全国農団労海外農業視察81998)スイス・フランス編

全国農団労第 4 回海外(欧州)農業視察
全国農団労(全国農林漁業団体職員労働組合連合)第 4 回海外農業視察報告書(スイス、フランス編)
訪問国:ドイツ、スイス、フランス
期間:1998 年 2 月 22 日~3 月 4 日 延安 勇
18.スイスの農政と直接所得補償制度
スイスの首都ベルンにあるスイス国民経済省農業局(日本の農林水産省にあたる)で職員のマイヤー氏
よりスイス農政と直接所得補償制度について説明を受けた。マイヤー氏は直接所得補償制度の専門家で、
農林水産省に招かれ日本を訪問し、四国や九州などの農業の現場も見ている。
スイス国民経済省農業局
農業局は 7 つある省のひとつ国民経済省に設けられている。国民経済省には他に①外交経済、②経済労
働、③獣医局がある。
農業局はには 230 人、6 ヶ所ある実験お
よび研究所(応用研究)には 750 人の研究
スタッフが配属されている。
農業局は食糧の確保と供給が1 番の使命
であが、具体的な仕事は連邦議会に提案す
る議案準備(他の省の大臣依頼の仕事もあ
る)と研究所の管理となる。連邦議会で決
定された議案を具体化し実行するのは、同
じ連邦国家のドイツと同様、各州政府の農
業局の役割となっている。
農業局の構成は
1)生産課-畑作、畜産 etc
2)補償課、構造改善課-直接所得補償な
▲ 登山電車でユングフラウヨッホ峰に向う途中、電車の乗り継ぎ地
ど
点にあるスキー場でアイガー北壁をバックに記念撮影(著者)。
3)研究試験課-研究、普及、教育
の 3 部門に分かれている。
スイス農業の概要
スイスは大きく北部ジュラ山脈、中央台地(畑作好適地)、東西にフランスからオーストリアまで
1,000km に渡るアルプス山脈に大別できる。人口 720 万人、国土面積は 4.1 万 k ㎡(410 万 ha)で日本
の約 9 分の 1 である。その内訳は、森林 30.3%(日本 75%)農地 24.7%、夏季の放牧地(年 100 日利用)
13.6%、道路、建物 5.9%、不毛地帯(湿地、岩山、氷河)25.5%となっている。
農業生産額は 83 億フラン(国民総生産 3,655 億フラン、1 スイスフラン=約 80 円)で、内訳は豚 15%、牛 12%、
牛乳およびチーズ、バター35%、その他の家畜 6%で全体の 60%が畜産と酪農が占める。
自給率(97 年)は植物性食料 45%(穀物 59%、ジャガイモ 99%、砂糖 50%、野菜 60%、果物 38%、
20%植物油)動物性食料 95%(肉 87%、卵 45%、牛乳およびチーズ、バター109%)で、カロリーベー
スの自給率は 65%しかなく、国際的にみても低い自給率である。
輸出額は 860 億フラン(1993 年)でその内食品は 12.74 億フラン、輸入額は 837 億フランでその内食品は 78.69
億フランである。食品については輸入過剰となっている。輸出品目は牛乳、乳製品、カカオ、チョコ(原料を
輸入して加工品を輸出)調理品、煙草(輸出相手はEU諸国)である。なおスイスはEU未加盟なので農
産物に関する輸出協定を結ぶため目下調整中とのことだった。
農家の規模は、8 万戸が 1ha 以上で就農者数はは 225.1 千人(1996 年)で 1990 年に比べ 11%減少し
ている。内 50%がフルタイム従事者でパートタイム従事者は減少化傾向にある。20ha 以上の農家は 17.4
千戸で 1990 年に比比べ 22%増加し、平均耕作面積も 13.6ha と 1990 年に比べ 18%増えており、規模拡
大が進んでいる。専業経営の平均耕作面積は 17.4ha となっている。
環境保全型農業・統合農法の推進
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現行のスイス農業は 75%~80%が IP 農法(統合農法)もしくは自然農法(BIO)に転換している。政
府はスイス農業の 95%をこれらの農法に転換することを目標にしているという。将来的には IP 農法でな
いと直接所得補償制度の対象にしないことも視野に入れている。
IP 農法、自然農法の認定は各地域の民間組織(IP リンク、自然農法連盟)が行う。地域ごとの IP リン
クが基準を策定し、これが政府の決めた基準をクリアしていれば直接所得補償制度の対象になる。検査は
国が州に依頼し、州が監督責任をもつ。検査は州もしくは IP リンクが実施している。認証違反は過去 2
~3 年にさかのぼって直接所得補償金の返還するとい厳しいペナルティーがある。視察に同行したシャウ
ブさんの話しだと、ドイツでも同様なペナルティーがあるという。
独自の道を歩むスイス農政と農業法
ところで、スイスはEU未加盟で独自の農政
を展開している。96 年 6 月にはスイスの農業法
は憲法の中に定められ独自の農業法ができた。
法には、①景観維持だけでなく生産性の向上、
②持続的農業、③国民の食糧確保(①とつなが
る)の 3 つの基本理念が掲げてある。また法に
は自然の維持、地域景観の手入れ、農家の地方
分散(離農、壊村を防ぐ)をはかることも盛り
込まれている。
この農業法を基に、①基盤改善政策(実験、
研究、教育、普及)
、②構造改善政策(山岳部の
道路整備、電化、建設、牛舎・家屋の改造新築)
、
