フランケンシュタインの花嫁

Bride of Frankenstein
クトゥルフ神話 TRPG シナリオ
フランケンシュタインの花嫁
1. はじめに
本シナリオは 19 世紀末のイギリスのロンドンを舞台としたシティ・シナリオである。デ
ータは「基本ルールブック第 6 版」に対応している。キーパーはサプリメント「クトゥル
フ・バイ・ガスライト」の所持を推奨する。持っていれば、プレイヤーの提案に対する処
理の幅が広がることは間違いない。
この時代に、携帯電話や蛍光灯などの文明の利器は存在しない。その代わり、厳格な麻
薬規制や銃刀法も実質存在しない。移動手段は自動車の代わりに馬車を用い、連絡手段に
は手紙や電報を出していた。カメラは大型の物しかなく、
「撮影されると魂を抜かれる」の
ような非科学的思考も少なくなかった。なにより、この時代には社会階級の差が存在する。
男性は紳士として、女性は淑女として振る舞うことを求められ、よりよいステータスを得
ることに全力を注いだ。貧しい家の子供と老人は仕事で酷使され、日銭を稼ぐこともまま
ならなかった。(注意:史実に基づく厳密な階級格差の反映はストレスになり得る)
シナリオを進行する上でプレイヤーに話しておくと良い知識はこのくらいかと思われる。
シティ・シナリオである以上、キーパーに求められる歴史的な専門知識は少なくない。シ
ナリオの内容に疑問点があれば、適宜お近くの図書館や書店、Google 先生を頼って欲しい。
もっとも、想像上のゲームにおいて史実の精度は「楽しめる」程度に高めれば十分である。
シナリオに要する時間は Skype 等のツールを用いたボイスセッションで 4~5 時間、テキ
ストのみのセッションで 8~10 時間を見込んでおくと良い。一箇所、立ち寄らなくとも問
題の無いサブイベント(11,探索:神智学教会本部)が存在するため、このサブイベントを含
むか否かで所要時間は 1 時間ほど変動する。
推奨技能は【目星】【医学】【オカルト】【図書館】の 4 種類。【回避】は生還率を高める。
【戦闘技能】は必要不可欠でないが、取得するなら遠慮せず火力をガン積みすると良い。
【学
問系技能】
【交渉系技能】は様々な場面で役に立つだろう。
【運転(馬車)】
【乗馬】
【操縦】
【芸
術】【製作】
【夜盗系技能】は状況次第で大いに活躍する可能性がある。
ヴィクトリア朝クトゥルフ神話 TRPG のような「時代物」のマスタリングにおいて、細か
な描写や画像による演出はセッションの雰囲気づくりを大いに助ける。シナリオ募集時の
トレーラーや導入時の描写だけでも丁寧にやっておくと、わくわく感はぐんと増す。手間
をかける価値はあるので、頑張って欲しい。
●トレーラーの一例
科学とオカルトが渦巻く 19 世紀末イギリス。
薄く濁った霧と白い吐息が混ざり合う、そんな冬のある日のこと。
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Bride of Frankenstein
ロンドンに住まう探索者は、英国政府から奇妙な依頼を受ける。
――死者を復活させるという冒涜的研究の調査、および研究書の確保。
新たな叡智は澱んだ闇となって、大英帝国を蝕み始めていた。
喪われた魂に、あなたたちの言葉は届くのか。
これは、屍者の物語である。
2. シナリオの背景
狂気の科学者、ヴィクター・フランケンシュタインは魂の秘密を探求していた。彼はそ
の探究の中で東洋神秘を研究しているオカルトクラブ「神智学教会」の援助を得て、死ん
だ者の肉体を動かす術を見つける。彼はショゴス細胞やグラーキの棘を用いて「屍者」を
創り出すことに成功したものの、それらの屍者は柔軟な運動機能や基本的な言語機能をも
たない木偶人形に過ぎなかった。彼は深淵の知識を得る中で、ある仮説を見いだす。神智
学教会から提供された魔道書に記された不可知の存在、「神格」を「人格」の代わりに人間
の肉体へ押し込めることで、人類は新たな進化の一歩を踏み出せるのではないだろうか?
彼は魔道書「ジャーンの書」の記述を小さな金属片に刻み込み、これを神格招来の媒体
とした。あるとき、彼の目論見はほとんど偶然の形で成功を遂げる。ある女性の死体へ、
邪神「リリス」を招来することに成功したのである。彼は女性を「アルマ」と名付け、教
育を施した。彼女は言葉を話し、感情を抱く、通常の人間と何ら変わりのない機能を備え
た。ひとつだけ普通の人間と異なるのは、その学習速度だった。彼女は 1 週間で流暢な英
語を読み書きするに留まらず、ヴィクターの研究まで理解し始めたのである。
彼は神智学教会に屍者研究の成果を報告し、教会はその研究成果をあろうことか英国政
府の要人に持ち込んだ。軍部に身を置いていた要人は研究の支援を約束する代わりに屍者
軍人の生産を取り付け、手始めに「ロンドン塔」の衛兵を被験体にした。ヴィクターはし
ばしばアルマと共にロンドン塔へ足を運び、屍者の衛兵を創造した。
ヴィクターは屍者技術をアルマ以外と共有せず、外部に理解できないよう保持していた。
技術を公開しないヴィクターに痺れを切らした神智学教会の長、ヘレナ・P・ブラヴァッ
キーは、偶然入手した「クルースチャ方程式」を彼に贈る。アルマ=リリス以外の神格の招
来に失敗していた彼は喜んで「方程式」の研究に没頭し――少しずつ、その精神を蝕まれ
ていった。気がつけば本来の研究を放り出して、意図せず「アザトース」なる邪神の召喚
のために筆を動かしていたのである。
自分の精神が何者かに浸蝕され、世界を滅ぼす呪文を見いだそうとしている。この事実
を理解したヴィクターは、一枚の遺書を残して自らの命を絶った。アルマは彼の魂を取り
戻そうと、ヴィクターを屍者として蘇らせる。しかし、再び目を開けた彼に感情は宿らな
かった。アルマは、ヴィクターの最後の研究――【アザトースの招来】研究の引き継ぎを
決意する。それが、叶えられなかった彼の最後の望みだと信じて。それが、彼と共に、永
遠に「死に続ける」ための救いだと信じて。
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Bride of Frankenstein
3. NPC 情報
[依頼人]エイブラハム・ヴァン・ヘルシング
男性
43 歳
STR:14 DEX:13 INT:18
CON:15 APP:12 POW:18
SIZ:13 SAN:90 EDU:21
耐久:14 MP:18 db:+1D4
【こぶし】75% 1D3+1D4
【38 口径リボルバー】35%
【医学】90% 【運転(馬車)】35% 【応急手当】90%
【忍び歩き】50% 【乗馬】35% 【心理学】80%
【目星】75% 【薬学】70% 【歴史】50%
【英語】40% 【オランダ語】99% 【ラテン語】50%
目的:ヴィクターの研究書の確保、英国破滅の回避
英国政府のスパイ。穏やかな性格の紳士。
彼は探索者に「ヴィクターの研究の調査」「ヴィクターの研究書の確保」を依頼する。
公になっていないものの、英国政府は屍者研究を支援する立場にある。
彼はその発端が神智学教会、およびヴィクターの研究にあることを嗅ぎつけた。
英国政府の軍部は既に有力な探偵事務所、新聞社、スコットランドヤードを押さえている。
そこで政府の手が回っていない人材=探索者に研究の調査を依頼する。
表向きは大学教授として教鞭を執っている。専攻分野は精神医学。
※データは「クトゥルフ・バイ・ガスライト」pp.109~110 参照(一部技能を省略)
[敵対者]アルマ・フランケンシュタイン
女性
27 歳
STR:11 DEX:14 INT:22
CON:16 APP:16 POW:35
SIZ:13 SAN:0 EDU:21
耐久:15 MP:35 db:0
【心理学を除くあらゆる学問系技能】90%
【英語】99%
習得済みの呪文:【アザトースの招来】
装甲:あらゆる物理攻撃半減・火炎ダメージは通常通り
目的:ヴィクターの研究を完成させる(アザトースの招来)
彼女の正体はヴィクターによって招来された神格「リリス」である。
脳には「ジャーンの書」を刻み込んだ「金属片」が埋め込まれている。
彼女の中身は神格だが、その精神状態は人間とほとんど変わらない。言葉を話し、感情を
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Bride of Frankenstein
抱き、殺意すら覚える。ヴィクターに抱いている感情は憧憬か、恋慕か、愛情か。
