マラッカ・シンガポール海峡の情勢 2004

競艇の交付金による日本財団の助成金を受けて作成しました
マラッカ・シンガポール海峡の情勢 2004
2004 年 11 月
社団法人
日本海難防止協会
シンガポール連絡事務所
はじめに
マラッカ・シンガポール海峡(マ・シ海峡)は、年間6万隻以上の大型船舶が通過する
国際的な海上交通の要衝であり、我が国にとっても、原油輸入の8割以上が通過するなど、
国の経済上重大な利益を有する輸送ルートであると言えます。
マ・シ海峡は、現在においても、その狭隘性や船舶が輻輳する交通環境から、海難が多
発する海域であり、また、海賊や船舶に対する武装強盗による被害も後を絶ちません。さ
らに、近年においては、テロの潜在的な脅威が声高に叫ばれるようになっています。
こうしたマ・シ海峡をめぐる諸課題は、アジア諸国の経済発展により海峡を通過する船
舶がさらに飛躍的に増加することが予想される中で、一層その困難さを増すことと思われ
ます。このため、マ・シ海峡においては、航行安全の確保、海洋汚染の防止、セキュリテ
ィーの強化等に向けた対策のさらなる強化が求められており、国際社会としての一致協力
した取組みが必要となっています。
マ・シ海峡に係る沿岸国と利用国の協力については、国連海洋法条約においてもその必
要性がうたわれていますが、これまでは、その実現に向けた議論はほとんど行われてきま
せんでした。ところが、最近になって、セキュリティーへの関心の高まりもあり、具体的
な協力の実施に向けた議論が進展する兆しが見えてきています。我が国としても、この好
機を捉え、これまでの協力の実績を生かしながら、マ・シ海峡の円滑な通航の確保に向け
た新たな協力の仕組みづくりに、積極的に貢献していくことが求められます。
このような中で、今般、
(社)日本海難防止協会シンガポール事務所において、本報告書
「マラッカ・シンガポール海峡の情勢 2004」を刊行させていただく運びとなりまし
た。
本報告書は、当事務所がまさにマ・シ海峡に面したマリタイム・ハブであるシンガポー
ルに位置し、沿岸国等の政府機関、民間団体など直接の情報源にアクセスできる立場をフ
ルに生かし、可能な限り最近の事件、沿岸国等の関係機関の動きを把握・整理するととも
に、分析を試みたものです。
我が国の生命線といってよいマ・シ海峡の諸問題の今後の帰趨は、我が国の国益に大き
く関わってきます。しかしながら、マ・シ海峡をめぐる状況については、必ずしも広く一
般に理解されているとは言えないようです。船舶通航上の難所と言われるが、具体的にど
のようなリスクが存在するのか、海賊とはどのようなもので、どんな背景で発生してくる
のか、それとテロとの関係はどうなっているのか、などの実情について、正確な情報の提
供が必要であると痛感する次第です。
本報告書が、海事関係者のみならず、海事分野以外の各界の専門家、その他国民各層が
マ・シ海峡の抱える多様な課題について理解を深めていただく一助となることを願ってや
みません。
最後になりますが、今後とも当事務所の活動に、ご理解・ご支援のほど、よろしくお願
い申し上げます。
平成 16 年 11 月
(社)日本海難防止協会シンガポール事務所
所長
市岡 卓
目
第1編
次
平成 15 年度の主な出来事
マレーシア政府主催「海上保安セミナー」の開催(ペナン)··································· 1
インドネシア海運総局への設標船「ジャダヤット号」の寄贈··································· 1
シンガポールの OPRC-HNS 議定書への加入································································ 2
MPA 航路標識研修の実施(シンガポール) ································································ 3
シンガポールにおけるシージャック防止条約の国内法整備······································· 4
海賊対策連携訓練の実施(シンガポール) ································································· 4
東アジア海洋会議の開催(マレーシア・プトラジャヤ) ·········································· 5
第4回海賊対策専門家会合の開催(タイ・パタヤ) ·················································· 5
第2回アセアン・オスパー管理会合の開催(シンガポール)··································· 6
第2編
マラッカ・シンガポール海峡利用国負担問題
第Ⅰ章 調査研究の趣旨································································································ 7
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要 ····························································· 9
第Ⅲ章 マラッカ・シンガポール海峡の歴史 ····························································· 48
第Ⅳ章 マ・シ海峡の海上交通路としての重要性······················································ 57
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策·························································· 74
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策············································································· 106
第Ⅶ章 国連海洋法条約に基づく国際海峡制度·························································· 138
第Ⅷ章 国連海洋法条約第 43 条に基づく海峡沿岸国と利用国の協力······················ 152
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性 ··························· 160
第Ⅹ章 おわりに ··········································································································· 187
第3編
情報アラカルト
海運・港湾······················································································································· 189
海賊・海上テロ ··············································································································· 229
海難 ·································································································································· 263
社会・経済······················································································································· 268
平成 15 年度 日本海難防止協会シンガポール連絡事務所 業務実績
第1編
平成 15 年度の主な出来事
マレーシア政府主催「海上保安セミナー」の開催(ペナン)
平成 15 年7月9日及び 10 日の2日間にわたり、マレーシア・ペナンにおいて、マレー
シア政府主催の「海上保安セミナー」が開催され、新たに創設されるマレーシア海事執行
庁(Malaysia Maritime Enforcement Agency)関係者(海上警察、航空警察隊、税関等の職員)
約 50 名が参加しました。このセミナーの講師として、新組織のモデル機関である我が国海
上保安庁の職員等が招聘され、海上保安庁の任務、組織、管轄、法制面、教育訓練制度等
について講義が行われました。また、このセミナーにあわせて派遣された同庁のヘリコプ
ター搭載型巡視船において、搭載資機材、海上保安業務執行体制に係るスタディ・ツアー
が実施されました。なお、セミナー後は、海上保安庁職員、マレーシア海上警備機関職員
が相互に相手国巡視船に乗船し実践的研修をする体験的乗船研修が実施されています。
インドネシア海運総局への設標船「ジャダヤット号」の寄贈
マラッカ海峡協議会は、2003 年 10 月 10 日、インドネシアのバタム島において、日本財
団の全面的な助成を受けて建造した最新鋭の設標船、JADAYAT 号(総トン数 858 トン、全
長 58m)をインドネシア海運総局へ寄贈しました。寄贈式典には、日本財団の曽野綾子会
長、マラッカ海峡協議会の金子専務理事らが、また、インドネシア側からは、アグム運輸
大臣らが参加しました。JADAYAT 号は、海運総局に引き渡された後、ビンタン島のキジャ
ン基地に配属され、専ら、マラッカ・シンガポール海峡の航路標識の維持・整備作業に従事
することになっています。
JADAYAT 号は、建造費8億5千万円(船員教育等を含む)をかけて新潟造船で建造され、
その後、インドネシアまで回航されてきたものです。本船は、直径5m の大型航路標識ブ
イを吊り上げる大型クレーンを装備しています。また、インドネシアの航路標識整備の現
状を勘案し、引き揚げたブイは、船上で全ての整備作業ができるよう、本船には、空気ブ
ラスト機、高圧水噴射機、工作室などが装備されています。また、所定の位置に正確にブ
イを投入するため、電子海図表示装置(ECDIS)、自動船舶識別装置(AIS)
、ディファレン
シャル GPS、バウスラスター等の装置も装備されています。更に、海賊被害を防止するた
め、赤外線警備装置も設置されています。
【JADAYAT 号の主要目】
総トン数:
858 ton
全長
58.02 m
幅
11 m
1
計画満載喫水
3.5 m
速力
10.5 knots (最大速力 12.94 knots)
航続距離
3,900 海里
主機関
NIIGATA 6M26AGTE 1機 735 kw
定員
45 名
主要装備
レーダー2機(X バンド、S バンド)
赤外線警備装置、DGPS、AIS、ECDIS、ナブテックス受信機、測深装置、自動操舵装置
バタム島ツクパン港に停泊中の JADAYAT 号
曽野会長、アグム大臣との記念品の贈呈
シンガポールの OPRC-HNS 議定書への加入
平成 15 年 10 月 16 日、シンガポール政府は、Protocol on Preparedness, Response and
Co-operation to Pollution Incident by Hazardous and Noxious Substances, 2000 (OPRC-HNS 議定
書)への加入書(Instrument of Accession)を国際海事機関(IMO)の事務局長に寄託し、同議定書
の第 8 番目の締約国となりました。
この議定書は、油による汚染を対象とした OPRC 条約の対象範囲を、実質的に、油以外
の有害危険物質(HNS)に拡大するものです。同議定書の主な目的は HNS 汚染事故への準備
及び対応に係る国際協力を促進すること、HNS 汚染事故に対する締約国の対処能力を発展、
維持することにあり、具体的には、OPRC 条約と同様、HNS 事故発生時における要請に基
づく締約国間の相互支援体制の確立、HNS 事故への迅速かつ効率的な対処を行うための国
の制度の確立(国家緊急時計画の策定、国家当局の指定、運用上の連絡窓口の設定など)
に関する事項が規定されています。また、締約国の船舶については、HNS 汚染緊急措置手
引書の備え置き義務が課されることになります。
2
MPA 航路標識研修の実施(シンガポール)
平成 15 年 10 月 13~22 日、シンガポール海事港湾庁(MPA)は、シンガポール外務省及び
日本の国際協力事業団(JICA)の協力を得て、10 日間の日程で、
「マラッカ・シンガポール海
峡の光波航路標識」研修コースを開催しました。この研修コースは、日本の国際協力の枠
組みにおいては、いわゆる「第三国研修」と呼ばれるものであり、開催経費は、シンガポ
ールと日本が折半しています。実施主体は MPA ですが、日本からも、海上保安庁交通部や
マラッカ海峡協議会の専門家や、当ニッポン・マリタイム・センターの専門家が講師とし
て参加しました。今回の研修コースは、新規実施コースであり、参加者はインドネシア海
運総局5名、フィリピン沿岸警備隊2名、ベトナム海事局2名の計9名でした。当初は、
マレーシア海事局やタイ海事局からも研修に参加する予定でしたが、研修参加手続の遅れ
から、残念ながら今回の参加は見送られました 。
なお、本研修コースの目的は、次のとおりです。
安全かつ効率的な航海のための航路標識の必要性、重要性を理解すること
海上の航路標識の管理又はこれに関連する活動に関する一般的原理を理解すること
新しい技術、計画手法、運用・管理に関する知識を得ること
日常業務における問題点を把握し、解決策を探ること
座学の様子
ラッフルズ灯台の見学
3
シンガポールにおけるシージャック防止条約の国内法整備
平成 15 年 11 月 10 日、シンガポールは、いわゆる「シージャック防止条約」 を実施する
ための「海事犯罪法案(Maritime Offences Bill, Bill No.23/2003)」を可決しました。この法案は、
10 月 16 日に国会に提出され審議が行われていたものです。
海賊対策連携訓練の実施(シンガポール)
平成 15 年 12 月 3 日、シンガポール海峡において、日本国海上保安庁(JCG)とシンガポー
ル警察沿岸警備隊(SPCG)との初めての海賊対策連携訓練が行われました。訓練に参加した
のは、第四管区海上保安本部名古屋海上保安部所属巡視船「みずほ」であり、同船は、ベ
ル212型ヘリコプター2機を搭載しています。一方、SPCG からは、同隊所属の高速警備
艇や特殊部隊が参加しています。
ヘリから降下する JCG 特殊部隊員
被害想定船上に展開する JCG 特殊部隊
SPCG 特殊部隊によるシージャック犯の急襲
制圧完了
4
訓練の内容は、シージャック発生情報の伝達連絡系統の確認、巡視船、航空機によるシ
ージャック犯の補足・制圧訓練(公開訓練)に加え、シンガポール警察の特殊部隊による巡
視船「みずほ」を使用した極秘訓練(非公開)も実施された模様です。
海上保安庁では、平成 12 年4月、東京で開催された「海賊対策国際会議」以降、今回の
訓練を含め、合計9回にわたり、東南アジア諸国等の海上警備機関との海賊対策連携訓練
を行ってきましたが、SPCG と連携訓練を実施するのはこれが初めてとなります。
東アジア海洋会議の開催(マレーシア・プトラジャヤ)
平成 15 年 12 月8日から 12 日にかけて、マレーシアのプトラジャヤで、ペムシー主催/
マレーシア科学技術省後援により、東アジア地域の海の持続可能な開発をテーマとした「東
アジア海洋会議」が開催されました。同会議の前半には、約30カ国400名の専門家に
よる海洋環境問題及び沿岸域統合管理に関する専門家会合がもたれ、後半には、ペムシー
を構成する12カ国の海洋担当省庁による高級事務レベル会合と閣僚級会合が開催され、
「東アジア海域の持続可能な開発戦略」と「東アジア海域の持続可能な開発のための地域
協力に関するプトラジャヤ宣言」が採択されました。日本からは国土交通省の洞国土交通
審議官、小滝海洋室長らが出席し、韓国、タイ等も交通担当省庁からの出席がありました
が、その他の国は概ね環境担当省庁の大臣・次官が出席しました。
第4回海賊対策専門家会合の開催(タイ・パタヤ)
平成 16 年2月 26 日及び 27 日、タイ・パタヤにおいて、海賊対策専門家会合が行われま
した。この会合は、平成 12 年4月、東京で開催された海賊対策国際会議において採択され
た「アジア海賊対策チャレンジ 2000」に基づき、日本財団等による財政的支援により、ほ
ぼ毎年開催されているものであり、今回のパタヤでの会合は、第4回目となります。今回
の会合の目的は、関係各国・地域の海上警備機関間の連携・協力を更に推進することであ
り、今回の会合では、タイ海上警察タワシット長官及びタイ海事局海上安全環境部プリー
チャ部長の共同議長のもと、下記の事項について検討が行われました。
・最近の海賊事件の発生状況
・海賊対策の取組み紹介
・連携協力推進の確認
・海上テロ対策に関する新たな枠組み作り
5
・海賊及び海上テロ対策に関する連携協力等のための議長総括の採択
この結果、
「アジア海賊対策チャレンジ 2000」に基づく協力関係の維持・促進として、海
賊情報等連絡窓口を通じた情報交換の促進や、複数の国の間での机上訓練の実施について
合意されました。更に、海賊及び海上テロ対策を内容とする海上セキュリティーの維持の
効果的な方策を検討するため、本年6月、日本において、「アジア地域海上保安機関長官級
会合(仮称)」を開催する方向で合意されました。
第2回アセアン・オスパー管理会合の開催(シンガポール)
平成 16 年3月 24 日、シンガポールのシャングリラ・ホテルにおいて、第2回アセアン・
オスパー管理会合が開催されました。本会合には、アセアン諸国(ラオスを除く)及び日
本から政府関係者が出席しました。
この会合の基礎になっているのは、平成5年、運輸省(当時)のイニシアチブにより、
日本財団等の関係団体が資金を拠出し、総額 10 億円相当の油防除資機材や情報ネットワー
ク・システムを旧アセアン諸国(ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シ
ンガポール、タイの6カ国)に寄贈した支援プログラム(オスパー・プロジェクト)です。
本会合は、当初、寄贈された資機材等の管理状態を把握することを目的として開催されて
きた経緯がありますが、現在、本会合をアセアン諸国の油 HNS 汚染問題に係る包括的連携・
協力事項を協議する場にしようとする努力が鋭意行われています。
6
第2編
マラッカ・シンガポール海峡利用国負担問題
第Ⅰ章 調査研究の趣旨
第Ⅰ章 調査研究の趣旨
マラッカ・シンガポール海峡(マ・シ海峡)は、古来より、様々な活動に利用されてきました。マ・シ
海峡の沿岸地域には紀元前より人々が居住し、漁獲活動の場や地域内の海上交通路として、同
海峡は重要な役割を担っていたと考えられます。15 世紀から 17 世紀前半にかけての大航海時代
には、西欧の貿易船が頻繁に往来し、インド洋と南シナ海を結ぶ東西の交易ルートとして、その重
要性が格段に増加しました。現在においても、マ・シ海峡においては、多種多様な経済活動が営
まれており、その中でも、海上輸送活動については今後更に活発化するものと考えられ、マ・シ海
峡の海上交通の大動脈としての機能は、更に重要性を増しています。
マ・シ海峡の海上交通路としての機能を維持・発展させるため、同海峡の沿岸国であるインドネシ
ア、マレーシア及びシンガポールは、これまで、様々な対策を講じてきました。また、マ・シ海峡の
主要な利用国である日本も、過去 30 年以上にわたり、日本財団などの財政的支援により、マラッ
カ海峡協議会が航路標識の設置及びその後の維持・管理をはじめとする様々な取り組みを行っ
ています。
マ・シ海峡においてこれまで講じられてきた対策は、主として、海上交通安全および船舶起因の海
洋汚染に係るものが中心でした。しかし、最近においては、海賊や船舶に対する武装強盗問題、
2001 年9月の米国同時多発テロ事件を契機とした海上テロの脅威、また、スマトラ島ナングロアチ
ェ州やタイ南部における政治的不安定要因も大きな懸念材料となっています。また、世界的に見
ても、国際海事機関(IMO)での SOLAS 条約の改正、ISPS コードの制定など、海上セキュリティー
に関する新しい動きが始まっています。更に、コンテナ・セキュリティー・イニシアチブ(CSI)、地域
海上セキュリティー・イニシアチブ(RMSI)、大量破壊兵器拡散防止イニシアチブ(PSI)といった米
国主導のセキュリティー対策も出現し始めています。
以上のような最近の動向が意図するところは、国際的協力の枠組みによる海上輸送活動に対す
るトータル・セキュリティーの確保という考え方です。つまり、海上輸送活動を構成する各要素(港、
船舶、貨物、海上輸送路など)を様々な脅威から保護するため、空白地帯が生じないよう国際的
連携・協力を強化するというものです。このため、その主体である、港湾管理者、航路管理者、船
主、船舶乗組員、荷主、税関職員、船舶検査官、海上法令執行機関などが国の枠を越えて連携
協力していくことが今求められています。
このような情勢の中、マ・シ海峡においては、海峡沿岸国と海峡利用国とが協力をして同海峡の
海上交通路としての機能維持・発展を図る動きが加速化する動きが見られます。これまで、日本
は、唯一の支援利用国として、過去 30 年以上にわたり、様々な支援策を講じてきていることは前
にも述べましたが、最近、経済発展の著しい中国がにわかにマ・シ海峡に目を向け始め、セキュリ
ティーを中心とした各分野において協力の用意がある旨表明しています。また、韓国についても、
海洋警察庁がマレーシア海上警察に接近を図っています。米国についても特にセキュリティーの
関係で海峡沿岸国に接近を図り、様々な提案を行っています。更に、国際的にも IMO においては、
マ・シ海峡のような戦略的に重要であるシーレーンを海上テロなどの脅威からどのように保護して
7
第Ⅰ章 調査研究の趣旨
いくべきか、という議論が始まりつつあります。
以上のように、マ・シ海峡を巡る情勢は、新たなセキュリティーに係る脅威を起爆剤として、また、
これまでの海上交通安全や海洋汚染防止に係る問題をも含めたかたちで、海峡沿岸国のみなら
ず、複数の海峡利用国を巻き込んで、ここ2,3年の間に劇的に変化する可能性が出てきていま
す。今、重要なのは、マ・シ海峡にエネルギー輸送の大部分を依存する日本が、このような変化に
どのように対応していくべきか、どのような役割を担っていくべきか、ということを再度、検討してみ
ることです。
この調査研究においては、マ・シ海峡の海上交通の大動脈としての機能を持続的に維持・発展さ
せるという共通の目標のもとに、海上交通安全、海洋汚染防止、海上セキュリティーの各分野に
おいて、海峡沿岸国と日本、中国、韓国、米国などの主要な海峡利用国とが、どのように協力を
進めていくべきか、ということについて焦点をあて、そのための制度構築に向けた方向性について、
何らかの示唆ができればと考えるところです。ここでは、ある特定の結論を導き出す、ということで
はなく、読者の方々にマ・シ海峡に関する知識をより一層深めていただくとともに、様々な場にお
いて、様々な者により為された提案等を可能な限り網羅することにより、より広範な選択肢を読者
の方々に提供することを意図しています。これにより、マ・シ海峡の国際協力に係る議論が、様々
な関係者の中でより一層促進されることを希望するところです。なお、この調査研究において示さ
れた見解、意見等は、あくまでも当事務所の責任によるものですので予めご承知おき願います。
8
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
いわゆるマ・シ海峡問題について考える場合、マ・シ海峡とはどのような海峡であるのか、を把握
しておくことはとても大切なことです。この章では、特に、船舶の航行環境という観点からみた場合
に問題とされる特徴としてどのようなものがあるのか、について焦点を絞り、マ・シ海峡の地理・地
形的な特徴や気象・海象上の特徴、マ・シ海峡における経済活動や船舶に関連する犯罪などの
治安状況、マ・シ海峡を構成する各水域の国際法上の法的地位などについて順に概観していくこ
とにします。
A 地理・地形的な特徴
1.マラッカ・シンガポール海峡の位置
マ・シ海峡はマレー半島南西岸とインドネシアのスマトラ島北東岸との間に位置する狭隘な海峡
であり、マラッカ海峡とシンガポール海峡の両者を総称して、「マラッカ・シンガポール海峡(the
Straits of Malacca and Singapore)」と呼ばれています(図Ⅱ―1参照)。一般的にマ・シ海峡と言う
場合、両海峡の境界線は、概ね、マレー半島南西端と対岸にあるインドネシアのカリムン島(Pu.
Karimum Kecil)とを結ぶ線であり、当該線より西側はマラッカ海峡(the Strait of Malacca)、東側は
シンガポール海峡(the Strait of Singapore)と呼ばれています。マラッカ海峡の西端は、同海峡に設
置されている分離通航帯の西端であるワン・ファザム・バンク灯台(One Fathom Bank Lighthouse)
付近、また、シンガポール海峡の東端は、同海峡に同様に設置されている分離通航帯の東端で
あるホースバーグ灯台(Horsburgh Lighthouse)付近と認識することが一般的となっています。
⇒マラッカ海峡(the Strait of Malacca)
マラッカ海峡を、次のとおり定義するものもある(図Ⅱ―1参照)。
Malacca Straits is defined as the area lying between the W coasts of Thailand and Malaysia
on the NE, and the coast of Sumatera on the SW between the following limits:
On the NW:
A line from Ujung Baka (Pedropunt), the NW extremity of Sumatera, to: Laem
Phra Chao, the S extremity of Ko Phukit, Thailand.
On the SE:
A line from Tanjung Piai, the S extremity of Malaysia, to: Pulau Iyu Kecil,
thence to: Pulau Karimum Kecil, thence to: Tanjung Kedabu.
出展:Admiralty Sailing Directions, Malacca Strait and West Coast of Sumatera Pilot, 7th
Edition 2003, Hydrographic Department, Ministry of Defense (Navy)
上記英国国防省水路部の定義は、水路測量を行うに際し便宜上定められたものと考えら
れる。マラッカ海峡をどのように定義するかについては、個々の必要性により異なってくる
ものであり、あえて統一された定義を使用する必要はないと考えられる。なお、上記英国
9
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
国防省の定義を使用する場合、マラッカ海峡の水域には公海部分がかなり含まれるとと
もに、同海峡の沿岸国にはタイも含まれることとなる。
「財団法人マラッカ海峡協議会」という団体の名称に見られるように、マラッカ海峡が便宜
的にマ・シ海峡全般を指す場合がある。
⇒シンガポール海峡(the Strait of Singapore)
シンガポール海峡を、次のとおり定義するものもある(図Ⅱ―1参照)。
Singapore Straits is defined as the area lying between the S coasts of Malaysia and
Singapore Island on the N and the islands off the coast of Sumatera on the S, between the
following limits:
On the W:
The SE limit of Malacca Strait
On the E:
A line joining Tanjung Penyusop (Datok), the SE extremity of Malaysia, to:
Horsburgh Lighthouse, thence to: Pulau Koko lying off the NE etremity of Pulau
Bintan.
出展:Admiralty Sailing Directions, Malacca Strait and West Coast of Sumatera Pilot, 7th
Edition 2003, Hydrographic Department, Ministry of Defense (Navy)
英国国防省のマラッカ海峡境界線
分離通航帯西端
分離通航帯東端
英国国防省のマラッカ海峡とシンガポール海峡との境界線
英国国防省のシンガポール海峡境界線
Ⅱ―1 マ・シ海峡の地理的範囲
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第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
マ・シ海峡の地理的範囲が問題となるのは、おおむね次の事項に関してですが、詳細については、
「第Ⅷ章 海洋法条約第 43 条」において検討します。
海峡沿岸国の特定
海洋法条約第 43 条 a 項に基づく協力事項を実施する場合の地理的範囲
海峡沿岸国管轄権の及ぶ範囲、海峡航行船舶が行使する通航権の明確化(国際法上の
法的地位との関連)
2.マ・シ海峡の幅
マ・シ海峡の一般的長さは約 500km です。最も狭い所は、マラッカ海峡については、インドネシア・
ルパット島(Pu. Rupat)北端のメダン岬(Tg. Medang)とマレーシア・トゥアン岬(Tg.Tuan)との間であり、
海峡幅は約 37km です。シンガポール海峡については、サキジャン・ペラパ島(Pu. Sakijang
Pelepah)とバツ・ベルハンティ岩(Batu Berhanti)との間であり、海峡幅は約 4.6km です(図Ⅱ―2参
照)。
シンガポール港境界線
分離通航帯境界線
サキジャン・ペラパ島
水深 21m の浅瀬
(シンガポール)
水深 14.3m の浅瀬
西航航路
水深 15m の浅瀬
深喫水航路(東航)
水深線
青線:30m
バツ・ベルハンティ岩
東航航路
(インドネシア)
赤線:20m
緑線:10m
Ⅱ―2 シンガポール海峡の最狭部
注:水深 14.3m のバツ・ベルハンティの浅瀬には、灯浮標(ブイ)1基がマラッカ海峡協議会により設置されている
が、通航船舶との接触により破損する事故が頻発している。このバツ・ベルハンティの浅瀬周辺は急激に水深が
深くなっており、接触によりブイの設置位置が、水深が深い場所(錘とブイをつなぐ鎖の長さ以上の水深がある位
置)にずれた場合、このブイの浮力は錘の重量より大きいため、錘を海中に釣ったままブイが漂流することになる。
このため、インドネシア海運総局では、マラッカ海峡協議会の支援のもと、このブイに AIS 発信機を取り付け、常時、
ブイの所在位置、灯火の状態等を監視している。
11
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
⇒海峡幅は約 4.6km です。
この 4.6km が広いか狭いか、という問題であるが、まず、4.6km の幅のうち、海峡に設置さ
れている分離通航帯の幅(西航、東航の両航路及び分離帯を含む)は約 2,200m である
(図Ⅱ―2参照)。東航航路には、通常の航路に加え、深喫水船(喫水 15m 以上の船舶)
又は VLCC: Very Large Crude Carrier(積貨重量トン 15 万トン以上の原油タンカー)が通
航を義務付けられる深喫水航路が設置されているが、この深喫水航路の航路幅は約
840m である。しかし、この深喫水航路の中にも、水深が 21m 程度しかない浅瀬があり、
30 万積貨重量トン級のマラッカ・マックス型の原油タンカーにもなると、高潮時の限られた
時間帯に、かつ、そのような浅瀬を避け、幅約 400m の中央分離帯付近を航行する必要
がある。中央分離帯付近を東航するということは、西航航路を航行中の船舶と正面衝突
する可能性が高くなる、ということである。実際に、当該深喫水航路を東航中の VLCC と
西航航路航行中の船舶による衝突事故も発生している。マ・シ海峡が、特に大型船舶に
とっての航海の難所と言われる所以である。
シンガポール海峡はマラッカ海峡に比べ海峡幅が格段に狭くなっています。また、同海峡の西側
に位置するフィリップス水道には、比較的水深の浅い海域や浅瀬が広がっています。このような狭
い海峡に、世界第二位のコンテナ取扱量を誇る大規模港湾施設であるシンガポール港があり、そ
の背後には、人口 400 万人の大都市シンガポールの商業地区が広がっています。同港の港域が
シンガポール海峡の分離通航帯境界線ぎりぎりまで拡大していることや(図Ⅱ―2参照)、夜間の
都市照明などが海峡通航船舶の安全な航行に与える影響を軽視することはできません。
3.マ・シ海峡の水深
ワン・ファザム・バンク
トゥアン岬沖
ルメニア・ショール
フェア・バンク・チャンネル
ラッフルズ・ショール
フィリップス水道からバツ・ベルハンティ岩に至る海域
ベドック灯台沖
Ⅱ―3 マラッカ海峡分離通航帯及びその付近の水深 23m 未満の浅瀬、岩礁等
12
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
船舶がマ・シ海峡の通航に際して最も問題とするのは水深です。これは、通常の地図を見るだけ
ではわかりませんが、海図を詳細に見た場合、浅瀬、岩礁、沈船などが多数点在し、実際に大型
船舶が航行できる海域は極めて限られていることがわかります。マ・シ海峡の分離通航帯及びそ
の付近の大部分の海域は、水深 23m以上が確保されていますが、VLCC の通航に影響を及ぼす
水深 23m 未満の浅瀬、岩礁等も多数存在しています(図Ⅱ-3参照)。従って、VLCC にとっては、
分離通航帯航路内を航行していても決して安全というわけではなく、そのような浅瀬、岩礁等を避
けて航行する必要があります。特に、東アジアへ原油を輸送するタンカーは、東航時(満載時)に
水深の影響を最も受けることになりますが、VLCC などが船底下に定められた余裕水深を保って
通航するためには、適切な海域を選び、また、高潮時を待って通航することが必要となります。
⇒水深 23m 未満の浅瀬、岩礁等
ワン・ファザム・バンク灯台付近(図Ⅱ―4参照)
ワン・ファザム・バンク灯台の南側の西航航路内には最小水深が 8.4m のアマゾン・マル・
ショールという浅瀬が存在する。このため、西航航路幅は約 4,600m であるにもかかわら
ず、大型船舶が航行できる航路幅はその半分の約 2,200m 程度である。また、同灯台西
側の東航航路内には、水深 12m~20m の浅瀬が2カ所、航路に並行してほぼ南北に存在
する。東航中の深喫水船や VLCC は南側にある浅瀬の更に南側を航行し、その後、水深
23m を示す2灯標の間(1,350m)を航過するよう推奨されている。
アマゾン・マル・ショール
ワン・ファザム・バンク灯台
沈船
航路に並行して存在する浅瀬
水深線
青線:30m
水深 23m を示す2灯標
赤線:20m
緑線:10m
Ⅱ―4 ワン・ファザム・バンク
13
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
ワン・ファザム・バンク灯台
ワン・ファザム・バンク灯台の西にある沈船
注:ワン・ファザム・バンク灯台は、1874 年に英国東インド会社によって建設された。写真の左にある小さい灯台が
旧灯台(保存工事中)であり、右は 1999 年に運用を開始した新灯台である。両者の距離は約 300m である。
トゥアン岬沖(Tg. Tuan)(図Ⅱ―5参照)
マラッカ海峡トゥアン岬沖の東航及び西航航路内に水深 14~18.8m の浅瀬が点在する。
なお、東航の深喫水船や VLCC は、国際海事機関(IMO)が採択した国際ルール(マラッカ
海峡及びシンガポール海峡の通航に関する規則)に従い当該海域の南側に設置されて
いる深喫水航路(水深 25m 以上が確保されている)を航行しなければならない。
トゥアン岬
点在する浅瀬
深喫水航路入口
水深線
青線:30m
赤線:20m
Ⅱ―5 トゥアン岬沖
14
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
フェア・チャンネル・バンク(Fair Channel Bank)(図Ⅱ―6参照)
マラッカ海峡ラボ岬(Tg. Laboh)からピサン島(Pu Pisang)にかけての西航航路内に長さ約
40km、幅約 2km、最小水深 8.5m の細長い浅瀬(フェア・チャンネル・バンク)が存在する。
フェア・チャンネル・バンク
最小水深部 8.5m
水深線
青線:30m
赤線:20m
緑線:10m
Ⅱ―6 フェア・チャンネル・バンク
ラッフルズ・ショール(Raffles Shoal)(図Ⅱ―7参照)
シンガポール海峡ラッフルズ灯台西側の西航航路内に、当該航路北側境界線に沿って、
最小水深 12.2m の浅瀬(ラッフルズ・ショール)が存在する。
ラッフルズ・ショール
最小水深部 12.2m
ラッフルズ灯台
(シンガポール)
水深線
青線:30m
赤線:20m
Ⅱ―7 ラッフルズ・ショール
15
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
フィリップス水道(Phillip Channel)からバツ・ベルハンティ岩に至る海域(図Ⅱ―8参照)
シンガポール海峡フィリップス水道からバツ・ベルハンティ岩に至る海域は、マ・シ海峡通
峡船舶にとって最も危険かつ困難な海域である。この海域の東航航路内には、深喫水船
や VLCC が通航する深喫水航路が設置されているが、その深喫水航路の最狭部はタコ
ン・ブイ付近であり、航路幅は僅かに 600m 弱程度となっている。また、航路内といえども、
水深が 21.5m や 21m の浅瀬があり、これらの浅瀬を避けて航行する必要がある。
ラッフルズ・ショール
バツ・ベルハンティ岩
バッファロー・ロック灯標
タコン灯台
ヘレン・マー・リーフ
深喫水航路入口
タコン・ブイ
水深線
青線:30m
赤線:20m
フィリップス水道
Ⅱ―8 フィリップス水道からバツ・ベルハンティ岩に至る海域
タコン・ブイ
バッファロー・ロック灯標
写真左注:深喫水航路の最狭部であり、手前のブイから奥の島までの距離は約 600m である。島にはタ
コン灯台が見える。ブイの右側の海面は少々白っぽくなっており、強い潮流があることをうかがわせる。
16
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
ベドック灯台沖(Bedok Lighthouse)(図Ⅱ―9参照)
シンガポール海峡のベドック灯台沖の東航航路内に水深 16.7m~19.1m の浅瀬がある。
シンガポール港境界線
水深線
青線:30m
赤線:20m
Ⅱ―9 ベドック灯台沖
ルメニア・ショール(Rumenia Shoal)(図Ⅱ-10 参照)
シンガポール海峡の分離通航帯の東側出口付近は遠浅の海域であり、東側出口の北側
には、最小水深 5.2m のルメニア・ショール(Rumenia Shoal)がある。更にその北東側にも
最小水深 6.4m イースタン・バンク(Eastern Bank)がある。また、ホースバーグ灯台の南側
海域は、水深 10m 代の浅瀬が点在している。
水深線
ルメニア・ショール
青線:30m
赤線:20m
緑線:10m
最浅部 5.2m
ホースバーグ灯台
(シンガポール)
Ⅱ―10 ルメニア・ショール
17
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
⇒船底下に定められた余裕水深
国際海事機関(IMO)が採択した国際ルール(マラッカ海峡及びシンガポール海峡の通航
に関する規則)では、常時 3.5m の船底下余裕喫水を保つ必要がある。
深喫水船
海面
喫水
潮高
海図の水深
基本水準面(略最低低潮面)
海底
船底下余裕水深 UKC: Under Keel Clearance
Ⅱ―11 船底下余裕喫水((UKC)
シンガポールは、当初、2.6m の UKC を主張し、インドネシアは、4.6m を主張した。1970
年代当時、シンガポールは既に世界第3位の石油精製基地になっており、マ・シ海峡経由
でどの程度の原油が当該精製基地に輸送されてくるのかが非常に大きな関心事であった。
シンガポールとしては、できるだけ大きな原油タンカーを通航させることに利益を見出し、
2.6m の主張を行った。一方、インドネシアは、事故の潜在的可能性を憂慮し、4.6m の主
張をした。このような主張の対立は、両者が譲歩するかたちで、1977 年のアセアン・マニラ
会合の機会を利用した沿岸3カ国外相会談において 3.5m に決着した。
マラッカ海峡の最狭部においては強い潮流が観測されており、これにより、高さが4~7m、長さが
250~450m のサンドウェーブ(Sand Wave)が海底に発生します。
⇒サンドウェーブ(Sand Wave)
サンド・ウェーブとは、流れの強い海域の海底に、海底の砂粒が流れによって運ばれ堆積
する現象で、海峡部では海峡中心部の流れの強すぎる所では存在しないが、海峡両端
入り口付近などの、強い流れから比較的弱い流れに変る海域の砂の海底に発達し、砂州
や砂堆の上にも大小さまざまな砂の波として存在することや移動・変形していくことが知ら
れている(海上保安庁水路部)。
太平洋戦争中に沈められた商船や軍艦、海難事故により沈没した船舶がいまだに放置されてお
り、航路障害物となっているものもあります。
18
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
B 気象・海象上の特徴
1.季節風
マ・シ海峡は、熱帯モンスーン気候帯に属し、はっきりとした雨季と乾季の区別はなく、年間を通じ
季節風(モンスーン)が吹きます。5月から9月にかけては南西のモンスーンが吹き、7、8月頃に
最大となります。平均的な風速は5m/s 程度ですが、マラッカ海峡の北西部では更に強く吹きます。
また、11 月から3月にかけては北東のモンスーンが吹き、1月頃に最大となります。通常の風速は
3~5m/s ですが、マラッカ海峡北部では 10~13m/s に達することがあります。マラッカ海峡内部の
マレー半島寄りの海域ではマレー半島により遮られ風速が弱くなります。シンガポール海峡の東
口は、北東のモンスーンの影響を受けやすい海域ですが、海峡内部では風力は弱く、風向も変わ
りやすくなっています。北東のモンスーンは赤道を越えると風向が北西に変化し、ジャワ島とボル
ネオ島の間のジャワ海では北西のモンスーンとなりますが、この風は弱く不安定です(Admiralty
Sailing Directions, Malacca Strait and West Coast of Sumatera Pilot, 7th Edition 2003, Hydrographic
Department, Ministry of Defense (Navy)参照、以下同じ)。
季節風(モンスーン)や貿易風は、現在においては船舶の運行に大きな影響を与える要素とはな
っていませんが、船が風を利用して進む時代においては、この風を利用して中東、インド、中国な
どから商人が海を越えてこの地にやって来て交易活動を行っていました。特に季節風は季節によ
って吹く方向が逆になるため、中国方面からの交易船は北東のモンスーンを利用して東南アジア
に到来し、モンスーンの吹く方向が変わるまで滞在し、南西のモンスーンが吹き出す時期に中国
方面へと帰って行ったといわれています。
2.スコール
マ・シ海峡においては、気温の顕著な季節的変化はなく、年間を通じて高温・多湿(平均気温は 26
~27℃、平均湿度は 80~85%)となっています。熱帯地方では、蒸発した水分は上昇気流により
大きく成長しますが、昼過ぎになるとその上昇気流が弱くなり、大きく成長した空気中の水滴を支
えることができなくなるため、通常、強風や落雷をともなうスコールと呼ばれる激しい雨となって地
上に降り注ぎます。スコールによる視界不良は、一時的なものであり長続きはしません。しかし、
激しいスコールの場合、視界が著しく損なわれることに加え、大きな雨粒にレーダー波が乱反射し
レーダー映像が乱れる場合があります。船舶の運行にあたっては注意が必要となります。なお、
スコールは自然現象であり、突然発生するものですので、適切な予防措置はありません。
3.煙害(ヘイズ)
スマトラ島における焼畑農業を原因とする煙害(ヘイズ)によりマ・シ海峡の視程が急激に悪化す
ることがあり、この現象は数日から数週間にわたることがあります。ヘイズは、煙の粒子が小さい
ためレーダーには影響を与えません。特にエルニーニョ現象が観測される年においては、インドネ
シアを含む太平洋西部地域において降雨量が少なく乾燥し気温が上昇するため、森林火災など
19
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
によりヘイズが一層深刻になります。スマトラ島の農業手法を変更するということは容易ではない
ので、適切な予防措置はありません。これまで、ヘイズの被害が著しく、マ・シ海峡の通航船舶に
重大な影響を与えた年が 2 回あります。このうち、1997 年には、9月から 10 月にかけての2月間
に衝突事故が8件発生しました。この一連の衝突事故の一つである「エボイコス号衝突事故(1997
年 10 月 15 日発生)」については、貨物油である重油が 28,500 トン流出する惨事となりました。
4.その他の気象上の特徴
マ・シ海峡での霧の発生は非常に稀です。また、夜間及び夜明けごろに、湿地帯や河口域付近に
おいて局地的な霧が発生することがありますが、日出とともに急速に消失します。
5.海潮流
マ・シ海峡の海流は、全般的に北西方向に流れており、平均流速は 0.5 ノット以下ですが、流れの
速いところでは2ノットを超えることもあります。また、5月頃から9月頃にかけて、北部及び中部の
一部の海域において南東方向の流れが生じることがあります。マ・シ海峡及びその接続する水域
は、比較的水深が浅く、潮流がこの海域の海流にかなり影響を及ぼしています。
船舶の安全航行に係る海象上の阻害要因のうち、一番影響が大きいのは潮流です。潮流の速度
が数ノットに達する場合、水面下の面積が大きい大型かつ低速船舶にとっては、その影響を無視
することができません。マ・シ海峡の主航路筋の潮流は、大潮時で 1.5 ノット程度ですが、狭い水
路や岸寄りの水域では 2.5~3ノットに達することがあります。分離通航帯の境界線付近を航行し
ている場合には、境界線を超えてしまう危険性があります。また、潮流の方向は海底地形などに
より一定しません。なお、潮汐差の平均は、ポートクラン(Port Klang)沖のワン・ファザム・バンクで
は 3.7m、マラッカ(Malacca)付近では 1.8m、マラッカ海峡の南東端付近では 2.6m、シンガポール海
峡の東端のホースバーグ灯台では 1.6m となっています。
マ・シ海峡における波浪は、ほとんどありませんが、スコール発生時には強風により一時的に高く
なることがあります。うねりについては、周囲を陸岸に囲まれていることから、ほとんどありません。
また、シンガポール海峡においては、多数の船舶が輻輳していることから、航走波が複雑に合成
した周期の早い細かな波が発生します。
C 経済活動
1.海上輸送活動
マ・シ海峡では海上輸送活動が活発に行われています。同海峡の船舶通航量は、アジア地域の
経済活動の発展にともない、徐々に増加する傾向にあります。通航量が増加し狭隘な海域に多
数の船舶が存在している状況は、衝突、乗揚げなどの海難事故の潜在的要因にもなっています。
20
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
また、マ・シ海峡の沿岸に沿って、多数の港湾が立地していますが、当該港湾に入港する船舶と、
分離通航帯を通航する船舶との間で、横切りなどの危険な見合い関係が生じています。特に、シ
ンガポール海峡においては、シンガポールと対岸のバタム島、ビンタン島などとの間で、高速小型
旅客船やバーター貿易に従事する低速小型木造貨物船がシンガポール海峡の分離通航帯を横
断するような形で多数航行しており、通航船舶にとっては特に注意を必要とする海域です。
船舶の種類
VLCC
1999 年
2000 年
2001 年
2002 年
2003 年
2,027
3,163
3,303
3,301
3,487
その他のタンカー
11,474
13,343
14,276
14,591
15,667
LNG/LPG タンカー
2,473
2,962
3,086
3,141
3,277
タンカー小計
15,974
19,468
20,665
21,033
22,431
その他の船舶
27,991
36,499
38,649
39,001
39,903
通航船舶合計
43,965
55,967
59,314
60,034
62,334
120
153
162
164
171
36%
35%
35%
35%
36%
通航船舶1日平均
タンカーの割合
Ⅱ-12 マラッカ海峡通航船舶統計(マレーシア海事局)
現在、海上輸送の分野において、船舶による輸送効率を向上させるため、船舶の高速化や大型
化が進んでいます。船舶の高速化は特にコンテナ船に顕著となっています。マ・シ海峡では深喫
水航路を除き速度制限がないため、大型のコンテナ船が高速で他の船舶を追い越して航行して
いるという実態があります。一方、船舶の大型化は、特に原油タンカーに顕著となっています。現
在、マ・シ海峡を通航できる最大船型である 30 万積貨重量トン級のマラッカ・マックス型の原油タ
ンカーでは、全長約 330m、幅約 60m、満載喫水約 21m にも達します。このように、速度の異なる
船舶、操縦性能が異なる船舶、航行可能海域が異なる船舶が同じ航路内を航行している、という
航行環境は、海難事故の潜在的要素となっています。
2.水産資源採取
マ・シ海峡のインドネシア沿岸においては、水産資源がインドネシアにとって非常に重要な天然資
源であり、インドネシア人にとっての重要な蛋白源であるとともに、外国への重要な輸出品目とな
っていることから、養殖漁業を含め、漁業活動が活発に行われています。また、マ・シ海峡のマレ
ー半島側は、同半島東岸(南シナ海)に比べ、表中層性魚種に富んでいるとされ、漁業活動が活
発に行われています。一方、シンガポール海峡のシンガポール沿岸においては、その大部分が港
域に指定され多数の船舶が航行又は鎖泊していること、埋立てにより沿岸部のマングローブや藻
場など魚介類の生息場所の大部分が消失したこと、漁業以外の有利な代替雇用機会があること、
などから、採取漁業はほとんど行われていません。一方、養殖漁業については、養殖場が 1985
年には 40 カ所だったのが、2004 年には 101 カ所(沖合いに設置されているものが 89 カ所)に増え
ています。この傾向について、シンガポール政府農業・食品・獣医庁は、乱獲や海水汚染が原因
で海産物が不足しているため、世界的に養殖業が急成長していると分析しています。
21
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
一般的に操業漁船は低速であり、針路も一定せず、特に網を引いているような場合には操縦性
が著しく低下し、かつ魚網自体も通航障害物となります。マ・シ海峡に設置されている分離通航帯
内部では、特に漁労活動は禁止されていないため、当該通航帯内の漁船は、他の通航船舶にと
って注意を要すべき存在です。一方で、海難事故にともなう大規模な油流出事故が発生する場合
には、水産資源などの海洋環境に与える被害は深刻です。
3.鉱物資源採取
マレーシアは石油・天然ガスを産出する国ですが、マレーシアでの石油・天然ガスの採掘は、ボル
ネオ島のサバ州、サラワク州、マレー半島東岸のトレンガヌ州の沖合い油田で行われており、マ・
シ海峡沿いにはマレーシアの油田はありません。一方、インドネシアにおいては、石油生産の拠
点が南スマトラ州のパレンバン周辺から中部スマトラのリアウ州に移っています。リアウ州の最も
代表的な油田は、ミナス油田であり、インドネシア最大の油田でもあります。リアウ州の州都プカ
ンバルからマラッカ海峡のドマイ港に至る道路沿いの地域に油井が点在しています。ここで産出さ
れた原油は、パイプラインによりドマイ港まで輸送されています。また、スマトラ島北部のナングロ
アチェ州では、天然ガスの生産が盛んです。インドネシアは世界最大の LNG 輸出国であり、イン
ドネシアの輸出 LNG の 90%が日本に輸出されています。これは、日本の全輸入量の 45%にも相
当します。また、インドネシア・リアウ諸島周辺では、外国の浚渫船による海砂の採取が盛んに行
われ、シンガポールに埋め立て用として輸出されていました。しかし、海洋環境を破壊するとの懸
念もあって、中央政府が規制を強化した以降は、下火になっています。
4.観光業
マ・シ海峡の海洋環境を観光資源とし、海峡沿岸には、タイ・プーケット島、マレーシア・ペナン島、
シンガポール・セントーサ島、インドネシア・ビンタン島などの海洋リゾート施設が立地しています。
また、マ・シ海峡では、大型クルーズ船を使用したクルーズ産業も盛んです。
ビンタン島海洋リゾート(インドネシア)
クルーズ船ターミナル(シンガポール)
22
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
D 海難事故の発生状況
マ・シ海峡における海難事故に係る統計について、現在、公表されているものは、マレーシア海事
局が同局のホームページに掲載している「海難救助活動実績」だけとなっています。
Ⅱ-13 マラッカ海峡における月毎の海難救助活動実績(2002 年)
海難の種類
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
計
割合
衝突
2
0
2
1
0
2
1
2
1
0
0
0
11
8
乗上
3
1
2
0
5
3
1
0
0
3
3
0
21
15
沈没
0
0
1
0
1
0
0
0
1
1
2
0
6
4
医療支援
0
4
0
0
3
1
1
1
2
0
0
0
12
9
機関故障
2
1
0
2
1
0
0
2
2
2
0
0
12
9
火災
0
1
1
0
1
0
2
0
1
1
1
0
8
6
海中転落
1
1
3
0
0
1
0
0
0
0
0
0
6
4
緊急
0
5
3
9
3
4
3
3
3
0
6
0
39
29
その他
0
1
9
0
3
3
0
0
4
0
1
1
22
16
合計
8
14
21
12
17
14
8
8
14
7
13
1
137
100
出展:マレーシア海事局ホームページ http://www.marine.gov.my
このマレーシア海事局の統計は、マラッカ海峡(マレーシア領海内)で発生した海難事故のみの件
数であると考えられ、同海峡のインドネシア領海やシンガポール海峡を含めると、年間、かなりの
数の海難事故がマ・シ海峡全体で発生していると考えられます。海難の種別では、衝突が8%、
乗上が 15%、沈没が4%であり、全体の 27%を占めています。
E 治安状況
海上セキュリティーに係る様々な事象の中でも、とりわけ海賊及び船舶に対する武装強盗は、海
上貿易活動にとって、数百年来続く脅威です。一方、海上テロリズムは、比較的最近になって出
現してきた新しい問題です。これらの問題を根絶することは極めて困難ですが、現在の社会秩序
に重大な影響を与える事案として各国が共同で取り組んでいく必要があります。これまで各国に
おいては、多大なる労力と資材をこの問題解決のために投入してきていますが、残念ながら、解
決の道筋はたっていません。
⇒海上セキュリティー
セキュリティーをどのように定義するか、という問題がある。セキュリティー問題とは、一般
的に、国家の保全や存立基盤などに脅威を与える事象、ということで、一昔前までは、国
が主体となる戦争がその典型的な事例であった。当時は、一個人や団体などの行為は、
国家の保全や存立に影響を及ぼすほどのものではなかった。しかし、最近においては、
23
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
麻薬の国際取引、国際テロ行為、武器の密輸出入などの犯罪行為についても、放置して
おけば国家の保全などに影響を与えうるとの認識が一般的になり、これらの事象につい
ても、Non-Traditional なセキュリティー事象としてとらえることが一般的になっている。海
事専門家の中には、従来の Military に係るものがセキュリティーであり、それ以外のもの
は全てセーフティーととらえるべきである旨主張するものがいるが、IMO 関連条約での使
用例(SOLAS 条約)、米国中央組織での使用例(Homeland Security) などを鑑みるに、そ
のようなとらえ方は適当ではない。なお、米国のブッシュ大統領が、「テロに対する戦争」と
いう矛盾する言葉を政治的プロパガンダとして使用したことも混乱の一因になっているよ
うに思われる。
⇒海賊及び船舶に対する武装強盗
海賊行為の定義について、海洋法条約はその第 101 条で、場所的な要件として、公海、
いずれの国の管轄権にも服さない場所、で発生したものに限るとしており、領海内など沿
岸国の管轄権が及ぶ場所において発生したものは、一般的に「船舶に対する武装強盗
(armed robbery against ships)」と呼び区別している。この区別は、本条約が公海等におけ
る海賊行為に着目し、これに対し国際社会が協力して対応していくべき旨を定めているこ
とによるものである。
インドネシアで発生する海賊事件の大部分は、領海内および港内で発生しており、海洋
法条約で定める海賊行為には当たらない。国際会議などでインドネシアは盛んに海賊事
件の発生は少ない旨主張するが、その意図は、普遍的管轄権の行使が認められる海賊
行為とは異なり、もっぱら沿岸国の管轄権が及ぶ国内問題であり、他の国から干渉をさ
れるべき問題ではない、ということにあると考えられる。しかしながら、いわゆる広い意味
での海賊行為は、海洋法条約の定義に該当するしないにかかわらず、現に当該沿岸国
以外の国に関わる船舶が被害に遭う以上、一国の国内問題として見過ごすことができな
いことには変りはない。
⇒数百年来続く脅威
東アジアにおいては、13~16 世紀頃、瀬戸内海、北九州の海賊が朝鮮、中国の沿岸地
域を掠奪してまわり、倭寇(日本からの賊という意)として恐れられていた。北欧において
は、8世紀後半から 11 世紀前半にかけて、スカンジナビアなどの海賊(バイキング)がヨー
ロッパ各地を襲撃していた。また、西欧においても、英国の海賊ドレイク(後に英国艦隊の
副提督としてスペインの無敵艦隊を撃破(1588 年)、エリザベス1世からナイト(騎士)を授
与される)などがスペインの交易船を襲撃していた。
⇒比較的最近になって出現してきた新しい問題
1985 年 10 月、イタリア客船のアキレ・ラウル号(Achile Lauro)が地中海の公海を航行中、
パレスチナ人のテロ組織により乗っ取られ、米国人乗客1名が殺害された。この事件を契
機として、「海上航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約」(シージャック防止
条約)の検討が開始され、1988 年3月 10 日、ローマで採択された。
24
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
マ・シ海峡を含めた東南アジア海域は、海賊事件の頻発地域です。とりわけ、マ・シ海峡について
は、海上交通路として重要であること、地政学的に重要な場所に位置していることから、海賊問題
に加え、新しいタイプの海上テロ事件発生の危険性が指摘されています。海上セキュリティーの
専門家などは、マ・シ海峡を通航する原油タンカー、同海峡の重要施設である石油化学工場やコ
ンテナ港を標的にした海上テロ事件の差し迫った脅威について警告しています。
⇒新しいタイプの海上テロ事件発生の危険性が指摘されています。
So far, terrorists have mainly used trucks and other motor vehicles packed with explosives,
or fuel-laden aircraft, as their most destructive weapons. Now, one of the biggest concerns
of authorities is that terrorists may strike using another vital form of transportation – ships
and cargo container.(Michael Richardson, A Time Bomb for Global Trade, Institute of
Southeast Asian Studies (2004) p.5)
マ・シ海峡はインドネシア、マレーシアというイスラムの国々によって囲まれています。また、同海
峡が位置する東南アジア地域には、国際テロ組織のアルカイダとつながりがあるとされるジェマ・
イスラミア、アブ・サヤフといった過激武装テロ集団が存在しています。東南アジア諸国は、シンガ
ポールなどを除き、まだまだ発展途上の段階にあり、貧困や汚職、財政赤字といった構造的問題
を抱える国が多数を占めています。このように、極めて不安定な社会体制の土台の上に現在の
秩序が成り立っており、根本的な問題解決を困難とする要因の一つになっています。
更に、マ・シ海峡には、地域的な不安定要因をかかえる場所があり、海賊や海上テロリズムの問
題を更に複雑化しています。インドネシア・スマトラ島北端のナングロ・アチェ州には、分離独立問
題に起因する政治的、軍事的不安定要因が存在します。同地域は、マ・シ海峡の西側入口に面し、
付近海域を中東からの原油を運搬するタンカーなどが多数航行しています。アチェ独立運動
(GAM)と呼ばれるインドネシア中央政府に敵対する反政府武装勢力のメンバーが、海賊、武器の
密輸、海上テロなどの犯罪活動に関与している可能性が指摘されています。また、タイ南部のパ
タニ県やナラティワット県でも、分離独立運動に起因する治安上の不安定要因が存在します。同
地域は南シナ海に面していますが、当該運動が地域的な広がりを示す場合には、マ・シ海峡の安
全な通航に影響を与える可能性も否めないため、今後の情勢の推移を見ていく必要があります
(図Ⅱ-15 参照)。
1.海賊事件の現状
民間機関である国際海事局(IMB: International Maritime Bureau)は 1992 年 10 月、マレーシアの
クアラルンプールに「海賊報告センター(Piracy Reporting Centre)」を設立し、船舶からの海賊報告
の受信中継業務などを行うとともに、海賊事件の現状に関する報告書を四半期毎に発行していま
す。マ・シ海峡を含む東南アジア地域で発生する海賊事件(未遂を含む)の発生件数は、同局の
統計によると下表のとおりです。
25
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
1999 年
マラッカ海峡
2000 年
2001 年
2002 年
2003 年
2
75
17
16
28
シンガポール海峡
14
5
7
5
2
合計
16
80
24
21
30
東南アジア合計
161
242
153
153
170
全世界合計
300
469
335
370
445
Ⅱ-14 過去5年のマ・シ海峡における海賊事件発生件数(国際海事局(IMB))
東南アジア海域における 2003 年の海賊事件の発生件数は 170 件(前年は 153 件、前年比 11.1%
増加)であり、世界全体(445 件、前年比 20.3%増加)の 38.2%を占めています。世界全体では、
前年 370 件、前々年 335 件であり、突出した 2000 年を除き、ここ数年は着実な増加傾向を示して
います。
多数の海賊事件が報告されている東南アジア海域の上位3港(錨泊地)は、インドネシアのバリク
パパン港(Balikpapan)が 7 件(前年は 21 件)、フィリピンのマニラ港(Manila)が6件(前年は0件)、
インドネシアのサマリンダ港(Samarinda)とジャカルタのタンジュン・プリオク港(Jakarta-Tg. Priok)
が5件(前年はともに 11 件)となっています。
実際の襲撃事件
インドネシア
乗船
ハイジャック
行方不明
火器の使用
76
9
1
3
マレーシア
3
マラッカ海峡
6
フィリピン
7
シンガポール海峡
1
タイ
2
合
計
襲撃未遂事件
95
3
合計
襲撃未遂
32
121
2
5
8
11
28
2
3
12
1
2
2
12
1
13
49
170
Ⅱ-15 2003 年東南アジアで発生した 170 件の内訳(国際海事局(IMB))
海賊襲撃時の船舶の運航状況については、東南アジア海域の実際の襲撃事件 108 件のうち、47
件(43.5%)が、また、同海域の襲撃未遂事件 62 件のうち、7件(11.3%)が停泊又は錨泊中となっ
ています。この実態を別な角度から見ると、停泊又は錨泊中の船舶に対する海賊事件計 54 件の
うち、47 件は成功、7件は未遂であり、襲撃成功率は 87%、一方、航行中の船舶に対するもの計
116 件のうち、61 件は成功、55 件は未遂であり、襲撃成功率は 52.6%となります。
襲撃に使用される武器は、世界全体の合計件数(445 件)中、銃器(100 件)、ナイフ(143 件)となっ
ています。東南アジア地域では、170 件のうち 58 件において銃器が使用されており、世界全体の
平均(22.5%)に比べ、銃器の使用される比率が 34.1%と高くなっています。
26
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
襲撃された船舶の船種及び国籍については、特段の傾向、規則性は見られません。なお、世界
全体では、日本籍船に関するものは0件(前年は1件)、日本関係船舶に関するものが 24 件(前年
は 20 件)報告されています。
依然として、東南アジア海域は、世界三大海賊多発地域(他の二地域は、①アフリカ・紅海地域、
②南・中央アメリカ・カリブ海地域)の中の一つとなっています。世界全体の海賊事件発生件数は
憎加傾向にあり、2003 年は、1991 年に IMB が統計をとり始めて以来、2番目の高い発生件数と
なる 445 件を記録しました(なお、過去最高は 2000 年の 469 件)。
インドネシア海域は 2003 年についても依然として最高の発生件数(121 件)を記録しました。マラッ
カ海峡については、前年は 16 件と 2000 年の 75 件に比べ著しい減少を示したが、2003 年は 28
件と増加に転じました。タンカーを攻撃対象とした事件は 22%と増加しました。また、特にマラッカ
海峡においては、複数のボートが協力をして船舶を襲撃する事件が増加しています。この種事件
では、船舶の上部構造物に銃を乱射し船舶を強制的に停船させるという手口も用いられていま
す。
ハイジャック事件の発生傾向は、ここ2、3年、増加傾向を示していましたが(2002 年には、ハイジ
ャック事件が 16 件から 25 件に増加するなど、より計画された知能犯的事件が増加していることが
懸念された)、2003 年については、19 件に減少しています。なお、ハイジャック事件は、おおまか
に、分類1:軍事的組織による軍事作戦的襲撃活動であり、乗組員を人質にとり、当該組織の活
動資金とする身代金を要求するもの、分類2:タグやバージ等のいわゆるソフト・ターゲットを攻撃
対象とするもの、に分かれます。
また、殺害された乗組員・乗客の数は、2001 年の 21 名から前年は 10 名に減少したが、2003 年は
再度 21 名に増加しました。
1999 年 10 月のアロンドラ・レインボー号事件以降、国際犯罪組織が関与すると考えられる大規模
な海賊事件は発生していません。
海賊事件による被害は、専ら、金銭、船の艤装品、貨物、船体、乗組員の生命に及びますが、船
舶が一時的に海賊の支配下に置かれることにより、他の通航船舶との衝突事故、浅瀬への乗り
上げ事故、当該事故に引き続いて発生する可能性のある油流出事故など、二次的な被害を生じ
ることがあります。
2.東南アジアのテロリズムの現状
マ・シ海峡が位置する東南アジア地域には、国際テロ組織のアルカイダとつながりがあるとされる
ジェマ・イスラミア、アブ・サヤフといった過激武装テロ集団が存在していることは先に述べました。
特にジェマ・イスラミアは、シンガポール、マレーシアなどにも活動拠点を置いており、東南アジア
のほぼ全域で活動していると考えられます。実際にシンガポール、マレーシアなどではその構成
27
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
員が治安当局に拘束されています。
⇒テロリズム
「テロリズム(terrorism):特定の政治目的達成のために、暴力またはその威嚇を通じて恐
怖状態をつくりだす行為。容疑者、被害者、行為地などが複数国家にまたがるテロ行為を
国際テロとよぶ。」(現代用語の基礎知識 2003 513 頁)
テロリズムをどのように定義付けするかについては、現在、統一されたものがなく、各組
織が個々の必要性にもとづき行っているのが現状である。なお、テロ問題に対処するに
際し、統一された定義が必要であると主張する者もいる。
海上テロリズムと海賊の相違点であるが、①行為の動機(政治的宗教的か経済的か)、
②行為の対象(欧米的、世俗的、キリスト教的なものか金銭的価値のあるものか)、③行
為の結果(破壊か略奪か)というように分けて考えることができる。しかし、海賊についても
テロリズムについても、経済較差が原因であったり、高度な銃火器が使用されたり、人命
被害や船舶の破壊が生じているなど共通する部分も多く、また、通航船舶の両舷を取り
囲んでいきなり機関銃を掃射する海賊もいれば、アチェの GAM のように宗教を掲げる団
体が海上で強盗などの犯罪行為を働いている例もあり、海上テロリズムと海賊との境は
截然としない。
⇒ジェマ・イスラミア、アブ・サヤフといった過激武装テロ集団
ジェマ・イスラミアは、1940 年代に出現したダルル・イスラム(イスラムの家という意)という
団体がもとになっており、オランダの植民地政策に対抗するインドネシア革命軍と共に戦
った同士を意味する。1949 年のインドネシア独立後、ダルル・イスラムのメンバーはインド
ネシア政府の抑制によりマレーシアなどに逃亡するが、1998 年のスハルト政権崩壊後は
インドネシアに帰国する幹部もあった。その後、マレーシアに逃亡していたダルル・イスラ
ムの指導者が、インドネシア、マレーシア、フィリピン南部、シンガポールにわたるイスラム
国家を建設する目的でジェマ・イスラミアを結成するが、その中に、アブ・バカル・バシルや
アブドラ・スンカーも含まれていた。アブドラ・スンカーは旧ソ連アフガン戦争に参加しアル
カイダとの関係を親密にする基盤を作ったとされる。その後、彼は、アフガニスタンのアル
カイダの軍事訓練所にジェマ・イスラミアのメンバーを送り込んでいる。1999 年、アブドラ・
スンカーは死亡するが、アブ・バカル・バシルが指導権を握る。その後、ジェマ・イスラミア
は 2000 年 12 月のインドネシア各地の教会爆破事件、2002 年 10 月のバリ島爆破事件な
どの一連のテロ事件を実行することになる。現在、アブ・バカル・バシル(2002 年 10 月、イ
ンドネシアで身柄を拘束)は同組織の精神的指導者とされ、また、通称ハンバリ(本名リド
ワン・イサムディン)(2003 年8月、タイで身柄を拘束)は軍事的指導者とされる(White
Paper, The Jemaah Islamiyah Arrests and the Threat of Terrorism, Ministry of Home Affairs,
Singapore (2003) p. 6)。
東南アジアの過激武装テロ集団は、この他にも、インドネシアのアチェ独立運動(GAM)、
28
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
フィリピンのモロ・イスラム解放戦線(MILF)、マレーシアのマレーシア武装組織(KMM)、
タイのパタニ・イスラム闘争運動(GMIP)があり、相互に、また、アルカイダともつながりが
あるとされている。これらの集団のほとんどがイスラム原理主義に活動理念を置いており、
域外のイスラム集団からの支援を受けているとされる。
⇒シンガポールではその構成員が治安当局に拘束されています。
シンガポール当局は、2001 年、13 名のジェマ・イスラミアのメンバーの身柄を拘束し、取
調べによって判明した事実を、「White Paper, The Jemaah Islamiyah Arrests and the Threat
of Terrorism」として公表した。その中には、同組織の歴史的背景、目的、東南アジア・テ
ロ・ネットワーク、シンガポールを対象としたテロ計画などについて詳しく述べられている。
2001 年の米国同時多発テロ事件を契機に、各国治安当局の摘発活動が強化され、テロリスト国
際的包囲網が形成されつつあります。東南アジアにおいては、ハンバリ、アムロジ等のジェマ・イ
スラミア幹部の逮捕などにより、活動力が低下しているとされてはいるものの、宗教的理念を活動
の原動力としていること、逮捕された幹部に代わる新しい世代の幹部が存在すること、世界最大
のイスラム教徒を抱えるインドネシアやマレーシアでは潜伏する場所が豊富にあること、宗教学校
からテロ活動に適した人材をリクルートし教育していること、活動資金が豊富であること、などから、
引き続き、テロの脅威は存在しています。
⇒活動資金が豊富
過激武装テロ組織の中でもジェマ・イスラミアは活動資金が豊富であるとされる。ジェマ・
イスラミアは、その活動を支えるため、洗練された資金調達やビジネス構造を作り上げて
いる。ジェマ・イスラミアには、EQTISOD(Economic Wing)という組織があり、そこが長期的
な資金調達計画の策定や実際の資金調達活動を行っている。ジェマ・イスラミアは、各地
に会社を設立しビジネスを行っており、そのビジネスから得られる利益の 10%が「ジハド基
金(Jihad Fund)」として積み立てられる。その基金からの支出は、専ら軍事的指導者であ
るハンバリが管理しており、メンバーの交通費、アフガン、ミンダナオでの軍事訓練、武器、
爆薬の購入などに充てられる(White Paper, The Jemaah Islamiyah Arrests and the Threat
of Terrorism, Ministry of Home Affairs, Singapore (2003) p. 6)。
⇒引き続き、テロの脅威は存在しています。
マ・シ海峡沿岸3カ国で発生した主要なテロ事件は次のとおりである。
・ 2002 年 10 月 12 日 バリ島での爆破事件
・ 2002 年 12 月 スラウェシ島、マクドナルド爆破事件
・ 2003 年4月 ジャカルタ空港ターミナル爆破事件
・ 2003 年7月 インドネシア国会敷地内爆破事件
・ 2003 年8月5日 ジャカルタ・マリオット・ホテル爆破事件
・ 2004 年9月9日 ジャカルタ・オーストラリア大使館前の爆破事件
3.海上テロ事件
29
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
海上テロについては、これまでのところ、東南アジア海域では発生していませんが、先ほども述べ
ましたが、新しいタイプの海上テロ事件発生の危険性が指摘されています。海上セキュリティーの
専門家などは、マ・シ海峡を通航する原油タンカー、同海峡の重要施設である石油化学工場やコ
ンテナ港を標的にした海上テロ事件の差し迫った脅威について警告するとともに、放射性物質や
核爆弾を使用した海上テロの可能性についても指摘しています(Michael Richardson, A Time
Bomb for Global Trade, Institute of Southeast Asian Studies (2004) p.49)。また、海賊問題と海上テ
ロ問題とをリンクさせ、テロ組織が海賊国際犯罪組織に接触し始めた(後に米国がそのような事
実を示す情報はないとして否定)、テロリストが船舶をハイジャックして操船訓練を実施している、
といった憶測も流れています。
⇒東南アジア海域では発生していません
東南アジア海域以外で発生した主要な海上テロ事件は次のとおりである。
・1985 年 10 月、イタリア客船のアキレ・ラウル号(Achile Lauro)乗取り事件
・2000 年 10 月 12 日 イエメンのアデン港沖での米国駆逐艦コール(Cole)自爆テロ事件
・2002 年 10 月6日 イエメン沖での原油タンカー・リンバーグ号(Limburg)自爆テロ事件
・2004 年4月 24 日 イラク沖のバスラ石油積出しターミナル沖自爆テロ事件
2004 年2月、マニラ湾で発生した大型フェリーボート SUPERFERRY 14 の爆破炎上事
故は、116 名の死者・行方不明者を出したが、フィリピン当局はアブ・サヤフ(Abu Sayaff)
の犯行との見方をしている(Michael Richardson, Staying vigilant: a multi-layered defense,
Port of Singapore (Sep. 2004) p.22)。
消火作業中のタグボート
傾斜し甲板が焼け焦げている SUPERFERRY 14
写真提供:比 CG 派遣 JICA 専門家チーム
⇒放射性物質や核爆弾を使用した海上テロの可能性
通常の爆発物の中に放射性物質を詰め、爆発力によって当該放射性物質を拡散させる
タイプのものや、核爆弾を海上輸送コンテナの中に設置し爆破させるタイプのものが指摘
されている。
30
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
これまで東南アジア海域で海上テロ事件が発生していないのは、この地域のセキュリティーが厳
しいからではなく、海上テロ行為を行う意思がテロリスト側に無かっただけのことであり、仮に、そ
のような意思を持っていたのであれば、容易に実行されたとも考えられます。シンガポールのトニ
ー・タン副首相は、様々な機会をとらえて海上テロの可能性について警告しています。一方で、そ
のような海上テロの可能性を過度に強調することは、海事関係者の警戒心をいたずらに煽り、海
上輸送活動の萎縮、保険料の高騰などを招きかねない、といった指摘もあります。
いずれにせよ、船舶を攻撃対象とした、又は船舶を攻撃手段とした海上テロに対する脅威は、海
賊同様、船舶の安全な航行に重大なる影響を与える事象として、見過ごすことのできないくらい深
刻な問題として捉えられています。
4.ナングロ・アチェ州(インドネシア)の情勢
インドネシアのスマトラ島の北部のナングロアチェ州(旧アチェ特別州)(図Ⅱ―16 参照)は、天然
ガスを産出する人口 400 万人程の州ですが、古くから分離独立運動が盛んであり、一部の急進派
がゲリラ組織となってテロ活動を行っています。
パタニ
タイ
オイル・ルート
ヤラ
ナラティワット
ナングロ・アチェ州
マレーシア
スマトラ島
図Ⅱ―16 ナングロアチェ州(インドネシア)、タイ南部
⇒古くから分離独立運動が盛んであり、一部の急進派がゲリラ組織となってテロ活動
アチェ問題は、この地域一帯の豊かな鉱物資源をめぐる経済権益に起因するとする見方
がある。
これまでの同州におけるテロ活動は専ら同州に駐屯し又は派遣されたインドネシア国軍の陸上施
設や天然ガス採掘施設などが対象となっていましたが、2001 年前半には、アチェ沖で海賊事件が
31
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
増加するという傾向が見られました。このようなケースでは、海賊は船を襲撃して乗組員を誘拐し
身代金を要求しています。また、2001 年9月には、ゲリラ組織の「自由アチェ運動(GAM: Gerakan
Ache Merdeka)」を名乗る者がホンジュラス船籍船オーシャン・シルバー号(Ocean Silver)を襲撃し、
乗組員 12 名のうち6名を人質にとる事件が発生しています。この背景には、事件に先立ち、GAM
のスポークスマンが「マラッカ海峡を通航する船舶は、自由アチェ運動から許可を得なければなら
ない」と発表したことがあると考えられています。つい最近においても、マラッカ海峡の同州沖では、
GAM の関与は明らかではありませんが、通常の海賊事件とは質を異にする襲撃事件や身代金
要求事件が発生しています。現在までのところ、GAM の活動範囲は専ら陸上が主体ですが、今
後の情勢次第では、国際社会に自らの立場や政治目的をアピールするため、マラッカ海峡を通航
する船舶を攻撃対象としたテロ活動を行う潜在的危険性が懸念されます。
⇒通常の海賊事件とは質を異にする襲撃事件
事例1:冷凍鮮魚運搬船 Dong Yih 号被発砲事件
2003 年8月8日(金)1745 頃、マラッカ海峡アチェ沖(北緯5度 43 分、東経 97 度 44 分)
において、シンガポール向け航行中の冷凍鮮魚運搬船「Dong Yih 号」(台湾船籍、総トン
数 3,000 トン、乗組員 32 名、鮮魚 1,200 トンを積載)がオイルリグ補給船に扮した船舶2
隻に分乗した武装海賊に2時間もの間、追跡され、自動小銃の発砲を受けた。この発砲
により、船長が足に怪我をした。
事例2 タンカーPenrider 号人質事件
2003 年8月 10 日(日)1330 頃、マラッカ海峡のインドネシア領海内(ポートクラン沖約 16
海里、北緯2度 47.5 分、東経 101 度 5.3 分)(事件発生場所については、マレーシア領
海内であるとするものもある)において、シンガポールからマレーシア・ペナン向け航行中
のタンカー「Penrider 号」(マレーシア船籍、総トン数 740 トン、乗組員 10 名、船舶燃料油
1,000 トンを積載(17 万 US ドル相当))が自動小銃(AK-47、M-16)、グレネード・ランチャ
ーなどで武装し漁船に乗船した 10 名の海賊に襲撃(200 発以上の発砲を伴う)された。
海賊は当初、乗っ取った P 号を Pulau Jemor に向かわせた。同日 2010 頃、北緯2度
52.7 分、東経 100 度 34.0 分の地点において、P 号船体及び乗組員の一部(7名)を解放
したが、船長、機関長及びニ等機関士を人質にとり、現金(10,000 リンギット)、乗組員の
所有物(携帯電話等)、船舶の書類及び証明書を奪って逃走した。なお、海賊は人質の解
放と引き換えに、身代金を船主に要求、結果的に 20 万リンギット(日本円で約 620 万円)
を支払い、人質として拘束されていた乗組員が開放された。なお、海賊の一人が船長の
頭部に銃をつきつけ、我々は Tentera Negara Acheh (TNA)(インドネシア語で「Tentera」は
軍隊を、「Negara」は国家を、意味する。従って、「TNA」とは、アチェ国の軍隊、つまり、独
立国たるアチェ国の軍隊を意味する)の者であると言ったとされている。
この他にも、2003 年4月初め、インドネシア船籍の一般貨物船が、3隻に分乗した 50 名
程の武装した海賊により、船舶の両舷から船舶が停止するまで発砲を受けたという事件
がある。この事件では、船長、一等航海士、機関長が人質に取られ、現在まで安否が分
かっていない。それ以降も、同海域においては、同様な事案が発生しており、国際海事局
32
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
は通航船舶に対し、アチュ沖を航行する場合はできるだけ沖合いを航行するよう呼びか
けている。
これらの海賊事件で注目すべき点は次のとおりである。
・ はじめから銃器をためらうことなく使用し停船を強要している。なお、使用される武器は、
自動小銃(AK-47、M-16)やグレネード・ランチャーといった強力な武器である。
・ 軍服のような統一された服装を着用している。また、自ら Tentera Negara Acheh (TNA)
の者である旨名乗っている。
・ アチェ州周辺海域ではなく、ポートクラン沖でも発生している。
・ 船舶の積荷には興味を示さず、乗組員を人質に取り、現金を要求している。
これらの海賊事件で使用された武器は、自動小銃やグレネード・ランチャーといったもの
だが、これらは、通常陸軍歩兵が携行する典型的な武器であり、スマトラ島の海賊が使用
するもの(長刀等)に比べると、はるかに強力なものと言うことができる。また、海賊は軍
服のようなある程度統一した服装を着用し、自ら Tentera Negara Acheh (TNA)の者である
旨名乗るなど、これまでの海賊事件とは性格を異にしている。特に大きな懸念材料として
は、仮にこれらの海賊がアチェ反政府勢力のメンバーである場合、これまでアチェ周辺に
限定されていた彼らの活動が、アチェ州におけるインドネシア国軍による軍事作戦の進展
に伴い、隣接する地域へ拡散し始めたということである。このような例は、米軍によるアフ
ガニスタン進攻後に、当該地域のテロ組織のメンバーが世界各地に拡散したように、アチ
ェにおいても同様の状況が発生し得ることは容易に想定できる。ポートクラン港はマレー
シア最大の港湾であり、また、マレーシアの首都クアラルンプールとも非常に近い場所に
あります。マラッカ海峡のインドネシア側の沿岸地域は、マングローブや熱帯雨林が生い
茂る土地であり、拡散したアチェ反政府組織が潜み、折を見て、沖合いを通過する船舶を
狙うにはもってこいの場所といえる。
アチェ州の分離独立の歴史は古く、1953 年、インドネシア共和国からの分離独立を求める勢力が
イスラム共和国樹立を要求し、独立闘争を開始したことに始まります。この結果、1959 年、首相通
達により、宗教、教育、文化・伝統の分野での自治権が与えられた「アチェ特別州」が設置されま
した。1976 年には、アチェ州の国王の流れをくむハッサン・ロティが自由アチェ運動を結成し、アチ
ェ・スマトラ国の独立を宣言して武装闘争を開始しました。一時、最高指導者のハッサン・ロティが
スウェーデンに亡命していたことで運動は沈静化しましたが、1980 年代半ばより活動が再び活発
化し、1989 年以降の軍事作戦地域時代(DOM: Daerah Operasi Militer)を経て、1998 年5月のスハ
ルト体制崩壊まで続きました。その後、1998 年8月には、軍事作戦の停止と域外部隊の撤退が発
表され、2000 年5月の休戦合意、2002 年2月には、州の自治権を拡大する「アチェ特別法」の施
行、2002 年 12 月には、中央政府と GAM との間で和平協定が成立するなど、平和的解決に向け
大きく進展することが期待されていました。しかし、双方の根強い不信感から、2003 年に入って武
力衝突が再発し 100 人以上の住民などが犠牲になりました。2003 月5月、このような和平協定の
崩壊が危ぶまれる状況を受け、和平維持に向けての最後の協議が東京で行われましたが決裂し
ました。このため、インドネシアのメガワティ大統領は、軍事非常事態を宣言し、GAM の掃討を目
33
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
的とした大規模軍事作戦を発動しました。なお、この軍事作戦で、5千人と言われた GAM の勢力
は、死亡・投降により2千5百人程度に減ったと言われています。この間、アチェ周辺の海域(領
海)では、マレーシア及びタイからの武器の密輸を防止すること、GAM メンバーの国外逃亡を防
止すること、を目的として、インドネシアは外国船舶が当該海域に侵入することを一時的に禁止し
ました。
沿岸国の政情不安が沖合いを航行する船舶の安全性に影響を与える例として、アフリカのソマリ
ア沖の状況が挙げられます。ソマリア沖海域は、紅海とアラビア海を結ぶ重要な海域であり、スエ
ズ運河を経由する船舶は必ずその海域を通過します。この海域の南側の沿岸部が「アフリカの
角」と呼ばれる地域であり、エチオピア、エリトリア、ジブチ及びソマリアから構成されています。こ
の地域は、複雑な民族構成をもち、かつ、イスラム教徒とキリスト教徒とが混在しているため紛争
が絶えません。IMB 海賊報告(2003 年版)の中でも、この海域は、船舶ハイジャック事件の危険地
帯であり、ソマリアに寄港しない船舶は沿岸から最低 50 海里、可能であれば 100 海里離れて航行
することとされています。実際、高速艇や砲艦に乗った武装海賊が通航船舶に射撃を加えたり、
ハイジャックするなどの事件も発生しています。
ナングロアチェ州の情勢については、現在のところ、ソマリア沖のような状況には至っていません
が、マ・シ海峡とインド洋との間を航行する船舶が最短コースを取ろうとした場合、スマトラ島の北
端にあるナングロアチェ州沿岸を通過することになります。従って、同州における治安情勢が、少
なからず、同州沿岸を航行する船舶の航行安全に影響を及ぼしかねないという潜在的な危険性
が存在しています。今後、同州における治安情勢の進展状況等を注意深く見ていく必要がありま
す。
5.タイ南部の情勢
2003 年 10 月、タイ・バンコクにおいて第 11 回 APEC 首脳会議が開催されましたが、それに先立ち、
タイ政府はジェマ・イスラミアとされるイスラム学校の経営者など数名を逮捕しました。APEC 首脳
会議においては、テロ対策を複数含む首脳宣言「未来に向けたパートナー・シップ」を採択する予
定であり、タイ政府としてもテロ対策には全力で取組んでいるという姿勢を対外的に示す必要があ
った、とされています。タイはかねてより、タイ南部のイスラム教徒問題という微妙な問題をかかえ
ており、このようなタイ政府の便宜主義的な対応がイスラム教徒の感情を逆なでし、一連の過激
暴力行為に発展していったと考えられています。
⇒テロ対策を複数含む首脳宣言
この宣言の中の「人間の安全保障の強化(enhancing human security)」において、APEC メ
ンバーを脅かす国際的なテロ・グループを完全に、かつ遅滞なく解体する、ために全ての
必要な行動をとることが確約されている。
2004 年1月4日、タイ南部ナラティワット県(図Ⅱ―16 参照)でイスラム過激武装組織とみられる集
団が、軍の武器庫を襲撃し、4名の兵士を殺害、多量の武器を強奪しました。また、学校 20 カ所、
34
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
交番3カ所も放火されました。このため、タイ政府は即日ナラティワット県、ヤラ県及びパタニ県の
3県に戒厳令を布告しました。翌5日、戒厳令下のパタニ県で、交番付近のゴミ箱に置かれた爆
弾が爆発しました。この爆発により警察官1名が負傷しました。また、ショッピング・モール駐車場
のバイクの後部座席下から爆弾が発見され、警察官が信管抜取り作業を行っている際に爆発し、
警察官2名が即死しました。この後も、タイ南部では、軍兵士、警察官、仏僧侶の殺害事件が相次
ぎます。
⇒イスラム過激武装組織とみられる集団
タイのイスラム分離独立を主導する組織には、パタニ・イスラム闘争運動(GMIP)、国民
革命戦線(BRN)、パタニ統一解放組織(PULO)などがある。
2004 年4月 28 日には、イスラム教徒が警察署を襲撃する、という情報を事前に得た国軍と警察が
待ち伏せを行い武力衝突が発生しました。これにより、イスラム教徒側 107 名、軍兵士2名、警察
官3名の計 112 名が死亡しました。国軍側の制圧活動は、モスクに立てこもったイスラム教徒にロ
ケット砲弾を撃ち込むなど、凄惨をきわめました。
その後も、5月には、仏教徒の農夫が何者かに殺害され、切断された首を道路わきにさらされると
いう事件が発生しました。また8月には、ナラティワット県の市場で、バイクに仕掛けられてあった
爆弾が爆発し、1名が死亡、27 名が負傷しました。この 27 名の負傷者の中には、警察官 11 名と
子供9名が含まれています。
現在、タイ南部のイスラム過激集団の活動はタイ湾に面した陸上に限られていますが、インドネシ
アのアチェ同様、情勢の変化によっては、マ・シ海峡に面した地域にも拡大し、イスラム過激集団
が海上に出てくることも懸念されます。ただし、当該海域は主要な国際航路から離れていることも
あり、アチェ沖の海域に比べると、国際海運に対する与える影響は少ないと考えられます。
翻訳編集資料:Nippon Maritime Center
コラム:第5回海賊及び海上セキュリティーに関する IMB 会議
