学校法人産業能率大学の情報をお届けする SANNO NEWS LETTER URL : http://www.sanno.ac.jp/ July , 2010 お問い合わせ 企画広報部 企画広報課 TEL 03-3704-9040 FAX 03-3704-9404 E-mail : [email protected] VOL.63 Feature story ∼ 「受け身」な若いサッカー選手を「考える」サッカー選手に∼ ビジネス教育のスペシャリストが 「主体性を持ったサッカー選手」を育成 産業能率大学 情報マネジメント学部 教授 Football Intelligence Boot Camp に取り組む産業能率大学サッカー部の学生達 【『考えるサッカー選手』育成の取り組みのポイント】 長岡 健 「 『考えるサッカー選手』 現状は……「野村監督流ビジネス術」はあっても「松下幸之助流サッカー術」がない の育成支援をめざす Football ◆ ビジネスとサッカー共通の若手育成課題 Intelligence Boot Camp の挑戦 は、まだ始まったばかりです。 ⇒「受け身ではなく『主体的に学ぶ個人』」の育成 『主体的に動く個人』 を ◆ 気合いや根性だけでなく「リラックスした雰囲気での対話」で「考えるサッカー 選手」を育成⇒ビジネス教育の現場で実施しているトレーニングを導入 ◆ 【実施例】産業能率大学サッカー部で「考えるサッカー選手」の育成を実施 手がかりに、スポーツ界からビジ ネス界への圧倒的な“輸入超過” を是正する道筋が見えてきたよう な気がします」 < 考えるサッカー選手育成を支援する「Football Intelligence Boot Camp」> ・[リラックスした雰囲気の中で古い「学習観」を解きほぐす] Topics ⇒レゴブロックを使ったグループワーク、コミュニケーション・ゲーム 4月∼6月 ・[意識的な省察により「自己理解」を深める] ⇒トップアスリートのインタビュー番組などをもとに対話を行い「自己理解」を深める 4/21 「2010年度新入社員の理想の上司」を発表 5/7 「第4回自由が丘調査」を発表 5/27 スポーツマネジメント研究所活動報告書 「SANNO SPORTS MANAGEMENT Vol.2」を発行 6/11 「2010年度新入社員の会社生活調査」を発表 ・[組織(チーム)の中での自分「相手の意見を認めつつ自分の考えを主張」] ⇒チームの方向性や運営方法について話し合い「相互理解」のプロセスを体感 ご取材の際は… 取材をご希望の際は、本学企画広報課 (03-3704-9040)までお問い合わせください。 □ 長岡教授インタビュー □「考えるサッカー選手育成」についての解説 □「Football Intelligence Boot Camp」についての取材・解説 VOL.63 「主体性を持ったサッカー選手」を育成 スポーツ界からの“輸入超過”解消に向けて 「ビジネスに学ぶ」サッカー選手育成 「野村監督流ビジネス術」はあっても 「松下幸之助流サッカー術」がない ビジネスパーソンは、ビジネス界の大物以外にも、成功を収めたスポーツ選手や監督、音楽家、詩人などど んな分野からも貪欲に学び、ビジネスでの成功に活用しています。一方スポーツ界はどうでしょう。書店のビ ジネス書コーナーに、楽天イーグルス前監督の野村克也氏に学ぶ本はあっても、スポーツ書のコーナーには松 下幸之助の本はありません。世界に誇る日本の経済・産業界で実施されている人材教育のノウハウは、残念な がらスポーツ界ではあまり活用されていないようです。 産業能率大学は、もともと企業向けの研修・コンサルティング機関として 85 年前に創立され、以来一貫して ビジネス界の人材育成についての研究を行っています。ここで紹介する長岡健情報マネジメント学部教授は、 大学で教鞭を執る一方で、官公庁や企業の職員・社員を対象に「考え方を変え、主体的に動く」トレーニング を実施するなど、ビジネス教育の第一線でも活躍しています。そして、大学が設置するスポーツマネジメント 研究所の研究員として「考えるサッカー選手の育成」をテーマに、ビジネス界での研究・実践の成果を本学サッ カー部に適用するべくワークショップ『Football Intelligence Boot Camp』を主宰しています。 今回の NEWS LETTER では、その取り組みについてご紹介します。 ビジネス界 サッカー界 一流ビジネスパーソン 知識・技術 一流サッカー選手 考える力 技術・体力 (即興的な対応力) 一流ビジネスパーソンの育成 知識・技術 考える力 (即興的な対応力) 一流サッカー選手の育成 「困難な経験」 「経験を省察し自ら学ぶ」 トレーニング 技術・体力 「困難な経験」 「経験を省察し自ら学ぶ」 トレーニング 共通の育成課題 「主体的に自ら考え学ぶ」ためのトレーニング 「困難を克服する経験」+「リラックスした雰囲気でのマジメで楽しい対話的省察」 産業能率大学 ビジネス人材育成 官公庁や企業でイノベーションを生み出す 「主体的に動く個人」を育成 「マジメで楽しい対話」を通じて、 「考え方」 「目 線」を変える研修プログラムを実施 ビジネス教育の「メンター」制度 コーチングを凌ぐ人材教育制度として、日本でも大 手企業が導入し始めている「メンター」制度。