③価格・販売補償政策(WTO体制の範囲内で
の国境保護、国内基準価格の設定)が展開され
ている。
▲ユングフラウヨッホ峰への登山電車から見る最上位にランク付さ
れる条件不利地域の山岳地帯の農村。山の斜面は積雪期にはスキ
ー場だが、シーズン以外は牛の放牧場となる。
スイスの直接所得補償制度
スイスの直接所得補償は 1992 年より 2 期に分けた農業改革のなかで継続的改革が進められている。
第 1 期(92 年)所得補償制度の改革(ガットに適合するような改革)
第 2 期(95 年~)農業改革 2002 年(Agraro Politik 2002)
改革の理由は大きく国内と国外の問題に分けられる。内的理由(国内)としては、これまでの価格補償
が生産過剰と農産物の高価格を招き、消費者は安さを求めて外国等で買い物するようになるなど国産農産
物の市場占有率が低下したこと。また、糞尿の散布などによる硝酸態窒素の水質汚染、農業の環境破壊な
どが問題となったことだ。
外的理由としては、EUからの圧力と WTO でのスイスの国境保護、輸出補助金撤廃の要求があげられ
る。
所得補償制度の 1992 年の改革は収入と価格の分離(デ・カップリング)である。以前の政策では生産
者価格を引き上げ農家の所得を確保していたが、92 年の改革で価格支持制度を廃止し、代わりに国内基準
価格を設けた。その結果農産物価格は下がることになるが、従来の直接所得補償に加え、価格低下を補う
補充的直接払いが設けられた。これにより、過剰生産は緩和している。
また、水、空気、土壌、景観保全などの農業の多面的機能に対し公的補償をするエコロジー的直接払い
も設けられた。これは国民全体が享受している農業の多面的機能の市場は存在しないという認識によるも
のだ。つまり消費者が農業の多面的機能に対し直接対価を支払わないかわりに国が代わって対価を払うと
いう考え方だ。
1995 年第 2 次改革・農業改革 2002 プログラムでは、農業だけでなく食品加工メーカーの競争力強化の
取り組みがはじまった。
このように、スイスでは 1951 年の農業法制定以来、法は何度も見直され食糧確保、農家や農村の維持
がはかられている。1996 年には農業改革 2002 を推進するための新しい農業法が上程され、現在 2 院で議
論中である。早ければ 1998 年 3 月に成立するとのことであった。
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1996 年度の直接所得補償に充てられた予算は 24 億フラン(1 スイスフラン約 80 円)で、これは農業予算 40 億
フランの 60%を占めている。このうち山岳農家への支払額は 14.2 億フランで全体の 60%を占める。
表 4 スイスにおける 1996 年の直接所得補償の概要
直接所得補償の種類
内
容
割 合
備
考
①補充的直接払い
価格低下を補う直接補 37% 山地、平地に関わらず平均 16,000 フラン
償、改革で新しく策定。
/戸支給
ただし品目別の補償で
はない。
②エコロジー的直接払い 環境保全的な農法をと 40% 改革で新しく策定され増大傾向、だが、
(環境保護助成金)
る農家への直接補償。
財政的に頭打ちも近い
③社会政策的に動機づけ 社会保障的な補償金で 5.7% このうち内山岳農家に 70%が支払われ
ている
られた直接払い
養育補助、子供手当など
がある
④困難な生産条件に対す
18% 山岳農家のみに支払う。
標高が高くなる
る直接払い
ほど補償率が高くなる
⑤生産調整(制御)的直接
13%
所得補償
③~⑤は 1992 年の改革以前から実施
④については標高を 6 地帯に分けて補償率を設定(平地から山岳地)
「日本での直接所得補償制度の導入に賛成だ」
日本ににおける直接所得補償制度を導入についての日本での論議の概要を説明し、直接所得補償制度を
導入についてマイヤー氏の意見を求めたところ次のような答えが返ってきた。
「スイスの直接所得補償制度の基本的なシステムは完璧だが、スイスのような複雑な制度は勧められな
い。最初の直接所得補償制度導入に反対したのは農民だった。しかし、農家が生み出す景観など農業の多
面的役割や価値に対する対価を補償するには直接所得補償制度以外にない。
スイスでは時間と労力をかけ、
様々な論議と研究を経てこのシステムを作りあげた。
日本には日本のシステムが必要となるが、日本でも作ることはできるはずだ。スイスでは 18 項目(気
候、地形などで)で条件不利地の設定を行なっているが、補償の対象の選択についても規模、労働力等、
様々な角度から検討すればそれは可能だ。
ただし、導入の条件として
① 農家に対し農家であることを理由に補償金を支払うべきではない。農家の労働に対し支払うべきだ。
さもないと消費者の反対にあう。
② 生産を刺激しない制度であること。
③ 財政上の問題については、農業予算の節約できる部分を直接所得補償制度にまわせばよい。予算の枠
内でできるはず。
以上の条件を満たす制度をつくれば国民の理解を得られるだろう」
と答え、マイヤー氏は日本での導入に賛成だといった。
両立を目指す食糧安全保障と農業の粗放化
また、直接所得補償制度で進めている粗放的、環境保全的農法は生産力を落とし自給率の低下を招く恐
れはないのかとの問に対しては、
