LNG 海上輸送の動向

LNG 海上輸送の動向
2015 年 6 月
公益財団法人
日本海事センター
目次
1. はじめに ........................................................................................................ 1
2. 天然ガス・LNG 輸送の概要 .......................................................................... 1
2-1. 天然ガスの概要 ....................................................................................... 1
2-2. LNG 輸送の概要 ...................................................................................... 3
3. LNG 輸送の動向 ............................................................................................ 4
3-1. 天然ガス需給動向 ................................................................................... 4
3-2. LNG 貿易動向 ......................................................................................... 8
3-3. LNG 船市況動向 .................................................................................... 12
3-4. 日本の LNG 船隊の動向 ....................................................................... 13
4. 今後の展望................................................................................................... 17
4-1. 新規プロジェクトの動向 ...................................................................... 17
4-2. LNG トレードの多様化 ......................................................................... 20
4-3. 上中流への進出 ..................................................................................... 22
5. まとめ .......................................................................................................... 23
[参考資料] .................................................................................................... 24
図表一覧
図 1
図 2
図 3
図 4
図 5
図 6
図 7
天然ガス・石油・石炭の二酸化炭素排出量等 .................................. 1
発電電力量の推移(一般電気事業用) ............................................ 2
都市ガス用途別販売量(2012 年度) ………………………………….2
天然ガスの輸入先(2012 年度) ..................................................... 2
天然ガスの生産から消費までの流れ ................................................ 3
LNG 船のタンク方式 ....................................................................... 4
世界の一次エネルギー消費量の推移 ................................................ 4
図
図
図
図
図
図
図
図
図
8 天然ガスの確認埋蔵量と可採年数.................................................... 5
9 主要国・地域別天然ガス生産量の推移 ............................................ 6
10 主要国・地域別天然ガス消費量の推移 .......................................... 6
11 天然ガスの需要予測 ....................................................................... 7
12 天然ガス貿易量の推移 ................................................................... 8
13 LNG の主要貿易フロー(2013 年) .............................................. 9
14 主要国の LNG 輸出量の推移.......................................................... 9
15 主要国の LNG 輸入量の推移........................................................ 10
16 天然ガス価格の推移 ..................................................................... 11
図
図
図
図
図
図
図
図
図
17
18
19
20
21
22
23
24
25
短期(4 年未満)・スポット契約による LNG 貿易量の推移 ........ 11
短期(4 年未満)・スポット契約による LNG 貿易量(2013 年) 11
LNG 船船腹量の推移 ................................................................... 12
契約期間別 LNG 船用船料(各年平均)の推移 ........................... 13
日本の LNG 船保有船腹量 ........................................................... 14
主要船主別 LNG 船船腹量の推移 ................................................ 14
実質船主国別 LNG 船船腹量の推移 ............................................. 15
主要船主別 LNG 船船腹量(2014 年 7 月初め現在) .................. 15
日本寄港 LNG 船に占める日本企業関与船の割合(2014 年) .... 16
図
図
図
図
図
図
図
26
27
28
29
