参考資料はこちら - 個人遺伝情報取扱協議会

遺伝学的検査の質評価をめぐる
英米の動き
渡部麻衣子
東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター
公共政策研究分野・特任研究員
2008年7月23日
個人遺伝情報取扱協議会
お話させて頂くこと
遺伝学的検査の質とは何か
英米におけるDTC遺伝学的検査に関する動き
その他の欧米諸国での動き
今後の課題
本報告は、科学技術振興調整費・重点課題研究『遺伝子診断の脱医療・
市場化が 来す倫理社会的課題』(研究機関:北里大学・研究代表:高田
史男准教授)における平成18年から19年の研究に基づくものです。
遺伝学的検査の質の範囲
解析施設の質
提供方法の質
検査の価値
1. 遺伝学的検査の質とは何か
• ACCEモデルの内容
• ACCEモデル構築の経緯
• ACCEモデルの問題点と対策
ACCEモデル
• Analytic Validity(分析的妥当性)
• Clinical Validity (臨床的妥当性)
• Clinical Utility (臨床的有用性)
• Ethical, Legal and Social Issues:
(倫理的法的社会的問題)
ACCEモデルの具体的内容
疾患/背景
1. 研究されている具体的な疾患は何て
すか?
2. この疾患を定義 (define)する臨床的な所見は何て
すか?
3. この遺伝子検査か
行われる臨床的な場 (clinical setting)はと
の ようなものですか?
4. この疾患に関連しているのはと
んな遺伝子検査て
すか?
5. 検査に先立つ事前のスクリーニンク
のための質問
(preliminary screening question)は使われていますか?
6. この検査は単独 (stand-alone)の検査て
すか? それともシリー
ス
と しての検査のうちの一つて
すか?
7. もしシリース
としてのスクリーニンク
検査の一部ならは
、すへ
ての 対象に対しすへ
ての検査か
行われますか (ハ
ラレ
ル parallel)? それとも他の検査結果に応し
ていくつかの検
査か
行われるた
け ですか (シリースseries)?
分析的妥当性 (感度と特異度)
8. 検査は定量的なものですか? それとも定性的なものですか?
9. 変異か
あるときにどのくらいの割合が陽性になりますか?
10. 変異がないときにどのくらいの割合で陰性になりますか?
11. 内部的な品質管理 (QC)プログラムは決められていますか?
外 部的なモニタリングはありますか?
12. サンプルの繰返し測定はされていますか?
13. 実験室内または実験室間での精度 (precision)はどのくらいで
す か?
14. もし適当な際は、偽陽性 (false positive)の問題を解決するた
め に、確認検査 (confirmatory test)をどのように行っていま
すか?
15. どんな状態のサンプルについて検査されていましたか?
16. どのくらいの頻度でこの検査は有用 (useable)な情報の提示
に 失敗しますか?
17. 同一のまたは異なる技術を使って多施設で検査を行ったとき
、 どのくらい似通った結果が得られますか?
臨床的妥当性
18. 疾患か
あるとき、と
のくらいの頻度て
検査か
陽性になりま
すか?
19. 疾患か
ないとき、と
のくらいの頻度て
検査か
陰性になりま
すか?
20. 偽陽性を適時に解決する方法か
ありますか?
罹患率 (prevalence)
21. この疾患の罹患率 (prevalence)はと
れくらいて
すか? 22. 対
象となる可能性のある全集団に対して、この検査は妥当性か
適当に検証されていますか?
23. 陽性適中率 (positive predictive value: PPV) と 陰性適中率
(negative predicitive value: NPV)はと
れくらいて
すか?
24. 遺伝子型 (genotype)と表現型 (phenotype)の関係はどのよう
な ものて
すか?
25. 遺伝的、環境的、その他の修飾因子 (modifier)は何て
すか?
ACCEモデルの具体的内容
臨床的有用性
26. この疾患の自然史はと
のようなものて
すか?
27. 検査結果陽性 (or陰性)て
あることは患者のケアにと
んな影
響 を与えますか?
28. 適応可能ならは
、診断的検査は利用て
きますか?
29. 効果的な治療、受け入れ可能な処置、その他の、測定可能
な
利益はありますか?
30. 一般的に、その治療や処置にアクセスて
きますか?
31. この検査は社会的に弱い立場の集団にも提供されますか?
32. と
んな品質保証の手段か
整っていますか?
33. ハ
イロット試験の結果はと
うて
したか?
34. フォローアッフ
の検査や介入によってと
んな健康リスクか
同定さ れましたか?
35. 検査に関連する費用はと
れくらいて
すか?
36. 検査結果に応し
てなされる処置による経済的便益
(economic
benefit)はと
れくらいて
すか?
37. と
んな施設や人材か
使えますか? またはそれらは容易に配
備さ れますか?
