STeLA

STeLA
Leadership Forum 2007 in Tokyo
報告書概要日本語訳
2007 年 8 月 18 日-26 日
国立オリンピック
国立オリンピック記念青少年総合
オリンピック記念青少年総合センター
記念青少年総合センター
主催:Science and Technology and Leadership Association, MIT-Japan Program
http://web.mit.edu/stela07
STeLA および STeLA Leadership Forum 2007 の概要
Science and Technology Leadership Association(STeLA)は、MIT、Harvard、Boston University の
科学技術系の学生によって設立された組織です。昨年の設立以来、STeLA のメンバーは、様々
な専門や国籍の学生たちと意欲的にディスカッションを重ねてきました。その結果我々は、次世代
を担う若い科学者やエンジニアたちが、科学技術が世界に対して果たす役割について、真剣に
議論を交わすことができる場が必要である、と思うに至りました。この理念を実現すべく企画された
のが、STeLA リーダーシップ・フォーラムです。
その後、アメリカの大学を卒業して日本へ戻ったメンバーが、東大、慶応、東工大から新たなメン
バーを募り、STeLA の日本支部を設立しました。MIT-Japan Program の正式な後援を得て、日米
双方の STeLA のメンバーが計画の実現へ向けて惜しみない努力をした結果、2007 年夏に、第
一回 STeLA リーダーシップ・フォーラムを開催するに至りました。フォーラムの使命は、科学技術
が関係するグローバルな問題に立ち向かうためのリーダーシップの育成と、世界のリーダーシップ
を繋ぐネットワークの形成です。
2007 年度のフォーラムは、東京の国立オリンピック記念青少年総合センターに於いて、8 月 18 日
から 26 日までの期間で開催されました。フォーラムには、Harvard、MIT、Boston University、東大、
東工大、慶應など、日米のトップの大学の学生から多くの参加希望があり、その中から選考された、
日本側 20 人、アメリカ側 15 人がフォーラムに参加しました。参加者たちは約 10 日間寝食を共に
し、様々なアクティビティーを通して、密な交流を図りました。フォーラムは、(1)MIT Leadership
Center の教材を利用したリーダーシップ教育セッション、(2)「エネルギーと気候変動」、「グローバ
ル化とものづくり」をテーマとした二つの分科会、(3)ルーブ・ゴールドバーグ・マシーン制作のグル
ープ・プロジェクト、以上の三つの要素により構成されます。グループ・プロジェクトで製作された装
置は、完成後、日本科学技術未来館において発表・展示されました。フォーラムの基調講演は、
尾身幸次財務大臣(当時)と、イー・アクセス株式会社・代表取締役社長である安井敏雄博士に務
めていただきました。
1
日ごとの活動
ごとの活動
8 月 18 日
歓迎レセプション (Welcome reception)
代々木オリンピックセンターに日米の参加者が集まりました。レセプションでは、土谷大(STeLAUS 代表/Harvard)、崔智英(STeLA-JP 代表/東大)による挨拶に続き、齋藤滋規教授(東工大)、
パトリシア・ガーシック様(MIT)より歓迎の言葉をいただきました。レセプション後、参加者は6つの
チームに分かれ、10日間のプログラムが始まりました。
8 月 19 日
リーダーシップ教育
教育セッション
リーダーシップ
教育
セッション (Leadership education session)
土谷大によるプログラムの概要説明が行われ、フォーラムが始まりました。金平直人
(STeLA/Harvard/MIT)による、MIT スローンスクールで用いられるリーダーシップモデルについて
の講義があり、その後カーソン・レーシングと呼ばれる緊急時の意思決定を題材にしたロールプレ
ーを行いました。午後には、ジョー・シェー(MIT)のファシリテーションにより、ビールゲームが行わ
れました。ビールゲームは 1960 年代に MIT で開発されたゲームで、参加者は複雑な状況にお
いて結果を理解するためには、システム思考が必要であることを学びました。その後、杉山昌広
(STeLA/MIT)が、システム思考が求められる、現実世界の問題についての講義を行いました。夕
食後には、参加者は再び各グループに分かれ、個々の過去のリーダーシップ体験を共有しました。