30
31
32
各国の天然ガス液化プラント年間処理能力(2014 年末時点) ... 17
豪州における主な新規 LNG プロジェクト .................................. 18
米国における主な新規 LNG プロジェクト .................................. 18
主要国・地域における LNG 輸出量 ............................................. 19
主要国・地域における天然ガスの純輸出入量 .............................. 19
LNG トレードの多様化................................................................ 21
LNG 受入基地の年間処理能力 ..................................................... 22
1. はじめに
近年、国際海運分野では米国シェール革命による天然ガスの生産拡大や国際
的な需要増大による液化天然ガス(LNG: Liquefied Natural Gas)の輸送需要
増加を見越した LNG 船の発注が進められている。本報告書では、成長分野とし
て注目を集める LNG 輸送の動向を整理するとともに、今後の展望について考察
する。
2. 天然ガス・LNG 輸送の概要
2-1. 天然ガスの概要
天然ガスはメタン(CH4)を主成分とする可燃性ガスであり、他の化石燃料(石
油、石炭)と比べて二酸化炭素(CO2)、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)
の排出量が少ないクリーンエネルギーである(図 1 参照)。
図 1 天然ガス・石油・石炭の二酸化炭素排出量等
石炭 100
石炭 100
石炭 100
石油 70
石油 70
天然ガス 40
天然ガス 0
石油 80
天然ガス 60
二酸化炭素(CO2)
窒素酸化物(NOx)
硫黄酸化物(SOx)
(注)石炭を 100 とした場合の排出量比較(燃焼時)
(出典)資源エネルギー庁『エネルギー白書 2010』
資源エネルギー庁によれば、日本では天然ガスの約 7 割が発電用、約 3 割が
都市ガス用に使われている。発電電力量の推移を見ると(図 2 参照)、1970 年代
のオイルショック以降は石油の代替エネルギーとして、また、2011 年以降は原
子力の代替エネルギーとして LNG の利用比率が高まっていることが分かる。都
市ガスの用途別販売量は、2000 年頃までは家庭用が最大シェアを占めていたが、
近年は工業用が増加しており、2012 年度は全体の 52%が工業用となっている
(図 3 参照)。
常温・常圧では気体である天然ガスを輸送するためには、気体のままパイプラ
インで移送するか、マイナス 162℃に冷却・液化して LNG 船で輸送するか、い
ずれかの方法がとられる。日本では新潟県、千葉県、北海道、秋田県などで国産
天然ガスが生産されているが、大部分は海外から LNG という形で輸入してい
1
る。2012 年度の LNG 輸入量は 8,687 万トンで輸入比率は 97.2%である。
日本の LNG 輸入量の 7 割以上は豪州や東南アジアなど中東以外の地域で占
められており、中東依存度は 28.6%(図 4 参照)と石油の同比率(2012 年度は
83.2%)と比べて低い。天然ガスの確認埋蔵量も中東地域は 43.2%と石油の
47.9%より低く、天然ガスは地政学的リスクの少ない、供給安定性に優れたエネ
ルギーであるといえる。
図 2 発電電力量の推移(一般電気事業用)
(億kWh)
12000
10000
8000
6000
新エネ等
揚水
石油等
LNG
一般水力
石炭
原子力
新エネ等 1.6%
揚水 0.9%
石油等 18.3%
LNG 42.5%
4000
一般水力 7.5%
2000
原子力 1.7%
1952
1955
1960
1965
1970
1971
1972
1973
1974
1975
1976
1977
1978
1979
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
0
石炭 27.6%
(年度)
(注)グラフ右の数字は 2012 年度のシェア。
(出典)資源エネルギー庁『エネルギー白書 2014』
図 3 都市ガス用途別販売量(2012 年度)
その他用
126(8%)
図 4 天然ガスの輸入先(2012 年度)
UAE
6.4%
(単位:1015J)
オマーン イエメン
4.4% 0.3%
豪州
19.6%
カタール
17.6%
家庭用
410(27%)
中東
28.6%
総輸入量
8,687万t
工業用
796(52%)
商業用
188(13%)
その他
3.8%
中東以外
マレーシア
16.4%
71.4%
赤道ギニア
ロシア
3.3%
ナイジェリア インドネシア ブルネイ
9.6%
5.2%
6.6%
6.8%
(出典)図 3 と図 4 はいずれも資源エネルギー庁『エネルギー白書 2014』を基に作成
2
2-2. LNG 輸送の概要
LNG を輸送するためには、ガス田や油田などで採掘された天然ガスをパイプ
ラインで液化基地に移送し、不純物の除去など必要な前処理を経た上で、マイナ
ス 162℃に冷却・液化してタンクに貯蔵し、船積みするという工程が踏まれる
(図 5 参照)。LNG 船で輸送した LNG は、受入基地のタンクに貯蔵され、再ガ
ス化(再気化)した後、発電所燃料や都市ガスとして消費される1。
図 5 天然ガスの生産から消費までの流れ
【液化基地】
ガス
ガス田
油田
など
パ
イ
プ
ラ
イ
ン
前処理
装置
液化
プラント
【海上輸送】
出荷用
貯蔵
タンク
LNG 船
【受入基地】
受入用
貯蔵
タンク
再ガス
化装置 パ
消費
イ
プ
ラ
イ
ン
(出典)JX 日鉱日石エネルギーホームページを基に作成
(http://www.noe.jx-group.co.jp/binran/part06/chapter03/section03.html)
LNG 輸送は 1959 年に Methane Pioneer 号が 2,000 トンの LNG を米国ルイ
ジアナ州レイク・チャールズから英国キャンベイ島に輸送したのが世界初であ
り、日本では 1969 年に 7 万 1,500 ㎥型の Polar Alaska 号が米国アラスカ産の
LNG を横浜根岸基地に輸送したのが最初である2。
LNG は超低温の液体であるため、LNG 船には防熱機能があり、ガス漏洩を
防止できる特殊なタンクが備え付けられている。タンク方式としてはモス型、メ
ンブレン型など様々なタイプが開発されており(図 6 参照)、船型もかつてはタ
ンク容量 12 万 5,000 ㎥型の LNG 船が主流であったが、現在では大型化が進み
14 万 5,000-17 万 7,000 ㎥型が標準的な船型となっている。
LNG は超低温であり、また、天然ガスを液化すると容積は約 600 分の 1 に圧
縮されるため、積卸し時や輸送時には適切な温度管理や圧力調整が必要となる。
このため、LNG 輸送には高い安全管理技術が求められる。
化学肥料の原料として利用される場合もある。LNG プロジェクトの概要や LNG の生産
から消費に至るまでの工程等については JX 日鉱日石エネルギー『石油便覧』
(http://www.noe.jx-group.co.jp/binran/part06/chapter03/index.html)が分かりやすい。
2 臼井潔人「海の物流システム革新事例:商船の変遷史(10)LNG 船/船型と受け入れ基
地標準化で貿易振興」
『日本海事新聞』(2013 年 3 月 25 日付)
、日本郵船 LNG 船運航研究
