東京都医薬品情報 - 東京都健康安全研究センター

東京都医薬品情報
№ 3 9 5
平成19年8月号
医薬関連情報から‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥2
財団法人
日本医薬情報センター
副作用情報
1
Lesson of the Week:Metoclopramide が原因の急性ジストニー反応;
破傷風と誤診された 1 症例の報告
2
合成 Conjugated Estrogens に関連した薬物誘発性ループス:1 症例の報告
3
Temozolomide による B 型肝炎の再燃:死亡した 1 症例(高令者)の報告
4
転移性平滑筋肉腫に対する Bevacizumab 治療に続発した間質性腎炎:1 症
例の初めての報告
5
急性リンパ芽球性白血病の小児における水痘ワクチン接種後の感染死亡:
1 症例の報告
医薬関連情報2007年6月号から
財団法人
日本医薬情報センター
副 作 用 情 報
1 Lesson of the Week:Metoclopramide が原因の急性ジストニー反応;破傷風と誤診さ
れた 1 症例の報告
Dingli K. (Western General Hosp.,Edinburgh/UK),ほか
Br. Med. J.(7599)899-900/(2007.4.28)
破傷風と誤診されたが,metoclopramide が原因の急性ジストニー反応であった 1 症例の報
告。患者(女,28 才)は,顔面筋肉の緊張とひきつり,頭の偏向を伴うぎょろ目,右凝視,
頚部筋肉の硬直により救急治療室に来院した。発汗と頻脈(130 回/分)を伴っていた。臨
床検査に異常はなく,皮膚のひび割れ,歯や耳感染はみられなかった。電解質,C 反応性タ
ンパク,白血球数を含め血液検査値は正常であった。患者は 4 週間前の休日にケニヤに行
っており,行く前には必要なワクチン接種を受けていた。また,マラリアの予防に Malarone
(proguanil+atovaquone)の服用を開始していた。来院の 10 日前には,嘔気,嘔吐を伴
う左腹部に仙痛様の痛みがあり,開業医で尿路感染が疑われ,trimethoprim,ciprofloxacin
が処方された。患者は,経口避妊薬を使用していたが,既往歴,併用薬歴がなく,破傷風
の免疫状態も分からなかった。この症状は破傷風と一致していると思われ,感染病の専門
家と討議した結果,diazepam,破傷風免疫グロブリン静注,metronidazole を投与した。患
者は終夜観察のために HDU(high dependency unit)に入院した。投薬後 1~2 時間後に症
状は完全に消失した。翌日,感染病棟に移った後,患者は来院前日に metoclopramide を服
用し始めていたことが分かった。これは,嘔気が続いていたために開業医が処方したもの
であり,開業医は前年に破傷風のワクチン接種を受けていることを確認していた。
metoclopramide によって生じた急性ジストニー反応と診断された症状は,発症後 6~8 時間
後に消失した。「イエローカード」報告が Medical and Healthcare Products Regulatory
Agency に提出された。本報告は破傷風と誤診されたものであり,破傷風と急性ジストニー
反応の違いが焦点となっている。
参照文献 8
metoclopramide(INN)
「医薬関連情報」速報 No.585 掲載
<参考>
metoclopramide(INN),ペラプリン(大洋薬品工業株式会社)、テルペラン(あすか製薬株
式会社)、プリンペラン(アステラス製薬株式会社)、アノレキシノン(東和薬品株式会社)、
エリーテン(日本化薬株式会社)、ネオプラミール(ナガセ医薬品株式会社)、フォリクロ
2
ン(鶴原製薬株式会社)、プラミール(ナガセ医薬品株式会社)、プリンパール(沢井製薬
株式会社)
【掲載理由】
・ 掲載基準1-(2)
2 合成 Conjugated Estrogens に関連した薬物誘発性ループス:1 症例の報告
Carroll D. G. (Auburn Univ.,Tuscaloosa/USA),ほか
Ann. Pharmacother.41(4)702-706/(2007.4)
合成 conjugated estrogens 製剤である Cenestin を服用中の患者における薬物誘発ループ
ス(以下 DIL)の 1 症例の報告。患者(女,54 才)は,4 ヵ月間にわたる両腕の痛みにより
受診した。その痛みは,Cenestin(0.625mg/日)開始後発現し,次第に悪化した。痛みは
NSAIDs では軽減せず,麻薬性鎮痛薬により軽減した。既往歴は高血圧,脂質異常症であり,
閉経後であった。診察時点の薬物レジメンは indapamide,terazosin,captopril,および
Cenestin であった。両側回旋筋腱板インピンジメント症候群のように思われたが,症状が
下肢に放散し始めたことを考えると,その可能性は少ないようであった。初期の自己免疫
疾患,ライム病,または薬物有害反応である可能性を考えた。患者は,atorvastatin,niacin,
および Cenestin の開始前にはこのような症状がなかったことから,薬物療法に関連した症
