1 結核と歩んで60年 学んだこととこれからの展望 島尾忠男 結核予防会顧問 2010・11 2 結核菌と人の力比べ 結核は弱者の病気 3 化学療法開発までは 結核は不治の病 それでも菌陽性肺結核の 半数近くは自然に治癒 結核菌と人体の抵抗力のバランス 排菌している肺結核患者の自然の経過 4 (インド国立結研の観察) 100 90 80 70 % 60 菌陰性 菌陽性 死亡 50 40 30 20 10 0 0 1.5 3 観察開始後の年数(年) 5 5 人と結核菌の力比べ • 最初に結核にうつった時には、10-20%が発病、 その半数がうつってから1-2年以内 • 軽い結核は自然に治ってしまう人も多い • 痰を調べて結核菌が出るような病状になると、 自然に治るのは困難 • 薬がない時代、5年たつと患者の半数は死亡した が、3割くらいは自然に治癒 • このような人と結核菌の力のバランスが、薬の ない時代にも、清浄な空気、栄養、安静を中心 とする自然療法で人体の抵抗力を増強し、結核 と戦うことを可能にしていた • 有効な薬の出現で、人が圧倒的に有利に。菌は 病巣内での休眠、薬剤耐性化などで対抗 6 大気安静栄養を軸とする 自然療法 ヒトの抵抗力を強めて 自然治癒を期待 7 結核は弱者の病気 • 結核菌と人の抵抗力のバランスが微妙なので、 抵抗力が弱い人(弱者)が発病する • 生物学的な弱者(結核菌に対する抵抗力が弱い 人);糖尿病、透析治療を受けている人、副腎 皮質ホルモンなどの免疫抑制作用を持つ薬剤を 使用している人、大きな手術を受けた後の人、 HIV(エイズウイルス)に感染している人など • 社会的な弱者:住居、栄養などに恵まれていな い階層、貧しい階層、最近はホームレス,都市 のスラム居住者など それなのに、なぜ結核は戦前から昭和20年 8 代まで日本で強く蔓延していたのか • 結核を制圧する有効な手段がなかった(BCG接種 の実用化は昭和10年代末期、間接撮影での検診は 昭和10年代中ごろ,外科療法は昭和20年代、化学 療法は昭和20年代後半) • 富国強兵政策のため、日本人の大半が社会的弱者 • 産業の振興(まず生糸、繊維産業、ついで重工 業)がもたらした都市人口の増大、厳しい労働 • 農村の疲弊、荒廃:小作農が多く、農業で自立が 困難、出稼ぎ • 軍隊、高等教育を受ける学生、工場労働者などで 青年(その多くがBCG未接種、栄養の偏りなどの ため生物学的な弱者)を中心に結核多発 9 日本の性別にみた結核死亡率の推移 (1899-2000) 350 Mortality per 100,000 300 第1期 1 第2期 第3期 第4期 第5期 250 200 150 100 50 0 Total Male Female 10 弱者は戦争、災害、インフルエンザの 大流行などに弱い • 結核患者は弱者 • 戦争、災害、感染症(例えばインフルエンザ) の大流行などに、弱者は弱く、患者も一時は増 加するが、生き残れず、多くのものが死亡する • その結果として、戦争、大災害、感染症の大流 行などの後には、結核の蔓延状況は改善される 5 0 5 0 5 0 5 0 5 0 5 0 5 0 5 0 5 0 5 0 5 0 189 190 190 191 191 192 192 193 193 194 194 195 195 196 196 197 197 198 198 199 199 200 Ra te p er 10 0 ,0 00 TB 11 結核,肺炎,事故による死亡率の推移 400 350 300 250 200 150 100 50 0 Pneumonia Accident 12 流行性感冒、急性気管支炎、肺炎・気管支肺炎、結核死亡数 の月別の動向 1000000 100000 流感 急気 肺炎 総計 肺結核 全結核 1000 100 10 1 1917 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1918 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1919 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1920 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 死亡数 10000 13 1918,1919,1920年の年齢階級別 流感関連疾患死亡率 2000 1800 1400 1200 1918 1919 1920 1000 800 600 400 200 総数 80 70 60 50 40 30 20 10 0 0 死亡率(10万対) 1600 14 1923年の事故死亡率と1922年から1924年の 結核死亡率増減率の府県別に見た相関 1922年 か ら 1924年 の 結 核 死 亡 率 増 減 率 (%) 15 10 5 0 -5 -10 総数 -15 千葉 -20 -25 東京 神奈川 -30 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1923年の事故死亡率(10万対) 1000 1100 1200 1300 15 20世紀前半の府県別結核死亡率の推移 600 500 300 200 100 18 16 14 12 10 8 6 4 S2 14 12 10 8 6 4 T2 44 42 40 38 36 34 32 0 M 10万 対 率 400 北海道 東京 滋賀 香川 青森 神奈川 京都 愛媛 岩手 新潟 大阪 高知 宮城 富山 兵庫 福岡 秋田 石川 奈良 佐賀 山形 福島 福井 山梨 和歌山 鳥取 長崎 熊本 茨城 長野 島根 大分 栃木 岐阜 岡山 宮崎 群馬 静岡 広島 鹿児島 埼玉 愛知 山口 沖縄 千葉 三重 徳島 総数 16 日本SM使用開始 米国SM使用開始 第二次大戦終了 日本でBCG開始 第二次大戦開始 第二次世界大戦前後の結核死亡率の推移 250 日本 200 沖縄県 150 米国 100 フランス イングランド・ウ エールス オランダ 50 0 3 19 スエーデン 5 4 19 0 4 19 5 5 19 0 55 9 1 6 19 0 17 日本の結核対策成功の要因 結核対策に使える手技の開発 それらを応用した国を挙げての対策の実施 18 結核対策に使える手技開発の歴史(1) • 1882:コッホ結核が結核菌によって起こる病気であるこ とを報告 • 1883:結核菌塗抹検査法としてチール・ネールゼン法を 発表 • 1895:レントゲンX線を発見 • 1908:Mantoux, Mendelツ皮内反応を発表 • 1908-20:カルメットとゲランがBCGワクチンを開発、 1921年に最初の人体投与(経口法) • 