「いい質問だ。もちろん生産力(潜在的)は落とさないように配慮している。農地転用は禁止している
し、環境保全型農法への転換は地力の向上をも念頭においている。生産力の維持・向上は長いスパンで考
えている」
とのことであった。
視察時間は 1 時間以上もオーバーし、5 時をまわっていたが、マイヤー氏は「時間は気にしなくていい
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から分からないことがあれば聞いてくれ」と、私たちの質問に熱心に答えてくれた。また、通訳のさくら
さんも、われわれの熱心さに感心していた? 感謝。
ところで、ケンプテンからスイスまで、さくらさんに通訳をしていただいた。さくらさんはスイス人の
ご主人と、有機農業農家っフィスターさんの近くの農家の離れを借りて住んでいる。ユーモアのある可愛
いおばさん(失礼)だ。私たちが帰国する日、長野パラリンピックのスイス選手団の通訳として日本に来
るとのことだった。
▲
19.スイスの農協・ランディー(LANDI)
ランディーの店舗の 2 階にある集会所で説明を受け
る。奥の部屋にはワインが置いてあって、実はランディ
ー製のワインとポテトチップスを食べながら話しを聞い
た。右端がマネージャーのフォルマーさん、左が店長
のシュープリーさん。通訳のさくらさんが手に持ってい
るのが農協ブランドのポテトチップス。
インターラーケンにあるランディの店長シュプーリーさんと、この地域のマネージャーのフォルマ-さ
んから説明を受けた。
インターラーケンはアルプスの麓にある観光地だ。ここからユングフラウヨッホ峰やアイガー峰に向か
う登山電車の出発地となっている。インターラーケンからさらに山間部に入ると、スキー場やホテルのあ
るリゾート地がある。
視察したランディーの店舗は 2 階建てで、店舗面積は 600 ㎡ある。1 階に食料、雑貨などの生活資材や
生産資材が置かれ、2 階には農作業用の衣類や雑貨売り場となっている。また 2 階には集会所がある。す
ぐ隣に無人のセルフサービス方式のガソリンスタンドが併設されている。ランディーはインターラーケン
地域にこのような店舗を 4 ヶ所かまえるほか、飼料加工場も持っている。最近は農家だけでなくから地域
住民の利用が増えている。また、地域住民の要望に答え地域の加工品、肉等も扱っている。
ちなみにインターラーケンにはランディーの他に、協同組合組織のメグロスのスーパーマーケットもあ
った。雑貨、衣料、スポーツ用品と食料品全般を扱い、ランディーより大型で品揃えも豊富だった。もち
ろん客の入りもよかった。
ランディーはスイスのドイツ語圏の地域農協で、上部団体に連合会である FENACO(フェナコ)があ
る。フェナコは飼料や肥料工場をもっている。ランディーは農協とはいいながら、組合員の出資している
ものと、出資金は募らず上部団体が所有している 2 つの形態がある。インターラーケンのランディーは後
者になる。株式会社化されたAコープのようなものかと思ったが、株式会社組織でもないという。組合員
が出資した農協では経営の悪いところが多く、悪化すると農家組合員が増資などを行ない支えることもあ
る(6,000 フラン出した例もあるという)
。
ここのランディーでは供給高の 15%は生産資材、残り 85%が生活資材だという。利用者は農家と一般
の消費者が半々だ。また、店売りだけでなく地元ホテルにも野菜、果物、冷凍食品、乳製品を卸している。
供給高は 4 店舗とガソリンスタンドで 1,200 万フラン/年で、最近改装したことで以前より 10%売上げが伸び
た。
この地方の農家(酪農家)は小規模で 6 頭から 8 頭飼養している。
(他に馬、山羊、羊、うさぎ、鶏)
ランディーでは酪農、畜産、畑作の技術員をかかえ、技術指導もおこなっている。ちなみに FENACO の
会長は技術員出身だという。
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店で扱う乳製品や牛乳は乳業連盟(協同組合組織)で生産されたものを仕入れている。
(限られた時間でランディーについては十分理解できなかった。このため、これ以降はランディーのこ
となのかフェナコのことなのか、そとも農協一般のことなのか良くわからない)
畑作地帯のランディーでは馬鈴薯を農家から購入し加工と販売をランディーが行う。主な加工品である
ポテトチップスはスイスで 60%のシェアを持つ。また、肉の加工場もあり、家畜を農家から購入し加工す
る。ほかに、ワイン工場、ジュース工場もある。
わからないことがあまりに多いので、帰国後、県中を通じ全中にランディーに関する資料を求めた。し
かし、海外の協同組合組織とも交流し情報もあって当然だと思うのだが、全中には資料はないということ
だった。このため、不充分な内容しか報告できない。
20.スイスの有機農業農家・フィスターさん
スイスの有機農業の現場を視察するためにフライブルグ州ケルツァー町のフィスターさんを訪問した。
フィスターさんはマイスターの資格を持ち、BIO 連盟の価格決定委員会の委員をしている。BIO 連盟
(BIO SUISSE バイオスイス)は環境保全型農業の農産物の認証団体で、登録農家に認証マークを発行
している。有機農業の組合は 50 年前からあり、農家は増えている。
経営の概要
家族構成は妻、4 人の子供、両親(農業は引退)の 8
