こちら

2005 年度 MBA プロジェクト実習
「不思議な会社のアリス──(株)スタジオアリスの顧客インターフェースのリ・デザイン」
グループ 12
水野 雄太、湊 則男、宮尾 学、三好 和則、森田 喜勝
1. イントロダクション
我々のチームでは、「顧客インターフェースのリ・デザイン」を行っていると思われる企業として、驚異的な成長およ
び、その特徴的な顧客との係わり合いの観点から、株式会社スタジオアリスを選定した。その後スタジオアリスに関
する詳細な情報を収集し、それらの情報を基にして議論を深め、分析を行った。
以下のレポートでは、まずはスタジオアリスが、厳しい写真館業界の中でも驚異的な成長を遂げていることを紹介
する。 次に「顧客インターフェースのリ・デザイン」という概念を定義した上で、スタジオアリスがその観点からどのよ
うな革新を実現したかを示す。更に、同社のビジネスシステムに触れ、最後に今後の展望を提示したい。
2. 株式会社スタジオアリスの紹介
2.1. 写真館を取り巻く状況
まずは、写真館業界全体を取り巻く環境状況を説明する。写真館というと、「小さい・狭い」「汚い・古い」「薄暗い」
などのイメージがあり、とても儲かっている感じはしないというのが、本音であろう。事実、写真館業界の現実は、
① 日本写真館協会の加盟社数は、ピーク時 7800 社(1994 年)から 3800 社と、ほぼ半減。
② 経営者の高齢者が進んでいる。
③ 消費者が写真館を利用する機会自体が大幅に減っている。
などのように、非常に厳しい状況である(1)のは間違いない。
2.2. スタジオアリス概要
そういう厳しい業界の中でも、スタジオアリスは好業績を残している。売上高は、右肩上がりで急成長、5 年で約 2
倍の 190 億円にまで、増加している。また、経常利益も右肩上がり、5 年で約 4 倍、28 億円と驚くべき急成長を遂げ
ている。そして、収益率も、驚異の営業利益率14.8%と、二桁の収益率を示している。同業の、スタジオマリオが
赤字体質であるのに対して、高い収益性を示している。これは(業界内で1社だけ収益性が高いという意味で)「写真
館業界のセブンイレブン」と呼んでも、過言ではない。
(出典: (2) スタジオアリス 31 期事業報告書)
2.3. スタジオアリス 脅威の成長
上記で、スタジオアリスの財務面の高い収益性を見てきた。これを裏付ける実際の事業展開状況を考察してみる。
事業展開の度合いは、写真館業においては、人々の目に付く度合い・顧客がアクセスできる度合いから「店舗数」、
そしてサービス業という側面から、顧客へ便益を提供できる「従業員数」で判断できると考える。そのため、次に「店
舗数」と「従業員数」の推移を見てみる。
まず、店舗数は、5 年で約 1.5 倍の約 300 店舗に急成長中である。また、地域も広域化し、北海道から九州まで、
直営店を中心に事業規模を拡大している。従業員数も、5 年で約 2 倍の約 2000 人規模に急激に拡大中である。こ
のように、スタジオアリスは「収益性」「成長性」ともに、低調業界の写真館業では、稀有の企業であると言っていい。
(出典: (2) スタジオアリス 31 期事業報告書)
このようなスタジオアリスの強さの秘密は、同社の革新的な顧客インターフェースにあると考えられる。同社の経
営理念では「店は客のためにある」「努力するのは駄目。変えること」と明記されて(2)いたり、同社の伊貝専務は「写
真館の常識のすべてを覆す」と語っている(1)ことなどから、その革新を追求する姿勢が伺える。以下の章では、その
顧客インターフェースのリ・デザインを具体的に見ていきたい。
3. スタジオアリスのインターフェースのリ・デザイン
3.1.インターフェースのリ・デザインとは?
