報告書(3.1MB) - 九州地域産業活性化センター

平成 19 年度自動車産業と半導体産業の融合による
次世代カーエレクトロニクス産業創造可能性調査
報告書
インテリジェント・カーアイランド九州構想
~カーエレクトロニクスをトリガーとした新しい ITS 産業創造を目指して~
平成 20 年 3 月
財団法人 九州地域産業活性化センター
はじめに
この報告書は、財団法人九州地域産業活性化センターが平成 19 年度調査研究事業として
実施し、自動車産業と半導体産業の融合による次世代カーエレクトロニクス産業創造可能
性について調査・検討した成果をとりまとめたものである。
九州における自動車産業、半導体産業はそれぞれ生産拠点進出から 30 年、40 年近く経過
し、生産量の大きさもさることながら、域内における関連企業の集積も進み、九州経済を
牽引するまでに成長してきた。しかし、これまで両産業の親和性や関連性はほとんど見ら
れない状況にあった。
近年、両産業を取り巻く環境が急激に変わりつつある。自動車のエレクトロニクス化の
進展である。安全・安心や快適性、省エネや CO2 削減などの環境対応といった社会ニーズ
に対応して、自動車の制御が機械から電子へと変化している。電子制御の頭脳、あるいは
手足となるのが各種半導体デバイスであり、自動車に搭載される半導体の数は年々増加し
ている。自動車のエレクトロニクス化が進むことによって、九州の主力産業である自動車
産業と半導体産業が融合し、さらなる発展が期待されるところである。
そこで、本調査では、自動車産業と半導体産業の融合に焦点を当て、次世代の九州の産
業発展のシナリオ、地域産業の発展戦略を示すことを目的として実施した。この報告書が
九州地域の活性化のお役にたてば幸いである。
なお、本調査の実施にあたって、北九州大学
矢田俊文学長を委員長とする「自動車産
業と半導体産業の融合による次世代カーエレクトロニクス産業創造可能性調査委員会」を
設置してご検討を賜った。また、専門的立場から財団法人九州経済調査協会にご協力いた
だいた。
ここに関係各位のご尽力に対し、深く感謝するものである。
平成 20 年3月
財団法人 九州地域産業活性化センター
会長
鎌田 迪貞
平成 19 年度自動車産業と半導体産業の融合による
次世代カーエレクトロニクス産業創造可能性調査報告書
インテリジェント・カーアイランド九州構想
~カーエレクトロニクスをトリガーとした新しい ITS 産業育成を目指して~
目
次
序章.......................................................................................................................................................................................................1
第Ⅰ章
カーエレクトロニクス産業の潮流..........................................................................................................7
第1節
カーエレクトロニクスの進展 ....................................................................................................................7
第2節
カーエレクトロニクスの領域と主要プレイヤー.........................................................................9
第3節
カーエレクトロニクス化の進展がもたらす新産業形成の芽 ..........................................14
第4節
今後のカーエレクトロニクス産業の俯瞰と中小企業の参入可能性領域...............21
第Ⅱ章
九州における自動車産業と半導体産業の現状と課題 ...........................................................23
第1節
カーエレクトロニクスへの参入状況.................................................................................................23
第2節
九州の自動車産業のカーエレクトロニクスへの展開...........................................................26
第3節
九州の半導体産業のカーエレクトロニクスへの展開...........................................................36
第4節
自動車産業と半導体産業の九州における融合状況 ................................................................41
第Ⅲ章
カーエレクトロニクス製品の開発実態............................................................................................49
第 1 節 九州におけるカーエレクトロニクス製品開発状況...................................................................49
第2節
自動車関連部品分野の開発形態............................................................................................................53
第3節
ソフトウェア分野における開発形態.................................................................................................58
第4節
ITS 分野における開発形態 .......................................................................................................................61
第5節
九州におけるカーエレクトロニクス製品開発への展望と課題.....................................65
第Ⅳ章
カーエレクトロニクス分野で求められる人材の育成 ...........................................................69
第1節
カーエレクトロニクス関連企業の人材育成状況......................................................................69
第2節
東海地方での人材育成状況 .......................................................................................................................75
第3節
九州地方での人材育成状況.......................................................................................................................84
第4節
カーエレクトロニクスを支える人材育成......................................................................................89
第Ⅴ章
自動車と半導体の融合による新産業創造に向けて.................................................................93
第1節
九州のポテンシャル .......................................................................................................................................93
第2節
新産業創造の視点.............................................................................................................................................96
第3節
新産業創造ビジョン .......................................................................................................................................98
その1
イノベーションを起こす九州.............................................................................................................. 100
その2
高品質なものづくりを進化させる九州........................................................................................ 105
その3
新しいクルマ社会を築く九州.............................................................................................................. 108
要
第Ⅰ章
約
カーエレクトロニクス産業の潮流
自動車に対する安全・安心、環境、快適性へのニーズが高まるなかで、自動車のエレク
トロニクス化は急速に進んでいる。エレクトロニクス化の領域は、情報化、高性能化、高
機能化に大別されるが、全ての技術を支えているのは車載デバイスである。車載デバイス
はコンシューマーとは異なる特別な技術スペックが要求され、開発から生産、品質管理を
一 貫 し て 行 う こ と が で き る の は 資 本 力 の あ る 大 手 IDM ( IDM: Integrated Device
Manufacturer 垂直統合型デバイスメーカー)に限られる。ただし、エレクトロニクス化の
新たな方向性として注目され、多くの事業者に参入可能性があるものとして ITS(高度道路
交通システム:Intelligent Transport Systems)がある。今後、自動車は車外と情報受発
信し、その情報をもとに制御する方向に進んでいくとみられており、それが ITS である。
ITS 分野の技術標準化や車載デバイスのテスト、解析、部材・装置といったサポーティング
分野においては、地場の中小企業にも参入の余地が十分にあると思われる。
第Ⅱ章
九州における自動車産業と半導体産業の現状と課題
九州の自動車産業と半導体産業は、生産面、企業集積面いずれも順調に推移している。
自動車産業においては生産台数が年間 100 万台を突破し、近い将来には生産能力が 150 万
台を超えることが期待されている。エレクトロニクス化の進展にともなう車載デバイスの
ニーズ増もあって、九州においても車載デバイスを手がけている企業が多い。しかし、電
装品メーカーが車載デバイスを搭載する組立工程が九州域内にほとんどなく、九州域内に
おける自動車産業と半導体産業の融合は進んでいない。
第Ⅲ章
カーエレクトロニクス製品の開発実態
現在、カーエレクトロニクス製品の開発拠点の多くは、完成車メーカー、あるいは半導
体メーカーの本社周辺に集中している。自動車本来の機能である「走る・曲がる・止まる」
分野(パワートレイン系)については、特にその傾向が強い。その一方で、ソフトウェア、
オーディオ機器、車体部品の一部については本社地区を離れた地域での開発も行われてい
る。今後の成長が見込まれている ITS 分野についても、自動車の基本動作に直接関わらな
い部品も含まれる上に、情報受発信を助ける各種インフラやアプリケーションなども関わ
ってくる。各種機器や交通インフラの技術開発、実証実験などで九州が担うことのできる
部分が大きいと期待される。
i
第Ⅳ章
カーエレクトロニクス分野で求められる人材の育成
カーエレクトロニクス分野の専門人材は、九州でも不足しており、カーエレクトロニク
スが進展する中で、人材の育成は急務である。完成車メーカーや関連部品メーカーが本拠
地を置く東海、関東地域においては、専門人材を企業主体で育成する傾向にある。九州で
は地域全体で自動車産業振興に取り組んでおり、人材育成についても産学官連携のプログ
ラムが立ち上がりつつある。地域一体となっての人材を育成するという姿勢が九州の特徴
でもあり、人材育成の方向性を統一しながら、企業ニーズに合った人材を育てていくこと
が必要である。
第Ⅴ章
自動車と半導体の融合による新産業創造に向けて
九州は、自動車産業と半導体産業の集積が進み、高い生産技術力も定着しているほか、
アジアへの近接性や高い人材供給力、そして自動車産業、半導体産業振興に向けた産学官
連携の動きも盛んである。また、関東や東海地区で懸念される大地震に対応するリスク回
避の場としても地勢的に優れている。こうしたポテンシャルに加えて、近年の自動車のエ
レクトロニクス化の進展によって、自動車と半導体、情報通信が結びつく ITS という領域
は九州に新産業創造の芽として、また研究開発の種としての新たな可能性を示している。
そこで、新産業像として「インテリジェント・カーアイランド九州」を掲げ、新産業像実
現に向けた3つのビジョン、すなわち「イノベーションを起こす九州」
「高品質なものづく
りを進化させる九州」
「新しいクルマ社会を築く九州」にもとづいて新産業の創造を進めて
いくことが求められる。
ii
序章
1.地域経済を牽引する自動車産業と半導体産業
九州では、自動車産業と半導体産業の両産業がリーディング産業として地域経済を牽引
している。事業規模が、それぞれ約2兆円、約1兆円と巨大な上に、移輸出主導型で、関
連産業への波及も大きい。自動車産業では、日産、トヨタ、ダイハツの3つの完成車メー
カーの立地に伴い、1次、2次サプライヤーなどの関連企業の集積が進み、北部九州に一
大サプライヤーパークが形成されつつある。近年では、トヨタやダイハツがエンジン工場
の新設を決め、サプライヤーの進出ラッシュが加速しそうな気配である。一方、半導体産
業でも、装置、材料、精密加工部品などの産業群の集積が進み、技術応用によって FPD や
太陽光パネルなどの新産業も形成されつつある。九州の産業振興には、リーディング産業
であるこれら両産業の国際競争力の強化と地域への波及効果の拡大が欠かせない。
これに対して、両産業の融合化によって国際競争力の強化と地域への波及効果の拡大を
進めようという議論がこの数年起こりつつある。山崎は『クラスター戦略』
(2002 年、有斐
閣)のなかで、アイシン九州が半導体製造装置部門に参入している例を挙げ、「産業クラス
ターの部分的融合は、複数の産業クラスターの生産性を同時に上昇させる可能性があり、
また地方圏のクラスター化を促進する手段としても有効である」と指摘している。その後
も、日本政策投資銀行が『クラスター融合の時代へ』
(2005 年)でメッキや微細加工、金型
等の分野で両産業の融合の可能性について指摘している。九州経済産業局『九州新経済成
長戦略』(2006 年)や平成 20 年度の策定に向けて議論を進めている国土形成計画づくりに
おける『九州圏広域地方計画』でも、
「自動車産業と半導体産業の連携」が焦点のひとつと
して挙げられている。
2.自動車産業と半導体産業の融合
「両産業の融合」という議論の背景には、自動車業界で進む急速なエレクトロニクス化
の流れがある。エンジン・パワートレイン制御やブレーキ制御等の車体コントロールから、
走行サポートシステムや AV 情報システムなどの安全・快適サポートまでのあらゆる面で
「機
械機器から電気機器へ」という流れが加速している。九州においては、
「カーエレクトロニ
クス」「車載 LSI」というキーワードを通じて、高成長を続ける自動車産業と、高付加価値
製品に強みを有する半導体産業の融合を図ることが、次世代の産業発展シナリオとして極
めて大きなテーマである。
しかしながら、自動車産業と半導体産業の両産業は、もともと別々のファクターで企業
立地が進み、産業集積が形成されてきた歴史がある。1990 年代までは、両者の間に親和性
1
や関連性はほとんど見られなかったのが実態である。これをどう融合させて産業発展に結
び付けていくかという点については、先行研究においてもそのシナリオや具体的方向性が
十分に示されているわけではない。今後は、自動車産業と半導体産業の国際競争力強化と、
その融合による産業発展と新産業創造に向けたビジョンを示すことが求められている。
そこで、本調査では、自動車産業と半導体産業の融合モデルと産業発展シナリオを提示
するとともに、融合モデルとしての九州における新産業創造可能性のグランドデザインを
示すことを目的とする。
3.自動車産業と半導体産業の融合の概念について
自動車産業と半導体産業の“融合”とは、完成車メーカー、自動車関連部品メーカーと
半導体関連メーカーとの間でのつながりを意味する。
融合には2種類あり、1つは自動車関連企業と半導体企業間の研究開発、販売・調達と
いった取引、技術供与といった関係がある状態を指す(融合①)
。研究開発や取引を行なう
過程において、両産業の間をヒト(頭脳)、モノ、技術が行き来する関係と言うことができ
る。図表1の中では、円の中心(コア)部分を完成車メーカー・自動車関連部品メーカー、
周辺部分を半導体関連メーカーとして、コア部分と接するつながりを表している。
もう 1つの融合として、両社間に取引関係はないものの、交流会、コンソーシアムの場
などを通じて人的つながりがある状態を指す(融合②)
。ここでは、ヒトと情報の行き来が
中心となる。企業間には具体的な取引は存在しないものの、お互いの持つ技術を背景にし
た人的なつながりを構築することによって、将来的に両産業間で取引や技術供与、共同研
究といった有機的な関係が生まれる可能性が高くなる。
本調査における”融合”とは、両産業間において研究開発ならびに取引等で、ヒト、モ
ノ、技術等のつながりがある状態、すなわち融合①の状態を指す。
2
図表1 自動車産業と半導体産業の融合のイメージ
半導体・電子部品・
部材メーカー
半導体・電子部品・
部材メーカー
ヒト
ヒト
完成車・関
連部品メー
カー
情報
モノ
技術
融合①:研究開発、商流、物流、調達など
の直接的つながり(コア)
融合②:交流会、コンソーシアムなどを
通じたつながり(周辺)
資料)九経調作成
4.アンケート調査の概要
本調査においては、以下の要領でアンケート調査を実施した。本文中のアンケート調査
結果は、すべてこのアンケートのことを示す。アンケート調査の概要は以下のとおり。
1)アンケート送付状況
● 調査対象企業
アンケート調査は九州内外の自動車関連企業、半導体関連企業、カーエレクトロニクス
産業に関連する電機メーカー、ソフトウェア企業等を対象にした。自動車関連企業に 2,263
社、半導体関連企業に 902 社、その他企業に 172 社の合計 3,337 社にアンケート票を送付
した(図表2)。
図表2 発送先企業業種と発送数
発送先企業業種
発送数(社)
自動車関連企業
2,263
半導体関連企業
902
その他(電機メーカー等)
172
合計
3,337
3
● 調査期間
発送日:2007 年8月 21 日(火)
締切日:2007 年9月7日(金)
● 有効回答数・有効回答率
有効回答数は 270 社、有効回答率は 8.1%である。
2)有効回答企業の属性
有効回答企業 270 社の所在地、業種、従業員規模、売上高規模は以下の通りである。
● 所在地と業種
九州内の企業がおよそ3分の2を占めており(図表3)、業種別にみると半導体デバイ
スメーカー及び半導体関連メーカーおよそ5分の1、自動車企業が3分の1となってい
る(図表4)
。
図表3 有効回答企業の所在地
図表4 有効回答企業の業種
無回答
1.9
無回答
1.9
九州
域外
32.6
その他
38.5
九州
67.4%
ソフト
ウェア
メーカー
2.2
電機
メーカー
3.7
N=270
半導体
デバイス
メーカー
5.6%
自動車
メーカー
0.4
半導体関
連メー
カー
14.1
自動車
電装品
メーカー
1.5
自動車部
品メー
カー
32.2
N=270
資料)九経調「次世代のカーエレクトロニクス産業に関するアンケート調査」
● 従業員規模と売上高規模
有効回答企業のうちおよそ半数が 100 人未満の企業、5分の1が 100 人以上 299 人
以下の企業、4分の1が 300 人以上の企業である(図表 5)
。売上高規模では、年間の
売上高が 10 億円未満の企業、10 億円以上 100 億円未満の企業が3分の1ずつ、100 億
円以上の企業が4分の1を占めている(図表6)
。
4
図表5 有効回答企業の従業員規模
図表6 有効回答企業の売上高規模
無回答
1.1
300人
以上
25.6
100~
299人
20.7
無回答
4.1
1~
29人
20.4%
100億
円以上
26.3
30~
99人
32.2
50億~
100億
円未満
8.1
N=270
10億円
未満
35.2%
10億~
50億円
未満
26.3
N=270
資料)九経調「次世代のカーエレクトロニクス産業に関するアンケート調査」
5
6
第Ⅰ章
第1節
カーエレクトロニクス産業の潮流
カーエレクトロニクスの進展
1)進む機械制御から電子制御への置き換え
近年、自動車の電子化(エレクトロニクス化)が急速な勢いで進んでいる。いまや、自
動車には、様々な情報を捉える多数のセンサーと、情報をやり取りするための通信と、情
報を安全走行に生かすコンピュータが複雑に組み込まれている。
Strategy Analytics Inc.とルネサステクノロジによると、部品・材料コストに占める電
子部品の構成比は 1980 年時点で1%程度であったものが、
2005 年には 22%にまで増大し、
2015 年には 40%程度にまで拡大を続けると予測されている。2006 年時点の車種別データに
よると、コンパクトカーで 15%程度、ラグジュアリーカー(高級車)で 28%、ハイブリッ
ドカーで 47%に達していると見ている(トヨタ自動車資料)。自動車はもはや電子部品のか
たまりである。
自動車の電子化は、機械制御を電子制御に置き換えることで進展しており、その置き換
える領域が近年大幅に広がってきている。古くから電子化が進んでいた領域は、エアコン
やステレオといった内装品が中心であった。これが、エンジンの燃焼や噴射制御、ABS、自
動走行といった「走行・走行支援機能」という中核部分の高性能化にシフトし、さらにエ
アバックやキーレスエントリー、衝突防止等の「安全・快適支援機能」や、ナビゲーショ
ンや路車間通信(ETC や VICS)などの走行支援機能の情報化、すなわち「ITS(高度道路交
通システム)機能」なども加わりつつある。なかでも、ITS の中核となるカーナビゲーショ
ンは、近年の情報通信技術の発展にともない、単なるエンターテイメントや地図情報の表
示機器という役割から、決済や運転制御、情報受発信などといった走行制御や社会システ
ムと深く連動する役割を担う時代を迎えている。
2)カーエレクトロニクス化のキーワード~安全・安心、環境、快適~
カーエレクトロニクス化の基本的な方向は、自動車の永遠の課題である「安全・安心へ
の要請」に応えるとともに、省エネルギーや CO2 削減といった「環境への適応」がその中
心をなしている。特に、自動車はエネルギーを大量に消費する存在であり、多くの環境規
制の達成が具体的な課題となる。近年では、単に自動車の使用過程での環境問題というだ
けでなく、その生産過程で利用される電子機器に対しても RoHS 指令を代表とする規制強化
の動きがみられる。さらに、差別化・差異化を図るために「快適性の追求」という視点も
欠かすことができない。なかでも近年の特徴は、通信技術やその社会基盤の整備・進展に
ともなって、道路や交通状況、情報を自動車に伝えてより安全で快適に走行するシステム
構築が進んでいる点にある。カーナビゲーションや ETC などを例にしても、自動車単体で
7
閉じたものでなく、社会システムの一部として機能しており、通信の重要性が高まってい
る。
このような、安全・安心、環境、快適という3つの社会的ニーズに対して、技術展開と
しては、走行や走行支援という中核部分の「高性能化」と、安全・快適性を高めるための
新たな機能の追加、すなわち「高機能化」、それに各種機器の「情報化」といった3つの方
向性が示され、ここにエレクトロニクスが重要な役割を担っているという構図をみること
ができる。複雑化・多様化しつつある様々な要請への回答は、常に先端技術による新たな
ブレークスルーが必須となる。カーエレクトロニクスにおいても、その構造・原動力は同
じであり、社会の要請が先端技術の開発・導入といった新たな展開の起点となっている。
図表1-1 カーエレクトロニクスを取り巻く時代の潮流と技術開発の方向性
注)1.ABS:Anti-locked Braking System
2.EFI:Extensible Firmware Interface
3.VICS:Vehicle Information and Communication System
4.ETC:Electronic Toll Collection
資料)九経調作成
8
第2節
カーエレクトロニクスの領域と主要プレイヤー
1)3つの領域と主要プレイヤー
カーエレクトロニクス化の流れをまとめると、以下のようになる。先にあげた、高性能
化、高機能化、情報化の3つの領域には、それぞれにプレイヤーが存在する。
「高性能化」は、エンジンの制御やブレーキ制御など走行の基本的性能を向上させるた
めの電子制御技術に求められている。この中には安全性の向上から、省エネルギーへの対
応技術が含まれる。この領域は、自動車の基本である「走る、曲がる、止まる」といった
走行制御を司る領域であるため、自動車メーカーが主導して、大手の電装メーカーととも
に事業が行われている領域である。この領域への新規参入や中小企業の参入は非常に難し
い。可能性があるとすれば、動力源にエンジン(内燃機関)を使わないような電気自動車
(EV:Electric Vehicle)など、これまでの技術と断絶された領域に限られると見られて
いる。
「高機能化」は、快適性や安全性を高めるために導入されるライトの制御や各種モニタ
ー技術からエアバックやエアコンなど自動車の付帯機器技術に求められている。この延長
線にイモビライザーや走行記録装置(ドライブレコーダー)が含まれる。この領域は、主
に自動車メーカーとの協業やデザイン・インでの開発が必要だが、電装機器メーカーがあ
る程度主導権を握っている領域である。エアバックに特化するタカタやライトに特化する
小糸製作所など、特定領域に特化する電装機器メーカーの活躍できる場である。
最後の「情報化」には、2つの流れが見られる。一つは、先にあげた様々な電子化機器
間の連携に必要な通信から始まる情報化である。いわゆる車内の情報化である。もう一つ
は、カーナビや ETC、VICS など様々な社会システムとの通信要請から始まる情報化である。
いわゆる車車間、路車間といった ITS(高度道路交通システム:Intelligent Transport
Systems)である。この領域は、純正品として自動車メーカーの多くが関わるものの、家電
メーカー系が独自技術・独自ブランドで参入している。例えば、カーナビでは、パイオニ
ア(カロッツェリア)、クラリオン(アゼスト)、ケンウッド、富士通テン(イクリプス)、
アルパインなどがある。ただし、情報系と走行系が連動する運転支援システム等の領域で
は、自動車メーカーが完全に主導しているケースが多く見られる。
9
図表1-2 カーエレクトロニクスの領域と主要プレイヤー
家電メーカーが提供
車外/ 車内通信
情報化
・カーナビゲーション
・路車間通信(VICS、自動料金収受ETC)
・車車間通信
・総合情報通信システム
・車内LAN
・オフボード診断装置
AVシス テム
・CD/MD/DVD
・テレビ
・パワーアンテナ
盗難防止装置/施解錠
エ ンジン・パワートレイン制御
・盗難防止装置
・カードエントリ
・キーレスエントリ
・エンジンスタータ
・イモビライザー
・スーパーロック
・低燃費EFI、ECCS、EGI
・EV
電制ディーゼル
・TCM
・ASCD
・電制AT、CVT
・直噴(ガソリン、ディーゼル)
・電制エンジンマウント
・EV関連装置
安全性/ 快適性
シ ャシ・走行制御
・4輪操舵
・油圧アクティブサス
・電子制御4WD
・オートスポイラ
・電制パワーステアリング
・ACC(アダプティブクルーズコントロール)
高性能化
自動車・電装メーカー
が提供
視界/ ライト制御
・オートライト
・超音波ミラー
・オートワイパ
・放電灯
・DTRL
・室内灯制御
・超音波車外モニター
・赤外モニター
ブレーキ制御
・ABS
