BT 抵抗性標的害虫 南アフリカにおける急速な発生 トウモロコシは

BT 抵抗性標的害虫
南アフリカにおける急速な発生
Prof. Johnnie van den Berg(Prof. ジョニー・ヴァン・デン・バーグ )
North-West University, South Africa(南アフリカ、ノースウェスト大学)
トウモロコシはアフリカの人々の主要な食糧である。播種期から成長までの生育途中の作物
に群がる鱗翅目の芯食い虫は、収穫量に深刻な影響を与えている。これらの種目の最も重要な
ものは斑点芯食い虫、Chilo partellus (Lepidoptera:Crambidae
鱗翅目ツトガ/メイガ科)と、アフリカ芯食い虫、アフリカズイムシBusseola fusca
(Lepidoptera: Noctuidae鱗翅目ヤガ科)である。
Btトウモロコシの出現
近代生物工学の利用を通じて、トウモロコシの芯食虫の駆除のために非常に有効な方法が開
発されている。Cry 1Ab たんぱく質を発現するBtトウモロコシは当初、北米のOstrinia
nubilalis アワノメイガ(鱗翅類ツトガ科/メイガ科)および Diatraea grandiosella
(鱗翅類ツトガ科/メイガ科)の2種類の芯食虫退治のために開発された。これらの作物はニカ
メイガ属の仲間のような、蛾の幼虫の駆除にも有効で、Sesamia 属やBusseola属
のヤガ科の蛾の駆除にも有効性がみられる(Van den Berg, Van Wyk 2007年)。
殺虫性の特質をもった最初のGM作物の開発以来、標的害虫の抵抗性の発達と起こりうる非標
的昆虫への影響に関し懸念がもたれている。(Tabashnik 1994年、Gould
1998年)Btトウモロコシへの抵抗性が害虫に発達すると、農家は15年前の管理戦略に戻るこ
とになり、Btたんぱく質が農業生態系における有益な相互作用を破壊すれば、害虫の増加や二
次的害虫の発生につながる。
1994年から1997年の間に、南アフリカで人工的に害虫を侵襲させる条件下で、様々
なBt-形質が評価された。Cry1Ab 遺伝子をもつ MON810 形質
は試験を行ったすべての他の形質より優れた殺虫効果をもたらし、その後、栽培の承認を得た
(Van
Rensburg1999年)。Btトウモロコシは1998年以降、南アフリカに植えられ、南アフリ
カは世界で8番目に大き
'82「GM作物生産者である。
南アフリカのBtトウモロコシについての農家の見解
Kruger等(2009年)の調査により、Btトウモロコシの最大の恩恵は、標的害虫駆除における
利便性だということが示された。しかしBtトウモロコシは標的害虫が存在している時にだけ利
点がある。南アフリカの農家は1998年の展開以降、Btトウモロコシの導入により恩恵を受
けている(Gouse等2005年)。種子により多くの資金を投じることにはなったが、導入者
は防虫剤の節約により従来のトウモロコシ種を超える増収入を得、またよりよい害虫駆除によ
って収穫量も増加した。農家はさらに、この技術が有効であると認めてからは、害虫管理のた
めに畑を見回る必要もなくなったと指摘した。
抵抗性の発達
南アフリカにBtトウモロコシを植え始めてから2年後、芯食虫の害は何種類かのBtトウモロ
コシにも認められた(Van Resburg 2001年)。Van Wyk
等(2007年)は成育したBtトウモロコシ植物に B.funca
幼虫が存在することも報告した。これらの植物の栄養成長期において、葉の食害は発生してお
らず、この被害は、穂が出るときから登熟期の間、植物上で幼虫が生息しつづけていることを
示している(Van Rensburg
2001年)。これらの侵入による収穫量の損失はないと思われるが、この観察で、同様の侵入に
より将来トウモロコシの穂に大きな被害をおよぼす可能性について懸念が生じた。つまり、こ
の懸念は、将来収穫量の損失につながる可能性および、その時点では抵抗性の発達について警
告がなされていなかったという事実からのみ「重要」であった。
Cry1Abトウモロコシに対するトウモロコシ害虫の抵抗性の最初の公式な報告は、2007年