スタジオアリスの「顧客インターフェース」について考察する前に、まずは「インターフェース」についての定義を行
いたい。定義に際しては、以下のようにマーケティングミックスの4P と4C の概念を参考にした。
一般的に、企業が提供するマーケティングミックスは、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション
(Promotion)の 4 つの要素(4P)に分けられる。一方、これらの企業側から提示するマーケティングミックスの 4P に対し
て、顧客の側から見たマーケティングミックスも 4 つの要素に分けて考えることができる。すなわち、顧客の抱える問
題の解決(Customer Solution)、顧客が支払う費用(Cost)、顧客の購買時の利便性(Convenience)、顧客へのコミュニ
ケーション(Communication)であり、4C といわれている。
このように、マーケティングミックスの要素は、企業から顧客
への視点と、顧客から企業への視点の両面がある。我々は、
本稿における「インターフェース」を「企業から提供するマーケ
ティングミックスと、顧客が受け取るマーケティングミックスの接
点」として捉えることとした。ここでは、企業から見たマーケティ
ングミックスを顧客インターフェース、顧客から見た企業のマ
ーケティングミックスを企業インターフェースと呼ぶ。そのうえ
で、これら両面のインターフェースで変革が起こることを、イン
ターフェースのリ・デザインと定義した。
では、写真館での記念写真撮影におけるインターフェースとはどのように考えればよいのだろうか。ここでは、写真
館で記念撮影を行う際のプロセスとして、以下のステップを取り上げる。
1. 衣装選び
2. 撮影
3. 写真
4. 支払
そのうえで、これらのステップそれぞれについて、既存の写真館と比較することで、スタジオアリスがおこなった顧
客インターフェースのリ・デザインと、顧客がスタジオアリスから得た企業インターフェースのリ・デザインについて考
察する。
3.2.インターフェースのリ・デザイン 詳細
企業から見た顧客インターフェースのリ・デザイン(従来の写真館とスタジオアリスの比較)
従来の写真館
スタジオアリス
1. 衣装選び
写真館側では用意しない
多彩な衣装を 400 着スタジオ内で着付け
2. 撮影
職人技のカメラ技術で撮影
女性スタッフが子供をあやしながら撮影
3. 写真
数日後まで写真を見られない
デジカメ併用なので、その場で確認可能
4. 支払
不明瞭
均一で明瞭
顧客から見た企業インターフェースのリ・デザイン(これまでの写真館とスタジオアリスの比較)
従来の写真館
スタジオアリス
1.衣装選び
事前に晴れ着を買ったり、借りたり
まるで親が楽しむ子供のコスプレ大会のよう。
2.撮影
固い表情だったり、変な顔だったり・・
親が撮れない、子供の貴重な笑顔を残せる。
3.写真
一発勝負の緊張感。
気が済むまで撮り直し。さらに選ぶ楽しさも。
4.支払い
なんとなく高そう。少ない枚数で十分。
つい予算を超えてしまうけど、満足。
表に、企業から見た視点と顧客から見た視点のインターフェース・リ・デザインをまとめた。従来の写真館とスタジ
オアリスを比較している。表からわかるように、従来の写真館が提供する顧客インターフェースとしてのサービスは、
顧客からはネガティブな面があった。例えば、撮影のステップにおいて、「職人技のカメラ技術で撮影する」という顧
客インターフェースが提供されるが、顧客の側からみると「(どうしても緊張してしまうので)固い表情だったり、変な
顔だったり・・・」と捉えられる場合があった。
しかしながら、スタジオアリスは顧客に提供するサービスを変更し、顧客インターフェースをリ・デザインしている。
その結果、顧客の側から見た企業インターフェースがポジティブなものにリ・デザインされている。以下、各項目ごと
に顧客の声としてのブログ※を引用し、スタジオアリスのリ・デザインについて詳細な検討を行う。
※ ブログ 【Blog】
読み方 :
別名 :
ブログ
Weblog, ウェブログ
個人や数人のグループで運営され、日々更新される日記的な Web サイトの総称。内容としては時事ニュースや専門的トピッ
クスに関して自らの専門や立場に根ざした分析や意見を表明したり、他のサイトの著者と議論したりする形式が多く、従来から
ある単なる日記サイト(著者の行動記録や身辺雑記)とは区別されることが多い。