38. コミュニケーションのためのと
んな教材か
開発されていて、
その 妥当性が検証 (validate)されていますか? それらのう
ちと
れか
利 用可能ですか?
39. インフォームト
・コンセントは要求されますか?
40. 長期のモニタリンク
にと
んな方法か
存在していますか?
41. フ
ロク
ラムの成果 (performance)を評価すると
んなカ
イト
ライン が開発されていますか?
ELSI(倫理的、法的、社会的事項
42. 烙印 (stigmatization)、差別、プライバシー/情報保護
(confidentiality)、個人的/家族的な社会問題について、なにが
知られていますか?
43. 同意、データやサンプルの所有、特許、ライセンス、知的所有
権が保持されている検査 (proprietary testing)、公表の義務、報
告 の必要性について法的な論点はありますか?
44. どんな保護手段 (safeguard)が述べられていますか? そしてこ
れ らの保護手段は整備されていて効果がありますか?
The ACCE Model’s List of Targeted Questions Aimed
at a Comprehensive Review of Genetic Testing 訳:白
岩健、津谷喜一郎 『ACCEによるモデルクエスションリス
ト:遺伝子検査の包括的なレビューのために』ver.1.0, 5
March 2007
UK Gene Dossier での評価項目
1)検査対象の疾患の罹患率と重篤度
2)検査目的
3)分析的、臨床的妥当性
4)臨床的有用性
5)倫理的、法的、社会的問題
ACCEモデル発展
1989: Wald N, Cuckle H. ‘Reporting the assessment of
screening and diagnostic tests’. Br J Obstet Gynaecol
Apr;96(4):389-96.
1997:米国疾病予防管理センター(CDC)に、遺伝学と疾病
予防オフィス(Office of Genetics and Disease
Prevention)が設置される。
2001: SACGT勧告発表。ACCEが概念化される。
2001: CDCでACCE プロジェクトが開始される。5つの疾患
を対象とした遺伝学的検査の評価を行う。
2003:ACCE モデルが発表される。
ACCEモデルの問題点
・ ACCE審査のように包括的なエビデンスに基づくレポートは、高額で、
多大な労力を必要とし、多様な領域の知識を必要とする。最終報告
は参考にして理解するには扱いにくいことが多い。したがって、これ
らの審査は、文献からデータを抽出し要約する経験のあるグループ
が専門家の指導と共に行うことが適している。
・ 最終的には、どのような項目に関しても、組織化されたシステマチッ
クなエビデンスの収集や評価手法の効用は、そのような時間と労力
を割く必要の過急性とのバランスが計られなくてはならない。現在、
そのような労力を正当化するだけのデータが存在し、広範囲に応用
された遺伝学的検査はごく少数である。
(CDC, 2005)
“How”の問題が未解決。
EGAPPプロジェクト
EGAPP プロジェクト
正式名称:Evaluation of Genomic Applications in Practice and
Prevention
目的:
• 臨床応用に向けた遺伝学のエビデンスに基づく評価のための、手法
とプロセスの確立
• 評価対象の優先順位の設定
• エビデンス評価のための技術専門委員会への参加
• エビエンスに基づく指針の策定
• 手法と経験の発表
EGAPP プロジェクト
委員会メンバー
専門家 (医療、公衆衛生、ゲノム、疫学、臨床検査、
証拠に基づいた医療(EBM))
利害関係者
利害関係者が参加する利点
・審査のための優先的トピックを提案する
・利害関係者の異なる視点で、有用で必要な情報の質と
形式について提案する
・技術面の専門性で貢献する
EGAPP プロジェクト・既出レポート
Impact of Gene Expression Profiling Tests on Breast Cancer
Outcomes
The Johns Hopkins University Evidence Based
Practice Center | January 2008
• Hereditary Nonpolyposis Colorectal Cancer: Diagnostic Strategies
and Their Implications
Tufts New England Medical Center Evidence Based Practice Center |
May 2007
• Testing for Cytochrome P450 Polymorphisms (CYP450) in Adults
with Non-Psychotic Depression Prior to Treatment with Selective
Serotonin Reuptake Inhibitors (SSRIs)
Duke University AHRQ Evidence-based Practice Center | January
2007
• Genomic Tests for Ovarian Cancer Detection and Management
Duke University AHRQ Evidence-based Practice Center | October
2006
•
ACCE モデルを超えて
Moving Beyond ACCE Model (2007) PHG Foundation.
