国際図書館コンソーシアム連合 (ICOLC : International Coalition of Library Consortia) 2011 年秋季会合参加報告 今 村 昭 一,柴 田 育 子 抄録:2011 年 9 月にイスタンブールで国際図書館コンソーシアム連合(ICOLC)の 2011 年秋季(第 13 回 欧州)会合が開催された。今回の会合は,コンソーシアムの各国の動き,電子ブックとコンソーシアム,ト ルココンソーシアム(ANKOS)の現状,ACS のベンダーグリル,OA ジャーナル,利用統計,ベンダープ レゼンテーションとして Elsevier 社,Springer 社,Wiley 社の 10 年後の展望,中間業者との協働,ディス カバリー・サービス,テーマ別分科会の合計 13 のセッションから構成されていた。本稿ではその概要を報 告する。 キーワード:図書館コンソーシアム,国際図書館コンソーシアム連合,ICOLC,電子ジャーナル,電子 ブック,データベース,ライセンシング,COUNTER,ERMS,ディスカバリー・サービス,学会誌,大 学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE) 1.はじめに 国公私立大学図書館協力委員会並びに国立大学図 書館協会による派遣事業の一環として,2011 年 9 月 18 日から 9 月 21 日にかけてトルコ,イスタンブ ールで開催された国際図書館コンソーシアム連合 (ICOLC : International Coalition of Library Consortia)の 2011 年秋季(第 13 回欧州)会合に参加し た。以下にその概要を報告する。 なお,ICOLC の会合は,春に北米,秋に欧州で 年 2 回開催されており,日本からは,これまで第 12 回,第 14 回から第 22 回の北米会合,第 5 回か 1-19) ら第 12 回の欧州会合に参加した実績がある 。 3.アジェンダ(議題一覧) 9 月 18 日(日) オープニングレセプション 9 月 19 日(月) セッション 1:2010-2011 年の価格調査報告およ び各国の事例 News from the Battlefield I Survey results, consortia licensing, UK report on Elsevier セッション 2:電子ブックとコンソーシアム News from the Battlefield II & Business Models セッション 3:トルコの現状 2.開催状況 会議名:国際図書館コンソーシアム連合 2011 年 秋季(第 13 回欧州)会合(13th Europe Meeting of the International Coalition of Library Consortia) What is new in Turkey? セッション 4:ベンダーグリル ACS Grille セッション 5:オープンアクセス(OA)ジャー ナル 開催日程:2011 年 9 月 18 日〜9 月 21 日 開催場所:Istanbul Bilgi University, Santral Cam- SPARC, COAR & OA Issues 9 月 20 日(火) pus,イスタンブール(トルコ) 参加登録者:28 カ国 95 名(内訳:トルコ 15 名, フィンランド,ドイツ,ノルウェー各 6 名,米国, フランス,デンマーク,イタリア,カナダ各 5 名, セッション 6:利用統計 Journal Usage Statistics セッション 7:ベンダープレゼンテーション Looking forward to 2020: Big players, Elsevier, 日本,オランダ,スウェーデン,イギリス 4 名,ブ ラジル,チェコ,リトアニア各 3 名,オーストリ Springer and Wiley セッション 8:これまでの会議での所見を発表 ア,ベルギー,エストニア,ギリシャ,ポーラン ド,ロシア,韓国,セルビア,スロベニア,スペイ ン,南アフリカ,イスラエル各 1 名) Lightening Around Talks セッション 9:中間業者との協働 Working with intermediaries: Opportunities for cooperation 1 国際図書館コンソーシアム連合 2011 年秋季会合参加報告 セッション 10:ディスカバリー・サービス Discovery Services: In a Consortium Setting 9 月 21 日(水) セッション 11:分科会Ⅰ Breakout Sessions I(Group Discussion) Funding Consortia Financing Gold Open Access セッション 12:分科会Ⅱ Breakout Sessions Ⅱ(Group Discussion) Future of Institutional Digital Repositories Collaborative Print Collection Storage Initiatives セッション 13:分科会のまとめと全体のまとめ Breakout Session Reports General Business - Updates & Closing 4.議事 今回の会合は,電子リソース価格調査,電子ジャ ーナルの価格モデル,電子ブック,オープンアクセ ス誌,中間業者,利用統計データの集約,ディスカ バリー・サービス等をテーマとした全体討議やテー マ別分科会,ベンダーグリルの全 13 セッションか ら構成されていた。なかでも,ERMS や利用統計 などに注目がおよぶ一方,学会誌との交渉に関わる 問題等に多くの意見が寄せられ,情報の共有が大切 だという意見が相次いだ。 4.1 News from the Battlefield I : survey results, consortia licensing, UK report on Elsevier( セ ッ ション 1) 20) 冒 頭 で JUSTICE を 紹 介 す る 時 間 を 得 て, 「 Overview of JUSTICE 」と 題 す る プ レ ゼ ン テ ー ションを行った。およそ 500 大学を参加館とする日 本の大学図書館コンソーシアムであること,コンソ ーシアムの目的として中長期的には電子リソースの 総合的ユーティリティを目指していること,大学図 場合,ヨーロッパからの回答が増えており,それに ともないデータポイントも大きく増加している。ま た,これを出版社から出されている価格変化と比較 している。 続いて,北米,ヨーロッパ,アジア・パシフィッ ク,南米の 4 地域に分けての累積的価格変化につい て報告があった。この調査結果からは,2009-2010 年に比べ,2010-2011 年は全体的に価格の抑制傾向 から再び値上げ傾向に転換する懸念がある。 第 2 の調査結果:19ヶ国 38 のコンソーシアムよ り 742 のライセンスについて回答があった。内訳 は,データベースが 293,電子ブックが 78,電子 ジャーナルが 371 であり,1 年間のライセンスはそ れぞれ 160,54,130 というものである。これらを 合計すると 344 となり,全ライセンスの 46% を占 める。特徴的なこととして,2011 年の終わりまで に終了するライセンスが合計で 114 と多いことが挙 げられる。この数字に 1 年間のライセンス 344 を加 えると 458 となり,全体の 62% にあたる。その意 味では 2011 年-2012 年は新たなライセンスに切り 替わる節目の年と言える。 21) 続 い て,JISC Collections か ら UK report on Elsevier と題して,Elsevier 社との交渉経緯につい て報告があった。交渉は既に完了しており,ユニー クタイトルリストの実現など柔軟性のあるモデルを 実現できるということであった。 4.2 News from the Battlefield II & Business Models(セッション 2) 電子ブックのビジネスモデルに関する各国の発表 が行われた。