生命の危機−環境ホルモン汚染を乗り越える

生命の危機−環境ホルモン汚染を乗り越える
鈴木
嘉彦
環境ホルモンの問題とは
化学物質の中には、生体内にとりこまれて内分泌機能(ホルモン機能)を中心に広範な影響を及ぼ
すものがあり、これがヒトをはじめとする生態系に深刻な影響を与えている可能性があると報告され
ている。この一連の議論が「環境ホルモンの問題」と言われている。この問題は、これらの化学物質
のヒトへの健康や生態系への影響について啓蒙的に著された「奪われし未来」の発刊により、多くの
反響を呼んでいる。
なお、これらの化学物質は、環境ホルモン様物質、内分泌攪乱化学物質等と総称されているが、そ
の明確な定義は現時点では確立されていない。
「奪われし未来(Our Stolen Future )」について
著者は、テオ・コルボーン、ダイアン・ドマノスキー、ジョン・ピータソン・マイヤーズの3人。
コルボーンは動物学者で環境科学や野生生物にバックグランドを持つ他の2人が調査と叙述を担当し
ている。問題となっている化学物質と関連していると思われる奇妙な現象の記述から物語は始まる。
★ 1952 年にフロリダの海岸で鷲の生息数が激減し、研究者は彼らが「つがい」になることに興を
失っていることを発見。約80%が不妊であった。
★ 1950 年代のイングランドでカワウソが急に姿を消した。その外に夜行性の動物も見られなくな
った。原因はわかっていない。
★ 1960 年代、五大湖の一つミシガン湖の湖畔でミンクの養殖業がほぼ全滅した。経済的理由から
ではなく、餌の魚の中のPCBのために繁殖が不能になったといわれる。
★ 1970 年代、オンタリオ湖でカモメの赤ん坊が卵の殻を破る力がなく、約80%が死んだ。これ
を発見した研究者はダイオキシンのために何かが狂わされたと考えている。
★ 1970 年代、南カリフォルニアのあちこちの島で雌同士が対になるカモメが発見された。卵の数
だけが多く、無精であった。DDTが疑われた。
★ 1980 年代、フロリダのアポプカ湖でワニが卵を生まなくなった。18%しか産卵せず、それも
孵化後数十日以内にみんな死んだ。上流の農薬工場の排水が原因であることは推定できたが、
これほど激しい影響をおこす作用については不明であった。
★ 1988 年、北欧のスウェーデンとデンマークで四月半ば、嵐と共に多数のアザラシが海岸に打ち
上げられた。6月7月にはノルウェーに、8月にはイングランドに、9月にはスコットランド
にと続き、合計で1万8千頭、全北海アザラシの40%のアザラシが死んだ。症状は様々で、
原因は謎のままである。
★ 1990 年代、地中海でイルカの死体が、スペインから始まって、カタロニア、マヨルカ、フラン
ス、イタリア、モロッコでそして翌年にはギリシャで、という風に次々と発見された。彼らは
肺機能をやられていた。PCBが検出されたが正常なイルカの2倍程度であった。
★ 1992 年、デンマークのコペンハーゲンの研究者が、 1940 年代から 80 年代の間に睾丸癌が3倍に
なったことと精子の数減少や奇形増加との関係を疑って調査した。世界から研究論文61報を
集めて行った調査で「 1938 年から 1990 年の間にヒトの精子の数が約半分になっている」とい
う結果がえられた。
このような一連の現象は、動物内のどんな機能や作用に化学物質が関係していることを意味してい
るのか。著者の一人コルボーンは様々な研究の事実を探って行く。その結果、PCBのような化学物
質の湖水中濃度は検出できないほど低いけれども 、最上位捕食者まで来る間に濃縮されて影響が出る 。
その影響は子孫に現れるという流れが見えてくる。それが内分泌撹乱物質という形で明らかになりつ
つある。
その後の世界の取り組み
環境省のホームページ
: http://www.env.go.jp/chemi/index.html
厚生労働省のホームページ: http://www.mhlw.go.jp/cgi-bin/ezsearch.cgi/contents/jtopic/colls/mhlwj
-1-
これまでの毒性評価と暴露評価
本文で用いる省略語などの説明
TDI: Tolerable Daily Intake (耐容一日摂取量) : 健康影響の観点から、一生涯摂取しても、一日当たり
この量までの摂取が耐容されると判断される量。一般に、暴露は最小限に抑えられることが望
ましい。