(2004 年 6 月 29 日、30 日マレーシア・クアラルンプール、3 年毎に開催)
はじめに
・第 5 回海賊及び海上セキュリティに関する国際会議が 2004 年 6 月 29 日と 30 日マレーシア
のクアラルンプールのホテル・ムティアラにて行われた。この会議には 34 カ国から 180 人の代
表者、そして6つの国際機関及び団体が出席した。
・この会議は ICC 国際海事局の呼びかけにより、王室マレーシア警察と共同で行われた。香港
のノーブル・グループの傘下のフリート・マネージメント社もこの会議の運営に協力をした。
35
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
・本会議は極限られた企業関係者や法執行機関関係者・政府関係者のみが出席する形で行
われた。
会議の進行記録
このレポートは会議の重要な論点を整理したものであり、会議での発表を逐語的に掲載したも
のではない。内容を分かりやすくするために、発表に関して出た様々な意見も進行の前後とは
異なるが、一緒に掲載している個所もある。
2004 年 6 月 29 日(火曜日)
マレーシア内務省副大臣 YB Chia Kwang Chai 氏により会議の開幕が宣言された。マレーシア
がこの会議のホスト役を務める意義と海賊行為を抑制することの重要性について述べた。また
IMB 海賊報告センターの報告によると海賊行為が増加の傾向にあることにも言及。最後にこ
の会議が成功するようにと締め括った。
基調演説
テロリズムとセキュリティに関する著名な専門家である Brain Jenkins 氏が The Real Threat of
Maritime Terrorism
Separating Fact from Fiction (海上におけるテロリズムの真の脅威―事
実とフィクションの分離)という題で基調演説を行なった。彼は統計の解釈に偏って比重を置くこ
との危険性について警鐘をならすと同時に、テロの脅威の分析は確固たる分析的情報のもと
に行わなければならない点を強調した。またテロの脅威の分析と脆弱性分析(バルネビリティ
ー)を混同することの危険性についても言及した。脆弱性を明らかにすることはテロの脅威とは
同じではなく、脆弱性とは可能性(または確立性)と解釈され、それが発展すると将来発生が避
けられない脅威として、その最終段階として差し迫った脅威としてそれぞれ解釈されることを説
明した。海賊行為の増加はテロの脅威の増大を示すことにはならないという点も指摘した。テロ
が環境に与える影響について質問があり、Jenkins 氏は、それらはテロが意図して起こした結果
と考えるよりはむしろ、偶発的な結果起こりえるものであると説明した。
会議 1-海賊行為および船舶に対する武装攻撃の現状
IMB の Captain P K Mukundan 氏は IMB 海賊報告センターがまとめた統計をもとに海賊行為
及び船舶に対する武装攻撃の実状を報告した。注目すべきは、年間の統計ではこれらの発生
件数が年々増加していることを示している点である。2002 年には 370 件発生したのに対し、
2004 年には 445 件発生している。そして、359 名の船員が人質として身柄を拘束され、93 名は
殺害もしくは行方不明になっている。事件の目的には、船舶に保管されている貴重品の強奪か
ら船舶そのものの強奪まで含まれている。一方、ハイジャック事件の傾向に変化が見られるよ
36
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
うになった。船舶は船そのものや船荷のためにハイジャックされるのではなく、海賊は船員を身
代金目当てで誘拐するため船舶のハイジャックをする。また、タグボートやバージなどがハイジ
ャックの対象となっている。2003 年に海賊行為が最も頻繁に発生した地域は、インドネシア、バ
ングラデシュ、インド、ナイジェリア、ヴェネズエラ。2004 年に入り最初の2、3ヶ月間、バングラ
デシュとインドの水域内での船舶に対する攻撃が劇的に減少した。このことは、これらの国々
において、取り締まり強化が行われた結果、海賊が逮捕されたためである。政府が取り締まり
強化を優先事項とし、そのために予算や人員等の資源を配置すると、事件の発生が減少する
ということが、明らかになった。今年6月の21日間に、北スマトラ沿岸沖で船舶に対する攻撃が
7件発生している。これらはいずれも、高等船員を身代金目的で誘拐しようとしたものである。
IMB はインドネシア政府に対して、この件について書簡を送っており、インドネシア政府がどう
いう対応をするのかを待っている状態である。2004 年に入り、IMB 海賊報告センターの協力に
より、少なくとも 3 隻のタグボートとバージが発見された。発見時、これらの船は通風機や煙突
などが除去または付け替えられるなどして、外観への改造が行われている途中であった。もし
改造が終わってしまっていたなら、船舶の発見はより困難になっていたと思われる。
NUMAST の Andrew Linington 氏は船員の現状について言及した。乗り組む船員の数がかつ
てないほど少なくなり、人手不足から海賊警戒を行う人員が足りていないことを指摘、また ISPS
コード(船舶と港湾施設の警備に関する国際コード)が船員に与える影響についても説明した。
リンバーグ号で起きたテロ事件は石油の供給動向が不安定な時期に起こったため、石油の値
段の高騰に繋がりかねなかったことを挙げ、これらのテロ行為が経済に深刻な影響を与えかね
ない点を述べた。
ロンドン警察の Det. Superintendent Suzanne Williams 氏は身代金目的の誘拐事件の取り扱い
について意見を述べた。身代金目的の誘拐事件は他の事件とは性格が異なることを指摘、事
件対応センターを設置することや身柄を拘束されている人質の開放交渉など、事件を取り扱う
過程の中で重要な段階について詳しく説明をした。会場からの質疑応答の際、人質解放の交
渉は国によって文化的背景の違いからとてもデリケートなものであり、この点を認識したうえで
行うようにと助言した。
シンガポール大学の准教授 Dr Robert Beckman 氏は海賊行為とセキュリティに対する法的な側
面について言及した。ISPS コードに関する SOLAS 条約の 2002 年 12 月の改正に係る状況は
進展中であること、また AIS(船舶自動識別装置)の設置の開始については前進が見られるこ
とを指摘した。ISPS コードが海賊行為やその他の船舶に対する攻撃を防止するのに役立つ一
方、SOLAS 条約の改正は海運の脆弱地点でのセキュリティの改善には言及していない点を挙
げた。また総計で 107 の締約国が SUA 条約へ加入しており、これらの国々に登録された船舶
の数は、全体の 80%に相当する。しかし、SUA 条約の改正案はまだ議論されている途中であ
る。問題となっているのは排他的経済水域外での船舶への立入乗船についてと、承認要求に
対して 4 時間以内に当該船舶の旗国から何の応答も無かった場合の旗国による暗黙の了解と
いう点である。また、マレーシアとインドネシアによって拒否された地域海上セキュリティ・イニシ
37
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
アチブにも言及した。
マレーシア首相府・国家安全保障局の Mr Abd Rahim Hussain 氏は海賊行為やその他の犯罪
行為に対処する国際的・地域的イニシアティブについて発表した。地域的取り組みとして、
RECAAP 協定について言及した。海賊対策のため、マレーシアでは海事関係当局のマレーシ
ア沿岸警備隊への再編を進めているところである。その新組織は取り締まり活動を軍隊のよう
に行うものではないと考えられている。海賊行為の取り締まりは第一の優先事項として扱わな
ければならないし、そのために政府や産業界との「賢い」パートナーシップを結ぶべきだと考え
ている。また、海賊行為取り締まりに関する情報を収集するため、金銭的なサポートを行なう自
主的な基金を設立することも提案した。最後に、海賊対策のために政府やその他の機関がお
互いに協力を続けることの大切さを言及し、また海賊行為はテロではないということを強調し
た。また、バングラデシュ政府の代表が海賊行為減少のため行った政府の対策についてコメン
トした。
マレーシア王立海軍の First Admiral Dato’ Noor Azman 氏はテロリズムとは何かを定義するこ
との大切さについて言及した。また、海賊行為を抑制するということは、海上だけに焦点を当て
るのではなく、海賊が活動の拠点を置く陸上での対策も重要であると述べた。
マレーシア海事関係当局(王立警察、王立海軍、海事局、税関、漁業局)による実動訓練
昼食後、会議出席者はクラン港に移動し、マレーシア王立警察とその他法執行機関による海
賊対策の実動訓練を見学した。実動訓練は見事に実施され、海上での強盗の取り締まり、コン
テナ船ハイジャックの解決、王立警察やその他法執行機関が新たに所有したボートや機器な
どの披露も行なわれた。この実動訓練により、マレーシア政府当局の取締り能力の高さが示さ
れた。
被襲撃船への特殊部隊の同時リペ効果
逃走した海賊の制圧
2004 年 6 月 30 日(水曜日)
会議 2-海上セキュリティ
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第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
セキュリティコンサルタントの Richard Davey 氏が海上セキュリティの将来像という主旨発表を
行った。彼は脅威の分析とその脅威が実際となった時起こりうる結果についてバランスをもって
考えなければならないことを指摘した。多くのケースでは、結果が脅威の分析より、より重要だ
と捉えられている。彼は海上で起きた重大なテロ事件としてリンバーグ号を挙げた。それ以降、
商用船舶をターゲットにした事件は起こっていない。全体的に見て、テロ事件では、殺害される
人数は海賊行為やその他の攻撃によるそれと比べ、少ない。また、現在のところ海賊行為とテ
ロとの繋がりはないことも指摘した。ISPS コードにはサプライチェーンのセキュリティや船員の
身元確認という点において、欠点があることにも言及した。一方、噂ではあるが、警備上の問題
ということで、船員は出発前に船の喫水を確認することを許されないこともあると言う。
東南アジアに関して言えば、沿岸の国同士で協力して警備を行おうという考えが一致し始めて
いる。彼はまた脅威とリスクに焦点を当て、公平な分析を行うことの重要性を強調した。リスク
にどのように対応するか、今後の課題である。次に、船主からの経済的な支援を求める声が国
際的に上がっている。ISPS コードに従うことは、船主に経済的に大きな負担をかけることを忘れ
てはならない。54%の事件が港で発生していることを考えると、政府が負担の一部を肩代わり
ことを検討すべきだと思われる。彼は、単に情報の交換を行うだけではなく、海上の国際警備
隊を統率するコントロールルームの設置を提案した。領海を越えた犯人の追跡、情報の共有、
及び共同パトロールについて国同士で共通の認識を持つ事が大切である。マラッカ海峡で海
賊問題を解決するには、海賊が追跡を逃れるため、他国の領海に入ってしまうので、領海を越
えた犯人の追跡をする権利が必要となる。質疑応答の際、イギリス王立海軍が数年前フロリダ
沖でアメリカ沿岸警備隊と行った事例を挙げ、隣国の政府関係者を乗船させることを提案した。
Tecto NV の Capt Peter Raes 氏はリンバーグのテロ事件について実に詳しく話をした。テロリスト
は右舷 4 番タンクの真中に的中させていることから、事前に詳しい情報を得ていたものだと推
察される。右舷 4 番タンクを攻撃したことで、ウェブフレーム(船の特設肋骨)に的中し、そこから
爆発のエネルギーが放出された。テロリストは積荷の積みつけについて事前に情報を得てい
たことは明らかである。この事件の後、イエメンでの保険料は 3 倍に跳ね上がった。事前にこの
種の事件が発生するのではないかと報告があったのだか、情報が曖昧すぎて、実際に対策が
取られえることはなかった。ISPS コードの結果、港における船員たちの扱いはあまりにも「ショッ
キング」なものとなっている。船員は海賊対策の重要な要素であるから、除外したり、犯人扱い
すべきではない。多くの国では船員の中にイスラム風の名前の者がいれば、全員が上陸する
ことができず、このことが船員達の中でプレッシャーとなっている。「ISPS コードはリンバーグ事
件を阻止することができたであろうか?」という問いには、彼の答えは「No」である。彼の考えで
は、海賊行為の方が、この数年でたった 2 件発生したテロよりも現実的な脅威である。
IMB の Captain Jayant Abhyankar 氏は海上セキュリティの脅威とその分析について話をした。
ギアオタウロでのテロリストの船上逮捕やテロリストがコンテナに隠れてアシュドッド港に侵入し
た爆発テロ事件などの例を挙げ、港の警備の新・旧の要望の問題点を指摘した。システムに脆
弱な点はあるが、そのことが重大が脅威になるかどうかは疑問であると述べた。
39
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
フリートマネージメント社の Captain Mayank Mishra 氏は ISPS コードの遵守の状況について話し
をした。世界中の 33%の船舶はすでに ISPS コードを遵守しており、2004 年 7 月 1 日までには
50%の船舶が遵守できる予定である。しかし、港に関しては、ISPS コードを遵守予定の港は 16
-20%しかない。フリートマネージメント社の場合、7 月 1 日の最終期限までに 100 隻以上の船
舶が ISPS コードを遵守できるようにした。遵守するに当たり、彼らが直面した問題について詳し
く説明をした。
ITF(国際運輸労連)の John Bainbridge 氏は、セキュリティ対策における人的側面について語っ
た。政府当局は積荷はテロの道具に、また船舶はテロの武器に船員はテロリストになり得ると
想定している。ITF としては ISPS コードを支持するが、船員の権利は守らなければならないと
ISPS コードは謳っているにも関わらず、政府当局がこのような考えを持っているこということは
ISPS コードの実際と矛盾しているように思われる。船員から見れば、このことは彼らにとって不
利益である。また、上陸の際必要となる船員の身分証明書は ITF によって支援されているにも
拘らず、その目的を果たしていない。アメリカでは、船員が上陸するには査証が必要であり、そ
の申請にはお金がかかり、宗教や民族により査証の発給には差別がなされている。最後に、
船員は海賊対策の問題点として考えるべきではなく、解決のための重要な要素であると考える
べきだと述べた。
日本海上保安庁の Captain Shuichi Iwanami 氏はリンバーグ号事件とバスラの港湾施設に対す
る攻撃についてふれた。地域主導のセキュリティ・イニシアチブに係る戦略として、能力の構
築、海賊対策、連帯協力を挙げた。また、2004 年アジア海上セキュリティ・イニシアティブ
(AMARSEC)について詳しく述べた。
会議 3-対応策
マレーシア王立海洋警察の SAC II Abdul Rahman Hj. Ahmad 氏はマッラカ海峡北部での主な
問題は漁民に対する強奪事件であると述べた。取り締まりに関しての戦略は、事件発生の時
宜を得た報告、及び情報収集と敏速な対応を挙げた。彼は統合される海上法執行庁の設立に
ついて説明した。また、IMB 海賊報告センターから提供される情報の重要さと船主の役割につ
いて指摘した。マレーシアは自国の領海に他国が介入することには反対の立場である。
INTERTANKO の John Fawcett-Ellis 氏は ISPS コードの実施について語った。タンカー船主は
(ISPS コードに関する)申請書を取り扱うことができない船籍国の当局に対して、失望している。
航海中の船舶に対する攻撃と港に停泊中の船舶に対するそれとは区別することの重要性を述
べた。航海中の船舶の方が、より危険に晒されている。領海を越えて犯人を追跡する必要性
は、現実的である。また、小型船にも発信機を設置することを義務付ける必要性も指摘した。
SUA 条約の改正案ついてさらに議論することやマラッカ海峡の沿岸の国々で意見交換を行う
ことのも必要である。
40
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
Petroships の Alan Chan 氏は法的管轄権の動向について発表し、UNCLOS の一部を最近の状
況に併せ改正するべきだと述べた。UNCLOS 第 43 条では海峡利用国が航行安全対策に要す
る費用を負担するという規定があるが、この点に関し、利用国と沿岸国が協力することが求め
られる。最も危険なのは領海内を航行している時である。SUA 条約の弱点は海賊や犯罪行為
の首謀者を起訴できない点である。領海を超え境目のないパトロールの必要性を訴え、この会
議の出席者で政府に嘆願する団体を結成することを求めた。
日本財団の Masazumi Nagamitsu 氏は日本政府と日本財団が海賊対策にどのような役割を過
去・現在果たしているのかについて述べた。日本財団が、海賊対策に関心を持つようになった
のは、1990 年後半、3 隻の日本の船舶が東南アジアでハイジャックされた事件からである。
CLS の Jean Pierre Cauzac 氏は Shiploc と SSAS 対応策(船舶警備警告システム)について発表
した。ISPS コードのもと、年間およそ US7 億ドルの費用を海上セキュリティ費として海運業界が
負担しなければないと考えられている。SSAS の追跡システムに関する費用は全体の 7%を占
める。彼はまた、SSAS の設置からその稼動までを段階毎に詳しく説明した。
Airship Management の Alexander Spyrou 氏は沿岸警備のための飛行船の利用について述べ
た。飛行船による警備はオリンピックなどの世界的なイベントではすでに利用されており、成功
を収めている。
Zurich Financial Services の Stefan Gussmann 氏は保険会社の立場から意見を述べた。犯罪の
発生を助長するのではなく、またテロ事件には一切関わらないこと等が保険会社の立場だと説
明。もしもの時のため Zurich 社では船主に対して損失予防プログラム(訳者注:事故発生に係
る事前予防措置を講じることにより、船主、保険会社等の損失を極力抑えることを目的としたプ
ログラム)を用意している。また、セキュリティ改善のための装置の設置について業界で共通の
ガイドラインの定める必要性を述べた。
各分科会
会議出席者は法執行機関、海軍を含む政府関係者及び、業界関係者の各分科会に分かれ
た。各分科会には、船舶がハイジャックされ船員が身代金要求のため身柄を拘束されたという
議論を行うためのシナリオが渡された。各分科会での議論の後、また一同が集まり、各分科会
での議論の内容が発表された。
政府関係者:人質解放の交渉に関して、あらゆる方策を用いて援助をする。しかし、政府の立
場として、犯人やテロリストとは交渉しない。その一方で、保険会社が船主にペナルティを課さ
ないことも重要である、と言うのもその結果保険が割高になってしまうからである。この件に関
して言えば、政府は法執行機関が検討すべき問題であると認識しており、法執行機関の間で
連携を改善することを希望した。
41
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
業界関係者:船員の身柄拘束という直接的な被害を被る。一番の関心は船舶と船員が無事に
保護されること。ある特定の状況では、目標を達成するために身代金を支払うことも考えられ
る。事件が発生した国によっては、法執行機関とは別に人質解放交渉を行った方が良いと思
われる。
法執行機関:事件が発生した場合、人質解放のため彼らが執る対策を段階を追って詳しく説明
した。対策には次のことが含まれる。事件が発生した国の政府を刺激することなく援助・助言を
行い、連携の橋渡しをする人員及び危機管理チームの設置。可能なら船舶で発生した事件現
場の保存を行う。仲介者を交え交渉の戦略について助言をする。交渉の手助けはするものの、
国によってはそのような交渉自体が非合法を考えられている場合もあるので注意しなければな
らない。
終わりの言葉
Capt Mukundan 氏は会議の共催者であるマレーシア王立警察とフリートマネージメント社に対
して、感謝の意を述べた。また、会議出席者を敏速かつ丁重に支援したマレーシア王立警察の
職員に対して礼を述べた。マレーシア海事関係局が披露した海賊対策の訓練にふれ、この訓
練が海賊行為抑制の素晴らしい例を提示したと賞賛した。会議での発表者全員にそのパイオ
ニア的なアイディアや実践を発表してくれたことに感謝の意を述べると共に、この会議の運営
のため活躍した IMB のスタッフのことにも言及した。最後に、本会議参加者全員がこの会議出
席のため時間を取ってくれたことに感謝の意を述べた。また IMB に対する批判も彼らの意見を
IMB は真摯に受け止めることを約束した。会議出席者が無事に帰路に着くことを願い、会議を
結んだ。
F マ・シ海峡の国際法上の法的地位
1.現在の法的地位
マ・シ海峡は、厳密には同海峡の地理的範囲とも関係してきますが、公海の一部分と公海の他の
部分とを結ぶ、国際航行に使用されている海峡(Straits used for international navigation) (国際
海峡)です。国際海峡の中でも、マ・シ海峡のように、ある一定の条件を満たすものについては、
「通過通航制度」が適用され、通航船舶は害されない(not impeded)通過通航権(Right of Transit
Passage)を行使して通航することができます。なお、インドネシア沿岸においては、インドネシアは
群島国家(Archipelagic State)であり群島基線(Archipelagic Baselines)を採用していることから、マ・
シ海峡の中と言えども同基線のスマトラ島側海域は群島水域を構成することになります。当該水
域には群島航路帯(Archipelagic Sea Lanes)の指定は行われておらず、また、当該水域に接続す
るインドネシア領海部分には通常国際航行に使用されている分離通航帯が設置されていることを
42
第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
考慮すると、当該群島水域を航行する外国船舶は、無害通航権を行使して航行することになりま
す(通過通航制度については、第Ⅶ章参照)。
2.法的地位の変遷
国際海峡としてのマ・シ海峡の法的地位は、様々な変遷を経て今日に至っています。ここでは、そ
の変遷について、年代順に追ってみることにします。
Ⅱ-17 海峡沿岸国における主要な動き
インドネシア
1957 年 12 月
マレーシア
シンガポール
日本
ジェアンダ宣言により
群島国家宣言
1958 年
1960 年2月
第一次国連海洋法会議、ジュネーブ四条約(領海条約等)の採択
群島法制定
1960 年
1966 年
第二次国連海洋法会議
Archipelagic Outlook
in 1966
1967 年(S42)
マラッカ海峡の通航帯設置に係る日本提案(IMCO-NAV 4)
1969 年(S44)
4国合同水路調査(予備調査)
1月~3月
1969 年8月
1970 年3月
緊急政令制定
マラッカ海峡領海確定協定
1970 年(S45)
4国合同水路調査(第 1 次調査)
10 月~12 月
1970 年 10 月
マラッカ海峡会議設立の日本提案(IMCO-NAV 10)
1971 年7月
国際海峡における通過自由を認める米国提案(国連海底平和利用委員会)
1971 年 10 月
1971 年 11 月
インドネシア・シンガポール会談、インドネシア・マレーシア会談
海峡沿岸3カ国共同宣言(16 日)
1972 年(S47)
4国合同水路調査(第2次調査)
1月~4月
1973 年
1979 年 12 月
第三次国連海洋法会議の開始
Peta Baru (New Map)
の公表
1982 年4月
国連海洋法条約の採択
1957 年、インドネシア政府は同国が群島国家である旨のジェアンダ宣言(Djuanda Doctrine)を行
いました。また、1960 年には群島法(Archipelago Act)(1960 年法律第4号)を制定し、群島(直線)基線
(当該基線の内側海域の内水化)、領海幅 12 海里を採用しました。しかし、その当時、群島国家
の概念はありましたが、広く国際社会に認められたものではありませんでした。また、領海幅につ
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第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
いても、既に国際社会の趨勢が3海里を容認しない方向ではあったものの、統一した認識は形成
されていませんでした。
⇒広く国際社会に認められたものではありませんでした。
1951 年のノルウェー漁業事件判決において、国際司法裁判所(ICJ: International Court of
Justice)は、沿岸群島と本土との間にある水域と、当該本土の陸域との間にある密接な関
係を考慮し、当該沿岸群島に直線基線を採用し、当該基線の内側を内水とすることを認
めた。大洋群島に係るインドネシアの主張は、群島と内部水域との密接な関係を主張に
している点では、ノルウェー漁業事件判決の影響がみられる(深町公信「国際海峡と群島
水域の新通航制度」『日本の国際法の 100 年第3巻 海』〔国際法学会〕三省堂 97 頁)
⇒統一した認識は形成されていませんでした。
1960 年、領海幅員問題に焦点を絞って開催された第二次国連海洋法会議においては、6
海里と 12 海里との対立となったが、最終的にはコンセンサスが得られなかった。ちなみに、
「日本は一貫して3海里を主張して、領海幅はその国際法規則が確立されないかぎり、い
ずれの国に対しても主張しうるのは3海里であるとした。」(栗林忠男「海洋法の発展と日
本」『日本の国際法の 100 年第3巻 海』〔国際法学会〕三省堂 8-9 頁)
インドネシアの群島国家の考え方は、1966 年の「Archipelagic Outlook in 1966」として完成するこ
とになります。当時の中央政府は、西イリアンジャヤ(West Irian)に対するオランダの影響を排除し、
西スマトラなどの分離独立を目指す動きを抑え、1万数千に及ぶ領土を統合することこそ、インド
ネシアという国家の保全に必要不可欠であると考えていました。インドネシアには、地政学的に2
つの大洋と2つの大陸を結ぶ位置にあり外国からの侵略を受けやすい、という認識があり、特に
マ・シ海峡はインドネシアの海峡の中で唯一他国と共有する海峡であり、自国の完全な管理のも
とにはおけない、という意味で、この海峡の危険性を危惧していました。
1960 年代、マレーシアではサラワク州(ボルネオ島)やトレンガヌ州(マレー半島東岸)での海底油
田開発が開始されており、領海 12 海里採用の必要性が高まっていました。1969 年8月2日、マレ
ーシアは緊急政令(Emergency Ordinance)を制定し、領海幅 12 海里及び直線基線を採用します。
これは、マ・シ海峡におけるインドネシア、マレーシア両国間の領海を確定するにあたり、マレーシ
アが、群島基線、領海 12 海里を採用するインドネシアと公平な立場に立つ必要性から定めたもの
です。1970 年3月、両国はマラッカ海峡の領海確定協定を締結します。この協定の裏には、二つ
の必要性があったとされています。一つは、マ・シ海峡の航行安全対策を効率的に実施する上で、
領海確定が必要であったこと、もう一つは、マラッカ海峡に海底油田があると考えられており、そ
の権益を確保する必要があったことです。当時、航行安全対策の必要性に係る両国の考え方は、
通航船舶を守る、というものではなく、通航船舶の海難事故により付随的に発生する油流出事故
などから自国の海洋環境を守る、というものでした。
⇒領海幅 12 海里及び直線基線を採用
マレーシアの領海 12 海里の採用に対し、1969 年(昭和 44 年)10 月9日、日本政府はこれ
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第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
を留保する旨の口上書をマレーシア政府に手交している(マラッカ・シンガポール海峡航
路整備事業史〔財団法人マラッカ海峡協議会〕(1978) 36 頁)。なお、これが原因となって、
海峡沿岸国と日本とによる4カ国合同水路調査(第一次)の開始が遅れることになる。
⇒領海確定協定
1970 年3月 17 日、両国の間では、マラッカ海峡の領海の境界線を定める条約(Treaty
between the Republic of
Indonesia and Malaysia on Delimitation of Boundary Lines of
Territorial Waters of the Two Nations in the Strait of Malacca)が締結されている。
1970 年頃、マ・シ海峡の国際化を試みる二つの動きがありました。一つは、1970 年(昭和 44 年)
初頭より、日本の運輸省を中心として「マラッカ・シンガポール海峡における国際航路の整備に関
する条約案骨子」がまとめられ、海峡沿岸3カ国に提示されました。このようなマ・シ海峡の国際管
理に関する問題は、1970 年(昭和 45 年)10 月の第 10 回航行安全小委員会、1971 年(昭和 46 年)
7月の第 11 回小委員会において議論されましたが、マラッカ・シンガポール海峡を国際化された
海峡に導くような議論は適当でない、という沿岸国側の態度表明により、これ以上、この構想を推
進することが不可能となりました(マラッカ・シンガポール海峡航路整備事業史〔財団法人マラッカ
海峡協議会〕(1978) 150-153 頁)。このため、これ以後、マラッカ海峡協議会による協力方式が現
在まで継続しています。また、もう一つの動きは、1971 年に、米国が国際海峡における通過自由
を認める提案を国連海底平和利用委員会に行ったことです。これは、「従来、国際海峡で認めら
れていた無害通航権は、無害性の認定を沿岸国が恣意的に行う可能性があり、・・・12 カイリ領海
のもとでは不都合である、と発言して、領海条約に規定された定義の国際海峡で公海と同様の通
過の自由を認める条文案を提出した」(深町公信「国際海峡と群島水域の新通航制度」『日本の
国際法の 100 年第3巻 海』〔国際法学会〕三省堂 97 頁)というものです。この提案は、第三次国
連海洋法会議に受け継がれ、様々な妥協を経たのち、最終的に現在の海洋法条約の国際海峡
制度に反映されることになりました。
⇒「マラッカ・シンガポール海峡における国際航路の整備に関する条約案骨子」
この条約案では、航行援助施設の維持管理費などを海峡を利用した自国船舶のトン数割
合に応じて利用国が負担すること、また、当該負担金の決定、利用国からの徴収、沿岸
国への交付などの業務を行う「マラッカ海峡会議(Malacca-Singapore Straits Board)」を設
立することなどが規定されてある。
このような海峡利用国のマ・シ海峡国際化の動きに対し危機感を持った海峡沿岸国は、1971 年、
マ・シ海峡は国際海峡でないこと、マ・シ海峡は無害通航の原則に従って国際海運に使用される
こと、などを内容とする共同宣言を行いました。なお、このような情勢変化に因り、4国合同水路調
査(第2次調査)の実施が遅れ、調査が開始されたのは 1972 年(昭和 47 年)1月になってからでし
た。
⇒共同宣言
共同宣言の内容は下記のとおりである。
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第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
・ 3カ国政府は、マラッカ・シンガポール海峡における航行安全は、関係沿岸国の責任で
あることに同意する。
・ 3カ国政府は、両海峡における航行の安全に関して、3か国間の協力が必要であると
の合意に達した。
・ 3カ国政府は、マラッカ・シンガポール海峡における航行安全に対する諸努力を調整す
るための協力機構を、早急に設置すること、及びそのような機構は沿岸3か国のみから
構成されるべきであることに同意した。
・ 3カ国政府は、また、航行安全の問題と両海峡の国際化とは、互いに別の問題である
ことに同意した。
・ インドネシア政府とマレーシア政府は、マラッカ・シンガポール海峡を無害通航の原則
に従って国際海運に利用することを全面的に認めてはいるが、両海峡は国際海峡では
ないという点においては合意した。シンガポール政府は、この点に関するインドネシア
政府及びマレーシア政府の立場に注目した(The Government of the Republic of
Indonesia and Malaysia agree that the Straits of Malacca and Singapore are not
international straits, while fully recognizing their use for international shipping in
accordance with the principle of innocent passage. The Government of Singapore takes
note of the position of the Government of the Republic of Indonesia and of Malaysia on
this point.)。
・ この了解に基づいて、3カ国政府は水路測量の継続を是認する。
以上のような国際情勢の中で、1973 年、第三次国連海洋法会議が始まるわけですが、インドネシ
ア及びマレーシア両国は、一連の交渉の中で、マラッカ海峡を航行する船舶の航行を妨害する意
図はないが、あくまでも沿岸国の領海を通航しているという認識が必要である、という主張を行な
っています。そして、1982 年、9年にも及ぶ交渉の結果、国連海洋法条約が採択されます。この結
果、領海幅 12 海里、群島国家概念、国際海峡における通過通航制度など、マ・シ海峡に適用され
る国際的な法制度が確立しました。その後、1986 年、インドネシアは同条約を批准、1994 年、同
条約が発効するとともに、シンガポールが批准、そして、1996 年、マレーシアと日本が同条約を批
准し今日に至っています。
シンガポールの立場は、インドネシア、マレーシアとは若干異なり、一貫して、どの国の船舶も沿
岸国の干渉を受けることなく自由にシンガポール港に到達することに国益を見出していました。そ
のような観点では、シンガポールは海峡利用国の利害と共通するものを持っていると言うことがで
きます。このようなシンガポールの立場は、1968 年のシンガポールの前々首相であるリー・クア
ン・ユーの発言にも現れています。
⇒1968 年のシンガポールの前々首相であるリー・クアン・ユーの発言
Singapore is ever willing and ready to help Japan maintain the safety and freedom of
navigation of the high seas which include the Straits of Malacca. (Japan Times(1968.8.30))
上記発言の中の「公海上の」という部分については、当時は、マレーシアもシンガポール
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第Ⅱ章 マラッカ・シンガポール海峡の概要
も領海幅は3海里であり、インドネシアも 12 海里を一方的に主張しているだけであり、国
際的趨勢は3海里であったことからすると、もっぱら、国際協力が必要となる国際航路は
公海上に位置していたと考えられる。
G その他の特徴
マ・シ海峡は、安全保障や治安維持の観点からも重要な役割を果たしています。現在、マ・シ海峡
を挟んで、北側がマレーシア、南側がインドネシア、その中間にシンガポールが存在しています。
この地理的関係は自然の防御線を構成し、特にシンガポールにとっては、外部からの軍事的干
渉や、密輸品の流入、密航者の侵入を困難なものとするなど、非常に重要な役割を果たしていま
す。一方、米国など軍事力を世界的又は地域的に展開する国にとっては、大量の軍事戦略物資
を迅速に他の地域へ移動する場合の必要不可欠な海上輸送路となります。
シンガポールのマングローブ林
マ・シ海峡の海洋環境は、オーストラリアのグレート・バリアー・リーフやアマゾンの熱帯雨林など
のように、その存在自体に重要な価値が認められるまでには至っていません。しかし、マ・シ海峡
の沿岸地域に群生するマングローブやマ・シ海峡の水産資源については、沿岸国にとっては貴重
な海洋環境であると認識されています。マ・シ海峡では、過去に大規模な油流出事故が発生して
いますが、流出油がマングローブ群生地に漂着した場合、砂浜などに漂着する場合に比べ、その
除去作業は困難を極めるとともに、マングローブ自体もおおきな被害を受けることになります。こ
のように、マ・シ海峡を海洋環境の観点から見る場合、油流出事故など船舶起因の海洋汚染事故
を極力防止することが必要になっています。
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第Ⅲ章 マラッカ・シンガポール海峡の歴史
第Ⅲ章 マラッカ・シンガポール海峡の歴史
マ・シ海峡の歴史はまさに交易とそれをめぐる利害対立の歴史でした。交易活動により利益を得
る者は、海峡沿岸国商人であったり、また西欧の貿易会社など外からこの地域にやってきた者で
した。これら交易活動の関係者(国)の中には、時がたつにつれ衰退するものもあれば、その衰退
に乗じて発展するものもあり、様々な対立や変遷を経て現在に至っています。しかし、その中でも
決して変らない事実は、マ・シ海峡は海上交易活動の中心的役割を担い、絶えず利益を生み続け
てきた、ということです。この章では、そのようなマ・シ海峡の歴史について概観します。
A アジア交易圏の形成
1.シュリヴィジャヤ王国
インドネシア・ジャワ島中部ジョグジャカルタ郊外にあるボロブドール(Borobudur)遺跡は、世界最
古で最大といわれる大乗仏教寺院ですが、8~9世紀にかけて中部ジャワで栄えた仏教王国シャ
イレンドラの歴代の王たちによって建てられたとされています。9世紀半ば、この国の王家の一員
であるバーラプトラ王子は政争に敗れ、母の生国シュリヴィジャヤに亡命しこの国を統治すること
になります。この国の首都は、現在のスマトラ島のパレンバン(Palembang)であり、その後、同国は
スンダ海峡西岸のスマトラ島、また、マラッカ海峡を挟んだマレー半島西岸に勢力を及ぼし、南シ
ナ海を中心として栄えた南海貿易路の要衝を押さえていたことから港湾国家として栄えました。こ
の頃、南海貿易には中国人も盛んに参加するようになっており、中国の古文書の中には、この王
国に関し「東はジャワ、西はアラブ諸国やインド南部などの各地から来る船で、この国を経由しな
いものはない」と記述されています。一方、アラブ諸国からの交易船は、マ・シ海峡やスンダ海峡
を通ってこの地に渡来したようです。
⇒南海貿易
「中国と東南アジア、南アジアとの間の海上貿易。通常、17 世紀以前の時期について用
いる。中国と東南アジア、南アジアとの間の海上貿易は前2世紀ころから始まったものと
見られる。」(『東南アジアを知る辞典』石井米雄他 監修 210 頁)。
2.海のシルクロード
中央アジアを横断する東西陸上交通路である絹の道、シルクロードは、古代中国の特産品であっ
た絹を西アジアを経てヨーロッパや北アフリカへもたらしました。また、東方見聞録で有名なイタリ
アの商人マルコポーロ(Marco Polo)は 1270 年末、この道を通って中国の元朝フビライに拝謁して
います。一方で、マ・シ海峡は海のシルクロードに喩えられるように、古くからインド洋と南シナ海と
を結ぶ海上交易路としての役割を担っていました。先に述べたマルコポーロも、1292 年、中国の
泉州を出発、マ・シ海峡を通り、スマトラ島北部のペルラクという地に約5ヶ月間滞在した後、1295
年イタリアに帰国しています。
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第Ⅲ章 マラッカ・シンガポール海峡の歴史
3.マレー人にとってのマ・シ海峡
それでは、マレー半島の住民にとってのマ・シ海峡とはどのようなものだったのでしょうか。「マレー
半島においては、村や国は海や河との関係を無視しては存在し得ない。半島を覆う深いジャング
ルは通過することのできない壁である。村や国は海岸に沿って、河に沿って、そしてその多くは河
の合流点や河口に発達した。海や河は他の世界へ通じる唯一の道であった。」(中原道子「歴史
的背景」『もっと知りたいマレーシア』綾部恒雄 他編 3頁)とあるように、マ・シ海峡はそこに住む
住民の日常生活においても、非常に重要な役割を担っていたことが伺えます。
4.マラッカ王国
マラッカ王国は、スマトラのパレンバンの貴族、パラメスワラがマジャパイト王国に反乱を企てて失
敗した後、シンガポールなどを経て、マラッカの地へと逃れ、1400 年頃、その地で建設をした王国
とされています。マラッカの港は、当時、東南アジアにおいて最も繁栄を極めた貿易港ですが、そ
の理由とされているのが、自然の良港であったこと、豊富な商品が集まったこと、マラッカの王(初
代の王であるパラメスワラの息子のムガット・イスカンダル・シャー)がイスラムに改宗し、ペルシャ、
アラブ、インドのイスラム商人が来訪しやすくなったこと、中継貿易港としての機能がかなり完備さ
れていたこと、と考えられています(中原道子「歴史的背景」『もっと知りたいマレーシア』綾部恒雄
他編 4-5 頁)。もちろん、マラッカの港がマ・シ海峡に位置していた、ということは、同港が貿易港
として栄えた理由として決して見過ごすことができない重要な要素です。
⇒マジャパイト王国
1293 年から 1520 年頃まで、ジャワ島東部を中心として栄えたインドネシア史上屈指の大
国である(『東南アジアを知る辞典』石井米雄他 監修 210 頁)。
一方で、この頃、中国明朝(永楽帝)の南海諸国に対する外交政策は、「鄭和の西征」にも反映さ
れており、1405~1433 年の間に7回、60 隻以上の船舶に2万数千人を乗せた大艦隊を、マ・シ海
峡経由でインド洋、遠くはアフリカ東岸にまで派遣し、通商貿易に貢献しています。この後、東南ア
ジアの各地にたくさんの華僑が移住し現在の華僑社会の基礎が築かれました。マカッラ王国が成
立する 1400 年頃以降、この地域ではインドからの綿織物、中国からの陶磁器や絹織物、マルク諸
島の香料などが取引されるようになっていました。この頃、海上交易に使用されていた船は、100
トン程度のジャンクと呼ばれる小型船が主流であり、モンスーンを利用した島伝いの沿岸航法を
採っていました。マラッカに出入りしていた船の数は、毎年、大船約 100 隻、小船約 30~40 隻とい
われています。
現在、シンガポールの最高裁判所前の広場において発掘調査が行われていますが、中国の宋や
元の時代の陶器の破片や、宋時代の貨幣(宋銭)が大量に発掘されています。14 世紀ごろに、シ
ンガポール川周辺に繁栄したマレーの王朝があり、中国などと活発な貿易活動を行っていたこと
を裏付けるものとされています。
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第Ⅲ章 マラッカ・シンガポール海峡の歴史
以上のように、ポルトガル、スペインを始めとする西欧列強諸国が東南アジアに到達するはるか
以前にも、アジア圏内には、既にインド洋及び南シナ海を中心とする海上貿易による商業圏が形
成されており、活発な交易活動が行われていましたが、マ・シ海峡はその当時より、海上交易路と
して、重要な役割を果たしていたことが伺えます。
マラッカ王朝の王宮(再現)(マラッカ)
B 西欧列強諸国の到来
1.ポルトガルの進出
1511 年8月、ポルトガルの艦隊が、既に東南アジアの海上貿易のハブとしてその地位を確立して
いたマラッカを占領しました。ポルトガルの東方進出は、1498 年、バスコダ・ガマ(Vasco da Gama)
がアフリカ南端の喜望峰経由でインドのカリカットに到達して以降、急速に進展しました。それまで、
ヨーロッパに入る香料はアラブ商人により中東を経由して輸送されていましたが、オスマン・トルコ
帝国の成立以降、それまでの交易ルートが同国を通っていることから供給不安定となり、西欧列
強諸国は独自の交易ルートの開発を模索していたところでした。ポルトガルのマラッカ占領の目的
は、マラッカによる貿易の独占にあったされています。「彼らがより多くの船をマラッカに引きつけ
るためにとった手段は、「通過システム」というもので、海峡を通過するすべての船を強制的にマラ
ッカに寄港させる、というものであった。マラッカに寄港した船は6%から 10%の関税や通行料
を、・・・要求された。」(中原道子「歴史的背景」『もっと知りたいマレーシア』綾部恒雄 他編 8頁)
以上のようなポルトガルによるマラッカの支配は、1641 年、マラッカに対するオランダの攻撃によ
りポルトガルが降伏するまで続きました。
⇒ポルトガルの東方進出
海路による東方進出に必要不可欠な造船技術、航海術などについては、「航海王子エン
リケが風や潮流の研究、地図の作成、造船技術などに関する研究に力をそそいで以来、
その進んだ造船技術、王家の後援などはポルトガルをその時代のヨーロッパにおける航
海先進国にしていたのである。」(中原道子「歴史的背景」『もっと知りたいマレーシア』綾
50
第Ⅲ章 マラッカ・シンガポール海峡の歴史
部恒雄 他編 7頁)とされる。
⇒オスマン・トルコ帝国
西欧諸国が海路によるアジア地域との交易ルートを開拓しようとした理由の一つが、西洋
と東洋とをつなぐ戦略的地域を 400 年以上にわたり支配し続けたオスマン・トルコ帝国の
存在である。同国は、オスマン一世が東ローマ帝国(ビザンチン帝国)の衰微に乗じてア
ナトリア西部に建設したイスラム国家である。1453 年コンスタンチノープルを攻略し、ビザ
ンチン帝国を滅ぼす。その後、16 世紀に全盛を誇り、17 世紀末から衰退に向かう。1811
年にエジプトが分離し、1829 年にはギリシャが分離した。1853 年のクリミア戦争において
は、ロシアが地中海に勢力を伸ばすことをおそれた英国、フランスの援助によりロシアに
勝利したが、1877-78 年のロシア・トルコ戦争ではロシアに敗北しベルリン条約によりルー
マニア、モンテネグロ、セルビアが独立、ブルガリアが自治領となった。その後、第一次世
界大戦で敗れた後、トルコ革命(ケマル・パシャの指導の下、オスマン朝を倒し、1923 年、
トルコ共和国を建てた革命。イスラム圏で最初の政教分離国家が成立した。)によって滅
亡した。
ポルトガル以外の西欧列強諸国も、16 世紀には、マルク諸島のクローブ、ナツメッグや胡椒等の
香料を求めて相次いで東南アジアに到達しました。スペインは 1519 年、マゼラン(Magellan)の率
いる5隻の艦隊がセビリヤを出発、南米大陸先端のマゼラン海峡を発見し、艦隊の一部はマルク
諸島に到達するなどして 1522 年、西回りの世界一周航海を終え帰還しています(マゼラン自身は
1521 年、フィリピンのマクタン島において不慮の死を遂げる)。イギリスは、1577 年、新大陸のスペ
イン植民地での海賊行為で有名なフランシス・ドレイク(Francis Drake)が西回りの世界一周航海を
しており、その途中、マルク諸島にも寄港しています。オランダは、1596 年、コルネリス・ド・ハウト
マン率いる4隻の艦隊がアフリカ喜望峰、インド洋、スンダ海峡を経由してジャワ島の港に達しまし
た。
2.西欧列強諸国の発展と衰退
東南アジアにおける西欧列強諸国の力関係は、様々な事件を契機に発展、衰退を繰り返していく
ことになりますが、その中にあって大きな影響力を持ったのが東インド会社(East India Company)
でした。東インド会社設立の目的は、南アジア、東南アジアから綿織物、香料など、地域の物産品
を輸入することでしたが、商船や商館を守る軍事的権利、外国との条約や同盟を結ぶ権利などを
持っており、植民地経営の主体となっていきました。また、灯台の建設など貿易船の航行安全を
確保する取組みも行っていました。東インド会社の貿易活動が活発になる中でマ・シ海峡の重要
性はますます大きくなっていきました。
⇒東インド会社(East India Company)
1600 年 英国東インド会社の設立
1602 年 オランダ東インド会社の設立
1604 年 フランス東インド会社の設立
51
第Ⅲ章 マラッカ・シンガポール海峡の歴史
⇒灯台の建設など貿易船の航行安全を確保する取組み
マラッカ・シンガポール海峡に最初に設置された灯台は、ホースバーグ灯台である。これ
はシンガポール(セントーサ島)の東約 35 海里にあり、1851 年に完成した西洋式灯台であ
る。ホースバーグという名称は、英国東インド会社の水路技師であったジェイムス・ホース
バーグ氏を偲んで付けられたとされている。このホースバーグ灯台の次に建設されたもの
が、シンガポール(セントーサ島)の南西約7海里にあり、1854 年に完成したラッフルズ灯
台(Raffles Lighthouse)である。シンガポールは、1819 年に英国東インド会社のスタンフォ
ード・ラッフルズ卿(Sir, Stamford Raffles, 1781-1826)が上陸して以来、今日まで、貿易の
中継地点、船舶交通の要衝として発展し今日に至っている。この灯台は、このラッフルズ
卿の名前にちなんで命名されている。ラッフルズ灯台の接客室(Visitor’s room)の壁には
プラークが掲げられており、ここには、「この灯台は、1854 年、名誉ある東インド会社によ
り建てられ、シンガポールの設立者であるスタンフォード・ラッフルズ卿に捧げられる、この
居留地は、現在の自由港としての、また、インド洋における、他に比肩するものがない交
易の中心地としての地位について、氏の自由かつ包括的な政策に感謝する」とある。
The Raffles Lighthouse, Erected in the year of our Lord, 1854, by the Honourable East India
Company and dedicated to the memory of SIR STAMFORD RAFFLES, The founder of
Singapore, To whose liberal and comprehensive policy, This Settlement is indebted for its
free port, And the unrivalled position it now holds, As an emporium, In the Indian Seas.
ジェイムス・ホースバーグ氏(Capt. James Horsburgh, 1762-1836)は、1762 年に英国のスコ
ットランドで生まれた。当初、彼は、船乗りとしての人生を過ごしたが、1786 年、海図が不
正確であったことから、一等航海士として乗組む船がインド洋のディエゴ・ガルシア島(イ
ンド洋の英領チャゴス諸島の一部であるが、米国が英国から借り受け軍事基地を建設し
ている)で座礁した。その後、その時の経験から、インドと中国とを結ぶ貿易船に乗船する
かたわら、水路関連の情報を収集した。1810 年、英国東インド会社の水路技師として任
命され、1836 年5月 14 に死亡するまで、水路技師として活躍した。
ホースバーグ氏の死後、1836 年 11 月 22 日、貿易船の船長や乗組員、貿易商人などが
広東の Marwick’s Hotel に集まり会合を開いた。この会合の議長を務めたのが阿片貿易
で悪名高いジャーディン・マトソン社のウイリアム・ジャーディン(Willian Jardine)氏であった。
会合の目的は、ホースバーグ氏の功績を後世に残す最も適切かつ現実的な方法を検討
することであり、最終的に、航海の危険地帯であるペドラ・ブランカ島(Pedra Branca)に灯
台を設置するための基金を設置することが決定された。ジャーディン氏は自らも 500 スペ
イン・ドルを寄付している。1847 年、この基金への寄付が閉められるまで、合計 7,411 スペ
イン・ドルが集まっている。なお、灯台の建設は 1849 年に開始され、わずか2年後の 1851
年に完成している(John Hall-Jones, The Horsburgh Lighthouse)。
52
第Ⅲ章 マラッカ・シンガポール海峡の歴史
Ⅲ-1 西欧諸国の発展と衰退
西暦年
ポルトガル
スペイン
オランダ
英国
15 世紀
1492 年
イベリア半島南部からイス
ラム勢力を一掃しレコンキ
スタの完遂
コロンブス新大陸発見
1498 年
ガマ・カリカット到達
16 世紀
1511 年
マラッカ占領
1519 年
マゼラン世界一周(1522)
1565 年
フィリピンへの侵略開始
1568 年
80 年戦争(スペインからのオランダ独立戦争)の勃発
1571 年
マニラ市の建設開始、以
後、1898 年まで支配
1577 年
ドレイク世界一周(1580)
1588 年
スペイン無敵艦隊と英国艦隊との海戦によりスペインが敗北、スペインの制海権が失
墜し、オランダが事実上独立
1596 年
ハウトマン・ジャワ島到達
17 世紀
1600 初
西欧列強諸国による東インド会社の設立
1619 年
ジャワ島バタビア市建設開
始
1623 年
アンボン事件(オランダ商館による英国商館襲撃事件、
英国がインドネシア東部における勢力拡大をあきらめ、
インド各地の貿易に専念するきっかけとなる)
1641 年
オランダの攻撃によりマラ
マラッカ占領
ッカ降伏
ポルトガルの失墜
1648 年
80 年戦争の終了、オランダの正式独立
1652 年
英国の航海法(オランダの仲介貿易圧迫、自国海運保
~
護を目的とし、輸入商品は英国船又は産出国船のみに
1674 年
積載すべきことを規定した法律)が原因で、同国とオラン
ダとの間に3次(1652~54, 65~67, 72~74)にわたって戦
争が行なわれた、英国の海上支配の確立とオランダの
衰退を招来
1667 年
ボンガヤ協定によるセレ
ベス島の獲得(マカッサル
53
第Ⅲ章 マラッカ・シンガポール海峡の歴史
占領)
18 世紀
1757 年
プラッシーの戦いで英国が勝利、フランス、オランダがイ
ンドから撤退(フランスはインドシナに、オランダはインド
ネシアに重心を移動)
1760 年
産業革命(安価な綿製品
頃
が英国からインドへ流入)
1784 年
茶の関税引き下げ(100%
から 12.5%へ)による大衆
化、中国貿易の強化
1786 年
ペナン占領
1793 年
1795 年
英国マラッカ一時占領
1798 年
オランダ東インド会社解散
19 世紀
1811 年
英国による仏領インドネシアの一時占領(1816)
1813 年
ナポレオン帝国の崩壊に
よるオランダの復活
1818 年
マラッカ、オランダへ返還
1819 年
英東インド会社のラッフル
ズ・シンガポール上陸
マラッカのサンチャゴ砦
マラッカのセント・ジョーンズ要塞
注:1511 年にポルトガルはマラッカを占領したが、その後、オランダとの戦いに備え、サンチャゴ砦(写真左)を建設
した。1641 年、オランダはマラッカをポルトガル奪うが、アチェ(インドネシア・スマトラ島北部)及びブギス(インドネ
シア・スラウェシ島南部)からの侵攻に備え、1760 年、マラッカにセント・ジョーンズ要塞(写真右)を建設した。
54
第Ⅲ章 マラッカ・シンガポール海峡の歴史
C 英国海峡植民地時代以降
1.英国の躍進
中国貿易の強化を図りたい英国東インド会社は、その足がかりとなるペナンを 1786 年に、また、
1795 年には、オランダ本国の混乱に乗じてマラッカを獲得(1818 年、オランダに返還)しました。し
かし、これらの場所は、英国東インド会社が理想としていた貿易中継地ではなかったため、新たな
拠点を探す必要がありました。1819 年、英国東インド会社のスタンフォード・ラッフルズ卿(Sr.
Stamford Raffles)がシンガポールに上陸し、シンガポールに東インド会社の商館を建設することな
どについて、その土地を支配するジョホールのサルタンと協定を結びました。オランダは、英国の
シンガポール獲得について異議を唱えましたが、1824 年の英蘭協約によって両国の植民地の勢
力範囲が確定されました。
⇒中国貿易
当時の中国貿易は朝貢貿易と呼ばれ、中国から輸出するものは、皇帝の特別の恩恵で
外国に分け与えるものであり、その代金は、献上金という位置づけがされていた。
⇒1824 年の英蘭協約
「オランダはインドおよびマレー半島にあった商館、領土等を放棄し、一方、イギリスはス
マトラ島にあった領土、商館等を放棄し、ほぼマラッカ海峡を境界線とする両国の勢力範
囲を定めた。これにより、イギリス領インド、イギリス領マラヤ、オランダ領東インドといった
植民地体制の確立が可能になった。」(『東南アジアを知る辞典』石井米雄他 監修
45-46 頁)
マレーシア・ペナンのジョージ・タウンにあるコーンウォリス要塞と要塞内の武器庫
英国はその後、マ・シ海峡に支配を及ぼすことになるわけですが、1837 年にはビクトリア女王が即
位し、いわゆるビクトリア時代という黄金期を迎えました。この頃、産業革命により、英国、インド、
中国との間の貿易に不均衡が生じ、それを解消するため、インドで生産した阿片がマ・シ海峡経
由で多量に中国に輸出されていました。この結果、英国と中国との間で 1840-42 年の阿片戦争が
55
第Ⅲ章 マラッカ・シンガポール海峡の歴史
起こるわけですが、阿片戦争に勝利した英国は、引き続き、中国やインドの植民地支配を強化し
ていきました。シンガポールは、商品作物の生産には成功せず、専ら、立地条件と自由港という利
点に助けられ、国際貿易港として重要な役割を果たすことになります。シンガポールは、その後も、
海峡の要衝として発展し、現在では、世界第2位のコンテナ取扱量を誇るコンテナ・ハブ港として
発展を続けています。
⇒産業革命により、英国、インド、中国との間の貿易に不均衡が生じ
産業革命以前、英国は中国から茶や陶磁器などを輸入、その代価を銀で支払っていたた
め多量の銀が英国から流出していた(中国は英国の物産品に興味を示さなかった)。一
方、英国はインドからは綿製品を輸入していた。産業革命以後、機械で生産した安価の
綿製品が逆にインドに輸出されるようになると、インドの綿産業が大打撃を被り、英国イン
ド間の貿易に不均衡が生じた。中国への銀の流出とインド貿易との不均衡を解消するた
めに英国が考え出したのが、インドで生産した阿片を中国へ輸出することである。これに
より、この三者間の三角貿易構造(英国(綿製品)⇒インド(阿片)⇒中国(茶、陶磁器)⇒
英国)が成立した。
⇒インドの植民地支配を強化
インドでは、1857 年、東インド会社に雇われていたインド人兵士(セポイ)が反乱を起こし
たが失敗に終わり、その翌年の 1858 年、ムガル帝国の皇帝が英国により退位させられ滅
亡した。これを契機に、英国は、植民地支配を東インド会社に任せておくことは危険と考え、
1877 年、英国国王によるインド直接統治が開始された。
2.西欧諸国―地中海―スエズ運河―インド洋―マ・シ海峡―アジア諸国ルートの完成
西欧とアジアを結ぶ最初の海上ルートは、アフリカ大陸南端の喜望峰周りの航路でしたが、19 世
紀には、エジプトのスエズを経由したルートも使用されはじめました。この頃には、既にエジプトが
オスマン・トルコ帝国から独立をしており(1811 年)、スエズ地域は同帝国の影響下から外れてい
ました。最終的には、スエズ運河の開通を待たなければなりませんが、それ以前に、英国はスエ
ズとアレクサンドリアを結ぶ鉄道を完成させており、この地峡間を鉄道輸送することを考えていま
した。スエズ運河は、フランスのレセップスにより、1859 年に工事が開始され、10 年間にわたる難
工事の後、明治元年の翌年、1869 年に完成しました。これにより、西欧とアジアの距離が格段に
短くなりなり、西欧諸国―地中海―スエズ運河―インド洋―マ・シ海峡―アジア諸国という海上交
通路が完成し現在に至っています。
56
第Ⅳ章 マ・シ海峡の海上交通路としての重要性
第Ⅳ章 マ・シ海峡の海上交通路としての重要性
マ・シ海峡は重要な海上交通路であると言われます。通常、海上交通路としての重要度は、主とし
て、どれだけの船舶が利用しているかということに比例しますが、マ・シ海峡については、年間約6
万2千隻(マレーシア海事局統計 2003)の通航船舶があり、また、その種類も VLCC, LNG, プロ
ダクト・タンカーなど、経済活動の根幹を支える物資を輸送する船舶が多数を占めるという事実か
らも極めて重要な海峡であると言うことができます。
では、なぜ船舶はマ・シ海峡を利用するのでしょうか。船舶が航海計画を策定するにあたり航行ル
ートを決める必要があるわけですが、考慮される要素は、主として、安全性(自然環境的または社
会環境的な航行環境はどうか、必要な航行安全対策や海上治安対策などが実施されているか、
という観点)、経済性(専ら、船舶による輸送経費の観点)、通航許容性(たくさんの船舶が通航で
きるだけの幅や深さがあるか、事故発生時などの緊急事態の際、迂回するルート、一時退避する
水域などがあるか、という観点)、代替性(大規模海難事故などにより海峡の通航に支障をきたす
場合、代わりになる航路が存在しているか、という観点)があります。マ・シ海峡の港湾に寄港する
船舶はマ・シ海峡を利用せざるを得ないわけですが、単にマ・シ海峡を通過するだけの船舶は、
上述の各要素を比較考慮した上で、マ・シ海峡を通航することが最適の選択肢であるとの判断
(マ・シ海峡の優越性)に基づき利用しているわけです。
マ・シ海峡の重要性を考える場合、誰にとって重要なのかについて、二つの観点があります。一つ
は、海峡に港湾を建設し海上貿易活動を行う海峡沿岸国の観点であり、もう一つは、海峡を経由
して海上貿易活動を行う海峡利用国の観点です。シンガポールのように、マ・シ海峡沿岸地域に
のみ港湾を有する国にとっては、マ・シ海峡の優越性がどうであれ、マ・シ海峡がシンガポール港
に至る唯一の海上交通路であり、そこを通航する多数の船舶がシンガポール港に寄港している以
上、マ・シ海峡はシンガポールにとって極めて重要であると言わざるを得ません。一方、日本のよ
うに、中東原油のほぼ全量がマ・シ海峡を経由して日本に輸送されている事実だけを見ても、マ・
シ海峡の重要性を立証するには十分です。なお、マレーシアやインドネシアのように、海峡沿岸地
域に立地する港湾に加え、マ・シ海峡沿岸地域以外にも主要な港湾を持っている場合、海峡沿岸
国としての立場と、海峡利用国に近い立場とを併せ持つことになります。
この章では、マ・シ海峡の重要性を考えるわけですが、海峡沿岸国の観点からは、主として、海峡
通航船舶(海峡沿岸国船舶のみならず全ての船舶を含む)が沿岸国の港湾に寄港することにより、
沿岸国はどのような経済的恩恵を受け得るのか、という問題として捉えることにします。また、海
峡利用国の観点からは、マ・シ海峡を利用した海上貿易により莫大な経済的恩恵を受けていると
いう前提のもと、なぜ海峡利用国船舶はマ・シ海峡を利用するのかという問題(マ・シ海峡の優越
性)に置き換え、先ほどの海上交通路としての重要性を決める要素毎に考察してみることにしま
す。
57
第Ⅳ章 マ・シ海峡の海上交通路としての重要性
A 沿岸国の観点
1.海運
マ・シ海峡沿岸国の住民にとって必要となる食料、衣料、日用雑貨品などの生活必需品のかなり
の部分は、船舶により輸送されています。また、マ・シ海峡沿岸に沿って様々な工場・施設が立地
していますが、生産活動に必要となる工業原料や石油などのエネルギー源の輸入、生産した工業
製品の輸出のためにも船舶は欠かすことができません。更に、インドネシアのスマトラ島では石油、
天然ガスが生産されていますが、そこで生産された石油や付近の製油所で精製された油などを輸
出するにも船舶が必要となってきます。仮に、現在のマ・シ海峡がジャングルに覆われた密林であ
った場合、この地域の現在のような発展はなかったものと考えられます。従って、船舶の通り道で
あるマ・シ海峡の存在は、海峡沿岸国にとって、極めて重要な存在である、と言うことができます。
2.港湾
港湾は海上輸送に必要不可欠の要素です。現在、マ・シ海峡沿岸には、多数の商業港湾が位置
していますが、その中の主要なものは下記のとおりです(図Ⅳ―1参照)。これらの港湾の中には、
石油化学工場や石油精製工場を併置しているものもあり、マ・シ海峡における荷動きは活発で
す。
ペナン港
ベラワン港
ポート・クラン港
タンジュン・プラパス港
ジョホール港
ドマイ港
シンガポール港
Ⅳ―1 マ・シ海峡沿いの主要港湾
58
第Ⅳ章 マ・シ海峡の海上交通路としての重要性
Ⅳ-2 マ・シ海峡沿いの主要港湾の概要
沿岸国
インドネシア
港湾名
ベラワン港
港湾の特徴
スマトラ島で一番重要な商業港である。
(Belawam)
ドマイ港
インドネシア最大のミナス油田の重要な石油積み出
(Dumai)
し港及び商業港である。インドネシア石油公社「プル
タミナ」の石油製油所がある。
マレーシア
ペナン港
ペナン島ジョージタウンとマレー半島バタワースとの
(Penang)
間の海域に発展した商業港である。大型のコンテナ
埠頭がある。
港外の錨地
バタワース・コンテナ埠頭
ポートクラン港
大規模コンテナ埠頭である北港(North Port)、石油ケ
(Port Klang)
ミカルを中心とする西港(West Port)、雑種船用の南
港(South Port)からなるマレーシア最大の総合港湾で
ある。コンテナ取扱量は、約 320 万 TEUs で世界第
14 位である(2000 年)。ターミナル経営は民営化され
ている。
北港のコンテナ埠頭
西港のケミカル埠頭
ジョホール港
大型のコンテナ埠頭と石油ケミカル埠頭からなる港
(Johor)
である。ターミナル経営は民営化されている。
59
第Ⅳ章 マ・シ海峡の海上交通路としての重要性
手前:ケミカル埠頭、奥:コンテナ埠頭
バルク埠頭
タンジュン・プラパス港
大規模コンテナ専用港である。シンガポールに対抗
(Tanjung Pelepas)
して開発された新しい港である。シンガポール港と同
様後背地を有しないため、取扱貨物の 85%が積替コ
ンテナである。現在、シンガポール港との間で主要
海運会社の誘致合戦を行っている。ターミナル経営
は民営化されている。
コンテナ埠頭
シンガポール
シンガポール港
タンジョン・パガ・ターミナルを中心とした大規模コン
(Singaproe)
テナ港、とジュロンを中心とした石油ケミカル港、ハ
ーバー・フロントの旅客船ターミナルに区分される。コ
ンテナ取扱量は香港に続き世界第2位を誇る。取扱
貨物の 85%が積替コンテナである。現在、タンジュ
ン・プラパス港との間で主要海運会社の誘致合戦を
行っている。ターミナル経営は民営化されている。
コンテナ港
石油ケミカル工場沖の錨地
60
第Ⅳ章 マ・シ海峡の海上交通路としての重要性
3.船舶関連産業
海峡沿岸国は、海峡沿岸の港湾に寄港する船舶に対し、各種海事サービスを提供しています。
特にシンガポールでは、アセアン地域の海運ハブとして、これらの産業が発展しています。これら
の産業には、次のものが含まれます。
燃料、水、糧食、海事情報の提供(船舶代理店業務)
船舶修理
港湾
倉庫
海上保険
船舶運航・管理
シンガポールにおける港湾関連サービス提供産業の全 GDP に占める割合は、4.8%です(Chia
L.S., Goh M. and Tongzon J., SOUTHEAST ASIAN REGIONAL PORT DEVELOPMENT)。しかし、
ほぼ全ての者が、船舶により輸入されたものを何らかの形で利用していることを考えると、沿岸国
が得る利益は計り知れないものになります。
B 利用国の観点
現在、日本の中東原油依存度は 85.3%(2002 年)であり、そのほぼ全量がマ・シ海峡を経由して日
本に輸入されます。この事実から、マ・シ海峡は「日本の生命線」とも喩えられます。また、日本に
到着する貨物の中には、マ・シ海峡を経由して輸送されてくるものがたくさんあります。これまで、
日本はマ・シ海峡を海上交通路として利用する主要な国である、と認識されていましたが、最近に
おいては、中国や韓国の利用度が高くなっていると考えられます。
⇒マ・シ海峡を経由して日本に輸入
日本は米国に次ぐ世界第2位の原油輸入国であり、2002 年度は 241,898 千キロリットル
の原油を輸入している(日本は、原油輸入に加え、年間 37,719 千キロリットルの製品油を
シンガポール、韓国などの製油所から輸入している)。このうち、中東地域からの輸入比
率は約 85.3%である(経済産業省「エネルギー生産・需給統計年報」)。日本は 1970 年代
の2度のオイルショック以降、原油輸入先の多様化、分散化を図り、一時は、中国、インド
ネシア、メキシコなどの国への切り替えを行ってきたが(1987 年には 67.9%に減少)、近年、
当該国における自国需要の増加に伴い当該国の輸出量が減少したため、再度、中東地
域への依存度が上昇し、1996 年以降、80%台の高水準が続いている。
⇒中国の利用度
中東発中国行きの原油がどの程度あるのかについては明確な資料はないが、British
61
第Ⅳ章 マ・シ海峡の海上交通路としての重要性
Petroleum の「世界エネルギー統計」(2003)によると、38.9 百万トン(2002 年)の原油が中東
から中国へ輸出されている。一方、日本への輸出量は 195.4 百万トン(2002 年)となってい
る。
注:経済産業省の統計では、日本の年間原油輸入量は、241,898 千キロリットル(241.9 百万キロリット
ル)、このうち、85.3%にあたる 206.3 百万キロリットルが中東発となる。これに原油の比重をかけると、お
およそ 195.4 百万トンとなる。
中国の中東原油への依存度は不明であるが、前にも述べたとおり、量的には年間 38.9 百
万トン(41.1 百万キロリットル)(2002 年)であり、日本の約5分の1である(British Petroleum
「世界エネルギー統計」(2003))。また、中国はインドネシアからも原油を輸入しており、そ
の量は年間 28.4 百万トン(30.0 百万キロリットル)(2002 年)である。中国の1日あたりの原
油生産量は、3,415 千バレル(年間 198.2 百万キロリットル)(2003 年)である。このうち輸
出にまわされる量はわずかであると考えられる(中国が日本に輸出する原油はわずか
387 千キロリットル(2002)である)。従って、それらの合計は、269.3 百万キロリットルとなる。
一方、中国の年間石油消費は、5,362 千バレル(311.2 百万キロリットル)(2002 年)である
(Oil and Gas Journal 2003、British Petroleum「世界エネルギー統計」(2003))。この差の約
40 百万キロリットルについては、おそらく、製品油として、シンガポールなどから輸入して
いると考えられる。非常に大雑把な計算であるが、インドネシアの中東向け原油がスマト
ラ原油とすると、年間、最大で約 110 百万キロリットルの原油及び製品油がマ・シ海峡経
由で中国に輸送されていることになる。これは日本の約半分に相当する。
今後、中国の中東原油依存度がどのように変化するかであるが、現在の経済成長率が
見込まれるとする場合、ここ数年のうちに依存度は格段に上昇すると考えられる。その大
きな理由は、中国の石油埋蔵量である。Oil and Gas Journal 2003 によると、中国の確認
埋蔵量は 18,250 百万バレルであり、現在の日産原油生産量 3,415 千バレルを維持すると、
約 14.6 年で枯渇することになる。この中国の確認埋蔵量は、サウジアラビアの 261,900 百
万バレル、イランの 125,800 百万バレル、イラクの 115,500 百万バレル、クウェートの
99,000 百万バレルといった中東産油国に比べ、かなり低いものである。中国が抱える莫
大な人口を考慮すると、今後、中国は超石油輸入国になると考えられる。なお、中国の一
次エネルギー消費構成比は、石油が 24.6%、石炭が 66.5%であり、石油については他の
主要国に比べると若干少なくなっている(日本:47.6%、米国:39.0%、ロシア:19.2%、英仏
独:30%代)。
先ほど、船舶が航行ルートを決めるに際し考慮する要素として、安全性、経済性、通航許容性、代
替性があると述べましたが、順にマ・シ海峡が海上交通路として優れている、つまり、重要である、
ということについて見ていくことにします。
1.安全性
安全性とは、自然環境的または社会環境的な航行環境はどうか、必要な航行安全対策や海上治
62
第Ⅳ章 マ・シ海峡の海上交通路としての重要性
安対策などの安全対策が実施されているか、という観点です。
(1) 自然環境
マ・シ海峡の自然環境については、第Ⅱ章 マラッカ・シンガポールの概要において詳しく述べまし
たが、要約すると、マ・シ海峡は長さ約 500m、最狭幅が 4600m の狭隘な海峡であり、VLCC の通
航に影響を及ぼす水深 23m の浅瀬、岩礁等が多数存在しています。また、マ・シ海峡ではスコー
ル、ヘイズなどによる視界不良が発生し、場所によっては強い潮流が観測されるなど、大型船舶
にとっては航海の難所となっています。
(2) 社会環境
マ・シ海峡の社会環境、とりわけ、治安状況については、第Ⅱ章 マラッカ・シンガポールの概要に
おいて詳しく述べましたが、要約すると、海賊事件などが頻発するとともに、船舶などを対象とした
海上テロの危険性も指摘されています。また、海峡沿岸地域には、スマトラ島北部のナングロ・ア
チェ州、タイ南部パタニ県周辺地域のように、政治的不安定要素を抱える地域があり、海峡通航
船舶に与える影響について懸念されています。このような沿岸国または寄港港の社会的環境は、
時として、海上保険の保険料に反映されることがあります。2002 年 10 月のバリ島での爆破事件以
降、一時的にインドネシアに寄港する船舶の保険料にインドネシア・プレミアムが付くのではという
懸念が広がりました。このような要素は海運会社にとって非常に大きなものと言えます。
国際航行に使用されている海峡における通航船舶の通航利益に鑑み、当該海峡を国際海峡と位
置づけ、当該海峡における通過通航権(right of transit passage)を認めるなど、国際海峡通航制度
に係る規定が海洋法条約第3部において整備されています。船舶の通航に関しては、領海に比
べ、通航船舶に対する海峡沿岸国の干渉は観念的には制限されています(詳細は第Ⅶ章、第Ⅷ
章参照)。
(3) 各種安全対策
以上のような環境を改善するため、マ・シ海峡では、水路測量、航路標識の設置、航路啓開、分
離通航帯の設置、各種航行規則の採用、船舶通報制度の運用、VTIS、DGPS 局、AIS 局の設置・
運用など、様々な航行安全対策が採られています(詳細は、第Ⅴ章「航行安全対策」を参照)。一
方、マ・シ海峡では、治安状況を改善するため、海峡沿岸国海上法令執行機関による巡視活動な
どが行われていますが、海域が広大であること、インドネシアのように海上法令執行活動を実施
するために必要となる資材を十分保有していない国があることなど、決して安全とは言えない状
況にあります(詳細は、第Ⅵ章「海上治安対策」を参照)。
2.経済性
経済性とは、専ら、船舶による輸送経費の観点であり、輸送地点間の最短ルートを航行すること
63
第Ⅳ章 マ・シ海峡の海上交通路としての重要性
によりできるだけ輸送経費を少なくおさえる必要性から生じるものです。例えば、中東原油のほぼ
全量がマ・シ海峡を経由して日本に輸送されていますが、マ・シ海峡が最短ルートであることがそ
の大きな理由です。
⇒中東原油のほぼ全量がマ・シ海峡を経由して日本に輸送
中東原油の日本への輸送ルートとしては、マ・シ海峡経由の他に、現在、スマトラ島とジャ
ワ島との間にあるスンダ海峡(Sumda Strait)経由(現実的にはあり得ない)、バリ島とロンボ
ク島との間にあるロンボク海峡(Lombok Strait)経由の2ルートがある。30 万積貨重量トン
をはるかに超える ULCC: Ultra Large Crude Carrier は、水深の関係上、ロンボク海峡を経
由しなければならなかったが、現在では、中東原油輸送の主役はマ・シ海峡を通航可能
な 30 万積貨重量トンの原油タンカーであり、ほぼ、全量がマ・シ海峡を経由している。
ホルムズ海峡
バシー海峡
マ・シ海峡
マカッサル海峡
スンダ海峡
ロンボク海峡
Ⅳ―3 中東からの原油ルート
スンダ海峡の通航量については、2001 年5月に実施された日本海難防止協会と日本航
路標識協会の合同調査によると、連続する 48 時間内に、合計 108 隻の船舶(漁船を含
む)が通過し、また、629 隻の漁業に従事する漁船が視認されている(The Study for the
Maritime Traffic Safety System Development Plan in the Republic of Indonesia, Progress
Report No.1, The Japan Association of Marine Safety (JAMS), Japan Aids to Navigation
Association (JANA), July 2001 p.2-4-7 ~ 2-4-14)
ロンボク海峡の通航量については、同様の調査によると、連続する 48 時間以内に、合計
74 隻の船舶(漁船を含む)が通過している。
64
第Ⅳ章 マ・シ海峡の海上交通路としての重要性
スマトラ島
水深 10m 代の海域
最小幅 7400 m
最小幅 11,000 m
灯台等の航路標識
ジャワ島
Ⅳ―4 スンダ海峡
バリ島
ロンボク島
最小幅 16.7km
最小水深 69m
灯台等の航路標識
Ⅳ―5 ロンボク海峡
3.通航許容性
通航許容性とは、たくさんの船舶が通航できるだけの幅や水深があるか、事故発生時などの緊急
65
第Ⅳ章 マ・シ海峡の海上交通路としての重要性
事態の際、迂回するルート、一時退避する水域などがあるか、という観点です。マ・シ海峡が優れ
た海上交通路であるためには、海峡沿岸国や利用国の需要を満たすだけの船舶が通航できるに
十分な容量が確保されている必要があります。通航許容性は、先ほどの安全性と密接な関係が
あり、許容性を超える船舶が通航し海峡が混雑しだすと安全性は著しく低下することになります。
現在、マ・シ海峡の年間通航船舶は約6万2千隻、これに、小型船舶、横切り船舶、操業漁船など
を加えると、特にシンガポール海峡のように物理的可航域が狭い海峡では、現状の安全対策の
ままでは、ほぼ限界に近づいているとの見方もあります。
4.代替性
代替性とは、大規模海難事故などにより海峡の通航に支障をきたす場合、代わりになる航路が存
在しているか、という観点です。当然のことながら、代替航路となり得るか否かについての検討に
おいても、これまで述べてきな安全性、経済性などの要素が考慮される必要があります。
マ・シ海峡の代替航路(中東から原油を日本に輸送する場合)については、2.経済性でも述べま
したが、代替ルートとして、スンダ海峡及びロンボク海峡があります。ここでは、この二つの代替航
路について比較してみます。なお、スンダ海峡を中東原油を積載した日本向けの大型タンカーが
通航することは現実的には考えられませんが、1万トン級の貨物船クラスの通航に関しては全く支
障がありません。
Ⅳ―6 スンダ海峡及びロンボク海峡の代替性比較
安全性
自然環境
スンダ海峡
ロンボク海峡
海峡の中央部の水深に関しては問題な
ロンボク海峡は、最も浅い海域でも水
いが、海峡北側入口付近では、水深 10
深が 69m あり、どのような大型船でも
m代の浅い海域や岩礁地帯が広がって
通航可能である。
おり、また、石油掘削プラットフォームも
点在するなど、注意が必要である。ま
た、激しい潮浪も観測されている。
社会環境
海賊事件はほとんど発生していな
海賊頻発地域である。
い。なお、2002 年 10 月に爆破事件が
起きたバリ島に極めて至近である。
群島航路帯(Archipelagic Sea Lanes)が
設置されており、外国船舶は群島航路
帯 通 航 権 (Right of Archipelagic Sea
Lanes Passage)を行使して通航する。た
だし、通航中の船舶の義務、群島国の
義務、群島航路帯通航権に関する群島
国の法令に関する規定は、国際海峡に
66
同左
第Ⅳ章 マ・シ海峡の海上交通路としての重要性
関する規定を準用するとされているの
で、マ・シ海峡の通航と実質的な違いは
ない(海洋法条約第 54 条)。
各種安全対策
必要な航路標識が設置されてある。
同左
付近の海域や港湾で海賊が頻発してい
特別の海上治安対策がインドネシア
ることからも、特別の海上治安対策がイ
当局により行われている可能性は少
ンドネシア当局により行われている可能
ない。
性は少ない。
経済性
水深の関係から、VLCC の通航は不可
ペルシャ湾から東京湾までの距離
能である。
は、マ・シ海峡経由では 6,590 海里、
ロンボク海峡経由では 7,580 海里で
あり、その差は 990 海里、船の速力を
15 ノットと仮定すると、66 時間(3 日
弱)の差が生じる。
通航許容性
主として水深の関係により、大型船舶の
最小幅 16.7km、最小水深 69m であ
通航には問題があるが、それ以外の船
り、かなりの数の船舶が通航できる。
舶であれば、かなりの数の船舶が通航
できる。
C 将来的見通し
マ・シ海峡の海上交通路としての機能の重要性が、将来的に増していくのか、それとも、減ってい
くのか、については、東南アジア経済のみならず、世界的な社会・政治・経済の多種多様な要素
が影響を考慮し判断する必要があります。その中でも、ここ数年のスパンで見た場合によく言わ
れることは、中国経済の発展にともない、マ・シ海峡を通過する中国向け原油やコンテナ貨物が
増加するであろう、ということです。その際に問題となってくるのは、マ・シ海峡ルートの許容量が
どうなのか、ということです。この点に関し、日本アジア交流協会の福井氏は、「今後、中国の石油
輸入急増だけを考えても、それを中東やアフリカの産油国から輸送するタンカーの通航がどこま
で受入れ可能なのか、当然最も幅の狭い(3km 程度)シンガポール海峡には受け入れる船の隻
数には上限があるであろうから、マラッカ海峡ルートはいずれ満杯となる」と警鐘を鳴らしていま
す。
マ・シ海峡は、いずれ満杯になる、ということであれば、当然、現行の航行安全環境を改善(浚渫
等による航路幅の拡張等)して通航容量を増加させる、という取組みも必要となってきますが、一
方で、原油の輸送については代替ルートを模索する動きもあります。原油の代替ルートとしては、
実際に ULCC クラスの原油タンカーが使用できるインドネシアのロンボク海峡に加え、最近、再度
注目を集めているのが、タイ南部のクラ地峡に原油パイプ・ライン(付随して建設される石油精製
67
第Ⅳ章 マ・シ海峡の海上交通路としての重要性
施設を含む)を建設しようとする動きです。この計画には、いろいろな問題点が指摘されています
が、日本アジア交流協会の福井氏は次のように述べています。「タイ政府は本年(筆者注:平成1
5年)8月末に、長年の懸案であったマレー半島横断原油パイプラインの建設を含む大構想の実
現を目指す画期的な決定を下した。それは、タイを、アジアにおける石油トレーディングの Hub に
するというものである。上記決定以降、関係省庁横断のタスクフォースが組織され、2年以内の実
現を目指して精力的に作業が進行中である。・・・。この大構想は、海賊の出没や中国の原油輸入
急増等による通航量の大幅増大予想を背景に不安定なマラッカ海峡を代替する原油パイプライ
ンを建設し、そのシャム湾側終点に原油の国家戦略原油備蓄基地を建設し、同時にアジアでも初
めての中東やアフリカの原油の現物取引市場を創設すると言うものである。実現すれば、アジア
の石油輸入国にとり悩ましい原油価格の「アジアプレミアム」が解消される可能性も秘めている。」
(福井孝敏「復活したマラッカ海峡迂回の原油パイプライン-タイ政府が備蓄基地一体の国際石油
取引ハブ構想推進を決定-」『石油/天然ガス レビュー』(2003.11) 14 頁)
コラム:東南アジアの港湾の国際比較について
これまで、東南アジアの港湾については、取扱量、作業能率、情報システムなど個々の指標・
観点に基づく国際比較は多数あったものの、今後の市場動向を見据えた、コンテナ輸送の展開
パターンや港湾相互の競争関係を含めた総合的な比較はあまりなかったように思われます。マ
レーシアのタンジュン・プラパス港やタイのレム・チャバン港の成長により、この地域のコンテナ輸
送におけるシンガポール港の絶対的地位が揺らぎつつあると言われる中で(世界銀行『統合す
る東アジア』(2003.06)など)、この度、シンガポールの東南アジア研究所より、東南アジアのコン
テナ港湾の比較分析に関する本(Chia L.S., Goh M. and Tongzon J. 『SOUTHEAST ASIAN
REGIONAL PORT DEVELOPMENT』」)が刊行されましたので、関連部分を抄訳して報告しま
す。
1.概観
東南アジアは一般に、バラ積み貨物の産出は多くないが、タイ、マレーシア、シンガポール、イン
ドネシア、フィリピンの工業化により、1970年代以降、コンテナ向けの貨物が大量に発生するよ
うになった。この地域では、各国とも海洋国家との自覚を持ち、港湾の整備に力を入れている。
シンガポールでは、港湾関連産業はGDPの4.8%に当たる約37億米ドルを占め、全体の約
3.4%に当たる55,392人の雇用を生み出している(1999年)他、マレーシアでも、貿易額は
1989年の600億リンギから1993年の2,580億リンギと4倍に拡大したが、そのうち85%が
外国船舶により輸送されており、さらに外国船舶を誘致する必要があるため、国として港湾サー
ビスの改善に本格的に取り組んでいる。
コンテナ化やハブ・アンド・フィーダー輸送の発展により、港湾の中には後背地に対するこれまで
の独占的地位を失うものがある一方、新たな港湾の整備や施設の拡張により、海運会社の選択
68
第Ⅳ章 マ・シ海峡の海上交通路としての重要性
の幅も広くなり、港湾間の競争が激化している。現在のコンテナ船の主流は3,500TEUのポス
トパナマックス型であるが、6千個積みも導入されつつあり、8千個積みや1万2千個積みも計画
されていることを考えると、新世代の港湾は次のような設備を備えている必要がある。
(1) コンテナ17個分の幅を持つガントリークレーン
(2) 喫水15.4mの船舶が通過できる航路
(3) 大量のコンテナを効率的に捌けるターミナル
(4) 鉄道及びインターモーダルに対応したインフラ
アジアの主要コンテナ港(1990年と1998年の比較)
順位
1990年
TEUs
1998年
TEUs
1
シンガポール
5,223,500
シンガポール
15,100,000
2
香港
5,100,637
香港
14,582,000
3
高雄
3,494,631
高雄
6,271,053
4
神戸
2,595,940
釜山
5,945,614
5
釜山
2,348,475
上海
3,066,000
6
基隆
1,807,271
マニラ
2,690,000
7
横浜
1,647,891
東京
2,168,543
8
東京
1,555,140
タンジョン・プリオク
2,130,979
9
バンコク
1,018,290
横浜
2,091,420
10
マニラ
1,014,396
神戸
1,900,737
Containerisation International Yearbook からの引用
(当事務所注)1998年においては、10位の神戸の次に、ポート・クラン(1,820,018TEU)、
コロンボ(1,714,077TEU)、レム・チャバン(1,559,112TEU)が連なる。
2.港湾整備に関する政策・戦略の比較
(1) シンガポール
シンガポール港はこの地域最大のコンテナ・ハブ港であり、積替貨物の比率は78%(1996年)
と、香港(20%)、ロッテルダム(40%)、フェリクスストウ(28%)、高雄(43%)などの世界の主
要なハブ港の中でもっとも高い。この地位を維持するため、シンガポール港湾公社(PSA)は、①
新ターミナル・物流施設の建設、②IT、人材育成等への投資、③海運会社との長期利用契約の
締結、④海外におけるターミナル建設・運営等を推し進めており、政府としても、ロジスティック産
業・海運関連産業の誘致策、IMOの活動への積極的な参加等により支援している。
(2) タンジュン・プラパス
マレーシア着発の貨物をシンガポール港から取り戻すという国策に基づき、シンガポール港と同
様なコンテナ取扱施設・ITを導入するとともに、より安価な労働力・土地や税制・通関手続きの優
遇措置を提供している。現在でも(2000年)積替貨物の比率は85%と高くなっているが、タンジ
69
第Ⅳ章 マ・シ海峡の海上交通路としての重要性
ュン・プラパス港(PTP)としては、さらに、主要海運会社を誘致するとともに、フィーダー船社を誘
致することにより、将来的には、東南アジアにおける主要な積替ハブとなることを目指している。
(3) ポート・クラン
マレーシア最大の港であり、世界でも第14位のコンテナ取扱量(320万TEU、2000年)を持っ
ている。マレーシア政府としては、最も工業化が進み人口も多い首都圏にある同港を、国内及び
地域的な交通のハブにしようと考えており、①政府・港湾局・ターミナル経営者による営業活動、
②物流施設の整備、③海運会社誘致のための金銭的インセンティブ、④内陸輸送の改善、④港
湾料金の据え置き、⑤手続きのコンピューター化、⑥自由商業地域の設定、⑦カボタージュや外
資規制の見直しを行っている。現在では、北港、西港、南港とも、ターミナル経営は民営化されて
おり、外資(香港国際ターミナル社)が進出するとともに、作業能率も改善している。
(4) レム・チャバン
バンコク港の混雑を緩和する目的で建設されたが、水深の深い、近代的かつタイで最も効率的
な港湾となり、東南アジアと北米との間のハブになることも期待されている。タイ港湾局は、現在
ある11のターミナルに、2008年までにコンテナターミナル6つと旅客ターミナル1つを増設する
と共に(岸壁長4,100m)、インターモーダル輸送を促進するための高速道路網、複線鉄道、パ
イプラインの建設を計画している。
(5) マニラ
フィリピン港湾局は、民間の力も借りながら、全国で42の港湾を重点的に開発している。その中
でマニラ港は最大の港湾であるが、航路水深(10.5m)や岸壁際の水深(12m)が浅く、大型船を受
け入れることができないため、主要な市場からの国際貨物はシンガポール、香港、高雄を経由し
て輸送されている。このため、航路及び岸壁際の浚渫が進められる他、水深のあるスービック湾
にコンテナ港を作り、地域のハブとする計画がある。
(6) タンジュン・プリオク
コンテナ化の進展により、タンジュン・プリオク港の混雑が激化したため、官民連携によりコジャ・
コンテナ・ターミナル社を設立し、ポスト・パナマックス(3,500-5,000TEU)型クレーン、船舶交通情
報システム(VTIS)、ワンストップ・サービス・センター等を導入している。インターモーダルについ
ては、高速道路ないし鉄道が利用可能であるし、ジャカルタ等の港湾関連サービスを利用するこ
ともできる。
3.ハブ港の比較
香港、シンガポール、高雄という3つのハブ港について、①位置(主要貿易路からの乖離、水深
等の自然条件)、②能力(新鋭装備、手続・書類、コンピューター化)、③安全環境(港内治安、危
険物取扱、労働関係)、④商業環境(料金、人材)、⑤自由貿易地域、⑥関連サービス(通信、給
水、修理、廃棄物処理、医療)、⑦官民サービスの24時間化等の観点を踏まえて、その特色を
列挙する。
70
第Ⅳ章 マ・シ海峡の海上交通路としての重要性
(1) 香港
珠江デルタの口に位置し、中国南部の貨物の約90%が経由する。クワイ・チュンには6,059m
の岸壁と8つのコンテナターミナルがあり、第3世代のコンテナ船を19隻受け入れることができ
る。処理能力は香港全体の約3分の2に当たる1,150万TEU。
香港ではコンテナターミナル以外にもミッドストリーム(中流域)と河川貿易の輸送があり、1997
年の香港計1,450万TEUの内、約190万TEUは珠江デルタを行き交う河川貿易、5分の1以
上がミッドストリームの輸送によるものである。
荷役能率はアジア一であり、コンテナ船については通常10時間以内で、一般貨物船については
平均1.9日で荷役作業が完了する。
香港港は完全民営化されており、民間による資金調達、建設、所有、運営であるため、官僚的な
非能率は最小限に抑えられている。港湾局はなく、港湾発展理事会が開発戦略を提言し、港湾
運営者と開発により影響を受ける人々との間の接点となる。港湾発展理事会は、2年ごとにコン
テナ貨物の予測を行い、1998年の予測では、2006年まで5.8%、その後2016年まで3.
