ブラックアフリカに合気道普及の時は来るのか: ウガンダ国合気道普及奮戦記 練武館カンパラ道場(道場長) 要田正治 2011 年 6 月中旬、ウガンダに赴任しました。年のはじめには、そんなことは全く想像も せず、本部道場で越年稽古したり、出張ついでにバンコク練武館の稽古初めにでたり、本 部道場寒稽古に皆勤したりと、気合が入ったスタートを切りました。本務の性格上、アフ リカ勤務があっても不思議はありません。今までなかった方が不思議かもしれません。 首都カンパラはほぼ赤道直下。意外にも冷涼な気候でしばらくの間は水泳プールに入る のも意を決してのことでした。開始後 1 年たっても問題のあるプロジェクトの運営を任さ れたわけで、本務はかなり悩ましいことばかりです。しばらくは、合気道は傍らに置き、 毎朝、鳥の声を聴きながらの呼吸法と棒振りだけにしました。部屋の壁には赴任直前の全 日本演武会のポスターと、松戸青雲塾道友から頂いた、歓送会での寄せ書きを飾りました。 とはいうものの、どこかに稽古できるような場所はないのかとも目星をつけようとして いました。ネットの情報にはどこかに柔道クラブがあるとのこと。それも昔のことのよう です。街のショッピングモールにあるフィトネスクラブで極真空手を教えている日本人が いると聞きました。概して、屋内での競技の施設は非常に少ないようです。公共のスポー ツ施設も皆無に等しい。こんなところに畳を期待するほうが無理というものでしょう。 8 月に入り、 東京から大学教員が短期専門家として 3 週間の応援に来てくれることになり、 その方の住居を探しました。それで、私の住居近く、生活の便がよさそうな「アカシアア パート」を見つけ出しました。これも縁でしょうね。なんと、その庭にヨガ、テラピス、 テコンドーなどの教室を開いている施設が併設されています。寒冷紗の蒲鉾屋根、壁はな し、床はコンクリートの土台にテコンドーマットを敷いただけ。合気道ができなくもあり ません。8月末、その教員も帰国し、少し気分に余裕が生まれました。そろそろ合気道を 始める時期かと。インド人マネージャに相談すると、無料で貸してくれることになりまし た。アパート入居者を紹介する代わりの見返りと取れなくもありません。施設の空いてい るのは土曜日の夕方。一人稽古とはいえ、袴に着替えて稽古するのは 4 か月ぶりです。 実は、私がウガンダに来た初めての「合気道家」ではありません。私の赴任した当時、 JICA カンパラ事務所に勤めるボランティア調整員に古川順さんという、もとキルギスの合 気道隊員 OB がいました。古川さんはウガンダに赴任する前に何度か JICA 合気道部(幡ヶ 谷)の稽古に来たことがありました。その古川さんも 8 月末で任期満了して帰国されまし た。古川さんが合気道隊員だったことを知る人も少なく、ご本人も当地の任期中に 1 合気道を広めようとはされなかったようです。調整員業務も多忙を極め、お子さんも小さ いのでそれどころではなかったでしょう。その気持ちは十分察せられます。 そうそう、ひとつ思い出しました。7 月も末のころ、当地にあるドイツの JICA ともいう べき援助期間 GIZ のスタッフが JICA 事務所に、合気道に通じた日本人がいるかと照会を してきたことがあります。なんでも、合気道を紛争地域の平和構築に利用したいとのこと。 たとえばパレスチナではイスラエルとの平和構築に合気道を利用しているそうで、そのサ イトも知らせてきました。私でお役にたてるなら何でもいたしましょう、と返信したので すが、この話はその後立ち消えになっています。当方も時期尚早と思い、気にかけていま せん。 さて、前置きが長くなりました。そんなわけで 9 月初めから、合気道クラスを始めまし た。正真正銘、ウガンダ初かもしれません。www.aikiweb にも登録しましたのでこのサイ トの道場サーチからウガンダを検索すれば私のクラスが出てきます。この登録の際に、道 場の名称を考えねばならなくなりました。JICA 合気道部支部道場、松戸青雲塾支部道場、 ベトナム修道館支部、など。結局、 「練武館カンパラ道場」としたのは、もし何事かあれば 真っ先に駆け付けていただけるのは物理的にも一番近いバンコク練武館の深草師範であろ うと。クラスといっても生徒がいるわけではありません。毎回毎回、ひとり稽古です。 9 月の終わり、当地に派遣されている同業の者たちの懇親会があり、自己紹介の中で私の 近況として上記のことを披露しました。驚いたことにその中の一人が冒頭に記した極真空 手の生徒でした。アルコールも手伝って、40 歳も過ぎて殴る蹴るはおやめなさい、などと 調子に乗ってしまいました。