科学技術振興調整費 第Ⅰ期成果報告書 生活・社会基盤研究(生活者ニーズ対応研究) 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムと その防御に関する研究 研究期間:平成11年度~13年度 平成 14 年 6 月 文部科学省 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 研究計画の概要 p.1 研究成果の概要 p.9 研究成果の詳細報告 1. 慢性疲労症候群等の病的疲労の研究 1.1. 慢性疲労症候群原因ウィルスとサイトカイン異常に関する研究 1.1.1. 原因ウィルス分離・同定 p.23 1.1.2. ボルナ病ウィルスと慢性疲労症候群の関連 p.30 1.1.3. 疲労病態におけるウィルス感染と免疫応答異常 p.43 1.2. 慢性疲労症候群に関わる代謝動態の研究 1.2.1. 疲労状態にいたるまでの脳内代謝動態の解明 p.53 1.2.2. アセチルカルニチントランスポーターの研究 p.67 1.2.3. カルニチン欠損と疲労病態の関係 p.72 1.3. 不登校状態の研究 p.85 2. 疲労及び疲労感の分子・神経メカニズムの解明 2.1. 疲労感の脳担当部位とその役割の解明 2.1.1. 疲労にともなう神経撹乱機構の解明 p.98 2.1.2. 前頭前野セロトニン・ドーパミン系とグルタミン酸神経伝達系の関連 p.113 2.1.3. 疲労状態における快情動の神経機構の解明 p.125 2.1.4. 疲労状態における脳活動・神経回路の解明 p.131 2.2 疲労生体信号と神経・免疫・内分泌相関の調整 2.2.1. サイトカインの疲労生体信号への道筋 p.152 2.2.2. 疲労等による神経内分泌機構変調の動態解明 p.163 2.2.3. 疲労等による摂食及び高次脳機能変調様式の解明 p.171 2.2.4. 活性酸素代謝とレドックス制御系の役割解析 p.186 3. 疲労病態制御技術の開発 3.1. 疲労の定量化・指標化と疲労を和らげる生活の提言 3.1.1. 疲労の定量化及び指標化技術の開発 p.198 3.1.2. 伝承療法等の評価と疲労を和らげる生活の提言 p.209 3.2. 疲労病態の治療技術の開発に関する研究 3.2.1. 一般医療機関受診患者の疫学調査とリスクファクターの検討 p.219 p.230 3.2.6. 疲労モデル動物の確立と疲労治療薬としての漢方薬および アセチルカルニチンの有用性の科学的検証 p.242 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 研究計画の概要 研究の趣旨 疲労および疲労感は、現代社会に生きる多数の人が日常向き合っている現象である。米国における 近年の調査結果によると、2 週間以上続く疲労感は人口の 24%に存在するとされ、そのうち 60%の原 因が不明であり、6 ヶ月以上続く日常生活に支障を来すような原因不明の疲労を訴える患者数は人口の 2.2%にも及ぶという。今後、高齢化が進み、老化による病態、脳神経機能、知的能力あるいは免疫機 能の低下により、一層疲労や疲労感が広く蔓延することが予想される。しかしながら、疲労は、既に その対処法が考案されている疼痛及び発熱と同様、生体アラームの一つと考えられているが、これま で疲労メカニズムについての解明はほとんど進んでおらず、それに対処するための科学技術の検討・ 確立が求められている。 このような状況のもと、本研究では、慢性疲労症候群の研究と、一般的な疲労および疲労感の基礎 的研究という 2 つの方向から、疲労による神経・免疫・内分泌調整の破綻等の分子メカニズムの解明、 あるいはどのようにして疲労を感じているのかという「疲労感」の神経メカニズムの解明、それらを もとに疲労および疲労感を和らげる方法を科学的な根拠のもとに創生することを目的としている。 すなわち、(1)病的疲労である慢性疲労症候群や不登校の病態・病因解明、(2)一般的な疲労及び疲 労感の分子・神経メカニズム解明の基礎的研究、及び(3)右研究の成果をもとにした疲労の測定技術、 予防・治療技術の開発、および伝承治療法等についての科学的検証を行い、疲労をやわらげる生活に ついての提言を行う。 研究の概要 1. 慢性疲労症候群等の病的疲労の研究 慢性疲労症候群並びに不登校状態を主症状とする疾患を対象として、その治療法等の開発につなが る病的疲労の研究を行う。また、得られた知見は一般的な疲労および疲労感の基礎的研究の促進に資 することになる。 (1) 慢性疲労症候群の原因ウイルスとサイトカイン異常に関する研究 ① 原因ウイルス分離・同定 慢性疲労症候群患者血清における細胞変性効果をきたす因子の原因となるウイルスの分離・同 定を行う。特にヘルペスウイルスに注目し、遺伝子の検出と病状との関連を検討する。 ② ボルナ病ウイルスと慢性疲労症候群の関連 ボルナ病ウイルスが原因と思われる慢性疲労症候群家族集団発生例をもとに、ウイルスの接種実 験等により病態の違いを検討し、慢性疲労を持続的に誘発する要因を、ウイルス側、宿主側の両 面から解明する。 ③ 疲労病態におけるウイルス感染と免疫応答異常 慢性疲労の病態(疲労感、思考力障害、微熱など)の主要な原因と考えられるサイトカイン異常 が、どのようにウイルス感染や再活性によって引き起こされるかを、感染動物や上記①②で明ら かになったウイルスの感染患者において、神経・内分泌・免疫系の観点から解明する。 1 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 (2) 慢性疲労症候群に関わる代謝動態の研究 ① 疲労感状態にいたるまでの脳内代謝動態の解明 ウイルス感染及びストレスから始まり慢性疲労の状態にいたるまでのプロセスを、 「ウイルス感 染/ストレス→免疫異常→ウイルス再活性→サイトカイン異常→神経ホルモン DHEA-S 低下→ア セチルカルニチン異常→異常な疲労感の持続」という仮説に従って解明する。 ② アセチルカルニチントランスポーターの研究 慢性疲労症候群において中心的な役割を果たすアセチルカルニチンを脳の神経細胞に取り込む 特異的な輸送機構(トランスポーター)について、哺乳類系統細胞などの発現系を用いて cDNA クロ ーニングを行い、分子構造及び機能を解析する。 ③ カルニチン欠損と疲労病態の関係 カルニチン欠損症は、脂肪肝、低血糖、易疲労感などの様々な症状を引き起こすが、その機構 を検証し、慢性疲労にいたるメカニズムを解明する。 (3) 不登校状態の研究 中枢性の慢性疲労状態である不登校状態において、思考、判断、持久などの全ての能力に障害が存 在することを明確にし、脳における原因病態を探り治療法の確立を行う。 2. 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムの解明 疲労軽減方策の確立に資する、疲労および疲労感の分子・神経メカニズムの解明を行うために、疲 労感脳担当候補部位の確立、神経・免疫・内分泌の相関においてのストレスと疲労の位置づけの研究 を行う。 (1) 疲労感の脳担当部位とその部位の役割 ① 疲労にともなう前頭葉・辺縁系の神経機能撹乱 脳内の疲労感に関与している領域の検討を行い、この領域における疲労及び疲労関連物質が引 き起こす神経機能撹乱の機構を明らかにし、疲労感がどのようなメカニズムで処理されるかを解 明する。 ② 前頭前野セロトニン・ドーパミン系とグルタミン酸神経伝達系の関連 慢性疲労症候群の治療として、ドーパミン遊離を促進するシンメトリル等が奏功するという知 見を受け、前頭前野のグルタミン酸神経伝達およびアセチルカルニチン取り込みのモノアミン系 による調節機構を解明する。 ③ 疲労状態における快情動の神経機構の解明 快い笑いがストレス解消や健康の維持増進に有用であるという知見を受け、これまで未解明で あった快情動の神経回路を明らかにし、それを応用した疲労及び慢性疲労症候群の治療法の研究 を行う。 ④ 疲労状態における脳活動の解析と神経回路の解明 慢性疲労状態の実験動物の、知覚刺激に対する脳局所血流量や脳局所グルコース利用能等の脳 活動を PET や fMRI を用いて非侵襲的に測定する。また、アセチルカルチニンの取り込み、グルタ ミン酸、ドーパミン、セロトニンの遊離放出など神経回路の解明を行う。 2 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 (2) 疲労生体信号と神経・免疫・内分泌相関の調整 ① サイトカインの疲労生体信号への道筋 サイトカインおよびその関連物質と、疲労のメカニズムの関連を部位別に検討する。また、ス トレス時に末梢神経で発生した疲労因子が脳にどのように到達するのかをサイトカイン産生や疲 労の発現の関連において解明する。 ② 疲労等による神経内分泌機構変調の動態解明 生体防御系調節に主要な役割を果たす CRF-ACFH 分泌系のストレスに起因する動態を解析する ことにより、ストレス後に長時間持続する疲労の神経メカニズムと脳内調節因子を解明する。 ③ 疲労等による摂食及び高次脳機能の変調様式の解明 慢性疲労症候群関連物質であるアセチルカルニチンが摂食調節回路や学習・記憶回路をどのよ うに変調するかを動物モデルによって明らかにし、アセチルカルニチン治療の有効性を検討する。 ④ 活性酸素代謝とレドックス制御系の役割解析 疲労回復させる、疲労神経回路をリセットさせる機構としての生体還元系の破綻が、全身疲労 を起こすとされることから、本研究では、疲労度の生化学的パラメーターの確定、動物モデル系 の確立を通じて、疲労病態の代謝改善法の確立を行う。 3. 疲労病態制御技術の開発 疲労定量技術、疲労病態の治療技術の開発に向けた研究のほか、伝承的治療法の評価法確立を、上 記 2.1 及び 2.2 で得られる成果を背景に行い、具体的な疲労軽減の方策を提言する。 (1) 疲労度の定量化・指標化と疲労を和らげる生活の提言 ① 疲労の定量化及び指標化技術の開発 これまで、疲労制御技術開発の前提として、その効果を計る基準・指標が無かった。そこで、 疲労と相関すると考えられる血中や脳脊髄液中の因子の解析を行い、疲労を客観的に定量化する 技術の研究を行う。 ② 伝承療法等の評価と疲労を和らげる生活の提言 鍼灸、マッサージ、低周波、伝承薬、栄養剤等の伝承療法等の調査、データベース化を行い、 本研究の知見を結集し、治療方法及びその評価指標をとりまとめる。これらの成果を総合して疲 労をやわらげることのできる国民生活についての提言を行う。 (2) 疲労病態に対する治療技術の開発に関する研究 慢性疲労ウイルスの研究をもとに、ワクチンや予防接種の開発につながる研究を行うとともに、慢 性疲労症候群の発生機序に即した新たな治療法の開発を行う。また、既存の療法並びに上記研究で得 られた新規候補等についても、検証を行う。 研究推進の方策 研究の推進にあたっては、上記 2.1 2.3 の各項目に対応して第 1 班?第 3 班を設ける。第 1 班では、 慢性疲労等を主症状とする疾患を対象とし、その克服・制御技術の開発の基礎となる、病的疲労の研 究を行う。一方、第 2 班では、一般的な疲労および疲労感について、その分子・神経メカニズムの解 3 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 明を行う。慢性疲労と一般的な疲労には共通の課題および発生機序があることから、第 1 班および第 2 班の研究は、知見を共有しながら効率的に研究を進める。またその成果は、第 3 班の疲労制御技術の 開発につながるとともに、既存療法等の評価手法の確立及び疲労をやわらげることのできる生活の提 言にあたっての科学的根拠を提供することになる。 4 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 年次計画 研 究 項 目 1. 慢性疲労症候群等の病的疲労の研究 (1)慢性疲労症候群原因ウイルスと サイトカイン異常に関する研究 ①病因ウイルス分離・同定 ②ボルナ病ウイルスと慢性疲労症候群の関連 ③疲労病態におけるウイルス感染と免疫応答異常 (2)慢性疲労症候群に関わる代謝動態の研究 ①疲労状態に至るまでの脳内代謝動態の解明 ②アセチルカルニチントランスポーターの研究 ③カルニチン欠損と疲労病態の関係 (3)不登校状態の研究 2.疲労及び疲労感の分子・神経メカニズ ムの解明 (1)疲労感の脳担当部位とその役割の解明 ①疲労にともなう神経攪乱機構の解明 ②前頭前野セロトニン・ドーパミン系と グルタミン酸神経伝達系の関連 ③疲労状態における快情動の神経機構の解明 ④疲労状態における脳活動・神経回路の解明 平成11年度 CFS患者のcDNA作成 CFS患者よりのBDV分離 平成12年度 第Ⅰ期 CFSウイルスのDNA同定、塩基配列の決定 BDV感染疲労モデルの作成 視床下部から mRNA を調整し、 卵母細胞に mRNA を注入 BDVの弱毒ワクチンの作成 サイトカイン異常と臨床病態 (疲労・疲労感)との関連について ウイルス再活性化とサイトカイン異常 疲労関連サイトカイン 受容体の局在の検討 平成13年度 複合ストレスによる疲 労モデルの作成と神経 系・内分泌系の検討 ヒトの病的疲労の分子 神経機序への応用 ACMトランスポーターのクローニングと分布の検討 病的疲労モデル動物(JVSマウス)における、運動負荷時のエネルギー代謝、血中 代謝物質、肝臓、筋肉、心臓、脳の物質代謝解析、遺伝子発現の検索 ベンゾジアゼピン 受容体の解析 前頭葉領域におけるコリン蓄積の検討、PET解析による局所 脳血流、局所脳グルコース代謝などの脳機能について 頭脳負荷や神経性ストレスにより生じる疲労 が及ぼす神経ネットワークへの変化について TGFβ脳内投与時における前頭葉や辺縁系 の神経伝達物質受容体に及ぼす影響について モノアミンの除去による前頭前野での興奮性及び抑制性シナプスの変化について 健常者における快の笑いに 関連した神経回路の解明 疲労やうつ状態による快の笑いの障害部位の解明 複合ストレスによる慢性疲労モデルのサルを 作成、PETやfMRIによる脳内代謝の検討 疲労やストレス下での脳タスクによる脳 活動の変化の検索と脱疲労薬の開発 (2)疲労生体信号と神経・免疫・内分泌相関の調 肉体的、精神的ストレスによる、脳内局所 サイトカインの脳室内に持続注入時における、 整 のサイトカインや神経ペプチドの 神経ペプチドのmRA、ランニング量等 mRNAの変化について の変化について ①サイトカインの疲労生体信号への道筋 CRF分泌におけるアラキドン ステロイドによるAVP・ ②疲労等による神経内分泌機構変調の動態解 ストレスによるCRF分泌に 酸カスケード・チトクロームP OXT産生ニューロンの形 おけるOXTの関与について 明 450代謝系の役割 態学的可塑性発現について ③疲労等による摂食及び高次脳機能変調様式 摂食調節ニューロンに対する 老化に伴う脳機能低下に対す ACMのスカベンジャー の解明 ACMの作用について 作用について るACMの作用について ④活性酸素代謝とレドックス制御系の役割解 活性酸素代謝産物とその関連 疲労度の生化学的パラ 疲労病態の代謝改善法の確立 抗酸化物質の変動解析 メーターの確定 析 3.疲労病態制御技術の開発 (1)疲労度の定量化・標化と疲労を和らげる生活 の提言 ①疲労の定量化及び指標化技術の開発 ②伝承療法等の評価と疲労をやわらげる生活 の提言 (2)疲労病態の治療技術の開発に関する研究 疲労のデータベースの作成 種々の薬剤の脳内代謝に 及ぼす影響について 既知の疲労回復手法に 関する科学的検証 224 231 疲労の少ない国民 生活への提言 疲労ウイルスに対する ワクチン効果の検証、 新たな疲労回復手法の開発 4.研究推進 所用経費(合計) 5 201 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 実施体制(平成 13 年度) 研 究 項 目 実 施 機 関 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御 に関する研究 1.慢性疲労症候群等の病的疲労の研究 (1)慢性疲労症候群原因ウイルスとサイトカイン異常 に関する研究 ① 原因ウイルス分離・同定 大阪大学大学院医学系研究科 ② ボルナ病ウイルスと慢性疲労症候群の関連 大阪大学微生物病研究所 ③ 疲労病態におけるウイルス感染と免疫応答異常 鳥取大学医学部 山西 弘一(教授) 生田 和良(教授) 西連寺 剛(教授) (2) 慢性疲労症候群に関わる代謝動態の研究 ① 疲労状態にいたるまでの脳内代謝動態の解明 京都大学大学院情報学研究科 ② アセチルカルニチントランスポーターの研究 北海道大学大学院医学研究科 ③ カルニチン欠損と疲労病態の関係 鹿児島大学医学部 松村 三輪 佐伯 潔(助教授) 聡一(教授) 武頼(教授) (3) 不登校状態の研究 三池 輝久(教授) 2.疲労及び疲労感の分子・神経メカニズムの解明 (1) 疲労感の脳担当部位とその役割の解明 ①疲労にともなう神経撹乱機構の解明 熊本大学医学部 文部科学省研究振興局 (財)大阪バイオサイエンス研究所(委託) (財)東京都神経科学総合研究所(再委託) 研究担当者 尾上 浩隆 (主任研究員) 岡戸 信男(教授) ②前頭前野セロトニン・ドーパミン系とグルタミン酸神経伝達 筑波大学基礎医学系 系の関連 文部科学省研究振興局 ③疲労状態における快情動の神経機構の解明 (財)大阪バイオサイエンス研究所(委託) 関西福祉科学大学社会福祉学部(再委託) 志水 (財)大阪バイオサイエンス研究所(委託) ④ 疲労状態における脳活動・神経回路の解明 渡辺 (2) 疲労生体信号と神経・免疫・内分泌相関の調整 ① サイトカインの疲労生体信号への道筋 ② 疲労等による神経内分泌機構変調の動態解明 ③ 疲労等による摂食及び高次脳機能変調様式の解明 ④ 活性酸素代謝とレドックス制御系の役割解析 3.疲労病態制御技術の開発 (1) 疲労度の定量化・指標化と疲労を和らげる生活 の提言 ① 疲労の定量化及び指標化技術の開発 ② 伝承療法等の評価と疲労を和らげる生活の提言 九州大学大学院医学研究院 京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科 富山大学医学部 文部科学省研究振興局 (財)大阪バイオサイエンス研究所(委託) 大阪市立大学大学院医学研究科(再委託) 彰(教授) 恭良(部長) 片渕 俊彦(講師) 中島 敏博(助教授) 佐々木 和男(教授) 井上 正康(教授) 大阪大学大学院医学系研究科 倉恒 弘彦(講師) 文部科学省研究振興局 渡辺 恭良(部長) (財)大阪バイオサイエンス研究所(委託) 栗原 奈王子(研究員) (株)地域計画研究所(再委託) (2) 疲労病態の治療技術の開発に関する研究 大阪大学医学部 鳥取大学医学部 熊本大学医学部 4.研究推進 文部科学省研究振興局 6 倉恒 弘彦(講師) 西連寺 剛(教授) 三池 輝久(教授) 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 年次計画及び所要経費 (単位:千円) 所要経費 研究項目 平成 11 年度 平成 12 年度 平成 13 年度 合計 9,490 8,696 7,680 25,866 15,236 15,934 11,420 42,590 7,877 7,270 6,259 21,406 9,616 10,238 8,563 28,417 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防 御に関する研究 1.慢性疲労症候群等の病的疲労の研究 (1) 慢性疲労症候群原因ウイルスとサイトカイン 異常に関する研究 ① 原因ウイルス分離・同定 ② ボルナq慢性疲労症候群の関連 ③ 疲労病態におけるウイルス感染と免疫応答異常 (2) 慢性疲労症候群に関わる代謝動態の研究 ① 疲労状態にいたるまでの脳内代謝動態の解明 ② アセチルカルニチントランスポーターの研究 ③ カルニチン欠損と疲労病態の関係 8,132 9,489 9,206 26,827 14,990 8,724 7,563 31,277 8,710 9,720 7,786 26,216 12,133 10,964 9,723 32,820 8,138 6,767 5,867 20,772 12,672 12,389 10,559 35,620 36,154 48,461 51,142 135,757 7,914 7,020 5,312 20,246 8,134 7,586 5,902 21,622 8,274 7,371 6,354 21,999 23,690 27,059 15,279 66,028 10,613 11,421 10,200 5,415 4,766 4,705 16,511 16,649 16,663 (3) 不登校状態の研究 2.疲労及び疲労感の分子・神経メカニズムの解明 (1) 疲労感の脳担当部位とその役割の解明 ① 疲労にともなう神経撹乱機構の解明 ② 前頭前野セロトニン・ドーパミン系とグル タミン酸神経伝達系の関連 ③疲労状態における快情動の神経機構の解明 ④ 疲労状態における脳活動・神経回路の解明 (2) 疲労生体信号と神経・免疫・内分泌相関の調整 ① サイトカインの疲労生体信号への道筋 ② 疲労等による神経内分泌機構変調の動態解 明 ③ 疲労等による摂食及び高次脳機能変調様式 の解明 ④ 活性酸素代謝とレドックス制御系の役割解 析 3.疲労病態制御技術の開発 (1) 疲労度の定量化・指標化と疲労を和らげる生 活の提言 ① 疲労の定量化及び指標化技術の開発 ② 伝承療法等の評価と疲労を和らげる生活の 提言 32,234 14,886 (2) 疲労病態の治療技術の開発に関する研究 49,823 552 552 551 1,655 224,251 231,076 200,734 656,061 4.研究推進 合計 7 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 研究推進委員会 氏 ◎ 名 木谷 照夫 堺市立堺病院 金倉 大阪大学大学院 譲 森 望 堀 哲郎 高尾 正克 ○ 倉恒 ○ 所 弘彦 生田 和良 属 名誉院長 医学系研究科 教授 国立療養所中部病院 長寿医療研究センター 部長 九州大学 名誉教授 日本放送協会 大阪大学大学院 エンタープライズ21 エグゼクティブプロデューサー 医学系研究科 助手 大阪大学 微生物病研究所 教授 ○ 井上 正康 大阪市立大学大学院 医学研究科 教授 ○ 渡辺 恭良 (財)大阪バイオサイエンス研究所 部長 ◎は総合推進委員長、○は課題実施者 (参考)研究推進体制図 総合推進委員会 研究代表者:渡辺 第1班 班長:生田 和良 第2班 恭良 班長:渡辺 恭良 慢性疲労症候群等の 病的疲労の研究 疲労および疲労感の 分子・神経メカニズムの解明 慢性疲労症候群並びに不登校 状態を主症状とする疾患を対象 として、その治療法等の開発につ ながる病的疲労の研究を行う。ま た、得られた知見は一般的な疲 労および疲労感の基礎的研究の 促進に資することになる。 疲労軽減方策の確立に資す る、疲労および疲労感の分子・ 神経メカニズムの解明を行う ために、疲労感脳担当候補部位 の確立、神経・免疫・内分泌の 相関においてのストレスと疲 労の位置づけの研究を行う。 8 第3班 班長:倉恒 弘彦 疲労病態制御技術の開発 疲労定量技術、疲労病態の 治療技術の開発に向けた研究 のほか、伝承的治療法の評価 法確立を、第1班、第2班で得 られる成果を背景に行い、具 体的な疲労軽減の方策を提言 する。 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 研究成果の概要 総 括 1.慢性疲労症候群等の病的疲労の研究 ・慢性疲労症候群(CFS)の病因についての解析を進め、ウイルス潜在感染の指標、遺伝子変異などに ついての研究が進展し、ウイルス感染やウイルス再活性化がもたらす影響の中でのサイトカインや 核酸代謝酵素による脳内神経伝達物質(グルタミン酸、モノアミンなど) ・神経調節物質(ステロイ ドやプロスタグランジンなど)の低下が慢性疲労の主な原因ではないかと考えられる結果を得た。 ・CFS 患者において高率に HHV-6 潜伏感染特異的蛋白(ORF160)に対する異常な免疫反応が認められ、 このような現象が認められる患者では、より強い疲労感を感じていることを見出した。一方、わが 国の CFS 患者ではマイコプラズマとの関連性は認められなかった。 ・ボルナ病ウイルス(BDV)が CFS 患者との関連性が高いことが疫学的に明らかになった。BDV では、 モデル動物が使えることから、各種モデル動物を用いた病態解析を行い、BDV の脳内持続感染により 神経細胞の機能異常が引き起こされる結果を得た。 ・CFS 患者からの末梢血におけるサイトカインの動態異常について検討し、このようなサイトカイン均 衡の撹乱が EB ウイルスの再活性化に基づいて引き起こされていることを明らかにした。 ・不登校についても、生体リズムの破綻が存在しあたかも慢性的な時差ぼけ状態であることを突き止め た。セロトニンなどの脳内モノアミンやアセチルコリン系の異常が病因の一端と考えられるに至った。 ・CFS 患者において見られるカルニチンやサイトカインの異常動態を参照した動物モデルを用いて,各 種の代謝動態の異常による慢性疲労への分子機序の研究を行った。 2.疲労および疲労感の分子・神経メカニズムの解明 ・動物に対して、様々な観点からの疲労モデルを作成することに成功した。大別して 8 種のラットモ デル[強制水泳モデル、断眠・過労死モデル、脳酸化モデル、連続運動モデル、拘束(水浸)モデ ル、感染モデル、暑熱環境モデル、眼紫外線照射日焼けモデル]とサルの頭脳作業による疲労モデ ルを研究対象とした。 ・ラットモデルでは、疲労評価として行動量の低下を基準にし、疲労状態と回復過程における体内因 子や神経伝達物質、還元物質(抗酸化能)を定量的に評価した。その結果,多くのモデルにおいて, 脳内のカテコールアミンやセロトニンなどのモノアミン系に異常,全身での様々な遺伝子発現変化, 全身でのアスコルビン酸などの細胞還元系分子の低下が起こることが判明した。それぞれのモデル での共通項と特異項を掘り下げた。 ・ラットにおいて,疲労の条件付けが可能であることを明らかにし,疲労の神経回路の存在を証明し た。なお,この系はセロトニンが関与する系であることも判明した。 ・サルの頭脳作業による疲労の程度を作業中の反応時間や作業間時間を測定することで表現すること が可能でることを見出した。このような状況下で,ポジトロンエミッショントモグラフィー(PET) や電気生理学的手法を用いて,学習機能の低下や分子機構を探る研究を行うことができる。 ・健常人ボランティアにおいては、頭脳作業による疲労を負荷しつつ経過を追跡する形で、PET により 疲労に伴う脳内活動の活性化・不活性化部位を探り、ブロードマン 11 野(前頭底部,眼窩前頭野) 9 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 の脱抑制を発見した。 3.疲労病態制御技術の開発 ・慢性疲労症候群患者および健常人の疲労を定量化する目的で、行動量や運動の初速度を複数の赤外 線ビデオで取り込み定量する方法や、2 重注意が必要な脳タスク(Dual Task 法) や新しい Advanced Trail Making Test (ATMT) 法などを開発して、肉体的・精神的疲労度の定量化を試みた。その結果、 真の定量化にはまだ少しの努力が必要であるが、Dual Task 法や ATMT 法,アクティグラフ法などを 用いて、準定量化が可能であることが判明した。 ・治療技術の開発としては、1.2.で得たラットやサルのモデルを用いて、変化因子と行動評価によ り、疲労度を定量化し、それに対する「緑の香り」などの疲労回復戦略を試行して、その効果を判 定した。 「緑の香り」が試行した 3 つのラットモデルでともに有効、かつ、サルの頭脳作業による疲 労モデルにも有効であることが判明し、その効果の分子神経メカニズムについても手がかりを得た。 ・ヒトにおいては、プライマリーケアに関わる医療関係者へのアンケート調査(1767 名の医院・診療 所初診患者)や、一般市民(1219 名の大阪市民)の疲労回復戦略に関わる伝承療法などの利用状況 についてのアンケート調査を行った。プライマリーケアの場でも、先に厚生労働省の疫学的調査(約 3000 名の無作為抽出市民)で得た、一般市民の慢性疲労頻度が変わらないことが判明した。 ・一般市民の疲労回復戦略に関わる伝承療法などの利用状況においては、入浴、コーヒー、ビタミン 剤摂取などが疲労回復策として用いられている頻度が大きく、頻度はそれほど大きくなくても効果 が高いものに多くの理学療法があることが明らかになった。 ・慢性疲労症候群を中心とした疲労の治療法として、漢方薬による治療,茶成分の効果,セロトニン 系やドーパミン系を活性化する薬剤による治療がかなり奏功することが判明した。 サブテーマ毎,個別項目毎の概要 1.慢性疲労症候群等の病的疲労の研究(生田和良・倉恒弘彦) 慢性疲労症候群(CFS)に到る仮説を図(ポンチ絵)に示す。CFS の病因としては、発症時にしばし ば発熱、咽頭痛、リンパ節腫脹などの急性感冒様症状が認められることや、上述の如く集団発生の報 告があることよりまず第 1 に感染症の関与が疑われてきた。その代表的なウイルスとしては、EB ウイ ルス、ヒトヘルペスウイルス 6、ボルナ病ウイルス等があげられる。そこで、第 1 班の「慢性疲労症候 群等の病的疲労の研究」では、(1)「慢性疲労症候群原因ウィルスとサイトカイン異常に関する研究」 の研究として①原因ウィルス分離・同定(山西)、②ボルナ病ウィルスと慢性疲労症候群の関連(生田) 、 ③疲労病態におけるウィルス感染と免疫応答異常(西連寺)を行なった。次に、神経系、内分泌系、 免疫系は神経伝達物質やホルモン、サイトカインなどを介してお互いに関連していることが知られて おり、CFS 患者においても、神経系、内分泌系、免疫系の様々な異常が認められている。我々は、この 中でも TGF-βやインターフェロン(IFN)などのサイトカインの異常が多くの CFS 患者で共通して認め られることより疲労に到るカスケードの主要な役割を担っている可能性を考えている。そこで、疲労 と関連が疑われるサイトカインの作用と共に脳内産生部位や作用部位を明らかにするため、③疲労病 態におけるウィルス感染と免疫応答異常(西連寺)とともに(2)慢性疲労症候群に関わる代謝動態の研 究、①疲労状態にいたるまでの脳内代謝動態の解明(松村)を行なった。 10 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 また、我々はCFS患者では神経ホルモン(dehydroepiandrosterone sulfate:DHEA-S)や血清ア シルカルニチン(ACR)が減少しており臨床症状と関連していることを見出してきたが、ACR は脳に取り 込まれて利用されていること、TGF-βの上昇が DHEA-S の減少と関連していること、DHEA-S の減少が ACR の低下と結びつくこと、IFN の異常がリボヌクレアーゼを介してカルニチン代謝の異常にも影響し ていることなども判明、ACR やカルニチンの代謝異常がCFSの疲労感と結びついている可能性が浮上 してきた。そこで、慢性疲労症候群に関わる代謝動態の研究として②アセチルカルニチントランスポ ーターの研究(三輪)、③カルニチン欠損と疲労病態の関係(佐伯)を行ないカルニチンの代謝異常と 疲労との関連について検討した。 さらに、最近小児の不登校が大きな社会問題となってきているが、このような児童の多くが原因不明の 疲労・倦怠感を訴えている。そこで、小児の CFS として(3)不登校状態の研究(三池)を行い脳内代謝やリ ズム異常と疲労との関連を検証した。以下に各研究の概略と成果を記すが、今回の班研究では仮説の科学 的な裏付けが得られるだけでなく疲労のメカニズムに直結した新たな発見が多く見つかってきている。 図 1.慢性疲労に陥るメカニズム(仮説) (1) 慢性疲労症候群原因ウィルスとサイトカイン異常に関する研究、 本サブテーマの研究目的は、慢性疲労症候群(CFS)という病的疲労を引き起こす原因としてのウイル ス学的側面を検討し、その病態への関与を明らかにすることにある。本研究で取り上げた病原体は、ヘ ルペスウイルス科に属する Epstein-Barr virus (EBV)(西連寺)と human herpesvirus-6 (HHV-6)(山 西) 、またボルナウイルス科に属するボルナ病ウイルス(BDV) (生田)である。一般に、ヘルペスウイル スは、成人のほとんどが既に持続感染しており、これまでにもその活性化と CFS との関連性が米国のグ ループから指摘されていたものである。一方、BDV は疫学的研究からうつ病など精神疾患との関連性が示 唆されてきたものである。この他、CFS との関連性が指摘されたマイコプラズマ(山西)についてもわが 国の患者において検討した。わが国の CFS 患者ではマイコプラズマとの関連性は認められなかったが、 EBV、HHV-6、BDV についてはわが国の CFS 患者との関連性が認められた。特に、それぞれのモデル系を用 いて検討した結果、サイトカインの動態異常とウイルス持続感染、潜伏からのウイルス活性化、中枢神 経系へのウイルス持続感染、中枢神経系機能物質の異常などが CFS 病態に関わっていると考えられた。 11 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 個別項目毎の概要 ①原因ウィルス分離・同定(山西) :CFS 患者において高率に HHV-6 潜伏感染特異的蛋白(ORF160)に 対する異常な免疫反応が認められ、このような現象が認められる患者では、より強い疲労感を感じて いることを見出した。CFS 患者で、この抗 ORF160 抗体が高率に検出される機序は不明であるが、自己 免疫反応の結果である可能性が示唆された。さらに、この現象と疲労感との関連性を追及する目的で、 脳内における HHV-6 の潜伏感染・再活性化機序を検討した。潜伏感染特異的遺伝子産物の発現が脳内 において認められること、また in vitro において発熱因子である IL-1βに曝すことにより潜伏からの 再活性化現象が認められることを明らかにした。一方、わが国の CFS 患者ではマイコプラズマとの関 連性は認められなかった。 ②ボルナ病ウィルスと慢性疲労症候群の関連(生田) :BDV が CFS 患者との関連性が高いことが疫学的に 明らかになった。BDV では、モデル動物が使えることから、各種モデル動物を用いた病体解析を行い、BDV の脳内持続感染により神経細胞の機能異常が引き起こされる結果を得た。特に、BDV は潜伏からの活性化 に神経栄養因子(NGF)が関わること、BDV 持続感染細胞は高温などのストレス環境においてアポトーシス 死を高率に引き起こすこと、 BDV 蛋白のひとつである p24 リン酸化蛋白が神経突起伸張に関わる amphoterin (= high mobility group 1; HMG1)との結合性を示し、神経ネットワークの破綻が引き起こされる可能性 のあることを示した。実際、p24 リン酸化蛋白を脳内に発現するトランスジェニックマウスでは、神経栄 養因子(BDNF)やセロトニンリセプターの低下、高攻撃性、学習能力の低下などが認められた。 ③疲労病態におけるウィルス感染と免疫応答異常(西連寺) :CFS 患者からの末梢血におけるサイトカ インの動態異常について検討し、このようなサイトカイン均衡の撹乱が EBV の再活性化に基づいて引 き起こされていることを明らかにした。特に、健常者では認められない EBV 蛋白のひとつ、vIL-10 が CFS 患者において検出され、EBV 感染細胞障害性 T 細胞を抑制している可能性を明らかにした。また、 潜伏感染 EBV の活性化機序として細胞表面の CD40 からのシグナルが関わること、また、疲労および免 疫抑制に関わるサイトカインである TGF-β1 が EBV 感染細胞から産生され、特に高濃度の TGF-β1 に 曝すことにより潜伏からの EBV 再活性化が促進されることを見出した。 (2) 慢性疲労症候群に関わる代謝動態の研究 ①疲労状態にいたるまでの脳内代謝動態の解明(松村) :感染・炎症時の一連の中枢神経症状(疲労感、 痛覚過敏、発熱、食欲不振等)には複数のサイトカインが関与している。そこで、これらサイトカイ ンの産生部位、作用部位を解析する方法を確立、この系を用いた検討により IL-1β受容体は脳血管内 皮細胞と脳室周囲器官に平常時でも発現しているが感染・炎症時にその発現量が増加すること、IL-6 受容体は大脳皮質の神経細胞に平常時で発現しているが感染・炎症時には脳血管内皮細胞に誘導され ること、IL-1β受容体と IL-6 受容体は同一の脳血管内皮細胞に発現し相互誘導が認められることを見 出した。また、慢性疲労症候群の原因の一つとしてウイルス感染が疑われている。そこで、ウイルス感染 時の疲労・発熱を再現するモデルとして 2 本鎖 RNA(polyIC)腹腔内投与をしたラットを作成、自発輪 回し行動の低下(疲労の指標)および発熱が引き起こされることを確認した。これまで、感染症の時 には発熱と共に疲労倦怠感がみられることより、同一のメカニズムである可能性が考えられてきたが、 シクロオキシゲナーゼ 2(COX-2)阻害剤を用いた検討により、COX-2 は polyIC による発熱を抑制した が、輪回し行動の低下には影響しないことを発見、疲労感は発熱の二次的作用ではなく発熱とは独立 した機構で起こる可能性を示した。 12 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 ②アセチルカルニチントランスポーターの研究(三輪) :慢性疲労症候群患者でみられる疲労には仮説 に示す如く脳におけるアセチルカルニチンの代謝異常が関わっていることより、アセチルカルニチン トランスポーターの異常が関係していることが予想される。そこで、第 1 期研究ではラットの脳にお ける cDNA ライブラリーを作成、クロスハイブリ法を用いてアセチルカルニチントランスポーター類似 クローンを 15 個単離し塩基配列を決定した。単離されたクローンの多くはこれまでカルニチントラン スポーターとして知られている OCTN1 か OCTN2 のどちらかであったが、2 つのクローンはアセチルカル ニチントランスポーター類似の新たな蛋白をコードしていることが判明した。これらの cDNA は OCTN1 および OCTN2 と部分的な相同性を有しているものの、約 1/3 の小分子で、1 回膜貫通型蛋白をコードし ていた。新しく見出された 2b-1 および 11 は、培養細胞株の発現系において、それ単独では AC 輸送活 性を示さなかったが、OCTN2 の輸送活性を数倍増強した。OCTN1 の AC 輸送活性は検出限界以下であっ た。これらの事実は、OCTN2、2b-1 および 11 が脳における AC 輸送に深く関与していることを示唆し ており、第 2 期研究では CFS 患者におけるアシルカルニチン異状との関連など臨床例について検討を 進める予定である。 ③カルニチン欠損と疲労病態の関係(佐伯) :本研究では、カルニチンの細胞膜輸送蛋白質の欠損に基 づく JVS (juvenile visceral steatosis) マウスが絶食によって自発行動低下、食餌量の減退を起こ すことから、これを疲労モデルとしてその発症機構の解明を行った。JVS マウスの絶食による行動低下 はカルニチン投与によって回復するが、カルニチンを含まない食餌の投与によっても回復することか ら直接カルニチンの有無によって起こるのではない。JVS マウスの検討にて、絶食によって酸化ストレ スを受けていること、絶食 JVS マウスの脳内 c-fos 発現は橋核(延髄)での発現が著しく低下してい ることが明らかになった。また、長鎖脂肪酸代謝の律速酵素である carnitine palmitoyltransferase I の阻害剤である methyl palmoxirate (MP)を通常のマウスに投与することによって、 JVS マウスと同様な、 絶食による自発行動減少モデルが作成できることより、長鎖脂肪酸代謝障害が行動量低下の主因である ことが判明した。次に、JVS マウスにおいてはカルニチン欠乏による心肥大が認められる。そこで、心肥 大が疲労と関連している可能性を考慮し、心肥大に伴う遺伝子発現異常についても検討したころ、心肥 大に伴って発現変動する新たな遺伝子 carnitine deficiency-associated gene expressed inventricle-1 (CDV-1)と CDV-3 を発見、それぞれゲノム遺伝子および cDNA 構造を明らかにした。CDV-1 は、JVS マウス 心室において特異的に発現低下し、カルニチン投与によって正常レベルを保つが、甲状腺機能亢進によ る心肥大、およびヒトレニン・アンギオテンシン系発現亢進マウスにおける心肥大においても、同様に 発現が低下しており、カルニチン欠乏よりも心肥大に関連した遺伝子であることも判明した。 (3) 不登校状態の研究(三池) :不登校状態は成人の慢性疲労症候群に極めて類似した臨床症状を示す。 その病態は、自律神経症状に始まり、生活リズムの破綻、強い倦怠感、思考力の低下、免疫機能不全 など中枢神経機能に関連した多彩なものとなる。そこでまず自律神経機能について医学生理学的な検 討を開始し、副交感神経の衰弱を確認した。さらに深部体温リズム、ホルモン分泌リズム、睡眠・覚 醒リズムなどの生体リズムの破綻が存在しあたかも慢性的な時差ぼけ状態であることを突き止めた。 中枢神経機能の評価の中でP300 脳波の結果は認知障害が明らかに存在することを裏付けており、学習 記憶の障害をはじめとする脳機能低下の背景には SPECT、Xe-CT 検査による前頭葉、視床領域での血流 低下およびMRSにおける前頭葉のコリン蓄積があることが明らかになった。 13 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 2.疲労および疲労感の分子・神経メカニズムの解明(渡辺恭良) (1)疲労感の脳担当部位とその部位の役割 1)睡眠剥奪(断眠)による疲労蓄積がもたらす脳の神経伝達の変化について、PET を用いたインビ ボの受容体結合実験により探り、断眠によってベンゾジアゼピン受容体結合活性が、安静時コ ントロールに比べ著しく増大することを見出した。この結果は、GABAA/Bz 受容体に関わる抑制 性神経回路による調節機構が、長時間覚醒しつづけることによって生ずる疲労からの回復機構 に密接に関係していることを示唆している。 2)サルを用いて、長期の訓練により熟練した手続き学習課題を用い疲労の有無について検討し、 100 回に及ぶ課題の連続反復試行により試行中の反応時間が経時的に遅延することを見出した。 これはサルにおける疲労または疲労感の表出と密接な関係にあると考えられ、熟練した手続き 学習課題の強制的な連続試行における行動解析がサルにおける疲労の評価に有用である可能性 が強く示唆された。ここで確立したサルの疲労評価法によって、24 時間の断眠による疲労状態 や緑の香りによる疲労緩和効果を認めた。[以上、1) 、2)、尾上] 3)マウス脳におけるヒドラペプチド Hym176 様免疫陽性は、視床下部、視床、中脳、中隔、側坐核、 扁桃核などに多く見られ、その脳内地図を詳細に完成した。Hym176 をラットの側脳室、または 尾静脈に注入し、15 分から 1 時間後に血清中の脳下垂体前葉ホルモンの分泌量の変化を測定し た。その結果、成長ホルモンの血中濃度が 50%上昇した。また Hym176 の脳室内投与により脳内 セロトニン濃度が 20%低下し、ドーパミン代謝率が 2 倍に増加した。一方、ラット脳から抗 Hym176 抗体で認識される神経ペプチドを抽出した。精製を行い、このスクリーニングを 3 段階 行った結果、抗 Hym176 抗体に強く反応する分画が 1 本得られたので、アミノ酸配列分析を行っ た。現在までに、N 末の 10 アミノ酸までの分析が終了したが、検索の結果、既知の蛋白の一部 がプロセッシングされてできた、40 アミノ酸からなる哺乳類新規脳内ペプチドを得た。(岡戸) 4)平成 11 年度は、健常被験者 12 名を対象としてコミックビデオ視聴中の局所脳血流を PET を用 いて測定し、笑いの表情と補足運動野、左被殻の関連を明らかにした。平成 12 年度は健常被験 者を対象として感情を伴わないつくり笑いの最中の局所脳血流を H215O-PET を用いて測定し、つ くり笑いに比べ感情を伴う笑いでは内側前頭前野、前頭眼窩野、左前部側頭葉、左鉤、両側側 頭後頭皮質、後頭葉皮質が賦活されることを明らかにした。これらのうち内側前頭前野、前頭 眼窩野は自覚的な情動体験に関与すると考えられた。左前部側頭葉、左鉤、両側側頭後頭皮質、 後頭葉皮質の賦活はコミックビデオの視覚処理過程が反映されたものと考えられた。一方、健 常被験者を対象として、1 時間程度のコミックビデオ視聴による笑いによりナチュラルキラー細 胞(NK)活性が上昇することを示した。この際情動的要素のないコントロール刺激視聴では NK 活性の上昇は見られず NK 活性の上昇が笑いによるものであることが実証された。コミックビデ オ視聴、コントロールビデオ視聴ともに有意に緊張―不安、抑うつ、怒り−敵意などのネガティ ブな気分を改善したが、笑いでは疲労予防効果が示された。 (志水) 5)疲労状態における脳活動・神経回路を解明するため、複合ストレスをラットに負荷して疲労動 物を作成する試みを行い、また、疲労の定量的な評価方法についても動物の行動量等の検討を 行った。劇的な疲労モデルとして、ピペット洗浄機にラットを投入し、迫り来る水の恐怖から のパニックと救命のために垂らされたロープを使って水から逃れるという日頃行わない運動の ために、30 分間の負荷で取り出しても 1 時間以上も動かない疲労困憊モデルを作成することに 14 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 成功した。また、一方で、ケージの中に浅く張った水の中で毎日を過ごす断眠による過労死モ デルをも作成し、その行動評価と血中・脳内物質変化を追跡した。双方のモデルともに、脳内 のドーパミン・セロトニンなどのモノアミンレベルに変化があることが判明した。また、疲労 感に関わる脳部位を探るために、神経の活動状況の指標となる c-fos 蛋白の発現を免疫組織化 学法によって調べ、後部帯状回などの関与を明らかにした。また、疲労は一種の脳の酸化過多 状態とも考えられ、動物モデルの一つとして、中枢神経が過度に長時間活動したときに引き起 こされると考えられる中枢神経組織酸化動物を作製し、行動及びその神経活動や脳血流の変化 を観察した。中枢神経組織酸化は脳内目的領域への光増感色素の投与と同領域への脳外からの 光照射によって達成した(光酸化法) 。光酸化法により限局された脳内目的領域のみを短時間に、 またさまざまな程度に酸化することに成功し、動物の行動とくに脳波が徐波化すること、モノ アミンレベルが変化することを明らかにした。 6)ヒトにおいても、精神的疲労や運動後疲労を起こし、その疲労度を定量的に把握する方法を行 動ビデオや集中力検査法で明らかにすることができるデータを得た。また、嗅覚・味覚などと それらを想起することにより、脳活動度をfMRIで測定できることが判明し、その回路活動 を指標にして、疲労度の客観的評価による指標との対応づける研究を開始した。集中力検査法 の一つである Advanced Trail Making Test (ATMT) を少し長時間行うことができるように改良 して疲労負荷かつ評価の手段として用い、次々と PET scan を行い、局所脳血流量の変化(脳活 動部位の変化)を定量した。疲労度には、Visual Analogue Scale (VAS) を用いて、それとの 相関性が高い脳部位を検出した。疲労度と相関して、大脳皮質ブロードマン 11 野の一部の活動 が上昇することが判明した。この部位が、実際に疲労感と関係するのかどうかは、異なった疲 労負荷により共通項として抽出される必要がある。[以上、5] 、6] 、渡辺] (2)疲労生体信号と神経・免疫・内分泌相関の調整 1)感染性疲労動物モデルとして、Poly I:C 投与動物の行動観察を行い、これが疲労モデル足りう ることを明らかにした。Poly I:C を無条件刺激、サッカリン水を条件刺激にして、行動量の低 下(疲労)を条件付けすることに成功した。この結果は、疲労の神経回路の存在の証明の一つ の大きな根拠を与えた。また、セロトニン系を抑制する薬物によって、条件付けによる行動量 の低下がブロックされた。また、異なる動物モデルとして、暑熱暴露による環境疲労ラットの 自発行動量は、一日のみ一過性に低下した。一方、Poly I:C による免疫疲労ラットは、行動量 の低下が少なくとも一週間は持続した。大脳皮質および視床下部のインターフェロン-α mRNA 量も、暑熱暴露では一過性に増加するのみであったが、Poly I:C ラットは一週間後も増加して いた。また、Poly I:C ラットでは、脳内 5-HT トランスポーターの mRNA 量が一週間後も増加し ていた。(片渕) 2)ラットに対し、2 時間の拘束ストレスを用い、ストレスに対する生体反応を血漿 ACTH 濃度を指 標として追跡した。一回の拘束直後、2 日後、7 日後、21 日後に採血を行い、血漿 ACTH 濃度を 測定した。その結果、ストレス後の長時間に及ぶ ACTH 動態にストレス時の脳内オキシトシンが 修飾因子として関与することを明らかにした。また、IL−1βストレスによる血漿 ACTH 濃度の上 昇は、CYP−450 阻害剤であるエコナゾールを投与してその代謝産物である EET 合成を阻止しても 影響がなかった。一方、拘束ストレスにエコナゾール投与実験を組み合わせると、ストレス直 15 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 後の一時的応答においても、2 日後の長期応答においても ACTH 濃度を上昇させた。つまり CYP− 450 代謝産物はストレス時に作用し、OXT の長期応答のみへの作用と異なり、ACTH の一時的及び 長期的、両応答に対し促進的に作用することが判明した。また、ストレス時に「緑の香り」を 嗅がせると ACTH 応答が抑制されることが判明した。 (中島) 3)明暗コントロール下で飼育したラットで、暗期直前にアセチルカルニチン(ALC)を腹腔内(200 mg/kg)あるいは脳室内(3 nmol)に投与したところ、3 時間及び 1 日摂食量は有意に減少した。 そこで、 脳スライス標本を用いて摂食中枢ニューロン活動に対する ALC の作用を検討したところ、 1 nM の投与では記録したニューロンの約 7 割で一過性の促進とそれに続く長い抑制が認められ た。鉄に過酸化水素を作用させるとヒドロキシラジカルが発生するが、この反応系に ALC を添 加しておくと、ラジカルの発生量は 15%にまで減少した。また、モデル神経細胞である PC-12 細胞にヒドロキシラジカルを作用させると 40%の細胞で細胞死が生ずるが、ALC を添加しておく と細胞死が生ずる細胞の数は 20%と有意に減少した。いずれの実験も ALC が抗酸化作用をもつこ とを示した。生後 2~3 ヶ月令でボケ症状を呈する老化促進モデルマウスでは生後 2 ヶ月目から酸 化ストレスにより脂質過酸化物が脳で有意に増加する。そこで、抗酸化作用を有する ALC を生後 21 日目から 2 日に 1 回、100~400 mg/kg の濃度で腹腔内に 3 ヶ月間にわたり投与し、受動的回避 学習課題によりボケ症状を調べたところ、ボケ症状は有意に改善されていることが判明した。ま た、脂質過酸化物の量も対照に比べ有意に減少していた。拘束ストレス後、ラットの 3 時間並び に夜間摂食量は有意に減少する。そこで、拘束後の摂食中枢セロトニン量を調べたところ、セロ トニンは拘束後一過性に増加した。しかし、拘束時に緑の香り(trans-2-hexanal)をラットに嗅 がせておくと、セロトニンの増加は有意に減少し、また 3 時間摂食量も有意に回復した。これは、 緑の香りに疲労(ストレス)に対する癒しの作用があることを示唆する。 (佐々木) 4)疲労病態モデルを用いて、脳心循環病態やエネルギー代謝病態などにおける活性酸素代謝病態 を解析し、循環制御やエネルギー代謝が活性酸素種間のクロストークにより支配される様相を 明らかにした。マウス用に改良した回転ドラム型トレッドミルを用いて昼夜に渡り様々な強度 の無休息運動ストレスを負荷して解析した結果、低速運動により疲労病態モデルを確立出来る ことが判明し、慢性疲労が睡眠障害により加速増強されることが判明した。疲労病態において、 理学的測定法と生化学的測定法を併用した。理学的パラメーターとしてはロタロッドによる回 転試験が有用であるが、特にそれへの適応速度が疲労度を鋭敏に反映することが判明した。還 元型(GSH)および酸化型グルタチオン(GSSG)、アスコルビン酸などを解析した結果、疲労負荷に よりこれらの抗酸化物質のレベルと酸化還元状態が著変することが判明した。特に、睡眠と関 係が深い脳内物質 GSSG の増加が顕著であり、疲労と睡眠病態の分子関連が確認された。一方、 48 時間断眠運動を負荷したラットのエネルギー代謝と活性酸素関連代謝への影響を検討した。 自発運動量を open field 法で解析した結果、コントロール群と比較して、実験群では自発運動 量が増加傾向を示した。この際、疲労負荷動物でどの様な遺伝子群が顕著な変動を示すかを microarray 法で解析した結果、正常状態の脳で発現している多数の遺伝子群の発現が、疲労負 荷群では極度に低下することが判明した。現在、その遺伝子群の機能単位の解析、及びそれに 対するカルニチン投与の影響を解析中である。 5)さらに、疲労時の組織ミトコンドリアにおけるエネルギー代謝病態(カルニチン代謝病態を含 む)、活性酸素産生動態、抗酸化防御系の変動を解析した。これらの解析により、カルニチンが 16 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 ミトコンドリアでのβ酸化を介してエネルギー代謝を活性化し、これによりミトコンドリア依 存性の細胞死を強力に抑制することが判明した。これらの研究成果を踏まえ、エネルギー代謝 病態を基盤とする疲労病態には易可逆的な急性疲労と難可逆性の慢性疲労病態があり、後者で は神経細胞のアポトーシスが関与する可能性を提唱し、以下の実験を行った。各種ストレスで 誘起される神経系細胞 PC12 のアポトーシスがカルニチンで顕著に抑制されること、およびその メカニズムはミトコンドリア膜電位の病態変化阻止に起因ることが判明した。また、筋肉細胞 系のアポトーシスとして典型的なカエルの尾部筋肉細胞に着目し、これに対するカルニチンの 影響を解析した。解析の結果、尾部筋肉細胞のアポトーシスもカルニチンで著明に抑制された。 そのメカニズムもミトコンドリア膜電位病態の阻止を介することが判明した。 一方、回転トレッドミル中で 48 時間断眠運動を負荷したラットのエネルギー代謝と活性酸素 関連代謝への影響を検討した。自発運動量を open field 法で解析した結果、コントロール群と 比較して、実験群では自発運動量が増加傾向を示した。この際、疲労負荷動物でどの様な遺伝 子群が顕著な変動を示すかを microarray 法で解析した。解析の結果、正常状態の脳で発現して いる多数の遺伝子群の発現が、疲労負荷群では極度に低下することが判明した。現在、その遺 伝子群の機能単位の解析、及びそれに対するカルニチン投与の影響を解析中である。 [以上、4) 、 5)、井上] 3.疲労病態制御技術の開発(倉恒弘彦) (1) 疲労の定量化・指標化と疲労を和らげる生活の提言 ①疲労の定量化及び指標化技術の開発 人は疲労状態に陥ると注意力・集中力が低下し反応時間の遅延や 2 つのことを同時に処理する能力 の低下がみられることに着目し、このような疲労に伴う脳機能の低下を定量的に評価するための Advanced Trail Making Test(ATMT)や Dual Task Test(DTT)を開発した。ATMT とは、タッチパネル ディスプレイ上に提示された 1~25 までの数字を素早く押す視覚探索反応課題を用いて疲労の客観的 評価を行なうものであり、target 毎の探索反応時間が測定でき、易疲労性を客観的に評価できること が確認された。また、ディスプレイ上に 1 から 5 の数字を連続 100 回呈示し、できるだけ速やかかつ 正確にボタン押しで反応させるタスク(X 課題)とともに画面上部のランダムな位置に 50%の出現確 率で標的刺激である図形(円)を呈示して同時に第二課題行なう DTT では、疲労状態ではエラー数(特 に Omission Error)が増加することが判明した。さらに、運動後の疲労ではこのような脳・神経機能 は一見代償されているように思われたが、反応時間のばらつきが大きいことが明らかになり、反応時 間の変動係数を調べることにより代償されているような疲労状態をも検出できることが判明した。 疲労に伴う行動の変化についての検討では、モーションピクチャーシステムを用いて行動の俊敏性 や行動特性を評価したところ、運動負荷による疲労では断続立ち座りにより移動距離が短縮され、パ フォーマンスの低下を最小限にするための代償反応がみられたが、疲労を定量化できるような指標は 見いだすことは出来なかった。そこで、アクティグラフを用いて行動量を検討したところ、20~40 歳 代の健常者の検討では加齢とともに行動量が少し減少する傾向がみられ、特に 40 代の男性で顕著であ った。CFS患者の検討では、現在のところ症例数が少なく統計的な評価はできていないが、睡眠時 間の延長とともに覚醒時における行動量の低下が顕著であり、病的な慢性疲労の指標となる可能性が 示唆された。 17 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 疲労感の強さの評価を主観に頼るのではなく、客観的な数値に置き換えて評価することを可能とし た本研究は、年間数千億円もの極めて莫大な費用を投じて行われている多くの疲労回復手法の正確な 評価を可能とするものであり、経済的観点からも極めて重要なものである。 ②伝承療法等の評価と疲労を和らげる生活の提言 疲労や疲労感の軽減に奏功すると言われてきた伝承療法等について、健康・保健関係の文献・雑誌等 を収集するとともに、機器メーカー、和漢薬メーカー、製薬メーカー等に対するヒアリングを行い、情 報を整理した。これらの情報をもとに、伝承療法等の内容、効果等についての第 1 次データベースを作 成した。また、第 1 次データベース作成をふまえ、無作為に抽出した 15 歳~64 歳までの大阪府民 3,000 人を対象にアンケート調査を行い(有効回収票は 1,219 件、有効回収率 40.6%) 、市民、疲労や疲労感の 軽減に奏功すると言われてきた伝承療法等の活用状況と効果を把握し、 第 2 次データベースを作成した。 その結果によると、疲れやだるさを感じたことのある人の伝承療法等の活用状況では,全体の 94.1% の人が何らかの形で活用しているが,伝承療法別の活用状況ではかなりのばらつきがみられた。