1%で伸びると見込んでいる。この見込みに基づき、2004年までに260万TEUの能力を持つ
第9ターミナルを建設する予定であるが、その後はランタウ港に2つのコンテナターミナルを建設
する構想がある。珠江の河川貿易に関しては、珠江デルタ地区とクワイ・チュンの中間にある西
屯門に、130万TEUの処理能力を持つ新たなターミナルが建設されている。
香港は、中国南部の貨物については、これまで競争相手がいなかったが、深
の各港も1997
年に110万TEU取り扱っており、現在の90%のシェアが10年後にはおよそ50%に低下すると
見られている。華南からの輸出の増加により、香港港の取扱量は増加すると思われるが、中国
と台湾の直接貿易の再開、中国の他港湾の急成長により、香港の魅力が相対的に低下すること
が予想され、また、韓国の港も中国北部及び東部の貨物の中継を始めているため、香港が今後
とも全中国へのゲートウェーであり続ける可能性は大きくない。
(2) シンガポール
シンガポールには、PSA及びジュロンタウン公社(JTC)の運営する6つのターミナルがあり、あ
らゆるタイプの船舶を受け入れることができる。設備も適切、近代的、統合的であり、24時間の
ワン・ストップ貨物サービスセンターとなっている。補助的サービスや通信インフラも整っている。
外国フォワーダーに対する政府の政策は開放的であり、公的団体が自由貿易地区内での施設
整備に努めている。
シンガポールには、アセアン域内のコンテナ輸送に加えて一定の地域的な需要があること、多く
の多国籍企業やロジスティック関連企業が立地していること、及び、それらと航空会社、海運会
71
第Ⅳ章 マ・シ海峡の海上交通路としての重要性
社、税関、貿易当局とがEDIにより結ばれていることにより、流通のハブとしての条件が整ってい
る。PSAは最近、26のバースと、コンテナ18個分の広さを持ち、遠隔操作のできる岸壁クレー
ンを、パシル・パンジャンターミナルに設置したが、処理能力は東南アジアで最大の1,800万T
EU以上になる。また、情報システムの更新により、コンテナの平均滞留日数を4.65日から4
日、1個当たりの処理時間を14.7時間から11.3時間へ短縮した。第3世代のコンテナ船であ
れば、1時間に84個のコンテナを処理することができる。約95%の船は到着後直ちに着岸で
き、50%以上のコンテナが3日以内に積み替えられる。2004年には自動誘導の車両が運用さ
れる予定である他、長期契約の獲得や組織のスリム化による料金の引き下げを実施してきてい
る。 シンガポールは、タンジュン・プリオク、ポート・クラン、タンジュン・プルパス及びレム・チャバ
ン等の地域港湾からの競争にさらされている。目下のところ、マレーシア、タイその他の東南アジ
ア諸国のコンテナ取扱量を合計してもシンガポールの数分の1に過ぎないが、それらの港で扱う
コンテナが増えれば、シンガポールでの取扱が減る関係にあり、船社に価格交渉の際等の選択
肢を与えることになる。とはいえ、最も大きな船舶はシンガポールでしか扱えないため、同港はこ
の地域の主要な中継ハブであり続けるであろう。
(3) 高雄
高雄湾は台湾最大の港湾であり、台湾南西部の台湾海峡とバシー海峡とを結ぶ地点に位置す
る。自然条件にも恵まれている。1980年以前は最大級のコンテナ取扱量を持っていたが、中国
の改革開放及び経済特区の設置により状況が変わり、現在は、主にアメリカ産品のアジア市場
への積替港として機能している。
高雄を地域の主要な積替ハブとするために、国際空港の拡張、高速道路の建設が進められて
おり、高雄港と台中港を結ぶインターモーダルなコンテナ鉄道の計画もある。ITの利用も進めて
おり、税関・倉庫の自動化、官庁書類の電算処理、船舶運航管理システムの導入を計画してい
る。
主な競争相手は中国の諸港と香港であり、中国大陸向けの貨物は、近年、高雄を通過する傾向
にある。他方、シンガポールや香港のような先進的な積替港となることも難しいため、高雄として
は、北米からアジアへの貨物の積替に特化し、韓国や日本の港湾と競争するところにニッチがあ
る。将来、台湾と大陸との直航が実現する場合には、大陸市場を大きく取り込まなければ、主要
な積替港に発展することはできない。
(4) その他のハブ港
東南アジアは2005年には、世界の積替輸送の3分の1を占めるまでになるとの見方もあり、そ
の中で、積替ハブとなりうるのは、立地・設備がよく、料金もシンガポールに比して安いタンジュ
ン・プルパス港、アジア危機の時期を除き年20%程度の成長をしてきたポート・クラン港、設備
の効率化を進め、インドシナにも近いレム・チャバン港である。
72
第Ⅳ章 マ・シ海峡の海上交通路としての重要性
コンテナ1個当たりの取扱料金(1999年)
ポート・クラン
シンガポール
レム・チャバン
タンジュン・プルパス
20ft
40ft
20ft
40ft
20ft
40ft
20ft
40ft
FCL カーゴ
US$50
US$75
US$155
US$220
US$23
US$34
US$109
US$154
LCL カーゴ
US$87
US$129
US$325
US$452
US$58
US$93
US$227
US$316
Transhipment
US$42
US$63
US$100
US$145
US$11
US$16
US$70
US$101
(資料)同書。(注)タンジュン・プルパスはシンガポールの70%に設定。
4.将来予測
英国オーシャン・シッピング・コンサルタンツ社の1999年の予測によれば、楽観的シナリオ(Ⅰ)
の場合、全体需要は、2000~2012年に125%伸び、4億9,100万TEUとなる。悲観的シナ
リオ(Ⅱ)の場合、同期間に91%伸びて、4億1,700万TEUとなる。その中で、アジア市場につ
いては、シナリオⅠで154%伸びて2億3,746万TEU(年率9%)、シナリオⅡで105%伸びて
1億9,165万TEU(年率6%)になると予測している。
東南アジアは、コンテナ化が進んでいるため、高い成長を続け、世界のコンテナ貿易の中に占め
るシェアを拡大し、2012年には20%程度を占めると考えられる。その中で、マレーシアとタイの
港湾の急成長により、シンガポールはその圧倒的な地位を失うが、どちらのシナリオによっても、
東南アジアのコンテナ貿易の3分の1以上に当たる3千万TEU以上を取り扱うであろう。
コンテナ貿易に占める積替輸送の比率については、世界全体の回数ベースで見ると、1996年
の23%から2005年には26%程度に拡大するものと予測されるが、TEUベースでは、コンテナ
貿易の成長率14%に対して積替・フィーダー輸送の成長率は年7.6%に留まるものと予測され
る。
その中で、東南アジアは第1の積替地域であり(1996年に世界全体の30%)、通貨危機からの
回復、ベトナム、カンボジア及びミャンマーにおける市場開拓により、コンテナ需要はさらに伸び
ることが見込まれるため(2005年に2,400万TEU)、世界におけるシェアも拡大する。このこと
から、シンガポールについては、取扱量は増加するものの、市場シェアは低下し、レム・チャバ
ン、ポート・クラン、タンジュン・プルパス等に成長が拡散するものと思われる。
他方、極東や南アジアについては、中国やインドの各港における直接寄港の発展により、積替
の回数は減少することが予想されるが、積替・フィーダーの輸送量自体は増加する。
5.海港モデル
(この項は、コストと運航頻度を踏まえた所要時間とを変数とする輸送経路選択モデルであり、ム
ンバイから東京に輸送する際に、コストだけで見た場合はクラン経由、所要時間だけで見た場合
は、クラン~タンジュン・プルパス~高雄の3地点経由、一定の時間価値を設定するとシンガポ
ール経由が最適である等のおもしろい分析も見られるが、やや学問的であるため省略します-
訳注)
73
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
マ・シ海峡は海上貿易活動、漁業活動など多種多様な経済活動に必要な場を提供しています。そ
の中でも、海上貿易活動に必要な海上交通路としてのマ・シ海峡の機能の重要性は、海峡沿岸
国のみならず海峡利用国も、その機能から多大なる便益を享受しており、両者にとって否定しが
たいものです。沿岸国と利用国は、そのようなマ・シ海峡の機能が引き続き適切に維持されていく
ことを希望しています。しかし、海峡の機能維持のためには継続的な努力が必要となるわけです
が、本来、誰がどのように行っていくべきか、という問題が生じます。これまで海峡沿岸国は、主要
な利用国であった日本とともに、船舶の安全な航行を阻害する要因を排除し、船舶が安全に航行
できる環境を整備するなど、マ・シ海峡の海上交通路としての機能を維持・発展させてきました。
加えて、海上輸送活動に付随して発生する、海難事故、油や有害危険物質などの流出事故、海
賊、海上テロなどの海上犯罪に対しても、必要となる準備・対応体制を整えてきました。
この章では、まず、航行安全の観点から、これまで海峡沿岸国が海峡機能維持のためにどのよう
な対策(海難事故、油流出事故といった事象に対し迅速かつ適切に対応するため、沿岸国が整え
ている準備・対応体制を含む)を講じてきたのか、海峡利用国がどのような協力を行ってきたのか、
についておおまかに見ていくことにします。次に、将来的な方向性しとして、今後どのような対策が
必要となり、利用国がどのように協力を行う可能性があるのか、について考察することにします。
なお、利用国による協力に関しては、後の章で詳しく検討することにし、この章では、利用国によ
る協力が望まれていると考えられる分野に関し、その理由、協力の内容ついて簡単に言及するこ
とにします。
A マ・シ海峡通航船舶の堪航性及び適格船員配乗の確保
1.寄港国による監督(Port State Control)
(1) 沿岸国の取組み
船舶の堪航性や適格船員配乗の確保は、通常は当該船舶の登録国たる旗国の責務です。しか
し、いわゆる便宜置籍船の問題や、旗国の努力にも限界があることから、寄港国による監督
(PSC: Port State Control)と呼ばれる手法により、船舶の寄港地において、当該地の監督官による
監督業務が行われています。マ・シ海峡沿岸国でも、この PSC の制度を活用しマ・シ海峡通航船
舶、特に、国際基準に適合していない船舶(サブ・スタンダード船)に対する監督業務を行うことに
より、同海峡の安全を確保しています。
⇒船舶の寄港地において、当該地の監督官による監督業務
寄港国が PSC を実施する権限を有していることは、SOLAS 条約附属書第Ⅰ章第6規則、
STCW 条約第 10 条に規定されている。
74
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
「シンガポールにおいては、対象船舶の選定にあたって、初入港か否か、前回の PSC か
ら6ヶ月を経過しているか否か、これまでの検査暦、他の PSC 当局からの情報などが参考
にされ、・・・る。MPA の検査官は、現在5人であり、PSC を行える対象は全体から見れば
ほんの一部にならざるを得ず、2003 年の1年間で PSC として検査した件数は 1,193 件と
入港船舶全体の1%にも満たない。」(志村格「シンガポールにおけるサブスタンダード船
の排除」『海と安全―特集 サブスタンダード船を排除できるか!』(2004 春) 38 頁)とある
ように、シンガポールでもこのような PSC 実施状況であれば、インドネシア及びマレーシア
の海峡沿いの港においては、実施状況が更に低いと考えられる。
⇒国際基準に適合していない船舶
船舶の堪航性や適格船員配乗に係る国際基準は、国際海事機関(IMO: International
Maritime Organization)が採択をした「1974 年の海上における人命の安全のための国際
条約(SOLAS 条約)」及び「1978 年の船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関す
る国際条約(STCW 条約)」などである。
現在、IMO では、サブスタンダード船対策の強化を念頭に置いた条約監査制度の創設を
検討中(2005 年秋の総会での決議、2006 年から実施)である。この制度の目的は、旗国、
寄港国などの条約の履行状況を監査することにある。また、同制度の手続面を検証する
目的で英国、マーシャル諸島、キプロスの3カ国が提案する試行プロジェクトに、マ・シ海
峡沿岸国であるシンガポールをはじめ、米国、ロシア、アルゼンチン、フランス、イランが
参加を表明している。なお、日本は試行プロジェクトへの参加を見送っている。
(2) 利用国による協力
PSC は寄港国により実施されますが、各国が単独で実施していたのでは効率的ではありません。
また、船舶は各国の港に寄港するわけですが、各港により PSC の実施に差があれば、自然と
PSC の貧弱な港や地域にサブスタンダード船が集まってきます。このような理由により、地域的な
協力の枠組みによりサブスタンダード船に対する囲い込みを強化していこうとしています。なお、
東京 MOU 自体は、直接的には、マ・シ海峡沿岸国と利用国との間の協力の枠組みではありませ
んが、マ・シ海峡の安全確保に大きな貢献をしていることは確かです。
⇒地域的な協力の枠組み
地域的協力の枠組みは現在8つあり、アジア太平洋地域においては、1993 年の「アジア
太平洋地域における PSC 実施協力に関する覚書(東京 MOU)」がある。マ・シ海峡沿岸
国やその周辺の国々も東京 MOU のメンバーである。東京 MOU では、地域の PSC 実施
能力を維持向上させるため、各種セミナーや研修プログラムを実施している。また、地域
内の PSC の結果をデーター・ベース化し、各国の担当官がオンラインで監督記録を検索
することができる(東京 MOU ホームページ http://www.tokyo-mou.org)。
東京 MOU 自体は、直接的には、マ・シ海峡沿岸国と利用国との間の協力の枠組みでは
75
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
ないが、マ・シ海峡の安全確保に大きな貢献をしていることは確かである。
(3) 今後の方向性
【東京 MOU の強化】
マ・シ海峡を通航する船舶の国籍は様々であり、それら全ての船舶が国際基準に適合する船
舶であることをマ・シ海峡沿岸国だけの努力により確保することは困難です。そのような意味
で、マ・シ海峡を含むアジア太平洋の海域からサブスタンダード船を撲滅しようとする東京
MOU のような地域的な協力の枠組みは非常に有効であると考えられます。今後、現存の東京
MOU に基づく地域的な協力の枠組みの強化や、条約監査制度の創設など IMO における世界
的な取組みが更に強化されることが必要です。
B 物理的航行環境の改善
1.水路測量
(1) 沿岸国の取組み
沿岸国はマ・シ海峡の水路測量を定期的に実施することにより、船舶の安全な航行に影響を与え
る浅瀬、岩礁、沈船などの航路障害物などを把握し、当該結果を海図、補正海図、航行警報など
として一般周知しています。
⇒沿岸国はマ・シ海峡の水路測量を定期的に実施する
沿岸国は、船舶の安全な航行に影響を与えるものを水路測量などによって把握する国際
法上の義務はない。
領海内(国際海峡を含む)の水路測量は沿岸国の領域主権に基づき沿岸国水路機関に
より実施される。外国船舶による領海内の調査活動及び測量活動は沿岸国の平和、秩
序又は安全を害するものとされる(considered to be prejudicial to the peace, good order or
security of the coastal states)(海洋法条約第 19 条第2項)。なお、沿岸国は海洋の科学的
調査及び水路測量(marine scientific research and hydrographic surveys)について領海にお
ける無害通航に係る法令を制定することができる(海洋法条約第 21 条)。外国船舶による
国際海峡たるマ・シ海峡の調査及び測量活動(research and survey activities)は沿岸国の
事前の許可(prior authorization)が必要となる(海洋法条約第 40 条)。
⇒一般周知しています。
沿岸国は、自国の領海内(国際海峡を含む)における航行上の危険で自国が知っている
ものを適当に公表する義務がある(領海:海洋法条約第 24 条第2項、国際海峡:海洋法
条約第 44 条)。また、群島国は、自国の群島水域の群島航路帯について、同様の義務を
76
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
有する(海洋法条約第 54 条)。なお、マ・シ海峡は、一般的には沿岸国の内水、領海、群
島水域から構成されている。
(2) 利用国による協力
これまで、日本による水路測量事業に係る協力は、計2回行われています。第1回目は、1969 年
(昭和 44 年)から 1974 年(昭和 49 年)にかけて日本が海峡沿岸国と共同で実施した一連の水路
調査事業であり、精密調査を行う必要のある海域を特定するための予備調査と、これに引き続き
第1次~4次に渡り実施された本調査からなります。この事業の背景となったのは、1967 年(昭和
42 年)、日本がシンガポールとともにマ・シ海峡における航路指定及び関連する措置に係る提案
を政府間海事協議機関(IMCO: Inter-governmental Maritime Consultative Organization)第4回航
行安全小委員会に行った際、その前提条件として、水路調査などの実施が提示されたことにより
ます。第2回目は、1996 年(平成8年)から 1998 年(平成 10 年)にかけて日本が ODA 事業として
海峡沿岸国と共同で実施したものです。この背景となったのは、1995 年(平成7年)、海峡沿岸3
カ国が共同で分離通航方式の改正提案をIMO第 41 回航行安全小委員会に行った際、その前提
条件として、水路再測量などの実施が提示されたことによります。なお、第2回目の共同水路測量
の結果は、マ・シ海峡の電子海図(ENC: Electric Navigational Charts)として発刊する、ということに
なっていますが、手続上の理由により、まだ実現されていません。
⇒電子海図(ENC: Electric Navigational Charts)
電子海図とは、海図(水深、灯台や航路ブイ等の航路標識、通航路、海底の性質、暗礁
の位置などを記した、船舶を安全に運航するために用いられる海の地図)を電子情報化
したものであり、通常、船舶に設置された専用のモニターに表示して使用する。電子海図
には、紙海図を電子スキャンして比較的容易に作成できるラスター・チャートと、紙海図上
の各種情報を数値化して、紙海図以上の情報を持つベクター・チャートに分類される。ベ
クター・チャートの作成は、非常に高度な技術と相当の手間と経費が必要となる。
(3) 今後の方向性
【水路補正測量】
海峡沿岸国の水路機関(インドネシア海軍水路部、マレーシア海軍水路部、シンガポール海事
港湾庁水路部)は、既に、要求される精度で測量を実施する技術を保有していると考えられる
ことから、技術支援・移転という観点からの協力は必要ありません。なお、財政支援の一環とし
て現物供与の協力形態(利用国水路当局の人材、資材を使用して測量を実施する)をとる場合
には、沿岸国の主権を考慮すると、沿岸国水路当局との共同測量という形態を取らざるを得ま
せん。
【サンド・ウェーブ】
マ・シ海峡の海底地形は、強い潮流によって発生するサンド・ウェーブなどにより変化すること
があるので、特に水深が浅く船舶の航行に影響を与える海域においては、定期的な水路測量
77
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
が必要となってきます。サンド・ウェーブについては、現在、その複雑な形成過程などは明らか
になっていません。これを解明することにより、航行安全対策に役立てることが期待できます。
このような調査研究に係る協力は高度な科学技術を必要とするものですので、今後、利用国の
協力が望まれる分野であると考えられます。
【利用者負担6プロジェクト:分離通航帯の補正測量】
現在、海峡沿岸国が利用国(者)からの任意資金拠出により実施しようと考えている六つのプ
ロジェクト(以下「利用者負担6プロジェクト」という)の一に、マ・シ海峡の分離通航帯の補正測
量があります。これは同海峡を通航する VLCC などの大型船舶の航行の安全性を更に向上さ
せるため、多指向性の水深測量装置を利用し、現行の海図情報の最新化を行なおうとするも
のです。この補正測量は関係国合同で実施するものであり、実施には2年を必要すると見込ま
れています。先ほども述べましたが、マ・シ海峡の海底地形は微妙に変化しているため、定期
的に海図情報の最新化を図ることが必要となってきます。このような意味で、マ・シ海峡のうち、
特に、国際航行船舶が通航する分離通航帯に焦点を絞った補正測量は、たいへん意味があり
ます。なお、この種の補正測量は、海上電子ハイウェー・プロジェクト(MEH: Marine Electronic
Highway)でも計画されています。
⇒海上電子ハイウェー・プロジェクト(MEH Project: Marine Electronic Highway Project)
MEH プロジェクトは、IMO、世界銀行などの協力を得て、海峡沿岸3カ国が中心となっ
て推進してきたものであり、現段階においては、マ・シ海峡の海洋汚染の防止、海洋環
境管理、航行安全強化を目的とした統合情報システムを構築し、気象・海象に関する
情報、航行警報、AIS 情報などをリアルタイムで船舶に提供しようとするものである。船
舶では、これらの情報を電子海図表示装置に表示し活用することができる。詳細につ
いては、今井義久、松沢考俊「海洋電子ハイウェイ(MEH)に関する調査」『国際海峡利
用国と沿岸国の協力体制』〔シップ・アンド・オーシャン財団海洋政策研究所〕(平成 16
年3月)参照。なお、現在このシステムをセキュリティー分野に応用できないかを模索す
る動きが IMO にあるようである。
MEH プロジェクトは、資金提供側(現物供与を含む)が世界銀行やインタータンコとい
った組織・団体であることから、マレーシア海事局では、MEH プロジェクトが沿岸国と
利用国との協力制度のモデル・ケースになり得ると考えている。
2.航路標識の設置
(1) 沿岸国の取組み
沿岸国は、灯台、灯標、浮体式灯標、灯浮標(ブイ)、レーコンなど各種の航路標識をマ・シ海峡に
設置しています。
⇒各種の航路標識をマ・シ海峡に設置しています。
78
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
航路標識の設置は領域主権に基づき沿岸国海事機関(インドネシア運輸省海運総局、マ
レーシア運輸省海事局、シンガポール海事港湾庁)が実施する。なお、航路標識の設置
は沿岸国の義務とされている(SOLAS 条約第Ⅴ章第 14 規則)。また、それが航行上の危
険を示す場合には公表する義務がある(海洋法条約第 24 条 他)。
(2) 利用国による協力
現在のような航路標識が整備される前のマ・シ海峡は顕著な陸上物標に乏しく、船位の確定は、
専ら、灯台、ブイ等の航路標識に頼らなければならない状況でした。しかし、それらの航路標識は、
消灯していたり、位置がずれていたりしており、特に夜間の航行は危険を伴うものでした。このよう
な状況から、マ・シ海峡に分離通航方式を設定することが初めて IMCO で検討された際、航路標
識等の航行援助施設を整備することが前提となりました。
一方、その当時、日本の関係者の間では航行援助施設を整備する国際的な機構を設置する構想
が検討されていましたが、インドネシアやマレーシアの反対により、当該構想の推進が断念されま
した。このため、利用国による何らかの協力制度が確立されるまでの間は、マラッカ海峡協議会
が日本政府と沿岸国政府の協力を得て、航行援助施設に係る必要最小限の整備をしていくこと
になりました(第Ⅱ章「マラッカ・シンガポール海峡の概要」参照)。
1970 年(昭和 45 年)2月、インドネシア海運総局とマラッカ海峡協議会との間で、太陽電池式灯浮
標5個の寄贈に関する覚書が調印されました。この灯浮標の設置が同協議会の実施による同国
政府に対する航行援助施設整備事業のスタートとなり、その後、30 年以上にわたり、地道な協力
が続けられています。なお、当時、建設された航路標識の維持管理はインドネシア政府が責任を
持つこと、建設及び維持管理に要する費用は、マ・シ海峡の航行援助施設の維持管理について
の国際的取り決めができるまで、差し当たり同協議会が負担すること、などが合意されました。一
方、マレーシアとの間においては、1976 年(昭和 51 年)3月、マレーシア政府とマラッカ海峡協議
会との間で、2カ所の灯標及び1カ所の灯台の建設に係る覚書が調印されました。この灯台及び
灯標の設置が同協議会実施による同国政府に対する航行援助施設整備事業のスタートとなり、
その後、25 年以上にわたり、地道な協力が続けられています。
現在、マ・シ海峡に設置される主要航路標識 51 基のほとんどは、日本財団他の財政的支援によ
り、マラッカ海峡協議会が設置したものであり(図Ⅴ―1参照)、同協議会による協力がいかにマ・
シ海峡における航行安全に貢献しているかを示しています。なお、下記は、同協議会がマ・シ海峡
に設置した航路標識の内訳であり、光波標識が 30 基、電波標識が 15 基となっています。
・ 灯台
4基(内訳:インドネシア3基、マレーシア1基)
・ 灯標
10基(内訳:インドネシア6基、マレーシア4基)
・ 浮体式灯標
8基(内訳:インドネシア6基、マレーシア2基)
・ 灯浮標
8基)内訳:インドネシア8基)
・ レーコン
15基(内訳:インドネシア 10 基、マレーシア5基)
79
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
タコン灯台(インドネシア)
タンジュン・ギャバン灯台(マレーシア)
Ⅴ―1 マ・シ海峡の主要航路標識
注:赤色:マラッカ海峡協議会により設置されたもの(沿岸国が設置したものにビーコンなどの追加的設備を付加し
たものを含む。)
黄色:インドネシアにより設置されたもの
緑色:マレーシアにより設置されたもの
青色:シンガポールにより設置されたもの
また、マラッカ海峡協議会では、日本財団他の財政的支援により、マ・シ海峡に設置された航路標
識の維持・管理事業を実施するとともに、灯台、灯標などの見回りに使用する設標船を、マレーシ
ア海事局には 1976 年(昭和 51 年)と 2002 年(平成 14 年)の2度にわたり、また、インドネシア海
運総局には 2003 年(平成 15 年)に、それぞれ寄贈しています。
80
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
(3) 今後の方向性
【航路標識の維持管理】
現在、マラッカ海峡協議会が支援を行っているインドネシア及びマレーシアのうち、マレーシア
は既に航路標識の維持管理業務に必要となる技術や予算を保有していることから、技術支援・
移転という観点、また、財政支援という観点からの協力の必要性は今後ますます少なくなって
いくと考えられます。しかし、インドネシアについては、技術支援・移転の観点、財政支援の観
点、人材育成の観点から、まだまだ他の国からの支援を必要としており、今後も引き続き、何ら
かの協力を継続していく必要があります。
【利用国負担6プロジェクト:航路標識への遠隔監視装置設置】
「利用国負担6プロジェクト」の一つに、分離通航帯航路標識への遠隔監視装置設置がありま
す。これは、分離通航帯近辺の航路標識計 51 カ所に、標識の作動状況(灯火点灯の有無、灯
浮標バッテリー電圧、灯浮標の位置等)に関する信号を通信衛星経由で陸上の事務所に送信
する装置を設置し、航路標識の維持・管理作業に役立てようとするものです。これは、航路標
識を維持・管理する立場の者のみならず、当該情報を通航船舶に提供することにより、船舶の
安全な運行にも資するものと考えられています。現在では、AIS を使用して、同様の取組みが
行なわれており、インドネシア、マレーシア及びシンガポールでは既に実用化されています。
3.航路啓開
(1) 沿岸国の取組み
通常、船舶が通航する海域に浅瀬や暗礁がある場合、そこを避けて航路等が設置されますが、
それがその他の要因により困難な場合には、浚渫により浅瀬などを除去する場合があります。ま
た、航路内に海難等を原因とする沈船があり、船舶の航行に支障をきたすものは、撤去する必要
があります。沿岸国は必要に応じこのような航路啓開作業を実施しています。
(2) 利用国による協力
昭和 48 年4月から昭和 50 年1月にかけて、マラッカ海峡協議会がシンガポール海峡セントーサ島
の南(シンガポール領海内)にある沈船 Shun Tai 号を除去しました。これ以後、同協議会は、シン
ガポール海峡のマレーシア領海内にある沈船 Laertes 号、Bethlehem 号、White Mountain 号の撤
去を実施しました。
(3) 今後の方向性
【浚渫事業】
現在、浚渫により航行環境の改善が格段に図られると考えられる海域は、シンガポール海峡
81
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
のタコン(Takong)からバル・ベルハンティ(Batu Berhanti)に至る海域と、ホースバーグ灯台南
西側の海域です。前者は浚渫による分離通航帯の改善という観点から捉えられているので、
次項「C 通航制度」の「1.分離通航帯の設置」の中で詳しく述べることにします。後者につい
てですが、この海域は、ジャワ海方面から北上しビンタン島東側海域を経由してシンガポー
ル海峡に入ろうとする船舶が、分離通航帯を東航する船舶との間で危険な見合い関係を生
じる海域となっています(図Ⅴ-2参照)。このような場合、船舶は避航動作をとるわけです
が、水深が 10m 以下の浅瀬が点在しており、また、潮流の影響も強く、衝突海難の危険性に
加え、乗揚海難の危険性についても指摘されています。従って、この付近の海域の浅瀬を浚
渫することにより、航行環境が大幅に改善されることが期待されます。浚渫事業は、莫大な
予算を必要とするため、今後、利用国の協力が望まれる事項と考えられます。
水深線
青線:30m
赤線:20m
緑線:10m
ホースバーグ灯台
(シンガポール)
至 ジャワ海
浚渫が必要となる浅瀬
Ⅴ―2 ホースバーグ灯台南西側海域
ワン・ファザム・バンク沖の東航航路については、大型船舶の航行に支障を及ぼす大きな浅
瀬が存在しているため、当該船舶は航路内で大きな変針をして2カ所の浮標の間を通過する
ことを余儀なくされています(図Ⅱ―4参照)。このように大型船舶の航行に影響する浅瀬が
除去されれば、航行環境改善に大きく寄与することになりますが、浅瀬が巨大であり莫大な
費用が必要になること、また、除去することにより、海峡内の潮流等に変化をきたし別な場所
に砂が滞留したり、同じ場所に滞留することも考えられ、現在のところ、抜本的な解決策はあ
りません。従って、当該海域を航行する大型船舶に航行の優先権を与えるなど、新しい航行
ルールを作成するなどの対策が必要となってきます。
【利用国負担6プロジェクト:沈船除去】
現在、マ・シ海峡の分離通航帯内に存在する危険な沈船(海図上で確認される水深 25m 以
82
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
下のものに限る)は、12 隻存在します。このうち、マラッカ海峡のディクソン港沖にある「Royal
Pacific 号」については、分離帯の中にあるものの、水深約 16m 付近に船体上部のマストのよ
うな物体が観測されているため、「利用国負担6プロジェクト」の一つとして、沿岸国が撤去し
たいと考えているものです。沈船撤去事業は、莫大な予算を必要とするため、今後、利用国
の協力が望まれる事項と考えられます。
沈船(水深 16.1m)
拡大図
Ⅴ―3 マラッカ海峡ディクソン港沖の分離通航帯
⇒12 隻存在します。
平成 13 年(2001 年)6月、日本海難防止協会が国土交通省からの委託事業として実
施した「マラッカ・シンガポール海峡航行安全対策調査」の一環として調査した。
な お、最近の調査により 、ワ ン・ファザム・バンク灯台西方の東航航路内( 02-56.54N,
100-50.47E)にタグボートが沈没していることが確認され、そのマストの最高点は水深 16.3m
に達していることから、大型船舶の通航に支障が生じると考えられます。当該船舶のマスト部
の撤去など所要の措置を講じる必要があります。
C 通航制度
1.分離通航帯の設置
(1) 沿岸国の取組み
1981 年5月、マ・シ海峡ではじめての分離通航帯がワン・ファザム・バンク及びシンガポール海峡
に導入されました。その後、1998 年 12 月1日、従来の二つの分離通航帯をつなぐような形で、ワ
ン・ファザム・バンクからホースバーグ灯台に至る全長 500km に及ぶ改正分離通航帯が導入され
ました。
83
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
分離通航帯の導入にともない、「マラッカ海峡及びシンガポール海峡の通航に関する規則」も制定
されています。なお、分離通航方式の導入については、SOLAS 条約第Ⅴ章「航行の安全」第8規
則「船舶の航路指定」に基づき、分離通航方式に係る IMO 指針及び基準に従い、また、海洋法条
約に適合する方法で行われています。
Ⅴ―4 旧通航分離帯(左)と新通航分離帯(右)
IMO の第 49 回航行安全小委員会(2003 年6月 30~7月4日、ロンドン)において、シンガポール
海峡主水道(Main Strait)の分離帯内部に、シンガポール港の錨地不足や深喫水船のための避航
水域がないという懸念を解消するため、新たな錨地(トランジット・アンカレッジ)を設定すること
(マ・シ海峡の沿岸国であるインドネシア、マレーシア及びシンガポールによる共同提案)について
承認されました。これは、翌年の第 78 回海上安全委員会における議論・承認の後、2005 年1月1
日から実施に移される予定です(COLREG.2/Circ.54 (28 May 2004))を参照して下さい。トランジッ
ト・アンカレッジ設置に係る思惑、背景、問題点等については、下記コラム参照。
(2) 利用国による協力
分離通航帯を設置するに際しての直接的な利用国による援助はありませんが、その前提としての
水路測量、航路標識の設置に関しては、前にも述べたとおり、日本が協力を行っています。
(3) 今後の方向性
【海峡利用国6プロジェクト:新分離通航帯の設置】
「海峡利用国6プロジェクト」の一つに、スマトラ島北端からワン・ファザム・バンクにかけての海
域(スマトラ島沿岸部)に、計3カ所の新たな分離通航帯を設置する、というものがありますが、そ
の必要性については疑問が残ります。また、現行の分離通航帯の東側の入り口であるイースタ
ン・バンク(ルメニア・ショールから北東方向)付近に、新たな分離通航帯を設置する必要があ
る、という指摘もあります。イースタン・バンク付近は、マ・シ海峡に入ろうする船舶が徐々に収束
する海域であり、また、イースタン・バンクと呼ばれる比較的水深が浅い場所も存在しており、衝
突、乗り上げなどの海難事故も発生しています。
84
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
⇒計3カ所の新たな分離通航帯を設置
計3カ所の新たな分離通航帯のうち、1カ所は、スマトラ島北端のアチェ沖に設置される
ことになっている。果たして、この分離通航帯の設置が、マ・シ海峡の航行安全対策の
一つとして捉えることができるかという問題がある。インドネシアは海峡利用国の協力支
援を得るため、協力支援プロジェクトの対象を無秩序に拡大しているような疑念が残る。
そもそもこの問題は、マ・シ海峡の地理的範囲にも関係する問題であり、後の章で詳しく
触れるが、合理的に考える場合、このような場所における協力支援プロジェクトは、海峡
利用国と沿岸国との協力支援プロジェクトの対象としては好ましくないと考えられる。
⇒必要性については疑問が残ります。
2000 年(平成 12 年)、日本船主協会と日本船長協会が実施した、船長経験者に対する
マ・シ海峡通航アンケート調査によると、必要と答えた者が 31%、不要と答えた者が
40%、どちらともいえないと答えた者が 29%であった。
⇒指摘もあります。
上記アンケート調査では、必要と答えた者が 47%、不要と答えた者が 23%、どちらとも
いえないと答えた者が 29%であった。
新分離通航帯(3カ所)
現行の分離通航帯
Ⅴ―5 新分離通航帯
85
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
【行き先信号旗の掲揚等他の交通安全対策による分離通航方式の改善】
分離通航帯を設置することにより、主たる船舶交通の流れを整流することは可能となりますが、
付随する問題として、横切り船、航路からの出航船、航路への入航船等、主たる交通流を乱す
おそれのある要素に対しても十分な対策が講じられる必要があります。この問題が特に顕著で
ある海域としては、シンガポール沖の分離通航帯です。このため、シンガポール港を出入港する
船舶に行き先旗の掲揚を義務付けるべきである、という意見もあります。今後、船舶自動識別装
置(AIS)が広く普及してきた場合には、AIS にこの情報を含めることも有効な手段であると考えら
れます。
【大規模港湾と分離通航帯との調和】
第Ⅱ章「マラッカ・シンガポール海峡の概要」において、シンガポール港を例にとり、海峡沿岸の
大規模港湾が海峡通航船舶の安全に影響を与えていることを指摘しました。特にシンガポール
海峡では、シンガポール港の港域が分離通航帯に迫っており、同港に入港するため水先人の乗
船待ちをする船舶などは、港域の境界線と分離通航帯との境界線との僅かな海域(幅約 800m
の帯状の海域)の指定された水先人乗下船地点に滞留するため、分離通航帯を航行する船舶
に悪影響を与える危険性も指摘されています。また、分離通航帯の夜間航行時は、シンガポー
ル港停泊船舶の停泊灯やシンガポール商業地区の都市照明などにより、分離通航帯の通航船
舶の航海灯が認識しずらくなっています。
狭い海域に大規模港湾が存在している、という環境は、分離通航帯を西航する船舶と出港東航
船舶又は西航入港船との間に危険な見合い関係を生じるなど、様々な航行安全上の阻害要因
となっています。シンガポール港では、今後も海域の埋立工事が進行し、ますます、錨地不足や
港内の混雑が予想されており、その影響が分離通航帯を通航する船舶に及ぶことが懸念されて
います。先ほど、シンガポール海峡の分離通航帯内部に設置されたトランジット・アンカレッジに
ついて述べましたが、この錨地の設置自体も、分離通航帯を航行する船舶に及ぼす影響が大き
い、という意見が IMO における検討段階において指摘されています。結局のところ、狭い海域に
大規模港湾が存在していることによる問題点は、狭い海域という解決不可能な物理的要因から
生じるものであり、また、港湾の埋立てによる開発を中止するについても困難であるため、VTIS
による監視の強化、GPS や AIS の活用、シンガポール港の航行安全環境の改善といった他の航
行安全対策により改善していかなければならない問題です。
【深喫水航路入口での交通流の改善】
メダン沖に設置された深喫水航路の入口付近で、中央分離帯の付近を航行し、深喫水航路に
進入しようとする大型船と、同航路を直進しようとする船舶との間で危険な見合い関係が存在し
ています。この深喫水航路は、改正された分離通航帯の導入によって新たに設置されたもので
すが、船側の操船努力により改善され得るものであると考えられます。
86
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
深喫水船の航路:
水深 23m の浅瀬を避け、中央よりを航
行、その後、深喫水航路に入るため右に
針路を変更する。
通常の船舶の航路:
水深 19m の浅瀬を避け外側を航行
深喫水航路入口
Ⅴ―6 メダン沖深喫水航路の状況
【海峡利用国6プロジェクト:シンガポール海峡深喫水航路の改善】
シンガポール海峡の東航航路のうち、深喫水航路入口からバッファロー・ロックを航過してバツ・
ベルハンティ岩に至る海域では、浅瀬、岩礁が点在しています(図Ⅴ―7参照)。
バツ・ベルハンティ岩
バファロー・ロック
深喫水航路入口
Ⅴ―7 シンガポール海峡東航航路の浅瀬、岩礁
87
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
注:上部の黒線の上部が深喫水航路、下部が通常の東航航路である。なお、浅瀬・岩礁を示す楕円の大きさ
は、当該浅瀬等の正確な大きさではない。
この海域については、「海峡利用国6プロジェクト」の一つとして、これらの浅瀬、岩礁を撤去し、
水深 23m を確保することが検討されています。これにより、次の効果が期待できます。
VLCC 等の深喫水航路を必要とする大型船の可航域が拡幅(最狭部が 574m から
1580m)され、深喫水航路が不要となる。
航路幅が拡幅されることにより、深喫水航路の速力制限が廃止可能となる。これは、付
近海域で発生している海賊による船舶への移乗阻止に有効である。
東航航路全体が南へ移動することにより、西航航路も拡幅される(最狭部が 532m から
1290m)
Ⅴ―8 現行の東航航路(上図)、拡張後の東航航路(現行の東航航路の境界線は点線で示す)(下図)
88
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
コラム:トランジット・アンカレッジ
2002 年9月3月、インドネシア海運総局長名による通知文書が発出されました。内容は、概ね次
のとおりです。
・ 錨地(トランジット・アンカレッジと名付けられている)の設定(シンガポール海峡主水道の分離
帯内部、インドネシア領海内)
・ 深喫水船専用区域とその他の船舶用区域に分割
・ 東航の深喫水船が気象・海象、船舶交通の輻輳度等からそれ以上航行することが危険と判
断した場合の避航水域を提供(目的1)
・ 一般船舶用の避航水域を提供(目的2)
・ 損傷した船舶を修理し、また、水・油を補給するための水域を提供(目的3)
・ 指定された管理会社により運営される。
・ 本錨地以外の分離帯内の水域には錨泊禁止
西航航路
東航航路
Ⅴ―9 トランジット・アンカレッジ
* 上記海図上の赤線は、下記の各点を順に結んだ線である。
(A)北緯 1 度 09.5 分、東経 103 度 35.3 分
(E) 北緯1度 04.5 分、東経 103 度 38.9 分
(B) 北緯1度 09.1 分、東経 103 度 38.6 分
(F) 北緯1度 07.3 度、東経 103 度 34.2 分
(C) 北緯1度 05.5 分、東経 103 度 40.8 分
(G) 北緯1度 08.0 度、東経 103 度 34.6 分
(D) 北緯1度 04.9 分、東経 103 度 39.6 分
89
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
国連海洋法条約第 41 条第4項は、海峡沿岸国は、航路帯の指定若しくは変更又は分離通航方
式の設定若しくは変更を行う前に権限ある国際機関に対して採択のための提案を行う、と規定
しています。この規定は、たとえその海域が沿岸国の領海であったとしても、他の代替航路を有
しない国際海峡である場合には、単なる領海である場合と異なり、当該海域が有する国際社会
全体の利益に鑑み、国際機関での同意にかからしめるべきであるという要請に応えるものです。
インドネシアは、このような手続きが存在するにもかかわらず、海運関連行政の責任者である海
運総局長名による通知文書を昨年9月に発出しました。このような行為の背景に関する見方に
は2つあります。
1つの見方は、インドネシアはいまだ国際海峡の制度について否定的な見解を有しているという
ものです。1970 年代初頭、沿岸3カ国は、マラッカ・シンガポール海峡が先進海運国により、国際
管理下に置かれるのではないかという危惧を有しており、同海峡は国際海峡(International
Straits)ではなく、無害通航の原則に従って国際海運に利用される旨の共同声明を出していま
す。インドネシアはそれ以前にも、群島国家宣言を出したり(1957 年)、群島航路帯設定に関す
る提案を IMO に提出(1996 年)したり、ごく最近においては、シパダン・リキタン島のマレーシアと
の領有権紛争に敗れたことを機に、自国領土保全のため衛星を利用してこれまで確認されてい
なかった島を発見に努め、住民を強制移住させるなどの措置を検討しているなど、自国周辺の
海洋権益の確保に向けた国家活動を積極的に行っている感があります。シンガポール海峡のイ
ンドネシア領海部分も、当該部分が国際海峡ではないとの見解に立てば、前に述べたインドネシ
アの行為も理解できます。
もう 1 つの見方は、インドネシアは他の沿岸国との調整が必要であることを承知の上、また、将
来的には IMO での採択が必要となることを承知の上、他の沿岸国との調整や IMO での議論を
有利に導くため、正規の手続きによる実施が困難となった場合には、インドネシア単独でも実質
的に実施する可能性もあるという事を示唆する目的でこのような行為に出たというものです。な
お、シンガポールとは初歩的な調整を行っていたとも言われています。
IMO 航行安全小委員会では、結果的に、当該錨地の部分のみ、既存の分離帯から切り離すと
いうことで、とりあえずの決着を見たわけですが、分離帯の中に、そのような海域があり、その海
域の中で、船舶への水や食料の補給、修理作業等も行われることになります。従って、当該活
動がその海域の周辺の通航帯を通航する船舶に対し、どのような影響を与えるのかについて
は、今後、注意深く見ていく必要があります。なお、沿岸3カ国は、当面、当該海域を避難水域
(Contingency Anchorage)として運用することとしています。
なお、最終的なトランジット・アンカレッジの設置場所については、COLREG.2/Circ.54 (28 May
2004)を参照して下さい。
90
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
2.船舶通報制度の運用
(1) 沿岸国の取組み
1998 年 12 月1日、改正分離通航方式とともに強制船位通報制度(通称ストレイトレップ)が実施さ
れました。この制度は、マ・シ海峡を航行する一定の船舶を対象として、マレーシア及びシンガポ
ールの海上交通情報システム(VTIS: Vessel Traffic Information System)に船名、船位等の情報の
通報を義務付けたものです。船舶からの通報は VHF 無線機で行われ、VTIS では通報された情
報等に基づき通航船舶の監視を行うとともに、マ・シ海峡通航に係る安全情報を提供しています。
なお、これは SOLAS 条約第Ⅴ章「航行の安全」第 8-1 規則「船舶通報制度」、IMO 指針及び基準
に従うものです。
⇒一定の船舶
本制度の対象船舶は次のとおりです。
・ 総トン数 300 トン以上の船舶
・ 長さ 50m 以上の船舶
・ 曳航又は押航に従事している船舶で、両船の合計が 300 総トン以上又は両船の長さ
の合計が 50m 以上の船舶
・ IMO 決議 MSC43(64)の 1.4 項に定める危険物を運送している全ての旅客船
・ 長さ又は総トン数に関係なく VHF を設備している全ての船舶
・ 長さ 50m 以下又は総トン数 300 トン以下で VHF を設備している全ての船舶が、緊急時
に差し迫った危険を避けるために適切な航路又は分離帯を使用するとき
(2) 利用国による協力
船舶通報制度の構築は沿岸国が独自に行ったものであり、利用国による協力は行われていませ
ん。
(3) 今後の方向性
【船位通報に係る AIS の活用】
AIS は、VHF による船位通報・受報作業における船舶および VTIS 側の労力を軽減すると期待
されています。更に、AIS 関連の施設を運用するシンガポール及びマレーシアとの間で、AIS 情
報国際ネットワークが構築されれば、更に、通航船舶に係る情報がリアル・タイムでやり取り
(現在は、定期的に電子メールによる情報交換が行われている)されることになります。なお、
AIS に関しては後述します。
91
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
D 先端技術の活用
1.船舶交通情報システム(VTIS)の運用
(1) 沿岸国の取組み
シンガポールは、1990 年、VTIS 業務を行う POCC: Port Operation Control Centre をタンジョン・パ
ガーに設置し、シンガポール海峡及びシンガポール港湾内の船舶交通監視及び安全情報提供業
務を開始しました。その後、急増する入港船舶数に対応するため、レーダー局の増設等を経て、
2000 年1月 20 日には、新たにパシル・パンジャンに POCC 2 を設置し業務強化を図っています。
一方、マレーシアでは、1998 年 12 月1日の改正分離通航方式及び強制船位通報制度の導入開
始にあわせ、ポート・クランの VTIS の運用を開始しました。現在マレーシアには、ポート・クランに
加え、タンジュン・ピアイ(ジョホール州)にも新たに VTIS を設置しています。なお、マ・シ海峡は全
部で9個のセクターに分割されており、それぞれ担当する VTIS が決まっています。
⇒担当する VTIS が決まっています。
セクター1~5 ポートクラン VTIS(マレーシア)
セクター6 タンジュン・ピアイ VTIS(マレーシア)
セクター7~9 シンガポール VTIS(POCC 1, POCC 2)
下図は、シンガポール海峡におけるセクター区分と船位通報ポイントを現す図である。
Ⅴ-10 シンガポール海峡におけるセクター区分と船位通報ポイント
92
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
(2) 利用国による協力
VTISの構築は沿岸国が独自に行ったものであり、利用国による協力は行われていません。
(3) 今後の方向性
【通航管制方式の導入】
現在、VTIS がマ・シ海峡通航船舶に行っているサービスは、専ら情報提供や船舶の操船に関
するアドバイスであり、強制的権限を伴う通航管制というものではありません。今後、海峡通航
船舶や海峡横切り船舶が増加したり、通航船舶の種類がますます多様化するような状況であ
れば、通航管制方式を導入することについても検討する必要があります。なお、船舶管制につ
いては、通過通航権を侵害する可能性もあるので、その観点からの検討を慎重に行う必要が
あります。なお、海峡横切り船舶のみを管制の対象とすることも一案です。
2.DGPS
(1) 沿岸国の取組み
DGPS による高精度の位置情報は、電子海図表示装置(ECDIS)や自動船舶識別装置(AIS)には
欠かせないものですが、マレーシア及びシンガポールでは、GPS 測位制度向上のための補正デ
ータ等を発信する放送局をそれぞれ設置しています。マレーシア海事局では、マラッカ海峡(マレ
ー半島西岸)をカバーする局をルムット(Lumut)に、東岸をカバーする局をクアンタン(Kuantan)に
設置しています。シンガポール海事港湾庁では、シンガポール海峡全域をカバーする局をラッフ
ルズ灯台に設置しています。
⇒DGPS
DGPS(Differential Global Positioning System)とは、米国が運用している GPS(衛星を用
いた電波航法システム)の位置精度を更に向上させるため、補正データ(Differential
Data)等をユーザーに提供することにより、自動的に GPS の位置情報(精度 10~30m)の
誤差を補正する(精度 2~5m)ものです。
(2) 利用国による協力
GPS 局の設置・運用は、沿岸国が独自に行ったものであり、利用国による協力は実施されていま
せん。
(3) 今後の方向性
DGPS は、今後更に普及すると考えられる電子海図及びその表示装置や AIS にとって必要不
93
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
可欠な要素であり、今後とも、沿岸国による安定的かつ継続的なサービスの提供が望まれて
います。
3.AIS
(1) 沿岸国の取組み
シンガポール海事港湾庁は、これまで、2カ所の AIS 基地局と、5カ所の AIS 海岸局の整備を完
了しています。シンガポールでは、VTIS において AIS 情報が電子海図及びレーダー映像と統合さ
れ利用されており、一つのモニター画面に全ての情報を効率的かつ選択的に表示することができ
ます。
⇒AIS
自動船舶識別装置(AIS: Automatic Identification System)は、船舶に設置した AIS 装置が、
他の AIS 装置搭載船舶や陸上の AIS 局(通常、VTIS に併設される)との間で、自動的に
自船の船名、位置、速力及び針路等の情報を送受信するシステムです。2000 年 12 月に
改正された SOLAS 条約に基づき、2003 年7月以降、順次船舶への搭載が義務づけられ
ています。この装置は、航行安全、環境保全、そして VTIS における船舶交通情報業務の
運用改善に寄与するものとされています。なお、現在のところ、沿岸国に AIS 陸上局の設
置義務はありません。
マレーシア海事局は、つい最近、AIS 基地局、海岸局などの関連設備を整備したところです。マレ
ーシアでは AIS 情報は電子海図上に表示されますが、レーダー映像との統合は行われていませ
ん。また、当該電子海図モニターは、VTIS 職員が当直する場所とは異なった場所にあるため、当
該職員が直接モニターを確認することはできず、大幅な改善の余地があります。
インドネシアには AIS 関連の施設は設置されていません。
(2) 利用国による協力
AIS の陸上関連施設整備は、当初、利用国による任意負担によるプロジェクトの一つとして有望
視されていましたが、セキュリティーへの関心の高まりから SOLAS 条約改正の議論の中で船舶
への AIS 設置に係るスケジュールが前倒しされたことなどにより、予想以上に早く沿岸国独自に
よる整備が行われました。このため、AIS の陸上関連施設整備に関する利用国による協力は行
われていません。
(3) 今後の方向性
【海峡利用国6プロジェクト:AIS 陸上局の整備】
94
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
「海峡利用国6プロジェクト」の一つとして、マラッカ海峡に2カ所の AIS 基地局と、7カ所の海岸
局を、シンガポール海峡に2カ所の AIS 基地局と4カ所の海岸局を設置する計画があります
が、既に述べたとおり、沿岸国(インドネシアを除く)では整備を完了しています。
【AIS の航路標識への設置】
航路標識を遠隔監視するため、AIS を活用する動きがあります。これは、当該標識の作動状況
(灯火点灯の有無、灯浮標バッテリー電圧、灯浮標の位置等)に関する情報を AIS の VHF 電
波により発信し、最寄りの陸上事務所がこれを受信することにより把握するものです。航路標
識の維持・管理作業への AIS の活用により当該作業の効率化が期待されています。実際に、
沿岸3カ国では、数は少数ですが、AIS による航路標識の遠隔監視が行われています。
【簡易 AIS の活用】
現在、シンガポールでは、専ら、港内小型船舶(約 1200 隻が登録済み)のセキュリティー対策
の一環として、当該小型船舶への簡易 AIS の設置・運用試験を開始しています。将来的には、
この簡易 AIS の設置を義務付けることにより、港湾セキュリティーの向上を図ることにしていま
す。
【AIS 国際ネットワーク】
先に述べましたが、シンガポールでは既に AIS 関連施設の整備が完了しています。また、マレ
ーシアも、今後の改善の余地は大幅に残っているものの、基盤施設の整備が完了しつつあり
ます。これらの AIS 関連施設から得られる情報は、システム自体が他国のものと連結されてい
ないため、現在は、国外の機関との交換はできませんが、将来的に AIS 国際ネットワークを構
築することにより、例えば、船位舶通報制度の運用や、セキュリティー対策にも効用が認められ
るところです。
4.電子海図
(1) 沿岸国の取組み
電子海図(ENC: Electronic Navigational Charts) の有用性、特に、DGPS や AIS といった他の航海
援助機器と組み合わせて使用した場合の有用性については、高く評価できるところです。しかし、
現在、ENC を表示する電子海図表示装置(ECDIS)の船舶への設置が義務付けられていないこと、
主要海域をカバーする ENC が発行されていないことなどから、まだ、広く普及する段階には至っ
ていません。マ・シ海峡の ENC については、これまで、沿岸3カ国と日本との間で共同刊行に向け
た取組みが地道に進められています。
(2) 利用国による協力
マ・シ海峡は同海峡沿岸3カ国の領海内に位置することから、同海峡の ENC は沿岸3カ国による
共同刊行という形式をとる必要があります。しかし、共同刊行するには、当該国の電子海図製作
95
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
技術がほぼ同一である必要がありますが、シンガポールを除き、他の2カ国については必要な知
識・技術レベルに達していないのが現状でした。このため、1998 年(平成 10 年)からの3年間、沿
岸3カ国の水路機関の長及び技術者を招聘し、インドネシア及びマレーシア両国の ENC 製作技
術のレベルアップを図るとともに、沿岸3カ国の海事関係者に ENC の有用性を周知する目的で、
日本財団の援助により ENC ワークショップが毎年開催されました。
⇒ENC ワークショップ
第1回 1998 年 10 月 シンガポール
第2回 1999 年 11 月 マレーシア
第3回 2000 年6月 インドネシア
共同刊行することについては、刊行に係る諸問題(著作権、販売価格、利益の分配、販売・流通
経路、ENC の維持及び更新手続き、販売委託業務、CD ラベル・デザイン等)に関し、沿岸3カ国
が合意する必要があり、一国単独で刊行する場合に加え、多大なる追加的労力を必要とします。
このため、上記「ENC ワークショップ」開催にあわせ、これらの諸問題を解決するための取組みが
行われるとともに、その後も、定期的な会合が沿岸3カ国及び日本との間で行われてきました。最
近においては、2003 年2月 19 日及び 20 日の両日、シンガポールにおいて、当事務所主催により
マラッカ・シンガポール海峡 ENC 共同刊行に係る非公式会合を開催し、これまで未解決の問題に
ついて最終的な討議が行われました。
ENC が刊行された後についても、引き続き、沿岸3ヶ国が共同して同 ENC の維持・更新作業等を
行っていかなければなりません。このため、沿岸3ヶ国の水路機関の長又はその代理で構成され
る MSS・ENC 運営委員会(Steering Committee)を設置し、必要な協議・調整を行うことになっていま
す。なお、この委員会には、日本の海上保安庁水路部も技術的事項に係る助言を行うこととなっ
ています。
(3) 今後の方向性
【マ・シ海峡電子海図の発刊】
これまでのマ・シ海峡電子海図発刊にむけた努力にもかかわらず、現在、ある海峡沿岸国内
の手続上の問題により、発刊が大幅に遅延しています。
マ・シ海峡 ENC は、特に、シンガポール海峡を横断する高速フェリー・ボートの航行安全を確保
する上で非常に有効と考えられます。当該フェリーの操船は、速度が高速であるなどの理由か
ら、専ら、自動車の運転のように、操船者がレーダーや目視により直接他船や物標、障害物を
確認しながら行われており、通常の船舶で行われているように、紙海図上に自船の位置をプロ
ットしながら航行しているわけではありません。従って、同海峡の ENC が刊行されれば、GPS ナ
ビが装備された自動車のように、ENC 上で適宜船位を確認しながら、安全に運航することが可
能となります。
96
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
【海上電子ハイウェー・プロジェクト等への応用】
先にも述べましたが、ENC は、単独での使用のみならず、DGPS や AIS といった機器との組み
合わせにより、その有用性は格段に向上します。現在、マ・シ海峡では、MEH プロジェクトが進
行中ですが、IMO においてセキュリティー分野への応用を模索する動きがあります。このよう
に、ENC は、今後、様々なシステムや用途の基盤となる潜在的可能性を秘めており、早急に普
及することが望まれています。
E 海難事故への対応体制
1.救助体制の整備
(1) 沿岸国の取組み
沿岸国は海上救助調整本部(MRCC: Maritime Rescue Coordinate Center)の設置、救助活動に従
事する救助部隊(沿岸警備隊、海上警察、海軍の艦船など)の運用など、所要の海難救助体制の
整備を行っています。また、海難事故原因を調査するための組織整備、制度も整えています。
(2) 利用国による協力
救助体制の整備は、沿岸国が独自に行ったものであり、利用国による協力は行われていません。
なお、海上法令執行機関の体制整備という観点から、海上警察などの機関に対する協力は行わ
れています(第Ⅵ章参照)。
海難審判庁はシンガポール MPA との間で、海難事故原因調査を容易にするための相互協力を
進めています。ただし、これは利用国からの支援という意味合いではなく、相互協力の推進という
観点からのものです。
(3) 今後の方向性
【マ・シ海峡沿岸3カ国海難救助協定の締結】
海難救助業務は人道上の措置として行われるべきものであり、沿岸国の領域主権にかかわら
ず、要救助船舶に一番近くにいる救助部隊が迅速に実施すべきものです。しかし、マ・シ海峡
では、捜索救助条約(SAR 条約)に基づく二カ国間 SAR 協定の締結などの措置が未整備であ
り、沿岸国領海の境界線付近で発生する海難、または、ある沿岸国の領海の中で発生した海
難に際し隣接国の援助を必要とするものなどへの対応については、かなりの非効率が予想さ
れます。従って、マ・シ海峡沿岸3カ国海難救助協定を締結するなど、越境海難救助作業に対
する手続を予め明確に決めておく必要があります。マ・シ海峡の海難救助部隊の主たる勢力は
海上法令執行機関であることを考えれば、海難救助協定締結という段階を経て、将来的には、
97
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
対象作業を法令執行活動に拡大し、合同パトロールの実施に発展する可能性が見えてくるか
もしれません。
2.油等の流出事故への対応体制
(1) 沿岸国の取組み
東南アジア海域、特に、マ・シ海峡は、同海域での海上貿易活動が活発化していることに加え、中
東地域と東アジア地域(日本、中国及び韓国)とを結ぶ重要なオイルルートでもあることから、一
般の貨物船に加え、原油タンカーが多数航行しています。同海峡は可航幅が狭く、浅瀬や暗礁も
多いため、現在、様々な航行安全対策が実施されており、その効果もあって海難発生件数は昔に
比べると減少しています。しかし、シンガポール海峡で発生した原油タンカー・ナツナシー号の座
礁事故やエボイコス号の衝突事故、それに引き続く原油流出事故は記憶に新しいように、一旦事
故が発生した場合、海洋環境に与える被害は計り知れないものがあり、海洋汚染防止対策の充
実・強化が必要となっています。
特に、油流出事故の場合、流出した油塊は、潮流や風などにより、一国の領海を越え、隣接国の
沿岸等に被害を与える危険性を持ったものであることから、国内体制はもとより、地域相互の国
際的な協力体制についても構築しておく必要があります。現在、旧アセアン諸国(ブルネイ、インド
ネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール及びタイの6カ国)の間では、アセアン油流出対応行
動計画(ASEAN-OSRAP)と呼ばれる行動計画が策定されています。また、インドネシア及びフィリ
ピンについては、スラウェシ海(Sulawesi Sea)油汚染防除ネットワーク計画が策定されており、この
計画の一環として、2年毎に合同油防除訓練を実施しています。
マ・シ海峡において大規模な油流出事故が発生した場合、原則、上記のアセアン油流出対応行
動計画により沿岸3カ国(インドネシア、マレーシア及びシンガポール)が必要な国際油防除協力
体制をとることになります。また、平時から、回転基金委員会の活動を通じて定期的に会合を開催
したり、合同油防除訓練を実施するなどして、協力体制の充実強化を図っています。
1997 年 10 月 15 日のエボイコス号の衝突事故
マレーシア・ジョホール・バル海事局の油防除資機材倉庫
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第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
(2) 利用国による協力
【集油船(Oil Skimmer Boat)の寄贈】
1971 年6月、フィリップ水道及びバツベルハンティにおいて立て続けに発生した 20 万トン級原油タ
ンカーの底触事故を受け、マラッカ海峡協議会は、油濁対策事業の一環として、集油船1隻をシン
ガポール政府に寄贈しました。
【回転基金】
マ・シ海峡において、油流出事故が発生した際、関係国が行う初期清掃活動を資金的に支援し、
迅速な初期活動を行うことが、事故の被害を最小限に止める有効な手段であるとの観点から、
1981 年、日本財団や石油連盟からの資金提供により、総額4億円の基金が準備され、同基金の
沿岸国への寄付に係る覚書がマラッカ海峡協議会とマ・シ海峡沿岸3カ国の間で交されました。ま
た、この基金を運用するために必要な事項を検討するため、沿岸3カ国の代表者で構成される回
転基金委員会(RFC: Revolving Fund Committee)が毎年開催されています。なお、資金提供者で
ある日本は、この RFC にマラッカ海峡協議会がオブザーバーの資格で参加するだけであり、基金
運用に関する事項は沿岸国に委ねられています。
この基金は、初期清掃費用の立替払いなどに使用され、第三者の補償、資機材の整備費には充
当されないものであり、沿岸国が保険金などの支払いを受けたときには基金から支出された金額
を基金に返還する、という性格のものです。この基金の名称である「回転」とは、この基金の性格
から来るものです。最近の活用事例としては、2000 年 10 月、シンガポール海峡で発生したナツナ
シー号(Natuna Sea)の油流出事故の際、インドネシアが 50 万米ドルを基金から引き出しています。
また、回転基金の活動の一環として定期的に実施される合同油防除訓練は、各沿岸国の油防除
能力の向上に役立っています。回転基金の問題点としては、この基金が設立されて以来、既に 20
年以上が経過していることから、毎年のインフレーションや、沿岸各国の経済発展に伴う初期清
掃活動に係る人件費等の単価上昇により、基金の実質的な価値が減少していることが指摘され
ています。
【オスパー計画(OSPAR Project)】
オスパー計画(Project on Oil Spill Preparedness and Response in ASEAN Sea Area)は、日本の主
要なオイルルートである ASEAN 海域における大規模な油流出事故に備えて、日本の率先した支
援を通じて、ASEAN 諸国の地域緊急油防除体制を整備・充実することを目的としています。この
計画は、運輸省(当時)のイニシアチブのもと、日本財団、日本の海運業界などが資金を提供し、
1993 年5月に東京で開催された「第3回オスパー協力会議」での最終合意に基づき実施されまし
た。この計画は、アセアン諸国を対象として、油防除資機材の供与及び情報ネットワーク・システ
ムの整備(総額 10 億円)を行うものであり、当該資機材及びネットワーク・システムの効率的管理・
運営のため、関係国から構成される管理委員会が設立されています。油防除資機材については、
旧アセアン諸国内の 11 カ所の油防除資機材備蓄基地に、外洋型オイルフェンス、大型油回収機、
油貯蔵タンク、油処理剤等の油防除資機材を供与しました。これらの資機材は、アセアン油流出
対応行動計画の取り決めに基づき、必要に応じ当該6カ国間で相互融通され運用されます。また、
99
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
情報ネットワーク・システムの整備は、大規模油流出事故に対する国際協力活動のための情報ネ
ットワーク・システムを、アセアン6カ国間で国際電話網により設立するもので、発生した油流出事
故の内容、利用可能な資機材・専門家、事故発生場所周辺の海図及び潮流図などの情報を取り
扱っています。
【油防除資機材の備蓄基地の設置】
油流出事故発生時、事故災害関係者に貸し出すための油防除資機材を備蓄しておく基地が石油
連盟によりオイルルートに沿って設置されています。東南アジア地域においては、シンガポール港、
マレーシアのポートクラン港及びインドネシアのタンジュンプリオク港に設置され、充気式大型オイ
ルフェンス、油回収機(Oil Skimmer)、仮設タンク(Potable Tank)等が備蓄されています。
(3) 今後の方向性
【ポスト・オスパー計画】
1993 年に最終合意されたオスパー計画は、既にその役割を果たしたと言えます。今後は、人
材育成や関連情報の交換ネットワークに焦点を絞った協力が望まれているところです。
2002 年5月、オスパー計画の新たな出発点となる第1回のアセアン・オスパー管理会合がタイ・
バンコクで開催されました。この会合においては、これまでのオスパー計画が一段落したことを
受け、今後の新しい活動内容についての将来的方向付けをどうするのかについて検討され、
その結果、新たな付託事項(TOR)が暫定的に決定されました。この中で特に新しい点は、(1)
従来、対象物質を油だけに限定してきましたが、有害危険物質(HNS)への対応についても追加
したこと、(2) 現在の参加国である旧アセアン諸国に加え、海に面した他のアセアン諸国(カン
ボジア、ミャンマー及びベトナム)にも参加を働きかけること、(3) 今後必要となる資金を継続的
に得るための検討を行うこと、などです。また、これに並行し、新しい情報ネットワークの構築に
係る取組みが行われています。なお、カンボジア、ミャンマー及びベトナムの油流出事故に対
する準備・対応能力を向上させるため支援プログラムが現在進められています。
⇒支援プログラム
新アセアン諸国(カンボジア、ミャンマー及びカンボジア)を対象として、各国の海洋汚
染防止体制の現状調査を行った上で、人造りに主眼を置いた各国の体制の充実・強
化のための支援を行い、もってアセアン地域全体における海洋汚染防止体制の整備
に資することを目的とするプログラムが、日本財団からの資金援助により日本海難防
止協会で実施されている。
本プログラムの第一フェーズでは、各国の海洋汚染防止体制整備の中核となるべき者
をわが国に招聘し、セミナーを通じて国内体制整備の必要性と知識を習得した後、セミ
ナー参加者が主体となって各国においてワークショップを開催し、国内関係者等に対
する体制整備の意識付けを行なった。第二フェーズでは、各機関の汚染防除作業の現
場指揮者に対し、防除作業に係る教育訓練を通じ基礎的なノウハウを習得させた上
100
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
で、国内で緊急に整備すべき地域(モデル地域)の問題点の抽出を行なう予定であり、
第三フェーズでは、更に実践的な教育訓練を通じてモデル地域の体制整備のための
将来計画を検討することになっている。
【HNS への対応】
2000 年3月、国際海事機関(IMO)において有害危険物質(HNS: Hazardous and Noxious
Substances)汚染対策のための国際条約である HNS 条約が採択されましたが、批准する国が
少なく、現在のところ発効には至っておりません。しかし、マ・シ海峡通航船舶のうち、1割程度
がいわゆるケミカルタンカーではないかという推測もあり、当該船舶の衝突や乗り上げ事故に
伴う、積荷(HNS)の海上への流出が懸念されるところです。
最近においては、2000 年8月にシンガポールとマレーシアとの間にあるジョホール水道におい
て、フェノール 500 トンを積載したケミカルタンカー「ヒカリ2号(Hikari 2)」(インドネシア船籍、総
トン数 500 トン)が海底掘削船と衝突し、積荷のフェノール約 230 トンが流出しました。現在、シ
ンガポールにおいては、IT(Information Technology)とケミカル・プラントを次期主力産業と位置
付けており、シンガポール海峡に近いジュロン島は、現在、大小 60 もの石油化学プラントが稼
動しています。同島では、今後、更なる拡大を目指して、大規模な埋め立て工事が続けられて
おり、全ての工期が終了すれば、東南アジアにおける一大ケミカル基地となる予定です。同様
に、マレーシアにおいても、複数の港湾でケミカル工場の進出が相次いでいます。この結果、
マ・シ海峡では、大小様々なケミカル積載船舶が航行することになり、今後、ケミカル流出対策
の一層の充実が望まれています。
コラム:シンガポールにおける HNS 流出事故への対応
シンガポール政府海事港湾庁(MPA: Maritime and Port Authority of Singapore)は、2003 年 10
月 16 日、HNS 議定書への加入書を IMO 事務局長に寄託し、同議定書の第8番目の締約国と
なりました。同議定書への加入に際しては、OPRC 条約の締約国である必要がありますが、シ
ンガポールは、1999 年3月 10 日、加入書の寄託により、既に同条約の締約国となっています。
⇒HNS 議定書
2000 年の危険物質及び有害物質による汚染事故に係る準備、対応及び協力に関する
議定書
⇒同議定書の第8番目の締約国となりました
2004 年7月 12 日現在、10 カ国が同議定書の締約国(批准又は加入)となっている。
⇒OPRC 条約
1990 年の油による汚染事故に係る準備、対応及び協力に関する国際条約
101
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
HNS 議定書に加入するにあたり、海事港湾庁では「危険有害物質の準備、対応及び協力に関
する規則(Hazardous and Noxious Substances Pollution Preparedness, Response and Co-optation
Regulations)」を定め、2004 年4月1日から施行するなど、所要の体制を整備しています。同議
定書はまだ発効要件が整っておらず、議定書の締約国であっても議定書に定める義務を履行
する必要はありませんが、シンガポールでは、議定書に定める措置の前倒し実施を行っていま
す。この背景には、シンガポールのジュロン島に所在する東南アジア最大級のケミカル・コンビ
ナートに多数のケミカル・タンカーが寄港しているとともに、様々な化学物質が当該場所で取り
扱われているという現状に鑑み、早急にケミカル事故発生時の対応体制を整えておくべきだ、
という政治的判断があったようです。
⇒発効要件
15 カ国批准の後、1年後に発効する。
1.危険有害物質(HNS)の定義
当該物質の定義は、同規則第2条(定義)において、HNS 議定書と全く同じ文言を用いて定義
されています。なお、シンガポールでは、具体的な物質リストを作成してはいません。
⇒HNS 議定書と全く同じ文言
油以外の物質であって、その海洋環境への流出が人体に危害を及ぼし、生物資源及
び海洋生物を害し、環境に損害を与え、又は他の海洋の正当な使用を妨げる可能性
のあるものをいう。
2.資機材及び事故対応能力
HNS 取扱施設の管理者は、当該施設又は当該施設に係留する船舶に起因する HNS 汚染事
故に対処するため、十分な対策が講じられることを確保しなければなりません。この対策には、
訓練された要員、資機材の確保を含みます。なお、当該施設に備え置かなければならない資
機材は、次のとおりです。
(1)HNS を取扱う要員のための保護具
30 分間の使用に耐えうる呼吸具(Self-contained breathing apparatus) 最低6式
化学防護服(Chemical splash suits) 最低6式
完全化学防護服(Fully encapsulated chemical suits) 最低6式
顔面呼吸具(full faced respirator) 最低6式
当該施設で取扱われている HNS から発生する蒸気及び粒子をろ過し、また保護可能なフィ
ルター・カートリッジ最低 18 式
呼吸具(breathing apparatus skid with bottle storage)
102
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
(2)防除柵(containment barrier)
最低 300mの結合金具付きの防除柵(当局の承認を受けたもの)
(3)回収資機材
吸着シート(absorbent sheet) 最低 300 枚
最低 100mの吸着柵(absorbent barrier)
回収ドラム缶最低4個
(4)可搬式防爆型ポンプ(explosive proof portable pump) 最低3式
(5)洗浄シャワー(decontamination shower) 最低1式
(6)酸素蘇生器(oxygen resuscitator) 最低1式
(7)当該施設で取扱われている HNS から発生する蒸気を検知する器具
酸素可燃混合ガス検知器(oxygen and combustible combination gas detector) 最低2式
化学ガス検知器(chemical gas detector) 最低2式
当該施設で取扱われている HNS の種類に応じたケミカル・チューブ(chemical tube) 最低2
箱(1箱に 10 式入ったもの)
(8)港長が指定した周波数の出力が2ワットを超えない携帯式無線機最低6式(当該無線機及
び出力は電波管理局の承認を受けたものでなくてはならない)
(9)当該施設で取扱われている HNS の種類に応じた、十分な量かつ効果的な化学反応抑制物
質(inhibitor)及び中性剤(neutralizing agent)。
また、自分の管理する HNS 施設近隣の他の HNS 施設で事故が発生した場合には、施設に備
置かれている資機材や他の支援措置は当局の要請に基づき、当局に提供することになってい
ます。ただし、これにより生じた費用は当局が補償する義務を負っています。なお、補償額につ
いては、当該施設の管理者及び当局間で合意する額ですが、額の合意が困難の場合には、当
該問題の解決が運輸大臣に委任され、運輸大臣が裁定した額が最終的な補償額となります。
3.取扱施設の HNS 汚染緊急計画(HNS pollution emergency plans )
HNS 取扱施設の管理者は、「HNS 汚染緊急計画」を保有しなければなりません。本計画は、
個々の施設毎に作成することも可能です。管理者が当該計画を作成する場合には、当局が作
成したガイドラインを考慮に入れ、作成後は、当局の承認を受ける必要があります(当局への
承認のための提出は、最低、2ヶ月前までに行う必要があります)。この計画は、5年毎に見直
され、その都度、当局の承認が必要となります。更に、本計画の内容に実質的な変更が生じた
場合には、その変更が生じた日から3ヶ月以内に必要な修正を行い、承認のために当局に提
出しなければなりません。当局が承認にあたって、当該計画が不適当であるとした場合には、
所要の変更を指示することができます
4.船舶の HNS 汚染緊急計画
備え置き対象船舶は次のとおりです。
103
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
・ 総トン数150トンを超える HNS タンカー
・ シンガポール領海内にある HNS を積載するすべての船舶
・ HNS を積載するすべてのシンガポール船籍船
なお、この計画は、下記のいずれかに沿ったものでなくてはなりません。
・ ばら積み有害液体物質による汚染の管理に関する規則第16条
※海洋汚染防止規則(ばら積み有害液体物質)別表第1
・ IMDG コードの危険物質を積載する船舶のための緊急対応手続き
5.事故通報
シンガポール領海内にある船舶又はシンガポール船籍船の船長は、HNS が他の船舶又は
HNS 取扱施設から海上に流出していることを発見又は現認した場合には、遅滞無く、その旨を
当局に通報しなければなりません。なお、通報当局は当該船舶の位置により異なっています。
・ シンガポール領海内:シンガポール海事港湾庁
・ それ以外の場所:最寄の沿岸国(実質的には、MRCC と考えられます)
HNS 取扱施設の者についても、同様の通報義務が課せられています。
この通報は、IMO 決議 A.648(16)(以後の修正等を含む)[General principles for ship reporting
systems and ship reporting requirements, including guidelines for reporting incidents involving
dangerous goods harmful substances and/or marine pollutants]が要請するところに原則適合しな
ければなりません。
6.その他
当局の担当者は、次の権限を有しています。
・ HNS 取扱施設に立入ること
・ 当該施設の機器類を検査すること
・ 当該担当者が合理的に必要と考える情報や書類の提供を求めること
港長が、本規則の適用が実際的でない、又は不合理である、と考える場合には、この規則のい
かなる規定であっても適用を除外することができます。
これらの規定に違反した場合は、2万シンガポールドルの罰金又は2年以下の懲役、又はその
両方の刑罰が科されることになっています。
7.国家的体制の整備
104
第Ⅴ章 マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策
HNS 議定書では、締約国が HNS 汚染事故に迅速かつ効果的に対応するための国家的な体
制を確立することとされています。このため、MPA では、責任当局の指定、国家的緊急時計画
の改訂や定期的な HNS 対応訓練の実施など、国家的な体制を既に整えています。
現在、シンガポールでは、EU などの動向を受け、HNS 汚染事故による損害の責任や補償を規
定する HNS 条約への早期加入に向けた検討が行われています。
⇒HNS 条約
1996 年の有害危険物質の海上輸送に伴う責任と補償に関する国際条約
F その他
平成 12 年3月から、シンガポール港湾公社(PSA)の関連会社は、Exxon-Mobil, Tanker Pacific,
Chevron, Fina(ELF), Gulf Agency 社などの船舶を対象として、Marine Advisory Service (MAS)を
開始しました。MSA とは、マ・シ海峡通峡水先サービスと呼ばれているもので、主として、マ・シ海
峡を通過する船舶に対し、任意の水先サービスを提供しようとするものです。同サービスを利用す
る船舶は、マラッカ海峡の西口にあるワン・ファザム・バンク沖において水先人を乗せ、シンガポー
ル海峡に東に位置する警戒水域において水先人を下船させることになります。現在、この制度は、
任意に利用できる制度ですが、将来的に強制化する場合には、海洋法条約などの関連規定との
整合性が問題となってきます。
105
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
前章では、マ・シ海峡の海上交通路としての機能が引き続き適切に維持されていくことを、海峡沿
岸国と利用国の双方が希望している、という前提に基づき、海峡の機能維持のための継続的な
努力を本来的に誰がどのように行なっていくのか、という問題を考えるに際し、航行安全の観点か
ら、これまで海峡沿岸国が海峡機能維持のためにどのような対策を講じてきたのか、海峡利用国
がどのような協力を行ってきたのか、についておおまかに見るとともに、将来的な方向性として、
今後どのような対策が必要となり、利用国がどのように協力を行う可能性があるのか、について
考察しました。
この章では、海上治安の観点から、同様の考察をすることにします。なお、利用国による協力に関
しては、後の章で詳しく検討することにし、この章では、利用国による協力が望まれていると考えら
れる分野に関し、その理由及び協力の内容について簡単に言及することにします。
A 海事政策当局他による対策
1.船舶の自衛措置
(1) 沿岸国の取組み
海賊行為の大部分は、港湾に停泊中または沿岸海域を航行中に発生するこそ泥的又は追剥的
海賊行為です。このような海賊行為は専ら、沿岸漁民などの地域住民によって行なわれていると
されています。このため、犯罪手口は国際組織犯罪組織が関与するものに比べ、未熟かつ単純
です。また、使用される武器も蛮刀といった原始的なものが大部分を占めます。このような海賊行
為から自船を護るには、効果的かつ非暴力的な自衛措置が取られることが有効であるとされてい
ます。このため、各国海事政策当局では、そのような自衛措置が取られるよう、自国の船舶所有
者、船舶管理会社などを通じて指導を行っています。
⇒港湾に停泊中または沿岸海域を航行中に発生するこそ泥的又は追剥的の海賊行為
海賊問題に詳しい日本財団海洋グループ長の山田氏は、その著作『海のテロリズム 工
作船・海賊・密航船レポート』(PFP 新書)の中で、東南アジアの海賊を次のように表現して
いる。
「鬱蒼とマングローブが茂る島影の中から、長さ 20 フィート(約6メートル)ほどの木造ボ
ートが静かに進み出てくる。一見すると漁船のように見える船体。しかし、船尾には漁船
には不似合いな大型の船外機が搭載されている。
ボートは、徐々にエンジンのパワーを上げ、滑るように海原を駆け巡る。船中には、目
出し帽やバンダナで覆面をして顔を隠した男が7~8人、息を凝らし身を屈めている。月明
かりの中、目だけが光り、じっと舳先を見つめている。
ボートは、今日の獲物を求めてマラッカ海峡をさまよう。狙う獲物は、けっして魚の群れ
106
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
などではなく、警備が手薄な小型貨物船や小型タンカー。
船尾から近寄り、ロープを投げ入れて素早く乗り込み、一直線に操船室(ブリッジ)まで
侵入する。舵輪(ステアリング)を握り舵を取っている操舵手(クウォータ・マスター)の首に
蛮刀を突きつけ、当直の航海士に船内の有り金と金めのものを集めさせ、素早く奪って逃
走する。
そして、漁船を模したボートは、波を切り、小島の間をすり抜け、闇に消えていく。」
海賊行為は、おおよそ、次のとおり分類できる。
【こそ泥型】
通常夜間、停泊又は錨泊する船舶に忍び込み、乗組員が寝ている間に、現金、船具、予
備品等の金品を奪い逃走するもの。通常、蛮刀等で武装している。海賊事件の大多数が
この型である。
【追い剥ぎ型】
通常夜間、航行する船舶に高速ボート等を利用し急接近し、鍵縄等を利用して船舶に乗
り組み、一時的に操船要員以外の乗組員を拘束した上で、現金、船具、予備品等の金品
を奪い逃走するもの。通常、蛮刀等で武装している。海賊事件の大多数がこの型である。
【身代金要求型】
航行する船舶に高速ボート等を利用し急接近し、鍵縄等を利用して船舶に乗り組み、乗
組員を拘束した上で、船主等に身代金を要求するもの。身代金が支払われるまでの間は、
船体及び乗組員は海賊の拘束下に置かれる。通常、自動小銃、拳銃等で武装している。
ゲリラ組織や国際犯罪シンジケート等の組織が関与するとされている。
【ハイジャック型】
航行する船舶に高速ボート等を利用し急接近し、鍵縄等を利用して船舶に乗り組み、乗
組員を殺害又は救命筏等で開放した上で、船舶及び積荷を奪取するもの。場合によって
は、予め用意した別の船舶に積荷を積み替えることもある。奪取した船舶は船名、塗装、
船籍等が変更され、積荷は闇市場で処分される。闇市場で容易に処分可能な積荷を積
載している船舶が主たる対象となる。通常、自動小銃、拳銃等で武装している。大規模な
国際犯罪シンジケート等の組織が関与するとされている。
【ロビンフット型】
上記の各分類に重複するが、海賊行為によって得られた金品等を付近住民に分配するこ
とにより、地域住民からの庇護を受けているもの。この種の事案の摘発を困難にしている
理由の一つとなっている。
⇒海賊行為は専ら、沿岸漁民などの地域住民によって行なわれている
インドネシア、特に、バタム島の海賊についてのレポートは数多くあり、世界各地より、海
賊の実態について調査を試みる者がバタム島を訪れる。その中でも、Robert Stuart, In
107
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
Search of Pirates, A Modern-Day Odyssey in the South China Sea: Mainstream Publishing
2002 は非常に詳細なものである。その中に、“Piracy is not a big story in Indonesia. It is
just a way of life.”という一文があるが、インドネシアの海賊を最も端的に表現したもので
ある。
⇒効果的かつ非暴力的な自衛措置
国際海事機関(IMO)では、船舶所有者、運航者、船長及び乗組員がとるべき自衛措置
に つ い て 取 り ま と め た 回 章 (MSC/Circ.623/Rev.3, Guidance to shipowners and ship
operators, shipmasters and crews on preventing and suppressing acts of piracy and armed
robbery against ships , (29 May 2002))を発出している(現在のものは3訂版である)。
⇒自国の船舶所有者、船舶管理会社などに対し指導を行っています。
シンガポール海事港湾庁(MPA)では、周知文書(Port Marine Circular, Piracy and Armed
Robbery Against Ships (No. 31 of 2003))を出し、上記の IMO 回章に基づく措置の実施をシ
ンガポール海運社会に呼びかけている。
日本船主協会でも IMO 回章などを参考にして「保安計画策定の指針」を作成、加盟船社
に配布している。
IMO回章や日本船主協会の保安計画策定の指針に示される海賊被害防止対策をコンパ
クトな一覧表にしたものが海事産業研究所により作成されている(海事産業研究所『海賊
被害防止対策に関する調査研究報告書』(Mar. 2003) p.39-48)
2001 年9月 11 日に発生した米国同時多発テロ事件を受け、同年 11 月の IMO 第 22 回総会は、
海事分野のセキュリティー強化を図る総会決議第 924 号を採択しました。その後、セキュリティー
強化に係る一連の対策は、2002 年 12 月に開催された SOLAS 条約締約国政府会議において採
択された「SOLAS 条約改正附属書」及び「船舶及び港湾施設の保安に関する国際規則(ISPS コー
ド)」の中で具体化されました(発効日は 2004 年7月 1 日)。この SOLAS 条約改正附属書や ISPS
コードは、船舶所有者などが政府の監督の下に自衛措置を徹底することにより、海賊、海上テロ
などの行為を未然に防止するという考え方に立っています。シンガポール MPA では、改正附属書
や ISPS コードに規定された一連の対策を実施するため、保安管理者(Security Officer)養成を目
的とした IMO モデル訓練コースに準拠する計8コースに対し認可を与えました。既に 2500 名の者
が本コースを終了(2004 年3月現在)しています。また、船舶セキュリティーに関しては8団体を認
定セキュリティー団体(RSOs: Recognized Security Organizations)として指定しています。一方、シ
ンガポールに寄港する外国船舶が改正附属書や ISPS コードに適合していることを確保するため、
寄港国による監督(PSC: Port State Control)が実施されています。
⇒船舶所有者などが政府の監督の下に自衛措置を徹底する
国際航海船舶(国際航行旅客船、総トン数 500 トン以上の貨物船)に適用される措置
・ 船舶認識番号(Ship Identification Number)の船体への刻印
108
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
・ 船舶警報通報装置(Ship Security Alert System)の設置
・ 保安計画(Security Plan)の作成
・ 船舶の過去を記録する CSR: Continuous Synopsis Record(これまでの登録国、登録年
月日、船主、裸傭船者、船舶の船級協会、発行された証明書等について記載される)
の船舶への備置き
・ 国際船舶保安証書(International Ship Security Certificate)の獲得
・ 保安管理者の選任(Ship Security Officer, Company Security Officer)
・ セキュリティー評価の実施
・ 定期的な訓練等の実施
⇒寄港国による監督(PSC: Port State Control)が実施
SOLAS 関連条約の 2004 年7月1日の発効にあわせ、東京及びパリ MOU に所属する各
国は、集中監督活動(CIC: Concentrated Inspection Campaigns)を展開した。
(2) 利用国による協力
マ・シ海峡に限定される取組みではありませんが、2000 年4月、海賊対策国際会議が東京で開催
され、最終的に、海事政策当局、民間海事関係者が取るべき対策をまとめた「海賊対策モデル・
アクション・プラン」を採択しました。このアクション・プランにおいては、船舶が取るべき具体的措
置として、IMO の回章(MSC/Circ.623/Rev.3)に従った「自主保安計画」の策定、船内における警
戒監視の強化、船舶の動静把握の強化、非殺傷性の護身装備の使用などが推奨されています。
⇒海賊対策国際会議
海賊対策国際会議は、1999 年 11 月マニラで開催された日・ASEAN 首脳会議の際、当時
の小渕総理が、その開催を提案し、ASEAN 各国の賛同を得たものである。
海賊対策国際会議(準備会合を含む)は、海事政策当局による会合と、海上法令執行当
局による会合からなり、前者においては、海賊問題に対する海事政策当局の認識、決意
をまとめた「東京アピール」、また、「東京アピール」に基づき策定された「海賊対策モデ
ル・アクション・プラン」が採択された。また、後者においては、海上法令執行当局間の海
賊関連情報の交換手続きや連携協力の強化策をまとめた「アジア海賊対策チャレンジ
2000」が採択された。
マ・シ海峡に限定される取組みではありませんが、2003 年 12 月、改正 SOLAS 条約に対応した海
上セキュリティー・ワークショップが東京で開催されました。
(3) 今後の方向性
【シー・マーシャル】
現在、マ・シ海峡を通航する船舶にシー・マーシャル(sea martial)を警乗させる、という考えがあ
109
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
ります。これは、エアー・マーシャル の船舶版ですが、マ・シ海峡通航船舶に武器を携帯し特
別の訓練を受けた警備要員を乗船させ、海賊やテロリストの攻撃から当該船舶を護る、という
ものです。この考えは、2004 年8月下旬、シンガポールのトニー・タン副首相がマレーシアを訪
問した際、アブドラ首相及びナジブ副首相に提示されたものです。マ・シ海峡では、同年7月、
海峡沿岸3カ国の海軍が、マ・シ海峡での連携パトロールを開始していますが、シー・マーシャ
ルは更なるセキュリティー対策の一つと考えられています。
⇒エアー・マーシャル
現在、シンガポールにおいては、私服武装警備員をシンガポール航空の特定の便に
警乗させている。また、地下鉄にも、私服非武装の警備員を警乗させている。
シー・マーシャルも船舶の自衛措置の一つと考えられますが、これまで、自衛措置に関しては、
乗組員による武器を使用した力対力の自衛措置はかえって暴力行為を助長し乗組員の生命を
危うくする、という理由から、特に乗組員側に否定的な意見が大半を占めてきました。このシ
ー・マーシャルについては、乗組員が武器を手にするということではありませんが、同様に暴力
行為を助長する結果になる危険性を含んでいます。従って、船主側、乗組員側、政府関係者な
どの間で十分な議論が行なわれ、コンセンサスを得る必要があります。なお、警乗という形態
ではなく、武装警備要員が乗船する高速小型船舶による護衛(エスコート)という形態であれ
ば、若干、被護衛船舶乗組員に及ぶ被害は軽減されると考えられます。
⇒武器を使用した力対力の自衛措置
IMO 回章(MSC/Circ.623/Rev.3)では、武器の携帯及び使用に関し、下記の記述があ
る。
45
The carrying and use of firearms for personal protection or protection of a ship is
strongly discouraged.
46
Carriage of arms on board ship may encourage attackers to carry firearms thereby
escalating an already dangerous situation, and any firearms on board may themselves
become an attractive target for an attacker. The use of firearms requires special training
and aptitudes and the risk of accidents with firearms carried on board ship is great. In
some jurisdictions, killing a national may have unforeseen consequences even for a
person who believe he has acted in self defense.
