397 5.フレキソ印刷システム Flexo Printing System 解決策の一つとして,環境に優しく経済性に優れたフレキ 5.1 フレキソ印刷の動向 ソ印刷への移行が注目を集め,導入の試みや検討する企業 国内市場動向 1-3) 5.1.1 が増えている.グラビア印刷と比べると画質は若干見劣り フレキソ印刷は,刷版が軟質でゴム弾性を持つために粗 すると言われるが,文字や線画の再現性では優れている. 面や曲面など多様な被印刷体が選択できる.水性やアル b)段ボール コール性など環境に優しく流動性の高い低粘度のインキが フレキソ印刷はすでに普及しているが,印刷画像にはあ 使われ,印刷の簡易性と経済性にメリットがあり,低ロス まり関心が持たれなかった.段ボールは美粧効果と強度改 率で版交換が容易なため小ロット対応性にも優れている. 善のニーズが高い.原紙表面の平滑性が良くなり,薄板化 また,版式混合が自由なために複合化が可能である 4) . にするとポストプリントでも高画質化が容易になる.高品 これらのメリットにもかかわらず,国内のフレキソ印刷 質グラフィック効果やディスプレイ機能が求められ,美粧 の市場はまだ小さく 9 %にすぎず,その 70 %は依然段ボー 化による付加価値が重要になりつつある. ル印刷が占めており,10 年前と比べても大きな変化はな c)シール・ラベル いのが現状である.フレキソ技術協会推計によれば,フレ 国内では,レタープレスの使用が多く,一部の先進的企 キソ印刷は段ボール・紙袋分野で 90 %,ワンウェイ紙容 業においてのみ高品質フレキソ印刷がおこなわれている 器で 40 ∼ 50 %,ノート・封筒分野で数 10 %,軟包装分 が,広い普及には至っていない. 野で数%である. d)紙器・カルトン フレキソ印刷が主として使われる分野では,印刷画像へ オフセットが主流であるが,フレキソ印刷の有利性が見 の関心が低かったが,近年のデジタル版,高精度・高線数 直され始めている.紙器印刷において,狭幅 UV フレキソ のセラミックアニロックス,高精度印刷機の開発により, 印刷機と加工部分をインライン化することにより,高付加 高画質印刷がフレキソ印刷でも可能となり,オフセットや 価値・高品質な印刷が実現し,短納期,多品種小ロット対 グラビアの印刷画質に拮抗してきた.環境問題での優位性 応,コスト削減が可能になる.今後,オフセットからの移 もあって,フレキソ印刷市場が注目を集めるようになって 行が進むことが期待されている. きた.国内市場の大部分は依然段ボール・紙袋印刷が占め e)その他 ているが,シール・ラベル,紙器カルトン,軟包装の分野 欧米では新聞印刷,壁紙印刷,キッチングッズなどにフ でも速度はまだ遅いがフレキソ印刷が広がりつつある. レキソ印刷が使われているが,国内での動きはないようで ある. 用途別市場動向 1-3, 5) 5.1.2 用途分野別にフレキソ印刷の動向を見てみる. 5.1.3 フレキソ市場拡大における阻害要因 1, 2, 4) a)軟包装 フレキソ印刷の持つ多くのメリットにもかかわらず,国 欧米と異なり,国内ではほとんどがグラビアで印刷され 内での普及は遅々として進んでいないのが現状である.普 ている.しかし,グラビア印刷は埼玉県生活環境保全条例, 及を阻害する要因として以下のことが挙げられている. 大気汚染防止法などの環境規制などの環境問題への対応の a)技術的要因 難しさと小ロット化の要求などから,印刷コストの上昇が オフセットやグラビアと異なり,プリプレスも含めたフ 避けられず,グラビア業界の事業環境が厳しくなってきた. レキソ印刷技術確立の遅れと,国内印刷機や専用のインキ 第 45 巻第 5 号(2008) [103] 398 この 10 年間の印刷の科学と技術と 21 世紀への展望 の開発や周辺機材の整備の遅れなどが指摘されている. 日本においても,ヨーロッパ同様にフレキソ印刷の環境 b)市場要因 負荷の面や生産性における優位性は認められているが,生 昔の手彫りのゴム版の精度の悪さからくる悪い印刷画質 産・システム環境の整備の遅れより,印刷機導入の動きは のイメージが広く知れ渡っている.段ボールや紙袋分野に ヨーロッパほど活発でなく,特に印刷品質を重視する分野 見られるように,フレキソ印刷は加工に付属した印刷とし やクライアントにおいては,フレキソ印刷の品質が,まだ て位置付けられている.軟包装分野では,グラビア印刷の まだオフセットやグラビアに対し劣っているというイメー 製版コストが日本では欧米に比べて安価で,しかも印刷物 ジが先行していた.しかしここにきて,フレキソ印刷機・ は写実的なデザイン嗜好が強く,高画質が要求されること 周辺設備のデジタル化が加速し,高繊細な画質と見当精度 が挙げられる.グラビア業者の保守性も一因であるとの指 の向上または,各種印刷方式をワンパス化したコンビネー 摘もある. ション印刷機などの登場が,国内でも高く評価されるまで に至っている.以下に,フレキソ印刷を構成している機械 構造と周辺機器の特徴を紹介する. 参考文献 ,294(2003). 1)香田裕誌:日本印刷学会誌,40[5] 2)森 田 七 五 三, 杵 渕 邦 夫: 日 本 印 刷 学 会 誌,43[4], 5.2.2 ドクターチャンバー方式 アニロックスロールとドクターブレードでチャンバーを 232(2006) . 3)印刷情報編集部:印刷情報,2006.7,p26 構成し,インキを循環させてインキを供給するドクター 4)小田又徳:日本印刷学会フレキソ研究会第 2 回研究例 チャンバー方式は,インキングシステムの構造は非常にシ ンプルで,印刷機上にユニットをコンパクトにレイアウト 会講演要旨集(2004.11.2) . 5)高本審一郎:日本印刷学会フレキソ研究会第 1 回研究 することが可能となる( 図 5.2).またチャンバーからイ ンキタンクまでが密閉状態となるので,一定濃度を保つ必 例会講演要旨集(2003.11.21) . (今橋 聰) 要のある溶剤や水性系のインキに適し,印刷室内雰囲気中 への VOC 排出の削減にも配慮されている.運用面では, 5.2 フレキソ印刷機と周辺基材 ドクターブレードやアニロックスロールの交換時に,イン 5.2.1 はじめに ンプを利用する自動洗浄のシステム化が一般化している. 最近になり,環境問題に対する社会的な認識が高まり, 自動洗浄装置(図 5.3)は,設備面でのコストアップ要 印刷業界にも環境に配慮した製品作りが強く求められるよ 素となるものの,ジョブチェンジ時の色換え時の,インク うになってきた.特にフレキソ印刷機の環境対策面と生産 チャンパー内とホース・ポンプ内の洗浄を全ユニットまた 性の優位性は印刷業界で注目されているなか, ヨーロッパ・ は,選択ユニットを同時に洗浄することが可能となってお フレキソ市場では,紙器分野を中心に年率 3 ∼ 5 %の幅で り,オペレーターの省力化とジョブチェンジ時間の短縮に 成長していると言われ,また,軟包装分野のパッケージに 効果を発揮する. キを抜かなければならないが,インキを循環させる循環ポ おいて,グラビア印刷からフレキソ印刷への移行も顕著に . 現れている(図 5.1) 図 5.1 欧州フレキソ印刷市場推移 [104] 図 5.2 ドクターチャンバー方式 日本印刷学会誌 399 5.フレキソ印刷システム 現在の LEC ロール解像度は 1200 線 / インチを超え, 2500 線 / インチの高解像度なセルを形成することも可能 となった.