第三セクターの財政危機と再建問題 ―ATCおよびWTCの

第三セクターの財政危機と再建問題
─ ATC および WTC の特定調停を素材として─
森 裕 之
Ⅰ.大阪市財政の悪化と第三セクター
1.大阪市による破綻処理方法の選択
Ⅱ.ATC および WTC の財政危機と財務構造
2.大阪市の財政支援と金融機関
1.貸借対照表上の財務的特徴
3.特定調停の検討
2.損益計算書上の財務的特徴
Ⅳ.むすびにかえて
Ⅲ.ATC および WTC の破綻処理と特定調停
Ⅰ.大阪市財政の悪化と第三セクター
て特定調停を裁判所に申請し、大阪市議会が 2004 年1
月 31 日に調停案を受け入れる議案を可決し、2月12日
1)
筆者は前稿
において、アジア太平洋トレードセンタ
に調停が成立した。これは、個人や中小企業を想定して
ー(ATC)および大阪ワールドトレードセンター
いた特定調停を第三セクターに適用した初めてのケース
である4)。
(WTC)のような社会資本施設を運営する第三セクター
の財政危機の原因が主として建設事業の拡大によって発
ATC や WTC のような株式会社形態をとる第三セクタ
生している減価償却費と借入金利息に求められることを
ーの場合には、自治体といえども出資者は出資額の範囲
それぞれの財務諸表を用いて明らかにした。その一方で、
内における有限責任しか負わないのが商法上の建前とな
これらの第三セクターが当初掲げられた公的目的からか
っている。ところが、すでに破綻した大阪府の第三セク
け離れた運用実態に陥っており、公企業を評価する際に
ターである泉佐野コスモポリスなどのケースにみられる
必要となる経済性および公共性のいずれの面からみて
ように、実際にはそのような責任限度を超えた財政責任
も、その存立根拠が見出せない状況を指摘した。
を自治体が負わされる場合もある。今回成立した特定調
一方で、「最大株主」としてこれらの第三セクターを
停は、大阪市側の主張によれば ATC や WTC を法的整理
管轄する大阪市の財政状況の悪化が深刻になっている。
(=精算)するよりも大阪市の財政負担が小さくてすむ
大阪市の市税収入は、1996 年度の 7,776 億円をピークに
ということがその大きな理由とされた。しかし、この特
一貫して減少をつづけ、2003 年度末には 5,988 億円とピ
定調停をめぐる動きの中で、これまで公表されてこなか
2)
ーク時の税収入の4分の1もの減少が見込まれている 。
った第三セクターに関する財政状況等が大阪市議会など
その結果、経常収支比率も 2002 年度で 103.1 %に達して
において明らかにされることになった。それにより、こ
おり、政令指定都市の中では神戸市(103.3 %)に次い
れらの第三セクターの特定調停の内容を検討することが
3)
で高くなっている 。経常収支比率が 100 %を超えると
はじめて可能になったといえる。
いうのは、地方税や地方交付税といった経常一般財源収
本稿では、ATC および WTC、大阪市、金融機関の財
入を人件費・扶助費・公債費のような義務的な経常経費
政・金融関係を総体として把握することを通じて、成立
が上回っている財政状態であり、大阪市本体の財政状況
した特定調停の内容に関する評価を行うことにする。そ
の危機を端的に示している。このような財政の悪化によ
のために、まず前稿でみた ATC および WTC の財務構造
って、大阪市はこれまで実施してきたような第三セクタ
をより詳しく分析することによって、それらと大阪市お
ーに対する公的支援を続けていくことが困難になってい
よび金融機関との関連をとらえる。その上で、特定調停
るのである。事実、この状況を背景にして ATC、WTC、
の内容についての評価を行うこととする。
そして湊町開発センター(MDC)の3つの第三セクタ
ーは、2003 年6月に金融機関に対する債務免除を求め
−27−
政策科学 12 − 1,Sept. 2004
Ⅱ.ATC および WTC の財政危機と財務構造
とになり、金融機関が新たな融資に応じることなどはあ
り得ない。事実、金融機関はそれまで両社に対して追加
1.貸借対照表上の財務的特徴
貸付を行っていたが、1997 ∼ 98 年度以降は貸付金の回
表1および表2は、ATC と WTC それぞれの貸借対照
収へと転じることになった。このような財務状況にもか
表である。まずここから読み取れる両社の財務構造の特
かわらず、両社が現在まで存続してきたのは、両社自身
徴および問題点をみておくことにしよう。
の業績とは関係のない事情が斟酌されているからであ
第一に、ATC および WTC はともに巨額の債務超過に
り、それは「親会社」としての大阪市の信用に他ならな
陥っており、株式会社としては致命的な財務状態におか
い。さらに付け加えておくべきなのは、特定調停の支援
れていることが指摘できる。ATC は 1997 年度決算、WTC
要請に基づいて大阪地裁が行った不動産鑑定の結果によ
は 1996 年度決算から債務超過額を累増させてきており、
れば、2003 年 3 月末における ATC と WTC の資産の大部
その額は 2002 年度決算時において、ATC は 254 億円、
分を構成している土地・建物の鑑定評価額はそれぞれ