シー・マーシャルの警備要員の身分についてですが、警乗することとなる船舶の国籍が多様で
あること、マ・シ海峡通航中に複数の沿岸国の領海を通過すること、などから、国の治安機関
に所属する警備要員では国の管轄権の観点から問題となります。従って、当該要員は、必然
的に、そのようなサービスを提供する民間警備会社の警備員とならざるを得ないと考えられま
す。そのような場合には、当該サービスを受ける費用は沿岸国ではなく、船主側が負担するこ
とになります。
シー・マーシャルは業務の性格上、銃器などの武器を携帯して業務にあたることになりますが、
110
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
民間の警備会社が武器を使用してそのようなサービスを行うことの是非について問題となって
きます。シンガポールの街中でよく見かける現金輸送サービスを行っているのは警察です。こ
れは国によって異なりますが、香港では現金輸送、宝石店や銀行の警備などは、ショットガンを
携帯した民間警備員が行っています。日本では民間の警備員が銃器を所持することは認めら
れていません。さらに、国によっては、警備会社にこのようなサービスを委託する場合、当該会
社が海賊やテロ組織と内通しているという危険性も考慮に入れる必要があります。
シー・マーシャルに類似したサービス形態として、目的は全く異なりますが、海峡通航水先サー
ビスというものがあります。このサービスは、あくまで、自主的な契約ベースで行われているも
のであり、シンガポールの PSA などが当該サービスを提供しています。このサービスを受ける
場合、1回の費用は約 130 万円(船舶の種類等によっても異なってくると考えられる)程度です。
シー・マーシャルが警乗する場合、少なくとも複数名の要員が必要であり、かつ、危険度が大き
いことを考えると、その費用は更に大きくなります。この費用はサービスを受ける船主が負担す
ることになるわけですが、そのような莫大な費用を通峡毎に支払うことは費用対効果の観点か
ら適当ではない、とする考え方と、積荷の総価格に比べると微々たるものだ、とする考え方と、
二通りあります。
通過通航制度との関係ですが、海峡沿岸国が将来的に当該サービスの強制化を考えていると
した場合、そのような通航に際しての条件を通過通航権を有する船舶に課すことができるの
か、という問題が生じます。これは海峡水先制度の強制化についても同様の問題はあります
が、通過通航権の性格からは、そのような条件を通航船舶に課すことは困難であると考えられ
ます。なお、海峡沿岸国は海峡の通過通航に係る法令を制定することができますが、当該法令
制定権は特定の事項(航路帯指定及び分離通航帯設定に係る航行安全、海上交通規制、海
洋汚染関連の国際的規則の実施など)に限られており、対テロ対策に係るものは含まれていま
せん。
最後に、シー・マーシャルが警乗しているとした場合の保険料はどのようになるのでしょうか。
損害のリスクを考える場合、シー・マーシャル警乗によりリスクが極端に少なくなる、とは言えま
せん。かえって船体、積荷、乗組員の被害が大きくなる、という場合も考えられます。また、責
任関係も明確ではありません。船舶内で発生したあらゆる事象の責任者は船長にありますが、
シー・マーシャルの業務に関連して発生すると考えられるものの責任の所在については、シー・
マーシャル契約や保険契約を結ぶ際に明確にしておく必要があります。
いずれにせよ、現在この問題はシンガポール及びマレーシア政府内で議論が行われており、し
ばらくその推移を見守る必要があります。
【改正 SOLAS 条約関係】
改正 SOLAS 条約関係ですが、この種の対策は、マ・シ海峡沿岸国を含む東南アジア全域にお
いて均一的なセキュリティー体制が構築されてはじめて効果があがるといった性質のもので
す。従って、SOLAS 条約に定める措置を完全に履行していない国に対しては、地域全体として
111
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
適切な履行を求めていくことが大切です。マ・シ海峡の沿岸国の中では、インドネシアの低い履
行状況が問題となっており、マ・シ海峡のセキュリティー体制に与える影響が懸念されます。
改正 SOLAS 条約、ISPS コードの対象船舶には総トン数 500 トン未満の貨物船は含まれませ
ん。マ・シ海峡は、そのような比較的小型の非 SOLAS 船舶が多数通航していることから、この
ような船舶に対する措置について、沿岸国による国際的な取組みが必要となっています。
2.港湾の自衛措置
(1) 沿岸国の取組み
2002 年 12 月に採択された「SOLAS 条約改正附属書」及び「船舶及び港湾施設の保安に関する
国際規則(ISPS コード)」の中には、これまで SOLAS 条約が対象としてこなかった港湾施設におけ
るセキュリティー対策についても新たな規定が盛り込まれてあります。なお、シンガポールにおい
ては、2001 年9月 11 日の米国同時多発テロ事件以降、港湾における様々なセキュリティー対策
が強化されています。
⇒港湾施設におけるセキュリティー対策
国際港湾施設(国際航海船舶が利用する港湾施設)に適用される措置
・ 警備設備(フェンス、保安照明、監視カメラなど)の設置
・ 保安計画の作成
・ 保安計画の承認取得
・ 保安管理者の選任(Port Facility Security Officer)
・ セキュリティー評価の実施
・ 政府が決定するセキュリティー・レベルに応じた適切な措置の実施
・ 定期的な訓練等の実施
シンガポールの 123 の港湾施設のうち国際航海船舶に利用されるものが 90 施設、500 ト
ン未満の船舶に利用されるものが 33 施設存在する。
⇒港湾における様々なセキュリティー対策が強化
シンガポール港では、危険物取扱ターミナル周辺海域を立入禁止区域に指定し、いかな
る船舶も MPA の許可なしには当該区域への進入・通過、当該区域での錨泊・係留は禁じ
られる。
以前は、特定の船舶(入港後、造船所、油ターミナル、民間の桟橋等に向かう船舶)に対
しては、入港前に事前出入国手続(Advance Immigration Clearance)が実施されていたが、
2001 年9月の同時多発テロ事件以降はこれを取りやめた。この結果、これらの船舶は、
入港後、指定された錨地において、入国管理・検査庁の審査官による審査を、乗組員一
人一人が受けることになった。
112
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
錨地や沖合いターミナルにある船舶の乗組員・乗客がシンガポールに上陸する場合、予
め指定された地点(現在指定されている場所は、West Coast Pier と Clifford Pier の2箇所
のみである)からのみ上陸が許可される。当該地点では、入国管理・検査庁の審査官に
より上陸者一人一人に対して上陸審査が行われる。
切迫した海上セキュリティー脅威がある場合の措置として、MPA は次のとおり、必要な措
置を講じることができる。なお、これまで、そのような脅威があるとされたのは、イラク戦争
期間中と 2003 年4月の2回だけである。
・ バンカー船及び鋼製タグの運航者は少なくとも 12 時間前までに港内における運航計
画を MPA に提出する。
・ ケミカル・タンカー、LNG 船、LPG 船用錨地を立入禁止区域に指定する。
・ ケミカル・タンカー、LNG 船、LPG 船の港内での運航は、昼間に限定される。
・ シンガポール港を出港するプレジャー・ボートは関連情報を提出する。
港湾施設、旅客ターミナルでの対策として、シンガポール旅客船ターミナルに発着する旅
客船の乗客、手荷物等全てに対し、X 線装置、金属探知機、爆発物検知器を使用して検
査が実施されている。
シンガポールでは、以上の措置に加え、(1)小型港内船舶、(2)非 SOLAS 対象船舶(総トン数 500
トン未満の貨物船)を対象に、以下のような追加的措置を行っています。これらの措置は、もっぱ
ら、過去の小型高速ボートが関与する海上テロ事件の犯行手口に鑑み、港湾や港湾に停泊する
船舶をそのような小型ボートを使用したテロ行為から護る、という目的で導入されるものです。ま
た、海上セキュリティーに関する政府各組織から構成されるワーキング・グループを政府内部に設
置し、特に、港湾施設セキュリティーに関する事項について積極的な検討を行っています。
⇒小型港内船舶
シンガポールには 1200 隻の登録小型港内船舶が存在している。
港内船舶保安コード(HCSC: Harbour Craft Security Code)の遵守を要請
港内船舶保安記録簿への動静記入、備え置き
動静把握のため、簡易 AIS 設置を義務付け(実証試験中)
保安宣誓書への記入
⇒非 SOLAS 対象船舶(総トン数 500 トン未満の貨物船)
1 日あたり 80 隻の入港船舶がある。
シンガポール入港前に、船舶保安自己評価リストの提出
保安宣誓書への記入
113
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
(2) 利用国による協力
インドネシアでは主要国際港湾の警備設備の設置についての協力が行なわれているようである。
(3) 今後の方向性
港湾セキュリティー対策はマ・シ海峡の海上交通路の機能維持という観点から直接的に捉える
べき問題ではありません。海洋法条約第 43 条に既定する協力事項の中にも、マ・シ海峡沿岸
の港湾セキュリティーに関する事項は入っていません。しかし、安全でない港湾が何の対策も
とられないままマ・シ海峡沿岸地域で放置された場合、海賊、海上テロは、当該港湾を活動拠
点として、海峡通航船舶に対し攻撃をしかけてくる、といった状況も十分想定し得ます。従って、
海峡沿岸の港湾におけるセキュリティー体制がどのように整備されているのかについては、注
視していく必要があります。
港湾セキュリティー対策は、港湾施設(錨地を含む)の維持・管理措置(港湾管理当局)、港湾
水域の安全・秩序維持(法令執行当局)、港湾内の小型港内船舶に対する規制(海事政策当
局)、港湾施設および当該施設にある船舶への人のアクセス(入管当局、港湾管理当局)、港
湾に出入りする貨物に対する保安検査(税関当局、港湾管理当局)を主要な要素とします。こ
れらの要素は、もっぱら沿岸国の主権に基づき実施されるべきものであり、利用国の協力が可
能かつ適当と考えられる分野は、港湾施設に設置される保安設備、貨物保安検査のための検
査機器の購入に際し財政的支援を行う程度であると考えられます。
3.コンテナ・セキュリティー
(1) 沿岸国の取組み
コンテナ・セキュリティー対策として実際に行われているのは、米国主導によるコンテナ・セキュリ
ティー・イニシアチブ(CSI: Container Security Initiative)です。この CSI には、シンガポールなどの
マ・シ海峡沿岸国や日本などの利用国が参加していますが、CSI の本来の目的は、米国本土をテ
ロ行為から保護することにあります。つまり、米国向けに海上輸送されるコンテナ貨物の中に米国
本土のセキュリティーを脅かす危険物が積載されている場合、可能な限り、米国本土から離れた
場所(外国の港)で発見し措置しようとする試みです。従って CSI は、マ・シ海峡のセキュリティーを
改善するものであるとは言えません。米国は、CSI の第一段階として、世界の主要港 20 港(この
20 港から米国に輸入されるコンテナは、全輸入量の 67%を占める)を対象とし CSI を実施するこ
ととしました。シンガポールは、アジアでは一番最初に CSI に参加した港であり、2003 年2月 11 日
より開始されています。この他、マレーシアのポートクラン港及びタンジュン・プラパス港が参加し
ています。
⇒コンテナ・セキュリティー・イニシアチブ(CSI: Container Security Initiative)
通常、輸入貨物の検査は、港湾に陸揚げされた後、税関職員によって行われます。CSI
114
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
では、この検査を外国の輸出港で当該外国の了承のもとに行おうとするものです。従って、
当該検査を行う者は、本来的には米国の税関職員であり、検査用資機材も米国が購入
すべきです。しかしシンガポールでは、米国向けのコンテナを検査するため、1台の固定
式コンテナ検査機と、1台の移動式検査機(2003 年9月より使用開始)を新たに購入する
とともに、実際の検査業務は、ほとんどが、駐在する米国の税関職員ではなくシンガポー
ルの入国管理・検査庁の職員により実施されています。
(2) 利用国による協力
現在、CSI に参加する港湾は 20 港であり、日本の港湾もこれに含まれています。しかし、先ほども
述べましたが、マ・シ海峡の海上交通路としての機能維持のため日本が CSI に協力している、とい
う構図では捉えることができません。また、米国もマ・シ海峡の安全を確保するために CIS を実施
しているわけではありません。
(3) 今後の方向性
現在、アルカイダなどのテロ組織が海上コンテナを利用して化学薬品、武器、その他のテロ行
為に関係した物資を世界中で移動させることに目を向けているとされます(Michael Richardson,
Staying vigilant: a multi-layered defense, Port of Singapore (Sep. 2004) p.22-23)。現在の CSI は
米国向けの海上コンテナを対象としたものですが、この活動を更に世界的な規模に拡大する必
要があります。しかし、問題点として、海上輸送全般の経費が上がること、コンテナが検査のた
め港湾に留め置かれることとなり輸送効率が低下すること、国際条約などによる法整備が必要
なこと(現在米国は、実施国との協定の締結により実施している)、現在、年間 1,500 万個の海
上コンテナが2億3千万回の輸送をされているとされますが、これら全てを出港前に検査するこ
とは、物理的に不可能であること、などの問題点を解決する必要があります。
4.海賊行為、海上テロ行為の刑罰化等
(1) 沿岸国の取組み
自国の港湾、領海内で発生した事件に対しては、沿岸国の管轄権が及びます。沿岸国は、海賊
行為、海上テロ行為を自国刑法などにおいて犯罪行為として定め、当該行為の重大性に見合っ
た適切な刑罰を科すことができるよう、措置しておく必要があります。この際、「海賊行為」という一
つの包括的行為形態をもちいて規定するのではなく、日本のように、窃盗、強盗、殺人のような海
賊行為を構成する可能性のある個々の行為毎に規定する国もあります。
自国周辺の公海上で発生した海賊事件(海洋法条約第 101 条に定めるものに限る)に対しては、
沿岸国は自国の管轄権を及ぼすことができます。マ・シ海峡沿岸国の中に、公海上を定期的に巡
視する能力を有する法令執行機関は存在しませんが、漁業取締りなどを兼ねて巡視を行っている
海軍艦艇が、偶然に公海上の海賊行為に遭遇する場合も想定し得ます。そのような場合に備え、
115
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
当該海賊行為の刑罰化など、所要の法令執行措置を講じ得るための法整備が必要となります。
海峡沿岸国は、既に海洋法条約を批准していますが、当該執行措置の実施の可否は各国の裁
量に委ねられているため、各沿岸国の対応の詳細については、更なる調査が必要です。
⇒当該執行措置の実施の可否は各国の判断に委ねられている
日本は、1996 年(平成8年)年に海洋法条約を批准したが、公海上の外国船間の海賊行
為を処罰するための法整備は行なっていない。
海賊行為や海上テロ行為の中でも、シージャック防止条約の対象行為については、当該行為の
容疑者が自国領域内にいる場合には、当該容疑者を拘束した上で、自国で処罰するか、あるい
は、適当な国に引き渡すか、のいずれかの措置をとることになります。このような意味から、当該
条約は海賊あるいは海上テロ対策の有効な国際法的手段として認識され、いろいろな機会にお
いて、各国の早期批准(加入)が求められています。マ・シ海峡沿岸国の中では、唯一、シンガポ
ールだけが加入をしており、そのための国内法を整備しています。当該国内法の内容は、下記コ
ラムのとおりです。
⇒シージャック防止条約
シージャック防止条約とは、「1988 年の海洋航行の安全に対する不法な行為の防止に関
する条約(The Convention for the Suppression of Unlawful Acts against the Safety of
Maritime Navigation done in Rome on 10th March 1988)」のことであり、1988 年3月 10 日
に採択され、1992 年3月 1 日に発効している。なお、日本は、当該条約を批准した際、既
存の国内法で対応可能であるとし、特段の国内法的措置はとっていない。現在、IMO に
おいて本条約の改正が検討されている。
(2) 利用国による協力
どのような法令を制定するのかについては政策的な問題であり、各国の裁量によるところが大き
いため、国際会議の場などを利用して、海賊行為、海上テロ行為に対し適切な刑罰が科されるべ
きこと、シージャック防止条約の早期批准(加入)などについて、関係国の理解を求めるに止まっ
ています。
(3) 今後の方向性
【シージャック防止条約】
インドネシア及びマレーシアを含む東南アジア各国がシージャック防止条約を批准(加入)する
ことにより、マ・シ海峡に空白地帯のない刑事訴追体制を構築する必要があります。そのため、
引き続き、国際会議の場などを利用して、その必要性を訴えていく必要があります。
【捜査共助、犯罪人引渡し関連】
大規模な海賊犯罪や海上テロ行為は国際犯罪であり、多数の国の関係者や組織が複雑に関
116
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
与して行われる場合があります。そのような場合、当該事案を迅速に解明し、しかるべき措置
をとるためには、各国捜査機関間の共助体制や、身柄拘束をした容疑者を迅速に処罰する国
の機関に引き渡すための体制についても整備されている必要があります。
コラム:シンガポールにおけるシージャック防止条約の国内法整備
2003 年 11 月 10 日、シンガポールは、いわゆる「シージャック防止条約」 を実施するための「海
事犯罪法案(Maritime Offences Bill, Bill No.23/2003)」を可決し、翌 2004 年3月、施行しまし
た。
注:本稿は、当該法案の逐条和訳ではありません。従って、省略してある箇所や規定順序を変更している箇所
等があります。
1.法案の概要
この法案は、シージャック防止条約に規定する犯罪行為について、当該犯罪行為の行為者が
シンガポールに所在する場合に、当該犯罪行為が行われた場所、当該行為者の国籍、当該行
為が行われた船舶の国籍にかかわらず、シンガポールにおいて処罰することを可能とするもの
です。また、処罰をしない場合においても、当該者を他の適当な国に引渡すことが可能となりま
す。なお、本法には、航空機ハイジャック及び航空機の保護並びに国際空港に関する法律等
の関連法に所要の改正を行う規定も含まれています。
2.主要条項の内容
第2条 解釈
“暴力行為 (act of violence)”
シンガポールで行われた下記の犯罪
・ 殺人 (注:殺人当地の分類として、故意かつ計画的な殺人行為である“murder” と“murder” には至らな
いが処罰に値する殺人行為である“homicide” とがあり、ここではそれらをまとめて「殺人」としている。)
・ 故意に重大な傷害を与える行為
・ 危険な武器又は手段により故意に傷害を与える行為
・ その他、「武器犯罪法第4条」、「腐食性及び爆発性物質並びに違法武器に関する法律第3
条及び第4条」、「爆発性物質に関する法律第3条及び第4条」、「誘拐行為に関する法律第
3条」に規定する類似の行為
シンガポールで行われれば上記の犯罪を構成する行為であって、シンガポールの外で行われ
たもの
117
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
“関連する海事犯罪 (relevant maritime offence)”
第3条から第6条までに規定する犯罪行為並びに当該犯罪行為に係る共同謀議(conspiracy)、
教唆(inciting)、未遂(attempting)、幇助(aiding and abeting)、助言(counseling)、仲介(procuring)
の各行為
“不法に (unlawfully)”
ある行為がシンガポール内で行われた場合、有効なシンガポール成文法に違反するようなと
き、一方、ある行為がシンガポール外で行われた場合、当該行為が仮にシンガポール内で行
われた場合に有効なシンガポール成文法に違反することとなるようなとき
第3条 船舶のハイジャック
暴力、脅迫により、不法に船舶を奪取し又は管理する行為(注:シージャック防止条約第3条1項(a)
に該当)は、行為者の国籍、船舶の国籍、船舶がシンガポール水域内にいるか否かにかかわら
ず、処罰される。
例外:本条は、軍艦、海軍予備役船舶、税関船、警察艇が関与する場合には適用されない。ただし、次の場合
は除く。
・当該行為者がシンガポール国民である場合
・当該行為がシンガポール域内で行われた場合
・当該船舶がシンガポールの海軍、税関、警察で使用されている場合
第4条 船舶を破壊し、損害を与える行為
不法かつ故意になされた下記の行為は、行為の実行場所、行為者の国籍、船舶の国籍にか
かわらず、処罰される。
(a)船舶を破壊する行為(注:シージャック防止条約第3条 1 項(c)に該当)
(b)船舶又はその積荷に対し、当該船舶の安全な航行を損なう又は損なうおそれのある損害を
与える行為 (注:シージャック防止条約第3条 1 項(c)に該当)、
(c)船舶内での、当該船舶の安全な航行を損なう暴力行為(注:シージャック防止条約第3条 1 項(b)に
該当)
(d)船舶に、当該船舶を破壊するような、装置又は物質を置く行為(注:シージャック防止条約第3条
1 項(d)に該当)
(e)船舶に、当該船舶又はその積荷に対し、当該船舶の安全な航行を損なう損害を与えるよう
な、装置又は物質を置く行為(注:シージャック防止条約第3条 1 項(d)に該当)
(f)船舶に、上記(d)及び(e)のような、装置又は物質が置かれるようにする行為(注:シージャック防
止条約第3条 1 項(d)に該当)
例外:本条は、軍艦、海軍予備役船舶、税関船、警察艇が関与する場合には適用されない。ただし、次の場合
は除く。
118
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
・当該行為者がシンガポール国民である場合
・当該行為がシンガポール域内で行われた場合
・当該船舶がシンガポールの海軍、税関、警察で使用されている場合
第5条 船舶の安全な航行を損なう又は損なうおそれのある他の行為
不法かつ故意になされた下記の行為は、行為の実行場所、行為者の国籍、船舶の国籍にか
かわらず、処罰される。
(a)財産を破壊し又は損傷する行為 (船舶の安全な航行を損なうおそれがある場合)(注:シージ
ャック防止条約第3条 1 項(e)に該当)
(b)(a)の財産の運用を著しく妨害する行為 (同上)(注:シージャック防止条約第3条 1 項(e)に該当)
注:(a)の財産は、海洋航行に関する施設(陸上、建造物、船舶、器具、設備を含む。)をいい、船舶上にあるか
否かは問わない。
例外:本条は、軍艦、海軍予備役船舶、税関船、警察艇が関与する場合には適用されない。ただし、次の場合
は除く。
・当該行為者がシンガポール国民である場合
・当該行為がシンガポール域内で行われた場合
・当該船舶がシンガポールの海軍、税関、警察で使用されている場合
故意により、虚偽の情報を通報し、当該情報の通報が船舶の安全な航行を損なう場合には、
処罰される(注:シージャック防止条約第3条 1 項(f)に該当) 。
例外:当該行為者が、通報された情報を真実と信じ、かつ、信じるにたる合理的根拠がある場合や、情報通報
の業務を行うため合法的に雇用された者であって、当該業務の実施に際し、善良なる信念を持って行った場合
例外:本条は、軍艦、海軍予備役船舶、税関船、警察艇が関与する場合には適用されない。ただし、次の場合
は除く。
・当該行為者がシンガポール国民である場合
・当該行為がシンガポール域内で行われた場合
・当該船舶がシンガポールの海軍、税関、警察で使用されている場合
第6条 脅迫に係る犯罪行為
下記の行為は、船舶の安全な航行を損なうおそれがある場合、行為の実行場所、行為者の国
籍、船舶の国籍にかかわらず、処罰される。
第4条の(a)から(c)又は第5条の(a)及び(b)に規定する犯罪行為を行うよう言って、人にある行
為の作為・不作為を強要する行為
119
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
例外:本条は、軍艦、海軍予備役船舶、税関船、警察艇が関与する場合には適用されない。ただし、次の場合
は除く。
・当該行為者がシンガポール国民である場合
・当該行為がシンガポール域内で行われた場合
・当該船舶がシンガポールの海軍、税関、警察で使用されている場合
第7条 付随的犯罪行為
第3条から第5条までに定める犯罪及びその未遂に関連して行われた暴力行為(注:シージャック
防止条約第3条 1 項(g)に該当)は、行為の実行場所、行為者の国籍、船舶の国籍にかかわらず、
シンガポールで行われたものとみなされ、適用のあるシンガポールの法律に基づき、処罰され
る。
シンガポールにいる者が、他の場所で行われた犯罪の幇助を行った場合も、処罰する。
例外:本条は、軍艦、海軍予備役船舶、税関船、警察艇が関与する場合には適用されない。ただし、次の場合
は除く。
・当該行為者がシンガポール国民である場合
・当該行為がシンガポール域内で行われた場合
・当該船舶がシンガポールの海軍、税関、警察で使用されている場合
第8条 船長の引渡権
船長は、当該船舶の所在地、船籍国に係らず、当該船上にある者が、船舶(当該船舶に限らな
い)に係る海事犯罪を犯したと信ずるに足る合理的な理由があれば、当該者をシンガポール当
局に引渡すことができる。シンガポール国籍船の船長は、上記に係る状況において、他の条約
締約国の当局に引渡すことができる。
例外:軍艦、海軍予備役船舶、税関船、警察艇が関与する海事犯罪は除く。
引渡しに際し、船長は、前もって、指定の様式により、当局に引渡しの意思及びその理由を通
報する。なお、当該通報は、引渡し相手国の領海に進入前、これが合理的に不可能な場合は、
進入後のできるだけ早い時期、に行われる。当該者を引渡す際、船長は、当該者の犯罪行為
に関し口頭又は書面により陳述を行い、また、証拠品を提出する。
注:シンガポールにおいて通報を受け取る当局は、海事港湾庁のシンガポール港長が指定されている。その他
の国においては、当該国が指定する当局となっている。
通報や陳述の提出を怠った場合は、S$5,000 を超えない罰金が科される。
120
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
例外:船長が、合理的な理由に基づき、通報行為が船舶の安全に損害を与えると認識していた場合
他の適当な当局に通報していた場合(シンガポール当局への通報を除く)また、船長が、合理的な理由に基づ
き、他の適当な当局への通報行為が船舶の安全に損害を与えると認識していた場合
第 11 条 犯罪人引渡し
シンガポールと他の締約国との間で犯罪人引渡条約が締結されていない場合は、あたかも当
該条約が締結されているかのごとく、本法に規定されている特定の犯罪行為を犯した犯罪人に
限り、シンガポールの犯罪人引渡法を適用する。
B 法令執行機関による対策
1.法令執行機関の体制整備
(1) 沿岸国の取組み
海峡沿岸国の海上法令執行機関では、マ・シ海峡における必要な法令執行体制を整備していま
す。
⇒海上法令執行機関
海上法令執行機関とは、海上において法令励行業務(立入検査等)や犯罪捜査を行う権
限を有している機関をいう。従って、法令違反船舶を拘束し、他の証拠物とともに犯罪捜
査・訴追機関に引き継ぐだけの権限しか与えられていない組織はこれには含まれない。
なお、具体的にマ・シ海峡沿岸国のどの機関が該当するのか、特に、海軍の機能がどの
ようになっているのか、については、特にインドネシアにおいて、明確にされていない部分
が多い。
インドネシアの海上法令執行機関:海軍、海上警察、運輸省海運総局警備救難局
マレーシアの海上法令執行機関:海軍、海上警察、税関、運輸省海事局、漁業取締局等
シンガポールの海上法令執行機関:沿岸警備隊
(2) 利用国による協力
日本の海上保安庁は、2000 年(平成 12 年)4月、東京で開催された「海賊対策国際会議」におい
て採択された「アジア海賊対策チャレンジ 2000」に基づき、マ・シ海峡沿岸国を含む東南アジア諸
国に対し所要の海賊対策に係る国際協力を実施しています。これらの協力は、各国の主権に配
慮したかたちで行われており、内容的には人材育成など、各法令執行機関の体制整備を側面的
に支援するものとなっています。
121
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
⇒体制整備を側面的に支援するもの
組織の能力強化(人材育成を含む)として、海上保安大学校への留学生受入、海上犯罪
取締り研修の実施、専門家の派遣、セミナーの実施、海賊対策連携訓練、巡視船の供与
(計画段階)が実施されている。
現在、総合的な海上法令執行機関であるコースト・ガードを設置する動きのある国(インド
ネシア及びマレーシア)に対しては、専門家を派遣するなどして、所要の支援を行ってい
る。
各国の海上法令執行機関間の協力体制を構築するため、海賊対策専門家会合の開催
支援や海賊・海上テロ長官級会合の開催、連絡窓口の設定による情報の共有化を行って
いる。
2004 年6月、平成 16 年 6 月 17 日及び 18 日、東京において、海上保安庁主催による「ア
ジア海上保安機関長官級会合」が開催された。この会合により、(1) 海賊・海上武装強盗
への対応、に関しては、2000 年の海賊会議で採択された「アジア海賊対策チャレンジ
2000 (AAPC 2000: Asia Anti-Piracy Challenges 2000)」に基づき、更なる海賊及び海上武
装強盗対策に係るより一層の連携強化が合意された。また、(2) 海上テロへの対応に関
しては、コンタクト・ポイント・リストを活用した海上法令執行機関間の連携協力及び各国
の海上法令執行能力強化支援についての提案が合意された。また、従来から連携協力
関係を構築してきた海賊対策分野に加え、新たに海上テロ対策分野においても今後連携
と協力を強化していく必要性が認識され、テロ情勢や具体的な協力方策等について参加
国間で情報交換・意見交換が行われた。
これらの合意事項については、日本が提案した「アジア海上セキュリティー・イニシアチブ
2004」(「Asia Maritime Security Initiative 2004(AMARSECTIVE 2004)」)に盛り込まれ、
全会一致で採択された。この文書は、AAPC2000 をベースとして、アジアの海上保安機関
が海賊及び海上テロを含む海上における不法行為を連携協力して対応することを企図す
る決意表明及びその決意の内容を示すものであり、その概要は以下のとおりである。
〔AMARSECTIVE 2004 の概要〕
アジアにおける海上保安機関の長官は、
① 海賊・海上武装強盗及びテロを含む海上における不法行為のリスクに関連する乗客、
乗員及び船舶のセキュリティー及び安全への懸念を表明し、
② 情報共有、捜索救助及び技術支援を含む海上保安機関間での連携・協力の向上を
最優先として継続努力することを決意し、
③ テロを含む海上における不法行為を予防・鎮圧することにより海上保安機関において
次を含む各種方策により海上安全及び海上セキュリティーの向上を図ることを意図し、
・ 海上における不法行為の予防・鎮圧のためのコンタクト・ポイント・リストの作成・更
新及び同リストによる情報交換
122
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
・ 二ヶ国間、多国間の海上不法行為対策のための連携訓練の実施
・ 海上セキュリティーの維持向上を議論するハイレベル会合の開催
④ 海賊対策に関する情報交換を含む法執行活動を強化し、ハイジャックされた船舶を発
見し、海賊・武装グループを摘発したことを評価し、
⑤ AAPC2000 に基づく更なる連携強化を継続的に推進することを確認し、
⑥ 海賊対策連絡窓口リスト及び情報交換フォーマットを活用した海賊・海上武装強盗に
関する情報交換の更なる促進、及び海賊・海上武装強盗情報及び他機関からの事案
対応要請入手時における関係国による迅速・適切な措置の実施を意図する。
現在、「アジア海賊対策地域協力協定」が検討されています。この協定は、(1)情報共有センターを
通じた海賊に関する情報共有体制と各国協力網の構築、(2)海上警備機関間の協力強化、(3)キ
ャパシティ・ビルディング(各国海上警備能力向上への協力)を主要な協力の柱としています。現
在、懸案であった定義規定、センターの組織規定等の重要条文が確定し、案文全体の確定に向
け大きく前進しています。次期交渉(最終交渉)は、11 月中旬に再び東京にて開催される予定であ
り、協定案文の確定、情報共有センターの設置場所(インドネシア、マレーシア及びシンガポール
と、韓国の計4カ国が誘致を希望)の決定を行う予定となっています(外務省ホームページ)。
米国やオーストラリアは、特に、2002 年 10 月のバリ島爆破事件以降、インドネシア国家警察の捜
査能力などの向上を目的とした様々な支援措置を講じているとされています。
(3) 今後の方向性
【インドネシア】
マ・シ海峡はインドネシアの領海、群島水域などが占める割合が大きく、インドネシアの海上法
令執行機関の役割が重要となってきますが、それらの機関では、予算不足、職員の汚職、海
上法令執行機関間の権力争い、法令の未整備や重複など、構造的問題が山積しています。現
在、日本の海上保安庁が体制整備の側面的支援をしていますが、残念ながら、その効果はま
だ現れていません。当面、注力すべき協力分野は、インドネシア・コーストガード設置に向けた
取組みを支援することにあります。この取組みの推進者である前調整大臣(政治・治安担当)で
あったスシロバンバン・ユドヨノ氏が大統領に選出されたことにより、今後、インドネシアの海上
治安体制が改善の方向に向かうことも十分予想されます。
【マレーシア】
マレーシアについても、総合的な海上法令執行機関である海事執行庁(Malaysian Maritime
Enforcement Agency)が首相府の下に設置され(下記コラム:海事執行庁法 参照)、2005 年3
月からの運用開始に向け準備を進めています。この組織は、従来の海上法令執行機関である
海軍、海上警察、税関、運輸省海事局、漁業取締局等が一つに再編されるなど、法令励行業
務に関しては日本の海上保安庁以上により統合された組織となる予定です。新しい組織の運
用が軌道に乗れば、マ・シ海峡の海上治安体制に多大なる貢献が期待されます。新組織の運
用が開始された後も、日本の海上保安庁による継続的な側面的支援が期待されています。
123
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
【シンガポール】
シンガポールの唯一の海上法令執行機関はシンガポール警察沿岸警備隊(Police Coast
Guard)です。PCG は 100 隻以上の最新鋭の高速警備艇を保有し、また、効率的な指揮機能に
加え、関連機関(海軍、海事港湾庁など)との連絡調整体制を構築しています。
【海賊通報の受信体制】
海賊通報の受信体制については、海上捜索救助調整センター(MRCC)などに対して行われる
よう IMO 回章(MSC/Circ.623/Rev.3)において定められていますが、インドネシアのように、機能
していない MRCC や言葉の通じない職員が配置されているなど、不備があるところが散見さ
れ、早急な改善が望まれるところです。なお、海賊通報については、国際海事局(IMB)の海賊
通報センターにも通報されますが、通報手段が衛星電話、衛星 FAX、TELEX に限られている
ため、緊急通報を行うには適していません。なお、SOLAS 条約改正により、新たに船舶警報通
報装置の設置が義務付けられましたが、これらの通報装置を活用することにより、より迅速か
つ正確な情報が安全に関係者に通報されることが期待されます。
【アジア海上法令執行機関のヒューマン・ネットワーク】
現在、東南アジアにおいて総合的な海上法令執行機関を有する国(近々、有することとなる国)
は、シンガポール(警察沿岸警備隊)、マレーシア(海事執行庁)、インドネシア(構想段階)、タイ
(構想段階)、ブルネイ(海上警察)、フィリピン(沿岸警備隊)です。このような同一の使命を有
する類似組織の協力関係を強化し、マ・シ海峡を含む東南アジア地域全体のセキュリティー・レ
ベルを向上させることは非常に重要です。現在、海賊対策専門家会合の開催など、国際的な
協力関係を構築する取組みが行われておりますが、将来的なアジア海上法令執行機関のヒュ
ーマン・ネットワークの核となる人材の育成も必要です。アジアの海上法令執行機関が、可能
な限り、同種の原理原則に基づき、同種のプロセスにより、均一的かつ良質の法令執行活動を
展開することは、海運社会にとっても大きなメリットであると考えられます。このため、法令執行
に携わる各層の職員を対象とした東南アジア共通の研修制度を構築し、当該研修制度におけ
る各種研修を通じて、法令執行に係る共通のプラットフォーム作りを行うとともに、将来のヒュー
マン・ネットワークの核になる人材を養成することが望まれています。
【海軍の関与】
アジア地域では、海軍が法令執行活動を行う国があります。海軍の本来任務である戦闘行為
と海上法令執行機関の法令執行活動とは、必要とされる装備、活動の主目的、必要とされる知
識、活動の諸手続きなどの点で根本的に異なっており、一つの機関が性質の異なる活動を実
施するには必然的に無理が生じます。従って、理想としては、個別の機関がそれぞれ対応する
ことが望ましいとされています。しかし、現実的には、海軍、沿岸警備隊という二つの組織を保
有するには、莫大な予算、資材を確保する必要があり、アジア地域において実質的に有効に機
能している沿岸警備隊を有する国は限られています。
【テロ関連情報の収集・分析】
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第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
テロ対策においては、いかに事前にテロ関連情報を入手し、テロ攻撃を事前に予防するかが
重要となります。しかし、テロ関連情報の収集・分析を的確に実施するには、1国1機関単独に
よる活動には限界があり、アジアを含む国際的なテロ情報網を構築する必要があります。
コラム:マレーシア海事執行庁法
【注:以下は、本法案の逐条訳ではありません。従って、重要と思われない規定については省略してあります。】
本法案は、マレーシア海域(Malaysian Maritime Zone)での海洋権益その他の国益を保護する
ため、当該海域の安全と保安の確保に係る執行機能を掌るマレーシア海事執行庁を設立する
ものである。
第1条 呼称名と適用開始(Short title and commencement)
本法は「2003 年のマレーシア海事執行庁法(the Malaysian Maritime Enforcement Agency Act
2003)」と呼称される。
本法の施行日は別途大臣が指定する日とする。大臣はマレーシアの異なった地域や異なった
規定毎に、異なった施行日を指定することができる。
注:地域毎の新組織の発足準備体制、業務執行能力の格差等により、マレーシア国土全体に一斉に本法の規
定を適用できない状況があると考えられます。
第2条 解釈(Interpretation)
「マレーシア海域」とは、内水、領海、大陸棚、排他的経済水域及びマレーシア漁業水域をい
い、当該海域の上空を含む。
注:第2条においては、この他、「領海」「大陸棚」「マレーシア漁業水域」「排他的経済水域」等の用語の定義規
定が置かれています(「排他的経済水域」とは別に「漁業水域」を設定している理由については別途調査が
必要)。
第3条
マ レ ー シ ア 海 事 執 行 庁 の 設 立 (Establishment of the Malaysian Maritime
Enforcement Agency)
第1項
この法律の目的のため、海事執行庁が設立される。
第2項
海事執行庁は、マレーシア海域において、法及び秩序の維持、平和、安全及び保安の維持、
犯罪の予防及び発見、犯人の逮捕及び起訴、保安情報(security intelligence)の収集に従事す
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第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
る。
注:日本の海上保安庁法第1条では、「海上において」という文言を用いられていますが、本法案においては、
「マレーシア海域において」という限定された海域が活動海域として明示されています。ただし、第6条第3項
に規定するとおり、公海上においても、海賊事件、海難等の特定の事象については、対応可能としていま
す。
本項では、法令執行業務に必然的に付随すると考えられる情報収集業務を海事執行庁の目的規定でも
ある本項において特記していることが注目されます。具体的内部組織の構造は明らかではありませんが、情
報調査局のような専門の組織が設置される可能性が示唆されます。
第4条 長官の指名(Appointment of the Director General of the Agency)
第1項
長官は、首相の助言により、国家元首により指名される。
第5項
長官は、海事執行庁に関する全ての事項について、指示し、指揮し、管理し、及び監督する責
務を有する。
第5条 海事執行庁の他の職員の指名(Appointment of other officers of the Agency)
第2項
第1項の規定により指名された職員は、本法により付与された権限を保有し、長官又は上級の
職員の指示、指揮、管理及び監督に従い、当該権限を行使し、能力を発揮し、任務を遂行す
る。
第6条 海事執行庁の所掌事務(Functions of the Agency)
第1項
海事執行庁の所掌事務は、次の各号に掲げるものとする。
(a) 連邦法の下における法及び秩序の維持
(b) 海上における捜索救助の実施
(c) 犯罪行為の防止及び鎮圧
(d) 捜査共助法(Mutual Assistance in Criminal Matters Act 2002)に従い外国からの要請に基づ
く刑事事案における援助の提供
(e) 監視飛行及び沿岸水域の巡視警戒の実施
(f) 関係行政庁に対する支援業務の提供
(g) 海事執行庁職員の訓練のための海事教育機関の設立・管理
(h) 海上の安全及び保安のための他の責務及びこれに付随する事項の実施
注:(a)、(c)~(e)は法令執行機関としてのごく当然の事務です。
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第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
(b)は海上における実働勢力を有する機関としての当然の事務です。
(f)の関係行政庁とは税関、漁業取締局などが考えられます。
(g)については、直接的な所掌事務とはいえませんが、あえてこの項に含めたことは、海事執行庁が適切に所
掌事務を行うに際し、教育、人材育成を重要視する姿勢が見受けられます。
第2項
当該所掌事務は、本法の規定に従い、マレーシア海域内において実施される。
第3項
上記の規定にかかわらず、次に掲げる事項について、海事執行庁は責務を有する。
公海上における
(a) 海上における捜索救助の実施
(b) 海洋汚染の管理及び防止
(c) 海賊行為の防止及び鎮圧
(d) 麻薬の違法取引の防止及び鎮圧
第7条 海事執行庁の強制権限(Powers of the Agency)
第2項
海事執行庁は、次に掲げる強制権限を有する。
(a) 犯罪行為に関する報告を受理し考慮すること
(b) 場所、構造物、船舶、航空機を停止させ、立入り、乗船し、検査し、捜索すること並びに船
舶及び航空機を拿捕すること
(c) 免許証、許可書、記録、証明書その他の書類の提示を要請すること、当該書類を検査する
こと、当該書類の複製を作成すること、及び当該書類から一部を抽出すること
(d) 現在行われている、まさに行われようとしている、又は既に行われた、と信じるに足る理由
がある犯罪を捜査すること
(e) 継続追跡権を行使すること
(f) 漁獲物、物品、装置、商品、船舶、航空機その他の既に行われた犯罪に関係するものを検
査し押収すること
(g) 漁獲物、物品、装置、商品、船舶、航空機その他の既に行われた犯罪に関係するものを廃
棄すること
(h) 犯罪を犯したと信じるに足る理由がある者を逮捕すること
(i) マレーシア海域の利益に有害であり、又は同海域の秩序及び安全を危険にさらす、と信じ
るに足る理由がある船舶を退去させること
注:(a)、(b)の一部、(d)~(h)に関しては、犯罪捜査を行うにあたり必要となる強制権限であり、日本において
は、主として刑事訴訟法に規定されるものです。(b)の一部、(c)については、行政的な権限であり、海上保安
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第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
庁法においても、同様の規定があります。(i)については、海洋法条約第 25 条に基づく措置と考えられます。
第3項
海事執行庁の職員は、本法の目的を達成するため、マレーシア海域において適用のある連邦
法に基づき関係行政庁が行使を許される全ての権限を有する。
注:海上保安庁法第 15 条の当該官吏規定の主旨に類似しています。
第4項
第2項の規定にかかわらず、領海内における船舶の通航が無害通航である場合、いかなる船
舶も、領海内においては、停止され、進入され、乗船され、捜索され、又は検査されることはな
い。
注:海洋法条約第 24 条に規定する沿岸国の義務(沿岸国は領海における外国船舶の無害通航妨害してはな
らない)を国内法で明確化したものです。無害か有害かの判断は第5項及び第6項に基づき行われます。
第5項
船舶の通航は、マレーシアの平和、秩序又は安全を害しない限り、無害通航とされる。
注:海洋法条約第 19 条第1項の無害通航の意味を国内法で明確化したものです。
第6項
次に各号に掲げる活動はマレーシアの平和、秩序又は安全を害するものであるとされる。
(a) 武力による威嚇又は武力の行使であって、マレーシアの主権、領土保全若しくは政治的独
立に対するもの又は国際法の諸原則に違反するいかなる行為
注:本項前段部分は、海洋法条約第 19 条第2項(a)の規定と全く同じ規定ぶりですが、後段部分については、
若干の差異が認められます。しかし、実質的な意味の違いはないと考えられます。
(b) 兵器(種類のいかんを問わない。)を用いる訓練又は演習
(c) マレーシアの防衛又は安全を害することとなるような情報の収集を目的とする行為
注:(b)項及び(c)項は、海洋法条約第 19 条第2項(b)(c)に同じです。
(d) マレーシアの平和、防衛又は安全に影響を与えることを目的とする宣伝行為
注:本項は、海洋法条約第 19 条第2項(d)に「平和、」という文言が付け加えられたものと同じですが、実質的な
意味の違いはないと考えられます。
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第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
(e) 航空機の発着又は積込み
(f) 軍事機器の発着又は積込み
注:(e)項及び(f)項は、海洋法条約第 19 条第2項(e)(f)に同じです。
(g) 沿岸国の通関上、財政上、出入国管理上又は健康上の法令に違反する物品、通貨又は
人の積込み又は積卸し
注:衛生(sanitary)という文言に代え、健康(health)が使用されていますが、実質的な意味の違いはないと考えら
れます。
(h) 汚染行為
注:海洋法条約第 19 条第2項(h)においては、「この条約に違反する故意のかつ重大な汚染行為」ということ
で、限定された規定ぶりになっていますが、本項では、全ての汚染行為が対象となっています。
(i) 漁獲活動
注:(i)項は、海洋法条約第 19 条第2項(i)に同じ
(j) 未許可の調査活動又は測量活動の実施
注:海洋法条約第 19 条第2項(j)は「未許可の(unauthorized)」という文言が入っていません。これは、マレーシア
領海内であっても許可を得ることにより、当該行為は有害とはみなされず、外国船が領海内で調査活動等を
実施できる可能性があることを示唆しています。
領海における海洋の科学的調査については、沿岸国が自国の領海における科学的調査を規制し、許可し
及び実施する排他的権利を有しています。従って、沿岸国の明示の同意が得られ、かつ、沿岸国の定める
条件に基づく場合には、実施することが可能となっています(海洋法条約 245 条)。
(k) マレーシアの通信系又は他の施設への妨害を目的とする行為
(l) 通航に直接の関係を有しないその他の活動
注:(k)項及び(l)項は、海洋法条約第 19 条第2項(e)(f)に同じ
第8条 起訴手続(Prosecution)
他の成文法にかかわらず、検察官の書面による同意がない場合は、この法律に基づき逮捕さ
れた者に対する起訴手続は開始されない。
第9条 捜査状況に関する報告(Report on status of investigation)
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第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
第1項
他の連邦法に基づき情報を海事執行庁に提供した者は、当該情報の中で言及された違反に
係る捜査状況に関する報告を海事執行庁に要求することができる。
第2項
海事執行庁は、第1項の規定に基づき要求された日から2週間以内に、当該違反に係る捜査
状況に関する報告を情報提供者に行わなければならない。
第7項
本条に定める検察官の指示に従わない海事執行庁職員は、有罪判決に基づき、1ヶ月の範囲
を超えない期間の懲役又は(及び)1,000RM を超えない罰金に処す。
第 10 条 海事執行庁職員の保護(Protection of officers of the Agency)
この法律に基づく海事執行庁職員による誠実な任務の実施、権限の行使及び義務の履行に
おける作為及び不作為に関しては、当該職員に対しいかなる措置も取られない。
第 11 条 身分証明(Identification)
海事執行庁の職員は、この法律に基づき活動を行っているときは、要請により、当該職員が活
動を行っている者に対し、また、当該職員が情報を求めている者に対し、身分を明かし、かつ、
この法律に基づき職員に発行された権限証を提示しなければならない。
第 12 条 武器の携帯(Carrying of arms)
海事執行庁の職員は職務の遂行にあたり武器を携帯することができる。
第 13 条 義務放棄(Desertion) (略)
第 14 条 反逆(Mutiny) (略)
第 15 条 不忠実を誘引の罰(Penalty for causing disaffection) (略)
第 16 条 調整(Co-ordination)
海事執行庁及び関係行政庁は、緊密かつ相互に調整、協議、連絡し、この法律の規定の実施
のため相互に援助を与えなければならない。
第 17 条 緊急事態、異例の危機又は戦争の際の権限(Power during emergency, special
crisis or war)
第1項
この法律又は他の連邦法のいかなる規定にかかわらず、海事執行庁又は大臣により決定され
る同庁の特定の部局は、緊急事態、異例の危機又は戦争の期間中、マレーシア国軍の指揮
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第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
管理下に置かれる。
第2項
緊急事態、異例の危機又は戦争が発生したか否かについて疑念が生じた場合には、国家元
首が署名し、大臣が適当と考える場所に掲示される布告書が当該事案の最終的な事実証明と
なる。
第 18 条 内務規定(Standing orders)
長官は、一般管理、訓練、海事執行庁職員の義務及び責任に関し、また、同庁の良好な運営
に必要または適切である事項に関し、更に、権限乱用又は義務怠慢の防止のために、また、
同庁の効率的かつ効果的な機能確保のために、同庁この法律の規定に反しない限りにおい
て、内務規定と呼称される管理命令を発することができる。
第 19 条 規則(Regulations)
大臣はこの法律の規定を施行し又は実施するために必要かつ適当な規則を定めることができ
る。
注:この法律の施行日は別途大臣が指定する日とされていますが(本法第1条)、まだ、この日は公には指定さ
れていません。現在、第 18 条の内務規定や本条の規則を作成する作業が行われています。
2.巡視・取締りの強化
(1) 沿岸国の取組み
沿岸国領海内における巡視・取締り活動は、沿岸国の管轄権に基づき沿岸国の海上法令執行機
関が実施すべきものです。マ・シ海峡の主要海域は沿岸3カ国の領海で占められており、沿岸国
の海上法令執行機関が警備艇を配置し巡視・取締り活動を実施しています。また、沿岸国相互の
協力体制による巡視活動も行われています。また、シンガポールでは、無作為に又は特定の動静
留意船舶(Sensitive Vessels)に対し、海軍、沿岸警備隊(PCG: Police Coast Guard)によるエスコー
ト警備が実施されています。
⇒沿岸国相互の協力体制による巡視活動
シンガポール海峡においては、1990 年にインドネシア・シンガポールの国防当局間で結
ばれた協定に基づき、連携巡視活動(INDOSIN: Indonesia and Singapore Coordinated
Patrol)が実施されている。この巡視活動は、シンガポール海峡の特定海域(フィリップス水
道、分離通航帯など)で発生する海賊事案に対し、連携して対処する(相手国領海内への
継続追跡に係る事前承認、相手国機関の支援依頼など)ものであり、シンガポールから
は海軍のみならず沿岸警備隊も、また、インドネシアからは海軍に加え海上警察、海運総
131
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
局沿岸警備隊も船艇を提供している。
マラッカ海峡においては、マレーシア海上警察及びインドネシア海上警察との間で、海賊
取締りに係る相互協力が実施されているが、当該協力による効果は上がっていないと考
えられる。マラッカ海峡の海賊件数の減少は、専ら、マレーシア海上警察の努力によると
ころが大である。
2004 年7月、マ・シ海峡沿岸3カ国海軍は協定を締結し海賊及び海上テロ取締りに係る
連携巡視活動を開始した。今回の活動の実施に際し、24 時間体制の連絡調整ホットライ
ンが開設された。これにより、海賊等を越境追跡しなければならない場合、迅速に相手国
への連絡、承認取得、支援要請などが可能となったとされる。しかし、当該協定の具体的
内容は公表されておらず、越境追跡が相互に承認されているかについては不明確のまま
とされる。海峡沿岸3カ国海軍による連携巡視の効果については、マ・シ海峡における海
賊発生件数の推移をしばらく見る必要がある、という意見が趨勢である。
⇒動静留意船舶(Sensitive Vessels)
LNG タンカー、LPG タンカー、油・ケミカル・タンカー、旅客船など、テロ攻撃の対象となっ
た場合、甚大なる被害が想定され得る船舶を動静留意船舶として特別の注意を払ってい
る。
シンガポールの船舶交通情報システム(VTIS: Vessel Traffic Information System)では、シンガポ
ール海峡内の動静留意船舶などの動静をレーダー、テレビカメラ等により常時監視しています。
2001 年の米国における同時多発テロ事件以降、シンガポール領海内を巡視する警備艇隻数の
増強に加え、VTIS による監視体制が強化されました。
以上のような海上法令執行機関の取組みに加え、海上と陸上の法令執行機関間の連携協力を
強化する必要があります。これは、海賊・海上テロ行為の行為地は海上であっても、その準備作
業(小型ボートの調達、武器の調達・訓練、実行犯グループの組織化など)や略奪品の処理(ブラ
ック・マーケットでの売買など)などは陸上で行われており、また、海賊やテロリストの生活基盤も
陸上にあることによります。この必要性については、2004 年6月の第5回海賊及び海上セキュリテ
ィーに関する IMB 会議などにおいても指摘されています。
コラム:マ・シ海峡において想定されうる海上テロ行為とその対策
1.船舶及びその乗組員を対象としたもの
船舶又はその乗組員を対象としたものに、「小型高速ボートによる銃撃、自爆テロ」、「乗組員
等によるサボタージュ」、「ダイバーによる船体水面下への爆発物の設置」などがあります。
132
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
マ・シ海峡は極めて長大かつ狭隘な海峡であり、両岸には容易に潜伏できるマングローブ林が
広がっていることなどから、同海峡を航行する全ての船舶をこの種の攻撃から守ることは不可
能に近いと言えます。なお、特定の船舶(LPG 船、原油タンカー等)のみを対象とする場合に
は、数隻の警備艇による伴走警戒を実施することが有効です。一方で、シンガポールのよう
に、警備対象船舶が所在する場所が限定されており、当該船舶から離れた場所に警戒線を設
定し、警備勢力を集中的に投入することができる環境においては、このような小型高速ボート
による攻撃にも十分対処することができます。
海賊・海上テロ対策における船舶の自衛措置の中心的なものは、いかに賊に乗り込まれない
ようにするかですが、既に賊の分子が船舶内にいる段階においては、有効な自衛措置は存在
しません。乗組員等によるサボタージュに関しては、配乗する乗組員等の身元確認を適切に行
う必要があります。
2.港湾施設を対象としたもの
海事セキュリティーの専門家が指摘する想定事案の中に、大型 LPG 船をハイジャックし重要な
港湾施設に突入、爆破させる、というものがあります。具体的には、大型の LPG 船をマ・シ海峡
進入前にハイジャックし、何事も起こっていないことを装い、マ・シ海峡を航行しつつ海峡沿岸
の重要港湾施設に接近し、急遽針路を変更し最大速力で当該施設に突入を試みるといったも
のです。マ・シ海峡では実際に LPG 船が海賊被害に遭っていますし、また、慣性力が大きい大
型の船舶のいき足を止めることは不可能です。なお、LPG 船に積載する LPG を一気に爆発炎
上させることが可能か否かについては、専門家の中でも意見が分かれるところです。
シンガポール港湾内には、コンテナ埠頭、石油化学コンビナートなどの重要施設が立地してい
ることに加え、船舶の航路帯が港湾区域境界線の直近に設置されていることから、このような
脅威に対しては脆弱であると考えられます。
3.VTIS、航路標識等の海事関連施設を対象としたもの
テロ攻撃の対象は、当該対象の破壊により社会・経済の秩序が著しく損なわれるものが選ば
れます。ただし、VTIS 等の破壊により、マ・シ海峡の航行安全秩序がどの程度損なわれるかは
未知数です。なお、シンガポールの VTIS は2カ所あり、一方の機能不全に対し、相互にバック
アップする体制をとっています。航路標識についても、AIS など当該標識の位置、機能状態を
監視する機器を設置し常時遠隔モニターすることにより、仮に破壊されたとしても、警戒船の配
置、VTIS からの注意喚起など、十分対処することが可能です。
4.海洋環境を対象としたもの
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第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
ハイジャックした油 HNS タンカーから油等の積載貨物を故意に海上に流出させるなどによる海
洋環境をテロ対象として行うものです。マ・シ海峡では、実際に多数のタンカーが海賊被害に遭
っています。ただし、テロ攻撃の本質からすると、ターゲットとなり得るのは、VLCC などの大型
のものに限られてきます。この種のテロに対しては、有効な対策がありません。
5.マ・シ海峡の機能不全を目的としたもの
ハイジャックした大型船舶を故意に TSS 内の水深が浅い場所に沈めるといったものです。最も
影響がある場所は、第Ⅱ章「マラッカ・シンガポール海峡の概要」でも述べましたが、シンガポ
ール海峡のサキジャン・ペラパ島(シンガポール)とバツ・ベルハンティ岩(インドネシア)との間
(シンガポール海峡の最狭部)の深喫水航路です。船舶の構造を知る者にとっては、船に浸水
を起こさせ沈没させることは容易です。例えば、アロンドラ・レインボー号の海賊犯は、インド沿
岸警備隊などとの間の銃撃戦の後、証拠隠滅のため同号を沈没させようと試んでいます(沈没
寸前のところで阻止されたが、機関室には多量の浸水があった)。
(2) 利用国による協力
沿岸国領海内における巡視・取締り活動は、沿岸国の管轄権に基づき沿岸国の海上法令執行機
関が実施するべきものです。従って、沿岸国からの特段の要請等がない限り、他国の海上法令執
行機関が警備艇を当該沿岸国領海に派遣するなどして巡視活動・取締り活動を行うことは、国際
法上許されない行為とされています。マ・シ海峡においても、巡視活動にかかる沿岸国相互の協
力体制は存在するものの、利用国が直接的にマ・シ海峡における巡視・取締り活動に従事する、
ということは行われていません。
⇒利用国が直接的にマ・シ海峡における巡視・取締り活動に従事する
日本の海上保安庁の巡視船や航空機が定期的に東南アジア諸国に海賊しょう戒と称し
て派遣されているが、派遣目的は、各国との連携訓練や情報交換の実施、セミナーの開
催などであり、沿岸国領海における巡視活動ではない。
アフガニスタン戦争時、米国とインドが協力をしてマ・シ海峡を航行する特定船舶(専ら、
米国の軍事戦略物質を輸送する民間船舶が対象)に対しエスコート警護を行った。当該
警護の実施に際し、米国は沿岸国から承認を得たようであるが、実際に差し迫ったテロの
脅威が被警護船舶に発生した場合、現行の海洋法条約との整合性などの観点から、ど
の程度有効な措置が取り得るのかについては問題が残る。
2004 年3月に米国のファーゴ太平洋方面軍司令官が下院軍事委員会において、対テロ
対策の一環として米国部隊のマラッカ海峡への派遣を示唆した旨の報道がある。この報
道に対し、マレーシア、インドネシアが極度の嫌悪感を示したが、当該司令官の意図は報
道とは違ったところにあるとされている。米国はその後、地域海上セキュリティー・イニシア
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第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
チブ(RMSI: Regional Maritime Security Initiative)という新しい協力の枠組みを提案し
ARF(ASEAN Regional Forum)などの機会を活用し RMSI の説明を試みているが、先ほど
の米軍高官の議会での発言を巡る混乱も影響し、米国の真意は関係国に正確に伝わっ
ていない。
下記は、2004 年 10 月、マレーシアのクアラルンプールで開催されたマレーシア海事研究
所主催による「マラッカ海峡会議―包括的セキュリティー環境の構築―」において、在マレ
ーシア米国大使館参事官 Thomas F. Doughton 氏のプレゼンテーションの中で述べられた
RMSI に関する説明である。
・ RMSI は米国一国主義に基づくものではない。
・ RMSI は他国主権を侵害するものではない。
・ RMSI への参加は各国の任意による。
・ 米国は対テロ対策のための手段を提供するが、当該手段を使用するか否かは、各国
の判断による
・ RMSI は既存の国際法及び国内法の枠組みの中で実施される。
・ RMSI は米国海軍による海峡パトロールの隠れ蓑ではない。
・ RMSI は海軍というよりは、海上法令執行機関の能力向上を目的としている。
(3) 今後の方向性
【海峡沿岸国海上法令執行機関の連携協力】
マ・シ海峡の巡視・取締り活動は、沿岸国の海上法令執行機関が沿岸国の管轄権に基づき実
施すべきものである、という大前提は現状においては覆すことができません。ただし、海峡沿岸
国海軍が現在行っているような連携巡視(Coordinated Patrol)を更に改善・発展させる可能性は
残されています。具体的な改善・発展方策としては、(1) 主体を海軍から海上法令執行機関に
変更すること、(2) 相手国領海内への継続追跡を恒久的制度とすること、(3) そのためには、
隣接国の海上法令執行機関の士官を自国巡視船に乗船させ巡視にあたること (4)あるいは、
隣接国による自国領海内への継続追跡を承認する権限を自国の海上法令執行機関の現場指
揮官に付与すること、などがあげられます。ただし、このような改善・発展された連携巡視、すな
わち合同巡視(Joint Patrol)の対象海域をマ・シ海峡全域とすることが困難な場合には、例え
ば、活動範囲を分離通航帯及び当該境界線付近に限るなどとする選択肢もあります。このよう
な措置により、マ・シ海峡における法令執行機能の真空地帯を解消し、より均一的な法令執行
体制を構築することが必要です。
【セキュリティー対策としての AIS の活用】
セキュリティー対策としての AIS(ロングレンジを含む)の効用は現在のところ未知数ですが、将
来的には船舶監視のための有効な手段の一つとして、AIS の役割は大きくなると考えられま
す。なお、シンガポールにおいては、港内小型船舶(約 1200 隻が登録)を対象として、簡易 AIS
装置の設置を義務つけるための検討が行われています。
135
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
【大量破壊兵器不拡散イニシアチブ】
大量破壊兵器不拡散イニシアチブとは、いわゆる PSI(Proliferation Security Initiative)のことで
あり、米国主導のもと、大量破壊兵器(WMD: Weapons of Mass Destruction)の移動・拡散を制
限しようとする試みです。この PSI は、2003 年5月 31 日、ポーランドにおいて米国ブッシュ大統
領により発表されました。当初、この取組みに参加した国は、オーストラリア、フランス、ドイツ、
イタリア、日本、オランダ、ポーランド、ポルトガル、スペイン、英国の 10 カ国です。2003 年の9
月に行われた PSI 会合においては、特に懸念すべき国は北朝鮮及びイランであることが確認さ
れています。その後、カナダ、デンマーク、ノルウェー、シンガポール、トルコ、ロシアが参加を
表明しています(米国国務省ホームページ http://www.state.gov では、不拡散局(Bureau of
Nonproliferation)が作成した FAQ など、PSI に関する詳細な情報を掲載している)。
公海上における不審船舶への立入検査は、当該船舶の旗国の同意を必要とします。一方、マ・
シ海峡のような国際海峡を通航する船舶に対しては、通過通航制度が適用されるため、例え
ば、シンガポールがマ・シ海峡の自国領海内を通航する不審船舶に対し立入検査をしようとす
る場合、旗国の同意を必要とします。また、米国が同様な検査をマ・シ海峡で行うためには、旗
国の同意に加えて、沿岸国の同意も必要とします。従って、わざわざ、船舶交通の輻輳するマ・
シ海峡において、PSI に基づく立入検査を通航船舶に対し実施することは、マ・シ海峡の交通秩
序を乱し危険であるとともに、非効率的であると考えられます。
⇒旗国の同意を必要とします
この点に関し、米国国務省作成の FAQ では、次のとおり述べている。
Question: Would non-PSI countries be subject to boardings and seizures?
A: PSI is not focused on countries but on shipments to states and non-state actors of
proliferation concern. Vessels of a state would be boarded only to the extent consistent
with national legal authorities and international law, for example, upon gaining the
consent of a state to board one of its flagged vessels on the high seas. Any case
involving a vessel carrying WMD, delivery systems, or related materials to states or
non-state actors of proliferation concern could be a potential candidate for our seeking
such consent, regardless of whether or not the flag state is a PSI member.
【接続水域的相互取締り海域の設定】
マ・シ海峡沿岸国領海の境界線付近に、特定の法令違反を防止し、かつ処罰するための相互
取締り海域を設定することも検討に値すると考えられます。通常、領海の外側に公海が広がっ
ている場合には、最大で 12 海里の接続水域を設定し、沿岸国はこの水域で特定の法令違反を
防止し、かつ処罰することができます。しかし、自国領海が他国領海に接しているような場合に
は、現在の国際法上では接続水域を設定することができません。とはいうものの、領海外にお
いて特定の法令違反を防止するなどの必要性は、自国領海が隣接国領海に接していようが、
公海に接していようが、かわりはありません。むしろ、隣接国領海に接している方がその必要性
は高くなると考えられます。従って、隣接する二国間で特別の協定を結び、相互主義に基づき
特定の法令違反を防止かつ処罰するための一定の幅を持った相互取締り海域を隣接国領海
136
第Ⅵ章 マ・シ海峡の海上治安対策
内に設定することは、隣接する両国にとって有意義であると考えられます。このような相互取締
り海域の設定により、隣接国の海上法令執行機関が自国領海内において目的が限定されてい
るとはいえ、法令執行活動を行うことは、将来的に合同巡視(Joint Patrol)に発展していく可能性
を持っています。ただし、マ・シ海峡のような国際海峡においては、通過通航制度との関係で問
題が生じる可能性があり、また、分離通航帯を航行する船舶の交通流を乱す恐れもあり、慎重
な検討を要します。
⇒特定の法令違反
通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令(海洋法条約第 33 条第1項(a))
【国際海峡における普遍的執行管轄権の承認】
更に、遠い将来的な方向性として、先に述べた原則には反しますが、利用国の海上法令執行
機関の参加による協力形態があります。これは、国際海峡全域又は同海峡の特定の海域
(TSS 等)において、沿岸国が利用国など他国の海上法令執行機関による普遍的執行管轄権
を承認する、というものです。これも現行の国際法上の制度にはないものですが、海峡沿岸国
及び特定の利用国との間の特別の協定により実施されるべきものと考えられます。ただし、そ
の制度の前提として、最低限、下記の環境が整っている必要があります。
・ 沿岸国相互による取組みが行われていること(継続追跡の相互承認を含む合同巡視(Joint
Ptrol 等)による)
・ 海洋法条約第 43 条に基づく海峡利用国と沿岸国との協力制度が構築されていること。
・ 対象犯罪行為を海賊など海洋法条約により公海上における普遍的管轄権を行使することが
容認されている国際犯罪に限定すること。
・ 対象船舶を自国船舶(旗国から旗国に代わって権限を行使することの承認を受けた場合を
含む)に限定すること。
137
第Ⅶ章 国連海洋法条約に基づく国際海峡制度
第Ⅶ章 国連海洋法条約に基づく国際海峡制度
海峡の海上交通路としての機能維持のために、誰がどのような努力を行っていくべきか、という問
題に対し解決のヒントを与えてくれるのが、国連海洋法条約第3部第 43 条の規定です。この第 43
条には、航行安全、海洋汚染などに関する事項について、海峡利用国と沿岸国とが合意により協
力をするということが規定されています。しかし、この規定の文言からのみでは、誰が本来的な協
力の主体であり、また、客体であるのか、具体的にどのような協力に係る制度・手法が採用される
べきか、といった詳細についてはわかりません。国際海峡における海峡利用国と沿岸国との協力
制度を検討するにあたり、この第 43 条の規定の趣旨を適切に理解する必要があるわけですが、
そのためには、第 43 条が規定されている海洋法条約第3部の国際航行に使用される海峡(国際
海峡)制度全般について把握する必要があります。この章では、海洋法条約第3部の国際海峡制
度を、その制度の背景となった海峡沿岸国の利益と海峡利用国の国際航行の利益との対立とい
う構図の中で捉えて概観します。
A 国際海峡制度の概要
海峡とは、一般的に「陸と陸との間にはさまって海の狭くなった部分」(広辞苑)をいいます。その
「海の部分」である海峡は、必然的に、比較的大きな二つの海域を結ぶことになります。このため、
海峡は当該海域間の船舶による輸送活動にとって大きな役割を果たすことになります(マ・シ海峡
の海上交通路としての重要性については、第Ⅳ章参照)。特に、その海峡が、外国との貿易活動
に従事している船舶に使用されている場合には、国際航行に使用されている海峡(Straits used for
international navigation)、いわゆる国際海峡(International straits)と呼ばれています。
⇒国際航行に使用されている海峡(Straits used for international navigation)
ある海峡が国際航行に使用されているか否かについては、特段の判断基準は存在しな
い。恒常的に外国との貿易を行う船舶が通航している、という事実があれば国際航行に
使用されている、と考えられる。また、将来的な可能性については考慮されないとされる。
主要な国際海峡(沿岸国)としては、ドーバー海峡(英国、フランス)、ジブラルタル海峡(モ
ロッコ、スペイン、英国)、バブエル・マンデブ海峡(イエメン、ジプチ)、ホルムズ海峡(イラ
ン・オマーン)、ダーダネルス・ボスポラス海峡(トルコ)、マラッカ・シンガポール海峡(イン
ドネシア、マレーシア、シンガポール)、ロンボク海峡(インドネシア)、海南海峡(中国)、対
馬海峡(日本、韓国)、宗谷海峡(日本、ロシア)、ベーリング海峡(ロシア、米国)がある。
これらの海峡の最小幅はいずれも 24 海里未満である。
⇒国際海峡(International straits)
本稿では、国際航行に使用されている海峡を単に「国際海峡」と呼ぶ。ただし、この「国際
海峡」という文言を使用する場合は時として混乱を招く場合がある。現行の海洋法条約の
138
第Ⅶ章 国連海洋法条約に基づく国際海峡制度
検討段階においては既に領海条約(1958 年)が存在していたが、この条約の中では、「国
際航行に使用される海峡」には「停止されない無害通航権(外国の領海を通航する船舶
は沿岸国の平和、秩序又は安全を害しない限り当該沿岸国から通航を妨害されない権
利を有するとされている)」が認められているに過ぎなかった。このため、領海の拡大の動
き(海峡の領海化)に呼応し提案された新しい概念が「国際海峡」であり、そこでは「自由
航行が許される」とされていた。結果として、「国際海峡」の概念は消滅し、現行の海洋法
条約では、「国際航行に使用されている海峡」には新しい「通過通航権(無害通航権に比
べ観念的に沿岸国からの干渉を受けにくいものとなっている」が認められたわけであるが、
現在においても、「国際海峡」とは、すなわち「自由航行が認められる海域」を意味し、従っ
て、マ・シ海峡は「国際海峡」ではない、という認識を依然として持っている者がマレーシア、
インドネシアの政府関係者などにいる。なお、当時の認識を示すものとして、海洋法条約
が検討段階にあった 1971 年 11 月に出されたマ・シ海峡沿岸3カ国の共同宣言(下記参
照)がある。この第5段落では、明確にマ・シ海峡は「国際海峡」ではないとされている。
4
The three governments also agreed that the problem of the safety of navigation
and the question of internationalization of the straits are two separate issues.
5
The governments of the Republic of Indonesia and Malaysia agreed that the
Straits of Malacca and Singapore are not international straits while fully recognizing their
use for international shipping in accordance with the principle of innocent passage. ・・・.
また、国際化された海峡(Internationalized Straits)という概念があるが、この概念のルーツ
も、1971 年 11 月のマ・シ海峡沿岸3カ国の共同宣言に遡る(上記第4段落参照)。この共
同宣言に先立ち、1971 年7月、マ・シ海峡の国際管理に関する日本提案が IMCO 第 10
回航行安全小委員会で議論されたが、マ・シ海峡を国際化された海峡に導くような議論は
適当でない、という沿岸国側の態度表明により、この国際化構想をそれ以上推進すること
が不可能となった経緯がある。この約3ヶ月後に海峡沿岸3カ国はこの共同宣言を出すこ
とになるが、第4段落の“internationalization”とは、このような動きを差し示すものと考えら
れる。なお、第5段落後段においては、マ・シ海峡が国際海運(international shipping)に使
用されていることを明確に認めているわけであるが、この事実のみをもっても、マ・シ海峡
は海洋法条約でいうところの国際航行に使用されている海峡(Straits used for international
navigation)であることは疑う余地がない。
国際海峡は、沿岸国の領海であるにもかかわらず、沿岸国の主権が通常の領海と同様には及ば
ず、その行使に際しても様々な制限があります。一方で、そこを通航する船舶は、通常の領海を
無害通航するとき以上に、航行の自由(Freedom of navigation)を享受して通航(通過通航)するこ
とができます。先にも述べましたが、国際海峡制度はその制度の背景となった「海峡沿岸国と海
峡利用国との間の利害の対立」という構図の中で捉えると理解を容易にするため、以下に、海峡
沿岸国及び海峡利用国(国際海峡通航船舶)の権利・義務について、通常の領海と国際海峡との
間にどれくらいの差異があるのかについて概観することとし、詳細については、後で述べることに
します。
139
第Ⅶ章 国連海洋法条約に基づく国際海峡制度
1.沿岸国の権利・義務
通常の領海及び国際海峡における沿岸国の権利・義務は表Ⅶ―1のとおりです。
Ⅶ―1 沿岸国の権利・義務
通常の領海
権利
国際海峡
1.無害通航に係る沿岸国の法令の制 1.通過通航に係る海峡沿岸国の法令の
定、公表
制定、公表(42-1, 3)
2.航路帯の指定及び分離通航帯の設定 2.航路帯の指定及び分離通航帯の設定
(国際機関の勧告を考慮)
(国際的規則に適合、国際機関による
3.航路帯及び分離通航帯の使用要求
4.無害でない通航防止措置
採択)(41-3,4)
3.調査活動又は測量活動の事前許可
5.内水立寄り船舶が従う条件の違反防
(40)
止措置
6.自国の安全の保護のための無害通航
の一時停止
7.課徴金を課すこと
義務
1.法令適用に際しての無害通航の否定 1.法令適用に際しての通過通航の否定
等の禁止
等の禁止(42-2)
2.航路帯及び分離通航帯の海図上への 2.航路帯及び分離通航帯の海図上への
表示、海図の公表
表示、海図の公表(41-6)
3.無害通航の妨害の禁止
3.通過通航の妨害、停止の禁止(44)
4.航行上の危険の公表
4.航行上の危険の公表(44)
2.通航船舶の権利・義務
通常の領海及び国際海峡における通航船舶の権利・義務は表Ⅶ―2のとおりです。
Ⅶ―2 通航船舶の権利・義務
通常の領海
権利
国際海峡
1.無害通航権
1.害されない通過通航権(38-1)
2.停止されない無害通航権(一部の国際
海峡)(45-1,2)
義務
1.遅滞なく(継続的かつ迅速に)通過する
1.継続的かつ迅速に通航すること
2.沿岸国の平和、秩序、安全を害しない
こと(39-1, 38-2)
2.武力による威嚇・武力の行使、継続的
こと
3.潜水船等の海面航行、国旗の掲揚
かつ迅速な通過の通常の形態に付随し
4.原子力船等の国際文書携行、予防措
ない活動を差し控えること(39-1)
140
第Ⅶ章 国連海洋法条約に基づく国際海峡制度
置の実施
3.海上安全、船舶汚染防止等の一般的
5.無害通航に係る沿岸国の法令の遵守
国際的規則・手続・方式の遵守(39-2)
6.海上衝突予防の一般的国際的規則の 4.調査活動又は測量活動の事前許可申
遵守
請(40)
5.航路帯及び分離通航帯の尊重(41-7)
4.通過通航に係る海峡沿岸国の法令の
遵守(42-4)
B 適用関係
国際航行に使用されている海峡をいわゆる「国際海峡」といいますが、全ての国際海峡が海洋法
条約第3部の規定の適用を受けるわけではなく、国際海峡の中でも、特定の海峡についてのみ、
当該制度の適用があります。
1.特に定める国際条約が規制する海峡
海洋法条約では、特にある海峡について定める国際条約であって、長い間現存し現に効力を有し
ているものが、その海峡の通航を全面的又は部分的に規制している法制度については、海洋法
条約第3部のいかなる規定も影響を及ぼすものではない、と規定しています(第 35 条(c))。具体的
には、1936 年の「海峡制度に関する条約(Convention Regarding the Regime of the Straits)」(モント
ルー条約)が規制するトルコ海峡などがこれに該当します。
2.海峡内に公海が存在する海峡
海洋法条約では、国際海峡のうち、海峡内に航行上及び水路上の特性において同様に便利な公
海又は排他的経済水域の航路が存在するものについては、海洋法条約第3部の規定は適用しな
い、と規定しています(第 36 条)。国際海峡に係る一連の規定の基礎となっている考え方は、当該
海峡が唯一の航路であるため船舶はそこを通らざるを得ない、という事実に着目し、当該海峡が
沿岸国の領海であっても公海に準じた航行の自由(通過通航権)を認めようというものです。従っ
て、海峡内に船舶が支障なく航行できる公海又は排他的経済水域の航路が存在する場合につい
ては、わざわざ、沿岸国の領海部分を航行しなくても当該公海又は排他的経済水域の部分を航
行すればよいわけであり、従って、当該領海の航行に際しては、公海に準じた航行の自由(通過
通航権)を認める必要はない、ということになります。このような海峡については、当該海域の領海
部分については領海に適用のある規定が、公海部分については、公海に適用のある規定が、そ
れぞれ適用されることになります。
⇒航行上及び水路上の特性において同様に便利な公海又は排他的経済水域の航路が存在す
る
海峡内に公海部分があっても、当該公海部分に浅瀬や暗礁が多数あり、船舶の安全な
141
第Ⅶ章 国連海洋法条約に基づく国際海峡制度
航行上問題があるような場合には、通航船舶は当該海峡沿岸国の領海部分を通らざるを
得ず、当該通航船舶には通過通航権が認められる。
3.公海(又は排他的経済水域)の一部分と公海(又は排他的経済水域)の他の部分との間にあ
る海峡以外の海峡
この海峡には海洋法条約第3部第2節に定める通過通航制度に係る規定の適用はありません
(海洋法条約第 37 条)。従って、この海峡には海洋法条約第2部第3節の規定に基づく無害通航
の制度が適用されます(海洋法条約第 45 条)。また、この海峡における無害通航は停止してはな
りません(海洋法条約第 45 条第2項)。
⇒無害通航は停止してはなりません
例えば、公海と領海とを結ぶ国際海峡(当該海峡を規制する国際条約が存在しないもの)
における無害通航は、海洋法条約第 45 条第2項の規定に従って、停止(suspension)して
はならないとされる。一方、通常の領海における無害通航に関しては、海洋法条約では
次のとおり規定している。この違いは、国際海峡制度の発展の歴史に由来するが、商船
が通常形態の海上輸送をする限りにおいては、実質的な違いはないと考えられる。
・ 沿岸国は、外国船舶の無害通航を妨害(hamper)してはならない(第 24 条第1項)。
・ 沿岸国は、外国船に対し無害通航権を否定し(denying)又は害する(impairing)実際上
の効果を有する要件を課すること、を行ってはならない(第 24 条 1 項(a))
・ 沿岸国は、外国船の無害通航を一時的に停止(suspend temporarily)することができる
(第 25 条第3項)。
無害通航に係る沿岸国の干渉の形態として、無害通航の停止(一時的)、妨害、無害通
航権の否定、害すること、が挙げられているが、これらの差異については、条約の規定上、
明らかにされていない。また、解釈として、どのような違いがあるかについては、更に調べ
る必要があるが、沿岸国の干渉の程度の観点からは、「無害通航権の否定」、「無害通航
権を害すること」、「無害通航の停止」、「無害通航の一時的停止」、「無害通航の妨害」の
順に干渉の程度が少なくなると考えられる。ただし、商船が通常形態の海上輸送をする
限りにおいては、実質的な違いはないと考えられる。
4.公海(又は排他的経済水域)の一部分と公海(又は排他的経済水域)の他の部分との間にあ
る海峡
(1) 海峡沿岸国の島及び本土から構成されている場合
海峡が海峡沿岸国の島及び本土から構成されている場合において、その島の海側に航行上及び
水路上の特性において同様に便利な公海又は排他的経済水域の航路が存在するときは、通過
通航は認められません(海洋法条約第 38 条)。この規定の趣旨は、海峡内に公海が存在する海
峡について第3部の国際海峡制度の適用を除外する考え方と同様、島の海側に船舶が支障なく
142
第Ⅶ章 国連海洋法条約に基づく国際海峡制度
航行できる公海又は排他的経済水域の航路が存在する場合については、わざわざ、島と本土の
間を航行しなくても島の海側を航行すればよいわけであり、従って、島と本土の間の航行に際し、
公海に準じた航行の自由(通過通航権)を認める必要はない、というものです。
⇒海峡が海峡沿岸国の島及び本土から構成されている場合
中国本土と海南島との間の海南海峡
イタリア本土とシチリア島との間のメッシナ海峡 他
⇒通過通航は認められません
島及び本土から構成されている海峡には、通過通航は認められない。従って、通過通航
に係る諸規定(航路帯の指定及び分離通航帯の設定にかかる規定(海洋法条約第 41
条)、沿岸国と利用国との協力にかかる規定(海洋法条約第 43 条)、無害通航にかかる
規定(海洋法条約第 45 条))についても同様に島及び本土から構成されている海峡には
適用されないと考えられる。
(2) (1) 以外の場合
海洋法条約第3部の国際海峡にかかる制度、実質的には同部第2節の通過通航制度は、公海と
公海を結ぶ狭い海峡(島及び本土から構成されている場合を除く)であって、当該海峡を規制する
国際条約が存在しないもの、に適用されることになります。ただし、海峡内の内水である水域につ
いては、原則、海洋法条約第3部のいかなる規定も影響を及ぼすものではない、と規定されてい
ます(海洋法条約第 35 条(a))。
マ・シ海峡は、インド洋と南シナ海の公海部分をつなぐ海峡であり、かつ、その大部分がインドネ
シア、マレーシア及びシンガポールの領海によって占められ、多数の国際航行に従事する船舶が
通航していることから、海洋法条約第3部に定める国際海峡制度が適用される海峡ということにな
ります。ただし、通過通航制度各規定の具体的な適用にあたっては、マ・シ海峡の地理的適用範
囲を明確にしておく必要があります。これについては、後で述べることします。
⇒領海によって占められ
マ・シ海峡は沿岸3カ国の領海によって占められている、とよく言われるが、マ・シ海峡の
地理的範囲をどう認識するのか、によって異なる。例えば、マ・シ海峡の西側の限界をス
マトラ島北端からタイのプーケット島の南端まで引いた線とすると、かなりの面積で公海部
分が含まれることになる。
マ・シ海峡は、厳密に言うと、沿岸国の内水、領海、群島水域によって占められている。海
峡に面した港湾やマレーシアが採用する直線基線などの内側は内水である。また、インド
ネシアは群島国家であり、群島基線を採用しているので、その陸地側は群島水域にな
る。
143
第Ⅶ章 国連海洋法条約に基づく国際海峡制度
マ・シ海峡を通航する船舶は、自船が沿岸国のどの海域に位置しているのか、当該海域
における自船の権利・義務はどうなるのか、について十分認識して航行する必要がある。
マ・シ海峡の分離通航帯は沿岸国の領海内に位置するため、同通航帯を航行する限りに
おいては、通過通航制度の下、航行することになる。一方、インドネシア沿岸を航行する
場合、当該海域が「通常国際航行に使用されている航路」か否かによって異なってくるが、
「通常国際航行に使用されている航路」である場合には、群島航路帯航行制度の下、そう
でない場合には、無害通航制度の下、航行することになる。
5.ロンボク海峡
群島国家(Archipelagic States)であるインドネシアのロンボク海峡は、国際海峡ではありますが、
公海と群島水域を結ぶものであり、海洋法条約第3部の規定の適用は受けません。群島水域及
びこれに接続する領海内においては、通常、外国船舶は無害通航権を(海洋法条約第 52 条第1
項)、また、群島水域及びこれに接続する領海内の群島国家が指定する航路帯又は通常国際航
行に使用されている航路においては、群島航路帯通航権(Right of Archipelagic Sea Lanes
Passage)を有することになります(同第 53 条第2項、第 12 項)。
国際海峡における「通過通航」と、群島航路帯における「群島航路帯通航」との違いですが、両者
とも、海峡沿岸国や諸島国家の管轄権拡大の動き(領海幅3海里から 12 海里への移行、「群島国
家」という概念の一般化)に対応して、海運国、海軍国などから提案された新しい概念です。「通過
通航」に関しては、後で詳しく述べますが、海洋法条約第 38 条第2項において、「通過通航と
は、・・・、航行の自由が継続的かつ迅速な通過のためのみに行使されることをいう」、と規定され
ていることから、航行の自由の一形態であると考えられます。また、通過通航権は害されない(海
洋法条約第 38 条第1項)、海峡沿岸国は通過通航を妨害してはならず(同第 44 条)、通過通航は、
停止してはならない(同第 44 条)、と規定されていることから、観念的には、無害通航に比べ沿岸
国からの干渉がより少ないものとなっています。一方、「群島航路帯通航」は、航行の権利が継続
的な、迅速な、かつ、妨げられることのない通過のためのみに行使されることをいいます(海洋法
条約第 53 条第3項)。観念的には、航行の自由の一形態である通過通航の方が沿岸国からの干
渉がより少ない、と考えられます。ただし、実際には、商船が通常形態の海上輸送をする限りにお
いては、実質的な違いはないと考えられます。更に、通航中の船舶の義務、調査活動及び測量活
動、群島国の義務並びに群島航路帯通航に関する群島国の法令については、国際海峡の規定
を準用することになっているため(海洋法条約第 54 条)、これも同様に、実質的な違いはないと考
えられます。
以上のことから、例えば中東原油を日本へ輸送する場合、マ・シ海峡を通るか、あるいはロンボク
海峡を通るかの選択をする場合、経済的コストの観点からの差異はあっても、国際法上の通航環
境の観点からの差異はないと考えられます。ただし、群島航路帯以外の群島水域を航行する場
合、当該場所が通常国際航行に使用されている航路(routes normally used for international
navigation)か否かにより対応が異なってきます。この「通常」という語句に関しては、利用実績がど
の程度のものであれば「通常」なのかについての判断の手がかりはなく、後に対立をまねく可能性
144
第Ⅶ章 国連海洋法条約に基づく国際海峡制度
があると指摘されています(深町公信「国際海峡と群島水域の新通航制度」『日本の国際法の 100
年第3巻 海』〔国際法学会〕 三省堂 101 頁)
C 国際海峡を構成する水域の法的地位
海洋法条約第3部に定める国際海峡の通過通航の制度は、その他の点については、当該海峡を
構成する水域の法的地位に影響を及ぼすものではなく、また、当該水域、当該水域の上空並びに
当該水域の海底及びその下に対する海峡沿岸国の主権又は管轄権の行使に影響を及ぼすもの
ではありません(海洋法条約第 34 条第 1 項)。当該海峡沿岸国の主権又は管轄権は、海洋法条
約第3部の規定及び国際法の他の規則に従って行使されることになります(同条第2項)。
D 国際海峡制度の変遷
1.第二次世界大戦前
第二次世界大戦前、海峡は一般の領海と同様に無害通航が認められるとの認識があり、さらに、
海峡が公海と公海とを結んでいる場合、無害通航は停止できない、とする見解が有力でしたが、
条約や国際裁判で確認されるには至っていませんでした((財)日本海運振興会、国際海運問題研
究会編『海洋法と船舶の通航』成山堂書店、47 頁)。
2.第二次世界大戦後
第二次世界大戦後の考え方は、1946 年の「コルフ海峡事件」の国際司法裁判所の判決(1949 年
4月9日)に見ることができます。当該判決では、「平時において、諸国がその軍艦を沿岸国の事
前の同意を得ないで、公海の2つの部分を連結する国際航行に使用される海峡を、その通航が
無害であることを条件として通航させる権利を持つことは、一般的に承認されており、かつ、国際
慣習に合致するところである。国際条約に別段の規定がなければ、沿岸国は平時におけるそのよ
うな海峡の通航を禁止する権利はない」とされています((財)日本海運振興会、国際海運問題研
究会編『海洋法と船舶の通航』成山堂書店、48 頁)。
3.1958 年の第一次海洋法会議及び領海条約
1958 年、第一次海洋法会議が開催され、ジュネーブ四条約が採択されました。この中の一つが領
海及び接続水域に関する条約(領海条約)です。領海条約では、国際海峡の通航に関し、外国船
舶の無害通航は、公海の一部と公海の他の部分又は外国の領海との間における国際航行に使
用されている海峡においては、停止してはならない、と規定しています(領海条約第 16 条第4
項)。
145
第Ⅶ章 国連海洋法条約に基づく国際海峡制度
⇒公海の一部と公海の他の部分又は外国の領海との間
公海の一部と公海の他の部分との間における無害通航については、1946 年の「コルフ海
峡事件」の国際司法裁判所の判決(1949 年4月9日)を考慮に入れたものである。
公海の一部と外国の領海との間における無害通航については、チラン海峡のような海峡
の通航に配慮したものとされる。チラン海峡はアカバ湾とアラビア海を結ぶ国際海峡であ
り、アカバ湾沿岸は、エジプト、サウジアラビア、イスラエルの領土であった。1956 年の第
二次中東戦争当時、アカバ湾周辺のアラブ諸国は領海の幅3海里を主張していた(アカ
バ湾には公海部分が残る)。しかし、アカバ湾周辺のアラブ諸国は、イスラエルの海上通
商を封鎖する目的で領海幅を 12 海里に拡大、アカバ湾及びチラン海峡の領海化を図った。
アラブ諸国は、この結果、チラン海峡は沿岸国の領海たるアカバ湾と公海たるアラビア海
を結ぶものであり、国際海峡ではない、従って、無害通航は停止し得る、と主張した。領海
条約では、チラン海峡のような公海と領海を結ぶような海峡であっても、無害通航は停止
してはならないとした。
⇒国際航行に使用されている海峡においては、停止してはならない
領海条約における、無害通航に対する沿岸国の干渉に関しては、沿岸国は、領海の無害
通航を妨害してはならない(領海条約第 15 条第1項)、沿岸国は、自国の安全の保護の
ため不可欠である場合には、・・・、外国船舶の無害通航を一時的に停止することができ
る(同第 16 条第3項)、国際航行に使用される海峡においては、停止してはならない(同
第 16 条第4項)、と規定する。領海条約では、国際海峡における無害通航は、通常の領
海内における無害通航に比べ、沿岸国の干渉が若干制限されている。
国際海峡にかかる問題は、3海里が領海幅の主流であった時代には、海峡内に自由な航行が確
保される公海部分が残っているので表面化しませんでした。しかし、1958 年の第一次海洋法会議
においては、領海幅3海里を主張する米国、英国などの海軍国、日本などの海運国と、12 海里を
主張するソ連や開発途上国との見解が鋭く対立しました。この点に関し、米国は「領海が 12 海里
に拡大される場合には、・・・幅 24 海里を超えない国際海峡の通航が確保されなければならない。
領海を 12 海里に拡大するとき、新たに領海化される国際海峡は、世界で 119 カ所に及ぶ。このよ
うな海峡では、領海が 12 海里で合意される場合にも、従来通りの艦船の通航が確保され、・・・る
必要がある。」と主張しました((財)日本海運振興会、国際海運問題研究会編『海洋法と船舶の通
航』成山堂書店、49 頁)。結局、第一次海洋法会議においては領海の幅については合意されませ
んでした。
4.第三次海洋法会議と国連海洋法条約
第三次海洋法会議が行われていた当時の国際海峡における通航制度は、領海条約に定めるとこ
ろの「停止されない無害通航」でした。同会議では、国際海峡の通航制度に関し、領海幅が3海里
から 12 海里に拡大されても、当時の通航制度(停止されない無害通航制度)をそのまま維持する、
という見解と、領海幅が拡大され新たに領海に取り込まれる公海部分については、従来の航行の
146
第Ⅶ章 国連海洋法条約に基づく国際海峡制度
自由は維持する、という見解とが対立しました。結局、この二つの見解の妥協案として、新たに
「通過通航制度」を設置することが英国から提案され、現在の国連海洋法条約の関連規定に至っ
ています。
⇒「通過通航制度」を設置する
外国船舶の通航制度を沿岸国からの干渉の程度の観点から区分し、干渉の大きい順に
並べると次のようになる
・通常の領海内での無害通航
・領海たる国際海峡での停止されない無害通航(領海条約、海洋法条約)
・領海たる国際海峡での通過通航(海洋法条約)
・公海での航行の自由
海洋法条約第 38 条第2項は、通過通航とは、・・・、航行の自由が継続的かつ迅速な通過
のためのみに行使されることをいう、と規定していることから、通過通航は航行の自由の
一形態であると考えられる。また、通過通航権は害されない(海洋法条約第 38 条第1項)、
海峡沿岸国は通過通航を妨害してはならず(同第 44 条)、通過通航は、停止してはならな
い(同第 44 条)、と規定していることから、観念的には停止されない無害通航に比べ、沿
岸国からの干渉がより少ないものとなっている。
第三次海洋法会議においては、領海幅の拡大により領海化される国際海峡については、
領海条約に定める停止されない無害通航では不十分とされ、新たに通過通航制度を設
置するという結果になった。
⇒現在の国連海洋法条約の関連規定
現在の海洋法条約では、領海条約において停止されない無害通航が確保されていた2種
類の国際海峡(1)公海と公海を結ぶもの、(2)海と領海を結ぶもの、のうち、(1)については
通過通航制度を適用することとし、(2)については、従来の領海条約に規定するとおり、停
止されない無害通航を確保するに留まった(海洋法条約第 45 条)。
E 海峡沿岸国の権利、義務
国際海峡における沿岸国と利用国との対立の構造を最も如実に表現するものの一つが、沿岸国
が海峡通航船舶に及ぼす権利と沿岸国の船舶通航に係る義務です。
1.沿岸国の主権又は管轄権
海峡沿岸国の主権又は管轄権は、海洋法条約第3部の規定及び国際法の他の規則に従って行
使されます(海洋法条約第 34 条第2項)。
147
第Ⅶ章 国連海洋法条約に基づく国際海峡制度
2.通過通航に係る海峡沿岸国の法令
海峡沿岸国は、特定の事項について海峡の通過通航に係る法令を制定することができます(海
洋法条約第 42 条第 1 項)。これらの法令は、外国船舶の間に法律上又は事実上の差別を設ける
ものであってはならず、また、その適用に当たり、通過通航権を否定し、妨害し又は害する実際上
の効果を有するものであってはなりません(同条第2項)。更に、海峡沿岸国は、これらの法令す
べてを適当に公表しなければなりません(同条第3項)。
⇒特定の事項
特定の事項とは、下記の事項の全部又は一部である。
・ 前条に定めるところに従う航行の安全及び海上交通の規制(注:海洋法条約第 41 条
の規定に従って定められる国際的な規則に適合した航路帯及び分離通航帯に関する
もの)
・ 海峡における油、油性廃棄物その他の有害な物質の排出に関して適用される国際的
な規制を実施することによる汚染の防止、軽減及び規制
・ 漁船については、漁獲の防止(漁具の格納を含む。)
・ 海峡沿岸国の通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令に違反する物品、通
貨又は人の積込み又は積降し
上記のうち、航行安全及び海上交通の規制、海洋汚染関連の規制については、国際的
な規則に適合し、または国際的な規制を実施することによる、など、沿岸国からの恣意的
な干渉を避けるためにこのような制限が付いたとされる。なお、外国船舶(軍艦、政府船
舶など主権免除されるものを除く)がこれらの規制のために制定される沿岸国の法令に
違反し、かつ、海峡の海洋環境に対し著しい損害をもたらし又はもたらすおそれがある場
合には、海洋法条約第 12 部「海洋環境の保護及び保全」第7節の保障措置に関する規
定により、海峡沿岸国は、違反船舶が通過通航中であっても当該船舶に対し適当な執行
措置をとることができる(海洋法条約第 233 条)。なお、違反船舶が沿岸国の港に入港す
る場合には言うまでもない(海洋法条約第 218 条)。
通過通航中の外国船舶が当該法令に違反するものの、海洋環境に対し著しい損害をも
たらさず又はもたらすおそれがない場合には、沿岸国は当該外国船による違反の事実を
旗国に通報し、当該旗国がしかるべく対処することになる。
3.航路帯及び分離通航帯
海峡沿岸国は、船舶の安全な通航を促進するために必要な場合には、この部の規定により海峡
内に航行のための航路帯を指定し及び分離通航帯を設定することができます(海洋法条約第 41
条第1項)。この航路帯及び分離通航帯は、一般的に受け入れられている国際的な規則に適合し
たものでなくてはなりません(同条第3項)。なお、自国が指定したすべての航路帯及び設定した
すべての分離通航帯を海図上に明確に表示し、かつ、その海図を適当に公表しなければなりま
148
第Ⅶ章 国連海洋法条約に基づく国際海峡制度
せん(同条第6項)。
4.調査活動又は測量活動の事前許可
外国船舶(海洋の科学的調査又は水路調査を行う船舶を含む。)は、通過通航中、海峡沿岸国の
事前の許可なしにいかなる調査活動又は測量活動も行うことができません(海洋法条約第 40 条)。
これは、海峡沿岸国は、当該活動に対し事前許可をする権限を有していることを示しています。
5.通過通航の妨害、停止等の禁止
海峡沿岸国は、通過通航を妨害してはならず、通過通航は、停止してはなりません(海洋法条約
第 44 条)。また、海峡沿岸国は、海峡の通過通航に係る法令を制定することができますが(海洋
法条約第 42 条第1項)、その適用にあたり、通過通航権を否定し、妨害し又は害する実際上の効
果を有するものであってはなりません(海洋法条約第 42 条第2項)。
6.航行上の危険の公表
海峡沿岸国は、海峡内における航行上の危険で自国が知っているものを適当に公表しなければ
なりません(海洋法条約第 44 条)。
7.軍艦、危険物等搭載船舶等の海峡通航事前通告又は許可に係る海峡沿岸国の権限
海洋法条約の国際海峡の通航に係る規定の中には、軍艦、危険物等搭載船舶等の海峡通航事
前通告又は許可に係る海峡沿岸国の権限はありません。しかし、主要な海峡の沿岸国のいくつ
かが、国内法で軍艦や危険物等搭載船舶などの海峡航行について事前の通告あるいは許可を
求めています。インドネシアは、1988 年にスンダ海峡とロンボク海峡で軍事演習を理由に通航の
停止を発表しました。また、1992 年には、マレーシア、シンガポールとともに、日本のプルトニウム
輸送船あかつき丸のマラッカ海峡通過を拒否する声明を発表しました。また、同年、スンダ海峡を
通航中の潜水艦がインドネシア側から質問を受けたオーストラリアは、通過通航権が慣習法にな
っているとして抗議を行いました(深町公信「国際海峡と群島水域の新通航制度」『日本の国際法
の 100 年第3巻 海』〔国際法学会〕 三省堂 102-103 頁)。
8.国際海峡における海峡沿岸国権限の強化の必要性
海峡は、必然的に他の領海に比べ船舶が集中する海域です。ごく自然に考えると、船舶が集中す
る海域であればあるほど、より厳しい交通規制が必要と考えられますが、海洋法条約上の制度で
は、国際海峡における海峡沿岸国の権限は、海峡通航船舶の利益を考慮し、通常の領海に比べ
弱いものになっています。従って、海峡沿岸国では、第 41 条に基づく航路帯の指定及び分離帯の
設定および第 42 条第1項に基づく国内法令の制定により、また、第 39 条第2項に定める国際的
な規則・手続・方式を活用して、より効果的な交通規制を行っていく必要があります。
149
第Ⅶ章 国連海洋法条約に基づく国際海峡制度
F 船舶の権利、義務
国際海峡における沿岸国と利用国との対立の構造を最も如実に表現するもう一つが、海峡通過
に際して船舶が持つ権利と義務です。
1.通過通航権
海洋法条約は、すべての船舶及び航空機は、通過通航権を有するものとし、この通過通航権は、
害されない、と規定しています(海洋法条約第 38 条)。通過通航とは、航行及び上空飛行の自由
が継続的かつ迅速な通過のためのみに行使されることをいいます(海洋法条約第 38 条第2項)。
そして、通過通航権の行使に該当しないいかなる活動も、この条約の他の適用される規定に従う
ものとする、と規定されています(海洋法条約第 38 条第3項)。
2.通過通航中の船舶の義務
海洋法条約では、船舶が通過通航権を行使している間、遵守すべき事項を次のとおり定めていま
す(海洋法条約第 39 条第 1 項及び第2項)。
・ 海峡を遅滞なく通過すること。
・ 武力による威嚇又は武力の行使であって、海峡沿岸国の主権、領土保全若しくは政治的独立
に対するもの又はその他の国際連合憲章に規定する国際法の諸原則に違反する方法による
ものを差し控えること。
・ 不可抗力又は遭難により必要とされる場合を除くほか、継続的かつ迅速な通過の通常の形態
に付随する活動以外のいかなる活動も差し控えること。
・ この部の他の関連する規定に従うこと。
・ 海上における安全のための一般的に受け入れられている国際的な規則、手続及び方法(海上
における衝突の予防のための国際規則を含む。)
・ 船舶からの汚染の防止、軽減及び規制のための一般的に受入れられている国際的な規則、
手続及び方法
⇒一般的に受け入れられている国際的な規則、手続及び方法
これらには、IMO 関連の国際衝突予防規則(COLREG)、MARPOL 条約、SOLAS 条約、
STCW 条約に加え、国際原子力機関(IAEA: International Atomic Energy Agency)などが
制定する船舶による核物質、放射性物質などの危険物質の輸送に係る諸規則なども含
まれる。なお、海峡通航船舶の旗国がこれらの条約の締約国であるか否かは問われな
い。
3.調査活動又は測量活動の事前許可取得
海峡を通航する船舶が海洋科学調査船又は水路測量船である場合には、通過通航中、海峡沿
岸国の事前の許可なしにいかなる調査活動又は測量活動も行うことができません(海洋法条約第
150
第Ⅶ章 国連海洋法条約に基づく国際海峡制度
40 条)。従って、当該船舶は事前に海峡沿岸国から当該活動に係る許可を取得する必要がありま
す。
4.航路帯及び分離通航帯の尊重
海峡に航路帯及び分離通航帯が設定されている場合には、通過通航中の船舶は、航路帯及び
分離通航帯を尊重することが求められています(海洋法条約第 41 条第7項)。
5.通過通航に係る海峡沿岸国の法令の遵守
通過通航権を行使する船舶は、通過通航に係る海峡沿岸国の法令を遵守しなければなりません
(海洋法条約第 42 条第4項)。
G 海峡利用国による協力
海洋法条約第3部の規定の大多数が、海峡沿岸国と利用国との対立の構図の一要素としての意
味合いを持ちますが、その中で、唯一、両者の協力に係る規定が海洋法条約第 43 条です。この
規定では、海峡利用国及び海峡沿岸国は、合意により、次の事項について協力することを推奨さ
れています(海洋法条約第 43 条)。なお、この規定の詳細な検討については、次章で行います。
・ 航行のために必要な援助施設の海峡における設定及び維持 (in the establishment and
maintenance in a strait of necessary navigational aids)
・ 安全のために必要な援助施設の海峡における設定及び維持 (in the establishment and
maintenance in a strait of necessary safety aids)
・ 国際航行に資する他の改善措置の海峡における設定及び維持(in the establishment and
maintenance in a strait of other improvement in aid of international navigation)
・ 船舶からの汚染の防止、軽減及び規制(for the prevention, reduction and control of pollution
from ships)
151
第Ⅷ章 国連海洋法条約第 43 条に基づく海峡沿岸国と利用国の協力
第Ⅷ章 国連海洋法条約第 43 条に基づく海峡沿岸国と利用国の協力
第Ⅶ章では、海洋法条約第3部が定める国際海峡制度について、海峡沿岸国と利用国との対立
の構造の中でとらえて見てきました。この章では、特に、第 43 条の規定について、詳細に見ること
にします。
第 43 条 航行及び安全のための援助施設及び他の改善措置並びに
汚染の防止、軽減及び規制
海峡利用国及び海峡沿岸国は、合意により、次の事項について協力する。
(a) 航行及び安全のために必要な援助施設又は国際航行に資する他の改善措置
の海峡における設定及び維持
(b) 船舶からの汚染の防止、軽減及び規制
A 海峡利用国
1.海峡利用国の特定
「海峡の利用国」とは、海峡を利用(use)する国ですが、利用目的や利用形態にもいろいろありま
す。そもそも「利用」とはどのような行為なのか、という問題もあります。しかし、これまでの一連の
議論を鑑みるに、「海峡利用国」とは、「海峡を海上交通路として利用することにより何らかの便益
を受けている国(者)」と捉えることが一般的であると考えられます。具体的には、(1)旗国、(2)船主
国、(3)輸出入国、(4)船種別の海運団体(INTERTANKO, INTERCARGO, SIGTTO, ICCL 等)、
(5)OCIMF のようなその他の関連団体が含まれる、とする考え方が海峡沿岸国の一致した認識で
す。なお、海峡利用国には海峡利用者も含まれるのか、という問題については、後述します。
海峡利用国の特定作業(利用国が享受する便益の程度の算出を含む)を厳密に行うとした場合、
まず、海峡の利用行為(船舶の通航)から生み出される便益の程度を測るための適当な指標を選
び出し、当該指標と利用可能な統計に基づき、どの国がどの程度の便益を得ているかということ
を導き出す、という膨大な作業が伴います。この作業には、当該指標が適当なものかどうか、数値
では直接的には表せない便益をどう指標化するか、異なる指標間の比較や加算はどのように行う
のか、利用可能な統計がどの程度あるのか、直接的便益と間接的便益をどう評価するのか(間接
的便益を含めるとした場合、その対象は一般国民までおよぶ)、結果として導き出されたものが妥
当かつ信頼性があるものなのか、といった困難な問題が付随しています。従って、仮にこの作業
を関係各国関係者がコンセンサス・ベースで行うとした場合、便益の程度が応分の負担割合に直
結するという考えに基づく限り、関係者間の利害対立が表面化し、妥当な結論を出すことは極め
て困難となります。従って、海峡利用国の特定作業は、これから利用国負担問題に関する議論を
開始するにあたり、どの国がその議論に参加するべきか、ということを見出す程度に止めることが
賢明であると考えられます。
152
第Ⅷ章 国連海洋法条約第 43 条に基づく海峡沿岸国と利用国の協力
⇒便益の程度を測るための適当な指標
便益の程度を測るための適当な指標としては、(1)運送貨物の価格、(2)貨物運送賃、(3)
通航隻数、(4)通航船舶の総トン数などいろいろ考えられるが、把握の容易さを考えた場
合、単純に通航隻数に総トン数を組み合わせるという方法が一番適切であると考えられ
る。当然のことながら、このような指標を使用した場合、利用国とは船籍国ということにな
り、これらの国が応分の負担をすべき、ということになる。
なお、ここで注意すべき点は、あくまでも、これらの船籍国は一次的な負担者であり、負担
分を更に別な者に転嫁することも可能である。例えば、船籍国は、登録税や分担金といっ
た形で当該船舶を登録している船主に対し、船籍国の負担分を転嫁することができる。船
主は荷主等に転嫁し、荷主等は貨物価格に転嫁し、最終的には、極めて広範囲の者に
船籍国の直接負担分が公平な形で転嫁されていくことになる。なお、マ・シ海峡通航船舶
の船籍国別の通航隻数及び総トン数に関する統計は、強制船位通報制度が実施されて
いる現在においては、容易に収集することができる。
2.海峡利用国と海峡利用者との関係
先にも述べましたが、「海峡利用国」とは、「海峡を海上交通路として利用することにより何らかの
便益を受けている国(者)」と捉えることが一般的であると考えられます。具体的には、船種別の海
運団体(INTERTANKO, INTERCARGO, SIGTTO, ICCL 等)や OCIMF のような関連団体も含ま
れる、と認識されていますが、これは、当該者が最終的な負担者である、という認識からではなく、
専ら、この利用国負担問題を議論するに際し海峡沿岸国は誰にアプローチすべきか、誰が応分
の負担をしてくれる可能性があるか、という観点からリストアップされたものであると考えられま
す。
条約とは、基本的に国家間の権利義務関係を規定するものであり、個人の権利義務を直接規定
するものは例外的とされています。従って、第 43 条の規定の趣旨は、文言上は「利用国」と書か
れていますが、最終的かつ実質的な協力の主体、すなわち応分の負担をすべき者は、国の政府
に限定されているわけではなく、利益団体や個々の企業もこれに含まれると考えるべきです。ただ
し、そのような負担を伴う国際的制度を構築するのは国の責務であると考えられます。なお、仮に
ある指標に応じて国の負担割合(額)を決めるという制度が構築された場合には、その負担額を
国内でどのように分配するのかについては、各国の裁量により決められるべき問題と考えられま
す。例えば、国民全てが少なからず何らかの便益を受けている、というのであれば、国は一般税
収から負担分を支出することも可能でしょうし、また、海運会社が支払う税金に賦課し、当該海運
会社は運賃として荷主などに転嫁することも可能と考えられます。
3.開発途上国の取扱い
開発途上国も海峡利用国として応分の負担をすべきか、という問題があります。マ・シ海峡沿岸国
153
第Ⅷ章 国連海洋法条約第 43 条に基づく海峡沿岸国と利用国の協力
は、インドネシア、マレーシア及びシンガポールといった国であり、主要な海峡利用国は日本、とい
うことで、これまでは、先進国である日本が開発途上国である海峡沿岸諸国を援助する、という構
図が成り立ちました。しかしながら、最近においては、沿岸国の中でもシンガポールの発展が著し
く、マレーシアについても OECD の援助対象国からまもなく外れるという状況になっています。また、
利用国についても、日本に加え、最近発展が著しい中国が浮上してきています。極端な例を挙げ
ると、ドーバー海峡のように、海峡沿岸国である英国及びフランスが海上交通路としての機能維
持のための取組みを行っていますが、海峡利用国である開発途上国のリベリアがリベリア船籍の
船舶が多数同海峡を航行しているからといって応分の負担をしなければならないのか、ということ
になります。この問題については、みかけ上の公平性より、実質的な公平性を重視する必要があ
り、仮に、開発途上国が一次的な負担者であっても、最終的には、様々な負担転嫁のシステムを
通じて、富める国に最終的な負担が分配されるよう自動的な調整機能が働くと考えられます。
B 海峡沿岸国
1.マ・シ海峡の地理的範囲
マ・シ海峡の沿岸国は、マ・シ海峡の地理的範囲に関係します。つまり、当該範囲が明確になれ
ばおのずと沿岸国が特定されます。マ・シ海峡は、入り口から徐々に内側に入るに従って幅が狭く
なり、途中で中間の公海(EEZ)部分がなくなります。英国国防省が定めるマ・シ海峡の地理的範
囲に係る定義(第Ⅱ章「マラッカ・シンガポール海峡の概要」参照)を採用する場合は、中間の公
海(EEZ)部分を含む極めて広大な範囲がマ・シ海峡となり、結果的にタイも沿岸国に含まれてし
まします。
第 43 条の規定の適用を通過通航制度の枠組みの中で考える場合、「海峡内の代替的航路の有
無」という要素を考慮する必要があります。つまり、海峡の中間に公海(EEZ)部分がない場合、又
はあっても、そこが航行上及び水路上の特性に関して同様に便利な航路(代替的航路)でない場
合には、海峡を通過する船舶は必然的に沿岸国の領海部分を航行しなければなりません。この
ため、当該海峡は、沿岸国の領海ではあっても、国際的な海上交通路としての公共性が極めて高
い海域と言え、それゆえ、当該海域においては船舶の通過通航が認められるとともに、航行の安
全性が十分確保される必要性が出てきます。そしてこの航行の安全性を確保する責務を沿岸国
だけに負担させることは不公平であり、海峡を利用する者が公平に負担すべきであるという考え
