バイトン フッ素ゴム 自動車燃料システムにおける 卓越した

バイトン ® フッ素ゴム
自動車燃料システムにおける
卓越した技術
目次 ページ
ページ
1. はじめに ................................................................................ 3
5.c 耐低温特性 ........................................................................ 13
使用に影響する要因 ........................................................... 3
5.d 他のエラストマーと比べた透過性 .......................... 14
バイトン ® の利点 ................................................................ 3
6. ディーゼルエンジンでのバイトン ® の機能............... 15
2. 燃料システムに於けるバイトンの応用...................... 4
7. シールの設計エンジニアに.............................................. 16
2.a 燃料貯蔵部品 ............................................................... 4
エラストマーの設計............................................................ 16
燃料タンク内燃料ポンプカプラー ....................... 4
代表的なシールの故障モード.......................................... 16
フィラーネック・ホース........................................... 4
バイトン ® フッ素ゴムを使用した場合の設計 .......... 17
燃料タンク・キャップ・シール............................ 4
ストレス / ストレイン特性 .............................................. 17
ORVR- ガソリン給油時における車両上での
エラストマーの限界............................................................ 17
蒸発ガス回収装置....................................................... 4
エラストマーの透過性 ....................................................... 17
2.b 燃料供給部品................................................................ 5
付録 ................................................................................................. 18
燃料ラインとチューブ.............................................. 5
バイトン ® 選択指針............................................................. 18
燃料ポンプ・シール 、 チェックバルブと
自動車燃料システムに使用されるバイトン ® の
ロールオーバー・バルブ
ファミリーとタイプの要約 ......................................... 18
性能によるバイトン ® のファミリーとタイプの
(ガソリンとディーゼル)......................................... 6
ダイアフラム................................................................ 6
ランクづけ......................................................................... 18
クイックコネクター O‐リング ............................ 6
参考文献................................................................................... 19
燃料インジェクタ・O‐リング(ガソリン、
推薦文献 ............................................................................. 19
ディーゼル、アルコール混合燃料)..................... 7
2.c 排出ガス制御部品 ....................................................... 7
排出ガス制御シール .................................................. 7
吸気系マニフォールド・ガスケット................... 7
ソレノイド・アーマチュア..................................... 7
3. 排出ガス規制 .................................................................... 8
4.
自動車業界でのバイトン ® .......................................... 9
4.a バイトン ® とは何か ................................................... 9
4.b SAE J-200 と ASTM D2000
によるエラストマーの分類..................................... 9
4.c バイトン ® の特性........................................................ 9
本資料では以下の ASTM/DIN の略語を用いた。
略語
一般名
ACM
アクリルゴム
-
BR
ブタジエンゴム
-
CO
エピクロロヒドリンゴム
-
CR
クロロプレンゴム
-
CSM
クロロスルフォン化
ハイパロン ®
EAM
ポリエチレン
エチレンアクリルゴム
-
ECO
エチレンオキシド
-
体積の変化 ................................................................. 11
FEP
エピクロロヒドリンゴム
フッ素化エチレンプロピレン テフロン ®