彼女はヴィクターの「心残り」を実現するため、ヴィクター・フランケンシュタインとの
永遠を獲得するため、アザトースの招来を試みる。
[道化]ヴィクター・フランケンシュタイン
男性
53 歳
STR:20 DEX:10 INT:22
CON:16 APP:14 POW:1
SIZ:13 SAN:0 EDU:20
耐久:15 MP:1Db:+1D4
【医学】90% 【薬学】90% 【クトゥルフ神話技能】28%
【組み付き】25%
その他 KP が必要と感じる技能
装甲:あらゆる物理攻撃半減・火炎ダメージは通常通り
目的:人類の進歩(屍者の創造,人格の神格化)
現在の彼は、アルマによってつくられた屍者である。
神智学教会から提供されたクルースチャ方程式を解読し、狂気に陥った。
彼は最後の理性を振り絞り、書斎で毒を呷って自殺する。
アルマは彼を屍者化し、生者と同じ水準まで彼の知能を回復させた。
彼は生前の記憶を保持しているが、言葉を一切口にせず、感情的振る舞いも見せない。
[見せしめ]イゴール・ウェイクフィールド
男性
20 歳
STR:16 DEX:10 INT:13
CON:15 APP:13 POW:1
SIZ:12 SAN:0 EDU:12
耐久:14 MP:1Db:+1D4
【聞き耳】80% 【クトゥルフ神話技能】10%
【あらゆる攻撃の命中率】1%
装甲:あらゆる物理攻撃半減・火炎ダメージは通常通り
目的:ヴィクターの研究の調査
ヘルシングとは別経路で潜入していたスパイ。学生を装って近づいていた。
あえなくアルマに捕獲され、屍者技術の実験台にされる。
脳に「金属片」を埋め込まれているため、比較的自然な動作をとる。
しかし、言語機能は備わらなかった。話しかけても掠れたうめき声をあげるのみ。
攻撃機能は存在しないも同然だが、頑丈さは他の屍者と遜色ない。
[助言者]ヘレナ・P・ブラヴァッキー
STR:9 DEX:12 INT:14
CON:10 APP:9 POW:18
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Bride of Frankenstein
SIZ:10 SAN:62 EDU:18
耐久:10 MP:18 db:0
【オカルト】90%
【ほかの言語(東洋諸国)】70%
【クトゥルフ神話技能】13%
その他 KP が必要と感じる技能
習得済みの呪文:【星の精の従属】【被害をそらす】【生命の察知】
オカルトクラブ「神智学教会」の創始者。
誠実な態度で知識を求めに来る人間には優しく応じる。
しかし、不遜な人間には容赦無く星の精をけしかけて殺す。
探索者が誠意ある態度を取れば、お助け NPC として知識を授ける。
◆フォント
通常の説明は「麗流隷書」、ハンドアウト(そのまま出せる情報)は「やさしさアンチック」、
描写・台詞例は「HG 正楷書体-PRO」で表記する。
4. 導入:探索者合流
探索者の 1 人は「探偵」「刑事」「スパイ」「教授」など、外部の人間の依頼を受けること
に慣れている職業であると話を運びやすい。また、探索者同士は職業上の付き合いや友人
関係、血縁関係があると手っ取り早く、かつスムーズに導入が進むだろう。
■探索者の合流
最初に探偵事務所、研究室など探索者の職業に適した場所で合流するところからシナリ
オを開始する。知人同士なら事務所や研究室で合流する(している)シーンから始め、そう
でなければ個別にヘルシングと関係を作った上で、手紙を用いてクラブへ呼び出すと良い
だろう。探索者が最初にディオゲネス・クラブで合流する場合、「三流記事」の情報はクラ
ブでヘルシング教授本人が開示するという流れに変更することも可能である。
●演出のためのアイテム・人物・建物例
「紅茶」「じゃがいも」「サンドイッチ」「エンドウ豆のスープ色の霧」「ビッグ・ベンの鐘」
「馬車が走る音」「新聞売りや果物売りのかけ声」「シルクハットにスーツの紳士」
「ステッ
キ」「日傘を差した淑女」
「巡回中の警官」「寒そうな薄着の労働者」「酒」「煙草」「教会」
●演出の一例:探偵事務所で「探偵の家に住み込んでいる放浪のエンターテイナー」「仕事
とプライベートの両方で付き合いのある医師」
「奇妙な依頼を受ける探偵」が合流する
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――時計塔「ビッグ・ベン」のチャイムが、ロンドンに朝を告げる。
放浪の人形師は、女王陛下のお膝元を訪れて久しい。
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Bride of Frankenstein
あなたは普段ハイド・パークやリージェント・パークの公園で大道芸を披露しているが、
今日に限って珍しく本業以外の予定が入っている。
同居人の探偵が「仕事に協力して欲しい」のだという。
彼女とは最早「同じ場所で雨宿りしている他人」程度の仲ではなく、自分から探偵仕事の
協力を申し出ることは少なくない。
しかし、彼女から探偵の仕事の協力を依頼されるのは稀であった。
独身のまま 20 代に突入した貴女に結婚の話題を振らない、優しい同居人の頼みを断る道理
はない。
あなたは、果物籠を抱えた少女のかけ声や新聞売りの少年の声がうっすらと聞こえる自室
を後に、探偵の事務室へ向かった。
――時計塔「ビッグ・ベン」のチャイムが、ロンドンに朝を告げる。
小柄な開業医は、ロンドンの空を覆う排煙や飲食物の混ぜ物でぼろぼろになった市民の対
応に日々追われている。
稀に殺人事件の検死も依頼されることはあるが、若い開業医である彼の信用はまだまだ積
み上げる段階にあって、外部から依頼が舞い込んでくることは多くない。
しかし、今回は数少ない例外のために玄関へ「休診」の看板をかけている。
知人の探偵から「探偵の仕事に協力して欲しい」という依頼を受けたのだ。
女性でありながら探偵として生き、業界でも若い地位にあるという似通ったステータスを
持つ彼女とは、一度だけ小さな殺人事件で協力関係にあった。
珍妙なホームズ&ワトソンとして刑事にからかわれたことが、彼の記憶に残っている。
そんな過去に思いを馳せつつ、彼は往診用の医療鞄を抱えて診療所を出る。うっすらとエ
ンドウ豆のスープのような霧が漂う中、若き医師は探偵の事務所へ向かって歩き出した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――時計塔「ビッグ・ベン」のチャイムが、ロンドンに朝を告げる。
英国の中枢に拠点を置く私立探偵は、英国政府の人間から一通の手紙を受け取っていた。
かの諮問探偵シャーロック・ホームズとは異なり、一般市民から小さな依頼を受けること
が多いあなたに政府のような機関から「依頼」の手紙が届くのはこれが初めてになる。
・・・もうひとつ、あなたには気がかりなことがある。
日刊新聞デイリー・テレグラフによる「神智学教会」の報道である。
普段なら鼻で笑うような話だが、どこか不穏なざわめきを感じずにいられない。
物思いに耽る中、使用人が事務室の扉をノックして来客を報せる。
「――様がお越しになりました」
余計な思考を振り払い、新聞を横に置く。不安を抱いたところで、どうにもなるまい。
「やあ、いらっしゃい」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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Bride of Frankenstein
□ハンドアウト「奇妙な依頼の手紙」
導入の描写で「手紙」の話をするか、探索者が合流した時点で開示する。
<探索者>には依頼を受ける探索者の姓を、<職業>には同じ人物の職業を入力する。
Dear Mr.<探索者>
突然、このような手紙を送る無礼をお許しください。
私は国会議員秘書のジャック・セワードと申します。
貴殿の<職業>としての実力を見込んで、ひとつ依頼を受けていただきたく、筆を執った次
第です。
帝国の存亡にまで関わる話・・・というと大げさに聞こえるかもしれませんが、実際に聞いて
もらわないことには信じていただけないでしょう。
明日正午に「ディオゲネス・クラブ」までお越しください。
今回の依頼について、説明させていただきます。
是が非でも、貴殿のお力をお借りしたい所存です。
お時間を設けていただきますよう、何卒よろしくお願い致します。
J.S.