WTC は 237 億円にものぼっている。一般にはこれだけ
310 億円(簿価の約 30 %)、191 億円(同約 24 %)でし
の債務超過が発生していれば、債権者側がイニシアティ
かなかったことである5)。仮にこれらの資産の時価評価
ブをとって会社更生や民事再生の申し立てが行われるこ
で債務超過額を計算すれば、その額は両社とも 1,000 億
表1 ATC の貸借対照表(2002 年度)
科 目
(資産の部)
流動資産
現金及び預金
売掛金
未収入金
未収収益
貯蔵品
前払費用
短期貸付金
立替金
その他の流動資産
貸倒引当金
固定資産
有形固定資産
建物
構築物
機械及び装置
車両及び運搬具
器具及び備品
土地
無形固定資産
商標権
電話加入権
施設利用権
ソフトウェア
ソフトウェア仮勘定
投資等
投資有価証券
子会社株式
差入保証金
長期前払費用
その他投資
合 計
金 額
科 目
(負債の部)
流動負債
短期借入金
1年内返済予定の長期借入金
未払金
未払費用
前受金
預り金
未払消費税等
未払法人税等
未払事業所税
その他の流動負債
7,186,831
3,897,760
316,210
208,989
21,254
168
53,309
2,705,000
20,092
15,289
▲ 51,240
112,142,416
107,664,328 固定負債
71,314,224
長期借入金
1,342,794
預り保証金
2,251,149
退職給付引当金
558
その他固定負債
224,940
負 債 合 計
32,530,661 (資本の部)
82,248
資本金
6,441
利益剰余金
1,604
当期未処理損失
31,626
(うち当期損失)
37,115
5,460
4,395,839
4,033,472
0
145,562
166,131
50,673
資本合計(債務超過額)
119,329,248
合 計
出所)アジア太平洋トレードセンター株式会社『営業報告書』2002 年度版。
−28−
(単位:千円)
金 額
79,098,412
20,648,466
53,806,991
1,198,425
3,120,782
224,732
46,631
41,945
4,600
5,766
71
65,586,157
51,939,250
13,580,383
59,586
6,938
144,684,570
22,111,250
▲ 47,466,572
47,466,572
(2,909,737)
▲ 25,355,322
119,329,248
第三セクターの財政危機と再建問題(森)
表2 WTC の貸借対照表(2002 年度)
科 目
(資産の部)
流動資産
現金及び預金
売掛金
前払費用
未収入金
貸倒引当金
固定資産
有形固定資産
建物
構築物
機械及び装置
工具、器具及び備品
土地
建設仮勘定
無形固定資産
商標権
電話加入権
施設利用権
ソフトウェア
投資等
投資有価証券
長期前払費用
その他投資
資産合計
金 額
科 目
(負債の部)
流動負債
短期借入金
未払金
未払費用
未払法人税等
未払消費税等
前受金
預り金
588,635
415,057
158,956
33,686
1,279
▲ 20,344
81,137,983
80,867,309
68,874,270
342,922
64,718 固定負債
201,160
長期借入金
11,382,237
預り保証金
2,000
退職給付引当金
96,468
412
負 債 合 計
1,805 (資本の部)
755
資本金
93,494
利益剰余金
174,205
当期未処理損失
4,000
(うち当期損失)
147,746
22,458
資本合計(債務超過額)
81,726,619
負債及び資本合計
(単位:千円)
金 額
63,450,000
62,618,000
578,000
9,848
2,010
43,908
131,396
66,837
41,941,084
35,595,000
6,317,427
28,657
105,391,085
9,400,000
▲ 33,064,466
33,064,466
(1,343,575)
▲ 23,664,466
81,726,619
出所)大阪ワールドトレードセンタービルディング『営業報告書』2002 年度版。
円近いものになる。これら2社の債務超過の合計額は現
産/流動負債)をみれば、ATC が 9.1 %、WTC が 0.9 %
在の大阪市の年間市税収入の3分の1にも及ぶ巨額のも
となっている。このことは、1年以内に支払期限が発生
のであり、大阪市からみても ATC と WTC の財政悪化が
する債務に対して、1年以内に現金化できる資産が極端
抜き差しならないところまで進んでいることがみてとれる。
に少ない割合でしかないことを示しており、両社の資金
第二に、資本金に対する負債(他人資本)の割合がき
繰りがいかに苦しいものであるかを示している。しかも、
わめて大きいことである。資本金と負債がどのぐらいの
これらの流動資産に属する負債の大部分が民間金融機関
比率であるべきかについては一概には論じられないが、
からのものであり、これらの金融機関の一部がひとたび
両社の場合には借入金による膨大な利息負担が財務構造
融資から撤退する事態になれば、他の金融機関も追随す
