6
78.9
72.3
79.4
72.6
80.2
72.8
使用総資本経常利益率 -3.1
2.5
0.1
-1.5
2.6
4.8
1.4
2.8
-0.6
1.6
売上高事業利益率・利払後
2.9
3.5
1.8
0.6
4.0
4.9
2.2
3.4
0.7
2.5
売上高営業利益率 3.4
3.7
2.5
0.9
4.8
5.2
3.1
3.8
1.7
2.9
売上高経常利益率 -3.7
2.7
0.2
-1.7
3.3
5.1
1.8
3.1
-0.8
1.8
売上高当期利益率 -3.2
0.8
0.1
-2.5
1.9
2.2
1.1
1.3
-1.4
-0.1
一人当売上高 285.0
262.0
254.0
255.0
264.0
271.0
251.0
267.0
260.0
281.0
一人当事業利益・利払後 8.0
9.0
5.0
2.0
11.0
13.0
5.0
9.0
2.0
7.0
一人当経常利益 -11.0
7.0
0.0
-4.0
9.0
14.0
5.0
8.0
-2.0
5.0
一人当使用総資本 344.0
283.0
342.0
289.0
333.0
284.0
334.0
290.0
366.0
312.0
79.0
64.0
79.0
66.0
76.0
64.0
78.0
68.0
86.0
73.0
【生産性(単位:十万円)】
労働装備率 【安全性】 手元流動性比率(倍) 1.8
1.9
1.9
1.9
2.0
1.9
3.5
2.2
3.6
2.3
流動比率 111.3
143.7
111.3
140.9
109.9
142.9
129.9
150.2
129.4
152.4
当座比率 79.8
93.3
75.3
90.7
74.3
92.2
95.6
101.7
92.0
101.6
固定比率 263.6
146.6
213.3
139.3
205.0
124.7
167.6
118.4
157.3
118.7
固定長期適合率 92.4
78.8
92.5
80.2
93.3
76.4
77.4
72.8
76.6
70.1
株主資本比率 17.5
32.8
21.9
34.2
22.2
35.4
24.6
36.8
26.1
34.9
負債比率 461.1
196.3
349.3
182.4
344.0
173.8
300.6
163.4
279.5
177.6
借入金依存度 41.7
22.8
42.5
25.6
40.3
24.0
42.5
25.6
45.7
28.7
4.5
8.2
2.5
1.8
4.3
7.9
2.5
5.2
1.3
3.5
インタレストカバレッジ・倍
【成長性(単位:%)】 増収率 7.7
1.0
-5.8
-6.2
11.3
7.8
7.0
1.2
-2.2
-2.4
利払後事業利益増加率 73.0
487.3
-57.0
-88.7
106.8
54.7
241.7
41.5
-69.7
-45.5
74.1
-135.3
-57.3
-310.1
-103.2
-7.3
-3.4
経常増益率 -2,692.2 -
-95.5
-132.0
98.9
78.2 -
当期利益増益率 -4,316.4 -
-95.9
-210.1
94.6
86.1 -
-7.7
-7.6
-2.0
2.9
株主資本成長率 -20.1
-6.3
-4.3
6.1
【キャッシュフロー指標】
営業CF対固定負債比率 - -
16.7
21.9
12.8
31.6
22.1
31.4 -
8.1
営業CF対有利子負債比率
- -
11.1
21.0
8.5
28.9
14.1
27.3 -
6.4
営業CF対純有利子負債比
- -
15.9
49.0
14.4
77.4
27.3
72.7 -
16.5
営業CF対設備投資比率 - -
107.4
94.4
91.6
115.5
239.0
169.7 -
76.3
営業CF対売上高比率 フリーCF(百万円) - -
6.2
5.9
4.4
7.5
8.3
8.1 -
2.0
-
-19,550
106,682
-27,386
1,247,663
91,066
2,044,057 -