人の大家族だが、労働力は夫婦、年間 9 ヶ月雇用する外
国人 3 人、国際農業者交流協会の派遣による 20 代前半
の日本人研修生 1 人、見習い 1 人、夏の 1 ヶ月間ポーラ
ンド人を臨時に雇う。
農場の標高は 450mで、耕地面積は 8ha、うち 4..5ha
がビニールハウスである。使い古したビニールやマルチ
は再生業者に処理してもらっている。ハウスでは冬用サ
ラダ菜、春レタス、サニーレタス、ニンジン、一度植え
ると年 3~4 回刈り取りできるサラダ用の葉ものポート
▲サラダ用の野菜ポートラックのハウスで収穫の様子
ラックを栽培し、夏にはトマト、きゅうりを栽培してい
を見せてくれるフィスターさん(左)
る。ハウスの加温は 3、4 月のトマト、キュウリの育苗
期に限り行っている。この他、輪作で小麦や牧草を作っ
ている。輪作をすると、粗放的ということになり BIO の
基準に適合する。露地では根セロリ、玉ねぎ、ねぎ、馬
鈴薯、ニンジンを栽培し、寒い期間には不織布でべたが
け被覆をしている。スイスでも今年は暖冬ということで
例年より早く馬鈴薯、ニンジンの植付けを始めていた。
見せてもらったハウスでは、サラダ菜、ポートララッ
ク、カイワレダイコンが植えてあった。植付け方法はい
たって簡単で、敷き詰められた穴明きマルチの穴の部分
にソイルブロックに生えたサラダ菜の苗を置いただけだ。
ソイルブロックを土に埋めるよりこの方が通気性が保た
▲トラクターを運転するフィスターさんの息子。
れて生育に良いという。苗はソイルブロックで育苗した
ものを他の農家から購入している。
ハウスを見学したあとは露地の畑を見せてもらった。畑では野菜の苗を植え付けるアタッチメントを付
けたトラクターを小学校 5、6 年生ぐらいの息子が運転していて、トラクターの後方では日本人の研修生
と見習いの青年がネギの苗を植え付けていた。そういえば家の庭先には、日本では見かけない子供が乗っ
て遊ぶプラスチック製の小さなのトラクターのおもちゃが転がっていた。自動車ではなくトラクターとい
うのが面白い。子供の頃から農民として仕込んでいるのだろうか。日本人の研修生はもうじき研修期間を
終え帰国するという。
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全国農団労第 4 回海外(欧州)農業視察
畑の中にはサイクリングロードが走っている。所々に表示版があって、栽培されている野菜の名称、収
量などについて知ることができる。自転車は駅で借りることができる。
販売ルート
販売は、70%がの 5km 離れたバイオスイス有機野菜収集所へ出荷し、店頭では生産物に収集所の名前
と生産者の氏名が記載されたラベルがつけられる。20%は仲買業者や店舗への販売で、残り 10%は農場併
設の直売店舗(6 畳間ほどのコテージ風の小屋)で販売している。
直売店舗では、卵、小麦粉の自家製粉、野菜ジュース、有機栽培コーヒーなどを販売しているというこ
とだが、野菜の少ない時期ということで店内の商品は少なかった。野菜仲買業者(店舗経営)は有機野菜
の生産を奨励しているが、価格は有機農産物の供給
が増えたことで下降気味だという。作目別に見ると
野菜は過剰気味で、昨年は廃棄処分したものもあっ
たそうだ。一方、食肉や穀物は不足気味だという。
穀物が不足している理由は、小麦を例にとると、直
接所得補償が20%あるが慣行栽培8~9㌧/haに対
し有機栽培はよくて 6 ㌧しか収穫がなく、投下労働
力に見合わないので栽培する人が少ないからだとい
う。フィスターさん自身も有機栽培の小麦は栽培し
ていない。有機栽培の農産物の価格はサラダ菜が 10
~20%増し、ニンジン 100%増し(例えば秋のニン
ジンは慣行農法では 55 サンチーム/kg、有機栽培
▲家の敷地内にある直売所
105 サンチーム/kg)
、カリフラワー100%増しとい
った具合だ。
認証制度
BIO の認証を受けるための栽培基準は、除草剤、農薬使用禁止、肥料の投入も少ないことだ。ただし、
食べたら甲虫が死ぬという微生物を使った有機(生物的)農薬の使用は認められている。肥料は肥料石灰、
穀物肥料、BIO 連盟の監督下で製造されている肥料「BIORGA」
(家畜の血など自然窒素を原料とした肥
料)
、牛糞、馬糞(敷きわらと混ざったたものを醗酵させたもの)コンポスト、鶏糞(ただしあまり使って
はいけない)などは使用できる。ただし、リサイクルの観点から家畜の糞やコンポストは地域内で入手で
きるものを使い、遠方のものは使わないよう指導されている。具体的な使用方法としてはニンジンには
BIORGA を使用、馬鈴薯は BIORGA と牛糞とを半々使用している。馬鈴薯の品種はオストラといい、フ
ィスターさんに言わせれば加工、食用両方に適した品種なのだが、加工業者から新しい品種に変更して欲
しいと要望されていて不満そうだった。
基準を守られているかどうかの検査は試験場が行ない、
国と BIO 連盟が半々でその費用を負担している。
帰り際、団員の一人が「農協との関係は」と尋ねたら「関わらない方がいい」との答えが帰ってきた。
いずこも同じかと、情けないけれど納得してしまっ
▼左のステッカーはフィスターさんのオリジナル商標。右
た。それでも、農協職員である我々に対して予定の
端がバイオスイスのマーク