最も 多く活用されているのは,入浴(56.0%)で,次いでコーヒー(36.2%),入浴剤(32.7%),ビタミ ン剤(28.0%),日本茶(26.4%),体操(22.6%),お酒(22.6%),栄養ドリンク剤(21.9%)など 入浴系と食品系が多く,最も少ないものでカラーパンクチャー,色体テープ,身体中心集団療法がい ずれも 0.2%となっている。また,健康保険が適用されている漢方薬および医師の同意があれば健康保 険の適用になる療法(あんま・マッサージ,指圧,灸,鍼)については,マッサージ(19.5%)から 灸(2.2%)までばらつきがみられた。多くの人は複数の伝承療法を活用しており,入浴や食品を中心 に,マッサージ,指圧,鍼灸,睡眠,運動等を組み合わせて実施していた。 伝承療法等の効果については,活用されている割合の高低に関わらず,効果が「あった」と認めて いる人の割合も高低がみられた。例えば,活用されている割合が 18.1%の「笑い」については,55.3% の人が効果が「あった」と認めていた。また,健康保険が適用されている漢方薬や,医師の同意があ れば健康保険の適用になる療法等(あんま,マッサージ,指圧,鍼,灸)については,効果が「あっ た」と認めている人の割合は他の療法よりも高かった。効果がみられた伝承療法としては,指圧,マ ッサージ,あんま,整体,ヨガ,鍼灸,カイロプラティック,温泉,サウナ,入浴等の身体に直接働 きかける療法を挙げる人が多いが,アニマルセラピー,森林浴,笑い等を挙げる人もいる。活用状況 と効果との相関は必ずしも高くないという結果であった。 (2)疲労病態の治療技術の開発に関する研究 本研究では疲労病態の治療技術の開発や慢性疲労の予防に向けた提言を目指して以下に述べる①~ ⑥の研究を行った。これらの研究成績により、医療機関受診患者における疲労の有症率は 66.8%で、 そのほぼ半数の人では以前に比べて仕事などの能率や作業量の低下が認められ、疲労は社会生活に支 障を来す原因の 1 つとなっていること、日常生活における生理的疲労に対しては入浴やコーヒーが有 効であると感じていること、茶には運動性疲労の回復に有効である成分と、精神疲労の回復に効果が みられる成分が含まれており、この相乗作用により疲労回復もたらしていると推測されることなどが 明らかになった。また、ポジトロン CT を用いた検討にて、慢性的な疲労病態では前頭葉(特に前帯状 回、前頭前野)における神経細胞の活動性が低下しており、特に脳でグルタミン酸、アスパラギン酸 やGABA等の神経伝達物質の生合成に利用されるアシルカルニチンの取り込みが前頭前野と前帯状 回において明らかに低下していることが世界で初めて示された。さらに、疲労モデル動物を用いて補 18 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 中益気湯(TJ-41)および acetyl-L-carnitine の疲労除去効果を重量負荷強制遊泳試験にて評価した ところ、TJ-41 はストレス負荷に伴い発現する疲労感の除去作用および回復促進作用を、acetyl-Lcarnitine は疲労回復促進作用を有する可能性が明らかになり、またセロトニン再吸収阻害剤やドーパ ミン分泌を促す薬剤が一部の症例では疲労・倦怠感の治療薬となりうることなども確認された。 ①一般医療機関受診患者の疫学調査とリスクファクターの検討: 厚生省疲労研究班が一般地域住民を対象に疲労の疫学調査を実施した同一の地域において医療機関 外来受診者調査を平成 12 年度に実施、調査票発送数 2180 通のうち有効回答 1767 通(81.1%)を得た。 その結果によると、医療機関を受診患者における疲労の有症率は 66.8%で、男に比べて女では疲労を 感じる割合が高かった。年齢との関連では、35-44 歳群がもっとも多く、病気による疲労は年齢が増え るに従い増加したが、過労や原因不明の疲労は 35-44 歳がピークで加齢と共に減少した。疲労の程度 についての調査では、以前に比べて仕事などの能率や作業量の低下を認める人が全体で 49.6%あり、 この割合は病気による疲労が 59.9%と最も高かったが、明確な原因による疲労、原因不明ともに 40% を超えており、疲労・倦怠が社会生活に支障を来す原因の 1 つとなっている実態が明らかになった。 しかし、医療機関にかかった人の主訴を調べてみると、疲労を主訴に受診した患者は 1 割程度に過ぎ ず、疲労・倦怠感はあまりに一般的な徴候であるが故に身体の異常を知らせる重要なアラーム兆候と は捉えていないものと思われる。6 ヶ月を超える慢性的な疲労・倦怠感は疲労がみられる患者の約 2/3 にみられ、その半数以上の人が以前に比べて仕事などの能率や作業量の低下を訴えており、慢性的な 疲労が現在社会における生活の質の低下に関連していることが明らかになった。 ②神経伝達物質の脳内代謝に影響を与える薬剤の慢性疲労症候群(CFS)患者への有効性の検証: うつ病患者に対してセロトニン再吸収阻害剤(フルボキサミン:商品名デプロメール)やドーパミン 分泌を促すアマンタジン(商品名:シンメトレル)にて治療を行うと疲労/倦怠感の軽減がみられる ことがあることより、疲労・倦怠感と改善にこのような薬剤が有効である可能性が考えられる。そこ で、大阪大学医学部附属病院に通院している CFS 患者における有効率の検証を行ったところ、フルボ キサミン投与では 35.7%の症例が有効/著効であり、アマンタジンは 47.4%の症例が有効/著効であっ た。したがって、セロトニン再吸収阻害剤やドーパミン分泌を促す薬剤が一部の症例では疲労・倦怠 感の治療薬となりうることが確認され、疲労・倦怠感にセロトニン神経系やドーパミン神経系が関与 している可能性が示唆された。 ③CFS 患者の脳内代謝異常(セロトニン代謝、ドーパミン代謝、局所脳血流量、アセチルカルニチン 代謝など)の検討:疲労感を最終的に認知しているのは脳であることより、慢性疲労を認める代表的 な疾患である慢性疲労症候群(CFS)患者の脳内代謝異常(セロトニン代謝、ドーパミン代謝、局所脳 血流量、アセチルカルニチン代謝など)をポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)を用いて検 討した。スウェーデンのカロリンスカ研究所フディンゲ病院に通院中のCFS患者 8 名と年令・性の 一致する健常者 8 例に対してウプサラ大学 PET センターとの共同研究として局所脳血流量やアシルカ ルニチン代謝について検討を行ったところ、CFS 患者群では脳の前頭前野、前帯状回、眼窩前頭野、島 皮質、視覚野などの神経細胞の活動性が低下しており、特に前頭前野と前帯状回においては有意にア シルカルニチンの取り込みが低下していることが判明した。また、前述の如くセロトニン再吸収阻害 剤やドーパミン分泌を促すシンメトレルは激しい疲労を訴える患者の一部では有効であることよりセ ロトニン代謝はやドーパミン代謝について検討したところ、まだ preliminary な解析ではあるが前帯 状回においてセロトニン合成が低下している可能性が明らかになった。このことは、疲労の治療とし 19 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 て SSRI などが有効であることを示唆するものであり、極めて重要な所見である。セロトニン代謝とド ーパミン代謝に関する詳細な解析は現在も進行中であり、来年度には脳内代謝のどのような変化が慢 性疲労と直接結びついているのかを明らかにすることにより、異常な疲労/疲労感を治療する技術の 開発につなげたいと考えている。 ④アセチル-L-カルニチンの脳内代謝物分析:[2-14C]acetyl-L-carnitine (ACM)をマウスに経静脈的に 投与し、その脳内代謝産物の解析を試みたところ、ACM はグルタミン酸、アスパラギン酸や GABA 等の 生合成に利用されていることが明らかになった。また、その取り込みを酢酸比較したところ、神経細 胞が密に存在する大脳皮質、小脳顆粒層、延髄、視床、海馬、弓状核、乳頭体、膝状体、橋、手綱核、 下丘、延髄等の領域で高く、大脳皮質ではⅡ、Ⅳ、Ⅴ層に取り込まれているのが観察された。脳ホモ ジネートの分析の結果では、酢酸は有機酸分画へ代謝される割合が多く、一方アセチルカルニチンは アミノ酸分画へ代謝される割合が多かった。以上の結果より、PET 解析にて明らかになってきた CFS 患者における前頭前野と前帯状回のアシルカルニチン取り込み低下は、同部位におけるグルタミン酸、 アスパラギン酸、GABA 等の生合成低下という脳代謝異常と結びついて CFS 患者にみられる慢性疲労な どの臨床症状の原因となっているという全く新たな知見が発見された。 ⑤疲労の回復手法の 1 つとして用いられている緑茶の成分であるカフェイン、テアニン、アルギニン の作用について動物を用いて科学的検証:カフェイン投与群では血中ドーパミンが対照群に比較して 有意に上昇することが明らかになった。ドーパミンの上昇は、A系神経伝達物質として作用し、快感 や意欲をもたらしていることが推察される。一方、アルギニン投与群もドーパミンのやや上昇傾向が みられたが、3 種混合物投与群ではカフェイン単独投与群に比較してその上昇が低く、カフェインのド ーパミンへの影響をテアニンが抑制することが判明した。また、アドレナリンや、ノルアドレナリン も同様の上昇傾向がみられた。一方、疲労の指標物質の 1 つであるケトン体、3 ヒドロキシ酪酸、アセ ト酢酸について検討したところ、テアニン及びアルギニン投与群において対照群に比べて減少傾向が みられた。考案:茶には運動性疲労の回復に有効である成分と、精神疲労の回復に効果がみられる成 分が含まれており、この相乗作用により疲労回復もたらしていることが推測された。 ⑥疲労モデル動物の確立と疲労治療薬としての漢方薬および acetyl-L-carnitine の有用性:長期水浸 拘束ストレス負荷ラットの行動学的(新規環境下における自発運動量、重量負荷強制遊泳試験)およ び生化学的(血漿中 total carnitine, free carnitine, 各種臓器中 glutathione, ascorbic acid レ ベル)が評価され、その特徴が検証された。その結果、本モデル動物は疲労モデルあるいは疲労しや すい動物モデルとして確認された。そこで、本疲労モデル動物を用いて補中益気湯(TJ-41)および acetyl-L-carnitine の疲労除去効果を重量負荷強制遊泳試験にて評価したところ、TJ-41 はストレス 負荷に伴い発現する疲労感の除去作用および回復促進作用を、acetyl-L-carnitine は疲労回復促進作 用を有する可能性が示唆された。 波及効果、発展方向、改善点等 本研究では、疲労の分子・神経メカニズムについて、広く慢性疲労患者から正常人の疲労まで、小 動物からサル・ヒトまで、遺伝子から行動まで、近代的治療学から疫学・伝承療法までを対象とした もので、その点で,成果の波及効果は様々な分野に及ぶと考えられる。まず,医療の面から見れば, 疲労は万病の元になりうるし,また,様々な病気の訴えの中に疲労倦怠感があるので,疲労回復・疲 20 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 労予防は,国民が健康であるための最重要点といっても過言でない。本研究の成果が波及すれば、現 代社会における疲労や過労の軽減が実現できる。疲労の分子神経メカニズムの解明がこのように進み、 疲労の予防や治療に関する提言ができると、それに基づいた原因別・様相別の疲労回復戦略が構築で きるので、国民生活や社会的観点からも何ものにも代え難い価値があると考えられる。現代社会にお ける疲労や過労の軽減に関する具体的な方策を提言することにより、これまで「疲労は当たり前」と いう通念で放置されてきたが病気や病気の前段階として、科学的・医学的に治療・予防の観点が育ち、 国民の意識改革を促すものと考えられる。それらの相乗効果によって、医療費削減が必須の現況での 経済効果は絶大である。 また、現代社会には、科学的根拠の希薄な疲労回復薬や食品,器具が横行しており、これらの科学 的根拠の確認による日本オリジナルの製品を作り出せれば、新産業も創出でき,本研究の国民生活へ の反映、波及効果は双方により絶大であると考えられる。 研究成果は、多くの国際学術誌に発表するとともに、国際学会(国際 CFS 学会、北米神経科学学会 や PET 関連の国際シンポジウム)で発表した。また、2001 年 3 月に行われた日本生理学会では、 「疲労 の神経メカニズム」というシンポジウムを渡辺を世話人として行い、班員の発表を仰いだ。2002 年 6 月には,スウエーデンで,世界初の疲労の科学に関する国際会議を主催する予定である。啓蒙本「疲 労の科学」を講談社より 2001 年 5 月中旬に出版したところ,このような科学書としては,例外的に初 版 2500 部が 1 年間で完売したという報告を受けた。疲労に関する国民の高い関心を反映していると思 われる。2001 年 9 月には、市民公開シンポジウム「疲れの科学と処方箋」を開催し,300 名以上の出 席者から好評を博した。さらに、2002 年秋には、NHK主催のイベントを計画し、そのイベントは後 日,NHK 番組放送予定である。 発展方向 本研究のサブテーマ間の連携は非常に良く、研究の 3 本柱である、1)疲労(病的疲労と健常人の疲 労)のメカニズムの解明、2)疲労の定量化・指標化、3)疲労の治療や軽減に関わる方法論の評価と 提言、が相互に融合して、大きな成果を上げつつある。今後の発展については,まさに,この 3 方向 を大いに進捗させることが重要である。より良い疲労回復技術の開発には、このような成果に立脚し た技術開発が必須であり、世界的にユニークな動物モデルや今般はじめて得られる脳機能イメージン グを主体とした ヒト脳での知見は,創造性の高いものであり,ジャパンオリジナルの疲労回復,疲 労予防戦略を形成することは,大いに国益につながるものである。 改善点等 本研究により得られた知見を試行するには,ベンチャー的要素の強い産業界の参入が必要であるが, 今だ,班研究の体制として,そのような産業界の受け入れ体制ができていない。あるいは,このような 班研究と平行して,産業界独自の科学技術班を構成し,双方のやりとりの中から,実際に日本オリジナ ルの製品化を 1 日でも早く成し遂げることができるようなインフラストラクチャーを作る必要がある。 また,研究計画は,かなり班員の度量に任せられているので,第 2 期の 3 年間においては,総合推 進委員会主導による綿密な計画のもとに研究を進めて行きたい。 21 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 研究成果の発表状況 (1) 研究発表件数 原著論文による発表 左記以外の誌上発表 口頭発表 合 計 国内 21 件 89 件 362 件 472 件 国際 155 (5) 件 23 件 105 件 283 (5) 件 合計 176 (5) 件 112 件 467 件 755 (5) 件 (2) 特許等出願件数 1 件 (うち国内 1 件、国外 0 件) (3) 受賞等 0件 0 件、国外 0 件) (うち国内 (4)主要雑誌への研究成果発表 Journal P NATL ACAD SCI USA J Neurosci Cancer Res ARTHRITIS RHEUM NEUROIMAGE Stroke J VIROL MOL PHARMACOL DEV BIOL AM J RESP CRIT CARE J INFECT DIS J NEUROCHEM NEUROPSYCHOPHARMACOL BIOCHEM J CLIN CHEM FREE RADICAL BIO MED LEARN MEMORY EUR J NEUROSC J. of Hepatology NEUROSCIENCE VIROLOGY J PHARMACOL EXP THER J MOL MED-JMM FEBS LETT SYNAPSE J MED VIROL BRIT J HAEMATOL BIOCHEM BIOPH RES CO Impact factor 3 以上の 英文雑誌の発表 Impact factor 3 未満の 英文雑誌の発表 IF 値 サブテーマごとの論文数 (サブテーマにまたがる重複数) サブテーマ 1 サブテーマ 2 サブテーマ 3 合計 10.789 8.502 8.46 7.054 6.857 6.008 5.93 5.678 5.54 5.443 4.988 4.9 4.579 4.28 4.261 4.116 4.011 3.862 3.705 3.563 3.507 3.452 3.445 3.44 3.402 3.289 3.068 3.055 1 0 0 0 0 0 7 1 0 0 1(1) 1(1) 0 0 0 0 0 1(1) 0 0 7(4) 1 0 0 0 4(1) 0 0 0 2 1 1 2 1 0 0 1 3 0 4(1) 1 2 0 5 1 4(1) 1 4 0 1 1 1 1 0 0 3 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1(1) 0 0 0 1 0 0 0 0 0 5(4) 0 0 0 0 1(1) 2 0 1 2 1 2 2 1 7 1 1 3 1 4 1 2 1 5 1 4 1 4 8 2 1 1 1 4 2 3 計 305.774 24(8) 40(2) 10(6) 66 31(9) 52 15(9) 89 55(17) 92(2) 25(15) 155 発表論文合計 22 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 1. 慢性疲労症候群等の病的疲労の研究 1.1. 慢性疲労症候群原因ウイルスとサイトカイン異常に関する研究 1.1.1. 原因ウイルス分離・同定 大阪大学大学院医学系研究科研究室微生物学講座 山西 要 弘一 約 慢性疲労症候群(CFS)の外因として、何らかの病原体の持続感染によるサイトカイン類の異常産生とこれに続発 する免疫系及び神経系の異常な反応が考えられている。本研究では、このような仮説に基づき、CFS の原因又は病 状と関連性があると思われる微生物の同定を試みた。その結果、CFS 患者の臨床検体中からのウイルス、マイコプ ラズマ等の分離・同定は出来なかった。しかし、ヒトヘルペスウイルス 6 (HHV-6)の潜伏感染蛋白に対する異常な 免疫反応が、CFS 患者の約 20%でみられ、CFS と HHV-6 の潜伏感染の関連が示唆された。 研究目的:研究を実施した目的 慢性疲労症候群(CFS)の病態の重要な特徴として、持続的なサイトカインの異常産生が挙げられる。この以上産 生のメカニズムとして、何らかの微生物の持続感染によるサイトカイン類の異常産生とこれに続発する免疫系及 び神経系の異常な反応が考えられている。本研究は、このような仮説に基づき、CFS の原因又は病状と関連性があ ると思われる微生物を同定することを目標としている。 具体的には、CFS 患者の臨床検体中に存在するウイルス、マイコプラズマ等の分離・同定を試みること、及び、 CFS との関連の可能性が報告されているウイルス、マイコプラズマがどの程度の割合で、本邦に置ける CFS とかか わりがあるのかについて検討することであった。 研究方法:試験研究の実験手法等 i) マイコプラズマ感染と CFS との関係。 湾岸戦争後症候群として知られる CFS において、高頻度のマイコプラズマ感染が見られるという報告がある[1]。 我々は、国内の CFS 患者においても同様の所見が得られるかどうかの検討を行った。方法としては、M. genus, M. hominis, M. fermentans, M. penetrans の DNA の検出を、患者の抹消血単核球に対して PCR を行うことによった。 使用した PCR プライマーは、それぞれ M. genus:5’- GGGAGCAAACAGGATTAGATACCC-3’、 5’-TGCACCATCTGTCACTCTGTTAACCTC-3’、 M. hominis: 5’- ATACATCGATGTCGAGCGAG -3’、 5’CATCTTTTAGTGGCGCCTTAC -3’ M. fermentans :5’-GGACTATTGTCTAAACAATTTCCC-3’、 5’-GGTTATTCGATTTCTAAATCGCCT-3’、 M. penetrans 5’-CATGCAAGTCGGACGAAGCA-3’ 5’-AGCATTTCCTCTTCTTACAA-3’ 5’--3’ を用いた。末梢血単核球を分離し、この細胞から DNA を調製した。調 製した DNA 1 µl を鋳型に 15µl の反応液で PCR を行い反応液 5µl をアガロースゲル電気泳動を行った。48 検体に 関して上記の PCR 検査を行った。 23 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 ii) 慢性疲労症候群患者からのウイルス分離。 CFS には、発熱、リンパ節腫脹、家族性の発症が見られるなど、急性のウイルス感染を思わせる所見も多い。こ れまでに報告されている以外のウイルスの感染を検討するために、CFS 患者からのウイルス分離を試みた。方法は、 ヒトヘルペスウイルス(HHV-)6、HHV-7、HIV などを血中より分離するのと同様の方法で、末梢血単核球分画を IL-2 及び PHA で刺激し、臍帯血単核球と共培養した後、細胞変性効果を観察することによった。70 例の CFS 患者血球 に関して、分離を試みた。 iii) ヒトヘルペスウイルス 6 (HHV-6) の潜伏感染・再活性化と CFS との関係。 HHV-6 は、疲労病患者よりウイルス分離がなされたことなどより、その発見当初から、疲労病との関係が疑われ てきた。しかし、最近数年の研究では、a) CFS 患者と健常人との間で、HHV-6 DNA 量に差が見られないこと、b) CFS 患者と健常人との間で、HHV-6 感染細胞に対する抗体価に差がないことが報告され、CFS と HHV-6 は関係がないと する意見が強い。 当研究室では、近藤を中心に HHV-6 の潜伏感染に関する研究を行っているが、この研究より、HHV-6 が潜伏感染 時に発現する mRNA 及び、蛋白が同定された。この蛋白は、HHV-6 遺伝子にコードされる 160 アミノ酸の蛋白で、 潜伏感染細胞であるマクロファージの細胞質に発現される(以下この蛋白を HHV-6 ORF160 と呼ぶ)。HHV-6 は、生 後 1 年以内にすべての人で感染が成立するため、100%の人が HHV-6 に対する抗体を有するが、この HHV-6 ORF160 に対する抗体は、健常成人ではほとんど認められない。 近藤らは、この蛋白を 293T 細胞で強制発現させ、CFS 患者を含む様々な疾患患者及び健常人の血清抗体価を間 接蛍光抗体法によって検討した。61 名の CFS 患者、41 名の健常成人、45 名の HHV-6 の再活性化が認められる腎移 植患者、20 名の回復期突発性発疹患者に関しての検討が行われた。 ⅳ)HHV-6 の中枢神経系における潜伏感染・再活性化 また、同時に HHV-6 の潜伏感染・再活性化と中枢神経系疾患との関係を検討する目的で、HHV-6 の中枢神経系に おける潜伏感染の機序に関する研究も近藤らによって行われた。HHV-6 の脳内における潜伏感染・再活性化は、近 藤らによって行われた研究により、反復性の熱性痙攣の原因であることが示されていたが[2]、最近、これに加え て、多発性硬化症などの神経疾患との関係が疑われている[3]。研究方法としては、マクロファージにおける潜伏 感染で発現する 3 種類の HHV-6 潜伏感染関連遺伝子の発現を、RT-PCR 法をもちいて、事故死した正常人の脳にお いて検討した。また、in vitro においては、グリア細胞株(U373)及び初代培養アストロサイトに HHV-6 variant B を感染させた系に関して、ウイルス増殖と遺伝子発現を検討した。この際、潜伏感染特異的なプロモーターの活 性を 5’-RACE 法の変法を用いて検討した。さらに、HHV-6B を感染させたグリア細胞を様々なサイトカイン類や増 殖因子で刺激し、ウイルス再活性化に対する影響を検討した。 研究成果 i) マイコプラズマ感染と CFS との関係。 48 検体に関して検査を行ったが、結果はいずれのマイコプラズマに関しても陰性であった(図 1A,1B,1C,1D)。 マイコプラズマ陽性コントロールに対する PCR の結果は陽性であった。 24 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 (A) (B) (C) (D) 図 1:PCR 法による末梢血中からのマイコプラズマ DNA の検出 図はそれぞれ、1A: M. genus; 1B: M. hominis; 1C: M. fermentans; 1D: M. penetrans を示す。 ii) 慢性疲労症候群患者からのウイルス分離。 70 検体の慢性疲労症候群患者抹消血約 3ml に対して、上記の培養条件にて約 1 ヶ月間の培養を行った。2 例に おいて、細胞のバルーニングが少数観察されたが、臍帯血単核球との共培養によって、この変性細胞の数を増加 させることは出来ず。結果的に dilute out されてしまった。その他の検体では、ウイルス感染による細胞変性効 果を思わせる細胞の変形は観察されなかった。 iii) ヒトヘルペスウイルス 6 (HHV-6) の潜伏感染・再活性化と CFS との関係。 1. 抗 HHV-6 潜伏感染蛋白 ORF160 抗体は、約 20%の CFS 患者の血清において抗体価 20 倍以上の陽性を示した。 2. 健常成人のみならず、高い抗 HHV-6 抗体価を有する腎移植患者及び突発性発疹回復期の患者でも、この蛋白に 対する抗体陽性者はほとんど見られなかった。 3. 抗 HHV-6 潜伏感染抗体陽性の CFS 患者には、重症例が多い傾向が見られた。 4. HHV-6 の蛋白全体に対する血清抗体価及び、HHV-6 DNA 量に関する検討も行ったが、CFS 患者と健常人の間に顕 著な差異は見られなかった。 25 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 22%(≧X20) ≧X160 10 persons indirect IFA X80 2%(≧X10) 4% (≧X10) X40 1 person 5% (≧X10) X20 <X10 CFS 患者 健常 成人 腎移植患者 (再活性化) 突発性発疹 (回復期) 図 2:CFS 患者及び対照患者における抗 HHV-6 ORF160 抗体価 図中に示したパーセンテージは、CFS 患者では抗体価が 20 倍以上のものの、それ以外の場合は抗体価 10 倍以上のものの 割合を示す。また、図中の写真は、間接蛍光抗体法(indirect IFA)の代表的な写真を示す。 ⅳ)HHV-6 の中枢神経系における潜伏感染・再活性化 1. 脳組織(107 細胞)において、3 種類の HHV-6 潜伏感染特異的遺伝子の発現を検討したところ 10 例中 7 例で陽性 であった。さらに、この発現は、マクロファージにおける発現と種類及び発現量に差が見られなかった。 2. グリア細胞株 U373 細胞に HHV-6B を感染させたところ、ウイルスの増殖は見られず、潜伏感染関連遺伝子の発 現が見られた。また、この細胞においては、潜伏感染特異的プロモーターが前初期遺伝子 IE1 のプロモーター に比較して優位に活性化されていることが判明した。同様の現象は、初代培養アストロサイトにおいても観察 された。 3. 感染グリア細胞株及び感染アストロサイトをインターロイキン 1β(IL-1β)で刺激したところ、潜伏感染特異的 プロモーターと IE1 のプロモーターの活性が上記と逆転し、IE1 の産生及びウイルス産生が開始された。この 現象も、初代培養アストロサイトにおいて確認された。 考 察 i) マイコプラズマ感染と CFS との関係。 今回我々が行った PCR 法を用いた研究では、米国において報告されたマイコプラズマの感染は、CFS 患者におい て認められなかった。この結果をもたらせた要因として、以下の可能性が考えられた。 1. 米国におけるマイコプラズマの検出は、湾岸症候群と呼ばれる、ストレスによって誘導される CFS の 1 亜型に のみ見られるもので、本邦における CFS には当たらない。 2. 行った検査が 4 種類のマイコプラズマに限られていたために、CFS 患者の末梢血中にあるマイコプラズマを見 逃した。 3. 行った PCR 検査が single PCR 法に限られていたため、十分な感度が得られず、CFS 患者の末梢血中にあるマイ コプラズマを見逃した。 このいずれの可能性が正しいかについては、更なる検討が必要であると考えられた。 26 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 ii) 慢性疲労症候群患者からのウイルス分離。 今回我々が行ったウイルス分離では、CFS 患者からのウイルスの分離は出来なかった。この原因については、以 下の可能性が考えられる。 1. CFS 患者において、末梢血中でウイルス分離が可能なウイルスは存在しない。 2. 我々が用いた方法は、主として CD4 陽性の T 細胞で完全増殖を示すウイルスを分離培養する方法である。この ため、もし CFS 患者の末梢血中にウイルスがいたとしても、これが CD4 陽性の T 細胞で増殖しない場合は、検 出することが出来ない。このため、このようなウイルスが血中に存在していた可能性は残る。 3. 我々が用いたのと同様の方法を用いて、健常成人より、ヒトヘルペスウイルス 7(HHV-7)が発見されている。今 回我々が行ったウイルス分離では、HHV-7 は検出されなかった。このことは、今回のウイルス分離の感度があ まり高くはなかったことを示している。 以上より、今回の研究においてウイルス分離が出来なかったことは、必ずしも CFS 患者の末梢血中に分離可能なウイル ス感染(主として増殖性の感染)がないことを意味しない。結論を得るためには、更なる検討が必要なものと思われる。 iii) ヒトヘルペスウイルス 6 (HHV-6) の潜伏感染・再活性化と CFS との関係。 CFS 患者の約 20%の人で、HHV-6 の潜伏感染関連蛋白 ORF160 に対する異常な免疫反応が見られた。このことより、 1. 抗 HHV-6 潜伏感染抗体を検討することによって、CFS 患者と健常人の HHV-6 に対する反応性を質的に分けるこ とに成功した。 2. この結果は、同時に、CFS の少なくとも一部が HHV-6 の感染と何らかの関係を持つことを示している。 3. HHV-6 の蛋白全体に対する血清抗体価及び、HHV-6 DNA 量において、CFS 患者と健常人の間に顕著な差異は見ら れなかったことより、CFS は HHV-6 の増殖性の感染とではなく、潜伏感染と強く関係していることが示唆された。 ⅳ)HHV-6 の中枢神経系における潜伏感染・再活性化 これらの結果から、中枢神経における HHV-6 の潜伏感染に関して、以下のことが判明した。 1. HHV-6 は、中枢神経系においては、グリア細胞、特にアストロサイトで潜伏感染・再活性化を成立させている。 2. ウイルスの再活性化は、IL-1βの刺激によって誘導される。 3. 熱性痙攣患者や、多発性硬化症の患者では、IL-1βの増加が報告されており、IL-1βによって再活性化した HHV-6 がこれらの疾患の増悪因子となる可能性が示唆された。 さらに、ⅲ)ⅳ)の結果を総合的に考えると、図 3 に示すように、HHV-6 ORF160 に対する免疫反応を生じうる 人(CFS 患者)においては、a) HHV-6 のグリア細胞における潜伏感染・再活性化が positive feedback loop を形 成し、b) 持続的なサイトカインの異常産生が行われることが予測される。サイトカインの持続的な異常産生は、 CFS の重要な病態の一つであり、HHV-6 ORF160 に対する免疫反応及び、HHV-6 のグリア細胞における潜伏感染・再 活性化がこのような病態の形成に大きな役割を果たしている可能性が示唆された。 図 3:HHV-6 のグリア細胞における潜伏感染・再活性化を介したサイトカインの持続的産生のモデル 27 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 引用文献 [1] A. Vojdani , P.C. Choppa , C. Tagle et al:Detection of Mycoplasma genus and Mycoplasma fermentans by PCR in patients with Chronic Fatigue Syndrome. FEMS Immunol Med Microbiol [2] 22:355-65, 1998 K. Kondo K, H. Nagafuji, A. Hata et al.:Association of human herpesvirus 6 infection of the central nervous system with recurrence of febrile convulsions. J Infect Dis 167:1197-200, 1993 [3] S.S.Soldan, R. Berti, N. Salem et al:Association of human herpes virus 6 (HHV-6) with multiple sclerosis: increased IgM response to HHV-6 early antigen and detection of serum HHV-6 DNA. Nat Med 3:1394-7, 1997 成果の発表 1)原著論文による発表 ア)国内誌 1. 倉恒弘彦、近藤一博、生田和良、山西弘一、渡辺恭良、木谷照夫:感染症の新しい展開 慢性疲労症候群 日本内科学会誌題 90 巻 12 号(2001) イ)国外誌 1. K. Kondo, K. Shimada, J. Sashihara, K et al.: Identification of human Herpesvirus 6 latency-associated transcripts. J Virol.;76(8): 4145–4151, 2002 (IF: 5.930) 2. K. Kondo, T. Kondo, K. Shimada et al: Strong interaction between human herpesvirus 6 and peripheral blood 3. monocytes/macrophages during its acute infection. J Med Virol in press, 2002 (IF: 3.289) Y. Hirata, K. Kondo and K. Yamanishi.: Human herpesvirus 6 down-regulates major histocompatibility complex class I in dendritic cells. J Med Virol.;65:576-83, 2001 (IF: 3.289) 4. Y. Mori, P. Dhepakson, K. Yamanishi et al.: Expression of human Herpesvirus 6B rep within infected cells and binding of its gene product to the TATA-binding protein in vitro and in vivo. J Virol.; 74(13): 6096-6104, 2000. (IF: 5.930) 5. K. Tanaka-Taya, K. Kondo, K. Yamanishi et al: Reactivation of human herpesvirus 6 by infection of human herpesvirus 7. J Med Virol.; 60(3) : 284-289, 2000. (IF: 3.289) 6. T. Taniguchi, K. Kondo, K. Yamanishi et al.: Structure of transcripts and proteins encoded by U79-80 of human herpesvirus 6 and its subcellular localization in infected cells. Virology; 271(2): 307-20, 2000. (IF: 3.507) 2)原著論文以外による発表: なし 3)口頭発表 ア)招待講演 近藤一博:特別講演「ヘルペスウイルス感染と病気」 第 7 回慢性疲労症候群(CFS)研究会 2002 年 2 月 近藤一博:「Overview セミナーHHV-6, 7」 第 49 回日本ウイルス学会・学術集会総会 2001 年 11 月 28 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 イ)応募・主催講演等 近藤一博、嶋田 和也、天羽 清子、山西弘一: 「HHV-6 と慢性疲労症候群の関係」 第 49 回日本ウイルス学会・学術集会総会 2001 年 11 月 近藤一博、黒木尚長、山西弘一: 「HHV-6 の中枢神経系における潜伏感染の機序」 第 48 回日本ウイルス学会・学術集会総会 2000 年 10 月 4)特許等出願等:なし 29 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 1. 慢性疲労症候群等の病的疲労の研究 1.1. 慢性疲労症候群原因ウイルスとサイトカイン異常に関する研究 1.1.2. ボルナ病ウイルスと慢性疲労症候群との関連 大阪大学微生物病研究所ウイルス免疫分野 生田 要 和良 約 ボルナ病ウイルス(BDV)は向神経性のマイナス鎖一本鎖の RNA ウイルスである。私たちは、脳内における BDV 持続感染と慢性疲労との関連性ならびに BDV による疲労発症の分子メカニズムを解明することを目的に研究を行 ってきた。まず、慢性疲労症候群(CFS)患者に BDV 抗体陽性者が見つかることを確認した。そこで、BDV の中枢 神経系障害性の機序を明らかにする試みとして、BDV の p24 リン酸化蛋白質とアンフォテリンの結合様式の解析、 BDV 持続感染細胞のストレス応答の解析ならびに p24 遺伝子トランスジェニックマウス脳の詳細な病理組織学的解 析を行った。その結果、BDV の中枢神経系障害性には、p24 蛋白質の発現を原因とするアンフォテリンの機能障害 とそれに伴う感染細胞のストレスへの脆弱性が関与している可能性が示された。 研究目的 ボルナ病は、ヨーロッパ中東部において 250 年以上前より知られていたウマに脳膜脳脊髄炎をもたらす疾患で ある。その名前は、1895 年にウマに大流行が見られた旧東ドイツ・サクソニー地方のボルナという町の名前に由 来している。ボルナ病を発症したウマは、歩行不全、知覚過敏などの神経症状を呈し、しばしば死に至る。その 後、この疾患はボルナ病ウイルス(Borna Disease Virus; BDV)の中枢神経系への感染が原因で引き起こされる ことが明らかとなった。BDV は、ウマの他にヒツジ、ウシ、ネコ、イヌ、ダチョウなどの動物にも自然感染してい ることが現在までにわかっている。また、世界中の多くの動物で不顕性感染が確認されている。BDV は実験感染に おいて鳥類から齧歯類さらには霊長類までの幅広い動物に感染し、病原性を発揮することがわかっている。ボル ナ病発症の原因は、急激な炎症による神経細胞の破壊であると考えられている。しかし一方で、持続感染による 神経細胞の直接的な機能障害も BDV の中枢神経系病原性には深く関与していることが自然感染例ならびに実験感 染により明らかとなっている。 1985 年にドイツ・ギーセン大学の Rott らにより、精神分裂病患者の脳脊髄液中に BDV に対する抗体が存在する ことが報告され [1]、BDV がヒトにも病原性を持つ可能性が始めて示唆された。その後、他のグループによっても、 精神分裂病やうつ病患者が高率に抗 BDV 抗体を有するという報告が相次ぎ、BDV と内因性精神疾患との関連性が注 目されるようになった。さらに、精神分裂病やその他の神経精神疾患患者の剖検脳における BDV の同定ならびに 分離も行われており [2]、BDV がヒトに感染していることは明らかな事実であるといえる。しかし、健常者の末梢 血においても抗 BDV 抗体ならびに BDV 遺伝子が検出されることから、BDV 感染と特定の神経精神疾患との関連性に ついては現在までのところ明らかにされていない。 一方、慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome: CFS)は、時として集団発生が認められ、その発症時に咽 頭痛、発熱、呼吸器症状などの感冒様症状が多くの症例に認められることなどから、ウイルス感染症をその病因 30 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 として想定し、原因ウイルスを同定する試みが世界中でなされてきた。現在までに、コクサッキーB 型ウイルス、 Epstein-Barr ウイルス、ヒトヘルペスウイルス 6 型および 7 型およびヒト T 細胞白血病ウイルス II 型などが CFS の病因として挙げられているが、CFS との明確な関連性はいまだ明らかにされていない。われわれはこれまでに健 常者を含め、様々な疾患患者における BDV の血清学的および分子疫学的検査を行ってきた。その中で、BDV の遺伝 子および抗体保有率が精神疾患患者で有意に高いことを報告した。さらに、うつ病症状などの病状が多くの患者 に認められる CFS 患者においても BDV 感染との関連性を示唆する結果を得ている。また、家族性の CFS 患者にお ける BDV の感染も報告し、BDV 感染と CFS 発症との関連性に新たな知見を与えてきた。 そこで本研究では、CFS 患者において BDV 感染の疫学調査を行い、BDV 感染と CFS 発症の関連性を追究すること を目的としている。また同時に、BDV の中枢神経系病原性のメカニズムを動物レベル、細胞レベルならびに分子レ ベルで解析し、BDV 持続感染による疲労病態の発症機序を明らかにすることも目的としている。 研究方法 1)CFS 患者血液サンプル: 計 77 名の CFS 患者由来血液サンプルは大阪大学大学院血液・腫瘍内科学教室の倉恒弘 彦先生よりご供与して頂いた。患者血液サンプルは、即日中に血漿および末梢血単核球(PBMC)の分離を行った。 血漿については、BDV の主要蛋白質である p40 ならびに p24 蛋白質に対する抗体の存在を大腸菌由来組換え蛋白質 を用いたウエスタンブロット法にて検出を行った。 2)CFS 患者血漿中の抗 BDV 抗体の検出: BDV の p40 および p24 蛋白質は、その遺伝子領域を含む cDNA を大腸菌 の発現ベクターである pGEX に組込んだ後、グルタチオン S トランスフェラーゼ(GST)との融合蛋白質として発現、 精製した。発現した組換え p40 および p24 蛋白質は SDS-PAGE にて解析後、メンブレンに転写、100 倍希釈の CFS 患者由来血清と反応させ、血清中の抗 p40 ならびに p24 抗体の存在をコニカイムノステイン HRP-1000 により検出 を行った。今回は、前回まで行っていた GST 融合組換え蛋白質を抗原とする方法に加え、検出の特異性を上げる ために GST を Factor Xa で切断して目的蛋白質のみを抗原としてメンブレンに転写させ解析を行った。 3)BDV p24 蛋白質とアンフォテリンとの結合部位の同定:大腸菌もしくはバキュロウイルスベクターを用いて組 換え BDV p24 蛋白質およびアンフォテリンを発現させた。それぞれの蛋白質の部分欠損体を数種類作成し、それ らの結合能を Far-Western blot 法あるいは mammalian two-hybrid 法を用いて同定を行った。また、アンフォテ リンとの結合能が欠損していることが確認された p24 部分欠損体については、その神経突起伸長能の阻害効果を ラット由来グリオーマ(C6)細胞を用いて確認を行った。 4)BDV p24 蛋白質による p53/アンフォテリンの転写活性化機能の抑制 : アンフォテリンは核内で p53 と結合 し、Cycline G1 や Bax など、プロモーターに p53 結合領域を持つ遺伝子の転写を促進していることが明らかとな っている [3]。そこで、BDV p24 蛋白質の存在が、アンフォテリンと p53 によるプロモーターの転写活性化能に影 響を及ぼしているかを検討するために、Cycline G1 のプロモーターの下流にルシフェラーゼ遺伝子を結合させた リポータープラスミドと p53 欠損細胞である H1299 細胞を用いて解析を行った。 5)BDV 持続感染細胞のストレスへの応答:BDV が持続感染している C6、ヒト由来オリゴデンドログリオーマ(OL) 細胞ならびにイヌ腎由来(MDCK)細胞を用いて、これら細胞の各種ストレス(温度、UV、血清除去、薬剤など) 条件下における生存率ならびに形態の変化について経時的に観察を行った。 6)BDV-p24 遺伝子トランスジェニックマウスの解析:BDV の p24 遺伝子をコードしている cDNA をグリア細胞特異 31 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 的蛋白質(glial fibrillary acidic protein: [GFAP])をプロモーターとしたベクターに挿入し、定法に従い p24 遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを作成した。確立された数系統はその週齢を追って脳内での p24 蛋 白質、シナプス特異的蛋白質(synaptophysin)ならびに脳由来神経栄養因子(BDNF)、セロトニンリセプター(5-HTR1A と 5HTR1b)の発現を免疫染色もしくは in situ hybridization、または RT-PCR により観察を行った。また、トラ ンスジェニックマウスの神経症状を、オープンフィールド装置を用いた自発運動、モリスの水迷路を用いた学習 能力ならびにオスの同居法による攻撃性の解析により判定を行った。 研究成果 1)CFS 患者における BDV 感染調査 上述した方法により、大阪大学医学部に来院した CFS 患者計 77 名の血液より得た血漿を用いた血清学的診断を 行った。CFS の診断はアメリカ合衆国 Center for Disease Control(CDC)から 1988 年および 1994 年に提出され たガイドラインに従って行われた。今回は、検出の抗原として GST を取り除いた組換え蛋白質を用いており、前 年度まで行ったサンプルについても再検討を行った。ウエスタンブロット法により確認された抗 BDV 抗体の保有 状況の結果を表 1 に示す。77 名中、p24 抗原のみに反応した血清は 0 例、p40 抗原のみに反応したものは 21 例、 また p24 および p40 抗原両方に反応性を示したものは 1 例であった。従って、p40 もしくは p24 抗原のどちらかに 反応した血清は 77 名中 22 名(28.5%)と診断された。 表 1.慢性疲労症候群患者におけるボルナ病ウイルスの抗体調査 検体 #1 #2 #11 #12 #13 #17 #18 #22 #34 #39 #51 # 5 4a #55 #56 #61 #63 #66 #67 #72 #76 #77 #80 性 別 F M F F M F F M M M F M F M F F M M F F F F 抗 BDV抗 体 p24 p40 - - - - - - - - - - - - - - + - - - - - - - ++ + + + ++ ++ ++ ++ + ++ + + + ++ + + + + + + + + BDV RNA - - + - - NT - ++ + - - - NT NT NT NT NT NT NT NT NT NT b c a 4 回 の 異 な る 時 期 の サ ン プ リ ン グ の い ず れ に お い て もp 4 0 抗 体 陽 性 b N e s te d E z -R T -P C R に よ り p 2 4 あ る い は p 4 0 遺 伝 子 の い ず れ か が 陽 性 c N o t T e s te d 32 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 以前にわれわれの研究室において行った日本国内 25 名の CFS 患者(男性 15 名、女性 10 名)における同様の解 析においては、BDV 抗体陽性者が 25 名中 6 名(24%)となっており、同様の抗体陽性率であった。同様にわれわ れが行った献血者 100 名の BDV 検査では、抗体陽性率が 1%であった結果を考えあわせると、CFS 患者における BDV 陽性率は有意に高いと考えられた [4, 5, 6]。さらに、これらの結果は 1991 年 3 月から 1995 年 4 月にかけて行 われた検査においても確認されている [7]。 今回の検索では、前回までのウエスタンブロット法と異なり、反応の特異性をあげる試みを行っている。その 結果、これまでの調査と比較して p24 抗体の陽性率の減少が確認された(前回:17.7 %、今回:1.3 %)。この p24 抗体陽性率の減少の結果が、これまでの調査が非特異的な反応を観察していたことによるものなのか、あるいは、 今回の調査が極めて微弱な抗体の反応を見落してしまっていることによるものなのかについては、今後さらに検 討を行わなくてはならない点である。また、抗原より GST を削ることにより蛋白質の親水性などが変化する可能 性も考えられ、合わせて解析を進める必要がある。しかし、全体の BDV 抗体陽性率としては前回とほぼ同様の結 果がでており(前回:25.8 %)、CFS 患者において、有意に高い値を示していることは明らかである。今後の調査 においては、さらに幾つかの特異抗体検出法(感染細胞を抗原として用いる ELISA 法、補体を使用した補体間接 蛍光抗体法など)を用いて解析を行うことを検討しており、その方法の確立を行っている。これら異なる検出の 方法を用いて総合的に解析を進め、その結果を比較検討することにより、検査結果をより信頼性の高い方向に進 めていく必要があると思われる。今回検索を行った CFS 患者 77 名中、抗 BDV 抗体が p40 および p24 ともに陽性で あった症例は 1 例であった。これまでの検索において、抗 BDV 抗体が p40 および p24 ともに陽性である症例では PBMC 中の BDV 遺伝子も陽性と確認される例があった。今回、この症例については PBMC 中の BDV 遺伝子の調査を行 っていないが、今後注意深く確認していかなくてはならない症例である。また、これまでに経時的にサンプルを 解析できた症例が数例存在している。その中の 1 例はいずれの採材時期においても p40 抗体が陽性と確認されて おり、非常に興味深い症例である。今回検索を行った CFS 患者の詳細な病歴などは不明であるが、陽性例におい ては抗体価の上昇ならびにウイルス遺伝子の検出などの追跡調査を行う必要があると考えられる。 2)BDV p24 蛋白質とアンフォテリンとの結合部位の同定と p24 蛋白質による p53 の転写活性化機能の抑制 これまでの研究で、われわれは BDV p24 蛋白質が神経突起伸長因子であるアンフォテリンと細胞内で特異的に 結合することを証明している [8]。そこで、BDV p24 蛋白質とアンフォテリンとの結合部位の同定を行うために、 大腸菌もしくはバキュロウイルスベクターを用いて組換え BDV p24 蛋白質およびアンフォテリンを発現させた。 それぞれの蛋白質の部分欠損体を数種類作成し、それらの結合能を Far-Western blot 法あるいは mammalian two-hybrid 法を用いて同定を行った。その結果、BDV p24 蛋白質の 201 アミノ酸配列中、77 番目から 86 番目まで のアミノ酸(KLVTELAENS)を欠損している変異体でアンフォテリンと結合能力が欠如していることが明らかとな り、この部位がアンフォテリンとの結合に重要な役割を果たしていると考えられた(図 1)。また、アンフォテリン との結合能が欠損している p24 部分欠損体について、その神経突起伸長能の阻害能力を C6 細胞を用いて解析を行 った結果、この欠損体では突起伸長阻害能も欠落していることが判明した。このことより、p24 蛋白質のアミノ酸 77 番目から 86 番目までが神経突起伸長能の阻害にも重要であると確認された。一方、アンフォテリンはその構造 上に、アミノ酸配列の機能的モチーフとして A box と B box と呼ばれる部位が存在している。われわれの解析の 結果、BDV p24 蛋白質はアンフォテリン構造の A box の部位と特異的結合をすることが明らかとなった。興味深い ことに、アンフォテリンの A box には癌抑制蛋白質である p53 蛋白質が結合して、その結合が p53 の転写活性化 能の促進に働いていることが判っている。そこで、p24 蛋白質とアンフォテリンとの結合が p53 蛋白質のプロモー ターへの転写活性化能を競合阻害するかどうかを確かめるために、Cycline G1 のプロモーターの下流にルシフェ ラーゼ遺伝子を結合させたリポータープラスミドと p53 欠損細胞である H1299 細胞を用いて解析を行った。リポ ータープラスミド、アンフォテリン発現プラスミド、p24 蛋白質発現プラスミドならびに p53 発現プラスミドを H1299 細胞に導入して 48 時間後に細胞中のルシフェラーゼ活性を測定した。その結果、p53 ならびにアンフォテリ 33 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 ンを導入した細胞では Cycline G1 のプロモーターの活性を、p53 単独の場合に比べ約 10 倍程度までに活性化した。 それに対し、p24 蛋白質を同時に導入した細胞ではアンフォテリンによる p53 の転写活性化能の促進がほぼコントロ ールレベルまでに抑制されることが判明した。この結果より、BDV p24 蛋白質のアンフォテリンとの結合は、細胞内 で p53 蛋白質と競合していることが明らかとなり、p24 蛋白質の存在下では、p53 によるプロモーターの転写活性化 能が抑制されていると考えられた。p53 は、細胞内でアポトーシス、DNA 修復や細胞周期の調節など様々な役割を果 たす蛋白質のプロモーターの転写活性化機能を担っている。またそれは、アンフォテリンと結合することによりさら に促進されることも明らかとなっている。BDV p24 蛋白質が p53 とアンフォテリンとの結合を競合阻害し、p53 によ る転写活性化能を低下させることは、BDV の持続感染性より細胞の様々な活動に影響を与えている可能性を示すもの 67 pGST-P∆N1 pGST-P∆C2 GST pGST-P∆C1 56 pGST-P’ pGST-P∆N4 201aa pGST 1 pGST-P∆N3 GST pGST-P∆N2 pGST-P pGST-P∆N1 GST pGST-P’ pGST pGST-P である。今後、BDV 感染細胞における p53 の動態とその働きも詳細に観察する必要があると考えられる。 (kDa) GST 77 pGST-P∆N2 GST 87 pGST-P∆N3 47.5- GST 144 pGST-P∆N4 GST 194 pGST-P∆C1 GST pGST-P∆C2 GST 32.5- 174 pGST 25- pGST-P pGST-P’ pGST-P∆N3 図 1. BDV p24 蛋白質上のアンフォテリン結合部位の解析 A. 解析に用いた BDV p24 蛋白質欠損変異体の構造。 B. Far-Western Blotting による各種 BDV p24 蛋白質欠損変異体とアンフォテリンの結合の確認。 C. BDV p24 蛋白質欠損変異体による神経突起伸長阻害の解析。 アンフォテリンと結合能力を持たない pGST-PDN3 では、神経突起の伸長は阻害されなかった。 3)BDV 持続感染細胞のストレスへの応答 BDV の持続感染が細胞の生存維持能力ならびに形態の変化に与える影響を観察するために、BDV が持続感染して いる C6、OL 細胞ならびに MDCK 細胞に各種ストレスを与え観察を行った。通常の培養条件下ではいずれの持続感 染細胞の非感染細胞とその形態ならびに増殖能力は変わらなかった。そこで、これら細胞のストレスによる変化 を、温度(40℃から 44℃で 30 分処理)、UV 処理 1 分、もしくは血清除去を行い、時間経過を追って観察した。そ の結果、BDV 持続感染細胞では高温処理ならびに UV 処理直後より、非感染細胞と比較して顕著な細胞突起の退縮 とそれに伴う円形化が認められた。また、時間経過に伴う死細胞率も持続感染細胞で顕著に高く観察された(図 2)。 高温度処理において時間の経過とともに細胞形態の回復が認められたが、持続感染細胞ではその回復時間の遅延 も観察された。さらに、血清除去によるストレスにおいても、持続感染細胞では時間の経過に伴い細胞同士の集 34 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 蔟が観察され、死細胞率の上昇が認められた。以上の結果より、BDV 持続感染細胞では通常の状態では非感染細胞 とほとんど変わらない性状を示すにもかかわらず、ストレス負荷により形態の維持能力、そしてそれに伴う生存 維持能力が顕著に減少していることが明らかとなった。形態的な変化より、BDV 持続感染細胞では細胞間同士の接 着もしくはプレートへの付着の能力が著しく低下している可能性が考えられた。細胞のこれら性質は、神経突起 能伸長と同様にアンフォテリンを介する細胞内シグナルによって制御されていることがわかっており、BDV 感染に よるアンフォテリンの機能阻害の結果であると考察された。今後さらに持続感染細胞内での細胞内シグナルの解 析を行い、その分子レベルでの証明を行う必要があると考えられる。 非感染 非感染 a b c 持続感染 d B e f D 12 12 10 Mortality (%) Mortality (%) 10 8 非感染 持続感染 6 4 2 8 非感染 持続感染 6 4 2 0 0 6 24 6 Recovery Time (hr) 24 Recovery Time (hr) 図 2. Heat shock (44℃) 処理 (A, B) ならびに UV 照射 (C, D) 後の C6 細胞の形態変化 (A, C) と死細胞率 (B, D) ( a-c : 非感染細胞、d-f : 感染細胞、a, d : 0 hr、b, e : 6hr、c, f : 24 hr ) 4)BDV-p24 遺伝子トランスジェニックマウスの解析 BDV の p24 遺伝子の cDNA を、GFAP をプロモーターする導入ベクターにクローニングし、p24 遺伝子を脳内のグ リア細胞のみに発現させるトランスジェニックマウスを作成した。