混合燃料 ...................................................................... 11
FFKM
パーフルオロゴム
カルレッツ ®
FVMQ
フルオロシリコーン
-
FPM/FKM
フッ素ゴム
バイトン ®
®
5. バイトン のタイプと特性 .......................................... 9
5.a 耐熱性能 ...................................................................... 10
5.b ガソリン中のバイトン ® の性質 ......................... 10
ガソリン組成............................................................. 10
様々なフレックス燃料:膨潤と物性に対する
耐性.................................................................................11
化学薬品による攻撃 ............................................... 11
自動車設計者が直面する燃料の多様化の
挑戦 ............................................................................... 11
商品名
HNBR
水素化ニトリルゴム
-
芳香族化合物の影響 ............................................... 12
MVQ
シリコーンゴム
-
含酸素化合物含有燃料とアルコール
NBR
ニトリルゴム
-
SBR
スチレンブタジエン
-
混合燃料 ...................................................................... 12
代替混合燃料............................................................. 12
サワー燃料 ................................................................. 13
2
共重合ゴム
1. はじめに
使用時の部品の性能を予測するため、実際の部品がテス
厳しい新法規や、ますます環境の厳しくなる自動車
燃料システムにおいて十分な機能を発揮できるのは
バイトン ® のような特殊なフッ素ゴムだけです。
フラムおよびガスケットなどのエンジンルームに使われ
現代の自動車の燃料システムは、様々な難しい役割を担
準が問題になっています。その結果、設計者はますます
っています。燃料の貯蔵、計量、エンジンへの供給に加
多様な用途にバイトン ® を選択しています。
ト燃料を用い試験されました。シール、ホース、ダイア
るゴム部品は、前述の要因や増大するエネルギー費や保
証やリコールにかかる費用の増大のため、新しい性能標
え、燃料システムは、燃料の組成および排出ガスのレベ
ルを定め、以前にも増して厳しくなる法規に適合しなけ
使用に影響する要因
ればなりません。これらの要因が絡み合い、燃料システ
・世界的な排出ガス規制
ムの部品には厳しい稼動条件が課せられています。
・エンジン・ルームの温度上昇
・燃料混合物の多様性
燃料の組成は、新しい排出ガス規制に適うため、自動車
・保証期間の延長
製造業者の達成を容易にすべく急速に変っています。従
・サービス期間の延長
来のテトラメチル鉛やテトラエチル鉛などのアンチノッ
・プラスチックスに対するシール
ク剤は含酸素添加剤 ( アルコールまたはエーテル ) に替
・組立の設計とサービスに関連すること
わってきました。燃料オクタン価を維持しながら、炭化
・防振 / 防音
水素や一酸化炭素などの汚染物質を削減することが可能
・衝突時の安全
になり、加えてこれらの改良の結果、広範囲にわたる新
全般にフッ素ゴム、特にバイトン ® は燃料システムの
しい燃料組成物も登場してきました。
様々なシール材や、ホースの素材に選択されるようにな
ってきました。
多くの新しい燃料添加剤により、燃料中のエラスト
マ ー の 膨 潤 が 変わり、特性が低下したりし ま す。 エ
バイトン ® の利点
ラストマーの適応能力を明らかにするために、様々な
・燃料とガスに対する低透過性
" 試験燃料 " が用いられました。時には、" 最悪の場合 "
・− 40℃ から+ 225℃の使用温度範囲
を試験するためのテスト燃料が考えられました。ここに
・すべての燃料、混合燃料への耐性
収められている実験結果は、燃料と接触するエストラマ
・耐 " サワー " 燃料性
ーを選ぶ際の参考となり、またバイトン の特筆すべき
・耐油性
性能を示しています。
・損傷に耐える高強度
®
・長寿命のシール性能
図1.燃料システムのバイトン ®
フィラーネックホース
ベントチューブ
タンク内シール
フューエルセンダー・シール
燃料タンク・
キャップ・シール
燃料ホース
燃料フィルタ・シール
呼気系マニフォールド
・シール
燃料ポンプ・シール
ORVR バルブシール
燃料インジェクタ
O‐リング
ゴム / 布ダイアフラム
キャニスターシール
クイックコネクター O‐リング
蒸気回収ライン
圧力調整弁・シール
センダー・フランジ・クイックコネクター O‐リング
排出ガス制御部品
- ソレノイド・アーマチュア
キャニスタ・パージ・ソレノイド・バルブ・シール
3
2. 燃料システムに於ける
バイトンの応用
フィラーネック・ホースは、表面積が大きくしかも燃料
40 年以上にもわたり進歩してきた今日の高性能バイト
形可能なため、自動車の耐衝突性を保証する最も重要な
®
や燃料蒸気が常に存在するため、燃料の主な排出源とな
ります。このホースは柔軟で衝撃を吸収し、破裂せず変
ン フッ素ゴムは、大部分の燃料貯蔵、燃料供給および
部品と考えられています。バイトン ® を内層に、燃料の
燃料 / 空気の混合系部品を含む燃料システムのシールや
浸透を防ぐバリア層として用いることにより、多層構造
ホースの用途において最も厳しい自動車業界の必要条件
が本格化されています。
他の材料にもしっかりと接着し、
を満たします。
透過規制にも適合し、自動車の全寿命に亘って十分な機
また、特別に現代の自動車燃料システムに合わせ、バイ
能を保持する、という際立った特性から設計者たちはバ
®
トン のタイプは開発されて来ました。図 .1 に主な用
途を示しました。用途毎に最適なタイプが特定できるよ
うバイトン ® 選択指針を付録 (18 ページ ) に付けました。
イトン ® を選択しています。
燃料タンク・キャップ・シール
2.a 燃料貯蔵部品
燃料タンク内燃料ポンプカプラー
図4. タンク・キャップ・シール
図 2. バイトン ® 製燃料ポンプカプラ−
燃料タンク内のバイトン ® 製チューブとホースは、蒸気
/ 液体ラインと、フューエルセンダー・モジュールをつ
なぎます。バイトン ® 製の部品は連結が容易で、ポリマ
ー固有の制振特性により、部品の疲労、破損 、 故障の原
