スペインにおける地域開発政策と「リスボン戦略」の影響

スペインにおける地域開発政策と「リスボン戦略」の影響
ユイス・バユス
報告の目的
1.スペインにおける地域のイノベーションシステムを説明する。
2.スペインにおける EU 地域開発政策の転換を説明する。
3.スペインにおける EU 地域開発政策の効果を考察する。
4.調査の今度の課題を考察する。
1.スペインの経済社会の特徴
・ 一人当たり GDP (資料集の表 1)
・ 失業率(資料集の表2)
・ 25 歳以下の失業率(資料集の表3)
・ 女性の失業率(資料集の表4)
・ 任期雇用(資料集の表5)
・ 教育(資料集の表6)
・ スペインにおける研究・技術開発・イノベーション(資料集の表7と資料集の図1)
まとめ1
教育が普及し、一人当たり GDP も EU15平均に近づいた。しかし、教育の質に問題があり、GDP 成
長は技術開発に基づいたものではない、ナレッジ経済が小さい。労働市場にも問題がある(任期雇
用率、失業率、若者と女性の失業率)。
2.スペインの地域経済
・ 地域間の格差(資料集の表8)
・ 地域のタイプ(表1)
1
表 1.地域経イノベーションシステムのタイプ
「ローカル科学とサービス」(Local sciences and services)
Madrid
公的基盤研究は強い、組織化されていない R&D システム、技術移転が少ない、中小企業のサポート
は少ない。
「南の結束1」(Southern cohesion 1)
Illes Balears
高い一人当たり GDP、観光産業、低い研究開発費、少ない研究者、弱い技術移転制度、観光産業に
おけるイノベーションを支える制度が無い。
「南の結束 2」(Southern cohesion 2)
Castilla la Mancha, Extremadura, Murcia, Andalucia
低い一人当たり GDP、農産業と観光業、低い研究開発費、技術移転制度が無い、技術開発のための
公共セクターと民間セクターとの協力は少ない、伝統産業における研究技術開発を支える政策は無
い、企業の研究者は少ない、科学と技術を無視する伝統文化。
「高齢化する学界1」(Ageing academia 1)
Pais Vasco, Navarra, Catalunya
ハイテック産業がある、企業による研究開発と科学技術労働者は EU25 平均より高い。早い時期の産
業化、90 年代から技術開発に投資している。大学システムが発展している。研究技術開発投資は高
い(でも、EU25 平均より低い)。ハイテック企業進出は遅い、ハイテクサービス業は発展していない、
技術開発イノベーション政策は技術に集中して大学と関連していない(Catalunya 以外)、ハイテック
大手企業は無い、大学から企業への技術移転は少ない。
「高齢化する学界 2」(Ageing academia 2)
Galicia, Asturias, Cantabria, La Rioja, Aragon, Comunidad Valenciana, Castilla y Leon
産業も農業も伝統産業も重要な経済活動である、大学システムが発展している、技術開発のための公
共セクターと民間セクターとの協力は少ない、研究技術開発投資は少ない、海外からの投資が少な
い、研究センター間や研究グループ間は関連が少ない。
“Strategic Evaluation on Innovation and the Knowledge Based Economy in relation to
the Structural and Cohesion Funds, for the programming period 2007-2013”, 2006
まとめ 2
研究技術開発投資の70%は Madrid, Pais Vasco と Catalunya で行っている。
雇用増加は技術の低いレベル産業で行った。
スペインの低い生産性の最も主な理由は技術の低いレベルにある。
2
3.スペインにおける EU の地域開発政策とその転換
「新リスボン戦略」(2005)は、EU の競争率、技術開発、雇用、人的資本と社会的結束を結びつく。
技術開発と人的資本 -> 成長と競争率 -> 雇用
/
地域間結束 -> 社会結束
表 2.スペインにおける EU の地域開発政策
全国
多地域
2000
2006
地域
共同体イニアチーブ
全国
多地域
2007
-
2013
地域
越境・多国・地域間協力
―
目的1「競争率を高め、生産構造を発展させる」
目的1「研究開発イノベーション」
目的1「ローカル発展」
目的 1「専門的な援助」
目的 1 の12地域のプログラム
目的 2 の7地域のプログラム
InterregIIIA スペイン・ポルトガル、InterregIIIA スペインフランス、
InterregIIIA スペイン・モロッコ。
InterregIIIB 南西ヨーロッパ、 InterregIIIB アソレス-マデイラ-カナ
リアス、 InterregIIIB 大西洋、 InterregIIIB 西地中海。
InterregIIIC 南地域。
URBAN II の10町のプログラム。
専門的な援助プログラム
結束基金プログラム
ナレッジに基づいた経済プログラム
企業の研究開発イノベーション・技術基金
地域収斂地域の8地域のプログラム
地域競争力と雇用の11地域のプログラム
スペイ・ンポルトガルプログラム
アソレス・マデイラ・カナリアスプログラム
大西洋地域プログラム
南西ヨーロッパプログラム
地中海プログラム
フランス・スペイン・アンドラプログラム
3
表 3.Galicia における EU 地域開発政策の転換(構造基金からの投資、ユーロ)
2000-2006
2007-2013
