あいみっく CONTENTS 37(1) 2016 Editorial 国際舞台への日本の医療躍進へ向けて 中谷 比呂樹 1 (1) 第5回RS学会学術大会会長講演 「21世紀におけるレギュラトリーサイエンスの 学術体系化を目指して」から 笠貫 宏 2 (2) 医学統計学シリーズ 第35回 バイアスによる効果指標の調整 森實 敏夫 8 (8) 連載 論文発表の倫理 発表倫理から論文の書き方を再考する 山崎 茂明 19(19) 「この人・この研究」 第29回 宮道 和成先生 特集 オープンアクセス オープンサイエンス/イノベーション時代の到来1 ∼オープンアクセスの始まりを振り返る (一財)国際医学情報センター 林 和弘 23(23) 26(26) 表紙写真(撮影:山口健治) 横須賀、トタンの外壁、西日差すアパート、そんな昭和な街の丘の上。梅の古木に今年も花がつきました。 あいみっく Vol.37-1 発行日 2016 年 2 月 15 日 発行人 戸山 芳昭 編集人 「あいみっく」編集委員会 委員長 加藤 均 柳野明子、杉本京子、皆川雅子、井上志麻、秋山亜由美、大村一智、糸川麻由 ISSN 0386-4502 発行所 一般財団法人国際医学情報センター 〒 160-0016 東京都新宿区信濃町 35 番地 信濃町煉瓦館 TEL 03-5361-7093 / FAX03-5361-7091 E-mail [email protected] (大阪分室) 〒 541-0046 大阪市中央区平野町 2 丁目 2 番 13 号 マルイト堺筋ビル 10 階 TEL 06-6203-6646 / FAX 06-6203-6676 国際舞台への 日本の医療躍進へ向けて 一般財団法人国際医学情報センター顧問 前 WHO事務局長補 中谷 比呂樹 2016 年は、我が国のグローバル・ヘルス界の大きな変革の年となろう。なぜならば、世界は大き なパラダイムシフトの途上にあり、日本の経験・技術がダイレクトに役立つようになっていること、 そして G7 主催国という国際世論を形成するまたとない巡り合せとなっているからである。まず、パ ラダイムシフトについて述べよう。21 世紀初頭からの国際保健はバブルの感を呈してきた。膨大な 量の ODA(政府開発援助)が保健分野で途上国に流れ、感染症対策を中心とした医薬品産業と関連 のコンサルタント業界は活況を呈したが、我が国は資金提供国としての貢献にとどまった。その牽引 役であった国連ミレニアム開発目標(MDGs: Millennium Development Goals)が 2015 年末で終了 し、今年は、新たな目標として定められた「持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)」の出発年である。この SDGs は、17 のゴール(目標)と 169 のターゲット(項目)からな り非常に包括的である。例えば、貧困、農業、健康と福祉の増進、学習、ジェンダー平等、水と衛生、 エネルギー、経済成長および雇用、インフラ構築、国際格差是正、都市、生産消費形態、気候変動、 海洋資源を保全、生態系の保護・回復・持続可能な利用、平和で包括的な社会の促進、グローバル・ パートナーシップといったものが目標に含まれている。これらは、戦後 70 年平和国家として歩み、 公害や度重なる自然災害を乗り越えて、世界に先がけて超高齢者社会を迎えつつある日本の経験が後 続の国々に大きな教訓を与えることができる分野である。例えば、日本は 1961 年に国民皆保険を成 し遂げたが、アジア諸国は今や一斉に保険制度導入を考えている。この際、高度成長期・人口増加時 の制度設計を、低成長・人口減少を目前に控えてスリム化・維持可能なものとしようとする日本の試 行は、我々より早いスピードで高齢化しつつあるアジア諸国には、壮大な社会実験として映っている。 また、疾病構造にしても、既に世界人口の 7 割は中所得国に居住し、その主要死因は我が国と大差な く、日本の高品質な医療プロダクトをもっと役立ててもらう環境が整ってきた。すなわち、日本の医 療界の力量、技術、プロダクトがダイレクトに貢献でき、また、日本の成長にも資するウィン・ウィ ンの機会が目の前にあると言える。最後が、国際世論形成である。既に安倍晋三内閣総理大臣は、 Lancet 誌に二度にわたり寄稿して G7 議長国としての考えを明らかにされている。具体的には、エボ ラ禍のような公衆衛生危機を繰り返すことがないようにする仕組みづくりや、各般の医療需要に対応 できる保健基盤の整備など積極的な情報発信が行われている。加えて、外務省では国際保健戦略を、 内閣府では日本再生の為の成長戦略の一つの柱に「高品質な日本式医療サービス・技術の国際展開」 を掲げて、インバウンドとアウトバウンド医療双方へ刺激を与え始めている。厚生労働省でも内外を 俯瞰した保健医療 2035 が作成され、「保健医療の価値を高める」、「主体的選択を社会で支える」、に 加えて、「日本が世界の保健医療を牽引する」を 3 本柱に掲げている。これらの点や線がつながって 面として広がり、世界中の多くの人達に理解して頂き、大きな流れをつくり、日本や世界に貢献する ためには、意思疎通のツールである国際情報の発信が質量ともに圧倒的に拡大される必要がある。こ の点、IMIC とその関係者への期待も大きいと考えられるのではなかろうか。 あいみっく Vol.37-1 (2016) 1(1) 第5回RS学会学術大会会長講演 「21世紀におけるレギュラトリーサイエンスの 学術体系化を目指して」から 笠貫 宏 Hiroshi Kasanuki 早稲田大学特命教授 医療レギュラトリーサイエンス研究所 はじめに 1987 年、内山 充氏はレギュラトリーサイエンス(以 下 RS)の概念を提唱した。 RS は“適正規制科学”と “評価科学”の側面を持ち、評価科学は科学の所産を人 間との調和の上で、最も望ましい姿に調整して方向付 けていく科学であり、健康や環境に対する有害性を予 測し防止する科学だとしている。とくに評価科学とい う先見性の高い概念は極めて学際性が高く、未だに学 術体系化はなされていない。そのため RS という名称が 汎用されているにもかかわらず、日本語(適正規制科 学、規制科学、規範科学、医薬品評価学、医薬品開発 規制科学等)や定義や内容に相違があり、科学論争を 含む多くの議論がなされている。 21 世紀にはいり、RS の重要性が注目され、我が国で は、厚生労働省、農林水産省、 PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)、国立医薬品食品衛生研究所 等の行政機関や研究機関は積極的に RS に取り組み、産 業界と学界の関心も高まり、大学講座、連携大学院、 RS 学会、医薬品・医療機器 RS 財団などで研究・教育・ 研修・人材育成が行われている。そして 2011 年には第 4 期科学技術基本計画では RS の定義が明記され、その 強化がうたわれている。 21 世紀において科学技術と 人・社会の調整・最適化を図るためには、RS が極めて 重要不可欠な学術領域になることは明らかであり、個 別学術領域のみならず学術全般のパラダイム転換によ る真の文理融合を実現する新しい学術体系の構築が求 められている。 第 5 回 RS 学会学術大会会テーマは「医薬品医療機器 等法、大変革期を制御するレギュラトリーサイエンス」 であったが、本文は会長講演「21 世紀におけるレギュ ラトリーサイエンスの学術体系化を目指してから」の 2(2) あいみっく Vol.37-1 (2016) 一部をまとめたもので、RS の評価科学としての学術体 系化の考え方について概観し、医薬品等を対象とする 医療 RS については評価科学の一面に言及する。 I.レギュラトリーサイエンスの概念・定義からみる 評価科学 内山氏が RS は、科学技術の成果を、 「人と社会」に調 和させ、真に役立たせるために必要な独自の科学分野 で、「予測、評価、判断の科学」としたうえで、文明社 会では、あらゆる分野に適用され、基盤を支え有意義 な発展を促す必須の科学分野であるとしている。欧米 でも薬害、公害・地球温暖化・放射能被爆等の環境問 題に関する RS が議論されており、医薬品・医療機器・ 再生医療など医療に関わる医療 RS、食品に関わる RS、 環境に関わる RS、原子力発電などエネルギーに関わる RS などがある。それぞれ対象とする科学技術によって 評価方法や判断基準は異なると考えられ、全ての対象 の基盤となる RS の学術体系の構築が必要であり、それ は 21 世紀における人類生存に貢献する重要な学問領域 に展開すると考えられる。 内山氏はさらに基礎科学を Why の科学、応用科学を How の科学とし、RS を Which の科学ととらえ、科学技 術を人・社会に最適化し、既存の科学とは異なる価値 尺度と科学的根拠による適正な評価をすることだとし ている。東日本大震災後の 2011 年 8 月に報告された第 4 期科学技術基本計画では、「科学技術を人と社会に役 立てることを目的に、根拠に基づく的確な予測・評 価・判断を行い、科学技術の成果を人と社会との調和 の上で最も望ましい姿に調整するための科学」と定義 され、内山氏の評価科学の概念が反映されている。 2014 年の健康医療戦略推進法では、RS は「医療分野の 研究開発の成果の実用化に際し、その品質、有効性及 び安全性を科学的知見に基づき適正かつ迅速に予測、 評価及び判断することに関する科学」、2015 年の農林 21 世紀に向けて大きな 3 つのパラダイム転換が起きた 水産省の RS 研究推進計画では、RS は「科学的知見と規 (図 2)。第 1 は 1975 年にアシロマ会議で「遺伝子組み 制などの行政施策・措置との間を橋渡しする科学」で 換えに関するガイドライン」がだされ、 Institutional あり、適正規制科学と捉えられる。 Review Board (IRB)における科学者共同体の専門家 私は 2010 年度の東京女子医科大学・早稲田大学共同 によるものから非専門家を含む評価というパラダイム 大学院における RS のシラバスで、 「医療にかかわる科学 転換が起こった。第 2 は科学技術が惹起する負の側面を 技術が、人・社会へ真の利益をもたらすための予測・ 制御するため、1987 年デンマークの「コンセンサス会 評価・決断科学である。新医療技術のリスク/ベネフィ 議」で市民参加型手法によるテクノロジーアセスメン ット/コストの評価及び社会と関連する諸問題を、科学 トが開始され、市民が技術の評価に参加するというパ 的根拠に基づいて解決するために、自然科学と人文社 ラダイム転換が起こっている。第 3 は 1999 年のブタペ 会科学を網羅する極めて学際的な領域であり、未だ学 ストの世界科学会議における「科学と科学知識の利用 問体系は確立されていない。 」とした。その特徴は RS を に関する宣言」であり、20 世紀までの科学は知識のた 評価科学と位置づけし、科学技術の成果のベネフィッ めの科学であり、進歩のための自己完結型・純粋な真 ト・リスクの評価にコスト・ベネフィット評価を加え 理の探究から、新たに「社会の中の科学と社会のため たこと、及び評価・判断に止まらず決断ないし意思決 の科学」が加わり、社会のためというパラダイム転換 定としたことである(図 1)。 が起こった。そうした背景において、多くの社会的課 題解決のため、新たな科学の概念が提唱されている。 II.評価科学としてのレギュラトリーサイエンス 1972 年に Winberg の「トランス・サイエンス」、1994 1)21 世紀の科学・科学技術のパラダイムシフトと 年 Gibbons の「モード 2 科学」、1999 年 Ravez の「ポ 評価科学 スト・ノーマル・サイエンス」である。トランス・サ 20 世紀において科学は急速な進歩を遂げ、人間社会 イエンスは科学と政治の領域で権力が科学によって問 に多大な利便性と効率性などの恩恵をもたらす一方、 うことは出来るものの、科学によって答えることの出 薬害、環境問題など甚大な不幸をもたらした。そして 来ない問題からなる領域、ポスト・ノーマル・サイエ ンスはシステムの不確実性のもとで通常の科学では予 測・判断出来ない問題に対する意思決定論である(図 3)。これらは RS と類似の概念である。 䛀䝅䝷䝞䝇䜘䜚䛁䠄2010ᖺᗘ䠅 RS は社会の中で科学技術の位置づけを研究する科学 ་⒪䝺䜼䝳䝷䝖䝸䞊䝃䜲䜶䞁䝇 ᴫせ䞉฿㐩┠ᶆ 技術社会論としても議論されているが、科学技術と ་⒪ᢏ⾡䛾ᛴ⃭䛺㐍Ṍ䚸♫ᵓ㐀䚸౯್య⣔䛾ኚ䛾䜒䛸 人・社会の調整・最適化を図るという評価科学として ⾜ᨻ䛻䜘䜛᪂䛯䛺つไ䛸ㄪᩚ 䠄 ᭱㐺 䠅 䛜ồ䜑䜙䜜䛶䛔䜛䚹 の RS には文理融合(自然科学と人文社会科学の融合) ་⒪䛻䛛䛛䜟䜛ඛ➃⛉Ꮫ䞉ᢏ⾡䛜䚸 ே䞉♫䜈┿䛾┈䜢 䜒 䛯 䜙 䛩 䛯 䜑 䛾 ண 䞉 ホ ౯ 䞉 Ỵ ᩿ ⛉ Ꮫ䛷 䛒 䜛 䚹 が不可欠であり、多次元の分析と多くの学問領域が協 ᪂་⒪ᢏ⾡䛾䝸䝇䜽/䝧 䝧䝛䝣䜱䝑䝖/䝁 䝁䝇䝖䛾ホ౯ཬ䜃♫䛸㛵 力する研究活動による学際的活動(multi-disciplinarily、 㐃䛩䜛ㅖၥ㢟䜢䚸⛉Ꮫⓗ᰿ᣐ䛻ᇶ䛵䛔䛶ゎỴ䛩䜛䛯䜑䛻䚸 ⮬↛⛉Ꮫ䛸ேᩥ♫⛉Ꮫ䜢⥙⨶䛩䜛ᴟ䜑䛶Ꮫ㝿ⓗ䛺㡿ᇦ䛷 trans-disciplinarily、Inter-disciplinarily)が必要である。 䛒䜚䚸ᮍ䛰Ꮫ ၥ య ⣔ 䛿 ☜ ❧ 䛥 䜜 䛶 䛔 䛺 䛔 䚹 しかし従来のディシプリンという学術専門分野の通常 21ୡ ୡ⣖䛻䛚䛔䛶䚸ᛴ㏿䛻㐍Ṍ䛩䜛་Ꮫ䚸⌮ᕤᏛ䚸⸆Ꮫ➼䛾 ⮬↛⛉Ꮫ䛸䚸」㞧䚸ከᵝ䛩䜛ேᩥ♫⛉Ꮫ䜢⼥ྜ䛧䛯 科学、自然科学・人文社会科学や基礎・応用科学とい ᪂ 䛯 䛺 䝃 䜲 䜶 䞁 䝇 䛸 䛧 䛶 㐀䛩 䜛 䛣 䛸 䜢 ฿ 㐩 ┠ ᶆ 䛸 䛩 䜛 䚹 う分類には限界があり、学術領域のパラダイム転換の 図 1 2010 年度東京女子医科大学・早稲田大学共同大学院におけるレギュ ラトリーサイエンスのシラバス 1975࠰ ࠰ᾉ ỴἉἿἰ˟ᜭ Ẑᢡˡ܇ኵỚ੭ảỆ᧙ẴỦỾỶἛἻỶὅẑ эIRB Institutional Review Board ȈȩȳǹǵǤǨȳǹ ᅹܖ ᅹܖᎍσӷ˳ỆợỦܼᧉݦỉᚸ̖ẦỤܼ᩼ᧉݦửԃớᚸ̖ỉἣἻἒỶἲ᠃੭ ᅹܖỆợẾềբạẮểỊЈஹỦầẆ ᅹܖỆợẾềሉảỦẮểỉЈஹễẟ բ᫆ẦỤễỦ᪸؏ ᵏᵗᵖᵕ࠰ᾉӋьἘἁἠἿἊὊỴἍἋἳὅἚᵆࠊൟӋьඥỆợỦᵲᵟᵇ ἙὅἰὊἁỂẐἅὅἍὅἇἋ˟ᜭẑڼ 䠛 䠛 ࠊൟầ২ᘐỉᚸ̖ỆӋьẴỦểẟạἣἻἒỶἲ᠃੭ ᵏᵗᵗᵗ࠰ᾉɭမᅹ˟ܖᜭίἨἑἬἋἚὸẐᅹܖểᅹܖჷᜤỉМဇỆ᧙ẴỦܳᚕẑ ჷᜤỉẺỜỉᅹܖẆԧỉẺỜỉᅹܖẆ ႆޒỉẺỜỉᅹܖẦỤ ؕᄽᅹܖ ࣖဇᅹܖ ܼᧉݦồ ̔᫂ ἯἋἚὉἠὊἰἽὉ ἇỶỺὅἋ ᅈ˟ỉɶỉᅹ ܖểᅈ ˟ỉẺỜỉᅹ ܖểẟạἣἻἒỶἲ᠃੭ žਘٻƞǕƨȔǢȬȓȦȸſσӷ˳ 図 2 21 世紀に向けて大きな 3 つの科学・科学技術のパラダイム転換 図 3 トランス・サイエンスとポスト・ノーマル・サイエンスの関係 あいみっく Vol.37-1 (2016) 3(3) みならず科学全般のメタパラダイム転換も必要と考え られる。 