-95,827
-
フリーCF対有利子負債比
- -
-1.7
0.5
-2.3
6.4
7.7
9.9 -
-0.4
フリCF対純有利子負債比
- -
-2.4
1.3
-4.0
17.0
14.9
26.3 -
-1.1
フリーCF対設備投資比率
- -
-16.0
2.4
-25.3
25.4
130.4
61.5 -
-5.3
フリーCF対売上高比率 - -
-0.9
0.2
-1.2
1.7
4.5
2.9 -
-0.1
【一株指標(単位:円)】
一株当たり利益 -39.1
16.1
0.9
-53.3
22.6
48.6
11.5
27.4
-13.6
-1.3
一株当たり配当金 6.0
7.2
6.0
9.8
6.0
10.0
5.0
9.3
5.0
11.6
一株当たり純資産 257.0
725.2
321.6
788.4
348.4
859.9
355.4
851.2
365.3
806.7
潜在株調整後一株当利益 -39.1
0.0
0.9
0.0
22.2
0.0
11.4
0.0
-13.5
0.0
【連単倍率(単位:倍)】
売上高 1.9 -
1.9 -
1.8 -
1.8 -
営業利益 7.0 -
7.0 -
4.8 -
6.0 2.8 -
-
-
-
-
-
1.8 7.5 -
経常利益 - -
2.2 -
2.3 -
当期利益 - -
0.8 -
2.4 -
株主資本 0.9 -
1.0 -
1.0 -
1.0 -
1.0 -
総資産 2.0 -
2.0 -
1.9 -
1.8 -
1.8 -
【その他(単位:%)】 配当性向 株主資本配当率 -
45.1
649.6 -
2.1
1.0
1.8
1.2
-
26.6
20.6
43.4
34.0 -
1.7
1.2
1.4
1.1
表 2 三洋電機及び業界平均経営指標推移(日経テレコン:企業情報より入手)
8/17
1.3
1.2
2003 年 8 月 2 日
Eric & Brothers Co., Ltd.
ビジネスシステム応用研究(社会人大学院科目)
4.2.企業成長戦略
4.2.1.第 1 期:焼け跡派ベンチャービジネス
創業期の三洋電機を特徴づけるトピックスのひとつに、松下幸之助への師事が挙げられる。そ
れは、創業者である井植歳男が、姉の夫である松下幸之助が営むソケット工場で働き始めたこと
から始まる。体の弱い松下幸之助に代わり、松下電器の東京進出や COO として経営執行するこ
とで、経営者としての能力を獲得していった。終戦処理の一環として、GHQ が交付した財閥や軍
需産業の幹部に対する公職追放指令の対象となり、松下電器を去ることとなる。この辞職により、
井植歳男は三洋電機の創業に乗り出した。
井植歳男は、創業用の資金づくりのため、占領軍キャンプ向けの電気スタンドや一般家庭向
けのハウス・ライトを製造販売した。優れたデザイン性や当時の悪い電力事情など消費者ニーズ
を充足する商品力により、事業は成長していった。そして、看板商品となる自転車用発電ランプ
を開発した。工場建設を検討し始めたとき、松下幸之助より兵庫県加西市にある北条工場を譲り
受けた。工場を取得したことで創業基盤が整い、“焼け跡派ベンチャー”と呼ばれた三洋電機は
出航したのである。この後、本格生産を開始するにあたり、「ナショナル発電ランプ」という商標を
利用したことが、同社を OEM ビジネスに特化させる原点となった。
選択と集中の徹底
↓第三の創業期
9/17
二次電池や太陽光
発電の育成と金融・
流通サービスの開拓
プラザ合意による円高
不況↓第二の創業期
神武・
岩戸景気による
輸出・
個人消費の拡大
噴流式洗濯機を発売
↓﹁
洗濯機のサンヨー﹂
4.2.2.第 2 期:総合家電メーカーへの進出
発電ランプの欠陥商品事件
図 2 三洋電機の企業成長戦略
や守口工場の火災など、度重
なる試練を乗り越え、三洋電機
は成長していった。販売ルート
企業成長戦略
を松下電器から自転車業界の
世界中の人々にとって太陽のような存在
代理店開拓という直販に切り替
■独創的技術の開発
■優れた商品とまごころのこもったサービスの提供
えた。このとき培われた代理店