会『LNG 船運航の ABC』
(成山堂書店、平成 18 年)25 頁。LNG 船を着想したのはシカ
ゴの食肉業者であったとの糸山博士の解説も面白い。糸山直之『LNG 船がわかる本(新
訂版)
』
(成山堂書店、平成 24 年)38-39 頁。
1
3
図 6 LNG 船のタンク方式
【メンブレン型】
【モス型】
“LNG Pioneer”
“Al Wakrah”
(写真提供)商船三井
3. LNG 輸送の動向
3-1. 天然ガス需給動向
BP によれば、2013 年の世界の天然ガス消費量は 3.3 兆㎥(石油換算で 30 億
トン)であり、一次エネルギー消費量(同 127 億トン)の 24%を占める(図 7
参照)
。世界の一次エネルギー消費量は 1965 年から年平均 2.6%の割合で増加
しているが、天然ガス消費量の年平均増加率は 3.5%であり、石油や石炭(いず
れも 2.1%)と比べて高い。天然ガスは石油や石炭と比べて燃焼時の環境負荷が
低く、埋蔵量も豊富であることから新興国を中心に需要は堅調に伸びると予測
される。
図 7 世界の一次エネルギー消費量の推移
(石油換算 億トン)
140
2013 年の合計:127
120
3[2%]
9[7%]
6[4%]
再生可能エネルギー
水力
100
原子力
38[30%]
80
60
石炭
40
天然ガス
20
30[24%]
石油
42[33%]
0
1965
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
(注)グラフ右の数字は 2013 年の内訳(括弧内は同シェア)
。
(出典)BP, Statistical Review of World Energy 2014 を基に作成
4
2005
2010
(年)
世界の天然ガスの確認埋蔵量3は 2013 年末で 185.7 兆㎥であり、地域別シェ
アは中東が 43.2%、欧州・旧ソ連圏が 30.5%と高く、国別シェアではイラン
(18.2%)
、ロシア(16.8%)、カタール(13.3%)、トルクメニスタン(9.4%)、
米国(5.0%)の順に高い(図 8 参照)。2013 年末時点の可採年数(確認埋蔵量
/年間生産量)は 55.1 年であり、石油の 53.3 年より若干長い。
図 8 天然ガスの確認埋蔵量と可採年数
(年)
70
(兆㎥)
200
その他アジア・
大洋州
2.9%
中国
インドネシア
1.8%
1.6%
米国
5.0%
豪州
2.0%
アジア・大洋州
180
アフリカ
中東
68
欧州・旧ソ連
160
中南米
66
北米
140
可採年数
その他
アフリカ
2.5%
64
120
62
100
60
80
58
60
56
40
54
20
52
0
50
メキシコ
0.2%
カナダ
1.1%
ベネズエラ
3.0%
トリニダード・
トバゴ
0.2%
ナイジェリア
2.7%
アルジェリア
2.4%
その他
中南米
0.9%
その他中東
4.0%
UAE 3.3%
サウジアラビア 4.4%
確認埋蔵量
185.7 兆㎥
(2013 年)
ロシア
16.8%
トルクメニスタン
9.4%
カタール
13.3%
イラン
18.2%
その他欧州・
旧ソ連
4.2%
1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012
(出典)BP, Statistical Review of World Energy 2014 を基に作成
天然ガスの生産量と消費量は、いずれも 2009 年には世界的な景気後退で落ち
込みを見せたものの、2000 年以降は堅調に伸びており、地域別で見ると、欧州・
旧ソ連圏、北米、中東及びアジア・大洋州の占める割合が大きい(図 9 及び図
10 参照)。
2013 年の生産上位 5 カ国は米国(6,876 億㎥、シェア 21%)、ロシア(6,048
億㎥、同 18%)、イラン(1,666 億㎥、同 5%)、カタール(1,585 億㎥、同 5%)、
カナダ(1,548 億㎥、同 5%)であり、消費上位 5 カ国は米国(7,372 億㎥、同
22%)、ロシア(4,135 億㎥、同 12%)
、イラン(1,622 億㎥、同 5%)、中国(1,616
億㎥、同 5%)、日本(1,169 億㎥、同 4%)である。
3
「技術的に回収可能な資源量」のうち、90%以上の回収可能性があるものを「確認埋蔵
量」と呼ぶのが一般的とされる。岩瀬昇『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?』(文春
新書、2014 年)88-89 頁。
5
図 9 主要国・地域別天然ガス生産量の推移
(10億㎥)
3,500
アジア・
大洋州
14.5%
アフリカ
6.0%
3,000
2,500
中東
16.8%
2,000
欧州・
旧ソ連
30.6%
1,500
中南米
5.2%
1,000
500
北米
26.9%
トルクメニスタン・ウズベキスタン
ノルウェー・オランダ・英国
ロシア
その他中南米
アルゼンチン・ブラジル
トリニダード・トバゴ
メキシコ
カナダ
米国
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
0
その他アジア・大洋州
豪州
マレーシア
インドネシア
中国
その他アフリカ
ナイジェリア
エジプト
アルジェリア
その他中東
サウジアラビア
カタール
イラン
その他欧州・旧ソ連
(年)
(出典)BP, Statistical Review of World Energy 2014 を基に作成
図 10 主要国・地域別天然ガス消費量の推移
(10億㎥)
その他アジア・大洋州
3,500
インド
アジア・
大洋州
19.0%
アフリカ
3.7%
中東
12.8%
3,000
2,500
韓国
日本
中国
その他アフリカ
アルジェリア
エジプト
その他中東
2,000
欧州・
旧ソ連
31.7%
1,500
サウジアラビア
イラン
その他欧州・旧ソ連
トルクメニスタン・ウズベキスタン
中南米
5.0%
1,000
英独仏伊トルコ
ロシア
その他中南米
北米
27.8%
500
アルゼンチン・ブラジル
メキシコ
カナダ
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
0
(年)
(出典)BP, Statistical Review of World Energy 2014 を基に作成
6
米国
天然ガスの需要は今後も堅調に伸びると予測されており、年平均増加率は 2%
前後で推移するとの見方が多い。例えば、国際エネルギー機関(IEA)の予測で
は 2012/2040 年の年平均増加率は 1.6%、BP の予測では 2012/2035 年の年平均
増加率は 1.9%、日本エネルギー経済研究所(IEEJ)の予測では 2012/2040 年
の年平均増加率は 1.9%となっている(図 11 参照)。2014 年 11 月に開催された
「LNG 産消会議 2014」では、エクソンモービルが 2025 年にかけての年平均増
加率を 2.4%、トタールが 2030 年にかけての年平均増加率を 2%と予測してい
る4。
図 11 天然ガスの需要予測
(10億㎥)
6,000
5,000
IEA
BP
IEEJ
4,000
3,000
2,000
1,000
0
2012
2020
2030
2035
2040
(年)
(注)IEA は New Policies Scenario、IEEJ はレファレンスケースの下での予測値。
(出典)IEA, World Energy Outlook 2014、BP, World Energy Outlook 2014、日本エネルギー
経済研究所『アジア・世界エネルギーアウトルック 2014』を基に作成
天然ガスは生産国で消費される割合が高く、2013 年の貿易量は 1 兆 359 億㎥
