第1部 Windowsはもっと使いやすくなる 総論: 多くのエンドユーザーが日常的に利 に達しているのだろうか。 したファイルを取り出したいという状 用しているWindowsは,果たして本 当に使いやすいツールだろうか。 これまで開発元の米Microsoftが, 例えば,客先への過去の出張に関連 インターネットよりも情報検索が困難 ここ数年,コンピュータはインター 況で,あなたはどうするだろうか。 「顧客へのプレゼンに使ったファイル」 使いやすさを念頭にWindowsの改良 ネットを抜きには語れない。Windows なら,きちんとファイル整理をしてい を続けてきたのは確かだ。1993年8月 の機能強化にもインターネットを前提 るユーザーは比較的簡単に取り出して に登場したWindows NT 3.1から約10 としてなされたものが数多くある。例 見せるかもしれない。しかし, 「出張 年の間に実施されてきた,大規模なも えば,電子メール・ソフトやWebブラ 先で撮影した写真」 「プレゼン後に担当 のだけでも4回以上のバージョンアッ ウザなど,様々な機能が標準搭載され 者とやり取りしたメール」 「出張旅費の プでは,常に何らかの新しい「使いや ている。結果,今日ではインターネッ 精算書」 も併せて取り出したい場合は すさ」を備えるようになっている。 トに公開されている情報やサービス どうだろう。Windowsのファイル検 この結果,最新クライアントOSで が,Windowsパソコンから驚くほど 索機能を使ったり,メール・ソフトの あるWindows XPで既に満足してい 手軽に利用できるようになっている。 検索機能などを使ったりして一つひと るユーザーが多いのではないだろうか。 「ゴテゴテしているばかりでろくに使 インターネットに は G o o g l e や つ探しているのではないだろうか。 Yahoo !をはじめ,便利なサービスが わない新機能を付けるくらいなら, たくさん用意されている。これらのサ Webの操作性を取り込みたいWindows Microsoftには安定性やセキュリティ ービスを利用すればパソコンのハード このようにインターネットなら地球 を向上する方に労力を使ってほしい」 ディスク容量とは比較にならないほど の裏側にある情報でも瞬時に取り出せ という声もよく聞く。 膨大な情報から,ものの数秒で欲しい るのに,すぐ手元のパソコンに保存し 情報を取り出せてしまう (図1) 。 てある情報を取り出すために比較にな 確かに安定性やセキュリティは重 要だ。しかし,使い勝手の面でWindowsは本当に理想的といえるレベル 翻って,手元のパソコンにある情報 はどうだろうか。 らないほどの手間がかかることはよく ある。単純に比較できないが,インタ ーネットの検索エンジンもコンピュー インターネットの情報はすぐに見つかる 自分の作ったファイルがなかなか見つからない タ処理によってあれだけのサービスを 提供しているのだ。Windowsが本当 最新の株価は? 東京駅への最 短 経路は? 先月作った ? プレゼン資料は 出張先で撮った 写真は? に使いやすいツールならば,ローカ ル・ファイルの検索がインターネット 並みに簡単になってもおかしくない。 とほほ 例えば,GoogleやYahoo !がインタ … ーネット中の情報を分類・整理してい るように,Windowsがパソコン上の 情報を勝手に分類・整理してくれるよ うになるとどうだろう。そうなればユ 図1●デスクトップ環境とインターネットのギャップは大きい ローカル・マシン上の情報はユーザー自身が整理して,ファイル名などを頼りに探すことになる。様々な検索サー ビスで素早く見つけ出せるインターネット上の情報と大きなギャップがある。 58 日経Windowsプロ 2004年 1月(no.82) ーザーはもうファイルの分類に気を使 わなくてもよい。後で探すことを想定 特集 1 マイクロソフトがLonghornで描くWindowsの将来像 1996年 1999年 2001〜2003年 2005〜2006年 Windows NT 4.0 ● Internet Explorerを 標準搭載 Windows 2000 ● アクティ ブ・デスクトップなどイン ターネット上のデータへのアク セス機能を強化 ● Webサーバー機能を強化 Windows XP/2003 ● Windows Updateなどイ ンターネットでの ソフト配布を本格化 ● ASP.NETによるWeb開発モデルの進化 ● Windows Code Name Longhorn 新API「WinFX」でインターネット技術をOSに融合 API:アプリケーション・プログラミング・インターフェース 図2●Windowsはインターネット技術を融合するべく進化してきた Microsoftは各種のインターネット技術との融合を図り,Windowsに様々な改良を加えてきた。2005〜2006年に出荷開始と見られる次世代版「Longhorn(開発コード) 」 はその1つの節目となる。 かという視点に立っている。 して分かりやすいフォルダの分類や命 こういったリンクやマルチメディアを 名をしなくとも,その場で思いつくま 混在させる使いやすいユーザー・イン しかし,実はWindows上でWeb並 まどんどん置いていって構わない。 ターフェースがあると便利だ。配布サ みに使いやすい環境が実現する日は ーバーからアプリケーションを自動で 着実に近づいている。Microsoftは次 更新できるようにもしたい。 世代版Windowsとして「Longhorn ファイルを見つけたければ,キーワ ードやファイルの種類,だれが関連し (開発コード) 」の開発を進めている。 た情報か,あるいはいつごろの情報か など,手掛かりになる情報をWin- 2005〜2006年に革新の大波が来る Longhornに盛り込む新技術は,Win- dowsに次々と与えていけば,絞り込 もちろん,現在のWindowsはそう dowsそのものの使いやすさを大幅に んでいってくれるというのがユーザー なっていない。