・ESC
・TCS
・VDC(VSC)
・電制ブレーキ
・追突防止システム
・エアバッグ(両席、サイド)
・オートエアコン
・アクティブ消音
・シートベルトプリテンショナ
・シフトロック
・HUD(ヘッドアップディスプレイ)
・ドライビングポジション
・ANC(アクティブノイズキャンセラー)
高機能化
電装・専業メーカー
が提供
資料)九経調作成
2)カーエレクトロニクスと車載 LSI
カーエレクトロニクスの技術を根底で支えているのが、システム LSI やセンサーといっ
た半導体デバイス(車載 LSI)、ならびにこれらのデバイスにプログラムとして書き込まれ
た組込みソフトである。
トヨタ自動車の資料によると、車載 LSI をウエハ換算すれば、カーナビ付きの自動車で
8インチウエハ 0.48 枚、カーナビ付きハイブリッド車で 0.96 枚になるとみられている。
高級乗用車に搭載される電子制御ユニット(ECU)数は約 70~80 個、センサーは約 80~100
個に及ぶという。
このようななか、
車載 LSI 市場は自動車生産台数の伸びを上回る高成長を達成しており、
今後ともこの高成長を維持していくとみられている。Strategy Analytics Inc.とルネサス
テクノロジの共同調査によると、自動車生産台数の伸びは年率 3.5%程度なのに対して、車
載 LSI の売上高の伸びは年率 6.5%程度になると想定されている。なお、デバイス別にみる
と、2006 年から 2009 年ごろまでの平均成長率の予測で、センサーが 20.4%と最も高く、
これに LED が 15.5%、MPU が 9.7%などと続いている。
なお、車載 LSI 市場には、多くの半導体メーカーが参入しているが、世界に数百社ある
半導体メーカーの中で車載 LSI に参入できているメーカーは上位の 30 社程度に限られてい
10
るとみられる。車載 LSI のメーカー別世界ランキングをみると、フリースケール、インフ
ィニオン、ST マイクロなどの欧米系メーカーが上位を占める。これに、ルネサステクノロ
ジ、NEC エレクトロニクス、東芝、富士通などの日本勢が続く。日本勢は、マイコンやカー
ナビ等の ITS 関連デバイスで強みを有している。
なお、車載 LSI 市場は成長が続くと見られているが、この市場で戦えるメーカーの集約
が起こり、メーカー数は減少するのではないかと見られている。それは、次節で詳しく述
べるが、車載 LSI に求められる独自の技術ニーズとビジネスモデルがあり、これに対応で
きないメーカーが出てくる可能性があること、また車載 LSI 自体のワンチップ化や電装機
器のモジュール化が進み、メーカーの選択と集中が図られる可能性があることによる。
図表1-3 車載 LSI メーカーの世界ランキングと特徴
ー
メ
ー
カ
1
フリースケール
2
国
車
載
比
半
率
導
体
マ
イ
コ
ン
アメリカ
約30%
インフィニオン
ドイツ
30%以上 世界5位
3
STマイクロ
イタリア・
約15%
フランス
4
ルネサステクノロジ
日本
世界2位
世界3位
5
NECエレクトロニクス
日本
約17%
NXPセミコンダクターズ
オランダ
約20%
東芝
日本
約10%
テキサスインスツルメンツ
アメリカ
富士通
日本
ア
ナ
ロ
グ
そ
の
他
世界1位 世界3位 世界6位
約19%
6
セ
ン
サ
ー
世車
界載
ラ半
ン導
ク体
車載オーディオアンプ世界1位、エアバックIC世界シェア
30%以上
カーナビ用マイコン世界1位、エアバック制御マイコン日本
1位
オーディオ用MCU世界1位、車載低耐圧パワーMOSFET
世界3位
車載ネットワークIC世界1位、車載イモビライザーIC世界1
位、カーラジオ用チューナー世界1位
日本1位 キーレスエントリー用RF-IC日本1位
ABS制御マイコン世界1位、エアバック制御マイコン世界
シェア35%
CAN搭載マイコン世界3位、カーナビ向けグラフィックス処
理LSI世界1位
10数%
資料)日経エレクトロニクス2007.11より引用
3)車載 LSI に求められる技術ニーズ
車載 LSI は、コンシューマーとは異なる技術スペックが要求される。自動車というアプ
リケーションの性格から、生命に関わること、移動体であること、使用環境が劣悪なこと、
長期間使用に耐えられることなどの要求が生まれてくる。
車載 LSI に求められる技術スペックとしては、安全性(自己診断・バックアップ機能等)、
高信頼性(不良率ゼロ、品質保証等)
、高耐久性(耐熱・耐振動等)といった基準値が極め
て高いことがある。
安全性については、万一デバイスが不良を起こしたとしても、暴走しないようなフェイ
ルセーフ機能が必要である。デバイスの設計段階においてこの機能を盛り込んでいる必要
がある。したがって、車載 LSI は、設計思想から独自の配慮やノウハウが必要であり、同
じ機能を果たすデバイス、例えばモーターコントローラーIC ひとつをとっても車載専用設
計となる。
高信頼性については、不良率の水準が一桁上がる。通常は、2桁 ppm(parts per million:
11
100 万分の1)程度であるが、車載向けは 1ppm を下回ることが求められる。特に、トヨタ
のレクサス向けなどは、不良率ゼロが求められる。これに対応するためには、テストや品
質検査の精度を高めることが必要で、テスト工程で通常以上のコストが発生する。テスト
をパスする基準も厳しく設定する必要があり、従来ならパスするレベルのデバイスであっ
ても、不良品扱いとしてユーザーに納めないようにする。
高耐久性については、振動、衝撃、耐熱など、劣悪環境での使用を想定し、さらに 10 年
以上の長期間使用に耐えうる設計・仕様にする必要がある。例えば、耐熱性に関していえ
ば、
マイナス 40℃程度の超低温から 150℃程度までの高温環境下での信頼性が求められる。
これに対応するためには、特殊な材料や設計を行う必要があり、さらにテストについても
特殊なプロセスを追加する必要がある。
各所で言われている車載 LSI のニーズをまとめると以下のようになる。
図表1-4 車載 LSI に求められる技術ニーズ
⑤組込みシステム開発の標準化・短期化
⑥ソフトとハードの最適機能分担
⑦主要部品・開発手法の標準化とオープン化
⑧低エネルギー消費・長期安定対応
⑨自己診断機能・バックアップ機能
⑩MEMS、センサー技術
①小型、高品質、高信頼性、高密度、耐高温
デバイス
②システム設計から IC 設計までの一貫設計
手法
③デジタル・アナログ・パワーの最適複合化
④小型・高信頼性パッケージ・実装技術・材
料
資料)九州半導体イノベーション協議会「車載 LSI と九州」より作成
4)今後開発が求められる車載 LSI の概観
今後の開発が求められている車載 LSI としては、組込みシステム、高速 MPU、統合型 MPU、
通信デバイス、センシングデバイス、省電力デバイスなどがあり、その基盤として高信頼
性製造技術がある。繰り返しになるが、
「安全・安心」
「環境」
「快適」と「情報化」のキー
ワードのもとで、運転支援・安全確保に必要な各種のセンサー、省エネ・燃費向上に欠か
せないパワーデバイスや高輝度 LED、統合制御を可能にする高性能 ECU とそのコアになる高
性能マイコンなどが特に求められている。
センサーでは MEMS の加速度センサー、赤外線センサー、ミリ波レーダーなどの高性能の
新しいセンサーが求められている。また、パワーデバイス関連では給電系の 42V 化対応が
課題となっている。高輝度 LED についても、ヘッドライトを筆頭とした様々な省エネライ
ティングデバイスとして注目されている。さらに、通信系デバイス(ワイヤーハーネス置
き換え、路車間通信対応)やバイオセンサー(ドライバの体調・異変検知)などに対する
開発も始まっている。
なお、これらのブレークスルーには材料技術といった基盤部分からのアプローチが重要
12
である。CNT(カーボンナノチューブ)等のナノテク材料の活用や開発も並行して進められ
ている。また、デバイス製造からモジュール・ユニットへの進化という流れもある。LSI の
高機能化は、LSI とモジュールの領域が近づきつつあることを意味する。これまで複数のデ
バイスでひとつの機能を有するシステムを作り上げていたところが、ワンチップやワンチ
ップ+αでシステム構築が可能になることを意味する。モジュールは、これまでデンソー
やカルソニック、アイシンなどの電装メーカーが担っていた領域である。今後は、半導体
メーカーサイドにおいても、高密度実装技術を生かした LSI モジュール化に対応した動き
が求められる。
5)車載 LSI に求められるビジネスモデル
車載 LSI のビジネスモデルは、技術ニーズと同様に、コンシューマーや産業用機器向け
とは全く異なる。一言でいえば、「安定継続型のビジネスモデル」が求められる。
車載 LSI は、同一デバイスのライフサイクルが非常に長い。基本的にはモデルチェンジ
がワンサイクルであり、10 年単位のビジネスになる。携帯電話や PC、デジタル家電等が半
年~3年程度のビジネスであることを鑑みると、このサイクルの違いはとても大きい。
車載 LSI のビジネスは、10 年以上の長期にわたって安定的に購入してもらえるので、景
気動向や商品サイクルに左右されることなく、計画的な生産体制を構築しやすいという利
点がある。また、開発後の収益の刈り取り期間が長いので、長期的にみると収益が上がり
やすい。しかしながら、その一方で、開発期間が非常に長いため、それまでの収入が得ら
れないというデメリットがある。新規デバイスの開発は、信頼性評価に時間を要するため
に2~5年程度というのが普通となる。また、量産がピークを迎えた後も 30 年程度の継続
的安定供給が求められる。この間、モデルチェンジ等もあり、安定供給が求められるデバ
イスの生産量は極めて少なくなるが、同一プロセス・同一装置を用いて生産を維持してい
くことが求められる。古い装置・相対的に生産性の下がった装置を使い続けていく必要が
あり、生産プロセスの進化が早い半導体産業において、生産性の向上や競争力の維持に相
容れないこともでてくる。このような開発段階の無収入状態を持ちこたえる体力(資本力
や開発力)や成熟期以降の安定供給への対応(長期安定供給力)が求められるため、デバ
イスで中小企業やベンチャー企業が単独で入り込むのは不可能に近い。また、品質保証や
不良発生時の不良解析への徹底した対応(不良解析・評価能力)も必要であり、車載 LSI
製造領域に参入するためにはかなりの覚悟が必要といわれている。
図表1-5 車載 LSI 業界のビジネスモデル
①不良率ゼロ
②信頼性・品質保証
④開発力・資本力
⑤デザイン・イン
③不良解析・評価能力
⑥長期安定供給
資料)九州半導体イノベーション協議会「車載 LSI と九州」より作成
13
第3節
カーエレクトロニクス化の進展がもたらす新産業形成の芽
1)キーワードは「社会システム」と「標準化」
自動車のエレクトロニクス化の進展は、単に自動車向けエレクトロニクスという領域の
みならず、そのほかの産業にも新しいビジネスチャンスをもたらす。その際のキーワード
は、「社会システム」と「標準化」である。
自動車は、道路や交通システム(信号、料金徴収機器(ETC)、VICS、GPS)、法体系(交
通法規、環境法規)などの「社会システム」と連動している。自動車を取り巻く社会シス
テム、いわゆる「車社会」の最適化を図るためにエレクトロニクス化が加速している。特
に注目されているのが、運転支援システムや ITS(高度道路交通システム)といった安全・
快適面の向上に資する分野と、CO2 削減や燃費向上等に資する環境・省エネ分野である。ま
た、自動車と外界(社会・インフラ等)との間の情報をやり取りして安全性や快適性を高
めようとする取り組みも活発である。いわゆる車車間通信や路車間通信といわれる通信分
野である。
また、社会システムとの連動を考慮すればするほど、技術やインフラの「標準化」が欠
かせなくなってくる。その上、自動車自身も 30,000 点にも上る部品の集合体であり、これ
らを一体的に制御するためには、部品間・モジュール間の情報共有をスムーズにすすめる
必要が出てくる。つまり、電波(通信)や車載ネットワークなどのリソースの最適分配に
対して、標準化が重要な視点となりつつある。一方、標準化は自動車の生産過程へも波及
し始めている。より効率の良い生産手段として、あるいは、より廉価で信頼性ある生産手
段として、様々なパーツを「モジュール化」していく方向性が見られる。モジュール単位
での性能を規定し、検査し、信頼性を問うことが、有効であるとみられつつある。
2)社会システムに連動する自動車
通信技術の発達により、自動車と道路や街との情報交換・コミュニケーションが可能に
なりつつある。ここに、安全・安心あるいは省エネに向けて最適な走行制御、快適なサー
ビス提供を行うためのカーエレクトロニクス化が進んできている。
具体的には、料金所の電子化である ETC(Electronic Toll Collection)
、渋滞情報を知
らせる VICS(Vehicle Information and Communication System)などが製品化されている。
いずれも道路に設置された検出器と自動車に装備された情報端末との間で、自動車の位置
や走行情報をやりとりして、料金や渋滞情報、さらに発展して衝突回避に資する安全情報
の提供と制御を行おうとするものである。
これらは、いずれも自動車内部に閉じて機能するのではなく、サービス提供者から情報
を取り込む仕組みとなっており、そのコンテンツの製作や提供の仕組みが必要となる。移
動体に携帯電話などの通信システムを利用してサービスを提供することは、テレコミュニ
ケーション(Telecommunication)とインフォマティクス(Informatics)の造語として「テ
14
レマティクス」と呼ばれている。一般的には、自動車へのサービス提供として利用し、安
全・安心機能の実現と、情報配信による利便性の向上を2大目的としている。
前者としては、エアバッグ連動の自動緊急通報機能や車両盗難時の追跡機能、後者には
交通情報配信、電子メール、天気予報などがある。現在、これらはカーナビと連動した天
気予報や渋滞情報、電子メールなどは各自動車への個別サービスとなっているが、将来は
高度道路交通システムいわゆる ITS の一端を担うものとして期待されている。
なお、これらの「車載テレマティクスサービス」は、各自動車メーカーが独自サービス
を行っている場合が多い。わが国では、G-BOOK (トヨタなど)、カーウイングス (日産など)、
Honda インターナビ
(ホンダ)
、
海外ではオンスター
(OnStar)
(GM など)、
テレエイド
(TeleAid)
(ダイムラー・クライスラーなど)、BMW アシスト(BMW)、レクサスリンク(レクサス)な
どがある。
これらのテレマティクスは、いずれも自動車を直接のターゲットとしたサービスである
が、今後は携帯電話やデジタル TV 放送やモバイル PC を狙ったサービス、さらには家庭
(HOME)と自動車と個人の連携を狙ったサービスなども登場するものと見られている。例
えば、iPod を自動車で利用できるようにする機器の登場や、携帯電話の自動車向け情報サ
ービスなどもその一端と考えられる。
3)社会システムに係る新産業の可能性
情報通信の発達によって、自動車が独立した走る装置から社会インフラの一部に組み込
まれたシステムとしての側面をさらに強めていくことで新しいビジネスチャンスが生まれ
てくる。
新産業の可能性のある領域としては、
①自動車と道路との情報授受を行うために「道路に設置する設備装置」
②自動車に搭載される「情報端末機器」
③情報やサービスを提供する「サービスコンテンツ」
④情報やサービスを管理する「情報システム」
などが考えられる。
道路上に敷設される設備は、ETC の送信機から速度を提示する標識や給油所などの POS シ
ステムまでが考えられる。これには、各種の設備機器製造業者や敷設・設置・管理事業者
などの幅広いプレイヤーの参加を必要とする。車載情報端末は、家電メーカーや電装メー
カーを中心に、提供されるサービスの広がりに応じた幅広い展開可能性がある。
さらに、両者の情報の受け渡しや情報管理を司る基盤となる情報システムが必要である。
この分野には、ITS をはじめとした様々なシステムインフラの運用事業者やシステムを開発
製造するシステム事業者や IDC インターネットデータセンター、産業機器メーカーの存在
も不可欠となる。さらに、具体的サービスやコンテンツは、コンテンツプロバイダー等の
サービス事業者により製作・運営・配信される。インターネット事業者や放送局、サービ
15
ス事業者など幅広い領域からの参入も不可欠である。
これらの領域では、大手企業のみならず、中小企業も取り混ぜた発展可能性が見込まれ
る。
図表1-6 社会システムに係る新産業の可能性
一般的なシステムの要素
提供者
サービス 情報システム
サービス事業者
サービス・コンテンツ
位置
DB
システム・インフラ運営
情報
判定
・ITS
・放送
・携帯キャリア
通信インフラ
端末機器
ナビ
DTV
ETC
関連事業者
安全関連
・地図情報、渋滞情報
・安全情報
エンタメ関連の例
・DTV、DAB
モバイルサービスなど
自動車メーカー
セルスルー・リテーラ
情報システム事業者
通信システム事業者
電装品・家電機器事業者
専用機器製造事業者
端末
ETC
システム敷設
放送・無線通信
各種設備機器製造業者
50
敷設・設置・管理事業者
POSシステム
資料)九経調作成
4)通信プラットフォームの標準化
カーエレクトロニクス化の進展は、数々のモジュールや部品の標準化、特に制御用コン
ピュータ(ECU)間の統合運用のための制御システム・制御ソフト・通信規約等での標準化
が求められるようになってきている。要素の増大や複雑化が進む中で、効率的に開発を進
め、さらに製品の品質信頼性保証を行うためには、標準化へ向けた取り組みが避けて通れ
ない状況になりつつある。
自動車は安全性を保つという必然性により古くから「標準化」を進めてきた歴史がある
が、エレクトロニクス化はこの流れを加速させている。特に、重要なのが通信規約の標準
化である。センサーや通信などの車載機器の増加によって、異なる情報を取り扱う機器間
の協調制御の要求が高まっている。これまでは、1対1の接続によるシリアル通信で制御
していたが、現在では多数の機器を繋いだ車載ネットワークが検討され始めてきている。
既存のコンピュータ・ネットワークをそのまま車載機器に搭載するには、コスト面と信頼
性などで問題があるため、各自動車メーカーは独自のプロトコルを開発し、用途別の様々
16
なネットワークが自動車メーカーごとに採用されている。現在、各自動車メーカーでは、
ISO や SAE などの標準化団体で規格化されている通信規約や業界団体で規格化した通信規約
を用途に応じて用いている状況にある。通信プロトコルを業界標準とすることで、必要に
応じて最適な車載機器を世界中のどこからでも調達できる状況を実現させようとしている。
各自動車メーカーが独自のプロトコルを使用していたときとは異なり、自動車メーカーの
製品開発期間を短縮できる可能性も含んでいる。
なお、標準化は、ボディ系、パワートレイン系、安全重視用途の制御系、情報系の4つ
の用途に分けて進められている。それぞれ情報伝達スピードや信頼性、コスト等を考慮し
て適材適所で用いられている。
図表1-7 標準化が進められる車載ネットワークの代表例
①ボディ系:LIN
ドアの開閉、各種スイッチ類およびライトの点灯など応答スピードを要求しない用
途。低速 LAN(125kbps 以下)
、低コスト
②パワートレイン(制御)系:CAN
エンジン,トランスミッション、ブレーキなどの機械の制御用途。中速 LAN(数百
kbps~1Mbps 程度)
、高信頼性
③安全重視用途の制御系:FrexRay
ブレーキの4輪協調制御、アクセル情報の電子化など、故障すると人命にかかわる
用途。高速 LAN(数 M~数十 Mbps)、超高信頼性
④情報系:MOST
インターネット情報および映像情報を双方向通信する用途。高速 LAN
(数 M~100Mbps)
、
リアルタイム・データ通信
※なお、走行制御に直接関係しない情報系 LAN については、車外との情報交換の必要性
も高いことから、インターネットプロトコル(TCP/IP)をベースにしたものを活用す
ることも検討されつつある。
資料)九経調作成
5)ソフトウェアプラットフォームの標準化
開発効率への要求の高まりから、ソフトウェアの標準化の動きも進んでいる。その代表
例が、JasPar(Japan Automotive Software Platform and Architecture)である。
JasPar は、自動車1台に搭載する ECU が急増し、さらに ECU の開発ではソフトウェア開
発が全工数の 80%以上を占めるという現状を打破したいという業界の要求から誕生した。
JasPar は、クルマの電子制御ユニット(ECU)のソフトウェア基盤や車内 LAN インターフェ
ース規格の標準化を推進することを目的として、国内の自動車メーカーや電装機器メーカ
ーが集まり、2004 年9月に発足した。トヨタ自動車や日産自動車、豊通エレクトロニクス、
本田技術研究所など業界の主要メンバーが幹事会員となっている。
アプリケーション・ソフトウェアの再利用性を高めることと、ECU の相互接続性を高める
17
ことを狙い、7つのワーキング・グループが構成されている。特に、実用化が近づいてい
る「Flex Ray」を中心とした車内 LAN インターフェース規格と ECU 向けソフトウェアのワ
ーキング・グループが2本柱となっている。これらの取り組みによって、アプリケーショ
ン・ソフトウェアは、OS などのミドルウエアに影響を受けない開発が可能となり、異なる
半導体メーカーの通信用コントローラーを使った ECU 間でも通信できるようになる。
図表1-8 JasPar の推進する 7 つのワーキング・グループ
6)設計・開発・生産段階における標準化
製品の標準化は、設計・開発・生産段階での標準化もすすめることになる。自動車産業
における生産工程の標準化の歴史は古い。1970 年代以降、CAD のデータ交換や調達 EDI を
いち早く導入し、VAN(付加価値通信網)を使ってメーカー間の情報交換を進めてきた。SCM
(サプライチェーンマネジメント)のシステム化への取り組みは非常に早く、データ交換
によって、自動車の開発・生産は、早くから取引情報伝達の迅速化や業務の効率化、リー
ドタイムの短縮化が図られていた。しかしながら、近年のような装置の複雑化やグローバ
ル化に対しては、メーカーごとの独自ネットワークが逆に足かせになりつつある。系列の
異なるサプライヤーやメーカー間での取引が拡大するようになり、システムの運用に要員・
設備コストの負担や拡張性・柔軟性の問題などが生じてきている。
そこで、各メーカーやサプライヤー間の容易な情報連繋を可能にすべく、CAD、EDI 等の
自動車業界共通ネットワークの構築をすすめる動きが始まっている。具体的には、日本自
動車工業会(JAMA)や日本自動車部品工業会(JAPIA)などの関係団体が共同ですすめる JNX
(Japanese automotive Network eXchange)である。ここでは、自動車産業のグローバル
化に対応して、米国 AIAG、欧州の ODETTE、日米欧豪の6ヵ国で構成する団体 SASIG が協調
して推進されている。
18
生産プロセスの標準化が進めば、分業構造が根底から変わる可能性がある。現状では、
要素ごとの縦構造(垂直分業的構造)になっているが、標準化によってこれがオープン化
していく方向、つまり水平分業的構造に向かう可能性がある。垂直分業では、開発生産の
コンセプト・仕様などの情報は要素ごとに電装メーカーと共有・開示がなされていた。同
じ構造が、電装品の要素となる部品・半導体メーカーとの間でも行われている。標準 CAD
や標準 EDI のようなオープン化された開発プラットフォームが提供されると、ソフトの開
発がプラットフォーム上で行われ、ハードの共通化が起こる可能性がある。つまり、ソフ
トで付加価値をつけ、ハードは共通仕様のものを大量生産してコストダウンを図ろうとす
る動きである。すなわち、ハードとソフトの分業化、ハード部分の寡占化、ソフト部分の
協業体制の確立という3つの影響が生じると見られる。
図1-9 オープン化の動向と開発生産の流れ
生産の流れ
現 在
自動車メーカー
ソフト
ハード
ソフト
ハード
開発の流れ
車載
ネット
ソフト
ハード
コンセプト・仕様
開示
共有
コンセプト・仕様
電装メーカー
ソフト
ハード
ソフト
ハード
ソフト
ハード
開示
共有
A社
B社
C社
D社
E社
F社
コンセプト・仕様
部品メーカー
オープンシステム化
動 向
自動車メーカー
ソフト
ハード
ソフト
ハード
車載
ネット
ソフト
ハード
コンセプト・仕様
開示
共有
電装メーカー
ソフト
ハード分離化
ソフト
ソフト
a社
ハード
ソフト
コンセプト
仕様
c社
B社
部品メーカー
開示
共有
d社
資料)
「レクサスのカイゼン」 日経エレクトロニクス 2006.12.18 をもとに作成
19
コンセプト・仕様
7)標準化に係る新産業の可能性
標準化に係る新産業の芽としては、標準化規格を運用するための「認証・監査・運営の
仕組み」の分野にひとつの可能性がある。関連して、検査装置や認証サイト、標準化に必
要な開発ツールや共通技術を提供する IP ベンダー、開発機器、検証環境の運用などで活躍
できる可能性もある。一方、標準化された開発プラットフォームがあれば、これに対応し
た機器を供給するセカンド・ソースや新サービス・新アプリケーションを提案する事業が
生まれる可能性もある。
そして、標準化が進めば必ず出てくるのが、標準化されていない領域での差別化の動き
である。標準化は訴求を阻み、これに対応するために、差別化技術が提案されてくる。こ
のため、他社にない新技術・先端技術の開発が一層望まれ、共通技術(プラットフォーム
上の技術)であれば、一層性能差が訴求要因となる。あらゆる意味で高性能化する技術も
また期待され、その基礎となる材料を含めた改良・革新が期待される。
なお、車載ネットワークの通信規約やソフトウェアプラットフォームの標準化は、あく
までも自動車業界が主導していくものと見られる。しかしながら、これらの標準プラット
フォーム上で機能する機器の分野、すなわちデジタル TV やナビゲーションシステム、ETC
をはじめとした機器の分野の様々な標準化技術は、これまでどおり電装メーカーや家電メ
ーカーなどが主導していくとみられる。電気業界で標準化されたものが自動車に搭載され、
自動車業界でも標準技術として取り扱われる可能性がある。つまり、自動車業界の標準化
が進むことで、主に情報系の領域では、電気業界から自動車業界に対して提案が容易にな
る。どの機器で、どちらの業界が標準技術を握るのかがひとつのポイントになるとみられ
る。
図表1-10 標準化による新たなビジネスチャンス
標準化に伴う事象
標準化
認証・監査・運営
開発・生産モデルの変化
〔標準化の目的〕
水平分業化
・検査装置
・認証サイト
・開発ツール
・IPベンダー
・ローコスト化
・有限リソースの分配
・品質・承認の基準化
セカンド・ソース
多様なアプリ提案
差別化技術
新技術・先端技術を要求
高性能化技術の要求
・MEMSなどセンサ技術
・ECUの高速化
・熱技術など素材技術
・撥水、HUDなど
資料)九経調作成
20
第4節
今後のカーエレクトロニクス産業の俯瞰と中小企業の参入可能性領域
今後のカーエレクトロニクス産業を取り巻く構図をまとめると、車載 LSI 自体(デバイ
ス自体)は大手 IDM(IDM: Integrated Device Manufacturer 垂直統合型デバイスメーカー。
半導体製造において、自らの企業内で、回路設計から生産まで一貫して実行することがで
きるデバイスメーカーを指す)を中心とした寡占構造が継続すると見られる。開発力、開
発コスト負担力、安定供給力など、車載 LSI は特有のビジネス構造があり、自動車メーカ
ー・電装メーカーの要求に耐えられる資本力が求められる。ただし、カーエレクトロニク
スの進展は、様々な産業領域を巻き込みつつ進んでいる。デバイスや機器に組み込む組込
みソフト領域は、現在標準化(プラットフォーム化)が進んでおり、これらのプラットフ
ォームが確立すれば、中小クラスの組込みソフトメーカーの参入可能性が高まるなど新し
い方向性も見られる。
以下、中小・中堅企業の参入可能性領域を3つ示す。
1)ITS 分野での機器・サービス
ITS(高度道路交通システム)分野では、対応カーナビや ETC 等の車載端末、携帯電話等
の通信端末など、多くの機器とこれらの上にのるサービスが求められる。特に、今後は自
動車をプローブ(状態を検出する素子)にした新たなサービスの展開も進む。具体的には、
ブレーキ操作をプローブにした渋滞検知、ワイパー操作をプローブにした気象検知などで
ある。また、トラックやバス、タクシー等の運送事業者向けには、運行管理や効率配送等
に直結するサービス提供を行なうことも可能である。西鉄バスナビなどは、この全国的な
成功事例として取り上げることができる。これらのサービスを実施していく上では、従来
の単体機器(端末)だけでなく、サービスやコンテンツを提供するサービス産業分野が含
まれる。この領域での中小・中堅企業の活躍が大いに期待されている。また、共通プラッ
トフォームの確立が進めば、新しいサービスを実現させるための端末や設備機器、システ
ムと言った産業機器ニーズも生じ、ここにサービス主導で電装機器や半導体に新しいビジ