に基づき、第 43 条の海峡沿岸国と利用国との国際協力に関する規定が定められています。
従って、マ・シ海峡の地理的範囲とは、第 43 条の規定の適用を考える場合には、海峡内に代替
的航路がない海域、つまり、中央に公海(EEZ)部分がない海域に限定されるべきということになり
ます。このようにして見ると、当該海域は、ほぼ、マラッカ海峡のポートクラン沖のワン・ファザム・
バンクからシンガポール海峡のペトラブランカ島(ホースバーグ灯台が立地)に至る海域ということ
になります。
154
第Ⅷ章 国連海洋法条約第 43 条に基づく海峡沿岸国と利用国の協力
2.海峡沿岸国の特定
マ・シ海峡の地理的範囲を上述のように考えると、マ・シ海峡の沿岸国はインドネシア、マレーシア
及びシンガポールの3カ国であり、これにはタイは含まれないことになります。つまり、タイについ
ては、沿岸国としてではなく、利用国として沿岸国に協力することになります。
C 「合意により」の趣旨
「合意により(by agreement)」とされている理由は、この規定に基づく国際協力が海峡沿岸国の主
権が及ぶ領海内で実施される以上、海峡利用国側の恣意により、実施されることは適当ではない
ことを示唆しています。一方で、海峡沿岸国が一方的に利用国に対し協力を求めるものではなく、
利用国側の意図にも十分配慮されなければならないことも示唆しています。なお、合意の形態に
は、「条約(Treaty, Convention)」、「協定(Agreement)」「取極(Arrangement)」「覚書(Memorandum of
Understanding)」「議事録(Record of Discussion)」などがあり、また、多国間合意なのか 2 国間合意
なのかといった主体についての議論もあり得ますが、先ず、協力内容を決める必要があり、その
後、それに応じた適切な合意の形態が決まってくるものと考えられます。
この規定の一番重要なキーワードは、当事者間の「合意」にあります。つまり、沿岸国と利用国と
が協力をするにあたり、両者が合意するのであれば、第 43 条に規定する協力事項以外のどんな
協力事項でも実施可能である、ということです。他方、合意がなければ、利用国は何もしなくてよ
いのか、という点については、利用国は合意することも含めて協力すべき責務を負っており、合意
形成を通じて利用国側と沿岸国側の意見がよく調整されなければならないことを謳っていると考
えられます。第 43 条の意義とは、ある意味では、新しい協力の枠組みの構築に向けて議論を開
始する段階における精神的な拠り所となるものであると考えられます。
D 「協力する」について
1.法的拘束力
第 43 条には、「協力する(should co-operate)」と規定されており、条約上の義務規定であるところの
「協力しなければならない(shall co-operate)」とは規定されていません。このことは、一見、沿岸国
にとっては、不利なように感じられますが、過去の経緯を考えた場合、沿岸国と利用国の双方にと
ってバランスの良い規定ぶりになっていると考えられます。
⇒過去の経緯を考えた場合
マ・シ海峡における相次ぐ大型原油タンカーの海難事故を受け、1970 年、日本はマ・シ海
峡の国際管理に関する提案を IMCO に行ったが、沿岸国、特にインドネシアとマレーシア
の反対にあった。インドネシアとマレーシアが懸念する点は、マ・シ海が沿岸国の領海で
155
第Ⅷ章 国連海洋法条約第 43 条に基づく海峡沿岸国と利用国の協力
あるにもかかわらず、将来的には国際共同管理の海峡となってしまう、ことである。この第
43 条に基づく協力が利用国の義務だとした場合、この義務規定を根拠に、海峡利用国が
早急な協力体制(海峡の共同管理を含む)の構築を沿岸国に迫るという懸念も海峡沿岸
国は持っていると考えられる。
なお、沿岸国が1カ国の場合と、複数の国がある場合、当該沿岸国間の国際的な協力関係の構
築については、同条約の中で規定されていませんが、これは、利用国との国際協力を構築する上
での当然の前提として考える必要があります。
2.協力の形態
国際協力の形態には様々なものがあります。この形態は、協力の主体、客体がどのような組織な
のかによっても異なってきます。マ・シ海峡については、協力の客体については航行安全対策や
海洋汚染防止対策を講じている沿岸3カ国であることは間違いないのですが、協力の主体につい
ては、利用国政府、非営利の民間団体、海運会社や荷主等の私企業や業界団体、国際機関など、
様々な可能性があります。
利用国政府からの協力は、資金供与、技術協力・人材育成が中心になると考えられ、民間企業で
ある場合には、サービス対価の支払い、基金への出資といった金銭的協力が中心になると考えら
れます。非営利の民間団体による協力は、その団体の設置目的により様々な形態があり得ます。
マラッカ海峡協議会が日本財団等の支援を得て行ってきた、灯台・ブイなどの航路標識の維持整
備、設標船の寄贈(以上は現物の供与)、油流出対策のための回転基金の設置(資金の提供)は、
海洋法条約成立以前から第 43 条の趣旨を先取りした協力形態として、極めてユニークなものと考
えられます。
3.協力の程度
協力の程度に関する問題とは、どの程度まで沿岸国に協力すべきであるか、という問題です。マ・
シ海峡の海上交通路としての機能を維持するため、最低限行わなければならない事項、国際条
約上の義務を履行するために行わなければならない事項など、いろいろな程度が考えられます。
どの程度まで海峡の安全性を向上させる必要があるのか、については、マ・シ海峡の潜在的な危
険性を考慮する場合、かなりの程度まで、様々な対策が講じられる必要があると考えられます。
F 協力事項
43 条の各項は、海峡利用国と海峡沿岸国が合意により協力をする具体的な事項について規定し
ています。
(a)項の協力事項について簡単に言うと、「国際航行に資する改善措置(improvements in aid of
156
第Ⅷ章 国連海洋法条約第 43 条に基づく海峡沿岸国と利用国の協力
international navigation)」ということになります。具体的には、当時想定されていた典型的な改善措
置として、「航行のために必要な援助施設の設定及び維持」及び「安全のために必要な援助施設
の設定及び維持」が例示的に示されています。なお、具体的にどの事項が前者に該当するか、あ
るいは後者に該当するかについては、区別されることによる効果が異なってくる等の事情もない
のですが、あえてここでは、今回の考察の意義に鑑み、区別して考えてみることにします。なお、こ
の規定には、「海峡における」という地理的な限定が付されています。
(b)項の協力事項については、特に、マ・シ海峡の海洋環境保護分野における協力事項ということ
になりますが、汚染源となり得るものがたくさんある中で、特に、船舶からの汚染というものに焦点
をあてた協力事項となっています。なお、この規定には、(a)項にあるような「海峡における」という
地理的な限定は付されていません。
なお、先にも述べましたが、(a)項及び(b)項に該当しない協力事項であっても、海峡沿岸国と海峡
利用国とが合意をすれば、どのような協力事項でも実施可能であり、この第 43 条は、協力事項を
各項に規定されるものに限るという趣旨ではありません。
1.航行のために必要な援助施設の設定及び維持
航行のために必要な援助施設(navigational aids)の最も典型的なものは、灯台、灯標、ブイ等の航
路標識です。本項では、それらの航路標識の設定及び維持(establishment and maintenance)を協
力事項の一つとして掲げています。
2.安全のために必要な援助施設の設定及び維持
「安全(safety)」とは非常に広い概念ですが、上記の「航行のために必要な援助施設」以外の「安全
のために必要な援助施設」としては、船舶海難が発生した場合に、迅速かつ適切に救助活動が
実施されるための調整業務を行なう「海上捜索救助調整センター(MRCC: Maritime Rescue
Coordination Center)」などの施設がこれに含まれると考えられます。
また、昨今のマ・シ海峡においては、いわゆる海賊事件が多発しており、現在、日本や東南アジア
諸国を中心として外交的な協議が行われている「アジア海賊対策地域協力協定」の中で設置が
検討されている「情報共有センター」などもこの中に含まれると考えられます。もっとも、同センター
の活動対象とする海域は、特に、マ・シ海峡には限定されてはいません。
3.「国際航行に資する他の改善措置の設定及び維持」
先 に も 述 べ ま し た が 、 「 国 際 航 行 に 資 す る 改 善 措 置 (improvements in aid of international
navigation)」の具体例として、当時想定されていた典型的な改善措置であったところの「航行及び
安全のために必要な援助施設」が挙げられています。第 43 条のこの部分は、「航行及び安全のた
めに必要な援助施設の設定及び維持」には含まれない改善措置を網羅的に包括するための規定
157
第Ⅷ章 国連海洋法条約第 43 条に基づく海峡沿岸国と利用国の協力
であると考えられます。
「援助施設(aids)」という文言からは、建物、施設、といったものを想起しますが、「改善措置
(improvements)」という文言からは、建物、施設の設置のみならず、サービスの提供など、船舶の
国際航行に資する改善のための措置、方策などであれば、全て含まれると考えられます。具体的
には、安全な航行に資する事業、例えば、沈船除去、浚渫等の実施、水路測量、航路標識の設
定及び維持に係る人材育成事業についても、全てこの範疇に含まれると考えられます。
以上については、第 43 条の規定ぶりから理解できる一般的な解釈ですが、シンガポール大学の
ローバート・ベックマン教授他が指摘しているように、この「改善措置」には、現在、マ・シ海峡で頻
発する海賊事件や海上テロ事件への対応も含まれるとする考え方があります。
もっとも、第 43 条の規定が議論されていた当時は、このような海上治安問題に係る協力は想定さ
れていなかったと考えられますが、当該協力がマ・シ海峡の国際航行に資する改善措置である以
上、当該問題に係る協力事項を第 43 条の協力事項から排除する理由はありません。ただし、この
種の協力を実施していくには、沿岸国の主権に適切に配慮した方法が取られる必要があります。
そもそも、この条文の趣旨は、ある海峡が沿岸国の領海で占められていたとしても、その海峡が
公海等の一部と他の部分とを結ぶ実質的に唯一のものである場合は、沿岸国がその領海に及ぼ
す領域主権の絶対性より、当該海峡における船舶の通過通航という国際社会の利益を優先し、
特別の通航制度を制定すること、ただし、当該海峡が国際社会に利益を生むものである以上、沿
岸国のみにその海上交通路としての機能維持に係る負担を強いるのは理不尽であり、利益を得
る者も沿岸国に協力し、合意ベースにより当該海峡の機能維持を行っていこうとするものです。そ
して、その機能維持の典型であるのが、船舶が安全に航行するための諸々の施策です。しかしな
がら、昨今のマ・シ海峡においては海賊が頻発しており、また、最近においては、海上テロの可能
性も指摘されているなど、これまでの伝統的な航行安全対策のみでは、海上交通路としての海峡
の機能を維持することができなくなっています。
ここで問題となるのは、航路標識の建設のような協力プロジェクトは、建設後、沿岸国に管理を任
せるなどにより、あまり沿岸国の主権を意識することなしに行い得るものですが、海上治安問題に
関する協力に関しては、場合によっては、著しく、沿岸国の主権を脅かすものになり得るということ
です。例えば、利用国の海上治安機関の船舶が、マ・シ海峡において海上治安活動に従事すると
いう協力は、沿岸国にとっては、合意が困難な協力内容であると考えられます。一方で、沿岸国
の海上治安機関に専門家を派遣する、当該機関の職員の人材育成を行う、当該機関と連携訓練
を行う、などについては、十分合意できる協力事項であると考えられます。実際、特に第 43 条に
基づく協力という意識は関係者間にはないものの、この範疇に含まれ得ると考えられるものとして、
日本の海上保安庁や日本財団が実施する海賊関連の一連の協力事項があります。
4.「海峡における」の持つ意味
以上のような協力事項について、第 43 条の枠組みの中で行われる以上、厳密には、マ・シ海峡の
158
第Ⅷ章 国連海洋法条約第 43 条に基づく海峡沿岸国と利用国の協力
一般的な地理的範囲内ではなく、その中でも、国際海峡と考えられる場所、つまり、通過通航が
認められる海域内で行われる協力事項に限られる必要があります。しかし、協力事項の性格上、
その効果が海峡内に止まらないものがあり、特に、人材育成などについては、その効果を海峡内
に止まらせることが困難、かつ不合理であると考えられます。従って、この規定においては、「海峡
における」という限定的な文言はあるものの、特に、地理的範囲には拘る必要がないように思わ
れます。ただし、沿岸国がマ・シ海峡の非常に広範囲における必要以上の協力を求めてくる場合
などには、改めて、この 43 条の規定の「海峡における」という文言の趣旨を厳密に考えてみる必
要があります。
5.「船舶からの汚染の防止、軽減及び規制」
この協力事項についえは、(a)項のように、「海峡における」という限定がありません。その理由とし
て考えられるのは、海洋汚染対策は、その性格上、人為的に特定の海域内にその効果を限定す
ることが困難な分野である、ということがあります。例えば、海峡内に暗岩が存在しているような海
域にそれを示す航路標識を建設するような場合、その効果は、その海域に止まることになります。
一方、海峡内のある港に油防除資機材を備蓄する場合、海峡外での油汚染事故に対し、当該資
機材を使用することは禁止するということは、緊急事態における措置としては不合理となります。
反対に、海峡外で発生した油流出事故によって海峡内が汚染されるような場合に、その対策が協
力の対象とならないとするのも適当ではありません。また、沿岸国の海洋汚染担当官を対象とし
た研修を実施する場合についても、その研修で得られた知識は、他の海域における海洋汚染防
止活動には使用してはならない、とするのは非常に不合理であると考えられます。
次に船舶からの汚染に限定している理由ですが、国際海峡においては、通過通航という特別の
制度が認められていますが、この通過通航の主体が船舶である以上、通過通航という特別の制
度を創設することにより新たに生じる危険性のある船舶からの汚染については、利用国も責任が
ある、という考えに基づいているからであると考えられます。従って、海峡の海洋汚染原因となる
ものは、船舶起因のもの以外にも、陸上に起因するものもあるはずですが、後者については、専
ら、沿岸国の責任で対処すべき事項ということになります。
なお、「防止」、「軽減」及び「規制」に係る事項については、とりわけ、これが「軽減」にかかるもの
であり、これが「規制」に該当するものである、というような分類は意味がないと考えられます。
159
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
日本や中国、韓国、米国などのマ・シ海峡利用国が、同海峡の海上交通路としての機能を維持・
発展させるため、同海峡を利用することにより得た便益をどのような方法で海峡沿岸国に還元す
べきか、という、いわゆる「利用国負担問題(Burden Sharing Issue)」は、日本では、かなり以前から
認識されていました。ただし、当時の認識は、得られた便益を海峡沿岸国に還元する、または、海
峡沿岸国の負担を利用国がある程度肩代わりし、沿岸国の負担を軽減する、というものとは異な
っていたと考えられます。当時においては、領海幅は3海里が一般的であり、マ・シ海峡の大部分
は公海であったことから、日本には、自国商船隊の通航の安全は自国自身が関与して確保した
い、という認識が根本にはあったのではないかと推測されます。このため、マ・シ海峡を国際的に
管理しようと意図する提案が日本から IMCO に提出されましたが、インドネシア、マレーシアから
の反発を招き、頓挫してしまいました。日本は、結局のところ、マラッカ海峡協議会を設立し、同協
会の活動を通じて協力を行っていくことになりました(第Ⅱ章「マラッカ・シンガポール海峡の概要」
F「マ・シ海峡の国際法上の法的地位」参照)。これまで、同協議会は、日本財団、日本船主協会
他の財政的支援を受け、マ・シ海峡の航行安全、海洋汚染防止のための様々な協力を海峡沿岸
国に対し行ってきました(第Ⅴ章「マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策」参照)。もちろん、その間
にも、なぜ、日本だけがマ・シ海峡の海上交通路としての機能維持のために貢献しなければなら
ないのか、という議論はありましたが、現行の同協議会による協力方式を覆すほどのものではあ
りませんでした。一方で、最近においては、マ・シ海峡を含む東南アジア海域などで頻発する海賊
事件に対処するため、日本は、2000 年4月に「海賊対策国際会議」を開催しましたが、この会議の
結果を受け、日本の海上保安庁がマ・シ海峡沿岸国を含む東南アジア各国に対し、海賊対策に
係る様々な支援措置を実施しています(第Ⅵ章「マ・シ海峡の海上治安対策」参照)。なお、この支
援措置の中には、日本財団と協力して実施するものも含まれています。現在のところ、海峡利用
国の中でこのような協力を行っているのは日本だけです。
⇒日本では、かなり以前から認識されていました。
日本での利用者負担問題に対する認識は、マ・シ海峡の航行安全問題に対する懸念か
ら発展したものである。特に、同海峡における大型船舶の航行安全問題に対する懸念は、
1967 年(昭和 42 年)3月 18 日、英国南西岸沖の Seven Stones Reef で発生したトリー・キ
ャニオン(Torrey Canyon)号(11 万8千重量トン)の座礁・原油流出事故、また、同年4月4
日、マ・シ海峡メダン岬(Tg. Medang)沖で発生した東京丸(15 万9千重量トン)の底触事故
を契機として、飛躍的に増大した。
日本では、昭和 40 年代に入って経済の高度成長が加速し、エネルギー消費量が増加す
るに伴い、中東原油をマ・シ海峡経由で日本へ輸送する原油タンカーが大型化した。マ・
シ海峡の通航に際して当時使用されていた海図は、1930 年までの英国及びオランダの測
量に基づき、1936 年までに発行された両国の海図を基礎にして作成されており、大型船
の運航にとって必要な水深 20m 付近までが正確に表示されていなかった。これらの海図
は喫水が 20m を超える巨大タンカーが使用するには不適当な海図であった。この結果、
これらの船舶の運航は経験と勘によってなされており、これらの船舶の採用した航路は、
160
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
公開されないことが多かった(財団法人マラッカ海峡協議会『マラッカ・シンガポール海峡
航路整備事業史』(1978 年)1-2 頁)。
日本は、1967 年(昭和 42 年)、マ・シ海峡の大型船舶の航行安全環境を改善するため、
国際海事機関(IMO) の前身である政府間海事協議機関(IMCO: Inter-governmental
Maritime Consultative Organization) 第4回航行安全小委員会において、マ・シ海峡の航
路指定及び関連する措置に係る提案をシンガポールとともに行った。同小委員会は、マ・
シ海峡の航路指定についての緊急の必要性を認めたが、その前提条件として、水路調査
の実施、航路標識の設置を提示した。なお、当該水路調査の実施や航路標識の設置に
あたっては、海峡沿岸3カ国が相互に、また、海運利害を有する諸国と協力することが望
ましいとされた。
この提案に関し、海峡沿岸国であるインドネシアは原則賛成はしたが、いかなる状況にお
いても、領海における国家の権利と保全を妨げてはならないこと、インドネシアは自国領
海の航行安全を確保する責任を十分自覚していること、について言及した。また、航路指
定の前提条件として提示された水路測量の実施や航路標識の設置などの費用について
は、現段階又は予見し得る将来において負担することはできない旨述べた。
⇒マラッカ海峡協議会を設立
「マラッカ海峡協議会」は 1968 年(昭和 43 年)7月、任意団体として設立され、設立の日よ
り日本政府施策に協力し、活発な事業活動を遂行してきた。その後、民法 34 条に定める
公益法人に改組されることになり、昭和 44 年3月 18 日、運輸大臣に認可申請書を提出し、
昭和 44 年3月 29 日認可され、昭和 44 年4月5日、財団法人マラッカ海峡協議会として登
記手続きを完了した。(財団法人マラッカ海峡協議会『マラッカ・シンガポール海峡航路整
備事業史』(1978 年)11 頁)
一方で、マ・シ海峡沿岸3カ国も、1994 年の海洋法条約の発効、これに前後する各国の同条約の
批准(加入)を契機に、利用者負担問題をテーマとした各種国際会議を開催し、本件に係る海峡
利用国の関心を高める努力を行っています。これらの一連の会議の中で、利用国負担問題に関
するいくつかの論点が明らかにされました。その論点とは、利用国の範囲、第 43 条の規範性(協
力は義務か)、協力に関する原則、協力の手法、資金調達メカニズム、管理機構の要否・構成、
IMO の役割等です。これらは、いわば協力の哲学に関するもので、現在のところ、具体論には至
っていません。
この章では、利用国負担問題に関するこれまでの主要な議論を概観し、新しい要素であるセキュ
リティー問題の本件への潜在的影響について考え、更に、他の国際海峡における管理制度にも
言及しつつ、海峡沿岸国と利用国との協力に関する原則や今後の方向性について考察します。
161
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
A 利用国負担問題に関する主要な議論
利用国負担者問題に関する議論は、下記のとおり、専ら、海峡沿岸国のシンクタンクなどが主催
する国際会議や沿岸国3カ国の政府間技術専門家会合(TTEG)で行われています(下記の会議
名及び主催者を参照)。
1995 年1月
「マラッカ海峡に関するワークショップ」
マレーシア海事研究所(MIMA)
1996 年9月
「マ・シ海峡における航行安全と汚染防止に関する会議」
シンガポール政策研究所(IPS)及び IMO
1996 年 11 月
「海洋汚染防止のための持続的資金供給メカニズムに関する会議」
PEMSEA
1999 年4月
「マラッカ海峡国際会議」
プトラ大学マラッカ海峡研究開発センター
1999 年 10 月
「マ・シ海峡における国連海洋法条約第 43 条の実施に関する会議」
シンガポール政策研究所(IPS)及び IMO
2001 年3月
「沿岸国3カ国の政府間技術専門家会合(TTEG)」
各会合で指摘された主要な論点は次のとおりです。
1.「マラッカ海峡に関するワークショップ」(1995/01)
・ IMO の主導の下ですべての利用者を集めて資金調達を議論すべき。
・ 沿岸国が IMO に対して新たな「マラッカ海峡協議会」の設置を提案すべき。
・ トルコ海峡におけるモントルー条約にある役務提供料金の制度を参考にすべき。
2.「マ・シ海峡における航行安全と汚染防止に関する会議」(1996/09)
・ 海洋法は外国船の領海通過に対する課徴金を禁じているが、特定の役務の対価としての課金
は認められ、通過に対する課徴金も第 43 条の合意があれば可能。
・ 海洋法第 43 条の義務は強制的なものでなく、いわば勧告的なもの。
・ 海洋法第 43 条の「海峡利用国」の定義を明確化すべき。
・ 航行安全確保と海洋汚染防止に関する沿岸国の負担を、日本以外も含めたより広範な国際協
力によって共有すべき。
・ 日本が汚染防除のため設置した回転基金を拡大発展させることも1つの方法。
・ 国際協力体制においても沿岸国の主権ないし海峡の管理権が尊重されるべきである。
・ 国際協力体制の構築に当たっては IMO が関与することが望ましい。
3.PEMSEA「海洋汚染防止のための持続的資金供給メカニズムに関する会議」(1996/11)
162
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
会議自体は、東アジア海域における海洋環境の保全全般に関するものでしたが、その中でマ・シ
オ海峡問題に関連する指摘事項は次のとおりです。
・ 航行安全対策は海洋環境対策より複雑な仕組みが必要。
・ 資金調達方式を考える以前に、海峡の便益享受者間での合意が必要。
・ 国際協力のための信託基金を設定することも1つの方式。
・ 沿岸国は、利用国との対話に入る前に、海峡の管理権をどの程度国際社会に開放するか、資
金をどのように集め、使うかを決めるべきである。
4.IPS/IMO「マ・シ海峡における国連海洋法第43条の実施に関する会議」(1999/10)
・ 協力基金は国際的組織によって管理されるべきである(シンガポール)/でない(インドネシ
ア)。
・ マレーシアは航行安全対策に多大の投資をしているにもかかわらず、マラッカ海峡の通航から
それに見合うほどの便益を受けていない。
・ シンガポールは国際的な合意があれば、新たな基金に対しても応分の負担をする。
・ 海洋法第 43 条の「海峡利用国」には、旗国、輸出入国、それらの国の国民、法人、船主、海上
保険会社、石油会社等が含まれる。
・ 資金調達メカニズムは、海洋法と整合的で、公平で、対策費用に見合っており、IMO 及び国際
的基準に適合し、利用者負担の原則に基づいていなければならない。
・ 海洋法第 43 条により、利用国は少なくとも沿岸国と対話に入るべき責務を負っているが、働き
かけは、沿岸国からなされるべきである。
・ 海洋法第 43 条の合意の形成に際して、IMO がどのような役割を果たすべきかについてのコン
センサスが必要である。
5.TTEG 責任分担 WG 報告(2001)
・ 利用国・利害関係者による資金協力の可能性のあるプロジェクトとして、①シンガポール海峡
TSS に浚渫による拡張・直線化、②ロンド島、ブルハラ島、ジャンボアイ岬への TSS の延長、③
AIS 地上局の設置、④航路標識の遠隔監視システム、⑤沈船除去、⑥水路再調査の6つが挙
げられる。
・ 資金協力の可能性のある国等としては、①旗国、②船主国、③輸出入国、④船種別の海運団
体(INTERTANKO, INTERCARGO, SIGTTO, ICCL 等)、⑤OCIMF のようなその他の直接関
連団体が挙げられる。
・ 任意による資金協力を促進するために、プロジェクトは、実行可能で、海峡の利用者にとって
明白な利益があり、既存の対策と重複しないことが必要である。
・ また、IMO との共催による利用国会議を開催する前に、中国や韓国といった資金協力の可能
性のある国・者に対する周知のための会合を開くことも考えられ、それは日本ないし日本財団と
の共催としてもよい。利用国会議の場所はシンガポールが適切である。
163
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
B MIMA 会合
2004 年 10 月、マレーシアのクアラルンプールにおいて、MIMA 主催による「マラッカ海峡会議(包
括的セキュリティー環境の構築)(Conference on the Straits of Malacca – Building a Comprehensive
Security Environment)」が開催されました。ここでは、その会合で指摘された主要な論点について
考察します。
1.マレーシア政府ナジブ副首相の基調演説
マレーシア政府ナジブ副首相の基調演説を要約すると、下記のとおりです。
マラッカ海峡は、東西貿易ルート、原油ルートとして非常に重要性である。スエズ運河の閉鎖(注:
1960 年代終わりから 1970 年代初頭にかけての中東情勢に起因する)により運賃が最高 500%に
高騰したことがあるが、マラッカ海峡においても同様なことが考えうる。
マラッカ海峡沿いにはマレーシアの主要港が位置し、マレーシアもマラッカ海峡から多大なる便益
を受けている。海運業のみならず観光業についても同様である。更に、水産業についてもマレー
シアの全水揚げ高の半分を占めるマラッカ海峡は非常に重要である。インドネシアも同様である。
にもかかわらず、マラッカ海峡を利用する者はそれを当たり前のように考えている。また、沿岸国
の主権の存在についても忘れている。利用者がマラッカ海峡の利用について絶対的自由を有す
るという考え方は沿岸国の主権に対する尊重の欠如や国際法の間違った理解を反映している。
国際社会からの要請と、船舶通航量の増大により悪影響を受けているマレーシア国民からの要
請とのバランスを取ることは容易ではないが、利害関係を有する全ての者の相互理解と支援によ
ってのみ為しえると考える。
現在、マラッカ海峡では、航行安全、海洋汚染の問題に加え、海賊、国際犯罪などの問題が発生
しているが、マレーシアは沿岸国、利用国の共通の利益のために努力する用意がある。しかし、
問題への対策を講じる上で、沿岸国の主権は尊重されねばならない、ということも念頭に置く必要
がある。
【考察】
これまでのマレーシア及びインドネシアの主張は、マ・シ海峡から便益を受けているのは専ら利用
国であり、そのために便益を受けていない沿岸国がなぜ航路標識の整備などの対策を講じる必
要があるのか、というものでしたが、この基調演説では、沿岸国であるマレーシアも十分便益を享
受していることを認めた上で、沿岸国と利用国とが共通の利益のために協力をすべきことを強調
しています。このような認識は、この利用国負担問題を考える上で、大きな前進と言うことができま
す。
164
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
2.インドネシア元海洋法大使ハシム・ジャラル博士
ハシム・ジャラル博士は、1970 年代初頭のインドネシアと他の沿岸国との領海確定、日本の協力
により実施された水路測量、1971 年の海峡沿岸3カ国による共同宣言などに言及しつつ、マ・シ
海峡は沿岸国の領海であり、同海峡の管理は沿岸3カ国によってのみ行われるべきであること、
そしてその沿岸3カ国が相互に協力していくべきこと、を強調しました。また、現在、沿岸3カ国の
政府間会合として、専ら航行安全問題全般について技術的側面からの検討を行っている沿岸3
国技術専門家会合(TTEG)に言及し、マ・シ海峡問題についてセキュリティーを含む様々な観点か
ら検討するためには、高級事務レベル会合、閣僚会合といった政策的、政治的なハイレベルの協
議体を復活させる必要があることを指摘しました。更に、同博士は、海洋法条約第 43 条の規定に
関し、文言上は“should”を用いる勧告的規定ではあるが、実質的には、利用国が沿岸国に協力
する義務を課すものと理解されていること、「国際航行に資する他の改善措置(other improvement
in aid of international navigation)」については、国際航行を促進するために、海峡の Safety(伝統
的航行安全問題、海洋汚染問題等)に加え及び Security(海賊問題、海上テロ問題等)を保全す
るための沿岸国の能力改善をも含み得ること、について言及しました。マ・シ海峡で発生する海賊
や海上テロの脅威についての利用国側からの批判について、同博士は、利用国が海洋法条約第
43 条に基づく義務を履行していないにもかかわらず、そのような批判をすることは公平ではないと
述べました。マ・シ海峡通航中船舶のエスコート警護、利用国のマ・シ海峡への軍艦派遣といった
動きに関しては、沿岸国の主権を侵害するものとして、また、海峡管理の国際化を招来するものと
して、強い反対表明を行いました。海洋法条約には第 43 条という規定があるが、決して海峡管理
の国際化のための方便として利用されてはならない、と訴えました。更に、マ・シ海峡問題をアセ
ンアの枠組みの中で取扱うことについても、同博士は 1971 年の共同宣言に反するとの認識を有
しています。
【考察】
同博士は、いまだ 1971 年の共同宣言に固執しているところがあります。インドネシアにとって国の
主権が非常に重要であることは理解できますが、利用国に支援はさせるが、マ・シ海峡管理に口
を出させない、という考え方は、協力体制の構築に向けた動きの中においては、大きな支障となり
えると考えられます。現在、中国がマ・シ海峡問題に対し、特にセキュリティー対策の懸念を背景
として、積極的な姿勢を示し始めていますが(下記の中国参加者の発表内容参照)、このようなイ
ンドネシア側の姿勢は、利用国側にとっては受け入れられるものではありません。海洋法条約第
43 条は、あくまで、合意に基づく協力を前提としており、海峡沿岸国側が一方的な決定権を持つと
いうことは、この第 43 条の規定の原則に反するものと言わざるを得ません。
3.シンガポール海事港湾庁政策局リム・テックイー副局長
リム局長は、マ・シ海峡の経済的重要性や、それを背景として海洋法条約では特別の通航制度が
設けられたことについて説明しました。また、マ・シ海峡の航行安全環境改善のため、沿岸3カ国
は IMO と協力をしてきたこと、特に、最近においては、戦略的に重要な海運航路(Shipping Lane
165
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
of Strategic Importance)の安全を確保する必要性を IMO と共有するに至ったこと、について言及し
ました。更に、日本のマラッカ海峡協議会や国際協力事業団(注:現在の国際協力機構)を通じた
協力に言及し、他の利用国についても同様の貢献をすることを望む、と述べました。同局長は、過
去にシンガポールで開催された2回のマ・シ海峡国際会議についてふれ、当該会議においては、
(1)沿岸国のみが負担するのは不公平であり、利用国も応分の負担をすべきである、(2)海洋法条
約第 43 条に基づき、利用国は少なくとも協力の枠組みに関する対話に参加する義務がある、(3)
同第 43 条の規定を実施するための資金メカニズムを構築する必要がある、というコンセンサスが
形成されたが、今後、さらなる検討が必要である、としました。マ・シ海峡では、これまでの航行安
全や海洋汚染といった問題に加え、海賊や海上テロの脅威があるとして、シンガポールでは、他
の沿岸国とともに、連携パトロールなどの取組みを行っていること、更に、より広範な協力体制とし
て、ARF: ASEAN Regional Forum での活動、FPDA: Five Power Defense Arrangements の活動範
囲の拡大化、ISPS コードの適切な実施、などを通して、協力を行っていることについて言及しまし
た。最後に、同局長は、利用国負担問題に係る更なる議論をすすめるための国際会議を近々開
催する予定である旨述べました。
【考察】
シンガポールは、これまで、本件問題を沿岸国が IMO に提議する前に、中国、韓国などの主要な
利用国を招聘して、いわゆる「周知会合(Familiarization Meeting)」を開催することを主張してきま
した。この間、 IMO では、メトロポリス事務局長のイニシアチブにより、戦略的に重要な海運航路
に関する議論が開始されました。また、本会合において、中国が「沿岸国からセキュリティー、航
行安全に関し支援の要求がなく、これまで参加はしていないが、沿岸国から要求があれば喜んで
支援したい」との考えを表明しました。シンガポールは、TTEG の本件問題に係るワーキング・グ
ループの議長を務めるなど、これまで沿岸国における牽引役を勤めてきましたが、これらの新た
な動きや、また、次回開催予定の TTEG が本年 12 月にインドネシアで開催されることを見据え、
新たな方向性を模索しはじめていると考えられ、今後のシンガポールの動きを注視していく必要
があります。
4.日本国土交通省外航課桜井課長
桜井課長は、民間団体による貢献や海上保安庁による沿岸国に対するキャパシティビルディグ活
動による貢献に焦点を絞った発表を行いました。同時に、日本の海事関係業界、民間団体からの
現在のボランタリーな資金拠出による貢献活動について、関係者は(1)日本以外の東アジアの利
用国に益するタンカー、コンテナ船の通峡交通の増大傾向、(2)沿岸国において整備が行われて
いるコンテナハブ港や石油精製施設への寄港による沿岸国に益する海峡横切交通の増大傾向、
(3)民間企業間における国際ビジネス競争の激化の状況の下、日本の民間団体のみが海峡の航
行安全、環境保全に関する沿岸国の活動に対して資金的貢献を継続することは困難と考えるよう
になっており、他の利用者、特に海峡の主要な利用者からの公平な負担を求めていきたいとの考
えを表明しました。また、日本の船社はこの問題をアジアの船社が集まるフォーラムにおいて提起
し、今後議論されていることとなっていることを紹介しました。最後に、発表の結論として、沿岸国
の主権、イニシアチブを尊重しつつ、幅広い利用者、特に主要な利用者がその活動を支持する協
166
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
力的なアプローチに向けた議論の進展を支持し、また IMO が着手した海運航路のセキュリティー
確保に関する取り組みを支持するとの考えを表明しました。
【考察】
日本はこれまで、日本財団を核とした民間ベースの支援を継続的に進めてきましたが、今後、海
峡沿岸国が主導する利用国負担問題に係る議論に日本に加え中国が参加し、これに追随して韓
国や米国も参加する可能性が出てきました。一方で、IMO のイニシアチブによるマ・シ海峡のセキ
ュリティー確保に関する議論も並行的に進展しています。今後、従来の伝統的な航行安全、海洋
汚染問題に加え海上セキュリティー問題を含む包括的協議スキームが構築されることになった場
合、これまで過去 30 年間にわたり協力を実施してきた日本のアドバンテージを何らかの形で維持
する仕組みを検討する必要があります。日本は 30 年間ボランタリーに協力をしてきた、いわゆる
「いい人」で終わってしまってはいけないと考えられます。従って、これまでの協力に基づくアドバ
ンテージを活用し、新しい協議スキーム、あるいはその結果として構築される協力体制の中にお
いても、引き続き主導的な役割を担っていくための方策を検討する必要があると考えられます。
5.中国外務省ザオ・ジアンフア参事官
ザオ参事官は、マ・シ海峡の重要性について指摘しつつ、当該海峡には、海賊、人身売買、麻薬
の密輸、海洋環境問題、テロ攻撃の脅威といった問題が存在し、このような複雑なセキュリティー
問題に対しては、ARF、マ・シ海峡連携パトロール、ISPS コードといった協力のための国際的枠組
みを基礎として取組む必要があることを指摘しました。また、このような形での協力をより効果的
にするためには、(1)共通の問題意識の保有、(2)共通の法的基礎の存在、(3)共通の協力手法、
が必要であることを指摘しました。
(1)共通の問題意識に関しては、例として、テロの脅威に対する認識の違いや(ある国は差し迫っ
たものと考え、ある国では誇張した議論であると考えている)国益の相違を指摘しました。(2)共通
の法的基礎に関しては、共通認識として、国連憲章や既存の国際法の枠組みに沿ったものでな
ければならない、というものがあるが、海上テロなどの差し迫った状況がある場合に、そのような
原理原則を遵守する余裕があるか、といった問題や、そのような原理原則を越えた協力の枠組み
作りをする取組みも行われている、と示唆しました。(3)共通の協力手法に関しては、個々の問題
に適した個々の解決方法があるはずであり、全てに適用される解決手法は用いるべきでない、と
指摘しました。
マ・シ海峡のセキュリティー問題は、航行安全問題同様、利用国の支援のもと沿岸国が主導して
行うべきであること、また、法令執行機関の努力により解決すべき問題であり、軍隊の関与は重
大な懸案を引き起こす可能性があること、をあわせて指摘しました。最後に、今後の方向性として、
中国のエネルギー輸入の 80%はマ・シ海峡を経由していることに言及しつつ、中国の協力の方向
性について、下記の事実に言及しつつ、中国は国連憲章及び他の世界的に認知された国際法に
基づき、海上セキュリティーに係る脅威に対処し、継続的かつ安定的な地域海上セキュリティー環
境を構築するための協力を行う用意がある、と述べました。
167
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
・ 2002 年の中国 ASEAN 首脳会議においてなされた「非伝統的なセキュリティー分野における協
力に関する中国 ASEAN 共同宣言」に従い、2004 年、「非伝統的なセキュリティー問題の協力に
関する MOU」に署名した。
・ 中国は ARF 関連のセミナーや会合に積極的に参加しており、ARF の枠組みでの海上セキュリ
ティー協力の強力な支持国である。
・ 中国は IMO や IALA との協力を行っており、既に、シージャック防止条約に署名した。
・ 2003 年、中国は国連組織犯罪条約を批准した。
【考察】
今回の会合には、中国から6名もの政府関係者が参加し、海上セキュリティーに係る脅威に対処
し、継続的かつ安定的な地域海上セキュリティー環境を構築するための協力を行う用意がある旨
表明したことは注目に値します。また、これまでの中国のスタンスに関しては、沿岸国からセキュリ
ティーや航行安全の問題に関し、支援の要求が無かったから、と説明をしています(過去の同種
の国際会議において、中国政府の海運問題担当官は、利用国負担問題は海運会社の問題であ
る旨表明している)。このような中国の立場の変化に対応するため、TTEG 会合の当番国であるイ
ンドネシアは、2004 年 12 月頃、TTEG 会合の開催にあわせ、海峡利用国と海峡沿岸国との間の
会合を開催する旨表明を行いました。ようやく中国が利用国負担問題に参加する可能性が見え
始めたことや、米国も専らセキュリティー分野において海峡沿岸国にアプローチしていることなど
から、今後、マ・シ海峡の利用国負担問題を巡る環境が劇的に変化する可能性が出てきたと言え
ます。
6.米国在マレーシア米国大使館トーマス・ドウトン参事官(政務)
ドウトン参事官は、マラッカ海峡の船舶通航量の増加や、地域経済や世界経済がマラッカ海峡か
ら得る便益の増大を考えた場合、同海峡のセキュリティーを維持するための負担を海峡沿岸国の
みに強いるということは不公平であるとして、国際法上、沿岸国の管轄権が及ぶ海域ではあるも
のの、利用国が何らかの支援をする方策はあり得るはずだ、と指摘するとともに、米国は、地域海
上セキュリティー・イニシアチブ(RMSI: Regional Maritime Security Initiative)に基づく能力強化プ
ログラムを通じて、マラッカ海峡のセキュリティーに貢献する用意がある旨述べました。更に、この
RMSI がどういったものなのかについて下記のとおり説明しました。
・ RMSI は米国一国主義に基づくものではない。
・ RMSI は他国主権を侵害するものではない。
・ RMSI への参加は各国の任意による。
・ 米国は対テロ対策のための手段を提供するが、当該手段を使用するか否かは、各国の判断に
よる
・ RMSI は既存の国際法及び国内法の枠組みの中で実施される。
・ RMSI は米国海軍による海峡パトロールの口実ではない。
・ RMSI は海軍というよりは、法令執行機関の能力向上を目的としている。
更に、同参事官は、RMSI は次の4つの要素に基礎を置く概念であると説明しまし。
168
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
・ 現状に対する共通の認識を醸成する。
・ 各組織間の、及び、国家間の迅速かつ効率的な意思疎通や情報交換を構築する。
・ 国家間の運用などに係る協定の締結を通じて国際協力の拡大を図る。
・ 意思決定能力の向上を図る。
【考察】
ドウトン参事官は、同海峡のセキュリティーを維持するための負担を海峡沿岸国のみに強いると
いうことは不公平である旨表明しましたが、米国は不公平であるということを口実に、マ・シ海峡問
題への介入を強く望んでいると考えられます。2001 年9月 11 日の米国でのテロ事件後、米国は
「テロに対する戦争」を掲げてアフガニスタンに進攻しましたが、当該地域への軍事戦略物質を積
載する船舶がマ・シ海峡を通航する際、エスコート警護をインド海軍の協力を得て実施しています。
このエスコート警護は、当然、沿岸国の了解を得て実施したものですが、沿岸国側は、9月 11 日
の事件を背景にしぶしぶ承諾したものと推測できます。しかし、現在においては、当該テロ事件の
影響はかなり少なくなり、当時のように、対テロ対策を口実にすれば何でもできる、という状況には
ありません。米国は、このような沿岸国の状況の変化を十分認識しているからこそ、RMSI は法令
執行業務に関する能力強化のプログラムであり、沿岸国が受け入れやすいものであることを強調
しています。米国は、この RMSI を通じて、セキュリティー分野におけるマ・シ海峡に対する協力の
足がかりを確保したいと考えているようです。
C 利用国負担問題に係るセキュリティー要素の浮上及び新利用国の出現
これまで、マ・シ海峡の利用国負担問題という場合、専ら、航行安全や海洋汚染防止の分野に係
るもののみという認識が一般的でした。そのような中、マ・シ海峡を含む東南アジア一帯で頻発す
る海賊問題にスポット・ライトがあたるようになりました。その契機になった事件が、テンユウ号事
件とアロンドラ・レインボー号事件でした。この事件以降、にわかに海賊問題に係る国際協力体制
の早急なる構築の必要性が叫ばれ、2000 年4月には、東京で「海賊対策国際会議」が開催されま
した。この会議で採択された「アジア海賊対策チャレンジ 2000」に基づき、日本の海上保安庁は、
マ・シ海峡沿岸国を含む東南アジア諸国などの海上法令執行機関に対し、人材育成、対処能力
向上などに焦点をあてた支援協力を実施しています(第Ⅵ章「マ・シ海峡の海上治安対策」参照)。
特にマ・シ海峡は、海上交通の大動脈であるにも拘わらず、沿岸国の中には海上法令執行機能
が著しく欠如した国もあり、海峡沿岸国相互の協力関係構築に加え、海峡利用国による沿岸国海
上法令執行機関への側面的支援により、マ・シ海峡における執行機能を向上させる必要性が指
摘されています。
⇒海賊問題にスポット・ライト
海賊問題は、IMO においては 1983 年以来、20 年以上にわたり継続的に取組まれてきた
問題であるが、現在においても、航行船舶の安全な航行に脅威を与える社会現象の一つ
として存在し続けている。
169
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
IMO における海賊対策に係る具体的取組みについては、1983 年 11 月の IMO 第 13 回
総会において、はじめて海賊問題が取上げられ、海賊対策の実施、船主等への助言、海
賊情報の提供を求める決議第 545 号「船舶に対する海賊行為及び武装強盗の防止策」
が採択された。その翌年4月には、IMO 第 49 回海上安全委員会において海賊問題が海
上安全委員会の恒常的議題とされた。その後、「シージャック防止条約」等の採択(1988
年3月)、海賊対策に係る各国政府への勧告や船主などのためのガイドラインの作成
(MSC 回章第 622 号及び第 623 号)(1993 年 11 月)、海賊対策専門家査団の派遣(1998
年 10 月)、海賊セミナーの開催(1998 年 10 月~2000 年3月)、海賊捜査コードの採択
(2000 年 11 月)などの取組みが行われている。また、国連においても、1998 年 11 月の第
53 回国連総会、2000 年1月の第 54 回国連総会において、海賊対策に係る決議が採択さ
れている。
⇒テンユウ号事件
テンユー号(Tenyu)(パナマ船籍の貨物船、重量トン数 4,240 トン、船主国:日本)は、1998
年9月 27 日、アルミインゴット約 3,000 トン(時価 4.7 億円)を積載し、インドネシアのスマト
ラ島クアラタンジュン港を韓国仁川向け出港、その直後に海賊にハイジャックされ消息不
明になった。T 号は、2カ月半後、中国南東部の浙江省張家港で発見されたが、船名は
「サンエイ1」に変更され、乗組員はそっくり入れ替わっており、当時の乗組員及び積荷は
未だに行方不明となっている。なお、発見当時の乗組員に海賊容疑がかけられたが、証
拠不十分により釈放された。
⇒アロンドラ・レインボー号事件
アロンドラ・レインボー号(Alondra Rainbow)(パナマ船籍の貨物船、総トン数 7,762 トン、日
本船主、日本人船員は船長及び機関長の2名)は、1999 年 10 月 22 日深夜、アルミインゴ
ット約 7,000 トン(時価 11 億円)を積載し、インドネシアのスマトラ島クアラタンジュン港を出
港、日本向け航行中のところ、拳銃、ナイフで武装した海賊にハイジャックされた。襲撃後、
海賊の司令船が A 号に接舷し、同船から新たに 15 名の運航要員が A 号に乗り移った。
一方、乗組員は A 号から司令船に移され、狭い船倉に6日間監禁された後、10 月 29 日
未明、ゴム製の救命筏に移され開放された。乗組員はその後、11 日間海上を漂流した後、
タイのプーケット島沖で漁船に発見され全員無事保護された。
11 月 16 日、A 号はインド南西沖の公海上を西に向かって航行中、インド沿岸警備隊及び
インド海軍による停船命令、威嚇射撃等の後に拿捕され、インドネシア人海賊 15 名全員
が逮捕された。拿捕当時、A 号の船名は「MEGA RAMA」に変更されていた。2003 年2月
25 日、インドのムンバイ地方裁判所において、海賊 14 名(1名は公判中に死亡)に対し、
懲役7年の実刑判決が出された。
また、2001 年9月に発生した米国同時多発テロ事件を契機に、一気に海上セキュリティー確保に
かかる議論が活発化しました。IMO においては、自動船舶識別装置(AIS)の設置スケジュールの
前倒し、SOLAS 条約改正、ISPS コードの制定、シージャック防止条約の改正(審議中)など、一連
170
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
のセキュリティー対策が講じられました。また、米国が主導するようなかたちで、コンテナ・セキュリ
ティー・イニシアチブ(CSI)、大量破壊兵器不拡散イニシアチブ(PSI)などの国際協力の取組みが行
われています。特にマ・シ海峡においては、第Ⅱ章「マラッカ・シンガポール海峡の概要」F「治安状
況」において述べたとおり、新しいタイプの海上テロ事件発生の潜在的危険性が指摘されていま
す。このため、沿岸国側も様々なセキュリティー対策を講じるとともに、日本も利用国として、これ
までの海賊対策に係る協力を強化する形で側面的支援を継続しています。更に、米国も、地域海
上セキュリティー・イニシアチブ(RMSI)という国際協力プログラムを提案しています。
以上のように、ここ最近では、マ・シ海峡の利用者負担問題に係る海上セキュリティーの要素が急
浮上し、従来からの航行安全や海洋汚染防止といった分野に対する関係者の意識が、徐々に薄
れている感があります。一方で、このような動きに対応し、マ・シ海峡のこれまでの伝統的な航行
安全や海洋汚染防止に係る国際協力には興味を示さなかった中国、米国、インドも、海上セキュ
リティー問題に係る国際協力の必要性が高まると、にわかに沿岸国に接近するようになってきま
した。また、韓国についても、中国や日本の動きに呼応してか、海上セキュリティー分野に関し、海
峡沿岸国との接近を図っています。
中国のマ・シ海峡問題への関与の程度は、中国の経済発展やエネルギー事情(第Ⅳ章「マ・シ海
峡の海上交通路としての重要性」参照)を考慮すると今後急速に高まっていくと考えられます。こ
れは、最近、盛んに中国の海洋調査船が日本近海に出没する事実にも裏付けられています(海
上の話ではないが、中国は最近、国境線の未画定、棚上げなどにより生じる国益の損失が大きい
として、まず、陸上における国境線画定を隣接国と完了している)。米国についても、強大な軍事
力を迅速に展開・配備するために必要となる安全な輸送路を確保することは非常に重要と考えて
います。第Ⅱ章でも述べましたが、マ・シ海峡が位置する地域は、様々な政治・社会的かつ宗教
的不安定要素を抱える地域であるため、米国はこの地域への積極的関与を通じてセキュリティー
の確保を図りたいと考えています。更に、韓国についても、日本と類似する社会・経済構造を持ち、
日本と同様、マ・シ海峡を経由して多量の原油を中東地域から輸入していることを考えると、マ・シ
海峡の重要性は十分理解していると考えられます。一方、インド洋側においては、インドがマ・シ
海峡への接近を図っています。2002 年の米国のアフガニスタン進攻に際し、米国とインドが共同
でマ・シ海峡でのエスコート警護を実施しています。また、現在、スマトラ島北方のニコバル諸島
(インド領)付近海域(中東からの原油タンカーの航行ルート)において、インド・インドネシア両国
による連携パトロールが行われています。更に、中国への牽制の意味もあってか、2000 年以降、
インド沿岸警備隊は日本の海上保安庁との間で、ハイレベル対話、連携訓練などの実施を通じて
セキュリティー分野における協力関係を強化しています(インド・コーストガード西部方面司令官は、
2004 年 11 月に実施された日インド・コーストーガード連携訓練後に行われた記者会見において、
日本の海上保安庁との連携強化の背景に政治的な意図はない、と述べている)。
マ・シ海峡の利用国負担問題は、従来の航行安全や海洋汚染防止という分野に加え、セキュリテ
ィーという新しい要素が出現するとともに、これに呼応し、従来からの協力国である日本に加え、
中国、米国、韓国、インドといった新しい海峡利用国が積極的な姿勢を見せています(本章 B
「MIMA 会合」参照)。このような動きに迅速に対応するため、海峡沿岸国では、本年 12 月初旬、
171
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
主要な海峡利用国を招聘して利用国負担問題に関する国際会議を開催する方向で調整に入って
います。マ・シ海峡の利用国負担問題は、セキュリティーを核に、また、新しい利用国を巻き込み、
ここ2,3年のうちに劇的に変化する可能性を示しています。
今後特に懸念しなければならないことは、マ・シ海峡利用国負担問題についての中国側の認識で
す。中国は、日本が 30 年以上にわたり、日本財団他の資金援助により、マラッカ海峡協議会が継
続的な支援を沿岸国に対し行ってきている事実を承知しています。そして、それが具体的にどの
ようなシステムであるのか、といった詳細を知りたがっています。マ・シ海峡の通航問題に関して
は、日本は、これまでの沿岸国に対する協力の歴史を背景として、海峡沿岸国に対しかなりの水
面下における影響力を行使し得る、と中国は考えているように思われます。先ほども述べました
が、今後、中国経済の発展を背景として、中国のマ・シ海峡への依存度はますます増加すると考
えられますが、日本が影響力を持つマ・シ海峡へ過大に依存することは、中国側にとっては好まし
くないはずです。中国は、ミャンマーから中国へ至る原油パイプライン建設、ミャンマーにおける中
国海軍基地の確保、マレー半島を横断する原油パイプライン建設に対して関与を強めているとさ
れますが、これは、ある意味ではリスク分散の思想に基づいた中国の戦略であると考えられます。
加えて、日本の一国支援体制を打破すべく、利用国負担問題についても関与を始めたところで
す。
日本の一国支援体制が日本全体の国益を考えた場合、良いのか悪いのか、についてはいろいろ
異論があるはずですが、中国が沿岸国を支援する、という動きを止めることは困難であると考えら
れます。従って、今後、利用国負担制度が何らかの形で構築される場合、中国に応分の負担以上
の負担をさせないこと、つまり、海峡沿岸国に対する中国の過大なる発言権を認める口実を作ら
せないこと、が非常に重要なカギとなってきます。そのような観点から、国ベースで構築されるであ
ろう利用国負担制度は公平な負担を原則として中国をその中に抑え込み、それとは別個に、民間
ベースの協力支援方式において日本がアドバンテージを得ることにより、これまでの海峡沿岸国
に対する発言権を維持していくことも一案であると考えられます。日本は既にマラッカ海峡協議会
による協力方式を過去 30 年以上にわたり実施しており、そのノウハウは十分持っています。一方、
中国は、政府は強力であっても、そのような民間支援団体は十分育成されてはいないと考えられ
るためです。
このように、マ・シ海峡は戦略的に重要な海峡としての宿命であるかのごとく、日本をはじめとする
東アジア諸国、米国などのアジア太平洋の大国などの利害が表面化する場所であり、最近、セキ
ュリティー問題を核として、そのような動きが活発化しています。このような動きの中で、日本は、
複数の利用国の一つとして、新しい要素であるセキュリティー分野やこれまでの航行安全などとい
った分野においてどのような役割を担っていくべきか、過去 30 年以上にわたり築きあげてきたアド
バンテージをどのように活用するのか、積極的に沿岸国に対し意見を言える環境をどのように整
えていくのか、などについて、マ・シ海峡に係る動向に留意しつつ、適時適切に対応していく必要
があります。なお、セキュリティーの問題は純粋な航行安全や海洋環境保護・保全の問題に比べ、
より求心力があるため、このような動きに乗じて、航行安全や海洋環境保護・保全といった問題に
ついても、セキュリティーにからめて解決を推進することも可能になる、という意見がある反面、セ
172
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
キュリティー問題に航行安全等の問題が有するモメンタムが吸収されてしまう、という危険性もは
らんでおり、両者をバランスよく進展させるためには、関係国の慎重な舵取りが必要とされていま
す。
D 他の国際海峡などにおける管理制度
他の国際海峡などにおける管理制度、特に費用負担に関しては、日本海難防止協会などが取り
まとめた資料がありますので、若干の紙面を割き、簡単に紹介します。
Ⅸ―1 他の国際海峡などにおける管理制度
区分
北大西洋流氷監視
トルコ海峡
ドーバー海峡
ジブラルタル海峡
根拠
北 西 太 平 洋 に お ける
1936 年の海峡レジー
英国・フランスの合意
スペイン・モロッコの合
流氷の監視機関に対
ム条約(モントルー条
する財政援助に関する
約)
意
協定
負担者
加盟国政府(加盟国
加盟国の船会社
英国及びフランス政府
スペイン政府
17 カ国)
サービス提供国
米国
トルコ
英国及びフランス
スペイン
提供サービス
流氷海域の情報
通航船舶の航行援助
無線による安全サービ
通航船舶の航行援助
(NAVTEX の航行警報
(灯台、灯浮標等)
ス情報の提供
( 気 象 、海 上交 通 等)
等で広く周知)
検疫
レーダーによる監視
の情報提供
海難救助の役務
費用負担の割当
北大西洋の流氷域を
ボスポラス海峡及びダ
通航する船舶、流氷情
ーダネルス海峡を通航
報によりこれを避けて
した船舶の純トン数単
通航した船舶の総トン
位
数単位
費用徴収の仕組み
国務省が米国、カナダ
海峡を通航する船舶を
での 入港 船舶 に関 す
目視でカウントしTDIが
るデーターを基に、毎
年1回代理店から徴収
年まとめて利用国から
している。通峡船舶
徴収する。対象船舶の
は、代理店を通じて航
把握は円滑に行われ
海 計 画を 事前 に 通報
ている。徴収先が国の
し、料金についても代
政府からであり、徴収
理店経由で徴収される
事務は複雑でない。な
ため、取りこぼしが少
お、未払い国が多い。
ない。
173
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
サービス提供国と
費用の全額を利用国
TDI の予算の中で負
利用国の負担割合
(米国を含む)が負担
担費用が使われてい
する。未納の利用国が
るので、費用の過不足
ある場合は、その分米
及び負担割合は不詳
国( サービ ス提 供国)
である。
が負担している。
通過船舶と途中入
負担割合に差はなく、
片道は半額となる。納
港船の負担割合
すべて1トンあたりで計
入実例によるとボスポ
算される。
ラス海峡とダーダネル
ス海峡と額は同じで、
別々に計算されてい
る。
コストの内訳
約 371 万米ドル(1996
TDI の全体の経理で
年の実績)
運用されるため、内訳
・航空機経費 40.7%
等は不明である。
不明
不明
英国及びフランスの
スペイン海上保安庁
・事務費 26.8%
・管理費 18.5%
・踏査費 5.1%
運営者
米国国務省
TDI(トルコ国営公社)
Coast Guard
注:トルコ海峡の海峡制度に関しては、田中祐美子「国連海洋法条約が適用されない国際海峡レジームの研究―
トルコ海峡レジームの変容と残された課題―」『国際海峡利用国と沿岸国の協力体制』〔財団法人シップ・アンド・
オーシャン財団 海洋政策研究所〕(2004.03)参照。
コラム:トルコ海峡の航行安全に係る負担分担について
トルコ海峡の航行安全に係る負担分担については、1936 年のモントルー条約と国連海洋法に
よって一定の仕組みができており、それをそのまま、マラッカ・シンガポール海峡に応用するこ
とはできないものの、その考え方は参考になるものと思われます。
1.トルコ海峡の船舶通航状況
トルコ海峡は、ボスフォラス海峡、ダーダネルス海峡及びマルマラ海(トルコでは、それぞれイス
タンブール海峡、チャナッカレ海峡、マルマラ海と呼ぶ)によって構成され、全長は、164 海里で
す。ボスフォラス海峡は、最も狭い部分で 698m、潮流は南向きですが、海底部や南風時には
北向きの潮流もあり、操船は困難です。また、イスタンブール市街付近では小型船舶、フェリー
等が1日約 2,500 隻航行し、北航・南航船舶との間で、動線がクロスしています。事故はこの
20 年間で 188 件発生しており、多いのは乗り上げです。かつて、船舶が民家に激突し、中で寝
174
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
ていた女性が死亡した事例もありました。ダーダネルス海峡も、狭い部分は 1,000m 強であり、
90 度に屈曲している箇所もあります。
ボスフォラス海峡の通航船舶数は、年間約5万隻であり、主な船籍国は、トルコ(27%)、マルタ
(12%)、ロシア(10%)、ウクライナ(10%)、シリア(4%)、「北キプロス」(3%)、ギリシャ
(3%)、ブルガリア(2%)、ルーマニア(1%)、レバノン(1%)等です。過去5年間の統計によれ
ば、航行船舶のうち約 40%が水先人を乗船させています(なお、IMO総会決議 A.827(19)では
トルコ海峡航行に際し、水先人乗船を強く勧告しています)。ダーダネルス海峡の通航船舶数
は、年間約4万隻であり、航行船舶のうち、水先人を乗船させたのは 30%弱です。
近年は、有害危険物質積載船舶数が増加しており、毎年、ボスフォラス海峡では 7,000 隻以上
(日平均 20 隻)、また、ダーダネルス海峡では 7,500 隻以上(日平均 21 隻)の有害危険物質
積載タンカーが航行しています。
【これまでの主な事故】
① 1979 年に、貨物船 Evriali 号と貨物油を満載したタンカーIndependenta 号が衝突し、
95,000 トンの燃料油が海上に流出、炎上した。この事故で 43 名の乗組員が死亡した。
② 1994 年に、ボスフォラス海峡内でタンカーMassia 号と貨物船 Ship Broker 号が衝突し、
20,000 トンの油が海上に流出、29 名の乗組員が死亡した。
③ 1998 年に、貨物油を満載したタンカーSea Salvia 号がボスフォラス海峡南口部に乗り揚げ
た。
④ 1999 年の Erika 号事故の直後に、タンカーVolganeft 号が悪天候の中、船体が 2 つに折
損し、800 トンの油がマルマラ海に流出した。
⑤ 2001 年に、貨物船 Mariana 号がボスフォラス海峡航行中に火災を発生させた。
2.トルコ海事当局が講じている安全対策
航行安全については、前述のIMO総会決議をトルコの国内法化することにより、以下のように
決められています。
(1) 航路の利用
① トルコ海峡を航行する船舶は、分離通航方式(TSS)を励行、尊重しなければならない。
② TSS に従うことが不可能な船舶は、時間的余裕をもって、通航管理センターに通報しなけ
ればならない。このような場合には、権限ある当局は、一時的に TSS の全部又はその一部
を停止し、当該海域を航行する他の船舶に通報し、国際衝突予防規則第 9 条(狭い水道の
航法)に従うよう助言することができる。
③ TSS に従うことが不可能な船舶の安全を確保するために、権限ある当局は一時的に両方
向通航方式を停止し、安全な船間距離を維持するために一方通航を実施することができる
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第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
(これにより、大型危険物積載船舶航行時は、ボスフォラス海峡、ダーダネルス海峡を一方
通航としている)。
(2) 船舶通報及び航海情報
① トルコ海峡に入域しようとするすべての船舶は、権限ある当局が設定した船舶通報
(TUBRAP)を行うことが強く勧告される。
② 効果的かつ迅速な交通管理を実施し、航行安全及び海洋環境保護に資するため、トルコ
海峡を通航しようとする船舶は、船舶の大きさ、バラスト・積荷の状況、国際規則に規定する
有害危険物積載の有無に係る情報を事前に提供することが強く求められる。
③ トルコ海峡を航行するすべての船舶は、権限ある当局が発信する情報を利用し、TUBRAP
に従い VHF を聴取することが勧告される。
(3) 水先業務
トルコ海峡を通航する船舶の船長は、航行安全の確保のため、経験のある水先人を乗船させ
ることを強く勧告される。
(4) 昼間航行
最大喫水 15m 以上及び全長 200m 以上の船舶は、昼間にトルコ海峡を航行することが勧告さ
れる(このため、可能な限り航行待機が生じないよう、マルマラ海において夜間航行を行い、ボ
スフォラス海峡及びダーダネルス海峡を昼間航行するよう調整している)。
(5) 曳航
トルコ海峡を曳航によって航行する場合には、航行安全の確保のため、タグボート又は十分な
設備を有する船舶に曳航されることが求められる。
(6) 錨泊
必要な場合には、船舶は指定錨地において錨泊することができる。また、トルコ政府は、1998
年に、トルコ海峡の特性、航行船舶数の増加、潜在する危険性を踏まえ、航行安全の確保及
び海洋環境の保護を目的として、VTSを設置することを決定しました。2003 年7月より、試験運
用を開始し、10 月末から本格運用を行う予定です。
① VTSはトルコ運輸省海事局長(Secretary for Maritime Affairs, Ministry of Transport)の傘下
にあり、沿岸安全救助部長(General Manager of Coastal Safety and Salvage Administration)
が統括管理する。
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第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
② VTSセンターはボスフォラス海峡とダーダネルス海峡にそれぞれ一箇所ずつ設置する。
③ VTS対象海域の航行船舶に関する情報は、各所に配置したマイクロ波レーダーセンサー、
CCTV/赤外線カメラ及び DGPS システムを利用して収集する。その他、海洋環境に関する
情報は、気象、海象探知センサーを利用して収集する。
④ VTSにおいては、AISに対応した装置を装備している。
⑤ トルコ海峡内の航行規則違反船舶に対し、ビデオ、音声録音装置、電子海図等の最新機
器を使用し、厳正な取締りを実施する方針であるが、AISによって得られた情報を取締り、訴
追の証拠として使用することには消極的である。
3.トルコ海峡の航行安全に関する費用分担
トルコ海峡の両岸はトルコ領ですが、1936年モントルー条約(昭和12年海峡制度ニ関スル条
約)により、商船の通過・航行の自由が認められています。本条約は、現在11ヵ国が批准して
おり、日本もその1つですが、サン・フランシスコ平和条約第 8 条(b)により、同条約上の一切の
権利及び利益を放棄しています。
モントルー条約において、商船は海峡内の通過・航行の自由を認められるかわりに、トン数(登
録トン)に応じて、灯台、灯標の維持、検疫管理、人命救助業務に関する税と料金を負担しま
す。実際には、代理店を通じて、まとめて定期的に支払いますが、トルコ当局者によると、徴収
もれがあるようであり、また、金額が小さすぎるとも言っていました。
モントルー条約と国連海洋条約の関係について、トルコ当局としては、トルコ海峡に国連海洋
条約第 3 部の「国際航行に使用されている海峡」の規定の適用はなく、あくまでもモントルー条
約の規定に従うと考えています。その場合、モントルー条約は、国連海洋条約第 35 条(c)に規
定する「特にある海峡について定める国際条約であって長い間存在し現に効力を有しているも
のがその海峡の通航を全面的又は部分的に規制している法制度」に該当するものと考えら
れ、国連海洋条約第 3 部に定める海峡の通過に関する規定はモントルー条約の規定する法
制度には影響を及ぼすものではないと解されます。
なお、モントルー条約の締約国でない国についても、実態上モントルー条約の規定の範囲内で
通航を認められてきています。
4.マラッカ・シンガポール海峡への参考点
マラッカ・シンガポール海峡は、トルコ海峡のように袋小路になっておらず、また、モントルー条
約のような「特にある海峡について定める国際条約であって長い間存在し現に効力を有してい
るものがその海峡の通航を全面的又は部分的に規制している法制度」があるわけでもありま
せんが、(1) 航行援助業務、検疫業務、救難業務の対価を徴収していること、(2) 船舶の登録
トンに応じて金額を定めていること、(3) 代理店を通じて徴収していること等は、マ・シ海峡にお
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第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
ける新制度を構築する際に一つの参考になるものと思われます。
E 協力の原則
海峡利用国と沿岸国という、相反する利害を有する主体が協力していくためには、下記のとおり、
その原則となるべき事項があると考えられます。以下に各原則について説明します。
・ 公平性
・ 透明性
・ 費用対効果
・ 持続性
・ 調和性
・ 海洋法条約との整合性
1.公平性
マ・シ海峡の利用国負担問題の根底にある考え方は、海峡の機能維持に必要な負担は海峡の利
用により便益を受けている国(者)の中で便益の程度に応じて公平に配分されるべきである、とい
うものです。この公平の原則は、沿岸国―利用国の関係のみならず、利用国相互の関係におい
ても適用されるべきものです。現在、海峡利用国として、日本だけがマ・シ海峡の機能維持のため
に支援協力をしているという状況は、この公平の原則の観点からは好ましいものではありません。
なお、先ほど、利用国相互の関係においても適用されるべきもの、と述べましたが、更に、利用国
の各利用主体(船舶所有者、荷主、等)相互の関係においても、当然に適用されるべきものです。
2.透明性
マ・シ海峡をどの国の船舶がどの程度利用しているのか、現在、船舶の安全な海峡通航に関する
差し迫った問題がどこに存在するのか、マ・シ海峡沿岸国はどの程度の財政的負担してどのよう
な対策を講じているのか、といった情報は、海峡沿岸国と利用国との協力関係を推進していく上で
基本となる事項であり、海峡沿岸国から利用国に当該情報の開示が行われる必要があります。
そして、沿岸国と利用国は共有するそのような情報をもとに、あるべき協力制度を構築していく必
要があります。また、構築された協力制度の運用に際しても、制度運用に必要となる各種情報は
関係者に対し常時開示されていることを確保する必要があります。現在、海峡沿岸国はそのよう
な情報を開示していません。このため、利用国の独自の努力により、マ・シ海峡通航量調査など
が行われています。沿岸国によるこのような主要データの非開示は、沿岸国利用国負担問題に
係る議論を進めていく上でおおきな障害となることが予想されます。
3.費用対効果
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第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
マ・シ海峡の航行環境を改善する対策とその効果については、当該対策を講じるために要する費
用との相対関係の中でとらえる必要があります。例えば、スマトラ島に VTIS を設置するという構
想が提案される場合、既にマ・シ海峡全体をカバーする VTIS がマレーシア及びシンガポールによ
って設置されていることを考慮すると、当該 VTIS の設置に係る費用は、その効果に見合ったもの
であるとは言えません。従って、どのような対策を講じるべきかについての検討を行う場合、各対
策の必要性は、特に、費用対効果の観点から十分に検討される必要があります。
4.持続性
海峡の機能維持は、絶え間ざる不断の努力により為し得るものであり、特に財政的観点から将来
にわたり持続可能なものでなくてはなりません。財政的観点からの持続性に着目する場合、大切
なのは、継続的な資金の流入が確保されるための恒久的制度が構築される必要があります。そ
のような意味では、任意供出者のその時々の都合による一時的な資金供出という形式の協力は
問題が残るといえます。
5.調和性
(1) 各種対策相互の調和性
マ・シ海峡の海上交通路としての機能を維持・発展させるために必要な対策には様々なものがあ
り、これらの対策は、その実施主体などによって、いくつかのカテゴリーに分けて考えることができ
ます(詳細は後述)。これらのカテゴリー別の各対策は、重複、ギャップなどによる非効率が生じな
いよう、相互に調和が保たれた状態で実施されるよう、関係国の中で十分な調整を行う必要があ
ります。
(2) 他の類似の国際海峡で実施されている対策との調和性
マ・シ海峡における利用国の協力に基づき実施される各種対策は、他の類似の国際海峡で実施
されている対策の程度と著しくかけはなれるべきではありません。従って、当該対策の実施にあた
っては、他の類似の国際海峡において採られている対策や、国際標準などに関し十分な調査を
行う必要があります。例えば、マ・シ海峡においては、現在、海上電子ハイウェー(MEH)というプロ
ジェクトを実施する計画がありますが、このような最先端のシステムを導入している海峡がない現
時点においては、非常に付加価値は高いが必要経費も極めて高くなると思われる対策を利用者
側の負担を活用して実施する、ということは、利用者側の理解を得ることは難しいと考えられま
す。
⇒他の類似の国際海峡で実施されている対策
現在、海洋法条約第3部の国際海峡制度が適用される海峡のうち、海峡沿岸国と利用国
との間で、費用負担の分担に係る協力が行われている海峡はありません。マ・シ海峡に
179
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
新たに利用国負担制度が構築された場合には、当然、他の国際海峡についても同様の
制度を構築する動きが誘発され、世界的に拡大していく可能性があります。
現在、IMO においては、事務局長のイニシアチブにより、戦略的に重要な海運航路にお
ける国際協力制度の構築に係る動きが出ていますが、マ・シ海峡のみを対象とすることは
困難であること、利用国の数が膨大(ほぼ、全加盟国)になること、セキュリティーの要素
を含むこと、などから、短期間に一定の結論を得ることは極めて困難であると考えられま
す。
6.海洋法条約との整合性
海洋法条約第 43 条の規定の趣旨に沿ったものでなくてはなりません。従って、極端に協力事項
の範囲が拡大する、つまり、利用国が過度に負担する結果になる、という事態は、持続性の観点
からも好ましくありません。ただし、特定の利用国が第 43 条の協力の範囲を越える事項に関し、
特定の沿岸国と特別の協力協定を締結してその実施について合意した場合には、これを排除す
るものではありません。
F 協力の枠組みの方向性
先に述べた協力の原則に照らし、現在、様々なところで提案されている協力の枠組みについて、
その将来的な方向性などについて考察します。なお、下記に述べる協力の枠組みについては、協
力の主体・客体、協力媒体、協力の任意性などの様々な前提条件により、その内容や付随する問
題点、今後の方向性などが異なってくるため、あくまでも、これから利用国負担問題に係る議論を
深めるための当面のステップとして認識していただければと考えるところです。
1.協力の目的
マ・シ海峡の沿岸国及び利用国は、同海峡の海上交通路としての機能を、将来にわたり持続的に
維持・発展させていくため、公平の原則や海洋法条約の諸規定に基づき、かつ、沿岸国の主権に
十分配慮したかたちで、相互に協力をしていくことになります。
2.協力の方式
海峡沿岸国に対する利用国による協力方式は、次のとおり分類できます。
(1) 海峡沿岸国に対する間接的支援協力
【概要】
海峡における諸事象への対応は沿岸国が行い、利用国は当該沿岸国による対策の実施を下記
180
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
プログラムを通じて、間接的に支援するもの。
(a) 資金提供プログラム
(b) 物資供与プログラム
(c) 人材育成、技術供与などのソフト面での協力プログラム
【具体的事例】
・ ODA などによる無償資金協力
・ 船舶の寄贈
・ 専門家の派遣
・ 各種研修の実施
【問題点】
・ 実際にどのような対策を講じるのかについては、沿岸国の裁量にまかされており、場合によっ
ては、効果的な対策が講じられない場合も想定しなければならない。
・ 資金提供というかたちで行われる協力は、例えば、技術供与・移転を必要としている分野にお
いては適当な方法ではない。
(2) 海峡沿岸国と利用国とによる共同支援協力プログラム
【概要】
海峡における特定の事象を対象として、海峡沿岸国と利用国の特定機関が共同で実施するも
の。
【具体的事例】
・ 海峡沿岸国と日本とが実施した水路測量事業
・ 合同パトロール(未実施)
【問題点】
・ 沿岸国の主権に深く関係するため、当該プログラムの内容や沿岸国の意向に大きく影響され
る。
・ 技術支援の要素が強い場合は、この方式を採用し、共同作業を通じて技術移転が図られるこ
とになる。
(3) 海峡利用国単独による支援協力プログラム
【概要】
海峡における特定の事象を対象として、海峡利用国の特定機関が単独で実施するもの。
【具体的事例】
米国のファーゴ太平洋司令官が提案した米国軍のマラッカ海峡常駐構想
181
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
【問題的】
・ 沿岸国の主権に深く関係するため、当該プログラムの内容や沿岸国の意向に大きく影響され、
実現の可能性は極めて低いものと考えられる。
以上の分類の中から、特に協力の原則のところで述べた公平性の観点から適当な協力方式は何
か、ということ考える場合、関与できる国が限定される(2)及び(3)の協力方式は、公平性の観点か
ら適当ではないと考えられます。更に(1)の協力方式についても、(b)及び(c)については、同様に、
関与する国が限定されるので、公平性の観点からは適当ではありません。従って、マ・シ海峡を利
用することにより便益を受ける者から、その便益の程度に応じて公平に負担を分配する、というこ
とを実現できる唯一の方法は、(1)(a)の資金提供プログラムに基づく協力であると考えられます。
そのためには、便益の程度に応じて各国が沿岸国に資金を提供する恒久的な制度を構築する必
要があり、これについては、後述します。
3.協力の任意性
利用国負担問題に関する議論において、利用国の負担は、あくまでも、当該国の任意の意思に
基づき実施すべきである、という意見、また、国際条約などに基づく強制的なものとするべきであ
る、という意見などがあります。この問題については、利用国負担制度構築に係る現実的な障害、
制度構築の緊急性、マ・シ海峡沿岸国や利用国を取り巻く様々な社会・経済事象の変化状況など
について十分考慮する必要があります。しかし、先ほど述べた公平性の観点から見る場合、任意
制度は出資する国としない国に差が生じるという問題点があります。また、任意では出資国(者)
の経済・資産状況などにより出資が中止されるなどの事態も考えられ、継続性の観点からも問題
があります。更に、任意の判断により船舶などの現物供与方式の協力を行おうとする場合、現実
的な問題として、沿岸国の意図とは異なる支援が行われる可能性が大きく、沿岸国における他の
諸施策との調和性という観点からも問題があります。
ただし、本来負うべき負担以上の貢献を独自の価値観や判断に基づき任意に実施したいと考え
る国または団体があった場合、これを否定するものではありません。例えば、A 国が自国に割り
当てられた負担分以上の額を支払うことや、A 国に所在する民間団体が沿岸国政府との独自の
合意に基づく特定のプロジェクトを実施することは可能と考えるべきです。
4.被協力国の実情への配慮
国際協力に付随する一般的な問題点として、被協力国の経済社会の実情や、協力対象となる当
該国関係機関の対応能力への配慮を欠いた協力については、協力の原則のところで述べた持続
性の観点、また、沿岸国における他の諸施策との調和性という観点から問題が生じる可能性があ
ります。従って、個々の協力プロジェクトを実施するに際しては、そのような点に関し十分な検証を
行い、かつ適切な配慮を行った上で実施する必要があります。具体的な例としては、インドネシア
海運総局には、オーストラリアのソフト・ローンと無償資金協力を活用して実質的に供与された防
182
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
災船が2隻ありますが、インドネシア海運総局の実情を無視したものであり、結果的に海運総局
が有する防災能力の低下につながる可能性があります。
⇒インドネシア海運総局の実情を無視
船舶の供与で一番問題となるのが、供与後の運航に係る経費の捻出である。通常、物の
供与の場合、供与後の維持・管理及び運用費用は手当されない。特に船舶の場合、燃料
代は維持・管理及び運用費用の大部分を占めることから、これを確保できなければ、宝の
持ち腐れ、ということになる。海運総局では、当該防災船に必要となる燃料代の1割程度
しか確保できない、と見積もっており、必然的に、現在保有する他の船舶の運航にも悪影
響を及ぼすことになる。
5.基金の設立
先ほど、マ・シ海峡を利用することにより便益を受ける者から、その便益の程度に応じて公平に負
担を分配する、ということを実現できる唯一の方法は、(1)(a)の資金提供プログラムに基づく協力
であり、便益の程度に応じて各国が沿岸国に資金を提供する恒久的な制度を構築する必要があ
る、と述べました。この恒久的制度としてどのようなものが適当であるのかについては意見が分か
れるところですが、関係者の中でよく指摘される有力な選択枝が基金の設立です。ただし、基金に
ついても様々な形態があり、一概に適否を判断することは困難ですが、ここではモデルケースとな
り得るものを検討材料の一つとして提示したいと思います。
(1) 基金の財源
基金の財源は、マ・シ海峡通航船舶数及び当該船舶の総トン数に応じた、当該船舶の登録国
(マ・シ海峡沿岸国を含む)からの資金と、マ・シ海峡沿岸国が船舶の寄港から得られる便益に応
じて支払う資金の二つです。
⇒マ・シ海峡通航船舶数及び当該船舶の総トン数に応じた
基金の財源を受益者から徴収するわけであるが、受益者の特定と受益の程度の特定と
いう問題が生じる。
海峡の安全な通航による直接的受益者は通航船舶である。しかし、間接的受益者につい
ては、二次的受益者、三次的受益者を含めると、その数は膨大なものになる。また、その
受益の程度も様々になる。第Ⅷ章「国連海洋法条約第 43 条に基づく海峡沿岸国と利用
国の協力」でも述べたが、受益者特定の作業を関係各国関係者がコンセンサス・ベース
で行うとした場合、便益の程度が応分の負担割合に直結するという考えに基づく限り、関
係者間の利害対立が表面化し、妥当な結論を出すことは極めて困難となる。従って、受
益者の特定作業は、これから利用国負担問題に関する議論を開始するにあたり、どの国
がその議論に参加するべきか、ということを見出す程度に止めることが賢明であると考え
られる。
183
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
応分の負担割合に直結する受益の程度を特定するためには、間接的受益者については
考慮すべきではなく、直接的受益者についてのみ考慮すべきである。直接的受益者であ
る通航船舶がどの程度便益を受けているかについては、第Ⅷ章「国連海洋法条約第 43
条に基づく海峡沿岸国と利用国との協力」で述べたとおり、(1)運送貨物の価格、(2)貨物
運送賃、(3)通航隻数、(4)通航船舶の総トン数などいろいろ考えられるが、把握の容易さ
を考えた場合、単純に通航隻数に総トン数を組み合わせるという方法が一番適切である。
マ・シ海峡通航船舶の船籍国別の通航隻数及び総トン数に関する統計は、強制船位通
報制度が実施されている現在においては、容易に収集することができる。
当然のことながら、このような指標を使用した場合、受益者とは船籍国ということになるが、
あくまでも、これらの船籍国は一次的な負担者であり、負担分を更に別な者に転嫁するこ
とも可能である。
⇒当該船舶の登録国(マ・シ海峡沿岸国を含む)からの資金
例えば、1万トンクラスの貨物船が海峡を1回通過した場合、どの程度の費用を徴収すべ
きか、について決める必要がある。本来であれば、需要(必要とされる対策に必要となる
金額)と供給(海峡通航船舶量)との関係で決められるべき問題であるが、どの対策がど
の程度必要とされているのか、について、海峡沿岸国と利用国との間でコンセンサスを得
ることは困難であると予測される。従って、特別の法制度に基づき既に費用の徴収を行っ
ているトルコ海峡などと調和するような形で決定されるべきである。
そもそも、海洋法条約との関係で、そのような費用を通航船舶から徴収することができる
のか、という問題がある。海洋法条約第 26 条(第2部「領海及び接続水域」)は、外国船舶
に対しては、領海の通航のみを理由とするいかなる課徴金も課することができないが、特
定の役務の対価としてであれば可能、と規定している。一方、第3部「国際海峡」には、そ
のような規定はない。これは、国際法の解釈や当該規定が確定するまでの議論などを詳
細に考察する必要があり、国際法の専門家にお任せするしかないが、仮に海洋法条約第
26 条が国際海峡には適用されない、としても、沿岸国と利用国とが合意して課徴金制度
を構築する限り、海洋法条約はこれを否定するまでの意図は持たず、通航船舶に課徴金
を課すことは可能であると考える。なお、国際海峡の課徴金制度に関しては、加々美康彦
「国際海峡と課徴金―マラッカ・シンガポール海峡における持続可能な資金調達体制の
構築をめざして―」『国際海峡利用国と沿岸国の協力体制』〔財団法人シップ・アンド・オー
シャン財団 海洋政策研究所〕(2004.03)参照
⇒資金の二つ
この二つの資金の割合をどうするのか、について考える必要がある。船舶の通航による
便益の程度は、前に述べたとおり、海峡沿岸国、利用国の区別なく、通航船舶数を基準
に考えることができるが、海峡沿岸国が通航船舶に対する各種サービスを提供すること
により得るであろう利益は、どのように考慮すべきであろうか。海峡沿岸国の中でもシンガ
184
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
ポールは、港湾サービスから多大なる便益を得ているため、この要素は極めて重要な要
素となり得ると考えられる。なお、この費用負担割合を考えるに際しては、沿岸国が各種
対策を実施することにより、経済効果、雇用創出といった二次的な便益をどのように考慮
すべきか、ということも考慮に入れる必要がある。
(2) 徴収メカニズム
マ・シ海峡通航船舶数及び当該船舶の総トン数に応じた、当該船舶の登録国(マ・シ海峡沿岸国
を含む)からの資金については、沿岸国は、海峡通航船舶に係るデータに基づき算出された金額
を当該登録国に請求します。登録国は、負担分を、船舶の登録に係る税金、手続料といったかた
ちで船主に対し転嫁します。船主は、運賃で荷主に転嫁し、荷主は販売価格などで末端消費者に
転嫁することになります。なお、未払い国に対する何らかの措置を担保しておく必要があります。
また、利用国による現物支給分(沿岸国の合意に基づく)がある場合、これに相当する額を当該
利用国の負担金額から相殺することの適否については、具体的相殺金額の算出は難しいものの、
協力の柔軟性の観点からは認めるべきと考えます。
マ・シ海峡沿岸国が船舶の寄港から得られる便益に応じて支払う資金については、沿岸国が支
払うことになりますが、当該負担額を何らかのかたちで事業者などに転嫁するか否かについては、
各沿岸国の裁量によります。
(3) 基金の運営
基金を適正に運営するため、基金運営委員会を設置します。当該委員会は、主として事務局と総
会から構成されます。
【事務局】
・ 事務局機能の公平性を担保するため、事務局長は IMO などの国際機関から招聘することが
好ましい。
・ 事務局の設置場所は、公平性や IMO との関係を考慮し、IMO が所在するロンドンが適当であ
る。
・ 事務局は、沿岸国から提出される事業計画書に基づき、予算案を作成し総会に提出する。な
お、沿岸国の事業計画書の作成にあたり、事務局は沿岸国に対し適切な助言を与える。
・ 事務局は、マ・シ海峡の現況や必要とされる対策について、公平な立場で調査を実施する機能
を有する。また、沿岸国からの依頼に基づき、必要な調査を実施する。
・ 活動報告書を作成し IMO に提出する。
・ 事務局は基金の運営に必要となるデータ(通航船舶量、海難件数、実施している諸政策の詳
細など)を海峡沿岸国、利用国に対し請求することができる。
・ 事務局は、沿岸国から提出される事業決算書に基づき、決算案を作成し総会に提出する。な
お、沿岸国の事業決算書の作成にあたり、事務局は沿岸国に対し適切な助言を与える。
185
第Ⅸ章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
⇒沿岸国から提出される事業計画書
沿岸国は、マ・シ海峡の海上交通路としての機能維持を図るため、必要と考えられる対策
の中から、利用国の財政的支援を得て実施したいと考える事業について、事業計画書を
作成し事務局に提出する。
【総会】
・ 総会は全ての海峡沿岸国及び利用国から構成される。
・ 総会は基金の運営に関する全ての事項(事業予算案、事業決算案など)を決定する権限を有
する。
・ 総会における議決権は公平の原則に基づき出資額に応じたものとする。
・ 船主などの団体は、所在地国政府ではなく、登録国を通じて自らの意見を反映させることにな
る。
6.支援協力対象プロジェクト
どのような支援協力プロジェクトを実施すべきかについては、原則としては、沿岸国の判断による
ことになりますが、航行安全や海洋汚染防止といった分野における、比較的安価、かつ小規模な
もの(航路標識の設置等)については、沿岸国が自前で措置すべきであり、一方、最新の技術を
応用した高価かつ大規模なもの(VTIS、AIS 局の設置等)については、沿岸国が利用国の支援協
力を得て措置すべきである、と考えられます。なお、とりわけ、海上セキュリティー分野においては、
沿岸国の主権の問題もあり、利用国が直接的に支援協力することは困難であるため、財政的支
援、専門的技術の移転、人材育成、能力向上など、様々な側面的な支援策が利用国の協力によ
る行われるべき、と考えられます。なお、財政的支援以外の支援協力分野については、先にも述
べましたが、支援協力の柔軟性の観点から、その実施に必要となる相当する額を当該利用国の
負担金額から相殺するべきと考えます。
7.欠陥のあるサービスの提供に因る損害賠償の責任
海峡沿岸国が利用国からの支援を受けて、特定のサービスを提供するということであれば、当然、
欠陥のあるサービスの提供に因り、利用国側(通航船舶)が損害を被る場合には、その損害や過
失などの程度に応じた賠償が沿岸国側から利用国側になされるべきであると考えます。
8.合意文書
以上述べてきた各項目について、何らかの合意文書が必要となりますが、全ての IMO 加盟国が
参加する形で、また、マ・シ海峡以外の国際海峡にも適用されるような形で、利用国負担制度が
構築されるのであれば、包括的な条約を制定する必要があります。なお、利用国が独自の判断に
基づき、追加的に特定のプロジェクトに対し任意拠出するのであれば、海峡沿岸国と当該任意拠
出国との間の合意文書(協定、取極、覚書等)の文書が必要となります。
186
第Ⅹ章 おわりに
第Ⅹ章 おわりに
今回の調査研究においては、マ・シ海峡の海上交通の大動脈としての機能を持続的に維持・発展
させるという共通の目標のもとに、海上安全、海洋汚染防止、海上セキュリティーの各分野におい
て、海峡沿岸国と日本、中国、韓国、米国などの主要な海峡利用国とが、どのように協力を進め
ていくべきか、ということについて焦点をあて、そのための制度構築に向けた方向性について、何
らかの示唆ができればと考え、ここまで、いろいろ考察してきたわけですが、この最後の段階にな
って、当初意図していたことがきちっと出来ているのか、という点については、多分に疑問が残る
ところです。最後の重要な部分になって息切れしてしまった、というのが正直なところです。
今回の調査研究においては、マ・シ海峡の利用者負担問題に携わる者が最低限抑えておかなけ
ればならない点について、広く浅く記述しておりますが、内容に誤り等がある場合には、遠慮なく、
当事務所にご連絡下さい。それらを踏まえまして、再度、近いうちに改訂版を発行したいと考えて
おります。
最後に、日頃より、当事務所の活動にご理解を頂いていることに対し御礼申し上げます。
187
第3編
情報アラカルト
港湾・海運
PILコンテナ船内で死亡したインドネシア人乗組員、SARS疑惑消える············· 189
4月8日以降シンガポールに寄港する船舶 乗組員の健康状態申告求められる·········· 189
船舶燃料業者に新しい規制=燃料ごまかしスキャンダルを受けて···························· 189
IMOはECタンカー提案に合理的な対応が必要 ················································· 190
スター・クルーズ、クルーズ船2隻をオーストラリアへ ········································ 190
ジョホール港の設備拡充にドバイの富豪が協力・シンガポール港との競争激化·········· 191
マレーシア国際海運、シンガポール海運大手 NOL のタンカー子会社を買収へ ·········· 191
タイのレムチャバン港に大型投資か=政府系港湾管理会社PSA···························· 191
シンガポール ゴー首相、東南アジアのシーレーンの重要性訴える························· 192
シンガポール港のコンテナ取扱量が前月比5.3%減少=PSA···························· 192
IATA、馬タンジュン港に空港業務を認可海運・空輸の一体サービスが充実·········· 192
マレーシアの8主要港に空港施設建設-シンガポールへの貨物流出を阻止へ············· 193
シンガポール 船舶燃料供給大手、贈賄確定で営業停止 ········································ 193
インドネシア海軍 アチェ海域の外国船を無差別に銃撃へ ····································· 194
地元3大学への海運専門の教授派遣に 1,600 万Sドル支援=シンガポール政府·········· 194
海運統括事務所誘致を目指す優遇税制の対象を拡大=シンガポール運輸相················ 195
5 月の PSA 貨物扱い高、6%増加 ······································································ 195
仏CMA-CGMの貨物拠点はマレーシアPTPに ·············································· 195
域内拠点をジョホール港に移転=英ギアバルク-マレーシア ·································· 196
タイのレムチャバン港、シンガポール国際物流ハブの地位脅かす存在に=世銀·········· 196
アチェ海域の航行禁止、無登録船だけ ································································ 196
元海軍トップのリュー少将がシンガポール海事港湾庁最高責任者に就任へ················ 197
星リム前情報通信・芸術相代行、海運大手NOLのCEOに就任か························· 197
ジョホールへの拠点移転後も星から完全撤退せず=英海運会社ギアバルク················ 198
インドネシア船主協会「アチェ封鎖、マラッカ海峡の航行に影響なし」··················· 198
シンガポールからの船舶燃料ハブの地位奪取計画は継続か=馬ジョホール港············· 199
マレーシア 全ての灯台 11基を中央制御へ························································ 199
名前の表わすもの ··························································································· 200
スーパースター・ヴァーゴ号の運転拠点、再びシンガポールに ······························· 200
船舶燃料業者に2年以内の新規制順守求める=海事港湾庁 ····································· 201
日本船主協会新会長、多くの問題への取り組みに意欲 ··········································· 201
インタータンコ:EU のタンカー船齢制限、質の低下招きかねない ························· 201
PSAの料金引き下げパッケージの延長望む=シンガポール港利用の海運会社·········· 202
PTP、シンガポール経由輸出貨物の半分を奪回=マレーシア ······························· 202
ジョホールにLME認定倉庫を建設へ=英ギアバルク マレーシア·························· 203
IMO、シンガポール海峡改正を支持 ································································ 203
中国、タイ地峡建設計画に関する話し合いのスピードアップを求められる················ 203
ジュロン港とPSA、海上貨物管理システムをリンクへ ········································ 204
シンガポール港とジョホール港の合併には反対せず=マレーシア第2財務相············· 204
中国海運大手COSCO、シンガポール港のコンテナふ頭の経営に参加··················· 205
海運業界の雇用拡大へ=シンガポール海事港湾庁 ················································· 205
IMOがマニラに地域事務所を開設 ··································································· 206
海運・造船業界の R&D 促進に1億ドルの基金創設=海事港湾庁 ···························· 206
1-7月のシンガポール港のコンテナ取扱量、6・3%増=海事港湾庁··················· 206
シンガポール海事港湾庁 商船法を改正へ ·························································· 207
JICA、内航海運振興で基本計画作成 ····························································· 207
8,000TEUのコンテナ船の注文が100隻に ·············································· 207
シンガポール港の今年のコンテナ取扱量、前年比6%増に=PSA························· 208
世界の船員市場、3割がフィリピン人 ································································ 208
日本財団、インドネシアに設標船寄贈 ································································ 209
インドネシア政府は、日本から設標船を寄贈される ·············································· 209
インドネシアに、海峡の安全確保の船 ································································ 210
海洋ワークショップ、きょうから開催 ································································ 211
海事保安・船員政策など協力プロジェクト採択へ 日・アセアン交通大臣会合·········· 211
マラッカ海峡の利用国に資金負担要請へ=安全確保でマレーシアなど沿岸諸国·········· 212
マレーシア マ・シ海峡の利用国に海峡利用料負担求める ····································· 212
港湾公社、持ち株会社方式に移行 ······································································ 213
船舶燃料事件、3年越しの捜査完了 ··································································· 213
ジュロン・シップ、最大コンテナ船完成 ····························································· 214
ジュロン島安全確保でハイテク検問所 ································································ 214
PSA、釜山港への出資も視野に ······································································ 214
ばら積み貨物の海上輸送料金が過去10年ぶりの高水準に=シンガポール················ 215
中国・洋山港の運営管理で香港のハチソンと提携か=シンガポールのPSA············· 215
PSA貨物取扱量、1~10月期7%増 ····························································· 215
クラン港、PTPに定期貨物航路=海運の伊ロイド、豪州などへは積み替え············· 216
自動操縦クレーン設置、PTP効率化 ································································ 216
中国蘇州の埠港に11億元投入へ=香港モダン・ターミナルズ ······························· 216
シンガポール:マ・シ海峡の利用国の資金負担を支持 ··········································· 217
海運業活性化に向け新大統領令を準備=インドネシア ··········································· 218
1-9月のシンガポール港の取扱量、前年同期比7.3%増=星海事港湾庁············· 218
国際海事機関が初のアジア事務所=比 ································································ 218
インドネシアで防災船を受注=約30億円で-トーメンと三井造船························· 219
海運会社数社とターミナル株売却で交渉=港湾管理のPSA-シンガポール············· 219
中国海運最大手COSCOとシンガポール政府系テマセク、提携関係を拡大へ·········· 219
シンガポールでの貨物取り扱いを2倍に=中国海運大手COSCO························· 220
1-10月のシンガポール港の取扱量、前年同月比7.8%増=海事港湾庁············· 220
航行安全確保にMEH導入の必要高まる=マ海峡の混雑化で-IMO ························ 220
03年のコンテナ取扱量が史上最高に=前年比7.8%増 シンガポール港 ············· 221
インドネシア 自国籍船による主要物資の国内輸送を提案 ····································· 221
船舶燃料の売り上げが昨年12月、2年ぶりの最高値を記録 ·································· 222
シンガポールのPSAの長期債格付けを「Aaa」に格上げ=米ムーディーズ·········· 222
ひびきコンテナ港の運営形態が確定=シンガポールのPSAが34%出資················ 222
シンガポール港とPTPの貨物取扱量増加を楽観視=海運大手マースク··················· 223
船舶の給油停泊地、2 カ所オープンへ································································· 223
星港に対抗したジョホール港船舶燃料補給港建設プロジェクトに進展か··················· 223
MPA、海上保安用レーダー追加設置 ·································································· 224
コンテナ・ターミナル開発用地を確保=アジア貨物量増大で シンガポール ············· 224
バタム島の港湾プロジェクト獲得にPSA含む大手港湾管理・海運会社が意欲·········· 225
バタム島新港湾プロジェクト、PSAの脅威とはならず=シンガポール運輸相·········· 225
シンガポール 海事センターの地位強化、運輸相表明 ··········································· 225
シンガポール 船主の資本金要件緩和、置籍奨励で ·············································· 226
バタム島の新港湾プロジェクトに参加せず=シンガポールPSA···························· 226
マラッカ海峡にヨット用の安全航路 マレーシア·················································· 227
中国海運集団、クラン港に1日2回寄港へ マレーシア········································· 227
シンガポール海峡での遭難船、入港には一定の安全基準クリアを=ヨー運輸相·········· 227
米太平洋軍司令官の下院軍事委員会証言 ····························································· 227
海賊・海上テロ
海賊がインドネシア海域で5隻の船舶を襲撃 ······················································· 229
マレーシア、海賊対策センターの設置を願う ······················································· 230
地域海域で凶暴な海賊事件が増加 ······································································ 230
シンガポール海事港湾庁 夜間の航行規制を解除 ················································· 231
今年第一四半期に発生した海賊事件、過去最多 ···················································· 231
IMOが定める新テロ対策、既存の政府機関が担当へ ··········································· 232
東マレーシアでLPG運搬船が海賊に2時間半尾行される ····································· 232
IMB 海賊事件が一週間で21件発生 ····························································· 233
IMB、ビンタン島付近に海賊事件多発警告 ······················································· 233
マレーシア 沿岸警備隊設立計画にゴーサイン ···················································· 234
シンガポール港でのスキャナーによるコンテナ検査 ·············································· 235
英国 クルーズ客船へのテロ対策実施へ ····························································· 235
インドネシアでタグボートがハイジャックされる ················································· 236
シンガポール海峡付近で海賊がばら積船を襲う ···················································· 236
インドネシアでハイジャックされたシンガポールのタグボートが発見される············· 237
マレーシア 沿岸警備隊設置へ ········································································· 237
インドネシア IMOの海賊事件統計に異議 ······················································· 238
インドネシアで再びタグボートが海賊にハイジャックされる ·································· 239
インドネシア海域で星船籍が海賊被害、注意促す ················································· 239
ビンタン島沖での海賊襲撃が増加=国際海事局が警告 ··········································· 240
マラッカ海峡利用者がマレーシアに海賊対策援助を申し出 ····································· 240
マラッカ海峡で2件の海賊未遂事件が発生 ·························································· 241
マレーシア テロを阻止、海上・港湾の警備強化 ················································· 241
インドネシア アチェ沖で海賊が台湾漁業母船に発砲 船長が負傷························· 242
インドネシア人海賊がタンカーの船長を含め3名を誘拐 ········································ 242
海賊事件の背後にアチェ反乱軍? ······································································ 243
Penrider 号海賊事件はマレーシア海域で発生 ······················································ 243
Penrider 号事件に海運業界が注目 ····································································· 244
アチェでの海賊による襲撃は、保険業者から、「内戦」とみなされる可能性 ·············· 244
海上でのテロ警戒で、シンガポールと協力=豪運輸相 ··········································· 244
海賊対策に数十億ドル、副首相が提唱 ································································ 245
マ海峡の安全確保には国際連携が不可欠=日本財団・曽野会長インタビュー············· 245
テロリストは海上での襲撃作戦に備えて、船員を誘拐し船の操縦法を習得················ 246
海上の警備対策を海運業界に徹底へ-テロ対策強化で=MPA ······························· 247
国際保安コード実施前倒し=MPA ··································································· 247
マレーシアの海賊被害は減少=マラッカ海峡では増加-1-9月実績······················ 247
マラッカ海峡で海賊被害、昨年の2倍 ································································ 248
インドネシアの1~9月海賊発生数、80件以上 ················································· 248
海賊事件急増、香港海運界が懸念 ······································································ 248
マ海峡での海賊事件増加で対策を呼び掛ける回覧書=シンガポール海事港湾庁·········· 249
シンガポール海峡近くでタンカーを海賊が襲撃=1時間近く無人航行······················ 249
国際海事局の海賊報告、インドネシアで今月6件 ················································· 250
海賊撲滅に協力、情報センターを誘致 ································································ 250
海上の治安強化を、国防相呼び掛け ··································································· 250
海賊対策センターの設置と資金拠出を提案=シンガポール国防相···························· 251
海上での最大の脅威は海賊とテロリストによる共同テロ=シンガポール副首相·········· 251
海賊取り締まりで協定=来月の首脳会議、締結合意へ-日・ASEAN··················· 251
反テロや海賊対策で安保協力=人材育成や技術支援中心・日 ASEAN 行動計画案 ······ 252
シンガポール海峡・インドネシア海域で海賊襲撃事件相次ぐ ·································· 252
インドネシアで発生した海賊事件、テロ行為と保険業者がみなす可能性も················ 253
シンガポール沿岸警備隊・日本海保海賊対策合同訓練 ··········································· 254
シンガポールと日本が海賊対策訓練を実施 ·························································· 254
シンガポール沿岸警備隊、日本と連携訓練 ·························································· 255
アチェ沖で船員が海賊に射殺される ··································································· 255
海賊対策で協力強化へ=シンガポールとインドネシア ··········································· 256
港・周辺海域の警備強化=米のテロ警戒レベル引き上げ受け ·································· 256
昨年8月のマ海峡でのタンカーハイジャック、犯罪組織が関与か?························· 257
港内艇に海賊襲撃に対する警備強化を命じる=シンガポール海事港湾庁··················· 257
マラッカ海峡・インドネシアで、海賊事件が昨年増加 手口も凶悪化······················· 257
マラッカ海峡で海賊がタンカー乗組員4人を殺害 ················································· 258
PSA管理下のシンガポール港、IMOの保安コードに対応 ·································· 258
日本 タイとフィリピンで合同海賊対策活動 ······················································· 258
日本 タイと海賊対策訓練実施 ········································································· 259
IMOの保安コード期限達成、海運各社に再喚起=シンガポール海事港湾庁············· 260