確立された幾つかの系統の中で、GFAP20 系統 はその胎生期よりグリア細胞の核に p24 蛋白質を発現していることが免疫組織染色で確かめられた。一方、GFAP4 系統では、p24 蛋白質の発現は高週齢(生後 3 ヶ月以降)になるまで観察されなかった。さらに、GFAP20 は週齢 を追うに従い脳内での p24 蛋白質のシグナルが強く観察されるようになり、特に週齢で 30 週を超えた時点より海 馬の神経網に p24 蛋白質の蓄積した像が現れるようになってきた。そこで次に、これらトランスジェニックマウ スの表現系の観察を行った。まず、オープンフィールド装置を用いた自発運動の解析では、コントロールマウス、 GFAP20、GFAP4 ともに顕著な自発運動の差は認められなかった。モリスの水迷路を用いた学習能力の検査では、コ ントロールマウスならびに GFAP4 系統で試行の回数を重ねるに伴う迷路の学習が観察されたが、GFAP20 の系統で は明らかな学習能力の低下が認められ、試行を重ねても迷路の学習が成立しなかった(図 3A)。その異常は、加齢 に伴い顕著に観察されるようになった。さらに、オスの同居法による攻撃性の解析では、GFAP20 の系統で顕著な 攻撃性の上昇(攻撃回数、攻撃までの時間)も観察された(図 3B)。以上の結果より、脳内で p24 蛋白質を高発現 し、海馬の神経網にその蓄積が認められた GFAP20 の系統では明らかな神経症状を示していることが証明された。 また、GFAP20 では、海馬での synaptophysin ならびに BDNF の発現が加齢に伴い顕著に低下することが免疫染色、 in situ hybridization、あるいは ELISA 法により確認された。さらに、海馬におけるセロトニンリセプター(5-HTR1A 35 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 および 5-HTR1b)mRNA 量が大きく低下していることが判明した。以上の観察により、BDV p24 蛋白質のグリア細胞 内での発現のみで神経症状を誘発できることが証明された。また、加齢に伴う神経症状の発現は海馬神経網での p24 の蓄積と相関していると考えられ、グリア細胞における異常蛋白質の蓄積が神経細胞の機能にも障害(シナプ ス数の現象や BDNF、さらにセロトニンリセプターの発現低下)を引き起こす証明でもあると考えられた。また、 GFAP20 における神経症状は海馬における BDNF やセロトニンリセプターの減少と相関していると思われた。これら の結果は、BDV の持続感染に伴う p24 蛋白質の蓄積が、中枢神経系障害性を引き起こすことを直接に証明しており、 BDV の神経病原性とその詳細なメカニズムを検証する上で極めて有用なモデルであると考えられた。トランスジェ ニックマウスでは、グリア細胞内のみ(特に海馬や小脳など)で p24 蛋白質が高発現していることを考えると、 BDV の脳内での感染部位あるいは感染細胞種によっては今回認められた神経症状とは病態が異なる可能性も十分 に考えられた。 100 60 Non-TG GFAP20 80 潜在時間(秒) プラットホームに到達 するまでの時間(秒) A 60 40 Non-TG GFAP20 40 20 20 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 試行回数 30 GFAP20 攻撃した回数 雌 400 攻撃するまでの時間(秒) B 雄 20 10 GFAP4 Non-TG 0 Non-TG 300 GFAP4 200 GFAP20 100 0 1 2 3 4 試行回数 5 1 2 3 4 試行回数 5 図 3. BDV p24 発現トランスジェニックマウスの行動解析テスト A. 水迷路を用いた学習能力の解析。P24 を高発現している GFAP20 系統では、水迷路における避難場所に 対する記憶、学習能力が顕著に低下していた。 B. オス同居法を用いた攻撃性の解析.P24 を高発現している GFAP20 系統では、低発現系統(GFAP4)およ びコントロールマウスに比べ、顕著に攻撃性の上昇が認められた。 36 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 考 察 BDV がヒトに感染することは最近のさまざまな研究により明確となってきた。CFS と BDV の関連については、最 近の報告においてもその関連性を認めるもの、または認めないものとその結果は様々である。しかしながら、わ れわれの調査においては、CFS 患者に BDV の感染が認められるのは間違いのない事実と思われる。しかし、その陽 性率に関してはいまだはっきりとした答えが得られておらず、今後、手法ならびに材料の異なる様々な方法を用 いて比較検討を行い明らかにしていかなくてはならないと考えられる。 また、今回の研究により、BDV の感染によって神経細胞の生存維持能力が明らかに低下していること、また p24 蛋白質の脳内での発現のみで神経症状が誘発されることが確認された。今後、さらに実験動物レベル、細胞レベ ルそして分子レベルでの詳細な解析を行い、BDV の中枢神経病原性のメカニズムを明らかにすることが重要である と考えられる。 引用文献 [1] Rott R et al.: Detection of serum antibodies to Borna disease virus in patients with psychiatric disorders. Science 288, 755-756, 1985. [2] Nakamura Y et al.: Isolation of Borna disease virus from human brain tissue. J. Virol. 74, 4601-4611, 2000. [3] Jayaraman et al.: High mobility group protein-1 (HMG-1) is a unique activator of p53. Genes Dev. 12, 462-472, 1998 [4] Kitani T et al.: High mobility group protein-1 (HMG-1) is a unique activator of p53. Microbiol. Immunol. 40, 459-462, 1996. [5] Nakaya T et al.: Borna disease virus infection in two family clusters of patients with chronic fatigue syndrome. Microbiol. Immunol. 43, 679-689, 1999. [6] 中屋隆明他:ボルナ病ウイルス(BDV)と慢性疲労症候群(CFS) -抗 BDV 抗体と BDV・RNA の検出- 日 本臨床 55, 3064-3071, 1997. [7] 朝長啓造他:パーキンソン病をめぐる最近の話題:パーキンソン病とボルナ病ウイルス カレントテラピー 17, 26-30, 1999. [8] Kamitani W et al.: Borna disease virus phosphoprotein binds a neurite outgrowth factor, amphoterin/HMG-1. J. Virol. 75, 8742-8751, 2001. 成果の発表 1)原著論文による発表 ア)国内誌(国内英文誌を含む) 1. 岩橋和彦、吉原英児、中村和彦、福西勇夫、伊藤正裕、飴野清、西野佳以、生田和良:精神分裂病におけ るボルナ病ウイルス感染とセロトニンレセプター5-HTR2. 最新精神医学 4, 611-614, 1999. 2. 松永秀典、西野佳以、林宏恵、小林剛、朝長啓造、笹尾芙蓉子、生田和良:抗ボルナ病ウイルス抗体を認 めた 4 例の臨床的検討.脳と精神の医学 3. 7.1.1.2. 12, 139-147, 2001. Ouchi, A., Kishi, M., Kobayashi, T., Lai, P.K., Malik, T.H., Ikuta, K., and Mochizuki, M.: Prevalence of circulating antibodies to p10, a non-structural protein of the Borna disease virus in cats with ataxia. J. Vet. Med. Sci. 63, 1279-1285, 2001. 37 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 イ)国外誌 1. Kohno, T., Goto, T., Takasaki, T., Morita, C., Nakaya, T., Ikuta, K., Sano, K., Kurane, I., and Nakai, M.: Fine structure and morphogenesis of Borna disease virus (BDV). J. Virol. 73, 760-766, 1999. 2. Nakaya, T., Takahashi, H., Nakamura, Y., Kuratsune, H., Kitani, T., Machii, T., Yamanishi, K., and Ikuta, K.: Borna disease virus infection in two family clusters of patients with chronic fatigue syndrome. Microbiol. Immunol. 43, 679-789, 1999. 3. Nakamura, Y., Nakaya, T., Hagiwara, K., Momiyama, N., Kagawa, Y., Taniyama, H., Ishihara, C., Sata, T., Kurata, T., and Ikuta, K.: High susceptibility of Mongolian gerbil (Meriones unguiculatus) to Borna disease virus. Vaccine 17, 480-489, 1999. 4. Nakamura, Y., Watanabe, M., Kamitani, W., Taniyama, H., Nakaya, T., Nishimura, Y., Tsujimoto, H, Machida, S., and Ikuta, K.: High prevalence of Borna disease virus in domestic cats with neurological disorders in Japan. Vet. Microbiol. 70, 153-169, 1999. 5. Hagiwara, K., Kamitani, W., Takamura, S., Taniyama, H., Nakaya, T., Tanaka, H., Kirisawa, R., Iwai, H., and Ikuta, K.: Detection of Borna disease virus in a pregnant mare and her fetus. Vet. Microbiol. 72, 207-216, 2000. 6. Nakamura, Y., Takahashi, H., Shoya, Y., Nakaya, T., Watanabe, M., Tomonaga, K., Iwahashi, K., Ameno, K., Momiyama, N., Taniyama, H., Sata, T., Kurata, T., de la Torre, J. C., and Ikuta, K.: Isolation of Borna disease virus from human brain. J. Virol. 74, 4601-4611, 2000. 7. Watanabe, M., Kobayashi, T., Tomonaga, K., and Ikuta, K.: Antibodies to Borna disease virus in infected adult rats: An early appearance of anti-p10 antibody and recognition of novel virus-specific proteins in infected animal brain cells. J. Vet. Med. Sci. 62, 775-778, 2000. 8. Watanabe, M., Zhong, Q., Kobayashi, T., Kamitani, W., Tomonaga, K., and Ikuta, K.: Molecular ratio between Borna disease viral-p40 and p24 proteins in infected cells determined by quantitative antigen capture ELISA. Microbiol. Immunol. 44, 765-772, 2000. 9. Satoh, T., Furuta, K., Tomokiyo k., Nakatsuka, D., Tanikawa, M., Nakanishi, M., Miura, M., Tanaka, S., Koike, T., Hatanaka, H., Ikuta, K., Suzuki, M., and Watanabe, Y.: Facilitatory roles of novel compounds designed from cyclopentenone prostaglandins on neurite outgrowth-promoting activities of nerve growth factor. J. Neurochem. 75, 1092-1102, 2000. 10. Tomonaga, K., Kobayashi, T., Lee, B-J., Watanabe, M., Kamitani, W., and Ikuta, K.: Identification of alternative splicing and negative splicing activity of a nonsegmented negativestrand RNA virus, Borna disease virus. Proc. NAtl. Acad. Sci. 97, 12788-12793, 2000. 11. Kobayashi, T., Watanabe, M., Kamitani, W., Tomonaga, K., and Ikuta, K.: Translation initiation of a bicistronic mRNA of Borna disease virus: A 16-kDaphosphoprotein is initiated at an internal start codon. Virology 277, 296-305, 2000. 12. Kobayashi, T., Kamitani, W., Zhang, G., Watanabe, M., Tomonaga, K., and Ikuta, K.: Borna disease virus nucleoprotein requires both nuclear localization and export activities for viral nucleocytoplasmic shuttling. J. Virol. 75, 3404-3412, 2001. 13. Watanabe, M., Lee, B.J., Kamitani, W., Kobayashi, T., Taniyama, H., Tomonaga, K., and Ikuta, K.: Neurological diseases and viral dynamics in the brains of neonatally Borna disease virus-infected gerbils. Virology 282, 65-76, 2001. 14. Hagiwara, K., Asakawa, M., Liao, L., Jiang, W., Yan, S., Chai, J., Oku, Y., Ikuta, K., and Ito, M.: Seroprevalence of Borna disease virus in domestic animals in Xinjiang, China. Vet. Microbiol. 38 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 80, 383-389, 2001. 15. Taniyama, H., Okamoto, M., Hirayama, K., Hagiwara, K., Kirisawa, R., Kamitani, W., Tsunoda, N., and Ikuta, K.: Equine Borna disease in Japan. Vet. Rec. 148, 480-482, 2001. 16. Kamitani, W., Shoya, Y., Kobayashi, T., Watanabe, M., Lee, B.J., Zhang, G., Tomonaga, K., and Ikuta, K.: Borna disease virus phosphoprotein binds a neurite outgrowth factor, amphoterin/HMG-1. J Virol. 75, 8742-8751, 2001. 17. Hagiwara, K., Okamoto, M., Kamitani, W., Takamura, S., Taniyama, H., Tsunoda, N., Tanaka, H., Iwai, H., and Ikuta, K.: Nosological study of Borna disease virus infection in race horses. Vet. Microbiol. 84, 367-374, 2002. 18. Ibrahim, M.S., Watanabe, M., Palacios, J.A., Kamitani, W., Komoto, S., Kobayashi, T., Tomonaga, K., and Ikuta, K. Varied persistent life cycles of Borna disease virus in a human oligodendroglioma cell line. J. Virol. 76, 3873-3880, 2002. 19. Okamoto, M., Furuoka, H., Hagiwara, K., Kamitani, W., Kirisawa, R., Ikuta, K., and Taniyama, H.: Borna disease in a cattle in Japan. Vet. Rec. in press. 20. Okamoto, M., Kagawa, Y., Hagiwara, K., Kirisawa, R., Kamitani, W., Ikuta, K., and Taniyama, H.: Borna Disease in a Dog in Japan. J. Comp. Pathol., in press. 2)原著論文以外による発表(レビュー等) ア)国内誌(国内英文誌を含む) 1. 朝長啓造、生田和良:特集・エマージングウイルス感染症:ヒトの神経を冒す新しいウイルス感染症-ボルナ 病ウイルス感染症-. 遺伝 53, 37-41, 1999. 2. 庄谷裕子、萩原克郎、朝長啓造、生田和良:特集・動物起源ウイルス感染症―動物ウイルスの自然生態-: ボルナ病ウイルス. 化学療法の領域 15, 35-41, 1999. 3. 朝長啓造、渡辺真紀子、生田和良:パーキンソン病をめぐる最近の話題:パーキンソン病とボルナ病ウイ ルス. カレントテラピー 17, 1160-1164, 1999. 4. 渡辺真紀子、神谷亘、朝長啓造、生田和良:Parkinson 病とボルナ病ウイルス,神経内科 52 374-379, 2000 5. 朝長啓造、渡辺真紀子、神谷亘、生田和良:パーキンソン病とボルナ病ウイルス感染,遺伝子医学 14, 347-349,2000. 6. 生田和良:ボルナ病(病原),日本獣医病理学会会報特集号 11-15,2000. 7. 朝長啓造、小林剛、生田和良:中枢神経系におけるボルナ病ウイルス研究の進歩、日本臨床 59, 1605-1613, 2001. 8. マディハ S. イブラヒム、小林 剛、朝長 啓造、生田 和良.ウイルス感染と疲労-「疲労の分子科学」 眠らない社会への警告-, p31-36.講談社. 2001. 9. 松永 秀典、朝長 啓造、生田 和良.精神神経疾患とボルナ病ウイルス.脳の科学 24, 297-304, 2002. イ)国外誌 1. Tomonaga, K., Kobayashi, T., and Ikuta, K.: Molecular and cell biology of Borna disease virus infection. Microbes Infect. 4, 491-500, 2002. 2. Ikuta, K., Ibrahim, M. S., Kobayashi, T., and Tomonaga, K.: Borna disease virus and infection in humans. Front. Biosci. 7, D470-D495, 2002. 3. Ikuta, K., Hagiwara, K., Taniyama, H., and Nowotny, N: Epidemiology and infection of natural animal 39 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 hosts. In K. M. Carbone (ed.), Borna disease virus: Role in neurobehavioral disease. ASM Press, Washington DC. (In press). 4. Tomonaga, K, and Carbone, K. M.: BDV: Spanning a century of science. In K. M. Carbone (ed.), Borna disease virus: Role in neurobehavioral disease. ASM Press, Washington DC. (In press). 5. Kishi, M., Tomonaga, K., Lai, P., and de la Torre, J. C.: Borna disease virus: Molecular virology. In K. M. Carbone (ed.), Borna disease virus: Role in neurobehavioral disease. ASM Press, Washington DC. (In press). 3)口頭発表 ア)招待講演 1. 生田和良: 特別講演 神経系へのウイルス持続感染 第 12 回免疫・感染・炎症研究会 2000 年 6 月 愛媛 2. 生田和良:ボルナ病ウイルスの持続感染と中枢神経系病態 第 5 回日本神経ウイルス研究会集会 2001 朝長啓造: 「ボルナ病ウイルス」多様な自然宿主と中枢神経病態.第 49 回日本ウイルス学会学術集会 2001 年 11 月 3. 年 11 月 大阪 大阪 イ)応募・主催講演等 1. 大内敦夫、西野佳以、小林剛、生田和良、望月雅美、岸雅彦:ネコにおける新ボルナ病ウイルス抗体の検 出 2. 第 2 回ボルナ病ウイルス研究会 1999 年 2 月 東京 高橋宏和、中村百合恵、小林剛、渡辺真紀子、林宏恵、庄屋裕子、生田和良:精神分裂病患者剖検脳サン プルから分離されたボルナ病ウイルスの遺伝子配列 3. 第 2 回ボルナ病ウイルス研究会 第 2 回ボルナ病ウイルス研究会 1999 年 10 月 東京 1999 年 2 月 東京 第 47 回日本 横浜 1999 年 10 月 第 横浜 渡辺真紀子、小林剛、神谷亘、谷山弘行、朝長啓造、生田和良:新生仔スナネズミにおけるボルナ病ウイ ルスの病態解析 9. 1999 年 2 月 朝長啓造、小林剛、渡辺真紀子、生田和良:ボルナ病ウイルスの選択的スプライシングとその発現調節 47 回日本ウイルス学会学術集会 8. 第 2 回ボルナ病ウイルス研究会 小林剛、渡辺真紀子、朝長啓造、生田和良:ボルナ病ウイルス 0.8kb(X/P)mRNA の翻訳様式 ウイルス学会学術集会 7. 1999 年 2 月 東京 松永秀典、林宏恵、西野佳以、生田和良:大阪の総合病院精神科における BDV 感染の調査:58 例の検査結 果の検討 6. 東京 河野武弘、後藤俊幸、高橋智彦、森田智津子、中屋隆明、生田和良、倉根一郎、左藤浩一、中井益代:ボ ルナ病ウイルス(BDV)の構造と粒子形成過程 5. 1999 年 2 月 小林剛、高橋宏和、渡辺真紀子、庄屋裕子、朝長啓造、岸雅彦、生田和良:ボルナ病ウイルス N および P タンパク質間の相互作用 4. 第 2 回ボルナ病ウイルス研究会 第 47 回日本ウイルス学会学術集会 1999 年 10 月 横浜 朝長啓造、小林剛、渡辺真紀子、生田和良:ボルナ病ウイルスの選択的スプライシング機構の解明 回日本獣医学会学術集会 1999 年 10 月 熊本 10. 小林剛、渡辺真紀子、朝長啓造、岸雅彦、生田和良:ボルナ病ウイルスの翻訳様式および相互作用 回日本獣医学会学術集会 1999 年 10 月 第 128 第 128 熊本 11. 渡辺真紀子、小林剛、朝長啓造、生田和良:抗原検出 ELISA を用いた培養細胞およびスナネズミ脳におけ る BDV 抗原の定量 第 128 回日本獣医学会学術集会 1999 年 10 月 熊本 12. 朝長啓造、笹尾芙蓉子、渡辺真紀子、小林剛、生田和良、倉恒弘彦:CFS 患者におけるボルナ病ウイルス (BVD)感染の疫学的検索 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会 2000 年 2 月 40 大阪 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 13. 小林剛、神谷亘、渡辺真紀子、朝長啓造、生田和良、小野悦郎:実験動物を用いたボルナ病ウイルス(BDV) の病態の解析 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会 2000 年 2 月 大阪 14. 渡辺真紀子、神谷亘、小林剛、谷山弘行、朝長啓造、生田和良:スナネズミ脳におけるボルナ病ウイルス の主要抗原の発現様式 第 6 回ボルナ病ウイルス研究会 2000 年 2 月 東京 15. 小林剛、渡辺真紀子、朝長啓造、生田和良:ボルナ病ウイルス 0.8kb(X/P)mRNA の翻訳様式 第 6 回 ボルナ病ウイルス研究会 2000 年 2 月 東京 16. 朝長啓造、小林剛、渡辺真紀子、生田和良:ボルナ病ウイルスの選択的遺伝子発現とその調節機構 回ボルナ病ウイルス研究会 2000 年 2 月 第6 東京 17. 小林剛、渡辺真紀子、神谷亘、朝長啓造、岸雅彦、生田和良:ボルナ病ウイルス N タンパク質の発現様式 および核移行 第 129 回日本獣医学会学術集会 2000 年 4 月 筑波 18. 渡辺真紀子、神谷亘、小林剛、谷山弘行、朝長啓造、生田和良:スナネズミ脳におけるボルナ病ウイルス の主要抗原の発現様式 第 129 回日本獣医学会学術集会 2000 年 4 月 筑波 19. Madiha S. Ibrahim、渡辺真紀子、小林剛、神谷亘、朝長啓造、生田和良:Characterization of biological clones of Borna disease virus. 第 129 回日本獣医学会学術集会 2000 年 4 月 筑波 20. 神谷亘、田原口智士、小林努、吉野さおり、岡本実、渡辺真紀子、小林剛、谷山弘行、小野悦郎、朝長啓 造、生田和良:ボルナ病ウイルス p24 遺伝子トランスジェニックマウスの解析 術集会 2000 年 4 月 第 129 回日本獣医学会学 筑波 21. 朝長啓造、小林剛、李丙載、渡辺真紀子、神谷亘、生田和良:ボルナ病ウイルスの選択的スプライシング 調節機構 第 4 回神経ウイルス研究会 2000 年 7 月 名古屋 22. 渡辺真紀子、李丙載、神谷亘、小林剛、谷山弘行、朝長啓造、生田和良:スナネズミ脳におけるボルナ病 ウイルス抗原発現分布の解析 第 4 回神経ウイルス研究会 2000 年 7 月 名古屋 23. 神谷亘、田原口智士、小林努、吉野さおり、岡本実、渡辺真紀子、小林剛、谷山弘行、小野悦郎、朝長啓 造、生田和良:ボルナ病ウイルス p24 遺伝子トランスジェニックマウスを用いた BDV の病態の解析 回神経ウイルス研究会 2000 年 7 月 第4 名古屋 24. 渡辺真紀子、李丙載、神谷亘、谷山弘行、小林剛、朝長啓造、生田和良:ボルナ病ウイルス感染スナネズ ミにおける脳内のウイルス分布と病態との相関性 第 130 回日本獣医学会学術集会 2000 年 10 月 大阪 25. 神谷亘、生田和良:ボルナ病ウイルス p24 タンパク質と神経突起伸長因子 Amphoterin との結合とその意 義について.第 130 回日本獣医学会学術集会 2000 年 10 月 大阪 26. 小林 剛、張国旗、渡辺真紀子、神谷亘、朝長啓造、生田和良:ボルナ病ウイルスミニレプリコンの構築 の試み 第 130 回日本獣医学会学術集会 2000 年 10 月 大阪 27. 庄谷祐子、小林剛、渡辺真紀子、神谷亘,李丙載、朝長啓造、生田和良:ボルナ病ウイルスp24 たんぱく 質と神経突起伸長因子 Amphotein との結合 第 48 回日本ウイルス学会学術集会 2000 年 10 月 津 28. 小林剛、渡辺真紀子、神谷亘、張国旗、朝長啓造、生田和良:ボルナ病ウイルス N タンパク質の核内外輸 送 第 48 回日本ウイルス学会学術集会 2000 年 10 月 津 29. 渡辺真紀子、神谷亘、小林剛、谷山弘行、朝長啓造、生田和良:スナネズミ脳におけるボルナ病ウイルス の主要抗原発現の分布 第 48 回日本ウイルス学会学術集会 2000 年 10 月 津 30. Madiha S.Ibrahim、渡辺真紀子、小林剛、神谷亘、朝長啓造、生田和良 Borna disease virus shows aberrant patterns of persistency among oligodendroglioma derived biological cell clones イルス学会学術集会 2000 年 10 月 第 48 回日本ウ 津 31. 神谷亘、田原口智士、小林努、吉野さおり、岡本実、渡辺真紀子、小林剛、谷山弘行、小野悦郎、朝長啓 造、生田和良:ボルナ病ウイルス p24 遺伝子トランスジェニックマウスの病態解析 ス学会学術集会 2000 年 10 月 津 41 第 48 回日本ウイル 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 32. 松永秀典、西野佳以、笹尾芙蓉子、朝長啓造、小林剛、生田和良:総合病院精神科における抗ボルナ病ウ イルス抗体陽性例の臨床的検討 第6回 慢性疲労症候群(CFS)研究会 2001 年 2 月 熊本 33. 小林剛、張国旗、呂国棟、李丙載、神谷亘、渡辺真紀子、朝長啓造、生田和良:ボルナ病ウイルス p10(X) タンパク質の核外輸送機構 第 131 回日本獣医学会 2001 年 4 月 東京 34. 李丙載、渡辺真紀子、神谷亘、小林剛、朝長啓造、生田和良:スナネズミの加齢に伴うボルナ病ウイルス に対する感受性の変化 第 131 回日本獣医学会 2001 年 4 月 東京 35. 松永秀典、西野佳以、笹尾芙蓉子、朝長啓造、小林剛、生田和良:精神疾患における抗ボルナ病ウイルス 抗体陽性例の臨床的検討 第 97 回日本精神神経学会総会 2001 年 5 月 大阪 36. 松永秀典、笹尾芙蓉子、小林剛、呂国棟、朝長啓造、生田和良:精神疾患におけるボルナ病ウイルス感染 の臨床的検討 第 6 回日本神経感染症研究会学術集会 2001 年 7 月 札幌 37. 朝長啓造、渡辺真紀子、山下真紀子、李丙載、神谷亘、生田和良:BDV 感染スナネズミの病態における宿 主免疫反応の関与 第 49 回日本ウイルス学会学術集会 2001 年 11 月 大阪 38. 小林剛、張国旗、呂国棟、神谷亘、渡辺真紀子、朝長啓造、生田和良:ボルナ病ウイルス p10 蛋白質の核 外輸送 第 49 回日本ウイルス学会学術集会 2001 年 11 月 大阪 39. 張国旗、小林剛、神谷亘、河本聡志、呂国棟、山下真紀子、朝長啓造、生田和良:ボルナ病ウイルス p24 蛋白質と神経突起伸長因子 amphoterin との結合領域の同定 年 11 月 第 49 回日本ウイルス学会学術集会 2001 大阪 40. Madiha S. Ibrahim, Takeshi Kobayasi, Keizo Tomonaga, and Kazuyoshi Ikuta:Varied persistent life cycles for Borna disease virus in a human oligodendroglioma cell line. 会学術集会 2001 年 11 月 第 49 回日本ウイルス学 大阪 41. 李丙載、渡辺真紀子、神谷亘、山下真紀子、小林剛、朝長啓造、生田和良:ラットおよびスナネズミ脳内 におけるボルナ病ウイルスの持続感染状態の解析 第 49 回日本ウイルス学会学術集会 2001 年 11 月 大 阪 42. 呂国棟、小林剛、馬場聡子、松永秀典、笹尾芙蓉子、渡辺真紀子、神谷亘、柚木幹弘、朝長啓造、生田和 良:ボルナ病ウイルス検出のための高感度 学会学術集会 2001 年 11 月 single-step RT-PCR ELISA 法の確立 第 49 回日本ウイルス 大阪 43. 山下真紀子、神谷亘、小林剛、朝長啓造、生田和良:ボルナ病ウイルス持続感染:細胞の形態ならびに生 存維持能力に与える影響の解析 第 49 回日本ウイルス学会学術集会 4)特許等出願等 無し 5)受賞等 無し 42 2001 年 11 月 大阪 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 1. 慢性疲労症候群等の病的疲労の研究 1.1. 慢性疲労症候群原因ウイルスとサイトカイン異常に関する研究 1.1.3. 疲労病態におけるウイルス感染と免疫応答異常 鳥取大学医学部生命科学科生体情報学講座 西連寺 剛 要 約 我々は、慢性疲労症候群(CFS;1)の病因の 1 つとして健常人に潜伏感染している EB ウイルス(EBV;2)が再 活性化し(3)、免疫系を調節するサイトカインの均衡が撹乱し、CFS に至るという仮説の下に研究を進めている。 我々は CFS の一部の患者末梢血に於て、EBV 抗体の上昇(4)、EBV 感染 B 細胞が IL-4 や IgE を産生し(5)、EBV 再 活性化により IL-10 及び vIL-10 を産生する(6)ことを証明した。第 1 期の研究では、一部の CFS 患者で IL-4、 IL-10、vIL-10(EBV 遺伝子 BCRF1 蛋白)、IgE、2’-5’オリゴアデニル合成酵素(2-5AS と略)などの高値を認めた。 細胞内潜伏 EBV の再活性化因子として、CD40 リガンド及び TGF-β1 を、抑制因子として一酸化窒素(NO)を同定し、 それぞれの分子の細胞内シグナル伝達系を解析した。健常人において抗体陰性 EBV 感染キャリアを見出し、同様 の感染が小児の伝染性単核球症(infectious mononucleosis; IM)様患者に多数見られることを明らかにした。 研究目的 我々の研究は、疲労病態におけるウイルス感染と免疫応答の異常を検討することである。そのため CFS 患者の 末梢血で EB ウイルス(EBV)再活性化抗体、及びサイトカインの異常を調べ、EBV 感染細胞株を用いて EBV 再活性 化の誘導・抑制の調節機構、それに関っているサイトカインを解析する。 研究方法 CFS 及び対照健康人血清または血液は、大阪大・医・血液腫瘍内科・倉恒及び鳥取大・医・臨床検査学・下村によ って収集された。血清中 IL-4、hIL-10、vIL-10、IFN-α及び IFN-γの測定は ELISA 法を用いた。 2-5AS 活性は、末 梢リンパ球を用い 2-5AS 活性測定キット‘栄研’ (栄研化学)で定量した。 EBV 感染培養細胞株は、Burkitt リンパ 腫細胞株、Akata、P3HR-1、EBV 感染 B 細胞株 OB、上皮系細胞株 GT38、GT39 を用い EBV 潜伏・再活性化を解析した。 研究成果 CFS 患者に於ける EBV 感染と免疫応答異常:①CFS 患者の一部の血清中には健康人にはほとんど検出されない vIL-10 が検出されることを見出した。vIL-10 は EBV 再活性化を伴った細胞から産生される(6)。IL-10 は EBV 感染 細胞傷害 T 細胞(CTL)を抑制し、一方では EBV 感染細胞の増殖を促進することが知られている。我々は IL-10 と vIL-10 の機能の相違を検討するため、vIL-10 発現ベクターを作製し、COS-1 細胞にトランスフェクションし、vIL-10 の産生に成功した。vIL-10 の CFS 病因・病態における機能解析が開けた(投稿準備中)。②CFS 患者で種々のウイ 43 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 ルス感染により誘導される 2-5AS 活性上昇の報告がある。我々は、CFS で 2-5AS 活性を高頻度で検出、更に CFS と 症状が重なるうつ病の一部の患者にもその高値を認め、2-5AS の CFS 及びうつ病における存在意義及び診断マーカ ーとして可能性を検討中である(図 1;投稿準備中)。③健康成人で EBV 抗体陰性のため EBV 未感染と診断された ヒトの唾液、及び末梢リンパ球に多量の EBVDNA を検出し、EBV 抗体陰性キャリアの存在を明らかにした(Ikuta et al., 2000)。更に IM(EBV 初感染で発症し、慢性化すると CFS となる)様を呈する小児にも同様の EBV 抗体陰性キ ャリアを多数例見出した(表 1)。本結果は今までの EBV 感染及び抗体応答の常識をくつがえす発見と考えられる (投稿準備中)。 50 2-5AS酵素活性(%) 2-5AS酵素活性(%) 50 40 30 20 10 0 40 30 20 10 0 健康成人 CFS 50 2-5AS酵素活性(%) 2-5AS酵素活性(%) 50 40 30 20 10 40 30 20 10 0 0 うつ病 健康成人 図 1. CFS、うつ病患者および健康成人末梢単核球 における 2-5AS 酵素活性. (●)個人を示す 44 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 表 1. 伝染性単核症様乳幼児における EBV 抗体価及び末梢単核球中の EBV DNA、CMV DNA. 患者 (年/月 性別) 1 採血日 EBV 抗体価 a) VCA-IgM VCA-IgG ウイルス DNA b) EA-IgG EBNA EBV EBV タイプ CMV (1/6 F) 05/15/00 <10 <10 <10 <10 + A - (2/1 F) 12/20/00 <10 160 <10 <10 + A, B - (0/9 M) 05/22/00 <10 <10 <10 <10 + A - (1/7 M) 03/02/01 <10 <10 <10 <10 - (1/6 M) 06/01/00 <10 <10 <10 <10 + (1/11 M) 11/21/00 <10 <10 <10 <10 - (1/1 M) 09/11/00 <10 <10 <10 <10 + (2/1 M) 09/26/01 <10 <10 <10 <10 - (1/3 F) 11/01/00 <10 <10 <10 <10 NT NT NT (1/3 F) 11/15/00 <10 <10 <10 <10 + ND - 6 (0/9 F) 11/06/00 <10 <10 <10 <10 + ND - 7 (1/4 F) 11/09/00 <10 <10 <10 <10 + A - 8 (1/0 F) 11/29/00 <10 <10 <10 <10 + A - 9 (1/1 M) 04/10/01 <10 80 40 20 - 10 (0/9 F) 04/27/01 <10 40 <10 20 + 11 (2/2 F) 06/25/01 <10 <10 <10 <10 - 12 (0/10 M) 07/18/01 <10 80 40 20 + 13 (0/3 M) 09/17/01 <10 10 <10 20 - - 14 (1/11 M) 09/17/01 <10 <10 <10 <10 - - 15 (0/10 F) 10/02/01 <10 <10 <10 <10 - - 16 (0/10 M) 10/02/01 <10 <10 <10 <10 - - 17 (3/10 F) 10/02/01 <10 <10 <10 <10 - - 2 3 4 5 - A - - A - - - A - - A - a) EBV 抗体価は蛍光抗体法により測定した. 末梢血単核球におけるウイルス DNA は PCR 法によって解析した. NT: not tested, ND: not determined b) EBV 再活性化の機構:①B 細胞に潜伏する EBV は、細胞表面に発現される CD40 からのシグナルで再活性化され ることを証明した(Fukuda et al., 2000)。本結果は EBV 感染細胞を攻撃する CTL(細胞表面に CD40 リガンドを発 現する)で B 細胞内潜伏 EBV が再活性化されることを示唆し、IM 患者や EBV 再活性化を伴う患者に於ける抗体上 昇の 1 つの機構と考えられる。②EBV 感染細胞株が、疲労及び免疫抑制物質である TGF-β1 を産生し、TGF-β1 に抵 抗性を示すが、高濃度の TGF-β1 で潜伏 EBV が再活性化される。TGF-β1 がオートクリンの作用で EBV 再活性化を誘 導する可能性を示した(Fukuda et al., 2001)。 ③EBV 再活性化は、EBV 感染した宿主細胞自身が産生する一酸 化窒素(NO)により抑制される (Gao et al., 1999)。NO 発現は EBV 再活性化を誘導する薬剤 TPA(ホルボールエ ステル)により抑制される結果 EBV 再活性化が誘導されるという新しい見解を得た(Kanamori, et al., 2000; Gao, et al., 2000; Kanamori et al., 2001)。EBV が自然に再活性化されるバーキットリンパ腫細胞株 P3HR-1 細胞の 培養液に L-Arg を添加すると、EBV 再活性化が抑制されることを見出し、それは L-Arg から合成される NO の作用 であることを明らかにした(投稿中)。 45 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 考 察 CFS と EBV 関連を否定した米国 CDC(7)に対して、我々は、その一部に EBV 関連 CFS を明らかにした(4)。更 に CFS 患者の中に IL-4、IL-10、IgE などの Th2 サイトカインの異常高値を見出し、EBV 再活性化と関連付けたこ とは我々の成果である。これらのデーターがそろってきたので論文の作成が急務である。しかし CFS 患者で EBV 抗体やサイトカイン異常と関連するのは一部である。それ以外の CFS の要因を何に求めるか、CFS 及びうつ病に共 通して検出される 2-5AS 活性化の異常も今後の重要な研究課題である。 臨床材料は協同研究者・倉恒(大阪大)に全て依存していたが、鳥取大・中央検査部・下村助教授が協同研究 者として加わり、入手が容易になった。CFS 研究は、大学院生・生田に加え、精神科・大学院生・山田が加わり、 CFS と症状が重なるうつ病にも研究が広げられた。 細胞レベルの EBV 再活性化の研究は大学院生・福田、阿川、斎鹿らによって進められている。細胞レベルでは、 IFN-α、TGF-β1、NO、L-Arg などの分子による EBV 再活性化機構の解析が進んでいる。特に EBV 感染 B 細胞株で EBV 再活性化と共に 2-5AS 活性が認められたこと、EBV 再活性化因子として IFN-α, TGF-β1 が、その抑制因子と して L-Arg、 NO が作用していることの発見は重要と考えられる。これらの物質の EBV 再活性化におけるネットワ ークをまとめる時期に入って来た。 EBV は、ほとんどの健常人が感染しており、免疫系細胞に潜伏し、悪性腫瘍である Burkitt リンパ腫、上咽頭癌、 胃癌(Sairenji, et al., 2001; Hoshikawa et al., 2002)、ホジキンリンパ腫、IM、慢性活動性 EBV 感染症(Ohsawa et al., 2001)、臓器移植リンパ腫などに広く関わっている。EBV 再活性化の研究は、CFS はもちろんのこと、こ れらの EBV 関連疾患との関りに於てもその成果が期待される。 引用文献 [1] 西連寺 剛、倉田 [2] 西連寺 剛:EB ウイルス:その普遍性と病原性をめぐって.米子医学雑誌 49: 231-238, 1998. [3] 西連寺 剛:EB ウイルスの B 細胞内活性化機構.臨床と微生物 26: 471-475, 1999. [4] Sairenji, T., Yamanishi, K., Tachibana, Y., Bertoni, G., and Kurata, T.: Antibody responses to 毅:慢性疲労症候群はウイルス感染症か? Pharma Media, 12: 41-45, 1994. Epstein-Barr virus, human herpesvirus 6 and human harpesvirus 7 in patients with chronic fatigue syndrome. Intervirology 38: 269-273, 1995. [5] Ohnishi, E., Iwata, T., Inouye, S., Kurata, T., and Sairenji, T: Interleukin-4 production in Epstein-Barr virus-transformed B cell lines from peripheral mononuclear cells of patients with atopic dermatitis. J. Interferon and Cytkine Res. 17: 597-602, 1997. [6] Sairenji, T., Ohnishi, E., Inouye, S., and Kurata, T.: Induction of interleukin-10 on activation of Epstein-Barr virus (EBV) in EBV infected B cell lines. Viral Immunol. 11: 221-231, 1998. [7] Holmes GP, Kaplan JE, Stewart JA et al.,: A cluster of patients with a chronic mononucleosis-like syndrome: Is Epstein-Barr virus the cause? JAMA 257: 2297-2302, 1987. 成果の発表 1)原著論文による発表 イ)国外誌 1. Gao, X., Tajima, M. and Sairenji, T.: Nitric oxide down-regulates Epstein-Barr virus reactivation in epithelial cell lines. Virology 258: 375-381, (1999). 2. Sairenji, T.: Epstein-Barr virus (EBV) infection and gastric carcinoma. The approach through EBV 46 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 infected epithelial cell lines. Jpn. J. Infect Dis. 52: 110-112, (1999). 3. Izawa, M., Mori, T., Satoh, T., Teramachi, A. and Sairenji, T.: Identification of an alternative form of caspase-9 in human gastric cancer cell lines: a role of a caspase-9 variant in apoptosis resistance. Apoptosis 4: 321-325, (1999). 4. Murakami, M., Hoshikawa, Y., Satoh, Y., Ito, H., Tajima, M., Okinaga, K., Miyazawa, Y., Kurata, T. and Sairenji, T.: Tumorigenesis of Epstein-Barr virus-positive epithelial cell lines derived from gastric tissues in the SCID mouse. Virology 277: 20-26, (2000). 5. Kanamori, M., Tajima, M., Satoh, Y., Hoshikawa, Y., Miyazawa, Y., Okinaga, K., Kurata, T. and Sairenji, T.: Differential effects of TPA on cell growth and Epstein-Barr virus reactivation in epithelial cell lines derived from gastric tissues and B cell line Raji. Virus Genes 20: 117-25, (2000). 6. Ikuta, K., Satoh, Y., Hoshikawa, Y. and Sairenji, T.: Detection of Epstein-Barr virus in salivas and throat washings in healthy adults and children. Microbes and Infection 2: 115-120, (2000). 7. Fukuda, M., Satoh, T., Takanashi, M., Hirai, K., Ohnishi, E., and Sairenji, T.: Inhibition of cell growth and Epstein-Barr virus reactivation by CD40 stimulation in Epstein-Barr virus-transformed B cells. Viral Immunol. 13: 215-229, (2000). 8. Gao, X., Ikuta, K., Tajima, M., and Sairenji, T.: 12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate induces Epstein-Barr virus reactivation via N F-κB and AP-1 as regulated by protein kinase C and mitogen-activated protein kinase. Virology 286, 91-99, (2001). 9. Fukuda, M., Ikuta,K., Yanagihara, K., Tajima, M., Kuratsune, H., Kurata, T., and Sairenji, T.: Effect of transforming grown factor-β1 on the cell growth and Epstein-Barr virus (EBV) reactivation in EBV-infected epithelial cell lines: Virology 288, 109-118 (2001). 10. Kanamori, M., Murakami, M., Takahashi, T., Kamada, N., Tajima, M., Okinaga, K., Miyazawa, Y., Kurata, T., and Sairenji, T.: Spontaneous reduction in Epstein-Barr virus (EBV) DNA copy in EBV-infected epithelial cell lines. Microbes and Infection 3, 1085-1091(2001). 11. Ohsawa, T., Morimura, T., Hagari, Y., Kawakami, T., Mihara, M., Hirai, K., Ikuta, K., Murakami, M., Sairenji, T., and Mihara, T.: A case of exaggerated mosquito-bite hypersensitivity with EpsteinBarr virus positive inflammatory cells in the bite lesion. Acta Derm Venereol 81, 360-363 (2001). 12. Hoshikawa, Y., Satoh, Y., and Sairenji, T.: Evidence of lytic infection of Epstein-Barr virus (EBV) in EBV-positive gastric carcinoma. J. Med. Virol. 84, 1-9 (2002) 13. Satoh, T., Fukuda, M., and Sairenji, T.: Distinct patterns of mitogen-activated protein kinase phosphorylation and Epstein-Barr virus gene expression in Burkitt’s lymphoma cell lines versus B lymphoblastoid cell lines. Virus Genes (in press). 2)原著論文以外による発表(レビュー等) ア)国内誌(国内英文誌を含む) 1. 西連寺 剛:EB ウイルスの B 細胞内活性化機構. 2. 西連寺 剛: Herpesviruses and Immunity; Edited by Medveczky,P.G., Friedman, H., and Bendinelli, M. Plenum Press, NY and London 3. 西連寺 臨床と微生物 26: 471-475, 1999. (書評)ウイルス 49: 86-88, 1999. 剛:EB ウイルスの潜伏感染と再活性化. LIP(倉田 毅、天野富美夫 編集)菜根出版 1999. 4. 西連寺 剛:EB ウイルス感染と胃癌. 臨床と微生物 27: 413-417, 2000. 47 pp. 140-148, 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 イ)国外誌 1. Sairenji, T., Tajima, M., Takasaka, N., Gao, X., Kanamori, M., Murakami, M., Okinaga, K., Satoh, Y., Hoshikawa, Y., Ito, H., Miyazawa, Y., and Kurata, T.: Charactarization of EBV-infected epithelial cell lines from gastric cancer bearing tissues. In: Epstein-Barr virus and human cancer. Current Topics in Microbiology and Immunology 258, pp. 185-198. Springer-Verlag (Berlin Heidelberg. New York), 2001. 3)口頭発表 ア)招待講演 1. Sairenji, T.: Epstein-Barr virus (EBV)-genome positive epithelial cell lines derived from gastric tissues and the EBV infection. U.S.-Japan Cooperative Cancer Research Seminar; Hawaii, USA. : 1999 年 1 月 2. Sairenji, T.: Epstein-Barr virus (EBV) infection in EBV-genome positive epithelial cell lines and the tumorigenesis in SCID mouse. Second NHRI Conference on Tumor Associated Herpesviruses, Tapei, Taiwan.:1999 年 5 月 3. 西連寺 剛:EB ウイルス感染と胃ガン.(東京)第 9 回感染研シンポジウム:微生物感染が疑われる疾患: 1999 年 5 月. 4. 西連寺 剛:EB ウイルス感染と胃癌.(別府)第 2 回感染分子と病態形成を考える会:感染病態と発癌: 2001 年 7 月. イ)国内学会・研究会等 1. 西連寺 剛、小山佳久、大西英子、倉田 毅、山西弘一、倉恒弘彦、木谷照夫:慢性疲労症候群患者血清 中における IL-10 及び IL-4 ついて.(名古屋)第 4 回慢性疲労症候群(CFS)研究会 1999 年 2 月. 2. 西連寺 剛:EBV の潜伏感染と再活性化.(東京)第 9 回感染研シンポジウム 1999 年 5 月. 3. 生田和史、佐藤幸夫、星川淑子、西連寺 剛:健常人における EB ウイルス感染の再評価. (東京)第 9 回 EB ウイルス感染症研究会 1999 年 5 月. 4. 西連寺 剛、大西英子、小山佳久、山西弘一、倉恒弘彦、倉田 毅:慢性疲労症候群(CFS)と EB ウイル ス感染の関わりについて.(広島)第 16 回中国・四国ウイルス研究会 1999 年 5 月. 5. 星川淑子、佐藤幸夫、村上雅尚、金森美紀子、西連寺 剛、貝原信明、井藤久雄:胃癌における EBV の感 染実態とその感染様式.