ネスチャンスが生まれる可能性がある。
2)標準化に絡む領域での新ビジネス
ハード、ソフト、通信など情報機器の標準化が進むなかで、新たなビジネスの可能性が
広がっていることは先に示したとおりである。具体的には、開発・認証・検証に係る機器
やサービス、ツール等の提供、標準プラットフォーム上でのセカンド・ソースビジネスや
新アプリケーションの供給、標準化領域以外での差別化を図るための先端技術の提供など
である。このなかで、特に中小・中堅企業では、前者2つは参入可能性があり、特にセカ
ンド・ソース領域での活躍の場が開かれているとみられる。また、ITS や運転支援システム、
省エネルギー対応、環境対応に求められる車載 LSI やセンサー等で群を抜く技術を持つベ
21
ンチャー企業については、大手 IDM 等の資本力のあるメーカーと組むことで、その技術を
自動車に活かしていける可能性がある。自動車メーカーや電装メーカーは、カーエレクト
ロニクスに対する欲求やニーズを急速に高めつつあり、このニーズにマッチした技術を提
示できるかが新しいビジネスを掴むポイントである。
また、ソフト開発のプラットフォームが形成された後には、組込みソフト系の中小・中
堅企業の活躍の場が広がる可能性がある。系列を超えた横展開が可能になることで、これ
まで下請け的に行なってきた仕事を横断的に行え、蓄積しているリソースやノウハウ、プ
ログラム等を水平的に横展開し、同時に複数の取引先から多彩な情報やノウハウを獲得で
きる可能性が高まるとみられる。
3)LSI サポーティング分野
車載 LSI のデバイス製造については、先にも述べたように資本力のある大手企業しか参
入できる余地はみられない。しかしながら、車載 LSI に求められる特有のニーズ、すなわ
ち温度、振動、耐久性、信頼性等を実現するために必要な材料や装置、その他関連の部材・
加工等のサポーティング分野に限定すれば、中小・中堅企業でも十分に参入の余地がある。
特に、パッケージングやテスティング(プローブカード、テストボード等)、精密加工や精
密メッキ、信頼性評価、不良解析などレベルの高い独自技術を持っている領域があれば、
参入は可能である。特に、パッケージングについては、これまで以上に車載 LSI に高密度
実装技術が求められており、さらに電装機器・システムの LSI 化(複数デバイスから複合
デバイスへ)が進むといった動きも出ている。つまり、センサーとマイコンとメモリを単
一の LSI 上で実装した高密度なデバイスへのニーズが高まっており、これには高度な SiP
(システムインパッケージ)技術が必要になる。車載 LSI 製造は、大手のみで行なえるわ
けではなく、これまで同様にレベルの高い関連企業の存在がおおいに求められている。
22
第Ⅱ章
第1節
九州における自動車産業と半導体産業の現状と課題
カーエレクトロニクスへの参入状況
九州に集積が進む半導体産業と自動車産業の融合モデルとして、カーエレクトロニクス
産業が注目されている。本調査では、九州内外の企業を対象に、現在のカーエレクトロニ
クスに対する取り組み、九州における両産業の融合(連携)、研究開発、専門人材の育成に
関する現状と見通しについてアンケート調査を行った。本章では、その結果を示す。なお、
アンケートの概要は序章に前述したとおりである。
1)カーエレに半数が関心を持ち4分の1が参入
カーエレクトロニクスに対する関心の程度は、有効回答企業 270 社のうちおよそ半数の
126 社で関心があると回答しており、関心の高さが見受けられる(図表2-1)。
図表2-2をみると、有効回答企業のうちおよそ4分の1にあたる企業が実際にカーエ
レクトロニクス産業に関わっていることがわかる。さらに、今の時点でカーエレクトロニ
クスに関わっていない企業で今後の参入予定がある企業を加えて、カーエレクトロニクス
への取り組み状況をみると、3分の1以上の企業がカーエレクトロニクスに関係している
(図表2-3)。
図表2-1 カーエレクトロニクスへの関心度
0%
10%
20%
非常 にある
20.0
30%
40%
50%
60%
70%
80%
どちらとも
いえない
24.4
ある
26.7
ない
18.5
N=270
90%
100%
まったく
ない
8.5
無回答
1.9
資料)九経調「次世代のカーエレクトロニクス産業に関するアンケート調査」
図表2-2 カーエレへの取り組みの有無
図表2-3 参入を含めたカーエレ取り組み状況
無回答
1.1
無回答
1.1
はい
27.8%
はい
36.7%
いいえ
71.1
いいえ
62.2
N=270
N=270
資料)九経調「次世代のカーエレクトロニクス産業に関するアンケート調査」
23
2)九州内でのカーエレ事業展開は低調
カーエレクトロニクスに取り組んでいる企業の割合は、27.8%を占めたのに対して、カ
ーエレクトロニクス事業を九州で展開している企業の割合は 10.4%に留まっている(図表
2-4)
。すなわち、カーエレクトロニクス事業は九州外で展開されている場合が多く、九
州ではカーエレクトロニクス産業が十分に育成されていない。一方で、九州で事業展開し
ている企業に対して今後の九州での展開の見通しを尋ねたところ、6割の企業が拡大予定
であり、今後九州においてカーエレ事業が拡大する可能性を示唆する結果となっている(図
表2-5)。
図表2-4 九州でのカーエレ事業展開
無回答
4.8
図表2-5 九州でのカーエレ事業展開見通し
わから
ない
3.6
縮小
予定
3.6
はい
10.4%
現状
維持
28.6
無回答
3.6
拡大
予定
60.7%
いいえ
84.8
N=270
N=28
資料)九経調「次世代のカーエレクトロニクス産業に関するアンケート調査」
24
3)取引先の有無が九州でのカーエレ事業展開の鍵
九州におけるカーエレクトロニクス事業の展開理由として、最も高かった項目は「取引
先の存在」で 78.6%と群を抜いている(図表2-6)。また、九州の課題については、全体
の3割が「販売先の確保」と回答している(図表2-7)。すなわち、販売先等の取引先が
九州で増えるのに伴って、九州でカーエレクトロニクス事業を行う企業も増加するものと
考えられる。そういった意味では、自動車電装部品メーカーの九州内への進出やすでに進
出しているメーカーが取引品目を拡大させていくことが期待される。
図表2-6 九州でのカーエレ事業展開理由
(%) 0.0
10.0
20.0
30.0
40.0
50.0
60.0
70.0
90.0
78.6
取引先の存在
28.6
既存リソースの存在
キーマンの存在
7.1
整った産業インフラの存在
7.1
現場人材獲得の容易性
7.1
東アジアの近接性
80.0
3.6
整った交通インフラの存在
0.0
高度専門人材獲得の容易性
0.0
その他
3.6
無回答
3.6
複数回答
N=28
資料)九経調「次世代のカーエレクトロニクス産業に関するアンケート調査」
図表2-7 九州の課題
(%)
0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
販売先の確保
25.0
30.0
35.0
31.1
マーケット情報の不足
17.8
研究開発機関の乏しさ
17.0
労働力の質の向上
15.2
関東、東海等の主要マーケットとの距離
11.1
調達先の確保
9.6
労働力の量の確保
8.9
産業インフラの整備
5.9
交通インフラの整備
5.6
労働力のコスト水準
複数回答
N=270
4.4
地方自治体の助成
3.7
その他
11.9
無回答
29.6
資料)九経調「次世代のカーエレクトロニクス産業に関するアンケート調査」
25
第2節
九州の自動車産業のカーエレクトロニクスへの展開
1)九州の自動車産業
年間生産台数 100 万台突破
九州において半導体産業と並ぶ基幹産業として注目されるようになった自動車産業は、
生産台数を年々伸ばしている。九州の自動車生産台数は、1999 年以降、基本的に増加傾向
にあり、2006 年の生産台数は 101 万台と初めて 100 万台を突破した。トヨタ自動車九州が
本格的に生産を開始した 1993 年と比較すると生産台数は倍増している。また、全国の自動
車生産台数に占めるシェアも 5.4%から 10.1%とほぼ2倍の水準になり、国内の自動車生
産拠点として着実に成長していることがうかがえる。
図表2-8 九州における自動車生産台数
(万台)
100
101
生産台数
対全国比
90
81.7
80
70
61.3
56.6
60
60.4
(%)
30
91.3
64.6
59.3
79.7
25
67.0
20
56.9
51.0
50
44.4
15
40.2
40
10
30
9.6
20
10
5.4
5.1
1993
94
7.5
7.6
7.2
7.4
95
96
97
98
6.3
6.9
99
2000
7.9
7.7
01
02
9.0
10.0
10.1
5
0
0
03
04
05
06年
資料)九州経済産業局
2009 年には生産能力 150 万台へ
九州には、1976 年操業の日産自動車九州工場、1992 年操業のトヨタ自動車九州、そして
2004 年操業のダイハツ九州の3社が完成車組立を行っている。そのほか、本田技研工業熊
本製作所が二輪車を生産し、トヨタ車体研究所がボディ関係の設計・試作を行っている。
また、隣接する山口県ではマツダ防府工場が稼動中である。九州内の3社の年間生産能力
は 122 万台となっている。
年間生産台数 100 万台を突破した九州では、更に完成車組立工場、エンジン工場の整備
が計画されており、その拠点性がますます高まる。新たな完成車組立工場の整備の動きと
しては、ダイハツ九州が大分(中津)工場に第2工場を建設し、2007 年末から生産を開始
しており、2009 年中に工場全体の生産能力は現在の倍の規模である年間 46 万台に達すると
みられている。また、日産車体が日産自動車九州工場の敷地内に工場を新設している。2009
年に生産開始予定で、生産能力は年間 22 万台を計画している。一連の工場新設の動きによ
って、九州の自動車生産能力は 2009 年には 150 万台を突破することになる。
26
図表2-9 九州の完成車組立工場・その他関連工場・研究所立地状況
資料)各種資料より九経調作成
27
自動車関連部品生産額は 2000 年以降再び増加傾向に
完成車組立工場の集積が進むと同時に、九州域内での自動車関連部品生産額も増加傾向
にある。工業統計表の自動車関連部品生産額(秘匿を除く)をみると、1990 年代は生産台
数の増減に影響される形で 1990 年代後半は前年比マイナスが続いた。2000 年以降では、5
年連続前年比プラスで推移しており、2005 年は過去最高の 6,910 億円となっている。九州
域内にエンジン組立工場の立地が相次いでいることから、今後はエンジン関連部品の生産
が高まるとみられる。
全国的にみると、国内の最大生産拠点である中部地域の自動車関連部品の生産額は 11 兆
円を超えており、九州のおよそ 20 倍の規模である。九州地域の自動車生産台数の全国シェ
アは1割を超えたものの、自動車部品生産については、まだ集積が進んでいないというこ
とがわかる。
図表2-10 九州地域の自動車関連部品の生産額推移
(億円)
8,000
その他の自動車部品(二輪自動車部品を含む)
シャシー部品、車体部品
7,000
6,000
駆動・伝導・操縦装置部品
5,000
自動車用内燃機関の部分品・取付具・附属品
3,936
3,2993,501
4,000
3,000
2,000
1,000
6,910
6,469
5,708
5,843
5,627
5,283
5,2285,250
4,904
4,813
4,701
4,852
4,546
4,410
懸架・制動装置部品
2,2262,0162,367
1,712
1,3031,387
1,015
1,008
0
1981 82
83
84
85 86 87
88
89
90
91
92 93 94
95
96
97
98
99
00 01 02
03
04 05年
資料)経済産業省「工業統計表」
九州域内に 809 の事業所が立地
自動車関連部品生産のシェアは低いものの、1990 年代後半から自動車生産台数が順調に
増えていることや生産規模が 100 万台に達したこともあり、関連部品メーカーの集積は進
んでいる。九州経済調査協会がまとめた「九州・山口の自動車関連部品工業等一覧 2007」
によると、九州地域には 809 の事業所が立地している。県別にみると、福岡県 301 事業所、
佐賀県 88 事業所、長崎県 21 事業所、熊本県 117 事業所、大分県 150 事業所、宮崎県 69 事
業所、鹿児島県 63 事業所となっている。自動車関連部品企業は、完成車組立工場の生産に
合わせて部品を納入しなければならないため、一般的に完成車組立工場の周辺に立地する
傾向が強い。したがって、九州では完成車組立工場の立地する福岡県、大分県に立地が集
中している。熊本県には完成車組立工場は立地していないが、本田技研工業向けの取引経
28
験があり、自動車関連部品産業の生産体制に対応可能な企業が多いため、事業所数が 100
を超えている。
相次ぐ関連部品メーカーの九州進出
自動車関連部品メーカーの九州への進出を時系列にまとめたものが図表2-11、図表2
-12 である。図表2-11 では近年の県別の進出状況をまとめているが、福岡県、大分県に
進出が集中しているが、2007 年は佐賀県、長崎県、熊本県への進出が急激に増えている。
図表2-12 は、年次別の進出・参入件数をまとめたものである。これによると、九州外
からの進出ブームは3回ある。日産自動車九州工場が立地協定を結んだ 1973 年から円高不
況が深刻化する 1985 年までの第1期、トヨタ自動車九州が立地協定を結んだ 1990 年を中
心としアジア通貨危機までの第2期(1986 年~1997 年)、ダイハツ九州が生産を開始する
2004 年を中心とする第3期(1998 年以降)である。年次ごとの進出件数をみると、最も進
出が多かった年は、2007 年の 49 件であり、以下、トヨタ自動車九州が生産を開始した 1992
年の 39 件、1990 年の 38 件、1991 年の 35 件が続いている。日産自動車が生産を開始した
翌々年の 1977 年の 23 件、ダイハツ九州が生産を開始した 2004 年も 25 件となっており、
完成車組立工場の稼動が自動車関連部品メーカー進出の契機となっていることは明らかで
ある。
図表2-11 進出・参入年次別九州地域の自動車関連部品事業所の立地状況(2007 年)
(単位:件)
2000
01
02
03
04
05
06
07年まで
の累計
07
福岡
6
5
8
7
13
11
14
19
206
佐賀
3
1
2
1
1
0
2
6
45
長崎
0
0
0
2
1
1
0
4
16
熊本
4
2
2
1
0
0
0
8
93
大分
4
2
5
1
8
6
6
10
105
宮崎
1
1
2
2
1
2
2
0
58
鹿児島
1
0
0
1
1
2
0
2
38
山口
1
1
0
1
0
0
0
2
76
九州7県
19
11
19
15
25
22
24
49
561
注)進出・参入年次が判明している企業を対象とした。
資料)九経調「九州・山口の自動車関連部品工場等一覧 2007」
29
図表2-12 九州地域への自動車関連部品企業進出件数推移
(件)
60
第2期
(1986~97年)
第1期
(~1985年)
第3期
(1998年~)
トヨタ自動車九州㈱
宮田工場 操業
(1992年)
50
日産自動車㈱
九州工場 操業
(1975年)
40
49
ダイハツ九州㈱
大分(中津)工場
操業(2004年)
39
38
35
30
25
23
22
20
17
20
8
10
1 1 1 1 1 0 2 1
4 3
5 5
67
69
13
12
11
5
4
1 2
6
4
19
15
13
11
10
8
19
18
16
24
5 5
9
11
7
3
3
5
0
~ 61
1959
63
65
71
73
75
77
79
81
83
85
87
89
91
93
95
97
99
01
03
05
07
注)進出・参入年次が判明している企業を対象とした。
資料)九経調「九州・山口の自動車関連部品工場等一覧 2007」
2)九州域内におけるカーエレクトロニクスの展開状況
機械制御、油圧制御から電子制御へ
自動車関連部品の多くは、もともと機械制御、油圧制御であったが、制御の精密さ、そ
して安全面や環境面での法規制の厳格化によりエレクトロニクス制御に移行している。こ
こで取り上げるカーエレクトロニクス関連部品とは、エレクトロニクス制御の部品を指す。
カーエレクトロニクス関連部品の拡大
自動車関連部品のエレクトロニクス化は急速に進んでおり、日産自動車「フーガ」を例
にとってみると、エンジンや変速機といったパワートレーン系から、ABS や ESC(横すべり
防止装置)などのブレーキ系、エアバッグやシートベルトプリテンショナーなどの安全系、
ライトやワイパー、その他通信、オーディオ、セキュリティ、シャシーに至るまで、およ
そ 50 個の ECU を搭載している。自動車の主要部品のほとんどが何らかの形で電子制御され
ていると言っても過言ではないだろう。ECU の搭載数は、様々な機能が付加された高級車に
なるほど多くなり、レクサスの最高級車種である LS460 の搭載する ECU の数は 100 個とも
言われている。今後も自動車には様々な機能が加わる予定であり、ECU とそれに附随するソ
フトウェアは増加傾向が続くとみられる。しかし、新たな機能の付加は、ECU が増えること
による車内空間の減少と、ソフトウェアの開発・検証作業の増大を意味する。機能性向上
とユーザーの快適性向上の両立しなければならない完成車メーカーにとって、機能付加は
負担増となる。先述したように、完成車メーカー各社は、ECU の統合と基盤ソフトの標準化
を推進している。
30
図表2-13 日産自動車「フーガ」が ECU を搭載している部品
日産自動車「フーガ」が
搭載する主なECU
●通信
・カー・ナビゲーション・システム
・テレマティクス
・車載LAN
フーガの場合、約50個の
ECUを搭載している
●オーディオ・ビデオ
・AM/FMラジオ
・CD/MDシステム
・テレビ
●ブレーキ
・ABS
・TCS
・ESC
・ブースター
●パワートレーン
・ディーゼルエンジン
・ガソリンエンジン
・自動変速機、無段変速機
●ライトなど
・オートワイパー ・オートライト
・ソナー(超音波)システム
・室内灯
●セキュリティ
・盗難防止システム
・カード・エントリー・システム
・イモビライザー
●安全・快適
・エアバッグ
・シフトロック
・シートベルトプリテンショナー
・ヘッドアップディスプレイ
●シャシー
・油圧アクティブサスペンション
・4輪操舵
・4輪駆動
資料)日経BP社「日経 Automotive Technology」2007 年 11 月号
域内調達部品は車体部品が中心
九州に立地する完成車メーカー3社の九州域内での部品調達率は押しなべて 50%前後と
いう状況である。
トヨタ自動車九州の域内部品調達率は、苅田工場でエンジン生産を開始したことで 60%
近くまで引き上げられている。車体プレス部品や化成品、機械加工部品が中心となってい
る。クルーガーを例に域内調達されている部品をみると、エンジン系部品ではエキゾース
トパイプ、エアクリーナー、懸架・操舵系部品ではステアリングホイール、ブレーキチュ
ーブ、電装品・電気部品ではヘッドランプ、ターンシグナルランプ、リヤコンビネーショ
ンランプ、リヤワイパー、ヒーターコントロールユニット、クーラーユニット、A/C コンプ
レッサ、エアバッグなどがある。一方の車体部品については、フロアパネル、ダッシュパ
ネル、シートベルト等の一部を除き大半が域内調達となっている。
日産自動車九州工場における域内調達率は、50%前後であり、残り 40%が国内、10%が
海外となっている。部品調達はトヨタ自動車九州と同様に、高機能部品の多くが日産自動
車本体、関東地区のサプライヤーからの調達となっている。九州域内の調達先の多くが九
州工場から半径 50km 圏内に立地しており、その数は 34 社 36 事業所にのぼる。取扱い部品
は、ホイール、ブラケット、アウターミラー、ステアリングメンバー、ワイヤーハーネス、
ドアトリム、パネル部品、シートなど、複雑な形状の部品や大型の車体部品が中心となっ
ている。
31
図表2-14 自動車関連部品の域内調達状況(黒枠で囲まれたものが域内調達)
~トヨタ・クルーガーを例に(一部)~
資料)トヨタ自動車九州ヒアリングより作成
電装系メーカー立地状況と生産品目
電子部品を多く搭載する電装機器を手がける関連部品メーカーは九州にも立地している
ものの、九州にある事業所の生産品目をみると、電子部品組立工程を必要としない製品が
大部分を占めている状態である。
図表2-15 は九州に立地する主な電装品メーカーをまとめたものである。カーエアコン
製造のデンソー、エアバッグシステムを手がけるタカタ、パワーシートのアイシン九州を
はじめとする自動車関連部品メーカーのほか、カーナビゲーションシステムを手がけるパ
ナソニックコミュニケーションズやカーオーディオの新生電子といった電機メーカー、ECU
を手がける京セラ、UMC エレクトロニクスといった半導体関連メーカーが名を連ねている。
九州内での生産品目は限定的
九州内で電装品を手がける企業は存在するものの、その数は中部地域や関東地域に比べ
ると少なく、その生産品目も限定されているというのが現状である。
トヨタ自動車の1次サプライヤーであるデンソーとアイシン精機を例にとって、トヨタ
自動車九州への部品納入状況を示したものが図表2-16 である。デンソーが手がける部品
は、エンジン系部品、車体電装品を中心に幅広いが、九州内の事業所から調達されている
部品は、カーエアコンとカーヒーター、ラジエーター、クーリングファン、フューエルフ
ィルター、フューエルポンプなど品目が限られている。エンジン系部品や車体電装品のほ
とんどは、九州外からの調達となっている。カーエレクトロニクス関連部品であるセンサ
ーやスターター、オルタネーター、各種プラグ、キーレスエントリーシステム、ミリ波レ
ーダー、メーター、ナビゲーションシステムなどは本社のある中部地区からの調達となっ
ている。アイシン精機は、エンジン系部品の一部と外装品は九州内からの調達となってい
るが、エンジン吸・排気系部品や潤滑・冷却部品は中部地区からの調達となっている。
九州域内に自動車関連部品メーカーの集積が進んできたとはいえ、現状ではカーエレク
トロニクス関連部品の最終組立ラインがなく、九州外からの調達となっている。電子部品
32
を組み込む製造ラインというのは、精密な作業が求められるため、大規模投資を行って生
産設備を整えなければならない。そのうえ、技術レベルも先端分野であるため、組立ライ
ンは開発機能が置かれる本社工場の近くに置かれることが多い。構成部品となる電子部品
は小さくて軽量、単価は高いということもあり、遠方からの調達は大きな問題とならない
のである。
図表2-15 九州に立地する電装品メーカー
資料)九経調作成
33
図表2-16 トヨタ自動車九州のデンソー、アイシン精機グループからの調達状況
種類
九州内 エンジン動弁系部品
エンジン燃料系部品
エンジン潤滑・冷却部品
デンソー
アイシン精機
タイミングベルト(チェーン)・カバー【アイシン九州】
フューエルフィルター【デンソー北九州製作所】
フューエルポンプ【デンソー北九州製作所】
※2008年より開始
ラジエーター【デンソー北九州製作所】
クーリングファン【デンソー北九州製作所】
外装品
内装品
用品
カーエアコン【デンソー北九州製作所】
カーヒーター【デンソー北九州製作所】
九州外 エンジン本体部品
エンジン動弁系部品
エンジン燃料系部品
エンジン吸・排気系部品
ピストン
シリンダーヘッド・カバー
ドライブプレート
リングギア
可変バルブタイミングユニット
インジェクター
スロットルボディ
プレッシャーレギュレーター
キャニスター
インタークーラー
EGRバルブ
O2センサ
触媒担体
インテークマニホールド
エンジン潤滑・冷却部品
エンジン電装品
オイルポンプ
ウォーターポンプ
イグニッションコイル
ディストリビューター
イグナイター
スパークプラグ
スターター
オルタネーター
外装品
ドアハンドル
ドアヒンジ
サイドドアロック
バックドアロック
ウインドレギュレター
シートトラック
シートリクライナ
内装品
車体電装品
用品
オイルパン【アイシン九州】
オイルポンプカバー【アイシン九州】
リヤ・ルーフスポイラー【アイシン九州】
サンルーフ【アイシン九州】
ルーフレール【アイシン九州】
クロスレール【アイシン九州】
ドアハンドル【アイシン九州】
サイドドアロック【アイシン九州】
バックドアロック【アイシン九州】
バックドアオートクロージャー【アイシン九州】
ドアフレーム【アイシン九州】
センターピラー【アイシン九州】
シートトラック
シートトラック【アイシン九州】
キーレスエントリーシステム
バック&コーナセンサ
車間距離警報・ミリ波レーダー
フラッシャー
ホーン
メーター
パワーリレー
ナビゲーションシステム
資料)フォーイン「九州の自動車産業の実態 2006 年版」
、企業ヒアリングから作成
九州域内で調達して、関東・中部地域に販売
九州域内に電装系部品の組立工程がないというのが、アンケート結果からもみてとれる。
アンケートにおいて、カーエレクトロニクスへの取り組みの有無について尋ねたところ、
カーエレクトロニクス関連事業に取り組んでいる企業の多くは、九州外で事業展開してい
るという状況が明らかになった。
カーエレクトロニクス事業を展開している企業の部品調達先は、九州・沖縄地域、関東
地域の順に多くなっている。製品の販売先は、関東、中部地域が高くなっており、ついで
九州・沖縄地域となっている。九州域内でカーエレクトロニクス関連部品の構成部品は九
34
州域内で調達可能であるが、主な販売先は関東、中部地方の方が多いという状況が明らか
になった。
図表2-17 調達先地域
(%) 0.0
北海道・東北
10.0
欧州
その他
60.0
70.0
80.0
8.5
7.1
7.8
6.0
3.0
2.2
全体
13.0
17.0
九州・沖縄
アジア
50.0
3.7
2.2
近畿
北米
40.0
12.2
8.8
中部
中国・四国
30.0
2.2
0.5
関東
北陸
20.0
九州
複数回答
全体 N=270
九州 N=182
3.0
1.6
5.6
2.7
1.1
0.5
2.2
1.6
71.9
74.2
無回答
資料)九経調「次世代のカーエレクトロニクス産業に関するアンケート調査」
図表2-18 販売先地域
(%) 0.0
北海道・東北
10.0
4.9
12.1
11.5
8.8
8.1
欧州
その他
60.0
70.0
17.0
全体
15.2
16.5
九州・沖縄
アジア
50.0
2.6
1.6
近畿
北米
40.0
17.0
10.4
中部
中国・四国
30.0
3.3
1.1
関東
北陸
20.0
九州
7.4
4.9
8.1
5.5
4.8
2.2
2.2
1.1
複数回答
全体 N=270
九州 N=182
63.7
65.4
無回答
資料)九経調「次世代のカーエレクトロニクス産業に関するアンケート調査」
35
第3節
九州の半導体産業のカーエレクトロニクスへの展開
1)九州の半導体産業の特徴
850 社以上の半導体企業の集積と一貫生産拠点としての強み
1967 年に三菱電機(三菱電機パワーデバイス製作所熊本工場・ルネサステクノロジ熊本
事務所:熊本県合志市)が九州で初めて工場を設立して以来、次々と半導体企業が九州へ
進出している。1990 年頃には事業所を含めると 200 社まで増加したが、近年はさらにシリ
コンアイランドとしての集積が進み、2000 年でおよそ 400 社、2005 年でおよそ 650 社とな
っている。2007 年にはおよそ 850 社以上が九州で事業展開をしているとみられる。
九州には、半導体設計・システム設計から半導体デバイス製造までの各工程に関わる企
業がバランスよく立地しており、幅の広い産業群を形成している(図表2-19)。同時に、
半導体サポーティング産業として、半導体関連装置メーカー、半導体関連設備メーカー、
半導体関連商社、その他半導体関連産業(電子電気機器製造やプリント基板製造メーカー
等)の集積も進んでおり、サポーティング産業まで一貫立地している。近年では、半導体
技術を応用した FPD 関連産業も育ってきており、シリコンアイランドとしての厚みを増し
ており、半導体関連産業の一大拠点として九州のポテンシャルは高い。
図表2-19 九州の半導体企業の構造
半導体設計・システム設計
132事業所
電気電子機器設計
76事業所
設計ツール
16事業所
半導体設計
68事業所
その他半導体関連産業
132事業所
電気電子機器製造
93事業所
プリント基板製造
44事業所
半導体デバイス製造
99事業所
デフ
ィ ラ
スッ
プト
レパ
イネ
製ル
造
半導体デバイス
(後工程テスト)
51事業所
半導体デバイス
(後工程パッケージ)
56事業所
半導体関連商社
122事業所
半導体関連部品・材料
19
事業
所
半導体デバイス
(前工程)
17事業所
403事業所
金型・リードフレーム
98事業所
シリコンウェハ
11事業所
化学薬品・化学処理
53事業所
その他部品材料
262事業所
半
導
体
関
連
設
備
教育・研究機関
10事業所
半導体関連装置
264事業所
検査装置(組立)
130事業所
検査装置(ベンダー)
25事業所
製造装置(組立)
130事業所