結果 を求める厳しい上司とは違う立場から、仕事や人生 の手本となって相談に乗る。 産業能率大学 サッカー選手育成 Football Intelligence Boot Camp 産業能率大学サッカー部の学生を対象に、「指 導=教える」という古い教育観を解きほぐすた 活用 め、リラックスした雰囲気の中「マジメで楽し い対話」を実施。 厳しい指導を行う監督とは別の立場の「メンター」 が、学生に「監督・チームの取り組みや考え方」 「知識や情報」「成功イメージ」を教え、チーム 内の立場やキャリアに迷った時に相談に乗る。 -1- VOL.63 「主体性を持ったサッカー選手」を育成 ビジネスとサッカー共通の育成課題 「受け身」ではなく「主体的に学ぶ個人」の育成 指導者に教わる「受け身の姿勢」ではなく 選手自身が「主体的に学ぶ 姿勢」を身につけること ビジネスパーソンの人材育成手法をサッカーに活用、とは言っても簡単にで きることではありません。そのヒントを探るべく、サッカー教育の現場での調 査を元にビジネスとサッカーの共通点に目を向けた結果、共通の課題が「主体 的に動く個人の育成」であることが見えてきました。 「教えられること」が学習 (練習)であるという意識から脱却し、実戦経験(プレー)から自ら学んでいく 姿勢をもつ人材(選手)をいかに育成するかが、ビジネスとサッカーに共通す る育成課題ということです。 「直接的な知識」から「即興的な対応力」修得にシフトしているビジネ ス教育 1980年代以前のビジネス人材育成の研究者であれば、こうした「主体的 に学ぶ姿勢」を育成することよりも「直接役に立つ知識」を重要視していまし た。今日の研究者の多くが「主体的に学ぶ姿勢」を重要視している理由は、ビ ジネスで大きな力を発揮する「即興的な対応力」を修得する鍵が「主体的に学 ぶ姿勢」にあるからです。 今日の人材育成研究に大きな影響を与えたドナルド・ショーン(米国 MIT 名 誉教授)は、優秀な実務家の特徴が、 「一般化された原理・原則」に固執せず、 目の前の状況を瞬時に読み解き、柔軟に考え、行動する「即興的な対応力」に あることを明らかにしました。さらに、その後の研究から、即興の振る舞いは、 他者から「教えられる」ものではなく、困難な仕事を成し遂げていく過程での 様々な経験を、深く「省察する」ことで醸成されていくと分かってきたのです。 「型通りのことを正確に実行する」だけでは優秀な実践者とは見なされない分 野において、 「主体的に学ぶ」とは、自らの経験を深く省察し“気づき”を得る ことを意味しています。つまり、 「考える力」とは、経験から「気づく力」とい うことです。 -2- 産業能率大学 情報マネジメント学部 教授 スポーツマネジメント研究所 研究員 長岡 健 【専攻・専門分野】 組織社会学、質的調査法、ワークプ レイス・ラーニング、学習環境デザ イン 【著書】 『ダイアローグ 対話する組織』 (共 著) (2009 年 2 月、ダイヤモンド社) 『企業内人材育成入門:人を育てる 心理・教育学の基本理論を学ぶ』 (共 著) (2006 年 10 月、ダイヤモンド社) ほか 産業能率大学の教授として教鞭を執 るだけでなく、官公庁・行政体や企 業を対象としたビジネス教育の現場 でも指導にあたっている。知識の詰 め込みではなく、主体的に成長する 個人への転換を目的とした研修など、 凝り固まった考え・目線を変える「学 びほぐし」研修や、企業の人事マネ ジャーを対象に「マジメで楽しい対 話」を通じたインテリジェント・サ ロン「イブニング・ダイアローグ@ 代官山」を展開するなど、幅広く活 動している。 VOL.63 「主体性を持ったサッカー選手」を育成 気合いや根性だけではない 「リラックスした雰囲気での対話」で 「考えるサッカー選手」を育成 自分を客観視するために必要な対話による他者の目 自らの経験を振り返りながら主体的に学んでいく「考えるサッカー選手」を 育成するには何をすべきでしょうか。 それには、近年のビジネス界で注目を集める「対話(ダイアローグ)」が役立 つと考えられます。ビジネスパーソンであれ、サッカー選手であれ、自分自身 について振り返るには他者のまなざしが必要です。多くの人は、いきなり「振 り返ってください」と言われても、何をすればいいのか分からず、途方に暮れ てしまうに違いありません。むしろ、自分の経験を他者に話し、それに対して 他者からコメントや問いかけがなされたとき、結果として「ああ、自分は振り 返ることができた」と実感するのではないでしょうか。 特に、意識的な省察に不慣れな人にとって、自分を客観視するのは非常に難 しいものです。このような場合、「さあ振り返れ」と迫るのではなく、リラックスした雰囲気での「マジメで楽し い対話」を通じて自由に思いを巡らす環境をデザインすることが大切です。 