買い切り型の電子ブックにコンソーシ アムがどのように関与するべきかという議論がなさ れ,コレクション単位か,あるいはタイトルごとに 選択しての購入かなど,いくつかの論点が挙げられ た。 書館職員を構成メンバーとする運営委員会により運 営されていること,専任職員 3 名の事務局体制であ 4.2.1 Why Consortia find E-Books so difficult (Hazel Woodward 氏) ることなど,JUSTICE の概要を紹介した。 Tom Sanville 氏より,データベースベンダーと ジャーナル出版社について 2010 年と 2011 年の価格 変化の調査結果の報告があった。結果の一部につい JISC Collections で は,Early English Books Online(125,000 books),Eighteenth Century Collections Online(155,000 books),British Library booksdigitised by Microsoft(65,000 books)の 3 コレク ては 2009 年と 2010 年の調査とも比較を行い,出版 社の価格動向を議論する上で有効なものとなってい ションを導入しており,統合検索可能なインター フェイスを準備中である。 22) 2011 年の UKSG Conference において,ユタ大 学 の Rick Anderson 氏 は,デ ジ タ ル 化 の 時 代 に る。 また,ライセンスの期間がいつ満了するかという 調査についても結果報告があった。 第 1 の調査結果: 2010 年と 2011 年を比較した 2 あっては,図書館は利用されないタイトルを購入す るべきではないと主張した。プリントの時代にあっ 大学図書館研究 XCIV(2012.3) ては図書や論文は探すことが難しく,また高額で あったことから,図書館が蔵書構築を行うことに意 味はあった。現在は利用者が利用したいと思う本こ そ購入することに意味があるという。また,リバプ ール大学の e リソース・マネージャーである Terry Bucknell 氏 は,Springer 社 の 電 子 ブ ッ ク コ レ ク ションの「ビッグディール」の購入モデルは全ての タイトルが利用されるわけではないものの,その価 値は高いと分析している。彼が用いた手法によれ ば,Patron Driven Acquisition によるモデルはコス トが高くなり, 「ビッグディール」は利用に対する コストを低く抑えられる結果になったという。 図書館とコンソーシアムは電子ブックを提供する に あ た り 多 く の 変 革 に 直 面 し て い る。Patron Driven Acquisition かビッグディールかという問題 は依然残る。また,新しいテクノロジーに対して出 版社は「神経質」になっている。そのため,彼らは 図書館とコンソーシアムが利用できる電子ブックの 種類を抑制している。 4.2.2 Dealing with e-books in the Max Planck Society(Tina Planck 氏) 23) Max Planck Society では各々の機関が単行の電 子ブックを発注し,購入はその機関の予算による が,Max Planck Soceity 全機関で利用できるという モデルを導入しており,Wiley-Blackwell, Gale Cengage, Walter de Gruyter, Duncker & Humblot の 4 社とこのようなモデルのアグリーメントを結んでい る。また,Springer 社 の電子ブックコレクション についても交渉を行っているとのことである。コン ソーシアムとしての Max Planck Society は,80 機 関がそれぞれ独立した機関でありながら,1 つの法 人格として活動しており,各機関の予算と Central Budget に よ り 基 金 を 設 立 し て い る。ま た,電 子 ブックに関するワーキンググループを立ち上げ,ア ーカイブについても交渉するなど,その活動の幅は 広い。 4.2.3 Success and failures: e-book purchases at CBUC(Lluis Anglada 氏) Consorci de Biblioteques Universitàries de Cata24) lunya(CBUC) はスペイン・カタルーニャ州の大 学図書館コンソーシアムである。2003 年から電子 ブックの導入を始め,これまでに 10 社によるコレ クション計 15,127 冊を導入した。2005 年から 2010 年までの利用統計では,出版社ごとにばらつきはあ るものの,Gale Virtual Refernce Library(GVRL), Springer eBook は毎年利用が伸びている。2009 年 に価格を見直し,「コンソーシアムによるビッグ ディール」を策定することとした。CBUC は,各 図書館が選定した電子ブックについて,コンソーシ アムのアクセス料金として 8 万ユーロを上限に負担 する。こうした試みの結果,CBUC の全メンバー (9 機関)と準メンバー(3 機関)の参加を得ること ができ,1 冊あたりの単価も非常に低く抑えること ができた。しかしながら十分満足できる結果ではな かったという。その要因として,共同で電子ブック を購入するためのインセンティブが不十分であった ことなどを挙げている。 3 者からの報告に続きパネルディスカッションが 行われ,質疑応答があった。主な内容は以下のとお り。 Q 1)買い切りモデルではない限り,契約を終了す れば利用できなくなることがあるのではない か。特にアグリゲーターについてはそうした 懸念がある。 A 1)アーカイブライセンスはとても重要であり, 主要なトピックである。アクセスを維持する ために,いかに我々コンソーシアムが図書館 を援助するかということが重要である。 Q 2)レファレンスブックスは購入が難しいと認識 しているがどのように考えているか。 A 2)レファレンスブックスは改訂の問題があるの で,その点は考慮に入れる必要がある。 Q 3)CBUC の利用統計について利用が減っている ものがあるが,どのような理由が考えられる か。 A 3)例えば,Safari は減少傾向にあるが,よいモ デルだと思うので,なぜ減少しているのか理 由はつかめていない。 4.3 What is new in Turkey?(セッション 3) トルコのコンソーシアムである ANKOS の Publisher Application System および ERMS 等につい て発表があった。 4.3.1 ANKOS ERM System(Sami Cukadar 氏) Anatolian University Libraries Consortium 25) (ANKOS) は 2000 年に設立されたトルコの大学 図書館コンソーシアムである。コンソーシアムメン バー館と研究者のために学術電子資料を共同購入す ることを初期の目的として,2000 年に 12 の図書館 により設立された。その後 11 年間で急速に成長を 遂げ,現在は 154 機関がメンバーとなっている。 2000 年に 3 データベースの契約からスタートし たが,2011 年には 88 のオンラインデータベースの 3 国際図書館コンソーシアム連合 2011 年秋季会合参加報告 ライセンスアグリーメントを締結している。その組 織として,運営委員会を中心に,データベース交渉 における図書を中心とするサプライヤーである。ト ルコでは 1990 年代の終わりに ULAKBIM(Turkish Academic Network and Information Cen- グループ,複数のリサーチグループ及びワーキング グループが置かれている。統計グループはワーキン ググループの 1 つとして 2003 年に設置された。メ ter) により学術的な基盤が整備された。その後, ANKOS が設立され,トルコ語のデータベースの需 ンバー館の統計を集約して,コストの比較を行い, その統計リポートはメンバー館に提供され,各メン バー館のリニューアルの決定に役立てている。