1920:胸部X線診断が実用化 • 1936:古賀良彦とde Abreuが独立してX線間接撮影法を 開発し、集団検診が可能となる • 1938-43:日本でBCG接種の効果を共同研究し、有効で あることを確認、1942年から使用開始 19 結核対策に使える手技開発の歴史(2) • 1944:ワクスマンがストレプトマイシン(SM)を開発 45年から米国で臨床応用開始、日本で製造開始は1949年 • 1946:レーマンがパス(PAS)の抗結核菌作用を発見 • 1940年代後半:人工気胸療法が盛んに行われる • 1949:日本がBCGワクチンの凍結乾燥、大量生産に成功 • 1950:イソニアジド(INH)の抗結核作用が判明 • 1950年代前半:肺結核外科療法が全盛の時代 • 1950年代後半:INH, SM, PASの併用で多くの肺結核が治 ることが判明、二次抗結核薬の開発が続く • 1957:梅沢浜夫カナマイシン(KM)を開発 • 1966:センシがリファンピシン(RFP)を開発 • 1970年代:フォックスらが短期化学療法開発に成功 結核予防法の制定 本格的な結核対策の実施 20 • 1951年に結核予防法を制定、3本柱は①健康診 断,②予防接種、③適正医療の普及 • その狙いは、進んだ結核病学の恩恵を、都会と 郡部、貧富の差なく、全国民に普及すること • 健康診断:早期発見による感染の防止 • 予防接種:BCG接種で免疫を付与し、生物学的 な弱者をなくする • 適正医療の普及:結核による死亡の防止、患者 を治すことで、社会の中での結核感染の連鎖を 切断 21 結核対策を全国民に普及する手段 • 健康診断と予防接種は、全国民を①学校の児童 生徒、②事業所に勤める者、③その他の一般住 民に分け、①学校長、②事業主、③市町村長を 実施責任者として推進 • 高い受診率を得ることが困難な市町村住民では、 婦人会などの地域組織が受診促進に協力 • 適正医療の普及には、開業医を含む日本の医療 体系に結核の診療を依託 • 結核医療の規準を制定し、新しい治療を積極的 に採用 • 経費には公費負担制度を導入し、経費の一部か ら全部を補助(今年が国民皆保険50年) • 1961年に患者の登録、管理制度を導入 22 1920,1940,1960,1980,2000の年齢階級別 結核死亡率(10万対) 700 600 10万対率 500 400 300 200 100 0 0 5 1920(223.7) 10 15 20 25 1940(212.9) 30 35 40 45 1960(34.2) 50 55 60 1980(5.5) 65 70 75 80 2000(2.1) 23 日本の結核疫学指標の推移 Rate (per 100,000) 10000 1000 死亡率 全結核罹患率 塗抹陽性肺結核罹患率 有病率 100 10 19 45 19 50 19 55 19 60 19 65 19 70 19 75 19 80 19 85 19 90 19 95 20 00 20 05 20 10 1 全結核罹患率の減少速度は1970年代後半から鈍化、最近は再び加速 塗抹陽性肺結核罹患率は最初20年微増、最近やっと減少傾向 24 日本の年齢階級別全結核罹患率の推移 1000 0-14 15-19 20-29 30-39 40-49 50-59 60-69 7080Total 10万 対 率 100 10 1 2010 2005 2000 1995 1990 1985 1980 1975 1970 1965 1960 0.1 日本の罹患率は欧米先進国に比しかなり高く、未だ中進国だが、小児の 結核罹患率はBCG接種の普及により、世界最低。 25 日本の年齢階級別塗抹陽性 肺結核罹患率の推移 60 100 50 10 40 30 1 20 0.1 10 0 20-29 80- 30-39 Total 40-49 50-59 塗抹陽性肺結核罹患率は、70歳以上1990年代初期までが上昇したため、その 影響でほとんど低下せず、減り始めたのは最近10年間 2010 15-19 70- 2005 0-14 60-69 2000 1995 50-59 1990 40-49 1985 2000 30-39 Total 1980 1995 20-29 80- 1975 1990 15-19 70- 2010 1985 0-14 60-69 2005 1980 1975 0.01 26 総医療費、結核医療費と総医療費中の 結核医療費の割合の推移 10 総医療費A 結核医療費B B/A(%) 1 0.1 2 00 5 2 01 0 2 00 0 1 99 5 1 99 0 1 98 5 1 98 0 1 97 5 1 97 0 1 96 5 1 96 0 1 95 5 0.01 1 95 0 医療費(10兆円) 100 日本の結核対策成功の要因 27 国、地方自治体、企業体、地区組織各々役割完遂 • 国:対策の立案、修正、必要な予算の整備 • 地方自治体:保健所の設置、運営、法に基づく 実施計画の策定、予算の整備、普及広報活動 • 企業体:公社、民間を含めて、対策を強力に実 施(初期には年2回の健康診断、病床の整備) • 医師会:結核診療を担当 • 地区組織:婦人会、衛生自治組織、青年団など が健康診断や予防接種に実施に協力 • 背景に日本の急速な復興、識字率の高さなど 28 先達の仕事の偉大さ 国内:岡治道、隈部英雄、小林義雄、千葉保之・ 所沢政夫、古賀良彦、今村荒男、山村雄一、 BCG乾燥ワクチン製造、結核実態調査 外国:Sir John Crofton, Prof. Wallace Fox 29 岡治道 (東京市療、結核研究所、東大教授) 結核初期変化群の病理解剖学的研究 結核初感染発病学説の完成 結核症の構成 30 結核初期変化群の病理学的な観察 • 結核初感染時にみられる肺内の初感原発巣と所 属リンパ節病変を併せて結核初期変化群という。 