シンガポール・マラッカ海峡、テロの主要ターゲットとなる恐れを警告··················· 260
アチェ沖でシンガポール船籍のタンカー、海賊の銃撃受ける ·································· 261
タイ当局 ハイジャックされていたタグボートとバージを拘束 ······························· 261
海 難
海軍警備艇衝突事故、操縦士の判断ミスが原因=海事港湾庁 ·································· 263
韓国船籍タンカー、シンガポール東部沖合いで爆発 ·············································· 263
インドネシアの貨物船がインド沖で沈没、乗組員全員無事救助される······················ 263
バトゥ・プテー島付近でコンテナ船APLエメラルドが座礁 ·································· 264
マレーシア ククップ島沖の沈船、引き揚げられる ·············································· 264
クス島沖の船舶衝突で油がわずかに流出=シンガポール ········································ 264
海上事故の8割は過失に起因、海運局長 ····························································· 265
バンカ海峡でセメント船衝突、4人不明 ····························································· 265
スラバヤ沖で船舶衝突、3人死亡 ······································································ 265
海軍警備艇衝突事故の公判始まる ······································································ 266
フィリピン・マニラ沖フェリー火災、少なくとも65名が行方不明························· 266
火災客船にイスラム過激派組織メンバー=自爆攻撃を主張 ····································· 266
星船籍コンテナ船、インドで衝突事故 ································································ 267
社会・経済
マレーシア テロ対策センター開設へ ································································ 268
シンガポールで内閣改造=次期政権の基盤整備が狙い ··········································· 268
シンガポールの内閣改造の概要 ········································································· 268
ペドラ島領有権紛争、国際司法裁に付託 ····························································· 269
東南アジア・テロ対策センター、年内に始動=マレーシア ····································· 269
日本の天然ガス輸入量増加の予想 ······································································ 269
北朝鮮工作船一般公開に関するシンガポール現地報道 ··········································· 270
インドネシア政府 国境付近の無人島に国民の移住を計画 ····································· 270
東南アジア反テロセンター
ベテラン外交官ザイナル氏が初代事務局長に就任·········· 271
JI 関係者 4 人逮捕、タイでテロ計画 ·································································· 271
ASEAN 地域フォーラムに向けてのカンボジア外相コメント ·································· 272
ブルネイ沖での探査を中断=マレーシアが領有権主張で-仏トタル························· 273
マレーシア 運輸相にチャン・コンチョイ財務副大臣を起用 ·································· 273
東南アジア・テロ対策センターが始動-マレーシア ·············································· 274
テロリストの脱獄を受け、インドネシアの空港や港が厳戒態勢 ······························· 274
シンガポール 海上での不法入国、逮捕者数が増加 ·············································· 274
アセアンは日本との関係を強化しなければならない(ビジネス・タイムズ社説)······· 275
シンガポールの埋め立てに「待った」=マレーシアが海洋法裁に提訴······················ 275
シンガポールの埋め立て裁判25日に聴聞開始 ···················································· 275
高裁、JI星トップに禁固1年8ヶ月 ································································ 276
馬、星の埋め立て差し止め求める=国連海洋法廷での審理開始 ······························· 276
マレーシアと合同軍事演習29日まで ································································ 276
馬、星のテコン島埋め立てに懸念示す=国際海洋法廷の審理最終日························· 277
マレーシア、埋め立て中止で再要求も ································································ 277
前途多難な安保共同体=崇高な理念の前に戦火の現実-ASEAN························· 277
サバ東海岸に特殊部隊派遣=誘拐捜査を支援-マレーシア ····································· 278
大使館員が現地視察、サバの外国人拉致 ····························································· 279
シンガポールの国土拡大、当面容認-海洋法裁が差し止め請求退ける······················ 279
犯人は国内に潜伏、サバの拉致事件 ··································································· 279
シンガポールは海岸線埋め立て工事を中止すべき=マレーシア首相························· 280
埋め立て問題での裁定、受け入れを表明 ····························································· 280
東南アジア諸国における安全保障 ······································································ 280
身代金の支払い拒否、サバ誘拐事件 ··································································· 282
海事保安・船員政策など協力プロジェクト採択へ 日・アセアン交通大臣会合·········· 282
マレーシア誘拐事件、人質5人殺害か ································································ 283
インドネシアで再びテロを計画=マレーシア国籍のアザハリ容疑者························· 283
タイのパイプライン計画に日本企業が関心=プロンミン・エネルギ 相···················· 283
埋め立て工事の影響調査で委員会メンバーの人選を協議へ=星・馬························· 284
海軍産業の国際展示会・会議「IMDEX・UDTアジア」開催···························· 284
パイプライン敷設、欧州企業が名乗り ································································ 284
星馬交互に仲裁裁判、埋め立て工事 ··································································· 285
埋め立て工事の環境調査委設置交渉が進展=シンガポールとマレーシア··················· 286
2週間で密入国者11人を検挙-ジョホールから泳いで侵入試みる························· 286
ASEAN治安会議、タイで開催 ······································································ 286
イスラム過激派2人を逮捕 シンガポール··························································· 287
首謀者はマレーシア国籍の元教授 ジャカルタの米系ホテル爆弾テロ······················ 287
国際テロ研究所がオープン=データベースを構築へ ·············································· 288
PILコンテナ船内で死亡したインドネシア人乗組員、SARS疑惑消える
3月28日にPILのコンテナ船 Kota Hasil 号船上で死亡した37歳のインドネシア人
乗組員について、SARS(重症急性呼吸器症候群)の疑いが持ち上がっていたが、検死
の結果、同乗組員の死亡原因は肺膿瘍だったことがわかった。同乗組員は死亡する5日前
から高熱を出していた。同乗組員の遺体はインドネシアの自宅に送られた。
(2003年4月2日 マリタイムアジア)
4月8日以降シンガポールに寄港する船舶
乗組員の健康状態申告求められる
新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)対策として、4月8日以降シンガポール
に寄港する貨物船は、到着の12時間前に全ての乗組員及び乗客の健康状態を申告する必
要がある。これは、感染症法のもと施行されるもので、今後数週間に数千人の船員に影響
を及ぼすとみられる。
シンガポールはすでに空港での検疫を強化している。港では以前から体調の悪い乗組員
や乗客がいた場合、船長が報告すると定められていた。今回の対策強化によって配布され
る質問表(別添)には、乗船中の全員が発熱、咳、呼吸困難などのSARSの症状をみせ
ていないか、本人や家族がSARS患者と接触を持ったか、過去10日間にSARSが流
行しているエリアに行ったかどうか、船長が申告しなければならない。
個別の質問表を提出しなかった場合は、罰金5,000ドル。偽った申告をした場合は、
罰金1,000ドルまたは/及び禁固6ヶ月となっている。
ほかにも多くの港で、SARSが流行している地域からの船舶に対し同様の措置がとら
れているが、シンガポールはほかのアジアの港に比べ安全対策ではるかに前進した。
シンガポール南部セントサ島沖約1kmの検疫停泊地に送られた船舶については、該当
船舶の代理店が直ちに該船に医師を派遣し、全乗組員を検査、病人がいた場合は責任を持
って病院まで搬送しなければならない。検疫を解除する際は、医師からのメディカルレポ
ートと乗組員全員の連絡先を港湾保健所に提出しなければならない。従わなかった場合、
罰金最高1万ドルまたは/及び禁固12ヶ月。
(2003年4月7日 シッピング・タイムズ)
船舶燃料業者に新しい規制=燃料ごまかしスキャンダルを受けて
シンガポール海事港湾庁(MPA)はこのほど、一連の船舶燃料をめぐるスキャンダル
を受け、タンカーなどに船舶燃料を供給する際には、認定された分析所が発行する燃料の
品質証明書(COQ)の取得を義務付ける新たな規制策を導入した。同国の船舶燃料業界
では2001年から02年にかけ、船舶燃料の検査ごまかしや、危険な不純物が混入され
た船舶燃料が供給されていた事件が発覚するなど、不祥事が相次いだ。今回の規制強化は
その対応策の1つ。
189
船舶燃料スキャンダル対策として昨年には、すべての燃料取引でのサンプル保管の義務
付け、燃料計量業者のライセンス取得や、船舶燃料供給会社の払込資本最低基準を20万
シンガポールドル(Sドル)と2倍に引き上げるなど、新たな規制が導入されていた。
(2003年4月8日 時事速報シンガポール)
IMOはECタンカー提案に合理的な対応が必要
欧州連合15ヶ国は、シングルハル追放前倒し案を国際海事機関(IMO)に提出した。
これを受け IMO は、2000 年にエリカ号事故後の規制見直しを査定するために発足した専門
家非公式グループを再発足させ、新たな提案が与える影響を調査する。これは、IMO 加盟国
が同提案を審議する際に、できる限り多くの関連情報を入手できるようにするのが目的。
専門家グループは、タンカーによる石油・石油製品の地域または世界全体における輸送
量、提案によって影響を受けるシングルハルタンカーの数、シングルハル追放によって求
められる造船所のキャパシティ及び現存するダブルハルタンカーの数、船体リサイクル施
設の年間処理能力などを考慮する。
調査は IMO のスケジュールに見合うよう迅速に実施されなければならず、5月末には終
了が予定されているが、その目的は何がプレステージ号への合理的な対策かを決めること
であり、EU の提案が IMO としての合理的な対策と関係があるか否かを検討しなければなら
ない。EU の固い結束を無視するものであると言われようと、IMO は科学的・技術的な根拠
に基づいて行動していると目されねばならない。
(2003年4月16日 シッピング・タイムズ)
スター・クルーズ、クルーズ船2隻をオーストラリアへ
スター・クルーズ社は、新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)の影響から同社
が所有する最大のクルーズ船2隻を香港・シンガポールからオーストラリアに移転させる。
4月24日からスーパースター・バーゴ号はシドニーへ、スーパースター・レオ号はパー
スへ移転する。移転期間は1ヶ月から3ヶ月とみられ、オーストラリア観光局からも歓迎
を受けている。
スター・クルーズ社は、乗員2名にSARSの疑いが持たれたことから、両船の運航を
停止すると発表していた。
(注:うち1名はシンガポールのタントックセン病院に収容され
たが、気管支炎だったことが診断の結果明らかになった。もう1人はマレーシアのランカ
ウイ病院に収容されたが、既に回復し退院している)
同社は、アジア市場での運航状況が難しいことから、オーストラリアで新たな市場を獲
得するのが目的としている。
(2003年4月17日 シッピング・タイムズ)
190
ジョホール港の設備拡充にドバイの富豪が協力・シンガポール港との競争激化
シンガポールと国境を接するマレーシア・ジョホール州のタンジョン・プルパス港(P
TP)の経営権を握るサイド・モクタル氏はこのほど、ドバイの富豪モハメド・アリ氏と
の折半出資で投資会社「ガルフ・インターナショナル・インベストメント・グループ」(G
IIG)を設立した。GIIGは、マレーシアと中東の港、物流、不動産プロジェクトな
どに投資する予定で、当面の主要プロジェクトは、ジョホール州内に建設予定の新しい物
流複合施設。同投資会社の設立により、PTPとシンガポール港との競争はさらに激化す
るとみられている。
ジョホール州内の新しい物流施設についてモハメド氏は「PTPに隣接する土地」に建
設されることを明らかにした。モハメド氏とサイド・モクタル氏は、共同でGIIGに1
億リンギを投資するとともに、中東で投資を募り10億リンギの資金を確保する計画だ。
モハメド氏は、ドバイ経済局の局長を務めるほか、ドバイ・アルミニウム・カンパニー
の副会長、アラブ首長国連邦(UAE)最大の不動産会社EMAARの会長を務める。サ
イド・モクタル氏は、シンガポール港に対抗してPTPを開発。現在はジョホール州のセ
ナイ空港の開発を進め、同州をシンガポールに匹敵する東南アジアの一大物流拠点とする
ことを目指している。
(2003年4月22日 時事速報シンガポール)
マレーシア国際海運、シンガポール海運大手 NOL のタンカー子会社を買収へ
マレーシア国営石油会社ペトロナス傘下のマレーシア国際海運(MISC)は、シンガ
ポール海運大手ネプチューン・オリエント・ラインズ(NOL)のタンカー子会社アメリ
カン・イーグル・タンカーズ(AET)を買収する模様である。
AET買収により、MISCは大西洋にまで石油市場を拡大することができる。また、
AETは米国の輸入する原油の13%を輸送している。
このほか、ペトロナスの原油がAETによって輸出されれば、輸送に外国企業を利用す
る必要がないことからコスト削減も期待できる。
MISCの取引について、政治的側面の有無にかかわらず、マレーシアが構想している
地域海運ハブの地位獲得に一歩前進することは間違いない。
(2003年4月30日 ビジネス・タイムズ)
タイのレムチャバン港に大型投資か=政府系港湾管理会社PSA
消息筋によると、シンガポール政府系港湾管理会社PSAコープはこのほど、タイの主
要港であるレムチャバン港の港湾管理会社の1つ、イースタン・シー・レムチャンバン・
ターミナル社(ESCO)の相当規模の株式を取得することで合意に達したもようだ。消
息筋は、PSAのESCO株取得はすでに事実上確定したと指摘しているが、PSAの出
資額は明らかになっていない。
191
ESCOはレムチャバン港のB3コンテナ・ターミナルの管理を行っているほか、B1
ターミナルを管理するLCBコンテナ・ターミナル1の株式40%を保有する。ESCO
が取り扱うコンテナ量は、昨年の同港での全取扱量の約37%に達する。同港の取扱量は
1997年の170万TEU(20フィート標準コンテナ換算個数)から、02年には2
70万TEUと順調に増加しており、同国で急速に発展する自動車産業の恩恵も受けてい
る。PSAの今回の投資は、インド洋と南シナ海を結ぶ野心的なクラ運河開発計画に対す
るヘッジの意味もあるとみられている。 (2003年5月2日 時事速報シンガポール)
シンガポール ゴー首相、東南アジアのシーレーンの重要性訴える
アメリカとの自由貿易協定に署名するため訪米中のゴー・チョクトン首相は、アジア・
ソサエティ主催の夕食会でスピーチし、東南アジアのシーレーンの重要性を訴えた。
ゴー首相は、
「東南アジアで政治的にイスラム教が勢力を得れば、世界的な戦略問題に発
展するだろう。それは、東南アジアが、太平洋とインド洋と結ぶシーレーンの役割を果た
しているからである。日本、韓国、オーストラリアは直ちにその影響を受けるだろう。ア
メリカも例外ではない」と述べた。
(2003年5月8日 チャンネル・ニュースアジア)
シンガポール港のコンテナ取扱量が前月比5.3%減少=PSA
シンガポール政府系港湾管理会社PSAコープは8日、同社が管理するシンガポール港
での4月のコンテナ取扱量が143万TEU(20フィート標準コンテナ換算個数)とな
り、前月比5.3%減少したと発表した。新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)
の影響のほか、比較対象となる3月のコンテナ取扱量が同16%増と多かったことが、減
少の要因となった。
PSAのシンガポール・ターミナル部門を統括するグレース・フー氏は、SARSによ
り地元企業による貨物量が「わずかに影響を受けた」と指摘した。シンガポール港では、
地元企業の貨物は、全体の約20%を占めると推定される。フー氏は、地元企業の貨物減
少が長期にわたるかどうか注視していくと述べた。
一方、PSAが運営に参加する海外15港の4月のコンテナ貨物取扱量は合計86万T
EUと、前月比4.9%増加した。
(2003年5月9日 時事速報シンガポール)
IATA、馬タンジュン港に空港業務を認可海運・空輸の一体サービスが充実
国際航空運送協会(IATA)は、マレーシア・ジョホール州の新興コンテナ港タンジ
ュン・プルパス港(PTP)に空港業務の実施を認め、通常空港ごとに設定するアルファ
ベット3文字の識別略称を与えた。港湾施設がIATAの略称を得るのは世界初で、PT
Pの略称は「ZJT」。
PTPは、マレーシア航空(MAS)の貨物子会社MASカーゴと海空一体型の輸送サ
ービスを共同展開している。共同サービスは今後、貨物船で到着した荷物に関する空輸向
192
け通関手続きなどをPTP内で済ませ、MASカーゴの拠点であるクアラルンプール国際
空港(KLIA)に直接運べる。
MASカーゴ幹部は「中国に海路で貨物を運ぶ代わりに、PTPを経由して空輸すれば
コストと時間の削減になる」と指摘した。
(2003年5月28日 時事速報シンガポール)
マレーシアの8主要港に空港施設建設-シンガポールへの貨物流出を阻止へ
マレーシア航空(MAS)の貨物子会社MASカーゴはこのほど、港に空港施設を併設
することで海空一体型の輸送体制の確立を目指す「Iポート」プログラムの対象を、同国
の主要8港に拡大する方針を明らかにした。同プログラムは、貨物船で到着した貨物を港
施設内に設置した特別な航空貨物区で通関手続きなどをすませ、直接空港に貨物を運び航
空輸送できるというもので、これまでにジョホール州のタンジョン・プルパス港(PTP)
とクラン港のノースポートの2港で導入済み。同プログラムは、隣国シンガポールへの貨
物流出阻止が主な狙い。
PTPとノースポートはそれぞれ、空港業務を行うために国際航空運送協会(IATA)
から、空港ごとに設定されるアルファベット3文字の識別略称を与えられている。MAS
カーゴの幹部は、同2港にIポート・プログラムが導入された結果、シンガポールへの貨
物流出に成果が表れていると述べたが、詳細については明らかにしなかった。
(2003年5月29日 時事速報シンガポール)
シンガポール 船舶燃料供給大手、贈賄確定で営業停止
船舶燃料供給で 3 位のハイ・スン・ディーゼル・アンド・トレーディングは、リム・キ
ムフアット取締役が贈賄容疑を認めたことを受け、シンガポール海事港湾庁(MPA)から営
業免許を停止された。同氏は積み込んだ燃料の量目不足を見逃すよう、船舶の主任機関士
を買収した容疑で裁判にかけられていた。
ハイ・スンは年間 170 万トンの燃料油を供給していたが、広報担当者によると、シンガ
ポールでの船舶燃料ビジネスは利幅が薄く、今月に入りすでに積み込み業務を停止した。
役員の有罪認定と業務停止は関係ないという。
シンガポールの船舶燃料需給はタイトなため、同社は値が高いスポット買いをすること
が多く、これが収益を圧迫した。現在は船舶賃借など利幅の厚い業務に軸足を移している。
2001 年に発生した、船舶燃料をめぐる汚職事件では、これまでに約 60 人の検査官が収賄で
有罪判決を受けた。29 日付シッピング・タイムズが報じた。
(2003年5月30日 NNA)
193
インドネシア海軍 アチェ海域の外国船を無差別に銃撃へ
アチェの戒厳令行政官は、全ての外国船に対してアチェ周辺海域12海里への進入禁止
を発表した。しかし、この通知は広く伝わっておらず、外国船が拘束される事態を招いて
いる。
アチェは、海上交通量の多いマラッカ海峡の北西端に位置する。Bernard Kent Sondakh
インドネシア海軍参謀長は、アンタラ通信に対し、
「アチェ海域が進入禁止であるとインド
ネシア政府が公式に発表する方が好ましい」と述べた。
6月3日(火)には、パナマ船籍のタンカー(船名不明)が Sabang 港で拘束された。
「タ
ンカーは Sabang 港で拘束され、船長と乗組員は現在も取り調べを受けている」と戒厳令当
局は述べ、タンカーと乗組員の詳細は不明だと付け加えた。
船の拘束だけで済めばよいが、状況によっては、アチェ周辺海域12海里に進入した外
国船はインドネシア海軍の目にとまり次第銃撃されると海軍参謀長は述べた。
インドネシアは、アチェ海域をパトロールするため、軍艦から警察の巡視船約20隻を
配備させている。
アチェは、エクソン・モービル・オイル・インドネシアやガス加工会社 PT Arun NGL な
どの拠点。今回の対応は、自由アチェ運動(GAM)が外国船を使って武器を密輸してい
ることを受けたもので、許可を持っていない船舶に対してのみ実行される。エクソン・モ
ービルの所有する船舶は影響を受けない。
このほか、GAM活動家の海上ルートからの逃走を防ぐのがインドネシア政府の目的と
思われる。
インドネシア海軍は、5月19日にアチェに戒厳令が布告される前の1ヶ月間に、武器
を積載していたとして約100隻の船を拘束している。
過去2年間に、アチェ海域で乗組員が誘拐されて身代金が要求される事件が発生してお
り、GAMはこれらの事件に関与している。
(2003年6月5日 ロイズリスト)
地元3大学への海運専門の教授派遣に 1,600 万Sドル支援=シンガポール政府
【シンガポール5日時事】シンガポール海事港湾庁(MPA)は5日、海運分野の専門家
を育成するため、地元3大学に海運専門の教授を招へいするための費用として合計160
0万シンガポールドル(Sドル)を支援すると発表した。シンガポール国立大学(NUS)
など地元3大学に、海運専門の教授による講座が誕生するのは今回が初めて。
1600万Sドルのうち、400万Sドルは南洋工科大学(NTU)での海運管理、8
00万SドルはNUSの海運法と海運経済学、残り400万Sドルはシンガポール経営大
学(SMU)の海運ビジネス経済学の専門の客員教授、または専門家の招へい費用に充て
られる。それぞれの大学に招かれた教授は、学部学生および大学院レベルの専門コースで
教えると同時に、セミナーやワークショップなども行う予定。
MPAが今回拠出する1600万Sドルは、同国の海運分野を強化するため昨年5月に
194
設置された5000万Sドル規模の「海運業基金(MCF)
」から支出される。
(2003年6月6日 時事速報シンガポール)
海運統括事務所誘致を目指す優遇税制の対象を拡大=シンガポール運輸相
シンガポールのヨー・チャウトン運輸相は5日、国際的な海運センターとしての同国の
地位をさらに強化するため、海運会社の地域統括事務所誘致を目的とした優遇税制「国際
海運企業認定スキーム(AIS)
」の対象企業の範囲を拡大すると発表した。運輸省は今回、
AISに基づく優遇税制適用に必要な船舶リスト、船舶の人員などの基準を緩和した。ま
た同運輸相は、海運関連のローン活動を活性化するため、外貨建てオフショアローンに対
する優遇税制を、接岸済みの船舶向けローンにも適用することを明らかにした。
一方、同運輸相は、シンガポール港を運営・管理するPSAコープが、マレーシアなど
近隣諸国港との競争激化を受けて昨年導入したコンテナ取扱料金の引き下げパッケージが
今月末で期限を迎えることについて、同港の価格競争力は変わらないと指摘した。同相は、
PSAが同パッケージを延長するかどうかは、PSAが独自に判断することだと述べた。
(2003年6月6日 時事速報シンガポール)
5 月の PSA 貨物扱い高、6%増加
コンテナ荷役会社、シンガポール港湾公社(PSA コープ)の 5 月の貨物取扱高は 232 万
TEU(20 フィートコンテナ換算)で、前年同月比 5.9%増加した。7 日付地元紙が報じた。
国内での扱い高は 3.5%増の 149 万 TEU、海外港湾(9 カ国 15 港)での扱い高は 10.1%増
の 82 万 TEU だった。国内扱い高は新型肺炎 SARS の影響で減速したと関係者は見ている。
PSA は最近、マレーシア・ジョホール州のタンジュンプルパス港(PTP)との競争にさら
されているが、世界銀行は 6 日、PTP 以外の域内港湾も物流拠点として台頭しつつあり、
タイのレム・チャバン港が PSA にとり脅威となる可能性もある、との報告書を公表した。
一方マレーシアのニュー・ストレーツ・タイムズ紙は、ノルウェー・日本合弁の海運会社、
ギアバルク・プールが貨物積み替え拠点を、シンガポールからジョホール州のパシル・グ
ダン港に移転する計画だと報じた。
(2003年6月9日
NNA)
仏CMA-CGMの貨物拠点はマレーシアPTPに
消息筋によると、世界第8位の海運会社である仏CMA-CGMは、東南アジア地域の
貨物積み替え拠点を、現在のマレーシア・クラン港から同国のタンジョン・プルパス港(P
TP)に移転するもようだ。CMA-CGMは、1997年にシンガポール港からクラン
港に拠点を移しており、その後PTPとシンガポール港が、再移転を働きかけていたが、
最終的にPTPが契約を獲得したもようだ。また、マレーシアのニュー・ストレーツ・タ
イムズ紙は6日、英海運会社ギアバルク・プールが今年第3・四半期までに、貨物取扱拠
195
点をシンガポール港からジョホール州パシル・グダンにあるジョホール港に移転すると報
じていた。
PTPはこれまでにも、シンガポール港の大口顧客だったマースク・シーランドとエバ
ーグリーン・マリーンの誘致に成功しており、CMA-CGMとの契約でさらに50万T
EU(20フィート標準コンテナ換算個数)もの貨物を獲得することになる。また、ギア
バルクは、シンガポール港で扱っていた年間60万トンの貨物をジョホール港に移転する。
ギアバルクには、商船三井が40%出資している。
(2003年6月9日 時事速報シンガポール)
域内拠点をジョホール港に移転=英ギアバルク-マレーシア
マレーシア・ジョホール港の運営業者「ジョホール・ポート」のモハメド・タウフィク・
アブドラ会長は5日、英国の海運会社ギアバルク・プールと4月に施設利用契約を交わし
たことを明らかにした。ギアバルクは9月までに東南アジアの拠点港をシンガポールから
ジョホール港に移転する計画。これにより同港の取扱貨物は年60万トン増加する見通し。
ギアバルグには、海運事業で知られるノルウェーのジェフソン一族が60%、商船三井
が40%を出資している。東南アジア以外にもアルゼンチンや中国など世界6カ所に拠点
を持っている。
(2003年6月9日 時事速報シンガポール)
タイのレムチャバン港、シンガポール国際物流ハブの地位脅かす存在に=世銀
世界銀行は6日に発表した最新リポートで、隣国マレーシアのタンジョン・プルパス港
(PTP)だけでなく、タイ東部の主要港、レムチャバン港なども、東南アジアの国際貨
物取扱拠点としてシンガポール港の強力なライバルに浮上しつつあると指摘した。
世界銀行は同リポートで、PTPとレムチャバン港の利点が、取扱コストの安さと、混
雑していない道路、鉄道へのアクセスの良さなどにあると指摘。PTPについては、今後
マレーシアが鉄道ネットワークを拡張し、タイ、ベトナム、カンボジアなどの港へのアク
セスが確立されれば、競争力がさらに向上すると述べた。また、1991年に開港したレ
ムチャバン港はすでに、タイと世界を結ぶ海上輸送の窓口港としての地位をバンコクから
奪っており、タイ最大で、最新設備を備えた港に成長している。レムチャバン港の周辺に
は、米自動車大手ゼネラル・モーターズやフォード、独BMWなど主要な自動車メーカー
が工場を置いており、同地域は東のデトロイトと称されている。
(2003年6月9日 時事速報シンガポール)
アチェ海域の航行禁止、無登録船だけ
インドネシア船主協会(INSA)のウィディハルジャ副会長は、軍事非常事態宣言でナン
グル・アチェ・ダルサラーム州の海域を航行する外国船の航行が禁止されたことについて、
禁止はインドネシアの港湾に無登録の場合だけで、運航には影響しないとの考えを明らか
196
にした。
同副会長はジャカルタ・ポストに対し、
「政府が標的としているのは、適性な書類を持た
ずに 12 海里内を通行した外国船舶だけで、
(海域封鎖が)マラッカ海峡の航行に影響を与
えることはない」と述べた。
また、マラッカ海峡沿いの航海ルートは戦争リスク地域にも指定されていないとした。
海軍は 3 日、パナマ船籍のタンカーがアチェ海域を航行したためだ捕している。政府は、
外国船に対する航行中止を今後正式に通達するもようだ。
(2003年6月6日 NNA)
元海軍トップのリュー少将がシンガポール海事港湾庁最高責任者に就任へ
7月1日から元シンガポール海軍トップのリュー・タックヨー少将が、チェン・ツーペ
ン長官に代わり、シンガポール海事港湾庁(MPA)の新最高責任者に就任することにな
った。
現長官のチェン氏は国際海事機関(IMO)理事会の議長を務めている関係から、議長
の任期が終了する今年後半まで長官の職を継続する。
リュー少将は今年3月末で海軍トップを辞職、これまで4年間MPAの役員を務めてき
た。
チェン氏は、1996年に当時のシンガポール港湾庁(PSA)が法人化することを受
け、統制機能を監督する行政機関としてMPAが設置された時から長官を務めてきた。
シンガポール運輸省は、チェン氏のMPAにおける行政管理者としての勤めは終了した
と述べた。
チェン氏は、今年IMO事務局長に立候補すると期待され、当選が予想されていたこと
から、なぜ辞退したのか謎を呼んでいる。
シンガポールは近年、地域・世界の海洋問題に益々積極的に取り組んできた。MPAは、
世界第7位の船舶登録を誇るシンガポール船舶登録所の運営を含め、シンガポール港の行
政機能を監督している。
(2003年6月10日 ロイズリスト)
星リム前情報通信・芸術相代行、海運大手NOLのCEOに就任か
シンガポールでは、政府系海運大手ネプチューン・オリエント・ラインズ(NOL)の
新しい最高経営責任者(CEO)にデービット・リム前情報通信・芸術相代行が就任する
との憶測が広まっている。NOLは、今年1月にフレミング・ジェイコブズ氏がCEOの
地位を退いて以来、次期CEOの人選を進めている。
リム氏は、政府系港湾管理会社PSAコープや蘇州工業団地など政府系企業の役職を歴
任後、政界入りし、2001年11月には国務相、その後情報通信・芸術相代行へとスピ
ード出世した。しかし、先月に突然、企業でのキャリアを追求することを理由に、閣僚の
地位から辞任した。複数の消息筋によると、NOLの役員会はリム氏の任命について、市
197
場や海運業界からの意見を聞いており、特に業界からの「否定的な意見」を検討している
もようだ。海運業界では、リム氏がPSAの幹部だった90年代半ばに、コンテナ取扱料
の大幅値上げを推進した人物とみているようだ。NOLのスポークスマンは、新しいCE
Oについては今月末までに発表するとの見通しを示した。
(2003年6月12日 時事速報シンガポール)
ジョホールへの拠点移転後も星から完全撤退せず=英海運会社ギアバルク
英海運会社ギアバルクの幹部は12日、同社が東南アジア地域の貨物取扱拠点をシンガ
ポールから隣国マレーシアのジョホール港に移転した後も、引き続きジュロンを含めたシ
ンガポール港の利用を続ける方針を明らかにした。マレーシアのメディア報道によると、
ジョホール港のタウフィク・アブドラ会長は、ギアバルクが今年第3・四半期までに貨物
拠点を同港に移転すると述べていた。
商船三井が40%を出資するギアバルクは、主要オフィスを北アイルランドと南アフリ
カに置き、16カ国に拠点を持っている。マレーシアの実業家サイド・モクタル氏が経営
権を握るジョホール港とタンジョン・プルパス港(PTP)はこれまでに、シンガポール
港からマースク・シーランドや台湾のエバーグリーン・マリーンなど大手顧客の引き抜き
に成功している。
(2003年6月13日 時事速報シンガポール)
インドネシア船主協会「アチェ封鎖、マラッカ海峡の航行に影響なし」
米海軍アチェへの警備集中でインドネシアの他の地域での海賊事件増加を警告
インドネシア船主協会(INSA)副会長でもあり、PT Berlian Laju タンカー社の社長でも
あるウィディハルジャ氏は、軍事非常事態宣言の出ているアチェ海域の外国船舶航行禁止
について、航行禁止はインドネシアの港湾に無登録の船舶にのみ適用され、マラッカ海峡
の航行には影響しないと述べた。
同副会長はジャカルタ・ポストに対し、
「政府が標的としているのは、適切な書類を持た
ずに12海里内を通行した外国船舶だけで、アチェ海域封鎖がマラッカ海峡の航行に影響
を与えることはない」と述べた。
アチェ海域封鎖によりマラッカ海峡北部での海賊事件は減少すると予想される一方、米
海軍情報部はインドネシア軍の警備がアチェに集中することから、インドネシアのほかの
地域で犯罪が増加するのではないか、特に、クラサ海峡東部での海賊被害が急増するので
ないかと警告している。
ただし、封鎖が国連海洋法条約の下でインドネシアに求められている自由な国際航行の
提供とどう関係するかは明らかではない。
また、5月下旬には、タイとインドネシアの海軍がインドネシアとスリランカの反政府
運動への武器の密輸を抑えるため、南部タイ沿岸を共同パトロールすることを発表してい
る。
(2003年6月16日 シッピング・タイムズ)
198
シンガポールからの船舶燃料ハブの地位奪取計画は継続か=馬ジョホール港
消息筋によると、マレーシア・南部ジョホール州に船舶燃料補給港を建設し、シンガポ
ール港から船舶燃料ハブ(中枢)の地位を奪取するという目標に向け、関係者の間では現
在も交渉が続けられているもようだ。
シンガポールのビジネス・タイムズ紙は最近、タンジョン・プルパス港(PTP)の経
営権を握る実業界サイド・モクタル氏のシーポート・ターミナル社と、石油・ガス専門会
社ダイアログ・グループと共同で、PTP内の船舶燃料供給施設の建設についての予備調
査を行った結果、計画に実効性がないと結論付けられ、計画を断念したと報じていた。し
かし、消息筋によると、サイド氏と国営石油会社ペトロナスは現在も、船舶燃料補給港の
建設について話し合いを行っているという。
同消息筋は、PTP内に建設が計画される船舶燃料補給施設は、ペトロナスがスランゴ
ール州のクラン港に保有する船舶燃料補給施設よりも大規模なものになると指摘した。P
TP内の同施設は、ジョホール州をシンガポールに対抗する東南アジアの物流・輸送ハブ
とする大規模な構想の一環として計画されている。
サイド氏は、同州のセナイ空港をチャンギ空港に匹敵する航空ハブとするために拡張工
事を計画するほか、PTPに近接する土地に石油化学プラントを建設することも検討して
いる。
(2003年6月18日 時事速報シンガポール)
マレーシア 全ての灯台 11基を中央制御へ
マレーシア海事局は、遠隔監視システムを通じて半島の全灯台11基と同局本部を連結
する予定である。現在、すでに6基の灯台がシステムにリンクされており、8月には残り
の5基(ペナン州の Muka Head と Pulau Rimau、セランゴール州の Pulau Angsa と Kuala
Selangor、パハン州の Tanjung Gelang)のほか、灯標7基がリンクされる予定。
海事局航行安全課の Zulkurnain Ayub 氏は、システム導入により航路標識は24時間体
制で監視されることになり、故障の調整が迅速に行われ、中断時間が短縮されると述べた。
同氏によると、システムはクラン港にある海事局本部から24時間体制で監視・制御さ
れるほか、ペナン、クラン港、ジョホール・バル、クアラ・トレンガヌの支局からも監視
できるとのこと。
灯標については、陸地のもの以外には船舶や波やほかの外部からの力が原因の衝突など
の衝撃を検出するセンサーが付けられる。
「これらの事故の情報はクラン港本部に伝えられ、海事局職員が対応に派遣される。灯台
及び灯標からの全ての情報はまず本部に伝えられ、その後航路標識を管轄する支局に転送
される。例えば、クラン港本部からペナン州にある灯台の発電機を作動させることもでき
る」と同氏は述べた。
199
今回使われた技術は、ISDNとVSAT衛星通信リンク。
(2003年6月18日 ストレート・タイムズ)
当事務所注:マレーシア海事局の資料によれば、灯台は14基(うち3基は東マレーシア)
、
灯標は233基、浮標は190基である。
名前の表わすもの
(注:本項は英国海上保安庁の設置についてコメントしたものであり、その内でMPAに
関する部分を抄訳した)
元シンガポール海軍トップのリュー・タックヨー少将が、チェン・ツーペン長官に代わ
り、シンガポール海事港湾庁(MPA)の新最高責任者に就任することになった。
チェン氏は、1996年に当時のシンガポール港湾庁(PSA)が法人化することを受
け、統制機能を監督する行政機関としてMPAが設置された時から長官を務めてきた。
チェン氏は国際海事機関(IMO)理事会の議長を務めているため、議長の任期が終了す
る今年後半まで長官の職を継続する。しばらくの間、MPAには最高責任者と長官が同時
に存在することになる。
チェン氏が辞任した時点で、MPA長官という役職は歴史の中に封印される。
役職名は重要ではなく、よい仕事をしたかどうかということが重要であり、シンガポー
ル港湾庁(PSA・当時)から駆け出したMPAをうまく導いたチェン氏には祝辞が送ら
れるべきであろう。
しかし、現在、MPAはおそらく代表の役職名のみならず、重要機関としてのさまざま
な役割に目を向ける時に至っている。MPAは海事監督機関であり、商業的な港湾の促進、
緊急事態の対応、事故の調査も手掛けている。
(2003年6月18日 シッピング・タイムズ)
スーパースター・ヴァーゴ号の運転拠点、再びシンガポールに
マレーシアの客船運航会社スター・クルーズは、豪華客船「スーパースター・ヴァーゴ」
の運行拠点を来月20日にオーストラリアのパースからシンガポールに戻すことを明らか
にした。同社は、新型肺炎(SARS)によるクルーズ客減少で、4月から運行拠点をシ
ンガポールからパースに移転していた。同社は、同時期に運行拠点を香港からオーストラ
リアのシドニーに移転していたスーパースター・レオ号についても、来月20日から香港
に戻す予定だ。
業界関係者によると、クルーズ業界ではSARS流行で、売り上げが70-80%落ち
込んだという。スター・クルーズは今年4月、スーパースター・ヴァーゴの乗員2人がS
ARSに感染した疑いで病院に収容されたのを受け、同船とスーパースター・レオの運航
を一時的に停止。その後2人がSARSに感染していなかったことが判明したが、相次ぐ
キャンセルとイラク戦争による燃料費の高騰で、今年第1・四半期に220万米ドルの損
200
失を計上した。
(2003年6月20日 時事速報シンガポール)
船舶燃料業者に2年以内の新規制順守求める=海事港湾庁
シンガポール海事港湾庁(MPA)はこのほど、検査のごまかしなど船舶燃料業界での
一連のスキャンダルを受け、同国の船舶燃料供給会社と検査会社に対し、2005年6月
までに新しく設定した「船舶燃料サプライ・チェーン品質管理基準(QMBS)
」の順守を
求めることを決めた。同国の船舶燃料業界では2001年から02年にかけ、燃料供給の
際の検査のごまかしや、燃料への危険な不純物の混入といった不祥事が相次いで発覚して
いた。船舶燃料関連会社が今後、燃料供給などのライセンスを維持するには、QMBSの
基準をクリアする必要がある。QMBSの詳細については、船舶燃料業者らが出席する2
0日のセミナーで明らかにされる。
MPAは、船舶燃料の一連のスキャンダルが発覚して以来、問題のある業者に対して告
訴など厳しい措置を適用。この結果、同国は年間2000万トン以上の船舶燃料売り上げ
を回復し、世界最大級の船舶燃料補給港としての地位を維持することに成功した。
(2003年6月20日 時事速報シンガポール)
日本船主協会新会長、多くの問題への取り組みに意欲
日本船主協会の新会長に草刈隆郎氏が就任した。同新会長は、就任と同時に多くの要求、
意見、対応への取り組みに追われている。草刈氏は日本最大の海運会社である日本郵船の
社長で、同社のプレスリリースによると、早くもトン数標準税制対策委員会を発足させる
予定。また、草刈氏はコストの高い日本国内の港湾現場に対する取り組みに意欲を見せて
おり、ノルウェーや韓国のような第二船籍制度の導入にも注目しているほか、協会内に労
政委員会を新設し、外国人船員の待遇改善などに取り組む方針を示した。
(2003年6月20日 マリタイムアジア)
インタータンコ:EU のタンカー船齢制限、質の低下招きかねない
シンガポールで開催されたプレステージ号事故の影響に関するセミナーにおいて、イン
タータンコのジョン・フォーセットエリスアジア太平洋局長は、タンカーを船齢だけで制
限することは将来的に質の向上でなく低下を招きかねないとした。同氏は、船齢のみでは
タンカーの質は測れないとし、船齢だけでタンカーを制限すれば、船主は新しい船を注文
する時に品質や強度に投資するのを思いとどまるだろうと述べた。同時に、メンテナンス
への投資も縮小が予想される。
「船齢が高くなれば、メンテナンスをする意欲がなくなるだ
ろう」と同氏は述べた。
フランスとスペインが両国の排他的経済水域からの船舶を追放した際、ほとんどの旗国
から反応がみられなかったことが、今回のセミナーで大きく取り上げられた。セミナーは、
シンガポール海運協会とノルウェー船級協会の主催で行われた。
201
2002年12月から2003年5月初めまでに約80隻の船舶が退去を求められたと
伝えられおり、少なくとも旗国12カ国が関与していたが、これに抗議したのはノルウェ
ーだけであった。これについて、ワールドワイド・シッピング代理店のスティーブン・パ
ン氏は、ノルウェーでは海運が重視されており、同国の状況は特殊だと述べた。
一方では、船主にも非があるとする意見もある。シンガポール国立大学法学部助教授のロ
バート・ベックマン氏は、船主が便宜置籍(FOC)に船舶を登録するのなら、保護され
ないこともいとわない覚悟が必要だと述べた。
(2003年6月23日 マリタイムアジア)
PSAの料金引き下げパッケージの延長望む=シンガポール港利用の海運会社
シンガポール港を管理・運営する港湾管理会社PSAコープが昨年導入したコンテナ取
扱料金の引き下げパッケージが先月30日で期限を迎えたが、同港を利用する海運会社の
多くは、同パッケージが何らかの形で延長されることを望んでいる。
隣国マレーシアのタンジョン・プルパス港(PTP)など近隣諸国港との競争激化を受
けPSAは昨年、取扱料金全般にわたる10%のリベートや、空のコンテナの取扱料金5
0%引きなど1年間の引き下げパッケージを導入していた。海運各社は、この引き下げパ
ッケージについて、海上輸送料金が大きく落ち込んだ時期に導入されたことから、大きな
効果があったと評価している。
海上輸送料金はその後、主要航路で最大30%、アジア・欧州航路で20%上昇したが、
海運各社は海上輸送料金がまだ回復初期段階にあるとしてPSAの引き下げパッケージの
延長を求めている。コスコ・ホールディングス・シンガポールのチー・ハイシェン社長は、
海運業界を取り巻く環境が依然厳しいとして、パッケージの延長が必要との考えを示した。
こうした海運会社の意向に対しPSA側は、個々の船会社と交渉して、それぞれの船会
社の競争力向上につながるような個別の条件交渉を進める方針だ。
(2003年7月3日 シッピング・タイムズ)
PTP、シンガポール経由輸出貨物の半分を奪回=マレーシア
マレーシア・ジョホール州の新興コンテナ港タンジュン・プルパス港(PTP)は、シン
ガポール港経由で輸出されていたマレーシア貨物コンテナの約半分をPTPが取り戻した
ことを明らかにした。PTP運営会社のモハマド・シディック・シャリック・オスマン最
高経営責任者(CEO)は「2000年3月の開港以来、海運の世界的大手2社が東南ア
ジア拠点をシンガポールからPTPに移転した。20フィート標準コンテナ換算で30万
-40万個の貨物がPTPから直接海外に運ばれるようになった」としている。
PTPは、建設を進めている8埠頭のうち2埠頭を来年初めに稼働させ、取り扱い能力
を現在の380万個から75万-100万個増加させる計画。同CEOは「新たな海運会
社の誘致活動を活発に展開している」と強調した。
202
同社の昨年のコンテナ取り扱い実績は前年比約30%増の266万個。今年は350万
個を目指している。
(2003年7月8日 時事速報シンガポール)
ジョホールにLME認定倉庫を建設へ=英ギアバルク―マレーシア
英海運会社ギアバルク幹部は、マレーシア・ジョホール港にロンドン金属取引所(LME)
の認定倉庫を設置する計画を明らかにした。マレーシアを拠点に域内での金属輸送事業を
拡大したい考えで、実現すれば国内初のLME認定倉庫になる。同社が現在東南アジアで
扱うばら積み貨物は年間40万-50万トン。
ギアバルクは、東南アジアの拠点をシンガポールからジョホール港に移転したばかり。
3日には同社保有の金属運搬船が同港に初寄港した。
同社は、商船三井が40%、英国を拠点とするジェファーソン・カンパニーが60%を
出資する合弁会社。中国やブラジルなどにも拠点を置いており、保有船舶は50隻以上、
取り扱い貨物は年間約1200万トンに上る。
(2003年7月8日 時事速報シンガポール)
IMO、シンガポール海峡改正を支持
IMOの航行安全小委員会は、シンガポール海峡の分離通航方式から錨地スペースを解
き 放 す と い う 改 正 に つ い て 承 認 す る と し た 。 イ ンド ネ シ ア 国 営 港 湾 会 社 Pelabuhan
Indonesia I と合併して錨地の運営にあたる PT Maxsteer のジェームス・フォン社長による
と、海上安全委員会の元にある同小委員会が改正を承認したとのことである。
改正されれば、インドネシアは錨地を含め、その海域を自由な目的に使うことができる。
改正は海上安全委員会で承認される必要があるが、フォン氏は問題ないだろうとしている。
トランジット・アンカレッジはシンガポール海峡西端のインドネシア海域に位置し、分離
通行帯の西航・東航レーンの間にあたる。この海域をシンガポール海峡における緊急時の
避難海域にしようと働きかけられていた。錨地の運営はすでに始まっているが、分離通行
帯の真中に位置するため、大手船主は使用を躊躇しており、IMOの承認が重要な前進に
なる。
(2003年7月10日 マリタイムアジア)
中国、タイ地峡建設計画に関する話し合いのスピードアップを求められる
中国経済日報が発行している経済月刊7月号に、「マラッカ海峡の回避」(筆者: Hu
Runfeng)というレポートが掲載された。クラ地峡はタイ南部を東西に切り拓くウォーター
ウェーで、建設費は250億米ドルといわれる。レポートは、今こそクラ地峡の建設を開
始すべきで、中国はタイと迅速に話を進めるべきだとしている。クラ地峡が完成すれば、
マラッカ海峡を通航する必要がなくなり、シンガポールの貿易にも影響が出るとみられる。
クラ地峡の建設は、400年前から提案されているもので、数年に一度、投資家が建設
計画を再興するが、結局建設費用が高すぎるため断念するということが繰り返されている。
203
東南アジアにおけるイスラム原理主義者の存在を恐れ、ブッシュ政権はマラッカ海峡に
代わる石油輸送代替ルートとして、クラ地峡プロジェクトに注目している。
Hu 氏は、中国はマラッカ海峡を通航する石油輸送に依存しすぎているとし、同地域にお
けるアメリカの存在は大きく、戦略ミスだと批判している。中国は約 8000 万トンの石油(国
内消費量の32%)を輸入に頼っており、このうち70%がアフリカや中東からマラッカ
海峡を通じて輸入されている。
また Hu 氏は、マラッカ海峡は海賊が蔓延し、航行安全の取締りがずさんだと述べている。
経済月刊の読者数は把握されていないが、中国経済日報の読者は 90 万人に及ぶ。中国経
済日報は、中国国務院と国会が運営、中国共産党が直接監修している。経済月刊は通常中
国が抱えている問題を取り上げているが、今回のレポートについては閣僚幹部から歪曲し
ていると不満の声が上がっている。本紙が連絡を試みたが、Hu 氏はコメントを避けた。
(2003年7月14日 ストレート・タイムズ)
ジュロン港とPSA、海上貨物管理システムをリンクへ
シンガポール港を管理する政府系港湾管理会社PSAコープとジュロン港は来月8日、
海上貨物の動きを管理するそれぞれのオンライン・システムをリンクさせる。これまで煩
雑な書類手続きなどが障害となってシンガポール港とジュロン港間の貨物移動が難しかっ
たことから、ジュロン港の貨物取扱量は伸び悩んでいたが、両システムのリンクが確立す
ることでジュロン港の取扱量が増加すると期待されている。
PSAの「ポートネット」とジュロン港の「JPオンライン」のリンクは、近隣諸国港
との競争激化に対応するためにシンガポールの海上貨物積み替えハブ(中枢)としての地
位強化を目指す政府のイニシアティブにより実現した。ジュロン港のマシュー・チャン最
高経営責任者(CEO)は、両システムのリンクにより両港の貨物移動がスムーズになり、
貨物積み替えの情報などがJPオンラインでもポートネットでも閲覧可能になると指摘し
た。
(2003年7月23日 シッピング・タイムズ)
シンガポール港とジョホール港の合併には反対せず=マレーシア第2財務相
マレーシアのジャマルディン第2財務相は14日、最近報じられたジョホール州タンジ
ョン・プルパス港(PTP)と、最大のライバルである隣国シンガポール港の提携の可能
性について、政府としては提携の動きに反対しない考えを示した。同第2財務相は、世界
の市場で競争していくには2つの港の戦略的な提携が重要だと指摘した。
シンガポール紙は最近、PTPと、シンガポール港を管理するPSAコープの親会社テ
マセク・ホールディングスが、同2港の提携または合併について交渉中だと伝えていた。
複数の消息筋は、マレーシア政府がPTPとシンガポール港の合併に反対しない理由に
ついて、シンガポール港から船会社を誘致するために大幅な割引を提供するというPTP
の戦略を永久には続けられないとマレーシア政府も認識しているためと指摘している。大
204
幅割引戦略によってPTPの港拡張計画も厳しい状況に追い込まれており、マレーシアの
一部の閣僚も、将来2港の間で何らかの協力が必要になるとみているようだ。
(2003年8月15日 時事速報シンガポール)
中国海運大手COSCO、シンガポール港のコンテナふ頭の経営に参加
シンガポール港を運営・管理する政府系港湾管理会社PSAコープと中国政府系の大手
海運会社、中遠グループ(COSCO)傘下の投資会社COSCOパシフィックは8月3
0日、シンガポール港のコンテナ・ターミナルの一部を運営する合弁会社を設立し、その
株式の49%をCOSCOが取得するという内容の暫定合意書に署名した。同暫定合意書
に基づき、COSCOとPSAは2008年までに、パシル・パンジャン・ターミナル内
の2コンテナ船係船スペース(バース)を合弁で管理・運営することになる。
COSCOとPSAが共同運営する2つのバース(うち1つは未完成)の年間コンテナ
取扱量は約100万TEU(20フィート標準コンテナ換算個数)となる見込みで、PS
A管理のシンガポール港が昨年取り扱った合計取扱量の約6%に相当する。
PSAはこれまで、シンガポール港を利用する海運会社200社に対し同じ水準のサー
ビスを提供する方針を貫いてきたことから、大手海運会社による同国港のターミナル株の
取得は拒絶してきた。しかし、隣国マレーシアのタンジョン・プルパス港(PTP)に主
要顧客2社を奪われたのを受け、大手海運会社にターミナル株の一部取得を認める方向へ
方針を転換していた。ターミナル株の取得で海運会社側は、会社のニーズに合わせて港の
運営スケジュールを調整することで、時間とコストを節約できるようになる。
(2003年9月1日 時事速報シンガポール)
海運業界の雇用拡大へ=シンガポール海事港湾庁
シンガポール海事港湾庁(MPA)のCEOに就任したばかりのルイ・タックユー氏は
4日、海運専門学校の卒業式での演説で、海運業界専門の法律や金融、保険サービスなど
の分野を中心に、今後同業界での雇用拡大が期待できるとの考えを示した。
同長官は、MPAが現在、シンガポール国立大学(NUS)の調査部門NUSコンサル
ティングと共同で、向こう5-10年間の海運分野の雇用機会や、必要な人材に関する調
査を行っていると述べた。同調査は、今年末までには完了する予定。
また、海運分野の専門サービスに必要な人材を育成するため、南洋工科大学(NTU)
では、新しい学士コースと修士コースの開設準備が進められている。同コースは来年7月
に開講の予定。
(2003年9月5日 時事速報シンガポール)
205
IMOがマニラに地域事務所を開設
フィリピン-国際海事機関(IMO)は、9月9日(火)、正式にアジア太平洋地域事務所を
マニラに開設した。IMO の新任の事務局長である元海軍少将エフシミオス-ミトロポロスが,
事務所の開所式をとり行った。
フィリピンの外務大臣ブラス-オプレは、式の祝辞のなかで、次のように語った。「フィ
リピンがIMOの地域事務所として世話役を務めることは、フィリピンと地域諸国が技術
協力と発展の活動のみならず、IMO の規制の枠組を促進させるのに大いに役立つであろう。
これは、フィリピンにとって名誉であるだけでなく、フィリピンの海運業や船員の配乗産
業を大きく後援するであろう。」
。
フィリピンは、国際的な船舶社会に対して、世界最大の船員の供給地であるという重要
で国際的な海事の役割を担っている。
(2003年9月9日 マリタイムアジア)
海運・造船業界の R&D 促進に1億ドルの基金創設=海事港湾庁
シンガポール海事港湾庁(MPA)は10日、海運・造船業界および同業界の技術分野
の研究・開発(R&D)を促進するために、1億シンガポールドル(Sドル)の基金「海
事革新・技術基金(MINT)
」を創設したことを明らかにした。同基金の創設は、同国
向こう10年かけて海運業界の研究開発力を高める計画の一環。
MPAのピーター・オン議長は、同国で開催された港湾と海運・造船業界のR&Dとテ
クノロジーに関する国際会議で、同業界のR&Dと技術分野におけるビジネスチャンスは
依然として大きいと指摘。効率性とセキュリティーの向上、人材育成などの需要が高まっ
ており、R&Dとテクノロジーが果たす役割は大きいとの考えを示した。
MPAは昨年、産学協同で海運業界のR&D分野の育成を図るため、海運R&D顧問委
員会を設置。同委員会は、運輸、物流、環境、資源、オフショア海洋エンジニアリングの
5分野でR&Dとテクノロジーを発展させるロードマップを作成した。MINT基金は、
同ロードマップの実現に貢献すると期待されている。MPAは経済開発局(EDB)と共
同で、海運分野の革新的技術開発のための試験的なプログラムを実施している。
(2003年9月11日
時事速報シンガポール)
1-7月のシンガポール港のコンテナ取扱量、6・3%増=海事港湾庁
シンガポール海事港湾庁(MPA)の最新統計によると、今年1-7月の同国の港(ジ
ュロン港を含む)のコンテナ取扱量が1040万TEU(20フィート標準コンテナ換算
個数)と、前年同期比6.3%増加した。7月の同国港のコンテナ取扱量は、163万T
EUと前年同月比8.8%増加。このうち、政府系港湾管理会社PSAコープが運営する
シンガポール港のコンテナ取扱量は161万TEUだった。
一方、1-7月の船舶燃料売り上げは1186万トンと、前年同期比2.65%増加し
206
た。
(2003年9月16日 時事速報シンガポール)
シンガポール海事港湾庁 商船法を改正へ
シンガポール海事港湾庁(MPA)は商船法を改正する計画だ。来年7月までに施行す
る。国連機関の国際海事機関(IMO)は2001年9月11日の米同時多発テロを受け
て、セキュリティ対策の強化を規定している。シンガポールは国際貿易手段として海上輸
送に頼ることが多いため、同庁はIMOの安全対策条件に合うよう改正を進めている。
同庁のチーフ・エグゼクティブ、ルイ・タックユー氏は「商船会社はセキュリティー要
員を置き、各船にはセキュリティーが乗り合わせるべきだ。安全対策を講じ、乗船者のチ
ェックも怠るべきではない。来年7月と言わずに、すぐにでも実行していきたい。」と述べ
た。
商船会社や港湾事業者は改正法に沿った対応を進めており、同庁でも訓練を施す業者な
どを紹介しているという。
(2003年9月11日 NNA)
JICA、内航海運振興で基本計画作成
国際協力事業団(JICA)は、インドネシアの内航海運と海事産業の振興に向け、2024 年
の実現を目指す基本計画を作成する。調査期間は昨年 11 月から来年 1 月までで、実施経費
は 170 万米ドル。インドネシア側の実施機関は運輸省海運総局と商工省金属機械電子産業
総局となる。 なお、同調査は内航海運の振興に必要となる造船修理業など支援産業の振興
についても調査対象としている。 インベストール・インドネシアが伝えたところでは、商
工省金属機械電子産業局のヌグラハ局長は、国内 250 のドックに関し、人材育成が進んで
いないため十分に機能を発揮できていないが、同分野に対する内外からの潜在需要は高い
と述べている。 また、インドネシア造船業協会(Iperindo)のユスワント会長は、国内海
上輸送貨物の 55%、年間 3 億 5,000 万立方トンに及ぶ対外貿易の 97%が外国籍船舶に依存
しているとして、基本計画を通じた国内産業振興に期待を示している。
(2003年9月18日 NNA)
8,000TEUのコンテナ船の注文が100隻に
統計によると、約8,000TEUのコンテナ船の注文が 100 隻を上回った。
7,400TEUから、8,400TEUまでの範囲の通常の容積のコンテナ船の注文
は、現在100隻であるとビーアールエス・アルファライナーは、見積もっている。さら
には、船舶ブローカーのバリー・ログリアノ・サリーの傘下であるフランスの会社は、コ
ンテナ船が15,000TEUのコンテナ取扱量をこなせる収容能力をもてるには、単に
時間の問題であると信じている。
通常の容積の範囲内の44隻のコンテナ船が完成する2006年には、コンテナ船の引
渡しは、ピークに達するだろう。
207
他の33隻のコンテナ船は、2005年に完成することになっており、一方6隻のコン
テナ船は今のところ2007年の引渡しに向けて、製造の予約が入っている。デンマーク
の船会社マースク・シーランドは、すでに少なくとも8,000TEUの大きさと思われ
る22隻のSクラスのコンテナ船を運航しており、またデンマークのエイピィー・モラー・
オデンス造船所において、さらにたくさんのコンテナ船を製造中である。
(2003年9月18日 ロイズリスト)
シンガポール港の今年のコンテナ取扱量、前年比6%増に=PSA
シンガポール政府系港湾管理会社PSAコープの国内部門のウン・チーケオン最高経営
責任者(CEO)は18日、同社が運営する同国内の港のコンテナ取扱量が今年、前年比
で少なくとも6%増加するとの見通しを示した。PSAの国内港の昨年のコンテナ取扱量
は1680万TEU(20フィート標準コンテナ換算個数)と、同8%の伸びを達成して
いた。今年の取扱量が6%増を達成すると、通年の取扱量は1780万TEUとなり、こ
れまでの最高記録だった2000年の1704万TEUを上回ることになる。
ウンCEOは、国内港の取扱量が1-5月に5%増加し、6-8月には9%の伸びを達
成したと指摘。船会社の経営環境が好転し、輸送量が増えてきたことから、今年通年では
取扱量の伸びが6%を上回るとの見通しを示した。国内港のコンテナ取り扱いが好調な理
由について同CEOは、中国経済の躍進で中国向けの貨物が大きく伸びたほか、アフリカ
やベトナムなど新たな市場への貨物が増えつつあると指摘した。
(2003年9月19日 時事速報シンガポール)
世界の船員市場、3割がフィリピン人
英国・カーディフ大学国際船員調査センター(SIRC)のまとめによると、フィリピン人
船員が世界の船員市場で占める割合は 28.0%となり、2 位のロシア(6.8%)を大きく引き
離しての首位だった。 これにウクライナ(6.3%)
、中国(6.2%)、インド(5.0%)
、イン
ドネシア(4.0%)、ポーランド(3.5%)、ギリシャ(2.8%)、トルコ(2.5%)、ミャンマ
ー(2.3%)が続いた。残りの 32.4%はクロアチアやラトビアなどの東欧諸国が占める。 フ
ィリピン人船員の内訳を見ると、8.7%が上級幹部として働いているのをはじめ、19.1%が
下級幹部、それ以外の 72.2%も何らかの階級で雇用されているという。 マラヤ紙によると、
SIRC のマラグタス・アマンテ博士は、フィリピン人船員の特徴として、訓練が行き届いて
いることや船員養成学校が少数精鋭での人材輩出を行っていることを指摘。養成学校の
2001 年の卒業生数が 1997 年の 3 分の 2 に減少したのは、学校側が優秀な生徒だけを卒業さ
せたためと説明した。
(2003年10月7日 NNA)
208
日本財団、インドネシアに設標船寄贈
日本財団は 10 日、マラッカ海峡に標識を設置するための船舶(設標船)「KN ジャダヤッ
ト号」
(858 トン)をインドネシア政府に寄贈した。電子海図表示システム(ECDIS)を装備
した最新鋭の船舶で、建造費用は 7 億 3,000 万円。
日本財団が資金を拠出。関連機関のマラッカ海峡協議会が新潟造船に建造を委託した。
新潟造船は 4 月に起工、6 月に進水式を行い、9 月 12 日に同協議会に引き渡した。
ジャダヤットはインドネシア語で「南回帰線」を指す。所属港はシンガポールに近いイ
ンドネシア・ビンタン島キジャン港。通信省海事通信局が実際の運営を手掛ける。
8 月末から約 1 カ月の研修が日本で行われ、インドネシア側は研修費用のほぼ全額を負担
した。研修を終えたインドネシアの船員が同船をえい航した。
この日は、同じくシンガポールに近いインドネシア・バタム島のホテル「ノボテル・バ
タム」で引き渡し式が行われた。日本財団の曽野綾子会長が式典であいさつに立ち、
「娘を
嫁にやるような心境。ジャダヤット号をもらう人に、きれいに使ってくださいとお願いし
たい。そうすれば健康な嫁は良く働くでしょう」と話し、インドネシア側の参加者から拍
手を浴びた。
日本財団は昨年 6 月、同協議会を通じてぺドマン号(マレー語でコンパスの意)をマレ
ーシア政府に寄贈している。
全長 1,000 キロメートルにわたるマラッカ海峡の東側半分は水深が浅く、航海の難所と
なっている。安全な航行のため、この区間には 50 カ所以上に航路標識が設置されている。
マラッカ海峡協議会は、30 カ所(45 基)の標識をマレーシア、インドネシア両国に寄贈。
現在でも両国と共同で維持管理を行っている。
同海峡は国際法上「国際航行に資する海峡」と定められており、国家主権が介在する。
このため国境を挟んでマレーシアとインドネシアが、それぞれ標識メンテナンス作業を行
っている。
(2003年10月13日 NNA)
インドネシア政府は、日本から設標船を寄贈される
インドネシア海域に、建造費8億5000万円の設標船が配置されたことによって、船
舶の行き来の多いマラッカ海峡における航海上の安全が高められた。
この設標船はマラッカ海峡協議会から、インドネシア政府へ寄贈され、ビンタン島のキ
ジャン港に配置される予定である。
設標船の主な作業は、航路標識を含む視覚標識の継続的な設置・補修作業である。
マラッカ海峡協議会のオペレーションマネジャーの佐々木氏は、次のように説明した。
「海峡に設置されている典型的な浮標は、楽々と2階建てのビルよりはるかに高いです。
補修作業では、オーバーホールのため、浮標をジャダヤ号に乗せます。三角波の立つ海の
状況下での補修作業は難しいです。
」
209
設標船は、広範囲の作業場を備え付けており、ほとんどの補修作業は海上で行うことが
できるのである。総重量858トン、全長58メートルの設標船は、最大速力10.5ノ
ットで、日本財団が資金を拠出したのである。
マラッカ海峡協議会によって設標船が寄贈されたのは今回で二度目になる。昨年、同様
の設標船がマレーシア政府へ寄贈されている。
この2隻の設標船を配置することによって、海峡を航行するすべての船舶の航海の安全
を改善する効果が期待できるのである。
日本財団の長光常務は次のように語った。
「マラッカ海峡域内の国々がそのような連携の
提唱をしなければいけないし、国際連携の枠組みを公式に作成するために、マラッカ海峡
域内の国々と喜んで密接に働きます。」
過去35年間に渡って、日本はシンガポールとマラッカの海峡において、航海の視覚標
識として、灯台、航路標識、浮標を設置したのである。これまでに120億円以上が費や
されている。30ヶ所の標識を設置し、日本財団は、3分の2を占める主な灯標を供給し
ている。
マラッカとシンガポール海峡は、世界で最も船舶の行き来の激しい水路であり、2つの
大海につながっている。航海の安全の問題は、最新の話題であり、海峡を通過するうえで
の危険の事由の一つとして、海峡の水深が浅く、潮流が速いことがあげられるのである。
(2003年10月 13日
スター)
インドネシアに、海峡の安全確保の船
設標船「ジャダヤ号」が10月10日金曜日に、インドネシアのバタム島で、マラッカ
海峡協議会から、インドネシア政府を代表して運輸大臣アグム・グメラ氏へ正式に寄贈さ
れました。
「海上での補修作業場であるジャダヤ号は、日本とインドネシアとの間で、海上での協力
がいっそう強化されたことを象徴しているのです。」とシンガポールに拠点を置くニッポ
ン・マリタイム・センターの話です。
マラッカとシンガポール海峡は、船舶の行き来の激しい航路で日本向けに80%以上も
の油を輸送する重要な貿易の航路である。
設標船「ジャダヤ号」の寄贈式典で、インドネシアの運輸大臣グメラ氏は次のように語
ったのである。
「インドネシア政府は、海峡での安全確保について、大いに憂慮していたが、
インドネシアの経済状況は困難な中にあったのです。」
その後、報道陣からのインドネシア領海での海賊行為の問題についての質問に対して、
運輸大臣は「その件については、マレーシア、インドネシア、シンガポールの3国の巧み
な協力が必要だと思います。」と答えました。(2003年10月14日 ロイズ・リスト)
210
海洋ワークショップ、きょうから開催
域内の海洋環境問題に取り組む「東南アジア地域特別敏感海域(PSSA)」のワークショッ
プが、きょうから 3 日間の日程でマニラ市内のホテルで開催される。
マラヤ紙によれば、参加国は、フィリピンをはじめブルネイ、カンボジア、中国、韓国、
北朝鮮、インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナムの 11 カ国。
外務省傘下の海事・海洋センター(MOAC)のアルベルト・エンコミエンダ氏によれば、
PSSA は、国際海事機構(IMO)の海事環境保護委員会が環境、社会経済、科学的な重要性を
鑑み、域内での商業活動を禁じるなど保護対象とすべき海域として選定する。
現在、特別海域に指定されてるのは、豪州のグレートバリアリーフなど世界で 6 カ所の
み。 フィリピンで候補となっているのは、アポ・リーフ、トゥバタハ・リーフ、スルー海、
バタネス海の 4 カ所とされる。
(2003年10月21日 NNA)
海事保安・船員政策など協力プロジェクト採択へ
日・アセアン交通大臣会合
日本とASEAN(東南アジア諸国連合)10ヶ国は25日、「第一回 日・アセアン交
通大臣会合」をミャンマー(ヤンゴン)で開催し、交通分野における日・アセアンの連携
の基本枠組みと、交通分野の具体的な協力プロジェクトを決定する。海上交通セキュリテ
ィー協力や船員政策、日・アセアン物流ネットワーク協力などのプロジェクトが採択され
る予定。
今会合で採択される予定の海上交通セキュリティー協力プロジェクトでは、来年7月に発
効する海事保安対策の改正SOLAS(海上人命安全条約)に対応するための情報交換の
場を設ける。途上国による改正SOLAS条約への対応が困難視されるなか、日本は改正
SOLASに関するセミナーなどを開催して途上国の支援を行う方針。船員政策に関する
プロジェクトでは、フィリピンなど世界的な船員供給国の多いアセアン諸国と海運国の日
本との間で船員政策に関する情報交換の場を設置。アジアで船員政策に関する共通理解を
形成し、国際海事機関(IMO)など国際会議の場に臨む体制を整えるのが目的。
日・アセアン物流ネットワーク改善計画プロジェクトは、アジア域内での効率的な物流
システムの構築を目指すもので、当面はアジア域内の物流効率化の阻害要因などを調査し、
将来的に物流ネットワーク改善計画を策定する。
大臣会合で採択される予定の協力プロジェクトにはそのほか、テクノ・スーパー・ライナ
ー(TSL)、メガフロート(大型浮体式海洋構造物)の利用促進プロジェクトなどが候補
に残っており、現在各国間で調整中。
会合にはアセアン諸国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、
ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)の交通大臣が参加。日本から
は、国土交通省の鶴保政務官、中本大臣官房審議官らが出席する。
(2003年10月22日
211
日刊海事通信)
マラッカ海峡の利用国に資金負担要請へ=安全確保でマレーシアなど沿岸諸国
マレーシア海事局のアハマド・オスマン副局長はこのほど、マラッカ海峡の利用国に同
海峡の安全確保のための資金負担を求めるべきだとの考えを明らかにした。
マラッカ海峡が事故で通航不能になった場合の対応に関して同副局長は「だれが復旧の
ための資金を負担するのか。沿岸国なのか、それとも利用国なのか」と指摘。その上で、
「多
くの先進国の船舶がマラッカ海峡を利用しており、これらの国が海峡の安全航行のために
資金を拠出することがフェアな対応だ」と強調した。
マラッカ海峡は、世界でも最も船舶通航量の多い海峡の1つで、毎日600前後の商業
船舶が航行している。国連海洋法では、沿岸国と利用国の双方が合意に基づいて、海峡の
安全確保、汚染防止などの面で協力すると定められている。
しかし、現在はマレーシア、インドネシア、シンガポールの沿岸3カ国以外では、日本
だけが日本財団を通じて資金を負担している。日本財団は過去35年間に1億米ドル以上
を同海峡の安全確保のために拠出した。
アハマド副局長は「海峡に灯台やブイを設置するなどの安全対策には費用と労力がかか
る。日本以外の先進国からも支援が必要だ」と指摘。沿岸諸国が海峡利用国に対して複数
の安全対策への資金協力を求めていることを明らかにした。
(2003年10月28日
時事速報シンガポール)
マレーシア マ・シ海峡の利用国に海峡利用料負担求める
マレーシアは、シンガポール・マラッカ海峡の利用者負担制度に関する姿勢を明らかに
した。マレーシア海事局のア―マド・オスマン副局長は、シンガポール・マラッカ海峡の
航行安全を維持するために、海峡の利用国は、インドネシア、マレーシア、シンガポール
の沿岸3ケ国を支援すべきであると述べた。
少し前にも日本財団の長光常務理事が、同様のコメントを述べている。日本財団は、過
去35年間に及んで、海峡内の灯台、航路標識、浮標を設置、整備するのに約2.3億シ
ンガポールドルを寄付している。
「我々は既に海峡内に最高の航行システムを設置する初期投資を負担したのだから、海峡
の利用国は、少なくとも維持と運営に要する費用を負担するべきである。
」とオスマン副局
長は語った。
ある情報筋によると、沿岸3ケ国は、「利用国へ資金負担の要請」について最終案をまと
められる段階にきており、国際海事機関(IMO)に提起する模様である。
インタータンコ東南アジア支部マネージャーのジョン・フォーセット・エリス氏は、中東
の航行援助サービスを引き合いに出した。その独立した、非営利団体がペルシャ湾での海
峡利用料で運営される航行援助サービスを管理している。氏は、中東の航海サービスがマ
ラッカ・シンガポール海峡での問題と似ていることを取り上げ、このような利用国の間で
費用を分担するシステムは名案であり、インタータンコとしては、可能な限り最高の航行
212
援助を受けたいのであると述べた。
アセアン船主協会連合代表ダニエル・タン氏は次のように語った。「マラッカ海峡のよう
な国際航路で海峡利用料を実施すると、他の船舶通航量の多い航路においても、類似した
料金を実施することになりかねない。」
海事弁護士のジュ―ド・ベニーは、
「問題解決の鍵は、油漏れの問題、航行の安全確保の
問題、それとも海峡利用料の問題なのか、どの問題に焦点を絞ることになるかを見分ける
ことである。」と述べた。
(2003年10月28日 ビジネス・タイムズ)
港湾公社、持ち株会社方式に移行
コンテナ荷役会社のシンガポール港湾公社(PSA コープ)は 10 月 31 日、全部門を所有す
る持ち株会社の PSA インターナショナルを設立すると発表した。PSA コープはインターナシ
ョナルの子会社となる。海外業務重視の経営構造改革を反映させた組織再編。PSA コープは
3 月、業務部門をシンガポール、欧州、中国、アジア・中東の 4 地域に分け、それぞれ最高
経営責任者(CEO)を置く方式に改めていた。海外業務の比重は増しており、今年の貨物扱
い高のうち 35%は海外部門だ
持ち株会社方式への移行は、何度か延期された新規株式公開(IPO)に備えた措置、との
観測もあるが、これについて同社幹部は「IPO は株主が決める問題だが、当面 IPO に乗り出
す計画はない」と述べた。PSA コープは国営投資会社テマセク・ホールディングスの 100%
保有会社。組織再編による格付け(トリプル A)の変更はない。
(2003年11月3日 NNA)
船舶燃料事件、3年越しの捜査完了
汚職調査局(CPIB)は 3 年前に発生した、船舶燃料の検査をめぐる汚職事件の捜査をほ
ぼ終えた。燃料供給業者 5 社が事件に関係したとされたが、これまでのところタイソン・
マリン・サービシズのみ起訴を免れている。
検査官が、量目不足や指定外の化学物質を含む劣悪な燃料油の供給を黙認し、賄賂を受
け取っていたこの事件では、62 人の検査官が収賄で有罪判決を受け、供給業者 4 社の経営
責任者が刑事責任を問われた。
10 月 31 日の裁判では、コースタル・バンカーリング・サービシズのリム・テクチャイ取
締役が有罪判決を言い渡された。同取締役はマネジング・ダイレクターであるリム・リー
リャン氏とは兄弟。リーリャン氏はシンガポール海運協会(SSA)の元評議員で、燃料供給
国際基準作業委員会の開催責任者。 同事件で失われた信用回復のため、海事港湾庁(MPA)
は免許要件、監視を強化した。
(2003年11月5日 NNA)
213
ジュロン・シップ、最大コンテナ船完成
セムコープ・マリンの完全子会社ジュロン・シップヤードは 4 日、最大規模のコンテナ
船を完成させ、命名式を行った。このコンテナ船は積載量 2,500TEU(20 フィート標準コン
テナ換算)の「トーマス・マン」で、パシフィック・キャリアーズから受注した 2 隻のう
ちの 1 隻。受注額はそれぞれ 5,500 万 S ドルだった。ドイツの船舶所有会社に 3,450 万米
ドルで売却される。
ジュロンはこのほか、台湾の万海航運(Wan Hai Lines)から積載量 2,600TEU のコンテ
ナ船 4 隻(2 億 2,200 万 S ドル)の設計・造船を受注しており、2005 年 3 月、7 月、12 月、
2006 年 4 月に引き渡す予定。
ジュロンは、1997 年にコンテナ船の受注を始めて以来、積載量 830TEU クラスの船舶を 4
隻、1,078TEU クラスを 6 隻造船している。 セムコープ・マリンは政府系大手コングロマリ
ット、セムコープ・インダストリーズの海洋エンジニアリング子会社。
(2003年11月6日 NNA)
ジュロン島安全確保でハイテク検問所
化学基地のジュロン島にテロ対策を目的としたハイテク機器完備の検問所が建設され、
開所式が 4 日催された。
整備費用は 3,000 万 S ドル。同島を管理するジュロンタウン公社(JTC)が、国軍、市民
防衛隊、警察の協力を得て検問システムを開発した。 同検問所には、爆発物、武器、往来
を認められていない人物を探知するエックス線スキャナーや、車両侵入防御システムなど
が設置されており、1 日に 1 万台の車両と 2 万 5,000 人の入島をチェックできる。防御シス
テムは遠隔操作のタイヤ破裂スパイク、昇降式縁石・円柱で構成。監視カメラも年内に設
置される。
ジュロン島には日系を含む 72 の内外企業が進出しており、投資総額は 200 億 S ドルに上
る。米国同時テロを受け、2001 年 10 月に保護地域に指定された。 開所式でトニー・タン
副首相は「安全な経済環境がなければ国の経済発展はない」と治安確保の重要性を指摘し
た。
(2003年11月6日 NNA)
PSA、釜山港への出資も視野に
シンガポール港湾公社(PSA コープ)は、韓国・釜山港への投資を視野に入れているもよ
うだ。 昨年の韓国全体のコンテナ取扱量は前年比 17%増の約 1,200 万 TEU(20 フィート標
準コンテナ換算)。この大部分を占める釜山港では、中国北部の小規模港から韓国を経由し
て欧米へ向かう航路の需要拡大を受けて、停泊所(バース)17 カ所の増設を検討しており、
出資者を募っている。
PSA はすでに仁川のコンテナ・ターミナルに出資している。PSA のスティーブン・リー会
長は、
「機会があれば釜山港への投資も検討したい。PSA は中国・大連にも出資しており、
214
韓国と中国北部を含めひとつの物流エリアとして捉えることができる。仁川ターミナルの
バース 1 カ所の建設に着手したところで、今後第 2 期、第 3 期の工事にも取りかかる。釜
山港への投資を早急に進めるつもりはない」との見解を示した。
(2003年11月6日 NNA)
ばら積み貨物の海上輸送料金が過去10年ぶりの高水準に=シンガポール
ばら積み貨物の海上輸送料金が過去10年間での最高の水準を記録しており、シンガポ
ールに拠点を置く船会社の業績に大きな利益をもたらす一方、資材を海外からの輸入に依
存する製造業者らが輸送コストの負担増に苦しむ可能性が指摘されている。
ばら積み貨物の海上輸送価格の指標であるボルチック・ドライ・インデックス(BDI)
は、9月以降上昇を続け、現在は1993年以来の高値を記録している。鉄鉱石などを海
上輸送する場合の短期用船レートは、1日当たり最高8万米ドルへと高騰しているが、輸
送への需要は供給を上回っている状態だ。Kライン・シンガポールの黒谷研一社長は、一
部の海上輸送料金が上昇していることを認めた。同社長によると、7万5000DWT級
の船舶を30日間用船する場合の料金は1日当たり6万-8万米ドルだという。
(2003年11月6日 時事速報シンガポール)
中国・洋山港の運営管理で香港のハチソンと提携か=シンガポールのPSA
ホンコン・スタンダード紙は5日、消息筋の情報として、シンガポール政府系港湾管理
会社PSAコープとホンコンのハチソン・ポート・ホールディングス(HPH)が、上海
市南匯区沖に建設中の海上港、洋山深水港の運営・管理を行う合弁会社を設立する可能性
があると伝えた。
同紙によると、HPHのジョン・メレディス社長はこのほど、PSAのエディ・テー最
高経営責任者(CEO)と会い、洋山港の開発について話し合った。テーCEOは、PS
Aに昨年末入社するまではHPHで海外港の買収業務を統括していた。メレディス社長と
テーCEOはともに、中国政府幹部と会い、洋山港への投資について協議したもようだ。
洋山港の第1期工事は2005年に完成の予定で、第2期工事では海外企業の参加も認
められる。港湾管理各社は、来年中旬にも第2期工事の入札が始まるとみている。
(2003年11月7日 時事速報シンガポール)
PSA貨物取扱量、1~10月期7%増
シンガポール港湾公社(PSA コープ)がこのほど発表した 1~10 月の国内貨物取扱量は、
前年同期比 7%増の 1,496 万 TEU(20 フィート標準コンテナ換算)となった。残り 2 カ月で
208 万 TEU を達成すれば、2000 年に記録した国内事業の通年取扱量 1,704 万 TEU を上回る
ことになる。
同社が海外で運営する港湾の取扱量は 28.8%増の 797 万 TEU を記録し、昨年通年の 780 万
215
TEU を上回った。PSA は 6 カ国 11 カ所で港湾施設を運営している。海外事業が全体に占め
る割合は 35%。特に中国の施設 3 カ所や、ベルギー子会社ヘッセ・ノールド・ナティ(HNN)
が貢献した。 10 月の貨物取扱量は、国内が前年同月比 11.3%増の 158 万 TEU、海外は 5.3%
増の 80 万 TEU だった。 このほか PSA は先ごろ、海外事業を統括する持ち株会社、PSA イン
ターナショナルを設立すると発表している。
(2003年11月10日 NNA)
クラン港、PTPに定期貨物航路=海運の伊ロイド、豪州などへは積み替え
イタリアの海運会社「ロイド・トリエスティーノ」とフランスの「CMA・CGM」は、
アドリア海からマレーシア・クラン港やタンジュン・プルパス港(PTP)などを経て中
国に至る定期コンテナ航路を共同で就航した。東南アジア向けやオーストラリア向けコン
テナはクランやPTPで積み替える計画で、このほどクラン港ウエストポートに初寄港し
た。
このサービスは、20フィート標準コンテナで2400個搭載可能なコンテナ船7隻を
利用する。5隻はロイドが、2隻はCMAが提供する。
(2003年11月11日
時事速報シンガポール)
自動操縦クレーン設置、PTP効率化
ジョホール州のタンジュンプルパス港(PTP)はこのほど、荷役作業の省力化と効率化を
目的に自動操縦のラバータイヤ式橋形クレーン(RTG)を 67 台設置した。クレーンは国際
標準の測位システム GPS(全地球測位システム)の精度を高めた DGPS の技術を採用してお
り、貨物の位置などの情報管理も自動的に行うため、作業効率の向上が見込まれている。
PTP の今年 1~9 月のコンテナ取扱高は 251 万 TEU(20 フィートコンテナ換算)。通年では
300 万 TEU を超える見通しになっている。来年 7 月には拡張工事が完了、年間取扱能力は
600 万 TEU に拡大する予定だ。
(2003年11月11日 NNA)
中国蘇州の埠港に11億元投入へ=香港モダン・ターミナルズ
香港総合大手、九竜倉集団(ワーフ〈ホールディングズ〉)傘下のコンテナ港運営会社で
ある現代貨箱碼頭(モダン・ターミナルズ)は、中国江蘇省蘇州市の太倉港のコンテナタ
ーミナルに11億元を投じるもようだ。同市の楊衛沢市長が10日、投資商談会で訪れて
いる香港で明らかにしたもので、順調にいけば今商談会中に契約が交わされるという。
モダン・ターミナルズは太倉港の4バースの建設に投資する予定で、4バースの貨物処
理量は年間100万TEU(20フィート標準コンテナ換算)になるとみられている。
蘇州市の主要埠港は、太倉港のほか張家港、常熟港の3つ。今年の3埠頭の貨物処理量
は40万TEU、6000万トンに上る見込み。特に太倉港は港湾線が長いなど、港湾条
件が整っており、新バース完成後の太倉港の貨物処理量は年間700万TEU、1億トン
に達すると推計される。
(2003年11月11日 時事速報シンガポール)
216
シンガポール:マ・シ海峡の利用国の資金負担を支持
資金の拠出方法が、海峡利用国と沿岸3ヵ国に合意されるかについては、暗礁に乗り上
げている
シンガポールは、マラッカ・シンガポール海峡の航行安全確保のために、海峡利用国が
協力する考えを支持している一方、資金拠出のメカ二ズムの創設については、いまだ多く
の障害に直面している。
海峡の航行安全を確保するための利用者負担についての現行の問題が、最近になって2
つの有力関係者からの国際的な負担問題についての要請によって、再び、議論の焦点とな
っている。それらは、海峡の安全確保に資金を拠出している日本財団とマレーシアの海事
局である。
それぞれ、両海峡利用国に対して、安全確保のための資金負担の要請を呼び
掛けている。
シッピング・タイムズからの海峡の航行安全を確保するために、海峡利用国が協力する
考えを支持するかどうかの質問に対して、シンガポール海事港湾庁(MPA)は電子メール
で、次のように答えた。
「シンガポールとしては、海峡の航行安全確保のための資金拠出の
メカニズムについて、国際的なコンセンサスが確立されれば、同メカニズムに貢献する用
意がある。
」
しかし、どのような資金拠出メカニズムも、包括的で公平であり、国連海洋法条約へ適
合し、国際海事機関が関わるべきものと限定している。
MPAが続けて言うには、「マラッカ・シンガポール海峡は、国連海洋法条約に定める国
際航行に使用されている海峡であり、資金拠出のメカニズムの検討に際しては、海峡利用
国と国際海事機関が関わった包括的かつ協議を通じてのアプローチが採用されるべきであ
る。」
シンガポールの無任所大使トミー・コーとシンガポール国立大学法学部准教授ロバー
ト・ベックマンは、両海峡の利用国の資金負担問題については、過去5年間にわたって、
多くの研究と議論がされてきていると述べた。2人の話によると、シンガポールで199
6年と1999年に開催された国際会議では、はじめに沿岸3ヵ国と海峡利用国が安全確
保のコストを分担する必要があるとの認識で一致したものの、その後の話し合いでは、国
連海洋法条約43条をどうやって実行するかについて、コンセンサスが得られなかった。
また、両海峡の「利用国」の定義や、コスト負担を自主的なものとするか、義務とする
かなどをめぐり、合意が行き詰まっている状態が続いている。
TTEG(三国技術専門家グループ)は、どのような形の協力も、安全確保のためのコ
ストの分担も、コストの回収や両海峡の利用国による自主的な寄付に基づくべきであると
いう合意に達しており、少なくとも解決にむけて、一歩前進している。
MPAの話によると、現在TTEGは、主要な海峡利用国や海峡利用者に対して、海峡
の航行安全確保の努力をすることを広めるために、一連の周知会合を開催して働きかけて
217
いる。
(2003年11月13日 シッピング・タイムズ)
海運業活性化に向け新大統領令を準備=インドネシア
国内海運産業の活性化に向けて、政府は遅くとも年内に新たな大統領令を発布する方針。
その大統領令案には、3年以内に政府国営企業の輸出貨物およびそのほかの輸出貨物はC
IF/C&Fを条件に、輸入貨物はFOBを条件にすることが義務付けられる。さらに、
これらの貨物運送にはインドネシアの海運会社の船を使うことが義務付けられる。
この規則によって、これまで外国海運会社に流出していた年間110億~120億ドル
の外貨が節約されるほか、国内海運会社からの国家歳入が2兆ルピア増加するとみられる。
(2003年11月17日 時事速報シンガポール)
1-9月のシンガポール港の取扱量、前年同期比7.3%増=星海事港湾庁
シンガポール海事港湾庁(MPA)の最新統計によると、今年1-9月の同国の港(ジ
ュロン港を含む)のコンテナ取扱量が合計1360万TEU(20フィート標準コンテナ
換算個数)と、前年同期比7.3%増加した。今年残り3カ月も順調に取扱量が推移すれ
ば、今年通年の同国港の取扱量は、2000年に記録した史上最高の1709万TEUを
突破する見通しだ。
同国の港で、PSAコープが管理する港の1-9月のコンテナ取扱量は1338万TE
U。一方、ジュロン港のコンテナ取扱量は22万TEUだった。PSAは、10月には同
国内で158万TEUのコンテナを取り扱っており、前年同月比11.3%増を達成して
いる。MPAの統計は、PSAの発表よりも1カ月遅れで発表されている。
(2003年11月21日
時事速報シンガポール)
国際海事機関が初のアジア事務所=比
海運の監視に当たる国連機関である国際海事機関(IMO)は20日、アジア地域の公
海で高まっている海賊やテロの脅威に対処するため、フィリピンの首都マニラにアジア初
の事務所を開設した。同事務所は東南アジアのほか、日本、中国、韓国をカバーする。
当局者によると、来年には南アジアを担当する事務所をインドに設置する予定という。
アジア海域をめぐっては、最近、専門家の間から、ウサマ・ビンラディン氏率いるテロ
組織アルカイダがアジアの重要な航路上で船へのテロを計画しているとの指摘がなされて
いた。
(2003年11月21日 時事速報シンガポール)
218
インドネシアで防災船を受注=約30億円で-トーメンと三井造船
トーメンと三井造船は20日、インドネシア運輸省海運総局から防災船2隻を受注した
と発表した。国際協力銀行による円借款プロジェクトで、受注金額は約30億円。
これらの防災船は、タンカー事故の際に、油の拡散を防ぎ、回収する機能と、海上火災
を消火する機能を備えている。1隻を日本で建造し、残る1隻は三井造船の指導で現地の
造船所が担当する。契約発効から24カ月後までに納入する。
(2003年11月20日
時事速報シンガポール)
海運会社数社とターミナル株売却で交渉=港湾管理のPSA-シンガポール
シンガポール政府系港湾管理会社PSAコープのスティーブン・リー会長は2日、同社
が運営・管理する同国港のターミナルの権益取得に意欲を示す海運会社数社と交渉中であ
ることを明らかにした。同会長は、海運会社との話し合いは初期の段階にあると指摘した。
PSAは今年8月30日、中国政府系海運大手、中遠グループ(COSCO)傘下の投
資会社COSCOパシフィックとの間で、シンガポール港のコンテナ・ターミナルの一部
を運営する合弁会社「COSCO・PSAターミナル社」を設立することで暫定合意。両
社は同日、同合弁会社の正式設立を発表した。PSAが国内港の運営で外国の海運会社と
提携するのは今回が初めて。
同合弁会社が運営するターミナルは、PSAのパシル・パンジャン・ターミナル内にあ
る。同合弁会社の株式の51%はPSAが保有し、残りをCOSCOが保有する。リー会
長は、上海郊外のヤンシャン島に開発中の港やその他の中国国内のプロジェクトで、CO
SCOと将来提携関係を結ぶことに前向きの姿勢を示した。一方、COSCOパシフィッ
クの幹部も、さらなる提携関係の構築についてPSAと交渉中であることを認めたが、詳
細については明らかにしなかった。
(2003年12月3日 時事速報シンガポール)
中国海運最大手COSCOとシンガポール政府系テマセク、提携関係を拡大へ
中国政府系海運大手、中遠グループ(COSCO)のウェイ・チアフー社長はこのほど
ビジネス・タイムズ紙とのインタビューで、海運業界だけでなく、航空貨物など新たな分
野においても、シンガポール政府系持ち株会社テマセク・ホールディングスとの長期的な
提携関係を拡大する方針を明らかにした。同社長は、テマセクとの提携について、中国国
内にとどまらず、世界全体を網羅することになると指摘した。COSCO傘下の投資会社
COSCOパシフィックは3日、テマセク傘下の港湾管理会社PSAコープとのターミナ
ル運営合弁会社「COSCO・PSAターミナル社」の正式設立を発表している。ウェイ
社長は、COSCOパシフィックの会長を兼務する。
ウェイ社長は、COSCOとPSAが、米国内のハブ港や地中海の港の管理で合弁会社
を設立することも検討していると語り、PSAとは中国だけでなく、世界各地で積極的な
提携関係を結びたいと意欲を示した。COSCOとPSAとの直近の共同プロジェクトは、
219
上海郊外のヤンシャン港開発となる見通し。同社長は、PSAとの提携を通じて、港湾管
理分野で世界第8位のCOSCOの地位を、4-5位に押し上げたいとの考えを示した。
世界の港湾管理会社の規模では1位が香港のハチソン・ワンポア、2位がPSA。
一方、航空貨物について同社長は、シンガポールの航空貨物部門の企業を中国および世
界各地に誘致したいと述べ、それと同時に同社が「世界の航空貨物の主要なプレーヤーに
なりたい」と語った。
(2003年12月4日 時事速報シンガポール)
シンガポールでの貨物取り扱いを2倍に=中国海運大手COSCO
中国政府系海運最大手、中遠グループ(COSCO)傘下のコンテナ船会社、COSC
Oコンテナ・ラインズのシュー・リロン社長はこのほど、シンガポールでのコンテナ取扱
量を現在の年間約20万TEU(20フィート標準コンテナ換算個数)から、2006年
には40万TEU以上へと2倍に増加させる計画を明らかにした。同じCOSCO傘下の
COSCOパシフィックは今年、シンガポール港のコンテナ・ターミナルの一部を運営す
る合弁会社を設立している。
シュー社長は、シンガポール港により大型の船舶を寄港させるとともに、シンガポール
経由した新しい欧州航路を導入する計画だと述べた。新しい航路は、香港、深セン、上海
からシンガポールを経由して、ロッテルダム、ロンドン、ハンブルグを結ぶ予定。
(2003年12月4日 時事速報シンガポール)
1-10月のシンガポール港の取扱量、前年同月比7.8%増=海事港湾庁
シンガポール海事港湾庁(MPA)の最新統計によると、今年1-10月のジュロン港
を含む同国の港のコンテナ取扱量が、合計1520万TEU(20フィート標準コンテナ
換算個数)となり、前年同期比7.8%増加した。10月の同国港の取扱量は162万9
000TEUで、年内最高を記録した7月の取扱量に迫る水準を達成した。
同国の港のうち、PSAコープが管理する港の1-10月のコンテナ取扱量は1496
万TEUで、ジュロン港の取扱量は約24万TEUだった。10月に同国港を寄港した船
舶数は、1万1502隻(タンカー1391隻、コンテナ船1363隻含む)と7カ月ぶ
りの高水準を記録した。
(2003年12月5日 時事速報シンガポール)
航行安全確保にMEH導入の必要高まる=マ海峡の混雑化で-IMO
世界銀行や国際海事機関(IMO)の関係者は、混雑するシンガポール海峡およびマラ
ッカ海峡の船舶の航行量が今後倍増する見通しであることから、IMOと両海峡沿岸国3
カ国が進める海上電子ハイウエー(MEH)プロジェクトの導入の必要が高まっていると
指摘している。
IMOとシンガポール、マレーシア、インドネシアが推進するMEHプロジェクトは、
電子海図などのシステムに、海流や潮流、天候などのリアルタイム情報を組み合わせるも
220
ので、船舶の衝突事故の回避などを目的としている。
IMO海洋環境部門の関水(せきみず)局長はこのほどシッピング・タイムズ紙に対し、
向こう20年間で両海峡の船舶航行量が2倍以上となることが見込まれるほか、船舶の規
模が大きくなり、高速船の運航増加で、航行の安全確保には盤石な航行管理システムの導
入が必要だと指摘した。
来年9月には、MEHは両海峡内の通航分離方式(TSS)による約100キロの航路
上で導入が部分的に開始される。これが成功すれば、両海峡沿岸3カ国の領海全体をカバ
ーしたMEHが導入される計画で、長期的には世界各地の混雑する航路で導入されるもの
と期待されている。
(2003年12月24日 時事速報シンガポール)
03年のコンテナ取扱量が史上最高に=前年比7.8%増―シンガポール港
【シンガポール9日時事】シンガポール政府系港湾会社PSAコープは9日、同社が運営
するシンガポール港での昨年のコンテナ取扱量が、前年比7.8%増の1810万TEU
(20フィート標準コンテナ換算個数)に達し、史上最高を記録したと発表した。これま
での記録は2000年の1704万TEUだった。シンガポール港のコンテナ取扱量は、
香港の港湾に次いで世界2位となっている。
PSAはまた、取扱量の拡大傾向に対応して、新たに5つの大型バース(係船スペース)
を設けることを明らかにした。PSAが保有するシンガポールのバースは現在37で、年
間処理能力は2000万TEU。5つのバースの新設により、処理能力が20%、400
万TEU分拡大するという。新バースの建設は段階的に進められ、最初の2つのバースが
操業を開始するのは05年となる見込み。
(2003年1月12日 時事速報シンガポール)
インドネシア 自国籍船による主要物資の国内輸送を提案
ジャカルタポストが伝えたところによると、インドネシア国家開発計画庁(バペナス)
は海運総局に代わって、自国籍船による主要物資7品目(やし原油、肥料、米、ゴム、材
木、石炭、油)の国内輸送を提案した。
同紙によると、インドネシア海運のうち輸出入の96%、国内輸送の50%を外国籍船
が担っている。
国家開発庁からの提案は、JICA(日本国際協力機構)がインドネシア運輸省・通産
省とともに進めている調査に基づき作成されたもの。この調査によると、インドネシアが
国内のすべての海運を自国船で行う場合、4,600 隻の船舶が必要になり、費用は2002年
のインドネシア国内総生産(GDP)の8%に上る。
(2003年1月22日 シッピング・タイムズ)
221
船舶燃料の売り上げが昨年12月、2年ぶりの最高値を記録
シンガポール海事港湾庁(MPA)の最新統計によると、同国での昨年12月の船舶燃
料の売り上げが推定で前月比3.4%増の192万トンと、23カ月ぶりの最高値を記録
した。12月の船舶燃料の売り上げは、前年同月比ベースでは9.7%増だった。
船舶燃料の売り上げが大きく増加した理由について業界関係者は、昨年12月にはより
大型の船舶が同国に寄港して、船舶燃料を購入している可能性が高いと指摘している。同
統計によると、ジュロン島を含む同国の港に寄港したコンテナ船の総トン数は昨年12月
に319万トンと、前年同月の294万トンから増加していた。昨年通年の船舶燃料の売
り上げは史上最高の2080万トンと、前年比3.5%増加した。
(2004年2月11日 時事速報シンガポール)
シンガポールのPSAの長期債格付けを「Aaa」に格上げ=米ムーディーズ
有力格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスはこのほど、シンガポール政
府系港湾管理会社PSAコープの外貨建て無担保長期債の格付けを「Aaa」へと、それ
までの「Aa1」から格上げした。またPSAの格付け見通しについては、
「安定的」とし
た。
ムーディーズはPSAが社内構造改革で、PSAインターナショナルを持ち株会社とし、
PSAコープをその子会社へと組織を変更したことで、PSAグループの海外進出促進に
伴うリスクを軽減し、財務基盤のさらなる強化を図ることができたと指摘した。ムーディ
ーズは、今回の格上げが、過去12-18カ月の間に競争のプレッシャーと業界を取り巻
く不安定な状況をPSAが乗り越えたことへの評価だと述べた。ムーディーズは、近隣諸
国の港とPSAとの競争は今後も続くが、PSAがさらなるコスト圧縮圧力を吸収するこ
とは可能だと述べ、近隣のライバル港がPSAの取扱能力に対抗するまでにはさらに時間
が必要との見方を示した。
(2004年2月13日 時事速報シンガポール)
ひびきコンテナ港の運営形態が確定=シンガポールのPSAが34%出資
シンガポールの政府系港湾管理会社PSAコープが参加する企業連合が北九州市当局と
3年以上にわたり進めていた北九州港内のひびきコンテナターミナルの運営権をめぐる交
渉が妥結し、このほど営業認可が下りた。同ターミナルは、北九州市が民間資金を活用す
るPFI方式での整備を計画している24時間港。PSAは日本の港湾プロジェクトに直
接投資する初の外国企業となる。
PSAは当初同ターミナル運営会社の株式の60%を取得する計画だったが、その後運
営条件や取扱量をめぐり交渉が難航し、2002年12月に出資比率を約34%に引き下
げることで北九州市と妥協が成立していた。PSAは同運営会社株34%の対価として、
2000万米ドル弱を払うと見られている。同運営会社の残りの株式については、港湾運
送大手の上組が15.3%、北九州市が10%を取得し、残りを日本通運、三井物産など
日本の企業16社が保有する。同運営会社の最高経営責任者(CEO)には上組の久保昌
222
三氏が就任し、最高執行責任者(COO)にPSAのデニス・ソー氏が就任する。
同ターミナルの年間コンテナ取扱能力は100万TEU(20フィート標準コンテナ換
算個数)に上るが、本格的な稼動は05年5月の予定。初年度には、約10万TEUのコ
ンテナを扱う見通しで、日本・中国・韓国間の積み替え貨物の扱いが中心となる。
(2004年2月17日 時事速報シンガポール)
シンガポール港とPTPの貨物取扱量増加を楽観視=海運大手マースク
世界最大の海運会社マースク・シーランドのスティーン・ランド副社長(アジア地域担
当)はこのほどビジネス・タイムズ紙とのインタビューで、PSAコープが管理するシン
ガポール港と、マレーシア・ジョホール州のタンジョン・プルパス港(PTP)での貨物
取扱量が今後順調に増加することに楽観的な見通しを示した。PSAの最大顧客だったマ
ースクは2000年12月に、南アジア地域の貨物積み替え拠点をシンガポールからPT
Pへと移転していた。ランド副社長は、同社が今後も引き続きシンガポール港とPTPの
双方を利用し、両港での貨物の取り扱いを伸ばしていく方針を強調した。
PTPへの移転により、マースクとPSAとの関係悪化が伝えられていたが同副社長は、
PSAとの関係はその後「良い関係」へと修復することができ、現在ではビジネスのあら
ゆる実務面での話し合いを定期的に行っていると述べた。同副社長は、シンガポールが依
然、同社のアジア統括本部であることには変わりないと指摘した。同社は現在、シンガポ
ール港を通じて貨物便3便を運航している。
(2004年2月20日時事速報シンガポール)
船舶の給油停泊地、2 カ所オープンへ
海事港湾庁(MPA)は 24 日、船舶の給油停泊地をシンガポール港の西側に 2 カ所オープ
ンすると明らかにした。スドン・バンカー・アンカレッジ「A」(ASUBA)と「B」(ASUBB)
で、来月 1 日から使用できる。25 日付ロイター通信などが伝えた。
給油停泊地は現在、東側に 2 カ所あるが、昨年の船舶燃料売上量が過去最高だったこと
もあり、給油停泊地を増やすことにした。昨年は 2001 年に記録した 2,040 万トンをさらに
上回る 2,080 万トンを売り上げ、世界最大の燃料補給地となっている。
(2004年2月26日 NNA)
星港に対抗したジョホール港船舶燃料補給港建設プロジェクトに進展か
消息筋によると、シンガポールの船舶燃料ハブ(中枢)の地位奪取を目指したマレーシ
ア南部ジョホール州のタンジョン・プルパス港(PTP)内での大型船舶燃料補給港の建
設プロジェクトに進展があったもようだ。
複数の消息筋によると、PTPの経営権を握る実業家サイド・モクタル氏はこのほど、
同船舶燃料補給港建設で中東の提携先を見つけたことから、同補給港は来年にも完成する
223
見通しとなった。サイド・モクタル氏が経営するシーポート・ターミナル社は当初、船舶
燃料補給港建設のパートナーとして、国営石油会社ペトロナスとダイアログ社と交渉を進
めていたが、両社は同プロジェクトからの撤退を決めていた。今回建設が決まった船舶燃
料補給港の規模については、明らかになっていない。
シンガポール港は、世界最大の船舶燃料補給港であり、船舶に必要な水や食品の供給港
としても最大規模の港。シンガポール海事港湾庁(MPA)によると、同国は昨年、史上
最高の2080万トンの船舶燃料を売却していた。
(2004年3月2日 時事速報シンガポール)
MPA、海上保安用レーダー追加設置
海事港湾庁(MPA)は、港湾事業センターのマルチレーダー追尾システムのレーダー装置
2 基を追加設置し、海上交通の監視機能を強化している。3 日付シッピング・タイムズが伝
えた。
MPA は昨年、チャンギ海軍基地とジョホール海峡東部に新レーダー装置 2 基を設置。これ
により同装置の設置数は計 11 基となった。
同システムは、シンガポール海峡や港湾施設沖合いなどを監視するもの。海上保安への
配慮が求められるチャンギ、ジュロンの両海域での船舶交通の監視が強化できる。
これに伴い MPA は同センターに 4 人を増員した。
(2004年3月4日 NNA)
コンテナ・ターミナル開発用地を確保=アジア貨物量増大で―シンガポール
シンガポールのヨー・チャウトン運輸相はこのほど、アジア・ターミナル運営会議で、
同国政府が、大きく増加しているアジアの貨物量に対応するため、コンテナ・ターミナル
を新たに開発するための用地を確保済みであることを明らかにした。
政府系港湾管理会社PSAコープは最近、同国港の年間コンテナ取り扱い能力を200
0万TEU(20フィート標準コンテナ換算個数)から2400万TEUに拡大するため、
新たに5つのコンテナ船の係留スペース(バース)を建設する計画を明らかにしている。
ヨー運輸相は、各種調査を引用して、貨物量の拡大に対応するには東南アジアでは201
1年までにさらに120のバースを建設する必要があると指摘。同国港の将来の成長を支
えるためにも、政府としてはコンテナ・ターミナル拡大のための用地を確保してあると述
べた。
同運輸相は、積み替え貨物の獲得をめぐる同国港と近隣港の競争が激化していると認め
た上で、PSAが管理するシンガポール港と第2の港、ジュロン港が、インフラの改善と
IT化によるコスト削減などを通じて、中国やインドを中心に大きく成長しているアジア
貨物市場でシェアを拡大していく方針を強調した。
(2004年3月5日 時事速報シンガポール)
224
バタム島の港湾プロジェクト獲得にPSA含む大手港湾管理・海運会社が意欲
インドネシア・バタム工業開発局(BIDA)の幹部はこのほど、シンガポール国境近
くのバタム島・バトゥ・アムパール港を、地元貨物および積み替え貨物を扱う大型コンテ
ナ港に再開発するプロジェクトの入札に、シンガポールのPSAコープを含む大手港湾管
理会社、海運会社14社が参加の意思を示していることを明らかにした。バトゥ・アムパ
ール港はシンガポール海峡に面し、同島内の主要工業地区に隣接している。既存港は現在、
シンガポールで積み替えられる貨物を中心に年間16万-20万TEU(20フィート標
準コンテナ換算個数)の貨物を扱っているが、再開発後には同港のコンテナ取扱能力は最
大年間200万TEUに拡大する見通し。
同コンテナ港の設計・建設および25年間の運営権の入札手続きは3日に開始され、6
月には落札企業が発表される。同入札では、PSAのほか、P&Oポーツ、ハンジン・シ
ッピング、サムデラ・シッピングなどが既に応札の意向を表明済み。BIDA幹部による
と、同コンテナ港の第1期工事は2005年に開始され、07年には操業を開始する予定。
第1期工事が完了する07年には、同港の年間コンテナ扱い能力は90万TEUに拡大す
る。
(2004年3月5日 時事速報シンガポール)
バタム島新港湾プロジェクト、PSAの脅威とはならず=シンガポール運輸相
シンガポールのヨー・チャウトン運輸相は5日、同国国境近くのバタム島のコンテナ港
開発プロジェクトが、シンガポール港を運営する政府系港湾管理会社PSAコープの脅威
とはならないとの考えを示した。バタム工業開発局(BIDA)は先週、バタム島の・バ
トゥ・アムパール港を、地元貨物や積み替え貨物を扱う大型コンテナ港に再開発するプロ
ジェクトの入札手続きを開始し、PSAなど大手港湾管理会社、海運会社14社が参加の
意思を示していた。
バトゥ・アムパール港のコンテナ港への再開発について、同運輸相は東南アジア地域内
の港間の競争激化を反映した動きと指摘するととともに、PSAは港間の競争激化に伴う
「教訓を充分学んでいる」と強調した。また、重要なことは海運市場が急速に成長してお
り、「PSAを含む他の港にも成長の余地はある」と述べた。
(2004年3月8日 時事速報シンガポール)
シンガポール 海事センターの地位強化、運輸相表明
ヨー・チャウトン運輸相は 5 日、シンガポール海事協会(SMF)の設立式における演説で、
国際海事センターとしてのシンガポールの地位を強化するため、税制を含む優遇措置の拡
大など 3 項目の措置を実行すると表明した。
実施に当たるのは監督機関の海事港湾庁(MPA)で、優遇措置の見直しのほか、船舶所有・
運営業者の誘致努力を強化、海上保険、法律サービス、船舶仲買・金融など付随サービス
を充実させる。
225
SMF は業界の意見を代弁する組織として設けられた。海事産業関係者のフォーラムとして
機能し、そこで生まれたアイデア、提案を MPA をはじめとする政府機関が吸い上げ、政策
に生かす。
SMF は政府と協力し、国際海事センターとしてのシンガポールを海外に売り込む。会長に
はシンガポール海運協会(SSA)のテオ・ションセン会長が、理事には業界代表 5 人と、ル
イ・トゥクユーMPA 最高責任者が任命された。
(2004年3月8日 NNA)
シンガポール 船主の資本金要件緩和、置籍奨励で
シンガポール海事港湾庁(MPA)はこのほど、シンガポールでの船籍登録を奨励するため、
船主に対する資本金要件および関連会社規制を緩和すると業界に通知した。国際海事セン
ターとしての地位強化に向けた措置の一環として実施する。8 日付シッピング・タイムズが
報じた。
船舶をシンガポール船籍にする企業の最低払込済み資本金は 5 万 S ドルにまで引き下げ
た。以前は 50 万 S ドルか船舶評価額の 10%のいずれか少ない方だった。
引き船、はしけ所有会社の最低払込済み資本金も、最初に登録した船舶の評価額の 10%
か 5 万 S ドルのいずれか少ない方に引き下げた。これまでは最高 25 万 S ドルだった。
裸用船契約で、現地企業を通じ船舶を登録する外国資本の船主会社の最低払込済み資本
金は最低 5 万 S ドルに設定。
関連会社に関しては、スライド制に従い船舶をシンガポールに登録するとの条件で、払
込済み資本金要件の適用を免除する。現在の MPA 登録船舶は 3,065 隻で、総トン数は 2,540
万トン。
(2004年3月9日 NNA)
バタム島の新港湾プロジェクトに参加せず=シンガポールPSA
バタム工業開発局(BIDA)は9日、バタム島のバトゥ・アムパール港のコンテナ港
への再開発プロジェクト入札で、シンガポール政府系港湾管理会社PSAコープによる参
加意志は伝えられていないことを明らかにした。ビジネス・タイムズ紙は先に、同プロジ
ェクトの入札参加企業として、P&Oポーツ、サムデラ・シッピングと並んで、PSAも
含まれていると報じていた。
今回の入札は、シンガポール海峡に面する同コンテナ港の設計・建設および25年間の
運営権に関するもので、BIDAによると、既にこれまでに35社が参加の意思を表明、
しかし、PSAの名前はなかった。ヨー・チャウトン運輸相は5日、同プロジェクトにつ
いて、PSAの脅威とはならないとの考えを示している。
同港の現在の年間コンテナ取扱能力は20万TEU(20フィート標準コンテナ換算個
数)。コンテナ港への再開発で、年間最大取扱能力が200万TEUに拡大する見通し。
(2004年3月10日 時事速報シンガポール)
226
マラッカ海峡にヨット用の安全航路―マレーシア
マレーシア政府は、マラッカ海峡でヨットやレジャーボートが安全に航行できるよう、
沿岸海域に全長373海里(691キロ)の安全航路を設定する方針を固めた。レジャー
用船舶の区別を容易にするとともに、沿岸警備当局が海賊行為などに迅速に対応できるよ
うにする。
安全航路はランカウイ島周辺からジョホール州沖に至る海域に設定される。当局は同海
域を航行するレジャー用船舶に対し、精密な航路情報、波やうねりに関する情報などを提
供する。
(2004年3月16日 時事速報シンガポール)
中国海運集団、クラン港に1日2回寄港へ―マレーシア
中国海運集団は、マレーシアの主要港湾クラン港への寄港回数を現在の1日1回から2
回に増便し、同港での貨物取扱量を現在の年間25万TEU(20フィート標準コンテナ
換算)から今年は35万TEUに引き上げる考えだ。
貨物船の新規導入に伴い、3本目の西回り欧州航路の運航を今年第4・四半期にも開始
する。同社はまた、マレーシアでの事業拡大に向け、クアラルンプールに地域運営センタ
ーを設置する。
(2004年3月16日 時事速報シンガポール)
シンガポール海峡での遭難船、入港には一定の安全基準クリアを=ヨー運輸相
シンガポールのヨー・チャウトン運輸相は22日、国際化学石油汚染会議・展示会で、
シンガポール海峡で遭難した船舶が同国の管理海域に入港するには、一定の安全基準をク
リアする必要があると指摘した。
同運輸相は、遭難船が同国の管理海域に入港する際、
(1)船舶からの汚染物質排出の有
無(2)管理海域で沈没したり、崩壊したりしないよう船体の強度-の2点を最低限検査
した上、入港を認めると述べた。 海事港湾庁(MPA)幹部によると、国際海事機関(I
MO)で現在、遭難船の扱いについて協議中だが、シンガポール港では、入港スペースが
限られていることから、港の安全性を確保するため体系的なチェック体制を導入済みだと
いう。
(2004年3月23日 時事速報シンガポール)
米太平洋軍司令官の下院軍事委員会証言
東南アジアの統括が確立していない沿岸地域は、武器拡散、テロリズム、人・薬物の密
輸、海賊等の越境的脅威にとって格好の開拓の場所である。
(米)大統領による PSI と(米)
国務省によるマラッカ海峡イニシアチブは、これらの脅威に対する国際協力を促進するこ
とを目的としている。
地域海上治安イニチアチブ(RMSI)は、米太平洋軍が上述のイニシアチブを具体化する
227
ための努力である。根本的に言って、海事界は、国際航空空間で描かれているような構図
にマッチする認識を持つ必要がある。我々は、自己の非合法活動のために海上空間を使う
脅威と戦うため、この地域の海軍との協力から始め、評価を行った後、各機関や各人にま
たがる能力を形成し、統合する方針である。この点で勿論、他の政府機関も重要な役割を
する必要がある。この考え方は、我々の友人と同盟国に受け入れられている。
海事関係の置かれた状況に関する認識を上げるためには、既存及び開発中の技術を利用
する必要がある。また、事態に適時に対応する決定過程と、決定がなされた場合に、直ち
に派遣可能な遠征部隊も必要である。
テロに対する戦いにおける長期的な努力は、民主制を強化することにより、統治を強化
し、そもそもテロリストの活動を発生されるような問題に取り組むことに力点がある。K の
分野には、文官武官合同教育(civil-military education programs)や、とりわけ、戦域
安全保障協力プログラムが含まれる。
(2004年3月31日 地域的海上治安イニシアチブ関連抄訳)
228
海賊がインドネシア海域で5隻の船舶を襲撃
インドネシアのギャスパー海峡(インドネシア名:クラサ海峡)で過去1週間に5件の
海賊事件が発生しており、IMB が警告を出している。
海賊事件は3月25日以降ほぼ毎日発生しており、ナイフで武装した4名から6名の海
賊が木造のモーターボートで、シンガポールからジャカルタまたはオーストラリアに向か
う商船を標的にしている。
IMB 海賊情報センターのチュン所長は、ある事件では船長が暴行を受けており、海賊は凶
暴で、全てのケースが同エリアで発生していることから同じグループによる犯行だと思わ
れると述べた。
事件発生日時:2003年3月26日 0230
事件発生地点:南緯3度2.8分 東経107度18.5分
被害船名及び詳細:Laviathan 号、ばら積み船、フィリピン船籍
状況:蛮刀で武装した海賊5名が航行中の L 号に乗り込んだ。船橋にいた船長と一等航海
士が暴行を受けた。海賊は彼らに甲板にうずくまるよう命令して、その間に船内を荒らし
た。乗組員の所持品、現金、船の備品を盗んで、30分後に海賊は L 号から逃走した。
事件発生日時:2003年3月26日 2215
事件発生地点:南緯3度1分 北緯107度18分
被害船名及び詳細:Maratha Messenger 号、ばら積み船、インド船籍
状況:オレンジ色のボートに乗った海賊が航行中の M 号に乗り込もうとしたが、乗組員が
回避行為をとったため、海賊は襲撃をあきらめた。
事件発生日時:2003年3月27日 1930
事件発生地点:南緯2度58分 東経106度59分
被害船名及び詳細:Resolution 号、コンテナ船、バハマ船籍
状況:海賊6名がスピードボートでR号を追跡したが、乗組員が警報を鳴らし、海賊のボ
ートにライトを当てたため、海賊は襲撃をあきらめた。
4.