2011 要 も 高 ま っ て い っ た。そ う し た 背 景 を 受 け て, Hiperkitap は設立の翌年(2007 年)には冊子およ びオンラインでの出版を開始した。当初締結したア 年は約 40 種類のモデルについて 127 機関が参加し, 多くのレポートを提供している。それらのレポート はまた,ANKOS 自体のプランニングにも活用され ている。 グリーメントは出版社 100 社との 3,500 冊の電子 ブックの契約であった。2011 年には 220 の出版社 から 7,500 冊の本を入手しており,大学図書館 55, ERMS は 2006 年に初期モデルを作成,2010 年に リニューアルを行い,COUNTER,SUSHI(Standardized Usage Statistics Harvesting Initiative)対 応が可能になった。データベースに登載する情報は メンバー館より集約・編集・共有される。 4.3.2 ANKOS Publisher Application System (Burcu Keten 氏) なぜシステムを必要とするのか,どのようにシス テムを構築するのか,どのようにシステムを運用す るのか,そして何をプランニングするのかの 4 点か らの考察である。 システムは出版社向けとグループ向けの 2 つのイ ンターフェイスから成り,出版社向けに Publisher 26) Application Form(PAF) を用意している。この フォームは ANKOS のホームページに掲載されて おり,簡単にアクセスできる点が特徴である。 4.3.3 Pecya: First Turkish Digital Library of Turkey(Semih Bakar 氏) 27) トルコ初の電子図書館 Pecya Digital Library は プリント体として出版されたトルコ語の雑誌をオン ラインアクセスで世界中のユーザーに提供すること を目的とする。財政的には TÜBİTAK(Scientific 28) and Technological Research Council of Turkey) という政府機関の支援を受けている。Pecya を通じ て 175 タイトルが出版されている。出版社数は 26 (2008 年) ,43(2009 年),48(2010 年),95(2011 年)と順調に増えており,合計では 212 社となる。 なお,タイトル数が出版社数を下回っているのは出 版社数を累積数としているためと思われる。2010 年には ANKOS との協働も開始された。 4.3.4 Hiperkitap: A Turkish E-book Database (Serdar Katipoglu 氏) 29) Hiperkitap は 2006 年に設立されたトルコ国内 4 30) 公 共 図 書 館 2,高 等 教 育 機 関 2,計 59 機 関 が Hiperkitap に購読の申込を行った。2010 年の統計 では 350,000 ページの電子ブックが利用されてい る。 4 者からの報告に引き続きパネルディスカッショ ンがあり,質疑応答があった。 4.4 ACS Grille(セッション 4) 今回唯一のベンダーグリルとして American Chemical Society(ACS)の製品と新価格モデルに関し て発表があった。商業出版社とは異なる学会という 立場での ACS の登場で,今回の会議全体を通じて 関心が高かった学会誌のプライスモデルや提案内容 について活発な意見交換,質疑応答があった。 The ACS Global Pricing Strategy and Scholarly Publishing Outlook(Susan M. Pastore 氏) ACS の出版状況を国際的に俯瞰すると,投稿論 文数,出版論文数,論文ダウンロード数のいずれに おいてもアジアのプレゼンスが高い。こうした状況 下,ACS の戦略は電子化が進展する世界に向けて ビジネスモデルの変革を実現しようとするものであ る。その背景として,1995-2005 年以降の学術出版 の流れの中で学術雑誌がプリント体からデジタルに 移行してきたこと,個々のタイトルの購読からデー タベースへのアクセスへというようなコレクション の集積が進んできたことがある。一方,顧客が支払 うべき料金は彼らが何年も前に購読したタイトルに 基づくものであることが問題となっている。この基 準では価格は公正なものとはなりえず,同レベルの 顧客が同額の料金を支払うものとはならないとい う。学会と出版社にとって,顧客を公正に扱うこと は 核 と な る バ リ ュ ー で あ る。こ う し た こ と か ら ACS の価格モデルを発展させるプロジェクトを 2006 年に始動した。その中で 50 機関を超える顧客 へのインタビュー,第三者のコンサルタントとの協 働,Library Advisory Board や ACS のガバナンス 大学図書館研究 XCIV(2012.3) ACS はコンソーシアムが移行できるように 1 年ないしは 2 年の猶予期間を設けて調整を 行っている。 等を通じて了承された「指針」が,公平さと平等の 確立,参加と利用の促進,アクセスの拡充,混乱を 最小限に抑えることの 4 点である。このモデルによ りコンソーシアムの諸機関に提示される価格は利用 統計と GDP に基づくものである。第 1 段階は Usage Tier により各機関を 12 の Tier に振り分ける。 第 2 段 階 で,各 国 の GDP = 国 内 総 生 産( Gross Domestic Product)に基づき,Usage Tier による 価格を調整するという手順を踏む。なお,各国には 4 段階の割引率の Tier の 1 つが適用される。それ らは GNI =国民総所得(Gross National Income)と GDP に基づき,それぞれ,Low 40%,Lower Middle 30%,Upper Middle 20%,High 0% となる。概 ね 先 進 国 は High に ラ ン ク 付 け さ れ る こ と か ら, ディスカウント率は 0% になり,日本もここに入 る。このシステムは全世界的に公正で平等な価格を 実現するために用意されていると説明されている。 なお,過去のデータによれば,2000-2010 年で出版 物は 77% 増加し,ページ数は 90% 増加し,引用数 は 154% 増加している。そして論文のダウンロード 数は 699% 増加している。 主な質疑応答の内容は以下のとおり。 Q 1)JISC は次の 3 年間で 8% → 11.7% → 11.7% の 価格上昇ということだが,いかなる理由によ るものか。経済状況は下降気味であり,図書 館の予算は減少している。 A 1)全体の詳細を見てみないと判らないが,記憶 している範囲では,英国の Usage は増えてい ると思う。なお移行猶予期間があるので,他 の地域と比較すると英国の支払い金額は抑制 されるのではないかと思う。新モデルへの移 行については,コンソーシアムによってはよ りよい移行処置となるところもあるだろう。 Q 2) (新モデルの)透明性はどのように担保される のか? A 2)コンソーシアムは統計および価格情報を入手 することが可能であり,ACS は隠すものはな Q 4)投稿論文数,出版論文数,論文ダウンロード 数とも地域的にはアジアの増加が著しいが, 北米はアジアのために支払いをしているとい うことにはならないか。 A 4)他の誰かのためということはない。もし,最 も適切な価格体系を享受しているのは誰かと 聞かれれば,北米であると答えるだろう。 4.5 SPARC, COAR & OA Issues(セッション 5) OA 誌への取り組みとして,SPARC Europe と 31) COAR からの報告があり,OA 誌に関しては技術 面および資金面からのサポートが重要であるという 意 見 が 多 く あ っ た。