因となる好ましくない振動を最小限に抑えることが出来
ます。燃料タンク内の連結部品に用いられるエラストマ
ーの主な性能要件は、体積膨潤と燃料による化学作用に
対する耐性です。バイトン ® 製の部品は、自動車の全寿
命に亘って、燃料に浸漬されたままでも上記の要件を満
たし、高機能を維持できます。
フィラーネック・ホース
最近の排出ガス規制により燃料タンク・キャップ・シー
ルの設計の見直しが必要になり、アクリロニトリル・ブ
タジエンゴム(NBR)は 、 フッ素ゴムに置き換えられま
した。OBD-II やインタンク式圧力センサのついた自動
車において、耐透過性と− 40℃まで耐えられる耐低温
性を備えるバイトン ®GBLT は、規制にかなうものとし
て注目されています。
ORVR- ガソリン給油時における
車両上での蒸発ガス回収装置
ORVR はガソリン給油時に発生する排出ガスを制御する
車載上のシステムです。段階的導入で、アメリカでは
1998 年に 40%の乗用車に、2003 年までにはすべての
乗用車、軽トラックに ORVR が標準装備されるように
なります。ORVR にはおそらく大きめの活性炭キャニス
タと新しい蒸気用ベントラインが必要になってきます
が、これにより新たに炭化水素の排出源が増えます。
典型的な ORVR システムは次のような部品から成りま
す:
・
給油中蒸気が燃料タンクから逃げないようにノズル
で連続的にシールできるような、狭い口のフィラー
図3. フィラーネック・ホース
4
パイプ。
図5. 一般的な燃料タンク
1
2
3
3
4
3
2
2
7
6
5
燃料タンクの断面図
バイトン ® の用途
1. O‐リングシールを含むクイックコネクター
2. ロールオーバー・バルブ・シール
3. クイックコネクター O‐リング
・
4. 車載診断(OBD II)圧力センサ・ダイアフラム
5. 燃料ポンプ・O‐リング
6. フューエルセンダー防振部品
7. センダーユニット・シール
タンクのヘッドスペースからの蒸気を排出する、活
性炭を詰めたキャニスタに連結された排出口。
・
㫤
炭化水素蒸気を捕まえ、一時的に保管するカーボン・
ベッド。
・
蒸気を測定してエンジンに燃料として送るパージシ
ステム。活性炭に吸着した燃料の除去プロセスは、
都市部を 48 キロメートル走る間に完了する。
米国環境保護局(EPA)と米国カリフォルニア大気資源
局(CARB)が定めた方法により、たとえこの蒸気回収
装置を取り付けても、炭化水素の排出蒸気は 2.0 グラム
以下という制限に従わなければなりません。新車と走行
距離が 160,000 キロ(10 万マイル)まで使用する自動
車はこの規制にかなう必要があります。
2.b 燃料供給部品
燃料ラインとチューブ
燃料ラインホースは標準燃料にも、アルコールやエーテ
ルを含有する燃料にも耐透過性でなければなりません。
一般的な燃料ラインホースは、最内層がフッ素ゴムの薄
層からなる、4 層から 5 層で構成されています。
図 6 、6a. 燃料ラインホース
5
この費用対効果の高い設計では最も燃料透過抵抗の大き
い層がバリア層として働いています。
(図 6、6a 参照)
バイトン ® は標準燃料だけでなく含酸素化合物を含む燃
料やサワー燃料に対する耐性が際立っているため、バリ
ア層として頻繁に利用されています。フッ素ゴムは柔軟
で簡単に成型でき、組み付けや連結が容易で、連結部分
のシールが長期間にわたって機能を発揮し、防音 、 防振
の特性があります。
図 9. ロールオーバー燃料バルブ
高性能燃料ホースの構造の一例が図 7. に示されている
F200 バリアホースです。このホースの内部の燃料と接触
する部分にはバイトン ®、バリア層にはテフロン ®FEP、
®
®
補強材にはケブラー が、カバーにはベイマック もし
®
ダイアフラム
燃料圧力を制御するダイアフラムは、エンジンに供給す
くはハイパロン が使用されています。これらの材料の
る燃料を正確に計量することを保証する部品です。ダイ
組み合わせにより、外部からの損傷や内部で起きる浸透
アフラムには耐膨潤性およびサワーガスと含酸素化合物
に対して類まれな耐性を発揮することが可能になりまし
を含む燃料の攻撃に対する耐性が不可欠です。長い屈曲
た。
寿命と、− 40℃まで機能する必要があります。
高温になればなるほど、F200 は他の構造の燃料ホース
バイトン ® 製のダイアフラムには信頼性があり、− 40
より耐透過性に於いて有利になります。
℃から 140℃の広い温度範囲で柔軟性を保つことがで
きます。
優に百万回を越えるダイアフラムの屈曲寿命は、
自動車の平均寿命を越えています。
㫤
㫤
®
㫤
®
図 7. F200 バリアホースの構造
燃料ポンプ・シール 、 チェックバルブと
ロールオーバー・バルブ(ガソリンとディーゼル)
自動車転倒時の燃料の流出を防ぐ耐燃料性のシールが燃
図 10. 燃料圧力を制御するダイアフラム
料ポンプの逆止弁とロールオーバー・バルブに備えられ
ています。シールには耐膨潤性と燃料からの攻撃に対す
る耐性が要求されますが、バイトン ® はそれらの条件を
クイックコネクター O - リング
満たす最適な材料です。
クイックコネクター O‐リングはプラスチック製の燃料
ラインの連結部の漏洩を防ぐため用いられます。「クイ
ックコネクター」という言葉から分かるように、連結部
品は簡単に連結、取り外しが出来ます。ラインの再取り
付けを行った後にシールの機能を保持するには、強い引
裂強さ、優れた耐圧縮永久歪性、シール力の高い保持率
の O‐リングが必要です。
バイトン ® はこの3つの特性で競合エラストマーより優
れており、適正に配合された場合、− 40℃に至るまで
図 8. 燃料ポンプ・逆止弁
6
静的なシールを提供出来ます。
図 11. バイトン ® 製 O‐リングとクイックコネクター
図 13. ラムダ・プローブ・シール
吸気系マニフォールド・ガスケット
燃料インジェクタ・O‐リング
(ガソリン、ディーゼル、アルコール混合燃料)
燃料は吸気系マニフォールド内で空気と混合します。マ
ニフォールドは性能の向上と軽量化のため、ガラス繊維
燃料インジェクタ・O‐リングはクイックコネクター
強化ポリアミドに代わってきています。プラスチック製
O‐リングのところで挙げた必要な特性に加え、耐熱性
のマニフォールドでは、金属とプラスチックスの熱膨張
が必要です。シールの機能が自動車走行中もしくは走
率の違いがあるため、従来のガスケットでは金属ブロッ
行後に起こる(異常加熱やクーラント不足によって起こ
クをシールすることは困難です。表面をシールするため
る)極端な温度上昇により失われてはいけません。バイ
に、耐熱性 、 耐燃料蒸気性のエラストマー系シールを用
トン ®製のO‐リングは−40℃から150℃まで信頼性が
いることが常識になってきました。
あります。
バイトン ® は高温の燃料蒸気中でも長期間に亘って機能
が衰えない特性と耐圧縮永久歪性から、このシールに必
要な条件を満たしているといえます。
図 12. 燃料インジェクタ・O‐リング
2.c. 排出ガス制御部品
図 14. 呼気系マニフォールド・ガスケット
排出ガス制御シール