製造装置(ベンダー)
94事業所
69
注)複数の業種にまたがる企業はダブルカウントしている。
資料)アジア半導体機構・九州経済調査協会「MAP&RTS2007 九州とアジアの半導体実装関連企業データベ
ース」より作成
36
2)九州内半導体企業のカーエレクトロニクス産業への参入
カーエレ事業を行っている九州内主要半導体企業
九州における半導体関連企業でカーエレクトロニクス関連の事業に携わっている主要企
業を前工程、後工程、設計、車載ソフトウェアの工程・業種別に図表2-20 にまとめた。
車載用半導体には高い品質と信頼性が求められる場合が多く、参入している企業は大手半
導体企業の事業所や高度な技術を持つ地場企業が多い。
図表2-20 カーエレクトロニクス産業に取り組んでいる半導体関連企業
工程・業種
車載LSI
(前工程)
事業所名
九州日本電気
所在地
熊本市
ルネサステクノロジ熊本工
合志市
場
三菱電機パワーデバイス
製作所熊本工場
合志市
東芝セミコンダクター社北
北九州市
九州工場
宮崎沖電気
車載LSI
(後工程)
豊田合成 オプトE事業部
九州事業所
旭化成マイクロシステム
ローム・アポロデバイス
NECセミコンパッケージソ
リューションズ熊本工場
NECセミコンパッケージソ
リューションズ大分工場
ルネサス九州セミコンダク
タ
富士通インテグレーティッ
ドマイクロテクノロジ
佐賀エレクトロニックス 佐
賀製作所
吉川セミコンダクタ
仲谷マイクロデバイス新本
社工場
アルデート
三菱電機パワーデバイス
製作所福岡工場
サンエー福岡工場
車載LSI
設計
車載ソフト
製品
分類
エンジン・パワートレイ
マイコン(パワートレイン系)、モーター電源制御用パワーIC、車内通信
ン制御、車外/車内通
向けLSI(CAN&LIN)、ドライブアシスト動画像認識用システムLSI
信、シャシ・走行制御
エンジン・パワートレイ
エンジンコントロール向けマイコン、ABSコントロールLSI、エアバックコン
ン制御、ブレーキ制
トロールLSI
御、安全性/快適性
エンジン・パワートレイ
HV車向け省エネ型パワーデバイス
ン制御
シャシ・走行制御、ブ
走行制御アナログIC、タイヤ圧検出IC、ブレーキ制御アナログIC、ABS
レーキ制御、安全性/
制御アナログIC、エアバック制御アナログIC、車載エアコン向けアナログ
快適性、視界/ライト
LSI、インパネ用高輝度LED、テールランプ向けLED
制御
CANコントローラー、インパネ用カーナビ用ディスプレイドライバIC、TFT 車外/車内通信、AVシ
宮崎県清武町 ドライバIC/音声合成IC、VFDドライバIC/有機ELドライバIC、三軸加速度 ステム、シャシ・走行
センサー
制御
延岡市
筑後市
インパネ向け高輝度LED、ハイマウントストップランプ・テールランプ向け
視界/ライト制御
LED
車載AV向けLSI、カーナビ向けLSI
AVシステム
モーター制御用LSI
シャシ・走行制御
熊本県錦町
車載LSIパッケージ・テスト
佐賀県武雄市
大分県中津市 車載LSIパッケージ・テスト
熊本県大津町 車載LSIパッケージ・テスト
薩摩川内市
車載LSIパッケージ・テスト、複合パッケージ
神崎郡吉野ヶ
車載LSIパッケージ・テスト
里町
宮崎県児湯郡 車載LSIパッケージ・テスト、アッセンブリ
安全性/快適性
大分県臼杵市 車載LSIパッケージ・テスト(ロジック系FBGA,TQFP等)
福岡市
車載LSIテスト(エアバック・ブレーキシステムLSI)
福岡市
パワーモジュール製造
福岡県二丈町 HV車向けIPM(インテリジェントパワーモジュール)
ITセミコン福岡チップセン
ター
福岡市
NECマイクロシステム
熊本県益城町 車内通信向けLSI(CAN/LIN)、衝突回避システムLSI
日出ハイテック
大分県日出町 エアバック向けLSI、ブレーキシステムLSI
イーエヌジー
北九州市
画像認識用COMSイメージセンサー
バイテックシステムエンジ
ニアリング北九州事務所
北九州市
車載用半導体の研究開発
沖マイクロデザイン
宮崎県清武町 センサーコントローラー
デンソーテクノ
福岡市
車載用ソフト開発
キャッツ
リンクウェア
福岡市
鹿児島市
車載用組み込みソフト開発
車載用組み込みソフト開発
パワーモジュール
資料)九経調作成
37
エンジン・パワートレイ
ン制御
エンジン・パワートレイ
ン制御
エンジン・パワートレイ
ン制御
車外/車内通信、安全
性/快適性
安全性/快適性、ブ
レーキ制御
安全性/快適性、走行
制御
安全性/快適性、走行
制御
安全性/快適性、走行
制御
走行制御
図表2-21 カーエレクトロニクス産業に取り組んでいる半導体関連企業(地図)
資料)九経調作成
38
主要半導体 IDM のカーエレ事業と地場企業の参入可能性(ケーススタディ)
九州には設計から製造、製品化までを一貫して行う IDM があり、近年車載 LSI の生産に注
力する傾向にある。このような企業が中小の地場企業に与える影響力は大きく、中小の地場
企業がカーエレクトロニクスに参入するきっかけとなる場合が多い。よって、主要 IDM のカ
ーエレ事業概要と地場企業のカーエレ参入可能性などについてケーススタディする。
ケーススタディ①:大手 IDM・九州日本電気(熊本県)
●カーエレクトロニクスに関わる事業
マイコン、パワーデバイス、カーナビ用の車載用 LSI を製造しており、全生産量のおよ
そ 35%を占めている。車載用マイコンは、エンジン制御、ブレーキ制御、パワステ制御、
パワーウィンドウ制御、ワイパー制御などに用いられている。車載用パワーデバイスに関
しては、ハイブリッドカーや電動自動車のスイッチング装置を製造している。カーナビ用
LSI としては主にグラフィック処理関係 LSI を製造していて、カーナビメーカーや自動車電
装品メーカーに納入している。
●地場企業参入の可能性
人命に関わるマイコンとパワーデバイスについては品質に対する要求は非常に厳しい。
信頼性確保の問題もあり、このような車載用半導体については IDM 中心で進められている
ため、地場のファウンドリ(半導体受託製造企業)やサブコン(半導体パッケージの設計・
製造・テストなどの受託サービスを行う企業)が参入するのは難しいと思われる。
ただし、自動車電装部品メーカーの研究開発拠点が九州に進出すれば、地元の半導体設
計企業が活用される可能性がある。また、パッケージ技術や自動車走行システムのセンサ
ー等で独自技術を持つ企業であればカーエレ参入の余地はある。
ケーススタディ②:大手 IDM・東芝北九州工場(福岡県)
●カーエレクトロニクスに関わる事業
アナログデバイスとオプトデバイスの主力製造拠点であり、車載向けは、アナログ系で
およそ4割、オプト系でおよそ6割を占めいている。パワステ制御、ブレーキ制御、エア
バック制御、タイヤ圧制御用の IC やキーレスエントリー向け IC、テールランプやインパネ
向け高輝度 LED 等を製造している。車載向け LSI の比率はここ数年上昇傾向にあり、今後
も上昇が予想される。
●車載用半導体に求められる品質レベル
車載用半導体は車載独自の設計ノウハウや配慮が必要であり、同じ機能を果たすデバイ
スでも車載専用設計となる。高信頼性については、不良品率の水準が一桁上がる。通常は
2桁 ppm(parts per million:100 万分の1のうちいくらかを示す指標)なのが、車載向
39
けであれば1ppm で、
100 万個に対して不良品は1個までしか許されないという水準になる。
ケーススタディ③:半導体デバイスメーカー・吉川セミコンダクタ(宮崎県)
デンソーが車載用半導体のファウンドリとして宮崎沖電気を使っており、同社は宮
崎沖電気から委託を受けて、シリコン加工以降の工程である組立やテストを開始した。
車載用半導体専用製造ラインを設けるといったような新たな設備投資は行っていな
いが、車載用半導体は対応すべき温度の範囲が広いなどの条件があるので、これに対
しては特別に対応している。半導体産業における車載用半導体のシェアは今後増加す
ることが見込まれており、車載用半導体に求められる品質保証や技術レベルの向上に
キャッチアップしていくことで、他の汎用製品にも競争力をつけられるとの考え方で
取り組んでいる。
3)九州における半導体産業のカーエレクトロニクスへの展開状況
九州では、安全、環境(省エネ)、ITS をキーワードとした車載 LSI の生産が盛んである。
九州日本電気(マイコン)や東芝北九州工場(パワーデバイス、アナログデバイス、LED)、
三菱電機熊本製作所(パワーデバイス)、ルネサス九州セミコンダクタ(パッケージ)など
である。特に、九州日本電気と東芝北九州工場では、車載 LSI 比率が生産額の過半数に達
する勢いであり、今後とも車載デバイス比率の向上が目指されている。
その一方で、車載 LSI を組み込んだシステム(電装機器、モジュール)を製造するメー
カーの立地が少ない。三菱電機福岡製作所(パワーモジュール)、京セラ(ECU:電子制御
ユニット)、デンソー北九州工場(カーエアコン)などが立地する程度であり、現在注目さ
れている ITS 関連(ETC、カーナビ等を含む)や運転支援システム等の次世代型の電装機器
を製造するメーカーは非常に少ないという実態がある。
また、車載 LSI の開発現場も九州にはないケースが多く、製造に特化している状況にあ
る。ただし、車載 LSI に求められる高品質・高信頼性の根幹をなす製造技術・品質管理技
術の蓄積は高く、アジア諸国との間に大きなアドバンテージを有している。
40
第4節
自動車産業と半導体産業の九州における融合状況
1)九州の半導体企業からみた九州の自動車企業との関わり
進まぬ九州内での両産業の融合
九州の半導体企業からみた自動車企業との関わりについて、カーエレクトロニクス
関連製品および部品の調達先と販売先の業種から両産業の九州内における融合(連携)
状況をみる。九州の半導体企業の調達先をみると、九州内の自動車メーカー、自動車
電装品メーカーと取引している企業は0%、自動車部品メーカーでは 2.1%となってお
り、九州内の自動車産業との結びつきはほとんどみられない(図表2-22)。販売先の
業種についても同様な傾向がある(図表2-23)。九州の半導体企業の取引構造を、九
州内外という地域軸と半導体と自動車企業という業種軸の2軸で示すと、図表2-24
における左下部分の九州内の自動車産業との結びつきが疎になっており、九州内での
半導体と自動車企業との結びつきが弱いことが確認できる。
図表2-22 九州の半導体企業の調達先業種
(%) 0.0
半導体デバイスメーカー
半導体関連メーカー
自動車メーカー
自動車電装品メーカー
自動車部品メーカー
電機メーカー
ソフトウェアメーカー
その他
10.0
20.0
30.0
40.0
50.0
60.0
70.0
80.0
90.0
8.5
6.4
10.6
6.4
0.0
2.1
0.0
2.1
2.1
6.4
8.5
10.6
0.0
0.0
0.0
4.3
図表2-23 九州の半導体企業の販売先業種
(%) 0.0
半導体関連メーカー
自動車メーカー
自動車電装品メーカー
九州内調達
九州外調達
自動車部品メーカー
電機メーカー
複数回答
N=47
ソフトウェアメーカー
その他
83.0
83.0
無回答
10.0
20.0
30.0
40.0
50.0
60.0
70.0
6.4
4.3
6.4
2.1
8.5
2.1
4.3
0.0
0.0
0.0
2.1
九州内販売
九州外販売
複数回答
N=47
無回答
九州の半導体企業の取引相関図
注)図表2-22、23 をもとに作成。単位は%
41
90.0
0.0
資料)九経調「次世代のカーエレクトロニクス産業に関するアンケート調査」
図表2-24
80.0
12.8
10.6
10.6
8.5
半導体デバイスメーカー
80.9
76.6
自動車企業と連携できないでいる大手半導体企業の営業・生産拠点
九州には大手半導体企業の営業所や事業所が多く立地している。そういった企業は
独自で要素技術を研究開発する力が弱かったり、自社で営業をかけるだけの人材が確
保できていなかったりする場合が多い。カーエレクトロニクスに参入しようとしても、
自社で電装品メーカーや部品メーカーと取引することは困難になっており、カーエレ
クトロニクス関連の仕事は本社経由で行っている。九州の域内のみで、自動車産業と
連携してカーエレクトロニクス産業を育成していくのは難しいのが現状である。
ケーススタディ①:半導体製造装置メーカー(熊本県)
カーエレクトロニクスに対しては、本社に専門の担当部署があり、車載用半導体に関す
る研究開発や受注の話がきても、事業所単体で扱うことはなく、本社の該当部署に回して
いる。カーエレクトロニクスは地元が受けられる部分と受けられない部分がある。自分た
ちができることは何かよく考える必要がある。要素技術は元請けが開発したもので生産現
場では変更はできない。一方、生産技術については九州でも様々な工夫や変更は可能であ
る。そういった意味で、大手から直接というのは無理なので、一次下請けの半導体企業あ
たりとの取引が中心になるのではないか。
自動車部品メーカーの九州内での展開が鍵
自動車の電装部品の組み立てや研究開発は、関東や東海地域で行われており、九州
には電装部品の組み立てや研究開発に携わっている企業がほとんどない。近くに自動
車電装部品メーカーがないため、九州の半導体企業が自動車電装部品メーカーと組ん
でカーエレクトロニクス分野に参入するには厳しい環境にある。
ケーススタディ②:半導体設計企業・バイテックシステムエンジニアリング(福岡県)
自動車組み立てメーカーへの納品は、自動車に組み込めるような形をとってモジュール
単位、あるいはユニット単位で納品される。したがって、半導体企業が直接、自動車組み
立てメーカーに納品する形態ではなく、デンソーやアイシンのような主要自動車部品メー
カーに納品し、パーツとして組み立てられた後に自動車組み立てメーカーに納品される。
したがって、九州に主要な自動車部品メーカーが進出してきてくれれば、九州の半導体
企業がカーエレクトロニクスに参入しやすい環境になる。また、九州には自動車組み立て
工場が多く立地しているので、組み立てに用いられるパーツの信頼性を評価するような企
業が九州に生まれることも期待できる。
42
2)九州の自動車企業からみた九州の半導体企業との関わり
半導体産業との結びつきの弱さ
アンケートに回答した九州内の自動車メーカー、自動車部品メーカー、自動車電装品メ
ーカーのカーエレクトロニクス製品における調達先と販売先の業種をまとめた。対象の回
答企業のうちおよそ 15%が九州内外の自動車企業と調達や販売で取引がある一方で、半導
体企業との取引は九州内外問わず少ない(図表2-25、26)。図表2-27 の上半分が示す九
州内外の半導体企業との取引が疎になっていることからも、九州内の自動車企業は半導体
企業との結びつきが脆弱であることが確認できる。
図表2-25 九州の自動車企業の調達先業種
(%) 0.0
半導体デバイスメーカー
半導体関連メーカー
自動車メーカー
10.0
その他
無回答
40.0
50.0
60.0
70.0
80.0
(%) 0.0
90.0
半導体デバイスメーカー
半導体関連メーカー
16.7
14.6
16.7
14.6
自動車部品メーカー
ソフトウェアメーカー
30.0
10.4
6.3
自動車電装品メーカー
電機メーカー
20.0
4.2
4.2
4.2
2.1
図表2-26 九州の自動車企業の販売先業種
4.2
2.1
2.1
0.0
4.2
2.1
自動車メーカー
10.0
12.5
12.5
16.7
18.8
自動車部品メーカー
電機メーカー
複数回答
N=48
ソフトウェアメーカー
その他
70.8
30.0
40.0
50.0
60.0
4.2
2.1
2.1
0.0
0.0
0.0
九州内
九州域外
資料)九経調「次世代のカーエレクトロニクス産業に関するアンケート調査」
図表2-27 九州の自動車企業の取引相関図
注)図表2-25、26 をもとに作成。単位は%
43
80.0
複数回答
N=48
無回答
77.1
70.0
8.3
6.3
自動車電装品メーカー
九州内
九州外
20.0
2.1
0.0
2.1
2.1
75.0
75.0
3)自動車産業と半導体産業の融合について
カーエレクトロニクス関連部品は九州外からの調達
ここで、九州域内における自動車産業と半導体産業の融合状況について改めて振り返っ
てみる。
完成車メーカーが九州域内から調達している自動車関連部品の多くは、エアコン、ラジ
エーター、バンパー、フレーム、シート、パネルといった大型、もしくは重量部品という
ことが明らかとなった。こうした大型・重量部品は、カーエレクトロニクス関連部品とは
直接関係ない部品が多い。一方、小型で軽量、かつ単価の高いカーエレクトロニクス関連
部品については、部品価格に占める物流コストの割合が高くないこともあり、大部分は九
州外からの調達となっている。
域内で途切れる高機能部品の商流・物流
完成車組立工場を最終地点とする自動車関連部品の流れを中部地域と九州地域で比較し
たものが図表2-28 である。中部地域は、完成車組立工場を中心として周辺地域に1次サ
プライヤー、2次・3次サプライヤーが集積している。したがって、自動車の構成部品の
大半は域内からの調達が可能となっている。半導体やセンサーといった電子部品について
は、一部域外から調達されるが、物流コストはわずかであり問題ではない。
九州地域は、中部や関東から輸送するのにコストがかかる大型かつ重量のある車体部品
を中心に域内の調達が進んでいる。しかし、エンジン系、パワートレイン系、懸架・操舵
系、電装系部品の多くは、単価が高い上に比較的小型で大量輸送できるものが多く、物流
コストがかからないので、九州域外から調達する傾向が強い。半導体や電子部品に関して
は、こうした九州域外から調達される部品に多く組み込まれている。したがって、九州で
手がけられた半導体や電子部品は、一度中部や関東地域に運ばれて最終製品に組み込まれ、
再び九州の完成車組立工場に納入されるというルートが現在の主流となっている。
域内での直接取引が少ない=融合は進んでいない
電装品やエンジン系、パワートレイン系、懸架・操舵系部品の組立ラインが九州内にほ
とんど立地していないことから、域内での商流・物流が途切れた状況になっている。先に
自動車産業と半導体産業の融合について示したが、九州域内において関連部品メーカーと
半導体関連メーカーとの間の取引はそれほど多くないという状況から、両産業の融合はそ
れほど進んでいないとみることができる。
44
45
2次・3次
サプライヤー
1次サプライヤー
完成車メーカー
関連部品
メーカー
(加工)
関連部品
メーカー
関連部品
メーカー
関連部品
メーカー
完成車組立工場
地域内で関連
部品の商流が
成立している
関連部品
メーカー
関連部品
メーカー
電装品
メーカー
中 部 地 域
中 部
九 州
<凡 例>
半導体関連
メーカー
関連部品
メーカー
完成車組立工場
関連部品
メーカー
(加工)
関連部品
メーカー
関連部品
メーカー
九 州 地 域
図表2-28 中部地域と九州地域の自動車関連部品の流れ
電装品、エンジン
系・懸架・操舵系
部品は九州域内
での商流が途切
れている
企画、開発、組立工程が九州域外に
エンジン系、パワートレイン系、懸架・操舵系、電装系部品の生産拠点が完成車メーカ
ーや自動車関連部品メーカーの本社地域に立地する傾向が強いことは先にも触れた。一連
の部品に使われる技術は最先端のものが多く、生産と同時並行で研究開発、検証を進めて
改良を重ねる必要性が高いことが背景にあると思われる。ここでは、企画から開発、設計、
製造に至る段階毎に企業の関わり方と地域の関わり方についてみる。
カーエレクトロニクス関連部品の企画段階では、完成車メーカー、関連部品メーカー、
半導体関連メーカー(その他家電メーカー、オーディオメーカーなど)がそれぞれ参加し
て、完成車メーカーの考える部品の機能、イメージを基に話し合う。開発段階に入ると、
完成車メーカーが内製する部品を除いて、関連部品メーカーが中心となって作業をすすめ
る。組み込まれる電子部品を手がける半導体関連メーカーは、頻繁に関連部品メーカーの
担当者と打ち合わせを行いながら研究開発を行うが、製品の仕様によっては関連部品メー
カーにゲストエンジニア(自動車の開発段階で自動車部品メーカーから完成車メーカーの
開発部隊に出向するエンジニア)を派遣して研究開発を行うケースもある。開発を開始す
るのは実際の生産の4~6年前である。したがって、技術力だけでなくその間の研究開発
を維持できるだけの体力も企業には求められる。
製品の設計段階に入ると、半導体関連メーカーが中心となった作業となるが、完成車メ
ーカー、関連部品メーカーとは定期的に仕様についての打ち合わせを行う。製造段階でも
同様に半導体関連メーカー主体の作業となる。高品質の維持と不良率の抑制が同時に求め
られる工程であり、高い生産技術が求められる。半導体関連メーカーが手がけた製品は、
関連部品メーカーに納入され、部品に組み込まれる。その部品は完成車組立工場に納入さ
れ、完成車に組み込まれる。
地域の関わりについてみると、企画、開発段階は、完成車メーカー、関連部品メーカー、
半導体関連メーカーともに本社地区の研究開発部隊が中心になるので、九州地域にある製
造拠点が関わるケースは限定的である。半導体関連メーカーの中には、九州に設計機能を
持つところも多く、設計段階に入ると九州域内での作業も発生する。そして、製造段階で
も九州の製造拠点で手がけられる製品が多い。しかし、自動車関連部品の製造段階をみる
と、エンジン系、パワートレイン系、懸架・操舵系、電装系部品といった高機能部品の製
造拠点が九州域内にほとんど立地していないため、工程が九州域外に出てしまう。その後、
完成車を組み立てる段階で再び九州の完成車組立工場に送られてくることとなる。
研究開発機能と電装品生産拠点の欠如=両産業の融合は進んでいない
企画から生産までの工程別にみて、九州地域に自動車産業における企画、研究開発機能
がないこと、そして電装品組立(半導体、電子部品組み込み)の拠点がないことからも、
自動車産業と半導体産業の九州域内での融合は一部分でしか進んでいないと言える。
46
47
加工
材料
装置
製造
開発
・プレス
・射出成形
・治具・金型
・各種設備 等
九州地域
・完成車
・エンジン
・エアコン
・車体部品 等
九州へ
・企画
・開発
・設計
・設計
・開発
・製造装置
・耐熱・放熱材料
・先端材料
・軽量材料
九州地域
・企画
・開発
・設計
半導体産業
・MEMSテスト
・高信頼性テスト
・MEMS実装
・高密度実装
・サポーティング産業
・熱処理、めっき
・高信頼性素材
関東・中部へ
本社同士のやり取り
自動車産業と半導体産業の現状
九州域内
・各種電装機器
・情報通信機器
・エンジン制御
・ブレーキ制御
・各種ライト
・スタータ
等
自動車産業
図表2-29
48
第Ⅲ章
カーエレクトロニクス製品の開発実態
第 1 節 九州におけるカーエレクトロニクス製品開発状況
安全性/快適性に関わる事業分野に大きな関心
現在取り組んでいるカーエレクトロニクス事業分野は、
「車外/車内通信」や「エンジン・
パワートレイン制御」が若干高いもの、どの分野も総じて 10%前後となっている(図表3
-1)。将来、注目される分野で顕著なのは「安全性/快適性」が 27.0%と群を抜いて高い
注目をあびており、今後「安全性/快適性」に関わる製品開発が進むと思われる。
図表3-1 カーエレクトロニクス事業分野の現状と将来
( %)
0.0
10.0
20.0
13.0
車 外/車内通信
AVシステム
8.5
10.4
ブレ ーキ制御
8.9
10.4
盗 難防止装置/施開錠
7.4
10.4
その 他
50.0
60.0
70.0
18.5
12.2
17.4
シ ャシ・走行制御
視 界/ライト制御
40.0
10.7
11.5
エ ンジン・パワートレイン制御
安 全性/快適性
30.0
10.0
7.0
事業分野
注目分野
複 数回答
N=270
27.0
11.5
9.6
6.3
無回 答
45.6
61.9
資料)九経調「次世代のカーエレクトロニクス産業に関するアンケート調査」
機械駆動から電動への変化に注目
次世代のカーエレクトロニクス製品で最も関心が高かった製品は、
「電気自動車関連シス
テム」で 24.8%が回答した(図表3-2)。自動車部品において、機械式で駆動していた部
分が電動へと変わる部分というのは、最も変化が大きな分野である、この大きな変化をビ
ジネスチャンスとすべく、電気自動車関連システムに注目が集まっていると思われる。
49
図表3-2 関心がある次世代カーエレクトロニクス製品
(% )
0.0
5.0
10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 45.0 50.0
24.8
電気自動車関連システム
20.4
車 載センサ
次 世代車内LAN
15.9
自動 走行支援システム
15.6
13.7
カー ナビゲーションシステム
13.0
車 車間通信システム
10.7
ITS(高度道路交通システム)
10.0
路 車間通信システム
7.8
車内エンターテイメント
7.0
プリ クラッシュセーフティシステム
5.6
エッ クス-バイ-ワイヤ
その 他
複 数回答
N=270
2.6
46.7
無回 答
資料)九経調「次世代のカーエレクトロニクス産業に関するアンケート調査」
カーエレに関する研究開発体制を自社で持っている企業は 10%程度
自社でカーエレクトロニクスに関する研究開発体制を持つ企業は有効回答企業のうち
13.0%にとどまっている(図表3-3)。要因としては、九州には本社の事業所や支店が多
いため自社で研究開発拠点を持っていないことが考えられる。一方、自社で研究開発体制
を持つ企業は、研究開発体制を拡大予定とする企業が過半数を超えていることから、今後
は研究開発体制が強化されていく傾向にある。
図表3-3
研究開発体制の有無
図表3-4 研究開発体制の見通し
わから
縮小 ない
予定 8.6
0.0
無回答
7.0
はい
13.0%
無回答
5.7
現状
維持
34.3
いいえ
80.0
N=270
N=35
資料)九経調「次世代のカーエレクトロニクス産業に関するアンケート調査」
50
拡大
予定
51.4%
高品質レベルに対するための生産技術や高信頼性技術の必要性
現在の研究開発分野は、車載製品に求められる高い品質に対応するためにも「生産技術」
「品質管理技術」や「高信頼性技術」が高い回答率になっている(図表3-5)
。現在より
も将来において関心が高い研究開発分野としては、
「システム開発技術」、
「情報通信技術」
、
「センシング技術」といったカーエレクトロニクスの進展に伴う要素技術があがっている。
図表3-5 研究開発分野の現在と将来
( %) 0.0
10.0
50.0
60.0
70.0
5.2
7.0
5.6
6.3
13.3
13.3
高 信頼性技術
現在
将来
11.5
10.0
評 価解析技術
19.6
16.3
生産 技術
複数 回答
N=270
15.9
12.6
品 質管理技術
その 他
40.0
7.4
7.8
シミ ュレーション技術
セン シング技術
30.0
11.9
13.7
システム開発技術
情 報通信技術
20.0
3.3
3.0
61.9
57.8
無回 答
資料)九経調「次世代のカーエレクトロニクス産業に関するアンケート調査」
共同研究開発に対する消極的な姿勢
カーエレクトロニクスにおける共同研究体制を自社で持っている企業はわずか 6.3%で
ある(図表3-6)。研究開発体制を持つ企業が 13.0%であったのに対して(図表3-3)、
その半数が共同研究開発を行っていることになる。今後の共同開発への見通しにおいても
拡大予定の企業は、7.4%にとどまっており(図表3-7)、共同研究開発に対する消極的
な姿勢が見受けられる。
51
図表3-6 共同研究開発の有無
図表3-7
今後の共同研究開発強化予定
はい
6.3%
無回答
14.8
無回答
18.9
はい
7.4%
どちらとも
いえない
27.4
いいえ
78.9
いいえ
46.3
N=270
N=270
資料)九経調「次世代のカーエレクトロニクス産業に関するアンケート調査」
共同研究開発の課題は人材と情報
共同研究開発を行う際の課題として最も回答が多かったのは、
「研究開発人材の不足」の
27.4%であり(図表3-8)
、カーエレクトロニクスに関われる専門人材育成が急務である。
また、「マーケット情報の乏しさ」が 16.3%、
「相手先情報の乏しさ」が 13.7%と、共同研
究開発を行う際に必要な情報が十分に獲得できていない状況もみられる。
図表3-8 共同研究開発における課題
(%) 0.0
10.0
20.0
30.0
40.0
50.0
60.0
27.4
研究開発人材の不足
16.3
マーケット情報の乏しさ
15.6
研究開発後の製品化
相手先情報の乏しさ
13.7
11.5
研究開発レベルの不一致
8.5
研究開発内容の不一致
7.4
知的財産権の問題
行政のサポート体制
3.7
その他
3.3
複数回答
N=270
47.8
無回答
資料)九経調「次世代のカーエレクトロニクス産業に関するアンケート調査」
52
第2節
自動車関連部品分野の開発形態
エンジン系、パワートレイン系、懸架・操舵系部品分野は、直接自動車の安全走行を左
右するため、完成車メーカーが中心となり関連部品メーカーと協力して開発を進めている。
なかには、完成車メーカーにゲストエンジニア(自動車の開発段階で自動車部品メーカー
から完成車メーカーの開発部隊に出向するエンジニア)として出向する形で共同開発する