( コ ー デ ィ ネ ー タ ー Wilma Mossink 氏) 4.5.1 COAR Case Study National Licenses and Open Access in Germany(Birgit Schmidt 氏) オープンアクセスの実現を支援するための国際連 携組織「オープンアクセスリポジトリ連合」(Confederation of Open Access Repositories(COAR)), ドイツにおけるナショナルライセンスとオープンア クセスの事例報告があった。 2011 年-2012 年は,1.リポジトリを広めるため のベストプラクティスと専門技術を共有すること, 2.オープンアクセスポリシー実行のためのガイド ラインを発展させること,3.出版社とともにオー プンアクセスのポリシーと手法を促進することの 3 点を優先事項とした。 32) 各国の動きとして,ARL (米国):Model Language for Author Rights in Library-図書館コンテ ン ツ 利 用許 諾 に お け る著 者 の 権 利 規 定の 様式 や JISC Collections(英国):NESLi2 モデルライセン スなどの事例を挙げ,ドイツの事例として,ナショ ナルライセンスやオープンアクセスに関する条項に ついて説明があった。 い。 Q 3)値引き交渉の余地がないモデルは持続可能な システムとは言えない。また,多くの出版社 2011-2013 年に向けての成果としては,14 製品 (ジャーナルコレクション 12,データベース 1,電 において彼らのプラットフォーム経由で利用 した場合,抄録からフルテキストが直接ダウ ンロードするようなデザインシフトにより Usage が著しく増加するということを聞いて 子ブックコレクション 1)についてデポジットの権 利を実現したとの報告があった。うち 10 製品につ いては,著者と機関に認められ,2 製品は著者にの み認められている。また,11 のジャーナルコレク いる。 A 3)ACS は多くのアブストラクトを提供している が,デザインシフトにより Usage が著しく増 ションは出版社の PDF のデポジットが許諾されて おり,1 ジャーナルコレクションのみ著者最終稿に え る と い う 考 え に は 賛 成 で き な い。な お, ついて許諾されている。なお,平均的なエンバーゴ (登載禁止期間)はおよそ 8ヶ月である。 5 国際図書館コンソーシアム連合 2011 年秋季会合参加報告 次のステップとして,ガイドライン(現在更新 中)を各機関に周知すること,オープンアクセスに かかる権利を含めて各プロダクトの詳細情報を提供 することが挙げられている。 4.5.2 Opting into Open Access : Challenges & Opportunities for Consortia(Lars Bjørnshauge 氏, Norbert Lossau 氏) 図書館界に端を発した OA ムーブメントは,今 や大学全体,研究基金団体,政府,国際機関にも広 まり,大学界は OA の実現を望んでいる。研究者 の間でも OA は認識されつつあり,肯定的な姿勢 も増えているように見受けられる。しかしながら, OA への取り組みを彼ら自身の業務や義務とはみな しておらず,権利の枠組み作りについても図書館に 要望している。一方,出版社は,OA を 1 つのビジ ネスモデルとして容認しつつあるとしている。続い て,OA を取り巻く最近の動きについて,2009 年 10 月に設立された COAR,同年 12 月にスタートし た OpenAIRE( Open Access Infrastructure for 33) Research in Europe) のプロジェクトの説明が あった。また,ライセンスにおける OA 促進の方 法 と し て,ハ イ ブ リ ッ ド ジ ャ ー ナ ル に 着 目 し, Article Processing Charge(APC)の負担分のディ スカウントを交渉することの一例として,スウェー 34) デンにおける Mary Ann Liebert とのライセンス アグリーメントの紹介があった。さらには,Gold OA 出版社とコンソーシアムとの交渉による OA 促 進 の 例 と し て,BioMedCentral, PLoS,Hindawi, Copernicus,Co-Action などを挙げている。 OA に 対 す る 組 織 的 な 支 援・参 加 活 動 と し て, SPARC US/Europe/Japan の紹介があり,コンソ ーシアムはメンバーシップを促進できるとの説明が あった。また,購読契約を修正もしくは拡張するに は,購読契約の中に「セルフアーカイブ権」と「出 版社のデポジット」を含めることが肝要であるとし ている。 2 者からの報告に引き続きパネルディスカッショ ンが行われ,質疑応答があった。 4.6 Journal Usage Statistics(セッション 6) 電子ジャーナルの利用統計について,イギリスの JISC と韓国の KESLI から事例報告があった。 4.6.1 The Journal Usage Statistics Portal (JUSP)(Ross McIntyre 氏) JISC がファンディングしている,The Journal 35) Usage Statistics Portal( JUSP ) は UK の JUSP 6 参加館の電子ジャーナルの利用統計を自動的に収集 する SUSHI プロトコルを用い,参加館に利用統計 情報を提供している。現在 JUSP には 13 の出版社 と 3 つの DB ベンダーがアグリーメントを結んで利 用統計情報を提供している。 4.6.2 KESLI : Automatic usage collectionCOUNTER and SUSHI(Youngim Jung 氏) 韓国のコンソーシアム KESLI でも同様に SUSHI プロトコルを用いてコンソーシアム参加館の利用統 計を自動的に集計する仕組みを整えたが,技術的な 問題もあり,まだまだ発展段階と言えた。利用統計 に関しては,価格交渉のカードとしても重要視され ていることから,各国の関心は高く,例えばドイツ やフィンランドでも同じように SUSHI を用いた利 用統計データの収集の取り組みがなされている。し かし一方で JUSP のようにきちんとシステム化され たところは多くなく,韓国同様まだ発展段階のコン ソーシアムもあることが質疑応答時に明らかになっ た。 4.6.3 Journal Usage Factor(David Sommer 氏) COUNTER の Sommer 氏 か ら は Usage Factor project に関して,現在の進捗状況が発表された。 Usage Factor とは数値のみが一人歩きしてしまい がちなインパクト・ファクターによる雑誌の評価 を,利用面からも数値化して雑誌を評価しようとす るアイデアのことである。ここでは,必ずしも雑誌 の利用とインパクト・ファクターが相関関係には無 いことが指摘された。 4.7 Looking forward to 2020 : Big players, Elsevier, Springer and Wiley(セッション 7) Elsevier 社,Springer 社,Wiley 社の各ベンダー から今後 10 年のそれぞれの商業出版のビジョンの 発表がなされた。 4.7.1 Implications of the Publishing eRevolution (Youngsuk Chi 氏) Elsevier 社は Youngsuk Chi 氏からプレゼンの予 定であったが,Chi 氏の意向で ICOLC 参加者との Elsevier 社に対する質疑応答の時間になった。イギ リスの JISC Collection からは,Elsevier 社が許可 している著者版原稿の著者によるセルフアーカイビ ングを,著者単位でなく機関単位で許可できないか という質問があったが,Chi 氏はブラジルのコンソ ーシアム(Capes)では交渉が進んでいると話をし た。 大学図書館研究 XCIV(2012.3) 4.7.3 しかしながら,機関リポジトリ登載に関するナ ショナル・ライセンスの交渉は,その後の経緯を見 Looking Forward to 2020 ICOLC Europe 13th Meeting Istanbul(Reed Elfenbein 氏) る限り無に帰したといえる。