を大切にした姿勢は、事業の
第6期:中堅企業集団構想の推進
パートナーを尊重する理念へ
第5期:次世代事業の開発育成
と発展し、OEM ビジネスの成
第4期:三洋電機と東京三洋電機の合併
功要因になっている。その後、
第3期:東京三洋電機の設立と多角化
発電ランプ以外に主軸となる
第2期:総合家電メーカーへの進出
事業が必要だとの認識から、
第1期:焼け跡派ベンチャービジネス
民間放送が開始されたばかり
経営哲学:馬上行動(物事に取り組むには、人が歩くスピード
のラジオの製造を事業化した。
ではなく、馬に乗って走るスピードでないと世界との競争に勝てない
ラジオの製造で蓄積した技
術と価格破壊により、さらなる事業拡大に乗り出した。それは、「主婦を重労働から解放する」とい
う思いを反映した洗濯機の事業化である。丸型攪拌式から噴流式洗濯機への変更や低消費電
力の小型モーターの開発など徹底した研究開発により、従来製品の半額の高性能洗濯機を製
造したのである。その結果、月産1万台を達成し、トップを走っていた松下電器を抜いたことで、
「洗濯機のサンヨー」の名声が全国に広まったのである。この成功を契機に、三洋電機は「総合
家電メーカー」への道を歩むこととなる。
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4.2.3.第 3 期:東京三洋電機の設立と多角化
戦後の日本経済は、「神武・岩戸景気」と呼ばれる三年半にわたる好景気により、大きく成長し
ていった。輸出や個人消費の拡大に対応する形で、産業界の設備投資も活発化していった。三
洋電機も、その恩恵を受け、海外事業が順調に伸張する一方で、「三種の神器」と呼ばれるテレ
ビ、電気洗濯機、電気冷蔵庫が急拡大する黄金期を迎えていた。わずか 4 年で 30 倍の規模に
膨れ上がる需要の急拡大は、設備と人員、資金の不足という深刻な問題をもたらした。社会的な
インパクトで言えば、最近のパソコンや携帯電話の普及を大きく上回る規模であった。
この国内外で発生する需要の拡大に対応するため、群馬県にある戦時中使用されていた飛
行機工場を獲得に動いた。地元の積極的な誘致もあり、1959 年東京三洋電機は発足し、冷凍
機器応用部門、無線部門、半導体部門を中心に生産体制が確立された。この後、この2社は高
度経済成長の時代に、グループ内のよきライバルとして活動し、競争力の強化に大きく貢献した。
そして、事業内容の重複を前提として、事業の多角化を進めて行ったのである。
4.2.4.第 4 期:三洋電機と東京三洋電機の合併
第 4 期は、現会長の井植敏が第 4 代社長に就任した 1986 年 2 月以降となり、第 2 の創業期
とも言われている。折しも、前年の 1985 年は世界経済の歴史的転換点となった「プラザ合意」が
なされた年である。日本がアメリカへの貿易黒字を膨らませ、経済発展する一方で、アメリカは財
政と経常収支のダブルの赤字に悩まされるといった国際収支の不均衡が叫ばれていた。この年
を契機に高度経済成長は終わりを告げ、日本は混迷の時代へと突入するのである。
この時代に社長に就任した井植敏は、「プラザ合意」に生じる円高不況にも耐えうる企業体質
強化のため、大鉈を振るうことになった。当時の三洋電機は、国内で生産した商品を海外市場で
販売することで売上を形成しており、その構成比は 60.6%に達していた。また、お互いが競争す
ることで技術力を高めてきた三洋電機と東京三洋電機は、成長が鈍化してきたことで、生産拠点、
研究開発の重複や分散投資が目立ってきていた。そこで、事業の重複を避け、半導体などの戦
略的技術の研究開発への投資を集約するため、両社を合併することを決断したのである。その
前年には、石油ファンヒーター事件の処理をめぐる両社の対立を解決するためにも、合併が必要
だと考えたのである。この時にも、海爾集団公司との「包括的提携」で見られたスピーディーな経
営「馬上行動」が採られた。
4.2.5.第 5 期:次世代事業の開発育成
93 年には、研究体制を再編、研究開発本部と各事業本部の連携を強化し、新技術の早期商