ケースもみられる。したがって、多くの関連部品メーカーの本社あるいは研究開発拠点は、
完成車メーカーの本社・研究開発拠点に近接する形で立地している。ここでは、エンジン
系、パワートレイン系、懸架・操舵系、その他車体部品についてそれぞれカーエレクトロ
ニクス関連部品の開発状況について概観する。
1)エンジン系
エンジン系統は完成車メーカーの個性が出る部分でもあり、自動車の中心部品でもある。
したがって、完成車メーカーが中心となって開発をすすめる。ただし、構成部品について
は多くの関連部品メーカーが関わっており、ゲストエンジニアとして完成車メーカーと共
同作業を行う、あるいは完成車メーカーの開発部隊の近くで作業というケースが占める。
したがって、完成車メーカーの開発拠点が九州には存在しないことから、関連部品メーカ
ーが九州内に事業所を置いているとしても、エンジン系の部品を九州内で企画・開発する
ことはほとんどないと考えられる。
図表3-9 電装品の企画から量産に至る工程
企 画
完成車
メーカー
電装品
メーカー
開発・設計
量産前準備
・イメージ
・コンセプト
開発・設計
生産計画
部品性能
テスト
構 想
共同開発
製品テスト
完成車企画
部品企画
・機能
・仕様
開発・設計
製品仕様指示
量産前テスト
量産
品質評価
製品テスト
半導体関
連メー
カー
仕様
決定
テスト
評価・解析
2次・3次
部品
メーカー
仕様
決定
テスト
評価・解析
<凡 例>
: 工程全体をリード
: 工程に参画
資料)ヒアリングより九経調作成
53
: 共同作業の内容
ケーススタディ①:電装機器メーカー デンソー(愛知県)
自動車の開発期間は、車両構想の段階も含めると一般的に3~4年と言われる。プラッ
トフォームを変更する場合は長くなるが、プラットフォームはそのままでアレンジを加え
るのみであれば、開発期間は短くなる。完成車メーカーの開発にどの段階で関わっていく
かについては、部品によって異なる。同社が得意としているエアコンやパワートレイン分
野は、開発の最初の段階から関わっていることが多い。
同社の技術開発の体制は、先端技術を主に技術開発センターが担当し、それぞれの分野
の技術開発はパワートレイン、電気機器、電子機器、熱機器の各事業グループ、ITS 事業部
に属する開発部が中心となって行っている。
九州には、デンソー北九州製作所が立地しているものの、車載用 LSI の設計・開発の拠
点は九州にない。カーエアコン等の重量物は輸送コストが高いため組立工場近くに立地し
たほうがよいので、デンソー北九州製作所ではトヨタ自動車九州向けにカーエアコンを生
産している。
2)パワートレイン系・懸架・操舵系
トランスミッション、ステアリングといったパワートレイン系部品や、サスペンション、
ブレーキといった懸架・操舵系部品は、エンジンと同様に車の走行を左右する部品であり、
ユーザーの安全にダイレクトに繋がる。したがって、その開発は、エンジンと同様に、完
成車メーカーを中心に進められる。関連部品メーカーの開発担当者は、完成車メーカーの
担当者と頻繁にやり取りをしながら部品の開発をすすめる。関連部品メーカーが開発・設
計段階においてある程度主導権を握ることができる分野ではあるが、安全に直接関わる分
野であり、完成車メーカー本社近くの立地が求められるようだ。
ケーススタディ②:ABS 設計メーカー (愛知県)
電装部品の企画、開発、製造の3段階を順にみると、企画では機能と価格のバランスを
考慮して仕様を設定し、サプライヤーの選定を行う。開発では、デザイン審査や自動車部
品特有の熱やほこりに対する信頼性評価ならびに弱点の検出を行う。その上で、不具合品
の解析や製品への反映という継続的なサイクルを実施することで品質を維持しながら製造
を行う。海外半導体企業の拠点は世界に散在するため、企画から製造までを一貫して行う
ことができず、品質維持にコストや時間がかかる。輸送費用は問題にならないが、コミュ
ニケーションに努力を要するため、日本で一貫して行える企業や地域があることが望まし
い。
54
図表3-10 ABS における企画から量産に至る工程
企 画
完成車
メーカー
ABS
メーカー
(設計)
開発・設計
量産前準備
・イメージ
・コンセプト
開発・設計
生産計画
部品性能
テスト
構 想
共同開発
製品テスト
完成車企画
部品企画
開発・設計
・機能
・仕様
構 想
電装品
メーカー
(生産)
共同開発
製品テスト
量産
部品企画
開発・設計
・機能
・仕様
発注先選定
半導体関
連メー
カー
生産管理
部品性能
テスト
製品仕様指示
取引
決定
開発・設計
2次・3次
部品
メーカー
量産前テスト
品質評価
製品テスト
テスト
評価・解析
<凡 例>
: 工程全体をリード
: 工程に参画
仕様
決定
テスト
評価・解析
: 共同作業の内容
資料)ヒアリングより九経調作成
3)車体系(ボデー、タイヤ、内外装品など)
車体部品については、部品によって状況は異なる。シートを例にとると、構想段階から
完成車メーカーと関連部品メーカーが共同で詳細を決める。その後、関連部品メーカーか
ら2次、3次サプライヤーに対して支給図を渡し、およそ生産開始までの約1年間で金型
発注、性能検査を行う。
キーレスエントリーシステムでは、例えば 300 メガヘルツの電波を飛ばす領域は電装メ
ーカーの技術領域であるが、鍵を開けるドライバーの行動パターンに関する情報は完成車
メーカーが蓄積している。したがって、この場合は両者の技術とノウハウを摺り合わせる
構想・開発段階ではある程度完成車メーカーが主導権を握っている状況である。
車体部品については、自動車関連部品メーカーだけでなく、電装品メーカーや家電メー
カーなどもある程度製品開発をリードできる部分が多いものの、九州地域に関連する部品
の研究開発拠点を置く企業はなく、現状として、九州に電装品分野での研究開発機能は集
積していない。
55
図表3-11 内装品(後部座席モニター)の企画から量産における工程
企 画
完成車
メーカー
完成車企画
・規格
・サイズなど
構 想
AV機器
メーカー
開発・設計
業務管理
製品開発
製品企画
・機能
・仕様
開発・設計
量産前準備
生産計画
部品性能
テスト
製品テスト
量産前テスト
量産
品質評価
<凡 例>
製品仕様指示
: 工程全体をリード
製品テスト
: 工程に参画
家電部品
メーカー
仕様
決定
テスト
評価・解析
: 共同作業の内容
資料)ヒアリングより九経調作成
図表3-12 車体部品(インテリジェントキー)の企画から量産に至る工程
企 画
完成車
メーカー
電装品
メーカー
開発・設計
量産前準備
開発・設計
・イメージ
・コンセプト
・ユーザーの
ニーズ
生産計画
部品性能
テスト
構 想
情報共有
製品テスト
完成車企画
部品企画
開発・設計
・機能
・仕様
・技術面の
ノウハウ
量産前テスト
量産
品質評価
<凡 例>
製品仕様指示
2次・3次
部品
メーカー
仕様
決定
: 工程全体をリード
製品テスト
: 工程に参画
試作
品質評価
: 共同作業の内容
資料)ヒアリングより九経調作成
図表3-13 内装品(シート)の企画から量産に至る工程
企 画
完成車
メーカー
完成車企画
・イメージ
・コンセプト
構 想
内装品
メーカー
開発・設計
量産前準備
開発・設計
生産計画
部品性能
テスト
共同開発
製品テスト
部品企画
・機能
・仕様
開発・設計
量産
品質評価
<凡 例>
製品仕様指示
2次・3次
部品
メーカー
量産前テスト
製品テスト
: 工程全体をリード
: 工程に参画
仕様
決定
試作
品質評価
資料)ヒアリングより九経調作成
56
: 共同作業の内容
ケーススタディ③:完成車メーカー 日産自動車(東京都)
日産自動車においても、自動車関連部品の電子化が進んでいる。完成車メーカーと電装
機器メーカーの間での仕事配分は、部品によって左右される。極端な例をあげると、DVD を
フラットパネルに映すシステムのような後席エンターテイメントについては、パナソニッ
クやソニーといったメーカー主導で開発が行われる。完成車メーカーとしては、自動車の
規格に関する情報提供などしかしていない。逆に、完成車メーカーが全てに携わるのは、
エンジン制御関係のコンピュータの開発などである。これは、自動車の性能を左右する重
要な部分であり、完成車メーカーの領域である。完成車メーカー、電装系メーカーが同じ
比率で関わるものは、インテリジェント・キーのようなものである。300 メガヘルツの電波
を飛ばすという技術に関しては、電装系メーカーがノウハウを持っている。しかし、「自動
車の開閉時、例えばドライバーの席だけ開けたいというニーズが高い」といったユーザー
側のニーズ、行動パターンについては自動車メーカーが持っており、両者の技術・ノウハ
ウをすり合わせる必要が生じるからである。
ケーススタディ④:シート・内装品メーカー トヨタ紡織(愛知県)
開発は5センター制を採用しており、各センターの下に部が置かれている。シートシス
テムサプライヤーとして、完成車メーカーとともに車両の開発初期段階から共同作業(デ
ザイン・イン)をしながら、詳細を決めていく。詳細を決めた後に、専門部品の発注を始
め、2次、3次サプライヤーに支給図を渡す。デザインが確定した後、新車生産開始まで
の約 13 ヶ月間で、金型発注、性能検査、生産開始の手順を踏む。
57
第3節
ソフトウェア分野における開発形態
自動車の走行制御は、従来はカムや油圧等によるメカ制御によるものであったが、近年
では半導体を搭載したマイコンによる電動制御に代替されることが多くなっており、それ
にともなって、ソフトウェア開発需要が高まっている。同時に、カーナビをはじめとする
車載機器も多数搭載されるようになり、それらを制御するソフトウェア需要も高まってい
る。本節では、電装部品や車載機器におけるソフトウェア開発形態についてまとめる。
分野によって異なる開発形態
車載ソフトウェアにおける開発形態は、カーエレクトロニクスの分野によって異なる。
図表3-14 は、制御系、ボディ系、情報系ごとに開発形態をまとめたものである。
ブレーキ、エンジン、ステアリングといった走行制御に関わる分野では、自動車メーカ
ーが一部を内製しているものの、大部分は要求仕様を定めて電装品メーカーにソフトウェ
ア開発を委託している。その場合、自動車メーカー系列の電装品メーカーが請け負うこと
になるため、必然的に電装品メーカーが立地している関東や中部で開発が行われている。
キーロック、パワーウィンドウといったボディ系については、初期開発は電装品メーカ
ーで行われるが、ソフトウェア人材不足や開発工程のモジュール化により、仕様が決まっ
た段階で、一部工程が九州を含む全国のソフトウェアベンダに委託されている。また、こ
の分野では、自動車メーカーが独自のノウハウを蓄積してきたこともあり、ソフトウェア
ベンダが複数の自動車メーカーと取引することは一般的ではない。
一方で、カーナビ上の地図情報といったアプリケーションのソフトウェア開発や ETC に
おける組込みソフトウェア開発といった情報通信系の分野は、自動車メーカーと別に開発
を行えるため、自動車に関わっていないソフトウェアベンダも参入が可能である。
図表3-14 ソフトウェア分野における製品開発
カーエレ分野
制御系
ボディ系
パーツ
主な開発プレイヤー
初期開発
拠点
仕様決定後の ソフトウェアベンダの取
開発拠点
引自由度
●ブレーキ
●ステアリング
●エンジン
電装品メーカー
関東・中部 関東・中部
単一の自動車メーカーと
のみ取引
●キーロック
●パワーウィンドウ
電装品メーカーとソフト
九州を含む
関東・中部
ウェアベンダ
全国
単一の自動車メーカーと
のみ取引
●カーナビ(地図情報
などのアプリケーショ 電機メーカーやソフト
ウェアベンダ
●ETC
情報通信系 ン)
資料)九経調作成
58
関東・中部
九州を含む
全国
複数の自動車メーカーと
取引可能
ボディ系へのソフトウェアベンダ参入事例
ブレーキ、エンジン、ステアリング制御といった制御系に関わる部品におけるソフトウ
ェア開発は、生命に関わるので相当レベルの信頼性が求められるため、電装品メーカー内
部で開発が行われている。よって、自動車メーカーと系列電装品メーカーの2者間でクロ
ーズしているため、ソフトウェアベンダの参入余地はほとんどない。
一方、キーロック、パワーウィンドウといったボディ系では、ソフトウェア人材の不足
もあって、開発の一部にソフトウェアベンダが参入する動きが見られる。具体的には、ソ
フトウェアベンダから人材を電装品メーカーに派遣して共同で研究開発を行い、仕様が決
まった段階でソフトウェアベンダに組込みソフトウェア開発を委託する形である。
ケーススタディ①:組込みソフトウェア企業・リンクウェア(鹿児島)
●企業概要
同社は、鹿屋市に本社を置くソフトウェア会社であり、自動車向け電子制御システム、
組込機器向け開発、組込系ソフトウェアエンジニアの派遣を行っている。鹿児島における
ECU(Electric Control Unit:車載電子制御システム)開発拠点の設立の話を持ちかけら
れ、組込系ソフトウェアエンジニアを多く抱えているので参入を決めた。話があったのが
2006 年で、1年たらずで自動車を専門に扱う鹿児島 ECU 研究開発センターを立ち上げた。
某自動車メーカー系 ECU メーカーに対して、エンジンを除く、ボディ、キーロック、周辺
監視に対する ECU のソフトウェアの研究開発を行っている。
●研究開発実態
ECU の研究開発は、同社から某自動車メーカー系列の ECU メーカーに人材を派遣し、共同
で研究開発を行っている。共同研究段階では、同社よりソフトウェア面から ECU メーカー
に対して助言や提案をするものの、自動車メーカーと ECU メーカーの間で決まった部品仕
様に基づいてソフトウェア開発が行われる。共同研究の後、ある程度仕様が決まった時点
で開発工程を同社に持ち帰るという形である。
制御系、ボディ系の組込みソフトウェアでは、自動車完成車メーカーや系列電装品メー
カーのノウハウが蓄積されるため、他の系列と同時に取引することはない。同社も単一の
自動車メーカーのみとソフトウェア開発を行っている。
情報通信系では複数の自動車メーカーと取引が可能
カーナビに搭載されるアプリケーションや情報系車載機器における組込みソフトウェア
に関していえば、自動車メーカーや電装品メーカーとの関わりがなくとも、アプリケーシ
ョン単体や車載機器単体として提案できる。したがって、電機メーカーやソフトウェアベ
ンダは独自開発して、複数の自動車メーカーに売り込むことができる。
59
ケーススタディ②:アプリケーションソフト会社・トヨタマップマスター(東京)
●企業概要
トヨタ自動車、系列電装品メーカー、カーナビゲーション関連企業等の出資で設立され
た会社であり、カーナビゲーションの地図情報データベースを作成している。国内販売に
おける同社のシェアは 50%を超えている。
●系列外への販売
同社はトヨタ自動車系列であるが、地図情報データベースを日産に売り込んだことがあ
る。当時の日産の見解としては、地図のようなプラットフォームはどこから買ってもよい
とのことであった。それは、日産としては、プラットフォームの地図情報データベース上
のサービスアプリケーションを自社開発し、そこで勝負すればよいとの考えを持っていた
からである。
九州のソフトウェアベンダのカーエレクトロニクス参入可能性
九州には電装品メーカーの開発拠点がない。よって、初期開発が電装品メーカーや自動
車メーカーの間で行われる制御系に対して、参入していくことは難しい。ゆえに、九州に
おけるソフトウェアベンダがカーエレクトロニクスに参入をするのであれば、情報通信系
におけるアプリケーション開発が最も可能性が高いと考えられる。
ケーススタディ③:電装品メーカー・デンソー北九州製作所(福岡)
電装品の制御ソフトウェアの開発は、電装品メーカーの研究開発拠点のもとで行われて
いる。同社であれば愛知でソフトウェア開発を行っている。九州には電装部品の研究開発
拠点がない以上、九州のソフトウェア企業が ECU に参入していくのはなかなか難しいと思
われる。ただ、カーナビ上で動くアプリケーションであれば、汎用性もあって九州のソフ
トウェア企業も参入できる可能性は十分ある。
60
第4節
ITS 分野における開発形態
道路情報、他車情報、通行人情報といった社会、自動車、人に関わる情報を集めて利活
用することで、3者が協調していくような将来の高度道路交通システムを称して、ITS
(Intelligent Transport Systems)と呼ぶ。
ITS 分野の車載器には、情報を発信・受信するための情報通信機器、情報を収集するドラ
イブレコーダ、集めた情報を利活用するためのカーナビ等がある。本節では、カーナビに
よる ITS 開発実態を例にとり、自動車メーカー主導の開発体制である現状を報告する。そ
の上で、今後の課題となる ITS 車載機器の標準化について触れる。
自動車メーカー主導の開発体制
図表3-15 は、カーナビによる ITS の開発工程についてまとめたものである。従来、カ
ーナビは、地図に基づいた目的地誘導や VICS で得た渋滞情報の提供といった機能にとどま
っていたため、パイオニア、三洋、松下といった電気メーカー主導で開発が行われていた。
しかし、ITS におけるカーナビの役割は大きく変わり、従来の役割の他に、車両操縦で得ら
れた速度・ブレーキ情報の表示、車内外設備のコントロール、ITS で得られる道路情報・他
車情報・通行人情報の利活用といった車両全体の管理や車外情報の受け皿といった広範囲
な役割を担うようになってきた。そのため、近年では、開発主導権が電気メーカーから自
動車メーカーに移っている。カーナビを使った ITS システム企画・開発では、自動車メー
カー主導のもと、電装品メーカー・電気メーカーと地図メーカー・ソフトウェアベンダの
3者が共同で企画・開発を行っている。
図表3-15 カーナビによる ITS の開発工程
自動車
メーカー
電装品
メーカーや
電気メーカー
地図メーカー
やソフトウェ
アベンダ
企 画
開発
機器生産
運営
システム企画
システム開発
(ハードウェア、
ソフトウェア)
自社製を
自車へ搭載
サービスの運営
データセンター
の管理
共同企画
共同開発
機能提案
機器開発
共同企画
仕様指示
機能提案
データ提供
アプリケーシ
ョン開発
<凡 例>
: 工程全体をリード
: 工程に参画
: 共同作業の内容
資料)九経調作成
61
製品テスト
機器量産
ケーススタディ①:自動車メーカー・本田技研工業株式会社(埼玉)
●ITS 事業概要
同社では、安全性と快適性を追求する目的のもと、リアルタイムで最適ルートや防災情
報をカーナビで提供するサービス「インターナビ・プレミアムクラブ」を展開している。
顧客の車載器のデータが情報センターに集まり、それをもとに交通情報、気象情報といっ
たコンテンツを作り、顧客にフィードバックするといったもので、エンドユーザーのニー
ズを的確にカーナビに反映する仕組みといえる。
インターナビでは、インターナビの会員である車が収集した交通情報を会員間で共有す
るサービス(インターナビ・フローティングカーシステム)を提供し、会員は通行上必要
な道路すべての交通情報を取得することが可能となっている。
また、地震災害に関しては、日本気象協会からの地震情報をカーナビ上に反映させるサ
ービスを展開しており、自動車位置が震度5弱以上の地域内にある場合に、位置情報つき
安否連絡を行うサービスを提供している。さらに、通過した道路をプローブデータとして
収集し、水害、地震等で道路が開通しているかを把握し、カーナビに表示させるサービス
を提供している。2007 年7月 16 日の新潟中越沖地震発生時には、翌日から「通れたマップ」
を掲載し、顧客からの好評を得た実績がある。
●研究開発実態
ハードウェアの開発は宇都宮の研究開発センターで、ソフトウェアの開発は和光の研究
開発センターで行われている。インターナビに関しては、和光に情報センターがあり、企
画・開発・運営までを行っている。インターナビといった発想は以前からあったが、近年
の CPU、メモリといった半導体関連部品のスペック向上が可能性を大きく広げた。
研究開発は自動車メーカー主導で行われている。電気メーカー・電装部品メーカーや地
図情報会社・ソフトウェアベンダから機能提案は受けるものの、自動車メーカーが仕様を
決め、それを電気メーカー・電装部品メーカー、ゼンリンなどの地図情報会社やその他ソ
フトウェア会社に委託している。
ケーススタディ②:自動車メーカー・日産自動車 IT&ITS 開発部(神奈川)
●事業概要
技術開発本部 IT&ITS 開発部は、厚木市の日産テクニカルセンター(以下 NTC)と、2007
年6月に新設された日産先端技術開発センター(以下 NATC)内にある。NTC では、設計開
発、プロジェクトデザイン、実験開発といった製品化の前工程を担うのに対して、NATC は
企画、先行開発を主に行っている。NTC と NATC の位置づけの違いは、NTC は具体的な目標
値を出すのに対して、NATC は目標値を設定に向けた頭だしをするところに置くという点に
ある。
IT&ITS 開発部は、ナビを中核としたシステムを開発しており、オーディオ関係のほか、
後列座席向けのエンターテイメント、運転支援のためのカメラシステムなどを担当してい
62
る。GPS つきの携帯電話がパケット通信をする際に基地局のサーバーに上がる情報をもとに、
走行車両の周辺にいる歩行者(歩いている人だけの情報を抽出)の位置をナビに表示する
といったシステムを開発している。
●研究開発実態
NATC には、コラボレーションルームという共同企画・開発を行うためのスペースが設け
られており、企画段階からサプライヤーが複数参加して共同作業ができる空間となってい
る。これまでは、製造(SOP:Start of Production の略)前 19 ヶ月のデザイン完了時から
の共同作業(発注)というタイミングで進められていた作業が、数年前からはそれ以前か
らプロジェクトパートナーとしての作業が可能となっており、初期開発から複数のサプラ
イヤーが関わりやすくなっている。
ナビゲーションシステムは、OS 関連でマイクロソフトと企画・開発からコラボレーショ
ンしている。機能面での視点から、半導体メーカーにも企画・開発から参入してもらって
いる。また、ナビの企画開発は、電装品メーカー等の1次サプライヤーに任せてきたが、
カーナビの重要性が高まっていることや部品メーカーだけでの企画開発は限界があること
から、今では自動車メーカー主導で企画開発が行われている。
今後も続く自動車メーカー主導の開発体制
ITS は、社会インフラを巻き込んだ大掛かりな産業であり、かつ、今後の日本の自動車産
業における競争力の源泉であるため、開発の主導権は業界階層のトップにいる自動車メー
カーが握っていく状況は続くものと予想される。ITS 車載器から収集された情報の多くが自
動車メーカーのデータセンターに集められており、自動車メーカーに情報が集中している
構図からも主導権の強さはいっそう増すことが予想される。さらに、ITS では車両操縦で得
られた速度・ブレーキ等の情報を用いるサービスが多いが、それらはエンジン・ブレーキ
等の制御系の開発を行っている自動車メーカーが握っているために、自動車メーカーによ
る主導権は確固たるものとなっている。
規格の乱立による弊害と標準化の必要性
ITS 開発は、自動車メーカー主導であることもあって、自動車メーカーごとに規格が異な
る。これにより、ITS に関わるサプライヤは複数の規格ごとに企画開発を行う必要性が生じ
ており、コスト増や開発期間の長期化が問題になっている。また、ITS では、情報通信が重
要になるわけだが、その規格が異なるために、異なる自動車メーカー間では相互利用がで
きなくなり、利用者の利便性の点からも好ましくない。
そのような状況から、標準化を推し進めようとする動きが民間からも生まれている。次
に示すケーススタディが好例であり、標準化の動きが加速することが、今後、ITS 分野の開
発では強く求められていくものと考えられる。
63
ケーススタディ③:企業団体・インターネット ITS 協議会(東京)
●事業概要
同会は、ITS 技術推進を図る団体であり、主に3つの目的を掲げている。第1に、イン
ターネット ITS の社会基盤としての展開シナリオ作成、第2にインターネット ITS 技術
の開発、実用化、標準化、第3に新規事業のインキュベーションである。
事業内容は、①ビジネスインキュベーションの支援(インターネット ITS で実現するア
プリケーション、サービスのインキュベーションに向けて、情報交換、調査、社会的受容
性の検証)
、②プラットフォーム仕様策定(インターネット ITS を支えるオープンなプラッ
トフォームの仕様の策定)、③フィールド検証(アプリケーション、サービスの実用性を確
認する実証実験の実施)、④ITS 技術の標準化活動(グローバルなインターネット ITS 仕様
の標準化推進)がある。
●ITS 規格の乱立
ITS 車載器はカーナビと融合しながら、自動車メーカー各社が主導で独自開発しているの
が現状である。トヨタ、日産、ホンダの計 200 万台がテレマティクスサービスを行ってい
るが、各社独自色を打ち出しており標準化の動きは見られない。自動車メーカーごとに規
格が異なると、サービスベンダーは複数の規格に合わせる必要があって、コスト高につな
がっている。国際競争力をつけるためにも、標準化することでコストを抑えていくことが
今後必要である。
●ITS 車載器の標準化
同会では、ITS 技術の標準化を図っている。具体的には、Java/OSGi をカーナビの標準言
語にして、API(アプリケーションプログラムインターフェース)の役割を担わせていく予
定である。そして、その仕組みを世界標準にしたい考えを持っている。
また、カーナビを製作しているパイオニア、クラリオンといった電気メーカーやナビ上
のアプリケーションを製作するソフトウェアベンダは、自動車メーカーごとに規格が異な
るため、自動車メーカーごとにカーナビを開発しているのが現状である。将来は、共通の
インターフェースを作りたいと考えており、同会では、自動車メーカーと電気メーカーの
間を取りもって、その仕様作りを進めようとしている。
さらに車両制御に関するデータ(加速度、ブレーキタイミング等)に関しても、自動車
メーカーごとにデータの形式が異なるので、共通のフォーマットに変換するシステムを構
築したいと考えており、同会でその仕様を定めた。
64
第5節
九州におけるカーエレクトロニクス製品開発への展望と課題
ここまで、自動車関連部品、ソフトウェアの企画から生産にいたる工程をみてきた。自
動車関連部品では、「走る・止まる・曲がる」といった自動車の基本動作に関する部品につ
いては、完成車メーカーが企画から開発・設計におけるイニシアチブを握っていることが
わかった。しかし、九州に立地している完成車メーカーは、いずれも完成車組立が主な業
務であり、現時点において本格的な研究開発機能を有していない。特に自動車の走行その
ものに直接関わるエンジンやパワートレイン、駆動・伝達系の部品については、本社から
切り離すことは非常に難しいとみられており、これら部品の企画・開発・設計機能を九州
に誘致するということは現実的ではないといえよう。
一方、今回の調査対象の中でも、部品メーカー側が企画・開発段階から比較的主導権を
取れる分野として、後部座席用モニターといった通信・エンターテイメントやソフトウェ
アなどがあった。自動車の基本動作に直接関わる部品ではないこと、自動車の車体設計に
大きく影響しない分野であること、そして基本的な技術やノウハウの蓄積が完成車メーカ
ーを上回っていることなどの条件が揃って初めて製品企画から開発、生産に至る全工程で
主導権を握れるのである。
九州において、自動車関連産業の更なる集積を考えると、これまでの生産工場の立地だ
けでなく、製品の企画・開発機能の立地が求められる。その際のターゲットは、企画・開
発段階から部品メーカーが主導権を握ることのできる通信・エンターテイメント、あるい
はソフトウェアなどが考えられる。特に九州での開発が期待できる分野としては、ITS があ
げられる。ITS はこれから成長が見込まれる分野である上に、これまでみたように幅広いプ
レイヤーに門戸が開かれており、パワートレインなどとは性格を異にする。また、各メー
カー間、自動車とインフラ間など、複数の主体同士でのニュートラルな調整が求められる
部分がある。九州は複数の完成車メーカーの拠点があり、特定のメーカーの色が出ていな
い上に、企業、技術、人材など、ITS に関わるインフラは十分に備えている。
ITS 技術を活用することによって、交通システムは大きく変わることが予想される。将来
のイメージを示したものが図表3-16 である。ここにあるような交通システムを実現する
ためには、アプリケーションと共通基盤、双方における規格・仕様の共通化が不可欠であ
る。国土交通省が提示する ITS の研究開発分野として、ナビゲーションシステムの高度化
や ETC に代表される自動料金収受システム、安全運転支援や交通管理の最適化、歩行者支
援などがあげられている。また、各アプリケーションが実現する様々なサービスを提供す
るためのベースとなる共通のソフトウェアや車載器、共通のハードウェアといったプラッ
トフォームの開発も進めていかなければならない。
九州地域においても、福岡市や垂水市、大分地区、北九州地区において ITS 分野の実証
65
実験が行われている。その内容は、視覚障害者誘導システムや災害管理システム、バス運
行情報や歩行者対象の障害物情報提供に関する実験など、限られた地域での情報発信に関
するものが中心となっている。