状かもしれないと思った。atorvastatin および niacin 投与中止により症状は回復しなかっ
た。患者は Cenestin の服用を続け,症状が悪化したことから,これらの関連性について調
べるため検査を要請した。患者の症状,診察所見(肩峰鎖骨関節の変形性変化)
,および臨
床検査結果(抗核抗体価 1-640)は DIL を示唆した。Cenestin の中止により症状は速やか
に消失し,投薬再開により直ちに再発した。臨床検査値も Cenestin の中止により顕著に改
善した。これら所見に基づいて,Naranjo probability scale スコアにより,Cenestin が
DIL の原因である可能性は probable と考えられた。DIL が最も多く報告され,検討された
薬物は,hydralazine,quinidine,procainamide である。DIL に関連したその他の薬物,
特に estrogen の報告ではデータが乏しい。合成 estrogen 製剤に関連した DIL の文献報告
はこれまでにないが,今回の報告に記載した症状・徴候により受診する患者に対して,臨
床医は本診断を考慮することを勧める。
参照文献 26
Cenestin:estrogens conjugated
「医薬関連情報」速報 No.584 掲載
<参考>
Cenestin:estrogens conjugated, Cenestin は本邦未発売であるが、結合型エストロゲン
として製造販売されているものには次の製品がある。プレマリン(ワイス株式会社)
3
【掲載理由】
・ 掲載基準1-(2)
3 Temozolomide による B 型肝炎の再燃:死亡した 1 症例(高令者)の報告
Grewal J. (M. D. Anderson Cancer Cen.,Houston/USA),ほか
N. Engl. J. Med.356(15)1591-1592/(2007.4.12)
神経芽細胞腫の第一選択薬として使用される temozolomide(以下 T)に関連した B 型肝炎
の再活性化がみられた症例について報告する。
かなり以前に B 型肝炎の既往のある患者(女,
65 才)が,左側頭葉の腫瘤の外科的全切除術を受け,神経芽細胞腫と診断された。患者は
放射線療法と同時に T 投与(75mg/m2/日)を受け,その後アジュバント T 投与(28 日 1
クールの 1~5 日目に 200mg/m2/日)を 3 クール受けた。患者は発作予防のため valproic
acid を服用しており,アルコールやハーブ製剤は使用していないと報告され,他は健康で
あった。dexamethasone 投与は,手術後 1 週間に漸減し,最終的に中止した。治療開始前に
肝炎の検査は実施しなかった。ベースラインおよびアジュバント化学療法の最初の 2 クー
ルの前は,肝酵素値は正常であった。3 クール目の T 投与前に ALT 値の軽度で無症候性の上
昇が認められたが,化学療法は計画通りに行われた。治療 3 クール目の 27 日目に,患者は
急速に進行する脳障害のため入院した。検査結果は急性肝障害と一致し,valproic acid を
中止した。C 型肝炎は陰性であったが,B 型肝炎コア抗原および B 型肝炎表面抗原(HBsAg)
が陽性であった。ウイルス量は 500×106 よりも多かった。entecavir(1mg/日)治療を行
ったが,肝機能は悪化し続け,入院 2 週間後に死亡した。手術後の MRI 検査で腫瘍再発の
証拠は認められなかった。患者の死亡は T 投与による B 型肝炎の再活性化が原因であると
考えられたが,valproic acid や T それ自身の肝毒性作用を完全に除外することはできなか
った。処方を行う医師はこの重度である可能性の有害事象について認識しておくべきであ
る。
参照文献 3
temozolomide(INN)
「医薬関連情報」速報 No.582 掲載
<参考>
temozolomide(INN),テモダールカプセル(シェリング・プラウ株式会社)
【掲載理由】
・ 掲載基準1-(1)
4
転移性平滑筋肉腫に対する Bevacizumab 治療に続発した間質性腎炎:1 症例の初めての
4
報告
Barakat R. K. (The Univ. Texas-Houston,Houston/USA)
,ほか
Ann. Pharmacother.41(4)707-710/(2007.4)
Bevacizumab(以下 B)は,血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に対する遺伝子組換えヒト化モ
ノクローナル免疫グロブリン G 抗体で,腎細胞癌および結腸直腸癌患者の治療において有
効性を示し,転移性結腸直腸癌の第一選択薬として FDA によって承認されている。B による
治療後一時的に血液透析を要する間質性腎炎を発現した転移性平滑筋肉腫患者の 1 症例の
報告。患者(男,26 才)は,2003 年 2 月に転移性直腸平滑筋肉腫と診断された。原発性直
腸腫瘤に対する放射線療法が良好な反応を示し,続いて静脈内 doxorubicin 25mg/m2+
dacarbazine 250mg/m2/日の 3 日間投与を 3 クール行ったところ,初期反応は良好であっ