時間をオーバーするくらい私たちの視察につきあっ
てくれた。通訳のさくらさんによると、以前の視察
より今回の対応は随分親切だったそうで、われわれ
の熱心さが伝わったからだと思うことにして農場を
あとにした。
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21.フランス・ランジス中央国際市場
ヨーロッパ最大の国際農水畜産物集配センター
ランジスとはパリ郊外の街の名前である。ヨーロッパの中心となるパリのノートルダム寺院から南へ
12km のところに、フランスに 9 ヶ所ある国営市場(MIN)のひとつであるランジス中央国際市場があ
る。ランジスの商圏は国内ではパリから 150km 圏内のイルドフランス地域の 1,200 万人、ヨーロッパ諸
国も含めると 1,800 万人で、ランジス市場は名実ともに国際的な食糧と花の巨大集配センターだ。1996
年の実績を見ると、販売高 394 億フラン(1 フラン約 21 円)
、食料品 200 万㌧、切り花 3,590 万束、鉢物 1,860
万鉢だ。一時減少傾向にあった市場の売上げは横ばいから増加傾向に転じている。
1969 年 3 月にオープンし、市場内の会社は約 1,400 社、約 13,000 人が働いている。広さは約 232ha
と広大だ。
市場内には 600 の青果、花、肉、魚、乳製品などの卸売業者や道具商、370 のサービス商社が入居して
いる。また市場内には生産者のスペースも設けてあり、360 の生産者が野菜や花を販売している。また、
市場内には食品や食肉の加工場、15 の銀行、農林省、漁業省の事務所、食品検査・検疫所、病院などが併
設され、レストラン、商店も営業している。
買い付け人はレストランなどの飲食店や仕出
し屋、小売店など業者に限られ、20,000 人が利用
している。
市場の運営は国が 58%出資したセマリス公社
(職員数 200 人)が行う。セマリスは市場内に貸
ビルを所有するほか、商品の配送、市場内で出る
廃棄物のリサイクルと処分も行う。また、焼却セ
ンターで得たエネルギーの再利用も行っている。
また、市場内の建物の管理、施設の建設を行な
うランジスエンジニアリングという会社も設置さ
れている。この会社は海外の国々の市場建設も手
がけており、施設建設、市場運営のノウハウの提
▲青果物の仲卸業者がならぶ。外国からの野菜や果物も数多
供も行なっている。
く売られている。
セリのない市場
取り引きの形態は日本と異なり、日本の市場に見られるようなセリも卸売会社もない。青果物を例にと
ると、商品はすべて仲卸業者が農家や農協から直接買い付け、これを市場内に構える店舗で小売業者やホ
テル、レストランの買い付け人に相対で販売している。市場の建物の中には各卸売業者ブースが並んでお
り、購買者は品質や値段を比べて仲卸業者から購入する。セリがないかわりに市場内にある農林省が、毎
日、仲卸価格の調査を行ない、翌日その結果を発表している。これを参考それぞれの仲卸業者は売り値を
決めているという。
広報担当者は「市場の運営は消費者保護を念頭に行われ、消費者保護とは安くていいものを供給すると
いうことだ」といい、この考えのもとにランジス市場のシステムができている。
少ない有機農産物の取り扱い
有機農業や自然農法といった環境保全型の農産物の取扱の現況は 2、3 社のみ扱っているが、増える傾
向にはないという。増えない理由については、フランスの農業はもともと化学資材をあまり使っていない
ため BIO 農産物と慣行農法のものとの差はないとの認識があり、消費者のニーズは高くないという。
映写設備を整えた視察者用の部屋で説明を受けた後、バスで場内を案内してもらった。青果物の仲卸業
者の入居した建物内では、中央の通路を挟んで、両側に仲卸業の店舗が長屋形式で並んでいる。日本の市
場にある仲卸業者の店より構えは大きい。それぞれの店に国内はもとより海外から買い付けた野菜や果物
が並べられていたが、店によって扱う品目に違いがある。扱う品目の違いでも店の特徴を出しているよう
だった。なお、仲卸業を子弟を後継者として引き継ぐということはないとのこと。
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全国農団労第 4 回海外(欧州)農業視察
22.パリ国際農業国際博覧会
ランジス国際市場からパリへ帰る途中、昼食を兼ねてパリ国際農業国際博覧会に寄った。団員の日頃の
行いが良いせいか、今回の視察団はうまい具合に国際農業博覧会に出くわし、おまけに FNSEA(フラン
ス農民組合全国連盟)より入場券をプレゼントしてもらう幸運に恵まれた。
会場は思った以上に入場者が多く、農家や一般市民、小学生のグループなど大勢の人でにぎわっていた。
農業博覧会は大掛かりな催しで、
広い会場を使い、
フランスのみならずヨーロッパ各国からの出展がある。
農業、畜産、酪農、園芸、狩猟、ペット、水産などに関係する政府、生産者、団体、業者、道具や機会の
メーカーがそれぞれのブースを構えていた。ブースでは地方の特産品や、ワイン、チーズなどの乳製品な
ども販売される。
畜産の盛んなヨーロッパらしく、畜産のコーナーが一番広くとってあり、日本では見かけない牛、豚、
山羊などを見ることができた。パビリオンの中では家畜の共進会(品評会)や、羊の毛刈りの実演(競技?)
