イラストぎじゅつ入門̶ 87 −162℃のLNG (液化天然ガス)を 安全に大量輸送できる、 “次世代汎用型LNG運搬船”の構造 ●イラストのモデルの次世代汎用型LNG運搬船「エネルギーホライズン」 は、 全長約 300m、 幅52.00m、 計画喫水/満載喫水11.5m/11.9mである。 次世代LNG運搬船には 汎用性が欠かせない条件 世界的に原子力発電の見直しが進む中で、 クリーンなエネルギー源である天然ガスへの 期待が高まっている。天然ガスを冷却・液化して −162℃の液体にしたのがLNGだ。天然ガス は液化すると体積が約600分の1になるので、 輸送・貯蔵に便利である。 このLNGを輸送するのがLNG運搬船で、 こ れまでは特定のLNG基地間の定期運航を前 提として設計・建造されることが多かった。 しか し、 LNG調達先の多様化や1回ごとの契約で運 航するスポット用船などが増えており、できる だけ多くのLNG基地(港) に適応できる、 つまり 汎用性が高い船型のLNG運搬船の需要が増 大している。 ●タンクの防熱 ●タンクドーム 川崎重工が独自に開発した断熱パネル (川崎パネル方式) でタンクを覆っている。 このパネルは、 タンク側がフェノールフォー ム、 その外側がポリウレタンフォームの二重 構造で、 さらに外側にアルミニウムの膜が 貼り付けてある。防熱パネルは厚さが約 200∼350mmで、 ボイルオフレート (LNG の自然気化率) を最高0.08%/日までに 抑える優れた断熱効果があり、他社が建造 するLNG運搬船にも採用されている。 タンクの頂部にあり、 配管を貫通させ、 また、 タンクへの入口などが 設けられている。 ■新パナマ運河への対応 ■ストレッチタンク パナマ運河 (長さ約80km) を航行できる 船舶の最大幅をパナマックス (32.3m) と いう。現在、 パナマ運河は、 幅の広い閘門 の建設や水路の狭い部分の拡幅などの 工事が行なわれており、 2014年に工事が 完成 (予定) して “新パナマ運河” が誕生す ると、 パナマックスは49.0mとなる。川崎重 工ではいち早く、 新パナマックスに対応した 船幅49.0mの16万5,000m³型LNG運 搬船を開発した。船幅が制限された船型で より多くのLNG積載量を確保するため、 スト レッチタンク (別項参照) を採用している。 なお、 米国ニューオーリンズ∼横浜間の 航行でパナマ運河を経由すると、 南米大 陸の南端を回るより約7,400kmも短縮で きる。 船幅が制限された船型で、 より 多くのLNGを積載できるように考 案されたタンク。球形タンクの真ん 中 (赤道と呼ぶ部分) を可能な範 囲で垂直に伸ばしてタンク容量を 増やしている。 (赤道) ●モス (MOSS) 方式球形タンク 球形で、内側に補強材がないため亀裂 の発生源となる応力集中箇所がなく、 非常に丈夫である。 ●タンクの素材 ●タンクの厚さ アルミ合金 25∼60mm (赤道 部は約150mm) 。 ●陸上のLNGタンク 海上輸送されてきたLNGは陸上 のLNGタンクに揚荷され、貯蔵さ れる。 揚荷 世界で初めて “新型蒸気リヒート タービンプラント” を搭載 川 崎 重 工・坂 出 工 場( 香 川 県 坂 出 市 )で 2011年9月に竣工した「エネルギーホライズ ン」 (東京ガス/日本郵船向け) は、次世代の最 大汎用船型として新開発した17万7,000m³ 型LNG運搬船の第一船である (現在、その第 二船を同工場で建造中) 。 このLNG運搬船は、 アジア・太平洋地域の主 要なLNG基地に入港可能な最大船型(いわゆ るパシフィック・マックス)で、北米から中東、欧 州の主なLNG基地に入港可能な汎用性を備 えている。 しかも、積載容量が約20%増加し、 球形タンク形式では世界最大船型が実現した。 また、 LNG運搬船では世界で初めて、推進機関 に新型の「川崎URA型再熱蒸気プラント」を搭 載し、燃費効率が従来より約15%も大幅に向 上した。 LNG (液化天然ガス) ●川崎URA型再熱蒸気プラント 貯蔵 主蒸気 NO.1 主ボイラ 【再熱型】 燃料ガス (ボイルオフガス) 高圧 中圧 ガス圧縮機 ●パイプタワー タンクの中央部に配置されたタワーで、中には荷役用の配管、 揚荷時にLNGを陸上に供給するカーゴポンプ、階段、計装装 置などが収められている。 カーゴポンプは、 LNGの揚げ切り性 能をよくするためパイプタワー内の最底部に設置されている。 6 Kawasaki News 168 2012/10 12MPa×565℃ 再熱蒸気 ●タンクの収縮 −162℃のLNGを収納すると、低温収縮でタンク の直径がおよそ150mm縮むが、 タンクを支えて いるスカート上部も冷やされて自然に収縮し、 タン クの収縮を無理なく吸収するようになっている。 NO.2 主ボイラ 【再熱型】 カーゴタンク 燃料油 再熱サイクルの採用によって 新しく追加される部分 低圧 タービン 主タービン プロペラ 【再熱型】 LNG運搬船は、貨物タンク内で自然気化し たボイルオフガス (天然ガス) をボイラで燃や して蒸気をつくり、 その蒸気でタービンを回し て推進エネルギーにしている (必要に応じて 重油などの燃料油を燃やすこともできる) 。 従来型では、ボイラから送られた蒸気は、 ま ず、高圧タービンを回し、高圧タービンを回し 終えた蒸気はそのまま次の低圧タービンに送 られ、低圧タービンを回す流れになっている。 これに対して新型の川崎URA型再熱蒸気 プラントは、高圧タービンを回し終えた蒸気を いったんボイラに戻して再加熱し、新たに設 けた中圧タービンに送る。中圧タービンを回し 終えた蒸気はそのまま低圧タービンに送って 低圧タービンを回転させるという3段構えの 仕組みになっている。この蒸気の再加熱方 式に加え、蒸気の高温高圧化やタービンブ レード (翼) の改良などにより燃費効率が約 15%も向上した。 ●川崎URA再熱蒸気プラントの仕組み 7
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