8 月 20 日
分科会::気候変動
気候変動と
とエネルギー
エネルギー((Climate change and energy technology
分科会
午前中は、松橋隆治教授(東大)に地球温暖化についての講義を、鈴木達治郎教授(東大)にエ
ネルギーの先端技術におけるイノベーションとその複雑性についての講義をしていただきました。
午後には井上智弘様(AGS/東大)と村山麻衣様(AGS/東大)により、「Another COP(もう一つの地
球温暖化国際会議)」と呼ばれる交渉ゲームを行いました。参加者は、科学技術とその技術の不
確定性が問題になる際に、国家間の合意にいたる交渉の難しさを体験しました。その後、自動車
の個人所有と気候変動についての議論を行いました。
分科会::グローバル
グローバル化
化と製造業
製造業((Globalization and manufacturing)
分科会
初日の午前中は、橋本久義教授(政策研究大学院大学)に、グローバル化が日本の中小企業に
与える影響についての講義をしていただきました。講義のあと、参加者は3つのグループに分か
れ、東京都大田区の中小企業群にある会社を訪問しました。それぞれのグループは、電気製品
や複写機などの金属プレス加工部品を製造する守野工業、超音波モーターほか数多くの製品を
作るセントラル技研、ゲージなどの超精密加工を得意とするダイヤ精機を訪問しました。午後には
オリンピックセンターに戻り、訪問先の企業がどのようにグローバル化に対処しているかについて、
それぞれのグループがプレゼンテーションを行い、全体で議論を行いました。
2
基調講演::尾身幸次財務大臣
尾身幸次財務大臣((Keynote speech: Mr. Koji Omi, Minister of Finance, Japan)
基調講演
夕方には、尾身幸次財務大臣(当時)より「日本と人類の未来のための、科学技術の発展におけ
るリーダーシップ」と題された基調講演をいただきました。尾身大臣の科学技術政策立案における
経験に基づき、これからの将来を担う世代に対するメッセージをいただきました。講演後は、30分
以上の質疑応答を通じて、参加者の質問に丁寧にお答えいただきました。
8 月 21 日
分科会::気候変動
気候変動と
とエネルギー
エネルギー((Climate change and energy technology)
分科会
本日は新日鐵の君津製鐵所を訪れました。茨城哲治様(新日鐵)より、日本の製鉄業界による二
酸化炭素排出量の削減への取り組みについてのご説明をいただきました。また、日本の製鉄業界
のエネルギー効率の改善についての説明や、新日鐵が取り組んでいるプラスチックとゴミのリサイ
クルプログラムの説明を受けました。新日鐵の水素プラント、プラスチックとゴミのリサイクル施設を
見学しました。
分科会:
分科会:グローバル化
グローバル化と製造業(
製造業(Globalization and manufacturing)
午前中には「貿易ゲーム」と呼ばれるゲームを通し、市場の価値、労働内容の分業、環境問題な
ど、グローバル化が様々な国に与える影響について学びました。午後には、佐久間智子様(「環
境・持続社会」研究センター)に、グローバル化がもたらす問題点に関する講演をしていただきま
した。
リーダーシップ教育
教育セッション
リーダーシップ
教育
セッション (Leadership education session)
夕方には、ジョー・シェー(MIT)が、”Ladder of Inference” と呼ばれる思考モデルについての講義
を行い、人は事実ではなく推測や思い込みに基づいて意思決定をしがちである、ということを参加
者は学びました。
また、このセッションの後に、あるアメリカ人参加者から、英語でのコミュニケーションの難しさにつ
いて、問題提起がなされ、日米の学生でお互いの問題を共有しました。
8 月 22 日
4日目には、参加者全員が日産自動車の追浜工場に行きました。阿部浩様(日産自動車)による
当日の概要説明を受けた後、両分科会に分かれて見学を行いました。
分科会::気候変動
気候変動と
とエネルギー
エネルギー((Climate change and energy technology
分科会
本分科会参加者は、午前中に、朝日弘美様(日産自動車)より、日産グリーンプログラム2010の概
要説明を受けました。このプログラムは、二酸化炭素削減、排気ガスの削減、また資源のリサイク
ルを3つの目標としています。日産の技術開発チームは、特に二酸化炭素削減を第一目標として、