一般的には刷版線数とアニロックス解像度の関 係は,ハイライト部のセルディッピング(図 5.6)を回避 する為に,刷版線数の 5 倍以上のものを選定(表 5.1)す るとされるが,現在は,刷版線数が 300 線 / インチにも対 応する LEC ロールの生産が可能である. 図 5.3 自動洗浄装置 アニのセル開口より刷版セルが若干大きい場合 5.2.3 アニロックスロール 現在使われているアニロックスロール(図 5.4・5.5)は レーザー彫刻のセラミックアニロックス(Laser Engraved Ceramic Roll・以下 LEC ロール)が一般的となっている. LEC ロールの高細線な彫刻技術は,より高精細な印刷を 可能とし,セル断面形状由来の良好なインキ適性と耐摩性 アニのセル開口より刷版セルが小さい場合 セルディッピングが発生し,印刷不良の要因となる. 図 5.6 自動洗浄装置 能を両立させたもので,今日のフレキソ印刷の品質をオフ セット印刷の品質に迫る領域まで押し上げた要因の一つと される. 表 5.1 刷版線数とアニロックス線数の関係 刷版線数 80 l/inch 100 l/inch 120 l/inch 133 l/inch 150 l/inch 175 l/inch 200 l/inch 3 %セルサイズ 55 44 36 33 29 25 22 使用アニロックス 500 l/inch ∼ 750 l/inch 900 l/inch 1000 l/inch 1200 l/inch 5.2.4 駆動システム 図 5.4 アニロックスロールのセル形状:スクリーン 60° 現在,殆どの印刷機メーカーにギアレスサーボ駆動の機 種がラインナップされている.従来の駆動システムはギア メッシングにより操作をおこなっていた為に,版胴の周長 には採用するギアピッチの制約を受けたが,現在ではいか なる周長にも対応すべく圧胴・版胴・アニロックスロール を独自のサーボモーターによる単独駆動をおこない無段階 の周長可変が可能となった( 図 5.7).また,この単独駆 動により被印刷体のテンションコントロールでは調整しき れない印刷ピッチの補正も,版胴の周速度の可変により± 3 %程度のピッチ調整も可能である. 5.2.5 CNC 制御 図 5.5 CI フレキソ機のインキングシステム フレキソ印刷機は,CNC 制御(図 5.8)により圧胴回転 写真左がアニロックスロール 写真中央がインクチャンバー や自動見当合わせ,印圧調整などを数値管理することがで 第 45 巻第 5 号(2008) [105] 400 この 10 年間の印刷の科学と技術と 21 世紀への展望 図 5.7 ギアレスサーボ駆動機構 図 5.9 CNC 制御操作端末機 5.2.6 スリーブシステム式印刷ユニット ワイドウェーブ機に関しては,スリーブの交換方法を, 従来のフロントローディング方式からサイドローディング 方式の採用が進むと同時に,版胴とアニロックスのスリー ブシステムが一般化されている.サイドローディング方式 の印刷機軸の片側は,ドライブユニットとともに機械フ レームに固定され,ローディング側には,工具不要な脱着 機構で保持されている(図 5.10). 版胴やアニロックスの交換時には,この脱着機構により 素早く交換することができ,軽量化された版胴とアニロッ 図 5.8 CNC 制御操作パネル クスにより印刷オペレーターへの負担も軽減されている. 現在では,スリーブの国内生産が開始され,新規にス リーブを手配する際も大幅に納期短縮がなされている.ス き,必要な印刷諸条件をデジタルデータとして保存や呼び リーブは,表面硬度の違いや粘着層を有するタイプがライ 出しが可能である. ンナップされており,被印刷体や求められる印刷品質によ この制御方法は,印刷条件を標準化・安定化するととも り,スリーブタイプを選定する必要がある.また,スリー に,印刷オペーターに依存されるスキルも平準化が可能で ブシステムの採用には,中間マンドレルやブリッジスリー ,印刷機の主要箇所 ある.CNC 制御の端末機は( 図 5.9) ブと呼ばれるコアスリーブを 100 mm ピッチごとに準備さ にコネクションできる様に設計されており,目視確認が必 れることが一般的である. 要な微調整時などに役立っている.CNC 制御は,印刷初 期見当・印圧調整も自動調整し,迅速なジョブチェンジと, 印刷初期調整時の損紙の削減にも貢献するが,配慮すべき 点として,機械筐体の強固性と機械精度が必要とされるこ とにある,特に印刷機から発生する熱源の影響を受け印刷 ユニットにひずみが発生するようでは,折角の高精度な制 御も無意味なものとなってしまう.この点に関しては,各 印刷ユニットを保持している機械フレームや圧胴に対して チラー循環を採用するなど,厳しく温度管理が行える配慮 図 5.10 サイドローディングシステムとスリーブ がなされている. [106] 日本印刷学会誌 401 5.フレキソ印刷システム 5.2.7 乾燥ユニット クッションテープの材質,インキの性質と粘度の条件で フィルムなどのフレキシブルパッケージへの印刷では乾 印刷結果も大きく左右される.その為に印刷周辺のアプリ 燥装置の能力が印刷生産速度に直結する.フレキソ印刷に ケーション機材の供給と技術的なサポートの充実が必要不 使用されるインキは,グラビアインキに比べ顔料比率を高 可欠で,国内の各サプライヤーはフレキソ印刷のテスト機 めることが可能で,高精細なアニロックスを使用し得た塗 を導入するなどして, 技術の蓄積に積極的に対応している. 工膜厚は薄膜となり,乾燥能力もグラビア印刷よりも少な 以上のように,最新のフレキソ印刷の位置付けは,省力 くてすむ.また乾燥ユニットは排気エア内の気化溶剤濃度 化と環境配慮の面で優位性がある新しい印刷方式と期待さ をモニタリングしヒートエアーの再利用量を増やし経済性 れつつも,高額な印刷設備の投資となる面で,国内での導 も考慮されたものが採用されている. 入事例が少ないが,印刷を取巻く諸問題を解決できる印刷 フレキソ印刷方式では多様のインキキュアリングシステ 方式であることは確かである. ムが採用されている点に注目したい.代表的なキュアリン これからのパッケージ動向として,流通業界との融合が グシステムである UV キュアリングは主にナローウェー 必要と唱えられ,商品の改廃が激しさを増すと予測され ブ印刷機で採用されている.UV キュアインキは UV 独特 るなかで,小ロットでも経済効果が得られ,かつフレキソ の臭気が懸念されていたが,現在では,チッソ置換方式を 印刷の特徴を活かすことを念頭に置いた,ナローウェー 採用し,臭気発生源の一つである光重合開始剤の含有量 ブのフレキソ印刷機が紹介されている.この印刷システム も削減され刷後の臭気も改善されている.