ガリシアの地域プログラム
2.企業の技術開発とイノベーション
1.ナレッジに基づいた経済の発展
3.環境、自然資源保護、水管理、リスク予防
6.社会インフラ
(9.7%)
(16%)
(3.4%)
(8.5%)
(15.7%)
(22%)
(6.0%)
(1.4%)
(2.3%)
(1.3%)
(0.8%)
(0.6%)
(4.8%)
5.都市改修とローカル開発
(10.4%)
(45.5%)
4.交通とエネルギー
(41.5%)
(9.6%)
7.専門的な援助
(0.2%)
(0.2%)
(100%)
2,191,544,341 (100%)
スペイ・ンポルトガルプログラム越境協力プログラム
1.インフラ
(33.7%)
3.交通・エネルギーネットワークのための協力と共同管理
2.環境、遺産と資源の保護と利用
(33.1%)
2.環境および遺産の管理とリスク予防のための協力と共同管理
3.社会経済発展と雇用振興
(22.4%)
1.競争力および雇用の促進のための協力と共同管理
4.社会協力と統合および組織間協力と統合
(8.7%)
4.社会経済統合および組織間統合のための協力と共同管理
5.専門的な援助
(2.2%)
5.専門的な援助
823,910,103 (100%)
267,4075,976
1.競争率促進と生産構造発展
2.ナレッジ社会(イノベーション、R&D、IT 社会)
3.環境、水管理
4A.教育インフラ、職業教育
4B.失業者の再雇用
4C.雇用における安定と適応性
4D.雇用における特別な困難にあう人の雇用
4E.女性の雇用
5.ローカル発展・都市開発
6.交通・エネルギーネットワーク
7.農業と農村発展
専門的な援助
3,581,255,858
4
(21.9%)
(28.9%)
(35.3%)
(8.6%)
(5.3)
(100%)
まとめ3
ガリシアの地域プログラム
総合予算は減った
雇用政策と農業政策はなくなった。
企業の技術開発とイノベーションの予算は増えた。
交通とエネルギーの予算は相変わらず大きい。
教育政策の予算が減った。
農村人口を保つために、特に小さい町の都市改修とローカル発展の予算が増えた。
技術移転および協力ネットワークを目標として主張する。
スペイン・ポルトガル越境協力プログラム
交通・エネルギーネットワークの予算は減った。
競争力および雇用の予算の割合は増えたが、予算額は減った。
最も重要な変化はプロジェクトにおける越境協力条件の主張、ハードからソフトへの変化、参加者拡大
の目標の主張。
4.スペインにおける EU の地域開発政策の評価
4.1.イノベーション制度分析による評価
“Strategic Evaluation on Innovation and the Knowledge Based Economy in relation to
the Structural and Cohesion Funds, for the programming period 2007-2013”
「2007・2013年度の構造基金プログラミングのためのナレッジに基づいた経済およびイノベーション
についての戦略的な評価」(2006 年 7 月)。
EU 委員会の委託を受け、コンサルティング会社が行った分析である。目的は、2007・2013年度の
構造基金のプログラミングのために、EU のそれぞれの国におけるナレッジに基づいた経済およびイノ
ベーションの状態、以前の政策の効果と今度の地域開発政策あり方についての提案することである。
スペインについての結論
イノベーションシステムとイノベーション政策の情態
1.十分な基盤研究能力およびインフラを持つ地域もあるにもかかわらず、産業への技術移転の組織
化が不十分である。大学と地域政府によって技術移転組織が十分であるのに対して民間組織は
少ない。さらに、技術移転制度は効率ではない。また、クラスター設立やクラスター発展を支える政
策は不十分である(Pais Vasco と Catalunya 以外)。さらに、企業のイノベーション文化が少な
い。
2.中央政府の助成金および財政は既に技術開発に強い企業以外の企業に対して効果が少ない。ま
た、地域政府によって設立された研究・技術開発・イノベーション政策は中央政府の政策との関連
は不十分である(対策の二重化の危険性がある)。また、省庁間に調整は不十分である。
3.2000-2006 年の研究技術開発イノベーション政策の目的はは、大学の基盤研究および産業研
究からイノベーション環境の充実(ネットワーク、テクノロジーパーク、クラスターなど)へ次第に変わ
った。政策は経済的な援助に限って、既に R&D 行っている企業の活動を支えるが、新 R&D 活動
を促進していない。政策はハイテックじゃない中小企業やサービス業を無視している。政策は戦略
性が不十分であり、政策当局の人材教育も不十分である。
5
EU 政策の効果
2000-2006年度の EU 地域政策は地域におけるイノベーション文化を高め、地域の研究・技術
開発・イノベーション能力(研究センターの設立、大学の研究能力発展、人材教育、技術移転センタ
ーの設立)を発展させた。しかし、援助を受けた研究プロジェクトの戦略計画は不十分であったこと
が多かった。また、地域競争率の増加および研究プロジェクトの成果の移転は政策評価の対象に
十分なっていない。
2007-2013 年度地域開発政策の課題
1.地域の研究・技術開発・イノベーションにおける人材政策を強化する必要がある。
2.現在の研究・技術能力に基づいて新産業分野へのイノベーションの可能性が多い。バイオ製薬
(Castilla y Leon, Catalunya)、デジタルコンテンツ(Catalunya, Valencia)、バイオ農業
(Murcia, Andalucia, Extremadura)、工学やナノテクノロジー(Pais Vasco, Navarra)、バイ