代替エネルギーの開発に取り組んでいるとの説明を受けました。また、飯山明裕様(日産自動車)
に、燃料電池自動車の開発についての説明をしていただきました。午後には、1台1億円以上も
する燃料電池自動車に乗せていただきました。また、燃料電池の研究開発施設を訪れ、日産のエ
3
ンジニアの方々と、技術の変化に伴いエンジニアが取るべきリーダーシップについての議論をしま
した。
分科会::グローバル
グローバル化
化と製造業
製造業((Globalization and manufacturing)
分科会
本分科会参加者は、午前中に高橋啓作様(日産自動車)より、日産生産方式(NPW)についての
説明を受けました。参加者は、日産がグローバル競争にどのように立ち向かっているか、グローバ
ル化した労働環境においてどのような問題が生じるのか、について考えました。午後には、日産の
自動車組み立て工場を訪れました。参加者は、午前中の説明にあった、日産生産方式の強みで
ある、「同期生産」の現場を見学しました。また、追浜湾では、組み立てられた自動車を国内外に
輸送する施設を見学しました。その後、日産のエンジニアの方々と、技術の変化やグローバル化
に伴い、エンジニアが取るべきリーダーシップについての議論をしました。
ダニエル・・ヘラー
ヘラー教授
教授との
との昼食
ダニエル
教授
との昼食 (Lunch session by Prof. Heller)
昼食時には、ダニエル・ヘラー准教授(横浜国立大学)と、日産とルノーの提携についての議論を
行いました。ヘラー准教授は、「Task Conflict」と「Emotional Conflict 」と呼ばれる2つの概念の説
明を行い、提携による成功を評価するさいには、これらの対立を分けて考えなければならない、と
いう視点を紹介されました。
8 月 23 日
リーダーシップ教育
教育セッション
リーダーシップ
教育
セッション (Leadership education session)
ジョー・シェー(MIT)が、「four-player model」と呼ばれる、チーム活動におけるメンバーの役割に
ついてのモデルの説明を行いました。イニシアチブを取るメンバーだけでなく、同意したり、対立
意見を投げかける役割をとるメンバーがいることが、チーム活動で成果を上げることに必要である
という概念を紹介しました。
分科会の
のプレゼンテーション(Presentation on the thematic session)
分科会
分科会セッションの最後にプレゼンテーションを行いました。各グループは、プレゼンテーションを
通じて以下の2つの質問に答えました。
1)分科会を通じては多くの学びがありましたが、どのようなリーダーシップが、気候変動あるいはグ
ローバル化がもたらす問題に取り組むために必要となるでしょうか。
2)各チームには、様々な専門性や文化的背景を持つメンバーがいますが、このような多様性のあ
るチームを通して、気候変動あるいはグローバル化がもたらす問題に取り組むために何ができる
でしょうか。
各グループは、短い準備期間にも関わらず、興味深いプレゼンテーションを作り上げました。また、
英語が得意なメンバーが苦手なメンバーをサポートし、グループ全体でアウトプットを出しました。
リーダーシップ教育
教育セッション
リーダーシップ
教育
セッション (Leadership education session)
小野雅裕(STeLA/MIT)が「visioning」のセッションを行いました。将来のビジョンを思い浮かべ、
それを伝えるためには、「どのように達成したいのか」ではなく「何を達成したいのか」を明確にする
4
必要があると伝えました。参加者は、各自の将来のビジョンを伝えるためのポスターを作り、他の参
加者に対してプレゼンテーションを行いました。
ルーブ ・ ゴールドバーグ ・ マシーン 制作 プロジェクト (The Group project on Rube Goldberg
machines)
遠藤謙(STeLA/MIT)が、8月23日より3日間かけて行われる、ルーブ・ゴールドバーグ・マシーンと
呼ばれる装置制作のプロジェクトの概要を説明しました。ルーブ・ゴールドバーグ・マシーンでは、
単純なからくりや動作を行うパーツを繋げ、連続した動作を行うことで、最終的に制作者の持つメ
ッセージを、見る人に伝えることを目的としています。参加者は、分科会で学んだメッセージを、各
グループの装置を通じて具現化することが求められます。
また、午後より、各グループに、装置制作の技術指導のために、ティーチングアシスタント(TA)
(東工大 21世紀COEプログラム 「先端ロボット開発を核とした創造技術の革新」のご協力によりま