と全消費量の約 3 分の 1 となっている。
貿易量の約 7 割はパイプラインによるもので、2013 年は 7,106 億㎥となって
いる。この内、ロシアから欧州及び旧ソ連諸国(ウクライナ、ベラルーシなど)
向けが 2,113 億㎥、ノルウェーやオランダなどを供給源とする欧州域内トレー
ドが 1,927 億㎥、米国、カナダ、メキシコ間のトレードが 1,233 億㎥と多い。
LNG 貿易量は 3,253 億㎥(LNG 換算で約 2.4 億トン)で天然ガス貿易量の約
3 割、同消費量の約 1 割であるが、過去 10 年間の年平均伸び率はパイプライン
貿易の 4.6%に対して、LNG 貿易は 6.8%と高い5(図 12 参照)。LNG 貿易の今
後の伸び率は年平均 4-6%前後で推移するとの見方が多く、例えば、BP の予測
では 2012/2035 年の年平均増加率は 4%、IHS-CERA レポートを参考に日本郵
船が集計した予測値では 2013/2035 年の年平均増加率は 3.8%、トタールの予
LNG 産消会議 2014 関連資料は http://www.lng-conference.org/からダウンロード可能。
要因として 2009 年以降のカタールからの輸出量の急増(図 14 参照)が背景にあると考
えられる。
4
5
7
測では 2013/2030 年の年平均増加率は 5%、シェニエール・エナジーの予測で
は 2015/2025 年の年平均増加率は 6%となっている6。
図 12 天然ガス貿易量の推移
(億㎥)
12,000
10,000
パイプライン貿易量
LNG貿易量
8,000
6,000
4,000
2,000
0
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 (年)
(出典)BP, Statistical Review of World Energy(各年版)を基に作成
3-2. LNG 貿易動向
国際 LNG 輸入者協会(GIIGNL)によれば、2013 年の LNG 輸出上位 5 カ国
はカタール(7,802 万トン、シェア 33%)、マレーシア(2,514 万トン、同 11%)、
豪州(2,241 万トン、同 9%)、インドネシア(1,836 万トン、同 8%)、ナイジェ
リア(1,647 万トン、同 7%)であり、輸入上位 5 カ国は日本(8,798 万トン、
同 37%)、韓国(4,039 万トン、同 17%)、中国(1,860 万トン、同 8%)、イン
ド(1,305 万トン、同 6%)、台湾(1,272 万トン、同 5%)である。図 13 は LNG
の主要貿易フローを示したものであるが、同図より、主要供給地である中東、東
南アジア、アフリカ及び豪州から、主要消費地である東アジアと欧州に輸出され
る構図が見て取れる。
BP 統計を基に過去 10 年間の LNG 貿易動向を見てみると、供給サイドでは
以下の特徴が挙げられる(図 14 参照)。中東ではカタールが 2009 年頃から急激
に輸出量を増加させており、豪州も堅調に輸出量を伸ばしている。東南アジアで
はマレーシアが増加傾向にあるが、ブルネイは横ばい、インドネシアは減少傾向
にある。アフリカでは元々、主要供給国であったアルジェリアが輸出量を減少さ
せる一方、ナイジェリアは 10 年間で倍増させている。このほか、大西洋ではト
リニダード・トバゴが輸出量を堅調に伸ばしており、また、ロシアやイエメンと
いった新たな供給国も登場している。
需要サイドでは、圧倒的シェアを誇る東アジアで伝統的に輸入が多い日本、韓
国及び台湾が堅調に輸入量を増加させているが、近年は 2006 年に輸入を開始し
BP の予測値は Energy Outlook 2035、日本郵船の予測値は『NYK Fact Book I 2014』
、
トタールとシェニエール・エナジーの予測値は LNG 産消会議 2014 の資料に基づく。
6
8
た中国の伸びの大きさが目を引く(図 15 参照)。同様に新興国として成長著し
いインドも 2004 年の輸入開始以降、輸入量を大きく増やしている。欧州は 2011
年まで増加傾向にあったが、景気低迷などの影響により、2012 年と 2013 年は
いずれも前年比減を記録している。
図 13 LNG の主要貿易フロー(2013 年)
世界合計: 237
その他
3
スペイン
イタリア
9
欧州
4
輸入
トルコ
34
4
英国
7
フランス
6
15
ロシア
輸出
11
17
12
アブダビ
イエメン 5
7
オマーン
8
中東
中国
19
62
ギニア
アフリカ
4
輸出
34
アルジェリア ナイジェリア
11
16
台湾
13
東アジア
輸入
160
韓国
輸出
98
その他
赤道 3
11
インド
輸入
13
40
ペルー 4
日本
88
中南米 トリニダード・
輸出 トバゴ 14
18
カタール
78
ブルネイ
7
13
48
22
東南
アジア
輸出 51
インドネシア
18
マレーシア
25
[単位:百万トン]
豪州
輸出
22
11
その他
アルゼンチン
2
5
チリ 中南米
輸入
3
13
ブラジル 4
(注)再輸出を含む。円グラフの大きさは輸出入量と必ずしも比例しない。
(出典)GIIGNL, The LNG Industry 2013 を基に作成
図 14 主要国の LNG 輸出量の推移
(万トン)
9,000
カタール
8,000
マレーシア
7,000
豪州
6,000
インドネシア
ナイジェリア
5,000
トリニダード・トバゴ
4,000
アルジェリア
3,000
ロシア
オマーン
2,000
イエメン
1,000
ブルネイ
0
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 (年)
(出典)BP, Statistical Review of World Energy(各年版)を基に作成
9
図 15 主要国の LNG 輸入量の推移
(万トン)
9,000
日本
8,000
韓国
7,000
中国
6,000
インド
台湾
5,000
スペイン
4,000
英国
3,000
フランス
メキシコ
2,000
アルゼンチン
1,000
欧州
0
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013 (年)
(注)欧州はスペイン、英国、フランス、トルコ、イタリア及びベルギーの合計。
(出典)BP, Statistical Review of World Energy(各年版)を基に作成
更に特筆すべき特徴として、2009 年以降、アジア、欧州及び北米間における
天然ガスの価格差の拡大(図 16 参照)を背景に、短期(4 年未満)
・スポット契
約による取引が増加しており、2013 年は約 6,500 万トンと LNG 貿易量の 27%
を占めるに至っている点が挙げられる7(図 17 参照)。これら短期・スポット契
約による取引量は、輸出国ではカタール、ナイジェリア、トリニダード・トバゴ、
輸入国では東アジア、インド、中南米諸国が特に多い(図 18 参照)。さらに、
2010 年以降は欧州(スペインやベルギーなど)を中心に余剰分を中南米やアジ
アに再輸出する動きが拡がっているが(2013 年は 421 万トン)、これらは全て
短期・スポット契約によるものである。
但し、
「現実の LNG 需給を反映した、カーゴ毎かつ指値で取引される「真のスポット取
引」は全体の 1 割に満たない」との指摘がある(LNG 産消会議 2014 の中部電力プレゼ
ン)
。
7
10
図 16 天然ガス価格の推移
(米ドル/百万Btu)
18
日本LNG輸入価格(CIF)
16
ドイツLNG輸入価格(CIF)
14
英国天然ガス価格(Heren NBP Index)
12
米国天然ガス価格(Henry Hub)