また、CMS(コンテンツマネジメントシステム)としての側面を重視し、時系列にページの自動生成する機能や他のサイトの記事
との連携機能(トラックバック)、コメント機能などを備えたブログシステムで運営されているものはすべてブログだとする立場もあ
る。
インターネットの普及につれて、多くの人が個人の Web サイトで日記をつけ始めたが、Web 日記は紙の日記と異なり、その内
容が広く一般に公開されており、ほかのサイトからリンクされたり論評されたりする。また、電子メールなどを通じて著者と読者が
コミュニケーションをはかったり、特定のトピックスについて電子掲示板で多人数で論議することも容易である。
そうした環境の中で、Web 日記は独自の進化を遂げ、それまでの個人サイトでもない、紙の日記でもない新しいメディアとして
台頭した。そうした新しい形式の日記風サイトを指す言葉として「Web」と「Log」(日誌)を一語に綴った「weblog」(ウェブログ)とい
う言葉が誕生した。現在では略して「blog」(ブログ)と呼ばれることが多い。
ブログでは個人の行動の記録は重視されず(一切載せないわけではない)、世相や時事問題、専門的話題に関しての独自の
情報や見解を掲載するという形式が主流となっている。また、ネット上で独自に見つけた面白いもの、変なもの、スクープなどを
紹介し、そこにリンクを貼って論評したり、街で見つけた話題(ネタ)を紹介したりするという記事も多い。大きな事件や事故が起
こった際に、地元の人や関係者、目撃者などが自分のブログに知っている情報を掲載することで、メディアを介さずに「生の」情
報が流通するという事例(イラク戦争時にイラク人の男性が公開していた「バグダッド日記」など)も見られる。
出典:IT 用語辞典 e-words (http://e-words.jp/)
■1. 衣装選び
従来の写真館は、写真館側では貸衣装を用意していなかった。そのため、顧客の側からは事前に晴れ着を借り
たり、買ったりといった不便さをともなっていた。そこで、スタジオアリスは多彩な衣装を 400 着、スタジオ内で着付け
するという仕組みをつくった。このような顧客インターフェースのリ・デザインの結果、顧客の視点にも変化が起こり、
まるで親が楽しむコスプレ大会のよう、といった新たな価値が生まれたのである。
「このスタジオ、何がオモシロいって、ベビーのコスプレが出来るところっ!赤ちゃんの着せ替え人形ができ
る、というわけっです」
「選んだのは十二単と渋めのピンクのドレスです。ドレスは先月入荷したばかりの新品で、お花も潰れたりし
ていなくて綺麗でした。親ばか満開ですが、ばっちり似合っておりました。十二単なんて、親の私も着たこと
無いのに。小千代、いいなぁ。」
「十二単でひととおり撮影が終わったので、今度はドレスにお着替えです。このドレス姿が。異常に可愛らし
いではありませんか。(親ばか全開です)」
■2. 撮影
従来の写真館は、「シャッター1 押し何十年」という職人技のカメラ技術で撮影が行われていた。そのような撮影を、
スタジオアリスでは「女性スタッフが子供をあやしながら撮影する」という仕組みにリ・デザインした。これまでは、シャ
ッターが押されるまでの緊張感からか、大人であっても硬い表情だったり変な顔で移ってしまいがっかりしたりするこ
とが多かった。ましてや子供の笑顔を引き出すようなことは、よほどの偶然でもない限り不可能だった。
一方、スタジオアリスでは「女性スタッフが子供をあやしながら撮影する」という企業側からのリ・デザインが行われ
ている。色んなオモチャやぬいぐるみで子供のツボをおさえ、泣き止んでオモチャに気をとられているうちに上手く
目線を捉えて素早く撮影するのである。結果、親が撮れない、子供の貴重な笑顔を残せるという、顧客側のリ・デザ
インが起こっている。
「何よりも○○の笑顔を奇跡的に撮ってもらえたのでそれが一番の収穫でした」
「私が日頃撮れない○○ちゃんの表情を確実にとらえてました」
■3. 写真
従来の写真館は、写真が出来上がるまでの数日間はどのような写真が出来上がってくるのかわからなかった。そ
のため、写真撮影の瞬間は一発勝負であり、緊張を強いられるものだった。しかしながら、スタジオアリスはフィルム
を用いたカメラにデジタルカメラを併用し、銀塩写真の質を保ちながらその場で写真を確認できるという仕組みを作
り出した。
この顧客インターフェース・リ・デザインの結果、顧客側から見た企業のインターフェースも変化した。すなわち、気