を大きく規定しており、いくら経営効率を追求しても財
ることによって資金繰りが一気に苦しくなることが予想
務改善が難しい状況がある。このことから判断すれば、
される。その意味では、両社の財務体質はきわめて脆弱
このような負債に偏重した資金構成は第三セクターの財
であるといわざるをえない。
政問題の根本にあるものといってよい。一般にこれほど
第三に、有形固定資産とくに建物の資産額がきわめて
の過小資本のケースでは、事業面に対する信用問題から
大きく、それが財務を圧迫していることである。ATC
金融機関による融資が難しいといえるが、両社の場合に
および WTC はいずれも大規模な社会資本施設の経営を
それが可能となっているのは事業内容が不動産関係であ
主要な事業内容にしていることから、有形固定資産が大
る点に加えて、明らかに大阪市という自治体の公信用に
きくなるのは当然だとみることは可能であるが、それぞ
よるものだったといってよい。しかも、負債の中身をみ
れ事業開始から 10 年近くの間に毎年多額の減価償却を
れば ATC、WTC ともに短期借入金等の流動負債がきわ
続けてきたにもかかわらず、いまだに ATC、WTC とも
めて大きくなっており、経営分析において企業の支払い
に 700 億円前後の建物資産が残っている。また、有形固
能力の安全性を図る指標の1つである流動比率(流動資
定資産を使ってどれだけの営業収益を上げたかを示す有
−29−
政策科学 12 − 1,Sept. 2004
形固定資産回転率(営業収益/有形固定資産)をみれば、
規模で発生してきている。2002 年度決算における営業
ATC、WTC はいずれも 0.07(回)となっており、投下
費用に占める減価償却費の割合は ATC で 36 %、WTC で
資本の利用効率性が極端に悪いことがわかる(営業収益
46 %に上っており、減価償却費が両社の財政に及ぼす
については後掲表3を参照)。このような ATC と WTC
影響がきわめて大きいことがわかる。この点は、固定資
における資本の非効率性は、これらが自治体の出資する
本への巨額の投資を必要とする社会資本の運営を行う企
第三セクターによって所有・運営されている施設である
業体にみられる共通した特徴であるといってよい。
こととも関係している。すなわち、ATC の場合には、
第二に、両社とも営業外損失(営業外損益の赤字)が
ホールやミュージアム、周辺地域振興のための集客に対
営業損失に匹敵する規模で発生してきており、近年では
応するための大規模地下駐車場や広い通路などが「公共
むしろ営業外損失が営業損失を上回っている。近年のこ
性を意識した構造」とされ、その結果として賃貸可能面
のような状況は営業損失が縮小してきたことを原因とし
積割合が 40 %と一般的なビルと比較して低くなってい
ているが、逆にいえば本業の赤字である営業損失が縮小
る 6)。WTC についても、コスモスクエア地区の集客性
しても営業外損失を減少させることができなければ財政
向上のために展望台、公共広場、大規模駐車場等の施設
状況の改善が難しいことを示している。営業外損失がこ
がつくられており、賃貸オフィスビルとしてみた場合に
れだけ生じている原因は、営業外費用のうちの支払利息
7)
は非効率であることが指摘されている 。しかし、この
にある。支払利息は毎年度 ATC で約 30 億円前後、WTC
ような建造物における構造上の公的配慮が一部でなされ
で約 20 億円前後支出されてきている。先ほどみたよう
ているからといって、営利を目的とする株式会社形態の
に、これは負債に著しく偏った資金構成になっているこ
第三セクターにおいて、これほどまでの資本の非効率性
とから生じている結果である。
を説明することは難しいし、容認することもできないで
第三に、営業収益と減価償却費および支払利息の関係
あろう。
をみれば、1998 ∼ 2000 年度ごろまでは営業収益をすべ
て回しても減価償却費と支払利息を賄うことさえできな
2.損益計算書上の財務的特徴
かった。財政状況が改善してきた 2002 年度における減
次に、このような貸借対照表上の財務的特徴から生じ
価償却費と支払利息の営業収益に占める割合でも、ATC
ている ATC および WTC の財務上の問題点を損益計算書
で 79 %、WTC で 70 %となっており、いかにこれらの固
の内容から検討してみよう。
定費が ATC と WTC の財務運営上に重くのしかかってい
表3は ATC および WTC の損益計算書から主要な財務
るかがわかる。すなわち、本業による収入である営業収
指標の推移をまとめたものである。ここから、両社の経
益を増やしていったとしても、これらの固定費が削減で
営状態を次のようにまとめることができる。
きないかぎり、財政状況の改善が難しかったことが示さ
第一に、WTC は 2000 年度まで、ATC は現在まで営業
れているのである。たしかに営業収益に関していえば、
損失(営業損益の赤字)が発生してきているが、これは
ATC は 1999 年度、WTC は 2001 年度から大幅な増加とな
財務活動等を除いた両社の「本業」部分において赤字が
っているが、その最も大きな要因として挙げられるのは