オ科学(Aragon, Catalunya)。
3.地域によってイノベーションレベルが異なる。技術的に先進地域にはハイテックが進められる。技術
の中レベルの地域は産業構造をしつつあり、ハイテクへ移転することが可能である(Andalucia,
Cantabria, La Rioja, Aragon, Comunidad Valenciana, Castilla y Leon)。他の地域は、
技術最低基盤に達成しようとし、競争率を高めるためにイノベーションを域外から受けようとしてい
る。しかし、地域の研究・技術開発・イノベーション政策の地域間関連は不十分である(地域間の技
術普及と技術移転を妨害している)。地域間関連を支える政策および地域の特徴に当てはまる政
策を実行する必要がある。
4.観光業などのサービス業に研究・技術開発・イノベーションを入れる必要がある。また、伝統産業に
イノベーション文化とイノベーション活動を生み出す必要がある。
5.研究技術開発のインフラは十分設立された。これからの政策はアクター間関係を充実することを目
的としなければならない。
2007-2013 年度地域開発政策のための提案
1-地域政府の戦略政策決定能力および運営能力を高めること。このため、運営人材教育、当局
間関連、戦略的な計画作成などを支えること。
2-新技術産業の発展を支えるためにそれそれの可能な分野にサポートを与えること。そのため、
クラスター設立を支え、企業間関連および企業と大学との関連を強め、企業と大学の間の人材
移転を促進し、共同研究プロジェクト運営にサポートを与えること。
3-伝統産業におけるイノベーションを促進すること。そのため、科学と伝統産業における知識を関
連させ、マーケティングや営業においてもイノベーションを促進すること。
4-「南の結束 2」地域における伝統企業はイノベーション能力が無い、経済アクターがイノベーシ
ョンの必要性も感じていないない。だから、それらの地域の技術ニースおよび技術チャンスの
検査を行い、経済アクターにアドバイスや教育を与えること。
5-観光業におけるイノベーションを促進すること。
まとめ4
政策は効果的であった。
全ての分野と生産の全ての段階へイノベーションを広げさせなければいけない。
ハードからソフトへの政策の転換を続けなければなりません。
地域開発政策は文化に進化を生み出す目的を持たなければいけない。
6
4.2.地域間の経済格差分析による評価
一人当たり GDP の転換は地域開発政策で説明しにくい(Parellada, 2005)。
格差是正財政は最も重要なゲインである(Parellada, 2005)。
5.今度の課題
仮説1.
地域政府、EU 委員会の地域政策担当局、地域の研究機関と地域の経済アクター(企業、商工会議
所など)は地域政策をめぐって Policy community を形成して、それの最も重要な目的は EU から
資金を受けることと権力を広げること。政策が効率でなくても、政策を続けて、プロジェクト評価を甘く
して、他のアクターを政策決定過程や実行過程から排除する。
仮説2.
スペイン経済における低い協力文化、低いイノベーション文化、低い教育レベルや国家からの経済
援助の依存によって地域発展が遅れている。EU からの地域開発政策がヨーロッパのイノベーション
先進地域の「success story」や「best practice」に基づいてスペイン地域文化を次第に変化させ
て、スペイン地域は発展していく。
調査
地域開発政策における共同プロジェクトのサンプルを選んで、それぞれのプロジェクトの歩みや参加
者、また参加しないアクターを分析する。
図1.スペインにおける NUTS-2 地域
EU 委員会のホームページ
7
参考文献
European Commission (2006) “Strategic Evaluation on Innovation and the Knowledge
Based Economy in relation to the Structural and Cohesion Funds, for the programming
period 2007-2013”. European Commission.
Garcia, J.L. y Myro, R. (Dirs.) (2005) “Lecciones de economia espanola”. Cizur Menor
(Navarra): Aranzadi, S.A.
Garcia, G. y Sanroma, E. (2005) “Mercado de trabajo”, en Garcia, J.L. y Myro, R.
(Dirs.) (2005).
Molero, J. (2005) “Innovacion y cambio tecnologico” , en Garcia, J.L. y Myro, R. (Dirs.)
(2005).
Navarro, V. (2006) “El subdesarrollo social en Espana”. Barcelona: Anagrama.
Parellada, M. (2005) “Distribucion territorial de la renta” , en Garcia, J.L. y Myro, R.
(Dirs.) (2005).
Vazquez, J.A. y Mato, J. (2005) “Recursos naturales y humanos” , en Garcia, J.L. y
Myro, R. (Dirs.) (2005).
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