世界の旅シリーズ 写真・文 佐藤 文彦 北キプロス島への旅 抜けるような青空とエメラルドグリーンの地中海 ビーナス誕生の伝説の美しい島 哀しい民族分断の歴史と町中の軍事境界線 ローマ時代の城壁。 国境のゲート、この先がDMZ(非武装地帯) 料理はトルコと同じケバフが人気。 美しいギルニエ港の夕暮れ。 フ ェリーが港に着いた。ターミナル で入国審査が始まったが、外国人はパス ポートではなく別紙に入国スタンプを押 してもらう人が多かった。 ここキプロス島の北部を占める北キプ ロス・トルコ共和国は、実は国家としては 多くの国から認知されていない、いわば 鬼っ子のような国なのだ。だからパス ポートにこの国の入国印があると、他国 特にギリシャの入国に際しトラブルとな る危険性が高い。それを避けるための自 衛手段として別紙に入国印を押してもら い、出国時にその紙を返納する。 そもそもギリシャ系住民とトルコ系住 民が混在する島だったのだが、1970 年代に相互の住民の宗教的・人種的・政治 的対立が激化。ついに市街戦まがいの凄 惨な状況となり、トルコ軍が北部を占拠。 北キプロス・トルコ共和国として独立をさ せた。しかしこの国はトルコの傀儡政権 との批判を浴びて、今に至るまでこの国 を承認したのはトルコしかなく、首都ニ コシア(トルコ名レフコシャ)の真ん中を 国連の平和維持軍が分けており、21世 紀の今も緊張感が漂っている。ベルリン の壁亡き後、欧州では唯一の分断国家と なっている。勿論日本政府もギリシャ系 キプロスのキプロス共和国を正式な政府 と認知していて、昭和天皇の葬儀の際も、 キプロス共和国の大統領が来日した。そ してこのキプロス問題はEU加盟を悲願 とするトルコにとって、喉につっかかっ た大きな骨でもあり、また今夏オリン ピックを控えたギリシャにとっても、安 全保障上の大きなアキレス腱である。お 互いの国家のメンツがかかった古くから の大問題だ。 しかし実際のキプロスは美しい海と古 代遺跡が多い、実に魅惑的なところだ。美 の女神ビーナスが生まれた島として、ギ リシャ神話にも登場する。海で遊ぶ屈託 のない子どもたちの歓声を耳にするにつ け、早く相互の住民が自由に行き来でき、 平和がこの島に訪れることを願ってやま ない。 地中海へお花畑が広がる。 笑顔のかわいいキプロスの子供たち。
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