もう一つのキュ は,グラビア・オフセット・ロータリースクリーン・イン アリングシステムは電子線(EB)キュアリングで,昨年 クジェットの印刷ユニットをカセット方式でラインナップ 来よりヨーロッパのプリンターが導入し生産を開始したと し,ラミネーション・ホットスタンプ・コールドスタンプ・ 報告されている.EB キュアリングでは,印刷ユニット間 ロータリーダイカッターなどの後工程も印刷工程内に含む の乾燥装置はなく,生乾きのインキに次の色のインキが乗 ことが可能で,2 種類以上の印刷プロセスを一貫で生産で る“wet - on - wet”プロセスと呼ばれる方式で,最終のイ きる,コンビネーション・ワンパス印刷と呼ばれる印刷シ ンキが転写された後に EB が照射されてインキが硬化する ステムが,今後シールラベル印刷・カルトン印刷の分野で 方式で,色間乾燥装置の設置が不要で,印刷ユニットをコ 導入されることが予測される. ンパクトに設計でき,当然,VOC 回収装置も不要となり, CO2 排出のない印刷方式として今後注目されることにな 写真提供 るであろう. FISCHER & KRECKE GmbH & Co. KG (鍋坂信也) 5.2.8 まとめ 以上のようにフレキソ印刷は,基本的に版胴とアニロッ クスで構成されるシンプルなインキング構造の印刷方式で 5.3 フレキソ製版システムと版材 あり,オペレーターの技量差の影響が少ない印刷方式で, 5.3.1 はじめに セットした条件での印刷品質が保証される.つまり,正し 刷版は被印刷体,インキ,印刷機とともにフレキソ印刷 い条件で設定すれば,誰が刷っても同じ物が印刷され,リ を構成する主要要素のひとつであるが,フレキソ印刷にお ピート製品や量産品で生産性が向上する. しかしその反面, ける製版システムと刷版は,この 10 年間で大きな進歩を 正しい設定状態にするには機械的要因や印刷器材の選定が 見せた.特段新しい技術の提唱があったわけではないが, 重要になってくる. 所謂アナログ製版からデジタル製版への変換期間であり, 特にフレキソ印刷では,印圧の設定管理が重要な要素に 装置・材料メーカーの努力により,その作業性と品質は大 なる.フレキソ版材は弾性を持つために,網点が印圧の変 幅に向上し,製版のデジタル化はフレキソ市場の拡大に大 化に敏感に反応する為に,フレキソ印刷の印圧調整はキス きく貢献した. タッチといわれる 10 ミクロン単位の印圧調整を管理しな 今から 10 年前の 1998 年,世界的にみても刷版の主流は ければならない.その為,機械精度はもちろんのこと,周 ゴム版から感光性樹脂版に切り換っていたが,フレキソ先 辺機材の精度も要求される. 進国の欧州においても CTP 化はスタートしたばかりで, フレキソの印刷品質は,この細かな印圧調整のほかにア レーザーイメージング装置の導入は欧州全体で数十台で ニロックスロールの線数と容積,版材の材質・厚さと硬度, あった. 第 45 巻第 5 号(2008) [107] 402 この 10 年間の印刷の科学と技術と 21 世紀への展望 ところが 2000 年の Drupa では,プリプレス分野はもち ● レーザー彫刻タイプ ろんのこと製版・印刷分野においてもデジタル一色と言っ 図 5.11 に各方式の製版工程を示す. ても良いほどの出展内容であり,これを機にフレキソ製版 a)LAMS 方式 のデジタル化の拡大期に入った.現在,欧州での CTP 化 現在,フレキソ CTP と言えば,一般的にこの LAMS 方 率は全体で 50 %を越えている. 式のことを指すほど,普及率は他の方式に比べて高い. 一方,欧米に比べ,印刷品質への要求が厳しい日本にお アナログ版の粘着防止層の代わりにマスク層となるアブ いては,依然段ボール以外のマーケットへの普及は遅れて レーション層が設けられており,レーザー描画によりネガ いるが,プリプレスのデジタル化はほぼ終了しており,今 フィルムと同じ画像が得られる.露光工程でネガフィルム 後,製版のデジタル化が進むとともに日本のフレキソ市場 の真空密着をおこなわず,大気下での全面露光をおこなう の拡大が期待される. ので,紫外線の散乱が小さく,また酸素による重合阻害を 本章では,フレキソ印刷のイメージを大きく変えたデジ 受けるため,デザインよりも細く(小さく)再現され,ま タル製版技術の紹介を中心に昨今の刷版(製版)事情につ た白抜き画像が詰り難く,幅広い露光ラチチュードを持つ いて述べる. ことで,これまでフレキソ印刷では再現されなかったオフ セット並みの印刷品質が得られるようになった(図 5.12・ 5.3.2 フレキソデジタル製版 5.13). デジタル製版= CTP はコンピュータ・トゥ・プレート, アブレーション層はカーボンブラックなどの赤外線吸収 すなわちコンピュータ上の情報を,ネガフィルムを使用し 剤を含有させたものが一般的であるが,金属薄膜や退色層 ないで製版することであり,以下の方法が確立されている. を設ける方法もある. LAMS タイプ(レーザーアブレーション・マスク・ レーザーイメージャーの光源は高出力 YAG と低出力ダ ● システム) イオードが一般的であったが,昨今はファイバーレーザー ● LAMS &ラミネートタイプ が多く見られるようになった(図 5.14). ● インクジェットタイプ レーザーイメージャーの技術革新は目覚しく,ビーム特 テ ゙ サ ゙ イ ン R LAMS 方式 アナログ製版 I P ラミネート LAMS 方式 インクジェット方式 レーザー彫刻方式 イ メ ー ジ セ ッ タ L A M S 用 レ ー ザ ー イ メ ー ジ ャ ー 専 用 レ ー ザ ー イ メ ー ジ ャ ー イ ン ク ジ ェ ッ ト イ メ ー ジ ャ ー レ ー ザ ー 彫 刻 機 ネ カ ゙ フ ィ ル ム 出 力 マ ス ク 層のレ ー サ ゙ ー描画 マ ス ク 層のレ ー サ ゙ ー描画 マスクイメージの塗布 印 ネガフィルム真空密着 露 光 ⇒ ラ 現 像 ⇒ 乾 燥 ⇒ ミ 後 ネ 露 ー 版 の 彫 刻 ト 光 ・ 後 処 理 洗 浄 乾 燥 図 5.11 各種フレキソデジタル製版方式の製版工程 [108] 日本印刷学会誌 403 5.フレキソ印刷システム れる. また,フレキソ印刷の特性に対応した種々のデジタル画 像処理(スクリーニング技術)や製版工程管理のソフト ウエアが開発され,ハードウエアとともに新しいトータル 的なソリューションが提案されている.これらにより版の 図 5.12 網点形状 左)アナログ 右)CTP 150 lpi 3 % 表面形状を変え,インキ転移量やインキ膜厚を変えること も可能となり,高品質印刷が安定的におこなわれるように なった. b)LAMS ラミネーション方式 このシステムはラベルエキスポ 2007 で Kodak 社が発表 した新しいフレキソ CTP で,その性能上の特徴は高精細 網点の安定再現であり,フラット表面で 10 m 径の極小 網点が再現する.また,レーザーイメージング速度も従来 図 5.13 白抜き形状 左)アナログ 右)CTP 500 m ライン LAMS タイプの 1/4 程度とマスク層は非常に高感度であ る. 従来 LAMS タイプは前述したとおり,感光材の酸素減 感を利用しデータよりもシュリンクさせて高精細網点を再 現させるのに対して,このラミネーション LAMS タイプ は酸素減感させないで,データ通り再現させるシステムで あり,再現性はレーザーイメージャーの特性に大きく影響 するので,Kodak 社では専用のレーザーイメージャーを 用意し,イメージャーとのベストマッチングで 10m フ . ラット表面の網点再現に成功した(図 5.16・5.17) 使用上の特徴は,TIL(thermal imaging layer)と呼ば れるマスクフィルムを専用イメージャーで イメージング 図 5.14 フレキソ用 CTP のレーザータイプ した後,専用ラミネーターで感光性樹脂版と貼り合せる事 で,通常の LAMS 方式にはないラミネート工程が入るが, 性とフォーカス特性の両面からの改善によって画像品質と . 