などが行われていた。
FNSEA のブースもあり、その中には子供に農産物の流通の仕組みを体験させるコーナーが目を引いた。
小さな畑から野菜を収穫し、次に箱詰め、最後に店の野菜コーナーに野菜を並べるまでが体験できるよう
になっている。また、ブースの展示物を使って、農業について係員が子供たちのグループに説明する姿も
あった。農家や農村を守るためには、子供の頃から農業に関心を持ってもらい、農業について理解をして
もらうことが大切であることを再認識させられた。
試食、試飲コーナーもあって、ワインのコーナーでは品定めに何種類でも味見をすることができる。BIO
農法のブドウを原料にしたワインも売られていた。水産物のコーナーでは殻つきカキの試食もできる。
また、ランジスでは相手にされていなかったが、BIO 農法のブースもあった。BIO の団体 BIO
CNVERGENCE の担当者の話しだと、ヨーロッパ全体で流通している BIO 農産物のフランスのシェアー
は、10 年前の 60%から 10%に激減しているという。フランス国内でも農産物の流通量のわずか 0.5%だ
ということだ。
ドイツやスイスと違い、
フランスではこの手?の農産物に対する国民の関心は低いようだ。
だからというわけではなかろうが、この団体は海外にも目を向け、3 月 9~13 日にかけて東京で開催され
るフーデックスジャパンに参加すると話していた。
時間の関係上全部見ることができなかったこともあり、すべてを報告できないが、農家でも農家でなく
ても、飽きることなく一日過ごせる盛りだくさんで中身のある博覧会だった。
▼子供のグループに麦について説明をする係員(写真左上)。またニンジンにふんした会場係員がおり(写真右)、子供
▲
への配慮がいたるところに見られる。
畜産の盛んな欧州らしく、畜産のブースが一番大きい。
国際博覧会の名にふさわしくヨローッパ各国からの参加が
ある。写真はイギリスの羊のコーナー。
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全国農団労第 4 回海外(欧州)農業視察
23.FNSEA(フランス農民組合全国連盟)
FNSEA(フランス農民組合全国連盟)の本部で広報担当者ジューン・ミッシェル・ギャレット氏より
説明を受けた。
フランス農業の概要
55.2 万 k ㎡の国土のうち、
農地面積は55%、
約 30 万 k ㎡(3,000 万 ha)だ。そのうち約半
分が標高 500m以上にある。牧草地 1,200 万 ha
(山岳地帯中心、1991/1950 対比:100 万 ha
減少)
、主に小麦、とうもろこし、油糧作物が作
付けられている耕地が約 1,800 万 ha(1991/
1950 対比:100 万 ha 減少)
。また野菜などの園
芸作物の作付け面積は約 130 万 ha(1991/
1950 対比:30 万 ha 減少)だ。野菜は主に南部
地方で栽培されている。また、農地の流動化が
進んでおり全農地面積の 60%が借地となって
▲広報担当のギャレット氏より説明を受ける。
いる。
農家戸数は約 80 万戸、そのうち家族経営が 84%を占め、全農家の約 70%が専業農家だ。平均耕作面積
は約 38ha で年々増加傾向にある。北部は借地による大規模農家が多く、反対に南部は小規模の自作農が
多い。農業就業人口は全就業人口の 4.2%あたる約 110 万人である。
フランスは農家数、農地面積ともにEUの中で最も大きい。生産物のシェアもトップで、2 位のドイツ
と 3 位のイタリアがともに 15%代であるのに対し 22%を占める最大の生産国である。自給率も小麦の
274%を筆頭に、野菜と果物を除くほとんど品目で 100%を上回る。したがって、農産物の輸出額も多く、
小麦やとうもろこしの輸出額は世界第 2 位である。また、牛肉の輸出額も多い。輸出額に対する農産物の
割合は 14%であり、
農業は輸出産業として重要な役割を果たしている。農産物の主な輸出先はEU諸国で、
EU内の非関税化により輸出額は伸びている。ちなみに対日輸出額のシェアは約 3%程度である。
FNSEA(フランス農民組合全国連盟)
FNSEA(フランス農民組合全国連盟)は 80 万戸の家族農業経営体のうち約 60%の 50 万戸が加盟する
農民の組織だ。農民組合は 3 段階組織となっており、農民は地方にある 3 万の農民組合に属し、農民組合
は 94 の県連合会を構成している。パリの本部には専従職員が約 100 名おり、全国では 2,500 人の職員を
かかえている。また、ベルギーのブリュッセルにはヨーロッパ農民組合連盟の本部があり、FNSEAの
議長が議長職についている。
農家による農家のための組織
FNSEA は農法や規模にかかわらず会員である農家に奉仕し、物質的、文化的利益の保護と研究を担う
機関として 1947 年に設立された農民組合の全国組織だ。会長は農家が無報酬で務めている。政府からの
財政援助は受けず、特定の政党にも与しない独立した組織となっている。農民組合の活動は、技術、経営、
税務、法務などの指導・相談業務、農業関係の出版事業、政府への制度政策要求などで、財政は、会員の
会費、出版事業収入、コンサルティング(農家からの経営相談の際の利用料)による収入で賄っている。
年会費は 1,000 フランの定額と 10~30 フラン/ha の規模に応じた会費からなる。政府が農業に関する法や政令を
定めるときに相談にくるほどの力量と影響力を持っている。
日本で言えば、農協の営農指導(実際はもっと高度な指導のようだが)と家の光協会、農業会議所、中
央会をあわせたような組織のようだ。技術員が各県組織に配置され農家の経営指導を行なっており、県組
織を見るといいと勧められた。
組合員の負担金によって組織が運営されていることからして、日本の農協と比べると組合員の意識も高
く組織がしっかりしているように感じられたが、ギャレット氏によるとわずか 1~5%の熱心な組合員が農
民の自活や農業後継者のこと考え行動し、組合全体を支えているとのことであった。