生じていることを示している。すなわち、両社は通常の
ATC についてはアウトレットモール、WTC については
事業活動としては採算的にはまったくといってよいほど
大阪市の関連部局の入居がそれぞれフルに寄与したこと
成り立ってこなかったのである。近年営業損益が黒字に
によるものである。つまり、いずれも本来的事業である
なっている WTC に関しても、テナントの大部分が大阪
それぞれの当初目的9)とは著しくかけ離れた対応によっ
市と市関連団体による事実上の財政補填が行われてお
て営業収益が確保されてきたのである。これらはいずれ
8)
り、施設経営は実際には大きな赤字となっている 。す
も当初計画にはなかったものであり、両社の設立目的と
なわち、両社は第三セクターという株式会社形態による
合致していない。すなわち、減価償却費および支払利息
営利事業としては本来存続しえないものだったのであ
といった固定費が財務構造にビルトインされてしまえ
る。その原因として大きいものが減価償却費(有形固定
ば、第三セクターの赤字は避けがたいものとなってしま
資産分を簡便法により推計、以下同様)であり、表3に
うのである。これらの固定費が大きくなるのは社会資本
みられるように ATC で約 30 億円、WTC で 27 億円前後の
のような巨大施設においてであり、第三セクター方式に
−30−
2,865,361
(うち減価償却費)
▲ 7,351,084
▲ 3,160,995
3,546,441
4,293,869
1,132,874
▲ 4,185,185
2,857,876
8,734,843
4,549,658
1995
▲ 7,439,086
▲ 3,207,404
3,467,009
4,212,167
1,004,763
▲ 4,237,995
2,824,143
8,755,594
4,517,599
1996
−31−
▲ 5,755,861
▲ 2,465,498
2,232,124
2,474,965
9,467
▲ 3,260,183
2,877,436
9,019,885
5,759,701
1996
▲ 6,136,070
▲ 2,776,440
2,544,969
2,786,363
9,923
▲ 3,342,397
2,880,976
6,849,411
3,507,014
1997
▲ 5,155,019
▲ 2,573,203
2,349,464
2,586,275
13,072
▲ 2,403,141
2,873,709
6,491,218
4,088,077
1998
▲ 6,695,677
▲ 3,248,998
3,469,500
4,235,903
986,905
▲ 3,443,965
2,938,591
8,835,771
5,391,806
1997
注)減価償却費については、簡便法により推計。
出所)大阪ワールドトレードセンタービルディング『営業報告書』各年度版より作成。
▲ 4,878,701
当期損益
2,708,728
(うち支払利息)
▲ 2,904,014
2,950,938
営業外費用
営業外損益
46,924
営業外収益
営業損益
▲ 1,970,837
9,690,024
営業費用
(うち減価償却費)
7,719,187
1995
営業収益
WTC
注)減価償却費については、簡便法により推計。
出所)アジア太平洋トレードセンター株式会社『営業報告書』各年度版より作成。
▲ 5,581,250
当期損益
3,915,869
(うち支払利息)
▲ 3,392,364
4,670,487
営業外費用
営業外損益
1,278,123
営業外収益
▲ 3,420,867
7,882,523
営業費用
営業損益
4,461,656
1994
営業収益
ATC
▲ 4,380,041
▲ 2,400,950
2,228,560
2,465,462
64,512
▲ 1,917,202
2,878,772
6,327,308
4,410,106
1999
▲ 5,865,364
▲ 3,388,213
3,435,280
4,219,504
831,291
▲ 2,552,251
3,018,308
8,503,260
5,951,008
1998
表3 ATC および WTC の財務指標
▲ 3,165,472
▲ 1,842,808
1,849,110
1,849,361
6,553
▲ 1,365,287
2,824,695
6,362,944
4,997,657
2000
▲ 3,767,885
▲ 2,329,234
2,959,177
2,993,957
664,723
▲ 1,381,183
3,044,400
8,723,790
7,342,606
1999
▲ 1,530,883
▲ 1,644,978
1,654,437
1,654,437
9,459
123,553
2,733,577
5,997,615
6,121,168
2001
▲ 3,417,411
▲ 2,261,357
2,959,652
2,995,122
733,765
▲ 851,486
3,045,606
9,227,845
8,376,359
2000
▲ 1,343,575
▲ 1,470,850
1,511,573
1,518,168
47,318
186,066