2)評価科学における科学技術の評価・意思決定プロセス 私は RS を「人・社会へ真の利益と幸福をもたらすた め、科学技術の成果のベネフィット・リスク・コスト を的確に予測・評価・判断し、意思決定する科学であ り、“生きること”と“よく生きること”という実践的 価値を含めたダイナミックな評価・意思決定の連鎖か らなる統合システム科学である」と考えている。図 4 は 医療 RS を例にして考え方を示している。医薬品等を 人・社会に役立てるため、前臨床試験、トランスレー ショナルリサーチ、治験・臨床試験による情報の収集 と批判的吟味を行い、ベネフィット・リスクの科学的 評価に価値判断を加味した総合評価による科学的合理 性と社会的合理性を判断し、最適化を図り、意思決定 される。意思決定された結果は常に検証され、そして 次の評価・意思決定に活用される。フィードバックとい うよりフィードフォワードというべきで、意思決定の 連鎖によるダイナミックなシステムである。意思決定 者は、検証結果を受け入れる前向きの勇気と誠実さと 責任感を持ち、説明責任を果たすことが必要である。 それらの全過程において、「人間の尊厳」を最優先とす る哲学・生命倫理が基盤となり、自然科学と人文社会 科学を融合する作業が実践される。 一般に医学・薬学・工学などの自然科学は合理的で確 実性の高いものと考えられているが、科学的合理性は 絶対的なものではなく、その厳格な評価は容易ではな い。フリードマンは「科学研究の最も一般的な成果は、 不確実性である」と述べているように、科学者は科学 に対して不確実性を認識し対処する能力と謙虚さが求 められる。さらに人文社会科学における合理性の判断 は、人・社会における価値観の多様性を含めて不確実 性は大きい。従って、各ステークホルダーの参加によ り意思決定の主体の多様性の保証、必要な情報の開示 や選択肢の多様性の保証が必要となる。そのためには 評価・意思決定プロセスの透明性と公開性を保証し、 手続きを明確にすることが重要である。意思決定の研 究の歴史は長く、研究者は哲学者、数学者、精神分析 者、経済学者、経営学者、社会心理学者など専門領域 も研究内容も多様である。意思決定研究は、合理性を 求める規範的研究と心理的過程を解明する記述的研究 に大別されている。科学技術の評価・意思決定には、 統計的決定理論などの規範的研究、価値判断を含む意 思決定には主観的な記述的研究が必要になる。従って、 RS における評価・意思決定ための規範的かつ記述的意 思決定という新たな方法論を創出するため、関連する 自然科学者と人文社会科学者による学際的研究が必要 である。 3)評価科学における専門家と非専門家の合意形成 アシロマ会議などでみられるように、科学技術の不 確実性と人間社会の価値の多様性の中で、専門家から 答えを得ることはできない課題を抱え、科学技術の評 価への非専門家ないし市民参加が求められている。専 門家の傾向としては、専門用語の使用、客観的に厳密 な把握、確率からの評価、楽観的なバイアスなどがあ り、非専門家の傾向としては、自分の利便の優先、主 観的な情報の優先、判断基準の個人差、悲観的なバイ アスなどが指摘されている。そのことを専門家と非専 門家は相互に理解することが必要であり、専門家も自 らの個別の専門領域以外は非専門家であることを認識 することが必要である。市民参加には非参加、形式的 参加、実質的参加があり、その仕組みにはコンセンサ ス会議、市民陪審、フォーカス・グループ、サイエン ス・カフェなどがある。我が国においても 2005 年には 「科学技術コミュニケーション元年」が宣言され、啓蒙 型コミュニケーションから対話型(双方向性)コミュ ニケーション、参加型テクノロジーアセスメントが謳 われている。 2006 年の第 3 期科学技術基本計画では、 「社会・国民に支援される科学技術」「国民への科学技 術への主体的参加の促進」「科学技術シビリアン・コン トロール」と記されている(図 5)。現在は行政機関の 審議会や各機関の倫理審査会において専門家と非専門 Ꮫ䞉◊✲ᶵ 㛵 ᨻ䞉⾜ᨻᶵ 㛵 ⛉Ꮫⓗྜ⌮ᛶ ♫ⓗྜ⌮ᛶ 䝸䝇䜽 я 䝧䝛䝣䜱䝑䝖 ⮫ᗋ◊✲䞉㦂䞉ᢎㄆ ⛉Ꮫᢏ⾡ ་⸆ရ ་⒪ᶵჾ ⏕་⒪ 䝖䝷䞁䝇䝺䞊䝅䝵䝘䝹 䝸䝃䞊䝏 ே䞉♫ ಖ㝤ൾ㑏 䝁䝇䝖 я䝧䝛䜱䝑䝖 ⏕⌮ ⮬↛⛉Ꮫ ◊✲㛤Ⓨ䞉 ┿ᐇ䛾ゎ᫂ ⼥ྜ䞉⤫ྜ⛉Ꮫ ேᩥ䞉♫⛉Ꮫ ┿ᐇ䛾ண 䞉ホ౯䞉ุ᩿ Feed forward ពᛮỴᐃ ᳨ド 図 4 医療レギュラトリーサイエンスの概念図 4(4) あいみっく Vol.37-1 (2016) 㻞㻜ୡ⣖ᚋ༙䠖⛉Ꮫᢏ⾡䛾௦ 㻝㻥㻥㻥ᖺ䠖ୡ⏺⛉Ꮫ㆟䠄䝤䝍䝨䝇䝖䠅䛂⛉Ꮫ䛸⛉Ꮫ▱㆑䛾⏝䛻㛵 䛩䜛ᐉゝ䛃 㻞㻜㻜㻡ᖺ䠖᪥ᮏ䛻䛚䛡䜛䛂⛉Ꮫᢏ⾡䝁䝭䝳䝙䜿䞊䝅䝵䞁ඖᖺ䛃 ၨⵚᆺ䝁䝭䝳䝙䜿䞊䝅䝵䞁䛛䜙ᑐヰᆺ䠄᪉ྥᛶ䠅䝁䝭䝳䝙䜿䞊䝅䝵䞁 ཧຍᆺ䝔䜽䝜䝻䝆䞊䜰䝉䝇䝯䞁䝖 ᩥ㒊⛉Ꮫ┬⛉Ꮫ⯆ㄪᩚ㈝䛾ேᮦ⫱ᡂ䠖 䐟⛉Ꮫᢏ⾡䜲䞁䝍䞊䝥䝸䝍䞊㣴ᡂ䝥䝻䜾䝷䝮䠄ᮾிᏛ䠅 䐠⛉Ꮫᢏ⾡䝁䝭䝳䝙䜿䞊䝍䞊㣴ᡂ䝴䝙䝑䝖䠄ᾏ㐨Ꮫ䠅 䐡⛉Ꮫᢏ⾡䝆䝱䞊䝘䝸䝇䝖㣴ᡂ䝥䝻䜾䝷䝮䠄᪩✄⏣Ꮫ䠅 㻞㻜㻜㻢ᖺ䠖➨㻟ᮇ⛉Ꮫᢏ⾡ᇶᮏィ⏬䛂♫䞉ᅜẸ䛻ᨭ䛥䜜䜛⛉ Ꮫᢏ⾡䛃䚸䛂ᅜẸ䜈䛾⛉Ꮫᢏ⾡䜈䛾యⓗཧຍ䛾ಁ㐍䛃 ⛉Ꮫᢏ⾡䝅䝡䝸䜰䞁䞉䝁䞁䝖䝻䞊䝹 ⛉Ꮫᢏ⾡䛸ே㛫䞉♫䛾㛫䛻᪂䛯䛺㛵ಀᵓ⠏䠄 ⛉ Ꮫ ᢏ ⾡ ♫ ㄽ Ꮫ 䠅 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市販後安全対策の内容を加味したベネフィット・リス ク評価と意思決定が必要である。審査時の情報による EBM䛻䛚䛡䜛ண 䞉ホ౯䞉ุ᩿䞉Ỵ᩿䝥䝻䝉䝇 科学的根拠のみならず疾病の重症度、難病、治療目的、 代替治療の有無、患者数、患者のニーズ、社会のニー ズなどの社会的要因を加味したベネフィット・リスク 評価をしたうえで、医師基準、施設基準、研修、ガイ 䜲䞁䝣䜷䞊䝮䝗 ドライン、全症例登録などの市販後安全対策の条件付 䝁䞁䝉䞁䝖 Ỵ᩿ き承認によって、承認審査時の評価・意思決定は異な Ỵ᩿ ホ౯䞉ุ᩿ ண 䞉ホ౯䞉ุ᩿ ண 䞉ホ౯䞉ุ᩿ ண 䞉ホ౯䞉ุ᩿ 䠄᳨ド䠅 ってくる(図 8)。 Ỵ᩿䛻䛚䛡䜛✚ᴟⓗ(PROACTIVE)䜰 䜰䝥䝻䞊䝏 欧米では 2009 年頃から承認審査時の医薬品のベネフ Mindsデ デ⒪䜺䜲䝗䝷䜲䞁సᡂ ィット・リスク評価についての組織的取り組みが本格 家による議論を通じて合意形成が図られ、時にパブリ ックコメントが行われ、決定される。しかし 21 世紀に おける科学技術の評価について専門家と非専門家ない し市民の合意形成を醸成し、最善の意思決定をするた めのシステム設計とそのリーダーとなる人材育成が必 要であり、その基盤になるのが RS と考えられる。 ⮫ᗋ་Ꮫ䛿ಶ ಶ䠄ᝈ⪅䠅䛻ᑐ䛩䜛Which䛾 䛾⛉Ꮫ䛸䛔䛘䜛䚹 ་⒪䛾⌧ሙ䛿⮬↛⛉Ꮫ䞉ேᩥ♫⛉Ꮫ䛾⼥ྜ䛭䛾䜒䛾䛷䛒䜛 図 6 エビデンスに基づく医療(EBM)における予測・評価・意思決定プ ロセス ҔၲἾἀἷἻἚἼὊἇỶỺὅἋỆấẬỦᚸ̖ᅹܖ ᅹܖ২ᘐ(Ҕ ҔᕤԼὉҔၲೞ֥ὉϐဃҔၲ)ầ ầʴ᧓(ध धᎍ)ở ởᅈ˟ỆჇỉМႩể ͤࡍὉ࠳ᅦửờẺỤẴẦԁẦỆếẟềʖยὉᚸ̖Ẳύॖ࣬ൿܭẴỦẮể ᏑᾉṞ ᅹܖỊஜஹύɧ ᄩ ܱ ࣱ ửஊẴỦ ἧἼὊἛἰὅẐᅹܖᄂᆮỉஇờɟᑍႎễௐỊɧᄩܱỂẝỦẑ ṟ ʴ᧓ửݣᝋểẴỦᅹܖỉɧᄩࣱܱầợụٻẨẟ Ṡ ᅹܖᄂᆮỉܱဇ҄ỆấẟềỊᚸ̖ỉМဇểऴإỉɧᄩࣱܱ (Ἑ ἙὊἑỉችࡇύऴإɧឱ)ầ ầьỪỦ ᢎㄆ䝧䝛䝣䜱䝑䝖䞉䝸䝇䜽ホ౯䛸ᕷ㈍ᚋᏳᑐ⟇䛾㛵ಀ ᢎㄆ 䝧䝛䝣䜱䝑䝖䞉䝸䝇䜽 䝸䝇䜽 పῶ 䠇 ᇹ1െ െ᨞ ᾉ ἫἧỵἕἚὉἼἋἁᚸ̖ ἫἧỵἕἚᚸ̖ э ἼἋἁᚸ̖ э ἢἻὅἋᚸ̖ὉЙૺ э ॖ࣬ൿܭ ᅹܖႎӳྸࣱ ᅈ˟ႎӳྸࣱ ɼᚇႎ ᇹ2െ െ ᨞ 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いう患者ニーズと医療保険の持続可能性という双方の 要請に応えるよう、 2016 年度を目途に費用対効果の観 点を試行的に導入する」、2015 年「経済財政運営と改 革の基本方針 2015」では、「試行的導入した上で、速 やかに本格的な導入をすることを目指す」とされてい る(図 10) 。我が国独自の価格決定システムにおけるコ スト・ベネフィット分析・評価・意思決定の位置づけ の検討が課題である。 3)規制とイノベーション 医薬品・医療機器等の規制は薬事法である。1960 年 に制定された薬事法は 2014 年 11 月、「医薬品医療機器 等法(いわゆる薬機法)」にと改正された。薬機法の目 的は、品質、有効性及び安全性の確保並びにこれらの 使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止の ために必要な規制(レギュレーション)を行うととも に、医療上必要性が高い医薬品等の研究開発の促進 (イノベーション)のために必要な措置を講ずることに より、保健衛生の向上を図ることである。換言すれば、 規制とイノベーションの調整・バランスを取ることが 薬機法の目的といえる。日本では 2004 年設立された PMDA の審査・相談業務の改善と充実が急速に推進さ 6(6) あいみっく Vol.37-1 (2016) れ、2015 年には研究開発の推進業務に当たる国立研究 法人日本医療研究開発機構( AMED)が設立され、先 駆け審査制度など研究開発推進のための制度改革が急 速に進められている。これまでイノベーションはアク セル、規制をブレーキに喩えられていたが、著者は規 制が制御のみならず促進因子になり、両者は噛み合う ギアにも喩えられると考えている(図 11) 。規制は主に リスク・ベネフィットの側面からのアプローチであり、 イノベーションは主にコスト・ベネフィットの側面か ᢎㄆᑂᰝ䛾䝧䝛䝣䜱䝑䝖䞉䝸䝇䜽ホ౯䛾䝣䝺䞊䝮䝽䞊䜽 Ḣ⡿䛻䛚䛡䜛䝣䝺䞊䝮䝽䞊䜽䛾ᥦ э (⪃ ⪃ 䛘 䜛 㐨 ➽ 䛸 ホ ౯ 䛾 ᡭ 㡰) FDA䠖䠖ᐃᛶⓗ᪉ἲ( ほⓗุ᩿)䚸 䚸 EMA䠖 䠖ᐃ㔞ⓗ᪉ἲ(MCDA) 䚸 BRAIN䚸 䚸 BRAM䛺 䛺䛹䠅 BRAT䠖䠖༙ᐃ㔞ⓗ᪉ἲ䚸䠄BRASS䚸 1) 2) 3) 4) ே㛫䛾ุ᩿䜢ᐃ㔞ⓗ䛺᪉ἲ䛾䜏䛷Ỵᐃ䛷䛝䛺䛔 ே㛫䛻㛵䜟䜛ሗ䜢㔞ⓗ䛻⾲⌧䛩䜛䛣䛸䛿ᅔ㞴䛷䛒䜛 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RS の意義と考え方を概観したが、その学術 体系の道程は未だ遠いと思われる。研究が最も先行し ている医薬品等を対象とする医療 RS の学術体系化を目 指すことが優先されると考えられる。その過程で RS 全 体像の把握が可能となり、また医療 RS により医薬品・ 医療機器・再生医療の評価のみならず、医療の制度・ おわりに システムの評価が可能となり、さらに医療 RS は日本に 20 世紀後半に著しく進歩した科学技術は、人・社会 おける医療資源の再配分を含めた少子超高齢社会にお に福音をもたらすと同時に、不幸をももたらしたが、 ける新たな医療にかかわる制度設計への展開が期待さ 科学技術なしでは人・社会は成り立たない。RS は、科 れる。 学技術が人・社会に真の利益と幸福をもたらすために、 科学技術の成果のベネフィット・リスク・コストにつ ※本文は講演をまとめたもので、引用文献は省略しています。 いて的確に予測・評価・判断・意思決定する科学であ り、“生きること”と“よく生きること”という実践的 らのアプローチと言える。前者は安全志向、後者は開 発志向ともいえる。2009 年日本学術会議・日本の展望 委員会による「第 4 期科学技術基本計画への日本学術会 議の提言」には、「自然科学と人文社会科学の連携によ る「安全の科学(レギュラトリーサイエンス)の構築」 と記載されている。今回は安全の科学としての RS には 言及できなかったが、RS の重要な側面である。イノベ ーションと規制が人・社会に真に利益をもたらすため に調整し、最適化を図る評価科学が RS と考えられる。 Profile 専門 レギュラトリーサイエンス、内科学、循環器病学、臨床不整脈学、心臓電気生理学、 臨床薬理学、心身医学 略歴 笠貫 宏 Hiroshi Kasanuki 1967 年 1997 年 千葉大学医学部卒業 東京女子医科大学循環器内科学講座 主任教授 東京女子医科大学付属日本心臓血圧研究所 所長 2009 年 早稲田大学生命理工学研究科 教授 2013 年 早稲田大学 特命教授。同年 9 月 東京女子医科大学 学長 2014 年 早稲田大学 特命教授。医療レギュラトリーサイエンス研究所 顧問 その他 レギュラトリーサイエンス学会理事、日本臨床試験学会理事、日本循環器心身医 学会理事長、日本蘇生協議会最高顧問、日本性差医学医療学会理事 日本循環器学会、日本心臓病学会、日本不整脈学会、日本心不全学会、日本心電 学会、日本心臓リハビリテーション学会、日本補完代替医療学会、日本予防医学 会などの理事を歴任 厚生労働省 薬事・食品衛生審議会 薬事分科会委員、医療機器安全対策部会部会 長、医療機器・体外診断薬部会部会 ß 長、医薬品再評価部会委員、ニーズの高い 医療機器等の早期導入に関する検討会委員、審議参加と寄付金等に関する基準策 定 WG 委員、医道審議会薬剤師分科会委員などを歴任、 医薬品医療機器総合機構 専門委員、医療機器不具合検討会委員、不具合評価体 制に関する検討会委員等、薬学教育評価機構総合評価評議員など あいみっく Vol.37-1 (2016) 7(7) バイアスによる 効果指標の調整 シリーズ 第 36回 森實 敏夫 Toshio Morizane 公益財団法人日本医療機能評価機構 客員研究主幹 東邦大学医学部 客員教授 大船中央病院 消化器・ IBDセンター 非常勤医師 第 24 回で臨床研究におけるバイアスの評価について 述べ、 Turner ら 1) の提唱するバイアスの導出法、バイ アスによる効果指標調整のモデルについて紹介した。 Turner ら の こ の 方 法 は 、 英 国 National Institute for Health and Care Excellence(NICE)の Decision Support Unit(DSU)のための論文の中で、Dias ら 2)により、エ ビデンス統合すなわちシステマティックレビューにお けるバイアス調整の包括的な方法の一つとして言及さ れている。また、 Darvishian ら 3) は、インフルエンザ ワクチンの効果について Turner らの方法を用いたシス テマティックレビューを発表しており、バイアス調整 後もインフルエンザワクチンの有効性が証明できたこ とを報告している。 