これだけでもWindows 向上させる。具体的な製品化スケジュ にとって理想的だ。 には,まだ使いやすくなる余地がある ールは確定していないが,2005年後 ことを示している。このギャップが生 半から2006年以降と見られている。 アプリケーション環境を見ても, Webアプリケーションが従来のWin- じた原因は,インターネットに対応し 「早くて2005年」 というスケジュー dowsアプリケーションより優れてい た機能強化の目的が,Webアクセス ルは2004年早々の現在からすればず る点は多い。リンクで画面を切り替え を快適にすることに限られていたこと っと先の話に思えるが,どのようなOS る手法の分かりやすさ,画像やビデオ が大きい。 になるかは次第に明らかになってき など複数のメディアが混在したユーザ Windows NT 4.0以降,Microsoftは た。2003年10月にMicrosoftが米ロサ ー・インターフェースの親しみやすさ 様々なインターネット技術をWindows ンゼルスで開催した開発者会議「Pro- はだれしもが実感しているだろう。サ に融合,そのうちいくつかの技術は fessional Developers Conference ーバー上のファイルを更新するだけで Microsoft自身が創り出しもしてきた (PDC)2003」で,いち早くLonghorn アプリケーションの更新が済む点も運 (図2) 。いずれもWindowsをインター のプレビュー版が配布されたのだ(本 ネットにつないで使うときに便利な機 誌2003年12月号のレポートで既報) 。 能だが,Webをどう使いやすくする プレビュー版の目的は,搭載を予定 用コストの面で有利だ。 Windowsアプリケーションでも, 59 日経 Windowsプロ 2004 年 1月 (no.82) Windows Longhorn の現在 ―― よくある4 つの質問に答える Paul Thurrott =[email protected] した。その後,Microsoftの上級副社長であるJim Allchin 氏が,Blackcombの出荷前に「中継ぎ版」 としてLonghorn を出すと明言しました。それ以降Longhornに関する情報 は,Microsoftと司法省とによる独占禁止法に関する法廷闘 争の中で明らかにされ,周知の存在になっていきました。 Q すか? XP と同様に,「Home Edition」 「ProfesA Windows sional」 「Tablet PC Edition」 「Media Center Edition」 Longhornにはどのようなエディションが用意されま 「Itanium版」などに分かれます。ただし,各エディションの 名称はWindows XPとは違うものになるようです。 2002年末にMicrosoftは,Longhornはデスクトップ版の みのリリースとし,BlackcombをWindows Serverの次期 バージョンにすると決断しました。ただし,Longhornに合 わせて登場する製品群には,Windows Serverのマイナー・ アップグレードが含まれます。 一方,BlackcombはWindows Serverのメジャー・バー Q 既にMac OS Xが備えているのではないでしょうか。ど ジョンアップになります。当然のことながら,現時点では こが新しいのでしょうか? dows Server 2003の次のバージョンは,Blackcombだ。現 米Apple Computerは,Mac OS X「Panther」にいく A つかのデスクトップ機能を搭載しました。しかし,ユー 時点ではいつの出荷になるか分からないが,顧客の要望に基 ザーに対して「次に何をすべきか」を提示する 「タスク中心型」 います。 Longhornのユーザー・インターフェースに似た機能は, Blackcombの詳細は不明です。当時Microsoftは, 「Win- づいてサーバーOSのリリース間隔を決める予定だ」 と述べて の機能を持たないという点で依然としてクラシックなデスク 2003年5月のハードウエア開発者会議「WinHEC 2003」 トップOSのままです。従来のデスクトップOSを超えるよう では,Microsoftの重役である David Thompson氏が, な使い勝手のいい先進的な機能は提供してくれません。 Blackcombの出荷がLonghornの2〜3年後になることを明 MicrosoftがPDC 2003で見せたLonghornの技術は,Pan- らかにしました。開発中だった様々な新機能は,Windows therよりもはるかに刺激的なものでした。 Server 2003の追加機能にすると述べています。 Q Longhornは現在のWindowsにとって劇的な変化のよ うに聞こえますが,私が現在使っているアプリケーション Windows Powered NASの次のバージョンであるWindows はLonghornでも使えるのでしょうか? Storage Server 2003とAMDの64ビット・プロセッサ版の はい。MicrosoftはLonghornで,DOSとの互換性を A 保つと約束しています。今のところどのようにDOSを Windows Server 2003,そしてSmall Business Server サポートするか不明ですが,現在のWindows XPが持つ互 実際にiSCSIのイニシエータ側プログラムが2003年6月に, 2003が2003年秋に,Automated Deployment Services (ADS)が12月に出ました。 2004年にはVirtual Server,そしてWindows Server 換性よりも,進んだものになるようです。 