2,677,503
5,825,573
6,011,640
2002
(単位:千円)
▲ 3,215,890
▲ 1,969,980
2,812,976
2,847,477
877,497
▲ 1,019,351
2,971,233
8,853,248
7,833,896
2001
▲ 2,909,737
▲ 2,044,815
2,800,413
2,835,369
790,554
▲ 850,322
2,944,009
8,077,867
7,227,544
2002
(単位:千円)
第三セクターの財政危機と再建問題(森)
政策科学 12 − 1,Sept. 2004
よる社会資本運営において最も発生しやすい財務状態で
を再建計画に従わせるが、特定調停の場合には債権放棄
あるといってよい。
を求める相手が任意であり、調停合意の当事者以外の債
第四に、ATC、WTC ともに数十億円単位の膨大な当
権者には効力が及ばない、といった点である。すなわち、
期損失(当期損益の赤字)を生み出してきており、これ
法的整理と任意整理という区分以外に、企業の再建を前
らの当期損失が累積した結果として当期未処理損失額が
提とするか否かによって、破綻処理の方法を①精算を図
ATC で 475 億円、WTC で 331 億円にも上っている。これ
る、②再建を図る、の2つの類型に分けることが可能で
らの当期未処理損失額は資本金を大きく上回っており、
ある。
巨額の自己資本マイナス=債務超過につながっている。
大阪市は最終的に ATC、WTC、MDC の3社に対して
以上のような財務状態においては、事業のもつ公共性
「法的整理」を行わずに特定調停に基づく再建を選択し
との対比において、第三セクターを存続させることによ
たが、その理由の一つとして、特定調停では大阪市の負
って今後も財政支援を続けていくべきか否かに関して
担が約 470 億円(新たな出資、債務の株式化、代物弁済)
は、自治体の財政問題としてもきわめて重大な政策的判
であるのに対して法的整理の場合には 900 億円(出資金、
断が迫られることになる。とくに、現在の大阪市にみら
貸付金、市の敷金)と2倍に達するということが挙げら
れるような厳しい財政状況が発生している場合には、巨
れた。この場合の「法的整理」とは精算を図ることをあ
額の赤字を生み出している第三セクターを存続させるべ
らわしており、ATC および WTC の事業を第三セクター
きか否かの判断については喫緊の課題になっているとい
として継続しない、すなわち、破産させるという意味で
える。
用いられていた。つまり、ここでは第三セクターの事業
を継続するか否が問われていたのであって、大阪市の金
Ⅲ.ATC および WTC の破綻処理と特定調停
銭的負担の比較考量から特定調停を選んだということに
なる 11)。ところが、後にみるように、この試算額は特定
1.大阪市による破綻処理方法の選択
調停のケースにおいてきわめて過小に見積もられてお
ATC や WTC のような株式会社形態の第三セクターが
り、このことは後の市議会でも明らかにされることとな
経営危機に陥った場合、その処理の仕方にはいくつかの
った。また大阪市が特定調停を選んだ他の理由としては、
パターンを挙げることができる。一般には株式会社の破
法的整理を行えば大阪市の信用が失墜し、大阪市の将来
綻処理の方法は、①法的整理、②任意整理(私的整理)
の事業運営に支障が生じるという点が掲げられていた 12)。
に大きく分けられる。ATC および WTC の場合には完全
しかし、現在すでに大阪市本体と第三セクター等におい
な任意整理ではなく、2000 年2月から施行された「特
て深刻な財政難が発生していること、および、第三セク
定調停法」に基づいて、裁判所の下で債務者と債権者の
ターの特定調停への持ち込みによって金融機関に債権放
債務免除等の協議を行うことによって、債務者の経済的
棄が迫られる点においては民事再生のような法的整理と
再生を図るという特定調停に基づいた経営再建を進める
何ら変わりのないことを考慮すれば、大阪市に対する民
ことが決定された。
間企業の信用の低下はすでに大きく落ち込んでいるとい
特定調停を除き、法的整理という場合には一般に「倒
ってよい。にもかかわらず、大阪市が最終的に法的整理
産五法」といわれる破産、特別精算、民事再生、会社整
(=精算)によらず特定調停を選んだ理由として考えら
理、会社更生のことを指し、このうち破産および特別精
れるのは、ATC および WTC を「倒産」させるという行
算が企業を精算する整理方法であり、残りの3つが企業
政にとって不名誉な事態を避けると同時に、「将来の事
10)
の再建を図る場合の整理方法である 。一方、特定調停
業運営」の内容として考えられるベイエリアの開発を今
は債務放棄を通じて企業の経営再建を行おうとする制度
後も続けるためのマイナス要因をできるかぎり生じさせ
であり、その意味では民事再生等の経営再建を目指す法
ないことであったといえる。そのためには、ATC およ
的整理と同じパターンの処理方法といえる。両者が異な
び WTC をできるかぎり速やかに特定調停の下での再建
るのは、①民事再生等の手続きをとれば債務者は「倒産」
計画へと移行させることが必要であったと考えられるの