ビジネスの分野では「型通りのことを正確に実行する」だけでなく、目の前の状況を読み解き柔軟に考え・行 動することが求められます。その例としては、新規事業に取り組む官公庁の職員を対象に、対話を通じた研修を 通じて、硬直化した思考・行動様式の解きほぐす「学びほぐし」を実施したことなどが当てはまります。また、 現在ビジネス分野の企業の人事マネジャーを対象に「イブニング・ダイアローグ@代官山」という「マジメで楽 しい対話」を実施しています。そこから得られた知見を、同じ「型通りのことを正確に実行する」だけでは一流 選手とは呼べないサッカー選手の育成分野に活用し、 「考えるサッカー選手」の学びをいざなう「対話の場づくり」 に挑戦する試みが『Football Intelligence Boot Camp(FIBC)』と名づけられたワークショップです。 -3- VOL.63 「主体性を持ったサッカー選手」を育成 実施例 『Football Intelligence Boot Camp』 産業能率大学サッカー部での実施例 「考えるサッカー選手」の育成を支援する3種類の活動 ◆リラックスした雰囲気の中で古い「学習観」を解きほぐす レゴブロックを使ったグループワーク、コミュニケーション・ゲーム等、協調学習に取り組み、 「学習=知識獲得」とみなす古 い学習観を解きほぐす。 ◆意識的な省察により「自己理解」を深める トップアスリートのドキュメンタリーやインタビュー番組をもとに対話を行い、対話を通じて省察を行う。自分とトップ・ア スリートを対比しながら「自己理解」を深めていく。 ◆組織(チーム)の中での自分「相手の意見を認めつつ自分の考えを主張」 チームの目指す方向性や運営方法について話し合い、 「相手の意見を認めつつ、自分の考えを主張する」という相互理解のプロ セスを体感する。 『Football Intelligence Boot Camp(FIBC) 』とは、関東大学サッカーリーグ入りを目指す産業能率大学サッ カー部の選手を対象に、月1回のペースで開催されているワークショップです。ここでは、 「考えるサッカー選手」 =「主体的に学ぶ姿勢を持つサッカー選手」の育成を支援するために、上の3つの種類の活動を中心にした学習環境 がデザインされています。 ポイントは、古い学習観を解きほぐすことです。ブートキャンプという名前とは裏腹に、ただの「お遊び」と誤解 されてしまいそうな活動を中心に据えているのは、 「マジメで楽しい対話」の意義を感じ取ってもらうことが何より も大切だと考えているからです。 たしかに一流の実践者(プレイヤー)になるには、修羅場経験を踏むことが重要です。しかし、それだけで深く学 ぶことはできません。困難に立ち向かうハードシップだけでなく、リラックスした雰囲気の中、真剣なテーマについ て自由に話し合える場が必要だという認識を、多くの人材開発研究者が持っています。これは、 「困難を克服してい く過程での様々な経験」と「硬直化した思考・行動様式を解きほぐす、マジメで楽しい対話的省察」の両輪によっ て、経験からの学びが促進されていくということでもあります。 FIBCという「対話の場」に1年半参加したサッカー部の選手達は、徐々にではありますが、古い「学習観」を 解きほぐすことができてきているようです。 -4- VOL.63 「主体性を持ったサッカー選手」を育成 【資料】 産業能率大学スポーツマネジメント研究所 産業能率大学の付属施設。 スポーツ分野にマネジメントを適用するという観点から、スポーツビジネスに関する様々な活動を通じて 実証研究を行い、学生教育にその成果を還元するとともに、わが国におけるスポーツマネジメント研究の 発展に資することを目的として活動を行っています。 設 立 :2007 年 10 月 所 長 :宮内 ミナミ・情報マネジメント学部長 研究員 :渡辺 隆嗣 ・情報マネジメント学部教授 長岡 健 ・情報マネジメント学部教授 中川 直樹 ・情報マネジメント学部准教授 木村 剛 ・情報マネジメント学部准教授 小野田 哲弥・情報マネジメント学部准教授 客員研究員:川合 俊一 ・日本ビーチバレー連盟 会長 ㈱ケイ・ブロス代表 川合 庶 ・日本バレーボール協会ビーチバレー強化委員会 副委員長 産業能率大学 情報マネジメント学部兼任講師 産業能率大学 女子ビーチバレー部 ヘッドコーチ 水谷 尚人 ・㈱ SeaGlobal 代表取締役 産業能率大学 情報マネジメント学部 兼任講師 西野 努 ・㈱ SeaGlobal 取締役 産業能率大学 客員教授 中島 靖弘 ・NPO 法人湘南ベルマーレスポーツクラブ トライアスロンチーム ヘッドコーチ 産業能率大学 情報マネジメント学部 兼任講師 安藤 美佐子・NPO 法人湘南ベルマーレスポーツクラブ ソフトボールチーム 監督 産業能率大学 情報マネジメント学部 兼任講師 -5-
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