ディオゲネス・クラブの住所はバッキンガム宮殿のすぐ北である。
探索者の合流地点は、特に希望が無ければこの近場に設定しておくと良い。
□ハンドアウト「デイリー・テレグラフ紙の三流記事『生命の神秘に迫る女史』
」
手紙と同様に、話題に出るか合流した時点で情報を開示する。
巷では、オカルトクラブ「神智学教会」が死んだ人間を蘇らせる技術を研究しているとい
う噂が広まりつつある。
もっとも、「技術」より「魔術」という呼称の方が適しているだろう。
1875 年に神智学教会を組織し、翌年『ヴェールを剥がれたイシス』を刊行したブラヴァッ
キー夫人にインタビューを行ったところ、
「妙な噂を耳にしましたが、冒涜的な技術に手を染めることはございません」
「神智学協会は、正しい知識を探求するだけです」
「わたしたちは『ジャーンの書』から生命の謎を解き明かすことに成功しつつあります」
「古今東⻄あらゆる存在を構成する「宇宙的生命」は万物を流出させる根源的な原理で、
これは精神と物質の壁を越えるものです——」
「霊魂はいくつもの肉体を経て、起源へ向かうのです。わたしたちは死後の「再生」、イン
ドや東洋で言うところの輪廻転生を確信しました——」
など、非常に興味深いコメントをいただいた。
また、夫人は「近いうちに同書の翻訳を刊行する予定なので、ご期待くださいませ」と 2
作目の出版をにおわせた。
科学が指数関数的に進歩している現代において、彼女の理論は注目を浴びている。
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Bride of Frankenstein
ブラヴァッキー夫人の著作に関心を抱いた方はダン・ウィッチー書店までご連絡を――
『ヴェールを剥がれたイシス』は特に重要な情報ではない。「教会の長はオカルトに傾倒
しているけれども、結構オープンな人間である」という印象付けに留める。
ちなみに書籍の内容は、
「全二巻。第一巻では近代科学の絶対性に異議を唱え、第二巻で
は神学とは反対の立場をとって神智学およびスピリチュアリティを提唱した」というもの。
「ジャーンの書」:【歴史】か【オカルト】で判定する。
〇成功⇒永遠の法則、宇宙の真理、魂の秘密が記されているという太古の魔道書・・・と言わ
れている。人類が 1 つの⺠族であった頃の共通言語が用いられた「ネクロノミコン」とい
う書物の原典だという主張もある。もっとも、
「ネクロノミコン」自体架空の存在だという
考えの方が一般的であるため、この主張はほとんど破綻している。
※仮にここで全員が失敗しても、ロンドン市内の「図書館」で同じ情報を取得できる。
5. 導入:ヘルシング教授の依頼
情報の共有や探索者同士の交流を終えたら、ディオゲネス・クラブへ移動する。現地に
到着してちょうど正午、くらいに時間を調整しておこう。ここでは移動手段が徒歩でも馬
車でも特段違いはない。
●クラブへの移動の描写例
一行は使用人に見送られて、事務所を出た。
外は晴れているものの肌寒く、白い吐息がくすんだ色の霧に混じって消えていく。
街路には乗り合いの大きな馬車や屋根のない辻馬車が行き交い、労働者風の男たちが疲
れ切った様子で出歩いている。
30 分も歩いたところで、一行は女王のおわすバッキンガム宮殿の直ぐ北、セント・ジェ
ームズ・ストリートに面している白塗りの建物へと到着した。
立ち入る人も出てくる人も全くおらず、果たしてこの建物に人が出入りしているかどう
かも定かではない。建物の入り口からも少々「庶民お断り」の雰囲気を感じ取ることがで
きる。
玄関から入る、玄関の呼び鈴を鳴らすといった行動を取った場合、燕尾服を纏った老紳
士が探索者を出迎える。彼は受付のモブおじいさんである。身なりが貧しいか、女性が混
じっていれば多少顔をしかめるだろうが、「ジャック・セワード」や「エイブラハム・ヴァ
ン・ヘルシング」の名前を出せばにこやかな笑顔を浮かべて一行を中へ案内する。
●入館後の描写例
「ひとつだけ、お約束を」
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Bride of Frankenstein
「私が次の扉を開けて閉めるまで、決して喋ってはいけません」
「このディオゲネス・クラブは、沈黙を好む紳士に品格のある時間を提供しております」
「咳ひとつで立ち入りが禁じられますので、ご留意ください」
「よろしいですかな?」
・・・老紳士は頷くと、ゆっくりと正面にあるマホガニー製の重厚な扉を開け、中へ入って
いく。扉の先には広けた空間があり、ぽつぽつと点在する椅子に何人かの紳士が腰掛けて
いる。
彼らは煙草の煙をくゆらせながら黙々と本を読み、思案に暮れ、しかして一切言葉を交
わしていない。
誰の視線もこちらには向かないまま、老紳士はいくつかある扉のひとつに手をかけた。
片手で扉を押し開けたまま、視線だけで中へ入るよう伝えてくる。
一行が部屋の中に歩を進めると、老紳士は背後で扉をそっと閉じた。
■依頼
部屋には脚の低い長テーブルを挟んでソファーが 2 脚並んでおり、向かい側には髭を蓄
えた紳士が座っている。彼が今回の依頼人、エイブラハム・ヴァン・ヘルシングである。
彼は本名を名乗った後、事態の背景(神智学教会の姿勢と英国政府の支援)、依頼(ヴィク
ターの研究の調査)について説明する。探索者からの質問は説明を終えてから受け付ける。
●ヘルシング教授の台詞例
「ようこそ、ディオゲネス・クラブへ。もう口を開いてもらって構わない」
「私はヘルシング。エイブラハム・ヴァン・ヘルシングだ」
「ジャック・セワードは偽名だが、別に悪意があってのことではない」
「ちょっとした事情のために、本名を書けなかっただけだ」
「ともかく、ここへ来てくれたことに感謝する。さあ、かけてくれ」
「聞きたいことは色々あるかもしれないが、先に『依頼』に関する話をさせてもらおう」
「君たちは、少なからず『神智学教会』の噂を耳にしただろう」
「あれはいわゆる非科学信仰のオカルト教団な訳だが、そういった教団の主立った活動は
一般の国民に知られてはならない」
「公にする意向を見せた以上、教会の研究は看過できないところまで来ている」
「さらに問題なのは、英国政府が彼らの研究を支援する立場を採ったことにある」
「私はなんとしても、教会の研究、その源を絶ちたいと考えている」
「しかしながら、私一人ではとても手が回らん」
「そこで、政府の一員として・・・女王陛下の臣民として、君たちに依頼をしたい」
「神智学教会の協力者、ヴィクター・フランケンシュタインという男について調べて欲し
いのだ」
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Bride of Frankenstein
「すでに幾つかの新聞社と探偵事務所、それにスコットランドヤードは政府の軍部に押さ
えられている」
「私の同士も身動きが取れず、この場所を貸し付けてくれた友人も中立の立場にある」
「悲しい話だが、この一件を止められる人材は全くと言って良いほど居ないのだ」
「そこで・・・君ならば英国政府の手もそうそう届くまい、というのが今回の依頼の発端だ」
「幸い、優秀な能力も持っている。――気を悪くしないでくれたまえ。今回の事件は非常
に繊細且つ微妙な問題なのだ」
「先ず陛下の外堀を埋めて回る連中に手をつけねばならないが、それではおそらく研究の
阻止が間に合わん」
「そこで、ある程度実力に信頼のおける、且つ有名な立場にない人間に・・・君たちに依頼を
持ちかけた、というのがここまでの経緯だ」
説明を終えたら、質問に応じて以下の情報を開示する。
□ハンドアウト「ヴィクター・フランケンシュタインという男」
年齢 53 歳。スイスのジュネーヴ出身。ドイツの大学で自然科学の知識を満遍なく吸収。
パラケルススの錬金術のような、現代では否定されている研究まで手を出していた。
というより、そうした過去の知識にご執心だったという。
※「錬金術」は今回のシナリオに関係の無い情報なので、余計に感じたら削除する。
□ハンドアウト「ヴィクター・フランケンシュタインの研究」
彼は死体を自在に動かす技術を研究している。
ヴィクター本人は蘇った死人を「屍者」と呼んでいるらしい。
英国政府は、その冒涜的研究の可能性を見込んで支援の立場を取っている。
流通こそしていないものの、その忌むべき技術は確立されているとのこと。
シティ・ロンドンの東部、クイーン・ヴィクトリア・ストリートにある自宅で研究が行わ
れている。
□ハンドアウト「ヴィクター・フランケンシュタインの周辺人物」
同居人は、アルマという名前の妻がひとりだけ確認されている。
研究自体は自宅で進めているらしく、助手のような存在は確認されていない。
また、今のところヴィクターの周辺で何らかの事件が発生したことはない。
英国政府以外の人間が、彼に接触を試みたとしてもおかしくはないのだが・・・。
□ハンドアウト「ヴィクターの研究書」
今回確保して欲しい研究書だが、実のところ未だその存在は確認されていない。