したという社会的評価を受けるが、特定調停では「倒産」
である。
を回避することができる、②民事再生等では債権者全員
−32−
第三セクターの財政危機と再建問題(森)
2.大阪市の財政支援と金融機関
表5は ATC および WTC がこれまでに支払った元金返済
ATC および WTC の財政は構造的に深刻な状況に陥っ
額および支払利息額をあらわしている。これらの負債の
てきたが、現在のような財政危機の状況でさえも大阪市
返済額は両社合わせて 1,155 億円にも上っており、その
からの様々な追加的財政支援を受けてきた上での結果で
うち支払利息が約半分の 573 億円を占めている。これま
あった。言い換えれば、大阪市からの財政支援がなかっ
でに両社が大阪市に対して支払ったのは利息のうち1億
たとすれば、両社の財政状況はさらに悪化していたであ
5,000 万円ずつ程度でしかないことから、これらの返済
ろうということである。そして、これらの大阪市による
額のほとんどが金融機関に対するものであったことがわ
財政支援が特定調停において債務放棄を求められた金融
かる。これを先の大阪市による財政支援の合計額と比較
機関に対してどのような意味をもってきたのかを検討す
してみれば、これらの公的資金の大部分が金融機関の元
ることは、特定調停の内容を評価する際の重要な判断材
利返済へと回されてきたと解釈することが可能である。
料となる。
つまり、これらの第三セクターの財政構造をみれば、第
これまで大阪市が両社に対して実施してきた財政支援
三セクターを経由して大阪市から金融機関へと公的資金
の内容と負担額については表4にまとめられている。ま
が流れ込んできた構図がみてとれるのである。このこと
ず、これらの財政支援は両社を合わせて総額 1,009 億円
は、かりに両社の公的機能がほとんどないと考えた場合
にも達する規模になっており、すでに膨大な財政負担が
には、大阪市がそれらを存続させることは、市民ではな
大阪市に発生していることがわかる。そのうち出資金は
く金融機関のために行っているにすぎないといわざるを
100 億円でしかなく、両社の財政が深刻な事態のまま推
えないであろう。今回の特定調停の内容は、このような
移するのに対応して大阪市から多額の支援が行われてき
財政・金融の資金的な流れを踏まえて判断されなければ
たことがあらわれている。しかも、貸付金をはじめとし
ならない。
て補助や賃料など多様な形態の財政支援が行われてお
り、その全体像が非常にわかりにくくなっている。また、
3.特定調停の検討
ATC および WTC に関して成立した特定調停の内容は
表4 ATC および WTC に対する
大阪市の財政負担(2002 年度末まで)
表6にまとめられている。その特徴としては次のような
単位:億円
点を指摘することができる。
ATC
出資金
民活法インセンティブ補助
経営改善計画に基づく貸付金
施設補助及び賃料共益費等
ATC ホール建設分担金
計
WTC
出資金
民活法インセンティブ補助
経営改善計画に基づく貸付金
公共広場など整備負担金
ホール・駐車場の取得
大阪市関連団体の入居
計
第一に、特定調停の計画期間が ATC で 30 年、WTC で
75
19
187
206
61
548
40 年というきわめて長期のものとなっていることであ
る。再建期間が長期になればなるほど、経済的・政治的
な変動のリスクを受ける可能性が高くなる。たとえば、
両社の『再建計画鑑定書』では、いずれの計画も「実現
表6 ATC および WTC の特定調停の概要
単位:億円
25
9
200
29
51
147
461
計画期間(年)
大阪市貸付金
うち株式化
うち代物返済
うち劣後債権化
大阪市の出資
出所)大阪市議会資料より作成。
表5 ATC および WTC の元利返済(2002 年度末まで)
単位:億円
ATC
WTC
大阪市の損失補償
合計
元金返済
367
215
582
支払利息
337
236
573
計
704
451
1155
金融機関債権
うち債権放棄
残債権
ATC
30
187
−
37.5
149.5
40
−33−
合計
387
125
37.5
224.5
80
金融機関の貸付債権等に
ついて、担保物件の処分
などの回収努力をしても
なお回収不能が発生した
場合の当該回収不能額
1099
698
401
出所)大阪市議会資料より作成。
出所)大阪市議会資料より作成。
WTC
40
200
125
−
75
40
782
137
645
1881
835
1046
政策科学 12 − 1,Sept. 2004
可能性がないとはいえない」と述べた後に、計画が 30
阪市が負いつづけるということである。このことは、
∼ 40 年という長期に及ぶため将来損益変動のリスクが
ATC と WTC の活用を現状維持のまま続けることの機会
避けられず、特に大阪市との契約や補助金等が単年度ご
コストの大きさが考慮されるべきことを示唆していると
とに決定されることに留意する必要があるとしている。
いってよい。
また、金利についても今後の経済情勢によって大きく変
さて、以上の点を考慮した上で、ATC および WTC の
13)
動する可能性が指摘されている 。
特定調停の内容についての評価を行ってみよう。まず、