Turner らの方法は、バイアスのモデルとして理論的 に構成されており、統計学的なモデルを適用して、さ まざまなバイアスをその不確実性と大きさの両方を取 り込んで効果指標の値と信頼区間を調整するためのも のである。ランダム化比較試験だけでなく、準ランダ ム化比較試験や、過去の症例を対照として比較したコ ホート研究などもバイアスで効果指標の値を調整した うえで、メタアナリシスで統合することを可能にする。 また、彼らがいうバイアスは内的バイアス Internal bias と外的バイアス External bias があり、後者は、外的妥 当性、適用可能性、また非直接性 indirectness と同じ概 念である(図 1)。外的バイアスも評価することで、ク リニカルクエスチョンとの適合性を評価し、それらの 結果も効果指標の値の調整に用いることができる。 バイアスの評価は研究論文の記述の中から、なにか を手がかりにして、何らかの根拠を持って、すなわち 透明性を確保しながら、推定することである。したが って評価者の判断を必要とし不確実性を伴うものであ る。そのため、複数の評価者が評価すると、異なる評 価結果を得る 4) ことは当然のことであるが、 Turner ら の方法はそのような場合にも、バイアスの大きさと分 散あるいは標準偏差の値の中から、中央値を用いる方 法などで複数の評価者の代表的な評価を結果に反映さ せることが可能になっている。 Turner らの方法は非常に優れているが、複雑なため、 統計学的な知識が十分ないと理解が難しく、また何らか のツールがないと、実行が困難と考えられる。今回は、 Turner らのモデルを理解するための基本事項の解説と、 Microsoft Excel で計算表の作成を行ってみたいと思う。 図 1 Turner らの比較試験におけるバイアスのモデル 8(8) あいみっく Vol.37-1 (2016) バイアスの導出 同様に、バイアスの効果が RR=0.9、介入の効果が RR=0.8 の場合であれば、両方の効果は RR=0.9× 0.8 バイアスの導出については第 24 回で述べたとおりで =0.72 として現れるはずである。 後者の例で RR を対数変換(自然対数を ln で表す)す ある。まとめると、1)クリニカルクエスチョン(CQ) 1 る と 、 ln(RR) = ln(0.9× 0.8) =ln(0.9) + ln(0.8) = (リサーチクエスチョン)を記述する、2)CQ の PICO に基づいて、内的バイアスすなわちいわゆるバイアス ln(0.72) と書き換えることができる。対数スケール上 リスクの無い理想の研究のミニプロトコールを作成す では 2 つの対数変換した RR の値の加算によって全体の る、3)CQ の PICO と理想の研究の PICO の差を外的バ 効果を表すことができるので、このような作用の仕方 イアスすなわち非直接性として評価し、理想の研究と を す る バ イ ア ス を Turner ら は 加 算 バ イ ア ス additive 実際の研究の差を内的バイアスすなわちバイアスリス bias と呼んでいる。 介入の効果もバイアスの効果も対数変換した RR や クとして評価する。実際には、クリニカルクエスチョ OR で表した場合には、正規分布に近似できるので、2 ンを設定して、PICO の定義を決めれば、外的バイアス の評価は十分可能であり、ミニプロトコールの作成は つの値を加算した値の分布の分散は 2 つの分散の合計に なる。したがって、この加算バイアスのモデルを用い ると、パラメータとして平均値と分散の 2 つを取り扱い 統合することができる。 対数スケール上で議論を進めるが、介入の効果の母 集団におけるパラメータ、すなわち真の値を q、その分 None (RR 1.0) , Low (RR0.9-1.0) , Medium (RR0.72 0.9) , High (RR<0.7) のような 4 分類で評価したうえで、 散を s 、サンプルの値、すなわち実際にデータとして得 平均± SD(標準偏差)の下限値と上下値を、スケール られる値(観察値)を y で表すと、y は平均値 q、分散 s2 の正規分布からのランダムサンプルになる。これを次 を見ながら設定する。 内的バイアスの評価の際には、“もし介入には効果が の式で表す: ない場合、サンプリングエラーは無いとして、このバ イアスだけでどれくらいの見かけ上の効果が表れる f( )は関数の意味であるが、ここでは正規分布の関数 か?”に答えるつもりで、それをリスク比( RR, Risk を想定している。他の分布関数を用いることも想定し Ratio)あるいはオッズ比(OR, Odds Ratio)で表した てこのような表記が用いられている。 値を設定する。リスク比やオッズ比を対数変換すると 同じように観察されたバイアスの効果を d、真の値を 正規分布に従う。したがって、平均値± SD は正規分布 m その分散を s2 で表すと、これらの関係は次の式で表す では中央の 67% の範囲に相当する。その範囲の外に入 ことができる: る確率の 2 倍の確率の範囲を設定することになる。もと もとバイアスの評価に精度を求めるのは困難であるこ したがって、バイアスの効果を受けた場合には、実 と、この程度の範囲を用いるのが実用的であることか 際にデータとして得られる効果指標の値(観察値)y は らこのような設定方法が提案されていると理解される。 次の式で表すことができる: 外的バイアス(非直接性)の評価の際には、“もし介 入には効果がない場合、内的バイアスがない理想の研 効果指標の観察値からバイアスの効果を除いた、す 究であっても、この外的バイアスだけでどれくらいの なわちバイアスで調整した効果指標の値は次の式で表 見かけ上の効果が表れるか?”に答えるつもりで同じ すことができる。この式は上記の加算バイアスの統計 ように評価する。 学的モデルを表している: 省略しても問題ないと考える。 それぞれのバイアスの評価には導出表を用いて、そ れぞれのバイアスの項目をいったん Yes, No, Unclear の 3 段階で評価し、それらをまとめてドメインごとに バイアスの効果のモデル この式では、s2 + s2 を a という項目を導入して表し ている。a は s2=0 の場合すなわちバイアスの値が 1 つ 加算バイアス 最初にバイアスが一つだけの場合で考えてみよう。 の値に限定され、不確実性がない場合、1 となるため、 たとえば、バイアスがアウトカムに影響を与え、バイ バイアスで調整した効果指標の値の分散はバイアスの 2 アスの効果だけで RR が 0.9 という結果が得られるとす 影響を受けない。一方で、 s が大きくなるほど a は小 る。もし、介入には全く効果がない場合を考えると、 さくなり、バイアスで調整した効果指標の値の分散が 介入はアウトカムに全く影響を与えないので、結果は 大きくなり不確実性が増す。したがって、a はバイアス RR 1.0 になる。介入とバイアスの両方の効果は RR= の効果とは関係のない介入の効果の確からしさを表す指 標となる。なお、s2 + s2 を用いても結果は同じである。 0.9× 1.0=0.9 として現れるはずである。 1 Population, Intervention, Comparator, Outcome の頭文字 あいみっく Vol.37-1 (2016) 9(9) ここまでは、ひとつの研究でバイアスがひとつだけ の場合を想定して議論を進めてきたが、研究とバイア スが複数ある場合に拡張すると次のような式で表すこ とができる。バイアスが 1 〜 J 個ありバイアスの番号を j で表し、研究が複数あることを前提に研究の番号を i で 表している。 ここに示す式は分散逆数法のメタアナリシスで用い られるものと同じであるが、各研究の効果指標の値に は加算バイアスの効果が加算され、分散には加算バイ アスの分散の総計が加算されることによって、調整が 行われている。したがって、研究ごとに、バイアスで 調整した効果指標の値と分散あるいはその平方根であ る標準誤差を計算したうえで、通常のランダム効果モ デル分散逆数法でメタアナリスを行えば、バイアスで これらはすべて対数スケール上での計算である。研 調整された統合値と信頼区間が得られる。 加算バイアスの例として、Turner らは以下の例をあ 究 i の J 個のバイアスの影響の総計はそれらの合計値 mi、 2 分散も合計値 si となる。したがって、たとえば 2 つの げている。 バイアスがあって、ひとつは過大評価の方向に作用し、 1. 選択バイアス: Historical control の場合 もう一つが過小評価の方向に作用するような場合、そ 2. 実行バイアス:盲検化がない の程度が同じなら差し引きゼロとなって、観察された 3. 症例減少バイアス:副作用による脱落例を除外する 効果指標の値は真の効果指標の値と同じになる。その 4. 検出バイアス:盲検化がない 加算バイアスは本来の介入の効果が小さくても大き 場合、分散はバイアスの分が加わるので、信頼区間は くてもその効果は一定になるのが特徴である。 幅が広くなることになる。 このモデルを用いて実際にメタアナリシスを行うに 加算バイアスの場合は、内的バイアスも外的バイア スも同じ取り扱い、すなわち対数変換後、加算するこ は、まず、1)加算バイアスの導出用スケールを用いて とが可能である。そこで、内的バイアスを I、外的バイ 複数の評価者がそれぞれのバイアスドメインについて 。2)その上で、mij と アスを E で表し、外的バイアスと内的バイアスの両方で 下限値と上限値を設定する(図 2) 調整する場合の式は以下のようになる。ただし、真の sij を以下の式で求め、評価者ごとに、研究ごとに mij の 効果のパラメータである q はメタアナリシスで統合され 合計 mi、 si2 の合計 si2 を求める。 3)複数の評価者の出 したこれらの値のうち、中央値を採用する。4)各研究 る一つの値を表し、研究間の分散を t2 で表している: の効果指標の値からそれら mi の中央値を引き算した値 を効果指標の値として、各研究の効果指標の分散にそ れら si2 の中央値を加算した値の平方根を標準誤差とし そして、q の分散逆数法 inverse-variance method に て求める。そして、分散逆数法によるランダム効果モ よる推定値および q の標準誤差は次の式で計算される デルのメタアナリシスを実行する。 下限値を aij、上限値を bij として以下の式で mij と sij を (ハット ^ は推定値を意味する): 計算する。aij が下限値、bij が上限値で中央の 1 より右側 の場合は、逆数の対数とすることに注意。なお、後述 する計算表での入力の際はそのままの値を、たとえば 0.8 のように入力する。: t2 の推定値は Q 統計値を用いて以下の式で計算され る。なお、t2 の推定値が負の値になる場合は、0 に設定 して計算する: 図 2 加算バイアスの導出スケール 中央の 1 の左側は過大評価、右側は過小評価に作用する場合である 10(10) あいみっく Vol.37-1 (2016) 比例バイアス 比例バイアスは介入の効果の程度によってその効果 が変動するバイアスである。介入の効果が大きいほど 大きく作用し、介入の効果が小さいと小さく作用する。 比例バイアスの評価・導出の際には、“介入の効果が (対数スケール上で)サンプリングエラーは無いとした 場合、何倍に比例して変動するか?”という問いに答 えるつもりで考える。 介入の効果が RR=0.8 で、比例バイアスが 1.25 で表 される場合を考えてみよう。このバイアスが作用した 結 果 は RR=exp(ln(0.8)*1.25)=exp(-0.223*1.25)=exp (-0.2789)=0.757 となり過大評価の結果が得られるこ とになる。 このようなモデルを用いると、効果が大きいほどバ イアスの効果を受けた介入の効果の変動幅は大きくな る。たとえば、真の RR が 0.9 から 0.1 まで変化させた 場合、比例バイアスが 1.25 の効果を加えた RR の値と本 来の真の RR との比をグラフ化すると図 3 のようになる。 比較のため、加算バイアスが 0.8 の場合の例を示す。い ずれのバイアスも過大評価に作用するバイアスである。 これは一例であるが、確かに、Turner らの比例バイ アスのモデルでは介入の効果が大きいほどバイアスの 効果が大きくなること、加算バイアスは介入の効果に よらず一定の効果を及ぼすことが示されている。 比例バイアスの例として、Turner らは以下の例をあ げている。 1.内的バイアスの 1 例:介入を十分受けなかった低コ ンプライアンスの例を除外した場合。症例減少バイ アスは比例バイアスとして作用する。 2.外的バイアスの 1 例:標的ポピュレーションの亜群 のみを対象に RCT が行われた場合。介入効果が増大 する場合も、減少する場合も、ポピュレーションバ イアスは比例バイアスとなって作用する。 研究 i に K 個のバイアスがある場合の比例バイアスの モデルは次のように表される。b は比例バイアスを、d は加算バイアスを表す記号で、I は内的バイアス、E は 外的バイアスを表す記号である。: 比例バイアスの導出には次のスケールを用いる(図 4)。中央の 1 より右側では 1/0.9 という数値の入力は手 間がかかるので、0.9 という数値を入力して計算するよ うにする方が便利である。加算バイアスの項で述べた ように、後で作成する Microsoft Excel で作成した計算 表もこのルールで作成する。 研究 i のバイアス k の対数スケール上での平均値を lik、 標準偏差を wik とすると、加算バイアスの場合と同様に、 lik ± wik の範囲の値になる確率が 67% になる。中央の 1 の左側はバイアスが過小評価に作用する場合で、右側 が過大評価に作用する場合である。 バイアスの下限値、上限値の値から lik と wik を計算し、 さらに各研究の lik と wik をバイアスの個数分合計して、 内的バイアスと外的バイアスについて lIi、 wIi2 と lEi、 wEi2 を算出する。これらの値から、バイアスの大きさの 期待値 mIib、と分散の期待値 sIib2、を以下の式で計算す る。なお、比例バイアスを表す記号として b を用いてい る。 図 3 加算バイアス 0.8 と比例バイアス 1.25 の効果 横軸が介入の効果を表すリスク比(RR)で縦軸が、バイアスがない場合の RR とバイアスが加わった場合の RR の比。点線が加算バイアス、実線が比例 バイアス。横軸の RR の値が小さいほど介入の効果は大きく、縦軸が小さい 値ほどバイアスの効果が大きくなる。 図 4 比例バイアス用の導出スケール あいみっく Vol.37-1 (2016) 11(11) なお、比例バイアスを設定する際に、lik が1より小 さな値で、RR や OR が 1 より小さな値の場合、対数変換 した RR あるいは OR は負の値になるので、それにかけ 算すると、負の値で、絶対値はより小さな値になる。 