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報 告
第8回河川・沿岸・河口域の地形物理学に関するシンポジウム(The 8th
Symposium on River, Coastal and Estuarine Morphodynamics)に参加しました
柿沼 孝治* 永多 朋紀** 阿部 孝章***
飛田 大輔**** 井上 卓也***** 川村 里実*****
1.はじめに
また、今回の RCEM においてはポスター発表者に
ついても、メイン講堂においてショートプレゼンテー
スペインサンタンデール市において、2013年6月9
ションの機会が与えられました。この時間を利用して、
日から13日の日程で、第8回河川・沿岸・河口域の地
ポスターセッションの発表者も広く参加者に興味を持
形物理学に関するシンポジウム(The 8th Symposium
っていただけるよう、主要な成果・結論をアピールす
on River, Coastal and Estuarine Morphodynamics、
ることができました(写真-2)。
以下 RCEM と表記)が開催されました
(写真-1は会
場のカンタブリア大学)
。寒地水圏研究グループ寒地
3.寒地土木研究所からの発表
河川チームから柿沼総括主任研究員、永多研究員、阿
部研究員、飛田研究員、井上研究員、川村研究員の6
10日、永多研究員からは Meandering(蛇行)セッ
名が参加しましたので報告します。
ションにおいて「Development of a meandering
channel caused by the plane shape of the river bank
2.RCEM2013の全体概要
(河岸の平面形状に誘発された蛇行発達)」と題して発
表を行いました(写真-3)。本研究は、平成23年9月
RCEM は1999年から隔年で開催され、これまで開
音更川で発生した堤防被災に関して、原因となった蛇
催されてきた RCEM は河川や河口域における諸問題
行流路の発達メカニズムとその支配的要因を数値解析
に対する学際的なアプローチを促進していく重要な学
的に分析したものです。発表では、低水路河岸の湾曲
会となってきました。このシンポジウムは基礎研究と
形状が固定砂州の形成を誘発し、洪水時その固定砂州
工学的な応用を相互に促進することを大きな目的とし
をトリガーとした蛇行流が下流側へと伝播すること
ています。流体力学から室内実験、現地観測的研究ま
で、蛇行振幅が堤防に達する規模にまで発達していく
で幅広く研究の進歩を融合させているという点で独特
過程を報告しました。質疑応答においては、土砂水理
となっています。参加者は、応用数学、工学、地理学、
学の世界的権威である米国イリノイ大学 G. Parker 教
環境学、地球物理学、生物学、計算機科学、水管理者
授から、解析結果には Scroll bar(蛇行州)の発端の
まで幅広くおり、様々な観点から地表面の水・土砂動
態について議論できるという特色があります。
写真-1 カンタブリア大学正門
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写真-2 講堂におけるショートプレゼンテーション
の様子(柿沼総括主任研究員)
寒地土木研究所月報 №724 2013年9月
写真-3 永多研究員による口頭発表の様子
写真-5 聴講者とのディスカッション中の井上研究員
く、河川への津波遡上と河床材料土砂の攪乱、氷のモ
デリングが重要であるという意見をいただき、これに
ついてより的確な津波影響評価手法の構築を現在も続
けており、今後学会やシンポジウム等を通じて発表し
ていくと説明しました。
13日、Fluvial Morphodynamics(河道の地形物理学)
セッションにおいて、井上研究員からは「Effects of
sediment supply on bedrock channel morphology(岩
写真-4 阿部研究員による発表の様子
床河川の地形に対する土砂供給の影響)」と題して口
頭発表を行いました(写真-5)。この研究は、土砂供
給の増減が侵食地形に与える影響について、数値実験
ようなものが得られており、地形学的にも興味深い現
を行い、その解析結果と現地河川の地形を比較するこ
象が見られているという指摘をいただきました。私た
とで、様々な岩床地形の形成プロセスについて考察を
ちは普段から河川工学的なアプローチに基づき分析を
行ったものです。会場からは、本研究モデルにおいて
行っていますが、地形学の観点に立脚した考察を行う
岩床上に砂礫堆積層と砂礫移動層(掃流層)の二層を導
研究者から今回指摘を頂き、新たな視点に基づく現象
入した理由と、今回の数値実験と異なる初期の砂礫被
解明へのアプローチを見いだせたことは大きな収穫で
覆条件を与えた場合の最終的な地形について質問が寄
あったといえます。また、音更川のケーススタディか
せられました。1つ目の質問に対しては「給砂量が小
ら蛇行発達要因の一般化に対する期待が寄せられたた
さい場合や岩床表面が滑らかな場合、岩床上に砂礫の
め、
今後も継続して研究を進めることを説明しました。
堆積層がほとんど形成されない。このような場合の河
11日、阿部研究員(写真-4)からは Rivers and Ice
床変動を正確に予測するために二層を定義した。」と
(河川及び氷)
のセッションにおいて、
「Characteristics
説明しました。2つ目の質問に対しては「初期の砂礫
of water-level oscillation and ice breakup in the Lake
被覆条件を変えた数値実験は行っていないが、最終的
Akkeshi caused by a series of long waves(長波侵入
な地形は概ね同じになると予想される。」と説明しま
により生じた厚岸湖における水位振動と結氷破壊特
した。
性)
」と題してポスター発表を行いました。本研究は、
同日、Sediment Transport, Riverine and Coastal
厚岸湖へ遡上した津波により水産業に甚大な被害が生
Processes(土砂輸送、河川・沿岸域の変遷)のポスタ
じたことを受け、厚岸湖において生じた津波遡上を数
ーセッションにおいて、柿沼総括主任研究員からは「A
値解析的に分析したことを報告したものです。当時の
study on bedform observation and the law of
厚岸湖は結氷を生じており、氷と津波外力によりアサ
resistance in the Chiyoda experimental flume(千代
リ礁・カキ礁の受けた大規模攪乱に対する氷の影響を