近年の排出ガス制御システムは燃料を計量する部品と制
ソレノイド・アーマチュア
御する燃料系統、蒸気を回収するキャニスタ、触媒式転
ゴム / 金属から成るこの部品は車載の蒸気回収および
化装置、排出ガスセンサと酸素センサで構成されていま
蒸気用キャニスターに使用されています。耐久性と優
す。これらの部品には高温でも耐透過性を持つシールが
れた寸法安定性、低耐圧縮永久歪性、耐燃料性と耐ア
不可欠です。
ルコール / エーテル混合燃料性によりバイトン ® が利用
耐熱性と耐燃料性のバランスに優れているバイトン ® は
されてきました。バイトン ® の金属に対する接着力も
多くのこれらの部品に利用するのに最適です。
バイトン ® が選ばれてきた大きな要因です。
7
向こう何年かのカリフォルニアと米国の規制と目標は:
・
1998 年度の炭化水素排出量を 2000 年までに 55
%削減する、
・
1998 年内に全体の 2% の自動車をゼロエミッショ
ンとし、2003 年までには 10% にすることです。
®
特定の排出源を監視する診断システムが現在導入されて
います。米国環境保護局(EPA)が設けた OBD II( 車載
図 15. ソレノイド・アーマチュア バイトン ® 製シール
様々な部品に求められる要求と、様々な燃料用途に
於けるフッ素ゴムの性能を考えれば、自動車業界で
バイトン ® が、いかに広く承認されているかが理解でき
ます。燃料に関連する利用以外にも、
クランクシャフト、
カムシャフト、シリンダーヘッド、水ポンプ 、 ギアボッ
クスや他の部品でも、バイトンは利用されています。
様々
な用途を合わせると、フッ素ゴムの使用量は自動車一台
あたり1キロを優に超します。
故障診断 II) に関する規定では、自動車排出の排出源と
なるあらゆる箇所を常に電子的に監視することが求めら
れます。監視システムが得たデータは、運転手に知らさ
れるだけでなく記録され、定期車検の際の評価基準にな
ります。自分の自動車から排出された排出のデータを見
ることで、自動車を使用する期間にいかに自分の車が多
くの物質を排出しているかがよく理解できることでしょ
う。ヨーロッパでは法律によりこのシステムが、2000
年からガソリン乗用車に、2003 年からディーゼル車に
標準装備されます。
最近、欧州の排出、燃料およびエンジン技術プログラ
ム (EPEFE) が 、 将来の燃料組成と排出規制に対する欧州
の法規の基礎を築くために設立されました。このプロ
グラムの成果の一つは米国の蒸気ガス規制に近いユーロ
2000 規制です。排出される蒸気ガスの中で、燃料の透
過については両方の規制の中で重要視されました。
EU では、2001 年 1 月 1 日から乗用車と軽荷トラック
にユーロ -2000 排出ガス規制を適用することを義務付
けました。1998 年の調停議会の際に 、 自動車製造会社
図 16.メルセデス E- クラスに使われる
エラストマーの使用量(タイヤは除く)
が容易に排出ガス基準に適応できるようガソリンとディ
ーゼル燃料中の硫黄量を制限するような燃料に関する規
格が設けられました。
3. 排出ガス規制
米国連邦規制も排出ガスのレベルの低減や、年々厳し
くなる排出ガスの段階的な規制を実施しています。例
窒素酸化物 (NOx)、一酸化炭素 (CO)、炭化水素 (HC) と
えば、2001 年以降米国では 1 マイル(約 1.6 キロ)に
微粒子の排出量を規制することが最近の法規制のねらい
つき 0.075 グラムの非メタン有機ガス(NMOG)の排
です。これらの成分は自動車の排出ガスに含まれていま
出基準が設けられ、カリフォルニア州では 2001 年の
すが、さらにホース 、 ライン 、 連結システムなどの燃料
非 NMOG の排出制限が 1 マイル(約 1.6 キロ)につき
系統や燃料タンクからも生じます。
0.070 グラムから、2003 年には 0.062 グラムにまで引
米 国 環 境 保 護 局(EPA) と 特 に 米 国 カ リ フ ォ ル ニ ア
き下げられます。
大気資源局(CARB)の働きや大気質改善プログラム
欧州の排出ガス規制は下記の通りです。
(AQIRP) が発表したデータなど 、 米国は昔から排出ガス
規制において世界をリードしてきました。1990 年に制
定された大気汚染防止法に基づき揮発性排出はますま
す重要視されてきました。これは密閉室内蒸発ガス測定
2,500kg 以下の乗用車が 1 キロ当たり排出する排出
ガス量の制限値 (g/km)
年 一酸化炭素 HC 窒素酸化物 微粒子
2000 ガソリン 2.30 0.20 0.15 −
(SHED) テストによって測定されます。このテストは 24
ディーゼル 0.64 − 0.50 0.05
時間内にすべての部品から排出される全排出炭化水素の
2001
0.10 0.08 −
許容範囲を越えるか越えないかを決めます。
ディーゼル 0.50 8
ガソリン 1.00 − 0.25 0.025
欧州でのユーロ -2000 排出ガス規制の適用は、他の国
タイプとクラス
においてもさらに厳格な規制の適用を促すはずです。米
耐熱試験 膨潤試験 温度
温度
国や欧州の手本に倣おうという動きが実際に南アメリカ
諸国や日本、アジア太平洋諸国で見られます。
4.自動車業界でのバイトン ®
4.a バイトン ® とは何か
バイトン ® という名前はデュポン ダウ エラストマー社
の提供するフッ素ゴムの総称です。フッ素ゴムは長期に
亘って、普通のゴムよりもはるかに優れた耐熱性や、自
タイプ(℃) (℃) クラス A
70
70
A
B
100
100
B
C
125
125
C
D
150
150
D
E
175
150
E
F
200
150
F
G
225
150
G
H
250
150
H
J
275
150
J
K
る利用に合わせ、バイトン ® 特殊タイプが開発されてき
ました。
バイトン ® は優れた加工性と、最終用途での抜群の性能
を提供します。このような特性により、バイトン ® は部
品の寿命を延ばし、生涯にわたるコストを安く抑えるこ
とができます。
(% )
140
120
100
80
60
40
30
20
10
図 18. SAE J-200 と ASTM D 2000 に基づく
動車燃料や添加剤を含む様々な種類の薬品に曝露されて
も優れた耐膨潤性や耐透過性を発揮します。多岐にわた
最大膨潤
体積
エラストマーの分類
K は耐油性(最大膨潤率は 10%)を表しており ASTM D
471 による試験油# 3 にバイトン ® を 70 時間曝露した
結果を表しています。
バイトン ® よりも耐熱性および炭化水素内での耐膨潤性
が勝っているのはカルレッツ ® パーフロロエストラマー
パーツのみです。
4.c バイトン ® の特性
バイトン ® は耐熱性で 、 自動車燃料、
燃料添加剤、オイル、
潤滑油やほとんどの無機酸に対して耐膨潤性、
耐透過性、
耐劣化性を発揮します。バイトン ® にはさらに強靭な引
張り強さや 、 優れた引裂力、圧縮永久歪に対する耐性も
㫤
あります。これらの特性と広範囲にわたる利用可能温度
から、フッ素ゴムは燃料システムのシール、O‐リング、