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Bride of Frankenstein
巧妙に隠しているのか。かなり研究資料の管理を徹底していると思われる。
彼の手記がどのような形で記録されているのか分からないが、屍者を動かす技術を記した
資料は全て確保しなければならない。それが例え、ヴィクター本人の脳だとしても。
□ハンドアウト「神智学教会本部」
東洋神秘の探求を目的とするオカルトクラブ。
ブラヴァッキー夫人の自宅を本拠地として活動している。
住所はリージェント・パークの南⻄、セント・ジョンズウッド・ストリートの裏通り。
□報酬と潜入方法
前金 50£、調査で 100£、研究書の確保で 150£。この辺りは自由に設定して構わない。
ヘルシング教授は『英国政府の書状』を探索者に預ける。書状には「英国政府の要人が視
察に来ました」と要約できる話が懇切丁寧に書かれている。
「書状を用意した。今日に限り、君たちは英国政府の要人だ」
■解散
ヘルシング教授は「夕刻に再びここで集まって成果を報告する」ことを約束してくる。
プレイヤーが 2 人の場合であれば、ヘルシングを同行させても良い。基本的に、クライ
マックスの戦闘まで彼は本筋から離脱する。
質問タイムを終えたら、本格的に探索行動を開始してもらう。ヘルシング教授は一行を
外へ連れ出した後、雑踏へ紛れて消える。この時点で、特に監視/追跡者はいない。
5. 探索:ロンドン市内で情報収集
フランケンシュタイン邸に向かう前に、
「図書館」
「新聞社」で情報収集が可能である。
「ダ
ン・ウィッチー書店」では「新聞社」と同じ情報が出るので、宣言に対して行ける場所と
行けない場所、情報の被る場所をはっきり伝えておく。
■図書館
【図書館】成功:「ジャーンの書」について、「三流記事」と同じ情報を取得できる。
■新聞社「デイリー・テレグラフ」
デイリー・テレグラフはロンドン市内でも屈指の刊行数を誇る新聞紙である。タイムズ
紙のような新聞に比べて砕けたゴシップ記事が多く掲載されている。
話し声が絶えない新聞社に踏み込むと、たばこの煙で白く霞のかかった職場でよれよれ
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Bride of Frankenstein
の服を纏った男たちが仕事に励んでいる。お喋りや怒鳴り声が常に響いており、無言の時
間は無い。記事の内容に遜色ない、うさんくさげな雰囲気の記者が何人か目に付くだろう。
受付のカウンターには、新聞を読んで事実確認にでもやってきたか、はたまた冷やかしか、
何人か市民の姿が見受けられる。
仕事中の記者をつかまえて「三流記事」の担当記者を連れてきてもらえば、最も多く情
報を得られる。他の記者や物好きな一般市民からは、その劣化版の情報を取得できる。「そ
んな話を聞いたような、聞いてないような・・・どうだったかな?」
担当記者は「ン~、何聞いたっけなあ?物覚えはあんましよくねえんだよなァ~」など
と惚けてくる。【交渉技能】、あるいは賄賂や暴力で解決すると良い。金を握らせるのが一
番手っ取り早いだろう。
□下卑た笑みの記者の証言
(会話例)
ブラヴァッキー夫人は誠実な態度を見せれば優しく応じるが、不躾な人間には容赦しない。
また、ロンドン塔の封鎖に一枚噛んでいるという噂がある。墓荒しや行方不明にも関わっ
ているが、こちらの 2 つに解決の糸口となる情報は存在しない。
「ご夫人は優しいお方だったぜ」
「こっちがにこにこ笑顔で訪ねたら、俺なんかにうまい飯と菓子まで用意してくれたのさ」
「で、取材の方はまぁマジメにやったぜ。記事に書いてある通りだ」
「ただよ、調子に乗ってロンドン塔の封鎖や墓荒しの事件、最近の行方不明事件に何か関
わっているのか聞いちまってよ」
「『いいえ、何も存じ上げませんわ』なんてにっこりしてたが、俺ァぞっとしたぜ」
「間違いなく、これ以上踏み込んだら殺されるってな――ああ、寿命が縮んじまったよ」
「しかし、あんたら随分身なりがいいな。探偵か何かかい?深入りは止めときな」
「ブラヴァッキーのご夫人は、俺みたいな真っ当な人間には優しくモノを教えてくれるん
だが、不躾な野郎には容赦がないって噂でな」
「実際、強引に立ち入った探偵サマが行方知れずになったって話だ」
「・・・もっとヤバいのは、俺以外ご夫人の話に手をつける記者がいねえってことだ」
「だから、俺はもうこの案件に関わらないって決めたのさ」
■ロンドン塔を気にかけた場合
ロンドン塔の正式名称は「女王陛下の宮殿にして要塞」。王室の居住区、要塞、監獄、処
刑場、礼拝堂といった機能を備えている。この敷地内では、ヨーマン・ウォーダーズと呼
ばれる衛兵が銃剣を持って警備に当たっている。余談だが、その存在が英国の命運を示す
というワタリガラス(長寿の巨大なカラス)を中央のホワイト・タワーで飼育している。こ
のカラスを養う役職は「レイヴンマスター」と呼ばれる。(この情報は【知識】で判定可能)
ロンドン塔は厚さと高さを兼ね備えた城壁が内部の施設を囲っており、東の正門か南北
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Bride of Frankenstein
の小さな門から入ることができる。しかし、現在は周辺に人影が無く、北の小さな門を除
いて入り口が封鎖されている。東と南の門では頑丈な扉があなたたちを遮っており、北の
門には警備兵と思しき人影を確認できる。彼らに何と言おうと、この時間帯に探索者を通
すことはない。
◎【目星】成功:警備兵の肩越し、門の奧に、小さく揺れる衛兵の姿を見つける。疲れ切
ったようにふらふらと歩く姿は、すぐ建物の影に消えた。
6. 探索:フランケンシュタイン邸
本シナリオの解決の鍵はフランケンシュタイン邸の中にある。神智学教会には、シナリ
オクリア率を高める情報と背景の情報があるため、先にフランケンシュタイン邸へ行って
もらうと良い。「夕刻に調査報告」の約束を取り付けていれば、時刻を見てフランケンシュ
タイン邸に向かってくれると思うが、プレイヤーが選択に悩む、あるいは全員が先に神智
学教会へ向かおうとするなら「フランケンシュタイン邸へ向かうのだ」という啓示を与え
て鮮やかに誘導すると良い。
■フランケンシュタイン邸へ
フランケンシュタイン邸はシティ・ロンドンの東寄り、クイーン・ヴィクトリア・スト
リートに位置している。ここはもともとスラム街だった場所に荒療治的な工事で道を通し、
治安の改善が図られた場所である。そのため、ロンドンの中心部でも比較的身なりの貧し
い人が多い。ロンドン塔まで徒歩 1 時間弱といったところだろう。
■玄関
ヘルシング教授に伝えられた住所へ向かった先に、2 階建ての家が構えられている。人通
りは少なくないが、露店や果物売りの呼び声は聞こえないためにどことなく寂しさを感じ
る場所だ。アパート暮らしでないということは、ある程度経済的に潤っていると考えられ
るだろう。庭や門はなく、玄関は通りに面している。
呼び鈴を鳴らすか、玄関扉を叩けば 20 代半ばの女性が出迎えてくれる。彼女に書状を見
せれば、特に問題なく中へ通されるだろう。
玄関から入ってすぐの応接間にはテーブルと 2 脚の椅子、暖炉、観葉植物といった一般
的家庭の調度品が並べられている。これらに加えて、壁にはいくつかの絵画がかけられて
いる。特に目を引くのは細部まで描き込まれた「最後の審判」だろう。
◎【歴史】【芸術】【知識/2】に成功:ハンドアウト「最後の審判」の情報を得る。
□ハンドアウト「最後の審判」
1541 年、ミケランジェロの手で描かれたバチカン宮殿の礼拝堂の天井画。
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Bride of Frankenstein
絵の中央では再臨したイエス・キリストが死者に裁きを下しており、向かって左側には天
国へと昇天していく人々が、右側には地獄へと堕ちていく人々が描写されている。
・・・というのが本来の光景だが、この絵のキリストは⿊く塗りつぶされている。
なお、ドイツの詩人ゲーテは、この絵画を次のように評した。
「一人の人間の成しうる偉業の大きさを知りたいと思う者は、この絵の前に立つがいい。」
◎【アイデア】に成功するか、上記判定でスペシャル/クリティカルが出た場合
聖書には最後の審判について「世界に終末が訪れたとき、全ての肉体は復活する。あら
ゆる魂は肉体とともに神の賞罰を受け、天国と地獄に分けられる」と記されている(概略)。
・・・この絵では、誰が審判を下すのか?広がる想像が、恐怖をもたらす。正気度喪失 0/1。
●描写・会話例
「視察はお久しぶりでございますね・・・皆様とは初対面かと思いますが」
「フランケンシュタイン。アルマ・フランケンシュタインと申します」
「ヴィクターは奧の研究室におります。ご案内しましょう」
彼女は応接間へ探索者を案内する。右手には木製の扉、左手には 2 階へ続く階段がある。