ITS 分野にテーマを絞るにあたって、九州全体を1つのエリアとして、ITS 関連技術の標
準化に向けた実証実験、技術開発の場として活用することが期待されている。
図表3-16 ITS による将来の交通システムイメージ
航空機
運行情報
船舶運航
情報
維持管理業務
の効率化
目的地域
情報
運行情報
所要時間
情報
バス内での
電車乗り
換え情報
電車、バス、
タクシー
運行情報
集荷、配送
情報
事故情報
商用車の
車群走行
緊急
自動車の
支援
特殊車両等
の管理
危険
防止
走行支援
歩行者
経路
誘導情報
オフィス内
での
公共交通
運行情報
駐車場
満空情報
自動料金
収受
システム
信号
制御
緊急時
自動通報
SA、PA で
の目的地
道路情報
電車、バス等
運行情報
バス停での
バス運行
情報
家庭内での
目的地、所要
時間情報
資料)国土交通省近畿地方整備局ホームページより
66
周辺施設
情報
図表3-17 ITS の9つの研究開発分野(アプリケーション)
研究開発分野
サービス及びシステムの例
VICS(道路交通情報通信システム)等を用いたナビゲー
ションシステム
1.ナビゲーションの高度化
2.自動料金収受システム
ETC(ノンストップ自動料金支払いシステム)
AHS(安全運転支援)、AHV(先進安全自動車)による危
険警告・自動運転
公共交通優先信号制御、交通量最適化システム、交通
事故時の交通規制情報提供
3.安全運転の支援
4.交通管理の最適化
5.道路管理の効率化
工事情報等の提供、特殊車両管理
6.公共交通の支援
公共交通の運行状況の提供
7.商用車の効率化
効率的な配車計画の支援
8.歩行者等の支援
歩行者に向けた経路案内・危険防止
9.緊急車両の運行支援
緊急時自動通報、緊急車両経路誘導、救護活動支援
資料)国土交通省
図表3-18 九州における ITS の取り組み
プロジェクト名
地域とITS
地域とITS
実施団体
福岡市
鹿児島県垂水市
九州IT'sバス
国土交通省九州地方整
(のちにQバ
備局福岡国道事務所、
スリサーチと
大分河川国道事務所
して拡大)
北九州地区
歩行者ITS
国土交通省九州地方整
備局北九州国道工事事
務所
実施開始時
期
プロジェクト内容
詳細
視覚障害者誘導システム
●市役所に隣接する渡辺通1320mの車道をはさんだ両側の歩道3500mに、特殊
な誘導ブロックを埋設した。
●視覚障害者用の誘導ブロックにフェライトを混入し、磁気センサーを内蔵した白
杖をそのブロックに近づけると振動が伝わるようになっている。また、専用白杖を
持った視覚障害者が、市役所への道に差しかかると、埋設されたスピーカーから
音声案内が流れる。
●夜間には誘導ブロックに1~2mおきに埋め込まれた発光ダイオード(LED)が点
灯して、弱視者や視力の弱ったお年寄りの指標となる。
1993年
災害監視システム導入
●災害情報収集設備は、CCTVカメラ、道路雨量テレメーター、照明灯を設置。さら
に、国道沿いの道路情報を伝えてもらうために、地元モニターを11名配備。
●道路情報板、路側通信のラジオ放送(1620KHz)、通行止めのための交通遮断機
を配備することで、災害情報を提供。
●漁協、小学校、中学校、郵便局、バス会社やフェリーなどの交通機関などに
ファックスで情報提供。
●CCTVカメラや道路雨量計テレメーターは垂水国道維持出張所と光ファイバーで
直結し、24時間の情報収集・監視体制をとっている。
2002年
●天候や渋滞による高速バスの運行状況の変化をパソコンや携帯電話で把握す
福岡~大分間を運行する高速バ る仕組み。
ス3路線に関する情報の提供
●対象路線の1日当たり利用者数が約1,700人に対し、システムに対する検索数は
平均179件/日、最大1,547件/日であり、天候不良時に増加している。
2001年
●2001年7月~11月に開催された「北九州博覧祭2001」に合わせ、バリアフリーに
対応した施設情報や経路情報等をインターネット接続可能な携帯電話及びパソコ
ン、情報KIOSKにて提供を行う実験を実施している。
歩行者へのバリアフリー情報の提
●提供される情報には、①施設一覧、②施設検索 エリアや公共施設・トイレといっ
供
た施設内容および車イスの方や幼児連れの方といった対象者に合わせた施設の
検索、③バリアフリーマップ エリア毎のバリアフリーに対応した地図情報、④経路
案内が含まれる。
1990年
資料)財団法人国土技術研究センターにおけるホームページを参考に再整理
67
九州の課題
ITS 分野の技術標準化、研究開発拠点としての可能性を模索するにあたって、九州が解決
すべき課題もいくつかあげられる。完成車メーカー、関連部品メーカーの開発拠点がほと
んどないという状況に加えて、電装品でもエレクトロニクス関連部品の生産拠点は九州に
ほとんど立地していない。また、関連部品メーカーを支える2次・3次サプライヤーとし
ての役割を果たすべき地場企業の参入も進んでいない。
ITS 分野は、先端技術、生産技術においても、これから標準化が進む分野といえる。した
がって、九州地域全体で ITS 関連事業の立地に向けて取り組むことによって、地域に ITS
関連分野の企業の立地が進む可能性が高い。そのためにも、1次サプライヤー、その他の
関連部品メーカーの誘致、育成に加えて、研究開発拠点としての機能を高めるべく、研究
開発環境整備、研究者の招聘、エンジニア人材の育成に注力することが求められよう。
68
第Ⅳ章
第1節
カーエレクトロニクス分野で求められる人材の育成
カーエレクトロニクス関連企業の人材育成状況
1)アンケートおよびヒアリングからの状況
どのような産業においても、人材の確保や人材育成について悩みを抱えている企業は多
い。今回のアンケート調査においてカーエレクトロニクス分野の人材充足度や必要なカー
エレクトロニクス人材、望まれる教育体制などについてアンケートを行った。
カーエレクトロニクス専門人材は不足
カーエレクトロニクス専門人材の充足度については、「少し不足」が 10.4%、「かなり不
足」が 53.3%となり、6割以上(63.7%)で、専門人材の不足が示された(図表4-1)
。
各企業における人材確保は全国的に難しくなっている。
図表4-1 専門人材の充足度
十分に
充足
0.0%
比較的
充足
1.5
少し
不足
10.4
無回答
34.8
かなり
不足
53.3
N=270
資料)九経調「次世代のカーエレクトロニクス産業に関するアンケート調査」
ケーススタディ①:半導体デバイスメーカー・九州地区
カーエレクトロニクス関連人材について言えば、自動車は難しいイメージがあるようで
自動車用半導体を専攻している学生が少ない。また、開発志向が強く、九州が優位である
とされる生産技術に関わりたいと思う学生は少ない。自分のやりたい分野とマッチングし
ないと興味を持ってもらえず、人材確保に苦戦している。
また、携帯電話のようなモデルチェンジが激しい製品では、製品が変われば開発に携わ
る人も変わる。技術レベルが低いエンジニアは、次のシステムに対応できないため職を失
う場合もあるようで、エンジニアの技術レベル向上が望まれる。
69
求められている専門人材は電気・電子系
カーエレクトロニクス専門人材が不足している中で、企業が必要としている専門人材分
野は、「電気・電子系」が 38.1%ともっとも多く、次いで「機械系」の 18.5%となってい
る(図表4-2)。自動車のエレクトロニクス化の動きを反映し、電気・電子系が突出して
いる点が特徴である。このほか、上位には理科系の項目が並んでおり、幅広い分野の理系
人材が求められているとみられる。
図表4-2 必要とする専門人材の分野
(%)0.0
5.0
10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 45.0 50.0
電気・電子系
38.1
18.5
機械系
通信系
15.9
情報系
14.8
センサ系
13.7
商品企画
12.6
営業
11.9
生産管理
9.3
事業マネジメント
8.1
共同研究のマネジメント
国際ビジネス
6.7
3.3
調達
1.9
その他
2.2
複数回答
N=270
無回答
44.4
資料)九経調「次世代のカーエレクトロニクス産業に関するアンケート調査」
カーエレクトロニクス専門人材は今後強化の方向
専門人材を自社で育成している企業は、7.4%と少ない。今後強化する予定がある企業も
17.4%となっており、不足感が大きい中でカーエレクトロニクス専門人材育成に取り組め
ていない企業も多いことがわかる(図表4-3、4-4)しかし、九州で専門人材が増え
れば、九州にソフトウェアなどの開発分野が増えるだろうと考える企業もあり、人材の育
成が必要であると思われる。
70
図表4-3 専門人材育成取組状況
図表4-4 人材育成強化の予定の有無
はい
7.4%
無回答
20.7
無回答
22.2
はい
17.4%
いいえ
60.4
いいえ
71.9
N=270
N=270
資料)九経調「次世代のカーエレクトロニクス産業に関するアンケート調査」
ケーススタディ②:電装機器メーカー・デンソー(愛知県)
九州に半導体企業が集積している理由の1つに人材確保がある。特に、ソフトウェア関
連の人材を確保したいと考えており、デンソーテクノは九州における採用活動を積極的に
行っている。ソフトウェア開発は、人材確保できる場所で事業を行う傾向が強いので、今
後九州でソフトウェア関連の人材供給が活発になれば、ソフトウェア関連のカーエレクト
ロニクス関連企業が進出していく可能性は大いにある。
人材育成は自社で育てるか現場での慣れ
カーエレクトロニクス専門人材の育成方法としては、「自社育成 OJT(オンザジョブトレ
ーニング)」
(21.5%)と「企業間コンソーシアム・共同研究開発チームへの派遣」
(21.1%)
がほぼ同じで、続いて「カスタマー企業への派遣」
(16.7%)となっている(図表4-5)。
単独では自社養成が一番多くなっているが、共同研究やカスタマー企業への「派遣」を合
わせると 37.8%で一番多くなる。このことは、実際の開発現場で仕事をしながら学ばせる
という企業が多いことを示していると思われる。ヒアリングでも同様の意見が出された。
71
図表4-5 望ましい教育体制
(%)0.0
10.0
20.0
30.0
自社育成(OJT)
21.5
企業間コンソーシアム・共同研究開発チームへ派遣
21.1
カスタマー企業へ派遣
50.0
60.0
16.7
産学連携チームへ派遣
12.2
自社養成(OFFJT)
11.9
調達元企業へ派遣
その他
40.0
9.3
複数回答
N=270
2.2
無回答
49.6
資料)九経調「次世代のカーエレクトロニクス産業に関するアンケート調査」
ケーススタディ③:電装機器メーカー・デンソー(愛知県)
カーエレクトロニクスに関われる人材を育てる方法として、本社に人を派遣して、トレ
ーニングをして戻すといった方法が考えられる。また、九州の地場企業が名古屋周辺に支
社を出して、同社やトヨタ自動車と積極的に関わりを持つことで人材を育てるといったや
り方も重要である。
ケーススタディ④:車体設計メーカー・トヨタ車体研究所(鹿児島県)
通常本社(鹿児島)で採用して、試用期間から5年間は基礎から現場のことも学ぶ意味で、
刈谷(愛知)に勤務させて、トヨタ車体本体と一体で教育を受けさせている。そういう意
味ではトヨタ車体の人員増減に影響を受ける面はある。欲しい人材は、電気電子系や機械
系の学生である。
各種講座や専門研修などの受講
カーエレクトロニクス専門人材の育成方法として、ヒアリング先からの意見をまとめる
と、各種講座や専門研修などの受講や、基礎から設計開発までを学ぶための学校設立など
があげられた。
各企業や地元自治体などが開催する設計開発のノウハウを学ぶための講座やレベルアッ
プのための研修を各社の社員に受講させるのも1つの方法である。
北九州市が(財)北九州産業学術推進機構(略称「FAIS」)内に設置した「カー・エレク
トロニクスセンター」は、正にその考えを反映させたものであるといえる。
ケーススタディ⑤:組込みソフトウェア企業・リンクウェア(鹿児島県)
新卒採用の場合では、専門的知識を持っていることに越したことはないが、興味があれ
72
ば組込系ソフトウェアエンジニアであれば4~5年で育てられるので、学部を問わず採用
している。また、専門学校卒も採用している。
教育は、自社の OJT で行う場合がほとんどであるが、実際はカーエレクトロニクス専門
人材教育機関等で教育を受けることが望ましいと考えている。また、カーエレクトロニク
ス専門人材としては、情報系だけの知識ではなく、電気・電子系や機械系の基礎知識を持
ち合わせたゼネラリストが必要と感じている。
基礎から設計開発までを学ぶための学校設立
トヨタやデンソーなど、愛知県でものづくりの技術を確立させた各メーカーは、社内に
独自で研修施設或いは社員教育機関を設けている。それらにならい、九州内に専門の教育
機関を設立して、ものづくりの基礎の部分だけでなく、設計開発部門まで学べるような教
育機関を設立することが求められている。
ケーススタディ⑥:完成車メーカー・トヨタ自動車(愛知県)
同社では、現場のトップを育成するために専門学校を設立して、厳しい環境の中でもの
づくりに取り組む姿勢を教育している。九州にもこういった機関があってもよい。また、
九州に求める人材として、開発のトップレベルの人材も重要だが、九州が製造拠点である
以上、現場のトップと開発のトップを結ぶミドルの位置にある人材が望まれる。
2)九州の理工系大学・高等専門学校の就職状況
高い九州外企業への就職比率
図表4-6は、平成 16 年度から平成 18 年度までの3ヵ年における、九州内の理工系大
学及び高等専門学校の卒業生の進路をまとめたものである。
全体の就職者数のうち、九州内と九州外の比率は約1:2となり、就職者のうち3人に
2人は、九州外の企業へ就職していることがわかる。
また、過去3ヵ年の卒業者数はほとんど変化がないが、就職者数は 7,436 人から 8,044
人と 608 人増えており、約8%延びている。これを就職地域別でみると、九州内の就職者
数の増加は6%に留まっているのに対し、九州外の企業への就職者数は約9%伸びている。
このことは、景気回復および団塊の世代の大量退職により、新卒者の就職状況が改善し
ているなかで、九州内よりも九州外へ就職先を選ぶ学生が多いことを示している。
73
図表4-6 過去 3 ヵ年の九州内の理工系大学・高専の卒業生進路状況
(就職地域別)
九州内
九州外
単位:人
進学
その他
年度
卒業者数
就職者数
H16
12,303
7,436
2,356
5,080
4,867
H17
12,220
7,706
2,311
5,395
4,514
H18
12,314
8,044
2,505
5,539
4,270
注)1.九州内の工学系大学(一部理工、情報系を含む、医薬系は除く)の学部及び
大学院、高専の学科・専攻科の卒業生が対象
2.数字はアンケートに回答のあった 23 校の数字を単純集計したもの
3.就職地域は、勤務地不明のため、本社所在地別で集計
資料)九経調調べ
図表4-7は、平成 18 年度単年でみた場合の卒業生の進路割合を示したものであるが、
九州内の企業に就職した者は全体の 20%しかおらず、全体の4割以上は九州外の企業に就
職したことを示している。
九州内の大学等で学んでも、結局は、かなりの理系人材が流出していることを示してお
り、学生の希望する仕事や企業が、九州内に存在していないことがわかる。
図表4-7 平成 18 年度の卒業生の進路状況
就職
九州内
20%
進学
その他
35%
就職
九州外
45%
資料)九経調調べ
74
第2節
東海地方での人材育成状況
カーエレクトロニクスを含む自動車産業の人材育成の状況について、九州以外での現状
を確認することで、九州において必要なハード、ソフト両面の課題を浮き彫りにすること
が求められる。そこで本節では、トヨタ及びトヨタグループ企業の拠点である東海地方を
例にとり、カーエレエレクトロニクスの人材育成状況を考察する。
1)トヨタ自動車の人材育成
(1)トヨタの人材育成方針等
トヨタ創業時から受け継がれてきた「モノづくりは人づくり」の言葉のとおり、モノづ
くりを通じた人材育成を行っている。人づくりが「価値観の伝承」であり「ものの見方」
を伝えることだと考えられており、加えてグローバルな取り組みを推進するための人材が
確実かつ継続的に輩出されるよう様々な仕組みを整えている。
トヨタでは、OJT(オンザジョブトレーニング)を中心とした人材育成を基本として、計
画的な教育を実施している。事務・技術職に対する「プロ人材」
(付加価値を自ら創り出し、
社会に貢献できる人材であることに加え、チームワークの中で力を発揮できる人材、図表
4-8)を、技能職には「T字型人材」
(英語力や業務知識など幅広い能力(Tの横棒部分)
に加え、一つの分野での深い専門的な知識や経験(Tの縦部分)を併せ持った人材)を社
員に求める人材像として教育している。
また 2002 年には、「トヨタ人を育てる」という冊子を作成し、全社員が「トヨタの競争
力の源泉は人材育成にある」という価値観を共有し、人材育成が行われる職場づくりを推
進している。
図表4-8 トヨタの「プロ人材」をサポートする全社教育のイメージ
知識・
スキル
教育
資格別教育
O
J
T
上級専門職特別研修
語
学
教
育
専門職特別研修
職
場
で
の
テ
ー
自
己
啓
発
教
育
上級専門職昇格
オリエンテーション
専門職昇格
オリエンテーション
業務職特別研修
新入社員研修
資料)トヨタ自動車ホームページより
75
マ
実
習
(2)トヨタウェイとトヨタインスティテュート
トヨタ自動車では、トヨタ及び海外事業体を含めたグローバルトヨタの発展と海外の現
地法人などへの権限移譲をスムーズにすすめるため、これまで暗黙のうちに伝承されてき
たトヨタの経営哲学、価値観、実務遂行上の手法を明文化した「トヨタウェイ」を 2001 年
4 月に冊子としてまとめた。更に 2002 年1月には、このトヨタウェイを共有し、真のグロ
ーバル化を推進し、新しい価値観を進化させることにより、21 世紀のグローバルトヨタの
人材育成を牽引する教育機関として、トヨタインスティテュートを設立した。当初既存施
設を利用していたが、2003 年8月には、静岡県三ケ日町(現:浜松市北区)に、教育棟や
宿泊棟などを併設した研修施設「トヨタインスティテュートグローバルランニングセンタ
ー」を建設した。講師には、トヨタ役員ほか、社外からも招き、
「グローバルリーダー育成
スクール」と「ミドルマネジメント育成スクール」の2種類の講座がもうけられている(図
表4-9)。
図表4-9 トヨタインスティテュートで行われている講座の概要
グローバルリーダー育成スクール
ミドルマネジメント育成スクール
狙い
製造、販売部門等、主要部門別に各部門の
グローバルトヨタの視点でリーダーシップが
トヨタウェイを体系的に理解し、実践できるマ
発揮できる経営人材の育成
ネジメントの育成
内容
・トヨタウェイに基づく指導力の向上
・経営知識、スキルの強化
・グローバル人脈形成
製造部門:トヨタの製造事業体運営全般と製
造部門のトヨタウェイ理解 等
販売部門:トヨタ販売理念に基づく最新の
マーケティング手法の理解 等
受講対象 全世界の将来のグローバルリーダー
全世界のミドルマネジメント
資料)トヨタ自動車ホームページより作成
(3)豊田工業大学
1981 年、トヨタ自動車の社会貢献活動の一環として開学した工学部のみの四年制単科大
学。現在は、先端工学基礎学科の単科と専門大学院が設置されている。日本の将来を担う
技術者を養成して社会に貢献したいという創業者一族の強い思いに基づき設立されたもの
である。
学部の定員は 80 名と少なく、少人数教育を徹底させており、工学の最先端領域を見据え
ながら、複数の分野を横断するような工学基礎を学び、新しい領域を切り拓く柔軟な発想
力と応用力を育成するカリキュラムを組んでいる。幅広い分野に取り組んでいるため、特
にカーエレクトロニクスに特化するような専門教育に取り組んでいるわけではなく、全体
的な教育を行っている。
76
(4)トヨタ工業学園
1938 年に設立された、自動車製造技術者の育成を目的とした学校で、3年制の高等部及
び1年制の専門部がある。定員は 120 名。卒業後は、トヨタ社員として働くこととなる。
高等部は、中学校卒業者に対する教育を行うところで、工業高校の機械科とトヨタのモ
ノづくりの基礎を同時に学ぶようなカリキュラムが組まれており、鋳物技能を修得する鋳
造科や組立技能を修得する自動車製造科など専門技能を修得するための8学科が置かれて
いる。
また専門部では、主に高等学校卒業者を対象者とした、技術系のカーエレクトロニクス
や保守系のメカトロニクスなどの先端技術に対応するスペシャリストの養成を行っている。
技術系の学生は、車載電子制御装置の試作・実験・機能評価・プログラム作成要員の育成
などカーエレクトロニクスに関わる技術を修得し、車両や電子部品の試作・評価部門など
に配属されることとなる。
(5)トヨタ自動車大学校
トヨタ自動車が東京・名古屋・神戸の3ヶ所に設けている自動車整備を専門的に学ぶ専
門学校である。特にカーエレクトロニクス化に対応したカリキュラムは組まれてはいない。
主に2級自動車整備士の取得を目指す2年制の自動車整備科と、1級自動車整備士の取
得を目指す4年制の高度自動車科(東京校は1級自動車科)があり、東京校には、LEV(低
公害車)、EV(電気自動車)
、ハイブリッドカーなど自動車のハイテク化に対応した自動車
整備技術を学ぶ1年制の研究科が置かれている(図表4-10)。
図表4-10 トヨタ自動車大学校3校の概要
所在地
東京
名古屋
神戸
設立
1954
1961
1992
学科名
定 員
期 間
自動車整備科
500名
2年間
1級自動車科
40名
4年間
研究科
40名
1年間
自動車整備科
520名
2年間
高度自動車科
80名
4年間
自動車整備科
350名
2年間
高度自動車科
40名
4年間
資料)九経調作成
ケーススタディ⑦:インドに専門学校設立 トヨタ自動車(愛知県)
トヨタ自動車のインド現地合弁企業トヨタ・キルロスカ・モーターは、2007 年8月、同
国南部カルナタカ州バンガロール郊外の工場近くに、技術者を高校レベルで育成する「ト
77
ヨタ技術訓練校」を開校した。トヨタが海外で訓練校をつくるのは初めて。
同社は乗用車販売の急増を受けて主要都市の工業専門学校で整備士育成を始めたばかり
だが、巨大市場インドでの生産拡大に向けて直接、技術者養成に乗り出した。現在約 60 万
人とされる自動車業界の労働力は、2011 年までに約 250 万人が必要といわれている。
同校では3年間で工場での実習などを通じて組み立てや塗装、溶接など乗用車生産の一
連の技術やノウハウを学ぶ。生徒数は 64 人で、中等教育を修了した応募者 4500 人から書
類選考と学科試験で選ばれた。
全寮制で授業料などはトヨタが全額負担。卒業後は本人が希望すれば同社生産部門に配
属される。
(2007 年8月1日共同記事より)
2)デンソーの人材育成
(1)デンソーの人材育成方針等
デンソーで働く社員数はデンソー単体でも3万人を超えている。そのデンソーの精神は
全グループ社員共通の価値観(デンソースピリット)としてお互いの考え方や行動を高め
合うことを通じて、世界の智恵で進化する企業づくりを目指している。その社員一人一人
が、成長しながら可能性を広げていくため、自主性の尊重と人材の最大活用を基本とし、
社員の能力開発を支援している。また、その社員教育、人材育成のため、社内に「人材育
成委員会」を設け、教育部会、設計技術者育成部会、製造技術者育成部会、技能技術者育
成部会など4つの部会を通じて、教育方針やカリキュラムの見直しを行いながら人材育成
を行っている。
全社的に定めた人材育成方針を実践するために、子会社「デンソー技研センター」があ
り、新人教育から高度プログラムまで様々なカリキュラムを定めているほか、社内訓練校
として「デンソー工業技術短期大学校」を設置し、次世代の人材育成にも努めている。
(2)デンソー技研センター
2001 年に設立されたデンソー子会社の人材育成を行う専門機関。
「理論」と「実践」を身
に付ける実学一体の教育理念を基に、モノづくりの過程で生じる疑問を解決する能力(知
識・理論)を徹底的に教育し、理論に基づいて合理的に仕事をこなせる人材を育てている。
また、実際の現場に即した実習を繰り返して高度な実践技術を修得することを目標として
いる。
デンソー技研センターでの研修は、技術者から技能者まで様々な研修体系を整えている
ほか、グローバル化の進展に伴い、海外からの研修生を受け入れて海外拠点の核となるよ
うな人材にデンソースピリットを学ばせるための研修を行っている。
(図表4-11、4-12)
78
図表4-11 デンソー技研センターの組織図
社長
総合企画部
デンソー工業技術短期大学校
短大教育部
技能開発部
技能研修本部
技能研修部
技能評価部
技術研修本部
研修部
技術部
資料)会社概要より
図表4-12 デンソー技研センターの主な研修項目
種 類
対象者
内 容
技能研修
技能者
・基礎技能研修(生産・開発・保全等共通研修)
・高度技能研修(開発等の専門研修)
・オペレータ研修(生産設備の改善等)
技術研修
技術者
・技術導入研修(共通の基礎研修)
・スキルアップ研修(共通の専門研修)
・ハイタレント研修(管理人材の選抜研修)
技術・技能評価
共通
・各種検定や資格取得のための訓練、研修
その他
共通
・海外研修生の受け入れ
・トレーナー研修
・外部企業の教育体制見直し支援 など
資料)九経調作成
(3)デンソー工業技術短期大学校
デンソー工業技術短期大学校は、デンソー技研センター内にある企業内訓練校である。
大学校だが専門学校的性格のものである。同短大入学と同時にデンソーの社員となり、給
与等の保証を受けながら学んでいる。授業料などの負担もない。現在技能者養成の3学科
と技能五輪選手育成のための技能開発課程が設けられ、それぞれの部門でデンソーにマッ
チしたカリキュラムが組まれている(図表4-13)
。
特に技能五輪でのメダル獲得を目指す技能開発課程は、3学科から優秀な人材が選抜さ
れ、専門的な教育を受けており、大会への出場者の中には金メダル獲得者も多く、優れた
成績を残している。同課程を経たものは各現場の一線で活躍をしている。
79
図表4-13 デンソー工業技術短期大学校のシステム
課 程
対象者
定員
期間
内 容
工業高校課程
中学卒
40名
3カ年
通常の工業高校としての基本教育とデンソーの社員としての
職業教育を同時に学ぶ
高等専門課程
高校卒
60名
1カ年
電子機器組み立て、機械など職場での核となるファクトリーエ
ンジニアの養成
短大課程
高校卒
30名
2カ年
電子情報技術など設計、生産技術、電子技術SEとしてデン
ソーの設計開発部門の技術者養成
技能開発課程
3学科から選抜
若干名
2~3年
技能五輪大会へ向けた訓練を通し、強い精神力と豊かな想像
力を持った高度熟練技能者を養成
資料)九経調作成
3)アイシン精機の人材育成
(1)アイシン精機の人材育成方針等について
アイシン精機は、2007 年4月に、これまでの成長を支えてきたアイシン流の仕事や「考
え方」や「やり方」を明文化した「アイシンウェイ」を策定した。グローバル化する中で、
世界の従業員で共有して伝承・進化させていけるようにという願いからであった(図表4
-14)
。アイシンはこの考え方に基づき、従業員との相互信頼のもとに、長期的な視点に立
って、従業員に対して平等かつ継続的な育成・指導を行って、成長の機会を提供している。
図表4-14 アイシンウェイのイメージ図
アイシンウェイ
・価値観
(我々は何を大切に考えるのか)
・行動原則
(我々はどのように行動するのか)
社会のため、お客様の
ためを考える
常に改善し続ける
一人ひとりを大切にする
人材育成
・個人の成長を支援し、実力発揮の機会を与える。
全員参加のチームワーク
一人ひとりを大切にする
・個性を尊重し、やる気を高め。全員の知恵と力を結集する。
資料)アイシン精機ホームページより
80
(2)アイシン人材育成センターの設立
「アイシンウェイ」の策定に先立つ 2007 年3月、本社敷地内に4階建ての研修棟と 10
階建ての寮棟(定員 217 名)からなる人材育成センターを竣工させた。同センターでは、
将来のアイシン精機の現場リーダーとなる人材育成のための「アイシン高等学園」の教育、
新入社員から管理者層までの各階層別研修、技能・事務・技術系共通のマネジメント教育
など、グループ各社に共通する教育を行っている。また、急速なグローバル化に対応でき
る監督者の育成など、海外で活躍できる人材の育成も行っている。
アイシン精機は、グループの売上高が順調な伸びを見せるなかで、海外現地法人の全売
上高に占める割合や海外従業員の数などは、売上以上に急速な伸びを示している。その際、
アイシングループとしてのものづくりの力を強くする基盤人材の育成などが急務となって
きた。あわせて、グローバルに活躍できる人材を計画的・体系的に育成する機能の強化、
海外法人、グループ企業からの研修生受入の拡大に対応した実習施設の必要性から、同セ
ンターを設立した(図表4-15)
。
人材育成センターでの研修は、同センターでの研修を、各職場(現場)に持ち帰って更
に問題解決に取り組み、それを目標設定への取り組みとして評価し、人事処遇へと繋げる
ような関係を作って、効果を上げる努力をしている。また、アイシン精機が行っている研
修のカリキュラムの例をみると、新入社員から幹部候補まで、様々な研修を受けられる体
制ができているほか、地元高校の先生向けの技術研修や、トヨタグループとしての研修、
