はじめに 本書は、エクセル習熟度を高めるための本では

はじめに
本書は、エクセル習熟度を高めるための本ではありません。
エクセルというツールを使いながら、在庫管理のスムーズなスタートを支援し、運用中の
負担を軽減する為の本です。
書籍やWebページで、エクセルによる在庫管理を紹介しているものはあります。
それらは数式や関数、マクロや VB など、設定方法に関する情報が中心です。
「エクセル教本」としては良く出来ていると思うのですが、紹介されているのは1パター
ンであり、明細行の上限の問題や誤操作によるデータ削除など、実際に運用する上で重要
な情報が提供されることは殆どありません。
600件以上の在庫管理の相談を受け、50以上の在庫管理システムを導入した私の目か
ら見ると、本気で業務で使うことを考えているとは思えないのです。
業務で使うのであれば、エクセルであっても、専用の在庫管理システムであっても、考慮
しなければならないことがあります。
エクセル運用で、陥りがちな準備不足を避けて欲しい。
エクセルの限界を超えた運用を行い、無駄な時間を費やさないで欲しい。
そして、エクセルで快適な在庫管理を運用して欲しい。
そんな思いで本書を書き上げました。
本書は、データベースは扱ったことがなく、プログラミングも書けないという方に向けの
内容となっております。
そのために、マクロやVBAは使わない方針で書いています。
また、仕入金額や売上金額などの金額に関する処理は対象から外しています。
現物管理の強化を目指し、入出庫情報を入力することで在庫数が更新される運用を前提に
話を進めます。
エクセルでの在庫管理を成功させるコツは、エクセルが出来ることを知ることです。
どのようなパターンがあり、自分にあった運用はどのようなものかを見定めてください。
本書が、スムーズな在庫管理の一助になれば幸いです。
株式会社インフュージョン
角 三十五
第1章. 在庫管理の基礎知識................................................................................................4
1-1. 在庫管理の目的......................................................................................................4
1-2. 在庫はなぜ狂うのか ..............................................................................................5
1-3. 在庫の管理ツール ..................................................................................................6
1-4. 在庫管理の分類......................................................................................................7
第2章. 在庫管理におけるエクセル運用のポイント ...........................................................9
2-1. エクセルによる在庫管理の3タイプの概要..........................................................9
2-2. 在庫管理で行うべき処理 .....................................................................................10
2-3. 入出庫件数の上限について .................................................................................11
2-4. 品目数と操作性....................................................................................................13
2-5. データ削除とシートの保護 .................................................................................15
2-6. データ増加と処理速度.........................................................................................17
2-7. エクセルに寄せられる期待 .................................................................................19
第3章. 在庫管理で必要なエクセル知識 ...........................................................................20
3-1. 数式を設定する為の基礎 .....................................................................................20
(1) 数式とは .................................................................................................................20
(2) セル参照の基本 ......................................................................................................21
(3) コピーによる表の拡張 その1...............................................................................22
(4) コピーによる表の拡張 その2...............................................................................23
3-2. 関数を使いこなせ ................................................................................................24
(1) 関数とは .................................................................................................................24
(2) 調整数を導きエラーを抑制する IF 関数................................................................24
(3) 同一品目の入出庫の合計を導く SUM 関数...........................................................26