生産性が向上し続けている(図 5.15) 最新機種はイメージングに連動し,マスク描画とともに 紫外線によるメイン露光がおこなえる装置も開発されてお り,一台の装置で 2 工程の同時処理が可能で,不安定な未 露光版を扱う機会も減り,さらなる作業性の向上が見込ま 図 5.16 網点形状 左)従来 LAMS タイプ 右)Kodak 社ラ ミネーション LAMS タイプ 1) 図 5.15 ESKO 社 CDI Spark 第 45 巻第 5 号(2008) 図 5.17 Kodak 社専用イメージャー [109] 404 この 10 年間の印刷の科学と技術と 21 世紀への展望 ラミネーターはオートマチック化されており,手間を感じ させないシステムとなっている. 優れた再現性は,プリンタブルエレクトロニクス等他分 野での適応も期待されている. c)インクジェット方式 このシステムは全面に塗布されたマスク層をレーザー 図 5.20 段ボール印刷物 で焼飛ばす従来の LAMS 方式の様なサブトラクト法に対 左)IJ・CTP 製版,右)アナログ製版 して,感光性樹脂の上に必要なマスクイメージをインク 【印刷条件】印刷速度:250 sh/min アニ圧:6. 8 ~ 6. 9 印圧:3. 2 ~ 3. 4 シート:K5-160-K5 ジェットの描画で形成していくアディティブ法のマスク形 . 成技術である(図 5.18) d)レーザー彫刻タイプ もっとも歴史のある CTP 方式で,CO2 レーザーで版材 イメージング後 を彫刻することにより直接レリーフを形成する.版材は感 光性を必要としないためゴム以外にもウレタン等種々の樹 脂が使用できるが,最近は感光性樹脂を光硬化させた後, レーザー彫刻し刷版とするケースも増えている. 製版物 図 5.18 インクジェットイメージャー この方式は基本的には彫刻後のカス洗浄以外の露光から 後処理までの一連の製版工程が不要であるため,製版時間 が短縮できる.また,版をダイレクトに彫刻するため,線 画や網点の面積だけではなく, 深さもコントロールできる. 真空密着をおこなわないので,従来 LAMS 方式と同様, 昨今のマシンは,ハイライト部の微細な網点等を印刷面よ その特徴である酸素減感による版材のシュリンク(データ り若干低く形成する(ビローサーフェイスハイライトドッ に対して)が見られ,アナログ版よりも細く(小さく)再 ト)ことが可能で,諧調再現に大きな可能性をもたらした 現されるが,マスクの印字の際にマスク用インクの滲みが (図 5.21). 発生することから,現状,100 線以上の高精細に対応する . のは難しい(図 5.19) 図 5.21 (株)コムテックス社 Adflezdirect ビローサーフェ 図 5.19 45 線 10 % データの網点プロファイル イスハイライトドット 左)IJ・CTP 製版,右)アナログ製版 英国の ALE 社からは,CO2 レーザーとファイバーレー 東京応化工業(株)の「TED システム」は,段ボール ザーの 2 種類のレーザーを同時に使用することで,高生産 印刷用に開発されたシステム(90 線まで対応)で, レーザー 性と高品質の両方を追求するハイブリッドシステムも上市 方式に比べ,CTP 製版設備の導入コストを大幅に削減で されている(図 5.22). きるのが売りである.性能面も大幅に向上させることが可 ,1 m CO2 レーザービームは約 40 m の解像(636 dpi) 能で,アナログ製版に比べ,版の再現性が向上したため, のファイバーレーザービームは約 10 m の解像(2540 dpi) .今後,さらなる高 印刷品質の向上が見られた(図 5.20) に使用され, この組合せにより回転速度を上げることなく, 精細化の対応が期待される. 高品質・高解像と高生産性が同時に得られる. [110] 日本印刷学会誌 405 5.フレキソ印刷システム あり,短時間で製版できる.また,溶剤による膨潤が無い ため版厚精度や耐刷性の向上等版材の品質も向上する(図 5.23・5.24). 150 線 2% 10% 50% 95% 写真 5.22 ハイブリッドシステムで形成した網点と印刷物 2) こうしたレーザーエングレービングマシンの技術革新は 図 5.23 サーマル現像方式 3) 目覚ましく,また,昨今はエングレービング専用の版材も 開発されたことにより,再現性が乏しくラフなデザインに しか使用されなかった彫刻版が,最近は高精細印刷にも使 用されるようになった. 5.3.3 フレキソ製版の環境対応 一般的にフレキソ用の感光性樹脂版は高分子量ジエン系 ポリマーが主成分であるため,トリクロロエチレンのよ うな塩素系溶剤や石油系の溶剤で現像されてきたが,環境 1% 5% 10% 図 5.24 サーマル現像での網点形状 3) 問題への取り組みは印刷業界でも避けて通れない課題とな り,環境に配慮した水系現像液で現像可能な感光性樹脂版 5.3.4 シームレススリーブ対応 や現像液を使用しないで,熱を加えて未硬化部分を不識布 フレキソ印刷はプレート版(板状版)を使用するためエ で吸い取る熱現像方式が提案され実用化している. ンドレスパターンの印刷が不可能であり,グラビアからフ a)水現像タイプ レキソへの転換を図る際のネックのひとつとなっていた. 有機溶剤の代わりに水系現像液で現像する感光性樹脂版 また,印刷機もさらなる印刷品質の追及から見当精度の が実用化されている.疎水性エラストマーに親水性ポリ 向上や操作性・生産性への新たな要求があり,これに応え マーをブレンドしたものやミクロゲルや海島構造などの特 たギアレスサーボモータードライブ方式が普及している. 殊な相構造を利用したものなど各社によって版の材質は異 このギアレス機の普及に伴い,ジョブチェンジの時間短 なる.一般的に現像液は水に界面活性剤を添加したものが 縮や版交換の作業負担が軽減できるように印刷機のスリー 使用されている. ブ化が進み,刷版もプレート状からスリーブ状での納入要 東洋紡績社の水現像フレキソ版「コスモライト」は, 望が高まってきている. 40 ℃の水道水に少量の界面活性剤を添加し現像するが, スリーブ化技術はこれまで色々と提案されてきたが,最 同社独自のリサイクルシステムを利用することができるた 近はデジタル製版技術を駆使して,シームレススリーブを め,洗出し液を循環ろ過して,再利用が可能となっており, 作成する技術が実用化されている.(株)精好堂の CTSS さらに環境に配慮したものとなっている. (コンピュータートゥシームレススリーブ)は,あらかじ b)熱現像タイプ め感光性樹脂版をバック露光した上でスリーブに固定し, Dupont 社が開発した熱現像システム『FAST』は,ま それをキュアリングオーブン内で一定の熱を加えること ず露光後の版を冷却版ドラムに装填して赤外線ヒーターで で,つなぎ目のポリマー端部が相互に溶着しシームレスを 版面を予備加熱する.加熱ロールによる熱と圧を加えなが 形成する.その後スリーブ表面を研磨し樹脂表面にブラッ ら現像ロールに接触させ熱溶融した未露光部の樹脂が現 クレイヤーを施し,後は通常の製版工程が行われ CTSS が 像ロールに吸収除去され,版のドラムが 8 ∼ 12 回転する 完成する(図 5.25).この他にも樹脂をスリーブに固定し と現像は完了する.