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フランス特許について
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フランス特許の取得
フランスにおいて有効な特許を取得するには、フランス国内特許として出願する方法と、欧州特許出願あるいはPCT出願
においてフランスを指定する方法がある。
但しフランスはPCT条約第45条(a)の取り決めを採用しているので、PCT出願においてフランスを指定しても直接フラン
ス国内に移行することは不可能で、広域特許である欧州特許にまず出願を移行する必要がある。(フランスと同様にPCT欧州特許ルートを採用している国はイタリア、ベルギー、キプロス、ギリシャ、アイルランド、モナコ及びオランダ)
本文はフランス国内特許出願についてのみ説明する。以下の説明は、EPC2000およびPLTとフランス特許法が整合する
よう公布、施行された2008年8月4日法によって改正されたフランス知的所有権法に基づいている。
出願
フランス特許出願は原則としてフランス語で行う。が、改正知的所有権法規則R612-21によると出願は外国語で行うこ
とができる、ことになった。この場合には出願後2ヶ月以内にフランス語への鏡翻訳を提出しなければならない。審査は
この翻訳を正本として行われる。さらには改正知的所有権法L612-2によると、クレームなしの特許明細書でも、また、
先の出願の情報を提供するのみでも特許出願日を確保できることになった。この場合には出願日から2ヶ月以内にクレー
ムまたは先の出願明細書、先の出願がフランス語でなければその鏡翻訳を提出する必要がある。
発明者は必ず指名しなければならない。また優先権証明書を提出する必要があるが、優先権書類の翻訳は必要ではない
(表紙だけは翻訳の必要がある)。フランスの代理人を通して出願するときには委任状は必要ではない。
方式審査
方式審査は予備サーチレポート作成手続きに入る前にフランス特許庁(INPI=フランス工業所有権庁と呼ばれる)で行われ
る。
出願明細書一式に漏れがないかが審査されるほかに、出願発明は特許を受けることのできる発明であるか、出願は一つの
発明のみを取り扱っているか(発明の単一性)が審査される。
特許を受けることのできる発明かどうか(特許要件)についてのフランス特許法取り決めは欧州特許条約が定めているもの
と全く同一である。特にコンピュータプログラムそのもの、ビジネスモデルは特許になり得ない。
発明の単一性に関するフランス特許法の規則も欧州特許条約と全く同一で、発明の単一性を出願が確保するにはクレーム
の全てが一つの共通した概念で繋がっている必要がある。
同じ出願内にたとえば製品、製品を得るための製造方法、及び製品の使用、についてのそれぞれの独立クレームを含むこ
とができる。この場合の共通の概念とは製品が持つ独自の特徴に具現されているからである。
また一定の範囲内ならばたとえば製品に関する独立クレームを複数含む出願も認められる。
それらクレームが製品の特徴を現わしていて組み合わされたとき先行技術を超える特徴の組合わせとして具現されるなら
ば発明の単一性がある、と認識されるからである。
が、2007年3月1日に施行された政令2007-280によってフランスは欧州特許条約旧実施規則29条(2)(EPC2000規則43
条(2))と全く同じ規則を採用した。従って今後は同じカテゴリーの独立クレームを複数含む出願に対しては制限が厳し
くなることが予想されている。
フランスの審査官は米国特許出願に見られるような同じカテゴリーの独立クレームが多数存在する特許出願は許容しな
い。この場合審査官は、出願人に対し、発明の単一性の維持のためにそれら独立クレームを主クレームとそれに繋がる従
属クレームを複数含むように書き直すように要求する。
発明の単一性欠如に基づく通知を受けたときには出願人はそのうちの一つの発明を選択し残りは放棄するか、どちらの発
明も確保したいときには同時に分割発明を出願することができる。一つだけの発明を選んだ場合でも出願人はその出願が
特許庁に係留中(特許料金を支払うまで)ならば残りの発明を後になってから分割出願することが可能である。
発明の単一性欠如に基づく拒絶通知は、予備サーチレポート作成前か予備サーチレポート発行と同時になされる。後者の
場合サーチは一つ目にクレームされた発明についてのみなされる。このため複数の発明を含むと判断される危険のある出
願を行う際には出願人にとってより重要な発明を第一クレームとして出願することが大切である。
予備サーチレポート請求手続き
予備サーチレポート請求は、出願から1ヶ月以内に行わなければならない、と規定が変更された。期限内に支払いを怠っ
た場合には、特許庁からその旨の通知を受けてから2ヶ月以内に50%の罰則金とともにサーチ費用を支払うことによって