カナダ天然ガス価格(Alberta)
10
8
6
4
2
0
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
(注)Btu は英国熱量単位(British thermal unit)の略。
(出典)BP, Statistical Review of World Energy 2014 を基に作成
図 17 短期(4 年未満)・スポット契約による LNG 貿易量の推移
(百万トン)
70
スポット・短期契約のLNG貿易量
60
50
スポット・短期契約の比率(右軸)
40
30
20
10
0
2006年
2007年
2008年
2009年
35%
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
2010年
2011年
2012年
2013年
(出典)GIIGNL, The LNG Industry(2006-2013 年版)を基に作成
図 18 短期(4 年未満)・スポット契約による LNG 貿易量(2013 年)
タイ 145
(2%)
クウェート マレーシア
159 (3%) 150 (2%)
その他
617 (10%)
日本
2,169
(33%)
エジプト
206 ロシア 185
(3%)
(3%)
ノルウェー208
(3%)
台湾331
(5%)
中国 392
(6%)
[単位:万トン]
カタール
2,510
(39%)
その他
608 (9%)
赤道ギニア
234 (3%)
輸入量
6,498万トン
ペルー 241
(4%)
インドネシア
307 (5%)
イエメン 314
(5%)
ブラジル
415 (6%)
アルゼンチン
472 (7%)
インド 554
(9%)
韓国
1,095
(17%)
トリニダード・
トバゴ 772
(12%)
(出典)GIIGNL, The LNG Industry 2013 を基に作成
11
輸出量
6,498 万トン
ナイジェリア
912 (14%)
3-3. LNG 船市況動向
LNG 貿易の拡大に伴い LNG 船船腹量も大幅に増加しており、クラークソン
によれば 2015 年初めの時点で 415 隻(中小船型を含む)、総タンク容量 6,026
万㎥と過去 10 年間で隻数は 2.4 倍、容量は 3 倍となっている(図 19 参照)。特
に 2000 年代半ばから 2008 年頃までの新造発注ブームで船腹量は 2011 年にか
けて急激に増加している。2009 年以降は世界的な景気後退と需給ギャップの拡
大により発注量は減少したが、2012 年頃から再び増え始め、2015 年初めの時点
で発注残は 159 隻 2,530 万㎥と全船腹量の約 4 割を占めるに至っている。
図 19 LNG 船船腹量の推移
(百万㎥)
70
(隻数)
700
船腹量(総容量)
60
発注残(総容量)
600
船腹量(隻数)
50
発注残(隻数)
500
40
400
30
300
20
200
10
100
0
0
Jan-01 Jan-02 Jan-03 Jan-04 Jan-05 Jan-06 Jan-07 Jan-08 Jan-09 Jan-10 Jan-11 Jan-12 Jan-13 Jan-14 Jan-15
(出典)Clarkson Research Services の Shipping Intelligence Network データを基に作成
Drewry によれば、LNG 船短期用船料は 2007 年から 2009 年にかけて大幅に
下落し、その後、上昇に転じて 2012 年には 13 万ドル台にまで達したが、その
後は再び下落傾向にあり、2014 年以降は 5-6 万ドル台と低調に推移している(図
20 参照)
。
当初の下落は米国向け輸送用に発注された新造船がシェール革命に伴う国内
生産量の増加により行き場を失ったことによるものであり、その後の上昇は新
造発注が一服したことによる供給圧力の低下8や原発事故後の日本での需要増、
南米向け長距離トレードの増加、さらに、その後の軟化傾向は 2013 年から加速
した新造船の竣工や欧州での需要減、地域間の価格差の縮小に伴う欧州からア
ジアへのスポットカーゴの減少、新規プロジェクトの遅延などの影響によるも
2010 年秋にマーケットの潮目が変わった背景には、カタールによる大型船係船とマーケ
ットからの標準船の調達があったとの指摘がある。
(船社関係者へのヒアリングによる)
8
12
のと考えられている。
2015 年以降も新造船の投入により弱含みの状態が続くことが予想されるが、
北米や豪州などで新規の LNG 輸出プロジェクトが稼働し、スポット需要が増大
すれば徐々に上向く可能性はあると考えられる。
図 20 契約期間別 LNG 船用船料(各年平均)の推移
(万ドル/日)
14
12
長期(15年以上)
10
短期
8
6
4
2
0
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
(注)2005-06 年は 125-138,000 ㎥型 LNG 船、07 年以降は 140-150,000 ㎥型 LNG 船。
(出典)Drewry Maritime Research, Shipping Insight
3-4. 日本の LNG 船隊の動向
LNG の最大輸入国である日本は世界有数の LNG 船隊を保有する。テックス
レポート『ガス年鑑(2014 年度版)
』によれば、2014 年 9 月時点で日本買主(ガ
ス・電力会社、商社)が保有又は用船する LNG 船は 28 隻 329 万㎥、邦船社の
関与船は、商船三井が 69 隻 981 万㎥(発注残 22 隻 365 万㎥)
、日本郵船が 69
隻 1,012 万㎥(発注残 6 隻 102 万㎥)、川崎汽船が 43 隻 664 万㎥(発注残 4 隻
68 万㎥)
、飯野海運が 26 隻 418 万㎥(発注残ゼロ)となっている9。
LNG 船は投資コストが高く、リスク軽減のため複数の企業による共同保有が
一般的であるため、実質的な保有船腹量を見るためには、各社の持分の割合に応
じて按分計算する必要がある。テックスレポートなど各種情報を基に 2014 年 9
月時点での日本の実質保有船腹量を推計すると、海運企業の保有船腹量は 944
万㎥(世界シェア 16%)、電力・ガス会社の保有船腹量は 161 万㎥(同 3%)、
商社の保有船腹量は 261 万㎥(同 5%)であり、保有隻数は海運企業が 65 隻、
電力・ガス会社は 11 隻、商社は 18 隻に相当すると考えられる(図 21 参照)。
データによって数字に若干のばらつきはあるものの、日本が実質的に所有す
但し、各社ホームページで公表されている 2014 年度第 2 四半期決算説明資料によれ
ば、商船三井の関与船隻数(2014 年 9 月末時点)は 67 隻、日本郵船は同 68 隻となって
いる。
9
13
る LNG 船船腹量は世界最大であり、世界シェアは概ね 2 割前後で推移している
と考えられる(図 22 及び図 23 参照)。一方、企業別では、2014 年 7 月初め時
点での就航船腹量上位 5 社は QGTC(カタール)、MISC(マレーシア)、Teekay
LNG Partners(カナダ)、商船三井、日本郵船の順となっており、今後は発注残
の多いギリシャ船主が船腹量を伸ばすことが予想される(図 24 参照)。
図 21 日本の LNG 船保有船腹量
944万㎥(16%)
[65隻相当]
161万㎥(3%)
[11隻相当]
日本海運
261万㎥(5%)
[16隻相当]
世界合計
5,779 万㎥
[400 隻]
日本電力・ガス
日本商社
海外船主
4,414万㎥(76%)
[308隻相当]
(注)隻数は「船腹量/全世界の一隻当たり平均容量(約 14.4 万㎥)
」で推計。
(出典)テックスレポート『ガス年鑑(2014 年度版)