海外派遣予定の社員に対する語学研修や異文化研修などグローバル化に対応する研修も行
っている(図表4-16)。
図表4-15 アイシン精機人材育成センターの組織図
センター長
副センター長
企画・管理グループ
スタッフ系育成グループ
全社教育の企画・立案、施設運営・管理
スタッフ系(大学新卒者も含む)育成の企画・展開
アイシン高等学園
技能五輪チーム
技能五輪向けの高度技能訓練の企画・実施
技能検定チーム
技能検定資格試験の企画・運用
学園生チーム
資料)ヒアリング資料より
81
学園生への基礎技能教育の企画・実施
図表4-16 アイシン精機の研修カリキュラムの例
研修名称
研修のねらい
実施時期
受講者数
受講日数
自分のマネジメントにおける強み、弱みを把握し、
今後の自己啓発に活かす
9月
35名
2日間
課長格知識研修
課長格として必要な知識の習得
(危機管理 等々)
1月
130名
2日間
キャリア開発研修
キャリア意識の醸成及び方向性の明確化
2月
120名
1日間
専門職1級知識研修
専門職1級として必要な知識の習得
(就業管理、安全衛生 等々)
1月
120名
1日間
問題解決(応用)研修
問題解決の考え方の習得
6月~
200名
3.5日間
問題解決(基礎)研修
問題解決の考え方、手法(QC)の習得
7月~
300名
5日間
部長格候補者研修
中途入社研修
アイシンマンとしての基礎知識習得
毎月
不定
2日間
新入社員研修
アイシンマンとしての基礎知識習得
社会人としての意識醸成
4~6月
310名
90日間
資料)ヒアリング資料より
(3)アイシン高等学園
1977 年に設立された工業高等学校卒業者を対象とした1年制の企業内訓練校で、1年間
で実践的な技能と知識を習得することを目的としている。学園の定員は以前まで 60 名程度
であったが、2007 年は 110 人としており、全員が、人材育成センター内の寮に入っている。
寮には、海外からの研修生が 10 数名学んでおり、女性も数名いる。
4)東海地方での取り組みのまとめ
東海地方の主要な3社、トヨタ自動車、デンソー、アイシン精機が取り組んでいる人材
育成の取り組みを概観してきたが、その特長の1つは、各社とも人材育成の方針や考え方
がしっかり確立されていること、またそれらを伝承するための社内教育機関が整備されて
いることである。2つめは、高校生以上の学生に対する教育は、社内のいずれかの機関で
行われていること、3つめは、人材育成の内容がカーエレクトロニクスだけではなく、会
社のマネジメントから整備部門まで広く用意されていることである。
そのほかにも、海外からの研修生の受入体制が整っており、実際に受け入れていること、
反対に国内の社員に対してもグローバルな視点で教育していることも特徴的である。これ
は、自動車産業のグローバル化がかなり進展しており、海外の生産拠点が増え、社員を海
外に派遣するあるいは赴任させる機会が増えていること、また、海外の現地法人の優秀な
スタッフを日本で教育し、各社の考え方などをしっかり教育する必要性が高まっているこ
とを表していると言える(図表4-17)
。
82
図表4-17 トヨタ自動車・デンソー・アイシン精機での人材育成の主な取り組み
機 関
社内
トヨタインス
ティテュート
デンソー工業
アイシン人材 アイシン高等
豊田工業大
トヨタ自動車 デンソー技研
トヨタ工業学園
技術短期大
育成センター 学園
学
大学校
センター
学校
○
○
○
○
○
社会人
対
象
者
大学院生
○
大学生・高専
○
学生
専門学校
○
高校
○
マネージメント
マーケティング
対
象
分
野
○
○
○
○
エレクトロニクス
○
○
○
○
○
技能・機械
○
組み込みソフト
その他
○
○(整備)
資料)九経調作成
83
○
○
○
○
○
○
○
○
第3節
九州地方での人材育成状況
九州の自動車産業の成長と比例して、九州の各企業、教育機関(大学や専門学校)、行政
機関の自動車関連産業の人材育成に関する取り組みが活発化している。ここでは、直近
の動きをまとめ、それぞれの分野が取り組んでいる方向性などについて明らかにする。
1)企業・団体の人材育成の取り組み
九州で自動車産業が興り始めた状況下では、各企業の人材育成の取り組みは、あまり目
立ったものではなく、地場企業に自動車産業への参入を促す組織の結成など、人材育成よ
りは地場参入・部品調達のための取り組みが見られる程度であった。
九州での自動車産業が拡大してきたこの数年、完成車メーカーや1次サプライヤー、新
規参入企業において、人材育成の取り組みも活発になってきてきた。大別すると、完成車
メーカー内の技能研修施設の設置、生産方式の伝授や地場企業育成のための組織立ち上げ、
部品メーカーや新規参入企業の調達ネットワーク組織化などである(図表4-18)
。
これらの動きは、九州が自動車産業の更なる拠点集積地として根付いていくために、自
動車産業に関わる人材の技術を育成するということによって、企業の育成につなげたいと
考えていることによる。
図表4-18 最近の企業・団体の人材育成の取り組み
企業・団体
時期
取り組み内容
リングフロム九州
2000.11
アイシン九州が中心となって結成された共同受注組織で、営業力などで劣る地場の中小企業
の競争力強化や技術研鑚などを行う生産連携組織。会員数は約40社。
トヨタ自動車九州
2005.03
社内に「トレーニングセンター匠の心・技・体」開設し、模擬製造ラインなどを設けて、新入社
員の基礎訓練から高技能取得のための専門教育を行うはか、地場企業の育成拠点にも活用
日産自動車
2007.04
日産自動車九州工場内に設けられた技能伝承を集中的に訓練を行う「日産九州スキルセン
ター」を開設。高度技能士など資格取得の支援や外国人及び女性労働者などの支援も積極
的に行っている。
トヨタ九州
モノづくり研究会
2007.07
トヨタ自動車九州が中心となって組織した研究会。自動車関連事業の拡大や新規参入を目
指す地場企業への「トヨタ生産方式」を伝授して地域的な拠点を目指す。中心はトヨタ九州他
一次部品メーカー九社。
トヨタプロダクション
エンジニアリング
2008.3
(予定)
トヨタの生産ライン設計を手がける同社が、同社技術センター内に人材育成施設「ものづくり
人財育成センター」を建設。社内向けの全般的教育と地域に開放した地元メーカー及び工学
系学生向けの教育も実施する予定。
資料)新聞、HP などから九経調作成
84
2)大学・専門学校などの教育機関の人材育成の取り組み
大学や専門学校などの教育機関が自動車産業へ送り込む人材の育成に関する取り組みも
多岐にわたっている(図表4-19)。
九州で自動車産業の更なる集積発展のためには設計開発分野の存在が必要といわれてお
り、それに呼応したように九州工業大学や九州大学が自動車の設計開発に関する人材の育
成に取り組むカリキュラムを設置する。また、北九州産業学術推進機構(FAIS)が中心と
なって設立を予定している「カー・エレクトロニクス連合大学院」は、自動車のコンピュ
ータ化に対応した人材育成に取り組む予定となっている。
一方、自動車産業の基礎となる金型人材の育成や生産工場でのライン組立業務などに従
事する人材の育成に取り組む機関も出てきている。九州が強みとされてきた豊富な理系人
材の供給は、九州への自動車産業の集積が進んだことにより、少しずつ変化を見せ始めて
いる。九州が主に生産工場として発展してきた歴史から、元々輩出される人材もそれらに
応じたものが中心であったが、今後は、設計開発に関する人材育成にも取り組み、更なる
自動車産業の集積に寄与することが求められる。
図表4-19 最近の大学・専門学校のカリキュラムに関する動き
機 関
内 容 ( 目 的 )
実施時期
九州工業大学情報工学研究科 2008.4~
定員
大学院に金型技術に特化した「デジタルエンジニアリングコース」開設
(自動車部品量産用の金型技術者の養成)
約50名
九州工業大学
2008.4~
機械工学と電気・電子工学を融合させた「総合システム工学科」開設
(次世代自動車の技術者養成)
51名
麻生塾
2008.4~
専門学校「麻生工科自動車大学校」の開設
(自動車・ロボット関連の技術者養成、自動車整備や開発設計など4学科)
225名
九州大学統合新領域学府
2009.4~
大学院に「オートモーティブサイエンス(自動車学)」を開設
(自動車に関する横断的な教育、他大学との連携も模索)
24名
北九州市立大学、九州工業大学
2009.4~
早稲田大学
「カー・エレクトロニクス連合大学院」の開設
(北九州産業学術推進機構(FAIS)主導による車工学大学院)
約60名
資料)新聞記事、HP などから九経調作成
3)行政の取り組み
九州の自動車産業に関連した人材育成の取り組みは、
九州各県が一体となって取り組んで
いる推進会議を除くと、まだ大きな取り組みにはなっていない。
北九州市が設立した「カー・エレクトロニクスセンター」は、全国的にも珍しい取り組み
で、行政と企業・大学の産学官が一体となって具体的な人材育成の取り組みを進めている。
また、自動車の設計開発部門の誘致に繋がるマイコンのソフトウェア開発である組込みソ
フト分野への取り組みが活発になってきているのも特徴的である(図表4-20)。
85
図表4-20 九州の行政機関が関わる人材育成への取り組み
団 体 名
設立時期
協力組織
内 容
九州自動車関連産業振興連携会議
2006.11.22
沖縄を除く九州7県
(山口県はオブザーバー)
九州7県が一丸となり、九州全体として競争力を高め、国内外との地域
間競争で優位に立つための会議、合同商談会やパンフレット作成、研
修会の相互活用など
県自動車関連産業人材育成委員会
2007.4~
福岡県
福岡県教育委員会
北九州市の四工業高校でカーエレクトロニクスなどの先進技術を取得
させる
(経済産業省が行う「中小企業ものづくり人材育成事業」の一環)
カー・エレクトロニクスセンター
2007.7.1
九州組み込みシステム協議会
2007.11.29
企業、大学、行政等多数
組み込みソフトウェア委員会
2007.12.12
福岡県
組み込みソフトの技術者養成、研究開発や技術交流などを実施
(シリコンシーベルト福岡構想の一環、講座なども別途実施)
福岡市組み込みソフト開発応援団
2007.12.25
福岡市
組み込みソフトの事業に興味のある企業への研修、共同受注の促進
人材育成と研究開発を中心とした、北九州市のカーエレクトロニクス拠
北九州市
(財)北九州産業学術推進機構 点構想の中核を担う推進機関
組み込みシステムについて産学官一体となって取組むための組織
資料)九経調作成
*九州各県・地域で組織されている自動車産業振興組織
九州には全体的な組織として、先の九州自動車関連産業振興推進会議があるが、
それ以外にも、各県単位で任意の別組織が存在する。それぞれが取り組んでいる内容
は、人材育成を目標には掲げておらず、受注拡大あるいは新規参入のための商談会実
施や、完成車メーカーなどから役員等を招聘して行うセミナーや講演会、情報提供な
ど、ほぼ似通った内容である。佐賀県や大分県などでは、一部人材育成も取り組み項
目に加えているところもある。
(図表4-21)
図表4-21 九州各県の自動車産業に関する組織一覧
地域
各
県
地
域
団 体 名
関係自治体
設立時期
会員数
北部九州自動車150万台生産拠点推進会議 ※
福岡県
2006.8.7
365
佐賀県自動車産業振興会
佐賀県
2006.10.10
75
長崎県自動車関連産業振興協議会
長崎県
2007.3.27
49
熊本県自動車関連取引拡大推進協議会
熊本県
2005.9
140
大分県自動車関連企業会
大分県
2006.2.8
113
宮崎県自動車産業振興会
宮崎県
2006.10.31
49
鹿児島県自動車関連産業ネットワーク
鹿児島県
2006.7.26
86
北九州地域自動車部品ネットワーク
北九州市
2005.11.7
51
飯塚地域自動車産業研究会
飯塚市、嘉麻市
桂川町
2006.7.19
31
直鞍自動車産業研究会
宮若市、直方市
鞍手町、小竹町
2005.12
47
行橋市自動車産業振興協議会
行橋市
2006.1.27
不明
苅田町自動車産業振興協議会
苅田町
2006.8.31
23
豊前地域自動車産業参入協議会
豊前市
2006.10.13
37
大牟田自動車関連産業振興会
大牟田市
2006.5.22
21
※前身の北部九州自動車100万台生産拠点推進会議の設立は2002.2.7
注1 会員数は直近のもの、企業・支援機関などを合わせたもの
資料)九経調作成
86
4)産学連携での人材育成
昨年、九州内の大学と企業や団体などの外部組織が自動車産業に関連した協定を結んだ
ケースが何件かあった。九州工業大学と大分県との協定は、自動車産業だけに限っていな
いが、金型や半導体など九州工業大学の持つ強みが、大分県内の産業界で活かされること
が期待されている。
その他の3協定は、①大学が自動車産業に送り出したい人材の育成と高度な研究に取り
組めること、②完成車メーカー及び研究機関が行いたい研究開発を大学と協力できること、
③将来的に欲しい人材を育成してもらえることというそれぞれの利点が合致したものであ
る。
学生がインターンシップなどで実際に企業のことを肌で感じられることや、自動車産業
に必要な人材が育てられることなども、大きな成果になりうるだろう(図表4-22)。
図表4-22 2007 年に大学と企業等が結んだ協定
大 学
締結時期
協定先
九州工業大学
2007.8.8
大分県
久留米工業大学
2007.9.6
日本自動車研究所
(JARI)
久留米工業大学
2007.11.1
ダイハツ九州㈱
九州工業大学
情報工学部
2007.11.1
日本自動車研究所
(JARI)
内 容
①大分県内の研修会や県立工科短期大学校への九工大教員派遣
②大分県内の企業技術者が九工大で研修
③九工大学生が大分県内の企業で研修
研究者や教職員の相互交流やインターンシップ、共同研究
①教育内容や方法等についての情報及び意見交換
②学生のインターンシップ
③産学交流の促進と地域貢献
研究者や教職員の相互交流やインターンシップ、研究データの交換
資料)新聞記事などから九経調作成
5)九州地方での取り組みのまとめ
九州での人材育成に向けた取り組みの特長は、1つは、企業、大学、専門学校、行政機
関など、あらゆる分野での取り組みが活発であるということである。次に、マネジメント
やマーケティングなど自動車産業関係の経営に関わる人材育成の動きが少ないことである。
3つめは、カーエレクトロニクスや組込みソフトなど、自動車やその周辺機器の設計開発
に関わる分野への取り組みが目立つことである(図表4-23)。
87
図表4-23 九州での最近の主な人材育成の動き
日産自動車
トヨタ自動車九
スキルセンター 州チーム九州
機 関
社内
○
社会人
対
象
者
北九州市学
トヨタプロダク 九州工業大 九州工業大 九州大
術推進機構
連合大学院 麻生塾
ションエンジ デジタルエン 総合システム オートモーティブサ
(FAIS)
カーエレクトロニクス 自動車大学校
ニアリング ジニアコース 学科
イエンス
車載半導体
講座
○
○
○
○
大学院生
△
大学生・高専
○
○
○
福岡県産業・科
学技術振興財
団(FIST)
システムLSIセン
ター講座
○
○
○
○
○
○
○
○
学生
専門学校
○
高校
マネージメント
マーケティング
対
象
分
野
技術・技能
○(検討)
○
○
○
○
エレクトロニクス
○
○
○
○
○
○
○
○
組み込みソフト
その他
○(整備)
資料)九経調作成
88
第4節
カーエレクトロニクスを支える人材育成
1)自動車産業の人材育成における東海地方と九州地方の比較
(1)東海にあって九州にないもの
専門的人材を育成するビジョンと教育機関
東海で取り上げたトヨタ自動車、デンソー、アイシン精機の3社は、自動車産業でいえ
ば 60、70 年の歴史がある。人材育成の仕組みも、企業の歴史とともに作り上げられてきた
部分が多い。そこで九州との比較ではっきりすることは、各企業が人材育成に関して確固
たるビジョンを確立していること、大事なビジョンを伝承する研修などを絶えず行ってい
く人材育成制度を会社として備えていること、そしてそれらの人材育成を行うための企業
内研修施設及び技能者養成の企業内訓練校を備えていることである。また、それらの訓練
施設では、日本人だけではなく、海外からの研修生を積極的に受け入れていることも大き
な違いである。
(2)九州にあって東海にないもの
九州が一体となって取り組む姿勢
九州では、行政だけでなく、企業や大学においても、様々な連携や取り組みによって、
自動車産業の振興に一体的に取り組んでいる。自動車産業の集積がまだ十分ではないこと
を示しているとも言えるが、逆に言えば、九州にはまだ伸びしろが残っており、そこを伸
ばすべく産学官が一体となって取り組んでいるといえる。
政府が検討している道州制導入の議論でも、九州ではすでに九州地域戦略会議などで進
んだ議論がなされるなど、地域一体として取り組む気運も高く、自動車産業でも同様の取
り組みが期待できる。
(3)九州に足りないもの、ないもの
東海地方の視点からみれば、マネジメントなど九州の自動車産業を経営面から引っ張っ
ていくような人材を育成する部門や機関はほとんどない。現在はこれまでの大学での一般
的な教育を受けた人材を育てるか、九州外の本社から人が派遣されて携わっている場合が
多い。そういう意味で、九州大学にオートモーティブサイエンスという自動車専門の大学
院が設置されることは、期待されるあらたな取り組みである。
また、自動車産業の事業展開がグローバル化している今日、九州の自動車産業は、海外
のライバルの存在も視野に入れなければならない。自動車や自動車部品の輸出をはじめと
する完成車メーカーや1次サプライヤーの海外展開、現地法人化、人材育成機関への海外
からの受け入れなど、海外との繋がり抜きには関係は保てない。幸い、九州は関東や東海
地方に比べても、韓国や中国などの東アジアへの地理的優位性を持っている。文化的な交
流や経済的な交流も盛んであるので、今後の発展のために、自動車産業におけるアジアと
89
の関係を強化することも重要となる。
2)今後の人材育成の取り組みで求められるもの
これまでを振り返って、今後九州で求められることは、東海地方や関東地方など、先進
的な地域に追いつき、追い越すほどの強力で一体的な取り組みをすすめることである。そ
のためには、企業や行政機関がバラバラに取り組んでいる取り組みを一緒に行っていく必
要がある。その際、企業ニーズが一番重要であると考えられるので、様々な取り組みに対
する完成車メーカーや1次サプライヤーなど企業の積極的な関与、取り組みが必要になっ
てくる。
産学官連携による自動車産業振興の旗振り役の存在
九州に求められる取り組みとして、将来的な自動車関連人材育成の方向性を決定し、推
進していく機関の設立があげられる。現在、企業、大学、行政機関それぞれが、各自で、
あるいは一部で横断的に連携しているものの、その足並みは揃っているとは言い難い状態
である。今後、国内の他地域やアジアなど諸外国との競争に直面するなかで、九州内での
自動車産業推進の方向性を決定・実施する自動車産業推進機構(仮称)のような存在が求
められる。
たとえば、現在九州7県(山口県はオブザーバー)だけで組織されている「九州自動車
産業振興連携会議」を発展させる形で、トヨタ自動車九州や日産自動車などの完成車メー
カーや自動車関連部品メーカー、大学などの研究機関にも加わってもらい、数十年後の九
州の自動車産業のビジョンを描くとともに、その中でビジョン実現に不可欠な人材育成方
針や教育プログラムなどを策定することが想定される。その機関の下に、産学官が方針や
プログラムに沿った形で人材育成を行う重層的な機関ができれば、より最適な人材育成が
できると思われる。そのような機関が、九州での自動車産業が将来にわたって続く発展の
礎となると同時に、韓国や中国などアジア各国との連携のハブとして機能することが期待
される。
カーエレクトロニクスを含めた自動車専門の教育機関の設立
人材育成面で九州に足りないものは、トヨタインスティテュートやデンソー技研センタ
ー、アイシン人材育成センターなどの、自動車産業の基礎からカーエレクトロニクスなど
の応用分野、自動車産業に取り組む姿勢や生産方法などをオールマイティに学べる人材育
成・養成・研修機関である。九州においては、企業内に専門機関を設置するのではなく、
先に掲げた「九州自動車産業推進機構(仮称)
」のような事務局の中に教育機関を置き、人
材育成における拠点としての役割を果たすことが望ましい。
ただし、当面は北九州市産業学術推進機構のカー・エレクトロニクスセンターの取り組み
や、九州大学や九州工業大学で行われている学科等の改組や北九州市の3大学の連合大学
90
院設置のような、電子・電気系から情報系まで幅広く学びながら、カーエレクトロニクス
への取り組みを進めていくことが重要である。
行政による人材育成
余力がある企業は独自で人材育成に取り組むことができるし、大学は研究や人材を供給
する立場から自ずと人材育成に取り組むので、主体的に人材育成が行われる。そう考える
と、行政が力を入れて取り組むべき人材育成は、将来自動車産業の担い手、あるいはユー
ザーとなる次世代の子どもたちの育成と、人材育成に資源を投入する余裕に乏しい中小企
業や新規参入企業への支援が中心となる。
理科離れが進んでいるといわれて久しい状況だけに、子どもたちに自動車産業などの「も
のづくり」や「エレクトロニクス」に興味を抱いてもらい、将来自動車関連産業に就職す
る人材を育成することは、行政がやらなければならない一番大事なことかもしれない。
また、中小企業や他分野からの新規参入企業などは、資金的な余裕や人的余裕もあまり
ないと考えられるため、低利な貸付や補助金などの資金的な援助やアドバイザー派遣や新
規雇用への助成などを絶えず行っていく必要があるだろう。
91
92
第Ⅴ章
自動車と半導体の融合による新産業創造に向けて
ここでは、自動車産業と半導体産業の融合による新たな産業の創造に向けて、九州のポ
テンシャルを改めて検証し、ビジョンをまとめるとともに、ビジョン実現のためのプラン
を提示する。
第1節
九州のポテンシャル
1)国内有数の自動車産業・半導体産業集積の存在
九州は自動車産業、半導体産業いずれも集積が進んでいる地域である。自動車について
は、3の完成車工場をはじめ、700 を超える関連部品メーカーが立地している。完成車工場
はいずれも各社最新鋭の工場であり、生産効率も優れている。近年、半導体産業において
も、大手 IDM を中心に 850 社にも及ぶ半導体関連メーカーが集積している。半導体設計・
システム設計から半導体デバイス製造に至る各工程だけでなく、製造装置、関連設備、商
社といったサポーティング企業も多く、バランスのとれた構成になっている。
2)グローバル化時代の開発・生産拠点としての地理的優位性(アジアとの近接性)
九州のポテンシャルとして、アジアとの近接性もあげられよう。目まぐるしい速さで事
業のグローバル展開が進展する中で、市場としても生産拠点としても注目を集めるアジア
と地理的に近いということは、物流や情報交流などを円滑にすすめていく上で非常に有利
と考えられる。日産自動車九州工場のようにアジアのマザー工場として生産拠点に技術指
導する役割を担っているところもある。
3)高い生産技術力の存在
新産業創造に向けても重要な要素としてあげられるのは、高い生産技術力の存在である。
九州は自動車、半導体いずれの産業分野においても生産拠点としての要素が非常に強いが、
裏を返せばそこには高い生産技術力が根付いている。特に自動車と半導体の融合で新しい
産業を創造していくためには、研究開発、設計機能だけでは成立し得ない。新しいモノを
作っていくことも求められ、そこには高い生産技術が不可欠となる。
4)高い人材の供給力(理系人材・オペレーション人材)
人材供給力もまた九州のポテンシャルの高さを示すものである。自動車産業、半導体産
業が九州地域に集積した背景には、優秀な人材を採用しやすいということがある。九州で
は各地に国公立大学、私立大学の理系学部や高専があり、高度な理系人材が豊富である。
関東、中部地域では研究開発人材やオペレーション人材の不足が続いており、人材供給面
93
においても九州は非常に有利である。
5)産学連携・人材育成インフラ整備の進展
九州各地において産学連携の取り組みや人材育成のインフラ整備がすすんでいる。たと
えば、北九州市のカー・エレクトロニクスセンターが 2007 年7月に設立され、カーエレク
トロニクスに関する産学連携による研究開発が推進されるとともに、自動車関連企業や半
導体関連企業から現役の技術者を講師に迎えた講座が開設される。福岡地区で採択されて
いる知的クラスター創成事業においても、センサーやネットワーク(通信)といった次世
代カーエレクトロニクスの要素技術に関する研究プロジェクトが推進されている。また、
大学や専門学校、工業高校においても自動車産業、半導体産業に従事する人材の育成を目
的とした講座がスタートするなど、人材育成の基盤が整えられている。
6)リスク回避拠点としての地理的優位性
最後に、リスク回避拠点としてのポテンシャルが挙げられる。全国的に地震リスクが高
まる中、大手企業を中心にリスク回避に向けた様々な方策を打ち立てている。自動車産業
においては、2007 年夏の中越沖地震で被災した部品工場の稼動停止により、完成車組立工
場が数日間操業停止したことも記憶に新しい。今後の発生が懸念されている東海地震や東
南海地震、南海地震などに対するリスクヘッジの場として、九州は地勢的に優れている。
以上で挙げた地域のポテンシャルを活かして九州が目指す姿とは、「2次、3次サプライ
ヤー→1次サプライヤー→完成車メーカー」という自動車関連部品の各工程において、九
州域内の企業が関わるという形態である。従来の車体部品だけでなく、半導体関連部品を
多く搭載する電装品の一部が九州内で手がけられ、それが中部、関東だけでなく、アジア
の完成車組立拠点に供給されるようになるという構図である。そういった構図が実現され
ることによって、九州における自動車産業集積はより進むと考える。なお、九州内で手が
けられる電装品のターゲット分野としては、ITS 分野が考えられる。先に述べたように、ITS
分野は、今後の成長が期待され、従来の自動車産業分野だけでなく、半導体や情報通信な
ど幅広い分野を巻き込んでいくとみられる。九州という場のポテンシャルを生かせ、新し
い産業形成の種である。これを実現するためには、電装品を手がける1次サプライヤーの
誘致、既に九州に立地している1次サプライヤーの生産品目の拡大とともに、1次サプラ
イヤーを下支えする2次、3次サプライヤーの集積が九州域内でも高まることが求められ
る。
94
図表5-1 中部地域と九州地域における自動車関連部品の流れ(現在と 10 年後)
<2008年>(再掲)
中 部 地 域
地域内で関連
部品の商流が
成立している
完成車組立工場
完成車メーカー
関連部品
メーカー
1次サプライヤー
2次・3次
サプライヤー
九 州 地 域
完成車組立工場
関連部品
メーカー
電装品
メーカー
関連部品
メーカー
関連部品
メーカー
関連部品
メーカー
関連部品
メーカー
関連部品
メーカー
(加工)
半導体関連
メーカー
関連部品
メーカー
関連部品
メーカー
電装品、エンジン
系・懸架・操舵系
部品は九州域内
での商流が途切
れている
<凡 例>
関連部品
メーカー
(加工)
中 部
九 州
10年後
<2018年>
中 部
完成車メーカー
九州からも一
部の電装品を
供給
地 域
九 州
地 域
完成車組立工場
完成車組立工場
アジアの
完成車組立
工場へ
1次サプライヤー
2次・3次
サプライヤー
関連部品
メーカー
電装品
メーカー
電装品
メーカー
関連部品
メーカー
誘致・
新規参入
関連部品
メーカー
関連部品
メーカー
関連部品
メーカー
関連部品
メーカー
関連部品
メーカー
関連部品
メーカー
関連部品
メーカー
半導体関連
メーカー
関連部品
メーカー
(加工)
誘致・
新規参入
誘致・参入
による集積
<凡 例>
関連部品
メーカー
(加工)
中 部
九 州
関連部品
メーカー
素材メーカー
電装品分野において、製造工
程が九州内で成立する部品が
出てくる
関連部品
メーカー
素材メーカー
自動車関連部品メーカー
を支える関連メーカーの
集積進む
<フルライン型の自動車産業集積>
95
第2節
新産業創造の視点
1)開発拠点としての可能性
現在、自動車産業、半導体産業ともに企業集積が進んでいる。その多くは生産拠点とし
ての立地となっており、開発拠点の進出は一部に留まっている。今後九州において新産業
を創造する際に重視しなければならないのは、開発拠点の形成という視点である。開発拠
点を持つことによって、九州に、幅広い情報、頭脳も集まり、イノベーションや新産業の
形成の芽が生まれる。
自動車と半導体の融合によって新たに創造する産業は、特に九州で開発・設計を担える
分野に焦点を当てるべきである。例えば、将来普及が予想されている ITS 分野は、エンジ
ン、パワートレイン、駆動、操舵、ボデーといった自動車の基本動作に直接関わる分野だ
けに留まらず、通信やソフトウェア、コンテンツ、運輸サービス、社会インフラなどを幅
広く網羅している。自動車の基本技術の研究開発機能を本社地区から分離させることは難
しいが、ITS に関わる完成車メーカーや部品メーカーの専門以外の分野の研究開発・設計拠
点を誘致することは十分可能と考えられる。
また、既存の企業集積を背景に、生産技術の更なる高度化や信頼性・安全性向上に向け
た研究開発機能の強化は、新産業を創造するにあたって非常に重要な要素といえる。開発・