結核初感染の形態学的な証拠 • 初感原発巣は大きさが数mmのものが多く、発 見は容易でない • これを剖検材料から丹念に探求、所属リンパ節 病変を先に見つけて、その部位から初感原発巣 を探すと見つけやすいことに気付く 31 年齢別に見た初期変化群の見られる頻度とその性状 (岡治道の剖検肺での観察) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 0-14 15-25 26-50 51乾酪性 白亜化 石灰化 この成績から、日本では青年期に結核の初感染を受け、 その後急速に発病、進展するものが多いと推定 32 岡治道著「結核病論・上 巻」1950年,永井書店、 大阪 より作成 33 隈部英雄 (東京市療、結核研究所、予防会本会) 胸部エックス線写真読影の基礎 (トレース法の開発) 乾酪巣内の結核菌の生態の研究 トレース法 34 胸部エックス線写真所見読影の基礎 • 剖検前に、気管に空気を注入し、栓をして肺を膨 らませ、動脈からフォルマリンを注入して固定 • 固定後胸部臓器一括して摘出し、縦断面で厚さ 1cm弱の薄片20枚前後の連続薄片に薄切り • 各断面にガラス板を重ね、見える血管、気管支、 病変を描写し、それを更にセロファン紙に描画 • 各断面の気管支、血管、病巣を前後の断面と連結 することで、気管支や肺の血管の走り方を立体的 に把握 • これをエックス線写真と比較することで、影から 実態の推定が可能となる 35 図1.A氏(20歳男)の 生前の胸部エックス線 所見 左肺には上野に空洞が あり、上中野に広範な 病巣があり、右肺にも 中野に空洞があり、上 野に浸潤巣がみられる 隈部英雄著「肺結核症 のエックス線読影」Ⅴ -2、慢性肺結核症、 1954年 文光堂、東京 より引用 36 図2.A氏(20歳男)の剖 検肺のエックス線所見 左肺上野、右肺中野に空洞 があり、両側肺に広範に病 巣が散布している 隈部英雄著「肺結核症の エックス線読影」Ⅴ-2、 慢性肺結核症、1954年 文 光堂、東京より引用 37 図3.A氏(20歳男)の剖 検肺の背側数枚のトレー ス所見を重ねたもの 左肺上野には空洞がある 隈部英雄著「肺結核症の エックス線読影」Ⅴ-2、 慢性肺結核症、1954年 文光堂、東京より引用 38 図4.A氏(20歳男)の剖 検肺の肺門から後方のト レース所見を重ねたもの 左肺上野には空洞がある 肺動静脈、気管支の立体構 造を知ることができる 隈部英雄著「肺結核症の エックス線読影」Ⅴ-2、 慢性肺結核症、1954年 文 光堂、東京 より引用 39 図5.小児剖検肺のト レース所見を重ねたもの 肺動静脈、気管支の立体 構造を知ることができる 肺門部のリンパ節の腫脹 の状況も知ることができ る 隈部英雄著「肺結核症の エックス線読影」Ⅲ、初 感染結核症、1954年 文 光堂、東京 より引用 40 図6.胸部エックス線所見(右)とそのスケッチ画像(左) 右上野に空洞を伴う浸潤巣があり、左上中野にも散布巣がみられている 厚生省(結核実態調査Ⅰ」、1955年 結核予防会、東京 より引用 41 病巣内の結核菌の生態を観察 • フォルマリン固定肺では、通常の染色では病巣 内の結核菌は染色されないが、アニリン水を用 いる方で染色が可能になる • この方法を用い、種々の結核病巣内の結核菌の 生態を観察 42 図8. 結核巣の治癒、再燃と病巣内の 結核菌の染色性、形状の変化 病状 活動性 被包化 治癒 乾酪巣に 亀裂 乾酪巣 崩壊 病巣内の結 核菌の性状 抗酸性 桿菌 グラム陽 性顆粒 塗抹陰性 グラム陽 性顆粒 抗酸性 桿菌 初感原発巣内の菌は抗酸性桿菌からそのまま塗抹陰性化 初感染後早期の転移巣内の菌は、抗酸性桿菌からそのまま陰性化 する場合と、グラム陽性顆粒となり,陰性化する場合あり 初感原発巣が治癒する際の石化化は均等に、早期転移巣の石灰化 は不均等に起こる (隈部英雄:乾酪巣内の結核菌の生態、 1949年、保健同人社から引用) 43 小林義雄 (海軍軍医) 海兵を対象にツベルクリン反応検査を実施 陽転者から高率に胸膜炎、肺結核が発生する ことを確認 44 図2. 海兵を対象としたツ反応浸潤径の分布 (小林義雄) 700 600 対象数 500 400 300 200 100 0 0 ’1-4 ’5-9 '10-14 浸潤経(mm) 15-19 20- 45 地域別に見た海兵昭和2年度徴兵検査時 (19歳)のツ反応陽性率、推定年間感染率 85.1 東京・大阪 4大都市のある県 東北 関東・甲信越 北陸・岐阜 関西 中国 四国 66.9 56.5 55 41.2 71 63.1 61.6 54.5 48 九州 総計 60.7 56.1 56.2 10 20 30 40 50 推定年間陽転率(千対) 70.1 65.5 60.1 0 95.3 60 69.2 66.6 66.7 70 80 ツ反応陽性率(%) 90 100 表1. 毎月または3ヶ月毎にツ反応検査を行い、 46 ツ反応が陽転した65名からの結核発生状況 (海兵での小林の観察) 発病数 臨床的な発病 5 胸膜炎 5 摘要 粟粒結核 1 7.7% 滲出性胸膜炎 2 肛囲膿瘍 2 胸膜炎のみ 3 7.7% 肺所見合併 2 Ⅲ型のみ 5 胸部エックス線 10(13) 所見 Ⅲ+H 4 15.4%(20%) H 1、Plのみ 肺野、肺門の異常所見10例、胸膜炎のみを3例を加えると合計13例 3 47 表2. ツ反応陽転後早期の胸膜炎発病例 (海軍での1927年6月から1931年6月までの観察、小林義雄) 群 ツ反応と胸膜 ツ反応陽転と胸 別 炎発病との関 膜炎発生との関 係の調査法 係 症例 数 ツ反応陰 性から陽 性までの 期間 ツ陽性か ら発病ま での期間 ツ陰性か ら発病ま での期間 ツ陽転から 発病までの 潜伏期間 1 ツ陽転後に胸 毎月から隔月に ツ反 膜炎発病 3 20、95、 21日 70、35、60 日 90,130,81 日 80、82、75 日 2 21月 22日、11月 22-32月 <22月 22日> 20月間隔 3 67日、12月、 <67日 120日 8 2-27月 < 2月 14 5-29月 <5月 3 同上。胸液か 胸液の培養で結 ら結核菌検出 核菌陽性 4 13-29月 < 2月 4 ツ陰性健康者 普通型滲出型軍 に胸膜炎発症 隊胸膜炎を結核 性と認定 74 2-33月 < 2月 67日-33月 ツ陽転後2- 3月 2 当初ツ陰性者 発病直後にツ反 に胸膜炎発症。検査 その後ツ陽性 経過中にツ反 を確認 経過後にツ反 合 計 20日--21月 108 22日-11月 48 図4. 海軍での当初ツ反応成績別にみた胸膜炎 発生時期の比較(1927-1931年、小林義雄) 25 割合(%) 20 15 10 5 0 3 6 9 12 15 18 21 24 27 30 33 36 39 42 観察開始後の月数 当初ツ陰性(108例) 当初ツ陽性(86例)」 45 48 49 千葉保之,所沢政夫 (国鉄保健管理所) ツ反応検査で発見した陽転者を エックス線検査で追跡 結核発病の様相を解明 図5. 50 1941年当時の東京地区国鉄職員の結核の状況 (国鉄職員19,358名での観察) ツ反応陽性率・男 ツ反応陽性率・女 結核有病率・男 結核有病率・女 10 55 - 4 5 0 -5 9 3 5 -3 9 4 3 0 -3 4 5 -4 9 2 5 -2 4 4 2 0 -2 4 0 -4 9 1 5 -1 -1 4 1 ’ 10 率(%) 100 51 図6. ツ反応陽転時のツ反応の強さと結核発病率 (ツ反応を3-4カ月毎に行った群での観察) 水泡-二重肺門リンパ節腫脹(H) 双極性浸潤 初期浸潤 胸膜炎(Pl)のみ Pl+H Pl+双極 Pl+初期浸潤 Pl+粟粒結核 水泡-二重+ 水泡+二重- 水泡+二重+ 総数 0 5 10 15 20 発病率(%) 25 30 52 図7. 