分析的妥当性
臨床的妥当性
a. 遺伝子と疾患の関連性に関するエビデンス
b. 検査のパフォーマンスに関する指標
臨床的有用性
a. 検査目的
i. 正当性
ii. 有効性
iii. 効果
iv. 適切性
b. 検査提供の実現可能性
i. 受容性
ii. 効率
iii. 最適性
iv. 平等性
2. DTC遺伝学的検査をめぐる動き
•最近のDTC遺伝学的検査ビジネスの例
•英米のDTC遺伝学的検査をめぐる公的議論の経緯
•2008年の動き
Direct-to-Consumer 遺伝学的検査
■ 23and Me
・疾患関連遺伝子検査:999$
deCodeMe
・29の疾患、性質に関連する遺伝子の検査:985$
*登録制。アカウントから、自分の結果を見ることができる。
■Navigenetics
・全ゲノム解析:
*購入前にDNAを研究用に提供するかどうかを確認。
■NicoTest
・ニコチン代謝遺伝子検査:150£
*購入前に試料と情報を研究用に保存してよいかどうかを画面上で確認する。
■Genetic Health
・薬理遺伝学検査:180£
・栄養遺伝学検査:293£
・肥満関連検査:295£
・女性疾患関連検査:825£
*購入前にに電話によるカウンセリングを行う。
DTC遺伝学的検査に関する動き
英国
米国
1995: House of Commons Science and
Technology Committee “Human Genetics:
the Science and its Consequences”の中で、
DTC遺伝子検査の可能性に触れる。
1997年:遺伝子検査諮問委員会(Advisory
Committee on Genetic Testing : ACGT、 1997年NIH Task Force on Genetic Testが
1999年にHuman Genetics Commission:
遺伝学的検査一般に関する指針(⑤)を発
HGCに統合される。)が、遺伝子検査の
表。
DTC販売に関する指針(① )発表。DTC遺
伝子検査の販売計画はACGTに提出するよ 1999-2000年NIH Secretary’s Advisory
Committee on Genetic Testing(SACGT)
う推奨。
が遺伝学的検査の監視に関するパブリッ
2000-2001年:一企業が生活習慣に関わる遺
クコンサルテーションを行う。
伝子を対象とした検査のDTC販売計画を、
2001年 SACGTが勧告(⑥ )発表。(パブリック
HGCに提出
コンサルテーションを基に)
2001年:メディアがこれを伝える。
同年:非営利団体GeneWatch UKがDTC遺伝
子検査を批判する声明を発表(② )。同時
に消費者に注意を呼びかける。(③ )
2002年:保健省(Department of Health)が
HGCに審議を要請。HGCはパブリックコ 2004年American College of Medical
Genetics Board of Directors (ACMG)が
ンサルテーションを開始。
DTC遺伝子検査の反対する声明を発表す
2003年:HGCはパブリックコンサルテーショ
る。(⑦ )
ンをまとめた報告書 “Genes Direct”(④ )を
発表した。
① ACGT, 1997, Code of Practice and Guidance on Human Geneti Testing
Services Supplied Direct to the Public
② GeneWatch UK. 2002. Body Shop's Genetic Tests Misleading and
Unethical.
③ GeneWatch UK, 2002, Genetic Testing on the High Street.
④ HGC, 2003, Genes Direct.
⑤ Holtzman, N.A. and Watson, M.S. 1997. Promoting Safe and
Effective Genetic Testing in the United States- Final Report of
the Task Force on Genetic Testing.
⑥SACGT, 2001, Enhancing the Oversight of Genetic Testing.
⑦ ACMG Board of Directors, 2004,
ASMG Statement on Direct-toConsumer Genetic Testing
Genetics Med. 60: 60.
⑧ Kutz, G. 2006. Nutrigenetic Testing: Test Purchased from Four
Websites Mislead Consumers, GAO Testimony Before the Special
Committee on Aging, U.S. Senate.
⑨ FTC , 2006, Facts for Consumers: At Home-Genetic Tests.
⑩ Hudson, K. et al. 2007.
ASHG Statement on Direct-to-Consumer
Genetic Testing in the United States ., AJHG 81: 635-637.