設計機能だけでは新産業は九州に根付かない。高い信頼性と安定した生産体制を実現する
ことによって、開発・設計から生産に至る全工程を担うことが可能となるからである。近
年はグローバルな競争の激化もあり、メーカーは原価低減に熱心に取り組んでおり、リー
ドタイムの短縮化もその1つに数えられる。開発から生産に至る工程が地域内にあること
によるリードタイムの短縮化は、大きな競争力となりうる。
<ポイント>●設計開発の基本は本部だが、その一部分の分担への対応
(ITS 等、生産カスタマイズ、生産技術、実証実験)
●生産技術強化や信頼性・安全性向上に向けた研究開発ニーズへの対応
●スピードへの対応(製造と設計の近接性の)
2)ターゲット領域
自動車産業と半導体産業の融合から生まれる新しい産業であるが、その領域は製造業に
とどまらず非常に幅広いものとなる。
新産業の領域として考えられるのは、自動車の既存のコア技術ではなく、将来的に自動
車を支える次世代の技術分野である。具体的には、ITS に活用される通信技術、安全や環境
に配慮した次世代エネルギー、新素材などである。また、自動車のエレクトロニクス化を
支えるのは、自動車の内部の部品だけではない。交通インフラなど外側のエレクトロニク
ス化も進まなければ、ITS 技術を最大限に活用することは不可能である。情報通信分野にお
96
いても、ITS で必要となるソフトウェア開発やコンテンツサービスなどが必要となる。そし
て、新しいサービスが本格的に立ち上がった場合、新産業の定着を図る上では、車載器や
各種センサ、ユニットといった機器、ソフトウェアなどの高度かつ安定的な生産技術も必
要となる。
自動車産業と半導体産業、情報通信産業はこれまで段階的に連携を深めてきたが、その
動きは限定的であった。しかし、カーナビゲーションの普及、ハイブリッドカーの登場、
ITS 分野の成長、その他の多機能化が進む中で、自動車、半導体、ソフトウェアを含む情報
通信の3分野が重複する部分が大きくなってきている。これらの重複領域を ITS 産業とし
て位置づけ、これを九州の次世代を担う新産業として捉えたい。従来の環境、安全、快適
性だけに留まらず、少子高齢化、中山間地域の過疎化といった社会情勢への対応といった
部分も、自動車に求められつつある。ITS 技術は、情報通信技術を活用してこうした新しい
社会ニーズにも対応可能と考えられ、今後ますます成長することが期待される。そして ITS
産業は、新しいクルマ社会“インテリジェント・カーアイランド”の核として重要な役割
を担っていくのである。
<ポイント>●将来の自動車を支える技術(情報通信、新エネルギー、新素材など)
●カーエレクトロニクス化を支えるインフラの分野(交通インフラなど)
●カーエレクトロニクス化に対応する情報通信分野(ソフトウェア、コンテンツサービス
など)
●自動車、半導体、情報通信産業の重複領域「ITS 産業」
図表5-2 カーエレクトロニクスの進展にともなう自動車・半導体・情報通信の連携の変化
第1段階(~1990年)
『環境から始まった自動車の電子制御』
第2段階(1990年代~2000年代)
『自動車の情報化始まる』
第3段階(2007年~)
『自動車が関わる新たな社会システム形成へ』
新領 域
ITS産業
インテリジェント・
カーアイランド
(社会システム)
情報通信
情報通信
情報通信
ITS産業
自 動 車
半 導
体
自 動 車
半 導 体
自動車
半導体
●排気ガス規制により電子制御本格化
●カーナビゲーションの登場(1980年代)
→本格的な電子制御の始まり
●カーナビゲーションの普及→情報通信分野との
連携本格化
●ハイブリッドカーの登場→搭載する半導体・
電子部品の点数急増
→環境に加え安全、快適性のニーズが高まり、
自動車は多機能化の方向へ
=更なるエレクトロニクス化
資料)九経調作成
97
●カーナビゲーションシステムの多機能化
(通信機能さらに拡大)
●自動車の多機能化
→自動車、半導体、情報通信の更なる連携
=新産業(ITS産業)
→新しい社会システム
「インテリジェント・カーアイランド」の形成
第3節
新産業創造ビジョン
新産業像
インテリジェント・カーアイランド九州
九州の強み、自動車産業、半導体産業の現状をふまえて、新産業像として「インテリジ
ェント・カーアイランド九州」を掲げるとともに、新産業実現に向けたビジョンとして「イ
ノベーションを起こす九州」、「高品質なものづくりを進化させる九州」、「新しいクルマ社
会を築く九州」を提示する。
新産業像の3つのビジョン
インテリジェント・カーアイランド九州実現に向けたビジョンとして、以下の3つを提
示する。3つのビジョンを実現することによって、自動車産業と半導体産業の融合がすす
み、九州はこれまで以上に元気になることが期待される。
図表5-3 新産業像「インテリジェント・カーアイランド九州」と3つのビジョンとプラン
新産業像
ビジョン
プラン
資料)九経調作成
98
図表5-4 ITS による将来の交通システムイメージ(再掲)
航空機
運行情報
船舶運航
情報
維持管理業務
の効率化
目的地域
情報
運行情報
所要時間
情報
バス内での
電車乗り
換え情報
電車、バス、
タクシー
運行情報
集荷、配送
情報
事故情報
商用車の
車群走行
緊急
自動車の
支援
特殊車両等
の管理
危険
防止
走行支援
歩行者
経路
誘導情報
オフィス内
での
公共交通
運行情報
駐車場
満空情報
自動料金
収受
システム
信号
制御
緊急時
自動通報
SA、PA で
の目的地
道路情報
電車、バス等
運行情報
バス停での
バス運行
情報
家庭内での
目的地、所要
時間情報
資料)国土交通省近畿地方整備局ホームページより
99
周辺施設
情報
インテリジェント・カーアイランド九州実現に向けたビジョン
その1 イノベーションを起こす九州
~九州からクルマにイノベーションを起こす~
自動車産業は、
「走る・止まる・曲がる」の基本機能を核として技術革新が起こっており、
その中心は完成車メーカーの本社機能・研究開発機能が置かれた中部、関東地区であった。
九州には生産機能しかなかったこともあり、技術革新という面で大きな波を起こすことは
非常に難しい状況にあった。しかし、自動車のエレクトロニクス化が進展し、車外との通
信、情報の送受信などによって自動車の安全性や快適性、機能性が高まることが期待され
ている。それは、自動車に情報を提供する外側の各種機器やコンテンツなど、
“自動車の外
からのエレクトロニクス化”の担う分野も多く含まれる。その1つである ITS 分野は、技
術の標準化、プラットフォームの構築などにおいて多くの課題があり、今から取り組みが
すすめられる分野である。
九州では、
“自動車の外からのエレクトロニクス化”に注目し、ITS 分野における様々な
技術開発を支援することで、九州から自動車関連分野における技術革新を起こしていく。
また、ITS と絡めて新エネルギー、新素材開発にも力を入れ、環境に優しい「九州カー」の
製作を目指して、産学官が連携を強める。
1)ITS の実証実験環境を確立する
ITS 分野に力を入れるため、10 年、15 年先の将来を見据えた研究開発を行うことも非常
に重要であるが、九州には現時点で ITS 分野に特化した研究機関や研究開発機能を持つ企
業は立地していないのが実情である。今後、九州地域において ITS 産業を根付かせるため
にも、ITS 分野の研究開発と同時並行で現段階から実績を重ねていくことが重要である。そ
こで注目されるのは、ITS 分野の実証実験である。
ITS 分野での技術の世界標準化を目指すためには、自動車業界での共通化を進めるために、
特化した分野での技術標準を取得するというのも重要であるが、それに加えて、完成車メ
ーカーが共同で実験できるコースが必要となる。研究開発の初期段階では、完全にクロー
ズドな空間が必要となるが、技術がある程度成熟段階に入ると、オープンな環境での実験
が行われる。九州は都心部から山間部、寒冷地から温暖地まで、様々な条件での実験が可
能となる。
最初は限定された地域での実証実験を開始し、実績を重ねることによって研究開発機能
を持つ企業や研究機関の集積を高めるとともに実証実験可能な範囲を拡大し、最終的には
九州全体が大きな実証実験区域となるような環境整備が必要である。「九州に行けば ITS に
関して様々な実証実験が行える」というイメージを完成車メーカーや部品メーカーに持た
100
れるためにも、実証実験環境の整備に力を入れる。実証実験特区申請を積極的に行ってい
くほか、実証実験環境向上に向けた各種法規制の調整やインフラ整備も推し進めていく。
*ITS 分野の実証実験を行うための環境整備(特区申請、許認可取得)
*閉鎖型、半閉鎖型の実証実験コース整備
*公道の実証実験に向けた環境整備(インフラ整備、住民理解)
2)ITS 分野の研究開発環境を整備する
ITS 分野での実証実験の実績を重ねるとともに、実証実験を企画・実行する研究開発機
能の集積が必要である。自動車の技術開発スパンは非常に長く、4、5年先の技術はすで
に確定しており、10 年先の技術についても研究開発が始まっているものが多いと言われる。
九州において自動車分野の研究開発に力を入れていくためには、従来の機械工学、電子工
学、情報工学、材料工学といった工学分野に限らず、生命体科学や脳科学、人工知能やデ
ザイン、心理学、医学といった分野との連携を通じて、未来の自動車開発に関わる技術の
研究開発にいち早く着手することが求められる。
その中で注目されるのは、北九州市の取り組みである。現在、北九州市は総務省のユビ
キタス特区の承認を受け、2008 年度より北九州市エリアで IT(情報技術)分野の研究開発
のために空き周波数帯の電波利用が可能となった。自動車業界では、地上デジタル放送が
本格化する 2011 年以降、アナログテレビ放送が使っている部分の周波数を使って ITS 関連
のサービス展開を考えている。北九州市は今回の特区認定を受け、北九州市学術研究都市
を後背地として、研究開発を同時並行で行いながら、実証実験可能な環境を整えようとし
ている。ユビキタス特区認定を受けている地域の多くは、完成車メーカー、あるいは関連
部品メーカーを中心とした実験を予定しているが、北九州市では地元の企業や大学などの
存在を最大限に活用することを考えている。
図表5-5は、全国の ITS 分野のユビキタス特区の承認を受けた地域をまとめたもので
あるが、北九州市は北九州学術研究都市の研究環境を活用することができる環境であるこ
とに加えて、特定のメーカーが関わっているという状況に置かれていない。不特定多数の
完成車メーカー、自動車関連部品メーカーのアクセスが可能という状況を活かして、ITS 実
証実験場としての強みを発揮していくことが求められる。
北九州市の取り組みを先進事例として、将来的には九州全体で企業、大学が連携して共
同開発や実証実験が進められる環境を整えていく。
*ITS 分野の情報発信強化(シンポジウム、ワークショップ等の開催)
*実証実験を担当する研究開発体制整備(大学、研究機関の機能強化、企業誘致)
*工学以外の学術分野を含めた研究開発環境整備(研究者招聘、共同研究支援)
101
図表5-5 ユビキタス特区の ITS 分野の対象地域
類型
ITS
対象地域
提案組織
対象プロジェクトと実施概要
網走市
株式会社デンソー
網走市
車車間通信による安全運転支援システム
つくば市
横須賀市
トヨタ自動車株式会社
株式会社デンソー
富士通株式会社
日本電気株式会社
住友電気工業株式会社
沖電気工業株式会社
株式会社日立製作所
独立行政法人情報通信研究機構
株式会社トヨタIT 開発センター
路車間+車車間通信によるインフラ協調
安全運転支援システム
愛知県
豊田市
長久手町
トヨタ自動車株式会社
愛知県豊田市
株式会社デンソー
富士通株式会社
日本電気株式会社
住友電気工業株式会社
沖電気工業株式会社
株式会社豊田中央研究所
株式会社トヨタIT 開発センター
千葉県
木更津市
富士通株式会社
トヨタ自動車株式会社
株式会社トヨタIT 開発センター
路車間+車車間通信によるインフラ協調
安全運転支援システム
茨城県
神奈川県
つくば市
横須賀市
沖電気工業株式会社
株式会社豊田中央研究所
独立行政法人情報通信研究機構
車車間通信用周波数利用技術の実証
広島県
広島市
マツダ株式会社
モバイルWiMAX等を活用したサーバ型運転
支援サービス
福岡県
北九州市
北九州市
カー・エレクトロニクス・サービス
北海道
茨城県
神奈川県
路車間+車車間通信によるインフラ協調
安全運転支援システム
資料)総務省ホームページ
3)Q-CAR(九州カー)を開発する
ITS 分野での実証実験や研究開発実績を重ねることで、地域特性も反映した九州の得意分
野が見えてきた時には、地域独自の ITS 技術を取り込んだ関連機器やソフトウェアの開発
ができるようになる。
九州に立地する完成車メーカーと連携してのオリジナル自動車の開発に加え、九州の社
会情勢や地理的特性から出てくるニーズを解決する自動車を開発する。たとえば、高齢化
や中山間地域、増える外国人観光客への対応といった背景から、中山間地域で一人暮らし
をしている高齢者が居住地域内を気軽に回ることのできるような小型自動車や、外国人観
光客が気軽に利用できる外国語対応のカーナビ搭載の車両、テーマパークや公園、病院施
設といった限られた地域を周遊可能な小型電気自動車の開発などが考えられる。トヨタ自
動車九州が有田焼のシフトレバーを開発したが、そうした地場産品を自動車の用品に取り
入れるなどして、内装部分も九州の独自色を打ち出していくことが大いに可能である。
また、九州はもともと石炭に端を発し、現在の太陽光発電に至るまで、エネルギーと密
102
接に関わってきた。九州大学がすすめる水素エネルギー燃料電池に関する研究や、九州電
力と三菱重工業が共同ですすめるリチウムイオン電池の研究など、次世代自動車に利用さ
れるエネルギー研究も活発に行われている。鉄鋼や化学といった素材分野でも多くの企業
を生み出してきた地域でもある。新エネルギーや新素材に関する研究も盛んであることか
ら、ITS 技術と絡めて、環境配慮型の九州カー製作を実現する。
*地域特性を背景に九州独自の ITS 関連機器・ソフトウェア開発
*技術の標準化取得(完成車メーカー、関連部品メーカーと連携)
*エネルギー系、素材系の企業、研究機関との連携強化
*車両開発・設計体制の構築
*走行実験・各種検証
図表5-6 Q-CAR(九州カー)のイメージ
九州からイノベーションを 発信
○ITS関連機器・ソフトウェア
○各種技術の標準化
○基礎研究から実証実験
○新エネルギー・新素材開発
九州の地域性を反映
メイド・イン・九州
○高齢化社会
○中山間地域
○外国人観光客対応
○風水害情報同時配信
○地場産品の用品への活用
○車載デバイスの開発・製造
○車体の設計・開発・製造
○電装品の開発・製造
○ソフトウェアの開発
○開発から組立まで
Q-CAR
(九州カー)
資料)九経調作成
103
1つ1つステップを上がる
ITS をターゲットに実証実験を開始し、実証実験の実績を積み重ねることを最初のステッ
プとすると、次のステップは、実証実験の環境と実績に着目した企業や研究機関の九州進
出、あるいは九州の大学や研究機関との連携を通じての繋がりを強化する。そして、その
次のステップとして九州域内で企業や研究機関が研究開発から実証実験、製品化まで展開
するようにする。実証実験からスタートして、段階毎に企業や研究機関が九州域内で手が
ける工程の中身は厚く、技術レベルも高いものとなっていくことを目指す。
図表5-7 実証実験から研究開発へ
資料)九経調作成
104
インテリジェント・カーアイランド九州実現に向けたビジョン
その2 高品質なものづくりを進化させる九州
~より質の高いものを安定供給する~
九州では、これまでの自動車産業、半導体産業の集積によって、非常に高度な生産技術
が育まれてきた。生産技術はものづくりにおいて不可欠なものであり、グローバルな競争
が激しくなる中、九州の競争力として非常に重要である。
今後、自動車産業と半導体産業の融合に伴って、関連製品の生産に必要な技術は更に高
度化していくことが予想される。これまで培われてきた高い技術力の更なる進化を支援し、
高い評価・解析・検査技術を以て、九州は今後も自動車産業、半導体産業に質の高い部品
を安定供給していく。安定供給できる協力企業の存在は、日本国内で新たな拠点作りを目
指す企業にとって進出先としても非常に魅力的に映り、結果として、自動車産業、半導体
産業の企業集積に厚みを増すことにつながる。
1)自動車、半導体双方の企業集積を更に高める
九州域内で自動車産業、半導体産業の融合をすすめるためには、そのプレイヤーとなる
企業の定着に努めることが重要である。特に、九州には自動車の電装品関連部品を手がけ
る企業の立地が限られており、それが自動車産業と半導体産業の融合の妨げとなっている
ことは先にも触れたとおりである。その背景には、九州域内での必要量が投資に見合わな
いといった状況もあるが、それに加えて関連部品企業を支える協力企業の不足があげられ
る。精密加工に加えて、鋳造、鍛造、熱処理、表面処理、めっきといったサポーティング
分野の企業が少なく、結果として電装品メーカーは協力企業が多く存在する中部や関東で
生産能力を高めている。
研究開発から生産に至るまでの工程を九州域内で完結するためには、それをサポートす
る協力企業の育成、誘致にも力を入れていく。サポート体制を整えるとともに、電装品メ
ーカーの誘致や生産品目の拡大に向けて働きかけていく。
*電装品メーカーの誘致、生産品目拡大に向けた働きかけ
*自動車産業、半導体産業を支えるサポーティング産業の育成、誘致
2)生産技術の向上を支援する
九州にはこれまで 40 年近くにわたる半導体生産、そしておよそ 30 年にわたる自動車生
産の歴史があり、同時にそれは九州に生産技術が根付いてきたということを意味する。研
105
究開発機能の集積は薄くとも、高品質な製品を安定生産する技術の定着は一朝一夕では不
可能である。
研究開発から生産までの工程を九州域内で完結するためには、研究開発機能の定着だけ
でなく、それを製品化し、コンスタントに供給していく体制がないと実現できない。電装
品関連部品はより高水準な評価基準が設定されているものもあり、九州域内の企業にとっ
てはこれまで培ってきた生産技術を更に高めていくことが求められる。自社内での研究開
発のほか、メーカー同士の協業や大学・研究機関との共同研究など様々な形態での生産技
術向上に向けた取り組みが行われる際に、地域として大いにバックアップしていく。
*生産技術向上のための各種ツールの開発
*3DCAD などのツール導入に向けた支援
*生産管理・品質管理といった管理技術手法導入支援
*生産技術の開発に関する各種支援
3)評価・解析・検査技術の高度化を支援する
九州域内で研究開発が行われるようになると、それに関わる試作、評価・解析といった
ビジネスが生まれることが期待される。その際に、地元に評価・解析・検査を担当する企
業が存在しなければ、一連のビジネスが九州域外に流出してしまう可能性が高い。研究開
発から生産まで九州で一貫して行うためには、プレイヤーとなる企業の定着とともに、そ
うした企業を支える評価・解析・検査といった開発支援企業の存在が大きな鍵となる。自
動車関連部品に搭載される、車載 LSI や各種センサー、また組み込まれるソフトウェアも
重要である。
特に自動車業界では高水準の安全性・信頼性が求められることから、半導体や各種デバ
イス、ソフトウェアに至る部分までトータルで高いレベルの製品を提供できるよう、生産
技術や試験・計測技術の高度化、信頼性評価ツールの作成などについても更なる支援が求
められる。
*車載LSI・各種デバイスの高信頼性を支える生産技術・検査技術の高度化
*開発支援産業・機能の育成・誘致
*組込みソフトウェアの開発ツール
*信頼性評価ツール作成
106
技術の層を更に厚く
以上のことを推進することで、九州がこれまで蓄積してきた生産技術を更に向上させ、
新たな企業進出や参入企業の増加、評価・解析・検査技術の強化を図ることによって、域
内企業の技術力の向上が期待される。一連の取り組みによって九州における自動車産業と
半導体産業の技術の層は厚みを増すものとなる。
図表5-8 技術の厚みが増すことで九州企業の技術向上
資料)九経調作成
107
インテリジェント・カーアイランド九州実現に向けたビジョン
その3 新しいクルマ社会を築く九州
~クルマがもっと身近で、もっと便利な存在に~
自動車は、エレクトロニクス化の進展もあってその機能が変わると同時に、社会との繋
がりもより強くなると考えられる。ITS を推進するにあたって、人とクルマの関係が変わり、
新しいライフスタイルが誕生することが予想されるが、九州が ITS に力を入れることは、
新しい技術だけでなく、新しいライフスタイルも発信していくことになる。人々にとって
生活がより豊かになるツールとして、また“地域の特産品” という身近な存在としてクル
マを理解する人々を育むとともに、そうした人々が広く自動車産業、半導体産業を支えて
いく環境をつくる。
1)次世代の自動車産業を支える人材を育てる
自動車産業と半導体産業の融合をすすめるにあたって、ITS という新たな分野に着目して
いる。したがって、ITS 関連の研究開発に意欲的な企業や研究機関を誘致するだけでなく、
それらの企業や研究機関に従事する専門人材を九州で育てていくことも必要となってくる。
先にみたように、現時点において、九州でも次世代の自動車産業に求められる人材育成
に向けたプログラムが組まれつつある。今求められているのは、機械系、電気系を総合的
に理解する人材である。企業や研究機関にとってのマグネットとなるよう、業界のニーズ
を反映した人材を育てる仕組みをつくっていく。
エレクトロニクス化が進むとともに、社会システムとの関わりも強くなっている自動車
業界において、幅広い分野から自動車について学んだ人材は非常に必要とされている。た
とえば、大学課程では、総合的に自動車を学ぶプログラム「オートモーティブ・サイエン
スプログラム」の強化が求められる。機械、材料、電子といった従来の科目に加えて、ロ
ボットや生命体工学、人工知能、環境、エネルギーといったこれからの自動車に必要とな
るテーマも幅広くカバーする。また、経済学や経営学、法学といった角度からも自動車に
焦点を当てたカリキュラムを組み、理系、文系両方から自動車の理解を深めることができ
る環境を整える。
また、学生の理数離れが進んでおり、未来のエンジニアを地域で育てていくためにも、
幼少時から自動車や半導体のみならず、理数系科目に親しみを持てるような教育プログラ
ムを地域でつくりあげていく。
*自動車産業、半導体産業双方を理解する専門人材の育成
*学生対象の理数系科目のプログラム作成
108
2)ITS を活用したクルマ社会の提案とその推進(インフラ整備も含む)
ITS はこれから本格的に導入される技術であり、その活用範囲は非常に幅広いと期待され
ている。その中から、これまでにない産業やサービスが生まれる可能性は高い。ITS の実証
実験を重ねた中で出てくる新たなニーズやシーズを検証し、いち早く産業化、ビジネス化
を実現できる体制をつくっていく。九州に暮らす住民からも ITS が提供しうるサービスや
コンテンツについて広く意見を求めるとともに、検証時の協力を要請するなどして地域全
体で ITS を活用した新しいクルマ社会の仕組みを創り上げていく。
九州では、ITS 関連の旗振り役となる ITS 推進団体が存在しないので、まず、地域をまと
める団体を組織して、九州全体での機運を高めていくことが求められる。現在、各県にお
いて自動車産業振興協議会や各種推進団体が活動を行っているが、そうした団体とも連携
し、九州全体での自動車産業振興を図っていくことが望ましい。
*ITS 推進団体の立ち上げ
*ITS 関連ビジネスのテストマーケットとしての各種実験・検証実施
*ITS ベンチャー支援体制の構築(セミナー、商談会、資金援助など)
*ITS ビジネス関連の情報発信(展示会出展、フォーラム開催など)
3)“顔の見えるクルマづくり”の推進 ~オートモーティブ・パークの整備~
九州で完成車組立を開始してすでに 30 年が経過しているが、いまだに九州で自動車が作
られていることを知らない人も多い。九州においてカーエレクトロニクス化の進展をトリ
ガーとして産業振興を進めていくためには、九州に住んでいる人にとって、「クルマは九州
の特産品である」と印象づけるほどにクルマを身近な存在にすることが重要である。クル
マをテーマとした空間を作り、クルマに関する情報を発信することが求められる。空港や
駅といった国内外の人が多く降り立つ場所で車両を展示したり、情報コンテンツを流すこ
とでも大きな効果が期待される。
現在、九州にある完成車メーカーはいずれも工場見学を積極的に受け入れているが、完
成車組立工場とその周辺が一つのテーマパークのような空間を整備し、クルマを通じて
人々が集まるような場をつくることも考えられる。ドイツのラシュタットにあるメルセデ
スベンツの工場では、クルマの展示ホールに加え、新車受け渡しコーナー、ショップ、レ
ストランを備え、ベンツのオーナーに関わらず、人々が気軽に立ち寄れる空間になってい
る。現在、日本では工場で新車の受け渡しができない状況であるが、実現に向けて規制緩
和を働きかけるなどを積極的にすすめていきたい。
*情報発信の徹底
*完成車工場を中心とした自動車パークの整備
*工場での新車受け渡し実現に向けた規制緩和の取り組み
109
産業を支える人を域内で育てる
九州域内で人を育てることは大きな意味を持つ。まず、専門人材を育成することは、産
業を支える人を育てること意味し、企業や研究機関にとって立地選定や事業推進の際の大
きなマグネットとなりうる。それは、これから自動車産業、半導体産業に参入しようとし
ている地場の企業にとっても同様である。また、「運転する」「乗る」以外の形、たとえば
テストマーケットの商品ツールとして、また地元で作られている商品として触れることに
よって、人々は自動車を従来の自動車とは異なる角度から見ることにつながる。自動車を
より身近なものとして捉えることは、自動車産業やそれに関わる半導体産業、情報通信産
業を地元に根付いた産業として捉え、たとえば「自動車メーカーで働いてみよう」
「地元で
作られている自動車に関わる仕事をしてみよう」といった形で、人々が自動車とそれに関
わる産業により積極的に参画しようとする雰囲気を生み出す。地域の人々の産業への理解
の深化は、自動車産業や半導体産業の定着を大きく後押しするものである。
図表5-9 自動車のエレクトロニクス化の進展で関わる人の範囲も拡大
110
自動車産業と半導体産業の融合による
次世代カーエレクトロニクス産業創造可能性調査委員会
委
氏 名
名
簿
所 属
役 職
阿部 博史
九州日本電気株式会社
執行役員
河野 秋生
株式会社デンソー北九州製作所
取締役経営管理部長
城戸 宏史
北九州市立大学大学院
マネジメント研究科准教授
笹岡 賢二郎
経済産業省九州経済産業局
地域経済部長
武田 浩
日本政策投資銀行九州支店
次長兼企画調査課長
インターネットITS協議会
事務局長
福岡大学
工学部電子情報工学科教授
馬場 貞仁
トヨタ自動車九州株式会社
常務取締役
矢田 俊文
北九州市立大学
学長
財団法人九州地域産業活性化センター
常務理事
時津 直樹
友景 肇
○
員
田中 耕太郎
五十音順、○印委員長
自動車産業と半導体産業の融合による
次世代カーエレクトロニクス産業創造可能性調査
委 員 会 審 議 経 過
第1回委員会 平成 19 年6月 21 日(木)
15:30~17:30
財団法人九州地域産業活性化センター 702 会議室
・委員会の発足
・調査企画案の検討
第2回委員会 平成 19 年9月 21 日(金)
15:30~17:30
日本政策投資銀行会議室
・インターネット ITS 協議会事務局長 時津直樹氏の講演
・財団法人北九州産業学術推進機構カー・エレクトロニクスセンター
センター長 吉川実氏の講演
・中間報告
・アンケート、ヒアリング結果からみた九州の現状
第3回委員会 平成 19 年 11 月 22 日(木)
15:30~17:30
天神ビル 11 階7号会議室
・報告書(案)について
・自動車産業、半導体産業の融合の現状、新産業の方向性
・新産業の方向性の検討
第4回委員会 平成 20 年1月 25 日(金)
15:30~17:30
天神ビル 11 階3号会議室
・報告書(案)について
【事務局】
近藤
靖之 (財)九州地域産業活性化センター 業務部長
原田
泰宏 (財)九州地域産業活性化センター 開発部長
御沓
史郎 (財)九州地域産業活性化センター 企画部課長
高木
直人 (財)九州経済調査協会 調査研究部長
岡野 秀之 (財)九州経済調査協会 調査研究部主任研究員
平田
エマ (財)九州経済調査協会 調査研究部研究主査
葛西
正裕 (財)九州経済調査協会 調査研究部研究員
市川
真実 (財)九州経済調査協会 調査研究部調査役
インテリジェント・カーアイランド九州構想
~カーエレクトロニクスをトリガーとした新しい ITS 産業創造を目指して~
自動車産業と半導体産業の融合による
次世代カーエレクトロニクス産業創造可能性調査報告書
平成 20 年 3 月発行
発行 財団法人 九州地域産業活性化センター
〒810-0004 福岡市中央区渡辺通 5-14-12
TEL:092-713-6735、FAX:092-713-4292
印刷 アオヤギ株式会社
〒810-0004 福岡市中央区渡辺通 2-9-31
TEL:092-761-2431、FAX:092-761-0484
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