⇒応接間内の描写、「最後の審判」の情報、その後木製の扉へ足を運ぶ
※黒い塗りつぶしに関して質問されても、煙に巻くようなことを言って会話を終える。
「―――神様が人の形をしているなんて、誰が決めたのでしょうね」
●ヴィクターの研究室の描写例
アルマは木製の重い扉を叩き、「お父様、お客人です」と呼びかける。
中から反応はないが、彼女は返事を確認しないまま扉を開けて探索者を呼び込んだ。
研究室に踏み入ると、「ヴィクター・フランケンシュタイン」を思しき中年の男性が目に
入る。彼の顔は研究の疲労のためか、あまり血色がよくない。
しかし、あなたがたにそんなことを気にする余裕はないだろう。
ヴィクターは、椅子に座らせた青年の頭蓋を切り開いている真っ最中なのだから。
青年はうつろな表情で涎を垂らし、男は黙々とその頭蓋を器具で弄り回している。
ぐち、ぬち、と鳥肌の立つような音を響かせながら。
人間の頭蓋を無造作に弄る、背徳的な現場を目撃した探索者は正気度喪失 1/1D4+1。
※ヴィクターは自らを「父」として扱うよう、アルマに命じていた。
フレーバー設定なので、違和感を覚えた KP は他の呼称に変更して構わない。
■フランケンシュタイン邸、探索開始
ヴィクターは青年の頭を縫合すると、机にメスや針を放り出して部屋を出て行く。
彼は探索者が話しかけても反応を見せない。肩に手をかけるなど、強引に引き留めよう
14
Bride of Frankenstein
とするなら【アイデア】で判定する。成功すれば、彼は凄まじい膂力を備えていることが
理解できる。また、
【心理学】に成功すれば「彼は探索者に対して何の感情も抱いていない」
ことがわかる。
手で振り払われるまでもなく探索者の手はヴィクターの肩から剥がれる。アルマは黙っ
て扉の前から退き、ヴィクターはここで強制離脱となる。
アルマは「すみません、主人はいつも無愛想で・・・」と謝罪した後、「ヴィクターはこの
後人と会う予定があった」
「そこの『研究素材(青年)』は煮るなり焼くなり自由にして良い」
「視察ということなら、研究室は自由に漁って良い」という 3 点を探索者に伝え、ヴィク
ターを見送るために部屋を出る。ここから館内を自由に探索できる。
探索できる場所は「研究室」「応接間」「ヴィクターの部屋」「アルマの部屋」の 4 箇所。
「どの場所を探索できるか」の情報はこのタイミングで伝えておくと良い。アルマはヴィ
クターを見送った後、そのまま外出する。
7. 探索:ヴィクターの研究室
机、椅子、書棚があるだけの無愛想な部屋。椅子には、瞳孔の開ききった青年がぼんや
りとした表情を浮かべて座っている。
ここでランダムに探索者の 1 人を選択し、【目星】で判定してもらう。
〇成功⇒あなたは気付いてしまった。「青年」が、あなたの目を見つめている。そこには、
一切の人間的な感情が宿っていない。既に死した者の昏い目が、あなたを捉えて放さない。
背筋の凍るような感覚を覚えた探索者は、正気度喪失 0/1D3。
▼「机」を調べる
机の上には「金属製の注射器」「薬品の入った瓶」「数式や文章の書き込まれた紙束」「光
学顕微鏡」「医療器具(外科手術用)」「タイプライター」「空の封筒」が転がっている。
「注射器」:中身は空っぽ。注射針は緑色に鈍く輝いている。【化学】か【知識】で判定。
〇成功⇒針に使用されている素材は、あなたの知り得ない素材でできている。【POW×5】に
失敗すると「注射器を刺してみたい」という強烈な欲求が掻き立てられる。1D3 ダメージ。
部屋に他の探索者がいれば、宣言だけでその行動を止められる。POW 判定を行った探索者か
ら忠告を受けていれば、他の探索者は判定なしで欲求に耐えることができる。
「薬品」:ラベルの無い透明なガラス瓶に濁った液体が入っている。【化学】か【薬学】で
判定。【光学顕微鏡】を使うことで判定に+20 の補正。
〇成功⇒薬品のにおいや色を見ても、それがなんなのかわからない。光学顕微鏡で覗けば
細胞らしき物質が確認できるが、その体組織は、あなたの知るいかなる形態にも該当しな
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Bride of Frankenstein
い。密閉された小瓶に詰められて尚生きているかのように蠢く細胞を目撃した探索者は正
気度喪失 0/1d3。
「紙束」:走り書きには意味不明な単語の書き込みが多く、すぐに理解を得られる内容では
ないことがわかる。パッと見理解できる単語として、「ロンドン塔」「衛兵実験」「金属片」
「運動系統の制御」「言語機能は不安定」「特定の人物の命令にのみ反応」といった走り書
きを目にすることができる。
「光学顕微鏡」:「薬品」および「金属片」の調査で使用できる。
「医療器具(外科手術用)」:メス、鋏、縫合セットなど。メスには黒く濁った血が付いてい
る。【医学】判定によって「金属片」を他の人間の脳に埋めるなら、このアイテムを使用す
ることで判定に+50 の補正を加えることができる。
「タイプライター」
:小さなものに文字を書き込むために、特殊な造りになっているようだ。
傍にはまっさらな金属のチップが数枚置いてある。
「空の封筒」
:差出人はヘレナ・P・ブラヴァッキーのようだ。中身は無い。
▼「青年」を調べる
彼は屍者である。青年に攻撃を加えることで、「痛覚を感じない(ショック判定が無い)」
「物理攻撃は軽減される」「炎によるダメージは通常通り入る」「命令が無い限り攻撃・反
撃されない」ことがわかる。また、
「金属片」が脳に埋められている間は「了承の反応のみ
だが、意思の疎通が可能」
「ゆったりとだが人間と変わりなく身体を動かせる」状態にある。
青年に何か命令(「立て」
「座れ」
「俺を殴れ」など)を下せば、彼は命令通りに動き出す。
突然命令に応じて動き出す死体を見てしまった探索者は、正気度喪失 1/1D4+1。ルールブッ
クの正気度喪失(墓場で死体が起き上がる:1/1D10)まで減少値を引き上げても良い。
「青年の頭」
:【医学】か【目星-20】で判定。【生物学】などでも判定可能。
〇成功⇒彼の頭蓋には手術痕が残っているが、その縫合はかなり雑である。触れてみると、
中にくすんだ金色の「金属片」が埋められているとわかる。サイズは MicroSD カードくら
い。彼の脳にべったりとくっついているが、判定なしで取り出すことが可能。
また、金属片を取り出すと青年の動作は急激にぎこちなくなる。
「金属片」:
【学問系技能】か【ほかの技能】、【知識】で判定。
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Bride of Frankenstein
タイプライターの横に置いてある金属チップに文字を刻んだもの。金属片には小さい文字
列が大量に刻み込んであり、顕微鏡でもなければそれらの文字は読み取れないだろう。
「金属片」②:顕微鏡で調べる。
あらゆる言語を兼ね備えた文字列を見いだす。それらの文字を見たことは無いのに、その
内容は理解できてしまう。現実に存在し得ないメモリーカードの内容が頭に流れ込んでき
た探索者は正気度判定 0/1d2。加えて、クトゥルフ神話技能を 5%獲得する。
また、金属片の一番下には「No.004」の文字が刻まれている。
「青年を攻撃する」:【戦闘技能】および【アイデア】で判定する。
〇成功⇒青年にどれだけダメージが入ったか理解できる。(「物理半減」
「炎ダメージ通常」)
屍者のダメージ耐性は「ゾンビ」の劣化版である。もし酸や魔術によるダメージを与えた
なら、通常のダメージが入る。貫通する武器のダメージを半減にするか最低値にするかは、
KP の裁量に委ねる。
▼書棚を調べる
書棚に詰まっている本はあまり多くないため、
【図書館+20%】で判定可能。
〇成功⇒『クルースチャ方程式』『屍者の創造』の 2 冊を発見する。
『クルースチャ方程式』
:【学問系技能】で判定。
〇成功⇒膨大な量の数式が書き込まれている。完全な理解のためには数百、数千時間を要
するだろう。ざっと目を通すだけで、人智の限界に至る内容に自身の知的欲求が掻き立て
られる。この本を読んだ探索者は正気度喪失 0/1D3。クトゥルフ神話技能を 1%獲得。
『屍者の創造』:判定なし。
「ショゴス細胞」「シャッガイからの昆虫の神経」「グラーキの棘」と呼ばれる物質を用い
て死体を強引に、自在に動かす理論が記述されている。特殊な注射器を用いて死体に薬品
を注入するだけで屍者を創造できる、というところまで手法が簡略化されているようだ。
この本を読んだ探索者は正気度喪失 1/1D3+1。クトゥルフ神話技能を 4%獲得。
また、ハンドアウト「屍者技術」が開示される。
□ハンドアウト「屍者技術」
少なくとも「注射器」
「薬品」の 2 つが必要。死体に薬品を注入すれば、単調な命令に従
う木偶人形(STR+1D6,POW1)が完成する。薬品を打ち込む際に、技能の判定は不要である。