季節、感染源有無別ツ反応陽転率と 陽転者からの発病率 (1941年国鉄職員での観察) 0 5 10 15 20 25 30 陽転率 総数 冬 春 夏 総数 感染源あり 感染源なし 陽転者からの発病率 秋 総数 冬 春 夏 秋 表3. ツ反応陽転から結核所見発見までの時期と 53 病類、病型(国鉄職員での千葉らの観察) 結核所見の病類、肺の場合の病型 陽転後 の期間 肺門リ 双極性 初期 ンパ節 浸潤 浸潤 結核 0 154 3 2 116 胸膜 炎 粟粒 結核 その 他 総数 累積数 72 49 1 2* 394 394 34 64 4 7** 111 505 6 30 42 1 2*** 75 580 9 17 12 29 609 12 13 3 16 625 13-36 総数 % 0 156 25.0 116 18.6 166 26.6 170 27.2 6 1.0 11 1.8 625 100 全陽転例3,636名に対して、発病率16.3% *:胸腹膜炎、腹膜炎 **:胸腹膜炎 4例、腹膜炎 2例,膝関節結核 1例、 ***:腹膜炎、髄膜炎 各1例 625 16.3% 各1例 図8. ツ反応陽転者からの,陽転後の年数別に 54 みた年間結核発病率 (国鉄職員を対象とした千葉、所沢の研究、1941-1971) 18 16 年間発病率 (%) 14 12 10 8 6 4 2 0 0~1 2~5 6~10 11~15 16~20 ツ反応陽転後の年数 21~25 26~30 55 古賀良彦 (東北大学、久留米大学) エックス線間接撮影法の開発 56 間接撮影法を開発 • 胸部エックス線検査は肺結核の診断にきわめて 有用だが、高価 • 暗箱に蛍光板を装着し、カメラで蛍光板の画像 を写し取る間接撮影法を開発し、昭和11年の結 核病学会で報告(同じ年にブラジルのde Abreu Mも間接撮影法を開発) • 明るいレンズの小型カメラの開発がこの技法を 可能にした • 昭和13年頃には実用化され、以降集団健診に活 用 図1. 57 de Abreuの用いた間接撮影装置での撮影風景とフィルム読影 用の観察装置 Zeitshrift fur Tuberkulose,1938, 80-2 から 58 今村荒男 (伝研、阪大) BCG接種の効果の証明 結核集団検診法の実用化 59 表1. 阪大看護婦生徒のBCG接種有無別に見た 結核の発病と死亡(今村荒男) 結核発病 結核死亡 ツ(-) B ツ- 対照 ツ陽性 発病 死亡 死亡 死亡 27 5(1) 0 1(0) 2(0) 3(0) 13 4(1) 0 1(0) 0 15 7(1) 14 3(1) 0 1(0) 0 3(0) 12 5(2) 18 2(0) 0 2(0) 0 27 5(1) 28 9(3) 44 0 2(0) 1(0) 13・10 8 1(0) 9 3(0) 14 12 (3) 3(1) 0 0 2(1) 14・4 14 0 13 3(2) 34 6(0) 0 0 0 14・10 11 1(0) 13 5(0) 34 4(0) 0 1(0) 0 15・4 23 1( 0 13 3(0) 46 5(0) 0 1(0) 0 合計 136 135 44 (7) 15.2 (2.9 0 9(0) 5(1) 12.5 45 (10) 25.9 (7.4) 244 率 17 (4) 9.6 (2.9 0 6.7 (0) 2.0 (0.4) ツ(-)BCG ツ(-)対照 ツ陽性 入学 年度 人数 発病 人数 発病 人数 11・4 16 1(1) 18 7(2) 11・10 12 3(1) 14 12・4 15 2(1) 12・10 10 13・4 33.3 18.0 ) ) カッコ内は2年以降の発病、最下段は発病(死亡)率を総数、2年以内、2年以上に分けて示した 60 図1. 阪大看護婦生徒のBCG有無別観察開始後の 累積発病率(今村荒男) 40 35 累積発病率(%) 30 25 20 15 10 5 0 0 0.5 1 1.5 ツ (-)BCG 2 2.5 ツ (-)対 照 3 ツ陽性 3.5 4 61 表1. 今村の行った集団検診成績 群 別 検 査 法 甲 全員 直接 集 団 数 検差数 5 3,225 乙 一部 21 直接 丙 全員 間接 6 ツ陽 性率 % 活動性結核 活動性疑い 数 対 対 全員 ツ+ 数 対 対 全員 ツ+ 61.7 64 2.0 3.2 99 3.1 91,409 71.9 965 1.1 1.5 875 1.0 12, 208 78.7 179 1.5 1.9 209 1.7 今村荒男:肺結核の集団検診 から作成 5.0 2.2 結核. 1940、18:159-202 62 表2. 今村の行った集団検診で発見した 活動性結核患者のツ反応成績 群 別 検査 方法 検査数 活動 性患 者 ツ反応発赤計(mm) 0-1 2-4 5-10 11 20 21 30 31 - 水泡 形成 甲 全員 直接 3,083 59 1.9 0 0 3 5.9 9 14 23 15.3 23.7 39.0 10 16.9 乙 一部 直接 87,523 901 1.0 42 4.7 6 0.7 69 7.7 272 246 213 30.2 27.3 30.3 53 5.9 丙 全員 間接 12,208 173 1.4 0 0 3 1.2 6 3.5 23 114 13.4 66.3 27 15.7 今村荒男:肺結核の集団検診 結核. 1940、18:159-202 から作成 63 山村雄一 (刀根山病院、九大、阪大) ウサギの実験空洞 免疫の機序の解明 ウサギを用いた実験で、 結核性空洞の形成に成功 64 • ヒトの結核では、空洞が臨床的にも、疫学的に も重要な意義を持っているが、動物実験では空 洞の形成は困難 • 山村はウサギを用いて、空洞形成に挑戦 • 先ず菌の浮遊液を、生食から、菌が肺内に長く 止まる流動パラフィン、脱水ラノリン混合液に 浮遊させることで空洞形成に成功 • 事前に感作したウサギに菌を感染させることで 確実な空洞形成に成功 • 事前感作を行えば、菌体成分でも空洞が形成さ れることを証明 65 ウサギで結核性空洞を作る実験 感作 2次抗原(肺内注射) 注射→剖検(日数) 空洞形成 1)ウシ型結核菌の加熱 死菌と流パラ、脱水ラノ リン、均質化兎肺混合液 ウシ型結核菌の加熱死菌 と流パラ、脱水ラノリン の浮遊液 30日 50-60日 70-350日 4/4 4/4 7/7 なし 同上 30日 60日 1/2 1/3 1)と同じ なし 30日 60日 0/2 0/1 同上 ウシ型結核菌生菌生食浮 遊液 30日 1/5(死亡3) なし 