ホースなどの燃料系統の材料として自動車の設計技術者
から承認されています。バイトン ® フッ素ゴム部品は他
のプラスチックス、ゴム材料では耐えられない環境下で
も機能します。
図 17. フッ素ゴム - 原料からゴム製品の流れ
5.バイトン®のタイプと特性
タイプは、モノマーの種類によって決まります。バイト
4.b SAE J-200 と ASTM D2000
によるエラストマーの分類
求める機能を得るためには、正しいタイプの選択が必要
世界的に認められている SAE と ASTM の規格によって
です。
ン ® には三つの主なタイプ;A、B、F があります。
エラストマーは性能に従い分類されています。この規格
では、エラストマーは耐熱性と耐油性により分類されま
㫤
®
す。バイトン は HK というクラスに分類されます。H
は 250℃で 70 時間熱老化後 、 耐熱性が次の範囲内にあ
ることを示しています。
・
最大± 30%の引張り強さの変化
・
破断時伸びの減少が 50% 以下
・
最大± 15 ポイントの硬度の変化
®
図 19. バイトン のタイプと特性
9
タイプ 意味
コメント
A
フッ素含有量が低い 耐圧縮永久歪性が良い
B
フッ素含有量が中間 耐燃料性に優れている
F
フッ素含有量が高い 含酸素化合物燃料の
耐透過性に優れている
G
過酸化物加硫 さらに耐塩基性がある
LT
耐低温性に優れる
特別なコモノマー
が含まれている
図 20. バイトン ® のタイプ
®
図 19 および図 20 はフッ素含有量およびタイプによる
図 22.バイトン と他エラストマーのシール力の
耐燃料油性、耐圧縮永久歪性、耐熱性 、 低温性などの性
保持率の比較
能に与える影響を示しています。
フッ素含有量が高い B タイプ、F タイプは、耐燃料油性
バイトン ® 製のシールは 、 その他のゴムが機能しなくな
が改良されています。フッ素含有量が最も少ない A タ
っても弾性を保ち 、 シール性を失いません。図 22. はバ
イプは最高の耐圧縮永久歪性が備わっているのに対し、
イトン ® とその他のエストラマー製 O‐リングのシール
GLT、GBLT、GFLT はすべて低温性に優れています。
力の保持率を示しています。150℃の空気中に 100 時
間静的状態で曝露されたバイトン ® は、90%のシール
5.a 耐熱性能
力を保持していたのに対し、フルオロシリコンは 70%、
エンジンルームがますます狭くなり、温度が高くなって
アクリルゴムは 58%、ニトリルゴムは 40% のシール力
いるため 、 燃料システム部品の耐熱性は重要になってき
しか保持できませんでした。
ました。エストラマー製シールの寿命に温度と熱履歴は
1 万時間後でもバイトン ® は 77%のシール力を保持し
大きく影響します。高温になる程エラストマーの弾性 、
ていたのに対して、唯一残っていたシリコンのシール力
柔軟性、耐圧縮永久歪性 、 シール性は損なわれるため、
は 13%に過ぎませんでした。
エラストマー部品の寿命は短くなり、故障の原因になり
ます。
図 21. にフッ素ゴム製シールを連続使用した際の上限温
®
5.b ガソリン中のバイトン ® の性質
ガソリン組成
度を示しました。バイトン は 200℃に 1 万時間以上
ガソリン組成は第一次世界大戦後に市販されてから様々
曝露されても弾性(100% 以上の引張り伸び)が保持さ
に変遷してきました。現在のガソリンは精製されている
れています。汎用エラストマーは同じ条件で 、1 日で脆
にも関わらず 、 特定の成分については大きな違いがあり
化します。他のゴムは 150℃が限界であり、寿命は著
ます。一般のガソリンは C4 から C12 炭化水素からな
しく短い。
るパラフィン、オレフィン、ナフテン、芳香族化合物を
含みます。芳香族炭化水素(トルエン、ベンゼン、キシ
レン)は膨潤を引き起こし、脂肪族系もしくはオレフィ
ン系炭化水素は物性に悪影響を及ぼします。
ガソリンのオクタン価向上のため、含酸素化合物(アル
コール 、 エーテル)の使用の増加に伴い、ガソリン組成
も多様化してきました。含酸素化合物を多く含んだガソ
リンはエラストマー材料によく浸透するため揮発性が高
くなります。含酸素化合物は膨潤およびエラストマーの
劣化も引き起こします。メチル・t‐ブチル・エーテル、
エチル・t‐ブチル・エーテルのようなエーテル(MTBE
と ETBE)は、オクタン値を引き上げ、かつ低揮発性の
特性を備えているので環境面から考えるとアルコールよ
り望ましい。このエーテルは最も広く使われているレベ
ル(約 15%)でも、アルコールより膨潤や損傷を引き
®
図 21. 空気中でのバイトン の耐熱性
10
起こしにくい。
物性の変化は 、 多くの場合体積の膨潤につながります。
混合燃料
膨潤すればするほど 、 物性の損失が引き起こされます。
バイトン ® 製部品のアルコールや芳香族系の添加剤の混
バイトン ® には耐膨潤性が備わっているので、燃料浸漬
ざったアルコール混合燃料に対する優れた耐性により、
後、最高度の特性保持能力を発揮します。
最低限の膨潤と寸法変化、低圧縮永久歪と優れた柔軟性
®
実際、バイトン はパーフロロエラストマーであるカ
などの信頼できる機能を発揮できます。
ルレッツ 以外の他のエラストマーに比べ燃料中での
図 24、24a はバイトン ® のガソリン / メタノール、ガ
膨潤はわずかでした。フッ素含有量の多いタイプの
ソリン / エタノールという典型的な混合燃料に対する優
®
®
バイトン は特に含酸素化合物を含む燃料に適している
れた耐膨潤性を示しています。
®
といえます。実験により 、 バイトン は低硫黄燃料や、
バイオディーゼル菜種油メチルエステル(RME)にも
適していることが分かりました。
様々なフレックス燃料:
膨潤と物性に対する耐性
㫤
化学薬品による攻撃
燃料への曝露により、非可逆的な変化がエラストマーに
起こることがあります。バイトン ® はこの変化に対する
図 24. エタノール濃度と 21℃の体積膨潤
耐性を備えているだけでなく、添加剤の攻撃にも、ガソ
リンや旧式のディーゼル燃料で生成する酸化生成物に対
する耐性も備えています。
体積の変化
燃料によるエラストマーの体積膨潤は、シールからの
漏洩 、 燃料計測システムの故障や不正確さにつながりま
す。バイトン ® は他の市販のエラストマーより、燃料中
㫤
で膨潤が低い。(図 23. 参照)
図 24a. メタノール濃度と 21℃での体積膨潤
自動車設計者が直面する
燃料の多様化の挑戦
燃料システム部品は最悪の状態を想定し、その状態に
おいても機能するように設計されていなければなりませ
ん。現在 、 世界のどの燃料組成品にも対応できる部品を
設計するということは自動車設計者にとって試練となっ
ています。ガソリン特有の炭化水素の種類に加え、設計
㫤
図 23. 燃料混合物中での膨潤
者たちは地域それぞれの気候に合わせた燃料混合物、燃
料システム内で生成するサワーガソリンと含酸素化合物
の混合に対応し設計しなければなりません。
11
18 ページのバイトン ® のタイプの選択指針には様々な
®