一例として,スウェー デンにおけるシステマティックな投稿試験に関する エルゼビアからの提案は,大学や研究資金提供者が 最後に Wiley Blackwell 社の Reed Elfenbein 氏は 10 年後への 4 つのシナリオを示した。1 つ目はビジ ネスモデルは変化し,ビッグディールモデルは変化 オープンアクセスを義務化している場合は特別合意 書を要求するというものであり,その中で 12ヶ月 から 48ヶ月のエンバーゴについて言及している。 していくであろうと示した。2 つ目に利用者の電子 ジャーナルの利用の仕方が変化していくことを指摘 した。3 つ目の OA については,ゆくゆくはリポジ これらの制限は,結果として,著者が機関リポジト リに論文を登載する権利を著しく制限するものであ ることから,エルゼビアは OA 義務化を阻害しよ うとしていると非難を受けるに至った。 トリを通して図書館がアグリゲーターになるのでは ないかと述べた。4 つ目のソーシャルネットワーキ ング等を通したコミュニケーションの加速化は伝統 的な雑誌の編集方法を超え,新しい方法に変わるだ また,冊子体の発行は今後も続けるかという問い には,90%以上は電子オンリーになるかもしれない ろうと述べた。そしてその予想できない未来に対し て,どのように出版社自身も舵を切らなければなら が,冊子体の発行はオンデマンド印刷としては残り 続けるだろうと見解を示した。Elsevier 社の新モデ ルについての質問について,Elsevier 社は現在行っ ないか考えることが重要と強調した。しかし,新モ デルに関しては,上記の 4 つのコンセプトを示唆し たに留まり,具体的なビジネスの展開については言 ているパイロットモデルについて,満足な結果が得 られていないことを明かし,より実質的なモデルを 探していると発言した。また新モデルへの移行につ いての質問には,移行には長期間かかることを見込 んでおり,パイロットや移行で起こりうるコンソー シアムの「痛み」について教えて欲しいと述べた。 このように用意されたプレゼンではなく,即興の質 疑応答に徹したこのセッションは,Elsevier 社に対 してそれぞれのコンソーシアムが持っている疑問等 を明らかにするのに役に立ったと言えよう。 及しなかった。 4.7.2 Looking Forward to 2020 : The Springer Perspective(Peter Hendriks 氏) 次に Springer 社の Peter Hendriks 氏からは今後 の Springer 社 の 展 開 に つ い て 発 表 さ れ た。Hendriks 氏によると,冊子体から電子への変化はビジ ネスモデルをも変え,今後 10 年拡大していくであ ろうと述べた。Springer 社独自の調査では最近 5 年間で雑誌記事数は 8.5% 上昇したと明かした。ま た,著者にとって論文の提出に一番何を重視するか という調査では「雑誌の評価(reputation)」とい う項目が 1 位であったと話した。Springer 社はオ ー プ ン ア ク セ ス( OA )誌 に 力 を 入 れ て お り, BioMed Central 社と提携を始めている。Hendriks 氏にとって OA は購読モデルに代わるモデルでは ない,補足的なモデルであると述べる一方,同時に 新しい購読モデルを考えており,データベースモデ ルになるのではないかと示唆した。また eBook 市 場は拡大する方針で,全体の市場としては中国を中 心としたアジア・パシフィック地域にビジネスを広 げるつもりであると述べた。 4.8 Lightening Around Talks(セッション 8) これまでセッション 1 からセッション 7 まで挙 がった議題を中心に,参加者が自由に 5 分程度,自 国のコンソーシアムの現状や取り組み,直面してい る問題などをそれぞれ発表し,意見交換を行った。 オーストリアのコンソーシアムからは,前日の ACS とのベンダーグリルを通して,エージェンシ ーを介さない直接交渉の重要性と取り組みについて 話した。同時にノルウェーやオランダのコンソーシ アムからは同じ課題に取り組んでいるとのコメント があった。 リトアニアのコンソーシアムからは,冊子体の契 約を止め,電子ジャーナルのみの契約になったとき の問題が述べられた。出版社側は電子オンリーの契 約は合意しても,利益を確保し続けなければいけな いことを理由に購読額維持を求め,キャンセルした 冊子体のタイトルを購読し続けなければならず,何 度交渉をしても出版社からの合意が得られないと述 36) べた。またトランスファー問題 についても言及し た。 日本からは大学評価・学位授与機構の土屋俊教授 が JUSTICE についての補足説明と,現在の電子書 籍と電子ジャーナルのマーケットにおける,アジア と他の西欧諸国とのアンバランスさを指摘した。前 日のベンダーグリルで明らかになった,ACS で出 版されている雑誌の約 4 割が現在アジアからの投稿 である事実に触れ,現在の研究環境がもはや西欧中 心ではないことを話した。 ロシアのコンソーシアムからは,ナショナルライ 7 国際図書館コンソーシアム連合 2011 年秋季会合参加報告 センスでのバックファイル購入を検討しているが, どのように政府とうまく協働していけるかという質 問が出た。また出版社からでるバックファイル提案 の価格が不明瞭であり,提案のどの部分を主眼にし てバックファイルの購入を検討したらいいのだろう かと参加者に意見を求めた。これに関して,ドイツ の DFG 助成によるナショナルライセンスの事例で は,最初にどの機関がバックファイルを購入したい かその数をコンソーシアムで把握することが重要だ と述べた。また 1 論文あたりのコストも価格の参考 になると助言した。 ドイツの発表者からは学会,学会誌との交渉につ いて事例報告がなされた。ある学会の雑誌において は,次年度の提案が何度かの催促にもかかわらず, 契約更新間際に提出され,一方的に価格上昇率が 40%にも上がることを告げられたと報告した。商業 出版社は交渉にもある程度慣れているため,比較的 時間の余裕を持って提案,交渉が行われるが,学会 の場合交渉に慣れていない上に意思決定に時間を要 することもあり,今後ますます学会との交渉が難し くなっていくだろうと示唆した。とはいえ,交渉の 余地が無いからと言って購読を止めることもできな いとも発言していた。 フィンランドの発表者からはフィンランドのイン フラ整備への取り組みについて現状の説明があっ た。 4.9 Working with intermediaries : Opportunities for cooperation(セッション 9) 中間業者として,エブスコ社 Ian Middleton 氏と スウェッツ社 Michael Leuschner 氏から,それぞれ 各社が考えるコンソーシアムとの協力の可能性に関 するプレゼンテーションが行われた。両者のプレゼ ンテーションに共通していたことは,中間業者とし て図書館,コンソーシアム,出版社との三者とうま く連携を結び,バリューチェーン(価値連鎖)を生 み出していくことが概念的に示された。また,エブ スコ社はビックディールは図書館のコストを圧迫し ていく故,必ずしも良い選択ではないと指摘し,新 たな購読モデルを選択したときにいろいろな方面で 図書館をサポートするのが中間業者の役割ではない かと述べた。コンソーシアムはコンソーシアムとい う一つのグループとして,また個々の図書館として の両方の面から,コスト等などを考えたメカニズム を発展させる必要があると述べ,それに対するソ リューション等は準備していると説明した。 この後のディスカッションで参加者からは,学術 情報の流通が加速する中で,コンソーシアムとして 8 どのようなソリューションを提供したらいいのか分 からないというコメントが寄せられた。その意見に 対して,コンソーシアムだけで問題解決を考えるだ けでは限界があるとし,中間業者が持つソリュー ションとを組合せながら,協働できれば良いという 意見もでた。 