北洋サケ・マス調査船乗船記

昭和 57 年度の水産庁用船によるサケ・マス 及び海産哺乳動物調査は ,北太
平洋・ べ一 リング海において ,第1 -3
次航海が計画された。 私は 4 月 2f
日
から 6 月 6 口まで42 口問にわたり ,第1 次航海として 主に太平洋中型 流 網漁
業の操業水域で 調査する機会が 得られたので ,調査結果の 概要と船内での ェ
ピソードを混じえ 報告します。
かつて南洋で 鮪獲 りでならした 第 53室 洋丸 (225
トン) は調査員
3 名を含む
18 名を乗せ,夕暮れの 函館港をあ とに,時速 8 ノットで一路北洋へと 伺った。
出港後 3 日間は時化でもないのになぜか 全く食欲がなく , 飯 と機械油の臭い
が胸をむかつかせ ,ただひたすら べット で寝るだけであ る。 しかし慣れるに
つ れ, 特化の中でも食事の 時間がくると 腹 が減り,テーブルにしがみつきな
がらも平気で 食事ができるようになるのだから 不思議であ る。 出港 7 日目に
ようやく最初の 調査 点 に到着した。
5 月上旬までは 天候に恵まれ ,
これが北洋かと 疑うぐらいで 鏡のような海
を何度か見たが , 5 月中旬以降は 低気圧が相次いで 接近し荒天と 在り操業で
きない日が続き ,当初31 点の調査予定であ ったが26 点で終わった。 調査内容
は各定点における 海洋観測と流刺網によるサケ・マス 分布調査在らびに 魚体
測定,生物学的標本の 採取であ る。 水温は X.B.T
により測定し ,
これは細
い銅線のついた 鉛のロケット 弾を海中へ投げ 込むことにより ,数百メートル
梅干までの水温変化を 自動的に記録させるという 大変便利なものであ る。表
面 水温は 41 。 30 , N の調査ラインは 9.4-11.4
10.t 。 C,
。 C と高く, 42 。 30 , N は 7.7-
43 。 30 , N は 7.0 一 8.1 。 C, 44 。 30 , N は 6.0 。 C で緯度差による 水温
較差が大きい 傾向にあ った。透明度は全体的にみて 10-lhm
使用した網は 表層流刺網で 目合は 12lmm
商業 網 102 反 ならびに調査網
63mm
. l2l
mm
. 72mm
( 日合 48mm,
. 138mm
. 82mm
(40反 )
g3mm.
. 55mm
と
と高かった。
13lmm
157mm
(62反 ) の
.
106mm.
の I0 種類を 3 反 ずっ
配列 ) 30 反の合計 132 反を使用し,サケ・マス 合わせて商業 網で 2,181 尾,
-
30
一
調査網で 2,023 尾の合計 4,204 尾を漁獲した。 漁獲したサケ ,マスは性別・
体長・体重・ 生殖電量の測定ならびに 採鱗 を行なった。 魚種別に漁獲状況を
みると, ベニザケ は操業水域 8 点のみでわずか 175 尾,そのうち 比較的多く
獲 れたのは 4R 。 30 , N の 2 点と 43 。 30 , N の表面水温 4.5 。 C の l 点を合わせた
3
点のみで,平均体重も lKg 前後の小型未成熟 魚 であ った。
シロ ザケ
は
1,326 尾とカラフトマスに 次いで多く漁獲されたが ,平均体重1.5 一 2.0kg の
1 回に 100 尾以上漁
小型魚が大半であ った。 全水域にわたり 漁獲されたが ,
獲されたのは 42 。 30 , N 以北・ 161 。 30 , E 以西の水域 3 点のみであ った。平均
体重 0 . 5kg 以下の幼魚は 42 。 32,N.
173 。 E30 ,において,調査網目合
55mm
に 25 尾かかった程度で , 地 点ではほとんど 見られなかった。 カラフトマスは
24 点、 にて 2,163 尾と総漁獲数の 半数を占めたが ,そのうち1,859 尾が調査網
の 72 .82.93mm
小型であ
の 3 種日合に集中してかかり ,平均体重も 0 . 7-0.8k9
った。 ギンザ ケ は 21
後で小型であ った。 43 。 30 ,
と
点にて 336 尾が漁獲され ,平均体重は 1.5kg 前
N . 171
。 28,E
と 41 。 30 , N.