LD50: 50% Lethal Dose : 50% 致死量 : 実験動物に投与し、そのうちの半数が死亡する量
NOAEL: No Observed Adverse Effect Level (無毒性量) : その投与量までは、毒性影響が現れない投与量
LOAEL: Lowest Observed Adverse Effect Level (最小毒性量) : 毒性影響が現れる最小の投与量
in vitro: 試験管や培養器内のような人工環境を用いる実験系
in vivo : 生きた動物をそのまま用いる実験系
NOEL: No Observed Effect Level (無影響量) : その投与量までは、物質による影響が現れない投与量
ADI: Acceptable Daily Intake (許容一日摂取量)
TEQ: Toxic Equivalents (毒性等量) : ダイオキシン類のそれぞれの同族体の毒性を TCDD に換算したもの
pg :ピコグラム、1gの1兆分の1の量、10 −12 g
TCDD : 2,3,7,8-Tetrachlorodibenzo-p-dioxin ,
PCDD: polychlorinated dibenzo-p-dioxin
PCDF : polychlorinated dibenzofuran ,
Co-PCB : Coplanar PCB
例 ダイオキシン類の毒性評価
( http://www.nihs.go.jp/mhw/dioxin/dioxin.html よ り 抜 粋 )
ダイオキシン類(ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン及びポリ塩化ジベンゾフラン)は、廃棄物の熱を伴う処理過程
で非意図的に発生する化学物質で、環境中に残留し続け、強い毒性を有することが示されている。
1) 体内動態
TCDD の経口吸収には種差は少なく、食事中の成分により大きな影響を受けるが、通常の食物から
の吸収率は50%程度と考えられる。これに対して、吸入の場合の肺吸収率は25%程度であるが、
肺に到達しなかったもの及び肺から排出されたものの内かなりが胃に移行し 、吸収されると思われる 。
また、ダイオキシン類は、代謝されにくいと考えられる。
2) 一般毒性
①急性毒性 TCDD の致死投与量は動物種、系統及び投与経路により著しく異なる。最も感受性の高
い動物種であるモルモットの雄の経口 LD 50は、 600 ng/kg bw であるが、感受性の低いハムスター
では 5,051,000ng/kg bw であり、 8000 倍以上の差がある。発現する毒性は遅発性である。
②慢性毒性 ラットでの生涯経口投与による NOAEL は 1 ng/kg bw/day であり 、毒性は体重増加抑制 、
肝障害などであった。マウスではスイス系マウスでの1年間の経口投与で、アミロイドーシスと皮膚
炎がみられたことから、 LOAEL が 1 ng/kg bw/day と評価されているが、他の系統(B6C3F1 マウス)で
の生涯経口投与では 1.4 〜 6 ng/kg bw/day が NOAEL とされている。アカゲザルでは、 20 か月の経口
投与での LOAEL は 2 〜 3 ng/kg bw/day であり、毒性としては体重減少、脱毛及び角化症などの皮膚
の変化、貧血などが認められる報告があるが、概要のみしか報告されていないので、その結果を TDI
設定に用いることは適切ではないと考えられる。
3) 遺伝毒性
TCDD については、サルモネラ菌株を用いた復帰突然変異試験、 in vitro ほ乳類細胞を用いた各種試
験、種々の in vivo 試験などが行われ、ほとんどの試験で陰性の結果が報告されている。また、 DNA
損傷及び DNA との結合を示す明らかな証拠は得られていないことから、 TCDD は遺伝毒性を示す可
能性はないものと考えられる。
4) 発がん性
ラットでは、1つの試験では肝細胞の過形成結節及び肝細胞がん、硬口蓋・鼻甲介及び肺の扁平上
皮がんなどの増加が、別の試験では、肝細胞の腫瘍結節、甲状腺濾胞細胞腺腫などの増加が報告され
ている。雌では生殖・内分泌器官の腫瘍の減少が認められている。マウスでは、肝細胞がん及び甲状
腺濾胞細胞腺腫などの増加が認められている。いずれの試験結果でも TCDD の最大耐量よりも低い
用量で腫瘍の発生率の増加が認められている。用量と所見との関係は次のとおりである。