同上 30日 0/2 なし 流パラ、ラノリン混合液 30日 60日 0/2 0/2 ヒト型結核菌の加熱死菌 と流パラ、脱水ラノリン 混合液 ヒト型結核菌の生菌と流 パラ、脱水ラノリン混合 液 30日 1/3 同上 ヒト型結核菌生菌の生食 浮遊液 30日 1/3 66 リポ蛋白質と蛋白質画分で作られた 空洞の比較 抗原 リポ蛋白質 蛋白質画分 感作ウサギで空洞形成に必 要な量(γ) 100γ 500γ 感作 必ずしも必要でない 必要 空洞形成率 高い(感作ウサギで 100%) 低い(0に近い) 壊死乾酪巣 広範で多い 限局性で少ない 肉牙層 厚い きわめて薄い 周局炎 強い 弱い 菌体使用時に類似 卵白アルブミン使 用時に類似 空洞の性状 一般所見 67 BCGワクチンを凍結乾燥し、 大量生産する技術の開発 結研(大林容二ら)、予研(柳沢謙、橋本達 一郎ら)、抗酸研(海老名敏明ら) 68 液体BCGワクチン時代の限界と凍結乾燥 ワクチン製造の研究 • 製造後冷蔵しても、使用期限は2-3週間 • この制約があるため、安全試験をしたワクチン の使用が不可能 • BCG接種による免疫付与は、生菌接種でみられ るが、死菌接種では効果はなく、局所反応のみ • 対数発育期の菌を用い、蔗糖に浮遊することで、 凍結乾燥下で生残することを確認 • 電気溶封装置の使用で大量生産に成功(学際的研 究) • グルタメートを溶媒に用いることで、室温でも 保存できる凍結乾燥ワクチンの製造に成功 69 BCGアンプルの真空電気溶封機 図3. 図2. 電気真空溶封機 Yoji Obayashi : Dried BCG Vaccine. 1955, WHO p29 から転載 図3. 溶媒に蔗糖とグルタミン酸ソーダを用いたBCG乾燥ワクチンを 70 5℃と37℃で保存した場合の生菌数の変化 (Yoji Obayashi, Chujo Cho : Further studies on the adjuvant for dried BCG より転載) vaccine. Bull WHO, 1957, 17:225-274 71 図4. 日本のグルタメート乾ワクとデンマークの液ワクの 接種成績の比較 径(mm) 0 2 4 6 8 10 12 14 16 0 2 4 6 径(mm) 8 10 12 14 16 18 20 5TUツ反径(1) 5TUツ反径 瘢痕径(1) 5TUツ反径(2) 瘢痕径 瘢痕径(2) 日本G乾ワク10月冷蔵 日本G乾ワク8月冷蔵2月37℃ デンマーク液ワク2週冷蔵 日本G乾ワク17月冷蔵 日本G乾ワク16月冷蔵1月室温 日本G乾ワク16月冷蔵1月37℃ 日本G乾ワク16月冷蔵1月42℃ デンマーク液ワク2週冷蔵 Geser A, Azuma Y: Further studies on the Heat-Stability of Freeze-Dried Glutamte BCG Vaccine. Bull WHO, 1960, 22:171-176. 72 表2. 溶媒と製造国別乾ワクと液ワクの接種成績の比較 ワクチンの種類 日本製乾ワク 溶媒グルタメート 保存条件 温度への暴露 10月 なし 12.1 5.5 30℃1月 13.6 5 42℃1月 10.1 5.3 50℃1月 9.3 4.2 なし 14.2 5.4 30℃1月 10.4 4.8 42℃1月 10.2 4.4 50℃1月 5.1 2.7 なし 9.8 5.4 30℃1月 10.6 4.3 42℃1月 5.7 2.2 50℃1月 6.0 1.3 2週 なし 14.3 5.5 5週 なし 13.5 4.9 1週 30℃1月 5.2 2.4 8月 7月 フランス製乾ワク 溶媒グルタメート 6週 2週 デンマーク製液ワク 局所瘢痕径(m m) 冷蔵 9月 日本製乾ワク 溶媒蔗糖 5TUツ反応径 (mm) Geser A, Azuma Y: Further studies on the Heat-Stability of Freeze-Dried Glutamte BCG Vaccine. Bull WHO, 1960, 22:171-176. 73 結核実態調査 (標本抽出法を利用した調査) 田中正一郎(厚生省) 隈部英雄(結核予防会)ほか 74 結核実態調査の必要性 • 昭和20年代に入って、信頼できる結核関係の統 計数字は結核死亡統計 • 罹患率統計はあったが、登録制度不備(登録制度 が整備されたのは昭和36年) • SM、PASの導入や外科療法の進歩で死亡率は急 速に低下し、死亡数を基にする患者数推定の信 頼性低下 • 集団検診で発見される自分の結核罹患を認識し ていない多くの患者の存在 • 行政の基本となる信頼できる結核蔓延状況把握 の必要性 75 結核実態調査が可能であった背景 • 標本調査法の進歩とその行政への採用 • 保健所網の整備:どの地域が調査対象となって も調査の実施が可能。保健所職員の結核問題に 対する意識の高さ • 電源事情が悪いところでも撮影可能なエックス 線装置の開発:蓄電器放電型のエックス線装置 の開発 • 「結核集団検診の実際」の刊行(昭和26年) 表1.5回の断面調査とその概要 76 実施年 1953 1958 1963 1968 1973 調査対象数 51,011 69,028 74,811 72,705 45,682 X 線受験数 50,668 68,269 73,399 70,930 問診 86.3% 受験率(%) 99.3 98.9 98.1 97.6 15歳以上 89.2% ツ反応検査 X 線検査 細菌学的 検査 摘要 旧ツ2000 旧ツ2000 旧ツ2000 精製ツ 0.05μg 倍 倍 倍 60mm間 孔なし35mm 全員 全員 間接→直接 接→直接 直接撮影 直接撮影 痰塗抹・ 培養 痰塗抹・培 養・耐性 原則喉頭 粘液培養 コンデンサ型 装置の普及 孔なし35mm の普及 喉頭粘液検 査の普及 行わず 15歳以上 直接 原則喉頭 痰塗抹・培 粘液培養 養・耐性 15歳未満のX線 検査は患者とそ の家族、既往の ある者など 表2. 要医療 主な指標の全国推計数と人口対率 1953 1958 1963 1968 1973 推計数(千) 2,921 3,038 2,030 1,082 797 人口対率 3.37 3.31 2.12 1.53 0.97 推計数(千) 1,366 864 460 263 166 人口対率 1.58 o.91 0.47 0.37 0.20 推計数(千) 54.1 41.3 28.3 25.6 19.8 人口対率 0.62 0.45 0.29 0.26 0.16 推計数(千) 2,610 1,467 1,413 768 624 人口対率 3.02 1.60 1.45 1.08 0.76 (%) 要入院 (%) 空洞 あり (%) 要観察 77 (%) 1953年には、未だ要観察という区分はなく、要休養、要注意と区分されていた。 