品化を図るなど構造変革に取り組んだ。それは、同社がワープロ、パソコンには早々に見切りを
つけて撤退し、電話機などの情報通信機器に力を注ぐ「選択と集中」戦略で表される。現在の同
社を牽引する事業に成長した、世界シェア 30%に達するデジタルカメラや以前から収益の柱だ
った二次電池などは、この改革で生み出されたものである。
その後は、環境・CS 重視の経営施策「CS Focus 21」や三洋電機グループ環境行動計画
「ActionE21」など環境と顧客満足の向上を目指した経営政策を採っている。同社のコーポレー
トスローガン「人と・地球が大好きです」にあるクリーンエネルギーとマルチメディアの事業を積極
的に展開していく宣言と対応したものである。
10/17
ビジネスシステム応用研究(社会人大学院科目)
2003 年 8 月 2 日
Eric & Brothers Co., Ltd.
4.2.6.第 6 期:中堅企業集団構想の推進
現在、同社は収益構造と事業構造、組織構造の変革を進めている。一つ目の収益構造の改
革は、モノづくりで営業利益の 6 割を稼ぎ出し、残りの 4 割を金融、流通サービスの 2 分野で二
分する収益構造を目指す“箱船経営”である。これは、中国の台頭により日本の製造業が崩壊し
ても、企業として存在できるよう収益構造を変革することを意味する。二つ目の事業構造の変革
は、マーケットシェア NO.1 戦略である。ブランド力が弱いとされてきた同社が、OEM により市場
シェアを獲得することで、高い技術力をベースとした企業ブランドの確立を目指したものである。
三つ目の組織構造の変革は、ビジネスユニット制による危機意識の醸成とスピード化である。海
爾集団公司では、従業員ひとりひとりにまで P/L だけでなく B/S、CF の目標値をブレイクダウンし、
個人の評価がなされる。三洋電機でも、今年度より B/S・P/L・CF だけでなく、三洋版 EVA により
ビジネスユニット単位での評価を採用した。この制度により社内にも競争環境をつくりだし、中国
企業と対等に競争できる企業体質を目指している。この 3 つの変革を通して、グローバルな競争
時代に生き残れる経営基盤を作り出そうとしているのである。
4.3.セグメント分析
白物家電及び同社の特徴的な製品を PPM 上に落とし込んだのが下図である。“金のなる
木”にプロットされる同社の主要な収益源は二次電池となる。高い市場シェアを誇り、高い市場成
長率を実現する“スター”にはデジタルカメラが、次の“スター”へと成長させていく“問題児”には
液晶プロジェクターがプロットされる。年度により成長率は多少上下するが、掃除機や冷蔵庫など
の白物家電は三洋電機の中では“負け犬”に属することになる。第 5 期までは、テレビや冷蔵庫
などの白物家電が、“金のなる木”に位置し、そこで生み出されたキャッシュが様々な事業へと投
入されていたと考えられる。90 年代以降採られた選択と集中の戦略により投資されたデジタルカ
メラや二次電池、太陽光発電はバランスよくプロットされていることから、企業の持続的な成長を
可能にしたこの事業展開シナリオは評価に値すると考えられる。
次世代事業の育成という役目を終えた白物家電は、本来であれば撤退もしくは売却されるべ
き事業といえる。しかし、グローバルな視点でこの市場を捉えると、高度経済成長を経て、都市部
は近代生活が浸透した中国市場など成長の余地は残されているといえる。もっとも有力候補であ
る中国市場は、先進国メーカーの進出と現地メーカーの躍進など非常に厳しい競合関係にある
といえ、その対策により結果が大きく異なると考えられる。三洋電機は、中国の最大手家電メーカ
ーである海爾集団公司との「包括的提携」により、中国市場進出へのプレミアムチケットを手に入
れたことになる。この提携により、右下にプロットされていた事業を撤退及び売却するのではなく、
“スター”のポジションへ再生しようという三洋電機の戦略が見られる。(次ページに図 3: 三洋電
機のポートフォリオマトリックス図)
11/17
2003 年 8 月 2 日
Eric & Brothers Co., Ltd.