』、Clarkson Research Services 等
図 22 主要船主別 LNG 船船腹量の推移
(百万㎥)
60
30%
その他海外船主
50
25%
Golar
Bergesen Worldwide
40
20%
Teekay Shipping
MISC
30
15%
QGTC
韓国船主
20
10%
その他日本船主
川崎汽船
10
5%
商船三井
日本郵船
0
0%
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
日本船主のシェア
(右軸)
(注1)2005 年及び 2012-14 年は 3 月期中完工分、2006-11 年は前年 12 月期中完工分まで。
(注2)保有キャパシティは 1 隻に対する共有持分の割合に応じて按分計算がなされている。
(出典)日本郵船『NYK Fact Book I』(各年版)を基に作成
14
図 23 実質船主国別 LNG 船船腹量の推移
(百万㎥)
70
35%
60
30%
50
25%
その他
ナイジェリア
英国
シンガポール
韓国
40
マレーシア
20%
カナダ
30
15%
20
10%
10
5%
ノルウェー
ギリシャ
0
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
カタール
日本
日本のシェア
(右軸)
0%
2015 (年)
(注)各年 1 月 1 日現在の船腹量。2015 年の上位 10 カ国を表示。
(出典)Clarksons Research Services のデータを基に作成
図 24 主要船主別 LNG 船船腹量(2014 年 7 月初め現在)
Qatar Gas Transport Company (Nakilat)[カタール]
MISC[マレーシア]
Teekay LNG Partners[カナダ]
商船三井[日本]
日本郵船[日本]
GasLog[ギリシャ]
BW Gas[シンガポール]
Bonny Gas Transport[ナイジェリア]
Golar LNG[キプロス]
Nakilat, JC[日本・カタール]
Maran Gas Maritime[ギリシャ]
川崎汽船[日本]
Malt LNG[デンマーク]
Knutsen OAS Shipping[ノルウェー]
National Gas Shipping[UAE]
Dynagas LNG[ギリシャ]
BP Shipping[英国]
就航船
Hyundai M.M.[韓国]
発注船
Australia LNG Ship Operating Co.[豪州]
China LNG Shipping[中国]
0
200
400
600
800
(万㎥)
(注1)既存船船腹量の世界上位 20 社を表示。括弧内は船主又は同親会社の本社所在国。
(注2)共有船の場合は船舶管理会社の所有船として計上されているため、本文 15 頁に記載の
関与船の船腹量とは一致しない。
(出典)Clarkson Research Services, LNG Trade & Transport 2014 を基に作成
15
日本の LNG 船は長期輸送契約に従事する「プロジェクト船」が大半と考えら
れ、日本の LNG 輸入において重要な役割を担っている。IHS Sea-Web データ
によれば、2014 年における日本寄港 LNG 船に占める日本企業関与船(日本企
業が持分を有する LNG 船)の割合は船腹量ベースで約 6 割であり、また、日本
海運大手が船舶管理を行う LNG 船の割合は全体の 4 割強を占める。LNG 船で
は安全運航と品質管理が特に重要とされるが、日本の海運大手は 30 年以上の経
験と実績に基づく高い技術力と船舶管理能力を有しており、日本の LNG 輸入に
おいても欠かせない存在となっている。
さらに、日本の海運大手は米国シェールガスの輸入や豪州の新規プロジェク
トに関連した新造発注を進めており、今後も日本の LNG 輸入において重要な役
割を果たすものと考えられる。特にヘンリーハブ価格に基づく米国シェールガ
スの調達は日本が輸入する LNG の価格体系多様化に資する点で大きな意義が
あると考えられ10、同輸入を支える日本海運の存在は日本経済及び国民生活にと
って重要と考えられる。
図 25 日本寄港 LNG 船に占める日本企業関与船の割合(2014 年)
2億156万㎥ (43%)
[延1,323隻]
日本関与船舶
合計
4 億 6,380 万㎥
[延 4,781 隻]
その他の船舶
2億6,224万㎥(57%)
[延3,458隻]
(注)日本寄港 LNG 船の「DWT×換算係数(1.82)×寄港回数」で船腹量を推計。
(出典)IHS Sea-web データ等を基に作成
10
「LNG 市場の構造変革と新たな取引形態の展開」
『海運』(2015 年 4 月号)22 頁。
16
4. 今後の展望
前述のように、LNG 船の短期用船市場は新造船の供給圧力や短期的な需要の
伸び悩みにより、豪州や米国の新規プロジェクトが本格化するまで大幅な回復
は見込めないとの見方が強いが、長期的には LNG 輸送需要は堅調に推移するこ
とが予想され、今後有望な市場としての期待は高いと考えられる。
その中で今後、日本海運が輸送シェアの拡大を図っていく上では、①供給増が
有力視される北米、豪州、アフリカ、ロシアから需要国向けの長期輸送案件をい
かに確保するか、②多様化する LNG トレードにいかに対応していくか、③LNG
サプライチェーンの上中流への進出拡大をいかに図るか、という点が重要にな
ってくるものと考えられる。
4-1. 新規プロジェクトの動向
テックスレポート等によれば、全世界の既存の液化プラントの年間処理能力
は 2014 年末時点で約 3.1 億トン、最終投資決定(FID: Final Investment
Decision)済み又は建設中のものが約 1.5 億トンあり、全世界の LNG 輸出能力
は 2020 年までに約 1.5 倍に増えることが予想される(図 27 参照)
。
特に豪州と米国からの輸出量は大幅に増える可能性が高い。豪州では 2015 年
中にオーストラリア・パシフィック、ゴーゴン及びグラッドストーン、2016 年
にはイクシス、ウィートストーン及びプレリュードの各プロジェクトが生産開
始を予定しており、これらが順調に進めば同国の LNG 輸出能力は年間 3,300 万
トンから 8,600 万トンに拡大することが予想される(図 28 参照)。米国では 2015
年末又は 2016 年にサビンパス、2017 年にコーブ・ポイント、2018 年にキャメ
ロン及びフリーポートの各プロジェクトが開始予定となっており、同国の生産
能力は年間 5,600 万トンに拡大する見込みとなっている(図 29 参照)。
図 26 各国の天然ガス液化プラント年間処理能力(2014 年末時点)
豪州
カタール
米国
インドネシア
マレーシア
ナイジェリア
ロシア
アルジェリア
トリニダード・トバゴ
エジプト
オマーン
赤道ギニア
ブルネイ
パプアニューギニア
イエメン
UAE
アンゴラ
ペルー
ノルウェー
リビア
0
10
20
30
既存
最終投資決定(FID)済み又は建設中
40
50
60
70
80
90
100
(百万トン/年)
(出典)テックスレポート『ガス年鑑(2014 年度版)
』等を基に作成
17
図 27 豪州における主な新規 LNG プロジェクト
Cash Maple
年産能力:200 万トン
開始予定:2019 年
Prelude LNG
年産能力:360 万トン
開始予定:2016-17 年
Gorgon LNG
年産能力:1,560 万トン
開始予定:2015 年
Ichthys LNG
年産能力:840 万トン
開始予定:2016 年
Australia Pacific LNG
年産能力:年 900 万トン