この方式は現像後の乾燥工程が不要で 熱溶着でシームレスを形成した後,研磨,レーザー彫刻で 第 45 巻第 5 号(2008) [111] 406 この 10 年間の印刷の科学と技術と 21 世紀への展望 1996 年 1996年 凸版・ 凸版輪転 フ レキ ソ イ ン キ 6% 3% ク ゙ ラ ヒ ゙ アイ ン キ 33% 新聞インキ 図 5.25 CTSS 版 4) 10% レリーフを形成する方法も実用化している. 金属印刷インキ 9% これらのシームレススリーブ化技術がさらなるフレキソ オフ セ ッ ト イ ン キ 印刷の発展の一翼を担っていくであろう. その 他 28% 11% 2006 年 5.3.5 まとめ 2006年 以上のように,フレキソ製版システムと刷版は,ハード・ ク ゙ ラ ヒ ゙ アイ ン キ 32% ソフトの技術革新によりこの十年で大きく変貌した. フレキソインキ 5% その結果,フレキソ印刷の品質や生産性は大幅に向上し, 今ではグラビア印刷やオフセット印刷の領域に入り込める 印刷方式に成長した.製版に関するインフラの整備はかな り進んだが,国内でのフレキソ印刷を今後さらに普及させ 新聞インキ 13% るには,コストダウンの検討が必要であろう. 金属印刷インキ オフ セ ッ ト イ ン キ 3% 36% 参考文献 その 他 1)FTA FLEXO 2007. November Vol.32 No.11. 2)ALE 社 H.P. より 11% 図 5.26 印刷インキ出荷量の変化(経済産業省:化学工業統計より) 3)フレキソジャパン 2006 フォーラム予稿集. 4)精好堂,印刷界 2006 年 7 月号(日本印刷新聞社). (中里俊二) 5.4.2 フレキソインキの概要 a)フレキソインキの構成 フレキソ印刷は,感光性樹脂やゴム製の凸版を用い,そ 5.4 フレキソ印刷インキ の特徴的な 2 段階にわたる転移機構( 図 5.27)により印 5.4.1 はじめに 一般的なフレキソインキの構成を表 5.2 に記す.基本的 経済産業省統計では,2006 年度の国内の印刷インキ な構成はグラビアインキのものと同様であるが,フレキソ 出荷量は,約 501 千トン,販売金額では,3 371 億円で, インキは,版材の耐溶剤性からケトンや炭化水素系の溶剤 1996 年からの 10 年間では,共に微増で推移している. は使用せず,ⅰ)アルコール類を主体としたエステルとの 刷物が得られる. 印刷方式別では,オフセット,グラビアおよび新聞イン キで約 80 %を占める.フレキソインキは樹脂凸版インキ 版胴 を含めても出荷量,販売金額共 5 %程度で,未だ国内では アニロックス ロール . 印刷方式の主流とは言えない(図 5.26) しかし, 「環境の世紀」といわれる 21 世紀に入り,環境 圧胴 対応型の印刷方式の選択肢の一つとして注目されてきてい る.今回,インキ設計の点からフレキソ印刷が注目される 理由およびその可能性と課題について触れてみたい. 図 5.27 フレキソ印刷の転移機構 [112] 日本印刷学会誌 407 5.フレキソ印刷システム 表 5.2 一般的なフレキソインキの構成成分 着 色 剤 有機顔料 (不)溶性アゾ フタロシアニン・・・ 無機顔料 酸化チタン カーボンブラック・・・ 染料 バインダー 合成樹脂 アクリル、ウレタン ポリアミド・・・ 天然樹脂 ニトロセルロース シェラック、カゼイン ロジン・・・ 溶 剤 有機溶剤 エステル類 アルコール類 グリコール(エーテル)類・・ 水 添 加 剤 中和剤 界面活性剤 滑剤 消泡剤 硬化剤・・・ 混合溶剤系,ⅱ)水単独,ⅲ)水とアルコールの混合溶剤 一方,フィルム分野では,サニタリー用途で長く実用さ 系で設計される.また,転移機構の違いからグラビアイン れているものの,フレキソ全体に対する割合は低く,食品 キに比べて顔料濃度を高くし,グリコールまたはグリコー 包材に至っては,そのほとんどがグラビア印刷でおこなわ ルエーテル類の溶剤を遅乾溶剤として使用することが通常 れている. である.また,凸版という版形状から,印刷粘度もグラビ これに対して,フレキソ先進国である欧米では,印刷市 アインキに比べて高く設定される. 場の約 40 %をフレキソ印刷が占め,その内,約 30 %がフィ 樹脂系については,溶剤型フレキソインキでは,溶剤系 ルム包材分野であると言われている.そして,紙分野はわ の違いからグラビアインキに比べて樹脂タイプ選択範囲が が国同様,水性インキ,フィルム分野は主に溶剤型インキ 狭くなる. が使用されている.また,用途により,UV インキが,わ 水性インキでは,溶液タイプの樹脂の他に,ハイドロゾ が国以上に普及していることも注目すべき点である. ルやエマルジョン等分散タイプの樹脂も使用できる. 日本国内において,フレキソ印刷が実用されている分野 5.4.3 環境対応策としてのフレキソ印刷 a)インキ・印刷業界に影響する各種法規制 は,主に表 5.3 に挙げられ,紙からフィルムまで,その分 日本国内では,包材の多くはオフセットまたはグラビア 野は多岐にわたっているが,現状は,段ボールと紙包材を 方式によりおこなわれており,中でも,フィルムを被印刷 合わせて 95 %を占め,その大半は水性インキが使用され 体とする軟包材の大半は,溶剤型グラビアインキが使用さ ている. 「フレキソと言えば水性」というイメージが強い れている.しかし,この 10 年間を見ても,印刷業界,特 のは,国内におけるフレキソ市場の大半を占めるこれら紙 にインキや希釈剤に多く揮発性有機化合物(以下,VOC) 分野への普及の高さのためと考えられる. を使用するグラビア印刷業界に大きく影響する法規制が b)フレキソ印刷の用途と欧米との比較 表 5.3 国内におけるフレキソ印刷の用途とインキタイプ 1) 分 野 用 途 被印刷体 インキタイプ 段ボール シート段ボール プレプリント段ボール ライナー紙 ライナー紙 水性、一部グリコール 水性 紙包材 角底袋、ショッピングバック 包装紙 医療包材 クラフト紙 PE ラミネート紙 水性 水性 水性 飲料容器 ノンコート、コート紙 PE カートン紙 水性 溶剤型 フィルム包材 サニタリー レジ袋 ダイレクトメール ラミネート包材 薬包材 その他 LDPE HDPE LDPE PP、PET 等 PE/PT セロファンラミフィルム 不織布 溶剤型 水性 溶剤型 溶剤型、一部水性 溶剤型 溶剤型 その他 封筒、ビジネスフォーム ラベル タックラベル 紙ナプキン 紙カップ 上質紙他 コート紙、上質紙 感熱紙 ナプキン原紙 カップ原紙 水性 水性、UV 水性、UV 水性 溶剤型 ワンウェイ紙器 第 45 巻第 5 号(2008) [113] 408 この 10 年間の印刷の科学と技術と 21 世紀への展望 次々強化されてきた(表 5.4) .これらの規制は,当初,ト b)フレキソインキの可能性と課題 ルエン,キシレン等芳香族系有機化合物に対するものであ 図 5.28 に印刷インキの主な乾燥機構の概略を記す.こ り,インキメーカーは,ノントルエン型インキや水性イン の内,フレキソ,グラビアインキの多くは,蒸発乾燥,浸 キの研究・開発を活発におこなった結果,ノントルエン型 透乾燥によりインキ塗膜を形成するが,紙が被印刷体の場 インキについては,今日,ほぼトルエン型インキに取って 合,これらは同時に起こる為,何らかの溶剤を排出するこ 変わり,水性インキも一部アルコール類の使用を必要とす とになる.