(広島)第 16 回中国・四国ウイルス研究会 1999 年 5 月. 6. Xiangrong Gao, 田島マサ子、西連寺 剛:Nitric Oxide Down-Regulates Epstein-Barr Virus Reactivation in Epithelial Cell lines.(広島)第 16 回中国・四国ウイルス研究会 1999 年 5 月. 7. 斎藤夕絵、星川淑子、村上雅尚、西連寺 剛:EBV 前初期遺伝子蛋白 ZEBRA の 186 番目セリンのアラニン への置換と EBV 活性化誘導能の消失について.(広島)第 16 回中国・四国ウイルス研究会 1999 年 5 月. 8. 福田 誠、田島マサ子、西連寺 剛:胃癌組織由来 Epstein-Barr ウイルス感染上皮細胞株に対する transforming growth factor-βの及ぼす影響について.(福岡)第 14 回ヘルペスウイルス研究会 1999 年 6 月. 9. 金森美紀子、高橋朋子、田中公夫、田島マサ子、鎌田七男、西連寺 剛:EBV 感染上皮細胞株における EB ウイルスの存在様式.(福岡)第 14 回ヘルペスウイルス研究会 1999 年 6 月. 10. 生田和史、佐藤幸夫、星川淑子、西連寺 剛:健康人における EB ウイルス感染の多様性. 第 14 回ヘル ペスウイルス研究会(福岡)1999 年 6 月. 11. 村上雅尚、星川淑子、貝原信明、井藤久雄、倉田 48 毅、西連寺 剛:胃癌組織からの新たなる EBV ウイル 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 ス感染上皮様細胞株の樹立とその性状. (福岡)第 14 回ヘルペスウイルス研究会 1999 年 6 月. 12. 伊澤正郎、寺町一樹、井藤久雄、西連寺 剛:ヒト胃癌細胞株において同定されたカスパーゼ 9 変異体に よるアポトーシスの抑制.(広島)第 58 回日本癌学会総会 1999 年 9 月. 13. 寺町一樹, 伊澤正郎、井藤久雄、西連寺 剛:ヒト胃癌細胞株のソルビトールによる速やかなアポトーシ スの誘導.(広島)第 58 回日本癌学会総会 1999 年 9 月 14. 金森美紀子、鎌田七男、田島マサ子、冲永功太、宮澤幸久、西連寺 剛:EBV 感染上皮細胞株における EB ウイルス DNA コピー数の変動.(広島)第 58 回日本癌学会総会 1999 年 9 月. 15. 村上雅尚、貝原信明、井藤久雄、倉田 毅、西連寺 剛:胃癌組織由来の新たな EBV 感染上皮細胞株の樹 立. (広島)第 58 回日本癌学会総会 1999 年 9 月. 16. 天白 晶、佐藤幸夫、原田信志、西連寺 剛:EB ウイルスエンベロープ蛋白 gp350/220 遺伝子 BLLF-1 の 欠失について. (横浜)第 47 回日本ウイルス学会総会 1999 年 11 月. 17. 西連寺 剛, 福田 誠、田島マサ子:胃癌組織由来 EBV 感染上皮細胞株に対する TGF-β1 刺激による細 胞増殖及び潜伏感染 EBV 再活性化に及ぼす影響. (横浜)第 47 回日本ウイルス学会総会 1999 年 11 月. 18. 星川淑子、佐藤幸夫、村上雅尚、金森美紀子、井藤久雄、西連寺 剛:EBV 陽性胃癌における EBV 遺伝子 発現. (横浜)第 47 回日本ウイルス学会総会 1999 年 11 月. 19. 金森美紀子、田島マサ子、佐藤幸夫、星川淑子、宮澤幸久、冲永功太、倉田 毅、西連寺 剛:TAP は低 濃度で細胞増殖を促進し、高濃度で EB ウイルスを活性化する.(横浜)第 47 回日本ウイルス学会総会 1999 年 11 月. 20. 高 祥栄、田島マサ子、西連寺 剛:上皮系細胞株に恒常的に発見される NO は EBV の再活性化を抑制す る.(横浜)第 47 回日本ウイルス学会総会 1999 年 11 月. 21. 斎藤夕絵、星川淑子、佐藤幸夫、井藤久雄、倉田 毅、西連寺 剛:186 番目セリン変異体 ZEBRA におけ る EBV 活性化誘導能の消失とエレクトロポレーションによる EBV 再活性化. (横浜)第 47 回日本ウイル ス学会総会 1999 年 11 月. 22. 村上雅尚、星川淑子、佐藤幸夫、井藤久雄、倉田 毅、西連寺 剛:一つの胃癌組織から樹立された 2 つ の EB ウイルス感染細胞株について. (横浜)第 47 回日本ウイルス学会総会 1999 年 11 月. 23. 生田和史、佐藤幸夫、星川淑子、西連寺 剛:EB ウイルス感染の唾液、血清中抗体及び末梢リンパ球から の検討. (横浜)第 47 回日本ウイルス学会総会 1999 年 11 月. 24. 生田和史、大西英子、西連寺 剛、山西弘一、倉恒弘彦、木谷照夫:慢性疲労症候群患者血清中における インターフェロンα(IFN-α)について. (大阪)第 5 回慢性疲労症候群研究会 2000 年 2 月. 25. 生田和史、阿川英之、大西英子、西連寺 剛、倉恒弘彦、木谷照夫、渡辺恭良、倉田 毅:慢性疲労症候 群における EB ウイルスの関与.(東京)第 10 回 EB ウイルス感染症研究会 2000 年 2 月. 26. 福田 誠、田島マサ子、柳原五吉、西連寺 剛:胃癌組織由来 EBV 感染上皮細胞株は TGF-β1 を産生する. (定山渓)第 15 回ヘルペスウイルス研究会 2000 年 6 月. 27. 金森美紀子、高橋朋子、田中公夫、鎌田七男、田島マサ子、平井莞二、西連寺 剛:EB ウイルス感染上皮 系細胞株における EBV DNA の減少. (定山渓)第 15 回ヘルペスウイルス研究会 2000 年 6 月. 28. 西連寺 剛、貝原信明、倉田 毅、井藤久雄:胃癌と EB ウイルス感染. (米子)第 11 回日本消化器癌発 生学会 2000 年 9 月. 29. 村上雅尚、金森美紀子、貝原信明、井藤久雄、倉田 毅、西連寺 剛:胃癌組織由来 EBV 感染細胞株 PT 及び PN の解析. (横浜)第 59 回日本癌学会総会 2000 年 10 月. 30. 伊澤正郎、寺町一樹、井藤久雄、西連寺 剛:カスパーゼ 9 変異体発現と胃癌細胞のアポトーシス耐性. (横浜)第 59 回日本癌学会総会 2000 年 10 月. 31. 寺町一樹、伊澤正郎、西連寺 剛、井藤久雄:ヒト胃癌細胞株のソルビトールによる速やかなアポトーシ 49 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 ス誘導: TPA による抑制. (横浜)第 59 回日本癌学会総会 2000 年 10 月. 32. 福田 誠、田島マサ子、西連寺 剛:胃癌組織由来 EBV 感染上皮細胞株における活性型 TGF-β1 の産生及 び外因性 TGF-β1 によるシグナル伝達. (津市)第 48 回日本ウイルス学会総会 2000 年 10 月. 33. 阿川英之、生田和史、西連寺 剛:EBV 感染細胞における L-アルギニンの EBV 再活性化の抑制機構(津市). 第 48 回日本ウイルス学会総会 2000 年 10 月. 34. 星川淑子、佐藤幸夫、村上雅尚、西連寺 剛:胃癌および非胃癌部組織における EBV 感染の定量的解析. (津 市)第 48 回日本ウイルス学会総会 2000 年 10 月. 35. 佐藤智久、西連寺 剛:EB ウイルス感染バーキットリンパ腫細胞株及び非腫瘍由来 B 細胞株における MAP Kinase リン酸化の相違. (横浜)第 50 回日本癌学会総会 2000 年 10 月. 36. 生田和史、大西英子、西連寺 剛、倉恒弘彦、宗川吉汪、山西弘一、木谷照夫、渡辺恭良:慢性疲労症候 群患者リンパ球における 2, 5A 合成酵素(2.5AS)活性について.(熊本)第 6 回慢性疲労症候群(CFS) 研究会 2001 年 2 月. 37. 斎鹿杏子、生田和史、西連寺 剛、出口雅経:小児 IM 様疾患における EB ウイルス感染実態の検討.(米 子)第 17 回中国・四国ウイルス研究会 2001 年 2 月. 38. 阿川英之、生田和史、西連寺 剛:培地中の L-arginine により NO は合成され細胞内 EBV 再活性化を抑制 する. (米子)第 17 回中国・四国ウイルス研究会 2001 年 5 月. 39. 星川淑子、佐藤幸夫、村上雅尚、前田迪朗、貝原信明、井藤久雄、西連寺 剛:EBV 陽性胃癌では EBV-DNA Bam HI-Z 領域の制限酵素断片長多型が高頻度に検出される. (米子)第 17 回中国・四国ウイルス研究会 2001 年 5 月. 40. 福田 誠、田島マサ子、西連寺 剛:胃組織由来 EBV 感染上皮細胞株における TGF-β1 シグナル伝達と細 胞周期関連蛋白の解析.(米子)第 17 回中国・四国ウイルス研究会 2001 年 5 月. 41. 斎鹿杏子、生田和史、西連寺 剛、出口雅経:小児 IM 様疾患における EB ウイルス感染の評価.(東京) 第 11 回 EB ウイルス感染症研究会 2001 年 6 月. 42. 西連寺 剛、村上雅尚、柳原 五吉:印環胃癌細胞株 HSC-39 におけるユニークな EB ウイルス感染の成立. (横浜)第 60 回日本癌学会総会 2001 年 9 月. 43. 貝原信明、井藤久雄、倉田 毅、西連寺 剛:非胃癌部組織由来細胞株(PN)の性状解析. (横浜)第 60 回日本癌学会総会 2001 年 9 月. 44. 生田和史、斎鹿杏子、西連寺 剛:EB ウイルス抗体陰性で伝染性単核症を呈する小児の末梢血リンパ球に おける EB ウイルス感染の証明.(大阪)第 49 回日本ウイルス学会総会 2001 年 11 月 45. 星川淑子、佐藤幸夫、金森美紀子、西連寺 剛:EBV 陽性胃癌において高頻度に検出される EBV 前初期遺 伝子 BZLF1 領域の変異.(大阪)第 49 回日本ウイルス学会総会 2001 年 11 月 46. 福田 誠、田島マサ子、西連寺 剛:EBV 感染上皮細胞株における TGF-β1 増殖抑制に対する非応答機構 の解析.(大阪)第 49 回日本ウイルス学会総会 2001 年 11 月 47. 村上雅尚、斉藤夕絵、森 多佳子、佐藤幸夫、星川淑子、金森美紀子、倉田 毅、西連寺 剛:胃癌組織 由来 EBV 陽性 PT および PN 細胞株の解析. (大阪)第 49 回日本ウイルス学会総会 2001 年 11 月 2) 国際学会 1. Epstein-Barr virus (EBV)-genome positive epithelial cell lines derived from gastric tissues and EBV infection. Sairenji, T., Takasaka, N., Murakami, M., Gao, X., Kanamori, M., Tajima, M., Okinaga, K., Hoshikawa, Y., Itoh, H., and Kurata, T.: Herpesviruses and Human Cancer (U.S.-Japan Cooperative Cancer Research Seminar) Hawaii, USA. Program, p. 12. January 24-25, 1999. 2. Epstein-Barr virus (EBV) infection in EBV - genome positive epithelial cell lines and the 50 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 tumorigenesis in SCID mouse. Sairenji, T.: Second NHRI Confence on Tumor Associated Herpesvirses. Tayouan, Taiwan. Program, p. 8. May 8-9, 1999. 3. Apoptotic machinery in human granulosa cells:expression of apoptotic protease activating factor-1 (APAF-1).Bcl-2 family, caspase family and DNA fragmentation factor(DFF-45). Izawa, M., Harada, T., Sairenji, T., and Terakawa, N.: The Endocrine Sosiety 81st Annual Meeting. San Diego, CA, USA. Program, p. 243. June 12-15, 1999. 4. The difference of mitogen-activated protein-kinase phosphorylation in Burkitt’s lymphoma and lymphoblastoid cell lines. Satoh, T., and Sairenji, T.: The Ninth Biennial Conference of the International Association for Research on Epstein-Barr Virus and Associated Diseases. New Haven, CT, USA. June 22-27, 2000. 5. Down-regulation of Epstein-Barr virus reactivation by nitric oxide in epithelial cell lines. Sairenji, T., Gao, X., and Tajima, M.: The Ninth Biennial Conference of the International Association for Research on Epstein-Barr Virus and Associated Diseases. New Haven, CT, USA. Program, p. 81. June 22-27, 2000. 6. Detection of Epstein-Barr virus in salivas and throat washings in healthy adults and children. Ikuta, K., Satoh, Y., Hoshikawa, Y., and Sairenji, T.: The Ninth Biennial Conference of the International Association for Research on Epstein-Barr Virus and Associated Diseases. New Haven, CT, USA. Program, p. 140. June 22-27, 2000. 7. Reduction of Epstein-Barr virus (EBV) genome in EBV-infected epithelial cell lines. Kanamori, M., Murakami, M., Takahashi, T., Kamada, N., Tajima, M., Okinaga, K., Miyazawa, Y., and Sairenji, T.: The Ninth Biennial Conference of the International Association for Research on Epstein-Barr Virus and Associated Diseases. New Haven, CT, USA. Program, p.191. June 22-27, 2000. 8. Two epithelial-like cell lines established from a patient with gastric carcinoma. Murakami, M., Hoshikawa, Y., Kanamori, M., Kaibara, N., Ito, H., and Sairenji, T.:The Ninth Biennial Conference of the International Association for Research on Epstein-Barr Virus and Associated Diseases. New Haven, CT, USA. Program, p.188. June 22-27, 2000. 9. Effect of transforming growth factor-β1 on the cell growth and Epstein-Barr virus (EBV) reactivation in EBV-infected epithelial cell lines. Fukuda, M., Yanagihara, K., Tajima, M., and Sairenji, T.: The 21st International symposium of the Sapporo cancer seminar foundation. Epstein-Barr virus and human cancer. Sapporo/Hokkaido, Japan. Program, p. 75. July 4-6, 2001. 10. Murakami, M., Kaibara, N., Ito, H., and Sairenji, T.: Characterization of Epstein-Barr virus positive cell lines from a gastric tissue with carcinoma. The 21st International symposium of the Sapporo cancer seminar foundation. Epstein-Barr virus and human cancer. Sapporo/Hokkaido, Japan. Program, p. 79. July 4-6, 2001. 11. Murakami, M., Luo, B., Fukuda, M., Fujioka, A., Yanagihara, K., and Sairenji, T.: Epstein-Barr virus infection on a human signat ring cell gastric carcinoma cell line HSC-39. 10th International conference on immunobiology and prophylaxis of human herpesvirus infections. Osaka, Japan. Program, p. 28. November21-23, 2001. 12. Ikuta, K., Saiga, K., Deguchi, M., and Sairenji, T.: Demonstration of Epstein-Barr virus DNA in pripheral blood mononuclear cells from the seronegative infants with infectious mononucleosis-like symptoms. 10th International conference on immunobiology and prophylaxis of human herpesvirus infections. Osaka, Japan. Program, p. 28. November21-23, 2001. 51 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 13. Fukuda, M., Yanagihara, K., Tajima, K., and Sairenji, T.: Epstein-Barr virus-infected epithelial cell lines have the defectiveness of signaling pathways of p21/WAF1/ Cip1 via transforming growth factor-β1. 10th International conference on immunobiology and prophylaxis of human herpesvirus infections. Osaka, Japan. Program, p. 28. November21-23, 2001. 2.特許出願等 (計 [件名、出願者氏名、出願年月日、特許番号 等] 0 件) 52 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 1. 慢性疲労症候群等の病的疲労の研究 1.2. 慢性疲労症候群に関わる代謝動態の研究 1.2.1. 疲労状態にいたるまでの脳内代謝動態の解明 京都大学大学院情報学研究科生体情報処理分野 松村 要 潔 約 本研究ではラットのウィルス擬似感染モデルを用い、疲労に関わる脳内分子と脳領域を検討した。2 本鎖 RNA(poly I:C)をラット腹腔内に投与すると、ウィルス感染時と同様に発熱と自発行動量低下(疲労の指標)が起こ った。発熱はプロスタグランジン(PGE2)依存性であり、PGE2 は脳血管内皮細胞で産生されること明らかとなっ た。一方、自発行動量低下は PG 非依存性で、その分子機構は現在検討中である。Poly I:C 投与により神経活動が 上昇する脳領域を c-fos 免疫染色で検討し、c-fos 反応が PG 依存性の脳領域と、PG 非依存性の脳領域に分類され た。後者の脳領域が疲労に関与していることが示唆された。 研究目的 疲労を引き起こす原因の一つに感染がある。特にインフルエンザ罹患時に経験するように、ウィルス感染時の 疲労感は著しい。また慢性疲労症候群の誘因として、ウィルス感染が疑われている。したがって、ウィルス感染 時の疲労機構を明らかにする事が、慢性疲労症候群のような病的疲労の原因究明と治療につながると期待される。 本研究の目的は、ウィルス感染の情報が如何なる経路で脳に伝達され、如何なる脳領域を介して疲労感を惹起し ているかを明らかにすることである。ウィルス感染に伴う共通した感冒様症状は、ウィルスが増殖する際に産生 される 2 本鎖 RNA によって引き起こされる。そこで本研究では合成 2 本鎖 RNA 投与により擬似的ウィルス感染状 態を引き起こしたラットを実験モデルとして用いた。感染から疲労に至る経路を 3 段階に区分し、それぞれの段 階で解析を試みた。すなわち①感染に反応する免疫系細胞と、そこから放出されるサイトカイン、②サイトカイ ンが脳に作用する機序、③サイトカインにより活性化あるいは沈静化する脳内疲労関連神経、の 3 段階である。 研究方法 (i)モデル動物 ウィスター系雄ラット(8 週齢)を用い、ウィルス擬似感染モデルとして、以下の 3 条件の妥当性を検討した。 ①2 本鎖 RNA(poly I:C)600μg の腹腔内投与 ②ヒトインターフェロンα(hIFNα)の腹腔内投与 ③poly I:C と hIFNαの腹腔内同時投与 これらの条件下で体温と自発輪回し量を測定し、妥当なウィルス擬似感染モデルを決定した。 体温測定:ラットをネンブタール(50mg/kg 腹腔内注射)で麻酔し、腹腔内に体温測定用送信機を装着した。ラット は受信ボードの上に置いた個別ケージに入れ、体温を 10 分間隔で測定した。実験までに 1 週間の回復期間を置いた。 53 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 輪回し行動:ラットを回転輪の付いた個別ケージに入れ、輪回し回数を記録した。 (ii)プロスタグランジン E2(PGE2)測定 ラット腹腔内に poly I:C あるいは生理食塩水を投与し、一定時間後にネンブタールで麻酔した。ラット頭部を 脳定位装置に固定し、大槽より脳脊髄液を採取し、凍結保存した。脳脊髄液中の PGE2 を酢酸エチルで抽出し、酵 素免疫測定法(EIA 法)により定量した。 (iii)免疫組織化学 脳 PGE2 合成系酵素 Poly I:C 投与して一定時間後にラットをネンブタールで麻酔し、左心室よりリン酸緩衝生理食塩水を灌流し脱 血した。脳を取り出し、ドライアイス粉末中で凍結した。凍結切片を作成し、スライドグラスに接着させ、2%パ ラホルムアルデヒド(pfa)あるいは 0.1%メタ過ヨウ素酸ナトリウムで固定した。1 次抗体として、抗ラットシクロ オキシゲナーゼ-2(COX-2)、抗ヒト膜型 PGE 合成酵素(mPGES)、抗ラット von Willebrand factor(内皮細胞マー カー)を用いた。間接蛍光法によりこれらの抗体を可視化した。 腹腔内細胞、血球細胞サイトカイン Poly I:C 投与して一定時間後にラットをネンブタールで麻酔し、腹腔内に 50ml の PBS を注入する。一定時間後 PBS を回収し、その中に含まれる腹腔内細胞を遠心操作により濃縮し凍結する。その後右心房より血液を採取、血 漿と血球成分を遠心分離し、それぞれ凍結保存する。凍結切片を作成し、抗 rat インターロイキン 1β(IL-1β)抗 体により染色した。一部の実験では、細胞の同定を行うために、各種のマクロファージ、顆粒球マーカーで 2 重 染色を行った。 脳内 c-fos Poly I:C 投与して一定時間後にラットをネンブタールで麻酔し、左心室より PBS、次いで 4%パラホルムアルデ ヒドを潅流し脳を取り出した。脳の浮遊切片を作成し、c-fos 免役染色を行なった。 (iv) 血中カルニチン、アセチルカルニチン 16 時間絶食させたラットに poly I:C あるいは生理食塩水を腹腔内投与し、3 時間後に静脈血を採取した。遠心 分離により血漿を採取し凍結した。カルニチン、アセチルカルニチンを定法により測定した(阪大山口浩二先生 の協力による) 研究成果 (i)擬似感染モデルの妥当性 Poly I:C 腹腔内投与により、ラットは発熱した(図 1)。リコンビナント・ヒト・インターフェロンα(rhIFNα) の腹腔内投与では発熱は起こらなかった(図 2)。Poly I:C と rhIFNαの同時投与では、発熱のピーク値は poly I:C 単独投与時と差がなかったが、発熱の持続時間が増加した。Poly I:C 腹腔内投与により、疲労の指標としての輪 回し回数の低下が起こった。しかし、rhIFNαの腹腔内投与による輪回し回数の低下は、対照群(生食投与群)と 差がなかった。Poly I:C と rhIFNαの同時投与しても、Poly I:C 単独投与以上の効果は見られなかった。以上の結 果より本課題ではウィルス擬似感染モデルとして、poly I:C 単独投与を用いることにした。 54 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 図1 図2 Effect of prolyIC on body temperature in rats Effect of rhlFN alpha on body temperature in rats 55 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 図3 Poly IC 腹腔内投与による自発運動量の変化 図4 インターフェロンは自発運動量に影響しない 56 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 (ii)擬似感染症状におけるプロスタグランジン系の関与 発熱には脳内 PGE2 が関与している。Poly I:C による発熱もシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)阻害剤(NS398)に よりほぼ完全に抑制された(図 5) 。一方、poly I:C による輪回し回数の低下は、発熱を阻害する量の NS398 により 影響を受けなかった(図 6) 。すなわち poly I:C による輪回し回数の低下は、発熱による 2 次的反応ではない。また、 それはプロスタグランジン系を介さない反応であることが示唆された。 図5 図6 Effect of COX-2 inhibitor on polyIC-induced fever COX-2 阻害薬は polyIC による自発運動量低下に影響しない 57 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 Poly I:C 腹腔内投与により、脳脊髄液中の PGE2 濃度は上昇し(図 7)、この上昇は COX-2 阻害剤により抑制さ れた(図 8)。この時、脳血管内皮細胞には COX-2(図 9)と mPGES(図 10)が誘導された。また COX-2 とmPGES は脳血管内皮細胞の核周囲にほぼ重なって誘導された。以上の結果から、poly I:C による発熱には、脳血管内皮 細胞で産生される PGE2 が寄与していることが示された。 図7 PGE2 level in CSF after poly IC injection 図8 A COX-2 inhibitor suppresses PGE2 in CSF 58 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 図9 図 10 polyIC induced COX-2 in brain endothelial cells Poly IC-induced COX-2 and mPGES in brain endothelial cells (iii)擬似感染モデルにおけるサイトカイン産生 腹腔内に投与した poly I:C がどのような経路で脳に作用するかを考える際に、末梢の免疫系細胞で産生された サイトカインによる情報伝達が第一に考えられる。Poly I:C 投与後 3 時間で、腹腔内に IL-1β陽性の顆粒球、マ クロファージが認められた(図11、12)。また血液中でも IL-1β陽性顆粒球が認められた。以上の結果から poly I:C による脳の反応に末梢で産生された IL-1βが関与していることが示された。 59 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 図 11 図 12 Type of IL-1β expressing cells Induction of IL-1β by i.p. injection of poly IC (iv)擬似感染モデルにおける脳内応答部位 Poly I:C 投与後 3 時間での脳内活性化部位を c-fos 免疫組織化学で検討し、さらにその反応の PG 依存性を調べ た。Poly I:C により腹内側視索前野 (VMPO、図 13)、視索上核(SON、図 14)、室旁核(PVN、図 15)、視床下部背 内側核(DMN、図 16)、偏桃体中心核(CeA、図 17)、視床室旁核(PVT、図 18)で c-fos の発現が増加した。この うち、VMPO、SON、PVN 外側部の c-fos 発現反応は COX 阻害剤で大きく抑制された。一方 PVN 内側部、DMN、CeA、 PVT では COX 阻害剤による抑制効果は弱いものであった。以上のことからウィルス擬似感染にようる脳の活性化に、 PG 依存性と非依存性の経路が存在することが明らかとなった。 60 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 図 13 c-fos expression in VMPO 3h after poly IC injection 図 14 c-fos expression in SON 3h after poly IC injection 61 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 図 15 c-fos expression in PVN 3h after poly IC injection 図 16 c-fos expression in DMH 3h after poly IC injection 62 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 図 17 c-fos expression in CeA 3h after poly IC injection 図 18 c-fos expression in PVT 3h after poly IC injection 63 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 (v)擬似感染モデルにおける血漿カルニチン、アセチルカルニチンの濃度 慢性疲労症候群の患者では血中アセチルカルニチンの低下が報告されている。本ウィルス擬似感染モデルでは カルニチン、アセチルカルニチンとも変化が見られなかった(図 19)。少なくとも、本モデルの疲労にはアセチル カルニチンの低下が関与していないことが示された 図 19 Poly IC 腹腔内投与は血漿カルニチン・アセチルカルチニンに影響しない 考 察 我々は様々な原因で疲労を感ずるが、その原因の一部に感染症があることは間違いない。慢性疲労症候群では、 インフルエンザに罹患したような疲労感が長期にわたって続くといわれる。またこの症候群では、免疫系の異常 がしばしば報告されている。したがって、感染時の疲労感は病原菌侵入→免疫系活性化→脳の反応という経路で 引き起こされると考えられる。本研究ではこの経路を 3 段階に分類し、それぞれの段階での解明を試みている。 まず、実験モデルとして、poly I:C(2 本鎖 RNA)腹腔内投与を採用した。これによりラットに発熱と輪回し回 数の低下を引き起こす事ができた。一方、ヒトで強い発熱反応と疲労感を引き起こすインターフェロンは、ラッ トにおいては無効果であった。したがって、poly I:C はインターフェロン(IFN)を誘導して発熱と輪回し回数の 低下を引き起こしているのではない。ラットで IFN が無効果である理由は不明である。最近 poly I:C の IFN とは 独立した細胞内信号伝達系が明らかにされつつある。その中に、poly I:C による転写因子 NF-kB の活性化が報告 されている[1]。NF-kB の活性化により、数多くの炎症関連遺伝子が転写される。炎症性サイトカインである IL-1β も NF-kB のコントロール下にある。実際に本研究では poly I:C により、腹腔内マクロファージと顆粒球が IL-1β を産生することを示した。これ以外にも poly I:C により誘導されるサイトカインがあると考えられる。これに関 しては今後、網羅的に検討する必要がある。 Poly I:C により引き起こされる発熱は、脳血管内皮細胞での PGE2 合成によって起こることが示された。 これは、 これまで我々が解明してきた細菌感染や局所炎症による発熱機序と一致するものである[2-3]。脳血管内皮細胞に は IL-1 受容体が存在するので[4]、poly I:C 刺激により免疫系細胞で産生された IL-1βが脳血管内皮細胞に作用 して PGE2 合成系酵素を誘導すると考えられる。しかしそれ以外のサイトカインの関与も検討する必要がある。 一方、ラットの疲労の指標として用いた輪回し行動の低下は、発熱を抑制する量の PG 合成阻害剤では影響を受け なかった。したがって、輪回し行動の低下(疲労)は発熱の結果 2 次的に起こる反応ではないことが明らかとなった。 64 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 輪回し行動の低下は、発熱を引き起こさない程度の微量の PGE2 によって最大限に起こるか、あるいは全く PGE2 を介 さないで起こるかのいずれかである。この結果は、ウィルス擬似感染に対する脳内応答にも、発熱と輪回し行動低下 に対応して、COX 阻害剤で大きく影響を受ける部位と、あまり影響を受けない部位が存在することを示唆する。そし て、輪回し行動の低下に関わる脳内部位は、COX 阻害剤の影響を受けにくい部位であると推定できる。 実際、c-fos 発現を指標にすると、脳内で poly I:C により活性化される部位が見出され、c-fos 発現への COX 阻害剤の効果は脳内部位によって異なっていた。疲労との関連で注目すべきは、偏桃核、視床室旁核、視床下部 室旁核内側部、背内側視床下部である。これらの諸核と疲労との関連を明らかにする事が課題である。 引用文献 [1] Iwamura et al.: Induction of IRF-3/-7 kinase and NF-kB in response to double-stranded RNA and virus infection: common and unique pathways, Genes to Cells 6, 375-388 (2001) [2] Cao et al.: Induction by lipopolysaccharide of cyclooxygenase-2 mRNA in rat brain: its possible role in the febrile response, Brain Res. 697, 187-196 (1995) [3] Cao et al.: Involvement of cyclooxygenase-2 in LPS-induced fever and regulation of its mRNA in the rat brain by LPS, Am. J. Physiol. 272, R1712-1725 (1997) [4] Cao et al.: Endothelial cells of the rat brain vasculature express cyclooxygenase-2 mRNA in response to systemic interleukin-1 beta: a possible sites of prostaglandin synthesis responsible for fever, Brain Res. 733, 262-272 (1996) 成果の発表 1)原著論文による発表 イ)国外誌 Kiyoshi Matsumura, Souhei Kaihatsu, Hissei Imai, Akira Terao, Takuma Shiraki, Shigeo Kobayashi: Cyclooxygenase-2 in the vagal afferents: is it involved in the brain prostaglandin response evoked by lipopolysaccharide?, Autonomic Neuroscience: Basic and Clinical, 85, 88-92, 2000 Kanato Yamagata, Kiyoshi Matsumura, Wataru Inoue, Takuma Shiraki, Kyoko Suzuki, Shin Yasuda, Hiroko Sugiura, Chunyu Cao, Yasuyoshi Watanabe, Shigeo Kobayashi: Coexpression of microsomal-type prostaglandin E synthase with cyclooxygenase-2 in brain endothelial cells of rats during endotoxin-induced fever, Journal of Neuroscience, 21, 8, 2669-2677, 2001 Chunyu Cao, Kiyoshi Matsumura, Noriyuki Shirakawa, Mitsuyo Maeda, Ikuyo Jikihara, Shigeo Kobayashi, Yasuyoshi Watanabe: Pyrogenic cytokines injected into the rat cerebral ventricle induce cyclooxygenase-2 in brain endothelial cells and also upregulate their receptors, European Journal of Neuroscience, 13, 1781-1790, 2001 Kazuhiro Nakamura, Kiyoshi Matsumura, Takeshi Kaneko, Shigeo Kobayashi, Hironori Katoh, Manabu Negishi: The rostral raphe pallidus nucleus mediates pyrogenic transmission from the preoptic area, Journal of Neuroscience, 22, in press, 2002 65 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 2)原著論文以外による発表 ア)国内誌 松村 潔、小林茂夫: 疲労と脳-免疫-内分泌相関、 疲労の科学、井上正康、倉恒弘彦、渡辺恭良編、講談社、 36-42、2001 松村 潔、井上 渉、小林茂夫: 脳血管内皮細胞:免疫系と脳をつなぐ情報伝達装置、神経研究の進歩 45、 891-900、2001 イ)国外誌 Kiyoshi Matsumura and Shigeo Kobayashi: Neuroanatomy of fever: localization of cytokine and prostaglandin systems in the brain, (In Thermotherapy for Neoplasia, Inflammation, and Pain (eds. M. Kosaka, T. Sugahara, K.L. Schmidt, E. Simon, Springer-Verlag Tokyo, 290-299, 2001) 3)口頭発表 ア)招待講演 Kiyoshi Matsumura, Cytokine actions on brain prostaglandin system, Cytokines and Brain Satellite Symposium for Society for Neuroscience 2000 Nov., New Orleans 松村 潔他:脳血管内皮細胞:免疫系と脳をつなぐ情報伝達装置、第 36 回脳のシンポジウム 2001 3 月、福岡 松村 潔:免疫情報伝達装置としての脳血管内皮細胞、第 1 回環境生理シンポジウム 2001 3 月、京都 松村 潔他:脳血管内皮細胞による免疫系から脳への情報伝達、第 11 回脳血管シンポジウム 2001 9 月、大阪 松村 潔他:脳と免疫系の対話、神経科学の基礎と臨床、2001 66 12 月、大阪 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 1. 慢性疲労症候群等の病的疲労の研究 1.2. 慢性疲労症候群に関わる代謝動態の研究 1.2.2. アセチルカルニチントランスポーターの研究 北海道大学大学院医学研究科情報薬理学講座細胞薬理学分野 三輪 要 聡一 約 慢性疲労症候群の患者では,脳におけるアセチルカルニチン(AC)の代謝異常が認められるが、その分子病態は 不明である。今回、ラット脳の cDNA ライブラリーから、AC 輸送活性を有すると報告のある有機性カチオン輸送体 (OCTN1 および OCTN2)に共通の部分塩基配列をプローブとするプラークハイブリダイゼーション法により、AC 輸送 体およびその類似分子をコードする cDNA を単離した。その結果、OCTN1 および OCTN2cDNA 以外に新しい 2 種類の cDNA(2b-1 および 11)が発見された。これらの cDNA は OCTN1 および OCTN2 と部分的な相同性を有しているものの、 約 1/3 の小分子で、1 回膜貫通型蛋白をコードしていた。新しく見出された 2b-1 および 11 は、培養細胞株の発現 系において、それ単独では AC 輸送活性を示さなかったが、OCTN2 の輸送活性を数倍増強した。OCTN1 の AC 輸送活 性は検出限界以下であった。これらの事実は、OCTN2、2b-1 および 11 が脳における AC 輸送に深く関与している ことを示唆している。 研究目的 慢性疲労症候群(CFS)は、長期間続く原因不明の強い全身疲労・倦怠感を主たる症状とする症候群である。CFS 患者では、血清アセチルカルニチンレベルが低下しており、これらの患者に AC を投与すると症状の改善がみられ、 また、PET による解析から、脳への AC の取り込みの低下が観察されている[1]。これらのデータは、CFS 患者の脳 において、AC の代謝異常が生じていることを示している。本研究では、CFS の病態の解明および治療法の開発の ための第一段階として、脳における AC トランスポーターの cDNA クローニングを試みた。 研究方法 1)ラット脳 cDNA ライブラリーの作製とスクリーニング ラット脳より mRNA を精製し、これをλZAP Express Phage Vector (Stratagene 社)に EcoR1 と Not1 制限酵素サ イトで組み込みこむことより cDNA ライブラリーを作製した。プローブにはアセチルカルニチン輸送(ACT)活性を 有する有機性カチオン輸送体(OCTN1 および OCTN2)に共通の部分塩基配列(OCTN2 の第 25 番から第 375 番に相当す る 351bp)を用い、プラークハイブリダイゼーション法により、ラット脳の cDNA ライブラリー(2x106pfu)をス クリーニングした。得られた陽性プラークとヘルパーファージを反応させ cDNA を組み込んだ pBK ファージミドベ クターを切り出した。cDNA の塩基配列は、LI-COR 社製ゲル板シークエンサーと ABI 社製 PRISM310 キャピラリー シクエンサーを使用して決定した。 67 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 2)カルニチンおよびアセチルカルニチン輸送活性の測定 cDNA がコードする蛋白の輸送活性は、当該プラスミドを COS-7 や HEK293 などの培養細胞に遺伝子導入して一過 性に発現させて測定した。具体的には、COS-7、CHO、L-cell の付着性細胞の場合、24well プレートに 1 ウェル当 り、0.5 ~1.0 x105 個の細胞密度で 24 時間培養した後、0.3μg のプラスミドを 8μl の PolyFect (QIAGEN 社) と混合して添加し、さらに 36 時間培養した。細胞を 1ml の Na 含有輸送活性測定緩衝液(TB)[1]で洗浄した後、 0.2ml の TB を加えて、10 分間 37 度Cでプレインキュベーションした後、20nM(最終濃度 10nM)の 3H-カルニチンま たは 10μM(最終濃度 5μM)の 14C-アセチルカルニチンを含む 0.2ml の TB を加えて取り込み反応を開始した。37 度 C で 1 時間反応後、氷冷した 1ml の TB で細胞を 2 回洗浄して反応を停止させ、0.5ml の 0.2NaOH/1%SDS で細胞を 可溶化し、細胞内に取り込まれた 3H-カルニチンまたは 14C-アセチルカルニチン量を液体シンチレーションカウ ンターで測定した。付着性の低い HEK293 細胞の場合、細胞をピペッティングにより回収し、 氷冷した TB で 2 回 洗浄した後、0.5 ~1.0 x105 個/0.2ml TB になるように調整した後、20nM(最終濃度 10nM)の 3H-カルニチンを含 む 0.2ml の TB を加えて取り込み反応を開始した。10 分後、細胞を含む反応液を 0.5ml のシリコンオイルと流動パ ラフィンの等量混合液上に重層し、10000g で 1 分間遠心して細胞を集め、COS-7 細胞と同様に 0.5ml の 0.2NaOH/1%SDS で可溶化し細胞内に取り込まれた 3H-カルニチン量を測定した。 研究成果 a) cDNA クローニング 「方法」の第 1 項で述べたようにラットの OCTN1 と OCTN2 の両者に共通なプローブを用いて、ラット脳 cDNA ラ イブラリーをスクリーニングした結果、全体で 15 個の陽性プラークが得られた。インサートは 15 クローン全て、 2kbp 以上の長さを有していた。 全クローンについて、塩基配列を決定したところ、9 クローンは OCTN2 と、4 クローンは OCTN1 と全く同一の配 列を有していることが判明した。残りの 2 クローン、2b-1 および 11、は OCTN1 および OCTN2 と部分的に相同性を 有する新しい cDNA であった。2b-1 と 11 は全長がそれぞれ 2.9kb と 7.2kb であり、146 個と 179 個のアミノ酸か らなる新しい蛋白をコードしていた。両蛋白はN末端から 131 番目のアミノ酸までは全く同一の配列を共有して いたが、132 番目から C 末端まで、2b-1 が 15 個の、そして、11 が 38 個のアミノ酸からなるユニークな配列を有 していた(図 1)。 プローブ OCTN1 553aa OCTN2 2.3 kb 3.0 kb 557aa 2b-1 11 2.9 kb 147aa 7.9 kb 179aa : non-coding region : open reading frame 図 1. OCTN1、OCTN2、2b-1 および 11cDNA の構造 68 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 OCTN1 と OCTN2 は保存された 12 個の疎水性領域を有し、12 回膜貫通型構造を成していると推定されている。2 b-1 と 11 はこの OCTN1 と OCTN2 とに共通に保存された N 末端側に一番近い第 1 膜貫通領域(LIFFLLSASII)を有 していることから、1 回膜貫通型の膜蛋白として細胞膜に存在していると予想された(図 2)。 OCTN1 or OCTN2 細胞外 1 2 3 4 5 6 61 7 8 9 10 11 12 細胞内 2b-1 11 1 細胞外 1 細胞内 図 2. OCTN1、OCTN2、2b-1 および 11 蛋白分子の推定構造 b)カルニチンおよびアセチルカルニチン輸送活性 新しく見出された OCTN 関連蛋白である 2b-1 と 11 のカルニチンあるいはアセチルカルニチン輸送活性を「方法」 の第 2 項で詳述したように培養細胞に一過性に発現させて検討した。まず、輸送活性を測定するに最も適当な培 養細胞株を選択するために、COS-7、CHO、L-Cell、HEK293 の 4 種類の細胞に OCTN2 を遺伝子導入してカルニチン 輸送活性を検討したところ、COS-7 と HEK293 細胞に高い輸送活性が認められたのに対し、CHO 細胞や L-Cell では 低い輸送活性しか得られなかった(図 3)。以上の結果より、COS-7 または HEK293 細胞をカルニチンあるいはアセ チルカルニチン輸送活性の測定に使用した。 1500 Uptake of L-Carnitine (dpm/well) pBK OCTN2 1000 500 0 10 30 COS-7 10 30 10 30 L-Cell CHO 10 20 (min) HEK293 図 3. 一過性に発現させた OCTN2 によるカルニチンの輸送活性 (pBK は空のベクターのみを遺伝子導入した結果を示す) 69 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 c)2b-1 および 11 による OCTN2 のアセチルカルニチン輸送活性増強 HEK293 細胞に 2b-1 および 11 を遺伝子導入してカルニチンおよびアセチルカルニチン輸送活性の測定を行った が、まったく有意の活性は検出されなかった(図 4)。OCTN1 も同様に不活性であった。HEK293 を COS-7 細胞の代 わり用いても全く同様の結果が得られた。しかし、OCTN2 を 2b-1 あるいは 11 と同時に共発現させると、OCTN2 のカルニチンの輸送活性は 2-3 倍に増強された(図 5)。アセチルカルニチンの輸送についても同程度の増強が観察 された。この増強は OCTN1 では観察されず、2b-1 と 11 に特異的であった。 Uptake of Carnitine (dpm/h/well) 図 4. OCTN1、OCTN2、2b-1 および 11 クローンを HEK293 細胞に遺伝子導入した場合のカルニチン輸送活性 1500 1000 500 0 pBK OCTN2 OCTN2 OCTN2 OCTN2 + + + + pBK 2b-1 11 OCTN1 図 5. COS-7 細胞に発現させた OCTN2 のカルニチン輸送活性に対する 2b-1 および 11 の効果 (添加したプラスミド量は合計で well 当たり 0.3μg とし、OCTN2 は半量の 0.15μg を加えた) 70 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 考 察 上述したように、脳の cDNA ライブラリーから OCTN1 および OCTN2 がクローニングされたことから、脳にこれら の蛋白分子が発現していることは明らかである。しかし、OCTN1 のアセチルカルニチン輸送活性は低くほとんど検 出限界以下であった。したがって、脳において主としてアセチルカルニチン輸送を担っているのは OCTN2 である と考えられる。また、OCTN2 のアセチルカルニチン輸送活性は、今回新しく発見された 2b-1 あるいは 11 分子で 調節されている可能性が高い。 今後の研究方向として、(1)OCTN2、2b-1 および 11 の脳内分布の解明、(2)2b-1 および 11 分子による OCTN2 活性化の分子機構の解明、(3)OCTN2、2b-1 あるいは 11 の遺伝子操作による欠損あるいは過剰発現による CFS 病 態または疲労抵抗性モデル動物の作製が試みられるべきであろう。 一方、CFS 患者における OCTN2,2b-1 および 11 の SNP(単一塩基多型)の存在と病態の関係を調べることも CFS 病態の理解に役立つと考えられる。これらの知見は、 将来、アセチルカルニチンの取り込みを促進する薬剤の開発など慢性疲労の治療戦略を立てる上で重要である。 引用文献 [1] 倉恒弘彦.:「慢性疲労症候群の病因と治療」,111-118 頁,疲労の科学(井上正康,倉恒弘彦,渡辺恭良編), 講談社サイエンティフィク,(2001) [2] Tamai, I., Ohashi, R., Nezu, J., Yabuuchi,H., Oku, A., Shimane, M., Sai, Y., and Tsuji, A.:「Molecular and functional identification of sodium ion-dependent, high affinity carnitine transporter OCTN2」, J. Biol. Chem., 273, 20378-20382, (1998) 成果の発表 1)原著論文による発表 1. Kawanabe Y., Hashimoto N., Masaki T., and Miwa S.:「Ca(2+) influx through nonselective cation channels plays an essential role in noradrenaline-induced arachidonic acid release in chinese hamster ovary cells expressing alpha(1A)-, alpha(1B)-, or alpha(1D)-adrenergic receptors. J. Pharmacol. Exp. Ther. 299, 901-907 (2001) 2. Frutani H., Zhang XF., Iwamuro Y, Lee K., Okamoto Y., Takikawa O., Fukao M., Masaki T., and Miwa S.: 「Comparison of Ca2+ entry involved in contractions of rat aorta induced by endothelin-1, noradrenaline and vasopression」J. Cardiovasc. Pharmacol. 3. in press (2002) Kawanabe Y., Okamoto Y., Hashimoto N., Masaki T., and Miwa S.: Molecular mechanism for endothelin-1-induced stress fiber formation: Analysis of G proteins using mutants of endothelin type A receptor. 4) Mol. Pharmacol. in press (2002) 特許等出願等 1. 特許出願手続中 名 称:「アセチルカルニチントランスポーター活性化因子」 発明者:北海道大学大学院医学研究科 情報薬理学講座細胞薬理学分野 教 授 中央研究部 助 情報薬理学講座細胞薬理学分野 大学院生 教 授 71 三 輪 滝 川 長 井 聡 一 修 和 彦 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 1. 慢性疲労症候群等の病的疲労の研究 1.2. 慢性疲労症候群に関わる代謝動態の研究 1.2.3. カルニチン欠損と疲労病態の関係 鹿児島大学医学部生化学第 1 講座 佐伯 要 武頼 約 本研究では、カルニチンの細胞膜輸送蛋白質の欠損に基づく JVS (juvenile visceral steatosis) マウスが絶 食によって自発行動低下、食餌量の減退を起こすことから、これを疲労モデルとしてその発症機構の解明を行っ ている。朝 8:00 から食餌を除くこと(絶食)によって、夜間の行動量減少が JVS マウス(j/j)では観察される が、ヘテロ接合体(+/j)や野生型(wt)では見られず、摂食状態と変わらない。JVS マウスの絶食による行動低 下はカルニチン投与によって回復するが、カルニチンを含まない食餌の投与によっても回復することから直接カ ルニチンの有無によって起こるのではない。カルニチンを必要としない中鎖脂肪酸からなる中性脂肪(MCT)の投与 は、MCT が代謝され、ケトン体産生が増し、酸素消費が高まるにもかかわらず、行動量を増すことができなかった。 グルコースやショ糖では行動の多い個体と少ない個体が存在した。JVS マウスを絶食にすると低体温になるが、 グルコースや MCT の投与によって体温は上昇する。しかし行動量は増加しない。JVS マウスの絶食中の肝臓および 脳の energy charge または ATP/ADP 比が低下するような傾向は見られなかった。また、血漿 AST ならびに ALT が JVS マウスの 48 時間の絶食によって上昇するが、行動量減少は絶食開始 5 時間(15:00 からの絶食によって 20:00-23:00 の行動量が低下する)から見られることから、行動量低下は肝障害によるのではない。脳内 c-Fos 発 現の検索から Nucleus pontis において絶食によって発現低下が起こることが判明した。しかしカルニチン投与に よって行動量が回復する条件下でも c-Fos 発現は増加しなかった。