開始予定:2015 年
Browse LNG
年産能力:400-1,200 万トン
開始予定:2020 年
Scarborough LNG
年産能力:600-700 万トン
開始予定:2020-21 年
Wheatstone LNG
年産能力:890 万トン
開始予定:2016 年
Gladstone LNG
年産能力:年 780 万トン
開始予定:2015-16 年
Arrow LNG
年産能力:900 万トン
開始予定:2019 年
Fisherman’s Landing LNG
年産能力:300 万トン
開始予定:未定
FID 済み又は建設中のプロジェクト
計画中のプロジェクト
図 28 米国における主な新規 LNG プロジェクト
Jordan Cove LNG
生産能力:600-900 万トン
開始予定:2019 年
Oregon LNG
生産能力:900 万トン
開始予定:2019 年
Lake Charles LNG
生産能力:1,500 万トン
開始予定:2019-20 年
Magnolia LNG
生産能力:800 万トン
開始予定:2018 年
Golden Pass LNG
生産能力:1,560 万トン
開始予定:2019 年
Cameron LNG
生産能力:1,200 万トン
開始予定:2018 年
Corpus Christi LNG
生産能力:1,350 万トン
開始予定:2018-19 年
FID 済み又は建設中のプロジェクト
計画中のプロジェクト
Freeport LNG
生産能力:1,320 万トン
開始予定:2018-19 年
Cove Point LNG
生産能力:560 万トン
開始予定:2017 年
Elba Island LNG
生産能力:250 万トン
開始予定:2017-18 年
Sabine Pass
生産能力:2,400-2,800 万トン
開始予定:2015 年
(出典)図 28 と図 29 はいずれもテックスレポート『ガス年鑑(2014 年度版)
』等を基に作成
日本を含むアジアの需要家と欧米メジャーはこれらのプロジェクトへの出資
や生産者との売買契約を通じた LNG の調達に動いており、これまでの状況を踏
まえれば、これら両国の新規プロジェクトからアジアにもたらされる LNG は年
間約 8,000 万トン(豪州から約 5,000 万トン、米国から約 3,000 万トン)、その
内、日本企業の購入分は年間約 3,700 万トン(豪州から約 2,000 万トン、米国か
ら約 1,700 万トン)に達すると考えられる。
さらに、豪州と米国を含め、カナダ、モザンビーク、ロシアなどでは、FID に
向けて計画中のプロジェクトが多数ある。特にカナダでは日本企業が参画する
18
LNG カナダ、パシフィック・ノースウェスト、トリトン、オーロラなど多数の
プロジェクトが西岸ブリティッシュ・コロンビア州で計画されており、同国で計
画中の全プロジェクトを足し合わせると年間生産能力は 1 億トンを超える。ま
た、東アフリカのモザンビーク沖合でも年間 1,000-5,000 万トンの生産能力が見
込めるプロジェクトの計画が検討されている。
実際にこれらのプロジェクトが順調に進むかどうかは、原油や石炭価格の動
向、アジア及び欧州における需要国の動向など様々な要因が影響してくるもの
と考えられるが、現時点においては、LNG の長期的な輸送需要は堅調に伸びて
いくとの見方が一般的といえる(「3-1. 天然ガス需給動向」参照)。
国際エネルギー機関(IEA)によれば、2012 年から 2040 年にかけて豪州の
LNG 年間輸出量は約 6,000 万トン、北米は約 5,800 万トン、東アフリカ(モザ
ンビーク、タンザニア)は約 5,000 万トン、ロシアは約 3,900 万トン増えるとさ
れ、また、生産量から需要量を差し引いた年間純輸入量は中国が 1.4 億トン、欧
州 OECD 諸国が 1.3 億トン、インドと東南アジアがそれぞれ 0.5 億トンずつ増
加するとされる(図 30 及び図 31 参照)。欧州や中国などはロシア及び中央アジ
アからのパイプライン輸送分を差し引いて考える必要があるが、IEA の上記予
測を踏まえれば、長期的には豪州、北米、アフリカ及びロシアを供給地とし、ア
ジア及び欧州を消費地とする LNG 輸送が増えていく可能性が高いといえる。
図 29 主要国・地域における LNG 輸出量
(百万トン)
120
100
80
60
40
20
0
2012年
北米
豪州
中東
北アフリカ
西アフリカ
2040年
東アフリカ
ロシア
図 30 主要国・地域における天然ガスの純輸出入量
(百万トン)
300
2012年
200
2040年
100
0
-100
-200
-300
北米
中南米
欧州
OECD
ロシア
中東
北アフリカ
サブサハラ
豪州
中国
日本・韓国
(出典)図 23 と図 24 はいずれも IEA, World Energy Outlook 2014 を基に作成
19
インド
東南アジア
日本の海運大手は豪州と米国の新規プロジェクトに関連した長期用船契約の
受注確保に乗り出しており、既に発注されている 30 隻超の LNG 船の大部分は、
これらのプロジェクトに関連した日本企業向けのものが中心となっている(一
部ロシアのヤマルプロジェクトなど海外向けもある)。今後は欧米メジャー向け
の輸送商談が本格化するといわれており11、計画中のプロジェクトの動向を注視
しつつ、長期輸送案件の積み増しをいかに図っていくかが重要といえる。
特に日本の海運企業は、他の国内海運企業や国内買主(ガス・電力・商社)又
は産ガス国の売主と LNG 船を共有するケースが多く、欧米メジャーや海外買
主、外国の海運企業と組んで LNG 船を共有するケースは相対的に少ないといえ
る。最大輸入国である日本の買主との関係強化は今後も重要となるが、海外案件
の受注拡大を図る上では、海外企業との提携推進という選択肢も場合によって
は有効となる可能性があると考えられる。
4-2. LNG トレードの多様化
近年の LNG トレードの特徴として、生産国及び需要国の増加や変化などを背
景に輸送ルートが多様化している点が挙げられる。2013 年末時点で LNG の輸
出国は 17 カ国、輸入国は 29 カ国であるが、2006 年以降の 7 年間で輸出国は 4
カ国、輸入国は 11 カ国増加している。今後も、新たな供給源からの輸出や供給
地を特定しないポートフォリオ契約の進展などと相俟って、輸送ルートや輸送
パターンが多様化していく可能性があると考えられる。
今後の新たな輸送ルートとして注目されるのが米国発アジア向けのシェール
ガス輸送である(図 32 参照)。特に米国のメキシコ湾岸及び東岸からは、2016
年に開通予定の新パナマ運河経由で輸送される予定となっている。同運河経由
の場合、代替ルートと比べて輸送日数が短縮され、コスト低減が期待されるが、
通航料や混雑状況といった懸念材料も指摘されており12、開通に向けた今後の動
向に注視が必要といえる 。
米国以外では、ロシアのヤマルプロジェクトから夏場に北極海航路を利用し
たアジア向け輸送も予定されている。同航路はスエズ運河経由と比べて輸送日
数の短縮とコスト低減を可能とするものであり、北極海資源の新たな輸送ルー
トとして発展していく可能性がある。また、カナダ西岸や東アフリカからアジア
向けの輸送など、計画中のプロジェクトの進捗状況によって輸送ルートが更に
拡充する可能性がある。
11
「LNG 船商談/海外に主戦場シフト。邦船大手 欧州勢と競争激化」『日本海事新聞』
(2015 年 3 月 17 日付)
12 Hal Brown, “MOL prepares for big impact of Panama Canal on its growing LNG
fleet”, Lloyd’s List, 25 February 2015.