(4) 別品目の入出庫には SUMIF 関数 .........................................................................27
(5) 品目台帳と VLOOKUP 関数..................................................................................28
3-3. 在庫管理で多用されるテクニック ......................................................................29
(1) 数値しか入力を受け付けない方法 .........................................................................29
(2) 日付の入力規則と年表示に関する注意点 ..............................................................30
(3) ワーク列の非表示...................................................................................................33
(4) 検索で陥りがちな勘違い........................................................................................35
(5) 数式を見やすくする名前定義 ................................................................................35
(6) 入力ミスを減らすドロップダウンリスト ..............................................................37
(7) 数式を守るシートの保護........................................................................................40
(8) ブックの共有と同時入力........................................................................................41
第4章. 基本の3タイプ.....................................................................................................44
4-1. 3つの基本タイプ ................................................................................................44
4-2. 単票タイプ ...........................................................................................................45
4-3. 移動表タイプ .......................................................................................................47
2
4-4. データベースタイプ ............................................................................................48
4-5. タイプ別に見る運用負荷の限界 ..........................................................................49
4-6. タイプ別に見るロケーション管理 ......................................................................50
4-7. タイプ別に見るロット管理 .................................................................................51
第5章. 実運用に向けて.....................................................................................................52
5-1. エクセルブックの最終確認 .................................................................................52
(1) 入力規則と書式設定の確認 ....................................................................................52
(2) 列の非表示..............................................................................................................52
(3) セルの保護..............................................................................................................53
(4) 不要データの削除...................................................................................................53
5-2. 入力セルへの移動方法の検証..............................................................................54
(1) 単票タイプの確認...................................................................................................54
(2) 移動表タイプの確認 ...............................................................................................55
(3) データベースタイプの確認 ....................................................................................56
5-3. バーコード活用....................................................................................................57