ビジネスシステム応用研究(社会人大学院科目)
13 0 . 0 %
☆
☆ ((ス
スタ
ター
ー ))
?
? ((問
問題
題児
児 ))
12 0 . 0 %
テレビ
11 0 . 0 %
V TR
冷 蔵庫
2 0 0 .0 %
1 5 0 .0 %
洗 濯機
10 0 . 0 %
1 0 0 .0 %
5 0 .0 %
0.0%
エアコン
掃 除機
二 次電 池
90 . 0 %
プ ロ ジェク ター
携 帯電 話
80 . 0 %
$
木 ))
$ ((金
金の
のな
なる
る木
太 陽光 発電
×
犬 ))
× ((負
負け
け犬
70 . 0 %
デ ジ タルカメ ラ
図 3: 三洋電機のポートフォリオマトリックス図
4.4.垂直価値システム、価値曲線と海爾との提携
今回の三洋電機との海爾集団公司との「包括的提携」における垂直価値システムは右図の通
りである。日本市場における垂直価値システムの流れは、消費者の需要に近いマーケティングや
製品開発、販売、サービス・顧客対応を三洋電機が、生産物流を海爾が担うことで成立する。こ
のシステムの成立条件は、三洋電機が顧客情報や開発技術において優位性を保持できることと
いえる。また、中国市場における垂直価値システムの流れは、日本とは異なる。それは、最も川
下の部分である販売やサー
垂直価値システム in Japan
ビス・顧客対応を海爾のシス
マーケ
原材料
サービス
製品開発
生産
物流
販売
ティング
調達
顧客対応
テムを活用するところである。
計画
今後、三洋電機は中国市場
マーケ
において、海爾の42の直轄
原材料
サービス
製品開発
生産
物流
販売
ティング
調達
顧客対応
計画
販売会社と 9000 の取扱店、
垂直価値システム in China
24 時 間 365 日 体 制 の
S A N Y O H A I E R S A N Y O サービス
顧客対応
H A I E R サービス
顧客対応
マーケ
11,900 のサービス拠点が利
原材料
製品開発
ティング
調達
計画
用可能となる。この販売網は、
構築に多大な投資と時間を
マーケ
原材料
要するため、他の日本メーカ
製品開発
ティング
調達
計画
ーや先進国メーカーに対し
て圧倒的な競争優位となる
図 4 垂直価値システム
であろう。
12/17
生産
生産
物流
物流
販売
販売
2003 年 8 月 2 日
Eric & Brothers Co., Ltd.