また,フィルムが被印刷体の場合,浸透乾燥は, るものの,徐々に普及してきている.ところが,近年施行 全く期待できないため,蒸発乾燥に依存することになる. される法や条例は,VOC 全体を対象としており,インキ こららの乾燥機構では,被印刷体に関係なく,溶剤の残留 メーカーや印刷メーカーは,水性化の更なる普及や VOC は臭気や塗膜物性の低下の原因となるので,残留溶剤は可 の回収や燃焼といった新たな対応を図っている. 能な限り「ゼロ」に近づける必要がある.溶剤型インキで 使用する溶剤は,一般に,蒸発速度は高いが,臭気が強い. 表 5.4 最近,改正・施行された各種法規制 2) 法 規 制 規制の内容、ポイント 溶剤の処理装置設置 又は、炭化水素 30%以下のインキの使用 トルエンの作業環境許容濃度強化 100ppm → 50ppm 製品の欠陥による損害に対して、 製造者に責任を追及できる。 大阪府環境基本条例 1994 年 労働安全衛生法 1995 年 製造物責任法 1995 年 容器リサイクル法 2000 年 一般家庭から、排出される容器包装の再商品化 PRTR 法 2001 年 特定化学物質の環境への排出量と 廃棄物に含めれての移動量の届出が義務化 埼玉県生活環境保全条例 2002 年 印刷中の有機溶剤が 30%以下 溶剤排出量に関して罰則を伴う規則 大気汚染防止法 2006 年 揮発性有機化合物の排出と飛散の抑制に 関する規制 蒸発乾燥 浸透乾燥 溶剤 溶剤 溶剤 溶剤 溶剤 溶剤 インキ 溶剤 溶剤 インキ 被印刷体 被印刷体 有機溶剤や水が基材に染み込み、塗膜を形成。 グラビア印刷、フレキソ印刷 有機溶剤や水が蒸発し、塗膜を形成。 グラビア印刷、フレキソ印刷 UV・EB硬化 酸化重合 酸素 酸素 酸素 酸素 酸素 インキ 被印刷体 空気中の酸素で重合し、塗膜を形成。 オフセット印刷 紫外線 電子線 インキ 被印刷体 紫外線・電子線で瞬時に重合し、塗膜を形成。 オフセット印刷、フレキソ印刷 図 5.28 印刷インキの主な乾燥機構の概略 3) [114] 日本印刷学会誌 409 5.フレキソ印刷システム 逆に,水性インキにおける水は無臭であるが,乾燥速度が 残肉インキの再使用性を考慮した設計をおこなう必要があ 低いため,乾燥させるのにより多くのエネルギーを必要と る. する. ② 水性フレキソインキ UV・EB 硬化では,インキの構成成分はすべて塗膜と 日本国内におけるフレキソ印刷の大半は,段ボールを中 なるため,溶剤成分の排出は発生しない. 心とした紙が被印刷体であることはすでに述べたが,イン 次に,環境対応策としてのフレキソインキの利点と課題 キタイプ別の出荷量を見ても,80 %以上が水性インキで について,インキタイプ別にまとめる. ある(図 5.29).フィルム印刷の分野でも,最近は,一部 ① 溶剤型フレキソインキ のスナック用途のラミネート包材で実績化されており,水 日本国内では,紙印刷のほとんどが水性フレキソインキ 性グラビアとともに軟包装用途の VOC 排出低減策の一つ でおこなわれており,フレキソ市場そのものが紙印刷市場 として注目されている . 2003年 印刷インキ工業連合会 推定 4) と言っても過言ではない.そのため,必然的に溶剤型イン 水性インキ 81% キの実績も限定され,現状, 「おむつ」 , 「生理用品」等の サニタリー用途やポリエチレンコート紙製飲料容器用途の みである.これに対し,欧米では,用途を問わずフィルム 印刷において多く使用されている. ● 溶剤型フレキソインキの利点と課題 UVインキ 5% グリコールインキ 3% その他 11% 利点 1:図 5.27 に記した通り,フレキソ印刷では,イン キはアニロックスロール→刷版→被印刷体と 2 段階で転移 していく方式の為,インキの塗布量(wet)がグラビア印 刷に比べて少ない.また,凸状という版の構造上,印刷の 適正粘度がグラビア印刷に比べて高いので,希釈をあまり 図 5.29 フレキソインキのタイプ別出荷量 おこなわない.従って,VOC 排出量はグラビアインキの 2003 年印刷インキ工業連合会 推定 1/2 程度に抑制することができる. 課題: 欧米でおこなわれている 300 m/ 分を超える速度で ● の印刷では,グラビアインキと同程度の乾燥速度に設計で 利点 1:VOC を使用せず安全性・衛生性の高いインキ設 きるが,日本国内で,一般的である 200 m/ 分を下回る速 計が可能である紙印刷の分野では,多くが消防法上も危険 度での印刷では,版上での乾燥抑制を必要とし,グリコー 物には分類されない,いわゆる「完全水性インキ」に設計 水性フレキソインキの利点と課題 ルエーテルに代表される乾燥の遅い溶剤が必要となる.こ されている. の為,食品包材への展開においては,残留溶剤臭気の点が 課題:フィルム印刷の分野においては, 「完全水性インキ」 懸念される. では,溶剤型インキに比べてフィルムへの「濡れ性」が劣 利点 2:版素材が樹脂である為,耐溶剤性の点からケトン, り,転移不良による印刷物の濃度や接着性不足が発生する 炭化水素,エステル系溶剤は原則的に使用せず,比較的安 ことが多いため,アルコール類の溶剤を併用することがあ 全性の高い溶剤組成で設計される (アルコールを主体とし, る.また,CI(セントラルインプレッション)タイプの 一部エステルを併用) . 印刷機で,乾燥が不充分な状態で重ね印刷される状況にな 課題: 軟包装用途では,グラビアインキの場合,OPP, りやすい場合も,インキの乾燥性や表面張力の設計に注意 PET およびナイロンフィルム等被印刷体として使用され が必要である. る代表的なフィルムに 1 タイプのインキで適用できる様に 利点 2:フレキソ印刷では,塗布量が少ないので,溶剤と 設計されていることは,もはや常識となっており,スナッ して水を使用していても印刷速度の低下を小さくできる. ク用途からボイル・レトルト用途まで使用できる.これに 課題:実際には,転移過程でのインキ膜が極めて薄いため, 対して,フレキソインキの場合,溶剤組成の違いからこれ たとえ溶剤が水であっても版上乾燥が早過ぎるというケー らの物性確保の「キー」となる樹脂選択の範囲が制約され スが多い.このため,インキの設計上,グリコール系溶剤 る為,フィルムタイプによって専用インキをが必要となる の添加や中和剤の選択により,乾燥抑制や再溶解性の向 場合がある.また,ボイル・レトルトのような高物性用途 上等の処置をおこなう必要があり,浸透乾燥が得られない の場合,架橋剤等を用いて,2 液で使用することがあり, フィルム印刷ではブロッキングや臭気にも注意しなければ 第 45 巻第 5 号(2008) [115] 410 この 10 年間の印刷の科学と技術と 21 世紀への展望 ならない. も期待できる. 利点 3:溶剤型インキに使用する樹脂が溶液型であるのに 対し,水性インキでは,溶液型の他に,樹脂成分が水中に 5.4.5 おわりに 分散して存在するハイドロゾルやエマルジョン等の形態の フレキソインキは,この数年間を見ても,その構成に劇 異なる樹脂の選択が可能であり,高濃度設計による塗膜物 的な変化を遂げた訳ではないが,周辺機器の進歩,とりわ 性低下への影響を小さくできる. け,画像処理や CTP 製版技術と高線数アニロックスロー 課題: 水の溶解力が乏しいため,溶剤型インキに比べて, ルとの組み合わせにより,印刷品質は格段に向上した.