その翌週、その彼から連絡があり、合気道稽古に出たいが、 というのです。Aikiweb で検索すれば場所、時間、連絡先がありますのでどうぞと。する とすぐに、見知らぬ日本人から入門希望のメイルが来ました。なんと極真空手の先生です。 小心者の私は内心、道場破りかと思い、酒席での言葉は慎まねばと後悔しました。 早速、次のクラスに黒塗りのバンで極真空手一門の師弟が 6 名来ました。断る理由はあ りませんので、稽古してもらうことにしました。彼らは、その日カンパラ市郊外で空手演 武をしてきたとかで、多くは空手着姿です。でも、他武道に来て黒帯を締めるのはいかが なものか。まあ、最初は大目に見ることにしました(次回からはみなさん帯は外していま す) 。皆さん力自慢の方ばかりです。片手取りも力いっぱいに握ってくれます。面白いよう に技がかかります。しっかり押さえてもあっという間に裏かえしにされたり、崩されてい るのが不思議に映るのでしょう。 以来、必ず誰かは稽古きます。合気道のうわさを聞いてやってくる協力隊員もちらほら。 2 しかし、土曜の夕方という時間帯は若い日本人には必ずしも最適というわけではないよう です。極真のウガンダ人は興味を持ってくれたようで出席率が高いです。受け身をはやく 覚えてもらいたいのですが、初心者にこの床構造ではちょっと厳しいものがあります。低 い姿勢からの前方回転、後方回転。ゴロゴロやっているうちに覚えてくれるでしょう。初 心者ですから力任せになるのは仕方ありません。片手取転換も、木剣を持たせて、「剣先を 下におろし(た時の手首の動きで) 、カラダを入れ替えるのですよ」と。四方投げも入り身 投げも、 「手で投げてはいませんよ、手は上げておろしているだけ。足の動きがあるから手 で投げているように見えるだけ」と、へたくそながらも木剣を持使って説明しています。 空手の人たちには体術よりは武器を持ってもらった方が合気道を理解しやすいかとおも い、短刀で正面打ち、横面打ち、突きをやってもらっています。ある程度、動きのある投 げ技を理解してもらおうと、四方投げ、入り身投げを毎回やるようにしています。いずれ は当地で昇級試験もやることを考え、登録台帳もつくりました。もう少し受身が上手にな れば、街のフィットネスクラブに合気道教室を起こし、人目に付くところで宣伝を兼ねて やってみたいと思うのです。というのも、日本人婦人会の方から問い合わせがあり、始め てみたいのだけれど、空手の方々みたいなコワオモテの方々の武道のイメージが強すぎる とのこと。合気道のイメージをもっと柔らかいものにしたいのです。ウガンダ版由美かお るの出現もいつかあるかもしれない。 ちなみに現在、練武館カンパラ道場では会費(稽古料)をいただいておりません。アパ ートのマネージャにビジネスにしないことを条件に無料で借りているからです。しかし、 当方の方針として、その代わりに稽古生には「床掃除をすること」を徹底させ、アパート 側にも喜んでもらっております。こちらで床掃除をするのは下級雇用人の仕事ですし、武 道の稽古に来るようなリッチな人たちは、まず床掃除なんかしたことがないはずです。そ ういう人たちにも日本式の「雑巾がけ」を楽しんでもらい、道場が神聖な場所であること を意識してもらいたいと思っています。こちらは常に土ホコリが舞っていて、テコンドー マットはいつも汚れています。バケツの水も、一回の掃除でドロ水になります。掃除に使 った雑巾も毎回、自宅の洗濯機で洗わねばなりません。 まだ生徒さんが来てから 3 か月。来るものは拒まず、去る者は追わず、当方もできるだ け自然体でカンパラの合気道を実践してゆくつもりです。続けていれば、もしかしたら芽 が出るかもしれません。今世紀中に本部道場師範の巡回指導、なんてことがあるかもしれ ません。事実、ウガンダ人の生徒さんが稽古前に雑巾がけしながら問いかけてきます。「先 生、毎日指導してくれないか」 。時間、場所、私の体力、いずれも難しいものばかりですが、 その言葉に希望が持てた 2011 年でした。 (2011 年 12 月 24 日 記) 3 Photo 1 Photo 2 稽古前のひととき。3人とも極真空手 この日はテコンドーマットが外部に貸 の稽古人。 し出されて、立ち稽古だけ。 Photo 3 Photo 4 テコンドーマットが戻ってきた。輝いているのは雑巾がけのおかげ。初めての新人 (奥)には別メニューで基本の動きから。皆さん膝が硬いのはいつか治るでしょうか。 手前のニホン人(白)は2級取得者という元協力隊員。我が道場の助っ人となりうる かも。 4
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