図 27. は NBR、ECO、FVMQ と二種類のバイトンの四
燃料中でのバイトン のタイプによる機能が書かれて
つの試験燃料中での膨潤を表したものです。バイトン ®
います。メタノールを含んだ混合燃料を利用する時や
は混合燃料の中で最高の耐膨潤性を示し 、 フッ素含有率
− 40℃まで耐えられる密閉性を必要とする時は目的に
の高いバイトン ® B600 や GF はすべての試験燃料に対
かなったバイトン ® を選択する必要があります。
し優れた耐膨潤性を示しました。
芳香族化合物の影響
市販ガソリンに含まれる芳香族化合物の含有量は、図
25. と図 26. に示されるように標準燃料油の A、B、C の
範囲に含まれます。
燃料の種類 芳香族化合物の含有量 (%)
有鉛 - レギュラー
7 ∼ 34
- プレミア
5 ∼ 34
無鉛 - レギュラー
5 ∼ 42
- プレミア
17 ∼ 46
®
®
図 27. 燃料混合物の膨潤̶含酸素化合物による影響
図 25. 市販ガソリンに含まれる芳香族化合物
代替混合燃料
自動車製造業者はガソリン燃料、メタノール燃料や混合
燃料B
燃料C
B
C
非芳香族系炭化水素 100
70
50
60
30.0 25.4
12.0
エラストマーを使用したシール、O‐リング、ホースには、
芳香族系炭化水素 30
50
40
50.0 42.3
20.0
代替燃料もしくはフレキシブル燃料と呼ばれる燃料内の
5.0 19.2
60.0
厳しい環境で機能しなければならないという課題があり
イソオクタン
トルエン
燃料を使用する自動車をテーマにした研究を行ってきま
FAM FAM FAM
A
アルコール
0
燃料D
燃料A
ASTM D471/ ISO 1817 DIN 51604
した。
0
0
0
0
100
70
50
60
30.0
ます。
0
30
50
40
50.0
下の表は、燃料 C とメタノールの五つの異なる比率の
エタノール
ジイソブチレン
5.0
混合物に浸漬された五つのタイプのバイトン ® の膨潤結
15.0
FAM-A
84.5 40.0
果を示しています。フッ素含有量が少ない GLT や A タ
メタノール
0.0 15.0 58.0
イプのバイトン ® には燃料 C、85% 燃料 /15% メタノー
脱イオン水
0.0
ル混合物に対し耐性があります。メタノール含有量が増
0.5
2.0
図 26. 標準燃料油組成物
えるにつれ体積も膨潤します。
燃料に含まれる芳香族化合物はエラストマーに大き
く影響します。芳香族化合物を 50% 含んだ燃料 C は
0% の燃料 A、30% の燃料 B に比べ体積変化や特性保
持に大きく影響します。このすべての燃料において、
バイトン ® の耐膨潤性、強度保持は際立っています。
含酸素化合物含有燃料とアルコール混合燃料
現在は、ガソリンに含酸素化合物であるエタノール 、 メ
㫤
㫤
㫤
㫤
㫤
タノール、メチル・t‐ブチル・エーテル (MTBE) のよ
図 28. 燃料混合物中での膨潤
うな添加剤を混合していますが、将来はエチル・t‐ブ
B600、GF、GFLT などのフッ素含有量が多いタイプの
チル・エーテル (ETBE) も使われるでしょう。アルコー
バイトン ® の場合は 、 メタノールの混合比が 50% まで
ル混合燃料あるいはエーテル混合燃料と分類される混合
では体積膨潤の増加は少しで、50% を越えると膨潤が
燃料は燃焼効率が良く、大気汚染物質も少量しか排出し
減ります。このことからフッ素含有量が多いタイプをフ
ません。
レキシブル燃料中のシステムに推薦できます。
12
サワー燃料
燃料は酸素と反応しヒドロペルオキシドを生成する
ため 、 燃料は酸敗します。これは分解しやすく、フリー
ラジカルを生じ、エラストマーの損傷を引き起こします。
遊離基によって、軟化につながる「加硫戻り」
(ゴムの
軟化)
、あるいは架橋が進みすぎ、脆化します。分解ガ
ソリン中のオレフィン成分は酸化に弱く、アルコール混
合ガソリンも不安定になります。
バイトン ® と他のエラストマーを 54℃で三週間、サ
ワ ー 燃 料 に 浸 漬 し た 結 果 を 図 29. に 示 し ま し た。
バイトン ® にはほとんど変化はなく、FVMQ や NBR に
比べ優れた耐性を示しました。ECO は二週間もたたず
に加硫戻りが起こったため、記録されていません。NBR
図 30. 低温での O‐リングのモレ試験
はバイトン ® が依然見た目ではサワー燃料の影響が見ら
れない内、短時間で脆化しました。
バイトン ® の異なるタイプの O‐リングのモレ試験と、
TR-10 試験により、漏洩の始まる温度と低温 / 柔軟性に
ついての挙動の違いが明らかになりました。低温用に設
計されたバイトン ®GLT が最も優れていることが分かり
ました。( 図 31 参照)
㫤
㫤
㫤
図 29. サワー燃料 C 中での膨潤 ( パーオキサイド価100)
ヒドロペルオキシドを含む燃料は、短時間で、いくつか
の特定のエラストマーを損傷させてしまうことが示され
ています。同じ状況下でバイトン ® は優れた耐性を示し
たことから、サワー燃料を扱う燃料システムに使用する
最適の候補であるといえます。
㫤
5.c 耐低温特性
エラストマー製のシールは、封じられている液体の圧力
㫤
㫤
㫤
㫤
㫤
㫤
図 31. 耐低温性、二つの実験結果の比較
より高い圧力をハウジングに対し加えることによって機
能しています。
エラストマーのシール力は時間や温度に依存しており 、
TR-10 試験は、試料を凍結した状態から徐々に温度を上
物理的 、 化学的な影響によって徐々に弱まります。低温
げていき 、 試料にエラストマー的性質が見られるように
でのシール力の保持には、エラストマーがその温度で
なった温度を測定することにより、ポリマーの低温での
起こった変形からどれほど回復できるかに関係していま
弾性機能を調べるものです。バイトン ® タイプの示した
す。温度が下がるにつれ 、 ゴムは硬化し、弾性回復はな
挙動は O‐リングのモレ試験の結果の順序と同じであり、
くなり、最後には硬くなって脆化してしまいます。
LT タイプが最も低温性の良いことが分かりました。
13
(g/m2/ 日 )
㫤
㫤
㫤
㫤
㫤
㫤
㫤
㫤
図 32. 耐低温性、O‐リング試験中のモレ温度
図 32. に は、 バ イ ト ン ® フ ッ 素 ゴ ム の 7 つ の タ イ プ
図 33. Thwing Albert 試験法による透過性 バイトン ® と他種材料の比較
の低温 で の シ ー ル 力 を 示しました。乾燥状態、無鉛
ガ ソ リ ン お よ び 燃 料 C に 浸 漬 し た 状 態 で、10% 圧 縮
し、1.4MPa 圧の窒素に対するシール性が示されてい
®
図 33 は、燃料ライン、フィラーネック・ホース、シー
ます。バイトン のタイプによって、シール力の保持
ルに使われるバイトンと他のポリマーの透過率を比較
力は著しく異なることが示され 、 このような環境下
した結果を示す。ASTM E-96-66 "Thwing Albert" カッ
GLT は優れた機能を発揮しました。
プ透過実験(エラストマーの試験によく使われる実験