が済むまで取り直しができるだけでなく、取った写真をその場で選ぶという楽しみが増えたのである。
「衣装は 4 種類で、都合 80 枚近くを 2 時間かけて撮影しました。その中から気に入った 6 枚を購入」
「写真を選んでいるおばあちゃんのかおがとっても楽しそうだったから、安い買い物かな」
「パソコンでできた写真をその場で見せてもらうとみんな欲しくなってしまう、、、帰りの車の中で『来年からは
絶対1カットにしよう』ってモモパパと話したけど、どうかなぁ??」
「ドレスを着たヒメの写真を見てしまったら買わないわけにはいかなくなってしまった、どれも表情が違ってそ
れぞれのかわいさが光る。笑顔こそ撮れなかったけど、ちょっと不機嫌な顔もかわいいから困る。」
■4. 支払
従来の写真館は、撮影料金が明瞭でないところが多かった。一方、スタジオアリスは写真料金が明瞭である。基
本料金は 3,150 円で、1 家族何ポーズ撮影しても同じ料金である。写真を購入すると、8 つ切りサイズで 1 枚 4,400
円となり、1 枚追加するたびにいくらという従量制をとっている。
図 スタジオアリスの写真撮影料金表
従来の写真館は、撮影料金が明瞭でないた
めに顧客の側からはなんとなく高そう、というイ
メージを持たれていた。そのため、どうしても購
入を渋ってしまい、結果満足も低くなる傾向に
あった。筆者の一人も、結婚式の写真を購入す
る際、何種類ものポーズの写真をほしがる妻を
なだめてなるべく少なくするよう必死であった。
一方、スタジオアリスは明瞭な料金体系である
出典: (3) スタジオアリスホームページ
ため、つい多くの枚数を購入してしまう傾向に
ある。しかも、こどものかわいい表情が「たくさん」とれたと、満足度が非常に高いことも特徴である。
「あれもこれも」と選んだらそれなりのお値段になってしまいました。まぁ、しょうがないかな・・・。どれもかわい
いんだもん♪←親バカ 」
「結局一冊のアルバムにしてもらい予算超えましたが・・・とってもかわいかったから良しって事で。」
4. 顧客インターフェースを支えるビジネスシステム
このようなスタジオアリスの顧客インターフェースのリ・デザインは、工夫されたビジネスシステムによって実現して
いる。以下、前述のステップに沿って、それを支えるビジネスシステムを明らかにしたい。
4.1. 衣装
スタジオアリスは、リピーター獲得のため、頻繁に衣装を入れ替えている。更新の期間は洋装2年、和装 3 年と短く、
流行のキャラクター衣装なども積極的に取り入れている。衣装は1店舗あたり約400着用意しており、それを全部入
れ替えると約900万円の費用がかかる(1)。それはスタジオアリスにとっては顧客ロイヤリティを獲得するための投資と
も言える。実際、スタジオアリスのリピーター率は約 5 割(4)であり、一定の成果が出ていると言える。
4.2. 撮影
スタジオアリスでは、撮影時に必要なノウハウの蓄積・伝達の方法として、「マニュアル」と「社員教育」がある。
マニュアルは、各店舗に大量の運営マニュアルを整備し、毎年改訂している。マニュアルの種類は、撮影や着付
けなどの技術系マニュアルから、店舗管理・人事管理などの業務系マニュアルまで、「接客以外はすべてマニュア
ル化した」(伊貝専務)(1)というほど、幅広くカバーされている。毎年改訂されていることから、社内の暗黙知が形式
知へと頻繁に転換されていると言える。
一方、社員教育も力を入れている。まず新入社員は、試用期間である 3 ヶ月の間に、すべてのマニュアルを習得
することを義務付けられている。また、年 1 回、社員のスキルを測定する資格審査が実施されており、それによって、
社員等級(スター、クルー、メイトの3段階)が決定される。更に、七五三など来客が集中する行事の前には、東京と
大阪の研修センターで特別に研修が行われるなど、様々な方法で社員のスキルアップを図っている(1)。
4.3. 写真
スタジオアリスでは写真撮影は職人的なプロカメラマンが行うのではなく、特別な撮影技術を持たない女性スタッ
フが行っている。その代わり、機械的なシステムを整備して撮影技術の低さをカバーしている。伊貝専務は、「当社
のスタジオは重装備。スタッフはフレーミングとピントさえ合わせれば撮影が可能」と言っている(1)。これによって、女
性スタッフが着付けから撮影まで兼業することができ、人件費をセーブできるというメリットが生まれている。