請求が可能である(改正規則R612-5、R612-45)。
また特許出願人は、優先日から18ヶ月以内ならばその出願を実用証出願に切り替えることができる、と規定が改正された
(L612-15、R612-55)。実用証は、付与要件は特許と全く同じながら実体審査なしで交付される。存続期間は6年であ
る。
欧州特許庁のサーチレポートと同じ体裁をなしたサーチレポートをフランスでは予備サーチレポート、と呼んでい
る。2005年7月1日の出願からは欧州特許庁で拡大サーチレポート(審査官の意見つきサーチレポート:EESR)が発行
されているが、フランスではこれを予備サーチレポートと呼んでいる。審査官意見書は出願とともに公開はされないが
ファイルラッパーの一部を形成するので公開日以降は第三者が閲覧することが可能である。
出願が優先権を主張していないとき、予備サーチレポートは原則として出願日から9ヶ月以内に出願人に送付される。
従って出願人(主にフランス人)は、その出願をもとに優先権を主張して外国に出願するときには既に欧州特許庁から発
行された予備サーチレポートを入手していることになる。
一方優先権を伴った(主に外国からの)出願の場合は、予備サーチレポートはしばしば公開日より後に作成(1年、ときに
よっては数年後)される。従って出願公開と予備サーチレポートの公開は一緒に行われない場合が多い。
2007年3月1日付け政令によりフランス特許庁は、優先権を主張している外国からの出願人に対して他国における並行出
願で明らかになった先行技術を開示するよう要求するようになった。また優先権を主張している出願の予備サーチレポー
トは欧州特許庁ではなくフランス特許庁で作成される。
出願公開
全てのフランス出願公開は出願日あるいは優先日から数えて18ヶ月目に予備サーチレポート公開と同時か別々に行われ
る。
予備サーチレポートへの回答
予備サーチレポートにA以外の先行技術の記載があるとき、出願人はサーチレポート受領後3ヶ月以内(申請すれば更に
3ヶ月延長できる)に回答する義務がある。3ヶ月+3ヶ月の期間後フランス特許庁から回答を要求する督促状が送られて来
る。督促状に定められた期限を過ぎてなお回答をしない場合、特許庁は最終拒絶通知を出す。
外国からの出願人はしばしばこのフランスのシステムと欧州特許庁のシステムを混同して、予備サーチレポートに回答せ
ず審査官からのオフィスアクションを待つ、とフランスの代理人に返事をすることがある。フランスにおいては予備サー
チレポート受領は即ち審査官からのオフィスアクションである、と考える必要がある。A以外の記載のある予備サーチレ
ポートには回答の義務があることを繰り返し喚起する。
フランス特許庁は新規性欠如をもとに出願を拒絶する権利を持つが進歩性欠如を根拠として出願を拒絶する権利を持たな
い。
たとえばAの記載しかない、特許査定になることがはっきりしている出願の場合でも、この機会にクレームを補正するこ
とができる。補正は次のようなときに必要である :
-新規性を確保するため、
-特許交付後裁判所において進歩性がチャレンジされたときに備えて新規性と進歩性を備えたクレームを少なくとも一つ
は残すために、
-意見書つき予備サーチレポートには新規性/進歩性欠如のみならず明瞭性についての意見が付されていることもあるの
で、予備サーチレポート受領後フランス特許庁に回答するときには、この点も克服するほうがよい。
フランス特許出願においては、予備サーチレポートに回答するときが事実上最初で最後のクレーム補正の機会であると考
えるのが適切である。
欧州特許庁のプラクティスとは異なり、フランス特許庁は、補正について出願時明細書(発明の詳細な説明部分)に支持部
分があることを条件として柔軟な態度で臨むことが多い。が、図面を補正支持部分として主張することは許容しない。
もちろん新規事項の追加は許されない。明らかなエラー(脱字/ミスタイプ)のみ特許交付時まで補正が可能である。ク
レームの自主補正は審査官がサーチを開始するまでか上記で説明した予備サーチレポート受領後の期間に限ってのみ可能
である。特許交付後のクレーム補正は認められていない。ただし改正知的所有権法L613-24によると、特許権者は特許権
が存続中ならいつでも特許全部の放棄、クレームの一部放棄、またはクレームの1つあるいは複数を補正することによっ
て特許の保護範囲を限定することができる、ことになった。
フランス特許システムの長所は、予備サーチレポートに指摘された先行技術及び出願人自らが知っている先行技術に照ら
して自分の責任においてまた主体的にクレーム補正を行える点にある。明細書支持の正当性など、補正の理由を長々述べ
る必要もない。逆に将来に備えてクレームを限定解釈してしまうことになる説明はなるべく避けるようにするべきであ
る。
実体審査と(最終)サーチレポート作成