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全国農団労第 4 回海外(欧州)農業視察
ちなみに、組合員から選出される役員は無報酬で活動しており、日本の農協役員とはえらい違いである。
現在のFNSEAの主な課題と関心テーマ
① 経費の節減、農作物の販売価格の変動
② EU統合(貨幣統合、東欧諸国の加盟)
現在の CAP は継続する必要があると考えているが、東欧諸国のEU加盟で国境や農業共通基金に関す
る問題が出てくる。
③ 将来の世界貿易(CAPの変動、WTO体制)
フランス経済の中で農業は重要な位置を占めている。フランス農業は輸出拡大を欧州にも広げようと画
策しているアメリカとは常に競争関係にあり、圧力をうけている。これまでの欧州農業政策 CAP 考え方
は、食糧は自給を最優先すべきという考えで、アメリカと対立している。来年の WTO 交渉と今後の CAP
の動向に注目している。
④ 大規模流通企業への対応
農産物の流通量に占める大型チェーン店のシェアー拡大しており現在 70%となっている。スーパーによ
る価格抑制、支払代金の先送りが問題化しており、FNSEAが農家を代表して大規模流通企業と交渉し
たり、悪徳スーパーの入口封鎖などの抗議行動を起こしている。
⑤ 一般大衆とのコミュニケーション
国際農業博覧会ではFNSEAのブースが大きくとってあった。とくに子供の農業への理解を深めるた
めの取り組みを重要視していて、そのためのコーナーが設けてあった。また、各地で農業体験ができるイ
ベントも企画しており年間 25~30 万人の子供を農業の現場に招いている。また、学校現場の教師のため
に農業に関する資料作成も行っている。視察の資料として提供してもらった農業の大切さを訴えるパンフ
レットには、子供向けのマンガや、農業に関連したクイズやパズルが掲載されていた。
⑥ 21 世紀に向っての、農業、農民の役割
⑦ 減少しつつある後継者確保の対策
フランスでも農業後継者の減少と担い手の高齢化が続いており農民連盟は危機感を抱いている。4 人が
離農するのに対し 1 人しか就農しておらず、このままでいくと 80 万戸の農家が 10 年後には 30 万戸と予
想されている。
50~60 万戸の農家を確保するために農民連盟は国や関係機関に対し制度政策要求を行って
いる。
具体的には、青年農業者に対する税制上の優遇措置、規模拡大のための農地の斡旋、農家の社会保障制
度の強化と負担金の軽減、低利融資、生産乳量制限の免除などの政策が国・県レベルで実施されている。
⑧ 環境問題、
、健康と食品の安全性の向上
安全性を確保するために、種子から収穫、加工までの全過程を通じて管理できるよう、政府に改革案を
提示し、助成措置を要求している。
フランスの主な農業関係団体
フランスの主な農業関係団体は目的別に分けると次のようになる。
(資料より)
① 加入者の物質的、道徳的利益を守る組合活動を行なう組織
FNSEA
農民組合全国連盟(35 歳以上が会員)
CNJA
全国青年農民センター(35 歳未満が会員)
② 農業普及を行なう組織
農業会議所
顧問(コンサルタント、技術者)5,000 人
③ 生産資材の共同購入またはを販売(加工、商品化)を行なう組織
CFCA
経済事業農業協同組合の全国組織。農産物の半分を農協が扱う。
④ 農業銀行
FN credit
クレディー・アグリコール、フランス最大の銀行
⑤ 農業相互保険
FN mutuallte
※④と⑤は CNMCCA 全国農業・共済・信用連合会に属している。
以上すべての組織は FNSEA が議長を務め、CAF(フランス農業委員会)のもとに合同している。CAF
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全国農団労第 4 回海外(欧州)農業視察
は国からの助成により運営されており、地方段階から選挙で選ばれた委員が運営している。
なお、FNSEA には視察を引き受けてもらっただけでなく、FNSEA も参加している国際農業博覧会の
入場券を提供していただいた。
24.視察の課題と成果について
今回の視察で私たちに与えられた課題は、少し大げさな言い回しになるが、①欧州の農業とデカップリ
ング政策の実状に学び日本型デカップリング導入の条件と課題を明らかにすること、②農協革新の取り組
みに生かせるような欧州の協同組合の優れた点を学ぶこと、の二つであった。
①については、デカップリング先進国であるスイス農業局のマイヤー氏から、デカップリング導入を要
求している私たちに対して大きな励ましの声をいただくことができた。また、オーバーアルゴイ地方のグ
リーンツーリズム(Landtourismus)
・農家民宿の項で述べたとおり、デカップリング導入の条件は国民
の合意を得ることであり、そのためには農家自らが、農業の価値を認識し、非農家の人々に対して積極的
に農業の価値や農業を守る意味を訴えていく地道な取り組みが必要なこと、その一つがグリーンツーリズ
ムだということも学んだ。
二つ目の課題である農民組織や協同組合については、報告書の内容を見てもらえばお分かりの通り、残
念ながら十分な理解が得られなかった。ただし、農民組織である FNSEA が、農家からの会費や出版事業・
コンサルティング業務による収入で運営されているという点は興味深いものだった。日本では営農指導は
農家にとっては無料のサービスと受け止められており、農協自ら販売、購買事業のおまけぐらいに考えて
いるところが少なくない。専業的な農家からは今後ますます高度な指導や情報の提供が求められることは
間違いなく、事業としての営農指導を確立する上で学ぶべき点は少なくない。
25.視察を終えての反省
1) 視察の心構えについて
農団労本部から資料を用意していただいたが、事前の十分な下調べもしないままで視察に突入してしま
ったことを反省している。資料収集と学習は事前にやるべきだった。
2) 日程および行程について
同じところに 2 泊する日程は良かったが、視察先はもう少ししぼったほうがいいのかもしれない。たと