事件発生日時:2003年3月28日 2125
事件発生地点:南緯2度55分 東経107度17分
被害船名及び詳細:Sinar Sunda 号、コンテナ船、パナマ船籍
状況:航行中のS号船体後方左側から海賊が乗り込もうとしたが、乗組員が警報を鳴
らし、ツイストロックを海賊に投げつけ、消防用ホースで海賊を撃退した。
事件発生日時:2003年3月31日 0510
事件発生地点:南緯3度 東経107度19分
229
被害船名及び詳細:Fas Samarang 号、コンテナ船、キプロス船籍
状況:海賊は航行中のF号に木造スピードボートで接近。フックのついた縄を投げようと
している海賊を乗組員が発見した。警報を鳴らしたところ、海賊は逃走。
注)事件発生日時は全て現地時間。
(2003年4月2日 シッピングタイムズ・IMBデイリーレポート)
マレーシア、海賊対策センターの設置を願う
マレーシアは同国への東南アジア地域海賊対策センターの設置を望んでおり、インドネ
シアに対し支持を求めた。現在東京で行われているアセアンと日本の対話(※)の中で、
地域の保安及び海賊問題が話し合われる予定で、マレーシアはインドネシアの支持を取り
付けしようとしている。
マレーシアの外務大臣は「マレーシアのほかに海賊対策センター設置に立候補している
国があるため、インドネシアの支持が必要。マレーシアは海事国家であり、非常に長い海
岸線を持つことから候補地に相応しい。センターが設置されれば、南シナ海やマラッカ海
峡の船舶の動きを効率的に監視できるようになる」とした。
ある日本の海事筋の話によると、地域海賊対策センターの設置は日本外務省による取り
組みだとのこと。一方、インドネシアは長年にわたって世界の海賊の温床になっている。
ある情報では、マレーシアのほかに、シンガポールがセンター設置に名乗り出ていると
のこと。
現在海賊事件に関する情報を収集しているのは、マレーシア・クアラルンプールのIM
B海賊情報センターのみである。同センターは地域だけでなく、世界の海賊事件を取り扱
っており、日本による地域の取り組みとは異なる。
IMB海賊情報センターのチュン所長によると、最近海賊の武装がエスカレートしてい
る。また、インドネシアのクラサ海峡で7日間に7件の海賊事件が連続して発生いるほか、
マラッカ海峡ではケミカルタンカーが自動小銃を持った海賊に襲われる事件が起っており、
最近の事件では海賊がケミカルタンカーを1時間操縦した。ケミカルタンカーへの襲撃は、
大規模な爆発や環境汚染のみならず、人口密集地域へのケミカル流出が懸念される。
(2003年4月9日 ロイズリスト)
※日本の外務省の主導で開催されているアジア海賊対策地域協力協定に関する会議を指す
ものと思われる。
地域海域で凶暴な海賊事件が増加
インドネシア船籍の貨物船がマラッカ海峡で襲われ、乗組員3名が誘拐される。
事件発生日時:2003年4月8日 午後5時半
事件発生地点:マラッカ海峡北部
被害船名及び詳細:Trimanggada 号、インドネシア船籍、貨物船
230
状況:T 号がマラッカ海峡を航行していたところ、3隻の船に乗った約50名の海賊が T 号
の両側から M16 自動小銃で連続して発砲した。発砲は船長が遭難信号を送るまで続いた。
その後海賊は T 号に乗り込み、船長、一等航海士、一等機関士を人質にとって、船の書類
と VHF 無線機とともに逃走した。三等航海士がインドネシア海軍に通報し、海軍はベラワ
ンの停泊地まで T 号を護衛した。誘拐された3名の行方はわかっていない。
この事件のほかにも、4月13日に銃と刀で武装した海賊がマラッカ海峡でタンカーを
襲撃しようと試みたが未遂に終わった。4月11日には別の貨物船が同海峡を航行中海賊
に襲撃され、強盗されている。
T 号の事件については、インドネシア警察と海軍が捜査を行っているが、誘拐された3名
の行方はわかっていない。IMB(国際海事局)海賊情報センターのチュン所長は、海賊グル
ープは通常10名から20名で行動しており、これほど大勢が関わるのは異常だと述べた。
また、乗組員が誘拐された点も含め、ソマリア海域でみられる事件に手口が似ていると同
所長は述べている。
(2003年4月22日 シッピング・タイムズ)
シンガポール海事港湾庁 夜間の航行規制を解除
海事港湾庁(MPA)は25日、夜間航行の禁止など商業船舶に対する航行規制を解除
した。しかし自家用船舶に対する監視は引き続き継続する。28日付シッピング・タイム
ズが報じた。
解除されたのは、◇自家用船、ガス・化学品輸送船の夜間航行禁止、◇タンカー停泊地
へのタンカー以外の船舶の進入禁止、◇引き船行為に関する事前届け出の義務付け―――
の3点で、イラクに対する米英の開戦を受け保安上の理由から3月20日に施行していた。
化学品、ガス、石油を積載した船舶はテロリストの武器として利用される恐れがあるた
めで、夜間航行の禁止はテロ関連物資の密輸阻止が狙い。
自家用船、ヨットについては、所有者、代理店、船長に、目的地、出港・帰港時刻、予
定航路を出港前に届け出るよう義務付けた措置を継続する。
これまでタンカー停泊地には、許可を得た船舶燃料供給船だけが進入を認められていた。
(2003年4月29日 NNA)
今年第一四半期に発生した海賊事件、過去最多
国際海事局(IMB)の海賊報告書(第一四半期)が発表された。今年1月から3月ま
でに全世界で発生した海賊事件は103件に上った。(昨年は87件)第一四半期に発生し
た海賊事件が100件を超えたのは、IMB(国際海事局)が10年以上前に海賊事件の
統計を開始して以来、初めてのこと。
引き続きインドネシア海域での事件が最多で、28件。後に、バングラディッシュ、イ
ンド、ナイジェリアが各9件と続く。
しかし、今年2月にインドと中国で海賊に有罪判決が下されたことは、大きな躍進であ
231
ったとIMBのムクンダン局長は評価した。
イエメン沖でタンカー「リンバーグ号」がテロ攻撃に遭って以来、海運業界は独自にテ
ロ対策を進めているとIMBは述べた。また、日本が石油の供給を確保するため、中東・
日本間を行き来するタンカーの護衛を計画していると伝えられていることにも触れた。
一方マレーシアは、イラク戦争開始後、マラッカ海峡でのパトロールを強化したとIM
Bは述べた。マラッカ海峡は、経済的重要性、船舶通航量、操船の制限の面から商船に対
するテロのターゲットになる可能性が高いとIMBはしている。
(2003年5月2日 シッピング・タイムズ)
IMOが定める新テロ対策、既存の政府機関が担当へ
シンガポール海事港湾庁(MPA)の幹部は5日、同庁主催の海上の警備強化に関する
セミナーで、来年7月1日に発効する国際海事機関(IMO)の海上人命安全条約(SO
LAS)の改正条項の管轄当局として、既存の政府機関を指名する考えを示した。IMO
は昨年12月、2001年9月の米同時テロ事件を受けた船舶のテロ対策としてSOLA
Sを改正し、加盟各国に船舶と港湾施設の安全確保を任務とする政府機関の設置を義務付
けた。MPAは、どの機関がこの任務を担当するか明らかにしなかったが、MPAなど既
存の政府組織内の機関に警察や海軍、税関、入管担当省庁の代表が加わる形になるとみら
れている。
SOLASの改正条項は、国際船舶に対し、警報装置の搭載や船舶識別番号の船体への
表示などを義務付けている。
(2003年5月6日 時事速報シンガポール)
東マレーシアでLPG運搬船が海賊に2時間半尾行される
事件発生日時:2003年5月5日(月)午後10時頃
事件発生地点:東マレーシア サラワク・ビントゥル港沖
北緯3度37.34分 東経111度4.81分
被害船の詳細:LPG 運搬船、Apollo Pacific 号、シンガポール船籍
Odyssey Maritime(拠点:シンガポール)所有
状況:A 号がシンガポールから東マレーシアのビントゥル港に向かって航行していたところ、
約2時間半にわたって母船1隻、小型ボート7隻に尾行された。A 号船長によると、小型ボ
ートは14ノット以上の速度で様々な角度から A 号に接近したとのこと。その間、母船は
背後で不審な行動をとっていた。サーチライトを向けて、航行速度を上げたところ、不審
船及びボートは逃走した。
インドネシア海域2ヶ所に航行警告
国際海事局(IMB)は、5月7日付けデイリーレポートで、インドネシア海域の2ヶ所に
ついて航行警告を出した。警告が出された海域は以下のとおり。
232
インドネシア アンバス島付近 北緯1~3度、東経105~106度
インドネシア ギャスパー海峡(インドネシア名:クラサ海峡)南緯3度 東経107度
(2003年5月8日シッピングタイムズ、7・8日 IMB デイリーレポート)
IMB 海賊事件が一週間で21件発生
IMB(国際海事局)によると、4月28日から5月5日の一週間に全世界で21件の
海賊事件が発生した。これは過去最多で、通常の3倍に上る。東南アジアとインドネシア
海域が、最も事件の多い海域になっている。
IMB海賊情報センターのチュン所長は、これが1回限りの動向であるのかまだ断定で
きないと述べ、今後数週間状況を監視していくと述べた。IMBは、インドネシア当局に
対し、クラサ海峡、アンバス島、マラッカ海峡の3つの海域で海賊事件が多発していると
警告を出した。その後、これらの海域で事件は報告されていないが、過去2日間には全世
界で4件の海賊事件が発生し、そのうち2件はシンガポールに近いインドネシアのビンタ
ン島沖で起こっている。
4月28日に発生した2件の海賊事件の詳細は以下の通り。
事件発生地点:インドネシア クラサ海峡
被害船:コンテナ船
状況:ナイフで武装した海賊がスピードボートで接近し、コンテナ船を襲撃。船橋に侵入
し、船長、当直の航海士のほか乗組員1名を縛った。その後海賊は船長室に押し入り、現
金や船長の私物を奪った。
事件発生地点:マラッカ海峡
被害船:タンカー
状況:タンカーがマラッカ海峡北部入口付近を航行していたところ、スピードボートに乗
った海賊がタンカーに乗り込もうとした。海賊に気がついた乗組員が火災用ホースで海賊
に対抗したところ、海賊は逃走した。
今年1月から3月に発生した海賊事件は103件、昨年同時期の87件を大きく上回る。
(2003年5月12日 マリタイムアジア)
IMB、ビンタン島付近に海賊事件多発警告
国際海事局(IMB)は先週、インドネシアのビンタン島及びアナンバス島付近で海賊
事件が多発していることから、同エリアを航行する船舶に対し警告を出した。
5月13日から19日の間だけで、インドネシア海域では6件の海賊事件が発生してい
る。
このうちの1件では、ナイフと銃で武装した海賊5名がビンタン島沖を航行中のコンテ
ナ船を襲撃した。海賊は乗組員1名を人質にとり、一等航海士をピストルで脅し、船長室
で警戒発砲した。その後45分にわたり船内を物色した後、逃走した。
233
別のケースでは、アナンバス島付近を航行していたタンカーに小型ボート3隻が接近し、
乗り込もうとしたが、消火用ホースで撃退された。同じ週には、蛮刀で武装した海賊がド
ゥマイ錨地でケミカルタンカーを襲撃、アラームが鳴るまでにエンジン部品を奪って逃走
した。
(2003年5月26日 シッピング・タイムズ)
マレーシア 沿岸警備隊設立計画にゴーサイン
マレーシア領海での監視と海上保安を強化することを目指した沿岸警備隊設立計画が、
実行に移される模様である。
マレーシア沿岸警備隊は当面首相府の管轄に置かれ、海上及び航路の安全・保安確保の
ためマレーシア海軍及び海上警察と密接に働き合う予定である。
政府関係筋の情報によると、マレーシア海軍が沿岸警備隊設立を担当しており、沿岸警
備隊を始動させるために必要な巡視船や装備の提供もその任務に含まれている。
一般的に沿岸警備隊は、軍事的機能を持つ海軍に比べ、「文民としての」平時の役割を担
い、領海内の安全・保安の確保を担当する。
沿岸警備隊を設立するという計画は、9・11事件後に強化された世界的な海上保安に対
する取り組みと関連しないとは言い切れないが、マレーシアが沿岸警備隊のような機関を
持って、マラッカ海峡やサバ州・サラワク州海域を監視すべきだという認識は10年近く
前からあった。
また、マラッカ海峡で海賊事件が増加していること、マレーシアが長い海岸線を持ち、
漁業やオフショア石油・ガスなどの海洋資源が豊富なことからも、沿岸警備隊の設置が望
まれていた。
近年、特に日本などの国際社会が沿岸国に対して、沿岸警備隊設立に対する支援を申し
出ている。
昨年インドネシアで行われた会議で、日本は、海賊及び海上強盗の取り締まりに利用す
るため、解役になった巡視船を提供すると述べた。
巡視船提供を申し出た日本海上保安庁の須之内康幸次長は、協力体制及び法執行の強化
が海賊事件防止に対して積極的効果を持つことは明らかであると述べた。同次長は日本の
海賊対策への働きかけを強調し、アジアの国グループに対し、解役になった日本の巡視船
を海賊の追跡に派遣することも申し出た。
しかし、地域的部隊は実行上の問題や司法権の問題に直面する恐れがあることから、マ
レーシアは独自に行動することを選んだ。
マレーシアの沿岸警備隊設立は、誠に時宜を得たものであり、国内及び海外の海運団体
から広く歓迎されるとみられる。
海上保安・安全問題は、アメリカや国際海事機関(IMO)からも重要視されており、
沿岸警備隊設置により監視・執行任務がしっかりと全うされるだろう。
(2003年6月3日 ニュー・ストレート・タイムズ)
234
シンガポール港でのスキャナーによるコンテナ検査
今年2月、シンガポール港を通過したコンテナ4,500個以上が、ガンマ線スキャナー
によって検査された。このうち2個について、申告書類と内容が異なっていたとして税関
職員に引き渡された。9月には、パシルパンジャン・ターミナルに移動式スキャナーが導
入される予定。
(2003年5月27日 ストレート・タイムズ)
海上安保で 3 案提出、アジア会議でシンガポール政府
アジア地域の安全と防衛について話し合う「アジア安全保障会議」の最終日となる 1 日、
シンガポール政府は海上の安全保障を図るため、◇国際協力◇海賊対策枠組み◇多角的ア
プローチ――の 3 つを提案した。会議ではこのほか、米太平洋艦隊司令官が海上輸送防衛
の重要性を指摘した。
トニー・タン副首相兼国防相は第 1 案として、海上の安全保障問題で緊密な国際協力関
係を築くことを呼び掛けた。手始めとして、基本分野となる情報交換を挙げた。
第 2 案は域内海賊対策の枠組み構築。タン副首相は「手口や戦略がテロリストと似ている
例もあり、対策を立てることができる」と話している。
第 3 案は「統合的多角アプローチ」
。これは安全当局だけでなく、港湾当局、国際組織、
産業界なども巻き込んだもの。
一方、太平洋艦隊司令官、トーマス・ファーゴ海軍大将は「アジアのエネルギー消費の
半分は石油。日本は石油の 98%を輸入に頼っている。2020 年までに中国の消費は倍増する」
と指摘。「石油の多くは東南アジアの海峡を通過する」と述べ、海上輸送防衛の重要性を強
調した。
質疑応答では、米国向け貨物に武器などテロ関連物資が紛れていないかを検査するコン
テナ・セキュリティー・イニシアチブ(CSI)をめぐってやり取りがあった。マレーシアの
マク・ジョンナム上級研究員は「CSI を実施できない港湾は貨物船をシンガポールへ送り出
さざるを得ない。結果的にシンガポールは東南アジアのハブ港になる」と述べ、シンガポ
ールを批判した。
これに対してタン副首相は「CSI の目的は世界の人々の安全のため。マレーシアもカラン
港やパンジョン・プルパス港で CSI を実施したらよい」とかわした。
次回のアジア安全保障会議は来年 5 月に開催される予定。地元メディアが伝えた。
(2003年6月3日 NNA)
英国 クルーズ客船へのテロ対策実施へ
最近英国政府は、クルーズ客船へのテロ脅威をシナリオに用いた机上訓練を実施した。
英国の大手クルーズ客船運航会社は昨日、いかなる緊急対応プランにも全面的に協力する
意志があると強調した。
英国外務省は、今の時点ではクルーズ客船業界への具体的なテロの脅威はみられないと
しているが、英国大使館も含め、テロの対象になる可能性があるとされている。
235
バリ、モロッコ、ケニヤでのアルカイダ関連の惨事を受け、旅行者がイスラム原理主義者
の標的にされるのではないかと恐れられている。
1985年にクルーズ客船アキレ・ラウロ号が乗っ取られたことも、今回の決定に影響
を与えた。
運用コード名「ブルー・マンディ」の下、政府職員とテロ対策専門家が外務省で会議を
開き、クルーズ客船に対するテロ行為にどのように対応するか話し合った。この会議には、
ロンドン警視庁反テロ部隊のデビッド・ヴェネス氏も出席したと伝えられている。この部
隊が緊急事態の救助や避難誘導を行う予定である。
昨日、P&O クルーズ傘下のカーニバル社のデビッド・ディングル社長は、
「客船業界の
セキュリティのレベルはこれまでにない高さに達しており、関係政府機関と密接に働きあ
っている」と述べた。
しかし、P&Oクルーズは「ブルー・マンディ」には直接関わっていない。
(2003年6月17日 ロイズリスト)
インドネシアでタグボートがハイジャックされる
事件発生日時:2003年6月18日0230(現地時間)
事故発生地点:インドネシア・リアウ州沖マントラス島付近
被害船の詳細:Poet Vanda 号、タグボート、シンガポール船籍、2001 年建造
状況:P号はバージを曳航していたところ、7名の海賊に襲われた。海賊はバージをP号
から引き離し、乗組員を海上に放り出した。その後、乗組員は漁民に救助され、モロ島に
送られた。バージは現場に残されたまま、タグボートは現在も行方不明である。
(2003年6月23日 IMB Weekly Report)
シンガポール海峡付近で海賊がばら積船を襲う
事件発生日時:2003年6月25日(水)夜11時頃
事件発生地点:シンガポール海峡入口付近
被害船の詳細:ばら積み船、Doceriver 号
状況:8人の海賊がスピードボートで D 号に接近、鉤いかりを使って D 号に侵入した。こ
の時、D 号の乗組員のほとんどが就寝中だったと思われる。
海賊は、二等航海士と当直の乗組員を人質にとり、手をロープで縛って、船長室に連れ
て行くよう強要した。船長室から出てきた船長も、海賊に縛られた。海賊は船長の頭に銃
口を突きつけ、船の金庫を開けるよう強要、中に入っていた少しの現金を奪った後、船長
室をあさり回った。
その後も海賊は各キャビンをあさり回って、乗組員の貴重品を奪った。抵抗した乗組員
が、海賊に殴られた。IMB(国際海事局)海賊情報センターのノエル・チュン所長によると、
この乗組員は左耳を負傷したとのこと。しかし、ある情報源によると、D 号に乗っていた男
236
性が銃で撃たれ負傷、治療のためシンガポールに運ばれたと言われている。この男性が海
賊に抵抗した乗組員と同一人物であるかはわかっていない。
D 号は数時間シンガポールに停泊した後、昨日シンガポールを出発した。D 号の行き先や
出発した港はわかっていない。
インドネシア海域は世界で最も海賊事件が多く、昨年は103件の被害があった。IMB は
「インドネシアのビンタン島付近で最近海賊事件が増加している。今月は10件の被害が
あり、このうち3件が先週発生した」としている。
チュン所長は、
「我々はこの海域に航行警戒を出している。D 号は十分な用心を怠ったの
ではないか」と述べた。
IMB は、インドネシア当局に対し、このエリアでのパトロールを強化するよう求めている。
シンガポールにこれほど近いところで海賊事件が発生したのは、2001年1月以来初め
てのこと。
(2003年6月27日 ストレート・タイムズ)
インドネシアでハイジャックされたシンガポールのタグボートが発見される
約2週間前にインドネシア海域でハイジャックされたシンガポール船籍のタグボート
Poet Vanda 号が、該船をチャーターしていたパシフィック・オーシャン・エンジニアリン
グが受けた電話の匿名情報を元に、1日未明、シンガポール海域で発見された。
P 号は6月18日未明、カリムン島を出発した後ハイジャックされた。
パシフィック・オーシャン・エンジニアリングは、IMB(国際海事局)海賊情報センター
が警告を出したことで P 号への関心が高まり、P 号を隠すことが難しくなったのではないか
としている。
P 号の状態は良好で、備品の紛失等もなかった。
IMB(国際海事局)海賊情報センターは、インドネシアのビンタン島の東側で海賊事件が急
増していることから、同海域(南シナ海の北度1度・東経105度の辺り・別添地図参照)
を航行する船舶に対し、警告を出している。
(2003年7月2日 シッピング・タイムズ)
マレーシア 沿岸警備隊設置へ
ついにマレーシアが沿岸警備隊の設置に踏み切った。
これまで、マレーシアでは 11 の海上法執行機関が 4,600kmにわたる沿岸の保安にあた
っていた。
新たに設置される非軍事機関は、これら 11 の機関の担当を統合したものになる。
東南アジアの海賊対策に関する地域協力を強化するため、沿岸警備隊の設置は、公式に、
または日本財団のような非政府組織を通じて日本から強く勧められてきた。
本紙の調査によると、マレーシア沿岸警備隊の設置には、日本海上保安庁(JCG)がモデ
ルとして使われるとのことである。これにあたり、JCG は横浜に拠点を置く巡視船「やしま」
をマレーシアに派遣、5 日間の船上訓練・情報交換を昨日(7 日)から行っている。
237
実地訓練はペナンから始まり、クラン港で終了する予定。マレーシア海上警察のほか、
関係法執行機関の職員が参加する。
JCG は、「今回の訓練が互いの文化に対する理解を促進するほか、専門的知識・情報の有
益な交換が助長できるよう期待する。海賊や海上強盗がマラッカ海峡で頻繁に発生してい
ることから、やしまのマレーシア訪問がマレーシア当局と JCG の協力の基礎になることを
願う」と述べた。
ペナンでは明日から2日間のセミナーが開催され、JCG の講演者が JCG の任務や法執行任
務、適応する法律などについて詳しく話す予定である。
マレーシア沿岸警備隊は当面首相府の管轄に置かれる。11 の海上法執行機関について、
いくつの機関が統合されるのか明らかでないが、沿岸警備隊は海軍及び海上警察と密接に
働き合う予定である。
マレーシア海軍が沿岸警備隊設立を担当しており、沿岸警備隊を始動させるために必要
な巡視船や装備の提供もその任務に含まれている。
警察関連情報筋によると、これまでマレーシアが沿岸侵入への対応が遅れていたのは、
11 の関連機関の調整がうまくいっていなかったからだという。
海軍、海上警察、海事局、環境庁、税関、漁業庁を含むこれらの関連機関には、職員 5,000
人が勤務し、所有する船は 480 隻に及ぶ。
日本の援助を受けたマレーシア沿岸警備隊設置の動きは、インドネシアと並行して進ん
でおり、インドネシアは今年初めに JCG の構造等を学ぶため日本に職員を派遣している。
インドネシアのケースでは、海上航空警察(POLAIRUD)と海運総局(DGSC)を通じて沿
岸警備機関が創設される予定である。
JCG 職員 3 名がインドネシア国家開発計画省に派遣され、沿岸警備隊設置の原案作成を支
援しており、完成すれば審議のため国会に提出される。
JCG 職員は 3 月下旬から 6 ヶ月の予定でジャカルタに滞在する予定。
(2003年7月8日 シッピング・タイムズ)
インドネシア IMOの海賊事件統計に異議
インドネシアは、同国が全世界で最も海賊事件の発生件数が多いというIMO(国際海
事機関)の発表に異議を唱えている。最近発表されたIMOの報告書によると、昨年全世
界で起こった海賊事件404件のうち、109件がインドネシア海域で発生した。
インドネシア運輸省のスカルディマン海上運輸局長は、
「船内での窃盗が全て海賊と分類
されるわけではない」と述べ、
「IMOの発表した数字は高すぎる」とした。
同局長は、事件の多くは船主と犯罪組織が手を組んだ保険詐欺で、ほかの事件について
も乗組員が窃盗に関わったものなどであると述べた。
IMOが発表した今年第一四半期の海賊事件は、全世界103件のうち28件がインド
ネシアで起ったと報告されており、似たような状況になっている。
238
今回のコメントによって、これまでも討論されてきた海賊の定義について再び注目が集
まることになりそうだが、IMB(国際海事局)の報告によると、インドネシア海域では
凶暴な海賊事件が多発している。
最近ビンタン島沖を航行する船舶を武装した海賊が襲撃する事件が多発しており、IM
Bは同海域の船舶に警戒を強めるよう求めている。
(2003年7月11日 ロイズリスト)
インドネシアで再びタグボートが海賊にハイジャックされる
事件発生日時:2003年7月10日
事件発生地点:インドネシア ビンタン島沖 Sinkep 島付近
被害船名及び詳細:タグボート Bintan 1200 号、シンガポール船籍
バージ Bintan Golden 2301 号、シンガポール船籍
状況:武装した海賊グループがタグボートに乗り込み、乗組員に目隠しをして縛った。乗
組員はその後付近の島に置き去りにされ、2日後、通りかかった漁民に助けられた。IM
B(国際海事局)海賊情報センターによると、タグボートとバージは現在も行方不明で、
すでに船体が塗り替えられ、船名や旗も変えられている可能性もあるとしている。
今回の事件は、先頃ハイジャックされたタグボート Poet Vanda 号が発見されてからわず
か数週間後に起った。P号は6月18日カリムン島を出港した直後、ハイジャックされた。
このほか、6月24日にはシンガポールに向かっていた船がホースバーグ灯台沖60海
里の地点で8人の海賊に襲われた。乗組員1名が負傷、船内の物品が盗まれている。
シンガポール海運協会は、特に夜間シンガポール海峡を航行する際には十分注意を払う
ようメンバーに通達している。
同海域では6月21日から29日までに少なくとも海賊事件4件、未遂事件1件発生し
ており、IMBが注意警戒を出している。
(2003年7月22日 シッピング・タイムズ)
インドネシア海域で星船籍が海賊被害、注意促す
シンガポール船籍の曳航船がインドネシア海域で海賊に乗っ取られた事件を受け、シン
ガポール船舶協会(SSA)と国際海事局(IMB)の海賊情報センターは、海賊行為がここ数
カ月間で急増していると警鐘を鳴らしている。
インドネシア・リアウ州シンケプ島周辺で 10 日、武装した海賊グループが「ビンタン 1200
号」を襲い、乗組員を縛って、目隠しをした後、付近の島に乗組員を残し船を乗っ取って
いったという。乗組員は 2 日後、近くを通った漁船に救出されている。IMB の海賊情報セン
ターによると、曳航船も、同船が曳航していたはしけも発見されておらず、すでに船体を
塗り替え、新たな名前と旗をつけられているのではないかとみられている。
同様の事件では、先月 18 日に同州カリムン島を出港後、海賊に襲撃されたシンガポール
239
船籍「ボエット・バンダ号」が 2 週間後に発見されている。先月 24 日にもシンガポール海
域に向かっていた船が海賊被害にあった。このほか先月 21~29 日の間に海賊被害が少なく
とも 4 件、未遂事件が 1 件発生している。22 日付シッピング・タイムズが伝えた。
(2003年7月23日 NNA)
ビンタン島沖での海賊襲撃が増加=国際海事局が警告
国際海事局(IMB)は23日に発表した海賊に関するリポートの中で、シンガポール
国境近くのインドネシアのビンタン島沖で今年上半期に海賊襲撃事件が急増しており、そ
の手口も凶悪化していると警告した。IMBは、ビンタン島沖での海賊襲撃事件の急増に
ついて、ジャカルタ当局に懸念を伝えた。
同リポートによると、今年上半期に世界各国の海域で報告された海賊襲撃事件は234
件と、前年同期比37%増加。このうち、インドネシアの海域で発生した襲撃事件は64
件と最も多く、全体の4分の1以上を占めた。64件のうち、43件では海賊が船舶に乗
り込み、4件では船舶が海賊にシージャックされた。IMBは、インドネシア海域で報告
された事件の多くは、銃やナイフなどで武装した海賊によるもので、手口が凶暴になって
いると指摘した。
(2003年7月24日時事速報シンガポール)
マラッカ海峡利用者がマレーシアに海賊対策援助を申し出
オーストラリアやほかのマラッカ海峡の利用者が、同海峡における海賊対策援助をマレ
ーシアに申し出ている。
海賊問題への取り組みが地域や多国間で試みられていること、海賊多発地帯であるイン
ドネシアに対し同国海域内での違法行為の鎮圧に大きな役割を期待できないことから、こ
のような申し出が出された。
在マレーシアオーストラリア高等弁務官のジェームス・ワイズ氏は、オーストラリア政
府が海賊対策援助を差し伸べる意志があることを明らかにした。
「海賊問題は、越境犯罪が増加していることを証明する深刻な問題であり、オーストラリ
アももちろん懸念している。海賊や海上治安問題の解決に援助を差し伸べたいと思ってい
る。こういった問題には、国家、地域、多国間で取り組む必要がある」とワイズ氏は述べ
た。
この地域で最も多くの援助を差し伸べているのが日本で、最近の状況について日本も懸
念を示している。在マレーシア日本大使館の古川博康二等書記官は、昨年20隻の(日本
関連の)船舶が国際海域で海賊によるさまざまな被害に遭ったとしている。
日本にとって、マラッカ海峡は、年間 14,000 隻の日本船主の船舶が通航する経済ライフ
ラインである。マラッカ海峡を通航することで、日本の貿易業界全体で年間17億5千シ
ンガポールドルに及ぶコストが削減されている。
240
(中略)
マレーシア海事研究所(MIMA)のイスカンダー上級研究員は、政府だけでなく、海
峡利用者も治安の向上を援助すべきだと述べた。
「マラッカ海峡の治安に対して支払った国はいくつあるのか?これまで援助を差し伸べて
きたのは日本だけである」とイスカンダー氏は述べた。
2000年以降、海賊問題が深刻化するなか、日本は情報交換や沿岸警備隊の訓練など
援助プログラムを実施している。日本海上保安庁の巡視船「やしま」が東南アジアの主要
港に寄港している。今年は450万シンガポールが同プログラムに費やされる。
「我々の主な目的は、日本海上保安庁とマレーシア海上法執行機関との協力を強化するこ
と。一国で海賊問題に取り組むのは不可能、集合的な取り組みが必要である」と古川氏は
述べた。
(2003年7月30日 シッピング・タイムズ)
マラッカ海峡で2件の海賊未遂事件が発生
海賊未遂事件①
状況:先週マラッカ海峡を航行中のばら積み船に、4名の武装した海賊が乗り込もうとし
たが、船長が回避行動を取り、海上も荒れていたため、海賊の乗船を防げた。乗組員にけ
がはなかった。該船は、事件をIMB(国際海事局)海賊情報センターに通報した。目撃
者によると、海賊船の船名は Cakrac 2、船体は青色でインドネシアの国旗を掲げていた。
海賊未遂事件②
状況:海賊未遂事件①の2日後、マラッカ海峡を航行していたLPG運搬船がスピード・
ボートに乗った海賊に襲われそうになったが、サーチライトで海賊船を照らしたところ、
該船への乗船を放棄して、ほかの船を追った。
(2003年8月5日 シッピング・タイムズ)
マレーシア テロを阻止、海上・港湾の警備強化
5 日にインドネシア・ジャカルタの JW マリオットホテルで起きた爆弾テロ事件を受け、
当局と観光業界がテロに対する警戒態勢を強めている。海上警察は海上パトロールと港湾
に出入りする船舶の監視を強化。観光業界団体は旅行客から得た情報などを当局に報告す
ることを決めた。
海上警察のムハマド・ムダ本部長は 6 日、サラワク州クチンで開いた記者会見の席上、
船舶については貨物だけでなく、船主と乗員についても厳格な監視を始めたと発表。輸出
立国であるマレーシアの港湾は貿易船の自由な出入りを認めていることから、「テロリス
トの侵入があるとすれば、海上ルートの可能性が高い」と警戒感を表明した。
ムハマド本部長は「テロリストが化学物質の運搬船を乗っ取り、それを使って港湾のふ
頭を攻撃してくれば損害は計り知れない」と述べ、テロリストの攻撃を防ぐにはこれまで
241
の警備のやり方を変える必要があると説明。「すべての港湾と海域は危険性が高いと認識
すべき」とした。海上警備強化に当たり、海軍や海事局、税関局からは協力を確保済みと
している。
ムハマド本部長は、「警察は常に国際刑事警察機構(インターポール=ICPO)からテロ
情報を得ており、今のところ、テロ活動がマレーシアに上陸したとの情報はない」と述べ
た上で、
「(テロが)過去に発生しなかったからといって、今後起きないということにはな
らない」としている。
(2003年8月8日 NNA)
インドネシア アチェ沖で海賊が台湾漁業母船に発砲 船長が負傷
事件発生日時:2003年8月8日(金)午後5時45分
事件発生地点:インドネシア アチェ沖
北緯5度43分 東経97度44分
被害船名及び詳細:Dong Yih 号、漁業母船、Dong Suen Yih Ltd(台湾)運航、
台湾人船長ほか乗組員は台湾人9名、中国人8名、フィリピン人13
名、ベトナム人1名
状況:インドネシアのアチェ沖を航行していたところ、海賊が該船に向かって1時間近く
にわたって自動小銃を乱射した。結局、海賊は攻撃を中止し、逃走した。この攻撃により
台湾人船長(Lo Ying Hsiung)が膝を撃たれたほか、操舵装置も損傷。ほかの乗組員にけ
がはなし。該船は昨夜シンガポールのジュロン漁港へ入港する前に、ジュロン・ウエスト・
アンカレッジでパイロットを乗船させる予定だった。負傷した船長がシンガポールで治療
を受けるよう在シンガポール台北駐在事務所は手配したと伝えられているが、シッピン
グ・タイムズの質問には回答がなかった。
IMB海賊情報センターのノエル・チュン所長は、同海域では過去数ヶ月に海賊事件が
増加しており、全ての事件で自動小銃が用いられていると述べ、アチェの反乱軍が事件に
関与している可能性もあるとした。
(2003年8月12日 シッピング・タイムズ)
インドネシア人海賊がタンカーの船長を含め3名を誘拐
事件発生日時:2003年8月10日(日)午後 1 時半
事件発生地点:マラッカ海峡 マレーシア・クラン港沖約12海里
被害船名及び詳細:mt Penrider 号、タンカー、マレーシア(ラブアン)船籍
全長54メートル、シンガポール発ペナン向け
燃料油1,000トン積載
状況:該船がシンガポールからペナンに向け国際海域を航行していたところ、10名の海
賊に発砲された。海賊は漁船で該船に接近、AK47 と M16 ライフルで武装していた。海賊は
船長(インドネシア人)に船を止めるよう命令、船が停船した後に乗り込み、船をインド
242
ネシア海域に向かわせた。その後、海賊は船長に船主に連絡をとるよう求め、船主は船を
解放するよう話を付けたが、海賊は船長、機関長、二等機関士を人質にとり、現金1万マ
レーシアリンギと携帯電話、船内の書類の一部を奪ってインドネシアに向かって逃走した。
二等航海士以下 6 名の乗組員はマレーシア海域に戻り、11日(月)午後4時50分にペ
ナンに到着した。マレーシア海上警察は、インドネシア当局に事件を報告し、インドネシ
ア当局と緊密に状況を監視しているところであると述べた。海賊は、身代金(10万米ド
ル)を船主に要求しているとのこと。該船が積載していた燃料油(17万米ドル相当)は
無事だったほか、残りの乗組員にもけがはなかった。
(2003年8月13日 スター)
海賊事件の背後にアチェ反乱軍?
8月10日にマラッカ海峡でタンカーが海賊に発砲され、船長のほか乗組員2名が誘拐
された事件について、IMB(国際海事局)海賊情報センターのノエル・チュン所長は、
人質をとって身代金を要求するケースであるとした。
また、同所長は、数年前にマラッカ海峡北部で多発した自由アチェ運動(GAM)によ
るハイジャック・誘拐事件と手口は同様であるが、今回の事件がGAMによるものかどう
かはわからないとした。
同所長によると、普通の海賊はグレネードランチャーを持たないとのこと。また、今回
の事件では海賊は貨物に興味を示しておらず、組織的な犯罪シンジケートによる犯行と異
なっている。
IMBは、マレーシア海域に近いマラッカ海峡で新たな海賊グループが活動を始め、ハ
イジャック事件に新しい動向がみられるのではないかと懸念している。
インドネシア当局は現在、マレーシア海上警察と緊密に連携している。
IMBは、マラッカ海峡を通航する船舶に対し、アチェ沿岸を避け、海賊対策の見張り
を徹底するよう警告している。
この警告は、過去4ヶ月間にアチェ沖で8件の海賊事件が報告されたことを受けて出さ
れたもの。
(2003年8月14日 ロイズリスト)
Penrider 号海賊事件はマレーシア海域で発生
8月10日にマラッカ海峡で海賊に襲われたタンカーPenrider 号(マレーシア船籍)に
ついて、該船の船主 Syarikat Progresif Cekap Sdn Bhd は、事件はクラン港沖8.5海里
の Pintu Gudang 近くのマレーシア海域で発生したと述べた。(当初の報道では、事件はイ
ンドネシア海域で発生したと伝えられていた)また、該船の乗組員は10名で、国籍はイ
ンドネシア人8名、ミャンマー人2名。
誘拐された乗組員は現在もまだ捕われたままだが、解放するよう交渉しているところだ
と船主は述べた。
(2003年8月13日 マレーシア国営ベルナマ通信)
243
Penrider 号事件に海運業界が注目
マラッカ海峡でインドネシア人乗組員3名が誘拐され、身代金が要求されたマレーシア
船籍タンカーPenrider 号事件に海運業界の注目が集まっている。
現地メディアの報道によると、P 号船主が身代金20万リンギを支払い、乗組員は解放さ
れた。
事件の発生した海域では過去にも海賊事件が多発しており、今回の事件の犯人が見つか
ればマレーシアだけでなく、マラッカ海峡を利用する国際海運業界にもプラスになるだろ
うが、犯人が見つからないまま、このような事件が新たな海賊事件の動向になるのではな
いかとの懸念の声もある。
現在マレーシア警察が捜査を進めており、人質になっていた乗組員の事情聴取などから
犯人の手かがりをつかんだとしている。海賊は14名のグループで、インドネシア人だっ
たとのこと。また、このほかに4人が犯行に加わった。
人質になっていた乗組員は先週末、メダンに近いタンジュン・バライ沖で解放された。
(2003年8月19日 シッピング・タイムズ、ストレート・タイムズ)
アチェでの海賊による襲撃は、保険業者から、「内戦」とみなされる可能性
マラッカ海峡で海賊に襲撃された場合は、それがインドネシアのアチェ州からの反乱勢
力によるものだとわかった時には、保険会社により、戦争リスクによるクレームと分類さ
れるかもしれない。
ここ数ヶ月において、ハイジャックや身代金目当ての誘拐を含めて,マラッカ海峡での船
舶の襲撃が急増しており、それらはインドネシア国軍に対して独立戦争を戦っているアチ
ェの反乱勢力の仕業だと考えられている。
英国の P&I クラブ、東南アジア支社長は、バンコクで、そのような襲撃は海賊によるも
のではなく、内戦の一部とみなされると語った。自由アチェ運動(GAM)のような反乱勢力
は、軍資金を調達するために、民間人を襲ってきたとされている。
GAM はアチェの海岸を運航する商業船をハイジャックするとも脅迫していた。同氏は、P&I
と船舶保険業者は共に、船主によるどんな保険のクレームも、戦争リスク保険に対するも
のとみなしうると述べた。
例えば、船がハイジャックされたり、盗まれて発見されない場合、船員の死亡、船体の
評価額がクレームの対象となる。でも、そのような襲撃の目標は、往々にして、戦争リス
クカバーでさえ掛けていないかもしれない地方の小型の商用船である。今のところ、アチ
ェの反乱勢力による海賊の襲撃事件が、戦争リスククレームとみなされたものがあるかど
うかは明確ではない。
(2003年9月25日 マリタイムアジア)
海上でのテロ警戒で、シンガポールと協力=豪運輸相
オーストラリアのジョン・アンダーソン副首相兼運輸相はこのほど、2001年9月1
244
1日の同時テロ事件以来、同国とシンガポール当局が、海上貨物がテロリストに悪用され
るのを阻止するため、情報や技術交換などを通じて積極的に協力してきたと述べた。同運
輸相は、テロに対する戦いにおいては「情報交換は極めて重要だ」と指摘。シンガポール
がオーストラリアに先駆けて、テロ対策に伴う米国向けの貨物検査強化策「コンテナ・セ
キュリティー・イニシアチブ」
(CSI)を受け入れていることから、特にコンテナ検査や
封鎖方法、輸送の監視方法などの分野で情報交換を行っていると語った。
両国を含む国際海事機関(IMO)の加盟国は、2004年7月までに同機関が設定し
た厳しいテロ対策基準「船舶および港湾の国際保安コード」
(ISPSコード)に対応する
必要がある。アンダーソン副首相は、オーストラリアが同基準に順守するために急いで準
備を進めていると述べ、先週国会に海運保安関連の法案を提出したと説明。しかし、同法
の成立までには国会での数回にわたる審議を必要とすると指摘し、厳しい期限内に同法が
成立することを望んでいると述べた。
(2003年9月26日時事速報シンガポール)
海賊対策に数十億ドル、副首相が提唱
アブドラ副首相は 6 日、ジョホール州タンジュンプルパス港(PTP)の機能強化などによ
り、東南アジア諸国連合(ASEAN)の貨物ハブを目指す立場として、「マレーシアは海の安
全強化を最重要事項として認識しなければならない」との考えを示した。アジア海事物流
会議に出席したチャン・コンチョイ運輸相が、副首相のコメントとして伝えた。マラッカ
海峡で頻繁に起こる海賊問題の解決は周辺国の長年の大きな課題となっている。副首相は、
「海路と港湾の安全確保に数十億ドルを充てる必要がある」と強調。具体的には、海賊に
奪われた船籍の位置を追跡する「海洋電子高速テクノロジー」の導入などを指摘した。
(2003年10月7日 NNA)
マ海峡の安全確保には国際連携が不可欠=日本財団・曽野会長インタビュー
日本財団が、マラッカ海峡協議会を通じてマラッカ海峡の航行安全確保のため、航路標
識の設置・補修作業など、これまで総額120億円以上を支援していることはあまり知ら
れていない。今月インドネシア政府への設標船引渡しのため、バタム島を訪れた曽野綾子・
日本財団会長に話を聞いた。
-マラッカ海峡の航路安全確保に関する日本財団の活動は知られていないが。
私はキリスト教徒なので、「右手のしていることは、左手に知らせるな」という自分がや
っていることを人に知らせない美学はとても評価する。だが、それは日本政府の場合。日
本財団は競艇の売上金の3.3%を資金源としており、これは日本の国民のお金とも言え
る。だから、1円たりとも無駄にせずに、日本のためになり、日本が胸をはれて、相手の
国にためになることに取り組んでいるということを伝えるのに、広報は大事だと思う。
-海峡の安全確保に向けた国際的な連携の必要性について。
国際連携なしでは、安全確保はできない。例えば、点検とか船の検査とか、シンガポー
245
ルでやれるならシンガポールでやればよい。日本でなければだめなことは、日本でやると
いうようにワークシェアリングするべきだ。ただし、私はちょっとそれに愛国心を込めて
欲しいと思う。愛国心というと、なぜか今の若者はすぐ戦争だと思ってしまうが、愛国心
というのは鍋・釜と同等の必需品だ。子供の時代まで経済的にも政治的にも自由を保つに
は、愛国心を持つべきだと思う。1つ時代前の愛国心を狭量とすれば、愛国心というのは
自分の国だけではなく、周り全体が良くなることで自分も良くなることだと思う。
-深刻化する海賊事件などの問題の根本原因について
悪いことが起こる原因は貧困。それと教育が大事だと私個人は思う。日本財団は、どこ
かに工場を建てるという援助はできないが、全体のレベルが上がるようにして貧困がなく
なれば強盗とか泥棒とか犯罪は起きなくなる。泥棒をなくすために、教育は大事だが、教
育だけでは、私が一昨日まで行っていたアフリカの国々のような、貧困だからモノを盗む
という状況は解決できない。貧乏というのは、今晩食べるものがないこと。今晩食べるも
のがなかったら、3つ選択肢がある。その1つはすきっ腹抱えて寝る、1つは物乞いをす
る、最後の1つは盗みをするというもの。それ以外の選択肢はない。
(2003年10月14日
時事速報シンガポール)
テロリストは海上での襲撃作戦に備えて、船員を誘拐し船の操縦法を習得
イージス国防サービス社の最新の報告によると、自爆テロが船を襲撃するかもしれない
し、テロリストが船をハイジャックし、港付近のオイル・タンカーに激突するかもしれな
い。
今年3月26日のスマトラ海岸沖で起きた、ケミカル・タンカーのデウィ・マドリム号
襲撃事件は、テロリストが船の操縦法を習得しようとするために企てたことだった。
10人の海賊がスピードボートから船に乗船し、機関銃と刀で武装して、およそ1時間に
わたって速度を変えながら、操船した。海賊は船長と一等航海士を連れて、その船から姿
を消した。二人の男たちは、いまだに行方不明で、犯人から身代金の要求もされていない。
イージス国防サービス社は、船員誘拐事件は、海賊が海上での襲撃作戦をしかけるための
専門的技術を身に付けるのが狙いで行ったのではないかと見ている。それを物語る他の証
拠として、アブ・サヤフ反乱勢力が誘拐した潜水インストラクターに、潜水法を彼らに教え
るように要求している。
何ら明らかな理由もなく、海賊たちがタグボードを強奪する事件がおよそ10件にも上
がっている。
イージス国防サービス社は、船舶の行き来の最も激しい航路の一つであるマラッカ海峡
が、テロリストの標的になるのではないかと推測している。
(2003年10月16日
246
ストレート・タイムズ)
海上の警備対策を海運業界に徹底へ-テロ対策強化で=MPA
シンガポール海事港湾庁(MPA)は22日、今年5月に続き2回目の海上警備に関す
るセミナーを開催し、来年7月1日から実施される国際海事機関(IMO)の定める警備
対策について、海運業界全体に順守を呼びかけた。
IMOは2002年12月、01年9月の米同時テロ事件を受けた船舶のテロ対策を定
め、国際船舶に対し、警報装置の搭載や船舶識別番号の船体への表示などを義務付けたほ
か、加盟各国に船舶と港湾施設の安全確保を任務とする政府機関の設置を義務付けていた。
MPAは船舶管理、港湾施設を統括する機関として、沿岸警察(PCG)
、シンガポール海
軍と協力し、セミナーや研修などを通じて、海運会社や港湾施設などを含む海運業界全体
にIMOの定めたテロ対策の導入を徹底していく考えだ。
(2003年10月23日
時事速報シンガポ―ル)
国際保安コード実施前倒し=MPA
シンガポール海事港湾庁(MPA)は 22 日、国連機関の国際海事機関(IMO)が採択した、
国際的な港湾保安の枠組み「船舶・港湾国際保安コード(ISPS コード)」が来年 7 月から施
行されることに伴い、シンガポール船籍の船舶と国内港湾施設に対し、来年 4 月までに同
コードを順守するよう求めた。
施行期日を前倒しで設定することで、MPA は 4~7 月にかけて順守の有無の確認作業を行
う。MPA は安全基準の確認について、8 団体に船舶、7 団体に港湾施設の調査にあたる権限
を付与した。
ISPS コードでは、船舶自動識別装置(AIS)の装備や、船舶識別番号の表示、保安計画の
策定などが求められる。同コードを順守していない船舶は、国内に入港することができな
い。
(2003年10月27日 NNA)
マレーシアの海賊被害は減少=マラッカ海峡では増加-1-9月実績
ロンドンに本部を置く国際海事局(IMB)は、マレーシアに設置した海賊事件報告セ
ンターがまとめた今年1-9月の海賊被害などに関するリポートを発表した。それによる
と、マラッカ海峡を除くマレーシアでの事件は前年同期の9件から5件(未遂2件を含む)
に減少した。
しかし、同国とインドネシアにはさまれたマラッカ海峡では、11件から24件(同1
6件)に増加。同海峡を除くインドネシアでは72件から87件(同26件)に増えてお
り、この2地域で計111件となり、世界全体の約3分の1を占めた。
同海峡では8月9日、台湾の貨物船が武装した海賊に襲われれ1人が撃たれてけがをし
た。翌10日には、マレーシア船籍のタンカーを8人の海賊が襲い船長ら3人を誘拐。身
代金10万米ドルを要求し、身代金と引き替えに3人を解放した。
これらの事件を踏まえマレーシア政府は、沿岸警備隊を来年末までに創設・配備する計
247
画。同リポートによると、海軍のモハマド・アンワル・モハマド・ノル海軍長官は、
「海軍
から巡視艇16隻と人員数百人を出向させる」と述べた。ただ、同国にはすでに11の海
事関連機関があり、その住み分けが不明瞭なため効率悪化を招いているという。
(2003年10月30日
時事速報シンガポール)
マラッカ海峡で海賊被害、昨年の2倍
国際海事局(IMB)は 1~9 月までの海賊による被害件数を発表し、このまま続けば環境
破壊につながると警告した。世界中で発生した海賊事件は 344 件と前年同期比 27%増加し
た。
死亡した船員は 20 人と、昨年の 6 人から大幅に増えた。地域別ではインドネシアが一番
多く、80 件以上を記録した。マラッカ海峡はバングラディッシュに次ぎ 3 位の 24 件だった。
2002 年の 2 倍以上だ。
液化石油ガス(LPG)タンカー、ガソリンタンカー、石油タンカーに向けて自動拳銃を発
砲する例などもあり環境汚染も深刻化するとみられる。
最近はマラッカ海峡で、インドネシア・アチェの反乱軍による身代金目的の誘拐なども
報告されている。分離独立を求める戦いの資金に充てるのが目的だ。同局のダイレクター
は「政治的な動機を持つ海賊の場合、より大きなリスクを負う覚悟ができているため、非
常に危険である」と話した。
(2003年10月30日 NNA)
インドネシアの1~9月海賊発生数、80件以上
国際海事局(IMB)は 1~9 月までの海賊による被害件数を発表し、このまま続けば環境
破壊につながると警告した。
世界中で発生した海賊事件は 344 件と前年同期比 27%増加した。死亡した船員は 20 人と、
昨年の 6 人から大幅に増えた。地域別ではインドネシアが一番多く、80 件以上を記録した。
マラッカ海峡はバングラディッシュに次ぎ 3 位の 24 件だった。2002 年の 2 倍以上だ。 液
化石油ガス(LPG)タンカー、ガソリンタンカー、石油タンカーに向けて自動拳銃を発砲す
る例などもあり環境汚染も深刻化するとみられる。
香港船主連盟によると、これまでのところ香港船籍および香港企業が所有する船の被害
はゼロ。しかし、海賊出没の中心が中国領海の東シナ海からインドネシア海域に移ったこ
とに不安を強めている。中国当局が海賊行為を厳しく取り締まったのに対し、インドネシ
アでは事実上、放置状態にあるためだ。同連盟の幹部は「業界では対応しきれない深刻な
問題だ。政府レベルでの取り組みが切に望まれる」と語っている。
(2003年10月30日
NNA)
海賊事件急増、香港海運界が懸念
香港の船舶オーナーらは現在、海賊事件の増加に頭を痛めている。国際海事機構(IMO)
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の海賊監視センターがこのほどまとめた統計によると、今年 1~9 月に報告された事件は世
界全体で海賊による船舶襲撃事件が 344 件となり、前年同期に比べ 27%増加。うち 87 件が
インドネシア海域で発生しており、地元当局による取り締まり強化を求める声が高まって
いる。
同期の海賊事件に伴う船員の死者は 20 人。昨年通年の 6 人と比べ急増している。うちイ
ンドネシア、フィリピン海域だけで計 11 人が犠牲となった。一方、今年に逮捕された海賊
容疑者は 2~3 人にすぎない。
香港船主連盟によると、これまでのところ香港船籍および香港企業が所有する船の被害
はゼロ。しかし、海賊出没の中心が中国領海の東シナ海からインドネシア海域に移ったこ
とに不安を強めている。中国当局が海賊行為を厳しく取り締まったのに対し、インドネシ
アでは事実上、放置状態にあるためだ。同連盟の幹部は「業界では対応しきれない深刻な
問題だ。政府レベルでの取り組みが切に望まれる」と語っている。
(2003年10月31日 NNA)
マ海峡での海賊事件増加で対策を呼び掛ける回覧書=シンガポール海事港湾庁
シンガポール海事港湾庁(MPA)はこのほど、マラッカ海峡とシンガポール海峡を航
行する船舶への海賊事件が増加しているのを受け、船会社に海賊対策を呼び掛ける回覧書
を発行した。
国際海事局(IMB)によると、今年1-9月に世界の海上で発生した海賊襲撃事件は
史上最高の344件と、前年同期と比較して27%も増加した。中でもインドネシア領海
内で発生した襲撃事件が、これまでに引き続き最も多かった。MPAは最新の回覧書の中
で、海賊の襲撃を受けた船舶が近くの救助調整センター(RCC)に救難信号を発信して
も、船に乗り込んだ海賊によってその信号が傍受される恐れがあると警告した。またMP
Aは、船会社に対し、船舶に海賊侵入アラームや監視カメラなどの対策装置を整備するよ
う求めた。業界関係者によると、海賊襲撃事件は沈静化しつつあるものの、海賊に襲撃さ
れても海賊の仕返しや、運航スケジュールの遅れを気にして事件を報告しない船会社も多
いため、実際の海賊事件はIMBの統計よりも大幅に多いと指摘している。
(2003年11月4日 時事速報シンガポール)
シンガポール海峡近くでタンカーを海賊が襲撃=1時間近く無人航行
シンガポール海峡近くのインドネシアのビンタン島沖で2日早朝、インド船籍の石油タ
ンカー「ジャグ・プラナム号」が銃で武装した海賊に襲撃され、航海士を含む全乗組員が
縛り上げられたことから、金品などの略奪が終わるまでの約1時間にわたり、同船が操縦
されることなく海を漂うという事態が発生した。多くの船が行き交う同海峡付近でタンカ
ーが無人状態で航行する事件が発生したことで、今後同様の事件が発生した場合に衝突事
故など大惨事が起こる可能性が懸念されている。
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国際海事局(IMB)は最近、マラッカ海峡での武装した海賊による襲撃事件の増加を
受けて、周辺の環境に壊滅的な打撃を与える事故が発生する可能性を警告したばかり。I
MB幹部は、海賊が船舶の操舵室を無人状態としたのは今回が初めてと述べ、シンガポー
ル海峡で同事件が発生していたら最悪の事態となっていたと指摘した。
(2003年11月5日 時事速報シンガポール)
国際海事局の海賊報告、インドネシアで今月6件
国際海事局(IMB)がまとめた先週末までの海賊事件は今月に入って 6 件ですべてインド
ネシア海域で発生している。海賊が乗組員を縛るなどしている間に操舵室が無人となる場
合もあり、IMB は事件の発生が続けば他の船舶への衝突の可能性があり、大災害になり得る
としている。
6 件のうち、ビンタン島沖で 2 日午前 4 時に起きたタンカーの海賊事件では、犯人は銃で
武装しており、現金や乗組員の私物などを奪っている。また、3 日に貨物船が襲われた事件
では船長が刃物で切りつけられ負傷している。
IMBは、ビンタン島東側と周辺のジュマジャ、アナバス両島付近を航行する船舶に警戒
を呼びかけている。 IMB の発表によると 1~9 月に世界で発生した海賊事件は 344 件、その
うち 87 件がインドネシア海域で起こり最多となっている。
(2003年11月7日 NNA)
海賊撲滅に協力、情報センターを誘致
マラッカ海峡での海賊行為取り締まりのために設置される情報センターの誘致にマレー
シアが名乗りを上げた。サイドハミド外相がマレーシアを訪問した川口順子外相との会談
後の会見で明らかにした。
12 日付スターによると、サイドハミド外相は「マレーシアはマラッカ海峡に面しており、
設置場所として最適」との認識を示した。 情報センターはマラッカ海峡での海賊に関する
情報交換や監視活動などを行う。国際海事局(IMB)が先月発表した今年 1~9 月の同海峡
の海賊被害件数は 24 件と、前年同期から 2 倍以上に増えている。 マレーシアのほかにシ
ンガポール、インドネシア、韓国が誘致に関心を示している。
(2003年11月13日 NNA)
海上の治安強化を、国防相呼び掛け
テオ・チーヒエン国防相は 11 日、国際海事防衛展(IMDEX)アジア 2003 でスピーチし、
近隣諸国に海上治安の強化を呼び掛けた。
東南アジア諸国連合(ASEAN)やアジア太平洋経済協力会議(APEC)のもと、海上治安協
力は行われているが、同相は「多国籍主導のものだけでなく、域内レベルや近隣諸国内で
の二国間協力も必要である」と述べた。また「既存の二国間の枠組みを強化し、統合する
250
ことで対策強化を始められる。例えば海賊対策の枠組みなどは効果的なことが分かってい
る」と協力を呼び掛けた。
海賊問題は、より凶悪化した海賊被害が増加しており、国際海事局(IMB)が発表した 1
~9 月の被害件数は、世界で 344 件、うちインドネシアは 87 件を記録した。マラッカ海峡
での被害も昨年の 2 倍以上となっている。同相によると、シンガポールはすでに航路の変
更や、監視船を配置するなどの対策を取っているという。
(2003年11月13日 NNA)
海賊対策センターの設置と資金拠出を提案=シンガポール国防相
シンガポールのテオ・チーヒエン国防相は12日、海軍産業の展示会の開催式で、同国
が海賊対策情報センターの誘致と、同センターへの資金拠出に意欲を示していることを重
ねて表明した。アジア海賊対策情報センターは、海賊対策においてアジア16カ国の情報
供給と協力体制の強化を目指すアジア海賊対策地域協力協定の一環として、設置が計画さ
れている。
同国防相は、同国を取り巻く近隣の海上での海賊襲撃事件が増加し、凶悪化しているこ
とを指摘し、沿岸諸国が今後も引き続き国際諸国とも協力を得た上で、強力な対策を取る
必要を強調した。また同国防相は、テロリストが海賊の手口を真似て、石油タンカーや化
学品を積んだ船舶などにテロをしかけた場合には、周囲に壊滅的な被害を与える可能性を
指摘した。
(2003年11月14日 時事速報シンガポール)
海上での最大の脅威は海賊とテロリストによる共同テロ=シンガポール副首相
フランスを訪問中のシンガポールのトニー・タン副首相兼首相府調整相(安全保障・国
防担当)は13日、海上における最大の脅威が、テロリストが海賊と組んで、洋上の船舶
をハイジャックし、港に衝突させることだと指摘した。同副首相は、そうした事件がマラ
ッカ海峡で発生した場合には、世界の貿易に大きなダメージを与えるだけでなく、船舶業
界への保険料が高騰する事態となると警告した。
今年1-9月には、世界で344件の海賊襲撃事件が報告され、前年同期と比較して2
7%も増加した。同副首相は、こうした海賊事件に対処するためにはマラッカ海峡の沿岸
諸国だけでなく、すべての国々の協力体制が必要だと主張した。同副首相は、マラッカ海
峡を世界の石油の半分以上が通過することからも、同海峡で大規模な事件が発生すれば、
世界の貿易に多大な損害を与えると述べた。
(2003年11月14日
時事速報シンガポール)
海賊取り締まりで協定=来月の首脳会議、締結合意へ-日・ASEAN
日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)が12月に東京で開く特別首脳会議で、東南
アジア周辺海域での海賊取り締まりを目的とした協力協定の締結で基本合意することが1
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8日、明らかになった。海賊対策での相互協力などを通じ、アジア地域の信頼醸成に弾み
をつける狙いもあり、首脳会議で採択する「共同行動計画」に同協定の締結が盛り込まれ
る。
同海域での海賊事件は近年、武装集団による船舶乗っ取りなど凶悪化が進み、地域経済
発展の深刻な阻害要因となっている。このため、小泉純一郎首相が2001年11月のブ
ルネイでのASEANプラス日中韓3カ国首脳会議の際、協定締結を提唱。関係国間で具
体化への検討が進められていた。
これまでに固まった協定の概要によると、海賊情報の収集拠点として域内に「情報共有
センター」を新設。同センターと各国の海上警備機関とをインターネットによる通信網で
結び、事件の予防や取り締まり、救難活動のための情報交換を行う。国家間の捜査協力は、
外交ルートを通すため時間がかかるのが難点だが、通信網の構築で締約国は直接、海賊船
の拿捕(だほ)などの協力を要請することが可能になる。
同協定には日本とASEAN諸国のほか、中国、韓国、インドなど計16カ国が参加す
る見通し。日本政府は来年中の締結、発効を目指している。
(2003年11月19日
時事速報シンガポール)
反テロや海賊対策で安保協力=人材育成や技術支援中心・日 ASEAN 行動計画案
日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)は、東京で来月開催される特別首脳会議で「日・
ASEAN行動計画」を採択し、反テロや海賊対策などで、人材育成や治安関係者の交流、
技術支援などを柱とした安保協力を打ち出す。
「行動計画」は、同首脳会議で採択する「東京宣言」を具体化したもの。時事通信が入
手した行動計画案によれば、日本は反テロに関与するASEAN加盟国の入管職員や治安
当局者の能力開発を支援。密出入国や麻薬など広域犯罪の取り締まりのほか、海賊対策な
どで協力関係を強化する。
日本は当初、インドネシアのアチェ独立問題など域内の紛争解決に積極関与することを
文書に明記するよう求めたが、ASEAN側が「内政干渉に当たる」として拒否。行動計
画案では「問題の平和解決に向けて、2国間およびASEAN地域フォーラムなどを通し
て働き掛けていく」との表現にとどまった。
ただし、この中で、政治・安保分野の協力の具体策を検討する日・ASEAN当局者に
よる研究部会の立ち上げなどが盛り込まれており、将来の協力拡大を目指す姿勢も打ち出
されている。
このほか、行動計画案では、感染症対策やASEAN留学生の受け入れなど広範囲な連
携強化策がうたわれている。
(2003年11月26日 時事速報シンガポール)
シンガポール海峡・インドネシア海域で海賊襲撃事件相次ぐ
国際海事局(IMB)海賊事件報告センターによると、シンガポールの港の東部境界線
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付近の海域で先週、タンカーがナイフなどで武装した海賊グループに襲われ、現金など貴
重品が強奪される被害が報告された。24日には、インドネシアのバリックパパン港沖で、
タンカーが、銃やナイフで武装した3人の海賊に襲撃される事件も報告されており、イン
ドネシア、マレーシア、シンガポールの3カ国が国境を接する海域では最近、海賊被害が
相次いでいる。
シンガポール海峡では今月初め、インド船籍のタンカーが海賊に襲撃され、乗組員全員
が縛り上げられたことから、多くの船舶が行き交う同海峡で1時間にわたり無人状態で航
行する事件が発生した。この事件発生を受けIMBは、同海峡で再び同様の事件が発生し
た場合に、周辺の環境に壊滅的な被害を与える可能性を警告していた。
(2003年11月28日
時事速報シンガポール)
インドネシアで発生した海賊事件、テロ行為と保険業者がみなす可能性も
保険業者トーマス・ミラーの東南アジア支部取締役ニコラス・サムソン氏は、混乱が続
いているインドネシアのアチェ沖で船舶が海賊に襲撃された場合、海上保険業者は事件を
海賊行為ではなくテロ行為とみなし、汚染や乗組員の負傷・死亡に関する補償の適用され
ない可能性があると述べた。
当初は海賊事件と思われたケースが、調査の結果テロ行為とされることもあり、船主は
十分な補償があることを考慮する必要があると同氏は述べた。
2001年のアメリカ同時多発テロ事件以降、損保各社(またはP&Iクラブ)はテロ
事件の場合は積荷や乗組員に関する補償が適用されないと設定している。
海賊行為は通常のP&Iクラブ保険の補償範囲であるが、テロ行為は戦争危険区分に入り、
追加の保険料を支払わなければならない。
最近、アチェ沖で発生している海賊行為は、インドネシアからの独立を求める自由アチ
ェ運動(GAM)による犯行であると疑われている。
過去数ヶ月間に油・ガスタンカーがアチェ沖で襲撃される事件が多発しており、マレーシ
ア船籍のタンカーPenrider 号が身代金目当てにハイジャックされる事件も発生した。
国際海事局(IMB)のムクンダン局長は、GAMが活動資金に充てるために海賊行為
に関与している証拠が次々にみつかっており、事件を「政治的海賊」と分類している。
現在インドネシア海域は(マラッカ海峡を通航する船舶を除く)
、船舶戦争保険対象地域に
なっているため、追加の船体保険料が課されている。テロ行為発生時の積荷、乗組員、汚
染、沈船除去等の補償をカバーするには、戦争P&I補償が必要であり、結果、インドネ
シア海域、そしてマラッカ海峡でもテロ行為に遭った場合は、船体戦争保険と戦争P&I
保険のカバーが不可欠ということになる。
サムソン氏は、大手運航会社は十分な補償があるが、沿岸船を運航している小規模の船
主は追加の補償を付けていないと述べた。
インドネシア政府は、インドネシア船籍の船舶に乗船していたインドネシア人乗組員に
253
ついては補償プログラムがあるとしているものの、この補償がテロ行為にも適用されるか
どうかは定かでない。
(2003年11月28日 シッピング・タイムズ)
シンガポール沿岸警備隊・日本海保海賊対策合同訓練
シンガポールと日本の警察がハイジャックされた(と想定された)乗組員を解放
昨日シンガポールのイーストコースト公園沖で、重々しく武装したシンガポール警察沿
岸警備隊の特殊部隊が、ハイジャックされた(と想定された)日本の貨物船に突撃した。
シンガポール沿岸警備隊が日本の海上保安庁と合同訓練を実施するのは初めて。
両国から警察の精鋭人質救助部隊を含む総勢119名の職員が半日の訓練に参加し、ハ
イジャックされた(と想定された)乗組員を解放した。
訓練は、乗組員からの聴取と船内捜索を支援するため、日本海上保安庁の職員が空から
貨物船に乗り込んで終了した。
昨日の訓練の成功を受け、海賊抑制や世界で広まるテロの脅威に立ち向かうため、今後
より多くの海上訓練が予定されている。
シンガポール警察沿岸警備隊のジェリー・シー指揮官は、「今日の日本との合同訓練は、
他の海上警備機関と訓練し、犯罪対策経験を共にするよい機会になった」と述べた。
シンガポール領海は安全であるものの、ロンドンに拠点を置くIMB(国際海事局)は、
最新の海賊情報レポートで、マラッカ海峡やビンタン島沖の海域を含むインドネシアの一
部海域で引き続き海賊事件が多発していると報告している。
日本にとっても、石油・原料・輸出品のほとんどがこの海域を通じて輸送されているこ
とから、シーレーンのセキュリティは関心事である。
海賊やテロの脅威が拡大していることから、日本は2000年以降10隻の巡視船を東
南アジア海域に派遣している。
これらの巡視船のなかには、過去数年間にシンガポールに寄港したものもあったが、昨
日訓練に参加した「みずほ」は今回初めて海上訓練に参加した。
「みずほ」の下川宏船長は、
「今回の訓練を通じて、シンガポール警察沿岸警備隊と日本
海上保安庁が今後より緊密に協力するための強い基盤ができたと実感している」と述べた。
(2003年12月5日 ストレート・タイムズ)
シンガポールと日本が海賊対策訓練を実施
シンガポール警察沿岸警備隊(PCG)と日本海上保安庁(JCG)の合同部隊は昨日、
シンガポールの東海岸沖で海賊対策合同訓練を実施した。
2時間にわたる訓練には、PCGの9隻の巡視艇とJCGの巡視船「みずほ」
(5,30
0トン・ヘリコプター2機搭載)が参加した。PCGの発表によると、今回の合同訓練の
目的は、相互協力の強化と海上セキュリティに関する両者の理解を深めることである。
訓練は、ハイジャックされ、行方不明になったと報告されていた日本の貨物船が発見さ
254
れ、PCGとヘリコプターによるJCGの部隊が乗り込むという想定で実施された。
シンガポールが日本と合同訓練を実施するのは初めてだが、日本は2000年以降東南
アジアの国々と合同訓練を繰り返しており、これまで10隻の巡視船を派遣している。
「PCGは、海上強盗・海賊対策に深く関わっている。海上強盗や海賊は海上セキュリテ
ィに対する脅威であり、我々はこのような活動を許容しない」とPCGのジェリー・シー
指揮官は述べた。
PCGの発表には、
「海上強盗やテロ対策には地域の協力が重要であると強く認識してい
る」と記され、インドネシア等の地域各国と定期的に合同訓練を行っているとしている。
シンガポール領海内で最後に海賊事件が発生したのは1990年7月25日のことで、
貨物船 RAIGAD 号が襲撃された。シンガポールに近いインドネシア領海では引き続き海賊事
件が多発しており、2週間前にはチャンギ海軍基地の南側にあるイースタン・ポート・リ
ミット付近でも海賊事件が発生している。
(2003年12月5日 シッピング・タイムズ)
シンガポール沿岸警備隊、日本と連携訓練
日本の海上保安庁とシンガポール警察沿岸警備隊は 4 日、
「アジア海賊対策チャレンジ
2000」に基づき、海賊対策に向けた連携訓練を実施した。両国が同様の提携訓練を行うの
はこれが初めて。5 日付ビジネス・タイムズなどが伝えた。
シンガポールの東海岸沖で実施された訓練には、両国から精鋭の人質救出チームを含む
計 119 人、巡視船 10 隻が参加した。日本からは巡視船みずほ(総トン数約 5 万 3,000 トン)
が派遣された。
訓練では、シンガポールの領海で船舶がシージャックされたというシナリオを想定。日
本側の巡視船をハイジャック船に見立て、巡視船、ヘリコプターによるシージャック犯の
捕そく・制圧訓練、被害者救出訓練を行った。
「アジア海賊対策チャレンジ 2000」は、2000 年にアジア地域 15 の国・地域が参加して開
かれた海賊対策国際会議で、今後の海賊事件への取り組み指針として採択されたもの。日
本は 2000 年以来、マレーシアやフィリピン、インドネシアなど東南アジア 10 カ国と同様
の連携訓練を実施している。
(2003年12月8日 NNA)
アチェ沖で船員が海賊に射殺される
事件発生日時:2003年12月1日午後4時頃
事件発生地点:マラッカ海峡北部 スマトラ沿岸(アチェ)沖90海里
被害船の詳細:補給船 MV Sea Panther 号、ベリーズ船籍、1,132GT、
乗組員14名、所有会社 Trinity Offshore、運航会社 Agensea
状況:該船は11月30日にシンガポールを出港し、インドのムンバイに向け航行してい
た。12月1日午後4時頃、4名の武装した海賊がスピードボートで該船に接近し、停止
するよう命令した。船長がこれを無視したところ、海賊は該船の操舵装置とフィリピン人
255
乗組員 Bato Mary John(27歳)に向かって発砲した。報告によると、当時デッキを清掃
していた John 氏は、胸部に銃弾を受け死亡した。その後、海賊は逃走し、該船はペナンに
向かって、地元当局に事件を通報した。該船の所有会社及び運航会社は共にシンガポール
に事務所があるが、両社のスポークスマンはコメントを避けている。
IMB(国際海事局)海賊情報センターのチュン所長は、事件は公海上で発生したこと
からマレーシア海上警察が事件を追う可能性は低いとし、IMBは状況を通知するため、
インドネシアに情報を伝えたと述べた。もし今後同様の発砲事件が発生した場合には、I
MBは正式な通達を出すとのこと。過去にはIMBからの通達を受け、インドネシア海軍
が巡視船を派遣し、一時事態が収拾したこともあった。
IMBは、これまでに何度も商船に対しアチェ付近の海域に近づかないよう警告してい
る。
(2003年12月11日 シッピング・タイムズ)
海賊対策で協力強化へ=シンガポールとインドネシア
シンガポールのトニー・タン副首相兼首相府調整相(安全保障・国防担当)は21日、
メガワティ・インドネシア大統領との会談後の会見で、深刻化する東南アジア海域での海
賊襲撃事件に対し、共同での海上パトロールを強化するなど、両国の協力をさらに緊密化
させる考えを明らかにした。
同副首相は、両国間のこれまでの共同パトロールが、両国国境付近の海上の海賊襲撃防
止に効果があったと述べる一方で、海賊事件の報告件数が増加しているだけでなく、機関
銃を用いるなど襲撃の手口が凶悪化していることを指摘。海賊の襲撃事件でタンカーから
石油が流出した場合には深刻な自体を招くに恐れがあると指摘した。同副首相はさらに、
航路の安全確保のためには、日本が主導し東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国が参
加する多国間の海賊対策プログラムにも、両国が積極的に協力していく方針を示した。
(2003年12月22日
時事速報シンガポール)
港・周辺海域の警備強化=米のテロ警戒レベル引き上げ受け
米当局がテロ発生の可能性に対する警戒レベルを引き上げたことを受けて、シンガポー
ル政府は、同国の港および周辺海域の警備を強化している。しかし、これまでのところ、
警備の強化で船舶航行への影響は出ていない。
海事港湾庁(MPA)によると、2001年9月11日の米同時テロ事件以来、同国港
周辺の警備が強化されているが、最近の一連の動きを受けて、さらに警戒を強めている。
警備の内容については政府関係当局が定期的に見直しを行っており、必要となれば警備内
容をさらに厳しいものにする考え。
MPAが01年9月11日以来導入している警備強化策には、
(1)重要施設周辺の海域
航行の制限(2)フェリー、客船の航路の指定(3)海上パトロールの強化(4)シンガ
ポール海峡での重要な商業船舶の護衛-などがある。MPAだけでなく、警察沿岸警備隊
256
(PCG)も最近、港の警備レベルを一段階引き上げたもようだ。
一方、米国の港は、最近のテロに対する警戒レベル引き上げでも、港の閉鎖には踏み切
らず、通常通り営業している。しかし、米沿岸警備隊は、米領海内の商業船舶に対する立
ち入り検査や護衛などが拡充されることから、航行スケジュールに遅れが生じる可能性を
警告している。
(2004年12月24日 時事速報シンガポール)
昨年8月のマ海峡でのタンカーハイジャック、犯罪組織が関与か?