GFLT が浸漬状態で、低膨潤性および耐低温
方法)によりました。実験結果は透過速度で表され 、 燃
でもバイトン
バイトン
® ® 性の両方に優れた結果を残しました。
料 C(50% イソオクタン /50% トルエン ) 中でのバイト
ン ®A タ イ プ の 透 過 速 度 は 3g/ ㎡ / 日、HNBR、NBR、
メタノールと無鉛ガソリンを混合したフレックス燃料で
FVMQ の透過速度は 125-600 g / ㎡ / 日でした。他の
稼動するエンジンのシールが自動車のシールの中で一番
材料の高い透過速度は 21 日後のデータです。
高機能が求められます。なぜなら、
耐フレックス燃料性、
燃 料 M-15 を 用 い た 実 験 で は、FVQM の 透 過 速 度 が
燃料インジェクタ内の O‐リングとクイックコネクター
125-600 g / ㎡ / 日であるのに対し、バイトン ® の透
システムが− 40℃まで静的状態でシール力を備えてい
過速度は 50 g / ㎡ / 日で、この実験からもバイトン ®
る必要があるからです。
の優れた耐透過速性が明らかです。
低温性タイプでないバイトン ® では、燃料に浸透された
状態では低温で問題なく使われます。バイトン ® 製のシ
ールが少量の燃料を吸収することでエラストマーの塑性
用する場合は 、 低温性に優れた特殊タイプのバイトン ®
を使用すべきです。
(g/m2/ 日 )
化が起こり、低温性が向上するからです。乾燥状態で使
5.d 他のエラストマーと比べた透過性
全てのエストラマーには燃料に対し、気体 、 液体を問わ
ず、ある程度の透過性がありますが、度合いはエラスト
マーのタイプによって大きく異なります。バイトン ® の
ようなフッ素ゴムは自動車燃料システム内で使われる他
㫤
㫤
㫤
のエラストマーのなかで燃料の透過性が最も低いため、
現在そして将来さらに厳しくなるであろう排出ガス規制
に十分対応が可能です。
14
図 34. Thwing Albert 試験により得られた、
バイトン ® のタイプによる透過性
㫤
㫤
図 35. Thwing Albert 透過要綱
図 34. は ASTM E-96-66 "Thwing Albert" カ ッ プ 透 過
芳 香 族 炭 化 水 素 と 硫 黄 含 有 率 の 低 下( 一 般 的 に は
試験によるバイトン ® のタイプ別の透過速度を示してい
1000ppm から 200ppm への削減)およびディーゼル
ます。すべてのタイプのバイトン ® は ASTM 燃料 C 中
燃料の点火特性の評価となるセタン価の上昇が目標とな
で機能を発揮しましたが、バイトン ®GF が M-15 燃料
っています。これにより、排出ガスを減らし、エンジン
に浸漬された時の耐透過性が最も優れていました。
の効率を高めることが出来ます。
6.ディーゼルエンジンでの バイトン ® の機能
用途 :
・直噴インジェクタ O‐リングシール
・回転ポンプ・シール
・制御ダイアフラム
㫤
・燃料ホース
ディーゼル燃料は圧縮点火エンジンに使用され、火花点
火ガソリンエンジンに比べ熱効率が優れています。ディ
図 36. M-15、バイオディーゼル燃料、低硫黄ディーゼル燃料中
でのバイトン ® のタイプによる膨潤の違い
ーゼル燃料はガソリン燃料に比べて沸点が高いため、蒸
発揮散量は本質的に少ない。
ディーゼルエンジンは全種類の自動車、特に成長率の
大きい車に、使用されてきましたが、欧州では特に大
低硫黄ディーゼル燃料とバイオディーゼル燃料という表
型トラック、乗用車の多くがディーゼル車です。ディ
現は、燃料中に特殊な物質が含有されていることと、広
ーゼル車の燃料システムに使用されるゴム部品は 、 ガ
範囲にわたるディーゼル燃料組成物を意味します。菜種
ソリン車に使われるものほど耐性が必要ではないため、
油をエステル交換する時に生成されるエステル(RME バ
®
バイトン のような高機能のエラストマーは必要ありま
イオディーゼルの製造)が、ブレンド燃料としてまた
せんでした。
は化石燃料の代替品として使用されつつあります。バイ
しかし、近年政府が設けた大気汚染防止の排気ガス規制
オディーゼル燃料の乗用車の実用化はまだですが、化石
(8 ページ参照)がガソリン車にもディーゼル車にも適
燃料を使わないで走る自動車が現在でも市販されていま
用されるようになりました。
す。
15
バイオディーゼル出力の乗用車の数は比較的少ないもの
性能面のチェックリストには以下の点が含まれるべきで
の 、 トラックやオフロード車は RME や同種の燃料を利
す。
用しています。
・
バイトン ® の実験結果から 、 低硫黄燃料とバイオディー
利用するにあたっての、機能面に関する必須条件の
詳細記述
ゼル燃料中の二つとも膨潤と物性劣化に対する耐性に優
・
温度範囲、サイクル期間(可能な場合)
れていることが分かります。(図 36.)この性能により 、
・
特定温度範囲内での曝露される媒体(特定の燃料組
バイトン ® が将来的にディーゼル燃料系統部品として使
用される可能性は大きいものといえます。
成物等)
・
シールのための圧力又は真空度
・
希望する寿命、使用期間
・
静的あるいは動的屈曲条件を含めた引張り力 / 伸び
の条件
・
カラーコードの必要性 (色による区別)
・
電気特性
・
燃料では周期的な条件下での透過の要求
エラストマーが受ける影響 、 与える影響に関わらず、エ
ラストマーが接触する燃料に関しては特別な考慮が必要
㫤
㫤
㫤
図 37. RME99/-8 ディーゼル燃料に浸漬された
バイトン ® フッ素ゴム
です。
代表的なシールの故障モード
エラストマーの選択の間違いよりも、故障はシールされ
図 37 から、ビスフェノール加硫のバイトン ® A、B、
る表面、空洞や溝に関する設計条件によって引き起こさ
GF は長期間にわたり低膨潤性(1008 時間、100℃の
れることが多くあります。
RME に浸漬しても 4% 以下の膨潤率)であることが確
・
認されています。
鋭角やとがった部分があると 、 熱もしくは圧力によ
ってエラストマーが歪み、破裂することがあります。
注意: RME 燃料内でバイトン ® を利用する時は、特
・
表面仕上げの不足(ガスのシールや真空用途で重要)
殊な加硫を施す必要があります。詳しい情報をご希望の
・
ミゾに対する許容値と部品の幅の過多によって起こ
方は、デュポン ダウ エラストマー社にお問い合わせ下
さい。
るはみ出し。
・
7.シールの設計エンジニアに
低圧での気体の保持が出来ない。
・
この章では自動車エンジニアに対し、シール材として用
いるエラストマーの知識を扱います。
エラストマーの設計
環境に良く適合していたはずなのにエラストマー製のシ
圧縮が過剰な場合 、 高温になるとシールが裂け、異
常な圧縮永久歪が見られる。
・
不適当な組付けにより、O‐リングがねじれる。
・
ミゾ体積が熱や液体の膨張に対し不適当な場合、シ
ールもしくはガスケットのはみ出しが起こる。( 図
設計者の方々の中には、ポリマーよりも金属や合金の分
野に良く精通しておられる方で、エラストマーの性質は
シールの圧縮が低すぎるため、低温で漏洩が起こり、
38. 参照 )