に南アフリカで行われた。この報告は B.fuscaの
Btトウモロコシへの圃場抵抗性についてで(Van Rensburg
2007年)、Btトウモロコシ上で幼虫が生き残ることができた、ある特定の場所でのBtトウモロ
コシ上の幼虫について示している。
B.fuscaの最初の抵抗性報告から1年以内に、当初の場所から約50km離れたVaalharts
灌漑計画地の農家によって、別の抵抗性個体群が観察された。追跡研究によりBtトウモロコシ
で生き残った幼虫と圃場で収集された幼虫が、研究室のBtトウモロコシ植物上で4世代飼育さ
れたことがわかった。後者の研究では、非Btトウモロコシの退避地帯から収集した幼虫が、Bt
トウモロコシで生き残ることができることも合わせて示した。これは高密度退避地帯設定戦略
がこの地理的環境においてのみ有効だということを示している。
2008年までに行われたBtトウモロコシと綿花の6種類の標的鱗翅目害虫の抵抗性に関する
10年以上におよぶモニタリングデータの分析は、退避戦略の原則が、抵抗性の発達を制限す
るために圃場に適用できることを示した(Tabashnik等2008年)。今日まで圃場における
抵抗性の発達は、南アフリカの B.fuscaにだけ検知されている(Van
Rensburg2007年)。アメリカ南東部の Helicoverpa zea
(鱗翅目ヤガ科)(Tabashnik2008年)とプエルトリコの Spodoptera frugiperda
(鱗翅目ヤガ科)(Gassman等2009年)、そしてインドの Pink bollworm ワタキバガ
Pectinophora gossypiella (Lepidoptera: Gelechiidae)の
Bt綿花に対する抵抗性も最近報告されている。
これらのBt抵抗性害虫の過去4年間の出現の増加は、予測されていた抵抗性の発生率が甚だ
しく軽視されていたことを示し、この技術の将来の使用に疑問を投げかけている。
退避地帯
退避地帯は害虫の対抵抗性戦略の重要な部分を形成している。退避地帯は標的害虫にとって
毒物による淘汰圧のない生息環境と定義されており、害虫の発達に維持可能な生息環境を提供
する。高密度退避地帯戦略は抵抗性の発生を抑制するために用い、きわめて近い場所での多量
の毒素を生成するBtトウモロコシ植物と非Bt植物を栽培する。この戦略の原則は、Bt作物から
発生するどんな抵抗性害虫も、同種のなかでというより、退避地帯で発生した、影響を受けや
すく、より数の多い害虫と交尾する可能性があり、それによってBt抵抗性対立遺伝子の選別(
生き残り)を減少させるというものである。
南アフリカではなぜ抵抗性発生が急速に起こったか?
退避地帯での(非Btトウモロコシの)栽培が義務づけられているが、南アフリカで抵抗性が
報告された地域では1998年と2006年の間に、それに従った農家数のレベルは低い(Kr
uger等2009年)。B.fusca
蛾が灌漑畑のトウモロコシを好み、Bt毒素への耐性発達に向けた淘汰圧の増加に寄与している
可能性についても調査は示している(Van Rensburg 2007年)。また、Van
Wyk等(2007年)も、芯食虫と灌漑地におけるトウモロコシ生態系との強い結びつきと、特に
このような生態系でBtトウモロコシを植えることが耐性発達のための強い淘汰圧をもたらすこ
とを示した。
B.fusca
における抵抗性レベルの増加は、少なくともある部分は、生産者が退避地帯設定原則に従わな
いことに原因があった(Kruger等2009年)。しかし振り返ると現在 B.fusca
駆除に対し有効な Bt形質は、高密度退避地帯の必要性に見合っていないかもしれない。Btトウモロコシに対する害
虫抵抗性は、遅い播種日とその結果としての侵襲レベルの増加、そしてBt抵抗性への淘汰圧に
寄与する退避地帯戦略への非準拠、これらの複合的な結果として起こった可能性が高い。この
ことから、Btテクノロジーの普及率が非常に高い地域では、退避地帯設定戦略への確実な準拠
を実施すべきだということを学ぶことができる。
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