「金属片」を埋めるためには額か後頭部を傷つける必要がある。【医学】に成功すれば、
埋め込まれる探索者は 1 ダメージで済むが、失敗すれば 1d4 ダメージを受ける。
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Bride of Frankenstein
8. 応接間
応接間はフランケンシュタイン邸に入ったときと同じ状態(玄関から入ってすぐの応接
間にはテーブルと 2 脚の椅子、暖炉、観葉植物といった一般的家庭の調度品が並べられて
いる。これらに加えて、壁にはいくつかの絵画がかけられている)。
ここでアルマを登場させ、探索者とアルマに会話してもらっても良い。このタイミング
で彼女の正体が明らかにならないように注意。ここでの【心理学】の効果は「嘘をついて
いるかどうか」に留めるべきである。
■写真立て
【目星】に成功すれば、
「写真立て」を発見できる。写真立ての中には一枚の写真がある。
晴れ渡った空と羽ばたく黒い鳥を背景に、2 人の男女が立っている。男性はぶすっとした表
情だが、女性は微笑みを浮かべている。この 2 人は先程見たヴィクターとアルマであるこ
とがわかるだろう。日付は書かれていないが、実物と写真の顔立ちはほとんど変わらない。
【知識】か何かに成功すれば、空を飛んでいる黒い鳥がワタリガラスであること、その
場所がロンドン塔の「ホワイト・タワー」の屋上であることが理解できる。
□裏話
ロンドン塔は唯一ヴィクターがアルマを連れて行った場所である。実験のためではある
が、彼女にとってはロンドン塔がヴィクターとの思い出の場所だ。彼女がアザトースの招
来の場所をロンドン塔に設定した背景はここにある。
9. ヴィクターの部屋
埃が薄く積もっており、しばらく人が立ち入った様子はない。ここは本当にヴィクター
の部屋か?という疑問すら浮かぶだろう。
部屋の中にはベッドと机、椅子だけが置いてある。机以外に情報は無い。
机には燃料の切れたオイルランプだけがぽつりと立っている。ひきだしは 3 段あり、一
番下のひきだしには鍵がかかっている。上 2 つの引き出しは空っぽである。
▼「机」を調べる
【目星】に成功すれば、机の影に小瓶が落ちていることに気付く。ラベルには「アヘン
チンキ」と書いてある。蓋は開いており、中身は空っぽ。
「アヘンチンキ」:【知識】か【薬学】で判定可能。
〇成功⇒これが「高濃度のモルヒネやコカインを混ぜた飲用薬品」であることを知ってい
る。また、「過剰に摂取すれば死に至る薬品」であることも理解できる。
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Bride of Frankenstein
「引き出し」
:【鍵開け】か【機械修理】、【STR×5】で判定可能。
〇成功⇒封筒がひとつ入っている。封筒の中には「手紙」と「指輪」がある。
□ハンドアウト「ヴィクターの遺志」
手紙に書かれている文字はひどく歪み、震えていることが分かる。
内容は以下の通り。
『私の研究は失敗した。あの本に手を出すべきではなかったのだ。
一切の正気を失えば、最早私はどこに向かうかも分からない。
この手紙を誰かが読んでいる頃にはもう、私は命を絶っていることだろう。
彼女のことだけが心残りだ。私は、神の束縛を絶つことができなかった。
もし、この手紙を読んでいる誰かが、彼女の破壊を望むなら。
あるいは、アルマ・フランケンシュタインが自らの消滅を望むなら。
同封してある指輪を使って欲しい。指輪を携え、祈りを込め、そこに刻まれた文字を目の
前で告げれば、その望みは叶えられるはずだ。
これが、生者ヴィクターの最後の言葉になるだろう。
私の愛しいアルマ。
終末の世界で、君と会えることを願っている。
ヴィクター・フランケンシュタイン』
□フランケンシュタインの指輪
装飾のないシンプルな銀色の指輪。女性用なのか、輪の直径は短い。
指輪の内側には「Ia Ia Nyarlathotep. Break up Lilith.」と刻まれている。
正しい呪文の意味と効果:【クトゥルフ神話】で判定。
〇成功⇒1 度だけ<リリスの招来/退散>が使用できる。
指輪には退散の道を開くための MP が 7 点込められている。
また、呪文の発動には 2R の時間を要する。
退散の呪文についてはルールブックの p.263 を参照すること。
10. アルマの部屋
室内に、アルマの姿はない。引き出しの無い机と、椅子と、埃の積もったベッドがある
だけの簡素な部屋だ。しかし、その部屋は実に異様さを醸し出している。壁を埋め尽くす
ほどの、紙片によって。紙片には、タイプライターで打ち込んだような機械的な文字が生
前を並んでいる。この部屋で得られる情報は「アルマの目的」「アザトースの招来/退散の
呪文の内容」
「招来を行う場所」である。
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Bride of Frankenstein
「壁中に貼られた研究書」:【目星】か【オカルト】で判定可能。
〇成功⇒「走り書き」「途切れ途切れの呪文」「ロンドン市内の地図」を発見する。一度の
判定で、これら 3 つすべての情報を取得できる。
□ハンドアウト「アルマの走り書き」
『彼の遺志は、私の意思』
『魂の在処を見つけてみせる』
『彼の心残り、あの日の言葉の続きを』
――――――――――――――――――――――
『彼に会いたいという意思は、どこから――』
『彼の魂は何処にあるの?』
『私に、魂は――』
――――――――――――――――――――――
『今こそ最後の審判を遂げるとき』
『魂は皆、神の御許で永遠に』
『Ia Ia Azathoth』
□ハンドアウト「アザトースの招来/退散」
招来の呪文について、
「道を開くのに 2R、招来の完了までさらに 1R の時間を必要とする」
という情報を得られる。
解読されてはいるものの、膨大な研究書の 1 枚 1 枚に呪文の内容がぽつぽつと書かれて
いるため、この呪文を即座に習得することは不可能である。呪文を唱えるならば、手に研
究書を携えて書かれた呪文を読み上げる必要がある。
また、研究書の 1 枚には「この世界は、アザトースの見る夢である。アザトースを目覚
めさせたならば、この世界は形を留めることができなくなるだろう」というメモが書き加
えられている。
招来/退散の呪文についてはルールブック p.263 を参照すること。
冒涜的な邪神「アザトース」の存在を知った探索者は正気度喪失 0/1D3。
□ハンドアウト「ロンドン市内の地図」
ロンドン市街の地図上で、ロンドン塔に印がつけられている。
地図の横には、今日の日付と「Nightfall(日暮れ)」
「Suppression(制圧)」
「White Tower」
という単語が書き込んである。
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Bride of Frankenstein
11. 探索:神智学教会
シナリオを解決するための手段はフランケンシュタイン邸で得られるため、ゲーム内の
時間や現実のプレイ時間を考慮しつつ、ここを探索するかどうか決めるべきだろう。
神智学教会の本部はリージェント・パークの南西、セント・ジェームズ・ストリートの
裏通りのアパートの 2 階にある。屋外の階段を上ると、神智学教会のマークを刻んだ扉が
一行を出迎える。扉をノックすれば、使用人が出てきて対応する。
怪訝な表情で「本日訪問のお手紙はいただいておりませんが・・・」と言ってくるが、「英
国政府の書状」を見せたり、適当な話を並べてたてたりした上で【交渉技能】に成功すれ
ば、中に通してくれる。
部屋は応接間、寝室、書斎、食堂、調理場と中流階級の下程度の設備。特に情報は無い
ので、さっくり描写する程度で良い。
■ブラヴァッキー夫人
使用人が案内した先の書斎では、妙齢の女性が机に座ってペンを走らせている。ここで
紳士・淑女的な態度を見せれば彼女はこころよく知識を授ける。入手できる情報は「指輪
の効果」「ヴィクターの目的」「金属片の仕掛け」
。
●ブラヴァッキー夫人の会話例
「ミスター・フランケンシュタインはもうお帰りになったわ」
「――ザ・フランケンシュタインと呼ぶべきかしら」
「それとも、私に何か御用?」
「私は多くを知らないけれど、知っていることは真実よ」
「答えを得たいなら、相応の材料を必要とするものよ」
「腹立たしいけれど、私はこの金属片から真理を導くことはできなかったわ」
□ハンドアウト「指輪の効果」
これは、神格を退散させる呪文である。「ニャルラトテップ」に祈り、「リリス」を退散
させるという文言だ。
1 度だけ<リリスの招来/退散>が使用できる。指輪には退散の道を開くため MP が込めら
れている。退散の呪文についてはルールブックの p.263 を参照すること。
□ハンドアウト「ユダの悲哀の詩編」
聖書から失われた多くの本のひとつ。ユダの裏切り、イヴの誘惑、サタンの堕落、ソド