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コンサルティング
アプリケーションソフト
サービス
物
流
生
産
モジュラー生産
設
計
新製品開発
高い 付加価値
低い
次に、この価値システムに付
加価値の量を表したものが価
値曲線(スマイルカーブ)となる。
今回の提携に対して、競合家
電メーカーは静観しているが、
300 億円分の国内市場を「譲り
渡す」のと引き換えに、1,000
億円もの中国市場を新しく手に
入れると敏章社長はしたたか
な戦略を描く。三洋電機には、
sanyo
haire
sanyo
今回の提携で入り口と出口を
図 5 三洋とハイアールのスマイルカーブ
押さえることで、提携を有利に
進めていこうという戦略が見ら
れるが、現状では実際に機能しているとはいえない。需要が分散傾向にある日本国内というより、
高度経済成長過程にある中国市場での三洋電機の展開に注目する必要がある。
5. 提携戦略の評価
5.1.提携の目的
海爾と三洋電機の提携を考える前に、一般的に中国での販売、生産におけるに日中企業の
優位性を比較してみよう。
表 3: 中国市場における日本企業と中国企業の優位性
中国企業
日本企業
販売力
○
△
中国市場のビジネスルール
○
△
代金回収のノウハウ
○
△
米国流の人事管理システム
○
△
技術力
△
○
生産管理力
△
○
さて、両者の提携内容の概要は次のとおりである2。
(1) ハイアールの強い販売網を活用しての三洋商品の三洋ブランド、ハイアールブランドで
の中国市場での販売
(2) ハイアールブランド商品の日本市場での販売と合弁会社設立
(3) 製造拠点での協業の推進
(4) 三洋のキーデバイス(基幹部品)のハイアールへの技術協力と供給拡大
この提携における両者のメリットを考えてみよう。三洋電機が海爾と提携した理由も、上表にあ
てはまるものがある。第一点は、海爾の中国における販売、サービス網の優位性である。三洋電
機はこれを通じて巨大な中国市場に自社ブランド製品を販売することが期待できる。第二点は、
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2003 年 8 月 2 日
Eric & Brothers Co., Ltd.
ビジネスシステム応用研究(社会人大学院科目)
三洋電機側の技術的優位性である。海爾に対して部品、キーデバイスを供給することで三洋ブ
ランドの家電製品以外でも実質的に市場拡大できる。
一方、海爾は三洋電機と提携することで日本における販路を開拓することができる。三洋電機
からの技術ノウハウ吸収も期待できる。日本で製品を販売するによる、中国におけるブランドイメ
ージ向上も期待できる。
しかし、両者の製品は、市場において競合する部分も多いように思われる。両者がなぜ提携に
至ったのか、もう少し詳しく見ていきたい。
まず、海爾の強みを製品軸で見ると、中国市場において洗濯機、冷蔵庫で台数シェア1位、エ
アコンは3位である。それに比べるとカラーテレビは振るわない(いずれも 2001 年)3。
26%
39%
洗濯機
10%
1%3%
4% 4% 5%
8%
13%
10%
55%
エアコン
8%
4%
3%
3%
2%2%
海爾
小天鵝
栄事達
松下
金羚
新楽
楽金熊猫
中迪
その他
美的
格力
海爾
サムスン
海信
シャープ
飛達仕
春蘭
その他
24%
23%
2%
2%
3%
3%
4%
冷蔵庫
16%
7%
8%
8%
13%
13%
45%
カラーテレビ
10%
3%3%3% 4%
6%
海爾
科龍
新飛
サムスン
美菱
中意
シャープ
ボスコ
華意
澳柯瑪
その他
TCL
長虹
創維
海信
華僑電子
康桂
東菱
海爾
その他
図 6: 中国家電品生産台数シェア(2001年)
一方の三洋電機はポートフォリオ分析で見たようにテレビ、ビデオ等のAV・情報通信機器セ
グメントが好調であるのに対して、白物家電を扱う家電機器セグメントはジリ貧状態であり、市場
からの撤退を検討するべき状態と言える。ただし、ドラム式洗濯乾燥機や蒸し物ができるオーブ
ンレンジ等、個性的な高機能商品を市場に投入しており、一定の製品開発力を有している。(次
ページに表 4: 個性的高機能製品 )
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ビジネスシステム応用研究(社会人大学院科目)
2003 年 8 月 2 日
Eric & Brothers Co., Ltd.