また、食餌摂取量も JVS マウスにおいては特 異な変化を来すことから、orexin(+)細胞における c-Fos 発現を検討している。また、長鎖脂肪酸代謝の律速酵素 である carnitine palmitoyltransferase I の阻害剤である methyl palmoxirate (MP)を通常のマウスに投与する ことによって、JVS マウスと同様な、絶食による自発行動減少モデルが作成できることを示した。この結果は、長 鎖脂肪酸代謝障害が行動量低下の主因であることを明確に示している。 JVS マウスにおいてはカルニチン欠乏によって心肥大を来す。JVS マウスにおける心肥大が疲労を引き起こす可 能性も考慮し、心肥大に伴う遺伝子発現異常についても検討している。心肥大に伴って発現変動する遺伝子のう ち、我々が新規に発見した遺伝子である carnitine deficiency-associated gene expressed in ventricle-1(CDV-1) と CDV-3 についてはそれぞれゲノム遺伝子および cDNA 構造を明らかにした。CDV-1 は、JVS マウス心室において 特異的に発現低下し、カルニチン投与によって正常レベルを保つが、甲状腺機能亢進による心肥大、およびヒト レニン・アンギオテンシン系発現亢進マウスにおける心肥大においても、同様に発現が低下しており、カルニチ ン欠乏よりも心肥大に関連した遺伝子であることが判明した。しかし、ヒト遺伝子の解析、および Northern blot 解析からは、ヒトでは発現していない可能性が高くなった。一方、発現が亢進する CDV-2(PDK4 マウスホモローグ) は pyruvate dehydrogenase (PDH)をリン酸化し不活性化する酵素である。心臓、骨格筋に主に発現し、絶食によ って発現が増強するが、JVS マウスでは摂食時にすでに高い発現が見られる。さらに、JVS マウス心筋中で PDK4 蛋白質が増加していること、また DTT 存在下では PDH 複合体と結合していることを明らかにした。 72 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 研究目的 本研究の目的は、カルニチン欠損がいわゆる疲労状態を引き起こすかどうか、その病態、さらにその分子機構 を明らかにすることである。そのために、カルニチン細胞膜輸送タンパク質(Octn2)欠損マウス(Juvenile visceral steatosis; JVS マウス)を用いて、エネルギー代謝、心肥大発症機構、行動・摂食異常の病態およびその神経系 活動との関連を分子レベルで追求するものである。 研究方法 動物-JVS マウスのヘテロ接合体(+/j)の mating によって野生型(+/+;wt)、ヘテロ接合体、および JVS (j/j) マ ウスを得た。また、ヘテロ接合体メスと JVS マウスオスの mating によって得たヘテロ接合体と JVS マウスも使用 した。実験には生後 58-80 日令のマウスを使用した。通常は、症状を出さないヘテロ接合体を対照マウスとした。 食餌は CE2(日本クレア)を使用し、必要に応じ(通常は 8:00 に)、食餌を取り去り絶食とした。明暗サイクルは、 7 時から 19 時の 12 時間サイクルで行った。恒温室を使用し、室温の管理を行った。通常は 23℃で行った。 測定-自発行動量は、直径 48cm の大型円形ケージを使用し、ケージ側面に取り付けられた 3 箇所のビーム発生 装置と光センサーを用い、ビームを横切る回数をカウントして行動量とした。48 時間、または 20:00 から 23:00 の 3 時間の行動量を測定した。行動量測定後、ネンブタール麻酔下採血し、血漿中のグルコース(血糖)、遊離脂肪 酸 (FFA)、ケトン体濃度、AST、ALT などを測定した。 酸素消費量および RQ (respiratory quotient)の測定は、メタボリックケージと総合呼気分析装置(ARCO 1000A)を 用いて行った。直腸温はサーミスタデジタル温度計(Digital thermometer D411; TAKARA THERMISTOR INSTRUMENTS CO. LTD)を用いて測定した。 肝臓内 adenine nucleotide は以下の方法で抽出し測定した。ketamine (199mg/kg bw)麻酔下、開腹し、肝臓を freeze-clamp 法によって採取し、液体窒素下に粉末化し、6N perchloric acid(PCA)を加え、ホモゲナイズした。 遠心上清を 5N KOH を用い、中和後、HPLC を用いて定量した。 脳 adenine nucleotide については、microwave (5KW, 1.5 sec)を用いて脳を処理後、肝臓と同様に PCA で抽出し、 測定した。 心臓関連遺伝子および機能解析−JVS マウスの心機能に関して以下の解析を行った。①ヒト臓器における CDV-1 および CDV-1R mRNA の発現をヒト CDV-1R cDNA をプローブに、またマウス心肥大モデルにおける CDV-1 mRNA の発 現をマウス CDV-1 cDNA をプローブとして Northern blot 法によって解析した。ゲノムデータベースサーチを行い、 ヒト CDV-1 上流領域についてマウス CDV-1 との比較を行った。②マウス PDK4 特異的な抗体を調製し、JVS マウ ス各臓器での発現変化を Western blot 法によって検討した。あわせて、カルニチンの投与効果も検討した。③JVS マウス心室で、発現増大のある PDK4 蛋白の存在様式を明らかにする目的で、α-ケト酸脱水素酵素複合体を認識 する抗体を用いて、免疫沈降を行い、PDK4 蛋白のα-ケト酸脱水素酵素複合体との結合を検討した。また、超遠心 法およびショ糖密度勾配法を用いて、PDK4 蛋白が実際 PDH 複合体と結合しているかどうかを検討した。 研究成果 1.JVS マウスの行動異常の解析 これまでの解析から以下の結果を得ている。①JVS マウスの摂食時自発行動は、wt ならびにヘテロ接合体と変 わらないが、絶食にすると通常行動する夜間の行動が両対照群に比べ著しく低下すること、②絶食による自発行 動量減少はカルニチンの投与によって解消するが、カルニチンを含まない合成食投与によっても行動量は回復す るのでカルニチン自体が欠損していることによる効果ではないこと、③行動量と血糖値、ならびに血漿脂肪酸濃 度(FFA)の相関は、血糖値とは正の相関を、FFA とは負の相関を示すが、必ずしも相関係数は高くなく、両因子と 73 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 も決定因子とは考えにくいこと、④カルニチンを必要とせずに代謝される中鎖脂肪酸からなる中性脂肪(MCT)の胃 チューブによる投与でも行動量を増加させることができなかったこと、⑤行動を増加することができない MCT 投 与によって熱発生があり、体温が上昇すること、⑥肝内ならびに脳内 adenine nucleotide レベルからはエネルギ ー低下によるとは考えられないこと、 ⑦脳内 c-Fos の発現変化ならびに orexin 細胞での c-Fos 発現の変化は行動量、 摂食量と平行した変化を示すこと、⑧カルニチン投与後の臓器内カルニチン濃度変化からは肝以外の臓器で脂肪酸分 解が促進されているとは考えにくいこと、⑨Carnitine palmitoyltransferase (CPT-I) 阻害剤である Methyl palmoxirate (MP)投与によって異常行動モデルマウスが作成できること、などである。以下、データを示す。 、 1.1. 食餌摂取と自発行動量の変化 マウスなどげっ歯類は、日中は少なく、夜間の行動が増加する行動パターンを取る。その行動パターンは JVS マウスも変わらず、摂食時には、wt、ヘテロ接合体、JVS マウスともに 48 時間の行動量に有意差はなかった。し かし、朝 8:00 に食餌を除去した場合(絶食状態)の 48 時間の行動量は JVS マウスにおいてのみ著しく減少した Locomotor Activity (counts/h) (図 1)。 Dark Light Light Dark 1500 1200 900 600 * 300 ** ** * ** 0 8:00 12:00 16:00 20:00 24:00 * * ** *** ** 4:00 8:00 * ** ** ** * ** * * * 12:00 16:00 20:00 24:00 4:00 8:00 Day Time (o'clock) 図 1.JVSマウスの摂食(○)および絶食( )状況の自発行動パターン 自発行動は、1時間あたりで表した。絶食10匹、摂食9匹を用いて解析した。数値は 平均±SDで表した。それぞれの時間ごとを比較して、有意差(p < 0.05)がある場合に、*をつけた。 1.2. 絶食時間の効果 JVS マウスの減少した行動量に対する絶食時間の影響を検討した(図 2)。朝 8:00 に食事を取り去り、行動量 の多い 20:00 から 23:00 までの行動量(総絶食時間;15 時間、測定までの絶食時間;12 時間)を測定したが、食 事を取り去る時刻を 15:00 (総絶食時間;8 時間、測定までの絶食時間;5 時間)では 8:00 からの絶食と変わらず、 行動量は少なかった。しかし、17:00 からの絶食(総絶食時間;6 時間、測定までの絶食時間;3 時間)では摂食 JVS マウスと変わらない行動量を示した。以上の結果は何らかのクリティカルな時間がある可能性を示唆している。 74 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 1.3. カルニチン投与ならびに食餌成分等の効果 絶食時の行動量減少に対するカルニチンの効果を検討した(図 2、3)。カルニチンを 8:00 と 20:00 に、2 回投 与することによって JVS マウスの行動量は著しく増加した。そのレベルは、有意差はないが、摂食時の行動量よ り増加した。ヘテロ接合体ではカルニチン投与によって有意に行動量が増加した。その原因は現在のところ不明 である。カルニチンを含まない合成食を JVS マウスに投与した場合の行動量は摂食時と変わらないことから、行 動量を規定する因子はカルニチン自体ではないと考えられる。食餌成分として、まず、sucrose(角砂糖)の効果 を検討した(図 2)。朝 8:00 に通常の食餌を取り去り、角砂糖をケージ内においた(fed)。その JVS マウスの行 動は摂食時と変わらなかった。続いてカルニチン欠乏マウスでも代謝可能である中鎖脂肪酸を成分とする triglyceride (MCT)を胃チューブを用い、投与した(gavage)。投与時間は、12:00、16:00、20:00 の 3 回に分け、 トータル量は角砂糖摂取量と同じ(3.2-3.8 Kcal)とした。中に行動量が多い個体が存在したが、平均として MCT 投与群は絶食群とほぼ変わらなかった。そこで sucrose を溶液として胃チューブで投与した結果、行動量はばら つきがあり、2 群に別れたが、行動量が多い個体が多かった。グルコースについてもチューブ投与を試みたが、同 様にばらつきがあり、むしろ行動量が少ない個体が多かった。 Locomotor Activity (counts/3h ) 4000 (4) (4) 3000 (7) (4) (11) (7) 2000 (6) (11) (9) 1000 0 fed 6h C 8h NaCl ar× 1 Starved for Ca MC r× T 2 fe d ga va ge sucrose 図 2.JVS マウスの自発行動に及ぼす絶食時間および各種栄養因子の効果 自発行動は、20 時から 23 時の 3 時間の行動量で示した。カルニチンは、8 時に 1 回(Car X1)また は、8 時および 20 時で、2 回(Car X 2)腹腔内より投与し、対照には生食を投与した。中鎖脂肪酸 からなる中性脂質(MCT) とショ糖を経口チューブによって投与した(gavage)。ショ糖は角砂糖と して自発的にも食べさせた(fed)。カッコ内の数字は実験に用いたマウスの数である。 1.4. 行動量と室温の関係 一般に絶食によって体温が低下する[1, 2]ことが知られている。特に JVS マウスのようなカルニチン欠乏の場 合は、長鎖脂肪酸が利用できないために、低体温になる可能性がある。事実、絶食した JVS マウスの 48 時間行動 量は 4950±1500 で、48 時間後の 8:00 の直腸温は、28.0±1.4℃であった。これに対して、カルニチンを投与し た JVS マウスの行動量は多く、12000±3190 で、直腸温は 31.3±2.1℃であった。そこで室温の影響を検討した。 75 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 野生型 t(wt)、ヘテロ接合体の行動量は室温を 23℃から 25℃に上昇させることによって減少した (data not shown)。 一方、図 3 に示すように、JVS マウスの絶食時の行動量は室温に影響されず低いレベルで一定であった。 ** Locomotor Activity (counts/48h) * * 25000 (10) ** (10) (12) 20000 (10) (10) (12) (13) (9) (6) (8) 15000 10000 (10) (8) 5000 0 J W +/J J W +/J J La Sy NaCl n th Ch b Die etic aw t 23℃ W +/J J Car J J Na C Cl ar Starvation 25℃ 図 3. 野生型(W) 、ヘテロ接合体(+/J)およびホモ接合体(J/J)の摂食、 絶食における自発行動量。カルニチンおよび室温の効果。 合成食は、カルニチンを含んでいない。生食またはカルニチンは腹腔内より投与した。カッ コ内は用いたマウスの数を示す。有意差は、示された組で認めた(*, p < 0.05; **, p < 0.01) 。 1.5. 行動量に対する体温の影響 しかしながら、JVS マウスの絶食による行動量減少に体温低下が重要である可能性は否定できない。MCT 投与で 行動量が増加しない原因として MCT が代謝されていない可能性も否定できないので、代謝活性を、酸素消費およ び直腸温の観点から検討した。絶食で生食投与群に比べ、グルコース投与群も、MCT 投与群も酸素消費は増加した。 グルコース投与の場合は投与直後の 2 時間の酸素消費が増加しその後低下するパターンを示し、3 回投与のため 3 峰となった。一方、MCT 投与は徐々に酸素消費が増加し、生食投与群より一定の高いレベルを保った。また、RQ は、グルコース投与後に上昇し、糖質代謝のパターンを示したのに対し、MCT 投与後は、RQ が低下し、脂質を代 謝していることを証明していると考えられる。さらに体温は行動量測定の 23:00 の時点で、生食群、32.0±2.0℃ (n=4)、カルニチン群、36.1±1.1℃ (n=4)、MCT 群 、35.5±0.7 ℃(n=8)、行動量が少ないグルコース液群、36.9 ±0.9℃(n=4)、であった。図 4 に行動量と体温の関係を示す。以上の結果は、絶食によって体温が低下し、行 動量が減少するが、グルコースや MCT 投与で熱産生を増加させても行動量は必ずしも増加しないことが判明した。 76 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 Locomotor Activity (counts/3h) 2500 2000 1500 1000 500 0 27.5 30.0 32.5 35.0 37.5 40.0 Body Temperature 図 4. 自発行動と体温(直腸温)との関連 摂食(○)および 24 時間絶食した JVS マウスに各種物質を投与した。投与した物質は□、カルニ チン;◆、生食; 、グルコース;△、MCT。自発行動は、20 時から 23 時の 3 時間を測定した。 体温は、直腸温を23時に測定した。 1.6. 肝障害の出現と行動異常 JVS マウスの長期の絶食によって血漿中の AST および ALT が上昇することを見出した。しかしながら、両トラン スアミナーゼが上昇するのは絶食 48 時間経過した時点であり、行動異常が生じる絶食後 12 時間の時点では上昇 しないことから絶食による自発行動量低下は肝障害などによるものではないと考えられる。 1.7. 肝内および脳内 adenine nucleotide レベル 絶食がエネルギー低下を起こすことによって自発行動量が減少する可能性を検討した。表に結果を示す。 表 1.対照ならびに JVS マウス肝内および脳内 Adenine nucleotide 濃度の絶食による変化 ATP Liver +/j fed starved j/j fed starved Brain +/j fed starved j/j fed starved ADP nmol/mg protein AMP Energy charge ATP/ADP (3) (4) (3) (3) 7.18±1.29 4.86±1.29 5.87±0.03 8.74±2.43* 2.95±0.88 2.69±0.57 3.18±1.06 2.56±0.28 0.79±0.31 1.01±0.33 0.97±0.57 0.47±0.04* 0.790±0.028 0.705±0.080 0.751±0.062 0.848±0.023 2.40±0.32 1.90±0.67 1.98±0.59 3.39±0.65* (5) (3) (6) (7) 21.9±5.48 23.6±1.19 16.8±4.64 22.0±2.47* 9.73±2.18 10.1±3.52 7.33±1.51 8.60±1.40 3.56±1.08 3.11±1.21 2.66±1.00 2.33±0.46 0.758±0.034 0.783±0.045 0.761±0.043 0.800±0.018* 2.33±0.26 2.49±0.66 2.23±0.48 2.60±0.02* *Significant difference between fed and starved JVS mice, P<0.05. There were no significant differences between fed and starved control mice and between control and JVS mice. 77 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 絶食による行動量に変化がない対照マウスでは ATP の低下、および若干の energy charge の低下が見られたが、 JVS マウスでは逆に ATP の増加、energy charge の増加が見られた。脳においては、対照マウスでは変化がないが、 JVS マウスでは ATP および energy charge の増加が見られた。これらの結果が何を示すのか、現在不明であるが、 少なくとも肝臓および脳のエネルギー状態が悪化しているようなことはない、と考えられる。 1.8. 脳内 c-Fos の発現変化 脳内の c-Fos は神経活動の指標として使われている。そこで対照マウスと JVS マウスについて摂食時と絶食時の脳 内 c-Fos 発現を検討した。JVS マウスの Nucleus pontis において、摂食時と絶食時に有意の差が見出せた(図 5)。 JVS マウスの絶食時には他に比べ、約 1/4 に c-Fos の発現が低下していた。このことは絶食 JVS マウスの行動量低 下を反映するものと推定される。しかしながら、カルニチン投与は N. pontis の c-Fos 発現を上昇させなかった。 その原因については不明である。 c-Fos (+) neurons (% of fed control) Exp.1 Exp.2 100 100 20 20 0 Fe d St ar Fe ve d d St 0 ar ve d Fe d Ca Na r Cl Starved +/jvs jvs/jvs jvs/jvs 図 5.JVS マウスにおける nucleus pontis の c-Fos 発現:食事条件およびカルニチンの投与効果 Nuleus pontis における全神経細胞あたりの c-Fos 蛋白発現陽性細胞の割合を示した。ヘテロ接合 体(+/jvs) およびホモ接合体(jvs/jvs)を用いた。摂食時ヘテロ接合体の 陽性率を 100%として 表した。平均±SD で示した。 1.9. 投与されたカルニチンの消長 JVS マウスにおいてカルニチン投与は非常に大きな効果を示す。絶食による自発行動量減少に対しても、行動量の 増加だけでなく、1 回投与で 36 時間後の行動量も維持できるなどの効果も見出している(data not shown)。そこ で、腹腔内へのカルニチン(10 µmol/head;0.42 µmol/g BW)1 回投与後の血中、臓器内のカルニチン濃度変化を検 討した。その結果を列挙する。①検討した臓器(肝臓、脳、心臓、精巣、骨格筋、血液)の内、血液および肝臓への 78 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 取り込みが顕著であり、肝中の 1 時間値はヘテロ接合体マウスのレベルにまで達した(図 6)。しかし、他の臓器へ の取り込みは少なくヘテロ接合体のレベルまで達したものはなかった。②特に、脳内には有意の取り込みは認められ なかった(図 6)。②肝臓内の total、および free carnitine レベルは 4 時間まで有意に、また short acylcarnitine は 8 時間まで有意に 0 時間より高かった。しかしそれ以降は 0 時間のレベルと変わりがなかった。③精巣のカルニチ ンレベルは total carnitine で 8 時間まで、free carnitine で 12 時間まで 0 時間より高く、比較的長時間維持され ていた。④検討した臓器では、いずれも 24 時間後では 0 時間のレベルに復帰していた。以上の結果から、カルニ チンは、肝臓においては存在することによって直接長鎖脂肪酸の分解促進に働くがそれ以外の臓器では濃度が大 きくは増加せず、長鎖脂肪酸の分解を促進しているとは考えにくいこと、肝臓での脂肪酸代謝促進の結果として、 (A) n mol/g tissue FFA の低下、血糖値の維持などを介して長期の効果を発揮するのではないかと考えられる。 500 ** 400 300 500 a (5) * (4) 400 300 * 200 200 (3) (3) (3) 100 (3) (3) 0 0 4 8 12 16 20 50 * * * 40 30 20 40 n mol/g tissue 12 16 20 longchain 24hr d 10 0 4 8 12 16 20 24hr 0 0 4 8 12 16 20 50 a 24hr b 40 30 30 20 (3) (3) (3) (3) (3) 10 20 10 0 4 8 12 16 20 50 24 0 0 4 8 12 16 20 50 c 40 40 30 30 20 20 10 10 0 8 20 * (5) 40 (4) 0 0 ( 3 )4 b 30 50 (B) 0 50 10 0 100 24hr c fr ** ee( ** 5 ) ** 24 d 0 0 4 8 12 16 20 24 0 4 8 12 16 20 24 図 6.カルニチン投与した絶食 JVS マウスの肝臓(A)と脳(B)におけるカルニチン含量の変化 24 時間絶食した JVS マウスに 0.42µmol/g 体重のカルニチンを腹腔内より投与した。カッコ内は用いたマウスの 数を示す。a,total carnitine; b, free-carnitine; c, short-acylcarnitine; d, lomg-acyl carniitne。 有意差は、0タイムのそれぞれのカルニチン含量に対して求めた (*, p < 0.05; **, p < 0.01)。 79 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 1.10. CPT-I 阻害剤である MP 投与による異常行動モデルマウスの作成とその性状 MP は特異的、不可逆性の強力な CPT-I 阻害剤として知られている[3,4,5]。カルニチン欠乏 JVS マウスの異 常行動が主に長鎖脂肪酸代謝異常に起因するのかどうか、またカルニチン欠乏以外で同様の疲労様モデルが作成 できるかどうかを検討する目的で、C3H マウスに MP 投与を行い、行動量を測定した。MP をメチルセルロースに懸 濁し、10mg/kg 量を胃チューブによって 8:00 および 20:00 に経口投与した。図 7 のように、対照としたメチルセ ルロース投与マウスに比べ、MP 投与マウスでは、食餌を除いた 1 日目には若干の行動が観察されたが、2 日目に はほとんど行動が見られなくなった。このことは CPT-I 阻害剤で長鎖脂肪酸の代謝を抑制してもカルニチン欠乏 マウスと同様に絶食によって行動量が減少することが明らかとなり、両動物モデルの行動異常をきたす機構は同 様のものであることが推定される。次にカルニチンが JVS マウスの行動減少を抑制し、行動量を増加させる作用は、 長鎖脂肪酸の代謝促進効果のみに依存するのか、またはそれ以外の機能があるのかどうか、また様々な効果が報告さ れているアセチルカルニチンにこのような疲労モデルへの軽減効果があるかどうかを、MP と同時にカルニチン、あ るいはアセチルカルニチンを投与して検討した。カルニチンあるいはアセチルカルニチンは絶食開始の朝 8:00 と 20:00 に腹腔内に投与した。その結果を図 8 に示した。絶食第 1 日目には有意差はでなかったが、第 2 日目にはカル ニチン、アセチルカルニチンともに有意に行動量を増加させた。総行動量ではアセチルカルニチンで対照マウスレベ ルにまで回復させる効果が得られたが、カルニチンは有意の効果を認めなかった。以上の結果はアセチルカルニチン に何らかの特異な作用がある可能性を示唆している。しかしながら、FFA がアセチルカルニチン投与によって低下し ていることから、MP による CPT-I 阻害が解除されている可能性があるので現在検討中である。 Locomotor Activity (counts/h) 2100 MP Light Light Dark Dark 1800 1500 1200 900 600 * 300 * * 0 8:00 12:00 16:00 20:00 * * * * * * * * * * * 24:00 4:00 8:00 ** * * * * * * * * * * 12:00 16:00 20:00 24:00 Day Time (o'clock) 図 7. Methyl palmoxirate (MP)の自発行動におよぼす効果。 矢印は MP の腹腔内投与時を示す。投与マウスは( ) 、対照マウスは(○)で表した。マウ スはそれぞれ 10 匹の平均を示し、*はそれぞれの時間における有意差を示す(*, p < 0.05)。 80 4:00 8:00 ** * * counts/48h A 40 0 0 80 0 12 0 00 16 0 0 0 20 0 0 24 00 00 28 0 00 0 ** ** * ** B 40 00 80 12 00 0 0 0 16 0 20 00 00 0 24 00 0 0 C * counts/24h 40 0 80 0 0 12 0 00 16 0 00 0 20 0 24 00 00 0 counts/24h 0 Effect of Methyl Palmoxirate on Locomotor Activity of Starved Mice (+/+) 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 0 Control +Car +AcCar MP 図 8.MP 投与により自発行動抑制の見られた絶食マウスに対するカルニチン、アセチルカルニチンの効果 絶食後(A) 、0-48 時間;(B) 、24-48 時間;(C)、0-24 時間のそれぞれの自発行動量を表した。MP は 4 回、 図 7 に従い投与した。カルニチン(+Car) ,アセチルカルニチン(+AcCar)は、MP と同時に投与した。 2. JVS マウスの心肥大発症の分子機構解明 2.1. ヒト CDV-1 遺伝子の発現 CDV-1 遺伝子のコードする蛋白の機能を考える上で、ヒトにおける存在様式(マウスと同様に心臓特異的に発 現するか)を明らかにする必要がある。ヒト CDV-1R cDNA をプローブにし、Northern blot を施行するとともに、 ゲノムデータベースサーチを行い、ヒト CDV-1 上流領域についてマウス CDV-1 との比較を行った。その結果、ヒト CDV-1 mRNA の存在を Northern blot にて確認することができなかった。ヒト CDV-1 上流領域において、マウス CDV-1 上流領域と高い相同性を示す部分が存在した。しかし、発現を決めると考える TATA ボックスがヒトにおいて保存さ れておらず(TATA →CATA) 、ヒト組織において CDV-1 遺伝子が発現されていない可能性が示唆された。 2.2. 他心肥大モデルでの CDV-1 遺伝子の発現変化の検討 甲状腺ホルモン投与マウスとつくば高血圧マウス(ヒトレニン・アンギオテンシン導入)における、CDV-1 遺 伝子発現の変化を検討した。カルニチン欠損 JVS マウス以外の心肥大モデルにおいても、CDV-1 mRNA レベルが低 下していた(図 9)。このことから、CDV-1 遺伝子発現の抑制は、カルニチン欠乏そのものによるのでなく、肥大 そのものと関連が深いことが示唆された。 81 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 C3H C C ICR J J C C C57B T3 T3 C C RA RA 49 54 49 40 47 43 55 55 48 54 20 25 0. 0. 1. 1. 0. 0. 0. 0. 0. 0. 1. 1. HW/BW (%) 図 9.各種心肥大モデルマウス心室における CDV-1 mRNA レベル 各レーンごとに 15 µg RNA 。それぞれ 8 週令のマウスを用いている。 [32P]-dCTP を用いて、ラベル化さ れた CDV-1 cDNA をプローブにし、ノーザンブロットを施行した。C、control; J、JVS;T3、甲状腺ホル モン投与[T3 (3mg/kg 体重)を 1 日 1 回、9 日間腹腔内に投与]; RA、renin-angiotensinogen transgenic マ ウス。HW/BW、心臓体重比(%) 。 Carnitine - (A) fed C J C J + starvation C J J PDK4 PDK1 (B) PDK4 Arbitrary Unit 3 2 1 0 fed C J J(+car) starvation 図 10. 摂食・絶食およびカルニチン投与における PDK1 と 4 の蛋白量の変化 (A):14 日令のマウスを用いている。カルニチンは 5 µmolを腹腔内に投与している。12 日令の朝 8 時 から 12 時間おきに、計 4 回投与している。絶食は 12 日の朝から 48 時間行っている。心臓を摘出後ホ モゲナイズし、各レーン 10 µg 蛋白をアプライしている。特異的な抗体を用いて通常の方法で、Western blot 法を施行し、化学発光法にてシグナルを検出している。 (B): (A) で得られた結果を定量解析(NIH image)し、平均±SD で表した。 2.3. JVS マウス心臓における PDK4 蛋白発現亢進とカルニチン投与効果、ならびに PDK4 の存在様式 PDK4 蛋白は、JVS マウス心室において、蛋白レベルでも発現が増大していた。また、この変化は、カルニチン 投与によって是正された(図 10)JVS マウス心室で、発現増大のある PDK4 蛋白の存在様式を明らかにする目的で、 82 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 α―ケト酸脱水素酵素複合体を認識する抗体を用いて、免疫沈降を行い、PDK4 蛋白のα―ケト酸脱水素酵素複合 体との結合を検討した。また、超遠心法およびショ糖密度勾配法を用いて、PDK4 蛋白が実際 PDH 複合体と結合し ているかどうかを検討した。その結果、免疫沈降法によって、PDK4 蛋白は、α―ケト酸脱水素酵素複合体と結合 しうることが示された。また、ショ糖密度勾配法によって、PDK4 蛋白は、PDH 複合体と共存し、α―KGDH や BCKDH と は 結 合 し て い な い こ と が 示 さ れ た 。 超 遠 心 処 理 で 、 10 万 g 沈 殿 画 分 に 存 在 す る PDK4 蛋 白 量 は 、 DTT(dithiothreitol) の存在の有無で、その量が変化することから、in vivo における結合状態を反映している とは考えられなかった。従がって、摂食 JVS マウス肥大心室において PDK4 蛋白が、実際、どのように存在してい るかは現時点では不明である。 引用文献 [1] Swiergiel AH: decrease in body temperature and locomotor activity as an adaptational response in piglets exposed to cold on restricted feeding. [2] Physiol Behav 40, 117-125 (1987). Oda T, Crawshaw LI, Yoshida K, Su L, Hosono T, Shida O, Sakurada S, Fukuda Y, & Kanosue K: Effects of food deprivation on daily changes in body temperature and behavioral thermoregulation in rats. Am J Physil Regulatory [3] Integrative Comp Physiol 278 R134-R139 (2000). Tutwiler GF, Ho W, & Mohrebacher RJ: 2-Tetradecylglycidic acid. In Methods in Enzymology, Vol 72, 533-551 (1981). [4] Friedman MI, Harris RB, Ji H, Ramirez I, & Tordoff MG: Fatty acid oxidation affects food intake by altering hepatic energy status. Am J Physiol 276, R1046-R1053 (1999). [5] Kiorpes TC, Hoerr D, Ho W, Weaner LE, Inman MG & Tutwiler GF: Identification of 2-tetradecylglycidate (methyl palmoxirate) and its characterization as an irreversible, active-site directed inhibitor of carnitine palmitoyltransferase A in isolated rat liver mitochondria. J Biol Chem 259, 9750-9755 (1984). 成果の発表 1)原著論文による発表 ア)国内誌 1. ビタミン様作用物質−カルニチン 佐伯武頼 日本臨床; 57(10): 108−113 (1999) イ)国外誌 1. Masahisa Horiuchi, Keiko Kobayashi, Mina Masuda, Hiroki Terazono, Takeyori Saheki : Pyruvate dehydrogenase kinase 4 mRNA increases in ventricles under starvation and under carnitine deficiency. Bio Factors; 10: 301-309 (1999) 2. Goichiro Yoshida, Masahisa Horiuchi, Keiko Kobayashi, Md. Abdul Jalill, Mikio Iijima, Sumio Hagihara, Naruhiko Nagao, Takeyori Saheki: The Signaling Pathway of Cardiotrophin-1 is not activated in Hypertrophied Ventricles of Carnitine-deficient Juvenile Visceral Steatosis (JVS) Mice. in vivo; 14, 401-406 (2000) 83 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 3. Mikiko Higashi, Keiko Kobayashi, Mikio Iijima, Shigeharu Wakana, Masahisa Horiuchi, Tomotsugu Yasuda, Goichiro Yoshida, Yuichi Kanmura, Takeyori Saheki: Genomic organization and mapping of mouse CDV (carnitine deficiency-associated gene expressed in ventricle)-1 and its related CDV-1R gene. Mamm Genome; 11, 1053-1057 (2000) 4. Meng X. Li, Keiko Kobayashi, Masahisa Horiuchi, Md. Abdul Jalil, Takeyori Saheki: Hyperammonemiain carnitine-deficient JVS mice at adult age caused by starvation. Metab Brain Dis (in press) 2) 原著論文以外による発表 ア)国内誌 1. 佐伯武頼、小林圭子:「カルニチン輸送病態と脂質代謝障害」、新ミトコンドリア学、p248-253,(2001) イ)国外誌 1. Takeyori Saheki, Meng X. Li, Keiko Kobayashi: Antagonizing effect of AP-1 on glucocorticoid induction of urea cycle enzymes: a study of hyperammonemia in carnitine-deficient, juvenile visceral steatosis mice. Mol Genet Metabol; 71, 545-551 (2000) 3) 口頭講演 ア)招待講演 1. 佐伯武頼:「カルニチン欠損マウスの多彩な症状と分子機構」腎と筋・エネルギー研究会、平成 13 年 11 月 イ)応募講演 1. 牛飼美晴、堀内正久、小林圭子、佐伯武頼:「全身性カルニチン欠乏肥大心室における PDK4 タンパク発 現の意味」日本ビタミン学会、平成 13 年 5 月 2. 李孟賢、Jalil Md. Abdul、堀内正久、小林圭子、佐伯武頼、吉田剛一郎:「JVS マウスの絶食による自発 行動異常」、日本疾患モデル学会、平成 13 年 11 月 84 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 1. 慢性疲労症候群等の病的疲労の研究 1.3. 不登校状態の研究 熊本大学医学部小児発達学 三池 要 輝久 約 不登校状態は成人の慢性疲労症候群に極めて類似した臨床症状を示す。その病態は、自律神経症状に始まり、 生活リズムの破綻、強い倦怠感、思考力の低下、免疫機能不全など中枢神経機能に関連した多彩なものとなる。 そこで私たちはまず自律神経機能について医学生理学的な検討を開始し、副交感神経の衰弱を確認した。さらに 深部体温リズム、ホルモン分泌リズム、睡眠・覚醒リズムなどの生体リズムの破綻が存在しあたかも慢性的な時 差ぼけ状態であることを突き止めた。中枢神経機能の評価の中でP300 脳波の結果は認知障害が明らかに存在する ことを裏付けており、学習記憶の障害をはじめとする脳機能低下の背景には SPECT、Xe-CT 検査による前頭葉、視 床領域での血流低下およびMRSにおける前頭葉のコリン蓄積があることが明らかになった。 研究目的 不登校児達が奇妙な疲労状態を抱えておりその中心となる病態は、視床下部を中心とした生命維持機構の不調 を基盤として高次脳機能に及ぶ中枢神経系の機能不全であることがわかってきた。しかしながら、かつて医療サ イドが頭痛に対するCTやMRI、腹痛に対す透視やファイバーなどによる検査のみに頼り、形を見て機能を重 視しなかったため彼らの重荷に気づくことが出来ず、不登校は未だに「怠け者」扱いをされ言われなき迫害を受 けている。このことは子どもたちや保護者にとって極めて残念で不幸なことである。 日本の若者達は疲れ果てており 1999 年厚生省研究班(奥野班長)の調査によれば 5 歳以上のこども達の 5.4% に中学生ではその 3 倍に心の問題が顕在化しており、彼らの 40~80%が疲れやだるさを訴えている。疲れの行き 着く先は日常生活にさえ障害が及ぶ登校できなくなるいわゆる不登校状態である。私たちの取り組みは子どもた ちと彼らを取り巻く家族を中心とした大人たちの幸せと健康を守り、全ての若者が元気で働くことができる生き 生きとした社会を取り戻す事を目的とする。慢性疲労の普遍性を考えるとき生産性と医療費を含めてこの研究は 国を挙げて取り組むべき重要性を持っており何よりも急を要すると認識している。 研究方法 [対象] 対象となる不登校児の診断基準を 1)~3)とした。1)年間 30 日以上(連続・非連続を問わず)不登校状態にあ る、2)全身倦怠感、頭痛(片頭痛を除く)、腹痛、嘔気、めまい、立ち眩み、筋痛、睡眠障害、記銘力・思考力・ 集中力低下等の何れか 1 つ以上の愁訴のため通常の学校生活が困難である、 3)少なくとも 1 人以上の小児科医が 診察に当たり、患児の病歴、理学的検査および適切な検査所見によっても他の疾患が除外される。 以上の診断基準を満たし、熊本大学発達小児科外来を受診した 6~19 歳までの患児を対象とした。 85 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 1. 自律神経機能検査は、1995 年 1 月から 2000 年 2 月に初診した 9~18 歳までの 345 名(男児 177 名、女児 168 名、平均 14.4±2.7 歳)。対照群は健康学生 50 人(男児 29 名、女児 21 名、16.8±3.66 歳)とした。 2. 糖代謝検査は、1992 年以降に受診した 11 歳から 19 歳までの 81 名(男子 40 名、女子 41 名、平均年齢 14.8±2.1 歳)で、肥満がなく(肥満度;-0.04±8.6 %)、既往歴、家族歴に糖尿病性疾患、肝疾患を認めない学生を対 象とし、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を施行した。対照群は、すでに報告されている糖代謝に影響を及ぼ す病態のない 12~16 歳の 35 名(松浦ら、日本小児科学会雑誌 88:2859, 1984)とした。 3. 生体リズム検査は、1993 年 1 月からから 1998 年 3 月にかけて初診した、10 ~19 歳までの 41 名(男児 24 名、 女児 17 名、平均 15.2 歳) 。罹病期間 1 年~ 3 年( 平均 1.34 年 ) 。患者の performance status スコアーは satage7 が平均 8.3 カ月存在していた。対照群は健康学生 10 人(男児 7 名、女児 3 名、16.5 ±2.59 歳)とした。 4. 事象関連電位(P300)は、2000 年 1 月から 2001 年 2 月に初診した 6~18 歳までの 239 名(男児 140 名,女児 99 名)。対照群は健康学生 264 人(男児 139 名、女児 125 名)とした。 5. Xe-CT は 1998 年 1 月からから 2000 年 12 月にかけて初診した、10 ~19 歳までの 62 名(男児 31 名、女児 31 名、平均 16.32±1.04 歳)。罹病期間 1 年~ 3 年( 平均 1.3 年 )。対照群は健康学生 8 人(男児 4 名、女 児 4 名、17.13 ±0.83 歳)とした。 [測定方法] 1)自律神経機能検査 1. Laser Doppler Flowmetry (LDF) レーザードップラー血流計(ALF-2100, Advance 社)を用い安静仰臥位で被検者の手指および足趾の毛細 血管血流を測定し、深吸気や音刺激によっておこる血管運動反応を評価した。 2. 交感性皮膚反応(コリン作動系交感神経)100 dB の音刺激により、手掌および足底に誘発される電位の波形・ 振幅・潜時を分析した。 3. 心拍間隔解析(心電図 R-R 間隔の周波数解析) 被験者を 15 分以上安静に保った後に、心電図を 12 分間記録した。検査中は、被験者にメトロノームの音 に合わせて 1 分間に 15 回(0.2 5Hz)の静かな呼吸をさせた。データの解析はレコーダーに記録された心電図 をコンピューター(PC-9801RX, NEC 社)に入力して A/D 変換し、R-R 間隔をコンピューターにより計測した。 コンピューターがR波を正しくとらえているかどうかを画面上で再読し、誤りがあるものは補正した。この 際に測定された R-R 間隔の時系列は、時間的に不等間隔なデータであったため、Lagrange 補間法により等間 隔なデータに変換し、0.5sec 間隔毎に再度サンプリングした。パワー・スペクトル解析には高速フーリエ変 換(FFT)を用い、各スペクトル成分の中心周波数とパワーを計算した。 得られた成分は、従来の報告と同様に 0.05~0.15Hz の低周波成分(LFC)と呼吸周期 0.25Hz)に一致する 高周波成分(HFC)に分けられた。尚、0.05Hz 以下の超低周波成分の意義はまだ十分解明されていないので、 今回の研究では検討の対象としなかった。 また、スペクトル解析と同じ 12 分間のデータについて、R-R 間隔の平均値と変動係数(V) [R-R 間隔の標準偏差/平均値×100%]を求めた。 4. 眼科的自律神経機能検査(涙液分泌、調節機能・血管系の異常の有無や点眼試験反応)涙液分泌・調節機能・ 血管系の異常の有無や点眼試験反応を評価した。 2)糖代謝検査 OGTT は、ブドウ糖 1.75g/kg (最大 75g)を経口的に投与し、180 分まで 30 分毎に、血糖(BG)、インスリン(IRI)、グル カゴン、成長ホルモン(GH)を測定。糖代謝の指標として、180 分までの積算血糖(ΣBG) 、積算 IRI(ΣIRI)初めの 30 分 のインスリンと血糖の変化量の比(ΔIRI/ΔBG)Insulinogenic index (ΣIRI/ΣBG)などについて解析、検討した。 86 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 3)生体リズムの検討 1. 睡眠覚醒リズム 患者に 4 週間以上にわたり毎日の睡眠覚醒時間の記録を記録してもらい、終夜脳波を国際 10-20 法に従い 施行し、併せて、 1990 年の Association of Sleep Disorders Center in North America による International Classification of Sleep Disorders (ICSD)で診断した。 2. 深部体温測定 テルモ製の深部体温測定装置コアテンプ(CTM-205)を用い、腹部ランツ点上に装着したプローブから、1 分間隔で 3 日間連続して測定した。今回、リズムの分析には最小二乗法(cosinor 法)を用い、Acrophase(頂 点位相)・nadir (最低点位相)・ Mesor(リズム補正平均値)・ Amplitude(振幅)を算出した。 3. ホルモン分泌リズム(コルチゾール、メラトニン、エンドルフィン) 日内血中コルチゾール測定として、24 時間留置針を用い、4 時間間隔で連続して 6 回採血し測定し、迅速 に 4℃にて遠心機にかけ、-80℃にて貯蔵。Radioimmunoassay により測定した。得られたデーターをもとに 概日リズムをみるために、横軸に時間、縦軸にコルチゾールの血中濃度をとってグラフを作成し、コルチゾ ールの日内分泌量の評価のため area under the curve (AUC)を算出した。 4. 深部体温日内リズムと血中コルチゾール日内リズムの相互関係に対する評価方法 深部体温リズムと日内血中コルチゾールリズムの関係を、コルチゾール頂値時間と深部体温最低時間の関係から 考え、深部体温最低時間 - コルチゾール頂値時間の時間差の分散をコントロール群と患者群とで比較検討した。 4)事象関連電位(P300)の検討 実験装置の概略を図 1 に示す。被験者は開眼安静状態で、ディスプレイの前に置かれた椅子に座らせた。被験 者とディスプレイとの距離は約 1m、ディスプレイの高さはほぼ被験者の目の高さにあわせた。ディスプレイに◯ (Target)または×(Non-target)の画像を呈示し、視覚刺激を行った。呈示する画像の頻度は、それぞれ◯が 20%, ×が 80%で,呈示時間 300ms,呈示間隔 2000ms でランダムに呈示した。実験は 50 回◯、×画像を呈示を 1 セット とし、被験者 1 セットあたり 5 セット行った。脳波は国際 10-20 法に基づく Fz, Cz, P3, Pz, P4,O1, O2 探査電 極とし、両耳朶連結を基準電極として画像呈示 100ms 前から呈示後 1000ms をサンプリング間隔 1ms で記録した。 また瞬目や眼球運動によるアーチファクト除去するため同時に眼電図(EOG)を記録し、電位が 150uV を超えたもの は記録を棄却した。また被験者の注意を促すために、画像呈示後 1000ms 後のキュー音を合図に、◯が呈示された ときに限って利き手に持ったボタンを押すように指示した。 p<0.0001 50 45 40 35 HFC 30 25 20 15 10 5 0 -5 不登校 コントロール 図 1. 心電図 R-R 間隔の周波数解析における副交感神経構成成分(HFC) 87 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 5)画像解析の検討 Xe-CT 被検者を CT の撮影台に寝かせフェイスマスクを装着し、30%Xe 混合ガスを吸入(Xe 吸入器 AZ-725、安西総業 社製)、CT 像を経時的スキャン(ダイナミック CT)で撮影し、解析した。(脳血流解析専用装置 AZ-7000、安西総 業社製)関心領域の設定はCT上で行い、今回基底核レベルでの前頭葉、後頭葉、基底核、視床、大脳半球で比 較検討を行った。 研究成果 1)自律神経機能検査 1. Laser Doppler Flowmetry (LDF)、2. 4. 交感性皮膚反応、3. 心拍間隔解析(心電図 R-R 間隔の周波数解析)、 眼科的自律神経機能検査(涙液分泌、調節機能・血管系の異常の有無や点眼試験反応)をおこない検討して みると、1 項目以上の異常が 97%、2 項目以上の異常は 62%、3 項目以上の異常は 25%、4 項目全てに異常が 11% 存在することが認めた。また、心拍間隔解析にて、特に自律神経機能の中において、彼等の副交感神経が持続的 に抑制されていること、つまり、常に交感神経が副交感神経を抑制の存在が認められた。(p<.0001)。(図 1) また、交感神経構成成分とSDSスコアーの関連性を検討し交感神経構成成分が低いほどSDSスコアーは高 いことが認められた。 2)糖代謝検査 1. OGTT による血糖値は対照群に比較し、不登校群では 180 分までのいずれの測定時間も有意に高く、高血糖 状態は遷延する傾向が認められた。(図 2) 2. 不登校群では高血糖状態にあるにもかかわらず、インスリン反応は対照群と有意差が無く、Insulinogenic index (ΣIRI/ΣBG)は有意に低かった。 Σ BG( mmol /l) 55 50 不登校群 ( 平均± SD) 45 対照群 ( 平均± SD) 40 35 不登校群 vs 対照群 Σ BG Σ IRI P<0.001 n.s. 30 25 0 2000 4000 6000 8000 Σ IRI( pmol /l) 図 2. □□BG(積算血糖)と□IRI(積算インスリン)の関係 88 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 3)生体リズムの検討 1. 睡眠覚醒リズム 睡眠覚醒リズムにおいて、41 人の慢性疲労症候群、全てに睡眠覚醒リズム障害が認められた。 睡眠障害別では睡眠相遅延型 ( 20 人 )、過眠型 ( 12 人 )、非 24 時間型睡眠型 ( 6 人 )、不規則型( 3 人 )であった。各カテゴリー間において発症年齢、罹病期間、症状には有意な差は認められなかった。 2. 深部体温測定リズムの検討 患者群 ( 36.67 ± 0.21℃ ) はコントロール群 ( 36.45 ± 0.19℃ )と比べ、平均深部体温が有意に上 昇していた。( p=0.0007)カテゴリー別では、睡眠相遅延型と過眠型の間に有意差を認めた。( p=0.002 )。 特に夜間 ( 21.00 PM -7.00 AM ) における患者群 ( 36.56 ± 23℃ ) の深部体温がコントロール群 ( 36.08 ± 0.21℃ ) と比べて 有意に上昇していた。 ( p<0.0001 ) また、カテゴリー別では、睡眠相遅延型と過眠 型の間に有意差を認めた。( p=0.026).最低深部体温は、コントロール群 ( 35.6 ± 0.32℃ ) と比べ患者群 ( 36.07 ± 0.27℃ )では有意に高く( p<0.0001 )(図 3) 、最低時間はコントロール群 (3.41 ± 0.57 AM ) と比べ患者群 ( 6.16 ± 4.03 AM ),では有意に遅れていた。( p=0.0002 )また、各カテゴリー間においては 非 24 時間型睡眠型 ( 14.10 ± 5.32 PM ), が他のカテゴリー睡眠相遅延型 ( 5.06 ± 2.3 AM )、過眠型 ( 5.20 ± 1.40 AM )、不規則型( 5.40 ± 3.30 AM )と比べて有意に最低時間は遅れていた。( p<0.05 ) 日内深部体温の振幅においては、患者群 ( 1.15 ± 0.27℃ ) はコントロール群 ( 1.50± 0.26℃ )と比べ、 日内体温振幅が有意に小さかった。( p=0.0002) また、各カテゴリー間においては有意な差は認めなかった。 最低深部体温 p <.0001 (℃) 36.6 36.4 36.2 36.0 35.8 35.6 35.4 35.2 35.0 irregular long (n=41 ) non-24 (n=10 ) 患者群 DSPS コントロ -ル群 ( n=20 (n=6 ) ( )n=12 (n=3 ) ) 図 3. 深部体温リズムの検討。患者群と対照群との最低深部体温の比較. 3. 日内血中コルチゾールの検討 コルチゾールの日内分泌量を AUC を用いて比較すると、患者群 (167.32 ± 46.32)、コントロール群 (202.82 ± 28.39)で分泌量の低下が有意に認められる。 (p=0.0254).また、コルチゾール頂値時間は患者群 ( 9.11 ± 4.25 AM) 、コントロール群 ( 6.00 ± 1.14 AM)で頂値時間の遅れが有意に認められた。(p=0.0278). また、各カテゴリー間においては有意な差は認められなかった。 89 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 4. 深部体温日内リズムと血中コルチゾール日内リズムの相互関係に対する検討。 深部体温リズムと日内血中コルチゾールリズムの関係をコルチゾール頂値時間と深部体温最低時間の関係 から考え、検討した。深部体温最低時間 - コルチゾール頂値時間は、患者群 (2.659 ± 5.961hr) コント ロール群 ( 2.3 ± 0.675 hr)で、深部体温の最低時間から 2 時間前後で、コルチゾール頂値時間が来るとい う、はっきりとした関連性を認めるが、それに対して、患者群ではそういう関連性がほとんど認めず、かな りのばらつきが認められる。(p<0.0001)また、各カテゴリー間においては非 24 時間型睡眠型 (-433 ± 8.406hr), と過眠型 (2± 015hr)、の間で有意にばらつきを認めた。(p=0.02 ) (図 4) 深部体温リズムとコルチゾールリズムの関連 最低時間 F検定 コントロール群 (n=10) P<.0001 患者群 (n=41) DSPS (n=20) non-24hr (n=6) p=.02 long (n=12) irregular (n=3) -15 図 4. -10 -5 0 5 10 15 20 深部体温リズムとコルチゾールリズムの関連。 4)事象関連電位(P300)の検討 小児型 CFS(不登校児)のP300 は、以下の 3 タイプに分類できた. 1)タイプ 1:潜時延長を示すグループ、Type1:42 例(図 5)。 2)タイプ 2:non-target において振幅異常を示すグループ、Type2:50 例(図 6)。 3)タイプ 3:正常範囲内のグループ、Type3:149 例(図 7)。 各タイプで比較検討すると TMI:Type1 はチェック項目多い傾向にあり、Type1:4 型が多い Type2:1 型、4 型が多い Type3:1 型が最も多い。不登校期間は Type1 が長く、次に Type2、Type3 である。また、自律神経機 能検査との検討は、全ての Type において 副交感神経> 交感神経を認めた。かなひろいテストとの関連性は、 Type1 に低得点、Tyep2,3 に高得点が多く認められた。また、理解度においても、Type1 が理解度悪く(75%:不 可、不十分)、Type2 は理解度よく、Type3:は理解度良悪半々だった。 5)Xe-CT の検討 患者群は対照群と比較して前頭葉、視床の脳血流が有意に低下していた。(図 8.図 9.) 