また中間業者にとって出版社との関係で一番話題 の中心になるのが,キャッシュフローであり,one payment one invoice の実現等これから挑戦してい く事業があると言及した。 4.10 Discovery Services : In a Consortium Setting (セッション 10) ディスカバリー・サービスについてスロベニア, フィンランド,トルコの事例が発表された。最初に 37) Florida Center for Library Automation (FCLA) の Newberry 氏から現在のディスカバリー・サー ビスの状況について発表がなされた。ディスカバリ ー・サービスは数年前と比べより沢山のメタデータ を収集し,クラウド化に伴いサービスの形態も変わ りつつあると説明した。例えば各図書館で提供され ている電子コレクションやリポジトリへのサポー ト,リコメンド機能,リゾルバとのリンク形成,コ ンソーシアム価格の面でも検討すべき事は沢山ある と述べた。一方でコンソーシアムとしてディスカバ リー・サービスの次にスロベニアの Digital Library 38) of Slovenia でエブスコ社のディスカバリー・ツー ル EDS 導入の経緯の説明があり,実際の検索画面 が紹介された。フィンランドからは,ExLibris 社 39) の Primo を使った Natinal Digital Library のディ スカバリー・ツールについて開発過程が発表され た。2008 年からプランニングが始まり,2010 年の 夏には開発業者が決定,現在はインターフェイスの 開発に取り組んでいると説明があった。2012 年に は国としてサービスを提供したいと計画している。 しかし,ディスカバリー・サービスにおける各館の 期待が異なるということもあり,計画は遅れがちだ という。 最 後 の 発 表 は イ ス タ ン ブ ー ル の Özyeğin University から,ディスカバリー・サービスの導入経 緯について発表があった。2008 年に創設された大 学ということで,冊子体よりも電子リソースの整備 に力を入れているが故,ディスカバリー・サービス の導入も早期に検討された。導入にあたって,エブ スコ社とシリアルズソリューションズ社の製品をト ライアルし,図書館の欲しい機能の優先順位(質の 高い検索結果,インターフェース等)に沿って評価 を行った。評価後に難しかったのは,ディスカバリ 大学図書館研究 XCIV(2012.3) ー・ツールはデータベース等ではないので,製品の 比較が困難だったと述べた。 その後のディスカッションでは「なぜ Google で は な く デ ィ ス カ バ リ ー・サ ー ビ ス を 利 用 す る の か?」という根源的な質問に,さまざまな意見交換 が さ れ た。Google に 無 い コ ン テ ン ツ を 図 書 館 は 持っている,Google にない価値を図書館は付与で き る,ア グ リ ゲ ー シ ョ ン が 提 供 す る レ ベ ル に Google は達していない等の意見がだされた。一方 で Google はディスカバリー・サービスを導入する 財政的余裕のない図書館にとってオプションの一つ に な り え る だ ろ う し,現 に 学 生 は OPAC よ り も Google を検索ツールとして利用していることも事 実であることも言及された。 4.11 Breakout Sessions I&II(セッション 11,12) 4 つのグループに分かれて分科会を行い,それぞ れ,コンソーシアムの運営資金,機関リポジトリ, ゴールド OA の資金,冊子体の保存についてそれ ぞれ意見交換を行った。 4.11.1 Funding Consortia まず,コンソーシアムの活動として必要な事項に ついてディスカッションを行った。ライセンス交渉 が中心となるのは当然のことであるが,トレーニン グ,教育など人材育成の面にも重きを置いているコ ンソーシアムが多くあった。その他にはサーバやプ ラットフォームの構築,利用統計管理なども必要な 業務として挙げられた。 続いて,コンソーシアムの経費について議論し た。そ の 中 で は,事 務 所 の 維 持 費,什 器・機 器, ウェブサイトの運用費,こうした会議に参加するた めの旅費から,法律上の手続きに必要な費用に至る まで多岐に渡る項目が挙げられたが,人件費が大き な割合を占めるという点では意見が一致した。一 方,コストの削減ということではアウトソーシング も話題に上ったが,業務の継承,人材育成,管理の 面で難しいとの声があった。 500 も参加館があって,特定の大学から職員が事務 局に派遣されているのはなぜかと質問を受けること となったので,今年立ち上がったばかりであり,今 後,体制を整備することになっていると答えた。ま た,日本の大学の形態について説明したところ,多 様性に富んでいるとの感想があった。 4.11.2 Future of Institutional Digital Repositories 機関リポジトリ(IR)の将来および IR による将 来について話し合った。 アーカイブやメタデータの構築は,紙の時代から 図書館員が行ってきたものであり,今後も関わって いくだろうという意見があった。 また,機関ごとにリポジトリを立ち上げることの 是非が議論の俎上に上った。データを相互に重複し て持つことの意味,アーカイブの責任の所在,コス トなどさまざまな視点からの意見があった。 なお,IR への論文登載の Mandate(義務化)は あまり進んでいないのが実情だが,このことについ て,我々図書館員は研究者にとって有用であると納 得させるだけの付加価値をもたらすことに力を注ぐ べきであるとの示唆があった。 そして図書館員はより協働して論文の登載に関わ るべきであり,今よりももっとこのことに関わって いくであろうとの意見もあった。 IR が 対 象 と す る 範 囲 は OA 誌 や ペ イ・パ ー・ ビュー誌から大学が生産する他のコンテンツまでを 包含していくだろう。また,データのみならず,手 に入る限りのユニークなコンテンツを対象としてい く だ ろ う。IR は 図 書 館 の 一 部 で あ り,教 育・研 究・学習の電子的な環境において,その一部となる だろうというものだった。 4.11.3 Financing Gold Open Access ここでは,ゴールドオープンアクセス誌の資金に ついてディスカッションが行われた。ゴールドオー こうした議論から,国レベル,大学レベルなどコ ンソーシアムの種類に話題がおよび,主要なトピッ プンアクセス誌は雑誌の制作に必要な購読料を読者 からではなく,著者または助成団体等がその費用を 負担する仕組みであるが,近年では Springer 社傘 下の BioMed Central 社等,商業出版社も取り組ん クである財源について,参加者のバックグラウンド を含め,各々のコンソーシアムの概要を紹介するこ できている。しかし,購読料に頼らない出版の方法 は資金難に陥る危険性もあり,その資金の調達が今 ととなった。 国や公共機関の支援を受けている,あるいはメン 回議論された。 問題の一つとして挙げられたのは,既刊誌がオー バー館からの会費で運営していることなど,複数の 財源を有するコンソーシアムもかなりの数存在する ことが分かった。JUSTICE の事務局員は大学から 出向の形で派遣されてきていることを説明すると, プンアクセス誌に移行する際,それにかかる費用の 捻出方法であった。これを研究費からとるのか,コ ンソーシアムの参加費に割増料を加えるのか,現在 明確なモデルが確立されていない中,慎重に検討す 9 国際図書館コンソーシアム連合 2011 年秋季会合参加報告 る必要があるだろうと参加者は述べた。また資金額 によっては雑誌の質を下げる場合もあるので,持続 例えばビッグディールモデルの硬直化は以前から 唱えられていたが,それに変わる新モデルへの移行 的なモデルを考えなくてはいけないとの意見があっ た。 に対する不安や,移行時期への慎重な検証の声は依 然大きい。