20
図 31 LNG トレードの多様化
北極海航路
ヤマル半島
欧州の需要増
中国・インド・
東南アジアの
需要増
アフリカの
供給増
北米の供給増
シンガポール
の取引ハブ化
新パナマ運河
豪州の
供給増
アジアにおいても LNG トレードにおける変化の兆しが見られる。日本を筆頭
とするアジアの需要家は LNG 調達コスト引き下げを目指し、供給源の多角化や
仕向地制限のない契約拡大を進めているが、こうした状況を背景に、近年は米国
や豪州の新規プロジェクトから仕向地制限のない契約で調達するケース、ある
いは、欧米メジャーとの間でポートフォリオ契約(産地を特定せずに売主が保有
する複数の供給源から購入する契約)を結ぶケースが目立つ。また、アジアでは
原油連動方式から天然ガス需給に基づく値決め方式への移行を図るため、LNG
取引市場の創設に向けた取り組みが進められているが、こうした動きに呼応す
るかのように、シンガポールでは LNG 貯蔵能力の拡張や再輸出が可能な「オー
プンアクセス」方式の導入により、LNG 取引のハブを目指す動きも見られ、欧
米メジャーやトレーダーも同国を拠点とした活動を活発化させている13。こうし
た状況が進展すれば、従来の固定ルート往復配船とは異なり、多様な積揚げ地を
経由する新たな輸送パターンが拡がる可能性がある。
これまで日本の海運企業は安定収益が見込める長期契約に基づく固定ルート
配船を主体としてきたと考えられるが、今後は、取引拠点からの再輸出や東南ア
ジア、中南米など新たな消費地向けの輸送など、多様化する LNG トレードへの
柔軟な対応を図ることが重要と考えられる。また、今後需要増加が見込まれる
LNG 船船員の育成と資金調達をいかに進めるかといった課題への対応も必要に
なってくると考えられる。
13
「シンガポール、LNGの要衝へ―貯蔵所整備、割高な取引解消 シェルやガスプロム
が拠点」
『日本経済新聞』
(2014 年 8 月 19 日付)
21
4-3. 上中流への進出
近年、陸上受入基地と比べて低コストかつ短期間で整備可能な FSRU(浮体
式 LNG 貯蔵・再ガス化設備)の利用が拡大しており、国際ガス連合(IGU)に
よれば、2013 年末時点で FSRU の年間再ガス化能力は 4,430 万トンで前年比
34%増となっている(図 33 参照)。クラークソンによれば、2014 年 7 月初め時
点で 13 隻の FSRU が稼働中、9 隻が建造中であるが、ウルグアイ沖でのプロジ
ェクト向けに商船三井が発注している分を除けば、欧米船社の独壇場となって
いる。
図 32 LNG 受入基地の年間処理能力
(百万トン/年)
800
700
FSRU
600
陸上LNG受入基地
500
400
300
200
100
0
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
(出典)International Gas Union, World LNG Report -2014 Edition を基に作成
生産基地としての FLNG(浮体式 LNG 生産・貯蔵設備)の利用も注目されて
いる。クラークソンによれば、海底からの天然ガス生産が全生産量に占める割合
は約 3 割であり、その割合は今後も増大し続けるとされる。FLNG を活用した
プロジェクトでは、2015 年末の生産開始が予定されるマレーシア沖でのプロジ
ェクトに続き、2017 年には豪州沖、2018 年にはモザンビーク沖でのプロジェク
トが予定されており、計画中のプロジェクトが全て実現すれば、45 隻分の需要
が発生するとされる(2014 年 7 月時点で建造中の 5 隻を含む)14。
こうしたオフショア事業は市場としてのポテンシャルがあるだけでなく、欧
米メジャーや新興国のエネルギー大手との関係深化を図る好機でもあり、LNG
輸送案件への波及効果も少なからず見込めるのではないかと考えられる。
14
Clarkson Research Services Limited, LNG Trade & Transport 2014, p.12.
22
5. まとめ
2013 年の世界の LNG 貿易量は約 2.4 億トンであり、主に中東、東南アジア、
豪州及びアフリカから東アジアと欧州に供給されている。2013 年までの 10 年
間の LNG 貿易の年平均増加率は 6.8%と高く、今後も年平均 4-6%前後で推移
するとの見方が多い。特に豪州と米国で建設中の新規プロジェクトが順調に進
めば両国からの輸出量は大幅に増える可能性が高い。また、両国を含め、カナダ、
モザンビーク、ロシアなどで計画中のプロジェクトが多数ある。これらのプロジ
ェクトが順調に進むかどうかは原油・石炭価格の動向や需要国の動向などが影
響してくるものと考えられるが、IEA の予測によれば、長期的には豪州、北米、
アフリカ、ロシアからアジア及び欧州への供給が増えていく可能性が高いとい
える。
日本は世界最大の LNG 船隊を保有しており、LNG 船船腹量の世界シェアは
2 割前後と考えられる。日本の海運大手は米国と豪州の新規プロジェクトに関連
した新造発注を進めており、計 30 隻超の発注残の大部分は、これらのプロジェ
クトに関連した日本企業向けのものが中心となっている。特にヘンリーハブ価
格に基づく米国シェールガスの調達は価格体系の多様化に大きな意義があると
考えられ、同輸送を担う日本海運の存在は日本経済及び国民生活にとって重要
と考えられる。
今後は計画中のプロジェクトの動向を注視するとともに、場合によっては海
外企業との提携といった選択肢も視野に入れつつ、長期輸送案件の積み増しを
図ることが重要といえる。また、生産国と需要国の増加や変化、仕向地制限のな
い契約やポートフォリオ契約の進展、シンガポールなど取引拠点からの再輸出
や東南アジア、中南米といった新たな消費地向けの輸送など、LNG トレードの
多様化が進む可能性がある。日本の海運企業は安定収益が見込める長期契約に
基づく固定ルート配船を主体としてきたと考えられるが、今後は多様化する
LNG トレードへの柔軟な対応を図ることが重要と考えられる。また、LNG 船
船員の育成や資金調達といった課題への対応も必要になってくると考えられる。
23
[参考資料]
- BP, Energy Outlook 2014, January 2014
- BP, Statistical Review of World Energy(各年版)
- Clarkson Research Services Limited, LNG Trade & Transport(各年版)
- Drewry Maritime Research, Shipping Insight
- GIIGNL, The LNG Industry(各年版)
- Hal Brown, “MOL prepares for big impact of Panama Canal on its growing
LNG fleet”, Lloyd’s List, 25 February 2015.
IEA, World Energy Outlook 2014
International Gas Union, World LNG Report -2014 Edition
糸山直之『LNG 船がわかる本(新訂版)』(成山堂書店、平成 24 年)
岩瀬昇『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?』(文春新書、2014 年)
臼井潔人「海の物流システム革新事例:商船の変遷史(10)LNG 船/船型と
受け入れ基地標準化で貿易振興」『日本海事新聞』(2013 年 3 月 25 日付)
- 資源エネルギー庁『エネルギー白書』(各年版)
-
http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/
- 「シンガポール、LNGの要衝へ―貯蔵所整備、割高な取引解消 シェルや
-
ガスプロムが拠点」『日本経済新聞』(2014 年 8 月 19 日付)
テックスレポート『ガス年鑑(2014 年度版)
』(2014 年 11 月)
日本エネルギー経済研究所『アジア・世界エネルギーアウトルック 2014』
(2014 年 10 月)
日本郵船『NYK Factbook I』(各年版)
日本郵船 LNG 船運航研究会『LNG 船運航の ABC』(成山堂書店、平成 18
年)
LNG 産消会議 2014 関連資料(http://www.lng-conference.org/)
「LNG 市場の構造変革と新たな取引形態の展開」『海運』(2015 年 4 月号)
- 「LNG 船商談/海外に主戦場シフト。邦船大手 欧州勢と競争激化」
『日本海
事新聞』(2015 年 3 月 17 日付)
- JX 日鉱日石エネルギー『石油便覧』
(http://www.noe.jx-group.co.jp/binran/part06/chapter03/index.html)
24