Q ていたのですが? Longhornの存在が初めて明らかになったのは,2001 A 年7月17日に開催された 「XPプレス・ツアー」のことで Windowsの次のバージョンは「Blackcomb」だと思っ 2003 Service Pack1が登場する予定です。Longhorn Serverは,これらの技術を含んでいるため,スケジュールも常に 変わり続けるでしょう。 (Windows & .NET Magazine Network,© 2003. Penton Media,Inc) しているテクノロジを開発者に披露 例えば先のファイル検索は既に述べ アプリケーションの実行環境につい し,新しい環境への準備を促すことに た理想の環境を試せる状態になってい ても,LonghornはWebアプリケーシ ある。このため未完成の機能やうまく る。ユーザーが知恵を絞ってファイル ョンの優れた点を取り入れる。例え 動作しない機能も含まれているが,既 を整理しなくても,Longhornの新し ば,リンクやマルチメディアの混在し に様々な点で従来とは一線を画した製 いストレージ管理機構「WinFS(開発 たユーザー・インターフェースを極 品になることがうかがえるものになっ コード) 」が自動的に分類・整理してく めて簡単に実現できる画面描画機構 ている。 れるのだ。 60 日経Windowsプロ 2004年 1月(no.82) 「Avalon(開発コード) 」を搭載する。 特集 1 マイクロソフトがLonghornで描くWindowsの将来像 内は開発コード 図3●Longhornのリリース時 期にはサーバーやオフィス・ス クライアントOS イートもバージョンアップする 2003 年 の Windows Server 2003 に続き,マイクロソフトは サーバーOS 2006年ころまでに主要な製品の バージョンアップをあと2回予定 している。中でもLonghornの オフィス・ リリース時期はオフィス・スイート アプリケーション からサーバーまでが一斉にバー ジョンアップする大きな波になる。 サーバー・ アプリケーション 開発ツール Windows Longhorn Windows Longhorn Server Windows Server 2003 Office System (Office 2003) Office 12 Exchange Server 2003 SQL Server Yukon BizTalk Server 2004 Jupiter 1 Eビジネス・サーバー Jupiter 2 Exchange Server Kodiak Visual Studio .NET 2003 Visual Studio Whidbey Visual Studio Orcas 2004年 2004 2003 (現在) 2003年 (現在 現在) 画面描画 2005年以降 2005年以降 データ管理 コミュニケーション 配布サーバーからダウンロードしたア プリケーションを自動で更新する新機 能「ClickOnce」 も便利である。 また,新しい通信機構「Indigo(開 NEW Avalon NEW Windows Forms ASP.NET NEW WinFS ADO.NET Indigo NEW Collaboration 発コード) 」によりネットワーク通信機 能を持ったアプリケーションは従来の ベースOSサービス ベースOS OSサービス(ファイル・システム, ネットワーク・プロトコルなど) Webアプリケーション以上に容易に 作れる。信頼性やセキュリティを確保 カーネル しながら,これまでより圧倒的に少な いコード量でネットワークを介した連 携機構を実現できるようになる。 オフィスやサーバーもほぼ同時に一新 HAL(ハードウエア抽象化層 ドウエア抽象化層) 抽象化層) 図4●WinFXのアーキテクチャ 従来,OSの一部の機能だけをカバーしていた.NET Frameworkを拡張し,OSのほぼすべての機能をカバー している。主な新機能は画面描画サブシステム 「Avalon」 ,ストレージ管理サブシステム 「WinFS」 ,Webサービ ス・サブシステム 「Indigo」の3つ。 「Collaboration」 はユーザーの通信相手などをOSレベルで一元的に管理す るもので,これもWinFXの新機能である。 このように,Longhornは数々の新 機能によって,ファイル管理やアプリ ケーション構築に対する考え方を一変 の新版「Kodiak(同) 」などのサーバー のサポートが望ましい機能がWinFX させる。 製品もリリースされる。 にはいくつか搭載される。例えば,新 セキュリティ機構「NGSCB(次世代セ クライアントのプラットフォームが 変わるのに合わせて,その新機能を生 かすオフィス・スイート新版「Office 新API「WinFX」を搭載 これら新機能を提供するため, キュア・コンピューティング基盤) 」に 準拠したセキュリティ/プライバシ管 12(開発コード) 」や,開発ツール新版 Longhornでは「WinFX」 と呼ぶ新API 理機能が組み込まれる (pp.70-71の別 「Orcas(同) 」などもリリースされる予 (アプリケーション・プログラミング・ 掲記事を参照) 。また,様々なアプリ インターフェース) を搭載する。上に ケーションの通信相手ユーザーの情報 さらにLonghornより少し遅れて 述べたWinFS,Avalon,Indigoも を一元管理する 「Collaboration」機能 Longhornのテクノロジをベースとし WinFXを構成する機能ブロックの1つ ブロックなどもこうした考え方に沿っ たサーバーOSや,Exchange Server である (図4) 。ほかにも,OSレベルで た新機能である。 定だ (図3) 。 61 日経 Windowsプロ 2004 年 1月 (no.82)
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