また商業出版社との交渉だけでなく,学 会誌との交渉がいかに困難かを今回共通認識として 4.11.4 Collaborative Print Collection Storage Initiatives この分科会では冊子体の電子化に伴い,どのよう 持つことができたと思う。 こういったネガティブな面を強調するだけでな く,会合の中では今後の交渉の鍵でもある電子ジャ に冊子体を保存するかということについて各国の事 例が発表された。ベルギーやフィンランド,イギリ ス等は出版社別に収集を分担しており,フランスや ドイツは主題別に各館で分担していると説明した。 ーナルの利用統計に対する関心の高さも伺えた。ま また,スロベニアでは法律によって国立国会図書館 に冊子体を納めることとなっており,日本の納本制 が図書館界,ひいては学術コミュニティのなかでど ういった貢献ができるか模索する姿勢の現れと言っ て良いのではないだろうか。 度のような事例であった。また,ドイツ国内の大学 は電子オンリーの契約に関して,慎重でなかなか移 行が進まないと述べた。その背景としてはいくら電 子化が進んでも「万が一」のために冊子体を保持し たがる心理がはたらくからだと説明した。また,世 界 の 冊 子 体 の 数 に つ い て 議 論 が 上 が り,例 え ば Elsevier 社誌の冊子体は世界中でどのくらい蔵書さ れているのだろう,という面白い質問も投げかけら れた。 4.12 Breakout Session Reports,General Business - Updates & Closing(セッション 13) 最後のセッションではセッション 11 と 12 のまと めをそれぞれ分科会のリーダー 4 人が発表し,イギ リスの JISC Collections は学会誌とのガイドライン の作成,トランスファー問題に対する取り組みを発 表した。また現在の ICOLC の現状と今後の方針に ついての声明について意見交換がなされた。 なお,次回(2012 年春季大会)はデンバー(ア メリカ合衆国コロラド州) ,次々回(2012 年秋季大 会)はウィーン(オーストリア)で開催されること が決定した。 5.おわりに 今回の ICOLC 会合でなんと言っても印象的だっ たのは,会の冒頭で JUSTICE の発表を行ったこと である。日本の国立大学図書館協会(JANUL)コ ンソーシアムと公私立大学図書館コンソーシアム (PULC)が統合して世界有数のメガコンソーシア ム JUSTICE になったことは,参加者にもその名称 と共に強い印象を与えたようだった。 その一方で世界各国のコンソーシアムが抱えてい る問題,悩みは規模の大小に関係なく共通のものと して存在していることも再認識できたように思う。 10 たオープンアクセスや,ERMS と結びついたディ スカバリー・サービスの各国の取り組み,中間業者 とのディスカッションは,これからコンソーシアム 日本を代表とするコンソーシアムとなった JUSTICE にとって,国全域をカバーするヨーロッパ諸 国やロシアのコンソーシアムの考えや取り組みは非 常に参考になり,また実際に顔を合わせてお互いの 問題を共有し,考えていく事にとても意義のある参 加だったといえよう。 6.謝辞 最後になりましたが,参加の機会を与えてくだ さった国公私立大学図書館協力委員会,国立大学図 書館協会,公立大学協会図書館協議会,私立大学図 書館協会をはじめとする関係者の皆様に感謝しま す。また今回の会合で JUSTICE の発表の機会を与 えてくださいました,静岡大学附属図書館長加藤先 生に深くお礼を申し上げます。 注・参考文献 1)尾城孝一. 国際図書館コンソーシアム連合(ICOLC : International Coalition of Library Consortia)第 12 回会合報告. 大学図書館研究. 2003, no.67, p.28-36. 2)尾城孝一, 松本和子, 井上修. 国際図書館コンソーシ アム連合(ICOLC : International Coalition of Library Consortia)第 14 回会合報告. 大学図書館研究. 2004, no.71, p.49-55. 3)山本和雄. 欧州国際図書館コンソーシアム連合(EICOLC : International Coalition of Library Consortia in Europe)第 5 回会合参加報告. 大学図書館研 究. 2004, no.71, p.56-62 4)前田弘子, 青木堅司, 井上修. 国際図書館コンソーシ アム連合(ICOLC : International Coalition of Library Consortia)第 15 回会合参加報告. 大学図書館 研究 2004, no.72, p.58-68. 5)山本和雄, 市古みどり. 国際図書館コンソーシアム 連 合( ICOLC : International Coalition of Library 大学図書館研究 XCIV(2012.3) Consortia)第 6 回欧州会合参加報告. 大学図書館 研究. 2005, no.74, p.74-80. 6)藤田儒聖, 庄ゆかり, 井上修. 国際図書館コンソーシ アム連合(ICOLC : International Coalition of Library Consortia)ボストン大会参加報告. 大学図書 館研究. 2005, no.75, p.81-93. 7)荘司雅之, 山本和雄, 藤田儒聖. 国際図書館コンソー シ ア ム 連 合( ICOLC : International Coalition of Library Consortia)2005 年秋季会合参加報告. 大学 図書館研究. 2006, no.76, p.82-96. 8)平吹佳世子, 井上修. 国際図書館コンソーシアム連 合( ICOLC : International Coalition of Library Consortia)2006 年春季会合参加報告. 大学図書館 研究. 2006, no.78, p.124-133. 9)赤崎久美, 山本和雄. 国際図書館コンソーシアム連 合( ICOLC : International Coalition of Library Consortia)2006 年秋季会合参加報告. 大学図書館 研究. 2007, no.79, p.68-77. 10)長内尚子, 荘司雅之, 加藤晃一. 国際図書館コンソー シ ア ム 連 合( ICOLC : International Coalition of Library Consortia)2007 年春季会合参加報告. 大学 図書館研究. 2008, no.84, p.56-64. 11)平吹佳世子, 菅野朋子. 国際図書館コンソーシアム 連 合( ICOLC : International Coalition of Library Consortia)2007 年秋季会合参加報告. 大学図書館 研究. 2008, no.84, p.65-70. 12)赤崎久美, 吉田幸苗. 国際図書館コンソーシアム連 合( ICOLC : International Coalition of Library Consortia)2008 年春季会合参加報告. 大学図書館 研究. 2009, no.85, p.85-90. 13)白方知恵子, 荘司雅之. 国際図書館コンソーシアム 連 合( ICOLC : International Coalition of Library Consortia)第 10 回欧州秋季会合 2008 参加報告. 大学図書館研究. 2009, no.86, p.105-114. 14)酒見佳世, 井上修. 国際図書館コンソーシアム連合 (ICOLC : International Coalition of Library Consortia)2009 年春季会合参加報告. 大学図書館研究. 2009, no.87, p.18-25. 15)平吹佳世子. 海外レポート ICOLC フィラデルフィ アに参加して. Medianet. 2006, no.13, p.60-61. 16)酒 見 佳 世 ICOLC 2009 Spring Meeting 体 験 記 Medianet. 2009, no.16, p.84-85. 17)中村健, 守屋文葉. 