ムとゴモラの物語、地獄の怪物について述べられている。
詩篇にはいくつか「悪魔の力」についても書かれている。アダムの最初の妻リリス、顔
無き者の化身赤の女王、旧き神スムマヌス。
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Bride of Frankenstein
ヴィクターはこれらの「悪魔の力」に強く関心を寄せていた。この「力」によって、人
類はさらなる進化を遂げるのだ、と。
□ハンドアウト「金属片」
ブラヴァッキー夫人は「No.003」の金属片をヴィクターから受け取り、研究していた。
しかし、金属片からは何の成果も得られなかった。
●会話例:金属片について
「原書の言葉が刻まれた、自律する辞書」
「ジャーンの書をここまで圧縮するなんて、天才と呼ぶ他にないわね」
「屍者がそうしているように、脳に埋め込めば何か理解できるかもしれないけれど」
「試しに不躾な人の額を切って金属片を押し当てたら、一瞬で廃人になっちゃったのよ」
金属片を脳に埋め込んだ場合、宇宙の真理、クトゥルフ神話のあらゆる知識が脳へ流れ
込んでくる。正気度喪失 3d11/5d20。
喪失した正気度だけクトゥルフ神話技能を獲得する。また、即座に「アザトースの招来/
退散」「リリスの招来/退散」を習得できる。
■スコットランドヤードの追跡
質問への回答が終了した時点で、夫人の使用人が部屋に入ってくる。
「ヤードの警部がお見えになっています。お客様方に御用があるとか・・・」
ブラヴァッキー夫人は、探索者に背後の窓からの逃走を提案する。
窓から飛び降りた先は、開店前のパブの裏口に続いている。
飛び降りた場合、【跳躍】に失敗すると 1D3 ダメージ。
ヤードを相手取るなら【信用】【法律】、あるいは【変装】で拘束を回避できる。
失敗した場合、1 時間ほど署内で拘束された後、ヘルシング教授が助けに来る。
12. クライマックス:ロンドン塔
ディオゲネス・クラブに立ち寄ってヘルシング教授へ研究内容と自体の全容を報告すれ
ば、彼は共にロンドン塔へ向かい、最後の戦闘に協力する。
※最後に雑魚兵が掃討されている描写の伏線を置いておきたいなら、ヘルシング教授は
入り口の老紳士に「急ぎ部隊を編成してロンドン塔へ向かうこと」などと言伝する。
このタイミングで物資を調達して良い。きちんと装備を調えてもらう。
■警備突破
北門の警備兵は首をへし折られて死亡している。門をくぐった先には、屍者化した衛兵
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Bride of Frankenstein
隊(ヨーマン・ウォーダーズ)がライフルを担いで彷徨いている。【目星】に成功すれば、中
央にあるホワイト・タワーの屋上でちらちらと光が瞬いていることを確認できる。
ここでホワイト・タワーへ辿り着くための方法は主に 2 つある。1 つ目、
【隠れる】
【忍び
歩き】で夜の闇に紛れて入り口へ辿り着く。2 つ目、【運転(馬車)】で強行突破する。
【隠れる】
【忍び歩き】に失敗した場合、侵入に気付いた衛兵のボルトアクション・ライ
フルに狙われる。
【DEX×5】で判定し、成功すればライフルの命中率は 25%。失敗すればラ
イフルの命中率は 50%。銃撃は 1 発で、ダメージは 1D6+2。
【運転(馬車)】に成功で 1 発、失敗で 1d5 発の銃撃を受ける。銃撃の命中率は一律で 25%。
ダメージは 1D6+2。馬車の装甲 6 点を超えるダメージは客車の中の探索者/NPC に届く。
13. クライマックス:屋上の対決
屋上の扉を開けた先で、一斉にワタリガラスが飛び立つ。
屋上の中央には、2 体の衛兵、ヴィクター・フランケンシュタイン、アルマ・フランケン
シュタインが立っている。彼らの足下にはランタンが置いてあり、屍者の冷たい表情を下
から照らし出している。
探索者とアルマに言いたいことを言ってもらったら、戦闘開始。
●会話例:アルマ
「こんばんは、視察団の皆様」
「こんな時間に、なんの御用かしら」
「私は私の願いを、ヴィクターの願いを叶えるだけよ」
「『最後の審判』を見たでしょう?」
「世界の終わりで、私はもう一度彼に出会えるの」
「私のために、誰よりも彼のために・・・少しだけ犠牲が必要なの」
「だって、皆が一緒に幸せになるなんて綺麗事・・・有り得ないでしょう?」
「私は私の正しさと、彼の正しさに従って、永遠を手に入れるわ」
「そう・・・それがあなたの願い、あなたの正しさなのね」
「永遠は要らない、だなんて・・・本当に残念」
「でも、仕方の無いことね」
「私は、私の願いを叶えるだけ」
「私の願いを―――最後の審判を、誰にも止めさせはしない」
[衛兵]ヨーマン・ウォーダーズ
STR:17 DEX:14 INT:20
CON:18 APP:11 POW:1
SIZ:14 SAN:0 EDU:21
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Bride of Frankenstein
耐久:16 MP:1 db:1D4
物理攻撃半減・炎ダメージは通常通り
ボルトアクション・ライフル:60%(1R1 回 1d6+2 ダメージ)
(銃を奪われた場合)噛み付き:30%(1d3+1d4 ダメージ)
■敵の戦闘行動
アルマ:呪文を唱える。2R 目の時点でアザトースへ続く道が開かれる。このタイミングで、
探索者は全員正気度喪失 1/1D6 の判定を行う。3R 目の彼女の手番が、戦闘の締め切りであ
る。回避はしない。
ヴィクター:組み付いてくる。成功すると、次のラウンドで組み付いた相手に注射器の中
身を注入する。中身は「屍者の薬品」で、予備の薬品は無い。注入された人間は 2D6 ダメ
ージ。さらに、体内で屍者の細胞が蠢くのを感じ取り、正気度喪失 1/1D10。回避はしない。
衛兵;ライフルで攻撃する。回避はしない。
◎足下のランタンを破壊する場合、【幸運】で判定。ランタンで直接殴りかかる場合、【こ
ぶし】で判定。成功すれば、燃焼により 1D6 ダメージ。また、各ラウンド終了時に 1D4 の
燃焼ダメージが入る。
●描写例:時は来たれり
彼女の歌うような詠唱と共に空が赤く染まり、神の住処へと続く道が開かれる、
アザトースの目覚めが近づき、世界はゆっくりひび割れていく。
揺らぎ始めたのは風景だけではない。あなたたちの頭に、強烈な痛みが生じ始める。
◎<リリスの退散>に成功するか、アルマを撃破した⇒エンディング:花嫁の願い
◎アルマがアザトースの呪文を唱え終えた⇒エンディング:最後の審判
14. エンディング:花嫁の願い
<リリスの退散>を読み上げ、退散の判定に成功すると、アルマの身体はぼうっと燃え上
がる。彼女の身体は少しずつ朽ちていき、ヴィクターの名を呼んで、息絶える。
●描写・会話例:戦闘終了
「ああ・・・駄目だったのね」
「それでも・・・私の願いは終わらないわ・・・」
「きっと誰かが・・・私と同じ願いを・・・」
「・・・ヴィクター」
最後に彼の名を呼び、アルマの身体は屋上の冷たい床に倒れ伏した。
24
Bride of Frankenstein
ヴィクターはゆっくりと動かないアルマの横へ歩いて行く。
狂気の科学者は、物言わぬ死体の傍で膝をついた。
その背中は震えることなく、微動だにせず、ただじっと視線を落としている。
彼の処分は、宣言だけで済む。後頭部に銃口を押し当てて引き金を引けば、アルマと同
じように動かなくなるだろう。探索者が行動しないなら、ヘルシング教授が代わりに引き
金を引く。アルマの頭からは「No.001」ヴィクターの頭からは「No.002」の金属片が回収
される。敷地内にいた衛兵は後続の部隊が処分し、探索者一行は問題なく帰宅できる。
■報告会
翌日、探索者の職場かディオゲネス・クラブで事後報告と報酬の支払いが済まされる。
報酬は口止め料の意味を持つことをほのめかし、ヘルシングは事後処理のために席を立つ。
叶えられる範疇で、彼は探索者の望みを聞き入れるだろう。
●描写例:エンディング
こうして、英国の存亡をかけた小さな戦いは幕を閉じた。
屍者の技術は封印され、二度と利用されることは無いだろう。
だが、肉体が滅びようとも、死者の言葉は此の世に刻まれ続ける。
彼らが残した記録。狂気の研究。未知と不可知の存在。
ヴィクター・フランケンシュタインが、真に望んだものは何だったのか。
その答えは、遠からずあなたたちの目の前にやってくるだろう―――
15. エンディング:最後の審判
アルマの詠唱が完了した場合、シナリオは急激に最悪の展開へ向かう。
●描写例:エンディング
「Ia Azathoth, ad'neh uulam bl'geth zaa, klthoth ylthnagh g'gyaa, gr'vyelth daug'lth! Ia,
k'zrul Azathoth, z'relg ikdal zaktaldat!」
アルマの声が、真っ赤に染まった空へ響き渡る。
瞬間、空の景色が歪み始める。