し 樹脂タイプの選択範囲は狭かったが,合成技術の進歩によ かし,直接比較してしまうと,まだ,グラビアの印刷品質 り,以前に比べて水性化された樹脂タイプも増えてきてい には及ばないため,フレキソ印刷は普及しにくい環境にあ る. る. ③ UV・EB フレキソインキ 今後,フレキソ印刷の更なる普及を目指すには,環境対 モノマーとプレポリマー(UV インキでは光開始剤も含 応型の印刷方式の一つとして,インキ,製版,印刷機をも む)から構成され,重合形式としては,ラジカル重合とカ 含めた印刷システムとしてのレベルアップを継続する一方 チオン重合に大別される.重合反応により, 美粧性が高く, で,包材分野にとらわれずフレキソ印刷の特徴を生かせる 極めて高い塗膜物性が得られる.被印刷体の選択範囲が広 分野(デザイン,被印刷体,用途)におけるシステム作り く,さまざまなフィルムや紙,箔への印刷に適応可能で, が必要と考える. 日本国内では,主にラベルやカートン分野での印刷に採用 されている. ● UV・EB フレキソインキの利点と課題 利点: 「インキの構成成分=塗膜」であるので乾燥過程に おける VOC の排出はない. 課題:溶剤型や水性インキに比べて,粘度が著しく高い為, 反応性モノマーを用いて粘度調整をおこなうが,これによ り,濃度や乾燥性低下が起こりやすい.そのため,印刷中 の加温による粘度調整をおこなうことが望ましいが,これ には,相応の設備が必要となる. 参考文献 1)香田裕誌 監修 フレキソ印刷総覧 加工技術研究会 (2000). 2)鈴木 明:コンバーテック 加工技術研究会 362[2] (2003). 3)舘野宏之:第 1 回フレキソ研究会資料 日本印刷学会 (2003). 4)大谷浩二:フレキソセミナー講演資料 東洋インキ製 造(株)(2002). また,UV インキとしては,一般的なラジカル重合型ア (河辻輝之) クリル系インキに比べて,最近,開発されたカチオン重合 型エポキシ系インキは,比較的,低粘度に設計されており, 用途や被印刷体の種類により選択できる. 5.5 段ボール印刷 5.5.1 段ボール印刷の課題 5.4.4 フレキソ印刷の新しい分野 安全第一重視は揺るがないものの,常に生産性の向上 フレキソインキでは, 古くから合成樹脂以外の他に, シェ を追及してきた,その結果印刷スピードは毎分 200 m, ラックやカゼインに代表される天然樹脂もバインダーとし 250 m とアップし,セット替え時間も 15 分から 10 分へ, て使用してきたが,近年,大豆蛋白や澱粉等の天然物由来 更に 5 分へと短縮し印刷機械メーカーは,対応を余儀なく の成分やポリ乳酸やポリカプロラクトン等の合成樹脂では されてきた. あるが,生分解性を有する成分を使用した印刷インキが注 しかしその結果,刷り上り品質はややおろそかになった 目されおり,欧州では,一部の包材分野でこれらインキの が,高品質が要求されるバーコード印刷が広がりを見せて 使用を義務付ける動きもある. きたため,段ボールメーカー,特にオペレーターは,大変 これらの成分は,物性面では既存のインキには劣るも な苦労をしていた. のの,フレキソインキとして設計することは可能であり, 特にユーザーへのコストダウンの要望が強く,紙質のグ VOC 排出のみならず,バインダーの面からも実施可能な レードダウンと,印刷スピードアップの更なる向上の要請 環境対応策として期待できる.また, 環境対応のみならず, もあり,これ以上の要求に対しては,印刷の主要素別に改 UV・EB インキの高い塗膜物性を生かせる分野への展開 革していかなくては, ユーザーの要望に答えられないため, [116] 日本印刷学会誌 411 5.フレキソ印刷システム ほぼ全メーカーで対応を取り組むようになった. の製品が対応出来ないので,枚葉印刷機の改良が今後求め この当時の印刷版は大変重く,オペレーターの疲労度軽 られるであろう. 減の為にも,もっと軽い印刷版が必要であるとの声も多く 出始め,材料メーカーとともに製版メーカーも前向きに検 5.5.3 これからの段ボール印刷に求められる案件印刷 討を始めた. の主要素別に その結果,薄版化の兆しがあり国内メーカーからいち早 a)印刷機のメンテナンスの重要性 く材料提供があり,印刷テストに入った時でもあった. メンテナンスの重要性が忘れ去られがちのように思われ る.ロールの左右バランスが大きくズレたり,クリアラン 5.5.2 ダンボール印刷の技術的進歩 スの 0 点表示がデジタル数値と違っていたり,インキカッ この 10 年間は生産性と印刷重視が交互する時代であっ トロールのクラウン加工が正常で無いものや,第 1 第 2 ク た.印刷機は生産性とセットアップの短縮の為に,多色刷 リーザがズレている為に正常位置で折れなかったりする. り中心ではないものの 4 色機 5 色機へと変化し始めた.つ 更に問題なのは,本来箱は商品を保護する為のものであ まり 4 色機で 2 色印刷をしている時,空いているユニット るが,フィードロールが大きく偏磨耗していると,箱強度 を使用して,次の印刷版をセットしておく,こうすれば, が大きくダウンする. 前の印刷終了と同時に次の印刷ができる.そしてこの間に これらは,段ボール印刷機は大は小を兼ねる,つまり段 終了した印刷版を取り外し,また次の印刷版をセットして ボール箱は展開すると大きい為に大き目の機械になりすぎ おく,そうする事によってセット替えの大幅短縮になる. ているのではと強く感じる. このような印刷機は国内において数百台稼動してい 今こそ差別化の時代であり.もっと段ボールメーカーと るが,固定式でユニット間が広く印刷ズレがどうしても 機械メーカーが,今まで以上に一体化し改良すべきと考え 止められない.また,同時に更なる高速化で毎分 300 ∼ る. 400 m / 分となっている為に高精度印刷には大いに問題が b)インキ管理の重要性 ある. ザーンカップでインキ粘度を測定する前に測定機の管理 ただ,印刷重視の機械には良い変化が見られアニロック 器が必要である.NO. 4 で通常おこなうが 2 秒前後実数値 スのセルボリュームも少なくなりつつあり,更にセル角度 と違う結果がかなり多い,つまり通し穴が小さくなって, も研究されて良くなってきた. 実際より数値が大きくなっている場合がある. この場合インキ粘度管理をマニュアル化しないと,大変 c)価格も含め印刷版に求められること な事になる. 先ず簡単に印刷版の歴史を述べる. 印刷版では,オペレーターの疲労度軽減と印刷精度の向 昭和 32 年頃から昭和 57 年頃までは手彫版が主流であり, 上のため,薄版化がかなりのスピードで広まった. 昭和 54 年頃から樹脂版が出来て現在に至っている.途中 なぜ薄版化かと言うと,薄くなれば版面がより真円にな 鋳造版が昭和 42 年頃から昭和 62 年頃まで存在したが,現 る為に,段ボール印刷特有のマージナルゾーンが大幅に少 在では皆無に等しい.そして今は段ボール印刷も美粧化の なくなるからである. 波を受けシール・ラベルや一部軟包装に使用されている ただ被印刷体が段ボールの為,ウオッシュボード状に印 C.T.P 版も使用され始めているが,ごく一部に留まってい 刷するには適度に反発弾性とインキ着肉転移が良くなくて る.