図1. 78 第1.2回の断面調査における性、年齢階級別結核要医療者の人口対率 1953年 12 12 8 8 男 女 6 有 病 率 ( % ) 10 有 病 率 ( % ) 10 1958年 男 女 6 4 4 2 2 0 0 '5 '10 15 20 25 30 35 40 45 0 50 55 60 70 総数 0 '5 '10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 総数 79 図2. 5回の断面調査での年齢階級別 要医療者の人口対率 8 7 有病率(%) 6 1953 1958 1963 1968 1973 5 4 3 2 1 0 0 ’5 ’1 0 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 表3. 80 5回の調査で結核患者の自覚状況と登録状況 要医療 自覚 要入院 あり 空洞あり 菌陽性 届出 要医療 あり 要入院 1953 1958 1963 1968 1973 21.4 25.7 38.6 36.1 34.9 33.9 45.3 53.7 64.0 67.2 58.2 61.3 55.8 54.7 31.2 19.1 38.9 24.4 50.4 31.0 51.7 37.2 36.7 40.2 27.4 39.7 54.7 55.6 62.3 81 表4. 1953年と1958年の岡病型別菌検査成績 1 9 5 3 年 1 9 5 8 年 初期 浸潤 混合 加療 硬化 病的計 治癒 有所見 症例数 158 1077 584 58 1672 3549 4389 7938 菌検査 56 630 391 39 825 1941 1989 3930 検査率 36.7 58.5 67.0 67.2 49.3 54.7 45.3 49.5 菌陽性 0 92 111 6 16 225 6 231 陽性率 0 14.6 28.4 15.4 1.94 11.6 0.30 5.9 S(+) 0 36 52 1 2 91 1 92 % 0 5.7 13.3 2.6 0.24 4.7 0.05 2.34 症例数 60 1526 589 162 1843 4180 5453 9633 菌検査 39 1288 540 135 1354 3356 3261 6617 検査率 65.0 84.4 91.7 83.3 73.5 80.3 59.8 68.7 菌陽性 1 111 177 13 19 321 13 334 陽性率 2.6 8.6 32.8 9.6 1.40 9.6 0.40 5.0 S(+) 0 32 115 6 5 158 2 160 % 0 2.5 21.3 0.37 4.7 0.06 2.41 4.4 表5. 1 9 5 3 ・ 5 8 年 1 9 6 3 ・ 6 8 年 1953年,1958年と1963年,1968年の 82 岡病型別菌検査成績 初期 浸潤 混合 加療 硬化 病的計 治癒 有所見 症例数 218 2603 1173 220 3515 7729 9842 17571 菌検査 95 1918 931 174 2179 5297 5250 10547 検査率 43.6 73.7 79.4 79.1 62.0 68.5 53.3 60.0 菌陽性 1 203 288 19 35 546 19 565 陽性率 1.05 10.6 30.9 10.9 1.61 10.3 0.36 5.4 S(+) 0 68 167 7 7 249 3 252 % 0 3.5 17.9 4.0 0.32 4.7 0.06 2.39 症例数 38 2039 483 4463 371 7399 12543 19942 菌検査 34 1888 459 3665 340 6386 8503 14889 検査率 89.5 92.6 95.0 91.6 82.0 86.3 67.8 74.7 菌陽性 2 88 80 10 8 188 2 190 陽性率 5.9 4.66 17.4 2.94 0.22 2.94 0.02 1.28 1953,58年は痰の塗抹、培養検査、1963,68年は原則として喉頭粘液を採取 しての培養検査 83 表6. 5回の断面調査の菌陽性 結核推定有病率 1953 1958 1963 1968 1973 病的所見者菌検査率 54.7 80.3 88.6 83.6 41.8 有所見者菌検査率 49.5 68.7 78.4 70.2 28.8 有所見者菌陽性率 5.88 5.05 1.53 0.93 0.79 有所見者塗抹陽性率 2.34 2.42 岡分類による推定菌 陽性有病率 0.745 0.617 0.190 0.091 0.178 他の分類による推定 菌陽性有病率 0.761 0.624 0.228 0.092 0.173 岡分類による 推定塗抹陽性有病率 0.290 0.265 0.039 他の分類による 推定塗抹陽性有病率 0.294 0.301 0.036 0.21 84 図3. 5回の断面調査における主要指標と 同時期の結核疫学指標の推移 10 要医療 要入院 空洞あり 菌陽性 塗抹陽性 死亡率 罹患率 有病率 1 0.1 0.01 1953 1958 1963 1968 1973 85 表7.3回の動態調査における 年齢階級別新発生率 1953→1954 1958→1959 1963→1964 前年なし 治癒 新発生 率‰ 前年なし 治癒 新発生 率‰ 前年なし 治癒 新発生 率‰ 0-4 1795 13 7.24 1799 1 0.56 1790 0 0 5-14 3762 11 2.92 4890 4 0.82 4479 4 0.89 15-29 3297 11 3.34 4644 11 2.37 4781 5 1.05 30-44 2536 14 5.52 3654 13 3.56 4270 12 2.81 45-59 1728 3 1.74 2590 11 4.25 3028 7 2.31 60- 1129 1 0.89 1758 4 2.28 2001 7 3.50 総数 14249 53 3.72 19362 44 2.27 20355 35 1.72 男 8823 24 2.72 9025 26 2.88 9678 18 1.86 女 7426 29 3.91 10337 18 1.74 10677 17 1.59 総数には、1954年で2名、1964んえんで6名の年齢不詳が含まれている。 図3. 1953年の断面調査で発見された患者の病型別にみた 86 15年間の経過(結核死、非結核死、生存別) 各病型毎に成績を1年毎に 結核死、非結核死、生存に 分けてプトットし、11年目 を 39 ,15年目を 43 で示 してある。 