表 4: 個性的高機能製品
製品の分類
特徴
発売年月日
洗濯機
世界初、「電解水*1 パワー」で「洗剤ゼロコース」を実現し 2001 年 8 月 1 日
た全自動洗濯機
洗濯乾燥機
ドラム式とタテ型のメリットを両立させた、業界初上から開 2002 年 6 月 1 日
く「トップオープンドラム」採用のドラム式洗濯乾燥機
オーブンレンジ
業界初、こげ目がつく赤外線フラットオーブンレンジ
オーブンレンジ
業界初本格蒸し料理ができる赤外線フラットオーブンレン 2003 年 3 月 1 日
ジ
2002 年 3 月 1 日
双方の製品軸での強み、弱みを合わせてみると、この提携の意味合いが見えてくる。三洋電
機は、中国市場における海爾の販売、サービス網で自社ブランド品を販売したいと考えているが、
両者の利害が一致する主なターゲットは、海爾が市場で苦戦しているAV機器であろう。白物家
電については海爾が既に市場で存在感を発揮しているので、三洋ブランド製品のターゲットは、
個性的な高機能商品である。日本市場においてはどうだろう。海爾の普及価格帯の製品は三洋
電機製品の市場を奪うのではないだろうか。この点については、三洋電機側の割切りが見え隠
れしている。ポートフォリオ分析で見たように、三洋電機の白物家電は既に利益貢献していない。
現状では失うものはなく、電化機器セグメントが生き残るためには中国市場での販売、サービス
網を他者に先駆けて確保する必要があったのである。
以上のような製品の棲み分けに加えて、三洋電機の経営方針に言及しておきたい。三洋電機
では 2005 年を目処に、モノ作りで営業利益の6割をあげ、残りの 4 割を金融と流通サービスの二
分野で上げる収益構造を目指している。セグメント別の営業利益のうち「その他」セグメントが無
視できない大きさになっているのはこのためである。金融を手がける「三洋クレジット」の営業利益
は「その他」セグメントの15%程度を占めている。海爾製品の販売を行う「三洋ハイアール」も「そ
の他」セグメントに分類されており、広い意味での流通事業と捕らえることもできるだろう。
また、モノ作りにおいては、「自社でも先端の製品開発を続けるモノ作りコンサルタント」を目指
している。海爾との提携によって、中国よりも常に技術的に数年先を歩き続けねばならい状況に、
自らの電化機器事業を追い込んだとも言える。
5.2.現状評価と今後の課題
三洋電機と海爾の提携戦略は、構想としては Win-Win の結果を導き得る要素を含んでいる
が、そのオペレーションは緒に着いた段階である。現時点で三洋ハイアールが日本国内で大手
家電メーカと伍すに至っていないことを捕らえて云々しても意味がない。結果としての評価を行う
段階ではないのである。従って、今後の課題から考察を始めることにしたい。
課題の一点目として、三洋電機が海爾に対して技術的優位性を保ちつづけることを挙げる。
三洋電機にとっては、海爾との提携はモノ作りコンサルタントの試金石である。また、海爾にとっ
ては、AVなど遅れている分野や、高品質を要求する日本の消費者に受け入れられ商品を開発
するためのノウハウを得られることに意味がある。三洋電機の技術的優位性がなくなれば、ハイア
ールが期待するものの柱のひとつが失われることになる。三洋電機としても、部品とキーデバイス
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ビジネスシステム応用研究(社会人大学院科目)
2003 年 8 月 2 日
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を海爾に供給することで舞台裏から中国市場に展開する構想が崩れてしまう。
第二点は、海爾製品が日本市場で認知されることである。松下電器産業、東芝をはじめ、日本
の家電市場は既にプレーヤーの位置付けが概ね固まった成熟市場である。この市場で存在感
を発揮することは易しくない。三洋電機が持つ普及品クラスの市場を譲り受け、コスト優位戦略を
展開することはひとつの選択肢である。しかし、三洋ハイアールはコスト優位は狙っていないよう
である。現時点では、中型の 1 ドア冷蔵庫やワインセラーなど、ニッチ市場で独自優位性を狙お
うとしている。この背景には、日本国内においてブランドイメージで不利な戦いを強いられてきた、