・肝細胞がん、硬口蓋・鼻甲介及び肺の扁平上皮がんなどの悪性腫瘍ラットで 71 〜 100 ng/kg bw/day
相当、マウスで 71 〜 286 ng/kg bw/day 相当で、発生率が増加。
・肝細胞の過形成結節(腫瘍性結節)、甲状腺濾胞細胞腺腫などの良性腫瘍ラットで 10 〜 100 ng/kg
bw/day 相当、マウスで 71 〜 286 ng/kg bw/day 相当で、発生率が増加している。
TCDD は 、多くの2段階発がん試験の結果から 、強いプロモーター作用を有すると報告されている 。
また、3)遺伝毒性の知見と合わせ、遺伝毒性物質ではないと考えられる。
5) 生殖発生毒性
①催奇形性
マウスの器官形成期連続経口投与では、 1000 ng/kg bw/day 以上で口蓋裂及び腎盂拡張の頻度の増加
が認められ、 NOAEL は、 100 ng/kg bw/day と報告されている。ラットの同じ経口投与では、母体毒性
量で胎児死亡などの胎児毒性を示すとともに 、腎の形成異常も認められており 、NOAEL は 、125 ng/kg
bw/day と報告されている。ウサギの同様の試験では、 250ng/kg bw/day 以上で流産、胚胎児死亡が認め
られている。
②生殖に及ぼす影響
TCDD は、実験動物に対する連続経口投与で、受胎率の低下、同腹児数の減少、生後生存率の低下
などの生殖毒性を示すことが報告されている。 ラットの三世代繁殖試験では、 100 ng/kg bw/day で
-2-
は受胎率の著しい低下、 10ng/kg bw/day では軽度ではあるが、子宮内死亡、同腹児数の減少、生後の
体重の増加抑制などを認めている。この結果から、 1ng/kg bw/day が NOAEL と報告されている。 な
お、 1 ng/kg bw/day における結果の統計学的解釈から、この用量を LOAEL とする意見があるが、この
用量でみられた変化は、各世代で異なることなどを考慮すると、 1ng/kg bw/day を LOAEL とする解釈
は適切とは思われない。 アカゲザルの生殖毒性試験では、 5 ppt 群(約 180pg/kg bw/day ) では影響は
認められなかったが、 25 ppt 群(約 0.9ng/kg bw/day ) では生殖能力の指標に有意な低値がみられた。従
って、この結果を基礎にすると、 NOAEL は 約 180pg/kg/day に設定されることになるが、 WHO 欧州
地域事務局の専門家が指摘したように、実験計画及び実験結果の記述の不備、アカゲザルの年齢がば
らついていることなどを考慮すると、この結果に基づいて、 TDI を設定するのは適切でないと考えら
れる。 また、アカゲザルにおいて、約 180 pg/kg/day というレベルで、子宮内膜症の頻度の増加及
び症状の亢進が認められているが、この系統では対照群での発生率が高い、例数が少ない、
well-controlled 試験ではないとの理由で、この実験を根拠に TDI を設定することは適切でない。
6) 免疫毒性
TCDD による免疫毒性には、 Ah 受容体介在性と非介在性のものがあり、後者は、より高用量で示
される傾向が認められる。また、 TCDD による胸腺萎縮が、多くの実験動物で認められる。霊長類実
験動物では、マーモセットへの経口投与 ( 0.3 及び 1.5 ng/kgbw/week )で、末梢血リンパ球の構成比の
軽度又は一過性の変化が報告されている(単回投与の場合の NOEL は 3 ng/kg bw とされる)。また、
アカゲザルへの4年間にわたる 25 ppt TCDD 添加食餌の投与 (暴露量は、 1 ng/kg bw/day 前後と推定
される)でも、末梢血リンパ球の構成比の変化が報告されている。
暴露評価
1)生成量と環境への放出
我が国における PCDDs+PCDFs の発生量は 1990 年頃の試算として、年間 4,000-8,400 g TEQ で、内
訳としては、主たるものが次のとおりと報告されている。
都市固形廃棄物
3,100-7,400gTEQ/ 年
有機塩素廃棄物・廃棄物油の焼却
460
医療関係廃棄物
80- 240
金属精錬
250
煙草の煙
16
紙・ボール紙
40
2)環境汚染 / 大気
大 気 中 の ダ イ オ キ シ ン 類 濃 度 の 測 定 報 告 と し て は 、 わ が 国 で は 、 環 境 庁 の 調 査 (環 境 庁 ,1995 )に よ