したがって、指数変換するとより 1 に近い値になり、そ のようなバイアスは介入の効果を減弱することになる。 一方で、 lik が導出スケールで 1 より右側に位置し、す なわち 1 より大きな値の場合は、逆に効果を増強するこ とになる。 バイアスの評価の際に、必ず効果を増強させ、過大 評価になっていることに確信を持てるような場合には、 下限値を 1 に設定したい場合もありうる。(その逆に過 小評価に確信を持てる場合もありうる。)そのような場 合には、lik を最頻値に、下限値、上限値が中央の 67% を含むように設定したベータ分布を用いることを Turner らは提案している。そのような場合には、正規 分布とベータ分布を合成する必要が出てくるので、モ ンテカルロシミュレーションなどを用いて対処しなけ ればならない。今回作成しようとする計算表は正規分 布を前提とした場合に有効なものであり、ベータ分布 には対応していない。 値から と すなわち全バイアスで調整した効果 指標の値と標準誤差を上記の式で計算して、それらの 値に対して分散逆数法によるランダム効果モデルのメ タアナリシスを実行する。 また、加算バイアスしかない場合の q の推定値は、b が下付き文字で付けられている比例バイアスの値、mIib、 mEib がいずれも 1 で、それらの分散の値、sIib2、sEib2 が 0 の場合に相当するので、それらを上記の式に代入する と、以下の式が得られる。ひとつの研究に対する計算 なので、t2 の項目は含まれない: 比例バイアスしかない場合の q の推定値は、d が下付 き文字で付けられている加算バイアスの値、mIid、mEid が いずれも 0 で、それらの分散の値、 sIid2、 sEid2 が 0 の場 合に相当するので、以下の式で算出される: Excel の計算表の作成 ここまで述べた計算式を Excel で実行させるための計 算表を作成してみよう。ここで作成しようとするのは、 ここまで述べた、加算バイアス、比例バイアスでそ 一つの研究について、バイアスの評価を行って、バイ れぞれ内的バイアス、外的バイアス(非直接性)のモ アスで調整した効果指標の値と、標準誤差を計算する デルをまとめて、両方を取り込んだモデルは以下のよ ための表である。メタアナリシスはそれらの値に基づ いて行うことになる 3。 うになる: 大きな表になるので、いくつかのブロックに分けて 説明したい。また、セルに記述してある式をすべて示 すのは難しいので、重要なセルのみ式を示す。ファイ さらに、真の値 q の推定値(ハット ^ 付き)とその標 ルは ZIP ファイルとして圧縮してダウンロードできるよ 準誤差は次の式で表される 2。上記の式の項を移動させ うにしたので、使用してみたい読者は各自ダウンロー るとこの式が得られる: ドしていただきたい 4。 全体の配置を図 5 に示す。 まず、左上のブロック 1 である(図 6)。 ブロック 1 では、研究 ID、アウトカム、効果指標の種 類、評価者のデータを入力する。これらは、記録のため このモデルを用いて実際にメタアナリシスを行うに は、まず、1)加算バイアスおよび比例バイアスの導出 である。さらに、q の推定値と標準誤差の計算結果を表 用スケールを用いて複数の評価者がそれぞれのバイア 示する。この 2 つの値をメタアナリシスに用いるが、複 スドメインについて下限値と上限値を設定する。2)そ 数の評価者がいる場合には、それぞれ中央値を用いる。 次に、ブロック 1 の下に、加算バイアスの評価結果を の上で、評価者ごとに、各研究について、すべてのバ I E I E I 2 E 2 I 2 。ブロック 2 の上 イアスの値を合計した m id、m id、m ib、m ib、s id 、s id 、s ib 、 入力するブロック 2 を配置する(図 7) E 2 部にバイアス導出スケールを配置し、その下に内的バ s ib を上記の式で算出する。3)複数の評価者の出した これらの値のうち、中央値を採用する。4)これらの中 イアス、その下に外的バイアスの値を入力するセルを 央値と各研究の調整前の効果指標の値 yi と分散の値 si2 の 配置する。バイアスのドメイン名と項目名は Turner ら 加算バイアスと比例バイアスの両方を取り込んだモ デル 2 Turner らの論文の式(7)に相当するが、論文では√が抜けている。 3 ここで述べるのは、リスク比を効果指標として取り扱うが、オッズ比も、セル O2、Q2 の式を書き換えることで対応することができる。 O2: =(N2/(M2-N2))/(L2/(K2-L2))、Q2: =1/L2+1/(K2-L2)+1/N2+1/(M2-N2)とし、RR の表記を OR に変更。 4 http://zanet.biz/med/dl/biaseli.zip 外的バイアスの記述を第 26 回と若干変更した。外的バイアスはクリニカルクエスチョンと内的バイアスの無い理想の研究との間における、ポピュレーシ 5 ョン、介入、対照、アウトカムの違いである。 6 Excel の入力規則はデータメニューのデータの入力規則から設定する。 12(12) あいみっく Vol.37-1 (2016) の論文に従って記述してある 5。さらに、項目別定性的 判定は Excel の入力規則を用い、Yes, No, Unclear から 選択するようにした 6。また、各ドメインの最後の項目 は、“介入効果の程度に依存しているか”を問うものな ので、加算バイアスの場合は、すべて No に設定する。 バイアス別判定はやはり入力規則を用いて、 None(RR1.0), Low(RR0.9-1.0), Medium(RR0.7-0.9), High(RR<0.7)から選択できるようにした。さらに、バ イアス別判定を選択すると、右下のセルにそれぞれの 下限値、上限値を表示するようにした。それらの値を 参考に、最終的な判定は自分でその上のセルに入力す る必要がある。下限値、上限値を入力するセルには色 を付けてあるが、その上のセルには << または >> を表 示してある。これは、たとえば、同じ 0.8 という値を入 力しても、バイアス導出スケールの 1 より左側か右側か を指定するもので、<< は左側、>> は右側を意味する。 これらも入力規則を用いてリストから選択できるよう にした。 ブロック 2 の下に、比例バイアスの評価のためのブロ ック 3 を配置する(図 8)。一番上にバイアス導出スケ ールを置き、上部に内的バイアス、下部に外的バイア スを配置し、比例バイアスなので、各ドメインの最後 の項目は、“介入効果の程度に依存しているか”を問う ものなので、比例バイアスの場合は、すべて Yes に設定 する。項目別定性的判定、バイアス別判定、下限値、上 限値の設定などは、加算バイアスの場合と同じである。 次にブロック 4 では、各バイアスドメインの評価値か ら対数スケール上の平均値、標準偏差、分散、それら の総計を計算する(図 9)。 図 5 シート全体とブロック 1 〜 5 の配置 図 6 ブロック 1 セル E4 の値を効果指標の値、セル F4 の値をその標準誤差として、メタアナリスを行う。セル D4 : =O5、セル E4: =P5、セル F4: =SQRT(Q5) あいみっく Vol.37-1 (2016) 13(13) 図 7-1 ブロック 2 の上部 加 算 バ イ ア ス の 内 的 バ イ ア ス の 評 価 を 行 う 。 セ ル F11: =IF(E10="None(RR1.0)",1,IF(E10="Low(RR0.9-1)",0.9,IF(E10="Medium(RR0.70.9)",0.7,IF(E10="High(RR<0.7)","<0.7",""))))、セル G11: =IF(E10="None(RR1.0)",1,IF(E10="Low(RR0.9-1)",1,IF(E10="Medium(RR0.7- 0.9)",0.9,IF(E10="High(RR<0.7)","0.7","")))) 図 7-2 ブロック 2 の下部 加算バイアスの外的バイアスの評価を行う 14(14) あいみっく Vol.37-1 (2016) 図 8-1 ブロック 3 の上部 比例バイアスの内的バイアスの評価を行う 図 8-2 ブロック 3 の下部 比例バイアスの外的バイアスの評価を行う あいみっく Vol.37-1 (2016) 15(15) 図 9 ブロック 4 各バイアスドメインの対数スケール上の平均値、その標準偏差、分散、それらの総計を計算する。セル K9: =IF(F9="<<",LN(F10),LN(1/F10))、セル L9: =IF(G9="<<",LN(G10),LN(1/G10))、セル M9: =(L9+K9)/2、セル N9: =EXP(M9)、セル O9: =(L9-K9)/2、セル P9: =O9^2、Q13: =O9^2、R13: =SUM(P9:P13)、 セル Q25: =EXP(SUM(M21:M25)+SUM(P21:P25)/2)、R25: =(EXP(SUM(P21:P25))-1)*EXP(2*SUM(M21:M25)+SUM(P21:P25)) 図 10 ブロック 5 それぞれのバイアスで調整した効果指標の値を計算する。セル O2: =(N2/M2)/(L2/K2)P2: =LN(O2)、セル Q2: =1/L2+1/N2-1/K2-1/M2、セル R2: =EXP(P21.96*SQRT(Q2))、セ ル S2: =EXP(P2+1.96*SQRT(Q2))、セ ル O3: =EXP(P3)、セ ル P3: =P2-Q13-Q17、セ ル Q3: =Q2+R13+R17、セ ル R3: =EXP(P31.96*SQRT(Q3))、セル S3: =EXP(P3+1.96*SQRT(Q3))、セル O4: =EXP(P4)、セル P4: =P2/(Q25*Q29)、セル Q4: =(Q2+(Q25^2+R25)*(P4^2*R29)+ R25*(P4*Q29)^2)/(Q25*Q29)^2、セル R4: =EXP(P4-1.96*SQRT(Q4))、セル S4: =EXP(P4+1.96*SQRT(Q4))、セル O5: =EXP(P5)、セル P5: =(P2-Q25* Q17-Q13)/(Q25*Q29)、 セ ル Q5: =(Q2+ (Q25^2+R25)*(P5^2*R29+R17)+R25*(P5*Q29+Q17)^2+R13)/(Q25*Q29)^2、 セ ル R5: =EXP(P5-1.96* SQRT(Q5))、S5: =EXP(P5+1.96*SQRT (Q5)) モデルの特徴 想定されるバイアスが加算バイアスか比例バイアス かについては、Turner らがあげている上記の例以外に すべてのバイアスの項目について下限値、上限値を 1 ついては、評価者が判定するしかない。加算バイアス に設定すると、効果指標の値は元の値のままとなる。し の場合、介入にリスクを低下させる効果があっても、 たがって、バイアスがないと判断したバイアスドメイン 加算バイアスの値を> 1 に設定すると、バイアスがリス クを上昇させるという効果がリスクを低下させる介入 については下限値、上限値をいずれも 1 に設定する。 バイアスがあるという判断はできるが、過小評価か の効果を上回る場合、バイアスで調整後はリスクが上 過大評価については判断できない場合、下限値と上限 昇する値になる。一方で、比例バイアスの場合、値が 0 値を対数スケール上で 1 から等間隔、たとえば 0.8 と に近づくと、調整後の効果指標は 0 に近づき、対数変換 0.8 のように設定すると、効果指標の値は変化しないが、 すると 1 に近い値になるが、1 を超えることはないはず である。つまり、比例バイアスは介入の効果の向きを 信頼区間は広がる。 16(16) あいみっく Vol.37-1 (2016) 逆転させることはできないと考えられる。この点も比 例バイアスとすべきかどうかを考えるヒントになるか もしれない。 複数の評価者の代表値を用いることができるのはこ のモデルの大きな利点である。複数の評価者の評価結 果が異なることは避けられないので、それらを一つに まとめる際に、個人の評価を変更して一つの値にする 必要がない。また、評価の過程を完全に透明化できる ことも利点である。 また、バイアスのドメインについては、ランダム化 比較試験、観察研究で共通のものを用いることができ るが、項目については、異なるものも多い。さらに、 同じ研究デザインの研究であっても、それぞれの研究 に特有のバイアスが影響することもありうる。実際、 今までに報告されているバイアスの種類は、数多く、 たとえば Cochrane risk of bias tool5)として取り上げ られているのはその一部だけである。今回作成した計 算表は、評価項目を任意に設定することができ、上記 のように影響のないバイアスについては下限値、上限 値を 1 に設定することで、除外できるので、どのような バイアスの組み合わせにも対応することができる。試 みに、Minds のランダム化比較試験用の評価シート 6)に 合わせた計算表も作成してみた(図 11)。 バイアス効果の推定 の場合、オッズ比の比で表して 0.89( 95% 確信区間 0.82 〜 0.96)の過大評価になることを示している。解 析対象の研究のバイアスの程度を推定するのに、これ らの値を参考にすることができる。 一方で、外的バイアス(非直接性)の効果について は、経験的なデータを集めることが難しく、研究論文 はほとんどない。したがって、経験的なデータに基づ いて推測することは困難で、対象疾患の臨床経験が豊 富な疾患専門家でないと推定が難しいであろう。 また、内的バイアス(バイアスリスク)についても、 経験的データのみに基づいて評価するのではなく、や はり臨床経験が豊富な疾患専門家と共同で評価するこ とが必要であろう。 文献 1) Turner RM, Spiegelhalter DJ, Smith GC, Thompson SG: Bias modelling in evidence synthesis. J R Stat Soc Ser A Stat Soc 2009;172:21-47. PMID: 19381328 2) Dias S, Sutton AJ, Welton NJ, Ades AE: Evidence synthesis for decision making 3: heterogeneity-subgroups, meta-regression, bias, and biasadjustment. Med Decis Making 2013;33:618-40. PMID: 23804507 (http://www.nicedsu.org.uk/Evidence-SynthesisTSD-series(2391675).htm の TSD3 がこれに該当する バイアスの効果について、経験的なデータ empirical data がすでに論文として発表されているものもある 7)。 