90 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 図 5. Type1:潜時延長(1.5SD 基準) 91 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 図 6. Type2:Nontarget 高振幅(1.5SD 基準) 92 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 図 7. Type3:Type1,2 以外 93 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 前頭葉における脳血流量 左前頭葉 右前頭葉 P= .004 (ml/min) P= .004 100 90 80 70 60 50 40 (mean ± SD) コントロール 患者 図8 コントロール 患者 Xe-CT の検討 視床における脳血流量 左視床 右視床 (ml/min) P= .009 140 P= .043 120 100 80 60 (mean ± SD) 40 コントロール 患者 図9 Xe-CT の検討. 94 コントロール 患者 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 考 察 中学生の 2.5%、高校生の 5~10%程度、大学生においては更に高率に存在すると推測される小児型(若年型) 慢性疲労症候群としての不登校状態は日常の学校生活が送れない状態であり、青少年達の閉じこもりの主な原因 となっている。この状態はこれまでに知られた疾患概念では理解が困難である。疲労感の回復には少なくとも数 カ月から数年を要する。更に後遺症としての易疲労性および見落とされがちであるが学習・記憶の障害は、それ 以上に長い月日に渡って患者達を苦しめる。この易疲労性および学習・記憶の障害こそ学生達にとっては致命的 な問題となる。本症の患者数の多さと長期の闘病生活を考えるとき、この病態の早期解明と治療法の確立は、高 齢化する日本社会において急を要する大きな問題である。私たちがこれまでに検討してきた様々な医学生理学的 研究により、彼らの生命維持装置としての大脳辺縁系の機能不全を基盤とした高次脳機能に及ぶ脳全体に及ぶ機 能低下が説明できる。即ち、自律神経系における休養とエネルギー補充システムの障害、神経内分泌機能の障害 による生活リズムの破綻、このことを背景とした高次脳機能としての学習・記憶の障害がかれらの心身をむしば んでいるのである。青少年期における学校社会からの離脱が、単なる学校嫌いや怠けとはほど遠い中枢性の慢性 的疲労状態が存在しており、彼らの思考、記銘、集中、判断、認知、持久などの全ての能力において障害が起こ っている。脳機能における認知力の低下は彼等の特徴とも言える臨床症状であるが、これまでの検討により、認 知を司る神経細胞群の機能評価としてのP300 が延長している基礎的なデータを既に得ていた。P300 脳波の結果 からは「全てに間違いをおかしてはいけない」という若者達の完全主義的過緊張状態の持続が示唆される。彼等 の MRspectroscopy (MRS)により前頭葉領域にコリンの異常な蓄積が認められることや、キセノン CT による脳血流 を検討することによって 80%の例で脳血流の異常(前頭葉領域、視床、基底核領域など)が認められることも重 要な所見である[1]~[8]。 私たちは更に脳における原因病態を探り、その治療法を確立する必要がある。重要なこの問題に関して研究結 果の項で述べたように彼等の MRS の検討の結果、前頭葉領域にコリンの異常な蓄積が認められることは大きな示 唆と考えられる。コリンはなぜ蓄積するのであろうか、私たちの現在での解釈を示す。コリンは消費量の増加が 推測されるアセチルコリンの分解産物である。コリンはアセチル CoA の存在の下でアセチルコリンに再合成され るはずである。従ってコリンの蓄積はアセチル CoA の不足を意味すると考えられる。アセチル CoA の枯渇状態は ミトコンドリアにおける ATP 生産性とそれに引き続くアセチルコリンの生産性の低下を意味する。このことはと りもなおさずコリン作動系学習・記憶細胞群の不活化による学習・記憶の障害とエネルギー不足による易疲労性 がもたらされるのである。私たちは今後この問題に注目し研究を進めたいと考えている。 引用文献 [1] Tomoda A, Miike T, Yamada E, Ogawa M, Honda H, Moroi T, Ohtani Y, Morishita S. Chronic fatigue syndrome (CFS) in childhood. Brain & Development, 22: 60-64, 2000. [2] Tomoda A, Miike T, Iwatani N, Ninomiya T, Mabe H, Kageshita T, Ito S. Effect of long-term melatonin administration on melanin metabolism and skin color in school phobic children and adolescents with sleep disturbance. Curr Ther Res, 60: 607-612, 1999. [3] Tomoda A, Miike T, Yonamine K, Adachi K, Shiraishi S. Disturbed circadian core body temperature rhythm and sleep disturbance in school refusal children and adolescents. Biol Psych, 41; 810-813, 1997. [4] 三池輝久, 友田明美. 登校拒否と慢性疲労症候群(CFS). 臨床科学 Vol.29 No.6; 709-716, 1993 [5] Tomoda A, Miike T, Honda T, Fukuda K, Kai Y, Nabeshima M, Takahashi M.Single-photon emission computed tomographiy for cerebral blood flow in school phobias. Current Therapeutic Research, 56; 1088-1093, 1995 [6] Tomoda A, Miike T, Uezono K, Kawasaki T. A school refusal case with biological rhythm disturbance and melatonin therapy. Brain & Development, 16; 71-76, 1994 95 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 [7] Furusawa M, Morishita S, Kira M,Takahashi M, Tomoda A, Miike T, Arai N. Evaluation of school refusal with localized proton MR spectroscopy. Asian Oceanian Journal of Radiology, 3; 170-174, 1998. [8] Iwatani N, Miike T, refusal students. Kai Y, Kodama M, Mabe H, Tomoda A, et al. Glucoregulatory disorders in school Clinical Endocrinology 47; 273-278, 1997. 成果の発表 1)原著論文による発表 ア)国内誌(国内英文誌を含む) 1. 友田明美、上土井貴子、三池輝久.小児の慢性疲労症候群(CFS)における生体リズム異常. 臨床体温, 19; 13-18, 2001. イ)国外誌 1. Tomoda A, Miike T, Yamada E, Ogawa M, Honda H, Moroi T, Ohtani Y, Chronic fatigue syndrome (CFS) in childhood. Brain & Dev, 2. Morishita S. 21: 51-55, 1999. Tomoda A, Miike T, Iwatani N, Ninomiya T, Mabe H, Kageshita T, Ito S. Effect of long-term melatonin administration on melanin metabolism and skin color in school phobic children and adolescents with sleep disturbance. Curr Ther Res, 60: 607-612, 1999. 3. Tomoda A, Miike T, et al. Chronic fatigue syndrome in childhood. Brain & Dev, 22: 60-64, 2000. 4. Tomoda A, Jhodoi T, Miike T. Chronic fatigue and abnormal biological rhythms in school children. JCFS, 60: 607-612, 2001. 5. Ninomiya T, Iwatani N, Tomoda A, Miike T. Effects of exogenous melatonin on pituitary hormones in humans Blackwell Science Ltd Clinical Physiology 21, 3, 292-299, 2001. 2)原著論文以外による発表(レビュー等) 1. 三池輝久。生体リズムと不登校(不出社)。川崎晃一編:生体リズムと健康、学会センター関西、 大阪、学会出版センター、東京、pp39−64,1999. 2. 三池輝久:よい子のストレスと疲れ。 児童心理,1999;53:38ー43. 3. 三池輝久:小児の睡眠障害と疲労感。日児誌 2000;104:1~4。 4. 三池輝久。睡眠・身体リズムの乱れ。 5. 三池輝久。小児の睡眠障害と慢性疲労。小児科 6. 三池輝久。子供の疲労。疲労の科学。 井上正康、倉恒弘彦、渡辺恭良、編。講談社サイエンティフィク. 小児内科 2000;32:1317−1322. 2001;42:265−73. 東京、2001,pp67−71. 7. 三池輝久。睡眠障害。小児科臨床 2001;54:1268−76. 8. 三池輝久。こども達の生活環境と生きる力。 学校保健研究、2001;4 9. 三池輝久。不登校にまつわる小児の倦怠感。 ストレスと臨床 2:459−64. 2001;8:8−12. 10. 三池輝久,上土井貴子,二宮敏郎,白石晴士,友田明美, 岩谷典学. 不登校状態の実態調査と生活リズムの 変調に関する研究(分担研究者 三池輝久),平成 10 年度厚生科学研究(子ども家庭総合研究事業)報告 書(第 3/6),20-23, 1999 96 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 11. 三池輝久,ほか. 生体リズムと健康ー生体リズムと不登校,(不出社)学会センター関西, 39-64, 19 12. 三池輝久,ほか. 生体リズムを基本にーふえるフクロウ症候群,食べもの通信社, 31-41, 1999 13. 友田明美. 小児の慢性疲労における生体リズム異常. チャイルドヘルス Vol.4 No.11,48-52, 2001. 14. 上土井貴子、三池輝久.眠剤の適応と留意点.小児看護 986-989 2001 3)口頭発表 1. 池澤誠, 友田明美, 三池輝久, 伊賀崎伴彦, 村山伸樹. 不登校児の P300. 第 11 回臨床神経生理研究会(熊本)1999.8.21 2. 友田明美. 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会シンポジウム「小児期の CFS」.不登校・CFS における中 枢神経機能解析の試み. 大阪, 2000. 2. 19 3. 友田明美. 第 7 回日本時間生物学会サテライトシンポジウム「太陽・地球・生態系と時間治療」 4. Chronic Fatigue and Abnormal Biological Rhythms in School Children. 東京,2000.11.11 5. 友田明美. 6. 村山伸樹, 友田明美, 三池輝久, 伊賀崎伴彦, 第 15 回北海道臨床体温研究会. CFS 児における深部体温異常.札幌, 2000.8. 26 宮崎 誠.不登校児の P300. 第 12 回臨床神経生理研究会(福岡)2000 年 8.21 7. Tomoda A, Miike T, Jhodoi T. Chronic fatigue syndrome (CFS) in childhood. American Association for Chronic Fatigue Syndrome, Fifth International Conference.Seattle, Washington, January 26-29, 2001 8. Tomoda A, Miike T, Jhodoi T. Chronic fatigue syndrome (CFS) in childhood. The 16th International College of Psychosomatic Medicine Conference. Goteborg, Sweden,August 23-26, 2001 9. Jhodoi T, Tomoda A, Miike T. Chronic fatigue and abnormal biological rhythms in school children. The 16th International College of Psychosomatic Medicine Conference. Goteborg, Sweden,August 23-26, 2001 10. 上土井貴子, 友田明美, 三池 おける脳血流異常. 熊本, 2001. 11. 上土井貴子, 友田明美, 松倉 輝久,. 第 6 回慢性疲労症候群(CFS)研究会.小児の慢性疲労症候群に 2. 16 誠, 三池 ~メンタルヘルスを中心に〜 熊本, 2001. 12. 上土井貴子, 友田明美, 輝久,. 第 42 回熊本小児保健研究会.中学生の健康実態調査 2. 7 三池 輝久,. 第 2 回時間循環血圧研究会.小児の慢性疲労症候群における心拍 間隔のパワースペクトル解析および認知機能評価について. 東京, 2000. 13. 上土井貴子, 友田明美, 岩谷典学,三池 る生体リズム異常. 名古屋, 1999. 7. 15 輝久,. 第 4 回慢性疲労症候群(CFS)研究会.不登校児におけ 2. 28 97 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 2. 慢性疲労症候群等の病的疲労の研究 2.1. 疲労感の脳担当部位とその役割の解明 2.1.1. 疲労にともなう神経撹乱機構の解明 (財) 東京都医学研究機構東京都神経科学総合研究所心理学部門 尾上 要 浩隆 約 学習初期で認知的な脳活動が必要とされる学習課題も、訓練を長期間続けることで、行動が熟練し、認知的活 動が極端に省略され一連の系列行動パターンが手続き的なものとなることが知られている。今回サルに単純視覚 ... 運動課題を長期間訓練し、このように自動化した学習行動の遂行下、学習課題を連続試行させることによってサ ルにも疲労が起こるか否かについて、正解率と反応時間を測定し、行動科学的な解析を行った。その結果、熟練 し、自動化した学習課題を連続的に 100 回試行させると、試行の回数に伴って反応時間が遅延することが明らか になった。この遅延の度合いは用いる視覚刺激の要注意度にしたがって変化すること、また、サルの反応様式に おいて、レバーを離す時間には変化がなく、押す時間や元の位置に戻す時間に遅延が認められることから、連続 試行で認められる反応時間の遅延は課題実行における前肢の単なる運動疲労によるものではないことが明らかと なった。さらにこの遅延傾向は、断眠による疲労回復過程の剥奪によって増大し、報酬価の増加によって抑制される ... ことから、サルにおける疲労の評価に「自動化した学習課題の連続試行」が有用である可能性が強く示唆された。こ の疲労モデルを用いて、小動物実験で疲労回復効果が報告されている「緑の香り」について検討を行ったところ、サ ルにおいても疲労軽減作用が確認された。さらに、PET による脳賦活実験を学習課題遂行中に行った結果、緑の香り は、視覚認知や基底核による視覚運動協調が疲労に伴って機能低下することを抑制している可能性が示唆された。 研究目的 我々は、これまでの倉恒・渡辺らのグループの研究により得られた慢性疲労症候群の結果を基礎に、サルを用 い、疲労感の脳担当候補部位とされる前頭連合野の神経―免疫―内分泌相関における位置づけを行い、疲労度の 客観的・生物学的マーカーを見出すとともに、疲労の分子・神経メカニズムの解明と疲労軽減の方策を案出する ことを画策した。人に近く、高次な認知機能を有すると考えられるサルは、肉体的、精神的活動による疲労やそ れに伴う疲労感を総合的にとらえるための最適なモデルとなり得る可能性がある。このことから、我々は研究目 的のひとつに「疲労による前頭葉・辺縁系の神経機能攪乱」をかかげ、疲労状態におけるサルの脳活動を陽電子 断層撮像法(positron emission tomography, PET)を用いて非侵襲的に測定することで疲労による脳機能の変化を 明らかにしようと考えた。しかし、言語による表現法を持たないサルの疲労感を行動パターンや作業効率から捉える ことはきわめて難しく、過去にもそのような報告を見ることはできない。このことから我々はまず、サルにおける疲 労現象を明確に捉えるための手法を確立し、この疲労モデルを中心に以下の二点について検討を行った。 1)疲労及び疲労関連物質による前頭葉・辺縁系の神経機能攪乱 前頭葉や辺縁系は、意欲や情動に深く関係しており、脳の疲労や疲労の認識(疲労感)に密接に関わっている と思われる。サルの疲労モデルを作成し、慢性疲労症候群にてアセチルカルニチン取り込みの落ちていた前頭前 98 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 野の 9 野の一部や前帯状回 24 野の活動状態と疲労や疲労感の発現の関係ついて検討を行う。また、疲労関連物質 である TGFβの疲労誘発効果のメカニズムとこれらの領域との関連を明らかにする。 2)疲労状態の脳活動の解析とその神経回路の解明 サルに断眠などのストレスをかけて疲労状態にし、この時の脳活動を PET 法を用いて非侵襲的に測定する。脳 局所血流量や脳局所グルコース利用能の変化、GABA 受容体やドーパミン、セロトニン受容体など神経情報伝達に 関係する変化を検討する。 本研究では、サルに PET 法を適用し機能局在と神経化学的な変化の二つの局面から疲労の分子・神経メカニズ ムの解明について検討することが主な目的である。PET 法では、脳の局所領域における活動状態だけではなく、神 経伝達物質受容体の結合活性などの神経化学的な側面を非侵襲的に測定することができる(1、2) 。これまでに我々 は PET 実験を無麻酔下のサルで行うシステムを開発し、学習課題遂行下に脳賦活実験を行うことによって、視覚 や時間知覚など様々な情報処理過程を解析できることを示してきた(3,4)。また、PET 法は、ラジオアイソトープ を使用したいわゆるトレーサー(標識分子追跡)法であり、神経伝達物質動態の化学的な解析法としての独自の 研究領域を確立している。したがって PET 法の応用は、脳局所の神経活動だけでなく、それを根底で調節してい る神経伝達物質や調節因子などの分子間の相互作用を“脳丸ごと”で描出することが可能である。 研究方法 a) 自動化した単純視覚弁別課題の連続試行による疲労モデル repeats ITI (release then press left or right lever) S2 (press middle lever and holding 1.5 sec) S1 図1 自己歩調による視覚弁別課題の連続試行 3 頭のオスのアカゲザルを用いた。サルをコンピューター画面の前に置いたモンキーチェアーに座らせ、モニタ ー手前下に 3 つのレバーを横並びに配置した(図 1)。学習課題では、視覚性幾何学図形の二者択一課題を行わせ た。すなわちこの課題では、サルが真中のレバーを押すとコンピューター画面の左右に一対の図形(幾何学図形 またはサルの顔)からなるペアが提示される。このどちらかは報酬と結びついており、サルがその画像の下のレ バーを押すと即座に報酬が得られる(今回の実験では報酬は水が 1cc/10 正解の割合で与えられた)。同一セッシ ョンでは、同じペアが左右ランダムに提示される。実験の初期ではサルは新規の問題を与えられても試行錯誤を 99 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 繰り返し、なかなか正解に至らない。しかし、長期間の訓練により数十種類の新規のペア図形に対する問題解決 を経験することにより、サルはこの単純視覚弁別課題における問題解決方法を習得し、新規のペアの提示から数 試行で毎回正解するようになる(学習セットの形成)。このような学習セットを獲得した状態でのサルの思考過程 は極めて人のそれに近いと考えられることから、今回の実験では、この学習セットを獲得したサルを用いた。ま た、系列動作が同じで図形の視覚的特徴解析を必要としない単純な課題として、左右のどちらか一方に提示され たスポットの下のレバーを押す課題(ポジション課題)を行った(図 1 の課題)。完全に熟知した課題を数 100 試 行以上おこなうとそれまで認知的制御行動であったものが、認知過程が省略されて行動の自動化が起こる。この ような自動化された行動は正確かつスピーディーで、ほとんどエラーが生じない(したがって正解率は常に 100%)。 このことから疲労や疲労感の有無を解析するために、図形が提示されてからレバーを押すまでの時間をパソコン に on-line で取り込み、行動上の「反応時間」として記録し、解析した。実験では同じ課題を 100 回、サルに休 みなく連続試行させた際の反応時間の経時変化を解析したが、連続試行はサルが自主的に自分のテンポで行うも のとした。このため、サルはテスト日の前々日より給水を制限した。 b)緑の香りの疲労行動および脳内活動への影響 緑の香り暴露下の行動解析には 2 頭のオスのアカゲザルを用い、そのうちの 1 頭については同状況下の脳活動 を PET 法により解析した。緑の香りはヘキセノール (cis-3-hexenol, SODA AROMATIC CO. LTD., Tokyo, Japan) 0.1%とヘキサアルデヒド (trans-2-hexenal, SODA AROMATIC CO. LTD., Tokyo, Japan) 0.03%の混合液を実験 当日に調合し、その 100μl をバイアル瓶に詰めたキムワイプに浸した。これをサルの鼻先に置き、学習課題遂行 中自然拡散させた。サルの PET 実験は(図 2)、我々がこれまでに行ってきた方法に従い、画像の解析には、SPM96 (画像解析ソフト MEDx に組み込まれたもの)を用いた。緑の香り成分の溶媒 (vehicle) には無臭性のクエン酸ト リエチル (Triethyl Citrate, SODA AROMATIC Co. Ldt., Tokyo, Japan) を使用し、コントロール実験にはこの 100μl をバイアル瓶に詰めたキムワイプに浸したものを使用した。 図2 サル脳賦活実験のための PET 実験装置と学習実験装置(手前) サルの固定のためのチェアー(円内) 100 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 研究成果 a)自動化した単純視覚弁別課題の連続試行による疲労モデル ポジション課題、顔画像を使った二者択一課題のどちらにおいても、連続 100 回の試行中に経時的な反応時間の増 加が認められた。図 3 は monkey Ya において、ポジション課題を連続 100 回試行した際の反応時間の変化を示したも のである。それぞれのセッションは約 5 分の休憩をはさみ、5 セッション行い(計 500 試行) 、近似直線はセッショ ンの平均値を表している。左図から明らかなように、反応時間は課題の始まりからほぼ直線的に遅延した。セッショ ン開始初期において 540msec 程度であった反応時間は最終的には 610mse 程度にまで遅延した。5 セッションの平均 値の近似直線より得られる傾きは 0.0007 であり、これは一回あたりわずか 0.7msec の遅延に相当する。人における 時間知覚の最少閾値は数十 msec であることが知られており、サルは試行毎に起こる反応時間の遅延を個体自信で知 覚しているとは考えにくい。簡易的にセッション前半 50 回と後半 50 回の反応時間の平均値を比較すると(図右) 、 後半は前半に比べて 40msec 反応時間が遅延していた。なお、セッション中の課題正解率は 100%であった。 0.7 1.0 y = 0.0007x + 0.5363 0.65 1st 2nd 3rd 4th 5th mean 0.8 0.7 0.6 0.5 Response Time (sec) Response Time (sec) 0.9 0.588 0.6 0.570 0.552 0.55 0.5 0.4 0 20 40 60 80 100 Trial No. 0.45 Early 50 Late 50 Total 100 図 3 連続 100 試行の課題継続時に認められる反応時間の延長 図左は、ポジション課題を連続 100 回試行した際の反応時間を試行ごとに示したもの。 図右は、セッションの前半 50 回と後半 50 回及び全 100 回の反応時間の平均値。 Response Time (sec) 1.9 1.9 1.9 1.7 1.5 1.3 1.1 0.9 0.7 0.5 0.3 1.7 1.5 1.3 1.1 0.9 0.7 0.5 0.3 0 20 40 60 80 100 0 Trial No. y = 0.0012x + 0.5943 y = -0.0005x + 0.7043 y = 0.0001x + 0.7608 1.7 1.5 1.3 1.1 0.9 0.7 0.5 0.3 20 40 60 80 100 0 Trial No. 図 4 新規課題提示からの反応時間の経日変化 図左;第 1 日目、図中央;第 2 日目、図右;第 3 日目 101 20 40 60 80 100 Trial No. 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 このような反応時間の遅延が課題の学習過程のどの時点から起こっているかについて、新規課題提示からの学 習成績の経日的な解析を行った。新規課題の問題解決段階である新規課題提示初日は反応時間のばらつきが多く、 連続 100 試行における経時的な変化は認められなかった(図左)。第 2 日目の反応時間にもまだばらつきが認めら れたが、ばらつきの減少とともに連続 100 試行における変化は負の傾きを示した(図中央)。しかし、第 3 日目に はサルは課題にスキルになり、ほとんど試行において、1 秒以内に正答反応しただけでなく反応時間のばらつきは かなり小さくなった。この時、初めて連続 100 試行に伴い反応時間の遅延が認められ、連続 100 試行における変 化が正の傾きを示した。したがって、反応時間の疲労的な遅延は、サルが課題の刺激に対して強い認知活動を伴 う制御行動(controlled behavior)下では認められず、むしろ認知活動が極端に省略された状態である自動化行 動(automated behavior)下で起こることが明らかになった。 反応の遅延が視覚弁別課題遂行のどの過程に起因するものであるかを明らかにするために、反応時間の内容を 詳細に解析した(図 5 左)。その結果、試行の連続により遅延が起こるのは、弁別刺激が提示されてから中央のレ バーを離すまでの時間ではなく(図 5 中央)、主として離してからターゲットの刺激に対応するレバーを押すまで の時間であった(図 5 右)。したがって、反応時間の遅延は少なくとも前肢による運動の疲労に起因するものでは 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0 20 40 60 Trial No. 80 0.6 y = 0.0002x + 0.3345 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 100 20 40 60 Trial No. 80 Response Time (sec) y = 0.0013x + 0.5489 0.9 Response Time (sec) Response Time (sec) なく、弁別課題遂行に関わる脳内過程にあると考えられた。 0.6 0.5 y = 0.0010 x + 0.2145 0.4 0.3 0.2 0.1 0 100 20 40 60 80 100 Trial No. 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0 20 40 60 Trial No. 80 100 0.6 Response Time (sec) Response Time (sec) Response Time (sec) y = 0.0013x + 0.4909 0.9 y = 0.0003x + 0.3199 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 20 40 60 Trial No. 80 100 0.6 y = 0.0013x + 0.1639 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 20 40 60 Trial No. 80 100 図 5 視覚弁別課題遂行における反応時間の解析 図左;total response time, 図中央は弁別刺激が提示されてから中央のレバーを離すまでの時間、 図右;離してからターゲットの刺激に対応するレバーを押すまでの時間。 図上段;monkey Ya の position 課題における結果、 図下段;monkey Sa の顔弁別課題における結果。 次に、このタスクの弁別刺激による影響を検討した。2 頭のサルそれぞれにおいて、相関直線の傾きで表される遅 延の程度はばらつきを示したが(個体差) 、刺激の種類の違いによる効にはそれぞれに共通して傾向が認められ、遅 延の傾きが、顔弁別>Position(S)>Position(L)の順に高いことが明らかになった(0.0016>0.0015>0.0007 in monkey Ya 図 6 左、0.0013>0.0003>0.0002 in monkey Sa 図 6 右) 。タスクに使われる刺激画像の顔画像はポジ ション課題で使われる幾何学図形に比較して複雑性が増している、また同じ四角の図形で輝度が同じ場合、小さい図 形の方がより多くの注意が必要となる。したがって、反応時間の遅延は注意の必要度に対応していると考えられた。 次に反応時間の遅延に対する報酬の影響を検討するために、学習課題における報酬を通常使われる水(水道水) から、サルにとってより報酬価の高い(サルがより好む)ポカリスエット(大塚食品)に代えてタスクを行った。 102 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 Monkey Ya Monkey Sa Position (L) 0.8 0.9 Position (S) 0.7 y=0.0016x+0.605 0.7 y=0.0015x+0.555 0.6 y=0.0007x+0.536 0.5 Response Time (sec) Response Time (sec) 0.8 0.4 二者択一 (顔弁別) 0.6 y=0.0013x+0.491 0.5 y=0.0003x+0.412 y=0.0002x+0.377 0.4 0.3 0 20 40 60 80 0 100 20 40 60 80 100 Trial No. Trial No. 図 6 疲労評価課題に対する弁別刺激の違いの影響 赤色と橙色はポジション課題、青色は顔弁別課題遂行時のもの。 赤色は図形に大きい四角を用いた時、橙色は小さい四角を用いた時。 0.60 0 .6 0 Response time (sec) Response time (sec) y = 0.0007x + 0.4655 0.55 0.50 0.45 0 .5 5 0 .5 0 0 .4 5 y = 0.0002x + 0.4748 0.40 0 .4 0 0 20 40 60 80 100 前半 後半 全体 前半 後半 全体 No. of Traial 0.70 0 .6 5 Response time (sec) Response time (sec) 0.65 y = 0.0014x + 0.4916 0.60 0.55 0 .6 0 0 .5 5 0 .5 0 0.50 y = 0.0007x + 0.496 0 .4 5 0.45 0 20 40 60 80 100 No. of Traial 図 7 Position 疲労評価課題における反応時間の遅延に対する報酬の影響 青は水を報酬として与えた場合、赤はポカリスエットを報酬として与えた場合の実験結果。 図左は、ポジション課題を連続 100 回試行した際の反応時間を各試行ごとに示したもの。 図右は、セッション前半 50 回と後半 50 回及び前 100 回の反応時間の平均値。 103 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 その結果、2 頭のサルそれぞれにおいて反応時間の遅延が著しく抑えられることが明らかになった(0.0007 vs. 0.0002 in monkey Es 図 7 左上段、0.0014 vs. 0.0007 in monkey Ya 図 7 右下段)。反応時間に対する効果はタ スク前半には認められず、後半にのみ認められたことから(図 7 右上下)、この効果は単純にタスクにおける運動 効率やサルの覚醒レベルを高めたのではなく、連続試行によっておこる疲労を軽減しているものと考えられた。 このポカリスエットによる反応時間遅延の低減効果は各々のセッションで同程度認められ、それまでの総飲水量 には依存しなかった。また、今回嗜好性の詳細な検討は行っていないが、ほとんどのサルが水よりも適度な塩分 や糖分を含むポカリスエットを好むことが知られている。すなわちこの効果は、ポカリスエットが疲労回復のビ タミンや栄養源として効果を示したのではなく、報酬価が行動に影響したと推定される。 b)緑の香りの疲労行動および脳内活動への影響 前述のポジション課題による疲労モデルを用いて、緑の香り暴露下による影響の行動解析を行った。その結果、緑 の香り暴露下における反応時間の遅延は、コントロールとし vehicle の暴露下に比較して起こりにくいことが明らか になった(図 8 左) 。反応時間に対する効果はタスク前半には認められず、後半にのみ認められたことから(図 8 右) 、 緑の香りは報酬で見られた効果同様に、単純にタスクにおける運動効率やサルの覚醒レベルを高めたのではなく連続 試行によっておこる疲労を軽減しているものと考えられた。しかし、サルは緑の香りの容器を食べたり飲んだりしよ うとする行動は示さなかったことから、緑の香りがサルにとって報酬的な意味合いを持っているとは考え難い。さら に、緑の香りの代わりに不快臭として知られるメルカプトエタノールを用いた際には、有意な行動変化は得られなか ったことから、単に、匂い刺激のあるなしが影響したものではないことが示された(data not shown) 。 0.7 Response Time (sec) Response Time (sec) 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0 20 40 60 80 100 前半 後半 平均 前半 後半 平均 Trial No. 0.6 Response Time (sec) Response Time (sec) 0.6 0.55 0.5 0.45 0.4 0.55 0.5 0.45 0.4 0 20 40 60 Trial No. 80 100 図8 Position 疲労評価課題における反応時間の遅延に対する「緑の香り」の影響 青はコントロール時、赤は「緑の香り」を暴露下の時の実験結果 上段は monkey Ya の下段は monkey Es の結果。図左は、ポジション課題を連続 100 回試行した際の反応時間を 試行ごとに示したもの。図右は、セッション前半 50 回と後半 50 回及び前 100 回の反応時間の平均値。 104 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 上記の行動実験を行ったサルの内の 1 頭 (monkey Es、下段) について、行動実験させた場合と同状況下での脳 活動の変化を PET 法により解析を行った。その結果、緑の香りによって、前頭眼窩野 後外側部の嗅核領 (posterolateral orbitofrontal cortex)、被核(putamen)、前頭前野(prefrontal cortex) 、上側頭溝皮質(superior temporal sulcus)、第 4 視覚野(V4)に有意な活動の上昇を認めた(表 1 と図 9a) 。一方、ポカリスエットでは、 上記の領域以外に内側前頭眼窩野(medial orbitofrontal cortex)。篇桃核(amygdala)、尾状核(caudate nucleus)、 下側頭葉の TE 野、外側下頭頂葉皮質(lateral inferior parietal cortex)、視床下部(hypothalamus)に活動を 認めたが、被核では有意な活動は認められなかった(表 1 と図 9b) 。図 10 には、緑の香りやポカリスエットによ って有意な活動の増加が認められた部位における局所血流の変化を示したが、被核、前頭前野の活動が比較的緑 の香りに特異的であり、前頭眼窩野後外側の嗅核領や外側下頭頂葉皮質ではほぼ同程度、前頭眼窩野や視床下部 はポカリスエットに比較的特異的な増加を示した。 HEX-cont Region Z score X Y Z 1 l pl OrbFC 3.125 56 33 5 2 r Putamen 3.142 40 41 6 3 r PFC 3.57 41 24 7 4 r STS 3.79 37 51 7 5 r V4 2.833 32 53 8 6 l V4 3.411 72 55 8 Z score X Y Z Pocari-cont Region 1 r TE 3.787 56 42 3 2 l Amy 3.125 31 44 3 3 r OrbFC 4.005 47 30 5 4 l pl OrbFC 3.215 57 32 5 5 Hypothalamus 3.561 50 43 5 6 r V2 3.518 55 31 7 7 l Caudate nucleus 3.462 32 60 7 8 r STS 3.07 34 56 8 9 l V4 3.357 70 54 8 10 r LIP 3.332 42 55 10 11 l LIP 3.227 57 64 11 表 1 緑の香りまたは、ポカリスエットによって賦活された脳領域 危険率はエリア内のピーク値が p<0.001, uncorrected(Z>3.09)とした。 ただし、HEX-cont の V4 は p<0.01。X, Y, Z, は画像マトリックス(100x100)におけるスポットの位置。 105 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 図 9a 緑の香りの局所脳活動に対する影響 赤で示されたスポットは、コントロールとの比較で有意な(p>0.001)活性化が認められた部位。 水平断面の左が右半球。 106 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 図 9b ポカリスエットを報酬として与えた場合の局所脳活動に対する影響 赤で示されたスポットは、コントロールとの比較で有意な(p>0.001)活性化が認められた部位。 水平断面の右が左半球。 107 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 r PFC 72.5 Adjusted rCBF Adjusted rCBF r Putamen 70 67.5 65 62.5 VMC HEX 50 47.5 45 42.5 40 VMC Pocari Adjusted rCBF Adjusted rCBF 60 57.5 55 52.5 50 HEX 50 47.5 45 VMC Hypothalamus Adjusted rCBF Adjusted rCBF 図 10 Pocari 52.5 Pocari 55 52.5 50 47.5 45 HEX HEX 55 r OFC VMC Pocari r LIP l plOFC VMC HEX Pocari 60 57.5 55 52.5 50 VMC HEX Pocari 緑の香り (HEX) やポカリスエット (Pocari) によって有意な活動の増加が認められた脳の領域における局所血流の変化 l pl OFC; left posterolateral orbito frontal cortex, VMC; visuomotor control. 108 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 考 察 精神的疲労の影響を行動的に評価するために、まず我々はより注意力や認知力を必要とする学習、弁別課題を 用いて課題の成績に及ぼす影響を検討した。しかし、精神的疲労を生じさせるであろう長時間の学習負荷は、そ れらの学習成績や反応時間には影響を与えないか(または与えていても定量化できない)、サルが課題の遂行を途 中で放棄するなどして行動評価することができなかった。しかし、二者択一課題である単純視覚弁別課題の経験 を積み、いわゆる学習セットを形成したサルを用いて検討したところ、単一刺激ペアーの弁別について完全に習 熟し、熟練した後の課題の連続試行中にのみ反応時間の遅延が起こることを見出した。この反応時間の遅延は、 新規の課題提示後の問題解決過程や習熟化の途中過程では起こらない。すなわち、学習課題の習熟化が進み、ほ とんど認知過程を必要としない系列行動的な手続き行動となった自動化行動(automated behavior)遂行下にの みこの遅延が観察される。Benjamin H. Natelson は彼の最近の著書「Facing & Fighting Fatigue(邦題:疲れ る理由)」(5)のなかで疲労の客観的な評価方法について次のような 4 つの項目を掲げている。 1)普遍的な繰り返し作業であること。 2)単純で容易、特別な集中力を必要としないこと。 3)考える余裕がない。 4)作業を行うのに要する時間を正確に測定できること。 我々が行った自動化された単純視覚弁別課題の連続試行は、これらの項目をすべて満たしており、疲労評価モ デルとしても最適であることが示唆された。 反応時間の詳細な解析により、遅延は刺激の特徴分析に対応する「刺激提示から手を離すまでの時間」よりも むしろ弁別決断後の「手を話してから標的レバーを押すまでの時間」に起こっていることが明らかになった。し かし、本タスクの場合には最初のレバープレスから刺激提示までの時間は 1.5 秒と固定されており、サルは刺激 の特徴を分析する以前にタイミングによって手を離す傾向がある。したがって、遅延が手を離してから押すまで に起こったことは、遅延が前肢の運動疲労ではない可能性を強めることはあっても、視覚認知過程には関係しな いことを支持するものではない。むしろ、弁別刺激の種類の違いによる検討の結果は、反応時間の遅延が視覚刺 激に対する注意の必要度に対応して疲労が起こりやすいことを明確に示している。 単純な刺激を何度も繰り返し知覚する場合には馴化という刺激に対する反応閾値の低下現象が認められ、これ には知覚神経系の働きの低下が関与していると考えられている。同じ刺激の弁別が繰り返される点で高い類似性 を持つ今回の単純視覚弁別課題の連続試行でも、馴化と同様の神経機構が関与していることが考えられるが、馴 化は刺激が単純なほど起こり易いことが一般的であり、複雑性でより注意度を必要とする刺激を使った課題ほど 疲労傾向が強い結果となった今回の結果はこの馴化の原則とは矛盾している。 ポカリスエットを水の変わりにタスク正解の報酬として与える報酬価の増加によってこの反応時間の遅延が低 減されたことは、連続試行で見られる反応時間の増加には、単純な腕の運動による筋肉性の疲労よりもむしろ、 精神疲労や疲労感と密接な関係にある意欲(やる気)や覚醒度の低下が関与していることを示唆している。した がって、熟練し自動化した学習課題の強制的な連続試行における行動解析はサルにおける疲労の評価に有用であ るばかりでなく、人の疲労評価にも同様の課題を使った応用が可能であると考えられる。 緑の香りによるサルの疲労評価モデルでの反応時間の遅延の抑制は、この香りにはポカリスエットと類似の疲 労抑制作用があることを強く示唆している。しかし、サルの一般行動に基づいた観察からは、緑の香りに報酬と しての意味合いが付加されていることは示されなかった。また、PET による脳賦活実験の結果は、緑の香りはサル の嗅覚系を強く刺激するものの、ポカリスエットで認められたような報酬系の中枢的役割をする内側前頭眼窩野 の活動の増加は起こっておらず、このことも緑の香りが報酬とは関係しないことを支持している。 脳賦活実験において、緑の香りおよびポカリスエットの両刺激で共通して認められたのは視覚認知系と基底核 による運動協調系の活動の増加である。匂いによる嗅覚系も報酬による味覚系もこれらの領域への直接の投射は ない。したがって、通常の水を報酬とするコントロール条件下では、連続試行によってこれらの神経系の活動が 109 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 低下しており、緑の香りやポカリスエットはこれを防いでいるのではないかと推測される。いずれにせよ、自動 化された学習課題の連続試行において本当に視覚認知系や運動協調反応性の機能低下が起こっているのか。また、 その場合、緑の香りが嗅覚系を刺激した後に、どのような神経機構を介して、疲労によるこれらの神経機能の低 下を抑えるのかは今後の重要な研究課題である。 今回、研究目的に掲げた項目のうち、疲労関連物質である TGFβの疲労誘発効果については、定量的な実験に至 らなかった。これは、実験に用いた TGFβ3 が人のリコンビナントであり、サルの受容体には反応しなかった可能 性がある。本研究期間内において、我々の研究組織ではこの問題を解決することができなかった。この点につい ては、今後は他の研究成果をもとに、人、サルに共通に使える疲労関連物質による脳機能修飾作用について検討 を行うのが望ましいと考えている。 参考文献 [1] Onoe, H., Inoue, O., Suzuki, K., Tsukada, H., Itoh, T., Mataga, N., and Watanabe, Y. Ketamine 11 increases the striatal N-[ C]methylspiperone binding in vivo: positron emission tomography study using conscious rhesus monkey. [2] Brain Res., 663, 191-198, 1994. Onoe, H., Tsukada, H., Nishiyama, S., Nakanishi, S., Inoue, O., Långström, B., Watanabe, Y., A subclass of GABAA/benzodiazepine receptor exclusively localized in the limbic system. Neuroreport 8(1): 117-22, 1996. [3] Takechi, H., Onoe, H., Imamura, K., Onoe, K., Kakiuchi, T., Nishiyama, S., Yoshikawa, E., Mori, S., Kosugi, T., Okada, H., Tsukada, H., and Watanabe, Y. emission tomography in unanesthetized monkey. [4] Brain activation study by use of positron Neurosci. Lett., 182, 279-282, 1994. Takechi, H., Onoe, H., Shizuno, H., Yoshikawa, E., Sadato, N., Tsukada, H., and Watanabe, Y. Mapping of cortical areas involved in color vision in nonhuman primate. Neurosci Lett., 230, 17-20, 1997. [5] Benjamin H. Natelson、「Facing & Fighting Fatigue(邦題:疲れる理由)」(武藤芳照、山本義春監訳、 日経 BP センター(2000, 11. 13) 成果の発表 1)原著論文による発表 ア)国内誌(国内英文誌を含む) なし。 イ)国外誌 1. Onoe H., Komori M., Onoe K., Takechi H., Tsukada H., Watanabe Y. [Cortical networks recruited for time perception: a monkey positron emission tomography (PET) study.], Neuroimage, 13 (1): 37-45. 2001. 2. Tanaka, H-K, Onoe H., Tsukada, H., and Fujita, I., Attentional modulation of neural activity in the macaque inferior temporal cortex during global and local processing., Neurosci. Res., 39 (4): 469-72, 2001. 3. Sakai, K., Crochet, S., and Onoe, H., Pontine structures and mechanisms involved in the generation of paradoxical (REM) sleep., Atch. Ital. Biol., 139, 93-107, 2001. 4. Obayashi S., Suhara T., Kawabe K., Okauchi T., Maeda J., Akine Y., Onoe H., Iriki A., [Functional 110 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 brain mapping of monkey tool use.] Neuroimage, 14 (4): 853-61, 2001. 2)原著論文以外による発表(レビュー等) ア)国内誌(国内英文誌を含む) 1. 尾上浩隆, 陽電子断層撮像法(PET)を用いた睡眠研究、臨床脳波、42(2): 69-73, 2000. 2. 尾上浩隆、 「睡眠と疲労」 、疲労の科学(井上正康、倉恒弘彦、渡辺恭良編、講談社サイエンティフィク(2001、5). イ)国外誌 なし 3)口頭発表 ア)招待講演 3. 尾上浩隆、サル PET 賦活実験でみる弁別学習時の海馬の活動、 第 9 回「海馬と高次機能学会」 ・シンポジ ウム I「海馬と高次機能ーハトからヒトまで、種間の比較ー」、(金沢) (2000, 11.25) 4. Onoe, H., [Brain activation study by PET with learning monkeys], The 10th Anniversary of Uppsala University PET Center Symposium / PET in Drug Development (Uppsala, Sweden) (2001, 8) イ)応募・主催講演等 1. 笹部哲也、小林真之、竹田昌己、近藤祐介、吉久保真一、尾上浩隆、今村一之、澤田 徹、渡辺恭良., 覚 醒サルにおける嗅覚刺激による脳賦活領域の検索:PET 研究., 第 23 回 日本神経科学大会、第 10 回 日本 神経回路学会大会合同大会、横浜(2000, 9.4) 2. 横山ちひろ、尾上浩隆、塚田秀夫、渡辺恭良, 視覚弁別課題における転移学習経験の効果:学習セット形 成に伴う認知行動学的特徴., 第 23 回 日本神経科学大会、第 10 回 日本神経回路学会大会合同大会、横 浜(2000, 9.4) 3. 大林 茂、須原哲也、川辺光一、岡内 隆、前田 純、尾上浩隆、入来篤史, サル道具操作時の PET によ る脳機能画像解析., 第 23 回 日本神経科学大会、第 10 回 日本神経回路学会大会合同大会、横浜(2000, 9.4). 4. Tanaka, H.-K., Onoe, H., Tsukada, H., Fujita, I., Attentional modulation of neuronal activity in the macaque inferior temporal cortex during global and local processing of hierarchical visual patterns., 30th Annual Meeting of the Soc. for Neuroscience, New Orleans, LA, USA (2000. 11.7). 5. Obayashi, S., Suhara, T., Kawabe., K., Okauchi, T., Maeda, J., Onoe, H., Iwamura, Y., Iriki, A., PET imaging of the monkey brain during tool-use., 30th Annual Meeting of the Soc. for Neuroscience, New Orleans, LA, USA (2000. 11.7) 6. Yokoyama, C., Onoe, H., Tsukada, H. and Watanabe, Y., [Transformation of the strategy in solving problems by monkeys along with the formation of a learning set], The 30th Annual Meeting of Society for Neuroscience 7. (New Orleans, U.S.A.) (2000, 10) 尾上浩隆、横山ちひろ、塚田秀夫、渡辺恭良, 熟練した視覚性レバー押し課題の連続試行で認められる反 応時間の疲労的遅延, 第 24 回 日本神経科学 第 44 回 日本神経化学 合同大会, 京都府宝ヶ池 (2001, 9.26) 8. 田島世貴、山本茂幸、岩瀬真生、梶本修身、吉川悦次、尾上浩隆、横山ちひろ、岡田裕之、中村未左央、 塚田秀夫、倉恒弘彦、志水彰、三池輝久、尾内康臣、渡辺恭良, PET 試行時の疲労評価, 第 24 回 経科学 第 44 回 日本神経化学 合同大会, 京都府宝ヶ池 (2001, 9.27) 111 日本神 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 9. 横山ちひろ、尾上浩隆、山本茂幸、塚田秀夫、渡辺恭良, 視覚弁別学習に関わる神経ネットワークの学習 経験による変化, 第 24 回 日本神経科学 第 44 回 日本神経化学 合同大会, 京都府宝ヶ池 (2001, 9.28) 10. Yokoyama, C., Onoe, H., Tsukada, H. and Watanabe, Y., [Experience dependent change in neuronal circuits recruited for new learning in monkeys], The 10th Anniversary of Uppsala University PET Center Symposium / PET in Drug Development (Uppsala, Sweden) (2001, 8) 11. Onoe, H., Tsukada, H., Fujita, I., Monkey PET study during face perception and discrimination,. The 9th International Conference: Peace through Mind/Brain Science., Abstracts, p.10, (Hamamatsu, Japan), (2002, 1.31). 12. Mori, F., Nakajima, A., Tachibana, A., Takasu, C., Tsujimoto, T., Tsukada, H., Onoe, H., Mori, S., Higher-order CNS activity in the bipedally walking Japaneas monkey, M. fuscata: an FDG-PET study, The 9th International Conference: Peace through Mind/Brain Science. Abstracts, p.7, (Hamamatsu, Japan), (2002, 1.31). 13. Kojima, T., Watanabe, M., Onoe, H., Hikosaka, K., Tsukada, H., PET activation study in the monkey during the spatial delayed response task and delayed conditional discrimination task, The 9th International Conference: Peace through Mind/Brain Science. Abstracts, p.9, (Hamamatsu, Japan), (2002, 1.31). 14. Yamamoto, S., Onoe, H., Yokoyama, C., Tsukada, H., Watanabe Y., Monkey PET study during conditional pattern discrimination task,. The 9th International Conference: Peace through Mind/Brain Science. Abstracts, p.11, (Hamamatsu, Japan), (2002, 1.31). 