す)が参加しました。初日には、各グループが装置のデザインとテーマを決定し、2日間という短時
間で装置を完成させるためのタイムラインを話し合いました。
プロジェクトの準備に際しては、現場に参加できなかったものの、佐藤雅彦教授(慶應大)より、ど
のようにアイデアを具現化するかについてのアドバイスをいただきました。また、同様の装置制作
の経験を持つ、長田玲様(多摩大)と吉田英裕様(多摩大)の2人より、参加者は技術的なアドバイ
スをいただきました。
8 月 24 日
装置制作(Fabrication of the machine)
次の2日間では、東京工業大学の施設を用い、東工大のTAの指導のもとで、装置の制作を行い
ました。TAリーダーの山口龍介様(東工大)より、機械を使った加工の際の諸注意を受けました。
また、同大作業室の、神保勝久様、加藤幸一様から、技術的な指導をいただきました。
各グループは20,000円という限られた費用で材料を購入し、装置を制作しました。1日の終わりに
は、多くのチームで装置の50%の制作が完了しました。また、時間制限のあるプロジェクトの中で、
参加者はグループ内の対立に直面し、それを乗り越える経験をしました。
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8 月 25 日
装置制作(Fabrication of the machine)
前日同様、朝に参加者はオリンピックセンターから東工大に移動し、装置の制作を続けました。各
グループは時間管理と進捗の共有のためにミーティングを行い、25日中に装置を完成させるため
に尽力しました。
午後9時に、各グループは翌日の発表のために、装置を実際に動かし、ビデオ撮影を行いました。
撮影後、チームはオリンピックセンターに戻り、翌日の準備を始めました。ほとんどのグループが、
遅くまでプレゼンテーションの制作を行いました。
8 月 26 日
最終発表会(Final competition)
全てのチームの装置は、当日の朝にTAとスタッフによって、東工大から日本科学未来館に運ば
れ、参加者は装置の最終調整をおこないました。発表会では、桐山孝司教授(東京藝術大)、齋
藤滋規教授(東工大)、齋藤裕美教授(多摩大)、森田菜絵様(日本科学技術未来館)に審査をし
ていただきました。各装置は、芸術性、ストーリーの明確さ、魅力、プレゼンテーション、再現性の
各項目によって評価されました。各チームのプレゼンテーションの後、観客の皆さまにも装置の周
りにお越しいただき、実際に装置を動かし投票をしていただきました。投票の結果、チーム2の
「CO2 u later」と呼ばれる装置が、最も多い点数を集めました。チーム2は環境破壊と地球温暖化
を、装置を通し表現しました。
最終振り
り返りセッション(Final reflection and participant-led discussion)
最終振
発表会と表彰式の後、橋本道尚(STeLA/Harvard)が最後の振り返りセッションを行いました。参加
者は、本フォーラムで達成したことを振り返り、学びを促進するためにプログラムをどのようにすれ
ば良いかについて議論しました。2時間のセッションのうち、40分が経った頃、残りの時間の使い
方を自由にして、オーガナイザー全員が部屋を立ち去りました。参加者主導の議論では、オーガ
ナイザーのための歓迎会を企画がなされ、また来年度のオーガナイザーに立候補する参加者も
現れました。
基 調 講 演 : 安 井 敏 雄 博 士 ( eAccess 代 表 取締 役 社 長 ) (Keynote speech: Dr. Toshio Yasui,
President of eAccess, Ltd)
その後参加者はオリンピックセンターに戻りました。ました。レセプションに先立ち、安井敏雄博士
(eAccess代表取締役社長)による基調講演が行われ、ご自身のエンジニアとビジネスパーソンとし
ての経験に基づいた、リーダーシップに関するお考えをお話いただきました。講演後の質疑応答
では、携帯電話の技術と日本の市場についての活発な議論がなされました。
クロージングレセプション(Closing reception)
基調講演をもって、フォーラムの全てのプログラムが終了しました。その後のクロージングレセプシ
ョンには、スポンサーと協力者の皆さまにもご参加いただきました。また、参加者全員が、フォーラ
ム中での最大の発見についてのスピーチを行いました。
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