犬の社会化教育に関する研究 ~チェーンカラーを用いたトレーニングの影響~ 麻布大学大学院 獣医学研究科 動物人間関係学研究室 中村広基, 太田光明 飼育目的の変化 約15,000年前 家畜化 : 狩猟犬,番犬 選択的改良 狩猟犬,牧羊犬,護衛犬,愛玩犬 気質に基づく行動様式を受け継ぐ ~現在 伴侶動物(コンパニオンアニマル) 気質的な行動様式 =「犬の社会化教育」 社会に適合できる ように教育 1 社会化教育の方法 成長 若齢期 トレーニングによって 適切な習慣を教育 若齢期以降~成犬 気質に基づく様々な行 動をコントロール 正の強化のみでの 社会に不適な行動の 習慣化 制御が困難 正の強化(Positive reinforcement) 行動する 報酬提示 行動しない 報酬なし 行動の強化 刺激提示 例:オスワリをしたら フードを与える 負の強化(Negative reinforcement) 行動する 嫌悪刺激の回避・逃避 行動しない 嫌悪刺激への暴露 行動の強化 刺激提示 例:馬が指示に従って動かないとき、鞭を使う 正の強化(Positive reinforcement) 行動する 報酬提示 行動しない 報酬なし 行動の強化 刺激提示 例:オスワリをしたら フードを与える 2 負の強化(Negative reinforcement) 行動する 嫌悪刺激の回避・逃避 行動しない 嫌悪刺激への暴露 行動の強化 刺激提示 例:馬が指示に従って動かないとき、鞭を使う 動物福祉的に× 嫌悪刺激 行動の全般的な抑制 恐怖や怒りなどの情動誘発 しかし、正の強化だけを用いたトレーニングでは行動の制 御が困難な場合、嫌悪刺激を用いたトレーニングは有効な 方法となり得る可能性がある 目的 ・チェーンカラーによる嫌悪刺激を部分的に用 いたトレーニングが、成犬の不適切な行動の 修正に有効であるかどうかを検討 ・尿中カテコールアミン濃度の評価により、嫌悪 刺激によるストレスと、トレーニングによる交 感神経活性を調べる 3 方法① ●実験材料 : 6頭のトレーニング経験のない成犬 個体 Breed Sex Birth S Shetland sheepdog male 2002/5/2 M Beagle female 1999/2/21 L Border collie female 2003/7/1 K Weimaraner male 1999/2/6 Z Australian kelpie male 2000/1/14 G English cocker spaniel male 1998/10/30 方法②-1 ●実験者:1名(以下:ハンドラー) ●トレーニング時間 : 15分×2/日 ●トレーニング内容 ・行動A(A期間) 「伏せ」 : 声符によって伏臥姿勢をとる テスト : 10回連続試行の達成回数 ・行動B(B期間) 「座って待て」 : 声符によって停座姿勢をとり、 30秒おとなしく姿勢を維持する テスト : 5回連続試行での達成回数 4 方法②-2 トレーニング手順 A-ⅰ期間 A-ⅱ期間 刺激の少ない 刺激の多い 場所 場所 正の強化による トレーニング 正の強化による トレーニング A-ⅲ期間 Non-AS group 正の強化のみで継続 AS group 負の強化を取り入れた トレーニングを導入 3箇所設定 ランダムに選択 ※ B期間も同様の流れ AS : Aversive Stimulus 方法②-3 トレーニング手法 指示 指示 従う 従わない 従う 従わない 報酬提示 無報酬 報酬提示 嫌悪刺激 提示 Non-AS group AS group チェーンカラーによる物理的なショック 5 方法③ 尿の採取 ●尿の採取方法 トレーニング実験後2時間以内に犬舎に 収容し、翌朝までに犬舎内に溜まった尿 を採取 ●尿の分析 ノルアドレナリン(以下NA),アドレナリン (以下A)濃度を、高速液体クロマトグラフィ により、Ohtaniらの方法を用いて分析 結果① トレーニング成績 Score 10 負の強化を用いた期間 Non-AS group * AS group 5 8 4 6 3 4 2 2 1 0 0 A-ⅰ A-ⅱ A-ⅲ B-ⅰ B-ⅱ AS groupの成績変動 →トレーニング場所の変更により成績に低下の傾向(グループ分けの基準) →負の強化を用いた期間では、成績は有意に上昇 (P<0.05) 6 結果① トレーニング成績 A-ⅱ期間において、 AS groupの犬 は「ハンドラーからの指示」に対して適 切な反応を起こすことができなかった 負の強化を部分的に用いたトレーニン グが、学習成績の上昇をもたらした 結果② 尿中NA濃度 ×10ng/ml 14 * Control 正の強化のみ使用 負の強化使用後 →AS groupの尿中 NAには有意な変動 12 10 1.トレーニング開始に よって増加 8 6 2.負の強化を用いた期 間では減少 4 AS group Non-AS group 2 0 Control A-ⅰ~A-ⅱ TR term A-ⅲ~B-ⅱ (mean ± S.D) (Control : 57.0±8.0) (A-ⅰ~A-ⅱ : 109.1±5.6) (A-ⅲ~B-ⅰ: 88.7±6.6) * P<0.05 7 結果② 尿中NA濃度 負の強化を用いたトレーニングは急性 のストレス反応を生起するものではな かった AS groupの個体は、A-ⅰおよびAⅱ期間において、ある種の興奮状態 にあった 考察 臭覚刺激 ハンドラーからの 指示 聴覚刺激 定位反応 視覚刺激 A-ⅰ期間 →A-ⅱ期間 A-ⅲ期間 ・集中力ない様子 ・過剰な交感神経活性 ・集中力あり ・学習効率低→成績低下し上昇なし ・学習効率高→成績上昇 ・適度な交感神経活性 8 ・負の強化を導入したトレーニングは、学習効率の向上に効 果 があった ・今回用いた負の強化に含まれる刺激は、ストレス反応では な く、定位反応を生起させるものであった ・家庭犬のトレーニングへ応用 ・問題行動の行動治療への応用 ・犬の訓練性能の評価 ・集中力ない様子 ・過剰な交感神経活性 ・集中力あり ・学習効率低→成績低下し上昇なし ・学習効率高→成績上昇 ・適度な交感神経活性 補足 尿中NA・A濃度 分布比較 ×10ng/ml ▲ : Non-AS group A-ⅰ,A-ⅱ 10 ◆ : AS group : A-ⅲ, A-ⅰ,A-ⅱ B-ⅰ,B-ⅱ 8 正の強化のみのトレーニングを受けた期間 負の強化を経験した後の期間 成績の上昇が見られた期間 成績の上昇が見られない期間 6 A 4 2 ×10ng/ml 0 0 4 8 12 16 20 NA 9 結果② 尿中NA濃度 負の強化を用いた期間 ×10ng/ml 14 AS group Non-AS group 12 10 8 6 4 2 0 Control A-ⅰ A-ⅱ A-ⅲ B-ⅰ B-ⅱ TR term Fig.7-1 両グループの尿中平均NAの推移 結果② 尿中A濃度 Non-AS group ×10ng/ml 14 AS group Non-AS group 12 10 8 6 4 2 0 Control A-ⅰ A-ⅱ A-ⅲ B-ⅰ B-ⅱ TR term Fig-7-2.両グループの尿中平均A推移 10
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