線が長いほど動きが激しく、 三角形の左辺に近く動くほ ど、予後が良くない.下辺 に近く動くほど、予後が良 い。 結核予防会結核研究所:過去の結核実態調査で要医療と判定されたものの 追求成績 結核文献の抄録速報 1971, 7:349-356. 87 図4. 1958年の断面調査で発見された患者のNTA分類別、排菌有無別 にみた10年間の経過(結核死、活動性,不活動性と治癒別) NTA分類と排菌の有無を 組み合わせ、各組み合わ せ毎に、6年後の状態と 10年後の状態を線で結ん で示してある。 左辺に近く動くほど予後 は悪く、下辺に近く動く ほど予後は良い。 結核予防会結核研究所:過去の結核実態調査で要医療と判定されたものの 追求成績 結核文献の抄録速報 1971, 7:349-356 88 追跡調査での病型別にみた予後 1958→1968 病型 症例数 結核死 82.7 1963→1968 非結核 死 活動性 不活動 性治癒 症例数 結核死 非結核 死 活動性 不活動 性治癒 3.8 9.6 1.9 25 36.0 4.0 60.0 0 Ⅰ 52 Ⅱ硬化 型 122 31.1 14.8 34.8 19.3 130 11.5 10.0 63.3 15.3 Ⅱ非硬 化型 112 25.9 11.6 18.3 44.2 53 9.4 7.5 52.8 30.2 Ⅲ洞? 90 10.0 22.2 31.3 36.4 113 2.7 8.0 53.0 36.4 ⅢB 451 4.7 11.3 14.5 69.5 325 1.8 8.3 31.4 58.4 ⅢC 805 1.2 16.3 12.8 69.7 525 1.0 7.2 27.9 63.9 H肺門 21 4.8 0 0 95.2 11 0 0 0 100 総数 1699 14.2 13.5 51.5 1232 3.5 7.8 30.0 45.2 9.0 89 表9. 追跡調査での病型別に見た受療状況 1953→1968 1958→1968 1963→1968 病型 症例数 受療 あり 治癒中 受療 症例数 受療 あり 治癒中 受療 症例数 受療 あり 治癒中 受療 総数 833 64.6 58.7 1426 61.1 54.4 1171 59.5 55.1 ⅠⅡ3 37 95.2 100 67 92.9 100 61 90.9 100 Ⅱ2 76 92.6 95.7 104 90.2 81.6 110 82.0 82.4 Ⅱ1 21 85.7 83.3 31 77.8 70.6 24 70.8 70.0 Ⅲ3.2 213 80.2 79.8 311 70.8 68.0 243 75.6 83.3 Ⅲ1 442 51.0 49.7 853 51.3 48.5 672 48.3 47.6 他不明 44 37.5 32.1 60 39.0 37.8 61 47.4 50.0 90 図5. 以前の断面調査で活動性結核患者で、 1964年に治癒と判定された者からの再発率 18 16 再発率(%) 14 12 10 8 6 4 2 0 '5-14 15-29 30-44 男 45-59 女 総数 60- 総数 表10. 発生率 (10万対) 1.0 男 106.8 1.264 女 64.2 0.760 0ー14 51.1 0.605 15-29 58.4 0.691 30-44 54.8 0.649 45-59 148.4 1.768 60- 197.0 2.331 1135.7 14.440 222.1 2.628 要観察 1968年の 治癒所 指導区運 見 異常な し 相対 (10万対) 危険 相対 危険 84.5 総数 性 91 1968年実態調査受診者から既発見患者を除いた者 からの5年間の新登録結核患者発生のリスク 発生率 1968年の 学会病型 (一部岡 分類との 組み合わ せ) 既往 BCG 1968年 ツ反応 発赤径 IV 安定型 1100.9 13.028 V 硬化巣 505.7 5.985 V 胸膜癒着 259.6 3.071 V 石灰沈着 178.7 2.114 XI 加療変形 179.4 2.123 なし 122.8 1.453 あり 52.0 0.615 0ー9 51.0 0.604 10-19 72.3 0.856 20-29 128.9 1.525 30- 142.9 1.691 (mm) 58.5 0.704 92 結核対策これからの課題 大きく変貌した結核 それに対応する新しい対策の企画と推進 93 日本が現在結核蔓延中進国であ ることは恥ずべきことではない 結核対策を本格的にはじめた時点での 蔓延状況の差 その後の結核減少速度は先進国と同様 94 20世紀後半の世界の結核死亡率の推移 日本 1000 100 英国 デンマーク 10 フランス オランダ 1 シンガポール 0.1 0 5 0 5 0 5 0 5 0 5 0 5 0 1 94 1 95 1 95 1 96 1 96 1 97 1 97 1 98 1 98 1 99 1 99 2 00 フィリピン 1 94 死亡率(10万対) 米国 タイ 95 全人口の高齢化をはるかに 上回る速度で結核患者が高齢化 結核は一部の大都会とその周辺地域、 高齢化の著しい地域に集中 96 年齢階級別人口の推移 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140 150 (百万人) 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 0-14 15-64 65- 0-14 15-64 65- 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 50 0 97 新登録結核患者数と年齢構成の推移 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 0-14 ) 15-59 60-69 70-79 80(千人 0-14 15-59 60-69 70-79 80- 対策の効果の現れやすい若年者では結核患者が激減、高齢者では減少速度が 遅く、相対的に患者の大半が高齢者となった 98 都道府県指定都市別結核罹患率(2009年) 全国 北海道 青森 岩手 宮城 秋田 山形 福島 茨城 栃木 群馬 埼玉 千葉 東京 神奈川 新潟 富山 石川 福井 山梨 長野 岐阜 静岡 愛知 三重 滋賀 京都 大阪 兵庫 奈良 和歌山 鳥取 島根 岡山 広島 山口 徳島 香川 愛媛 高知 福岡 佐賀 長崎 熊本 大分 宮崎 鹿児島 沖縄 札幌 仙台 さいたま 千葉市 横浜 川崎 新潟 静岡市 浜松 名古屋市 京都市 大阪市 堺 神戸 岡山市 広島市 北九州 福岡市 0 10 20 30 40 50 0 10 20 30 全結核 塗抹+ その他 塗抹+ 