ると、夏と冬の平均のダイオキシン類濃度は、工業地帯近傍の住宅地域で 0.01 〜 2.6 I-TEQ pg/m 3 ,
大都市地域で 0 〜 3.0 I-TEQ pg/m 3 , 中小都市地域で 0 〜 1.1 I-TEQ pg/m 3 , バックグラウンド地域で
0 〜 0.11 I-TEQ pg/m 3 と報告されている。
3)環境汚染 / 水系
河川、湖沼などの汚染は、主として各種の燃焼施設から発生したダイオキシン類が大気経由で運ば
れて沈積するほか、パルプ工場の排水とか、廃棄物の埋め立て処理場からの汚染した浸出液などの直
接流入によるものである。ダイオキシン類の水溶性は極めて小さいので、実際に水中に溶け込む量は
ほんのわずかであり、ほとんどが有機物や粒子状物質に吸着された形で水中や底泥中に存在する。
わが国のデータとしては、大阪湾北港で採取した海水中の PCDDs と PCDFs の濃度が極めて低く、
それぞれの平均値が 60.3 及び 21.7ppq ( fg/ml,10-15g/ml )で、底泥中の量のそれぞれ 130 万分の1及び
81 万 分 の 1 で あ っ た と の 報 告 が あ る 。 結 局 、 水 系 の 汚 染は、底泥中の汚染を 中心として水中の生
物に摂取され、これが食物連鎖で濃縮され、ヒトの健康上のリスクとなり得るところに問題があると
考えられる。
4)食品汚染
一般にダイオキシン類への暴露として問題となるのは食品を通じてである。大気や水などのダイオ
キシン類含量は普通は極めて低く、これらの環境媒体を通じて直接にヒトが健康被害を受ける可能性
も極めて低い。しかし、大気からの沈積物などが食物連鎖系に入り、これにより汚染を蓄積した動物
性食品などは、それらの摂取によるダイオキシン類への暴露がヒトの健康にとって問題となり得る。
また、土壌中のダイオキシン類は微小生物やミミズのような虫に摂取され食物連鎖の中に入る。
市販の魚類については 、沿岸魚で 0.87 ± 0.28 ppt ( TEQ ) 、これに対し遠洋魚では約その半分の 0.33
± 0.25 ppt ( TEQ )であった。また、ハマチやタイについての調査では養殖物が天然物より高い汚染を
示していたが、これは、養殖が沿岸部で行われていること、飼料として魚や魚粉入り飼料を与えるた
め、などの理由によるものであろうと推定されている。環境庁が 1988 年度及び 1990 年度に行った
調査の結果もほぼ同様なレベルであった。なお、魚介類の汚染は、 PCDDs に比べ PCDFs の割合が多
いのが特徴である。
5)人体暴露と人体汚染
人体暴露の主要なルートは食品を通じてと考えられている 。これまでの報告では 、米国で約 120 pg
TEQ/day ( EPA 1994 )、これはドイツの 79 pg TEQ/day 及び 158 pg TEQ/day 、オランダの各種ルートを
通じての 118-126 pg TEQ/day 、主として食品からの暴露のみのカナダの 140-290 pg TEQ/day などとよ
く符合する。なお、これら欧米諸国では、動物性食品が主要なダイオキシン類の供給源で、ヒトの暴
露の 90% 以上が食品に由来するとしている。
わが国のデータとしては、 175 pg TEQ/day との報告がある。わが国の場合は魚介類の摂取量の多さ
-3-
がダイオキシン量の摂取量が比較的多いことの原因と考えられている。各国の主要なダイオキシン類
摂取源をみると、ドイツ、カナダの畜産食品群のそれぞれ 60 及び 66% に対し、日本は 20% (肉類
10%, 乳製品 10% ) 。魚介類はドイツ 35%, カナダ 12% に対し日本は 60% で 、食生活の違いは大きい 。
スウェーデンでは、ヒトの血清中の TEQ 濃度が魚介類摂取量と相関して高くなるとの報告がある。
TDI の提案
TCDD は、食品添加物や農薬のように意図的に使用するものではなく、非意図的に生成され、それ
が環 境 経 由で ヒ ト に摂 取 さ れる こ と と なる た め 、従 来 食 品中 の 残 留基 準 と して 用 い られ て き た ADI
ではなく 、TDI という概念を用いることが国際的にも一般的になっている 。まとめた結果から 、TCDD
は、実験動物においては肝臓等にがんを発生させるが、遺伝毒性物質ではなく、プロモーターである
と考えられるので 、NOAEL と不確実係数から TDI を設定することが適当であると考えられ 、これは 、