(1) バーコードスキャナタイプ ....................................................................................57
(2) ハンディターミナルタイプ ....................................................................................57
5-4. 設計資料と運用ルールの作成..............................................................................58
3
第1章.在庫管理の基礎知識
エクセルというツールを使って業務改善を行うには、まず業務そのものを理解する必要が
あります。
エクセルの学習の前に、まずは在庫管理の基礎を確認したいと思います。
1-1.在庫管理の目的
あなたが管理する対象は何でしょうか?
備品かもしれませんし、原材料かもしれません。
販売する商品・製品かもしれません。
いずれにしても、企業や法人としては、資金を投入し現物に変えたもの。
在庫を正確に把握できないと、正確な経営状況が掴めなくなります。
コンピュータ上の論理在庫で月次決算しても、正確な利益が計算されません。
実地棚卸で差異が大きいと経営層から問題視されるはずです。
また、在庫精度が悪いと過剰在庫を招きます。
過剰在庫はキャッシュフローの悪化を招き、資金不足の要因となります。
実務面では、欠品が続出します。
在庫精度が悪いと過剰在庫を招きますが、一方で欠品も多く発生させます。
「要らない在庫は多いけど、欲しい在庫が無い」
という状態になるのです。
サービスレベルを低下させず、少ない在庫で効率的に運営するためには、正確な在庫の把
握は欠かせません。
このように、経営面・業務面どちらから見ても、あなたが目指す「在庫精度の向上」は大
変重要なのです。
<まとめ>
在庫精度が悪いと、正確な経営状況が掴めず、過剰在庫によるキャッシュフローが悪化
し、サービスレベルも低下します。
在庫精度の向上は重要な経営課題です。
4
1-2.在庫はなぜ狂うのか
そうした大切な在庫情報ですが、コンピュータ(帳簿)在庫と、実在庫はなぜズレるので
しょうか。
この要因はひとつではありません。
在庫が変動する業務すべてがズレの原因となりえます。
<在庫のズレが生じる要因>
(1)保管が乱雑で発見できない
・発見できなければ、無いのと同じ
(2)入出庫のミス
・受入れ払出し時の照合不足
(3)入力ミス・記帳ミス
・伝票から入力する際のコード間違え、数量間違え
(4)棚卸のミス
・カウントミス、入力ミス
(5)例外処理のミス
・返品処理の不徹底
・緊急出庫の不徹底
・営業サンプル出荷の不徹底
(6)盗難・横流し
在庫管理は人が深く関わる業務です。
いくら良いシステムがあっても、人が正しく運用しなければ正しい在庫は掴めません。
ひとつひとつのことを確実に行い、コンピュータ(帳簿)在庫と、実在庫のズレをなくし
ましょう。
<まとめ>
在庫がズレる要因はひとつではありません。
在庫が変動する業務を、ひとつひとつを確実に行いましょう。
5
1-3.在庫の管理ツール
在庫管理を行うにはどのようなツール(道具)があるのでしょうか。
その規模やシステム化により、
「帳票での管理」
「エクセルでの管理」「在庫管理システムで
の管理」の3つに分けて説明します。
■ 帳票での管理
会社に在庫管理システムが全く導入されていないことは少ないと思います。
しかし会社には、備品や資材のように、そうしたシステムの管理対象になっていない在庫
も多く存在するはずです。
こうしたアイテムが、品目数・動きともに少なければ、帳票で管理されていることでしょ
う。
入庫・出庫があるたびに書込み、新たな在庫数も書き込んで管理していきます。
■ エクセルでの管理
帳票管理の発展形がエクセルでの管理です。
帳票管理はさすがに非効率だけど、在庫管理システムを導入するほどの規模ではない、ま
たは導入したいけど予算が無いという場合もあるでしょう。
エクセルの場合は帳票と違い、入出庫を入力すれば自動的に在庫数は更新します。
この教材は、エクセルでの管理を成功させるための情報を提供しています。
■ 在庫管理システムでの管理
品目数や入出庫が多い場合や、ロケーション(棚番)やロット・賞味期限別の管理が必要
になると、処理も複雑となりデータ量も増大します。
また、ハンディーターミナルや PDA を用いた、スムーズな現場入力が必要なケースもあり
ます。そうした場合は、在庫管理を行うための専用システムでなければ対応できません。
入出庫を入力すれば、在庫情報や履歴、棚卸や集計表など、多角的な情報が取得可能です。
<まとめ>
在庫管理は、「帳票での管理」「エクセルでの管理」「在庫管理システムでの管理」に分
けられます。
後者になるほど、システム化での支援機能が強力で、より大規模な管理が可能です。
6
1-4.在庫管理の分類
在庫管理といっても、様々な違いがあります。
どのような違いがあるのかを確認してみましょう。
ここでは管理項目の違いと運用規模の違いに分けて、主な確認ポイントを列挙してみます。
ぜひ、ご自身の管理すべき項目をチェックしてください。
このチェック内容から、エクセルでの適したタイプが見えてきます。
<在庫管理における、主な管理すべき項目の違い>
チェック
モノに関する情報
在庫管理項目
保管場所情報
状態
作業
品目
□
品目+ロット
□
品目+賞味期限
□
必要なし
□
倉庫
□
ロケーション(棚番)
□
必要なし
□
良品/不良品
□
入庫・出庫のみ
□
返品などの
その他作業含む
作業履歴項目
担当者
仕入先、出荷先
□
必要なし
□
必要
□
必要なし
□
必要
□
在庫管理項目が「品目のみ」の場合は、帳票やエクセルでも管理しやすいのですが、ロッ
トやロケーション・状態が加わると、複数項目の組み合わせで管理しなければなりません。
組み合わせパターンが増えるため、運用負担も増えますし数式も複雑になります。
エクセルでの「動作が重い」という場合も、その多くが在庫管理項目の複雑さが原因とな
っています。
エクセルは簡単に項目を増やせますが、シンプルにまとめることが成功のポイントです。
7
<在庫管理における、運用規模の違い>
チェック
品目数
入出庫明細数(日)
入力人数
~100
□
100~300
□
300~1,000
□
~10
□
10~50
□
50~100
□
100~
□
1名
□
2名
□
3 名~10 名
□
10 名~
□
ロット管理がある場合は、品目数にその組み合わせのパターン数を入れて下さい。
「エクセルでどこまで管理できるのですか?」
という質問をよく受けます。
その根拠は4章で紹介しますが、品目数 300 がひとつの目安と考えてください。
<まとめ>
在庫管理の種類を、管理項目と運用規模に分けてポイントをリストアップ。
在庫管理項目が複数になると、複雑化する。
エクセル運用の限界は、品目数 300 が目安。
8
第2章.在庫管理におけるエクセル運用のポイント
エクセルは表計算ソフトウェアです。その特性を意識しながら自分に合う在庫管理を考え
なければません。ここでは、表計算で在庫管理を運用する場合のポイントを確認していき
ます。しっかりと確認してください。
2-1.エクセルによる在庫管理の3タイプの概要
エクセルでの在庫管理は大きく3つのタイプに分けられます。
ここではポイントだけ確認してください。詳しくは4章で説明します。
①単票タイプ