3) たとえば、Savovic J ら 8)はランダム化比較試験におい て、不適切な乱数生成あるいはその方法が不明の研究 報告書) Darvishian M, Gefenaite G, Turner RM, Pechlivanoglou P, Van der Hoek W, Van den Heuvel ER, Hak E: After adjusting for bias in meta- 図 11 Minds の評価シートに合わせた計算表 あいみっく Vol.37-1 (2016) 17(17) 4) 5) 6) 7) 8) analysis seasonal influenza vaccine remains effective in community-dwelling elderly. J Clin Epidemiol 2014;67:734-44. PMID: 24768004 Berkman ND, Lohr KN, Morgan LC, Richmond E, Kuo TM, Morton S, Viswanathan M, Kamerow D, West S, Tant E. Reliability Testing of the AHRQ EPC Approach to Grading the Strength of Evidence in Comparative Effectiveness Reviews. Methods Research Report. (Prepared by RTI International–University of North Carolina Evidence-based Practice Center under Contract No. 290-2007-10056-I.) AHRQ Publication No. 12EHC067-EF. Rockville, MD: Agency for Healthcare Research and Quality. May 2012. www.effectivehealthcare.ahrq.gov/reports/final.cf m. Higgins JP, Altman DG, Gøtzsche PC, Jüni P, Moher D, Oxman AD, Savovic J, Schulz KF, Weeks L, Sterne JA; Cochrane Bias Methods Group; Cochrane Statistical Methods Group: The Cochrane Collaboration's tool for assessing risk of bias in randomised trials. BMJ 2011;343:d5928. PMID: 22008217 Fukui T, Yamaguchi N, Morizane T, Yoshida M, Kojimahara N, ed.: Minds handbook for clinical practice guideline development 2014. version 1.0. (http://minds4.jcqhc.or.jp/minds/guideline/pdf/Min dsHB2014.pdf) Berkman ND, Santaguida PL, Viswanathan M, Morton SC: The Empirical Evidence of Bias in Trials Measuring Treatment Differences. Rockville (MD): Agency for Healthcare Research and Quality (US); 2014; PMID: 25392898 Savovic J, Jones HE, Altman DG, Harris RJ, Juni P, Pildal J, Als-Nielsen B, Balk EM, Gluud C, Gluud LL, Ioannidis JP, Schulz KF, Beynon R, Welton NJ, Wood L, Moher D, Deeks JJ, Sterne JA: Influence of reported study design characteristics on intervention effect estimates from randomized, controlled trials. Ann Intern Med 2012;157:42938. PMID: 22945832 18(18) あいみっく Vol.37-1 (2016) 発表倫理から論文の書き方を再考する 山崎 茂明 Shigeaki Yamazaki 愛知淑徳大学人間情報学部 教授 1.はじめに り、発表倫理(publication ethics)からの視点を重視 した「書き方」を提案するものである。学部生と院生、 これまで私は、論文や専門書を書くことに多くの時 若手研究者を主たる対象とし、具体的には、論文を社 間をかけ、学生の卒論やレポート、修士論文から博士 会を支える基盤としてとらえ、これまで蓄積されてき 学位論文の執筆指導なども行ってきた。現在、大学教 た知識への敬意を忘れずに、新たな知識を生み出すた 育のなかで、さまざまな呼称で、書き方教育が行われ、 めの基本事項をまとめたものである。論文執筆に向き 学生への教育支援サービスのひとつに位置づけられて あう前に、確認しておくべき検討内容である。これら いる。問題解決能力の育成にも役立つものであり、今 をコアとして、専門領域向きに展開できればと考えて いる。 後とも重点的に取り組まれていくべきである。 論文作法教育を展開する上での問題として、インタ 「論文作法」の文献と図書 ーネットからのコピー・アンド・ペースト(コピペ) 2. の横行があげられる。適切な引用や出典の明記が無け 医学・生命科学領域を代表するデータベースである れば「盗用」になり、研究のミスコンダクト(research PubMed を用いて、論文作法( writing[mesh term]) misconduct)に相当する。自然科学系では、実験デー タをめぐる捏造や改ざんが問われ、そして共同研究ス と 、「 論 文 作 法 教 育 」( writing[mesh term] AND タイルが一般化するなかでオーサーシップの適切な運 education[mesh term]) の 文 献 数 を 、 1964 年 か ら 、医学・生命科 用が課題になる。一方、人文・社会科学領域では、盗 2014 年の刊行年別に変化を示し(図 1) 学における論文作法への関心の所在を確かめてみた。 用が中心的な研究不正となる。この盗用は、他者のオ 論文作法に関連する文献は、1979 年に 200 論文を超 ーサーシップを無視することでもあり、単独著者で書 え、 1991 年には年 400 論文に迫り、その後 2001 年に かれることの多い人文・社会科学領域でも、オーサー は 600 論文、2011 年には 1,200 論文へと上昇していた。 シップの視点から検討されるべきである。 「論文作法」 本稿では、研究倫理教育と書き方教育の展開にあた また、そのなかで「教育」に関する文献は、 㻝㻢㻜㻜 㻝㻠㻜㻜 㻝㻞㻜㻜 ㄽᩥసἲ ㄽᩥసἲᩍ⫱ 㻝㻜㻜㻜 㻤㻜㻜 㻢㻜㻜 㻠㻜㻜 㻞㻜㻜 㻝㻥㻢㻠 㻝㻥㻢㻣 㻝㻥㻣㻜 㻝㻥㻣㻟 㻝㻥㻣㻢 㻝㻥㻣㻥 㻝㻥㻤㻞 㻝㻥㻤㻡 㻝㻥㻤㻤 㻝㻥㻥㻝 㻝㻥㻥㻠 㻝㻥㻥㻣 㻞㻜㻜㻜 㻞㻜㻜㻟 㻞㻜㻜㻢 㻞㻜㻜㻥 㻞㻜㻝㻞 㻜 図 1 「論文作法」文献数(N=24,237)と、「論文作法と教育」文献数(N=4,329)の年次変化(1964-2014). ᅗ 1 ࠕㄽᩥసἲࠖᩥ⊩ᩘ(N=24,237)ࠊ ࠕㄽᩥసἲᩍ⫱ࠖᩥ⊩ᩘ(N=4,329) Source : PubMed 4 Oct 2015, writing[mesh term], writing[mesh term] & education[mesh term] ࡢᖺḟኚ㸦1964-2014㸧㸬 Source㸸PubMed 4 Oct 2015, writing[mesh term], writing[mesh term] & education[mesh term] あいみっく Vol.37-1 (2016) 19(19) 文献の 17.9% を占めるに過ぎなかった。 2008 年以降 になり年 200 を超えるようになったが、論文発表数か ら見ると活発な討議がなされたとは思えない。 筆者の所属する愛知淑徳大学図書館の蔵書から、論 文作法書を検索すると 345 点が所蔵されていた(2015 年 10 月現在)。そのなかで、書名に「学生、卒論、卒 業論文、修士、博士、学位」などの言葉を含むものを、 学生向きの論文の書き方本とし、2000 年から 2014 年 の最近 15 年間に出版された 219 点について調査した。 学生・院生向きの論文作法書は、219 点のうちの 72 点 (構成比 32%)が該当した。 3.論文は知識社会を支える 私たちは、科学的な知識を基盤にした社会を形成し ている。そこでは、研究論文が基盤を支える構成要素 となり、堅固に積み上げられている。研究活動の成果 は論文として生み出され、社会を支えている。論文の 質は、専門を同じくする同僚(ピア)により評価され る。ピアレビュー(同僚審査)システムと呼ばれる理 由であり、論文の質を保証する専門家による内部評価 システムである。社会が、専門家集団に評価を付託す る一方で、この質保証システムに、高い透明性が求め られるのは、広く外部からの評価に対処するためであ る。こうして、同僚からの評価を得て、信頼できる知 識として論文が生み出される。 この知識に関連して、国立情報学研究所所長であっ た猪瀬博は、「知識や情報は伝えても無くならない」と 述べ、情報学研究と学術データベースの振興に努めた 1)。 集積された優れた論文は、知識基盤社会を発展させて いくという信念であろう。しかし、主要データベース をもとにした日本の論文生産量は、米国に次ぎ世界第 二の生産国であったが、2006 年に中国に抜かれた。さ らにスキャンダルになるような論文不正事件が起きた。 生産量の衰退だけでなく、その質も問われ、論文生産 の健全性に疑問が生じた。発表倫理の視点から論文作 法を考える時である。 4.データからファクト データは、「所与」とも訳され、「他から与えられる もの」であり、実験や観察、調査活動から得られる。 ファクト(fact:事実)は、factory や manufacture とい う言葉から分かるように、「つくられたもの」である。 故に事実は決してひとつではなく、研究する人の数だ けあるともいえる。データから導かれた個々の事実は、 相互に比較され、史的に検証され、エビデンスを問わ れ、より確かなものになっていく。与えられたデータ の声に虚心に耳を傾け、敬意を持って正面から向き合 うことである。それだけに、データを意図的に改変さ せたり、異常値やはずれ値を安易に除外したり、付け 替えたりするのは、リスペクトを欠いた行為であり許 20(20) あいみっく Vol.37-1 (2016) されない。また、データは与えられるものであるが、 研究者側の問いかけの強さに応じて変動し、研究者の 探求心に呼応するものである。 5.巨人の肩にのる Google scholar は、文献検索ツールとして、学生か ら研究者までに幅広く支持されている。そのトップ頁 に「巨人の肩にのる」とあり、英語版では「Standing on the shoulders of giants」と記載されている。研究 のプロセスを考えると、調査・実験を行うだけでなく、 関連資料の検索と収集を中心とした先行文献調査の過 程がある。自分の研究テーマに関係する先行文献を吟 味していくなかで、新たな気づきや展開を得る。そし て、先人の業績の上に自分たちの仕事が存在している ことに気づき、先行文献とそれらの著者に対して敬意 の念を見出すのではないだろうか。 参考文献を示す代表的な記載方式に、引用順スタイ ル( Citation order style)とハーバード・スタイル (Harvard style)がある。ハーバード・スタイルは、本 文中に著者名と出版年を示すことにより、先行文献へ の敬意とオリジナリティへの信認を重要視するもので ある。また、ハーバード・スタイルによる文献リスト は、著者名順に整然と並べられており、書誌リストと して有用である。 6.引用とは 文献引用とは何であるのか。定評ある教科書からあ げてみよう。「文献引用とは、文章、レポート、研究の 一部分などを書く際に使用した情報源へ謝意を表明す ることである。議論の正確さや根拠を確かめるための 典拠となる資料へ、できるだけ迅速に接近するのを可 能にする。課題レポートの文中や、本文末尾にそれら を引用することで、容易に情報源を識別できるように する」と記されている 2)。 引用にあたり、なぜ「すでに公表されている著作物 であること」3)が求められるのだろうか。論文内容に関 係する根拠や情報源は、誰でもが入手できる公開され た著作物であるべきであり、入手できない私信(私的 資料)などは文献リストに載せず、本文中に記載する。 このように、誰でもが利用できる公開情報を媒介とし て討議がなされるべきであるという考えである。なお、 アメリカ心理学会の論文作成マニュアル 4) によれば、 「私信とは、文字、メモ、電子通信、個人的なインタビ ュー、電話の会話などである。私信は回復可能なデー タではないので引用文献リストには含めない」。さらに 「引用するものは学問的妥当性のあるものでなければな らない」と注意している。近年、ネットワーク資料の 台頭が顕著であるが、質的には不適切なものが混在し ており、作成機関や提供者に注意して利用すべきであ り、サイト情報と利用日などが記載される必要がある。 一方で、レビュー論文が無視され、文献リストに掲 載されないことがある。テーマの全体像や問題点を理 解し、自らの方向性を見出すために役立ったレビュー 論文があれば、それらを示すべきである。レビューが 言及した文献を参照し文献表に記載するが、レビュー 論文は明示されない事例がある。これまでの研究の背 景や進展状況を記載する際、レビューの存在を無視し てはならない。 7.コピー・アンド・ペースト インターネットの普及により、新環境下における最 大の問題として浮上したのがコピペ(copy and past) である。引用や出典を示さなければ、盗用になること が十分に理解されていない。 