撮影システムの中でも、中核となるのは「フォトセレクトシステム」である。これは、デジタルカメラと銀塩カメラを併用
したシステムで、これによって、撮影後、モニターでデジタル画像を確認して、気に入った画像だけ銀塩写真として
プリントすることが可能になる。スタジオアリスは、銀塩写真全盛期である 10 年以上前から、いち早くこのシステムを
導入し、しかも特許も取得しているため(4 件公開、うち 2 件が登録済み)他社が真似しにくく、同社の飛躍の原動力
となった。
4.4. 料金 (価格・原価)
スタジオアリスは、高い営業利益率を実現するため、原価を抑える工夫をしている。
その一つには、フィルム以外の製品はすべて海外生産でかつ自社製品を開発していることが挙げられる。たとえ
ば、アルバムは韓国製、衣装は中国とベトナム製であり、しかもすべて自社仕様に開発させて直輸入している。
もう一つには、300 店舗という圧倒的店舗数を背景にしたボリュームディスカウントが挙げられる。店舗数は同業他
社に比べて圧倒的に多く、そのメリットは大きい。
伊貝専務は、「売上高に占める材料費の割合は、他社に比べて 1 割は違う」とコメントしている(1)。
5. これからのスタジオアリス
さて、子供写真業界に一石を投じて、大きな成長を遂げたスタジオアリスであるが、今後とも順風満帆で更なる成
長を遂げることができるのであろうか。今後のスタジオアリスの経営のリスクについて、以下に述べたいと思う。
潜在的なリスクについては 3 つの要素がある。まず、経営の安定性の課題である。現在のスタジオアリスは特定の
シーズンに片寄ったビジネスを行っている。次に、持続性・発展性の課題である。日本は少子化社会に向けてまっ
しぐらである。そのような環境下で市場は成長することができるのであろうか。最後に独自性の課題であるが、新規
参入企業が続々子供写真館業界に参入している中で、スタジオアリスの競争優位は持続できるであろうか、という
課題である。
(1) 経営の安定性の課題について
右に示すグラフは、写真館業界の平均的な需要要因
とスタジオアリスの需要要因を比較している。いずれも七
五三が最も大きな需要時期であり、業界平均では約60
~70%である。スタジオアリスは業界平均よりは低いが、
それでも売上高の約50%を七五三に依存している(1)(3)。
つまり、11 月の特定時期にビジネスが片寄っており、
繁盛している時期と閑散としている時期が明確に分か
れるのである。結果、スタジオアリスでも例年第一四半
期の決算は赤字となっている(3)。今後、安定な経営を目
指すためには、閑散としている時期の需要を拡大する商品・サービスの提供が必要であろう。
(2) 少子化への対応
日本は少子化時代に突入し、家族当りの子供は平
均すると 1.3 人に低下している。今後も少子化時代は
継続すると予測されている。
② 少子化でも巨大な潜在市場
子供写真の市場規模 (潜在市場規模2000億円)
子供を対象にしているスタジオアリスは拡大路線を
進めているが、問題はないのであろうか。右のグラフは、
0~7歳児
人口
0~7歳児の 写真館利用者数
スタジオアリス
での撮影件数
スタジオアリスの需要予測を示している。0~7歳児の
人口は約 930 万人であり、子供写真館の利用率は2
2%である(1)。
100%
(926万人)
22%
現在のスタジオアリスの撮影件数は 0~7 歳児の人
7%
(71.8万人)
口の7%(72万人)である。したがって、少子化時代に
おいても写真館の利用率を高め、かつスタジオアリス
(株)スタジオアリス本村社長コメント: 『30%にまで高めれば800店舗は出店できる』
のシェアを高めることができれば、まだまだ成長が可能
である。スタジオアリスの本村社長は、現在の店舗数 300を、子供写真館の利用率を30%まで高めることにより、
800店舗まで拡大可能と発言している(1)。つまり、安心はできないが、新規顧客の着実な獲得により成長は可能で
あると言えるだろう。
(3) 競合への対応
右のテーブルに示すように、数多くの競合企業が子
供写真館の市場に参入を始めている。いわば、スタジ
③ 新規参入企業の増加
オアリスの成功をみて、二匹目のドジョウを狙っている
企業名
サービス名
特徴
といえよう。カメラのキタムラは、ターゲット顧客及びサ
カメラの
キタムラ
スタジオ
マリオ
スタジオアリスと
ほぼ同じサービス。
ービスの提供の仕方等、ほとんどがスタジオアリスの模
倣であり、ホームページデザインなども類似している。