15. Yokoyama, C., Onoe, H., Yamamoto, S., Tsukada, H., Watanabe Y., Monkey PET study during the learning set formation,. The 9th International Conference: Peace through Mind/Brain Science. p.12, (Hamamatsu, Japan), (2002, 1.31). 4)特許等出願等 なし。 112 Abstracts, 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 2. 慢性疲労症候群等の病的疲労の研究 2.1. 疲労感の脳担当部位とその役割の解明 2.1.2. 前頭前野セロトニン・ドーパミン系とグルタミン酸神経伝達系の関連 筑波大学基礎医学系 岡戸 要 信男 約 セロトニン関連遺伝子の慢性疲労症候群患者(CFS)に於ける多型性分布は、対照群に比較してセロトニントラ ンスポーター遺伝子のプロモーターのみに統計学的な差異が見いだされた。一方、哺乳類新規神経ペプチドの候 補としてヒドラペプチド Hym176 として明らかにされているペプチドの相同物質が同定された。陽性細胞は視床下 部弓状核にあり陽性線維は視床下部や坐座核などに分布していた。Hym176 をラット脳室に投与するとセロトニン とドーパミン脳内動態が変化した。 研究目的 CFS の発症機構のなかで前頭前野のセロトニン・ドーパミン神経系は、グルタミン酸神経伝達との関連で詳細に 検討を要する重要な研究課題である。セロトニン・ドーパミン神経系はこれまでに担当研究者による研究でグル タミン酸神経伝達をはじめとする点対点型神経回路のシナプス数を調節する機能をもつ広範投射系神経系として 位置づけられてきた(1, 2, 3, 4, 5, 6, 7)。1000 億もの神経細胞によってできているヒトの脳には広範投射系 とされる神経細胞は数万しかないが、それら少数の神経細胞からでた線維は脳全体に広く分布している。コンピ ューター型の点対点回路とは異なり広範投射系型回路は動物の脳にしかない。 セロトニン・ドーパミンなどの生体アミン系は精神分裂病、うつ病、知的障害など精神機能やこころの病と深 くかかわることが知られていた。しかし、生体アミン神経系のもつ新しい調節機構を明らかにしなければ CFS の 発症機構の解明には迫れない。数多くの機構のうち現在最も重要と考えられる二つの課題に関して解析を加える ことを目的とした。 第一には、従来のリガンドと受容体との機構で作用機序を理解してきたが、その他にセロトニンの作用機序を調節す る新しい物質、セロトニントランスポーター(5-HTT)の登場である。セロトニン線維から細胞外に放出されたセロト ニンが受容体に作用して機能を発揮している状態のセロトニンを再利用するために、再びセロトニン線維内に運び込み 役目をしている。即ち、5-HTT はセロトニンの働きを中断することによりセロトニン機能の調節を行っている。 5-HTT の遺伝子に塩基配列の異なるものが何種類かあることが、1996 年にドイツのレッシュらの研究で明らか になった(8)。5-HTT 蛋白を作るための遺伝子のプロモーターに塩基の繰り返しがあり、それが 14 回繰り返す S (short)と 16 回の L(long)タイプである。ヒトでは S と L が多い。さらに S と L に比べれば頻度は少ないが、18 回または 20 回繰り返す XL (extra long)タイプがある。こうしたことを一般に遺伝子多型性とよんでいる。 5-HTT の多型遺伝子のそれぞれのタイプは、機能を異にしている可能性が示されている。核内の染色体上の DNA 情報はメッセンジャーRNA に読みとられる。そしてメッセンジャーRNA は核を出て細胞質に移動して、メッセンジ ャーRNA に書き移された遺伝情報に基づき、アミノ酸が組み合わさって、それぞれ個別の蛋白質が作られる。プロ 113 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 モーターは DNA からメッセンジャーRNA に情報が読みとられる効率を調節する部位である。L 型をもつプロモータ ーでは S 型に比べ、読みとり効率が高く、メッセンジャーRNA が多くなり、最終産物の 5-HTT 蛋白が L 型では多量 に生産される。従って L 型を持つヒトの脳内では、5-HTT 蛋白が多く、細胞外のセロトニンがセロトニン線維内に 向かってより多く運ばれ、結果的に細胞外でのセロトニン量が減少して、セロトニンが受容体に作用してセロト ニンが機能を果たしづらくなる。XL ではどうかというと、現在研究中であり結果はまだ分からないけれども、XL 保有者の血液中のセロトニン濃度が低いので、恐らくは脳内濃度も低下していると考えている。慢性疲労症候群 でもその発症メカニズムにセロトニンが関わることが示唆される研究がある(9)。そのため本研究の第一の目的 は CFS に罹患した患者のセロトニン関連遺伝子の多型性として、5-HTT プロモーター遺伝子の他に 5-HTTintron (11/11、11/9、9/9)と 2A 受容体(A/A、A/G、G/G)の多型性に関しても検討を加えた。 慢性疲労症候群に関わる発症機構の解明の第 2 の課題として本研究では次の課題の解明を目的とした。セロトニン とドーパミン線維を送り出す起始核はそれぞれ中脳の縫線核と前被蓋野にある。その両者の起始核の調節機構として 未知のペプチドが機能している可能性が考えられる。ペピチドは生体アミンの数千分の 1 の濃度、グルタメイトに比 べれば数十万分の 1 の濃度しかない極めて少ない濃度でしか存在しない物質である。現在では少量しかない哺乳類新 規神経ペプチドの発見には新しい研究戦略が必要とされる。本研究ではその為にヒドラペプチドの抗体を利用して哺 乳類新規神経ペプチドの探索を試みた。ヒドラは神経系をもつ動物の中で最も原始的な腔腸動物である。このヒドラ から網羅的にペプチドを単離する研究が始まり、最終的にヒドラには 1300 種類のペプチドが存在することが考えら れている(10) 。本研究ではヒドラペプチドの研究で発見されたペプチドの抗体をマウス脳に免疫組織化学法を施し、 その組織学的反応パターンから新規ペプチドの存在を予想し、新規ペプチドの単離を試みた。 研究方法 1)疲労症候群患者と対照群でのセロトニン関連遺伝子多型性の分析 血液から genomicDNA を採取して 5-HTT プロモーター、5-HTTintron 2、セロトニン 2A 受容体蛋白をコードする 遺伝子を PCR で増やした。この産物を 2%アーガロースゲル電気泳動を行い、多型性を解析した。 2)新規哺乳類神経ペプチドの探索 ア)抗ヒドラペプチド抗体をマウス脳に用いた免疫組織化学的検索 C 末が PKVamide となっているヒドラペプチドのアミノ酸配列は、Ala-Pro-Phe-Ile-Phe-Pro-Gly-Pro-Lys-Val-amide である。PKVamide を認識するポリクローナル抗体を福岡女子大学小泉修教授より供与された。成体マウスを深麻 酔下でザンボニ液により灌流固定して脳を取り出し、数時間の後固定を行う。凍結ミクロトームで 30—40μm 厚の 前額断連続切片を作成した。第一次抗体を 5000—10000 倍の希釈で浮遊切片に作用させ、ABC 法で反応した。反応 後、切片をゲラチン処理スライドグラスに張り付け脱水してカバーグラスをかぶせて検鏡した。 イ)新規哺乳類新規神経ペプチドの単離 抗 PKVamide ヒドラペプチド抗体で認識される神経ペプチドを抽出する為に、熱酢酸法により粗ペプチド分画を 抽出した。その後、逆相カラム PepMapC18 を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)と、抗 PKVamide 抗体を 用いた競合的 ELISA を組み合わせて精製を行った。HPLC で得られた全ての分画について競合的 ELISA を行い、陽 性を示した分画を次の HPLC に使用した。このスクリーニングを三段階行い、強く反応する 1 分画を得て、アミノ 酸配列分析を行った。 ウ)ヒドラペプチド PKVamide の哺乳類での生理機能 生理機能を調べる為に PKVamide を尾静脈または側脳室に投与して、15 分—1 時間後に血中脳下垂体前葉ホルモ 114 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 ンの定量を行った。またモノアミン代謝への影響を調べる為に、電気検出器付き HPLC でモノアミンと代謝物の定 量を行った。 研究成果 1)CFS のセロトニン関連遺伝子多型性 セロトニン関連遺伝子の多型性は 5-HTT のみに CFS と対照群との間に統計学的差異が認められた。CFS57 人、対 照群 115 人の血液サンプルから DNA を抽出して、PCR で対象遺伝子部位を増幅して電気泳動で多型性を調べた。CFS の 5-HTT では S と L がそれぞれ 21.9 %、78.1 %であった。 対照群では S と L がそれぞれ 13.5 %、85.7 %であり、 統計学的に有意差が認められた(p < 0.05)。 2)新規哺乳類神経ペプチドの探索 ア)抗ヒドラペプチド抗体をマウス脳に用いた免疫組織化学的検索 これまでの研究では PKVamide に関する解析が進んでいるので、ここでは PKVamide について述べる。以下のス キームはマウス脳前額断切片で陽性細胞の出現した部位を三角で、陽性線維の観察される部位を丸で表している。 切片のスキームは吻側から尾側方向に向かって並べられている。各脳部位を表す略字は以下の部位を表す。 Acb:坐座核、AH:視床下部前部、Arc:弓状核、BMA:扁桃体基底内側核、BST:基底核、Ce:扁桃体中心核、DM: 背内側核、DMPAG:中心灰白質背内側部、LDTg:背外側被蓋核、LPAG:中心灰白質外側部、LS:外側中殻核、MeA: 内側扁桃体核、MPO:内側前視索核、Pa:視床下部室傍核、Pe:視床下部脳室周囲核、PV:視床室傍核、VTA:腹 側被蓋野 イ)新規哺乳類新規神経ペプチドの単離 第 1 段階目の精製:粗ペプチド分画を逆相カラムで分画した。各分画の競合 ELISA による免疫活性の測定し、 陽性分画を同定した。第一段階の 25—31 番分画を逆相カラムで分画した結果、競合的 ELISA により 9—13 分画に免 疫活性が認められた。第二段階の 9—13 分画を逆相カラムで精製した結果、13 番分画のアミノ酸配列を決定した。 アミノ酸配列は現在まで N 末から 38 残基まで決定した。その結果、既知の蛋白の一部が塩基性アミノ酸が二つ 続く部分からプロッセッシングされて生じた 40 残基のペプチドと考えられる。 ウ)ヒドラペプチド PKVamide の哺乳類での生理機能 ヒドラペプチドをラットに投与すると、脳下垂体ホルモンでは成長ホルモンの血中濃度が 50%増加した。脳室 内への投与では脳内セロトニン濃度が 20%低下し、ドーパミン代謝率が 2 倍に増加した。 115 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 116 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 117 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 118 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 119 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 120 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 考 察 1)CFS の 5-HTT 遺伝子多型性のパターンは対照群と有意に異なることが明らかとなった。その結果、CFS の発症 にセロトニン神経系が何らかのかたちで関与していることが示唆された。運動後の疲労状態で脳内セロトニン濃 度が上昇することから、これまでに CFS へのセロトニンの関与が指摘されてきた。 これまで原因が不明であった乳幼児突然死症候群(SIDS)でも、5-HTT の遺伝子に特徴的な分布があり、セロト ニンがその発症機序に重要な役割を果たしていることが、最近発表された我々の研究で明らかにされた(11)。し かし、SIDS では 5-HTT の遺伝的要因に加えて、危険因子とされる環境要因や時期的要因が相加的になって、呼吸 中枢での最大の興奮性入力であるセロトニンの機能を低下させることが、発症の要因となると考えられている。 CFS でも 5-HTT の遺伝的要因に加えて環境要因と時期的要因が発症の基盤をなすと推測される。CFS では各種のウ イルス感染を示す抗体が患者血清中に検出され、ウイルス感染が病態の発症機序の一部であることが指摘されて きた。ウイルス感染が脳内セロトニン濃度を上昇させる要素となっていることを考え合わせると CFS の発症機序 を考える上で興味深い。 2) ヒドラペプチドに対する抗体で免疫陽性反応を示した細胞体と線維の分布は、これまでの報告のある proopiomelanocortin(POMC)とほとんど一致している。しかし、POMC と PKVamide では抗体が認識する C 末の 2—3 アミノ酸の組成が全く異なることから POMC 以外のペプチドである可能性が高い。事実、HPLC で分離したペプチド の配列は POMC とは全く異なることから 40 アミノ酸からなる新しい哺乳類神経ペプチドであると考えられる。 PKVamide の脳室内注入によりセロトニンとドーパミンの脳内濃度が変化したことから、当初目的としたモノアミ ン系の調節機能を有する新規ペプチドが存在する可能性がある。 ペプチドの脳内濃度はモノアミンの数千分の 1、グルタメイトの数十万分の 1 と極めて微量である。その為に新 しいペプチドの発見にはこれまで時として数万頭の動物を使用してきた。しかし、そうした従来の研究戦略では 脳の広い部位に比較的多くあるペプチドのみしか発見できなかった。限られた系や少ない部位にある少量のペプ チドを見いだすには従来とは異なる新しい戦略が必要になっている。本研究で試みた方法は神経系を持つ動物の うちで最も原始的であるヒドラのペプチドに対する抗体を利用する全く新しい戦略と言える。ヒドラには推定で 1300 種類のペプチドがあり、現在も進んでいる網羅的なヒドラペプチドの単離により、多くの哺乳類神経ペプチ ドの発見につながる可能性がある。 引用文献 [1] Okado, N., Cheng, L., Tanatsugu, Y., Hamada, S., and Hmaguchi, K. Synapse loss following removal of serotoninergic fibers in newly hatched and adult chickens. J. Neurobiol., 24: 687-698, (1993) [2] Chen, L., Hamaguchi, K., Ogawa, M., Hamada, S., and Okado, N., PCPA reduces both monoaminergic afferents and nonmonoaminergic snapses in the cerebral (cortex. Neurosci. Res., 19: 111-115, (1994) [3] Niitsu, Y., Hamada, S., Hamaguchi, K., Mikuni, M., and Okado, N., Regulation of synapse density by 5-HHT2A receptor agonist and antagonist in the spinal cord of chickn embryo. Neurosci. Lett., 195: 159-162, 1995 [4] Chen, L., Hamaguchi, K., Hamada, S., and Okado, N., Regional differences of serotonin-mediated synaptic plasticity in the chicken spinal cord with development and aging. J. Transplant. Plast., 6: 41-48, (1997) [5] Matsukawa, M., Ogawa, M., Nakadate, K., Maeshima ,T., Ichitani, Y., Kawai, N., and Okado, N., Serotonin and acetylcholine are crucial to maintain hippocampal synapses and memory acquisition. 121 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 Neurosci. Lett., 230:13-16, (1997) [6] Hayashi, A., Nagaoka, M., Yamada, K., Ichitani, Y., Miake, Y., and Okado,N., Maternal stress induces synaptic loss and developmental disabilities of offspring. Int. J. Dev. Neuroscience, 16:209-216, (1998) [7] Shutoh, F., Hamada, S., Shibata, M., Narita, M., Shiga, T., Azmitia and Okado, N., Long term depletion of serotonin leads to selective changes in glutamate receptor subunits. Neurosci. Res., 38:365-371, (2000) [8] Lesch K-P , Mosser R Genetically driven variation in serotonin uptake: Is there a link to affective spectrum, neurodevelopmental, and neurodegenerative disorders ? Biol Psychiatry 44 :179-192 (1998) [9] Cleare AJ, Bearn J, Allain T, McGregor A, Wessely S, Murray RM, O'Keane V. Contrasting neuroendocrine responses in depression and chronic fatigue syndrome. J Affect Disord 34:283-289 (1995) [10] Takahashi T, Muneoka Y, Lohmann J, Lopez de Haro MS, Solleder G, Bosch TC, David CN, Bode HR, Koizumi O, Shimizu H, Hatta M, Fujisawa T, Sugiyama T. Systematic isolation of peptide signal molecules regulating development in hydra: LWamide and PW families. Proc Natl Acad Sci U S A 94:1241-1246 (1997) [11] Narita N, Narita M, Takashima S, Nakayama M, Nagai T, Okado N Serotonin transporter gene variation is a risk factor for sudden infant death syndrome in Japanese population. Pediatrics 107 :690-692 (2000) 成果の発表 1)原著論文による発表 ア)国内誌(国内英文誌を含む) 1. Okado N, Narita M, Narita N (2001) A biogenic amine-synapse mechanism for mental retardation and developmental disabilities. Brain Devel, 23:S11-S15 イ)国外誌 1. Okado N, Narita M, Nartita N relationships (2001) A serotonin malfunction hypothesis by finding clear mutual between several risk factors and symptoms associated with sudden infant death syndrome. Med Hypoth, (in press) 2. Yamaguchi M, Suzuki T, Abe S, Baba A, Hori T, Okado N. (2002) Repeatedcocaine administration increases BAGAB(1) subunit m RNA rat brain. Synapse (in press) 3. Naka, F., Shiga, T., Yaguchi, M., and Okado, N. (2002) Enriched environments increase noradrenaline contents in the mouse brain. 4. Brain Res. 924:124-126 Abe S, Suzuki T, Ito T, Yamaguchi M, Baba A, Hori T, Kurita H, Shiraishi H, Okado N. (2001) Effects of single and repeated phencyclidine administration on the expression of metabotropic glutamate receptor subtype mRNAs in rat brain. Neuropsychopharmacology. 25(2):173-184. 5. Sakata-Haga H, Kanemoto M, Maruyama D, Hoshi K, Mogi K, Narita M, Okado N, Ikeda Y, Nogami H, Fukui Y, Kojima I, Takeda J, Hisano S. (2001) Differential localization and colocalization of two neuron-types of sodium-dependent inorganic phosphate cotransporters in rat forebrain. Brain Res. 902(2):143-55. 6. Narita N, Narita M, Takashima S, Nakayama M, Nagai T, Okado N. (2001) Serotonin transporter gene variation is a risk factor for sudden infant death syndrome in the Japanese population. 122 Pediatrics. 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 107(4):690-2. 7. Maxishima M, Shiga T, Shutoh F, Hamada S, Maeshima T, Okado N. (2001) Serotonin 2A receptor-like immunoreactivity is detected in astrocytes but not in oligodendrocytes of rat spinal cord. Brain Res. 889(1-2):270-3. 8. Shutoh F, Hamada S, Shibata M, Narita M, Shiga T, Azmitia EC, Okado N (2000) Long term depletion of serotonin leads to selective changes in glutamate receptor subunits. Neurosci Res. 38(4):365-71. 9. Yamaguchi M, Suzuki T, Abe S, Baba A, Ito T, Okado N. (2000) Time-course effects of a single administration of cocaine on receptor binding and subunit mRNAs of GABA(A) receptors. Brain Res Mol Brain Res. 81(1-2):155-63. 10. Masuda T, Okado N, Shiga T. (2000) The involvement of axonin-1/SC2 in mediating notochord-derived chemorepulsive activities for dorsal root ganglion neurites. Dev Biol. 224(2):112-21. 11. Ikemoto K, Nishimura A, Okado N, Mikuni M, Nishi K, Nagatsu I. (2000) Human midbrain neurons express serotonin 2A receptor: an immunohistochemical demonstration. dopamine Brain Res. 853(2):377-80. 12. Maeshima, T., Ito, R., Matsukawa, M., Usuba, M., and Okado, N., (1999) The central distribution pattern of primary afferent fibers innervating the thigh muscle posterior iliotibialis in the chicken. J. Brain Res., 3:389-390 2)原著論文以外による発表(レビュー等) ア)国内誌(国内英文誌を含む) 発表者名: 「発表題名」、発表誌名等〔誌名、掲載号、(掲載年)〕 イ)国外誌 発表者名: 「発表題名」、発表誌名等〔誌名、掲載号、(掲載年)〕 3)口頭発表 ア)招待講演 岡戸信男:Synaptic Plasticity by Biogenic Amines 、Experimental Biology 99, 1999 年 4 月 17 日 DC, Symposium on Regulatory Washington mechanisms underlying adult rat and human brain dynamics 岡戸信男:生体アミンによるシナプスの形成維持機能動物学会、平成 11 年 9 月 26 日、山形大学 岡戸信男:情動とセロトニン、平成 11 年度 平成 11 年 9 月 22 日 JST 異分野研究者交流促進事業 湘南国際村センター 岡戸信男:生体アミンによるシナプスの形成維持、平成 11 年度 ップ 「情と意」 ワークショップ 「脳のこころ」、 平成 11 年 10 月 10 日 JST 異分野研究者交流促進事業 ワークショ 大磯プリンスホテル 岡戸信男:Synaptic Mechanism for Mental Retardation and Developmental Disabilities、 Science Frontier Tsukuba 999、平成 11 年 11 月 18 日 筑波国際会議場 123 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 岡戸信男:The Early Lesions of the Aminergic Neurons and Behavior、レット症候群 2000 国際会議サテ ライトシンポジウム、平成 12 年 7 月 24 日、軽井沢プリンスホテル 岡戸信男:The Synaptic Mechanism for Developmental Disabilities、平成 12 年度 促進事業 JST 異分野研究者交流 ワークショップ、「脳を育む、学習の科学、平成 11 年度 11 月 24 日、大磯プリンスホテル 岡戸信男:生体アミン神経系の機能障害から子供の脳を守る:精神遅滞・発達障害と乳幼児突然死症候群の発 症機構、第 1 回日本赤ちゃん学会、シンポジウム:3 歳児神話を検証する、基礎医学の立場から、平成 13 年 4 月 10 日、早稲田大学国際会議場 イ)応募・主催講演等 Hamada S, Narita M, Okado N. (1999) Identification of rat cerebellar subtype of serotonin 2A receptor. Abst Soc Neurosci 484.6 Masuda T, Okado N, Shiga T. (1999) Involvement of axonin-1/SC2 in mediating the notochord-derived chemorepulsive activities for dorsal root ganglion axons. Abst Soc Neurosci, 511.3 Shutoh F, Hamada S, Narita M, Okado N (1999) Ketanserin modulates GluR2/3 receptor expression in the rat cerebral cortex. Abst Soc Neurosci 710.3 Yaguchi M, Narita M, Maeshima T, Shutoh F, Okado N. (2000) Evaluation of 5-hydroxytryptamine metabolism in the brain of apolipoprotein E-deficient mice. Abst Soc Neurosci, 665.13 Yaguchi M, Ishihara I, Shiga T, Okado N. (2001) Spacial Working memory was maintained in mature rats by noradrenaline removal. Abst Soc Neurosci, 77.13 4)特許等出願等 出願年月日、「出願名称」、出願者氏名、特許等番号 5)受賞等 受賞者名:「件名」、受賞年月日等 124 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 2. 慢性疲労症候群等の病的疲労の研究 2.1. 疲労感の脳担当部位とその役割の解明 2.1.3. 疲労状態における快情動の神経機構の解明 関西福祉科学大学社会福祉学部 教授・志水 彰 要 約 健常被験者 12 名を対象としてコミックビデオ視聴中の局所脳血流を PET を用いて測定し、笑いの表情と補足運 動野、左被殻の関連を報告した。次に健常被験者 6 名を対象として感情を伴わないつくり笑いの最中の局所脳血 流を H215O-PET を用いて測定し、作り笑いと比較した結果、笑いでは内側前頭前野、前頭眼窩野、左前部側頭葉、 左鉤、両側側頭後頭皮質、後頭葉皮質が賦活されることを示した。このうち内側前頭前野、前頭眼窩野は自覚的 な情動体験に、左前部側頭葉、左鉤、両側側頭後頭皮質、後頭葉皮質の賦活はコミックビデオの視覚処理過程に 関与すると考えられた。 男子健常被験者 21 名を対象として、80 分のコミックビデオ視聴により笑いの NK 活性上昇効果を示した。この 際情動的要素のないコントロール刺激視聴では NK 活性上昇は見られず、NK 活性の上昇が笑いによるものであるこ とが実証された。また同実験中の気分変化を質問肢を用いて測定した結果、笑いの疲労低減予防効果が示唆され た。慢性疲労症候群の患者を対象にして、笑いの NK 活性上昇効果、疲労低減予防効果を検証中である。 ATMT(Advanced Trail Making Test)を使用し、精神作業中の作業記憶の変動に注目し、疲労の評価定量する方 法の開発に着手した。 研究目的 疲労は身体の内部環境から発せられる神経性、液性(免疫系、内分泌系)の情報の個体に対する意味を認知し、 自覚的な疲労感を生じ、個体を休息行動へと導くシステムと理解される。一方で情動は身体の外部環境に存在す る刺激の個体に対する意味を認知し、自覚的な情動体験を生じ、個体を適応的行動へと導くシステムである。疲 労状態では個体は情動的に不安定となり、また快情動は疲労感を減少させ、不快な情動は疲労感を増悪させるこ とから疲労と情動は相互に影響しあっている。病的な疲労状態が長期間持続する慢性疲労症候群の患者でしばし ば情動面での障害も観察されることや、代表的な情動障害であるうつ病の患者でしばしば疲労感が主訴となるこ とも、両者の密接な関連を裏付けている。疲労と情動は共に生体アラームの一種であり、特有の自覚的な体験を 生じ、個体を生命の維持に適切な行動に導くという点では共通しておりその中枢神経回路に多くの共通点がある と予測される。疲労は漠然として捉えがたい現象であるが、情動は外部の刺激に対する中枢神経系の反応という 点で疲労に比べ生理学的に捉えやすい現象であり、疲労研究の出発点として情動研究を報告者らは選択した。 情動は認知、体験、表出の 3 つの過程に分けて考えられる(1)。まず第一に笑いの表情に関連している脳部位の 同定のため笑いの PET study を行い、ついで顔面の随意運動時の PET study を行い笑い時と比較することにより、 笑いにおける快の情動体験に関与する脳部位を同定することを目標とした。 近年、心身相関の観点から精神状態が身体に与える影響に関する研究が増加している。これらの研究は明るく 125 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 ポジティブな精神状態が身体疾患の予防や治療に有利に働くことを示している(2)。疲労に対し明るくポジティブ な精神状態や笑いが有効かという大規模な研究は行われていないが、笑いが疲労の予防、治療に有効である可能 性は高いと思われる。健常者においてコミックビデオ視聴前後での気分と NK 活性の変化を測定し、笑いによる疲 労感の予防低減の可能性を検証し、ついで健常者で見られた笑いの免疫賦活効果、疲労低減予防効果が CFS 患者 でも有効かどうか検討することを目標とした。 研究方法 [方法 1] 笑い、作り笑いの PET study 健常者 12 名(男性 6 名、女性 6 名)を対象に笑いの PET study を行った。被験者より本研究の趣旨を十分に説 明した上で文書にて本研究への参加の同意を得た。コミックビデオ視聴中に被験者に自由に笑うよう指示し、そ の間の局所脳血流量を H215O PET により測定した。一被験者あたり 12 回スキャンを行い、スキャンごとに異なる ビデオを放映した。ビデオの放映順は順序効果が生じないようランダムに放映した。1 本のビデオの放映時間は 215 秒であった。ビデオは被験者の眼前 40 cm の距離にモニターを設置して放映した。PET スキャンにより課題に よる局所脳血流量の変化を捉えるにはトレーサーが脳内に入り始めてからピークに達するまでの間に課題を行う 必要があることが知られているため(3)、この期間に最もおかしいシーンが放映されるようコミックビデオを編集 した。笑いによる顔面の運動により頭部が動くおそれがあるため、フェースマスクにより頭部を厳重に固定した。 笑いの量の測定のため、左右の大頬骨筋、眼輪筋の表情筋筋電図を測定した(4)。頭部での放射活性が上昇してい る期間の笑いの量を大頬骨筋筋電図の面積積分により定量し、各個人内で正規化した(5)。この正規化した値を便 宜上 EMG score と呼び、後の SPM99 による解析に使用した。各ビデオに対する快、悲しさ、嫌悪感の情動体験を 各スキャン直後に 10 点満点で自己評価させた。SPM99 による解析手順は以下のように行った。まず、頭部の動き を補正するために最初の emission scan にすべての PET scan の realignment を行った。次に各スキャン画像を標 準脳に変換し、 8mm full-width at half maximum の isotropic Gaussian kernel でフィルターをかけた。全脳 血流量による変動効果を除去するため、全脳血流量を 50 ml/100g/min となるよう正規化し、全脳血流量を共変量 として、ANCOVA 解析を行った。局所脳血流量と EMG score との相関関係を voxel ごとに統計学的に検定した。統計 学的推論には適切な design matrix を使用した。多重比較による検定で peak height が p<0.05 となるクラスターを 統計学的に有意な相関と判断した。P<0.001, uncorrected の有意水準を超えたクラスターを賦活傾向とした。 健常被験者 6 名が作り笑いの PET study に参加した。男性 3 名、女性 3 名、年齢 30-45 歳。被験者より本研究 の趣旨を十分に説明した上で文書にて本研究への参加の同意を得た。無声の特におかしさを誘発しないビデオ視 聴中に顔面の随意運動を被験者に行わせ、その間の局所脳血流量を H215O PET により測定した。一被験者あたり 8 回スキャンを行い、スキャンごとに異なるビデオを放映した。ビデオの放映順は順序効果が生じないようランダ ムに放映した。1 本のビデオの放映時間は 215 秒であった。ビデオは被験者の眼前 40 cm の距離にモニターを設置 して放映した。被験者はビデオ中に 4 秒間のキュー映像(車から人が降りるシーン)が放映されている間、顔面 の随意運動を行うよう教示された。PET スキャンにより課題による局所脳血流量の変化を捉えるにはトレーサーが 脳内に入り始めてからピークに達するまでの間に課題を行う必要があることが知られているため(3)、キュー映像 は放射活性が頭部で上昇を始めてから頂点に達するまでの 30 秒間に 0-3 回提示された。顔面の運動により頭部 が動くおそれがあるため、フェースマスクにより頭部を厳重に固定した。随意運動量の測定のため、左右の大頬 骨筋、眼輪筋の表情筋筋電図を測定した(4)。頭部での放射活性が上昇している期間の随意運動量を大頬骨筋筋電 図の面積積分により定量し、各個人内で正規化し EMG score を算出した(5)。この正規化した値を SPM99 による解 析に使用した。各ビデオに対する快、悲しさ、嫌悪感の情動体験を各スキャン直後に 10 点満点で自己評価させた。 SPM99 による解析手順は笑いの時と同様に行った。局所脳血流量と作り笑いの EMG score との相関関係を voxel ご 126 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 とに統計学的に検定した。6 名の被験者において笑い時と随意運動時の局所脳血流量を比較した。統計学的推論に は適切な design matrix を使用した。多重比較による検定で peak height が p<0.05 となるクラスターを統計学 的に有意な相関と判断した。P<0.001, uncorrected の有意水準を超えたクラスターを賦活傾向とした。 [方法 2] 笑いによる NK 活性上昇効果、疲労低減予防作用の検討 対象は若年成人男性 21 名。被験者全員に紙面により研究内容と目的を説明し同意を得た。実験の前日から実験 終了までの間、被験者には激しい運動を避け、睡眠を十分にとり、アルコール、喫煙、カフェイン、その他薬物 を摂取しないように指示した。検査当日の朝食は取らないよう指示した。上記対象者には全員、笑いとコントロ ールのビデオをそれぞれ別の日に 4 週間を越えない間隔で視聴してもらった。笑いとコントロールのビデオを視 聴する順序は被験者ごとにランダムに行い、ビデオ視聴の順序効果を除外した。ビデオの長さは共に約 75 分で、 シールドルーム内に設置した 14 インチモニターで放映した。NK 活性は日内変動があるため、両条件共、採血の時 間は視聴前の午前 7 時と、視聴後の午前 9 時に行った。検査項目は NK 活性、NK 細胞マーカー(CD16、CD56、CD57)、 赤血球数、白血球数、血小板数であった。両条件とも視聴中に左大頬骨筋筋電図、左側拇指球筋と前腕の GSR、左 第二指の指尖容積脈波、呼吸曲線、体動のポリグラフィー記録を行った。ビデオ視聴中の笑いは多用途デジタル 脳波計を用いて計測し、光ディスクに記録した。オフラインで 75 分間の筋電図の面積積分値により笑いの量を定 量した。また同時に、デジタルビデオカメラによる表情の記録も行った。心理学的な測定項目として、視聴した ビデオの自覚的なおかしさの評価を Visual Analogue Scale(VAS)を用いて測定した。10cm の棒線の右端を「こ れまで体験した最高のおかしさのレベル」、左端を「全く面白さがないレベル」とした。ビデオ視聴前後の気分を Profiles of Mood State(POMS)を用いて評価した。被験者の性格傾向や日常生活ストレスを測定する目的で 16PF 性格検査と Holmes & Rahe の日常生活ストレス尺度を施行した。 [方法 3] ATMT を用いた作業記憶の変動測定による疲労評価法の開発 梶本らの開発した ATMT を用いて、疲労による作業記憶の変動を定量評価する方法の確立を検討した。ATMT には 指標の位置の変わらない B 課題と、毎回指標の位置がすべて変化する C 課題があるが、B 課題では作業記憶により ボタン押しの反応時間の短縮効果が見られる。この短縮効果の見られたボタン押しの割合を計算することにより 課題遂行中の作業記憶を評価することが可能になる。少数の健常者における ATMT 長時間施行中のデータにおいて 作業記憶の変動を検討した。 研究成果 [結果 1] 笑い、作り笑いの PET study 笑いの際に、補足運動野と左被殻で笑いの量と局所脳血流量に有意な相関が見られ、これらの脳部位が笑いの 表情の生成に関連すると考えられた。 随意運動時に局所脳血流量と EMG score の間に補足運動野、両側の一次運動野などで相関傾向を認めた。笑い と随意運動との比較では、笑いにより後頭葉皮質(Brodmann's Area 18, 19; BA 18, 19)、両側後頭側頭葉皮質 (BA 37)、左前部側頭葉皮質(BA 38)、左鉤(BA 26)、前頭眼窩野(BA 11)、内側前頭前野(BA 9)に賦活を認 め(figure 2)、随意運動により左一次運動野顔面領域(BA 4)、補足運動野(BA 6)、precuneus(BA 7)、両側島 皮質に賦活を認めた(figure 3)。 [結果 2] 笑いによる NK 活性上昇効果、疲労低減予防作用の検討 筋電図による笑いの量は笑い刺激においてコントロール刺激よりも有意に多かった。笑い刺激前後で POMS の抑 うつ感、不安-緊張、怒り-敵意、混乱の項目の改善が、コントロール刺激前後では怒り-敵意、活気の項目の 127 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 有意な低下と疲労感の有意な増加が認められた。しかし笑い刺激とコントロール刺激を比較した場合、気分の変 化にもっとも有意な差が見られたのは疲労の項目であった。これらの結果は放映したビデオが被験者に対し期待 される効果を示したためと考えられた。(figure 4)。 笑い刺激前後で NK 活性の上昇が認められた(26.5%→29.4%, p<0.05, paired-t test)。しかし同一被験者に よるコントロール刺激前後では NK 活性に有意な変化はなかった(figure 5)。(27.1%→24.8%, not significant, paired-t test)。CD16、CD56 陽性リンパ球(=NK 細胞)の数はコミックビデオ視聴前後で有意な変化は見られな かったが、コントロール刺激前後で有意な低下が見られた(p<0.01, paired t-test)。笑い刺激前後の NK 活性上 昇は、笑い前、後ともに抑うつ、敵意-怒りなどの negative な気分と有意な負の相関を示した。笑い前、後の NK 活性は Visual analogue scale によるコミックビデオのおかしさの自己評価点と相関傾向を示した。 [結果 3] ATMT を用いた作業記憶の変動測定による疲労評価法の開発 B 課題では作業記憶による、ボタン押し反応の反応時間短縮効果が認められ、少数例での検討では、こうした効果はボ タン押し反応数全体の約 40%に認められることが判明した。この値は長時間の課題連続施行中に 30%以下から 50%以上の 間で変動することも確認された。現在 ATMT 連続施行を行った、疲労の PET study における ATMT のデータを解析中である。 考 察 前頭眼窩野は情動、報酬行動、判断、嗅覚、味覚などに関与するが、近年の研究では内側前頭眼窩野と報酬行 動との関連が報告されており(6), (7)、本研究で見られた前頭眼窩野の賦活は笑いの快感情と関連していると推 測された。内側前頭前野は多くの情動の activation study で賦活の見られており(8), (9)、情動体験を担う可能 性が示唆される部位である。前頭前野や前頭眼窩野が working memory を担っていることが近年の神経科学により 実証されつつある(10)。Working memory は意識的体験の神経基盤であるという議論もあり(11)、本研究で見られ た内側前頭前野、前頭眼窩野の賦活が笑いにおける情動体験を担っている可能性は十分に考えられる。本研究で 得られた知見をもとに笑いにおける視覚情動情報処理のメカニズムを模式的に表したものが figure 5 である。コ ミックの視覚情報は腹側経路を通り最終的には扁桃体で情動的な判断が下される。ここまでが認知の過程である。 扁桃体は情動的に重要な情報がきたと判断すると、back projection を介して視覚の初期過程をさらに活性化する。 扁桃体の情動的な情報は前頭眼窩野、内側前頭前野に伝達され快の情動体験を生じる。これが体験の過程に相当 すると思われる。笑いの表情は補足運動野、被殻を中心とした前頭基底ループで生成される。この回路で生成さ れた笑いの表情表出の司令は脳幹の顔面神経核を経て表情筋に伝達され、笑顔が表出される。これが表出の過程 になる。認知、体験、表出の過程に対応する脳部位はほぼ明らかにされたが、これらがどのように相互に情報を 交換しているかに関してはまだまだ不明な点が多く、今後の課題である。 笑いの神経回路から疲労の自覚的な体験に考察をすすめる際に重要なのは、笑いの情動体験の過程である。笑 いの情動体験の過程に対応する脳部位は内側前頭前野と前頭眼窩野である。このうち特に脳内報酬系の一部であ る前頭眼窩野が快の情動体験と密接な関連があると思われる。田島らのおこなった疲労の PET study の結果(私 信)もまた、前頭眼窩野と自覚的な疲労感との関連を示しており、ヒトの意識的体験と前頭眼窩野の関連、笑い と疲労の密接な関連を示唆すると言える。 笑い条件単独では、POMS による疲労の得点は変化しなかったが、コントロール刺激と比較した場合、もっとも 気分変化が顕著であったのは疲労の項目であり、笑い刺激が有意に疲労の増悪を予防したと考えられた(12)。こ れは実験環境の影響を除いた純粋な笑いの効果は、抑うつ、緊張不安、怒り敵意に対してでなく、疲労に対する ものであることを示している。 NK 活性は笑い刺激前後で上昇が見られた。しかしコントロール刺激ではNK活性の上昇は見られず、笑いによ るNK活性上昇が実証された。また、今回の実験では、コミックビデオの主観的な面白さと笑い前、後の NK 活性 128 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 との間に相関傾向が見られ、笑い前、後の POMS の negative な気分の得点と笑いによる NK 活性の上昇度との間に 有意な相関が認められ、笑いの NK 活性上昇効果は、客観的な笑いの量ではなく、主観的なおかしさの情動体験と 関連していることが示唆された(12)。 ATMT を用いた作業記憶の変動計測による疲労評価は、反応時間の短縮が作業記憶のみならず、次に押すべき指 標が注意視野に入っていることにより反応時間が短縮される効果も含んでおり、こうした作業記憶以外の要素に よる反応時間の短縮を除外する方法論の確立が、疲労評価の上で重要であることが現時点では指摘されている。 引用文献 [1] LeDoux, J.E. Emotion. In Handbook of Physiology. edited by Mountcastle, N.B., Plum, F., Geiger, S.R. American Physiological Society, Bethesda, 419-459, 1987 [2] 志水 彰「(笑い)の治癒力」PHP研究所、1998 年 [3] Silbersweig DA, et al. Detection of thirty-second cognitive activations in single subjects with positron emission tomography: a new low-dose H2(15)O regional cerebral blood flow three-dimensional imaging technique. J Cereb Blood Flow Metab. 1993 Jul;13(4):617-629. [4] Fridlund AJ. & Cacioppo JT. Guidelines for human electromyographic reserch. Psychophysiology, 23: 567-589, 1986 [5] Iwase M. et al. Diminished facial expression despite the existence of pleasant emotional experience in schizophrenia. Methods Find Exp Clin Pharmacol 21: 189-194, 1999 [6] O’Doherty J. et. al. Abstract reward and punishment representation in the human orbitofrontal cortex. Nat. Neurosci. 4, 95-102 (2001) [7] Goel, V. & Dolan, R. J. The functional anatomy of humor: segregating cognitive and affective components. Nat. Neurosci. 4, 237-238 (2001) [8] Reiman, E. M. et. al. Neuroanatomical correlates of externally and internally generated human emotion. Am. J. Psychiat. 154, 918-925 (1997) [9] Teasdale, J.D. et. al. Functional MRI study of the cognitive generation of affect. Am. J. Psychiat. 156, 209-215 (1999) [10] 10.Goldman-Rakic, P. S. Regional and cellular fractionation of working memory. Proc. Natl. Acad. Sci. 93, 13473-13480 (1996) [11] 11. LeDoux, J. E. Emotion circuits in the brain. Annu. Rev. Neurosci. 23, 155-184 (2000) [12] 12. Takahashi, K. et. al. The elevation of natural killer cell activity induced by laughter in a crossover designed study. Int. J. Mol. Med. 8: 645-650 (2001) 成果の発表 1)原著論文による発表 ア)国内誌(国内英文誌を含む) 1. 梶本修身、太田妙子、柳本静子、杉中敏子、若年の慢性疲労症候群を対象とした精神疲労評価の試み Advanced-TMT 精神機能検査の開発、CAMPUS HEALTH、37: 195-198, 2001 2. 梶本修身、山下 仰、高橋清武、渡辺君人、松本和雄、志水 彰、高橋丈生、Trail-Making-Test を改良 した「ATMT 脳年齢推測・痴呆判別ソフト」の臨床有用性-タッチパネルを用いた精神作業能力テストの開 発-、新薬と臨牀、49: 448-459, 2000 129 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 イ)国外誌 1. K. Takahashi, M. Iwase, K. Yamashita, Y. Tatsumoto, H. Ue, H. Kuratsune, A. Shimizu and M. Takeda. The elevation of natural killer cell activity induced by laughter in a crossover designed study. Int. J. Mol. Med. 8: 645-650, 2001 2. M. Iwase, Y. Ouchi, H. Okada, C. Yokoyama, S. Nobesawa, E. Yoshikawa, H. Tsukada, M. Takeda, K. Yamashita, M. Takeda, K. Yamaguti, H. Kuratsune, A. Shimizu and Y. Watanabe. Neural substrates of human facial expression of pleasant emotion induced comic films: a PET study. under submission. 3. T. Shimizu, Shimizu A, Yamashita K, Iwase M, Kajimoto O, Kawasaki T,et al, Comparison of Eye-Movement Patterns in Schizophrenic and Normal Adults during Examination of Facial Affect Displays. Perceptual and Motor Skills 91: 1045-1056, 2000 2)原著論文以外による発表(レビュー等) ア)国内誌(国内英文誌を含む) 1. 志水 彰、岩瀬真生: 「笑いと疲労」、疲労の科学、井上正康・倉恒弘彦・渡辺恭良編、講談社サイエンテ ィフィク、(2001) 2. A. Shimizu, Laughter---The perfect Prescription. Japan Quarterly, January-March, 50-57, 2001 3. M. Iwase, Y. Ouchi, H. Okada, C. Yokoyama, S. Nobesawa, E. Yoshikawa, H. Tsukada, M. Takeda, K. Yamashita, M. Takeda, K. Yamaguti, H. Kuratsune, A. Shimizu and Y. Watanabe. A H215O-PET study on the distinct neural substrates of laughter and voluntary facial movement. Neurosci. Res. Suppl 25, S153, 2001 4. S. Tajima, S. Yamamoto, M. Iwase, S. Kajimoto, E. Yoshikawa, H. Onoe, C. Yokoyama, H. Okada, F. Nakamura, H. Tsukada, H. Kuratsune, A. Shimizu, T. Miike, Y. Ouchi and Y. Watanabe. Evaluation of fatigue during PET activation study. Neurosci. Res. Suppl 25, S153, 2001 5. M. Iwase, Y. Ouchi, H. Okada, C. Yokoyama, M.Takeda, H. Kurastune, A. Shimizu and Y. Watanabe. Neural substrate of human laughter revealed by PET. Neurosci. Res. Suppl 24, S49, 2000 イ)国外誌 該当なし 3)口頭発表 ア)招待講演 1. 志水 彰: 「笑いと脳と健康」、グランキューブ大阪、第 97 回日本精神神経学会総会、(2001 年 5 月 17 日) 2. 志水 彰:「笑いと疲労回復」、大阪大学銀杏会館、第 7 回慢性疲労症候群研究会、(2002 年 2 月 14 日) 3. 岩瀬真生: 「科学が明かす笑いと健康、笑いと脳」、大阪市民学習センター、第 29 回日本笑い学会研究会、 (2001 年 11 月 20 日) イ)応募・主催講演等 該当なし 4)特許等出願等 該当なし 130 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 2. 慢性疲労症候群等の病的疲労の研究 2.1. 疲労感の脳担当部位とその役割の解明 2.1.4. 疲労状態における脳活動・神経回路の解明 (財) 大阪バイオサイエンス研究所大阪市立大学大学院医学研究科 渡辺 要 恭良 約 1)疲労動物モデルの開発と疲労評価 疲労状態における脳活動・神経回路を解明するため、複合ストレスをラットに負荷して疲労動物を作成する試 みを行い、また、疲労の定量的な評価方法についても検討を行った。初年度は、複合ストレス(高所振動ストレ ス、光刺激ストレス、猫臭いストレス、水浸ストレス)を毎日定時に各 30 分間、10 日間連続負荷による疲労動物 を作成しようとしたが、1 日目には少し疲労したかのような行動が出るものの、余り劇的な行動量の低下などが見 られず、かえって日を追って元気になっていくような評価結果が出てきた。この結果を鑑み、ピペット洗浄機に ラットを投入し、迫り来る水の恐怖からのパニックと、救命のために垂らされたロープを使って水から逃れると いう日頃行わない運動のために、30 分間の負荷で取り出しても 1 時間以上も動かない疲労困憊モデルを作成する ことに成功した。