国際的にも一般的である。
実験動物における NOAEL は 、生殖毒性試験 、慢性毒性試験等の結果から総合的に判断して 、1ng/kg
bw/day とし、これに、 100 の不確実係数を適用し、 TDI を TCDD として 10 pg/kg bw/day とすること
を提案する。 TCDD 以外の PCDDs や PCDFs を考慮する際に必要となる毒性等価係数としては、
NATO/CCMS が提唱し、現在広く用いられている I-TEF を用いることが適切である。 TDI を TCDD の
毒性等量として表せば、 10 pg TEQ/kg bw/day となる。現在、ダイオキシン類に関する研究が進行中で
あることから、この TDI は、当面のものとすることが適切である。
ホルモンによる調整機能
分子細胞生物学(東京化学同人)参照
卵巣と子宮及び視床下部と下垂体の間のホルモンの相互関係は下図に示されるような関係である。
成長や分化の過程で多数のホルモンが協調して
多種の細胞に作用することがある。その代表的な
例が子宮内膜( endometrium )の細胞の発育と分化を
刺激するステロイドホルモンであるエストロゲン
とプロゲステロンである。これらの調整に重要な
役 割 を 果 た し て い る の は 脳 下 垂 体 前 葉 ( anterior
pituitary gland )で あ る 。 脳 下 垂 体 前 葉 は 視 床 下 部
( hypothalamus ) と 呼 ば れ る 脳 の 一 部 と 特 殊 な 血 管
によって結ばれている。視床下部の神経細胞はペ
プチド放出因子を血中に送り出し、それは脳下垂
体前葉細胞の受容体と結合する。すると次に脳下
垂体ホルモンがそこから放出される。
卵母細胞と呼ばれる哺乳類の卵は、多くの細胞
からなる卵胞の中で成熟して卵子となる。脳下垂
体前葉から分泌される炉胞刺激ホルモン
( follicle-stimulating hormone:FSH )の影響で卵胞は大
きくなる。卵胞からはエストロゲンが分泌され受
精卵が着床できるように子宮内膜の発育を促す。
ところがエストロゲンは脳下垂体と視床下部の両
方 に 働 い て FSH の 分 泌 を 抑 制 す る の で エ ス ト ロ
ゲンの分泌量も減ってしまう。このエストロゲン
による負のフィードバック( negative feedback )は妊
娠していない女性のエストロゲン濃度を周期的に
増減させる。卵胞が成熟するにつれ、脳下垂体か
らの FSH の分泌量は減るが 、黄体ホルモン( luteinizing hormone:LH )という別のペプチドホルモンが
分 泌 され る よ うに な る 。 LH は 完成 し た 卵子 を 放
出させ、卵胞を黄体( corpus luteum )という内分泌
器官に変え、その黄体がプロゲステロンを分泌す
る。
つぎにプロゲステロンが子宮内膜をさらに発育
させ、受精が起こらなかった場合、黄体は退化す
る。エストロゲンやプロゲステロンの濃度が低下
すると子宮粘膜ははげ落ち、月経となる。妊娠す
ると子宮内膜を維持し、着床した胎児に十分な血液を供給するためにプロゲステロン濃度を高く保つ
必要がある。そのとき正のフィードバックが働く。プロゲステロンは絨毛性性腺刺激ホルモン
( chorionic gonadotropin:CG )の合成を活発にし、その CG がプロゲステロンの合成と分泌を増加させる。
-4-
核内受容体と結合する動物ホルモン
ステロイド
プロゲステロン
(血漿 1ml 中
卵胞期: 1ng
黄体期: 8ng-160ng )
チロキシン
寿命:数日
ステロイド
エストラジオール
(血漿 1ml 中
排卵前: 40-200pg
排卵後: 10-30pg )
甲状腺ホルモン
代謝維持、酵素合成の
誘導、遺伝子発現など
細胞表面受容体と結合するホルモン
アミノ酸誘導体
アドレナリン
副腎髄質ホルモン
グリコーゲンの分解、脂肪細胞にお
ける脂質分解など
寿命:数秒−数十秒
ステロイド
テストステロン
(血液 1ml 中
男性: 6.4ng
女性: 0.34ng )
血液中の寿命:数時間
内分泌撹乱物質とその分子構造
合成エストロゲン
ジエチルスチルベストロール( DES )
(出典:メス化する自然)
工業用化学物質
エチニールエストラジオール(ピル)
殺虫剤類
PCB 類
ダイオキシン類
-5-