第二に、大阪市による新たな財政支援がかなりの規模
表5でみたように、すでに両社が金融機関に支払った支
で行われることである。まず、貸付金の株式化によって、
払利息は約 570 億円にも上っており、特定調停による金
大阪市は元金部分の返済を受けることがなくなった。こ
融機関の債権放棄額のすでに7割近くに達している。
のことは、市場における一定価格以上での株式の売却が
WTC にかぎってみれば、すでに金融機関に対して支払
不可能であれば、ATC および WTC に対して事実上の借
われた利息額は債権放棄額の 1.7 倍にも及んでいる。
金の棒引きをしたことに等しい。事実、先にみたように
事業の採算性を無視して、大阪市という公的信用とい
大阪市は、特定調停の場合には新たな出資および代物弁
う別の事情を斟酌して巨額の融資を行ってきたことを考
済とならんで、貸付金の株式化を追加的に発生する市の
慮すれば、金融機関によるこの程度の債権放棄は不合理
財政負担の中に含めている。さらに、貸付金を株式化し
だとはいえないであろう。ATC と WTC がともに当初の
たということは、両社に利益が発生しなければ配当収入
公的目的を外してまでも大阪市がこれらの第三セクター
が得られないことを意味している。つまり、これによっ
を財政支援してきたことを通じて、市民に財政負担を強
て大阪市は貸付金による利息にあたる収入を失うリスク
いる一方で金融機関を支えてきたのである。さらに、こ
を被ったことになり、両社の経営状態を考慮すれば実際
れまで指摘してきたように、ATC と WTC は大阪市や関
にもそのかなりの部分が消失する可能性が高いといえよ
連団体の入居賃料等によっても財政支援を受けており、
う。その他にも、追加出資や代物弁済によって 120 億円
これは再建計画においても前提条件とされている。すな
近い財政負担が大阪市に発生している。また、貸付金の
わち、特定調停によって、大阪市にはこれらの形態にお
劣後債権化によって、大阪市の残元金は各金融機関の債
ける財政負担が今後も継続することになるのである。し
務が完済されるまで支払われないことになり、ここでも
かし、これらの財政負担については、先の特定調停の選
両社が将来破綻したときに債権回収を行う事態になった
択に際して市が提示した負担額には含まれておらず、こ
場合に、大阪市が受ける損失が大きくなるというリスク
の点においても特定調停にともなう財政負担が過小に見
が生じている。
積もられていることになる。大阪市が議会に提出した資
第三に、金融機関による債権放棄(両社合わせて 835
料(表7)には、特定調停によって新たに大阪市が
億円)と引き替えに、大阪市が損失補償を行ったことで
ATC および WTC に対して支払うことになる入居賃料や
ある。これにより、今後の ATC および WTC の破綻によ
補助金等の負担額が示されているが、この2社のみでも
って金融機関が受けるリスクがなくなり、すべてのリス
1,500 億円近い追加負担が発生すると推計されている。
クが大阪市の側にかかってきたことになる。そのために、
これによって特定調停後の金融機関の残債権が支えられ
損失補償を打つ前にはなかった両社の精算にともなう大
つづけると考えれば、特定調停による負担はやはり大阪
阪市の財政負担のリスクが新たに発生しているのである
市側にとって重いものになっているといわざるをえな
が、大阪市の特定調停にともなう財政負担の中にはこの
い。また、大阪市による新たな出資や貸付金の株式化に
リスク分が加味されていない。まずこの点において、法
よって、両社に対する出資比率はいずれも5割を超える
的整理か特定調停かの判断に際して大阪市が提示した特
表7 再建計画(特定調停)上の大阪市の追加負担
定調停の場合における財政負担の金額が過小となってい
単位:億円
ATC
ることが指摘されなければならない。
第四に、ATC と WTC の活用方策については現状を追
認したものとなっており、すでに公的役割の乏しい運営
966
補助金
182
0
182
517
966
1483
出所)大阪市議会資料より作成。
−34−
合計
335
計
実態の軌道修正を行わないまま、将来的な財政負担を大
WTC
大阪市入居賃料および共益費
1301
第三セクターの財政危機と再建問題(森)
ことになり、今後の運営に対する大阪市の責任は一層大
の公的目的と財政負担の両面から存続の是非を含めた今
きくなったといえる。大阪市による金融機関の残債権に
後のあり方についての検討が不可欠である。その際には、
対する責任はこの点からも強化されるとみなすことがで
第三セクターと自治体に係わる十分な情報開示と正確な
きよう。
分析が政策判断の材料として欠かせないのである。赤字
しかも、市民にとっての真の負担はこれだけにとどま
第三セクターをかかえる自治体には、正確な分析に基づ
らない。本来は特定調停の手続きに入る前に、ATC と
く第三セクターの破綻処理に関する合理的な政策判断が
WTC の施設を現在のように利用しつづけることの機会
求められているのである。
コストを検討すべきであった。すなわち、福祉、住宅、
NPO ・市民活動団体等の施設として ATC および WTC を
注
活用することの公共的便益の逸失が財政負担とともに考