三洋電機の経験がある。三洋電機には日本の大手家電量販店への販路、流通のノウハウがある。
三洋ハイアールが家電流通のプレーヤーとして海爾製品の販売に貢献することが、海爾製品が
日本市場に認知されるための必須条件である。海爾として、商社ではなく電機メーカと提携したメ
リットが得られることが流通面でもなくてはならない。
同様に、三洋電機製品が中国市場において認知され、シェアを確保することが第三点である。
以上三点の課題をクリアするため、共通の問題となるのが三洋電機の電化機器セグメント製品
(白物家電)である。先端製品を開発するモノ作りコンサルタントを目指し、海爾製品との棲み分
けを行うには、三洋電機の白物家電は高付加価値製品に特化しなくてはならない。これは、普及
機市場からの退出を意味する。2003 年 3 月末現在、三洋電機本社の電化機器セグメントには 9
千人以上の人員が属している。販売会社である三洋セールスアンドマーケィング等を加えれば、
電化機器に関わる人員が更に増える。高級機に特化した事業では、これだけの人員を維持する
ことはできない。当該事業分野の再編は必死であり、その成否は海爾との提携関係にも影響す
る。将来的には、電化機器セグメントの海爾への売却もありえるのではないか。
視点を現在に戻そう。最終製品においては日本市場、中国市場とも両者のブランド相互乗り入
れの成果は今後如何であるが、三洋電機から海爾への部品供給、ノウハウ提供は形になって現
れている。海爾ブランドの冷蔵庫向けに三洋電機がコンプレッサを供給するための工場建設(青
島)、三洋ハイアールが販売する冷蔵庫の共同開発である。短期的に見れば、三洋電機側の貢
献度が高い。
三洋電機をハイアールの提携は、双方トップの決断によって短期間で決定した。トップ同士の
価値観の一致はあったにせよ、いまだ、腹の探り合いとも思える。
提携の成否を議論するには、今後の動向を見守らねばならない。
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2003 年 8 月 2 日
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引用文献及び参考文献
第一章、第二章
<引用文献>
1 安室憲一(2003.5.19)「中国企業の競争力」日本経済新聞社 pp40
<参考文献>
サーチナ総合研究所 (2003)「一目でわかる中国有力企業と業界地図」 日本実業出版社
富士通総研中国ビジネス研究会 (2003)「中国市場で勝ち残る法則」 ソフトバンクパブリッシン
グ株式会社
安室憲一 (2003)「中国企業の競争力」 日本経済新聞社
日経ビジネス編集部 (2002)「気がつけば中国が「世界の工場」」日経 BP 社(2002)
河合良一他 (1994)「中国ビジネス徹底研究」中央公論社
第三章
<参考文献>
莫邦富 (2002)「日本企業がなぜ中国に敗れるのか」新潮 OH!文庫 pp16-37,pp264-271
欧陽桃花 (2001)「海爾集団−中国家電企業の高始点経営」 KOBE BUSINESS SCHOOL
日経ビジネス 2000 年 11 月 27 日号 pp47-49
日経ビジネス 2002 年 1 月 21 日号 pp12-13
週間ダイヤモンド 2002 年 2 月 2 日号 pp86-88
第四章
<参考文献>
大富敬康 (年)SANYO 井植敏の「馬上行動」組織革命 講談社
週刊ダイヤモンド 2003 年 06 月 28 日号 pp58-59
日経ビジネス 2002 年 10 月 14 日号 pp28-29
松井睦著 (2000.2001) 「有望企業がわかる 業界シェア&市場規模」日本実業出版
日経ビジネス 2002 年 10 月 14 日号 pp30-31
第五章
<引用文献>
2 三洋電機ホームページのニュースリリース、2002 年 1 月 8 日
http://www.haier.com/english/investor/annual_report1.html
3 富士通総研中国ビジネス研究会「中国市場で勝ち残る法則」 ソフトバンクパブリッシング株式
会社 p142
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