161 。 30 , E の 2 点に
おいて, 1 回の操業で 60 尾以上が漁獲された。 マス / スケ は 19 点にて
168
尾が 漁獲され,平均体重は
多か
3.Okg
前後でマス
ノスケ としては小型魚が
った。 44 。 30 , N . 171 。 30 , E の l 点で 1 度に 67 尾と極めて多く 漁獲された。
スチールヘッドは l4
点、 にて平均体重 3-4k9
の大型 角、 3f 尾が漁獲された。
流網調査点
で
第l図
l98? 年第 El.1
室津丸調査点 、
4 月 2f 日 函館出港-6
月 6 日函館入港
特 @c 171 。 E より以西の 7 点で 24 尼が漁獲された。
延 使用反数は調査網も 含んで 3,421 反であ り, 1 度あ たりの羅網率は 1.23
尾であ った。 しかし総漁獲数の 半数は目合の 小さな調査網にかかったカラフ
トマスであ るため,商業網だけの 羅網率は 1 度あ たり 0 . 76 尾と低い値であ
った。 本年は例年に 比べ水温が高く ,
41 。 30 ,
N
ラインの調査 点は 10 。 C 前後
で ,この水域での 羅網率は 1 反 あ たり 0 . 53 尾と極めて低かった。 全体的に
みても羅網率が 低いことから ,本年,特に
暖流の張り出しが 強く,サケ・マ
ス魚群の北 トが早かったのか ,それとも本来,この水域では 魚群が薄いとい
うことが考えられる。 サケがかかるのは 流 刺網の浮ア付近に 多いので,夜間
はよほど表層部分を 遊泳しているものと 考えられる。
じ
あ る魚種がかかると 同
網の付近に多くかかる 傾向なので,サケは 広い海洋をあ る程度仕種別 @こ /J
へ
群をなして 泳 いでいるのではないかと 推定される。
サケ・マス以外の 混獲物として ,哺乳類ではイシイルカ 4 . リク ゼ ンイル
カ 1
. オットセイ
2
. 鳥類ではハイイロミズナギドリ
ハシボソ ミズナギドリ 71 .
ラス 1
.
/ ザメ 6
ウミスズメ 1
.
ツ
. 名、 類ではエチオピア hll
. 不ズ ; ザメ 29 . アフラッ
コ シキリ ザメ 3
.
; ズウオ 3
. サンマ
.
メバル類 1
. 軟体動物では
.
クサビ ウロコ エソ 1
カ 13
.
アカイカ l2 が羅網した。
調査貝は私の
と
. エトピリカ 103.
/ メドリ 48 . コウ ; スズメ 1 . ハ シフトウミガ
ジ 2
・
248
2
.
4 レズ ;
コンニャク ア
ツメ 4 カ 62.
タ コイ
他 @c, 北 大水産学部・コヒ洋 研究施設生産学部講師の 小城春雄 氏
愛媛大学・環境化学講座大学院生の
田中博之氏が 乗船した。 小城氏は世界
的に著名な海烏研究 考で ,北洋への調査団 0 年以上経験があ るため,私の 不
慣れれ仕事の
ト
でも多大伐る 御 指導と御協力をしていただき 大変助かりまし
た。小城氏は南極越冬隊の 防寒 服 に身を固め, 早朝から夕刻まで 寒風吹き荒
る ア ッハーブリッヂ に立ち , 私には小さな 黒点にしか見えないものを 双眼鏡を
用いて,海鳥を 分類する日視観測を 行 う 。 抜群の体力と 強固な精神力の 持ち
主であ る。 m 中氏は海洋・大気中の
ィルヵ が 混推 されると丁寧に
PCB
汚染を調べるのが 専門であ るが,
解剖し, 皮 ,筋肉,
骨 ,内臓ときれいに 分け,
各々を標本として 凍結する。 彼は海産哺乳動物の 目視調査も兼ねているので ,
小城氏とともにアッパーブリッ
を長く伸ばしているため ,
ヂ に立ちどおしであ る。 まだ年齢も若く ,
髪
男 ばかりの船内では 唯一の女性的印象を 与え ,
皆
の人気 考であ った。 彼がイルカを 解剖すると船員が 次々と肉や内臓をもら い
に来る。 イルカは 肉 ばかりでなく 悩みそや腎臓がうまいと
言う。 私も初めて
イルカの刺身やステーキを 食べてみたが 鯨 肉に似た味であ
った。
船内での生活は 規則 1k しく,起床 3 時30 分, 揚網 4 時 一 6 時,朝食7 時,
昼食Ⅱ 時 ,投網@f 時 ,夕食@7 時というのが 普通のパターンであ る。 ときとし