1品1枚の表。

記入された紙を定期的に回収しエクセルへ入力するなど、手書き管理との
併用に向いている。

一定期間の明細行の上限を決めることが望まれる。
(変更が大変)
②移動表タイプ

品目と日付のマトリックスの表。

同一日付の入出庫を集約して入力。

入出庫の大まかな流れを確認したい場合に向いている。

納品書控での確認など、入出庫情報は別管理で良い場合に適している。
③データベースタイプ

入出庫表と品目台帳(マスタ)が分離している。

品目の統廃合が多い場合に向いている。

品目単位での入出庫の流れを確認するには並び替えが必要。

一定期間の明細行と品目数の上限を決めることが望まれる。
(変更が大変)
9
2-2.在庫管理で行うべき処理
システムで現在庫を正確に算出するには、どのようにすればよいのでしょうか?
「ある時点での在庫情報」と「ある時点からの入出庫情報」。
この2つの情報があれば、在庫数の算出は可能です。
あ る時点 で の
在庫情報
システム
現時点での
在庫情報
あ る時点 か ら
の入出庫情報
特定品目の現在庫数を計算式で表すと、以下のようになります。
現在庫数
= ある時点での在庫数 + ある時点からの入庫数合計 - ある時点からの出庫数合計
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2-3.入出庫件数の上限について
少し実践的な話に入りましょう。
下にあるような、在庫台帳(単票)タイプのレイアウトで考えてみます。
こうしたレイアウトは昔からある帳票での管理で多く見られるものです。
帳票そのもののイメージで管理できますので、紙からエクセルへの移行もスムーズに出来
ますし、帳票との併用管理にも向いています。
在庫数(今月繰越)のセルには、先月繰越数から入庫分を加算して、出庫分を減算する数
式や関数が記述されています。
先ほどの式をこの表の用語に変更すると、以下のようになります。
現在庫数
= ある時点での在庫数 + ある時点からの入庫数合計 - ある時点からの出庫数合計
今月繰越 = 先月繰越 +入庫数合計 -出庫数合計
この例のレイアウトでは、1品目につき1ヶ月12明細です。
帳票ならば、超えてしまう場合はもう1枚足せばよいだけなのですが、エクセルでは数式
が絡むのでそう簡単にはいきません。
今月繰越数は、来月用シートの先月繰越数になるように数式が設定されていますので、帳
票と同じように空いている表を使う訳にはいかないのです。
レイアウトを変更して、明細数を拡張して対応することとなります。
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既に入力されている内容を崩さずに、表のレイアウトを変更するのは大変。
工数もかかりますし、リスクの高い作業でもあります。
運用中には、なるべくレイアウト変更が発生しないようにしたいものです。
エクセルがあくまでも「表」のため、予め用意した件数を超えると、レイアウト変更が発
生してしまいます。
品目数と入出庫明細数を確認し、予め用意する適切な件数を決めてから開始しましょう。
<まとめ>
エクセルは、あくまでも「表」
。
予め用意した行数や列数を超えると、レイアウト変更が必要となります。
最初に適切な件数を確認しましょう。
● コーヒーブレイク
平成12年春期の初級システムアドミニストレータ試験で、表計算ソフトを用いた
商品別在庫台帳に関する問題が出ています。
s
1つの商品について1年分の入出庫を登録する「単票タイプ」なのですが、
「明細行は,過去の入出庫回数から当期分として最大 500 行あれば,すべて入力で
きることは確認してある。」
と書いてあります。
やはり上限を設けていますね。
それにしても1品目あたり 500 行もあったら使いにくそうな気がしますが・・・
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