たが,肝および肺転移のわずかな進行がみられた。2004 年 6 月 1 日,B 5mg/kg(0.9%NaCl
100mL 中)の静脈内投与が開始され,2 週間間隔で計 3 回投与された。4 回目(治療第 43 日)
の B 投与のために受診し,急性腎不全で入院した。クレアチニン値が,ベースライン値の
1.0mg/dL から,2 回目の B 投与後 1.6mg/dL に,3 回目投与後には 4.7mg/dL へと上昇し
ていた。予定された 4 回目の B 投与は中止された。入院経過中,クレアチニン値の上昇が
進行して,乏尿になり,間欠的血液透析を必要とした。さらに上室性頻脈,肺炎,および
換気サポートが必要な呼吸不全を合併した。臨床的に安定した入院第 17 日に腎生検を実施
し,間質性腎炎に一致した所見が示された。B 投与中止により,腎機能は回復し,入院第
17 日後,もはや透析は必要でなかった。入院第 24 日の退院時,一部腎機能不全が残存し,
血清クレアチニン値 3.8mg/dL であったが,退院から 2 週間以内に 3.1mg/dL で安定した。
本症例は,腎不全を引き起こした可能性のある他の交絡因子はなかった。原発性腎糸球体
疾患は生検によって除外された。Naranjo probability scale により,B が急性腎不全の原
因である可能性は probable とされた。本症例は,B と間質性腎炎による急性腎不全との関
連について報告した初めての症例である。本患者の腎機能は緩徐に回復し,B 中止後血液透
析は必要でなかった。B 療法中は腎機能を監視すべきであると勧告する。
参照文献 10
bevacizumab(INN)
「医薬関連情報」速報 No.584 掲載
<参考>
bevacizumab(INN),アバスチン(中外製薬株式会社 )
【掲載理由】
・ 掲載基準1-(1)
5
急性リンパ芽球性白血病の小児における水痘ワクチン接種後の感染死亡:1 症例の報告
5
Schrauder A. (Univ. Hosp.
Schleswig-Holstein,Kiel/Germany),ほか
Lancet(9568)1232/(2007.4.7)
急性リンパ芽球性白血病(ALL)と診断された後,5 ヵ月間再寛解導入療法を行っていた 4
才の女児に,2003 年 7 月に全身性強直・間代発作が生じた。患児はプロトコール ALL-BFM
2000 に従って治療を受けた。各種の検査で肝肥大がみられたが,脳出血や腹水,静脈閉塞
はなかった。血液検査でアミノトランスフェラーゼ濃度のみが上昇していた。その数時間
後,呼吸不全,点状出血,血腫,口腔および膣粘膜の小水疱がみられた。piperacillin,
sulbactam,tobramycin,IgG,aciclovir の静脈内投与を開始したが,発作開始から 48 時
間で臨床検査結果は悪くなり,12 時間以内に多臓器不全を起こし,人工呼吸を必要とした。
血清中には水痘-帯状疱疹ウイルス(VZV)は陰性であったが,末梢血試料中では VZV の PCR
(ポリメラーゼ連鎖反応)は陽性であった。鼻咽頭のスワブから VZV が分離されたが,脳
脊髄液からは検出されなかった。高用量の VZV-IgG が治療に加えられ,血液透析,人工呼
吸を行ったにもかかわらず,入院から 10 日後に ARDS(成人型呼吸窮迫症候群),多臓器不
全が進行し,小児は死亡した。VZV-PCR が陽性であったことから,母親が症状発現の 32 日
前に別の病院で弱毒化生 VZV ワクチン(Varilrix)接種を受けていたと述べた。患者から
ワイルドタイプの VZV が検出されなかったことから,ウイルス血症は,OKA 株の VZV ワクチ
ン接種によって生じたと考えられた。この患者の VZV ワクチン接種後 5 週間に生じた肝不
全は,肝臓内で長期にわたって OKA 株が模写されていたことを示している。白血病でセロ
ネガティブな小児への VZV ワクチン接種は,少なくとも 12 ヵ月間完全寛解状態で,免疫抑
制剤治療後少なくとも 9 ヵ月間が経過し,リンパ球数が少なくとも 1.5×109/L であるこ
とを確かめてから行われるべきである。
参照文献 5
Varilrix:varicella vaccine
<参考>
Varilrix:varicella vaccine,乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」(財団法人
病研究会)
【掲載理由】
・ 掲載基準1-(2)
6
阪大微生物
東京都医薬品情報 №395
(平成19年8月号)
平成19年7月31日編集
平成19年8月発行
編集委員 古屋
金谷
松尾
小菅
田中
白石
中野
島崎
発
正裕(福祉保健局健康安全室薬事監視課長)
和明(福祉保健局健康安全室副参事(食品医薬品情報担当)
)
隆(福祉保健局健康安全室環境保健課課務担当係長)
孝恵(福祉保健局健康安全室薬事監視課検定担当係長)
三枝子(財団法人東京都保健医療公社荏原病院薬剤科長)
範子(都立神経病院薬剤科長)
美香子(都立駒込病院薬剤科主任)
良知(都立墨東病院薬剤科主任)
行 東京都福祉保健局健康安全室健康安全課
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