て朝食 3 時,昼食7 時,夕食@7 時という変則的な 目もあ り,朝食と思って 食
べたのが実は 昼食であ ったりして, とても夕食まで 待てず, コックさんに 中
った。 18 名の 3 度の食事を作るコックさ
間の食君を作ってもらったこともあ
んはただ l 人で毎日てんてこまいであ る。乗船員の年齢構成が 10 代 1 人,
20 代 l 人 ,
30 代 3 人, 40 代 8 人, 50 ¥,5 人と比較的年齢が 高いため, シチ
イ
ュー・カレライス・スパゲティなどの
若者風の料理は 年輩者が箸をつけ
ず ,魚料理では若い人が食べないし ,各人の好みに 合わせ作ることは 難し
く苦心惨たんしていた。 船では海水風呂が 毎日沸いているが ,電気で沸か
すため電気の スイ , チを 切らないで浴槽に
入ると感電死する 恐れがあ る,
入浴中スイッチを 入れられたらと 思うと ゾッ とする。 真水は飲み水と 料理
用だけで,風呂は勿論のこと洗濯も 海水で行なう。 洗髪・髭剃りは 塩分で
ベト つくと 恩、 っていたが,乾いた 布で拭けば真水で 洗ったのとかわらない
ものだ。 歯を磨くのも 海水で,おまけに 持参した歯磨粉が 食塩入り
だったのにはまいった。
と 高い円は夜に
が始まる。
ィ
わりの人がどんどん 釣り上げるのに ,私にはぜんぜん
当たりが感じられない
ので上げてみると 足だけが 1 本ついていた。 かかった瞬間にゆっくりと 上げ
ないと途中で 足を残して逃げてしまうのであ
る。 当たりの感覚がつかめると
あ とは簡単で面白いように 釣れた。 釣れる 4 カは深さ 30m
にいる ツメ 4 カ
で肉質が硬いため 好んで食用にはされない。 かかるのは イカ だけではなく ,
1 度サメがかかり
物凄い勢いで 引き込まれ,太い
糸が ヤスリ で擦ったように
ボソボソ になって切れてしまった。
調査 貝が 行なう海鹿哺乳動物の
日
視 調査の他に,ワッ
チ にあ たっている 乗
細田により走行中船首から 両サイド 90 。 の範囲内でも 実施された。 圧倒的に
多いのはイシイルカ 362 頭 (116 群 ) で ,
群れの構成は 3 頭平均であ った。
イシイルカは 船とスビードを 競うかのように 船叢 をすれすれに 跳びかう。 次
に
多く見られたのがオットセイ 初頭 (18 群 )
でほとんどが 単独行動をとって
いた。 オットセイはたいへん 人懐こく,船が 停泊中もやって 来て , 船の回り
でヒョコヒョコと 顔を出し, もの珍 らしそうにこちらを 見ている。 1 度だけ
3 頭のシャチの 群れを見た。 まろで小さな 潜水艦が 浮ヒ しているようで ,水
面に垂直に突き 出た黒い背鰭が 印象的であ った。 シャチは恐いもの 知らずで
船が近づいても 逃げないと言われているが ,
この時 L 空ではたくさんの 海鳥
が飛びかい,海面の 一部が帯状に 油をまいたように 光っていたので ,何か獲
物 をくわえていたらしく 船を遠ざける 行動をとっていた。
毎年開かれる 日ソ漁業交渉で 今年も北洋での 割当分が 4.25 万 トソ,
漁業
協力金4M億円と決まった。 しかし,今後協力金をいくらでも 支払って漁を 続
けられるというものでは 甘く,やがて 利益との関係から 限界がくるだろう。
日本は人工ふ 化放流事業が 成功し,昨年も 2,800 万屋 のサケが回帰したが ,
漁獲量は 1 尾 4k9 としても約 11万 トンである。我国の漁業生産量は 1,lon万
トンで,中でも 多いのはイワシ 250 万トン, スケソ ゥダラ 150 万トン,サバ
130 万トンであ る。 サケをいくら 増やしたとしても ,
これらの魚種に 代わっ
て大きな蛋白資源とはなりえず ,あくまでも高級魚の 域を出ない魚であ ろう。
人間の営利をよそに ,サケは広い 海洋を神秘的な 回遊を続け母川回帰する。
無事に航海を 終え,函館に 帰港して見た 山の木々の緑色は , 目に眩しい程
の美しさであ った。今回の航海においても , 別 な角度からサケ・マスふ 化事
業をみれたことに 感謝して ぺン をおきます。
(事業第二課 )
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