英米の対応の違いのまとめ
英国では通常、遺伝子検査は、全国26カ所のRegional Genetic Centre (地域遺
伝子センター)が中心となり、国の医療サービスの一環として提供されている
。解析施設も国が一括で管理している。DTC遺伝子検査は、既存の遺伝子検査
サービスの枠組みから完全に外れて提供されるために、早い時期から対応が
検討された。
これに対し、米国ではDTC遺伝子検査に特化した公の声明が発表されたのは
2004年と遅れをとっている。この点をHudsonとJavitt (2004)は批判している
。しかし、1997年に発表されたレポート⑤は、新しい検査を市場に出す前の
安全性と有効性の審査および解析施設の質保証の問題を中心としており、内
容としては英国ACGTのレポート①と同様の事項を扱っている。このレポート
⑤で、既に、主な提供者が遺伝医療の専門家であるか否かによらず、企業が
新しく発表する遺伝子検査は、地域または国の審査をうけるべき対象として
扱われており、米国ではDTC遺伝子検査も既存の遺伝子検査も、同じ制度枠組
みの中で管理されるということができる。英国では、遺伝子検査は主に国の
医療制度の一環であるのに対し、米国では、医療で提供されるか否かに関わ
らず、遺伝子検査は市場化されていると言うこともできる。
2008年の動き
英国
2月 Public Health and
Genomics Foundation が、
『Evidence and Evaluation:
Building public trust in
genetic tests for common
diseases』(『エビデンスと評
価:一般的疾患のための遺伝
子検査での公衆の信頼を構
築する』)を発表。
6月30日 HGCにてDTC遺伝子
検査に関するシンポジウムが
開催される。
米国
4月24日 米国臨床遺伝学会が
DTC遺伝学的検査に関する見解
を発表
6月12日 米国医師会がDTC遺伝
学的検査に関する見解を発表。
6月 米国産婦人科学会がDTC遺
伝学的検査に関する見解を発表。
7月13日 Gentetic Alliance パネ
ルセッション “Direct to
Consumer Genetic Testing:
Revolution or Risk?”
(参加:Navigenetics, 23andMe,
DNA Direct)
PHGレポート2008
一般的疾患(common conditions)を対象とした遺伝学的検査は、利用
するに足るとするエビデンスなしに、臨床的に利用されてはならない。
臨床的エビデンスのインセンティブと資源
エビデンスの評価・管理
適切なリスク評価
簡単なプレマーケットレビュー
In-house(home brew)テストの適切な評価
等…
•
米国臨床遺伝学会提言
(2008年4月24日)
知識のある医療の専門家が、遺伝学的検査の注文と解釈の段階に
関わるべきである。
消費者は検査が言えることと言えないことに関して完全に情報を与
えられるべきである。
検査が基づいている科学的エビデンスが明示されるべきである。
解析機関はCLIAの認証をうけるべきである。
個人情報に関わる懸念(誰が結果にアクセスできるか、どのようなセ
キュリティ方法がとられているか、検査後の試料の取扱い、保険と就
職における遺伝情報の影響、他の家族への影響)が示されるべきで
ある。
米国医師会の提言
(2008年6月12日)
遺伝学的検査は、適切な資格のある医療の専門家の監督のもと
で提供すべきである。
遺伝学的検査の宣伝に関する指針を提供できる機関が設立され
ることが望ましい。
医療従事者が、正しく患者の相談にのれるように、もっと情報を得
られるようにすべきである。
HGC Meeting 2008
(2008年6月30日)
生物学的試料の採取と保存、及び個人情報の取扱いに関するガイ
ドラインの必要性
解析機関は適切に認可されるべきであり、質保証の方法が存在す
べきである。
一般に提供される検査には、明示できる科学的妥当性があり、遺伝
子と疾患の関連が科学的コミュニティーで認知されているべきである。
検査の臨床的妥当性のエビデンスには透明性があるべきで、提供
者は、検査が基づいているエビデンスを公表すべきである。
消費者に提供される情報は、基準を満たしているべきであり、イン
フォームドコンセントを確認するための適切な方法がなくてはならな
い。
まとめ
■主導的機構:
英国HGC
米国CDC(FDA)
■経過:
1995年∼:遺伝学的検査の評価項目の検討開始
2000年∼:SACGTが評価項目の概念を提示。CDCが
評価手法の検討を開始。
2001年∼:遺伝学的検査の提供者の検討開始。
2006年∼:遺伝学的検査の評価手法の再検討。
その他の動き
• 欧州:
2004年: 遺伝学的検査に関する倫理的、法的、社会的考察:研究、開発、臨床応用 ヨーロッパ
委員会報告 (Ethical、Legal and Social Aspect of Genetic Testing: Research,
Development and Clinical Applications.)
• 欧州協議会:ミーティング
2007年10月2日:Over the counter genetic tests and pharmacogenetics: which are the
individual and collective challenges in Europe?
• OECD
2006年:OECD分子遺伝学的検査における質保証に関するOECDガイドライン(Guidelines for
Quality Assurance in Genetic Testing)
2008年:「ヒトのバイオバンクおよび個人遺伝情報研究用データベース」に関するガイドライン案
(Draft guidelines for human biobanks and genetic research databases. )5月16日まで
意見募集
• スイス:
2004年:ヒト遺伝子解析に関する連邦法(Loi fédérale sur l’analyse génétique
humaine)(2007年施行)
• カナダ:研究報告
2006年: Science, Society, and the Supermarket: The Opportunities and Challenges of
Nutrigenomics by David Castle, Cheryl Cline, Abdallah S. Daar, and Charoula Tsamis
(Kindle Edition - Dec 11, 2006)