実体審査は予備サーチレポートに指摘された先行技術に基づいて行われる。この際第三者が意見を提出できる。第三者意
見に対して出願人はフランス特許庁に返答する。
実体審査の第一段階はクレームの全てに新規性があるかどうかについて行われる。出願人の回答(補正)にも拘らず新規性
に欠けると審査官が判断したときには拒絶通知が出される。出願人はこれに回答しなければならない。非常に稀ではある
が新規性欠如を根拠にした審査官拒絶が最終決定となった場合、出願人はこれを不服としてパリ控訴院に訴えることがで
きる。
予備サーチレポートに対する出願人からの回答及び/またはクレーム補正によって新規性が確保された、とみなされる
と、審査官は特許交付のため最終サーチレポートを準備する。
進歩性の判断についてのフランス特許庁審査基準も欧州特許庁の審査基準と全く同じものが使用されているが、審査官は
その判断をもとに拒絶通知を出すことはできない。予備サーチレポートに回答して提出された補正にもかかわらず、最終
サーチレポートに進歩性を脅かす先行技術が存在する、と審査官が判断した場合にはその先行技術を最終サーチレポート
に記載することができる。
換言すると、最終サーチレポートに、クレームに相当して先行技術の記載があるときには、それらのクレームに関しては
裁判所で有効性が問われる可能性があることを審査官が示していることになる。
交付された特許の有効性を判断できるのはフランスでは裁判官のみである。裁判官は、フランス特許法が規定している進
歩性欠如を含む特許要件に照らして特許の一部または全部が有効かどうか判断する権限を持つ。裁判官は、その判断にあ
たって審査官の示した最終サーチレポートの記載に縛られることはない。
交付
審査官が最終サーチレポートを作成し終えると、出願人に特許交付料金と印刷料金を支払うよう要求する。
特許は最終サーチレポートとともに公開される。従って第三者は審査官がどの先行技術が進歩性を脅かす可能性がある、
と考えているのか知ることができる。(1990年のフランス特許法改正までこの最終サーチレポートは審査官意見書と呼
ばれていた)
フランスには異議制度はない。この点も、出願人が比較的自由にまた主体的にクレーム補正を行えることと合わせてフラ
ンス特許制度の特色と言うことができる。
特許の無効化(無効裁判) 特許無効は侵害訴訟において無効の抗弁として請求されることが多い。無効裁判自体を起こすことももちろん可能であ
る。が、実際には無効裁判の数は非常に少ない。理由は裁判に非常に時間がかかる上に特許の完全な無効を勝ち取ること
は容易でないからである。侵害裁判において被告の立場で特許無効の抗弁を請求するほうが、無効裁判の原告の立場に立
つよりも、特許の部分的無効を得る、またはクレームの範囲限定を勝ち取って結果的に侵害を回避できる可能性が高いと
いった利点が多いからである。(注:侵害訴訟において無効の抗弁を行うときは、原告が侵害を主張しているクレームに
ついてのみ無効主張ができる)
あとがき
多くの人がいまだにフランスでは審査なしで特許が交付される、と信じている。実際1968年より以前はフランス特許出
願は方式審査のみで特許付与がなされていた。しかし1968年1月2日の特許法改正によってフランスは出願人に先行技術
に関する(予備)サーチレポートの請求を義務付けるようになった。
既述したように、予備サーチレポートに新規性、進歩性を脅かす先行技術が記載されていた場合、出願人は何らかの回答
(クレーム補正及びまたは意見書)をしなければならない。このようにしてフランスは完全審査主義と無審査主義の中間方
式を採用したのである。この方式は、出願人が先行技術を克服すべく補正を行う際に出願人の補正に関する自由と主体性
を保証する優れた方式である、と言える。
2007年3月1日付けの政令によりフランス特許法は発明の単一性の判断基準について欧州特許庁と全く同じ基準を備える
ことになった。この結果、新規性/進歩性/明瞭性/発明の単一性、の認定について欧州特許とフランス特許は全く同じ審
査基準を持つことが法的に明確にされた。
が、既述のようにフランス特許庁の審査官は進歩性欠如を理由として出願を拒絶できないので、出願人は発明の単一性を
理由とした拒絶通知に対して、新規性のみを確保した広いクレームをメインクレームとして従属クレームにおいて進歩性
を考慮した詳細な特徴を提示することが許される(このようなクレームの書き方は欧州特許庁では不可能で分割出願が避
けられない)、など実際のクレームの書き方について有利な点を指摘することができる。
予備サーチレポート :Rapport de Recherche Préliminaire
(最終)サーチレポート:Rapport de Recherche
©Cabinet Beau de Loménie/2007/2008/2009
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