田実験水路における河床地形観測と抵抗則に関する研
解明することが重要という意見をいただくことができ
究)」と題して発表を行いました(写真-6)。これは
ました。また、厚岸湖のような半閉鎖性の湖だけでな
平成24年度の千代田実験水路における河床波の測定実
寒地土木研究所月報 №724 2013年9月 59
写真-6 柿沼総括主任研究員による発表の様子
写真-8 飛田研究員による発表の様子
更に同セッションにおいて、飛田研究員からは「A
research on levee breach process(破堤プロセスに
関する研究)」と題してポスター発表を行いました(写
真-8)。これは前中期計画における千代田実験水路
の実験結果について、破堤拡幅プロセスを詳細に分析
し拡幅速度を破堤部での剪断力の指標を用いて整理可
能であることを報告したものです。多くの研究者から
実験水路や実験規模について驚きの声や非常に素晴ら
写真-7 川村研究員による発表の様子
しい実験であるとの声が多くありました。また、実ス
ケール実験に基づき得られたデータが非常に貴重であ
るとの意見をいただいたため、アメリカやイタリア、
験を取りまとめ報告したものです。この中では、千代
ニュージーランドの研究者と連絡先を交換し、今後の
田実験水路という実スケールの実験水路の利点を活か
千代田実験水路の成果についても、情報交換を行うこ
し、出水時の河床形状や表面流速、鉛直流速分布など、
とを約束しました。
寒地土木研究所が開発した各種観測技術についても
PR を行いました。
4.おわりに
聴講者からは「世界的にも前例のない実験であり、
貴重な実験データだ」
、
「信じられない
(incredible)実
寒地河川チームにおいては、普段より河川工学分野
験だ」という驚きの声が多くあり、
「今後も様々な分
の学会で成果を発表し、国内の他機関の諸研究者と意
析を行い水理学の発展に貢献したい」と応えました。
見交換を行いつつ、寒地土木研究所の開発技術の普及
同セッションにおいて、
川村研究員からは
「Validation
につとめているところです。今回、河川地形学の国際
of non-equiriblium bed-load model for numerical
学会である RCEM において発表を行い、河川・河口
simulation of sand dunes(砂堆の数値シミュレーシ
域の地形学を初めとした研究者から意見をいただき、
ョンのための非平衡掃流砂モデルの検証)
」と題して
またチームの成果を通じてディスカッションを行いま
発表を行いました
(写真-7)。この研究は上記の千代
した。これにより地形学や河川工学分野における寒地
田実験水路における河床波実験に関して、寒地土木研
土木研究所の国際的なプレゼンスを高めるとともに、
究所と北海道大学が共同研究で開発したモデルを適用
海外の最先端の分析手法、観測技術や理論解析モデル
し、モデルの精度を実スケール実験データに基づき検
に関する情報収集を行うことができました。
証を行ったことを報告したものです。聴講者からは、
また、海外の諸研究者の知り合いを増やし、気軽に
自由水面形等の詳細な計算手法について質問の他、河
情報交換を行える関係・体制作りに成功したことも大
床形態や水位上昇量の再現だけでなく河床波上の流砂
きな成果であったと考えます。その意味で今回の参加
量をも定量的に予測できることは興味深いという意見
は非常に有意義であったといえます。最後に、本シン
をいただきました。
ポジウムへの参加に際してお世話になりました方々に
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寒地土木研究所月報 №724 2013年9月
感謝の意を表して、本報告を締めくくります。
bedrock channel morphology, Proceedings of the
RCEM2013, p.157.
4) Kakinuma et al., A study on bedform
参考文献
observation and the law of resistance in the
1)Nagata et al., Development of a meandering
channel caused by the plane shape of the river
bank, Proceedings of the RCEM2013, p.22.
2) Abe et al., Characteristics of water-level
Chiyoda experimental flume, Proceedings of the
RCEM2013, p.172.
5)Yamaguchi et al., Validation of non-equiriblium
bed-load model for numerical simulation of sand
oscillation and ice breakup in the Lake Akkeshi
dunes, Proceedings of the RCEM2013, p.177.
caused by a series of long waves, Proceedings of
6) Tobita et al., A research on levee breach
the RCEM2013, p.108.
process, Proceedings of the RCEM2013, p.189.
3) Inoue et al., Effects of sediment supply on
柿沼 孝治*
永多 朋紀**
阿部 孝章***
ABE Takaaki
TOBITA Daisuke
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寒地水圏研究グループ
寒地河川チーム
総括主任研究員
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寒地水圏研究グループ
寒地河川チーム
研究員
寒地土木研究所
寒地水圏研究グループ
寒地河川チーム
研究員
寒地土木研究所
寒地水圏研究グループ
寒地河川チーム
研究員
井上 卓也*****
川村 里実******
KAKINUMA Takaharu
NAGATA Tomonori
INOUE Takuya
KAWAMURA Satomi
寒地土木研究所
寒地水圏研究グループ
寒地河川チーム
研究員
博士(工学)
寒地土木研究所
寒地水圏研究グループ
寒地河川チーム
研究員
博士(工学)
寒地土木研究所月報 №724 2013年9月 飛田 大輔****
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