ただそれは印刷機が高精度な刷りものが出来る様にな はならないが,現市場にある被印刷体である段ボールの品 れば普及すると思われる. 種に対応出来る版素材が無いのも,後に述べる問題の一つ 印刷の仕上がりの良し悪しは,何で決まるのか,といえ である. ばそれは網点のハイライトのグラデーション表現が出来る つぎにプレプリント(段ボールライナー印刷)について か否かで決まる. つまり, 印刷版においてもハイライトドッ 少し述べると,この場合は薄いライナーに印刷する為,段 トが形成されていることが絶対条件であるが,現在それが ボールの様なウオッシュボードがなく,印刷版もほぼ市場 可能となっているのはダイレクト彫刻機だけである. ライナー紙に対応できているので満足のいく印刷である. 価格については,オフセット印刷,グラビア印刷のよう そして,印刷機もセンタードラム型であり合わせ印刷も良 にあらかじめ,デザインの打ち合わせ段階から計算され 好である. るべきであるが,段ボール業界の印刷版だけはなぜか遅れ ただ日本は多品種小ロットの多い独特の国であり,大半 ている上に必要な作業代すらも認められていない状態であ 第 45 巻第 5 号(2008) [117] 412 この 10 年間の印刷の科学と技術と 21 世紀への展望 5.6 今後の課題と展望 5.6.1 フレキソ印刷技術の課題 1, 2) 今後フレキソ印刷が発展する為の技術課題として以下の ことが挙げられる. a)版材・周辺機材のコストダウン 版材が高価で規格揃えが少なく割高である.アニロック ス,スリーブ,インキチャンバー,クッションテープなど の周辺機材も国産品が少ないため,価格が高い.グラビア では当たり前のシームレス版(エンドレス版)の製版対応 も価格,納期面で劣っている.更にリピート性能も要求さ れる. 図 5.30 段ボールダイレクト枚葉印刷機 b)インキ性能の向上 水性インキはフレキソ印刷の有利な要因の一つである が,軟包装印刷において水性対応になればなるほどインキ る. の再溶解性が劣ってくるために,フィルムへのインキ転移 段ボール印刷のレベル UP の為にも,製版メーカーと一 性の悪化,版面上での目詰まりに起因するインキの絡みが 体になって,この件も解決しなくてはならない. 発生しやすくなる.また,アニロックスロールの高細線化 5.5.4 まとめ c)プリプレス技術の向上 今こそ印刷の主要素別に,オフセット・グラビア業界の デザインおよびアートワークも含めて,フレキソ印刷に ように各関係者が一同に会して段ボール印刷のマニュアル 適したプリプレス技術の発達が望まれる.校正とカラーマ を確立すべき時代ではないかと思う. ネージメントの確立も急務である. に適応できるインキの開発も望まれる. 最後に平成 19 年 12 月に完成し,業界紙等で報じられて いる段ボールダイレクト美粧印刷を可能にした枚葉印刷機 5.6.2 フレキソ印刷の市場発展の鍵 3, 4) 械(図 5.30)の概要を紹介する. フレキソ印刷は他方式と比べて有利な点を持っており, ① ダンボール B.E.マイクロフロート.やや厚手の合 これが今後の市場発展の鍵となる. 紙対応 a)小ロット多品種,短納期対応 ② 版厚 5 mm フレキソ印刷は,製版工程時間,版替え時間,印刷立ち ③ 1 枚給紙で可能 上げ時間,洗浄時間などが短く,小ロット多品種の印刷に ④ 蛇行防止機能搭載 適合している.また,低印圧と高い見当精度のため,後加 ⑤ 用紙サイズ大 1300 mm ⑥ 用紙サイズ小 400 mm 工をオンライン化することが可能であるために低コスト化 1000 mm が期待できる. 500 mm ● フルカラー印刷でも 0. 3 mm 以内で印刷可能 b)薄い素材にも適合 ● アニロックスロールは,600,460,250 線で自由に 低圧印刷のため,薄い素材にも適合する.包材の低コス 取替え可能 ト化と省資源と廃棄物対策に有効である. このような印刷機を普及させる事によって,環境にやさ c)人と環境に優しい印刷 しいと言われながらなかなか浸透せず多品種小ロットの国 水性インキや UV インキなど溶剤フリーなインキが使用 である日本でもかなりのフレキソ市場が広がるのではと思 でき,作業環境の改善と地球環境保全へ寄与できる. われる. d)エネルギー消費の少ない高速印刷システム 特に段ボールはリサイクルの王様であり,そして何十年 速乾性インキの使用と,薄膜で印刷されるために乾燥に も前から環境にやさしいフレキソ印刷をおこなっている業 必要なエネルギーが少なく省エネルギー印刷である. また, 界ゆえ,今後更なる発展的な取り組みが望まれる. 印刷機の回転は他方式よりも高速で連続印刷が維持できる (本川禎久) [118] 為経済的に有利である. 日本印刷学会誌 5.フレキソ印刷システム 413 5.6.3 フレキソ印刷の今後の展望 すでに,オフセット,グラビア,フレキソなど種々の印刷 これまでは,既存の印刷分野で既存の印刷方式を代替し プロセスをワンパスで印刷し,それぞれの印刷方式の特長 て市場を拡大していこうとする傾向が強かった.しかし, を最大限に活かすコンビネーション印刷の発表がある 6). フレキソ印刷技術の大きな進歩,周辺技術・資材も充実し 今後の発展に期待したい. つつあるが,フレキソ印刷の市場拡大は遅々として進んで フレキソ印刷は非常に優れた印刷方式であり,欧米と比 いないのが現状である.今後も 5.6.2 で述べたフレキソ印 べてわが国では遅れており,市場拡大も足踏み状態である 刷の特長を活かして,オフセットやグラビアからフレキソ のは否めないが,周辺も含めてシステムとしてはかなり充 へ移行されるか,新たな市場を創出して行く努力は継続し 実してきている.他印刷方式にない多くの優れた点を有し てなされるであろう.しかし,近年,フレキソ印刷の得意 ており,今後必ずや発展していくものと期待している. なところを活かして,他印刷方式と共生して新たな市場を 創生しようとする考えが提案されている 5). 参考文献 a)オフセット印刷との共生 1)鍋坂秀樹:日本印刷学会フレキソ研究会第 1 回研究例 オフセット印刷の後工程にニス引きや特殊インキ印刷を フレキソのコーターで組み込んだコンビネーション印刷が ある.この方式の延長で新たな需要が見込めるという. b)グラビア印刷との共生 軟包装印刷でのグラビア印刷の環境問題とコストアップ 問題の解決のために,フレキソ印刷とのコンビネーション 印刷が期待できるようだ. 会講演要旨集(2003.11.21). 2)高本審一郎:日本印刷学会フレキソ研究会第 1 回研究 例会講演要旨集(2003.11.21). 3)小田又徳:日本印刷学会フレキソ研究会第 2 回研究例 会講演要旨集(2004.11.2). [4] , 4)森 田 七 五 三 , 杵 渕 邦 夫: 日 本 印 刷 学 会 誌,43, 232(2006). c)新規分野 . 5)香田裕誌:日本印刷学会誌,40,[5],294(2003) オンラインで印刷と後加工を同時におこなう方式は設備 6)小田又徳:日本印刷学会フレキソ研究会第 4 回研究例 投資も抑制され,ランニングコストも低減できる印刷方式 であり,印刷の効率化と合理化に大きなメリットがある. 第 45 巻第 5 号(2008) 会講演要旨集(2007.6.22). (今橋 聰) [119]
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