1)拙稿「公企業としての第三セクターによる社会資本運営─
ATC および WTC を事例として─」大阪市立大学『経営研究』
慮されるべきであったのである 14)。このような新たな活
第 54 巻、第4号、2004 年1月。
用方策によって、大阪市の公共サービスの水準全体が高
2)大阪市財政局『大阪市財政の現状』2004 年4月、14 ページ。
まるのであれば、公営企業などと同様に大阪市の両社に
3)地方財政調査研究会『市町村別決算状況調(平成 14 年度)』
対する財政支援は市民的合意に至る可能性があったとい
地方財務協会、2004 年。
4)2003 年度に入ってから、自治体が 100 %出資する地方公社
えよう。
において特定調停が相次いで出された。これらの公社はいず
れも巨額の負債を抱えており、北海道住宅供給公社(負債総
Ⅳ.むすびにかえて
額 1,300 億円)、千葉県住宅供給公社(同 911 億円)、長崎県
住宅供給公社(同 315 億円)、和歌山県土地開発公社(同 438
ATC および WTC の当初目的は開業後すぐに頓挫した
億円)などとなっている。しかし、公民共同出資の第三セク
にもかかわらず、両社の大規模な社会資本施設の建設・
ターにおいて特定調停が成立したのは大阪市のケースが初め
てである。
運営にともなう固定費負担を主因とした財政状態の悪化
5)『朝日新聞』(夕刊)2003 年 10 月 29 日。
をカバーするために、大阪市は場当たり的ともいえる各
6)監査法人トーマツ『再建計画鑑定書(アジア太平洋トレー
種の支援策を実施してきた。特定調停による再建計画も
ドセンター株式会社)』2003 年 10 月、3ページ。
同じ延長線上のものであり、公共目的の薄い第三セクタ
7)監査法人トーマツ『再建計画鑑定書(株式会社ワールドト
ーを存続させるために市の公的支援を続ける構図に変わ
レードセンタービルディング)』2003 年 10 月、3ページ。
りはない。しかも、特定調停に基づく再建計画の内容を
8)2003 年 3 月時点において、WTC における大阪市および市
関連団体の入居率は 73 %となっている(監査法人トーマツ、
詳細にみれば、将来的にも大阪市にとって非常に重い財
同上、3ページ)。また、ATC においても、大阪市の関連施
政負担が強いられるものであるといってよい。このよう
設が約 20 %入居しており、賃料収入構成割合の 35 %がこれ
に考えれば、今回の ATC および WTC に関する特定調停
らの関連施設からのものとなっている(監査法人トーマツ、
の成立は、大阪市にとっては決して合理的な選択であっ
前掲、『再建計画鑑定書(アジア太平洋トレードセンター株
たとはいえない。したがって、大阪市が当該施設を今後
式会社)』3ページ)。
重要となってくる公共サービスの拠点化等の新しい公的
9)当初の設立目的として、ATC は「大規模な国際卸売センタ
目的の下に ATC と WTC を戦略に活用できないのであれ
ー」、WTC は「国際情報業務センター」をそれぞれ中心的な
ば、これらの第三セクターの整理・解散が早急に検討さ
機能であるとされていた。拙稿、前掲、6∼7ページ。
10)讀谷山洋司『第三セクターのリージョナル・ガバナンス─
れるべきであろう。
経営改善・情報開示・破綻処理─』ぎょうせい、2004 年、
本稿での分析からわかるように、第三セクター方式に
183 ページ。
よって社会資本運営を行うことは、自治体の財政規律を
11)ATC および WTC に関する破綻処理をめぐっては、「法的整
脅かす規模の施設建設とその後処理に、自治体そのもの
理か特定調停か」についての議論が市議会等で活発に行われ
が対応に追われていかざるをえない可能性がある。しか
てきたが、そこでの法的整理の意味する内容については「倒
も、その後処理が政策的にきわめて難しい判断を迫るも
産」を前提とした民事再生が想定されていた場合もあれば、
のであることも、大阪市の事例から明らかであろう。
破産のように精算を図るという意味が与えられていた場合も
あり、これによって破綻処理に関する争点が曖昧になってい
現在経営危機にある他の第三セクターについても、そ
−35−
政策科学 12 − 1,Sept. 2004
たことは否めない。
14)このような施設の機会コストの計算には土地の地代収入を
12)このような理由を挙げて第三セクターを大阪市が支えると
用いることが多いが、ATC および WTC の立地するコスモス
いうことは、いかに赤字をたれ流している外郭団体であって
クエア地区は造成した土地の9割以上が未だに売却できてい
も民間の信用を維持するためには存続させるといった財政規
ない状態にあり、このような場合には地代収入を用いた機会
律の欠如を表明したものと解釈することも可能である。
コストは非常に小さなものとなってしまう。むしろ、公共的
13)監査法人トーマツ、前掲、『再建計画鑑定書(アジア太平
な施設として転用が可能なものであれば、そのような利用か
洋トレードセンター株式会社)
』15 ページ、および、同、
『再
ら生まれる公共的便益の大きさで機会コストを考慮した方が
建計画鑑定書(株式会社ワールドトレードセンタービルディ
より現実的であろう。
ング)』15 ページ。
−36−