国際図書館コンソーシアム連合 (ICOLC: International Coalition of Library Consortia)2009 年秋季会合参加報告. 大学図書館研究. 2010, no.89, p.69-78. 18)渡邊由紀子, 渡辺真希子, 今村昭一. 国際図書館コン ソーシアム連合(ICOLC:International Coalition of Library Consortia)2010 年春季会合参加報告. 大学 図書館研究. 2010, no.90, p.61-71. 19)小野理奈, 国際図書館コンソーシアム連合(ICOLC: International Coalition of Library Consortia)2010 年秋季会合参加報告. 大学図書館研究. 2011, no.92, p. 64-68. 20)JUSTICE.(online) , http://www.nii.ac.jp/content/ justice/,(accessed 2011-12-22) 21)JISC Collections.(online) , http://www.jisc-collections. ac.uk/,(accessed 2011-12-22) 22)UKSG Conference.(online) , http://www.uksg.org/ event/conference11,(accessed 2011-12-22) 23)Max Planck Society.(online) , http://www.mpg.de/ en,(accessed 2011-12-22) 24)Consorci de Biblioteques Universitàries de Catalunya( CBUC ) .( online ) , http: //www. cbuc. cat/, (accessed 2011-12-22) 25)Anatolian University Libraries Consortium(ANKOS) .(online) , http://www.ankos.gen.tr/,(accessed 2011-12-22) 26)Publisher Application Form(PAF) .(online) , http:// publisher.ankos.gen.tr/index.php,(access 2011-1222) 27)Pecya Digital Library.(online) , http://www.pecya. com/,(access 2011-12-22) 28)TÜBİTAK(Scientific and Technological Research Council of Turkey).(online) , http://www.tubitak. gov.tr/,(accessed 2011-12-22) 29)Hiperkitap.(online) , http://www.hiperkitap.com/, (accessed 2011-12-22) 30)ULAKBIM( Turkish Academic Network and Information Center) .(online) , http://www.ulakbim. gov.tr/,(accessed 2011-12-22) 31)Confederation of Open Access Repositories(COAR) . ( online ) , http: //www. coar-repositories. org/, (accessed 2011-12-22) 32)Association of Research Libraries(ARL) .(on-line), http://www.arl.org/,(accessed 2011-12-22) 33)OpenAIRE( Open Access Infrastructure for Research in Europe) .(online) , http://www.openaire. eu/,(accessed 2011-12-22) 34)Mary Ann Liebert, Inc.( online ) , http: //www. liebertpub.com/,(accessed 2011-12-22) 35)Journal Usage Statistics Portal(JUSP).(online) , http://jusp.mimas.ac.uk/,(accessed 2011-12-28) 36)トランスファー問題とは,A 出版社で発行されて いた雑誌が B 出版社に変わり(移管誌という)ア クセス等に支障等がでる一連の問題を指す。例え ば上述の場合,図書館は必要に応じて、(パッケー ジ契約とは別に)新たに B 社との購読契約をおこ なう必要があり,購入資金を確保しなくてはなら ない。また移管誌は、出版社が変わるため、電子 ジャーナルの利用条件も変化する等色々な問題を 含んでいる。 37)The Florida Center for Library Automation.(online) , http://fclaweb.fcla.edu/,(accessed 2011-12-28) 11 国際図書館コンソーシアム連合 2011 年秋季会合参加報告 38)Digitalna knjižnica Slovenije - dLib. si.( online ), http://www.dlib.si/,(accessed 2011-12-28) 39)Kansallinen digitaalinen kirjasto.(online) , http:// www.kdk.fi/en,(accessed 2011-12-28) < 2011.12.28 受理 いまむら あきかず 国立情報 学研究所学術基盤推進部図書館連携・協力室調査役, しばた やすこ 一橋大学学術・図書部学術情報課雑 誌情報主担当> Akikazu IMAMURA, Yasuko SHIBATA Report of the ICOLC, 2011 Autumn Meeting Abstract:The 13th meeting of ICOLC Europe took place in Istanbul in September 2011. Topics covered in this meeting include the activities of the various consortia, e-books and consortia, the situation of the Turkish consortium( ANKOS ), vendor grille of the American Chemical Society, Open Access journals, usage statistics,} looking toward 2020 ~vendor presentations by Elsevier, Springer, and Wiley, working with intermediaries, discovery services and breakout sessions on a number of different topics for a total of 13 sessions. This paper reports on the highlights of the meeting. Keywords:library consortia / International Consortium of Library Consortia / ICOLC / e-journals / ebooks / databases / licensing / COUNTER / ERMS / discovery services / society journals / Japan Alliance of University Library Consortia for E-Resources(JUSTICE) 12
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