昨年8月、海賊がマレーシア船籍のタンカーPenrider 号をハイジャックし、乗組員2名
が誘拐され身代金が要求された。これまでこの事件には、自由アチェ運動(GAM)の関
与が疑われ、海賊自らがアチェ国軍であると名乗っていたと伝えられていた。
しかし、警察の調べで、事件は犯罪組織による犯行であることが明らかになった。
先週開かれた会議で、IMB(国際海事局)のムクンダン局長は、
「Penrider 号事件は、
自由アチェ運動による犯行を装って行われた可能性がある」と述べた。
なぜ事件が犯罪組織による疑いがあるとされるのか、その詳細は明らかにされていない。
インドネシアの情報筋によると、自由アチェ運動はアチェ解放を目指した政治的な活動に
熱心で、海賊事件に関与するとは考えにくいとのこと。また別の情報筋は、警察の迅速な
対応によって同様の事件の再発を防止できたとしている。
(2004年1月12日 ロイズリスト)
港内艇に海賊襲撃に対する警備強化を命じる=シンガポール海事港湾庁
シンガポール海事港湾庁(MPA)はこのほど、港内艇の運航会社に宛てた回覧書で、
海賊襲撃に遭った場合の対応策を準備するよう命じた。MPAは、特にシンガポールの港
の境界海域付近を航行する港内艇は、海賊に対する警戒を強めるよう警告。海賊襲撃への
対応策としてMPAは、海賊の襲撃を受けた場合の乗組員の対応や、無線、警報の発信な
どを盛り込むよう指示した。
今回の回覧書発行についてMPAは、最近シンガポール海峡近くの海域で海賊襲撃事件
が相次いでいるのを受けての措置ではないと述べている。
シンガポール領海内では海賊襲撃事件は報告されていないものの、昨年末にかけてシンガ
ポール海峡近くのインドネシア領海内で海賊襲撃事件が連続して発生している。
(2004年1月15日 時事速報シンガポール)
事務所注:回覧書自体は以前に出されており、今回はその細部について変更があった。
マラッカ海峡・インドネシアで、海賊事件が昨年増加―手口も凶悪化
国際海事局(IMB)の2003年の海賊襲撃事件に関する報告書によると、マラッカ
海峡で03年に確認された海賊襲撃事件は28件と、02年の16件を上回った。また最
も海賊事件が報告された海域は前年に引き続きインドネシアで、インドネシア領海内では
257
昨年121件の襲撃事件が発生し、世界全体の襲撃事件の27%を占めた。シンガポール
海峡で03年に発生した海賊襲撃事件は2件だった。
世界全体では、03年に報告された海賊襲撃事件は445件と前年比20%増加した。
03年の発生件数は、IMBが1991年に統計を取り始めて以来、2番目に高い数値。
昨年は海賊の襲撃の手口もさらに凶悪化し、21人の乗組員が襲撃で死亡し、88人が負
傷、行方不明の乗組員と乗客は71人に上った。02年に襲撃で死亡した乗組員は10人
で、負傷者は38人だった。
(2004年1月29日 時事速報シンガポール)
マラッカ海峡で海賊がタンカー乗組員4人を殺害
被害船名及び詳細:Cherry 201 号、総トン数640トン、インド船籍
状況:該船は今年1月5日にベラワン港に向かっていたところ、アチェ沖で武装した海賊
に襲われ、乗組員13人が人質にとられた。海賊は身代金4億ルピアを要求することを船
主に伝えるため、船長を解放した。
船主は、身代金を1億ルピアに値下げするよう交渉し、その後も話し合いを続け 7,000 万
ルピアを支払うことを約束した。
しかし、1 ヶ月以上経っても身代金が届かないことから、海賊は先週乗組員4名を射殺した。
残りの9名は海に飛び込んで脱出した。
海賊は自由アチェ運動(GAM)の活動家と疑われている。インドネシア当局が事件の調
査にあたっている。
(2004年2月12日 シッピング・タイムズ)
PSA管理下のシンガポール港、IMOの保安コードに対応
シンガポール海事港湾庁(MPA)は11日、政府系港湾管理会社PSAコープが管理
するコンテナ・ターミナルが国内で初めて、国際海事機関(IMO)による「船舶および
港湾の国際保安コード」
(ISPSコード)のテロ対策基準を満たしたことを明らかにした。
シンガポールを含むIMOの加盟国は、今年7月までにISPSコードに対応する必要が
ある。シンガポールは独自にISPSコードの順守期限を4月としている。
ISPSコードでは、船舶や港湾施設に対し、テロなどの危機に対し、スタッフを訓練
し、包括的な警備対策を立案することが求められている。ISPSコードへの対応が義務
付けられる国際航路の船舶を扱う国内の港湾施設は、今回認定されたPSAのターミナル
のほか、クルーズ・センターや造船所、石油ターミナルなど120カ所ある。このうち1
0カ所がMPAに警備対策プランを提出しているが、ジュロン港を含む他の施設も今月末
までに対策プランを提出する見通し。 (2004年2月13日 時事速報シンガポール)
日本 タイとフィリピンで合同海賊対策活動
日本海上保安庁は、アジア海域における海賊対策活動の一環として、タイとフィリピン
で開催される訓練とセミナーに巡視船を派遣する。
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2月26・27日に開催される第4回海賊対策専門家会合には、地域海上保安機関の上
級職員が出席する予定である。
会合の一環として、日本は巡視船「りゅうきゅう」(総トン数3300トン、ヘリコプタ
ー搭載)をタイのレムチャバン港に派遣、タイと日本両国の海上保安機関が通信、被害者
捜索救助、海賊追跡・捕捉の訓練を行う。
その後「りゅうきゅう」はマニラに向かい、3月8日から11日まで海上における法令
励行に関する研究訓練及びセミナーに参加する予定。
「りゅうきゅう」の船上で、ダイバーを含むフィリピン沿岸警備隊の職員40名を動員
した訓練が行われ、ヘリコプターも使用される。
日本に輸入される石油のほとんどが東南アジア海域を経由して輸送されていることから、
日本は同海域の海賊対策に先頭を切って取り組んできた。1990年代後半に日本船がマ
ラッカ海峡でハイジャックされて以来、懸念が高まり係わりを深めている。
(2004年2月20日 ロイズリスト)
日本 タイと海賊対策訓練実施
日本は、タイとフィリピンで実施される海賊対策訓練に参加させるため、ヘリコプター
を搭載した巡視船を派遣し、地域各国に対する海賊及び海上テロ対策支援を続ける。
日本海上保安庁の巡視船「りゅうきゅう」は、24日(火)にタイのレムチャバン港に
到着し、その後5日間の訓練に参加するためマニラに向かう。
「りゅうきゅう」は明日(27日)、タイ海上警察とタイ海事局と合同訓練を行う。日本
海上保安庁は声明の中で、訓練は、通信、捜索救助、海賊追跡・捕捉・制圧に焦点を当て
ると述べている。
訓練は第4回海賊対策専門家会合と共に開催される。この会合にはシンガポールを含め
た地域16カ国がタイのパタヤに集まり、本日(26日)から2日間にわたって開催され
る。
また、会合には国際海事機関(IMO)やアセアン事務局、日本財団のほか、IMB海
賊情報センターも出席する。
会合はタイ海上警察が主催、慈善団体である日本財団と日本海上保安庁の財政援助を受
けて開催される。
アジア各国の海上保安機関は、国によって編成・権限・経験が異なることから、日本海
上保安庁は「アジアの関係機関が貴重な経験を共有することは大変有益なこと」と述べて
いる。
第1回海賊対策専門家会合は、2002年(注:2000年の誤り)11月にマレーシ
アのクアラルンプールで開催された。
第2回会合は2002年3月にジャカルタで、第3回会合は2003年3月にマニラで
開催された。
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日曜日(29日)に「りゅうきゅう」はマニラに出発し、3月9・10日に法令励行に関
する研究訓練及びセミナーが開催される。
「りゅうきゅう」の船上で、ダイバーを含むフィリピン沿岸警備隊の職員40名を動員
した訓練が行われる予定。
現在、日本海上保安庁は、国際協力機構(JICA)の技術協力による「フィリピン海
上保安人材育成プロジェクト」に専門家3名を派遣している。
中東から日本に輸送される石油の多くは、マラッカ・シンガポール海峡を通じて輸送さ
れていることから、日本は海賊問題に深い関心を示すようになった。
日本海上保安庁は、海賊問題を地域の国々の協力・協調なしには解決できない地域全体
の問題ととらえている。
日本海上保安庁は、2000年4月に初めて海賊対策に関する地域会合を開催、15カ
国の海上保安機関が参加し、地域専門家会合や合同訓練を含む今後の相互協力に関する一
連のガイドラインに合意した。
これまでに日本海上保安庁は、マレーシア、シンガポール、インドネシア、タイ、イン
ドと会合・訓練を実施している。
(2004年2月26日 シッピング・タイムズ)
IMOの保安コード期限達成、海運各社に再喚起=シンガポール海事港湾庁
シンガポール海事港湾庁(MPA)は8日、同国の船会社や船舶施設など海運関係各社
に対し、国際海事機関(IMO)による「船舶および港湾の国際保安コード」(ISPSコ
ード)のテロ対策基準を、今年7月1日の期限までに満たすよう改めて喚起した。IMO
加盟国は、今年7月までに同コードに対応する必要があるが、シンガポールは独自に達成
目標期限を4月1日に前倒ししている。
ネプチューン・オリエント・ラインズ(NOL)の子会社ネプチューン・シップマネジ
メント・サービシズ(NSSPL)は同日、ISPSコードへの対応を完了、同国の船会
社では達成第1号となった。
MPA幹部によると、同国の港湾施設の約半分、シンガポール船籍の船舶の62%がこ
れまでにISPSコードに対応しているという。また、同幹部は、未対応の海運関係各社
に早期の対応を求めるとともに、IMOが設定した7月1日の期限が延長されることはな
いと警告した。
(2004年3月9日 時事速報シンガポール)
シンガポール・マラッカ海峡、テロの主要ターゲットとなる恐れを警告
海運専門家らは17日、シンガポールで開催されたセミナーでの講演で、国際貿易の主
要拠点であり、世界の海運市場にとっても重要な拠点である同国が海上テロの攻撃対象と
して「二重のリスク」を負っていると警告した。
東南アジア研究所(ISEAS)の主任研究員、マイケル・リチャードソン氏は、世界の
260
貿易の4分の1、世界の石油の半分が、狭いマラッカ海峡とシンガポール海峡を通過して
いると指摘。同氏は、自身の分析と米エネルギー省の分析から、両海峡が、ボスポラス海
峡とトルコ海峡を除き、
「世界で最もテロ攻撃の危険にさらされている」と断定できると述
べた。さらに、世界貿易市場に占める両海峡の重要性は、トルコ海峡をはるかに上回って
いる。
シンガポール国立大学(NUS)の海事法を専門とするロバート・ベックマン教授は、
東南アジア地域の海域を航行する船舶にとり最大のリスクは、テロリストがその船舶を乗
っ取り、船舶自体を武器として使用することだと強調した。同教授は、海峡の下半分の地
域は公海ではなく、インドネシアとマレーシアの領海であるため他の国々が警察権を行使
できず、安全保障面で最もリスクがあると語った。同教授は、特にインドネシア領海内は
世界で最も多く海賊襲撃事件が発生しており、海賊が簡単に船舶に乗り込むことができる
なら、テロリストが船舶を乗っ取るのも同じように簡単だと指摘した。
(2004年3月19日 時事速報シンガポール)
アチェ沖でシンガポール船籍のタンカー、海賊の銃撃受ける
国際海事局(IMB)の海賊事件報告センターによると、インドネシアのアチェ沖を航
行していたシンガポール船籍のタンカーが今月13日に、マシンガンで武装した海賊の銃
撃を受け、同船体が深刻なダメージを受けていたことが分かった。
同船舶は13日の午後4時20分に、8人の海賊の乗った漁船の襲撃に遭い、警報を鳴
らし、スピードを上げて海賊の追跡を振り切ろうとしたところを、マシンガンなどで撃た
れた。乗員は全員無事だった。海賊がAK-47やM-16などの武器を用い、軍服を着
用していたことから、独立派ゲリラ「自由アチェ運動(GAM)
」の関与が疑われている。
テロ攻撃に対し、IMBはこれまで、同海域で武相した海賊による襲撃や、乗員を拘束し
て身代金を要求する事件が多発していることから、同海域に立ち入らないよう繰り返し警
告していた。
(2004年3月19日 時事速報シンガポール)
タイ当局 ハイジャックされていたタグボートとバージを拘束
タイ当局は3月15日、ハイジャックされていたインドネシア船籍のタグボート Sing
Sing Mariner 号とバージ Kapuas68 号をタイ湾で拘束した。
タグボートとバージ(やし原油 3,000 トン=160 万米ドル相当積載)は1月29日、イン
ドネシアのカリマンタン島 Satui を出発、マレーシアのバターワースに向かっていた。2
月9日、インドネシアのビンタン島付近を航行していたところ、4名の海賊にハイジャッ
クされた。乗組員は付近の島に放置され、その後通りかかった漁船に救助された。
「S 号と K 号に類似した船舶の身元偽造作業がタイ湾で進められている」との目撃情報を
IMB(国際海事局)が入手。IMBから通知を受けたタイ海軍と警察が該船を拘束し、
船内にいたミャンマー人7名を逮捕した。拘束された時、タグボートは Tyson 号、バージ
261
は TysonⅤ号に船名を変えられようとしているところだった。
2003年には、タグボートとバージ計12隻が東南アジアの犯罪グループによってハ
イジャックされた。タグボート、バージは速度が遅いため容易に乗り込めることから、海
賊の標的になっている。
(2004年3月18日 IMBプレスリリース)
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海軍警備艇衝突事故、操縦士の判断ミスが原因=海事港湾庁
シンガポール海事港湾庁(MPA)は6日、今年1月に発生したシンガポール海軍警備
艇とオランダのコンテナ船の衝突事故の原因が、同海軍警備艇の操縦を監督していた海軍
士官ウン・ケンヨン大尉(29)の「判断ミス」だったことを明らかにした。同衝突事故
は、警備艇に乗っていた女性兵士4人が死亡するという同国の海軍史上最悪の事故となっ
た。
MPAによると、ウン大尉は、警備艇を操縦していた部下(23)がコンテナ船の航路
に侵入するコース変更の指示を出した際に、これを認める判断を下した。この部下は同警
備艇の操縦訓練を開始してから4カ月目で、ウン大尉は操縦歴が4年以上あった。ウン大
尉は、コンテナ船が同じ航路、速度を維持して進むと判断し、警備艇が安全にコンテナ船
の航路を横切ることができると判断した。
また、2隻が衝突しそうになった際には、双方が右に旋回しなければならないとの規則
に反し、警備艇が左に旋回したことから、規則に従って右旋回したコンテナ船との衝突に
至った。
(2003年4月7日 時事速報シンガポール)
韓国船籍タンカー、シンガポール東部沖合いで爆発
東部ベドック波止場の南沖合い約 2 キロメートルのシンガポール海域で 11 日早朝、韓国
船籍の化学タンカー「Bum・Ik」が爆発炎上し、中国人の乗組員 1 人が死亡した。
このタンカーは中国・天津を出発した後、9 日夜から燃料供給を受けるため同海域に停泊
していた。インドネシアに向かうためいかりを上げた矢先、船首にある貯納室で爆発が発
生。消防船が駆けつける前に、乗組員の消化活動で鎮火した。
事故発生後、同タンカーはシンガポール海域にとどまり、海事港湾庁(MPA)と警察の調
べを受けている。
(2003年5月13日 NNA)
インドネシアの貨物船がインド沖で沈没、乗組員全員無事救助される
事故発生日時:2003年5月16日(金)未明
事故発生地点:ベンガル湾
カルカッタ南沖200キロメートル
被害船の詳細:貨物船 Saragitis Biru 号、インドネシア船籍
インド西部ポンバンダル発バングラディッシュチッタゴン行き
貨物:ソーダ灰2万トン、油150トン
乗組員22名
状況:S 号はベンガル湾でサイクロンに襲われ浸水した。17日には乗組員が決死の試みで、
船体の穴を塞いだ。S 号はインド沿岸警備隊に無線通信し、同沿岸警備隊は現場にホバーク
ラフトを派遣、沈没を始めた S 号から乗組員を救出した。警察によると、S 号は16日未明
に沈没したとのこと。その後、該船乗組員は別の船でカルカッタ南部120キロメートル
の港町ハルディアに運ばれた。貨物の油及びソーダ灰が海上に流出しているかどうかにつ
263
いては、報告が矛盾しており、警察はすでに流出が始まっているとしているが、沿岸警備
隊は流出の可能性は否定できないとしている。沿岸警備隊の司令官は、船体の亀裂からの
油流出を懸念していると述べたが、沿岸警備隊は環境への被害に対応する能力があると付
け加えた。
(2003年5月19日 シッピング・タイムズ)
バトゥ・プテー島付近でコンテナ船APLエメラルドが座礁
シンガポールとマレーシアがそれぞれ領有権を争うバトゥ・プテー島(シンガポール名・
ペドラ・ブランカ島)付近で、シンガポール船籍のコンテナ船APLエメラルドが11日
未明に座礁した。同島付近での事故は昨年12月以降4回目となる。
シンガポール海事港湾庁(MPA)によると、座礁したコンテナ船からは推定150ト
ンの燃料油が流出しているが、同コンテナ船は安定した状態だという。MPAと同船舶の
シンガポール代理店タンカー・パシフィック・マネジメント(TPM)は汚染防止船とダ
イバー・チームを現場に派遣し、流出した油の処理にあたっている。MPAによると、他
の船舶の航行に影響はないという。
MPAによると、船舶航行情報システム(VTIA)が同日の午前2時25分、同船が
針路をそれたことを観測したことから、同船に針路を確認するよう警告した。しかし、同
船からの応答はなく、17分後に船長から座礁したとの連絡が入ったという。事故当時、
灯台は正常に機能しており、天候も良好だった。
(2003年6月13日 時事速報シンガポール)
マレーシア ククップ島沖の沈船、引き揚げられる
2ヶ月にわたるインドネシアのコンテナ船 Tirta Mas 号の引上げ作業が先週終了し、船
体が船主に引き渡された。T号の引上げ作業は Smit サルベージが請け負い、海底34メー
トルからクレーン4基で引き揚げられた。T 号は、今年2月26日夜、マレーシアのククッ
プ島沖(当事務所注:マラッカ海峡とシンガポール海峡の境目近く)でばら積み船 Sanko
Robust 号と衝突し、間もなく沈没した。
(2003年6月25日 シッピング・タイムズ)
クス島沖の船舶衝突で油がわずかに流出=シンガポール
シンガポールのクス島南東沖2.8キロの海域で21日深夜、マルタ船籍のばら積み船
「MVシー・リバティー」号と、パナマ船籍のコンテナ船「MVアラビアン・エキスプレ
ス」号が衝突した。海事港湾庁(MPA)は、衝突により両船から「わずかに油が流出」
したものの、深夜にわたる除去作業の結果、すべて取り除かれたとしている。衝突による
同国港の操業への影響はなく、海峡の船舶の航行にも影響を与えなかった。
MVシー・リバティーのエンジン・ルームの一部などが破損したが、両船とも大きな被
害はないもようで、現在、近くの港に停泊している。MPAが、事故の原因を調査してい
264
る。
(2003年9月23日 時事速報シンガポール)
海上事故の8割は過失に起因、海運局長
運輸省のチュック海運局長は、国内航路における事故の8割が船主や船員、監視要員な
どの過失に起因しているとして、海事教育訓練を充実させる必要を訴えた。ビス二ス・イ
ンドネシアが伝えた。
インドネシアはこれまで海上人命安全条約(SOLAS)、国際海事機関(IMO)の船
舶安全管理規格(ISMcode)、海洋汚染防止条約(MARPOL)、海上衝突予防条
約(COLREG)、船員訓練・資格・当直に関する条約(STCW)などの条約に批准。
海上安全と海洋環境保全に努めているものの、国内の訓練機関にうち、これらのIMOの
規定などを満たせるのは国営機関6機関と国営石油プルタミナの海運部の1機関しかなく、
民間の24機関や専門学校75校の大部分では、教員、資機材等の不足による困難が生じ
ているとしている。
(2003年9月25日 NNA)
バンカ海峡でセメント船衝突、4人不明
南スマトラ州パレンバン県当局によると、バンカ海峡で23日、リベリア船籍の貨物船
とインドネシア船籍のセメント船が衝突しインドネシア船の乗組員4人が行方不明になっ
ている。テンポ(ウエブサイト版)が伝えた。
当局が無線連絡を受けたのは、24日午前10時30分という。衝突したのは、リベリ
ア船「MV・PACビンタン号」と、インドネシア船「KMパガルユン05号」
。両船とも
北ジャカルタのタンジュンプリオク港に向け航行していた。
衝突でパガルユン号の28人が海に投げ出され、24人は救助されたとしている。
(2003年9月25日 NNA)
スラバヤ沖で船舶衝突、3人死亡
東ジャワ州グレシク県の沖合で26日午前9時30分、貨物船と客船が衝突し、客船の
乗客3人が死亡、11人が負傷する事故が起こった。ニュースサイト「デティックコム」
が伝えた。目撃者によると、事故は、スラパヤから15マイル(約24キロメートル)の
地点を航行中の客船「マンディリ・ヌサンタラ号」に貨物船「ユニ・グローリー号」が衝
突した模様だ。けが人はスラバヤのスモト病院で手当を受けたという。
貨物船の衝突では、23日に南スマトラのバンカ海峡でリベリア船籍の貨物船とインド
ネシア船籍のセメント船が衝突しインドネシア船の乗組員 4 人が行方不明になっている。
(2003年9月27日 NNA)
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海軍警備艇衝突事故の公判始まる
シンガポール下級裁判所で17日、今年1月3日に発生したシンガポール海軍警備艇「R
SSカレージャス号」とオランダのコンテナ船との衝突事故で、同警備艇の操縦を担当し
ていた訓練生、チュア・チュエテン海軍下士官と、同下士官を監督していたウン・ケンヨ
ン大尉の事故の責任の有無を問う公判が開始された。
バトゥ・プテー島沖のシンガポール海峡で発生した同事故では女性兵士4人が死亡し、
同国の海軍史上最悪の事故となった。同警備艇を事故当時に操縦していたチュア下士官が、
海上の国際的なルールを無視し、オランダのコンテナ船の航路を遮ったことが事故の原因
と見られ、監督していたウン大尉は同下士官の操縦判断を修正しなかった責任を問われて
いる。
同公判は3週間続く予定で、2人の有罪が確定した場合には、最高2年間の禁固刑と罰
金刑が科される。
(2003年11月19日
時事速報シンガポール)
フィリピン・マニラ沖フェリー火災、少なくとも65名が行方不明
フィリピン・マニラ湾沖で起きた客船「スーパーフェリー14」
(1981年建造、総ト
ン数:10818トン)の火災について、地元ラジオ局はイスラム過激派アブサヤフを名
乗る男から犯行声明の電話があったと伝えたが、治安当局はテロ事件かどうか判明してい
ないとしてこれを否定している。
フェリーは乗員・乗客899名。火災で1名が死亡。712名の生存が確認された。残
りの186名については、一部は無事脱出し、当局に通報しないまま帰宅したと思われる。
このうち少なくとも65名が行方不明になっており、現在も救命活動が続いているが、今
のところ生存者は発見されていない。
出火場所について、沿岸警備隊は機関室から出火したとみている。しかし、フェリー所
有者は上甲板から出火したとしており、故意の運航妨害行為の可能性が強いとしている。
(2004年3月1・2日
AFP、ロイズリスト)
火災客船にイスラム過激派組織メンバー=自爆攻撃を主張
【マニラ2日AFP=時事】フィリピン沖で2月27日、客船が爆発・炎上し、133人
が行方不明になっている事故で、同国沿岸警備隊のゴシンガン司令官は2日、行方不明の
乗客の中に、イスラム原理主義組織アブサヤフのメンバーとされる人物がいることを明ら
かにした。
アブサヤフのスポークスマンは先週末、この人物がアブサヤフに所属し、自爆攻撃を掛
けたと主張した。これについて、アロヨ大統領らは宣伝にすぎないと否定していた。
同司令官は、乗船名簿にこの人物の名があることが直ちにアブサヤフの関与を意味しな
いとし、警察の捜査では、爆弾により火災が発生したことを示す証拠は見つかっていない
266
と述べた。
(2004年3月3日 時事速報シンガポール)
星船籍コンテナ船、インドで衝突事故
シンガポール船籍のコンテナ船が今月 18 日、インド西部のカッチ湾でパナマ船籍のタン
カーと衝突する事故があった。当時濃霧が発生していたという。コンテナ船は現在近くの
グジャラート州ムンドラ港で停泊している。22 日付シッピング・タイムズが報じた。
同日午前 8 時ごろ(シンガポール時間)、海運大手ネプチューン・オリエント・ラインズ(NOL)
の子会社 APL が所有する 2 万 5,305 トン(2,500TEU=20 フィート標準コンテナ換算)の「APL
プサン」と 3,644 トンのパナマ船籍タンカー「デルタ 1」がムンドラ港から約 18 海里の地
点で正面衝突した。デルタ 1 が 2 つに割れて沈没したとの報告もあるが、海事港湾庁(MPA)
は確認していないという。
同庁によると、デルタ 1 の船長は衝突後、海難信号を発し、乗組員 19 人が船舶を放棄し
た。うち 1 人は APL プサンに救助され、残りの乗組員は、海難信号を受けた現場付近の別
のシンガポール船籍に救助されたという。
現地紙タイムズ・オブ・インディアによると、グジャラート州政府は衝突による環境被
害はなかったとしている。
(2004年3月23日 NNA)
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マレーシア テロ対策センター開設へ
昨日の国会で、マレーシア防衛省 Mohamed Shafie Apdal 副大臣は、マレーシアはイラク
戦争に対し反対の立場を表明しているが、アメリカとの協力によるテロ対策センターの開
設は進めると述べた。
同副大臣は、テロ対策東南アジアセンターの開設は、多くの面で同国に利益をもたらす
と付け加えた。
これらの利益には、最新技術訓練や専門的知識の供与、情報交換などが含まれる。
マレーシア政府は同センターの運営を担当し、運営費用を負担する予定である。
副大臣によると、アメリカが関与するのは、専門的知識の供与、訓練、設備の提供に止
まる。
Syed Hamid Alber 外務大臣は昨年11月、同センターは2003年に開設される予定で、
アセアンの全10カ国に開放され、世界中から講師を招くと述べた。
同センターの設置により、アメリカ軍がマレーシアに軍隊を派遣するのではないかと当
初懸念され、不安を払拭するのは容易ではなかった。
マレーシアのマハティール首相は、昨年5月にホワイトハウスを訪問した際、アメリカ
とのテロ対策協定に署名した。
(2003年4月3日 ストレート・タイムズ)
シンガポールで内閣改造=次期政権の基盤整備が狙い
【シンガポール28日時事】シンガポール首相府は28日、部分的な内閣改造を発表、ト
ニー・タン副首相兼国防相が8月1日付で国防相のポストを退き、後任の国防相にテオ・
チーヒエン教育相が就任することを明らかにした。現上級国務相(通産・教育担当)のタ
ーマン・シャンムガラトナム氏が教育相代行に就任する。
このほか、リム・フンキャン保健相が、新型肺炎への対応が一段落した段階で首相府相
に転出し、上級国務相(運輸担当)のカウ・ブンワン氏が保健相代行に就任。リー・ブン
ヤン人材開発相が5月12日付で情報通信・芸術相に横滑りし、国務相(教育・人材開発
担当)のウン・エンヘン氏が人材開発相代行に就任する。
同国の次期首相にはリー・シェンロン副首相(リー・クアンユー上級相の長男)の就任
が確実視されており、今回の内閣改造は、リー次期政権を支えることになる若手の国務相
(閣外相)を閣僚レベルに引き上げ、経験を積ませる狙いがあるとみられる。
シンガポールの内閣改造の概要
28日発表されたシンガポールの内閣改造の概要は以下の通り。
▼トニー・タン現副首相兼国防相=8月1日付で副首相兼首相府調整相(安全保障・国防
担当)に▼テオ・チーヒエン現教育相兼第2国防相=8月1日付で国防相に▼リム・フン
キャン現保健相兼第2財務相=新型肺炎への対応が一段落した段階で首相府相(高齢化、
人材確保担当)兼第2財務相に▼リー・ブンヤン現人材開発相=5月12日付で情報通信・
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芸術相に▼デービッド・リム現情報通信・芸術相代行=5月11日付で退任し政界を引退
▼ターマン・シャンムガラトナム現上級国務相(通産、教育担当)=8月1日付で教育相
代行に▼カウ・ブンワン現上級国務相(運輸、情報通信・芸術担当)=リム・フンキャン
氏の保健相退任後に保健相代行兼上級国務相(財務担当)に▼ウン・エンヘン現国務相(教
育・人材開発担当)=5月12日付で人材開発相代行兼国務相(教育担当)に▼ヤーコブ・
イブラヒム現社会開発・スポーツ相代行=5月12日付で社会開発・スポーツ相に▼チャ
ン・スーセン現国務相(首相府、社会開発・スポーツ担当)=8月1日付で国務相(教育、
社会開発・スポーツ担当)に▼バラジ・サダシバン現国務相(保健、環境担当)=5月1
2日付で国務相(保健、運輸担当)に(2003年4月29日 時事速報シンガポール)
ペドラ島領有権紛争、国際司法裁に付託
シンガポール、マレーシア両国は 9 日、ペドラ・ブランカ(マレーシア名バトゥプティ)
島および周辺 2 島をめぐる領有権紛争を、オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)に付
託するとの合意文書を追認する文書を交換。領有権問題の ICJ 付託が最終決定した。外務
省が同日発表した。
両国の外相は 2 月 6 日、ICJ に同問題の判断を委ねるとの合意文書を署名したが、実行さ
れていなかった。9 日の文書交換はマレーシアの新行政都市プトラジャヤで行われた。
今後両国は ICJ に付託を通知する。マレーシア外務省によると、数週間以内に通知が行わ
れる予定。
領有権の主張を裏付ける文書の作成期間として 8 カ月が当事者に与えられるほか、反論
作成に 10 カ月、それに対する再反論の作成に 10 カ月が与えられる。
その後、15 人の判事が出席する口頭弁論を経て判断が示される。シンガポールは同島を英
国植民地時代の 1840 年代から実効支配してきた。
(2003年5月12日 NNA)
東南アジア・テロ対策センター、年内に始動=マレーシア
マレーシア外務省東南アジア局のザイナル・アビディン次官は、米国と協力してテロ対
策に関する研修などを行う「東南アジア・テロリズム対策センター」が年内に活動を開始
するとの見通しを示した。同次官が、同センターの事務局長に就任する。
このセンターは、同時多発テロ事件を踏まえ、米国が提案。東南アジア諸国向けにテロ
対策の研修プログラムやセミナーなどを行う予定。
(2003年5月28日 時事速報シンガポール)
日本の天然ガス輸入量増加の予想
東京で世界ガス会議が開催された。この席で、今後17年間で日本のLNG輸入量は大
幅に増加し、2020年までにエネルギー供給全体の20%を占めると予想された。今後
17年間に日本のLNG供給は50%増加するとみられており、追加で20隻のLNG運
269
搬船が必要になると予想されている。
先月、東京ガス株式会社は、シェル社が開発を推進しているサハリンⅡプロジェクトか
ら生産されるLNGの売買に関して、年間110万トン、24年間に及ぶ基本合意を締結
した。一方、東京ガスのライバルである東京電力も、2007年から同プロジェクトとの
LNG購入に合意している。
日本はすでに全世界のLNG生産量の48%を輸入しており、2002年の輸入量は5,
420万トン。昨年日本には1,100回にわたりLNGが運ばれ、約70隻のLNG運搬
船が輸送に用いられた。
2020年までに、追加で20隻のLNG運搬船が必要になるとみられる。
(2003年6月3日 ロイズリスト)
北朝鮮工作船一般公開に関するシンガポール現地報道
「北朝鮮工作船一般公開、大人気」6月1日(日)
、東京の「船の科学館」で、日本海上保
安庁との銃撃戦の後沈没した北朝鮮の工作船を見学する人々。12,000人以上が腐敗し
た船体を見学するため、2時間半待ちの行列に耐えた。工作船は銃撃で穴だらけになって
おり、内部には上陸用の小型舟艇と武器が収容されていた。工作船は2001年12月、
銃撃戦の後、日本南西の奄美大島沖で沈没、昨年秋に引き揚げられ、一般公開のため運ば
れた。公開は5月31日(土)から4ヶ月間。
(2003年6月3日 シッピング・タイムズ)
インドネシア政府 国境付近の無人島に国民の移住を計画
シパダン島とリギタン島の領有権を失った痛手からまだ立ち直っていないインドネシア
政府は、人口の密集した地域から近隣国との国境にある全国88の無人島に住民を移住す
る計画を立てた。
インドネシア政府は、漁業やパーム油事業を始める補助金を提供するなどの奨励策を出
す予定で、今後5年間で30万人を移住させたいとしている。
労働・移住省の Djoko Sidik Pramono 長官は、
「領有権を確保するため、住民をこれらの
島に移住させる」と述べた。
同長官は、今後数ヶ月はナツナ島に焦点を絞ると述べた。ナツナ島は南シナ海に位置し、
ベトナムに近く、海底油田やガス田が豊富である。
同長官によると、すでに960世帯が同島に移住し、今後さらに1,000世帯以上を移
住させる計画とのこと。
ナツナ島への移住者には高額の補助金が提供される。同島ではすでにガス製造活動が始
まっており、国内の投資者3人がパーム油事業への投資に興味を示していると同長官は述
べた。
昨年12月、33年間にわたって争われていたシパダン島とリギタン島の領有権につい
270
て、国際司法裁判所はマレーシアの主張を認める判決を下した。その後、首都ジャカルタ
では国家主義者から数ヶ月にわたって懸念が示されていた。
(2003年6月5日 ストレート・タイムズ)
東南アジア反テロセンター
ベテラン外交官ザイナル氏が初代事務局長に就任
先日記者会見を行ったサイド・ハミド外相は、東南アジア反テロセンターの初代事務局
長にザイナル・アビディン氏が就任すると発表した。
ザイナル氏は30年間マレーシア外務省で働いているベテラン外交官で、とりわけ危機
管理の専門家として有名な人物だ。イランのホメイニ師が政権を奪った後に起きたアメリ
カ大使館占拠・人質事件や、イラン・イラク戦争への対応をはじめとして、イラクのクウ
ェート侵攻(1990年)時両国にいたマレーシア人を帰国させた仕事や、在ペルー日本
大使館の人質事件でマレーシアの外交官を救出する任務など、マレーシアが直面した危機
に際して、最前線で活躍してきた。
「これらの事件でいろいろなことを学んだ。危機管理に
ついて、テキストから理論を学ぶことはできるが、実際に危機に直面したとき、クリエイ
ティブな思考が最も重要になる」と語る。
ザイナル事務局長の最初の仕事は、今後2年間に同センターで実施される各種プログラ
ムを作成することだ。
(2003年6月9日 星日報)
JI 関係者 4 人逮捕、タイでテロ計画
内務省は 10 日、在バンコクの 5 大使館にテロ攻撃を計画していたとして、テロ組織のジ
ュマア・イスラミア(JI)幹部 1 人を先月タイで逮捕していたことを明らかにした。タイ
警察も 10 日早朝、JI のテロ活動に加担したとみられるタイ人 3 人を南部地域で逮捕してお
り、タイを拠点とした国際テロ組織の活動が明らかになり始めた。
逮捕されていたのはシンガポール国籍を持つアリフィン・ビン・アリ容疑者、別名ジョ
ン・ウォンアフン(42)
。バンコクにあるシンガポール大使館などへのテロ攻撃を計画して
いたという。タイのネーション紙は「標的には米英独豪の 4 大使館も含まれていた」と報
じた。
アリ容疑者は JI シンガポール支部の幹部で、軍事訓練の指導員を務めていた。1999 年に
過激派のモロ・イスラム解放戦線(MILF)が所有するフィリピン・ミンダナオ島の軍事施
設で訓練を受けたとされる。
アリ容疑者は 2001 年 12 月にシンガポールからマレーシアへ逃亡。滞在中に JI シンガポ
ール最高幹部マス・スラメット・ビン・カスタリ容疑者(2003 年 2 月に逮捕)らと共謀し、
バンコクで飛行機をハイジャックしチャンギ空港に墜落させるテロを計画していたとされ
る。その後、2002 年 1 月にタイに潜入。先月 16 日に公安局(ISD)の密告によりバンコク
で身柄を拘束され、翌日にシンガポールに送還された。シンガポール人幹部の逮捕により、
国内の JI ネットワークは更に活動不能になったが、彼のこれまでの経緯は JI 地域ネット
271
ワークが維持され、テロ組織が東南アジアで活動していることをまざまざと見せつけた。
■イスラム教徒 3 人逮捕
タイの地元各紙によると、タイ警察は 10 日午前 6 時ごろ、南部ナラティワート県で、JI
関係者とされるタイ人 3 人を逮捕した。逮捕されたのはいずれもイスラム教徒で、(1)マ
イスリ・ハジ・アブドゥル容疑者(50、教師)
(2)マイスリ容疑者の息子、ムヤヒ・ハジ・
アブドゥル容疑者(薬局経営)
(3)ワマハディ・ウェダオ容疑者(医師)――の 3 人。こ
れもシンガポール当局から情報があったという。
3 容疑者はいずれもアリ容疑者の大使館攻撃の計画立案を手助けしていたものと見られ
る。ハジ・アブドゥル父子は JI との関与を認めているという。主要観光地であるパタヤ、
プーケットでのテロも計画していたようだ。
■タイも重要拠点?
東南アジアを拠点とする JI は昨年 10 月に起きたバリ島爆弾テロ事件を計画・実行した
とされ、アルカイダとの関係も指摘されている。
これまでタイ政府はタイでの JI 拠点の存在を否定していたが、先月にカンボジアで JI
関係者とされるタイ人 2 人が拘束された後、初めて JI の存在を認めた。
シハサック外務省報道官は「政府は 5 月から JI 拠点の捜索を始めた」と発表。ナラティ
ワート県警も JI 関係者数人の行方を追っていることを明らかにした。
カンボジアでは 18 日からパウエル米国務長官も出席する東南アジア諸国連合(ASEAN)地
域フォーラム(ARF)閣僚会議が開催される予定で、テロ対策での協力強化が議題になる見
通しだ。
(2003年6月12日 NNA)
ASEAN 地域フォーラムに向けてのカンボジア外相コメント
来週、6月16日から19日までカンボジアが第36回公式首脳会議を主催する予定で
ある。99年に ASEAN に加盟したカンボジアは最も新しい加盟国で、ASEAN の会議を主催す
るのは今回が初めて。ASEAN は1967年8月8日にバンコクで発足、原加盟国はインドネ
シア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの5カ国であった。その後、84年
にブルネイ、90年代に入ってベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジアが加盟した。
発足当時、ASEAN 各国は経済の発達が遅れており、政治も不安定であった。今日、ASEAN 加
盟国は、すでに産業化が進んでいるか、産業化に向かっている。
今日、ASEAN は、強い経済統合を目指した、より多くのエリアで尊重される地域グループ
に成長し、東アジアの平和と安定に貢献している。その一方で、ASEAN は今日の挑戦に対応
するための再構築を図っている。
ASEAN の今日の挑戦として、以下の5つが挙げられる。
新たな国・地域との経済競争。グループとしての ASEAN の対応は、これまで実施されてき
た ASEAN 自由貿易地域(AFTA)を越えた地域経済統合を広げることである。現在 ASEAN 加
盟国は、地域統合の次の段階を目指した的確な様式を模索しているところである。
272
ASEAN 内の格差の是正。
ASEAN はすでにこれに対応するため、ASEAN 統合イニシアティブ
(IAI)
を開始している。IAI は、インフラ整備、人材育成、情報通信技術、地域経済統合のための
能力向上など、具体的なプロジェクトで構成されている。
■テロ行為、海賊、人身・麻薬・武器の売買、マネーロンダリング、サイバー犯罪などの
脅威。
■大気・海洋汚染防止。
■HIV/AIDS、SARS などの伝染病のコントロールや予防。
これらの問題について、プノンペンで話し合われる予定である。
また、テロ行為、越境犯罪、海賊、環境保護、伝染病のほか、戦争と平和、急増する大
量破壊兵器の問題は、ASEAN 以外の国々の協力が必要である。
ASEAN 拡大外相会議では、ASEAN の外相がオーストラリア、カナダ、中国、EU、インド、
日本、韓国、ニュージーランド、ロシア、アメリカと話し合いを持ち、地域が直面する共
通の挑戦への協力体制が構築される予定である。
ASEAN 地域フォーラム(1993 年創設)では、参加国の間の信頼を構築するための対策を
強化し、テロ行為や朝鮮半島などのアジア太平洋地域における政治・安全保障問題につい
て話し合われる予定である。(後略) (2003年6月11日 ストレート・タイムズ)
ブルネイ沖での探査を中断=マレーシアが領有権主張で-仏トタル
【クアラルンプール16日AFP=時事】クアラルンプールで始まったアジア石油ガス会
議に出席したフランスの石油会社トタルのティエリー・デスマレスト会長兼最高経営責任
者(CEO)は16日、ブルネイ沖で獲得した石油・天然ガス田の鉱区における探査工事
を中断したことを明らかにした。
マレーシアが鉱区の領有権を主張しているためだが、同会長は「鉱区は法的にブルネイ
の領土だ。隣国の動きには驚いているが、円満に解決するのを望んでいる」と語った。
トタルは昨年、米国のアメラダ・ヘス、豪州のBHPビリトンと共同で同鉱区の探査権
を得た。しかし、今年に入りマレーシアが領有権を主張。トタルの探査チームをマレーシ
ア海軍が追い出したといい、数週間前から探査工事が中断している。
(2003年6月17日 時事速報シンガポール)
マレーシア 運輸相にチャン・コンチョイ財務副大臣を起用
マレーシアは、リン・リョンシク運輸相の辞任を受け、後任にチャン・コンチョイ財務
副大臣を起用すると発表した。リン氏は、過去17年間にわたり運輸相を務め、クラン港
を世界第11位の規模を誇るコンテナ港に築き上げた。
(2003年6月24日 ロイズリスト)
273
東南アジア・テロ対策センターが始動-マレーシア
米国の提唱で準備が進んでいた東南アジア・テロ対策センターが1日、マレーシアの行
政首都プトラジャヤで始動した。当面はプトラジャヤの外務省庁舎内で活動し、来年10
月にクアラルンプールに設置する恒久事務所に移転する予定。
このテロ対策センターは、昨年7月にパウエル米国務長官がマレーシアを訪問した際に
提唱。マハティール首相が「テロとの戦い」に協力した経緯を踏まえて準備が進んでいた。
米国と協力して設立する予定だったが、イスラム教徒が多数を占める国民感情に配慮して、
当面はマレーシア政府が提供する資金で運営する。
センターは国内外の軍や警察関係者らを対象としたテロ対策訓練やセミナー開催などを
予定しているが、テロに関する情報機関の役割は持たない予定。
(2003年7月2日 時事速報シンガポール)
テロリストの脱獄を受け、インドネシアの空港や港が厳戒態勢
インドネシア警察は15日、フィリピンの拘置施設から脱獄したインドネシアのイスラ
ム過激派「ジェマア・イスラミア」
(JI)のメンバー、ファトル・ロフマン・アルゴジ被
告がインドネシアに入国する恐れがあることから、国内の空港や港に厳戒態勢を敷いた。
アルゴジ被告は、同じ施設内に収監されていたフィリピンのイスラム武装組織「アブ・
サヤフ」メンバー2人も共に姿を消した。
インドネシア警察は、アルゴジ被告が東南アジアのほかの国に逃れる可能性もあるとし
ている。
(2003年7月16日 シッピング・タイムズ)
シンガポール 海上での不法入国、逮捕者数が増加
海上からの不法入国者取り締まりが進んでいる。シンガポール警察沿岸警備隊は今年に
入ってから 70 人を逮捕した。昨年通年の 49 人をすでに上回っている。
逮捕者増加の背景には、高速艇、高精度レーダー、暗視装置など高度な設備がある。沿
岸警備隊は北部プラウ・ウビン島沿岸に設けているフェンスをほかの沿岸にも設置する計
画だ。
一方、船員が巧妙な手口で当局の監視をくぐっているとみられ、不法入国を手助けする船
員の逮捕者数は減少傾向にある。2000 年の 16 人から、01 年に 4 人、02 年に 3 人に減少。
今年に入ってからこれまでに 3 人が逮捕された。
船員らは、シンガポール海域に忍び込んで不法入国者を置き去り、急いでマレーシア海域
に逃げ込むという手口を使っているという。
不法入国を手助けした者は 5 年の禁固刑、不法入国者 1 人当たり 3 回以上のむち打ち刑
が科される。ストレーツ・タイムズが 21 日伝えた。 (2003年7月22日 NNA)
274
アセアンは日本との関係を強化しなければならない(ビジネス・タイムズ社説)
アセアンとの新たな経済関係構築で当初中国に遅れをとっていた日本が、イニシアティブを回復
先週発表された日本-アセアン研究調査報告書には、「アセアンは経済統合を深め、促進
し、政府間の協力から地域の機関に変形する時を迎えた」と述べられた。その理由は、「ア
セアンの産業化と中国の浮上によって、最初のアセアン加盟国がかつて享有していた熟練
労働という利点が失われてしまった」からである。
シンガポール、マレーシア、タイは、どのようにして製造経済から知識経済へ変わって
いくべきか明確な展望があるが、アセアン全体では首尾一貫した産業変換方針がない。ま
た、同報告書では、10カ国間の真の経済統合を支えるのに必要な「アセアン全域にわた
る輸送システム」といったものがないとされた。これらの欠陥を考慮すると、どうして最
近日本(または中国)が根気強くアセアンにアプローチするのかという疑問が沸くが、こ
れは日本の場合、日本のアセアンへの投資が中国への投資の3倍に及ぶからである。
(2003年7月31日 ビジネス・タイムズ)
シンガポールの埋め立てに「待った」=マレーシアが海洋法裁に提訴
「シンガポール6日時事」マレーシアが国連海洋法裁判所(ITLOS)に対し、隣国シンガポ
ールの海岸線埋め立て工事の全面差し止めを要請したことが6日、明らかになった。国土
の狭いシンガポールは、埋め立てによって新たな開発用地を確保してきたが、マレーシア
は「両国を隔てるジョホール水道の環境、漁業や船舶航行に悪影響が生じている」と批判
していた。
ITLOS によると、マレーシアはこうした悪影響を主張した上で、正式な裁定がでるまでの
暫定措置として、マレーシア近海での埋め立てを全面的に差し止めるよう要請した。
1960年代に580平方キロだったシンガポールの国土面積は、現在680平方キロ
以上。埋め立てによって100平方キロの国土を新たにつくり出したことになる。
(2003年9月8日 時事速報シンガポール)
シンガポールの埋め立て裁判25日に聴聞開始
ドイツのハンブルクにある国際海洋法裁判所(ITLOS)は 25 日から 3 日間の日程で、マ
レーシアが提出したシンガポールによる同国周辺海域埋め立て事業の差し止め申し立てに
ついて聴聞会を開く。まず前日の 24 日にマレーシアとシンガポールの代表が宣誓し、25 日
以降は 21 人の海洋法専門家による意見聴取と審理を行う。判決は 1 週間以内に出る見込み
だ。 マレーシア政府は、シンガポール政府が同国トコン島などで進めている埋め立てに「新
しくできる陸地が国境線を侵すほか、工事が周辺海域の生態系や航海に悪影響を与える」
と強く反対。国際的な仲裁によって解決が図られるまで、工事を中止するようシンガポー
ルに要求している。
(2003年9月23日
275
NNA)
高裁、JI星トップに禁固1年8ヶ月
リアウ州高等裁判所は 17 日、テロ組織ジュマア・イスラミア(JI)のシンガポールを統
括するとされるカスタリ被告が控訴していたドゥマイ地方裁判所の禁固 1 年 8 カ月の判決
を支持する判決を下した。19 日付ジャカルタ・ポストが伝えた。 被告は旅券(パスポート)
など偽の身分証明書で入国しようとした入国管理法違反で 6 月末に有罪判決が下されてい
る。求刑は 2 年。 同被告は、一審で JI の指導者としての証拠が不十分とされたアブバカ
ール・バアシル被告(禁固 4 年で上訴中)の公判でも証言を行っているほか、シンガポー
ルの米軍施設を標的とするテロ計画があったことなどを明らかにしている。 ただ、検察側
は同被告をテロ関連で起訴する意向はないとしている。また、シンガポールとインドネシ
アには送還の協定がないため、シンガポールに移送する予定もないという。ただ、シンガ
ポール当局は、尋問のために警察を派遣するもようだ。
(2003年9月23日 NNA)
馬、星の埋め立て差し止め求める=国連海洋法廷での審理開始
マレーシアは25日、シンガポールでの海岸線埋め立て工事の全面差し止めを求めた国
連海洋法裁判所(ITLOS)での審理の初日、シンガポールが進める工事がマレーシア
領海内を侵犯する恐れがあると主張した。またマレーシアは、埋め立て工事が周辺の海の
環境に多大な悪影響を与えていると主張した。マレーシアは、シンガポールの埋め立て問
題を国際仲裁裁判所に持ち込む前に、マレーシアの権益を保護するために埋め立て工事の
差し止めをITLOSに求めていた。
マレーシア政府の法律チームは同日の審理で、シンガポール南西部トゥアス海岸沖での
埋め立て工事が、マレーシアが領有を主張する「ポイント20」と呼ばれる海域を侵犯し
ていると主張した。マレーシアは1979年以来、同海域の領有を主張しており、シンガ
ポール側と対立している。またマレーシアは、シンガポール北東部のテコン島周辺海域で
進められる工事が、マレーシアの海岸での大量の土砂蓄積につながるなど周辺の海洋およ
び沿岸の環境に打撃を与えていると専門家の調査結果を指摘した。
同問題でシンガポール側の交渉団を率いるのはトミー・コー無任所大使。シンガポール
は26日の審理で、マレーシアの主張に対する反論を提示する。
(2003年9月26日 時事速報シンガポール)
マレーシアと合同軍事演習29日まで
シンガポールとマレーシアの海軍が23~29日にかけてマラッカ海峡で合同軍事演習
を行っている。今年で15回目を迎える今回の合同演習はマレーシア側が主催した。両軍
から計7隻の軍艦が参加するほか、マレーシアの海上保安隊や戦闘機などが加わっている。
シンガポールの国防省は、
「合同演習は、両国軍の共同軍事活動を向上させる良い機会」と
の見解を示している。
(2003年9月26日 NNA)
276
馬、星のテコン島埋め立てに懸念示す=国際海洋法廷の審理最終日
マレーシアは27日、シンガポールでの海岸線埋め立て工事の全面差し止めを求めた国
連海洋法裁判所(ITLOS)での3日間にわたった審理の最終日、これまでの主張を一
部覆し、同国が最も懸念しているのはシンガポール北東部テコン島周辺海域の埋め立て工
事だと主張した。マレーシアは25日の審理初日には、テコン島に加え、シンガポール南
西部トゥアス海岸沖での埋め立て工事が、周辺の環境に深刻な影響を与えているのに加え、
マレーシアの領海を侵犯していると主張していたが、27日の審理最終日ではトゥアスで
の埋め立て工事については触れなかった。マレーシアは、シンガポールの埋め立て問題を
国際仲裁裁判所に持ち込む前に、マレーシアの権益保護を理由に埋め立て工事の差し止め
をITLOSに求めている。マレーシアは27日の審理では、テコン島周辺海域の「エリ
アD」と呼ばれる海域での埋め立て工事を最低でも、埋め立て工事の是非を判断する国際
仲裁裁判所での判断が下されるまで一時中止するよう求めた。一方、シンガポール側の法
律団を率いるトミー・コー無任所大使は、シンガポールが今後も埋め立て工事を継続する
方針を強調した上で、マレーシアがエリアDでの工事のみを懸念するのであれば、1年以
内に終了予定の両国の環境共同調査が終わるまではシンガポールとしては「取り返しのつ
かない行動」は取らないと言明した。ITLOSは10月8日に、埋め立て工事差し止め
に関する判断を下す予定。
(2003年9月29日 時事速報シンガポール)
マレーシア、埋め立て中止で再要求も
政府がトコン島などでの埋め立て工事を継続していることについてマレーシア政府は、
近く強硬に抗議することを検討している。同国のマハティール首相が 5 日に明らかにした。
国際海洋法裁判所(ITLOS)は現在、マレーシアが提出した埋め立て中止の申し立てを審理
中。マレーシアのマレー語紙ブリタ・ハリアンはこのほど、
「シンガポールは ITLOS の裁定
が出ていないにもかかわらず工事を続行中」と報じた。
マハティール首相は「シンガポールは埋め立て中止命令が出た場合に、その時点で工事
を中止する考えのようだ」と不快感を表明している。ITLOS の裁定は 8 日に出る見込みだ。
一方、マレーシアのサイドハミド外相は「裁定前に工事を止めるすべはない」とコメント
した。
(2003年10月7日 NNA)
前途多難な安保共同体=崇高な理念の前に戦火の現実-ASEAN
東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議が7日打ち出した「安保共同体」創設構想
は、新たな地域機構への脱皮を目指すASEANの将来像の骨格を成すものだ。その背景
には、2年前の米同時テロを契機に激変した国際秩序や安全保障体制への対応に加え、民
主主義や人権といった「大国的価値観」に基づく域外からの介入を阻止する思惑もある。
しかしその実現には、
「全会一致」「内政不干渉」というASEANの2大原則や、域内
各国が抱える問題が大きな壁として立ちはだかり、構想が単なる画餅(がべい)に終わる
277
恐れもある。
「ASEANの問題を、なぜ自分たちで解決できないのか。これが出発点だ」-。議長
国インドネシアの外務省高官は「安保共同体」提議の発想をこう説明する。
◇続発するテロに無力
ASEANは1967年、反共への結束を原点に発足し、冷戦終結を経て99年のカン
ボジア加盟で10カ国体制が成立した。しかし、拘束力のない緩やかな枠組みのため、域
内の問題の解決に手間取り、国際社会から「無力なASEAN」とみられ、近年は批判や
介入の強化を招いている。
99年の東ティモール独立問題でインドネシアは国際社会から非難の集中砲火を浴びた
ほか、ミャンマーの民主化問題や域内で続発する爆弾テロに有効な対応策を打ち出せてい
ないのが実情だ。
◇平和維持軍創設も視野
このため、安保共同体構想が目指すのは、域内紛争の平和的解決や反テロ、国際犯罪へ
の共同対応など、ASEAN独力による問題処理機能の強化だ。構想を主導してきたイン
ドネシアの外交筋は、「将来のASEAN平和維持軍創設も視野に入れている」と並々なら
ぬ意欲を示す。
しかし域内を見渡すと、フィリピン政府とイスラム過激組織モロ・イスラム解放戦線(M
ILF)の衝突や、インドネシア・ナングロアチェ州独立をめぐる独立派ゲリラの紛争な
ど、戦火が絶えない現実がある。
2020年の完成を目指す安保共同体の崇高な理念の結実には、ASEANが乗り越え
なければならないハードルは、高く幾重にもある。
(2003年10月8日 時事速報シンガポール)
サバ東海岸に特殊部隊派遣=誘拐捜査を支援-マレーシア
マレーシアのナジブ国防相は7日、ボルネオ島サバ州の「ボルネオ・パラダイス・リゾ
ート」で誘拐事件が発生したことを踏まえ、新たに特殊部隊と歩兵大隊を同州東海岸に展
開したことを明らかにした。捜査支援を拡大することが目的。国営ベルナマ通信が伝えた。
5日午後10時半ごろ、海賊と見られる10人の武装集団が快速艇でこのリゾートを急
襲し、インドネシア人とフィリピン人の従業員各3人の計6人を誘拐した。警察は国軍な
どの協力で海と空から捜査を継続しているが、7日午後時点では新たな発見はないもよう。
またAFP通信によると、犯人からの接触もないという。
ボルネオ島周辺では、シパダン島で2000年4月にフィリピンのイスラム過激派「ア
ブサヤフ」による誘拐事件が発生。同年9月にもアブサヤフの犯行と見られる事件がパン
ダナン島で起きている。しかしノリアン・メイ警察長官は6日、今回の事件について、「こ
の地域の海賊」の身代金目当ての犯行との見方を示し、アブサヤフによる犯行との見方を
否定した。ただフィリピン南部の軍幹部は7日、
「(アブサヤフのメンバーが犯人である)
278
可能性を否定することもできない」と述べた。
(2003年10月8日 時事速報シンガポール)
大使館員が現地視察、サバの外国人拉致
サバ州ラハッドダトゥのリゾート施設で 5 日に起きた外国人労働者拉致事件を調査する
ため、フィリピンとインドネシアの外交関係者が 12 日に現地入りした。この事件ではフィ
リピン人 3 人とインドネシア人 3 人が被害に遭っている。
拉致現場となった「ボルネオ・パラダイス・エコリゾート」に到着したのは在マレーシ
ア・フィリピン大使館の入国事務担当官と在マレーシア・インドネシア大使館の上級連絡
官。2 人の担当官は警察幹部に伴われて現地を視察した。
サバ州警察のラムリ長官は「捜査は継続中だが、現在のところ進展はない」としている。
(2003年10月14日
NNA)
シンガポールの国土拡大、当面容認-海洋法裁が差し止め請求退ける
国連海洋法裁判所(ITLOS)は8日、シンガポールの海岸線埋め立て工事に対する
マレーシアの差し止め請求を退けた。国土の狭いシンガポールは埋め立てによって新たな
開発用地を確保してきたが、隣国のマレーシアが工事による環境などへの悪影響を理由に
工事に反対。国際仲裁裁判の手続きを進めるとともに、正式な裁定が出るまでの間の工事
差し止めをITLOSに要請していた。
ITLOSは「マレーシアの権利を侵害する形や、環境に深刻な悪影響を及ぼす手法で
の埋め立ての回避」をシンガポールに求めるにとどまり、工事差し止め命令は出さなかっ
た。しかし、埋め立てが環境に悪影響を及ぼす可能性は排除できないとも指摘しており、
今後シンガポール側は工事を進めるに当たり慎重な対応を求められることになりそうだ。
ITLOSはまた、両国に対し、独立した専門家委員会を設け、1年以内に埋め立ての影
響に関する調査を実施するよう求めた。
マレーシアは、シンガポールの埋め立て工事によって、両国間を隔てるジョホール水道
の環境が悪化しており、漁業や船舶航行にも悪影響が出ていると主張していた。1960
年代には約580平方キロだったシンガポールの国土面積は、すでに680平方キロ以上
に拡大しており、埋め立てで100平方キロの国土を作り出したことになる。同国は現在
もジョホール水道両端に位置するテコン島とトゥアスで大規模な埋め立て工事を進めてお
り、日本の建設会社も工事に参加している。
(2003年10月9日 時事速報シンガポール)
犯人は国内に潜伏、サバの拉致事件
ノリアン・マイ警察長官は 8 日、サバ州ラハッドダトゥ付近のリゾート地で外国人 6 人
を拉致した犯人グループが、まだ国内にいるとの見方を示した。 事件現場を視察したノリ
279
アン長官は記者会見で、犯人グループにはマレーシア人と外国人の両方がいる可能性があ
るとの見方を表明。フィリピンの過激派組織が関与しているかどうかについてはコメント
を拒否した。また、警察は脱出した警備員 1 人を保護しており、捜査への協力を求めると
いう。 モハマド・シャフィー副国防相は同日、アブサヤフなどフィリピンの組織は事件に
関係していないとのコメントを出している。
(2003年10月9日 NNA)
シンガポールは海岸線埋め立て工事を中止すべき=マレーシア首相
マレーシアのマハティール首相は8日夜、国連海洋法裁判所(ITLOS)で同日、シ
ンガポールの海岸線埋め立て工事に対するマレーシアの差し止め請求が退けられたことに
ついて、周辺の環境悪化を食い止めるためにもシンガポールは埋め立て工事を中止するべ
きだとする同国の姿勢を改めて強調した。マレーシアは、埋め立て工事が環境などに影響
を与えているとして、国際仲裁裁判で同問題の解決を図る手続きを進めているが、同裁判
の裁定がでるまでの間、工事差し止めをITLOSに求めていた。
同首相は、シンガポールが埋め立て工事を続行すれば、周辺環境へのダメージが取り返
しのつかないものになる恐れがあると述べ、仲裁裁判の裁定が出るまでは工事を当面中止
するべきだと主張した。ITLOSは同日、マレーシアの工事差し止め請求を退けたもの
の、「マレーシアの権利を侵害する形や、環境に深刻な悪影響を及ぼす手法での埋め立ての
回避」をシンガポールに求め、両国に工事が周辺環境に与える影響を調べるための独立し
た専門家委員会を設置するよう命じた。
(2003年10月9日 時事速報シンガポール)
埋め立て問題での裁定、受け入れを表明
国際海洋法裁判所(ITLOS)がシンガポールの埋め立て継続を条件付きながら認めたこと
に対し、アブドラ副首相は 9 日、受け入れる見解を示した。
副首相は ITLOS 裁定が、
「マレーシアの権益に損害を及ぼさないこと」など埋め立て継続
に条件を付けたことにより、シンガポール側も制約を受けると指摘。埋め立てを監視する
専門家チームを早急に外務省内に設置するとした。
サイドハミド外相も、付帯条件によりシンガポールはマレーシアを無視して埋め立てを
続けられなくなったとコメント。裁定はマレーシアの勝利との認識を示し、シンガポール
に裁定順守を求めた。
(2003年10月13日 NNA)
東南アジア諸国における安全保障
(テロリズムと海賊行為によって、東南アジア諸国連合の首脳陣は、東南アジア諸国にお
ける安全保障の枠組みの早急な創設を呼びかける。
)
東南アジア諸国連合(アセアン)の首脳陣は、昨日域内における「安全保障共同体」の創
設を通して、テロリズムや海賊行為や他の国際犯罪を阻止するためのアセアン諸国の連携
を強化することを誓った。
280
首脳会談後に、国境紛争の解決や政治的協力を強化する枠組み作りに向けての議長声明が
発表された。
インドネシアは、来る2004年に、東南アジアの安全保障について具体的な行動計画
を策定する役目を任されている。アセアン首脳陣は、2004年のラオスの首都、ビエン
チャンで開かれるアセアン・サミットで、この件について、十分に進展させるよう計画し
ている。
ある情報筋によると、この計画を促進するには、アセアン諸国の経済共同体との連携が
不可欠であり、結果として、投資家へのアセアン諸国の魅力を改善することになる。
インドネシア政府のアドバイザーであるリザル・マラランジェン氏は次のように説明し
た。「東南アジアに政治体制の違いや、不安定な安全保障の情勢があればあるほど、ビジネ
スは減る。投資家にとっては、東南アジアが安全になれば、魅力が増す。だから、単に経
済的に連携するだけで、共通の安全保障問題を議論しないのでは不十分である。
」
インドネシアの外務省のスポークスマン、マルティ・ナタレガワ氏は、安全保障問題は、
アセアン諸国が過去数年の間、経済の密接な繋がりを組み立てるなか、提議されない状態
にあったと同意した。また、氏は次のように語った。「安全保障共同体は、東南アジアでの
紛争問題の解決のための独自の選択肢を与え、共通の安全保障問題を解決するための協力
を促進するであろう。このような安全保障共同体の動きが、いずれは、東南アジアは紛争
の多い地域だという認識を一掃する。」
アセアン首脳にとって、テロリズムがひとつの明らかな共通の問題であるなか、安全保
障共同体で焦点となる他の国際犯罪として、海賊行為や人と物の密輸の問題についても議
論された。海賊行為は、東南アジア諸国にとって、まさに最大の不安材料である。
ロンドンに拠点を置く国際海事機関によると、インドネシア、シンガポール、マレーシ
アの領海で、今年の1月から6月までに、108件の海賊による襲撃事件が発生している。
その合計は、今年の上半期の全世界での234件の海賊行為の半数以上を占めている。イ
ンドネシア、シンガポール、マレーシアの3国は、過去において、海賊の活動を阻止しよ
うと共同で対応したが、インドネシア政府の高官が言うところによると、アセアン安全保
障共同体の枠組みを通して、さらにいろんなことが、可能になるとのことです。
密輸は、インドネシアにとって重大な問題である。インドネシアには、マレーシアとの
間に、長い容易に出入りのできる国土の境界線があり、巡視の行き届いていない多数の小
さな島々で密輸は多発している。
他のアセアン首脳陣は、安全保障共同体案の大まかな基本方針に合意しているが、次回
のアセアン・サミット前までに多くのことが決められなければならない。
ある高官は次のように語った。
「安全保障共同体の活動範囲についてはまだ名案を案出す
る必要があり、計画の詳細について、かなり細かく議論することは、時期尚早である。
アセアン各国がこの問題について検討するのに、それぞれ独自の優先事項があり、この行
動計画を考案する政府高官による特別委員会が、年内にアセアン各国の意見を考慮しなけ
281
ればならない。」
(2003年10月9日 ストレート・タイムズ)
身代金の支払い拒否、サバ誘拐事件
今月 5 日にサバ州のリゾート施設で外国人 6 人が誘拐された事件で、犯人グループが施
設のオーナーに身代金 1,000 万リンギを要求していたことが 20 日、明らかにした。
各紙が報じた。この問題でチョー・チーヘン副内相は政府が身代金を支払う可能性につい
て、「犯罪行為に妥協するつもりはない」と否定。
「ほかの犯罪と同様に対処する」などと
語った。
事件現場は、州都コタキナバルから 300 キロメートルほど離れたラハッドダトゥ近郊の
ボルネオ・パラダイス・エコファーム。副内相は、連れ去られたフィリピン人とインドネ
シア人それぞれ 3 人の無事は確認しているとした。 (2003年10月22日 NNA)
海事保安・船員政策など協力プロジェクト採択へ
日・アセアン交通大臣会合
日本とASEAN(東南アジア諸国連合)10ヶ国は25日、「第一回 日・アセアン交
通大臣会合」をミャンマー(ヤンゴン)で開催し、交通分野における日・アセアンの連携
の基本枠組みと、交通分野の具体的な協力プロジェクトを決定する。海上交通セキュリテ
ィー協力や船員政策、日・アセアン物流ネットワーク協力などのプロジェクトが採択され
る予定。
今会合で採択される予定の海上交通セキュリティー協力プロジェクトでは、来年7月に
発効する海事保安対策の改正SOLAS(海上人命安全条約)に対応するための情報交換
の場を設ける。途上国による改正SOLAS条約への対応が困難視されるなか、日本は改
正SOLASに関するセミナーなどを開催して途上国の支援を行う方針。船員政策に関す
るプロジェクトでは、フィリピンなど世界的な船員供給国の多いアセアン諸国と海運国の
日本との間で船員政策に関する情報交換の場を設置。アジアで船員政策に関する共通理解
を形成し、国際海事機関(IMO)など国際会議の場に臨む体制を整えるのが目的。
日・アセアン物流ネットワーク改善計画プロジェクトは、アジア域内での効率的な物流
システムの構築を目指すもので、当面はアジア域内の物流効率化の阻害要因などを調査し、
将来的に物流ネットワーク改善計画を策定する。
大臣会合で採択される予定の協力プロジェクトにはそのほか、テクノ・スーパー・ライナ
ー(TSL)、メガフロート(大型浮体式海洋構造物)の利用促進プロジェクトなどが候補
に残っており、現在各国間で調整中。
会合にはアセアン諸国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、
ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)の交通大臣が参加。日本から
は、国土交通省の鶴保政務官、中本大臣官房審議官らが出席する。
(2003年10月22日
282
日刊海事通信)
マレーシア誘拐事件、人質5人殺害か
今月 5 日にマレーシア・サバ州のリゾートで誘拐された外国人 6 人のうち、5 人が殺害さ
れたもようだ。 フィリピン国家警察が 28 日発表したところによると、このことは誘拐犯
グループから逃げ出すことに成功した人質の 1 人、インドネシア人のノノイ・アルクシン
氏の証言で明らかになった。
アルクシン氏は 27 日午後、フィリピンとマレーシアの国境近く、タウィタウィ州ラング
ヤンで当局によって保護された。同氏の話では、残りの 5 人は同日、誘拐犯と警察の交戦
の最中に殺害されたという。またロイター通信によると、身代金の釣り上げに失敗したの
も要因の一つとされる。
先の報道によれば、人質の中にはフィリピン人 3 人とインドネシア人 3 人が含まれてい
た。 警察は 28 日午後時点、依然、誘拐犯を捜索中という。
(2003年10月29日
NNA)
インドネシアで再びテロを計画=マレーシア国籍のアザハリ容疑者
インドネシアのダイ国家警察長官は、バリ島で起きた爆弾テロなどに関与した疑いで指
名手配しているマレーシア国籍のイスラム過激派メンバー、アザハリ容疑者(42)がイ
ンドネシア国内で別のテロ事件を計画しているとみて捜査していることを明らかにした。
同国警察はジャカルタで起きた米系ホテル爆弾テロ事件の容疑者2人を逮捕。この2人に
対する取り調べからアザハリ容疑者が新たなテロを計画していることが判明した。同容疑
者は2人と行動をともにしていたが、警察の動きを察知し爆弾などを持って逃亡した。
アザハリ容疑者は、ジョホール州のマレーシア技術大学の元講師。昨年10月のバリ島爆
弾テロと今年8月にジャカルタのホテルで発生した爆破事件の両方に関与したとされてい
る。
(2003年11月3日 時事速報シンガポール)
タイのパイプライン計画に日本企業が関心=プロンミン・エネルギ―相
タイのプロンミン・エネルギ―相は5日、記者団に対し、同国を横断する石油パイプラ
インの敷設計画に三井物産や伊藤忠商事が主導する建設会社や商社が関心を示しているこ
とを明らかにした。また、新日本製鉄やトーメンのほか、日本の経済産業省も興味を示し
ているという。
計画は、混雑するマラッカ海峡を迂回し、北東アジアへの輸送時間を最大で5日間短縮
することを目指しており、事業規模は7億2000万ドル。当初の輸送能力は日量で最大
200万バレルとなる予定。
中東産原油の輸出経由地として巨大な極東市場への供給を図るため、総延長が240キ
ロに上る6車線の道路と線路を建設し、石油・ガスパイプラインを並行して敷設する計画
だ。同相は、日本との間でプロジェクトを協議するための会合が今月中に開催され、5ヶ
月以内に計画を具体化させるとの見通しを明らかにした。また同相は、シンガポール政府
283
がプロジェクトに参加したいとの意向を伝えてきたことを明らかにした。
(2003年11月6日 時事速報シンガポール)
埋め立て工事の影響調査で委員会メンバーの人選を協議へ=星・馬
シンガポールのトミー・コー無任所大使はこのほど、CNNテレビとのインタビューで、
同国とマレーシアの政府幹部が今月20-22日にクアランプールで、シンガポール領内
の海岸線埋め立て工事が、マレーシアの環境に与える影響を調査する独立した専門家委員
会メンバーの人選について協議することを明らかにした。国連海洋法裁判所(ITLOS)
は先月8日、シンガポールの海岸線埋め立て工事に対するマレーシアの差し止め請求を退
けたが、シンガポール領内のテコン島やトゥアス沖の埋め立て工事が与える影響を調査す
る独立委員会の設置を命じた。コー無任所大使は、同裁判でシンガポール側法律チームの
代表を務めていた。
独立専門家委員会は、埋め立て工事の推移を監視し、1年以内に工事が環境被害をもた
らしているかどうかの報告をまとめる。また、同委員会は来年1月9日には、テコン島南
岸の「エリアD」と呼ばれる海域での埋め立て工事に関する中間報告書を提出することが
義務付けられている。マレーシアはITLOSでは、埋め立て工事の差し止め命令を獲得
できなかったが、今後国際仲裁裁判でシンガポールに埋め立て工事を行う権利があるかど
うかについて争う予定。
(2003年11月7日 時事速報シンガポール)
海軍産業の国際展示会・会議「IMDEX・UDTアジア」開催
シンガポール・エキスポで11日から14日まで、海軍産業の展示会・会議「IMDE
Xアジア」と、海中警備技術展示会・会議「UDTアジア」が開催される。両展示会・会
議には、シンガポールをはじめ、フランス、英国など30カ国から海軍関係の42の代表
団が参加。23カ国の海軍関連産業の企業200社以上が展示を行う。
また同展示会開催期間中には、10カ国の海軍艦船16隻がチャンギ海軍基地で展示さ
れる予定。IMDEXアジアは今年5月に開催の予定だったが、新型肺炎流行の影響で延
期され、今年はUDTアジアと同時開催されることになった。
海軍アナリストのロビン・カイル氏は10日の展示会開幕前の会見で、アジア太平洋地
域での海軍艦船の新たな建造需要は今年70億米ドルに達し、向こう6年以内にその倍の
年間140億米ドルへと急成長するとの予測を示した。同氏は、中国、インド、フィリピ
ンを中心に海軍艦船建造需要が拡大し、海軍市場としてのアジア太平洋地域の重要度は、
2006-07年には欧州を上回り、09年には米国をも上回ると指摘した。
(2003年11月11日
時事速報シンガポール)
パイプライン敷設、欧州企業が名乗り
国家石油公社エクスプロレーション(PNOC―EC)が主導するバタンガス州~マニラ首都
284
圏間の天然ガス・パイプライン敷設事業(バットマン 1)に、オランダとチェコの企業が新
たに興味を示したもようだ。エネルギー省のデディオス次官が明らかにした。
10 日付スター紙によると、デディオス次官は、イリハンのガス・パイプラインを敷設し
たオランダ企業ナカップ(Nacap)とチェコ・ガス協会所属の業者らがバットマン 1 への参
加の意思を伝えてきたと述べた。
これまでに同事業に興味を示している企業には、ベルギーのトラクトベル(Tractebel)
、
マレーシアの国営石油会社ペトロナス、英国のアドバンティカ(Advantica)がある。
PNOC―EC は、同事業を 2007 年までに完工させる予定。
ビジネスワールド紙によると、PNOC―EC は、バットマン 1 事業の予算 1 億米ドルのうち
65%を民間投資で賄う方針を明らかにした。 同社は、同事業において少数派株主の立場に
徹すると明言。保有株式は、事業工程を管理できる最小限の 35%で十分との見解を示した。
■ペトロナスと採掘調査
一方、インクワイラー紙によれば、PNOC―EC はペトロナスと合弁でミンドロ島沖の石油・
ガス採掘調査を行うことで合意したもようだ。開始時期は明らかになっていない。
採掘作業についてはこれまでに、米国のユノカル、英国のラスモ(Lasmo)
、タイ国営の資
源開発会社 PTT エクスプロレーション&プロダクション、豪州のアミティ・オイル
(AmityOil)とサントス、インドネシアのメドコ(Medco)
、カナダの GM インターナショナ
ルなどに打診が行われたもよう。
(2003年11月11日 NNA)
星馬交互に仲裁裁判、埋め立て工事
シンガポールがマレーシアとの国境で進めている埋め立て工事について、両国は 22 日、
仲裁裁判を交互に開くことなどで合意したとの共同声明を発表した。両国間の緊張関係が
緩み、問題解決の方向へ歩み始めた。
両国の政府高官は 20 日から 3 日間、マレーシアの新行政都市プトラジャヤで、国際海洋
法裁判所(ITLOS、ドイツ・ハンブルク)命令の実施方法などについて話し合った。会合の
結果、仲裁裁判をシンガポールとマレーシアで交互に開くほか、◇専門家による独立調査
団を設置◇ジョホール海峡に与える工事の影響を調査◇独立調査団を支援するコンサルタ
ントを任命◇独立調査団と両国政府の意思疎通を図る連絡官を任命――することで合意し
た。
工事の影響とリスクについて定期的に意見交換を図るべきだとの ITLOS 命令について両
国は積極的に従うと表明した。また ITLOS 命令の施行と矛盾する行動を避けるとの表明も
示した。
シンガポールは北東部にあるテコン島と西部トゥアス島で埋め立て工事を進めている。
これに対してマレーシアが、領海侵犯や環境破壊などにあたるとして工事の即時停止を
ITLOS に請求した。ITLOS は先月 8 日、シンガポールの工事続行を認める判定を下すととも
に、両国に対し、専門家による独立パネルを設置するよう命令していた。
285
(2003年11月24日
NNA)
埋め立て工事の環境調査委設置交渉が進展=シンガポールとマレーシア
シンガポール領内の海岸線埋め立て工事がマレーシアの環境に与える影響を調査する独
立専門家委員会の設置に向け協議を行っていた両国政府代表は、22日に発表した共同声
明で、話し合いが「建設的かつ友好的に」行われ、同工事の環境への影響について両国が
定期的に情報交換することで合意したことを明らかにした。国連海洋法裁判所(ITLO
S)は先月8日、埋め立て工事の即時中止を求めていたマレーシアの訴えを退け、同工事
が与える影響を調査する独立した委員会の設置を命じていた。
今回の協議で両国は、専門家委員会のメンバー4人の人選について、両国がそれぞれ2
人のメンバーを指名し、両国がそれぞれ指名した専門家1人が共同委員長に就任すること
で合意した。調査結果に関する判断は、全委員のコンセンサスによって決定される。また、
埋め立て工事の影響調査のコンサルタントとして、デンマークのDHIが指名された。両
国代表は来月に再びマレーシアで会い、埋め立て工事が航路や海洋環境に与える影響など、
調査対象に加える項目について最終的な協議を行う予定。
(2003年11月24日
時事速報シンガポール)
2週間で密入国者11人を検挙-ジョホールから泳いで侵入試みる
シンガポールの海岸で過去2週間に3件の密入国未遂事件が発生し、11人の密入国者
が検挙された。11人はいずれも、マレーシア・ジョホールの海岸からシンガポールのセ
ンバワン海岸までの2キロを泳いで、シンガポールへの密入国を試みたが、500メート
ル手前でシンガポール警察の夜間監視カメラにとらえられ、警察のパトロール船によって
拘束された。
警察によると、今月8日にミャンマー人3人と48歳の中国人女性が検挙され、19日
にはミャンマー人4人、22日にミャンマー人3人が検挙された。11人は17歳-48
歳で、いずれも身分証明書を所持していなかった。ミャンマー人10人は建設労働者、中
国人女性はホステスだった。仲介人にジョホールからシンガポールに渡るボート代480
シンガポールドル(Sドル)を支払ったが、直前になってボートはなく、泳いで渡らなけ
ればならないと告げられ、浮き輪とライフジャケットを渡されたという。10人の男性は
不法入国の罪で1カ月の禁固刑とむち打ち4回、女性は1カ月の禁固刑と2000Sドル
の罰金支払いを言い渡された。同国では今年1月-11月に、海岸からの密入国者が10
8人検挙されており、前年同期の29人から大幅に増加している。
(2003年12月24日
時事速報シンガポール)
ASEAN治安会議、タイで開催
日本、中国、韓国と東南アジア諸国連合(ASEAN)による「越境犯罪に関するAS
286
EAN+3閣僚会議」がタイで今週開催される。
テロやマネー・ローダリングが会議の主題になるほか、現在進行中の薬物密輸、人身売
買、武器密輸、海賊、国際経済犯罪、コンピュータ犯罪に対するASEANのアクション・
プランが話し合われる予定。
ASEAN治安担当閣僚会議は年に一度開催されており、今回で4回目。
昨年7月にインドネシアが先頭になって提案されたアセアン・セキュリティ・コミュニテ
ィについても話し合われる。会議後には共同声明が出される予定。
(2004年1月8日 ストレート・タイムズ)
イスラム過激派2人を逮捕―シンガポール
【シンガポール14日時事】シンガポール政府は14日、治安維持法の下でイスラム過激
派組織のメンバー2人を逮捕、12人に出国禁止措置を適用したと発表した。逮捕された
のは先にフィリピンで射殺されたジェマ・イスラミア(JI)幹部アルゴジの義父で、J
Iメンバーのホスネイ・アウィと、モロ・イスラム開放戦線(MILF)メンバーでフィ
リピン軍との戦闘に参加していたアラフディーン・アブドラの両容疑者。
出国禁止になった12人のうち10人はJI、2人はMILFのメンバーで、テロの目
標の監視、物資の調達などを担当していた。今回逮捕された2人を含め、現在シンガポー
ルでは、JI、MILFのテロ活動に関連して37人が治安維持法の下で拘束されている。
今回はこのほか、アルカイダの信奉者で、アルカイダ関係者の活動を支援した男1人が、
一時拘束の後に出国禁止措置となった。
(2004年1月15日 時事速報シンガポール)
首謀者はマレーシア国籍の元教授 ジャカルタの米系ホテル爆弾テロ
【クアラルンプール14日時事】昨年8月にインドネシア・ジャカルタの米系高級ホテル
「JWマリオット」で起きた爆弾テロに関与した疑いで逮捕されたトヒル容疑者が別事件
の証人としてインドネシアの裁判所に出廷し、マレーシア国籍の元大学教授、アザハリ・
フシン容疑者=指名手配済み=がジャカルタ爆弾テロの首謀者だと証言した。AFP通信
が現地の報道として伝えた。
ジャカルタのホテル爆弾テロは、インドネシア人11人とオランダ人銀行員が死亡。こ
のテロ事件と、約200人が死亡したバリ島爆弾テロは、東南アジアのイスラム過激派組
織ジェマ・イスラミア(JI)の幹部であるアザハリ容疑者が主要な役割を果たしたとさ
れるが、マレーシア警察当局は「JIの指導者は常にインドネシア人だ。アザハリがリー
ダーになる可能性はない」との認識を示していた。
トヒル容疑者は昨年10月末、ジャカルタ爆弾テロの標的確定や前線基地となる借家を
準備したほか、犯行に使用された自爆テロ車両を用意した疑いで、同じく犯行に関与した
イスマイル容疑者とともに逮捕された。逮捕時には自殺用の爆薬を所持していたという。
爆弾テロに深く関与していたとされ、裁判証言の信憑性は極めて高い。
287
証言によると、マレーシア技術科学大学元教授で爆発物専門家のアザハリ容疑者と、同
じくマレーシア国籍で宗教学校教師ノルディン・モハマド・トップ容疑者=指名手配済み
=は犯行前、「インドネシアにある米国の資産を爆破する」と話し合っていた。事件後、2
人は逃亡し、インドネシア国内に潜伏しているという。
マレーシア警察も、テロに関与した疑いでアザハリ、ノルディン両容疑者ら6人に対し
て一人当たり5万リンギの賞金をかけて行方を追っている。
(2004年1月15日 時事速報シンガポール)
国際テロ研究所がオープン=データベースを構築へ
シンガポールに20日、国際テロの手法や目的を研究する研究機関「政治暴力・テロ研
究国際センター」が正式オープンした。
同センターの所長は、テロ・アナリストのロハン・グナラトナ博士。同博士のほかセン
ターには、米国、欧州、アジアの軍・諜報部関係者、宗教研究者など20-30代の15
人のリサーチャーが所属している。同センターでは、元テロリストのインタビューや紛争
地帯での実地調査などによるテロ関係のデータを分析し、アジア地域のテロ事件やテロリ
ストに関する一大データベースを構築する計画。
同センターにはすでに、アフガニスタンのアルカイダのキャンプで押収された250以
上のビデオのコレクションがある。また東南アジアのイスラム過激派組織「ジェマ・イス
ラミア(JI)
」の組織内規律の英訳も完成させている。
(2004年2月23日 時事速報シンガポール)
288
平成15年度 日本海難防止協会シンガポール連絡事務所 業務実績
月日
項目
4月1日
日アセアン運輸協議チームマレーシア訪問同行
4月2日
PSAコンテナターミナル視察
4月9日
海事港湾庁政策局との責任分担制度に関する打ち合わせ
4月14~18日
所長代理東京出張
4月22~23日
マラッカ海峡代替経路調査(タイ・ハジャイ)
4月28日
タンカー船主関係団体との情報交換
5月5日
シンガポール海事港湾庁主催セキュリティセミナー出席
クラ地峡問題に関する情報収集(タイ)
5月12~17日
海保海賊対策セミナー準備支援(マレーシア)
5月14日
マレーシア海事局との責任分担制度に関する意見交換
5月16日
マ協金子専務マレーシア訪問同行
5月19日
ENC署名式打ち合わせのためマレーシア海軍水路部訪問
マ協金子専務インドネシア訪問同行
5月21~23日
所長東京出張
5月24~25日
ベトナム・ブンタウ港調査
6月3~5日
インドネシア海軍水路部とのENC署名式打ち合わせ、アセ
アンオスパー担当者との打ち合わせ
6月9日
シンガポール海事港湾庁水路部とのENC署名式調整
6月10日
マレーシア環境省アセアンオスパー担当者との打ち合わせ
6月12日
シンガポール海事港湾庁政策局国際課長との責任分担に関す
る意見交換
6月19日
シンガポール海運協会主催「プレステージ号以降のイニシア
ティブ」セミナー出席
6月23日
シンガポール警察沿岸警備隊との情報交換
6月30日
タイ海事局とアセアンオスパー打ち合わせ
7月8日
マレーシア水路部展覧会出席
7月9~10日
海上保安庁・マレーシア海上保安セミナー出席
7月11日
日本財団内海課長ジュロン造船所、POCC 視察同行
7月14~16日
カンボジア・ミャンマー・ベトナム(CMV)調査
(ベトナム)
7月22~23日
第28回TTEG会議出席
7月25日
国交省稲葉国際業務課長シンガポール運輸省訪問同行
7月28~30日
インドネシア海洋漁業省・環境省訪問
8月4~12日
所長代理日本出張
8月4~9日
PEMSEA 会議出席
8月4日
日本財団長光常務・山田部長ビンタン島設標船基地予定地視
察同行
8月5日
日本財団長光常務・山田部長シンガポール海事港湾庁リュイ
新長官訪問同行
8月6日
日本財団長光常務・山田部長マレーシア海事局ラジャマリッ
ク局長訪問同行
8月11日
海事国際動向委員会でのプレゼンテーション(東京)
8月14日
在シンガポール日系報道関係者との情報交換
8月18~19日
ラオス海賊対策担当官との情報交換
8月21~23日
所長東京出張
シンガポール海事港湾庁政策局国際課長と利用者負担問題に
係る意見交換
8月27~29日
インドネシア・コーストガード・セミナー出席(ジャカルタ)
9月2日~5日
回転基金運営委員会出席(プトラジャヤ)
9月10日
海事関係者との情報交換会
9月11日
海事港湾庁リー国際政策課長との利用者負担問題に関する意
見交換
9月16日
インドネシア JICA 専門家との今後のコースガイド設立、支援
に向けた意見交換(ジャカルタ)
9月29日~30日
海上保安庁ファルコンしょう戒飛行支援(タイ)
10月1日
マラッカ・シンガポール海峡電子海図発行プロジェクト調査
業務(マレーシア)
10月7~9日
ECDIS 会議出席
10月10日
設標船の引渡し式出席・支援(インドネシア・バタム島)
10月18~25日
CMV プロジェクト油流出事故対応研修(横須賀)
10月20~21日
トルコ海峡 VTS 調査(イスタンブール)
10月22日
シンガポール海事港湾庁・JICA 航路標識研修閉会式出席
11月4日
マレーシア国家安全保障局訪問
11月10~11日
ベラワン港調査(メダン)
11月18日
PEMSEAタイランド湾会議出席(バンコク)
11月19日
第6回世界閉鎖性海域環境保全会議出席(バンコク)
11月27日
中国港湾事情調査(張家港)
12月1~5日
海保・シンガポール警察沿岸警備隊海賊対策合同訓練支援
12月1日
インタータンコ主催セミナー講演
12月3日
ITOPF(International Tanker Owners Pollution Federation)
セミナー出席
12月8~10日
東アジアの持続可能な開発(PEMSEA)に関する国際会議出席
(マレーシア)
12月11日
同上会議の高級事務レベル会合出席
12月12日
同上会議の閣僚級会合出席
12月22~24日
海賊対策専門家会合フォローアップ(マニラ)
1月 7日
シンガポール東南アジア研究所フォーラム出席
1月16日
シンガポール海事港湾庁ポートステートコントロール担当者
との情報交換
1月21~23日
第4回海賊会合に係るタイ国家警察、開催ホテル、現地旅行
代理店との事前打合せ
1月26日
インドネシア海運総局訪問
1月28日
シンガポール海事港湾庁新年レセプション出席
2月1~2日
タイ南部における治安状況視察
2月4日
シップアンドオーシャン財団研究員との意見交換
2月5日
第4回海賊会合に係る代理店打合わせ(バンコク)
2月6日
マレーシア沿岸警備隊設立に係る情報収集(プトラジャヤ)
2月14~19日
第4回海賊会合に係る関係者打合せ(バンコク)
2月25・26日
第4回海賊対策専門家会合出席(パタヤ)
3月2日
CMV セミナー出席(プノンペン)
3月5日
同上(ヤンゴン)
3月9日
同上(ハノイ)
3月15日
海事産業研究所研究員との意見交換
3月16日
インドネシア政府関係者との意見交換
3月17日
海事港湾庁とのアセアン・オスパー会合に係る事前打合せ
3月18日
マレーシア JICA 専門家予定者の沿岸警備隊訪問同行
3月22・23日
国際ケミカル油汚染会議出席
3月24・25日
アセアン・オスパー管理会合出席
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