本文中の記載方法に関して、アメリカ医師会の書き 方マニュアル 5)( AMA:6 章 14;ブロック引用文 )では、 「4 行以下は、カギ括弧( 「」 )や引用符( “” )で示し、5 行以上では本文と区別できるように、文字の大きさ (ポイント)を小さくし、インデント(段落)を本文よ り落とすなどは一般的には用いない」としている。ア メリカ心理学会の論文作成マニュアル(APA:3.34 出典 の引用)では、 「40 字以上になる引用文はブロック引用 する(その部分を本文から離して表示する) 。この場合、 引用文を本文中に組み込まず、ダブルクォテーション マークも付けない」とし、英文で 5 スペースほど、引用 文を字下げするよう勧めている。引用であることを、 カギ括弧や引用符で示したり、字下げしたり、文字ポ イントを小さくするなどし、対応するべきである。 文化庁の著作権ガイドによれば、“引用部分とそれ以 外の部分の「主従関係」が明確であること”と記載さ れている。文章の記述を誰がコントロールしているか、 読み手に分かるよう表記されるべきである。また、「主 従関係」から考えると、引用が 1 頁の半分以上を占める のは不適切であり、必要最小限にするよう求められる。 2)論文原稿の執筆、あるいは内容への重要な知的改訂 3)発表原稿への最終的な同意 4)研究のすべてに対して、その正確さや公正さに関す る疑問が適切に解き明かされるように、すべての内 容を説明できることに同意する この 4 項に、「共著者の寄与内容が明らかにされるこ とに加え、研究に果たす各々の責務を識別できる。加 えて、著者らは各自の寄与内容の公正さに信を置くべ きである」という注記が付加された。 誤ったオーサーシップの代表としてギフト・オーサ ーシップ( gift authorship)がある。著者としての寄 与のない人に、あたかも贈物をあげるように著者リス トに加えることである。一般的に地位の高い人へ与え られることが多く、名誉のオーサーシップ(honorary authorship)とも呼ばれる。 ゴースト・オーサーシッ プ( ghost authorship)は、著者の資格がありながら 共著者として扱われない人で、特に製薬企業に雇用さ れた統計専門家を指している。ゲスト・オーサーシッ プ( guest authorship)は、実際の寄与がないにもか かわらず、著名な研究者を共著者として招くことであ る。名声のある研究者を著者に入れ、論文の評価を意 図 的 に 高 め よ う と す る 行 為 で あ る 。 こ の guest authorship は、金銭がともなうケースもあり注意が必 要である。オーサーシップの贈物を喜んでばかりして はいられない。ミスコンダクト論文の著者を gift される ケースもあり、贈物に毒があることも忘れてはならな い。 オーサーシップの要件を満たさない寄与であれば、 謝辞に記載して感謝の意を表明することになる。謝辞 とオーサーシップを適切に使い分けるよう研究者は求 められる。 9. 著者の責任とは オーサーシップを正すことで、論文のミスコンダク トの防止が可能になる。そのための方策のひとつとし て、コントリビューターシップ(contributorship)が 8.著者とは、定義と実態 提案され 7)、主要な総合医学誌をはじめとし採用が増加 オーサーシップは、論文内容への責任を公式に告げ している。コントリビューターシップは、論文への寄 るものである。しかし、著者の定義は軽んじられ、研 与内容を具体的に示すことで、実際の寄与がない同僚、 究への寄与を正しく反映しているのか疑問が表明され 指導者、研究組織の長などを除外し、真の寄与をもっ ている。プロジェクトに寄与していない研究室のトッ て著者名リストを形成しやすくさせる。コントリビュ プが、著者として扱われる慣例が、あたかも徳行のよ ーターシップ欄は、本文の末尾に置かれ、Nature 誌や JAMA 誌では「author contributions」、Lancet や BMJ うに見なされているのが現状であろう。 オーサーシップの定義は、国際医学雑誌編集者委員 誌では「contributors」などで記載されている。 共著者の並び順は、一般的に最も寄与の高い著者が 会の勧告があり、生命科学領域で良く知られている。 時代に即した改良が加えられながら、 2015 年 12 月に 筆頭となり、以下寄与順に並ぶ。最後尾の著者は、研 最新版が示されている(ICMJE 勧告 2015 年)。著者の 究プロジェクトの主導者や保証者(guarantor)を示す 定義は下記の 4 項目からなり、それらを同時に満たすこ 事例が多く存在する。また、どの著者も同等の責任を 果たしており、著者名の ABC 順に並べる分野や雑誌も とが求められている 6)。 1)研究の着想かデザイン、あるいは研究データの取得、 ある。著者の並び順は、寄与順を基本とするが、著者 数が 100 名を超えるようなメガ著者論文では、著者名 分析、あるいは解釈 あいみっく Vol.37-1 (2016) 21(21) の ABC 順などを用いないと探すのが難しくなる。 近年、その重要性が高まったものに連絡責任著者 ( corresponding authors)の役割がある。投稿にあた り編集者と直接連絡を取り、論文審査時にはレフェリ ーや編集者からコメントを受け、共著者を代表して修 正や反論などを行う。また、出版後にはメディアへの 対応や読者からの意見に答える役割である。また、著 者同意書へのサインを代表して行うこともある。論文 をめぐるコミュニケーションの中心となるのは、筆頭 著者やラストオーサーであるが、多数著者論文が増大 する中で、明確ではなくなってきたのである。 10. 発表しないのはミスコンダクト 出版バイアス( publication bias)は、「ポジティブ で有意な結果を示す研究の方が、ネガティブな結果の 研究よりも、出版される傾向にあることを意味してお り、 positive-outcome bias とも呼ばれている」 8)。仮 説を検証できなかった研究、有意でなかった研究、そ して期待できない結果であるが正確になされた研究な ど、発表をためらってはならない。特に、臨床試験の 発表をめぐる出版バイアスは、診断や治療、そして医 療 評 価 の 質 に 影 響 す る 。 Evidence Based Medicine ( EBM:根拠に基づいた医療)の主導者のひとりであっ た Chalmers は、臨床試験研究を報告しないことは、科 学研究上の不正行為であると厳しい 9)。ポジティブでな かったことを理由に、きちんとデザインされた臨床試 験が、公表されないとすれば、システマティックレビ ューやメタ分析の結論に影響をおよぼし、患者への不 適切な治療につながるからである。報告されない研究 が増えれば、患者にとり有害で偏向した結論になる危 険がある。研究代表者、研究倫理委員会、助成機関、 雑誌編集者は、すべての臨床試験が公表されるよう尽 力すべきであると述べていた。成功した研究だけが、 発表する価値が存在すると考えるべきではない。 文献・資料 1) 猪瀬博.この人このテーマ:国民が使える情報基盤を. 朝日新聞; 1998 年 4 月 19 日. 2) Pears R, Shields G. Cite Them Right. New York: Palgrave Macmillan; 2013. 文化庁.著作権テキスト:初めて学ぶ人のために.平 成 27 年度.東京:文化庁. http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seido kaisetsu/pdf/h27_text.pdf [accessed 2016-01-8] アメリカ心理学会(前田樹海他訳). APA 論文作成 マニュアル. 第二版. 東京:医学書院;2011. 今西二郎, 浦久美子訳. 医学英語論文の書き方マニュ アル. 原書 10 版. 京都:共和書院; 2010. Recommendations for the Conduct, Reporting, Editing and Publication of Scholarly Work in Medical Journals (ICMJE Recommendations) 3) 4) 5) 6) 22(22) あいみっく Vol.37-1 (2016) 7) 8) 9) Updated Dec. 2015. http://www.icmje.org/abouticmje/faqs/icmje-recommendations/ [accessed 2016-01-10]. Rennie D, Yank V, Emanuel L. When authorship fails: a proposal to make contributors accountable. JAMA. 1997; 278: 579-85. Ioannou A. Publication bias: A threat to the objective report of research results. 2009, http://www.eric.ed.gov/PDFS/ED504425.pdf [accessed 2010-09-01]. Chalmers TC, Frank CS, Reitman D. Minimizing the three stages of publication bias. JAMA. 1990; 263(10):1392-5. このコーナーは、 ライフサイエンスに関わる若手研究者の方に リレー方式でご執筆いただいています。 宮道 和成 先生 みやみち かずなり先生 Profile 現職 東京大学大学院農学生命科学研究科 特任准教授 ERATO東原化学感覚シグナルプロジェクト グループリーダー Kazunari Miyamichi 経歴 2001年 2006年 2006年-2013年 2006年-2007年 2007年-2010年 2013年 東京大学理学部生物化学科卒業 東京大学理学系研究科生物化学専攻修了 理学博士 スタンフォード大学生物学科 Liqun Luo研究室 博士研究員 日本学術振興会 海外特別研究員 HFSP長期フェロー 9月より現職 嗅覚の不思議、その先に魅せられて 1.インプリンティング DNA を操作して自分でデザインした実験動物を作り 出し、脳の不思議をバリバリと解き明かして行きたい —— などと無謀な夢を抱くようになったのは、立花隆 氏が利根川進先生に取材した『精神と物質』にたやす く感化されたからである。高校 1 年の冬である。当時の 利根川先生は、免疫系の抗体遺伝子組み換えの研究で ノーベル医学生理学賞を受賞されてから神経科学へと 転向され、ノックアウトマウスを用いた記憶の研究に 着手された時期であった。マサチューセッツ工科大学 の、科学の新しい一幕が開かれていく現場の熱量のよ うなものが、日本の田舎の片隅に生息していた高校生 の心象に鮮やかに刻みこまれた。何しろインターネッ トの普及前だったし、研究世界のダークサイドなど知 るはずもなく、世界はピュア 100% で構成されていた。 そういう時期にインプリンティングが発動するのだと すると、情報洪水に生きる現代のジュヴナイルたちが やがて進むべき母川を見失ってしまわないのかと心配 になる向きもある。あるいは余計なお世話かもしれな い。脳の不思議にすっかり飢えていた私は、立花氏が 日本の神経科学者に取材して『脳を究める』を出すと これまた貪るように読んだ。その中で当時大阪バイオ サイエンス研究所におられた森憲作先生の嗅覚の研究 が印象深く残った。森先生はウサギを用いて、嗅球と いう匂いの情報が脳へと進む入口の構造に微細な電極 を差し込み、嗅球の表面で匂い情報が「地図」として 展開されていることを示されていた。どうして生物は 無数にある外界の匂い物質を検出できるのだろう?そ れがどうやって理路整然とした地図に変換されるのだ ろう?何だか良くわからないが、妙に面白そうだと思 った。 2.地獄の窯の底 東京大学理学部生物化学科に進んだ私は 2000 年に坂 野仁先生の研究室の門を叩いた。坂野先生は、あの利 根川研究室で抗体遺伝子再編成の仕組みを解き明かし た張本人であったし、東大に移られてからは分子遺伝 学を用いた嗅覚系の研究を進められていたので、まさ にストライクど真ん中だった。しかし、私は焦燥の中 にあった。嗅覚の不思議の本丸というべき「どうして 無数の匂い分子を検出できるのか」という問題は、 1991 年に L. Buck & R. Axel(2004 年ノーベル医学生 理学賞)が嗅覚受容体(Odorant Receptor, OR)遺伝 子をクローニングすることにより既に理解できるもの になっていた。その遺伝子数はマウスで約 1100 種類、 ヒ ト で も 約 400 種 類 に 及 ぶ 。 1999 年 に 発 表 さ れ た Buck らの論文によると、一種類の OR は多数の匂い分 子を検出し、また一種類の匂い分子は多数の OR によっ て検出されるという多:多の関係が成り立つ。それな ら、 1000 種類の OR から 3 種類を選ぶ組み合わせだけ あいみっく Vol.37-1 (2016) 23(23) で一億を超えるのだから、嗅覚系が非常に多くの匂い 分子を検出できるのはもはや不思議では無い。自分は 何をすればよいのだろうか?坂野研究室では嗅覚系の 本質的な成り立ちに関する問題を解決すべしという大 方針だけがあり、研究テーマは自力で編み出すか奪い 取る(!)かするべきもので、安易に与えてもらえるも のではなかった。学生にじっくりと問題の本質を考え させ、技術的限界を体感させ、テーマ設定の難しさを 骨の髄まで刻み込むような教育だった。そのため、卒 業研究は当然として、修士課程においてもテーマが見 いだせずに七転八倒を続けることが珍しくなかった。 私も最初の数年間はほとんど研究室に泊まり込むよう な生活を続けていたのに何ら意味のあるデータや方向 性を見いだせず、無力感に打ちのめされた。「地獄の窯 の底」を見て生還できれば修士号を与える、という坂 野教育の刻印を押される羽目となった。 遺伝子のどれか一つとランダムに共発現するようにな った。こうして 1 細胞: 1 受容体ルールの重要な原理が 分かった。すなわち、個々の OR 遺伝子は一つの発現枠 を巡って競合しており、そのうちたまたま勝利した OR からのシグナルを受けて、負けた OR 遺伝子の発現が抑 え込まれる。この負のフィードバックシグナルを発す るためには OR 遺伝子産物が必要で、中身がスカスカの 受容体では他の OR 遺伝子を抑えることができない。 この解析には、私が七転八倒時代に改良した蛍光 in situ hybridization 法が不可欠だった。分岐だらけの曲 がりくねった道を迷走しているように見えて、後に振 り返るとさまざまな寄り道が自分の研究にとって欠く ことのできない構成要素だったことが分かる。そうい う経験はその後も何度か味わうことになった。