・
バックアップリングの不足によって、高圧力で欠損
が起こる。( 図 41. 参照 )
ールが故障したことを経験したでしょう。これらのシー
ル部品の故障は 、 エラストマー材料の基本的な設計条件
正常状態
を十分に理解しなかったがゆえに起こります。
新しくエストラマーを利用する場合や、現在使用してい
膨潤
る部品の機能向上 、 設計向上を図る上で求められる機能
面 、 経済面での使用条件を知っておく必要があります。
というのは、使用条件を下回る状態のポリマーを選択す
熱膨張
れば、早期の故障につながり過剰な品質にすれば、費用
がかさむからです。
16
図 38. 膨潤 / 熱膨張
ゴム技術者は高いモジュラスや、高硬度配合を選択する
ことによって、それらの影響を最小にすることができる
ものの、バックアップリングの使用やミゾの体積を調節
することも必要かもしれません。
図 39. はみ出しによる影響
操作条件に見合ったエラストマーのタイプと配合の選択
についてはデュポン ダウ エラストマー社のエラストマ
ー開発技術者にお尋ねください。
バイトン ® フッ素ゴムを使用した場合の設計
図 41. 耐はみ出し
バイトン ® フッ素ゴムは他のエラストマーに比べ、優れ
た耐熱性と長期耐久性を備えているため自動車燃料シス
テムのシールに使用されています。フッ素含有率が高い
ためそのような機能を備えることができるが、シールの
ストレス / ストレイン特性
設計にも影響します。例えば、フッ素ゴムは他のエラス
エラストマーの限界
トマーに比べて熱膨張、熱収縮が大きく 、 燃料や他の媒
体中での小さな膨潤でも、熱による影響で増加します。
有限要素法により、ほとんどのエラストマーにも適用さ
さらに、多くのポリマーと同じように、高温で軟化する
れる基本的な「してよいこととしてはいけないこと」規
性質もあります。
定が出来上がりました。例えば、シールもしくはガスケ
そのため、広い温度変化のある用途では、機能を最適化
ットに使用されるエラストマーは 25%以上に圧縮や歪
させるために部品の寸法、圧縮と密閉するミゾの体積を
みを与えてはいけない。高圧縮により部品内には応力域
調節する必要があります。
(図 40)
が形成され、材料の極限強さを越すと圧縮永久歪が高く
急激な温度周期に曝露される部品については、特別な注
なり、シールの寿命が短くなります。
意が必要です。
O‐リングの圧縮は大抵の場合、空洞と部品寸法の公差
を考えて 18% で十分です。ガスケットには、11% の圧
縮で十分です。ガスケットでは、面積 / 体積比が高いた
め、他の部品に較べて強い圧縮は必要ありません。
O‐リングを取り付けた時(ピストン溝につける場合な
ど)、内径が 5% 以上伸張しないようにしなければなり
ません。部品が動的な使用の場合は特にそうです。
エラストマーの透過性
流体のポリマーへの透過は溶解パラメータ、流体の
圧力 、 部品の圧縮率、温度などに左右され、透過は部品
図 40. O‐リングのシールの仕方
の厚さに反比例するので、透過を少なくするには、断面
高温によりフッ素ゴムが軟化したり 、 偶然に発生した高
積の大きいガスケットや断面半径の大きい O‐リングが
い圧力によってフッ素ゴムが移動したり、はみ出しや漏
必要です。最適な機能を実現するには、ポリマーの選択
洩が起こることもあります。
が非常に重要です。
17
バイトン ® フッ素ゴムのシールに関する質問はデュポン
エラストマーの開発担当者にお問い合わせ下さい。
付録
バイトン ® 選択指針
下記の表は、自動車燃料システム技術者が、特定の用途
次の表はバイトン ® の主要なファミリーとタイプおよび
のための適切なバイトン ® ファミリーおよびタイプを選
バイトン ® の高 / 低温でのさまざまな性能をまとめまし
択する際に役立ちます。
た。
自動車燃料システムに使用されるバイトン ® の
ファミリーとタイプの要約
性能によるバイトン ® のファミリーとタイプの
ランクづけ
用途
サービス要求
バイトン ®
バイトン ® ファミリー
ファミリー
タンク内ホースとチューブ
耐圧縮永久歪性 B、F
低膨潤性
フィラーネック・ホース
耐燃料性
燃料ライン・ホース
耐透過性
F − 200 ベニヤホース
耐圧縮永久歪性 クイックコネクター・シール
耐燃料性
耐透過性
耐圧縮永久歪性
B、F
A、AL
燃料インジェクター・シール
(低温)
GLT GBLT GFLT
ポリマーのタイプ
2元
3元 4元
4元 4元
4元
フッ素の量、%
耐液体性 - 燃料
66
68
65
67
3元/
70
66
無鉛ガソリン
E
E
E
E
E
E
サワーガソリン(80PN)
E
E
E
E
E
E
(無鉛ガソリン / エタノール 10%) G
E
E
G
E
E
耐液体性 - 無鉛ガソリン / メタノール混合
G
E
E
G
E
E
• メタノール 11 − 30%
F
G
E
F
G
E
GLT、GFLT、
• メタノール 30%以上
P-F
G
E
P-F
G
E
GBLT
メタノール 100%
P
G
E
P
G
E
耐燃料性
MTBE100%
P
P
P
P
P
P
耐圧縮永久歪性 AL、B
耐応力緩和性
無鉛ガソリン /MTBE −
G-E
E
E
G-E
G-E
E
低温シール性
透過性
無鉛ガソリン
E
E
E
E
E
E
無鉛ガソリン / メタノール混合
F
G
E
F
G
E
耐熱性
150℃まで
E
E
E
E
E
E
204℃まで
E
E
E
E
E
E
275℃まで
F-G
G
F
F
F
F
150℃
E
E
G-E
E
G-E
E
200℃
E
G-F
F-G
G
G
F-G
P-F
P
P
G
G
G
低温シール性
耐燃料性
耐圧縮永久歪性 耐応力緩和性
低温シール性
燃料ポンプ・シール
F
• メタノール5− 10% 低膨潤性
燃料インジェクター・シール
B
ガスホール -
耐応力緩和性
クイックコネクター・シール
A
ポリマーの特質
耐燃料性
GLT、
GBLT、
GFLT
耐燃料性
耐圧縮永久歪 A、B
低膨潤性
混合 /(5-20%)
耐圧縮永久歪性
ダイアフラム
耐燃料性
A、B
ダイアフラム
耐燃料および
GLT、GBLT、
-20℃
低温屈曲寿命
GFLT
低温性
排出ガス制御装置
耐熱性
A、B
0℃での柔軟性
E
E
F
E
E
E
吸気系マニフォールド
耐熱性
A
-20℃での柔軟性
F
F-P
P
E
G-E
G-E
ガスケット
耐圧縮永久歪性 -20℃
G
F-G
P-F
E
E
E
-40℃
P-F
P
P
G
G
G
(低温)
静的シール性
低温収縮試験(ASTM D − 1329)
TR − 10、℃
-17
-14
-7
-30
-26
-24
O‐リングモレ試験、℃
-32
-26
-25
-45
-40
-37
ランキング: E= 優秀 G= 良い F= 可 P= よくない
18
参考文献
1. Wittig, W.R. TPE ‒ eine Chance für die
Partnerschaft von Elastomerverarbeitern und
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