空から、かぼそく単調なフルートの音を従えて。
忌まわしき混沌の中心が、目を覚ます。
ああ、フランケンシュタインの花嫁が笑っている。
彼女の願いは、果たされた。
※呪文のそれっぽい読み方は「17,付録」を参照のこと。
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■最後の抗い
1d10/1d100 の正気度喪失を乗り越えた探索者は、アザトースの退散を試みることができ
る。選択肢は、研究書を読み上げるか、金属片を脳に押し当てるかの 2 つ。
退散に失敗した場合、今度こそ探索者の意識は闇に飲まれる。
●描写例:滅亡の先送り
振り絞るような退散の呪文が、世界の崩壊を食い止めた。
フルートの音が少しずつ遠のき、邪神は再び眠りに就く。
ヴィクターと花嫁の姿は目の前から消えていた。
代わりに、潰れた肉塊が 2 つ転がっている。
彼らの願いは、果たされたのだろうか。
まるで嵐と津波が同時に過ぎ去ったかのように、荒れ果てたロンドンの街は静寂に包まれ
ている。
多くを失ったが、あなたたちは世界の滅びを――先送りにすることができた。
16. 報酬
生還:正気度 2D10 点回復
金属片回収:正気度 1D6 点回復
17. 付録
◆本家「フランケンシュタイン」の物語
※メアリー・シェリー著「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」の内容
をざっくりまとめたものである。多少、内容が歪曲されているかもしれない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
スイスで生まれ育ったヴィクター・フランケンシュタインは古き良き自然科学の研究に
傾倒していた。
大学に身を置いたヴィクターは生命の神秘を追い求め、その深淵を覗こうとする。知識
探求の熱で理性を失った彼は墓を暴いて屍肉を集め、継ぎ接ぎの肉体に命を吹き込んだの
である。
しかし、彼は生命体を造り出してから研究の冒涜性を理解する。屍者が動き出した瞬間
に、彼は恐怖し、発狂し、逃げ出したのだ。
被造物は誰からも愛されない悲しみと怒りに飲まれ、彷徨い歩く内にヴィクターの故郷
へ辿り着く。彼はそこで偶然ヴィクターの小さな弟に出会い、幼子を絞め殺した。
怪物は茫然自失の創造主に「己を愛してくれる者を得れば今後一切干渉しない」と告げ、
彼に花嫁の創造を約束させる。しかし、良心と恐怖心の両方に苛まれたヴィクターは途中
でこの約束を破棄した。
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Bride of Frankenstein
怪物はヴィクターの妻を殺して姿を消し、ヴィクターは復讐のために怪物を追いかけ始
める。ヴィクターは執念深く北極まで追跡を続けたが、すでに科学者の身体は限界を迎え
ていた。彼は運良く探検家一団の船に保護されるが、一団が目を離した隙に船内で怪物に
殺されてしまう。
マッドサイエンティストは復讐を果たせぬまま息絶え、怪物はそれきり世界から姿を消
した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◆シナリオのストーリーライン
シナリオの流れと各イベントで獲得できる情報・アイテムについてまとめる。
1, 探索者合流
「奇妙な依頼」「神智学教会の噂」「ジャーンの書」
2, ヘルシング教授の依頼
「ヴィクターの素性・研究内容・住所」「神智学教会の住所」「英国政府の書状」
3, ロンドン市内で情報収集
「神智学教会の長、ブラヴァッキー夫人の情報」「ロンドン塔の封鎖」
4, フランケンシュタイン邸
「最後の審判」「ヴィクターの様子」「屍者創造の技術」「屍者の耐久力」
「ヴィクターの遺志」「フランケンシュタインの指輪」「招来の場所:ロンドン塔」
5. 神智学教会
「指輪の効果」「ヴィクターの目的」「金属片の内容と効果」
6. 最終決戦
◆シナリオを進行する上で注意すべきこと
まず、情報は進んで開示すること。判定は探索者の発想次第で別の技能に代用してもら
っても良いだろうし、目星や図書館に失敗したなら時間経過のペナルティを添えた上で情
報を渡して良い。プレイヤーがもやもやしたまま最終決戦に向かうと、多くの場合盛り上
がりに欠けてしまう。本シナリオの難易度を調整したい場合は、情報の取得の難しさでは
なく、正気度喪失の減少値や呪文にかかる時間を変更すると良いだろう。
次に、ヴィクターとアルマは遭遇後早めに離脱させること。アルマに関しては探索者と
会話させても問題ないが、最終決戦の相手をのんびり目の前に置いていた結果、勘の良い
探索者にあっさり始末されるエンディングはちょっと悲しい。
このシナリオはキーパーの柔軟性を損なわないよう、あえてアバウトな書き方をしてい
る。上の 2 点だけ気をつけていただければ、ヘルシング教授を探索者と共に行動させたり、
探索可能な場所を増やしたり、ヴィクターに会話をさせたり、屍者のダメージ耐性を「貫
通する武器のダメージは最低値」に変更したりと、自由に改変していただいて構わない。
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Bride of Frankenstein
なお、本シナリオにおいて「英国政府の権限ってそんなに強いの?」
「ロンドン塔に屋上っ
てあるの?」
「衛兵の装備ってボルトアクション・ライフルなの?」等の疑問は全て無視さ
れている。「わからないけど実際あっておかしくはないし、セッションの進行に差し障りも
無い」なら、多少の時代改変は問題ないだろう。
◆後日談の描写「女王の戯れ」
神智学教会に足を運びブラヴァッキー夫人と会話したなら、以下の後日談を公開できる。
勿論、セッション終了後の雰囲気を損ねると判断したなら公開する必要は無い。
―――――――――――――――――――――――――――――――
ガスライトの光が届かない、裏通りのアパート。
その一室で、女性が本のページを捲っている。
「あと一歩、届かなかったのね」
女性は消えかけの暖炉に歩み寄り、閉じた本をそっと放った。
表紙に記された『ARMA』の文字が小さな炎に飲まれていく。
「次は、誰が彼女を呼んでくれるのかしら」
真っ赤なドレスを纏った女性はくつくつと笑いながら、部屋を去る。
跡には、ひとつだけ―――
頭部の無い、女性の死体が残されていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――
本シナリオで明かされない「金属片の製造方法」「金属片によって人間の死体へ神格を招
来する方法」はこの『ARMA』に記されている。
◆呪文「アザトースの招来」のそれっぽい読み方
Ia Azathoth, ad'neh uulam bl'geth zaa,
いあ
あざとーす
あどにゅー
ううらむ
ぶるじす
ざあ
klthoth ylthnagh g'gyaa,
かるとぅす
いるすなふ
じあ
gr'vyelth daug'lth!
ぐるふぃーす
だう!
Ia, k'zrul Azathoth,
いあ
くずるる
あざとーす
z'relg ikdal zaktaldat!
ずるう
いくだる
ざくたるだっと!
※注意:制作者が英和翻訳サイトを頼りに書き出したもの。公式ではない。
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◆参考文献
伊藤計劃,円城塔[2014]「屍者の帝国」河出文庫。
谷田博幸[2001] 「ヴィクトリア朝百貨事典」河出書房新社。
メアリー・シェリー著,森下弓子訳 [1984]「フランケンシュタイン」創元推理文庫。
◆個人的にセッションで使うと雰囲気が出る・演出が楽になる画像素材の検索ワード
「ヴィクトリア朝_ロンドン市街」「ヴィクトリア朝_部屋」「1890s_room」「1890s_london」
「ディオゲネス・クラブ」
「最後の審判」
「19 世紀_注射器」
「アヘンチンキ」
「ブラヴァッキ
ー夫人」「神智学教会_ロゴ」「ロンドン塔」「ヨーマン・ウォーダーズ」など。
◆個人的にセッションで使うと雰囲気が出る・演出が楽しくなる BGM 情報
〇音楽サイト
「DOVA-SYNDROME」「H/MIX GALLERY」「MusMus」「魔王魂」など。
〇CD
「Sherlock Holmes (Granada Television Production Soundtrack)」
「屍者の帝国 Blu-ray(完
全生産限定版)特典 CD」「ジョジョの奇妙な冒険 O.S.T Phantom Blood」「魔法少女まどか☆
マギカ Music Collection」など。
このシナリオはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
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