この時 代の経験から私の学んだ最も重要だと思うことは、研 究者がデータを生み出すだけではなく、優れたデータ はまた研究者を育てる、ということだ。「天が己をして 何をなさしめんとしているかを考えなさい」と坂野先 3.1 細胞: 1 受容体ルールの原理を見出す 生はよく仰った。当時は意味がよくわからなかったが、 重要問題は明らかだった。1000 種類の OR が多:多 10 年経ってみると、一枚の蛍光写真が、どれほど多く の関係で無数の匂い分子を検出するといってもこれだ を自分に与えてくれたかを思い知ることになる。それ けでは脳が匂い分子を区別できることを意味しない。 は記述したデータを超えて、その先にさまざまな新し 仮に個々の嗅神経細胞に複数種類の OR が発現している い不思議の予感のようなものを見せてくれた。その導 と、どの OR が活性化されたのかを電気信号だけを頼り きに従って、こんにちまで道なき道を進んで来られた に脳が区別するのは(不可能ではないにしろ)難しい のは実に幸福だったと思う。 はずだ。すると、個々の嗅神経細胞に一種類の OR 遺伝 子だけが発現するという“1 細胞: 1 受容体ルール”が 4.Sperry と Hebb に架け橋を! あるはずだ。それが本当だとすると、個々の嗅神経細 胞はどうやって発現するべき一種類の OR 遺伝子を選 事態は急転していた。次なる大問題として、各々の び、残りを発現しない状態に抑えることができるのか? OR 遺伝子を発現する数千から数万の嗅神経細胞がどの ようにして嗅球の表面に適切な一対の投射先を見つけ 私に何ら名案はなかった。 このままでは窯の底で干上がってしまうと憐れまれ 出し、理路整然とした投射地図を描き出すのかという たものか、2002 年、当時博士研究員をされていた芹沢 テーマがあった。これは森先生の見出された嗅球の 尚博士が蜘蛛の糸ならぬマウスの尻尾を垂らしてくれ 「匂い地図」を OR 遺伝子の側から説明するものだ。OR た。そのころ芹沢博士は、ある OR 遺伝子クラスターか 遺伝子の選択が「早い者勝ち」で決まる以上、個々の ら 75kb という遠方にあってこのクラスターの発現をま 嗅神経細胞が行くべき投射先を知るのは自らの発現す とめて正に制御する H 領域というエンハンサーを発見し る OR 遺伝子の種類が確定してからでなくてはならな ていた。私のもらったマウスは、H 領域をある OR 遺伝 い。すると OR 自身が投射先を決めるはずなのだが、い 子 MOR28 のごく近傍に近づけたトランスジェニックマ ったいそんなことが可能なのか?神経科学の教科書に ウスだった。このマウスの嗅上皮では奇妙な現象が起 よれば、一般に神経回路形成時には軸索ガイダンス分 きていた。H 領域の強力な活性によって、MOR28 が通 子と呼ばれる一連の道しるべ分子が働き、あるものは 常の 100 倍も多くの嗅神経細胞で発現する一方、他の 軸索を吸引し、あるいは反発し、さらにはミクロな鍵 無関係の OR 遺伝子が押しやられて軒並み発現細胞数を と鍵穴の関係で結びつく相手を決めているらしい。こ 減らしていたのだ。これは、たくさんの OR 遺伝子がた れは化学親和説といって R. Sperry が 1960 年代に提唱 った一つの発現枠を巡って競合していることを示して した考え方で、当時すでに視覚系をはじめ多くの系で いるのではないか?さらに偶然の発見があった。私の 実証されていた。そこで OR 分子の発する何らかのシグ 解 析 し た ト ラ ン ス ジ ェ ニ ッ ク マ ウ ス の 一 系 統 で は ナルによって、軸索ガイダンス分子の発現が制御され MOR28 遺伝子がたまたま壊れて一部欠損していたのだ る —— つまり OR 分子によって決定される嗅神経細胞 が、その場合、壊れた MOR28 がいくら発現していても の個性が、シグナル伝達を介して軸索ガイダンス分子 他の OR 遺伝子には何ら影響が無いようだった。そこで のコードへと変換される —— しくみがあるのではない 実際にデザインして MOR28 のコーディング領域が完全 かと考えるに至った。この仮説は、はじめラボミーテ に欠損した変異体 OR 遺伝子を作ってみると、他の OR ィングで提案するや非難轟轟の集中砲火を浴び、すん 24(24) あいみっく Vol.37-1 (2016) でのところで葬られるところだった。しかし、坂野語 録の密かな蒐集家であった私は「教授が反対したくら いで引っ込めるようなアイデアなら、やめときな」と いう教えをいつの間にか骨肉化していたため、初出時 にボロボロに批判されるアイデアはむしろ試す価値が あるぞ、とこっそり喜んでいた。果たして、MOR28 が たくさん発現するマウスを野生型と比較解析すると、 発現量の変動している軸索ガイダンス分子群が次々と 見つかり、その後の一連の実験によって OR→軸索ガイ ダンス分子という変換機構の存在が確実なものとなっ た。 これらの分子の中には今井君(現 RIKEN CDB チーム リーダー)が鮮やかに証明したように、基底状態の OR シグナルに由来する cAMP シグナルを受けて、嗅神経 細胞の嗅球における前後軸上の位置を決めている分子 群がある。一方、私が芹沢博士や後輩の竹内君と一緒 に解析した分子群は、鼻孔を閉じたり嗅神経細胞の活 動をブロックすると発現量が変動してしまう。こうい った分子群は、嗅球を見ると嗅神経細胞の軸索でモザ イク状に分布しており、隣り合う投射先の間で発現量 が随分ことなる。すなわち、OR の活動量の違いを反映 して、お隣さんと自分とを区別するタグの役割を果た しているようだ。実際に同じ OR を発現していても、こ れら分子の発現量の異なる二群を実験的に作り出して やると、投射先が綺麗に分離することがわかった。こ れは、神経回路形成における基礎的な原理の一つを表 しているように思う。それまで神経活動に基づく回路 の精緻化(D. Hebb が 1949 年に提唱した Hebb のルー ル)と Sperry のガイダンス分子群とはまったく別の文 脈で考えられていたのだが、実は両者は「神経活動に 基づくガイダンス分子コードの制御」という共通原理 によって統合的にとらえられるのかも知れない。現在 までに、この考えの妥当性や普遍性はほとんど検証さ れていない。特に脳の中枢領域では回路形成の仕組み 自体がほとんど分かっていない状況だ。Sperry と Hebb に架け橋を —— これは志のなかばで 2009 年に世を去 った芹沢博士の遺してくれたビジョンであり、このビ ジョンに応えられるような技術とアイデアを磨くこと が私のライフワークの一つである。 5.あとがき 酒席の反応を見ると、スタンフォード大学でウイル ストレーシング法の実用化や嗅覚皮質の神経回路を研 究した博士研究員時代に比較して、大学院時代の話の 方が何だかウケが良い。坂野先生の特異なキャラクタ ーもあるが、サイエンスとして見ても若々しく勢いの 良さがあった。そんなわけで本稿には大学院時代のエ ピソード(の一部!)を紹介することにしたが、留学時 代も実に面白かったので他にチャンスがあればご紹介 したいと思う。 大学院を卒業しておよそ十年、坂野先生に続いて森憲作先生も東京大学を定年退職されることになった。写真は 2015 年 3 月の森先生退官記念パーティー で久しぶりにお会いした恩師や同窓の方々。一番右が著者。本稿に登場した方のみご紹介すると、右から 3 番目に同窓生の今井君、4 番目に私が嗅覚の世 界に入るきっかけとなった森憲作先生、5 番目に恩師の坂野仁先生、一番左にかつて軸額ガイダンス分子の共同研究をした竹内君。夭逝の奇才であった芹 沢尚博士がこの場におられないのが残念である。 あいみっく Vol.37-1 (2016) 25(25) 特集 OPEN ACCESS オープンサイエンス / イノベーション時代の到来 1 オープンアクセスの始まりを振り返る 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 科学技術動向研究センター 林 和弘 はじめに 学術ジャーナルによる論文の出版という、印刷革命後 に生まれた学術情報メディアの仕組みを簡潔に押さえ 2016 年初頭、第 5 期科学技術既報計画が閣議決定さ ておく。学術ジャーナルの起源には諸説がある中、有 れた。 2016 年度から 2020 年度までの 5 年間の科学技 力 な も の は 1665 年 に 創 刊 さ れ た Philosophical 術政策立案の基礎となる本計画において、第 4 章は「科 Transaction をその嚆矢とするものであり、それから 学技術イノベーションの基盤的な力の強化」となって 300 年余りをかけて、学術ジャーナルは発展してきた。 おり、今後起こり得る様々な変化に対して柔軟かつ的 その本質は、紙の上に質を担保した情報を印刷して、 確に対応するため、若手人材の育成・活躍促進と大学 郵送という物流を活用して読者に届けるという情報流 の改革・機能強化を中心に、基盤的な力の抜本的強化 通のフレームワークであり、その伝達効率の最適化を に向けた取組を進めることとしている。そして同章(2) 図り改良され続けてきた。発行されたジャーナルは図 「知の基盤の強化」の下③として「オープンサイエンス 書館を中心とした購読者が年間購読費を払って買い支 の推進」の項が設定され、オープンサイエンスの推進 え、他の蔵書の管理と共に長期保存を含むジャーナル 体制を構築し、公的資金による研究成果については、 の管理を行ってきた。 この学術ジャーナルは、電子化以前にすでに商業出 その利活用を可能な限り拡大することを、我が国のオ 版者による寡占と値上げが進み、出版論文数の増加と ープンサイエンス推進の基本姿勢としている。 オープンサイエンスは研究論文を中心としたオープ 相まって、図書館予算が逼迫して必要なタイトルを購 ンアクセスと研究データのオープン化(オープンリサ 読できなくなるという危機、シリアルクライシズを起 ーチデータ)を含む概念とし、研究成果をよりオープ こしていた。 ンにして利活用を推進させることにより、研究を加速 し、イノベーションを生み出すことや市民の研究への 電子ジャーナルとビッグディール 参加等が期待されている。日本に限らず、EU を中心に 電子化と web による情報流通インフラが整い始める このオープンサイエンスの推進は世界の科学技術政策 と、電子ジャーナルが浸透した。検索やリンク等の今 の重要テーマとなっている。 一方、オープンサイエンス、オープンアクセス、オ では当たり前の機能が充実し、研究者にそのメリット ープンリサーチデータのそれぞれについて、それが何 が認識されることで、研究者は紙のジャーナルから電 を指し、何のために、何を目指すのかが、まだ広く研 子ジャーナルの利用へ移行した。そして出版者と図書 究者や市民一般に浸透しているとは言いがたい。なぜ 館の間で多数のジャーナルをまとめて売り買いするビ 世界は明確に定まっていないこれらのキーワードを軸 ッグディールが生まれた。ビッグディールによって、 数千に及ぶタイトルが 1 つの契約で読めるようになり、 に政策の議論を進めているのであろうか。 本稿では、オープンサイエンスの潮流が切り拓く新 契約や冊子管理の手間を省きながら、研究者により多 しい研究の世界を念頭に、オープンサイエンスに至る 種のサービスを提供できること自体は有り難いことで までの経過として、まずは、2010 年頃までを中心とし はある。しかし、多数のタイトルを擁する少数の出版 者との購読契約に結果的に依存する形になり、それら た研究論文のオープンアクセスの始まりを振り返る。 の契約を止めると読めるタイトル数が激減し、毎年の 値上げ分を含めて購読費を払い続けざるを得ないとい オープンアクセス前史 う電子版ならではの問題に直面した。 オープンアクセス(以下 OA と略す場合がある)を語 るには、様々な背景を踏まえておく必要がある。まず 26(26) あいみっく Vol.37-1 (2016) プレプリントサーバーと転覆計画 ある。その上で、現実の運用としては、電子ジャーナ ルの論文へのアクセスを無料にすることから取り組ま 電子ジャーナルでは、印刷と郵送のように刷る枚数、 れ、再利用を含めその自由な利活用促進を狙っている。 送る数や送る距離が増えると費用がそれに応じて増え なお、ブダペスト宣言を含め、後に行われたオープン ることはなく、サーバーに情報を置いておきさえすれ アクセスの推奨と定義を述べたベセズダ宣言(2003 年 ば web アクセスが可能な誰でも読むことができ、いわ 4 月)、ベルリン宣言( 2003 年 10 月)の 3 つをまとめ ゆる情報伝達の限界費用が限りなく 0 に近くなった。そ て「オープンアクセスの BBB 定義」と呼び、オープン もそもアクセスに対して細かく課金をすると手間と費 アクセスの定義は主にこの形で言及される。 用がかかる。情報流通の事業基盤、ビジネスのルール が 大 き く 変 わ っ た と も 言 え 、 1991 年 に は Paul 研究助成団体と OA 義務化 Ginsparg がロスアラモス研究所において、プレプリン オープンアクセスの動きに敏感に反応したのは図書 トサーバー(LANL preprint archive、現在の arXiv)を 開始し、物理、数学系を中心とした査読前の投稿論文 館や出版者だけでなく、研究助成団体も早くから、公 の登載を開始し、研究者が自由にアクセスできるよう 的資金を得た研究成果をよりオープンに公開できるオ にした。また、Steven Harnad は電子ジャーナルが本 ープンアクセスの仕組みに注目した。主なものとして 格化する前より学術情報流通の革命を促す活動を始め は、米国立衛生研究所(NIH)が 2004 年から助成した た。1994 年に「転覆計画」と題して、特に研究者に対 研究成果の OA 義務化の検討を開始し、2005 年に論文 して、自身の論文をプレプリントサーバーや自分のサ 出版から 12 ヶ月以内に PubMedCentral で公開するこ ーバーに搭載して、自由に閲覧できるようにすること とを推奨した。そして、2008 年より推奨から義務化に で、学術情報流通の主権を(商業的に活動する)出版 方針を変更し、 2013 年には対象論文の登録率が 75% 者から研究者に取り戻すことを訴えた。この 2 つの活動 にまで上がった。英国でも 2004 年から下院科学技術特 それぞれがオープンアクセスの始まりとされることが 別委員会による調査報告に始まり、英国研究協議会 ( RCUK)が 2005 年にオープンアクセスに関する方針 多い。 を公表した。 ブダベスト宣言とオープンアクセスの定義 2002 年になると、ブダペスト・オープンアクセス・ イニシアティヴ(BOAI)がオープンアクセスに関する 宣言を行い、オープンアクセスの定義が示された。図 書館や出版関係者以外がその全文を読むことは滅多に ないと思われるので以下に示す。 