コニカミノルタは、ターゲット顧客を 1 歳以下に絞り、
新しいサービスを提供し、年内に 100 店舗出店といっ
た挑戦的な目標を掲げている(5)。
その他、コンビウィズ、プラザクリエイト等もそれぞれ
新しいコンセプトで写真館事業に参入しようとしている
コニカ
ミノルタ
コンビ
ウィズ
プラザ
クリエイト
店舗数(目標)
51店舗(来年
度に150店舗
目標)
赤ちゃん本舗と提携。
(年内に
1歳以下が対象。
100店舗目標)
撮影時胎内を再現。
撮影した写真を (3年間で
ファンタジア 専用機器で読み込
40店舗目標)
むと音が出る。
ぱぁぷぅ
スタジオ
スタジオ
パレット
オリコンと提携。
オーディション用
写真撮影。
(3年間で
30店舗目標)
(5)
。
これらの新しく参入した競合企業の中で、スタジオアリスの競争優位性は持続できるのであろうか。我々は当面は
持続できると考えている。カメラのキタムラのように模倣したとしても、やはり人に依存する領域(従業員スキル等)は
すぐには模倣できないからである。サービス業にとって、人に依存する領域は最も重要な因子の一つであろう。しか
しながら、中長期的には、競合企業も経験・知識が蓄積され、かつ人材のヘッドハンティング゙など通して、力をつけ
てくると考えられる。その時に、スタジオアリスは一歩二歩進んだサービスを提供できるように今から戦略を立てる必
要がある。
最後に、我々から、スタジオアリスの今後の戦略
に関する提案を紹介したい。
まず、七五三依存からの脱却については、積極
的なダイレクトメール&クーポンで、新しい用途を
顧客に連絡すること、また、顧客から顧客の知り合
いを紹介してもらうなど、口コミの喚起で新規顧客
を獲得することが考えられる。
① 七五三依存からの脱却
¾ 今以上に積極的なダイレクトメール&クーポンで、 新しい
用途を提案。
② 潜在需要の獲得
¾ ショッピングセンターを中心にした、店舗数増加の加速。
③ 競合他社にない、差別化商品・サービスの開発
¾ 屋外ロケによる写真集作成サービス
¾ ファッションブランドとのコラボレーション
次に、潜在的な需要の拡大については、出店計
¾ オリジナルの生涯アルバム作成サービス(最大規模の店舗数だ
から、全国どこに引越ししても続けられる)
画を独立した店舗から人の集まる大型ショッピング
センターを中心にしていくこと、そして、地域内の店
舗密度を高くすることなどが提案できる。
最後に、競合企業とのサービスの差別化については、新しいサービスを開拓する必要があるだろう。具体的には、
屋外にてロケを行い、写真集を作成するサービス(タレントのような写真集をつくる)、ファッションブランドとコラボレー
ションを行い、ヤングマザーの関心をひくことなどが考えられる。また、0 歳から 20 歳までの生涯アルバムを作成するサ
ービスなどはどうだろうか。たとえ引越しをしても、転居先の地域の店舗で継続してサービスをうけることができるように
することで、スタジオアリスが持つ全国的な店舗展開という資産を生かすことができるだろう。
これらはあくまでもサービスの差別化を図るための一例であり、潜在需要を掘り起こすアイデア発掘を行なうことも重
要である。
6. まとめ
以上のように、スタジオアリスは、顧客インターフェースのリ・デザインを巧みに行い、ときにはわずらわしいもので
あった記念写真撮影を、あたかも家族の楽しい記念行事のようにリ・デザインした。また、このリ・デザインは巧みな
ビジネスシステムによって支えられている。スタジオアリスは、斜陽業界である写真館業界において、驚異的な成長
を遂げているが、この成長の原動力は、顧客インターフェースのリ・デザインにある。今後においては、競合の増加
などのリスクを跳ねのけ、子供専門写真館の先駆者として当社の優位性が持続すると信じたい。
――アリスの「リ・デザイン」は止まらない。
7. 参考文献:
1.
週間東洋経済 2005 年 3 月 26 日号 (東洋経済新報社)
2.
スタジオアリス 31 期事業報告書
3.
スタジオアリス ホームページ (http://www.studio-alice.co.jp/)
4.
日経トレンディー2005 年 9 月号 (日経ホーム出版社)
5.
日経 MJ(日経流通新聞)2005 年 5 月 27 日付 (日本経済新聞社)
6.
日本経済新聞 2005 年 6 月 2 日付 (日本経済新聞社)
7.
日経産業新聞 2004 年 10 月 27 日付 (日本経済新聞社)
以上