2016/04/27【応用言語学演習Ⅱa】 論文紹介③ 人文学類 4 年 Tomoko, O. Oh, S. Y. (2001). Two types of input modification and EFL reading comprehension: Simplification versus elaboration. TESOL Quarterly, 35, 69–96. 言語習得研究では目標言語 (target language※1) に関するどんな経験が言語獲得に影響するかが議論されてきた 第一言語 (First Language; L1) や第二言語 (Second Language; L2) 学習には言語の input※2 が重要であるとされ、 input の役割や、学習者の理解に影響を与える input についてこれまで研究されてきた INPUT MODIFICATION 学習者に与える input としてのテキスト修正は次の 2 タイプに分類できる 【Simplification】複雑な語彙や統語が少ない形式 (→短い語、単純な統語・語彙、複雑な要素の削除 等) 【Elaboration】なじみのない言語が余剰性・明示性に緩和される形式 (→言い換え、談話標識、主張の重複 等) Modification in Written Input これまでの研究では simplification が主に扱われ、修正の効果が報告されているが、研究の中には simplification と elaboration を混同しているものもある Problems With Simplification また simplification には次のような短所が挙げられる (1) 限定された語による短文・単純文は不自然で、authentic※3 な目標言語本来のテキストと極めて異なっている (2) 学習者は simplification によって削除された語にいずれ遭遇するため、その機会を奪うことはいかがなものか (3) 修正されていないテキストに対して、不適切となるような読解方略を学習者が発達させかねない (4) 情報の関係性を示す箇所の削除によりテキストの結束性※4 が失われ、読み手の推論や理解に問題が生じる Learner Proficiency テキストの修正だけでなく、テキストと読み手の熟達度も重要な問題として挙げられる 修正の効果が熟達度の低い学習者にみられた研究もあれば、熟達度の高い学習者にみられた研究もある Research Questions (1) テキスト修正 (Elaboration/Simplification) により、学習者は多肢選択テスト※5 で好成績を修めるか (2) Elaboration の読者は Simplification の読者に比べより良いテキスト理解をするか (3) 全体的なテキスト理解において、テキスト修正と学習者の英語熟達度の交互作用※6 は見られるか (4) アンケートにおいて、修正テキストの読者は未修正テキストの読者よりも高い理解を示すか ※1 target language (TL): 学習者が学んでいる・学ぼうとする言語で、L2 習得の分野では L2 言語のことを指す ※2 input: 学習者が聞いたり読んだりする言語のこと ⇔output: 話したり書いたりして学習者が作り出した言語のこと ※3 authenticity: 真正性; 本物らしさのこと ※4 結束性 (cohesion): テキスト内の要素 (語や句) が別の要素に依存して解釈されるときの結びつきのこと ※5 多肢選択テスト: 選択肢の中から解答を選ぶ形式のテスト ※6 交互作用: それぞれの変数を組み合わせた場合の複合的な効果のこと 1 METHOD Participants 協力者は韓国の高校生 430 名で、4 年以上 EFL※7 を学習している EFL 学習者 Nationwide Sample Test※8 により学習者を熟達度別に High Proficiency (HP) と Low Proficiency (LP) に二分した さらに 3 テキスト [Baseline (B), Simplified (S), Elaboration (E)] と熟達度を合わせた 6 つの協力者群を作成した Instruments Reading Passages Fluency in English and Developing Skills (Alexander, 1967) より 6 パッセージを選定 読解タスクにおけるスキーマ※9 の影響を最小限にするため背景知識※10 の影響の少ないパッセージを選んだ Modified Reading Passages テキスト修正の効果を調査するため 3 つのテキスト [Baseline (B), Simplification (S), Elaboration (E)] を使用した 【Baseline】オリジナルテキスト 【Simplification】①低頻度語※11→高頻度語の使用 ②コロケーション※12 や熟語→同義語一語に置換 【Elaboration】①低頻度語は同義語や言い換え表現を付加し情報を補完 Reading Comprehension Test テキスト理解度を測るために 18 項目 (3 項目×6 パッセージ) から成る多肢選択問題を設定 学習者の理解プロセスを測るため 3 つの理解問題 (general/specific /inferential comprehension) を設けた 【General Comprehension】メインアイデアを問うような問題 (e.g, 適切なタイトルや作者の態度を判断させる) 【Specific Comprehension】テキストの明示情報に注意を向けさせ情報の真偽を問う問題 【Inferential Comprehension】テキストからの示唆を問う問題 PROCEDURES Pilot Studies 本実験前に 105 名を対象に 2 つの予備調査を行い、使用するテキストの語彙や難易度を確認した Main Study 325 名の協力者を対象に、50 分のセッションで実験が行われ、3 冊の冊子 (B, S, E) が使用された 協力者は 6 パッセージの短い文章を読んだ後、多肢選択問題 (解答中テキスト参照可) に解答した また「テキストを何%理解できたと思いますか」というアンケートに回答した Data Analysis データは協力者の熟達度とテキストタイプにより、6 群 (HP-B, HP-S, HP-E, LP-B, LP-S, LP-E) に分類された 統計分析のため各群からランダムに 30 名のデータが採集され合計 180 名のデータが分析に使用された ※7 EFL (English as a Foreign Language): 外国語としての英語 (cf., ESL; English as a Second Language) ※8 Nationwide Sample Test: 韓国の大学入試に向けて高校生が受験する国家テスト ※9 スキーマ (schema): 読み手がすでに持っている知識 ※10 背景知識 (background knowledge): テキスト読解の際に、テキストのトピックや内容に関連して読み手が既に持っている知識 ※11 低頻度語: 使用頻度の少ない単語 ⇔高頻度語 ※12 コロケーション (collocation): 2 つ以上の単語が慣用的に狂喜する、語と語の結びつき、または語句のこと 2 Memo テキスト: Baseline (B) 無修正 / Simplification (S) 単純修正 / Elaboration (E) 精緻化修正 協力者: High Proficiency (HP) 熟達度上位群 / Low Proficiency (LP) 熟達度下位群 RESULTS Effects of Modification Type and Learner Proficiency on Reading Comprehension 理解テストの平均点は、HP 群は [S > E > B] に、LP 群は [E > S > B] となった 結果より ①熟達度とテスト成績に強い関係性があること ②修正テキストに有意な効果があること ③熟達度 と修正タイプ間に有意な交互作用が見られないこと が明らかとなった Interaction of Modification Type and Item Type General Comprehension に関して、HP 群は [S > E > B]、LP 群は [E≒S≒B] という成績であった Specific Comprehension に関して、熟達度に関わらず [E > B] となり、特に HP 群については [S > B] となった Inferential Comprehension に関して、熟達度に関わらず [E > S > B] となった Effects of Modification Type and Learner Proficiency on Perceived Comprehension 熟達度に関わらず、アンケートでのテキストを理解できたという認識は [S > E > B] の順になった DISCUSSION Effect of Modification Type on Overall Reading Comprehension 全体的に無修正のテキストよりも Elaboration で好成績となり、さらに HP 群は有意に [S > B] となった (RQ1) Elaboration と Simplification の影響の違いは有意には見られなかった (RQ2) Effect of Simplification Simplification は学習者の全体的な読解に貢献したが、LP 群については統計的な有意な影響は見られなかった LP 群はテキストタイプに関わらず全体的な理解を構築する能力が乏しいため、効果が有意にみられなかった Effect of Elaboration Elaboration は HP/LP 群双方に対して全体的なテキスト理解に寄与し、HP 群では Simplification とほぼ同等の効 果を、LP 群では [E > S] という結果になった 繰り返しや談話標識を付加しテキストを詳しく明確なものにすることで、読み手はテキスト内の重要な情報を 有効活用することができ、多少言語的な複雑さがあってもテキストをより良く理解することが出来る Effect of Learner Proficiency on Reading Comprehension 同じテキストを読んだ協力者間の比較から、常に [HP 群 > LP 群] の理解度が示された L2 読解では学習者の熟達度が重要な役割を果たし、熟達度が高くなるほどより良く理解できると言える Interaction of Modification Type and Learner Proficiency 全体的なテキスト理解において、テキスト修正と学習者の熟達度の交互作用は見られなかった (RQ3) しかし HP 群の方が顕著にテキスト修正の効果を示していることから、テキスト修正は熟達度の高い学習者によ り影響を与え、言語知識が不十分な LP 群には HP 群ほど顕著な効果が見られないことが示唆された 3 CONCLUSION (1) Simplification は協力者のテキスト理解を向上させたが、LP 群に関しては統計的な効果はみられなかった (2) Elaboration は熟達度に関わらず読み手の理解を高めた (3) 熟達度によらず、Simplification と Elaboration の効果の違いは有意に出なかった (4) テキスト修正と学習者の熟達度に交互作用は見られなかった (5) テキスト修正と理解の段階には関係が見られた →S,E 修正が General, Specific Comprehension に、E のみが Inferential Comprehension に影響を与えた (6) アンケートにおいて協力者は修正ありのテキストにおいて理解度が高かったと認識していた (7) 熟達度の低い EFL 学習者にも自然な文脈で与えることが出来る Elaboration の効果が今回示唆された 4
© Copyright 2024 Paperzz