図書館の活動と機関リポジトリ 図書館は電子ジャーナル化以前より、商業出版者の 値上げをできるだけ押さえ、予算からなるべく多くの 学術ジャーナルを提供すべく努力を続けてきた。オー プンアクセスの時代が到来すると、商業出版者に対抗 する形で、SPARC 等の活動を通じてオープンアクセス に関する啓発活動を行い、図書館を中心に機関リポジ トリを構築した。所属機関の研究者の論文に関して、 購読費を払わないと読めないジャーナルの場合は、出 版者版の論文の代わりに著者最終版の原稿を機関リポ ジトリに登載し始めた。この論文の出版者版の代替物 をオープンに公開する手法はグリーン OA と呼ばれる。 現在ではほとんどの大手出版社が、この著者最終版の 機関リポジトリへの掲載を認めている。 「[ピアレビューされた研究文献]への「オープンアク セス」とは、それらの文献が、公衆に開かれたインタ ーネット上において無料で利用可能であり、閲覧、ダ ウンロード、コピー、配布、印刷、検索、論文フルテ キストへのリンク、インデクシングのためのクローリ ング、ソフトウェアへデータとして取り込み、その他 合法的目的のための利用が、インターネット自体への アクセスと不可分の障壁以外の、財政的、法的また技 術的障壁なしに、誰にでも許可されることを意味する。 複製と配布に対する唯一の制約、すなわち著作権が持 PLoS ジャーナルという発想の転換 つ唯一の役割は、著者に対して、その著作の同一性保 図書館の中には自ら情報発信をするものも現れた。 持に対するコントロールと、寄与の事実への承認と引 用とが正当になされる権利とを与えることであるべき 米国の Public Library of Science(PLoS)は 2001 年に Science 誌上で出版者に対する公開状を掲載し、医学・ である。」 生命科学計の分野の研究成果を無料公開するオンライ 出典: Budapest Open Access Initiative ン公共図書館設立への支持を表明した。具体的には http://www.budapestopenaccessinitiative.org/boai-10PubMedCentral 等に論文を掲載して無料で読めるよう translations/japanese-translation-1 にすることを出版者に求めたが、出版者の反応が決し 少々難解な表現も含まれるが、この定義が現在オー て良くなかった。そこで、代わりに PLoS Biology を初 プンアクセスの定義として最も依拠されているもので めとしたオープンアクセス誌を創刊することになった。 あいみっく Vol.37-1 (2016) 27(27) 情報の受け入れ側として機能してきた図書館が出版側 に回ったこの発想の転換は、後に PLoS One 誌として分 野や新規性を問わずに広く論文を集め早く出版するオ ープンアクセスメガジャーナルという、電子ジャーナル ならではの新しいイニシアチブに繋がっていく。 オープンアクセス出版者の立ち上がりと、 反発・静観から迎合・歓迎に変わった大手出版者 活用するかを考える時代になったと言える。 おわりに 研究論文のオープンアクセスを歴史的に振り返ると、 冊子体から電子ジャーナルに移行し発展すると共にオ ープンアクセスは育ってきたとも言える。次号では、 オープンアクセスが学術情報流通の何を変えたかにつ いて紹介する予定である。 PLoS の動きと前後して 2000 年には生物医学系のオ ープンアクセス出版者 BioMedCentral が立ち上がった。 参考文献 投稿者が掲載料(APC Article Processing Charge)を 支払うことで出版経費をまかない、出版者が論文を無 料で公開する。この手法はゴールド OA と呼ばれる。 PLoS と共に、APC による出版事業が本当に成り立つの かどうか、ある種好奇の目で見られていた時期もあっ たが、結果的には 2016 年現在、それぞれ無視できない 量の論文を出版し、一定以上の存在感を示している。 一方、既存の大手出版者は、オープンアクセスに対 して理念としては反対できないものの、購読費の対価 としてアクセスを与える自身ビジネスモデルの利益を 傷つけかねないオープンアクセスには、反対ないしは 静観の態度を取ってきた。例えば、先に述べた 2006 年 の RCUK の OA 方針に対して学協会出版者協会(ALPSP) が懸念を表明している。それが、先に述べた先行 OA ジ ャーナル出版者の成功と共に、出版者によるオープン アクセスジャーナルの創刊が始まるようになり 2010 年 頃を境に大手出版社のほとんどがオープンアクセスジ ャーナルを擁するようになった。オープンアクセスジ ャーナルではいわば発信者課金の形態で、投稿する側 が出版経費を支払う。大手出版社は、図書館を中心と した購読者からの収入に加えて、オープンアクセスジ ャーナルを通じて投稿者である研究者から収入を得ら れることに気づいたのである。今では大手出版社のほ とんどがオープンアクセスを歓迎している。そして、 発信者課金の形態は出版する論文数が増えると売り上 げが上がり、出版経費を抑えることでより利益が大き くなるため、人件費の安い新興国を中心に、数々のオ ープンアクセス出版者が立ち上がった。 研究活動エコサイクルに取り込まれたオープン アクセス 1) 2) 3) 倉田敬子 . 学術情報流通とオープンアクセス . 勁草 書房 . 2007. 尾城孝一.オープンアクセス序論:概況報告.シン ポジウム 「大学からの研究成果オープンアクセス化 方針を考える」.2010 年 12 月 https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2010/20101210. html 栗山正光.オープンアクセス関連文献レビュー : 「破壊的提案」から最近の議論まで.情報の科学と技 術 60(4), 138-143 http://ci.nii.ac.jp/naid/110007580530 4) 横井慶子 . 学術雑誌出版状況から見るオープンアク セスジャーナルの進展 . Library and Information 5) 文部科学時報 2010 年 9 月号【特集 2 :電子ジャーナ ル化と科学コミュニティの変化】/文部科学省科学 技術政策研究所 Science. 2013, 70, p. 143-175. 【オープンサイエンス/イノベーション時代の到来】 次号以降の予定 2)オープンアクセスが変えたもの ・出版ビジネスモデルの変化の詳細 ・査読 ・出版後評価と altmetrics ・学術ジャーナルの在り方 3)オープンアクセスが露わにした課題 ・変わらぬ論文出版という行為 ・ジャーナルブランドと研究評価 ・研究者の態度と OA 義務化の難しさ ・あやしい OA ジャーナル ・研究公正 元々商業系出版者に対する対抗の意味合いが強かっ 4)オープンアクセスからオープンサイエンスへ ・研究論文から研究データへ たオープンアクセスも、今やその活動を反対するステ ・先見の明があった、第 4 期科学技術基本計画 ークホルダーはほとんどなくなった。強いていえば、 ・ツールから研究活動プラットフォームへ 分野によっては研究者の認識がまだ不足し、時に感情 ・オープンイノベーション指向 的な反対がまだあることであろうか。オープンアクセ ・科学と社会の在り方 スは、オープンアクセスジャーナル出版や機関リポジ トリの活動を通じて研究活動のエコサイクルの中にす でに取り込まれているといえ、オープンアクセスの是 非を問う時代から、オープンアクセスの仕組みをどう 28(28) あいみっく Vol.37-1 (2016) 編集後記 ■ 2016 年の 37 巻第 1 号をお届けします。今年も季刊で四回発行いた しますのでどうぞ宜しくお願いします。本号では、財団の中谷顧問が Editorial を執筆しています。中谷顧問は厚労省出身で、昨年の 5 月ま で WHO(世界保健機関)の事務局長補として、主にエイズや結核等 の熱帯病の責任者として、多国籍の直属部下 250 名を統率し WHO 総 予算の 20% を執行していました。国内外の公的セクターにおける保健 医療福祉分野のトップランナーです。本誌は、次号から新シリーズ 「感染症」を始める予定ですが、このシリーズは中谷顧問の監修による ものです。編集サイドとしては、WHO という待ったなしの現場で責 任者として培ってきた経験や知見が反映したシリーズになるものと期 待しております。読者の皆様にもご購読を宜しくお願いいたします。 (編集長) ■本格的な冬到来です。毎日寒いですが、いかがおすごしでしょうか。 今回の冬はエルニーニョ現象により暖冬といわれており、お正月の三 が日もまるで春が来たような暖かさでしたが、成人式が過ぎると、や はり冬、雪の降る日が増えてきました。寒さが増しますと、朝、多く の人が布団から出るのが億劫に感じるかと思います。起きて日の出を 眺める、起きてラジオ体操をする、などの目標を立てると、少し起き やすくなるかもしれません。ちなみに、寒い日ほどきれいな日の出が みられますよ。(かもとりごんべえ) ■読者の皆さま、初めてお目にかかります。本号より編集に参加させ ていただくことになりました「まるちゃん」と申します。この名前は 学生時代に友人から貰った懐かしいあだ名ですが、私の本名には「丸」 という字は一字も入っていません。私が小さい頃に流行っていた某漫 画の影響なのか、はたまた私の見た目のせいなのか今でも謎のままで すが、あれから 10 年以上が経ちより体型が丸くなったことだけは確か です。本号から張り切って「あいみっく」をお送りして参りますので、 皆さまどうぞ宜しくお願い致します。(まるちゃん) ■皆様、本年もどうぞ宜しくお願い致します。本号より、オープンア クセスについて特集が始まりました。次回もどうぞお楽しみに。本誌 あいみっくは今年 37 巻。ほぼ同世代の私です。我が家のプチ反抗期女 子二人と一緒に元気に体を動かして、心身ともに少しでも老化を抑え ようと細々と思う毎日です。(ダメ母) 一般財団法人 国際医学情報センター サービスのご案内 (一財)国際医学情報センターは慶應義塾大学医学情報センター(北里記念医学図書館)を母体として昭和47年に発足し た財団です。医・薬学分野の研究・臨床・教育を情報面でサポートするために国内外の医・薬学情報を的確に収集・分析し、 迅速に提供することを目的としています。 医学・薬学を中心とした科学技術、学会・研究会、医薬品の副作用などの専門情報を収集し企業や、病院・研究機関へ提供 しています。またインターネットなどを通じて一般の方にもわかりやすい、がん、疫学に関する情報を提供しています。 昨今では医薬品、医療機器に関する安全性情報の提供も充実させております。また、学会事務代行サービスや診療ガイドラ イン作成支援、EBM支援なども行っております。 ファーマコビジランスサービス 翻訳サービス ■ 受託安全確保業務 GVP省令に定められた安全管理情報のうち、 「学会報告、文献 報告その他の研究報告に関する情報」を収集し、安全確保業 務をサポートするサービスです。 ■ 翻訳: 「できるだけ迅速」に「正確で適切な文章に訳す」 医学・薬学に関する学術論文、雑誌記事、抄録、表題、通信文。 カルテなど、あらゆる資料の翻訳を承ります。和文英訳は、 English native speakerによるチェックを経て納品いたします。 ■ Medical Device Alert 医療機器製品の安全性(不具合)情報のみならず、 レギュレー ション情報、有効性までカバーする平成17年度改正薬事法対 応の市販後安全性情報サービスです。 「正確で適切な」文章を「生きた」英語として伝 ■ 英文校正: えるために 外国雑誌や国内欧文誌に投稿するための原著論文、学会抄録、 スピーチ原稿、 スライド、 letters to the editorなどの英文原 稿の「英文校正」を承ります。豊富な専門知識を持つEnglish native speakerが校正を行います。 ■ SELIMIC Web SELIMIC Webは、国内文献に含まれる全ての医薬品等の安 全性情報をカバーする文献データベースです。 ■ SELIMIC Web Alert 大衆薬(OTC)のGVPに対応した安全性情報をご提供するサ ービスです。 ■ SELIMIC-Alert(国内医薬品安全性情報速報サービス) 医薬品の安全性に関する国内文献情報を速報でお届けするサ ービスです。 ■ 生物由来製品感染症速報サービス 平成17年度改正薬事法の「生物由来製品」に対する規制に対 応したサービスです。 文献複写・検索サービス ■ 文献複写サービス 医学・薬学文献の複写を承ります。IMICおよび提携図書館所 蔵資料の逐次刊行物(雑誌)、各種学会研究会抄録・プログラ ム集、単行本などの複写物をリーズナブルな料金でスピーディ にお届けします。 データベース開発支援サービス ■ 社内データベース開発支援サービス 的確な検索から始まり文献の入手、抄録作成、索引語付与、そ して全文翻訳まで全て承ることが可能です。 ■ 文献情報統合管理システム「I-dis」 開発やインフラ構築のコストを抑えた、 ASP方式の文献データ ベースシステムをご提供します。文献情報以外にも、社内資料 や資材などの管理が可能です。 ■ 抄録作成・検索語(キーワード)付与サービス ご要望に応じた抄録を作成致します。日本語から英語抄録の 作成も可能です。 ■ 医薬品の適正使用情報作成サービス 医薬品の適正使用情報作成サービスは「くすりのしおり」 「患 者向医薬品ガイド」等の適正使用情報を作成するサービスで す。 学会・研究支援サービス ■ 文献検索サービス(データベース検索・カレント調査) 医学・薬学分野の特定主題や研究者の著作(論文)について、 国内外の各種データベースを利用して適切な文献情報(論題、 著者名、雑誌名、キーワード、抄録など)をリスト形式で提供す るサービスです。 ■ 医学・薬学学会のサポート 医学系学会の運営を円滑に行えるように事務局代行、会議運 営、 学会誌編集などを承ります。 ■ 著作権許諾サービス 学術論文に掲載されている図や表を、 自社プロモーション資材 へ転載するために権利処理を行うサービスです。 ■ EBM支援サービス ガイドライン作成の支援など、経験豊かなスタッフがサポートい たします。 ハンドサーチサービス 出版物のご案内 ■ 国内医学文献速報サービス 医学一般(医薬品以外)を主題とした国内文献を速報(文献複 写)でお届けするサービスです。 ■ 国内医薬品文献速報サービス ご指定の医薬品についての国内文献の速報(文献複写)をお 届けするサービスです。 ■ 医学会・研究会開催案内(季刊) 高い網羅性でご評価いただいております。 一般財団法人国際医学情報センター http://www.imic.or.jp お問合せ電話番号 営 業 課:03-5361-7094 大阪分室:06-6203-6646
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