40 50 99 都道府県、政令指定都市、大都市とその近郊を 含む地域の全結核罹患率の分布(2009年) 47.54542.54037.53532.53027.52522.52017.51512.5107.5- 大阪市 名古屋市 東京都特別区 神戸 大阪府下、堺、京都市、川崎市 千葉市、和歌山 宮城 0 5 10 政令指定都市 15 大都市近郊 府県 20 100 今の日本が抱えている結核問題 • 対策が通常の努力で行き届く対象(小児、青少年、 大半の勤労者など)は結核激減 • 結核が多く残っているのは、 ①過去の結核蔓延の影響を受けて結核に感染した 者の多い高齢者(同時に生物学的な弱者) ②社会的な弱者:ホームレス、在日外国人など ③生物学的な弱者:HIV感染者、糖尿病患者など ④地域的には弱者が多く集まって住む大都会と高 齢人口の多い地域 ⑤新たに発生した感染性患者の周囲の接触者対策 • 小児、青年に発生した結核患者の感染源の追及 (結核菌株の保存とRFLP, VNTR法による解析) 101 今後の結核対策とその分担 • 通常生活のできる高齢者:年に1回の健康診断(市 町村、婦人会が協力) • 介護を要する高齢者:身障者用の検診車を利用する 検診に加え、日常の健康観察,咳や急速な衰弱が見 られるときの早期の受診(介護との連携) • 外国人:年に1回の検診に加え、発見された患者に 対する診療の支援(健康保険、医療通訳等)(国、 都道府県、政令指定都市) • 生物学的な弱者:医療機関での少なくとも年に一度 の胸部X線検査、有症状時の随時の検査、結核感染 者への化学療法剤の使用(医療機関) • 接触者検診、感染源追及の徹底(保健所の重要な業 務) 102 世界にも眼を開こう 世界の中の日本 技術先進国としての責任を いかに果たすか 日本と途上国との保健医療の差 103 なぜ日本は急速に復興できたか • 敗戦直後の日本の状況は、今の途上国並み、あ るいはもっとひどかった • 日本は急速に復興し、途上国ではあまり改善が 見られない国が多い • 日本には人(医療従事者)、組織(保健所、医 療機関など)はあったので、経済復興とともに 保健医療も回復 • 日本人の識字率の高さ、地域組織の存在が普及、 啓発活動を容易にした 104 なぜ多くの途上国の保健衛生は改善しないか • 経済の発展が遅く、人口が増加し、保健衛生や 福祉に十分な予算を配分できない • それに加えて、多くの国は国内での部族間の紛 争、周辺諸国との緊張関係などを抱え、乏しい 予算の中でも、軍事費を削減できず、保健衛生、 福祉に使える予算は少なく、保健衛生の水準が 向上しない • その基にあるのは、部族、民族、国家間の憎し み、闘争心がもたらす、紛争や戦争に備える軍 事費 • 格差の縮小に、戦争を長くしていない国の経験 から学べないか? 若干の国の国民1人あたりの 軍事費と保健衛生予算($、1990) 105 国名 軍事予算 (A) 保健衛生」 予算(B) A/Bの比 スーダン 25 16 114 10 9 1 1 8 1 2 25.0 16.0 14.3 10.0 4.5 エチオピア アンゴラ チャド モザンビク (Dr. Lasserによる、第10回アジア公衆衛生協会会議の招請講演から) 106 日本の経験 • 日本は敗戦後65年間、近隣国と紛争がないわけ ではないが、戦争という手段では解決を図って いない • 好戦的な態度から、平和的な態度への転換が可 能であった理由は? • 世界唯一の原爆被爆体験を含め、戦争の悲惨さ を戦地で、あるいは国内で十二分に経験した世 代が、平和憲法を採用し、文化福祉国家を目指 して、国の復興に努力した • 世界との交流なしには生存さえできないことへ の認識を深めた • 日米安保条約の存在 107 ドイツは? • ドイツは過去に何度も敗戦を経験しながら、何 度か再び戦争を起こしていた • 第二次大戦の敗戦後のドイツは、東西ドイツに 別れ、紛争はそれぞれにあったが、戦争はせず に65年を経過した • 米ソを含む東西双方のリーダーに、核戦争とな る第3次大戦だけは避けたいという意志の存在 • ドイツにとっては民族相戟という事態の回避へ の意志 スエーデンはなぜ200年以上戦争を しないで福祉国家を建設できたか 108 • かってのスエーデンはバイキングとして周辺諸国 を侵略したが、その後は第1次,第2次大戦でも中 立を守り、福祉国家の建設に成功 • スイスのように永世中立を宣言したわけではない が、国の基本方針として平和外交を重視、外務大 臣が副首相 • 自衛のための軍事力は保持するが、文民統制堅持 • 地理的な位置:地理的な位置によっては,自国の 意志と関係なく、戦争に巻き込まれる(ポーラン ド、オランダ、ベルギ-など) • スエーデンにはある程度の武装があったのでナチ が侵攻をせず、中立を維持できた 109 日本の進むべき道 • 地理的には恵まれた位置にある(海を渡らない 限り侵攻できない) • 平和政策を堅持しならが、どの程度の軍備を持 つか(外国との協力を含め)? • 国際協力は紛争を避ける有力な手段だが、どの ような領域で、どのように、どこを対象に進め るか? 110 日本が抱えている問題 • このまま少子高齢化が進み、次第に国としての 活力を失っていっても良いのか? • この傾向を止め、国としての活力を取り戻すた めには、子供を産み、育てやすい環境作り • そのためには、 雇用での性による差別の撤廃 保育所の充実(数、時間) 幼児、小学校教育の充実(師範学校の復活) 111 結核の罹患暦 • ツ反応は昭和16年に陽転(体力手帳) • 昭和22年に右上野にrⅢ1発見、人工気胸開始し、昭 和24年に蓄水、癒着し終了 • 昭和25年12月に右上に悪化rⅡ1発見 • 昭和26年1月結研付属療養所入院、2回右上に増悪 • 昭和26年9月右胸郭成形術(一次4本)、10月に2次 4本、計8本切除、排菌止まらず(局所麻酔) • 昭和27年10月右上葉、S6切除、排菌継続(全麻) • 昭和28年4月からINH使用で菌陰性化、11月復職 112 体力手帳(A面) 113 体力手帳(B面) 昭和16年5月ツ反応擬陽性、昭和17年5月陽性間接撮影実施、昭和18年5月 ツ反応陽性、間接撮影実施、精検不要、昭和19年5月ツ反応陽性、間接撮影 実施,精検不要と記載してある 114 患者を経験した医師としての思い • 長い療養期間には,弱い自己と強い自己が交代 に出現 • 弱い自己に負けなかったのは旧制高校柔道部で 鍛えた賜物 • 同期に遅れる焦りが、語学、統計学を勉強した 動機 • 治った後は、患者の痛み、苦しみ、悩みを理解 しながら、感情に流されずに、EBMを実行でき る医師でありたいという思い
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