えば、協同組合組織については 1 カ国にしぼり、単協、連合会の両方の視察でも良かったかもしれない。
FNSEA でも勧められたが、農民連盟の県連合会も視察できたなら、より活動の内容が理解できたように
思う。
26.おわりに
ありきたりの言葉だが、個人的には今回の視察はたいへん勉強になった。しかし、団長としてはの務め
は十分に果たせたとは言い難く、みなさんには迷惑をかけたことも多々あっただろう。それでもなんとか
無事帰国できたのは添乗員の島田さんや家老さん、それに通訳のさくらさんをはじめ通訳や現地係員の
方々と団員のみなさん、視察先の皆さんのおかげだと感謝している。また、今回視察のチャンスを与えて
下さった岡田委員長、資料作成や準備をして下さった小川オルグ、送り迎えをして下さった内村書記次長
にもお礼を申し上げたい。
また、忙しい春闘前にもかかわらず送り出してくれた広島県農協労連の仲間にも感謝したい。
みなさん、ありがとうございました。
◆ 参考資料
1.全国農団労第 4 回海外農業視察団資料(全国農団労)
2.ECの農政改革に学ぶ(農文協)
3.先進国家族経営の発展戦略(農文協)
4.世界の農業支援システム(農文協)
5.西ドイツの農業構造政策(日本経済評論社)
6.環境保全と持続農業について(家の光協会)
7.ヨーロッパの有機農業(家の光協会)
8.グリーンツーリズム(家の光協会)
9.世界の協同組合(家の光協会)
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デカップリングについて
ドイツ農政とマシーネンリングについて
ドイツの普及事業について
ドイツ農政とマシーネンリングについて
ドイツの農家民宿について
全国農団労第 4 回海外(欧州)農業視察
【資料 IP農業(統合農法)について】
環境に優しく賢い農業を
-見習うべき欧州の統合農法-
社団法人国際農業者交流協会
前欧州支部長 家老 洋
儲け主義を追求
「統合農法」と呼ばれる考え方がドイツを始め欧州に広がっている。ドイツ語では[Integrierte
Pfranzen Anbau]というが、私はこれを[環境にやさしい賢い農業」と意訳し、解釈している。
ドイツ・ボンには統合農法推進委員会が設置されているが、欧州での統合農法の草分けは英国だ。IP
C農業ともいう。ドイツの場合は七、八年前から始まった。
これまでの農業は環境に対する負荷を無視してきた。なぜなら儲け主義を追求したからだ。例えば野菜
に窒素肥料をたくさんやれば、きれいな野菜ができて売れる。だが、そうやって野菜が必要とする以上の
肥料を与えてきたため土壌汚染や水質汚染を招いた。
「農業が環境破壊をしている」というのは、いま欧州
各国の認識になっている。日本にはまだこの考え方はない。
有機農法は日本やドイツでもてはやされている。
”化学肥将や農薬を撒(ま)かないで、できるだけ堆
肥を使おう”
、
”草取りは薬を使用するのではなく天敵を利用するような生物学的なやり方で”
。これはいい
ことだ。そして、生産物が高く売れるので、あちこちでやっている。それも食料が余っている先進国での
話だ。
ドイツでは小麦もミルクも生産過剰だ。日本では米だ。生産調整をした分、補助金を出す。これは日本
も欧州も同じ状況になっている。
有機農業とか粗放農業はこういう背景の中で進められている。生産性を落とすということは土地生産性
も労働生産性も落ちることだ。だが、補助金が出るし、農産物は多少高めに売れるから、農家の生活は成
り立つ。日本一国、あるいは欧州連合(EU)域内だけで考えた場合には有効な手段だろう。
だか世界レベルで考えた場合、どうだろうか。今日でも餓死する人がいる。もちろん政治的な問題や流
通の問題もあろうが、餓死者がたくさんいるのは今日の事実だ。
もう一つ、世界の総人口は今後も増える傾向にあると考える。農業は何を担っていくべきか。いうまで
もなく食料を供給することが第一の使命である。だから世界的に見れば、農業はこれから増産傾向にある
べきだ。
「高く売れればいい」というような市場経済主義的な考え方が優先されるような有機農法の促進こそ問題
である。
生産性を高める
そこで総合的な農法が注目されている。これが統合農法だが、生産性をできるだけ維持し、さらには高
めることができるようにしつつ、
倹約と環境保護を考慮していくものだ。
日本にはない新しい考え方だが、
ぜひ欧州の現状を見習って考えるべきである。
農薬を例にとれば、作物が必要な量だけの農薬を散布する。それなら害にならない。これまでは農業者
に農薬に対する知識が欠けていた。雨が降ったときに撒くのか、雨がやんでからか、風上からか、風下か
らか、それをきちんと把握すれば農薬も使用できる。こういう考え方が欧州に徹底してきた。その結果、
農薬の散布量は減り、経費も軽減されたのである。肥料にも同じことがいえる。
また土壌破壊についても見直されている。
例えば畑の中を大きなトラクターで年間に何往復もしていた。
土を掘り起こす、細かくする、農薬を撒く、肥料を撒く-それぞれのたびごとに。これによって土壌構造
が破壊されてきた。それを 1 回の往復でいくつもの作業をまとめてできないものか。例えば、農薬を撒き
ながら種を播(ま)き、そして土をかぶせるという具合だ。
日本の農業は確かに技術とか農業者の生産能力は世界でもトップレベルだろう。だが、土地が高い、人
件費が高い、ガソリンが高い。こうした悪い条件下で国際競争力はない。だから日本農業でもうけようと
いう考えは捨てるべきだ。
例えばコシヒカリ。本来は新潟の土壌に合った品種だ。それが〃うまいから〃”高く売れるから〃とい
って全国各地で作られている。このような適地適作を無視した農業をやると、93 年にあったようなコメ凶
作に対処できない。
従来のもう主義的な考え方を改め、生態系を考えた農業を進めることが重要である。
(※1998 年 2 月 23 日ミュンヘンにて家老氏より提供)
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