また、一方で、ケージの中に浅く張った水の中で毎日を過ごす断眠による過労死モデルをも作 成し、その行動評価と血中・脳内物質変化を追跡した。双方のモデルともに、前頭葉などの限局した脳部位での グルコース消費の低下、脳内のモノアミンレベルに変化があることが判明した。また、疲労感に関わる脳部位を 探るために、神経の活動状況の指標となる c-fos 蛋白の発現を免疫組織化学法によって調べ、脳幹などの脳の複 数領域での c-fos 蛋白の発現上昇を見出した。後者のモデルに対して,疲労回復策と考えられる物質の投与を試み, アスコルビン酸,テトラハイドロバイオプテリンの効果が判明した。 2)脳酸化状態モデルにおける変化 中枢神経疲労の動物モデルの一つとして、中枢神経が過度に長時間活動したときに引き起こされると考えられ る中枢神経組織酸化動物を作製し、行動及びその神経活動や脳血流の変化を観察した。中枢神経組織酸化は脳内 目的領域への光増感色素の投与と同領域への脳外からの光照射によって達成した(光酸化法)。光酸化法により限 局された脳内目的領域のみを短時間に、またさまざまな程度に酸化することに成功した。このモデルにおいても、 モノアミンの変化や、脳波の徐波化など、疲労の要素を見出すことができた。 3)ヒト疲労度の定量的評価と疲労担当脳部位 ヒトにおいても、精神的疲労や運動後疲労を起こし、その疲労度を定量的に把握する方法を行動ビデオや集中 力検査法で明らかにすることができるデータを得た。また、味覚などとそれらを想起することにより、脳活動度 をfMRIで測定できることが判明し、その回路活動を指標にして、疲労度の客観的評価による指標との対応を つける研究を進めた。 4)ヒト疲労状態における脳活動の変化部位 131 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 集中力検査法の一つである Advanced Trail Making Test (ATMT) を少し長時間行うことができるように改良し て疲労負荷かつ評価の手段として用い、次々と PET scan を行い、局所脳血流量の変化(脳活動部位の変化)を定 量した。疲労度には、Visual Analogue Scale (VAS) を用いて、それとの相関性が高い脳部位を検出した。疲労 度と相関して、大脳皮質ブロードマン 11 野の一部の活動が上昇することが判明した。この部位が、実際に疲労感 と関係するのかどうかは、異なった疲労負荷により共通項として抽出される必要がある。 研究目的 疲労の基礎研究の中では、ヒト疲労に近い状態の動物モデルの開発、ヒト・動物での疲労度の定量的指標の確 立、疲労度指標物質、疲労防御物質の発見が重要であろうと考えるが、未だどの点をとっても確固たるものはな い。そこで、本研究では、これら 4 点を相関性のあるテーマとして、各班員の研究結果と合わせながら、総合的 に検討することを目標としてきた。 ラット、サルなどで複数のストレスをかけて疲労状態にし、その際の脳活動を PET などを用いて非侵襲的に測 定した。この際、ラットの研究においては、新しい疲労モデル動物を作成することを試み、その行動量・姿勢・ 運動初速度などで、疲労度を評価した。様々な疲労状態を作り出して、PET 計測や脳内神経伝達物質・エネルギー 基質・還元系物質の測定などによる脳内指標や、血液中の代謝物や酸化物、コーチゾル、サイトカインなどの代 謝・免疫指標で疲労度との相関関係を探ってみた。この相関には、後半の研究で、脱疲労薬剤を用いて、そのよ うな指標の変化を探ることを目標にし、疲労回復戦略法の評価系の一つとした。 一方、ヒトでは、主に PET を用いて、疲労・ストレスの自己申告と行動変化に関わる多点ビデオ解析や頭脳作 業能力の低下による客観的評価を横軸にして、脳内メカニズムを探ってきた。精神心理的テスト(Advanced Trail Making Test, ATMT)を用いて、精神神経活動における指標化を行った。動物と同じく、ヒトでも村田班員らによ って作られた疲労軽減対策のデータベースに従い、その代表的な疲労軽減策を脳内指標の改善という観点で検討 を行うことを目標にして計測系を確立することを目的とした。 研究方法と研究成果 1)疲労動物モデルの開発と疲労評価 初年度より、我々は疲労モデル動物の開発と疲労の評価を行っている。初年度は、複合ストレスによる疲労モ デルを構築しようとしたが、連日の複合ストレス負荷によっては、ストレス耐性動物を作ることになり、慢性そ して比較的軽いストレスによる疲労モデル動物作成は非常に難しいことが判明した。平成 12~13 年度は、2 種類 の新規モデルを開発し、そのいずれもがかなりの疲労度を示し、モデルとして十分であるが、一方は、日を追っ て適応する疲労回復のヒントになるモデルであり、他方は、過労死モデルとも言うべき疲労困憊モデルである。 ①藁をもつかむモデル 近年、ツムラ漢方生薬研究所では、比較的短時間の水浸拘束ストレスを連日施行して慢性ストレスモデルを作 成した。それにヒントを得て、今回は、7 週令の SD 系雄性ラットに、ロープを懸垂した水位変化式水槽内で強制 水泳を行わせると,水からの脱出行動を試み続け、30 分間の負荷により、直後は体幹を横たえたまま自力では起 立不能な程度の厳しい疲労を誘発することができた。15℃水温下で負荷した後、初めて歩き出すまでに、負荷初 回には 54±26 分間の時間を要した。また身震いまでの時間は 86±26 分間であった (mean±SD, n=12)。毎日の負 荷によりこれらの時間は 3 日目では 38±24 分間,68±13 分間,6 日目で 25±18 分間,22±12 分間,10 日目では 0 分間,15±12 分間であった。徐々に行動開始時間は早くなるものの、疲労困憊の程度から、この強制水泳変法 を負荷したラットは疲労モデル動物としてこれからの疲労研究に有用であると考えられた。23℃水温中での負荷 132 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 やトレッドミル強制走行 (20 m/分)を 60 分間負荷しても、直後に歩行を開始したので、そのような系では、この 15℃水温下負荷モデルほどの疲労困憊の状況を作り出すことはできないことが判明した。 さらに、水温を一定に調整できるようにした装置を開発して、15±0.5 ℃の水温環境下で強制水泳負荷を明期 の後半にかけたラットの、負荷直後から翌日までの長時間の行動をビデオにて撮影録画し、その運動距離と最大 運動速度を測定した。その結果、負荷直後 30 分間の最大運動速度は低下した。また負荷後 3 時間の運動量はコン トロール群に比べ増大がみられた。 さまざまな血液中の生化学的パラメータを負荷直後、負荷翌日、3 日目負荷直後、3 日間負荷翌日に分けて比較 した。グルコース,乳酸、遊離脂肪酸、ケトン体、pH、グルタチオンなどは負荷直後に変化するが翌日にはコン トロール値に戻るパターンを示した。ピルビン酸は初日負荷時には増大するが、3 日負荷直後ではそれほど増加し なかった。アスコルビン酸は負荷直後に減少するが、1 日負荷直後よりも 3 日目負荷直後の方がより減少し、3 日 負荷翌日にはコントロールレベルまで戻らない傾向がみられた。疲労負荷最終日に両群から血液・脳脊髄液、脳 などの臓器を採取し,疲労病態に関連する物質についての検討を行った。SH基を含有する化合物、グルタチオ ン、アスコルビン酸などの脳内濃度は、ほとんど変化しなかった。 脳へのグルコースの取り込み量は、マイクロPETでは前頭部の低下が顕著であり、脳スライス法を用いて計 測した方法では、前頭皮質、外側眼窩皮質、前帯状回、海馬、尾状核・被殻で約 80%に減少し、内側中隔核、視 床では、約 20%上昇、橋核、背側縫線核、背側被蓋、前庭神経核、小脳では、約 40%の上昇を認めた。脳内モノ アミン量の変動もかなり顕著に見られた。 ②断眠−過労死モデル ラットを休息不能な状態で飼育することで疲労動物モデルの作成を試み、同時に疲労評価系の確立および疲労 状態における種々の生化学パラメーターの変化を検討した。7 週齢の SD 系雄性ラットを床敷きの代わりに水温 23℃の 1.5 cm 水深ケージにて 1 日、2 日、5 日、7 日飼育することにより疲労負荷を行い、オープンフィールド および重り負荷強制水泳テストを用いて行動の評価を行った。オープンフィールドでの 1 時間の移動距離は、1 日、 7 日飼育群では、やや減少したものの、有意な変化は見られなかった。一方、体重の 8%の重りを負荷した状態で 遊泳させ 10 秒以上鼻が水没してしまうまでの時間を測定した「重り負荷強制水泳テスト」では、1 日飼育群で変 化は見られなかったが、2 日、5 日、7 日飼育群では重りに抗った遊泳が充分にはできなくなり、より短時間で水 没した(図 1)。5 日飼育の後 5 日通常床敷きにて飼育した群ではコントロール群と比べて水没時間には差がなか った。また、5 日飼育群とほぼ同じ体重変化した 1 日 7.5 g の餌制限群では、通常床敷きで 5 日飼育した群の水 没時間と比べて差がなかった。5 日、7 日飼育群いずれも胃潰瘍を有したラットはいなかった。以上より、この動 物は疲労モデルと考えられ、疲労度の評価に重り負荷強制水泳テストが有効であることが示唆された。 5 日飼育群の血液中の糖、総蛋白、アルブミン、総コレステロール、トリグリセライド、乳酸、ピルビン酸、尿 酸、遊離脂肪酸、ケトン体、カルニチン類、アスコルビン酸、グルタチオン、脳・肝臓・腎臓のアスコルビン酸、 グルタチオン、脳脊髄液中のテトラヒドロバイオプテリンをそれぞれ測定した。 脳脊髄液中のテトラヒドロバイオプテリン量は、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなどのモノアミン類 の生合成・代謝回転に比例する指標となるが、この量が、5 日疲労負荷では大幅に低下することが判明した(図 2) 。 以下の表(Table 1)のように、物質代謝においても、このモデルでは大きな変化があることが判明した。 次に,これらの動物の回復過程変化に重きをおき,回復過程でのパラメータ変化を検討した。また,アスコル ビン酸やテトラハイドロバイオプテリンなど,後者のモデル動物で低下した物質の補充療法を行い,これらが, 奏功することが判明した(図 3)。ストレス,うつ病や慢性疲労症候群患者に効果があるとされるセロトニン選択 的再取り込み阻害剤(Serotonin Selective Reuptake Inhibitor, SSRI)の代表的な薬剤である Fluoxetine の投 与は,このモデルでは効果を見出すことができなかった。 133 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 ## Swimming Time (sec) 400 300 200 * ** 100 0 ** control 1d 2d 5d 7d 5d+5d 図 1.断眠−過労死モデルの重り負荷強制水泳テストの結果 体重の 8%の重りを負荷した状態で遊泳させ 10 秒以上鼻が水没して しまうまでの時間を測定した。dは、疲労負荷を行った日数。 (pmol/ml) 300 200 ** 100 0 control fatigued 図 2.5 日疲労負荷動物の脳脊髄液中テトラヒドロバイオプテリン量 134 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 Table1. Swrological biochemical paramenters of the fatigued rats control Glucose (mg/dl) 112.2 ± 10.5 fatigued 70.9 ± 7.6** Total protein (g/dl) 6.0 ± 0.4 5.5 ± 0.2** Albumin (g/dl) 4.5 ± 0.2 4.0 ± 0.2** Total cholesterol (mg/dl) 60.1 ± 10.9 71.8 ± 8.6* Triglyceride (mg/dl) 27.8 ± 7.3 10.0 ± 2.2** Free fatty acid (mEq/l) 0.7 ± 0.1 1.3 ± 0.2** Ketone body (mM) 1.4 ± 0.3 3.8 ± 0.4** S wimming Time (sec ) *P<0.05, significantly different from the control, Mann-Whitney U test. **P<0.01, significantly different from the control, Mann-Whitney U test. The number of rats was ten in each groups. 250 * 200 150 * 100 50 0 Fatigued Fluoxetine R-BH4 Ascorbic Acid Control (10 mg/kg)(20 mg/kg) (300 mg/kg) Mean± SEM 図 3.疲労に対するセロトニン選択的再取り込み阻害剤(Serotonin Selective Reuptake Inhibitor, SSRI) , テトラハイドロバイオプテリン(R-BH4),アスコルビン酸の効果 負荷 5 日目の過労死モデル動物に対し,重り負荷水泳テストで疲労度を判定した。それぞれの投薬は,負荷 1 日目から毎日 連続投与。*印は,P<0.05 で疲労動物群との統計的有意差がある。 135 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 2)脳酸化状態モデルにおける変化 一方、中枢神経疲労の動物モデルの一つとして、中枢神経が過度に長時間活動したときに引き起こされると考 えられる中枢神経組織酸化動物を作製し、動物行動及びその神経活動や脳血流の変化を観察した。中枢神経組織 酸化は脳内目的領域への光増感色素の投与と同領域への脳外からの光照射によって達成した(光酸化法)。光酸化 法により限局された脳内目的領域のみを短時間に、またさまざまな程度に酸化することに成功した。その結果、 酸化された脳内領域で一過性に興奮性シナプス伝達機能が抑制されることに加え、脳波及び筋電図測定の結果、 自由行動下のラット大脳皮質への光酸化が、その後数時間にわたる睡眠徐波の増加とそれに同期した筋肉運動量 の低下を引き起こすことが見い出され、中枢神経組織酸化が眠気あるいは睡眠の誘発に深く関わっている可能性 が示唆された。 本法を用いてラット大脳皮質の局所領域を強く酸化すると、酸化領域の細胞集団が同期して持続的に脱分極し、 これが発生源となって大脳半球全体へ脱分極波が次々と伝播する現象(Spreading depression)を見い出した。また、本現 象の直後、脳内の c-Fos 発現を免疫組織化学法にて調べた結果、酸化側大脳皮質のほとんどの神経細胞が陽性所見を 示していた。さらに、この異常な脱分極波が起こった後数時間は、同側大脳半球で徐波睡眠量が増加することを脳波記録 により確認した。以上の事実は、c-Fos を発現するような過度の神経興奮が脳の広範囲で引き起こされると、その後睡眠が 誘発されることを意味している。本現象は霊長類でも確認でき、われわれ人間においても共通する脳内機構であると考えら れる。われわれが日常経験する頭脳労働やストレスは神経細胞の過度の興奮持続状態であり、その結果、危険回避信号と して疲労感や眠気を脳が感じているならば、本動物モデルはわれわれの脳内で起こっている中枢神経疲労及び疲労回復 機構を内包しているものと期待できる。現在、本動物モデル及び他の疲労動物モデルにおける c-Fos 発現様式を比較検 討しながら、脳内疲労知覚担当部位の探索と睡眠誘発までの脳内機構の解明を急いでいる。 3)ヒト疲労度の定量的評価と脳内機構 行動ビデオを用いたシステムやATMT法による評価については、別紙の倉恒による「疲労の定量化及び指標 化技術の開発」の報告書を参照されたい。ここでは、主に、疲労状態における知覚異常・鈍麻を検定するための 方法について報告する。fMRIを用いて、嗅覚刺激、味覚刺激、および、それらの複合刺激を行い、また、実 際の知覚体験でなく、それらの想起による脳機構や回路について、引き続き検討を行った。その結果、疲労のな い健常被験者では、嗅覚や味覚、それらの連合刺激について、対応する中枢部位である眼窩前頭皮質(Brodmann’s 11)や島皮質弁蓋部などが活性化されている様子が検出され、また、それらの想起(例えば、レモンの、などの 質問を提示することによって、想起を促す)によっても対応する中枢部位が活性化することが判明した。これを 用いて、疲労負荷後の反応量の変化を探っている。 4)ヒト疲労状態における脳活動の変化部位 集中力検査法の一つである Advanced Trail Making Test (ATMT) を少し長時間行うことができるように改良し て疲労負荷かつ評価の手段として用い、固定視のコントロール課題を含めて 10 回の PET scan をそれぞれの被験 者に対して行い、局所脳血流量の変化(脳活動部位の変化)を定量した。疲労度には、Visual Analogue Scale (VAS) を用いて、それとの相関性が高い脳部位を検出した。疲労度と相関して、大脳皮質ブロードマン 11 野の一部の活 動が上昇することが判明した(図 4a~c)。この部位が、実際に疲労感と関係するのかどうかは、異なった疲労 負荷により共通項として抽出される必要がある。 136 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 13 11 14 図 4a.PET 内にてタッチパネルスクリーン上の数字を 11 から 99 まで順にタッチ 図 4b.タスクにより血流が抑制される領域 図 4c.自覚的疲労感と相関して血流が増加する領域(ブロードマン 11 野) 137 12 15 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 考 察 1)疲労動物モデルの開発と疲労評価 慢性疲労動物モデルの開発は容易でなく、様々なストレス負荷に対して、動物はかなり高い適応を示すことが判明 した。今後は、負荷の漸増的あるいは倍加的なかけ方を検討する必要がある。そのような議論の中で、この第 1 期研 究においては、スーパー回復疲労モデルと過労死モデルの双方を作成することに成功し、その行動評価により、疲労 モデルといえるものであることが判明した。これらの疲労動物においては、糖代謝の脳局所的低下、モノアミン変化、 遺伝子発現の変化などかなりのパラメーターの変化を示すことができたので、複数のモデルを比較検討しつつ回復過 程のメカニズムを探りながら、今後の疲労回復促進や疲労予防に関する研究効率を上げて行きたい。 2)脳酸化モデルにおける変化 この中枢神経組織酸化モデル動物を用い、中枢神経疲労と脳組織酸化との関わりや中枢神経疲労を検出するた めの脳内神経回路システムを解明し、脳が疲労感を覚える生理的意義や疲労感が他の中枢神経機能へ与える影響 等を明らかにしたい。疲労と睡眠の関わりは強く、第 2 期においては、睡眠による疲労回復のメカニズムも含め て検討していきたい。 3)ヒト疲労度の定量的評価と脳内機構 上記のような基礎研究を通して、さらに巧みな疲労度定量評価方法を確立して、疲労状態における脳活動・神 経回路を解明する一方で、その治療法について第 2 期研究を進めたい。知覚反応などは、fMRIなどで追跡で きることが確立できたので、これらの脳内反応を指標にして、疲労状態における知覚系がどのように変化するか を、健常人における疲労負荷と慢性疲労症候群の患者などで検討していきたい。 4)疲労感の担当部位 世界初の疲労感担当部位に関する情報が得られたが、これは、一つの疲労負荷方法により得られたものであり、 今後、他の疲労負荷方法によっても同じ部位の活動性(脳局所血流量)が上昇するのかどうかを検討していく。 成果の発表 1)原著論文による発表 ア)国内誌[発表題名、発表者名、発表誌名等(雑誌名、巻、号、頁、年 等)] (計 0 件) イ)国外誌[発表題名、発表者名、発表誌名等(雑誌名、巻、号、頁、年 等)] (計 1. 28+(3) 件) Differential expression of immediate-early genes, c-fos and Zif268 in the visual cortex of young rats: effects of a noradrenergic neurotoxin on their expression. Yamada, Y., Hada, Y., Imamura, K., Mataga, N., Watanabe, Y., and Yamamoto, M.: Neurosci., 92: 473-484, 1999. 2. A novel subtype of prostacyclin receptor in the central nervous system. Watanabe, Yu., Matsumura, K., Takechi, H., Kato, K., Morii, H., Björkman, M., Långström, B., Noyori, R., Suzuki, M., and Watanabe, Y.: 3. J. Neurochem., 72: 2583-2592, 1999. Major population of 85-kDa cytosolic phospholipase A2 mRNA signals localized in neurons in the rat brain. 138 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 Kishimoto, K., Matsumura, K., Kataoka, Y., Morii, H., and Watanabe, Y.: Neurosci., 92: 1061-1077, 1999. 4. Developmental regulation of intracellular calcium by N-methyl-D-aspartate and noradrenaline in rat visual cortex. Kobayashi, M., Imamura, K., Kaub, P.A., Nakadate, K., and Watanabe, Y.: Neurosci., 92: 1309-1322, 1999. 5. Quantitative autoradiography with short-lived PET tracers: A study on muscarinic acetylcholine receptors with N-[11C]methyl-4-piperidylbenzilate. Sihver, S., Sihver, W., Bergström, M., Heglund, A.U., Sjöberg, P., Långström, B., and Watanabe, Y.: 6. J. Pharmac. Exp. Ther., 290: 917-922, 1999. CNS-specific prostacyclin ligands as a novel class of candidates for therapeutic agents against neuronal death. Satoh, T., Ishikawa, Y., Kataoka, Y., Cui, Y., Yanase, H., Kato, K., Watanabe, Yu., Nakadate, K., Matsumura, K., Hatanaka, H., Kataoka, K., Noyori, R., Suzuki, M., and Watanabe, Y.: Eur. J. Neurosci., 11: 3115-3124, 1999. 7. In vivo positron emission tomography studies on the novel nicotinic receptor agonist [11C]MPA compared with [11C]ABT and (S)(-)[11C]nicotine in rhesus monkeys. Sihver, W., Fasth, K-J., Ögren, M., Bergström, M., Nordberg, A., Watanabe, Y., and Långström, B.: Nucl. Med. Biol., 26: 633-640, 1999. 8. Protective effect of prostaglandin I2 analogs on ischemic delayed neuronal damage in gerbils. Cui, Y., Kataoka, Y., Satoh, T., Yamagata, A., Shirakawa, N., Watanabe, Yu., Suzuki, M., Yanase, H., Kataoka, K., and Watanabe, Y.: 9. Biochem. Biophys. Res. Commun., 265: 301-304, 1999. Selective suppression of horizontal propagation in rat visual cortex by norepinephrine. Kobayashi, M., Imamura, K., Sugai, T., Onoda, N., Yamamoto, M., Komai, S., and Watanabe, Y.: Eur. J. Neurosci., 12: 264-272, 2000. 10. Uptake of 14 C- and 11 C-labelled glutamate, glutamine and aspartate in vitro and in vivo. Wu, F., Örlefors, H., Bergström, M., Antoni, G., Omura, H., Eriksson, B., Watanabe, Y., and Långström, B.: Anticancer Res., 20: 251-256, 2000. 11. Linear and nonlinear interactions between horizontal and vertical inputs to pyramidal cells in the superficial layers of the cat visual cortex. Yoshimura, Y., Sato, H., Imamura, K., and Watanabe, Y.: 12. In vivo distribution of 76Br-labeled J. Neurosci., 20: 1931-1940, 2000. antisense phosphorothioate oligonucleotides to Chromogranin A sequence in rats. Wu, F., Yngve, U., Hedberg, E., Honda, M., Lu, L., Eriksson, B., Watanabe, Y., Bergström, M., and Långström, B.: Eur. J. Pharmc. Sci., 10: 179-186, 2000. 13. A metabolic threshold for irreversible ischemia demonstrated by PET in a middle cerebral artery occlusion-reperfusion primate model. Frykholm, P., Andersson, J.L.R., Valtysson, J., Silander, H. C., Hillered, L., Persson, L., Olsson, Y., Yu, W. R., Westerberg, G., Watanabe, Y., Långström, B., and Enblad, P.: Acta Neurol. Scand., 102: 18-26, 2000. 14. Neovascularization with blood-brain barrier breakdown in delayed neuronal death. Kataoka, Y., Cui, Y., Ymada, H., Utsunomiya, K., Niiya, H., Yanase, H., Nakamura, Y., Mitani, A., Kataoka, K., and Watanabe, Y.: Biochem. Biophys. Res. Commun., 273: 637-641, 2000. 15. Facilitatory roles of novel compounds designed from cyclopentenone prostaglandins on neurie 139 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 outgrowth-promoting acitivities of nerve growth factor. Satoh, T., Furuta, K., Tomokiyo, K., Nakatsuka, D., Tanikawa, M., Nakanishi, M., Miura, M., Tanaka, S., Koike, T., Hatanaka, H., Ikuta, K., Suzuki, M., and Watanabe, Y.: J. Neurochem., 75: 1092-1102, 2000. 16. Rapid methylation for the synthesis of a 11 C-labeled tolylisocarbacyclin imaging the IP2 receptor in a living human brain. Suzuki, M., Doi, H., Kato, K., Björkman, M., Långström, B., Watanabe, Y., and Noyori, R.: Tetrahedron, 56: 8263-8273, 2000. 17. Synthesis of a 11C-labelled prostaglandin F2 analogue using an improved method for Stille reactions with [11C]methyl iodide. Björkman, M., Doi, H., Resul, B., Suzuki, M., Noyori, R., Watanabe, Y., and Långström, B.: J. Labelled Cpd. Radiopharm., 43: 1327-1334, 2000. 18. Control of neurotransmission, behavior, and development, by photo-dynamic manipulation of tissue redox state of brain targets. Kataoka, Y., Morii, H., Imamura, K., Cui, Y., Kobayashi, M., and Watanabe , Y.: Eur. J. Neurosci., 12: 4417-4423, 2000. 19. Designed prostaglandins with neurotrophic activities. Furuta, K., Tomokiyo, K., Satoh, T., Watanabe, Y., and Suzuki, M.: Chembiochem., 283-286, 2000. 20. Cyclopentenone prostaglandin derivatives as novel neurotrophic compounds for CNS neurons. Satoh, T., Furuta, K., Tomokiyo, K., Namura, S., Sugie, Y., Ishikawa, Y., Hatanaka, H., Suzuki, M., and Watanabe, Y.: J. Neurochem., 77: 55-62, 2001. 21. Coexpression of microsomal-type prostaglandin E synthase with cyclooxygenase-2 in brain endothelial cells of rats during endotoxin-induced fever. Yamagata, K., Matsumura, K., Inoue, W., Shiraki, T., Suzuki, K., Yasuda, S., Sugiura, H., Cao, C., Watanabe, Y., Kobayashi, S.: J. Neurosci., 21: 2669-2677, 2001. 22. Pyrogenic cytokines injected into the rat cerebral ventricle induce cyclooxygenase-2 in brain endothelial cells and also upregulate their receptors. Cao, C., Matsumura, K., Shirakawa, N., Maeda, M., Jikihara, I., Kobayashi, S., and Watanabe, Y.: Eur. J. Neurosci., 13: 1781-1790, 2001. 23. Effects of monocular deprivation on the expression pattern of Alpha-1 and Beta-1 adrenergic receptors in the kitten visual cortex. Nakadate, K., Imamura, K., and Watanabe, Y.: Neurosci. Res., 40: 155-162, 2001. 24. Middle cerebral artery occlusion and reperfusion in primates monitored by microdialysis and sequential positron emission tomography. Enblad, P., Frykholm, P., Valtysson, J., Silander, H.C., Andersson, J., Fasth, K.J., Watanabe, Y., Långström, B., Hilleled, L., and Persson, L.: Stroke, 32: 1574-1580, 2001. 25. Activity-dependent neural tissue oxidation emits intrinsic ultraweak photon. Kataoka, Y., Cui, Y. L., Yamagata, A., Niigaki, M., Hirohata, T., Oishi, N., and Watanabe, Y.: Biochem. Biophys. Res. Commun., 285: 1007-1011, 2001. 26. Changes in mACh, NMDA, and GABAA receptor binding after lateral fluid-percussion injury: in vitro autoradiography of rat brain frozen sections. Sihver, S., Marklund, N., Hillered, L., Långström, B., Watanabe, Y., Bergström, M.: 140 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 J. Neurochem., 78: 417-423, 2001. 27. N-(2-Chloroethyl)-N-ethyl-2-bromobenzylamine (DSP-4) reduces intracellular carcium response to noradrenaline in rat visual cortex. Yamamoto, M., Imamura, K., Kobayashi, M., Nakadate, K., Yokoyama, C., Watanabe, Y., Yamamoto, M., and Negi, A.: Neurosci., 107: 209-218, 2001. 11 28. Enzyme catalysed synthesis of L-[4- C]aspartate and L-[5-11C]glutamate. Antoni, G., Omura, H., Ikemoto, M., Moulder, R., Watanabe, Y., and Långström, B.: J. Labelled Cpd. Radiopharm., in press, 2002. 29. Neural substrates of human laughter. Iwase, M., Ouchi, Y., Okada, H., Yokoyama, C., Nobesawa, S., Yoshikawa, E., Tsukada, H., Takeda, M., Yamashita, K., Takeda, M., Yamaguti, K., Kuratsune, H., Shimizu, A., and Watanabe, Y.: NeuroImage, in revision, 2002. 30. Brain regions involved in fatigue sensation: Reduced acetylcarnitine uptake into Brodmann’s area 9, 24, and 33 as measured by PET in patients with chronic fatigue syndrome. Kuratsune, H., Yamaguti, K., Lindh, G., Evengård, B., Hagberg, G., Matsumura, K., Iwase, M., Onoe, H., Machii, T., Kanakura, Y., Kitani, T., Långström, B., and Watanabe, Y.: NeuroImage, in revision, 2002. 31. Targeted tissue oxidation in the cerebral cortex induces local prolonged depolarization and cortical spreading depression in the rat brain. Yamagata, A., and Watanabe, Y.: Cui, Y. L., Kataoka, Y., Li, Q., Yokoyama, C., submitted to Neurosci., 2002. 2)原著論文以外による発表 ア)国内誌[発表題名、発表者名、発表誌名等(雑誌名、巻、号、頁、年 等)] (計 1. 5 件) in vivo 生化学イメージング−PETを用いて、 Medicine 渡辺恭良、Molecular Vol. 37 臨時増刊号「ゲノム時代の脳神経医学」272-279 頁、 中山書店、2001. 2. PET による脳機能画像診断、渡辺恭良、「シリーズ・光が拓く生命科学 第6巻 光による医学診断」、共 立出版、2001. 3. 疲労と未病-疲労の分子神経メカニズム、渡辺恭良、倉恒弘彦、 「医学のあゆみ」 198(3):245-251, 2001. 4. 疲労の神経回路の解明に向けて、渡辺恭良、 「疲労の科学−−眠らない現代社会への警鐘」 (井上正康・倉恒 弘彦・渡辺恭良 5. 編) 5-11 頁、講談社、2001. 脳とからだのはたらき,渡辺恭良,「からだの科学」,日本評論社,223: 52-57, 2002. イ)国外誌[発表題名、発表者名、発表誌名等(雑誌名、巻、号、頁、年 等)] (計 0 件) 3)口頭発表 ア)招待講演 [国内](計 1. 渡辺 18 件) 恭良、倉恒 弘彦、山口 浩二、松村 潔、Bengt Langstrom 「疲労・疲労感のイメージング」 141 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 第 22 回日本神経科学大会 シンポジウム「脳機能イメージングが拓く新しい世界」 アジア太平洋トレーディングセンター 2. 渡辺 1999 年 7 月 8 日 恭良 「PET/in vitro PET による脳機能・代謝の解析」 生化若手の会 「高次脳機能」分科会 愛知県勤労者研修センター 3. 渡辺 恭良、倉恒 1999 年 7 月 31 日 弘彦、山口 浩二、松村 潔、Bengt Langstrom 「慢性疲労の分子神経メカニズム」 日本薬学会 高次脳機能障害シンポジウム 日本薬学会長井記念ホール 4. 渡辺 1999 年 9 月 13 日 恭良 「PET/in vitro PET による脳機能・代謝の解析」 分子酵素学研究セミナー 徳島大学分子酵素学研究センター 5. 渡辺 1999 年 9 月 29 日 恭良 「脳特異的代謝のPETイメージング」 第6回 近畿脳機能研究会 東洋ホテル 6. 渡辺 特別講演 1999 年 10 月 15 日 恭良 「疲労感の分子神経メカニズム」 第5回 7. 渡辺 PET医学会,新阪急ビル 1999 年 11 月 5 日 恭良 「生化学的マシナリーによる発達する脳と心の追跡」 サイエンス・フロンティアつくば 999 つくば国際会議場 8. 渡辺 脳科学部会 1999 年 11 月 18 日 恭良 「PET による脳機能・代謝の解析」 BF 研究所研究発表会 千里阪急ホテル 9. 渡辺 1999 年 12 月 7 日 恭良 「PET による高次脳機能解析」 旭川神経懇話会 旭川パレスホテル 1999 年 12 月 10 日 10. 渡辺 恭良 疲労感の脳神経回路 第 5 回 CFS 研究会 シンポジウム「疲労/疲労感の分子・神経メカニズムを探る」 大阪大学医学部講堂 11. 渡辺 2000 年 2 月 20 日 恭良 PET による分子イメージングの進歩 第 4 回生体情報機構の探索分子の開発研究会 愛知県産業貿易館 12. 渡辺 恭良、中村 2000 年 3 月 10 日 夫左央、片岡 洋祐、田島 世貴、松村 142 昭、田中 雅彰、山口 浩二、倉恒 弘彦 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 疲労研究の行動学的・神経生理学的展開,シンポジウム「行動と運動研究の新しい可塑性」(オーガナイ ザー:丹治 順、玄番 央恵) 第 23 回日本神経科学大会・第 10 回日本神経回路学会大会合同大会プログラム抄録集 291 頁 横浜 2000 年9月6日 13. 渡辺 恭良 脳-分子-心 第 16 回 Brain Function Imaging Conference 特別講演 新高輪プリンスホテル 14. 渡辺 国際館パミール 2000 年 10 月 14 日 恭良 脳活動を視る 市民講座「脳の一生」 大阪市立大学文化交流センターホール 15. 渡辺 2000 年 10 月 17 日 恭良 PET による脳機能画像診断 精神医学研修コース 19 「脳機能画像診断」 第 97 回日本精神神経学会総会プログラム 79 頁 大阪国際会議場 16. 渡辺 2001 年 5 月 19 日 恭良 パネル討論 2-5 PET(ポジトロンイメージング)応用例(2)小動物/ヒトの脳 第 38 回理工学における同位元素・放射線研究発表会要旨集 225 頁 日本青年館 17. 渡辺 2001 年 7 月 11 日 恭良 マイクロ PET を用いた生体内分子動態イメージング 第 74 回日本生化学会大会シンポジウム 国立京都国際会館(京都・宝ヶ池) 18. 渡辺 2001 年 10 月 27 日 恭良 疲労の分子神経メカニズム 新潟脳研セミナー 新潟大学脳研究所 [国際](計 1. 1 2002 年 3 月 8 日 件) Y. Watanabe Neural and Molecular Mechanisms of Fatigue Sensation (Invited) Second International Workshop on Biomedical Imaging./ Fukui, Japan, Nov 13-15, 2000. イ)応募・主催講演等 [国内](計 1. 松村 52 件) 潔、曹 春渝、C. M. Blatteis、S. Morhan、L. Ballou、白川 憲之、渡辺 恭良、小林 茂夫 由美子、鈴木 正昭、柳瀬 尚人、 ミクログリアはシクロオキシゲナーゼ-1 を発現している。 第 22 回日本神経科学大会プログラム抄録集 107 頁 大阪 2. 崔 1999 年 7 月 6 日 翼龍、片岡 洋祐、佐藤 託実、山県 文、白川 143 憲之、渡辺 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 片岡 喜由、渡辺 恭良 虚血性神経細胞障害におけるプロスタグランジン I2 誘導体の神経細胞保護作用 第 22 回日本神経科学大会プログラム抄録集 168 頁 3. 大阪 1999 年 7 月 6 日 山口 浩二、倉恒 弘彦、松村 潔、高橋 守、待井 隆志、金倉 譲、木谷 照夫、渡辺 恭良 [2-14C]Acety1-L-carnitine の脳内代謝分析−Acety1-L-carnitine はグルタミン酸に変換される− 第 22 回日本神経科学大会プログラム抄録集 177 頁 4. 大阪 1999 年 7 月 6 日 小林 真之、今村 一之、須貝 外喜夫、小野田 法彦、渡辺 恭良 大脳皮質視覚野における興奮伝播様式の発達 第 22 回日本神経科学大会プログラム抄録集 319 頁 5. 大阪 1999 年 7 月 7 日 渡辺 恭良、倉恒 弘彦、山口 浩二、松村 潔、B. Långstöm 疲労・疲労感のイメージング シンポジウム「脳機能イメージングが拓く新しい世界」 (司会:渡辺恭良、米倉義晴) 第 22 回日本神経科学大会プログラム抄録集 350 頁 大阪 6. 1999 年 7 月 7 日 B. Långström、 M. Bergström、K-J. Fasth、U. Yngve、L. Samuelsson、F. Karimi、 F. Wu、L. Lu、 E. Bergström、W. Sihver、K. Kishimoto and Novel molecular probes for in vivo Y. Watanabe measurements of cell proliferation、 antisense oligonucleotides pharmacokinetics and receptor occupancy in cholinergic and neurokinin systems using PET シンポジウム「脳機能イメージングが拓く新しい世界」(司会:渡辺 恭良、米倉 義晴) 第 22 回日本神経科学大会プログラム抄録集 350 頁 大阪 7. 曹 1999 年 7 月 7 日 春渝、松村 潔、前田 光代、渡辺 恭良 サイトカインの脳血管壁細胞におけるシクロオキシゲナーゼ 2 の指導 第 22 回日本神経科学大会プログラム抄録集 362 頁 8. 大阪 1999 年 7 月 8 日 岸本 幸治、尾崎 仁士、中舘 和彦、許 麗華、黒柳 秀人、鈴木 陽一、白澤 卓二、渡辺 恭良 刺激依存性・時期特異的・脳特異的新規ホスホリパーゼ A2 第 72 回日本生化学会大会抄録集 976 頁 9. 松村 潔、曹 春渝、渡辺 恭良、小林 横浜 1999 年 10 月 8 日 茂夫 脳における COX の発現 第 72 回日本生化学会大会抄録集 632 頁 10. 渡辺 由美子、鈴木 横浜 1999 年 10 月 8 日 正昭、佐藤 託実、野依 良治、Bengt Långström、渡辺 恭良 In vivo 生化学を目指して得た新規中枢神経型プロスタサイクリン受容体特異的分子 シンポジウム「化学が息吹きを与えた創造分子−化学と生物学のホットな融合」 (渡辺 第 72 回日本生化学会大会抄録集 688 頁 11. 佐藤 託実、古田 享史、友清 横浜 1999 年 10 月 9 日 圭一郎、鈴木 正昭、渡辺 恭良 神経突起伸展/再生因子としてのジエノン型プロスタグランジン シンポジウム「化学が息吹きを与えた創造分子−化学と生物学のホットな融合」 144 恭良、鈴木 正昭) 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 (渡辺 恭良、鈴木 正昭) 第 72 回日本生化学会大会抄録集 689 頁 12. 片岡洋祐、崔 横浜 1999 年 10 月 9 日 翼龍 光の直接作用による中枢神経活動抑制効果 第 77 回日本生理学会大会 13. 崔 横浜 2000 年 3 月 27-29 日 翼龍、片岡洋祐、渡辺恭良 組織酸化が引き起こす脳血流動態変化の解析 第 77 回日本生理学会大会 14. 笹部 渡辺 哲也、小林 横浜 2000 年 3 月 27-29 日 真之、竹田 真己、近藤 祐介、吉久保 真一、尾上 浩隆、今村一之、澤田 徹、 恭良 覚醒サルにおける嗅覚刺激による脳賦活領域の探索:PET 研究 第 23 回日本神経科学大会・第 10 回日本神経回路学会大会合同大会プログラム抄録集 82 頁 横浜 2000 年9月4日 15. 松村 潔、山形 要人、今井 必生、曹 春渝、渡辺 恭良、小林 茂夫 カラゲニン皮下注射による発熱時に脳血管内皮細胞でプロスタグランジン E 合成酵素が誘導される 第 23 回日本神経科学大会・第 10 回日本神経回路学会大会合同大会プログラム抄録集 84 頁 横浜 2000 横浜 2000 横浜 2000 年9月4日 16. 菊池 晴彦、佐藤 託実、中塚 大策、渡辺 恭良、永田 泉、名村 尚武 酸化ストレスによる神経細胞死に MEK/ERK の活性化が必要である 第 23 回日本神経科学大会・第 10 回日本神経回路学会大会合同大会プログラム抄録集 104 頁 年9月4日 17. 横山 ちひろ、尾上 浩隆、塚田 秀夫、渡辺 恭良 視覚弁別課題における転移学習経験の効果:学習セット形成に伴う認知行動学的特徴 第 23 回日本神経科学大会・第 10 回日本神経回路学会大会合同大会プログラム抄録集 142 頁 年9月4日 18. 渡辺 渡辺 由美子、崔 翼龍、佐藤 託実、片岡 洋祐、中塚 大策、高松 宏幸、塚田 秀夫、鈴木 正昭、 恭良 新しいプロスタサイクリン受容体を機転とした神経細胞保護薬の開発 (Invited) シンポジウム「低分子化合物による虚血性神経細胞死の制御-分子レベルから個体レベルまで」(オーガ ナイザー:菊池晴彦、小川 彰) 第 23 回日本神経科学大会・第 10 回日本神経回路学会大会合同大会プログラム抄録集 185 頁 横浜 2000 年9月5日 19. 佐藤 託実、古田 享史、友清 圭一朗、名村 尚武、鈴木 正昭、渡辺 恭良 神経栄養因子様低分子化合物による虚血性神経細胞死の制御 (Invited) シンポジウム「低分子化合物による虚血性神経細胞死の制御-分子レベルから個体レベルまで」(オーガ ナイザー:菊池晴彦、小川 彰) 第 23 回日本神経科学大会・第 10 回日本神経回路学会大会合同大会プログラム抄録集 185 頁 横浜 2000 年9月5日 20. 中村 夫左央、田中 井上 正康、渡辺 雅彰、松村 昭、笠原 恵美子、佐藤 栄介、錦見 昭、山口 浩二、倉恒 弘彦、 恭良 新しい疲労モデルラットの作成とその行動評価 第 23 回日本神経科学大会・第 10 回日本神経回路学会大会合同大会プログラム抄録集 221 頁 145 横浜 2000 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 年9月5日 21. 中塚 大策、佐藤 託実、鈴木 正昭、渡辺 恭良 新規中枢特異的 PGI2 受容体リガンドによる中枢コリン作動性ニューロンの生存維持効果 第 23 回日本神経科学大会・第 10 回日本神経回路学会大会合同大会プログラム抄録集 251 頁 横浜 2000 横浜 2000 横浜 2000 横浜 2000 横浜 2000 年9月5日 22. 田中 雅彰、中村 夫左央、重松 誠、蔭山 勝弘、越智 暢、渡辺 恭良 バイオラジオグラフィーによるエネルギー基質類の脳グルコース代謝に及ぼす影響 第 23 回日本神経科学大会・第 10 回日本神経回路学会大会合同大会プログラム抄録集 253 頁 年9月5日 23. 近藤 祐介、吉久保 真一、江島 紀正、竹田 真己、小林 真之、渡辺 恭良、澤田 徹 アカゲザルにおける行動課題実行中の脳賦領域の探索:無麻酔 PET activation study 第 23 回日本神経科学大会・第 10 回日本神経回路学会大会合同大会プログラム抄録集 254 頁 年9月5日 24. 崔 翼龍、片岡 洋祐、渡辺 恭良 局所組織酸化が引き起こす脳機能動態変化の解析 第 23 回日本神経科学大会・第 10 回日本神経回路学会大会合同大会プログラム抄録集 254 頁 年9月5日 25. 片岡 洋祐、山県 文、渡辺 恭良 中枢神経細胞における酸化代謝由来内因性極微弱発光 第 23 回日本神経科学大会・第 10 回日本神経回路学会大会合同大会プログラム抄録集 255 頁 年9月5日 26. 岩瀬 真生、尾内 康臣、岡田 裕之、横山 ちひろ、竹田 真己、倉恒 弘彦、志水 彰、渡辺 恭良 PET による笑いの神経基盤の解明 第 23 回日本神経科学大会・第 10 回日本神経回路学会大会合同大会プログラム抄録集 253 頁 横浜 2000 年9月6日 27. 竹田 真己、小林 真之、服部 田中 忠蔵、澤田 徹、渡辺 憲明、福永 雅喜、井上 典子、笹部 哲也、今村 一之、梅田 雅宏、 恭良 味覚想起によって賦活される脳領域の機能的マッピング 第 23 回日本神経科学大会・第 10 回日本神経回路学会大会合同大会プログラム抄録集 326 頁 横浜 2000 横浜 2000 年9月6日 28. 曹 春渝、松村 潔、渡辺 恭良 Interleukin-6 による Interleukin-1 発熱作用の増強 第 23 回日本神経科学大会・第 10 回日本神経回路学会大会合同大会プログラム抄録集 331 頁 年9月6日 29. 佐藤 託実、古田 享史、友清 圭一朗、名村 尚武、鈴木 正昭、渡辺 恭良 シクロペンテノン型プロスタグランジンを基本骨格とした神経栄養因子様低分子化合物の開発 第 73 回日本生化学会大会発表抄録集 607 頁 30. 中村 夫左央、田中 雅彰、松村 横浜 昭、溝川 2000 年 10 月 13 日 滋一、山本 茂幸、笠原 恵美子、井上正康、渡辺 恭良 動物疲労モデルの開発と評価 シンポジウム「疲労と疲労感の神経メカニズム」(オーガナイザー:渡辺 第 78 回日本生理学会大会予稿集 154 頁 31. 松村 潔、堀 あいこ、山本 京都 知子、井上 2001 年 3 月 29 日 渉、小林 146 茂夫 恭良) 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 Poly IC (2 本鎖 RNA)により惹起される自発運動量低下と発熱の機序 シンポジウム「疲労と疲労感の神経メカニズム」(オーガナイザー:渡辺 第 78 回日本生理学会大会予稿集 154 頁 32. 倉恒 京都 恭良) 2001 年 3 月 29 日 弘彦 慢性疲労症候群の病因・病態 シンポジウム「疲労と疲労感の神経メカニズム」(オーガナイザー:渡辺 第 78 回日本生理学会大会予稿集 154 頁 33. 井上 渉、松村 良、小林 潔、山形 京都 要人、白木 恭良) 2001 年 3 月 29 日 琢磨、鈴木 香子、安田 新、杉浦 弘子、曹 春渝、渡辺 恭 茂夫 発熱時にプロスタグランジン E 合成酵素は脳血管内皮細胞に誘導される シンポジウム「脂質メディエーター研究の新しい展開」 (オーガナイザー:小林 誠、多久和 陽) 第 78 回日本生理学会大会予稿集 207 頁 34. 崔 翼龍、片岡 洋祐、渡辺 京都 2001 年 3 月 30 日 京都 2001 年 3 月 30 日 恭良 脳局所組織酸化は睡眠をひき起こすか? 第 78 回日本生理学会大会予稿集 329 頁 35. 片岡 洋祐、崔 翼龍、渡辺 恭良 光で脳を制御する シンポジウム「新世紀の生理学未来テクノロジー」(オーガナイザー:小泉 第 78 回日本生理学会大会予稿集 236 頁 36. 佐藤 託実、中塚 大策、石川 京都 保幸、畠中 周) 2001 年 3 月 31 日 寛、油谷 浩幸、古田 享史、鈴木 正昭、渡辺 恭良 Hemo oxygenase-1 の誘導を介した神経栄養因子様低分子化合物による神経細胞生存維持機構 第 24 回日本神経科学・第 44 回日本神経化学合同大会プログラム・抄録集 64 頁 国立京都国際会館(京都・宝ヶ池) 37. 田中 雅彰、中村 夫左央、野崎 2001 年 9 月 26 日 聡、片岡 洋祐、渡辺 恭良 疲労動物モデルの作成とその評価 第 24 回日本神経科学・第 44 回日本神経化学合同大会プログラム・抄録集 123 頁 国立京都国際会館(京都・宝ヶ池) 38. 西村 伸大、中田 梨香、野崎 2001 年 9 月 28 日 聡、水間 広、飯塚 洋人、遠山 日出男、渡辺 恭良、小橋 隆一郎 セロトニン神経破壊ラットに対するテトラヒドロビオプテリン連続投与の行動薬理学的検討 第 24 回日本神経科学・第 44 回日本神経化学合同大会プログラム・抄録集 123 頁 国立京都国際会館(京都・宝ヶ池) 39. 李 慶華、中舘 和彦、田中-中舘 2001 年 9 月 28 日 佐和子、中塚 大策、野崎 聡、崔 翼龍、渡辺 恭良 生後発達に伴うセロトニン受容体 2A と 2C の発現パターンの変化 第 24 回日本神経科学・第 44 回日本神経化学合同大会プログラム・抄録集 74 頁 国立京都国際会館(京都・宝ヶ池) 40. 尾上 浩隆、横山 2001 年 9 月 26 日 ちひろ、塚田 秀夫、渡辺 恭良 熟練した視覚性レバー押し課題の連続試行で認められる反応時間の疲労的遅延 第 24 回日本神経科学・第 44 回日本神経化学合同大会プログラム抄録集 国立京都国際会館(京都・宝ヶ池) 41. 崔 翼龍、片岡 洋祐、野崎 田 久夫、渡辺 恭良 84 頁 2001 年 9 月 26 日 聡、田村 泰久、林 147 要人、宇都宮 一泰、植田 勇人、三山 吉夫、山 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 中枢神経組織酸化モデルにおける組織抗酸化能力およびモノアミン動態の変化 第 24 回日本神経科学・第 44 回日本神経化学合同大会プログラム・抄録集 115 頁 国立京都国際会館(京都・宝ヶ池) 42. 田村 泰久、片岡 2001 年 9 月 27 日 洋祐、小田-望月 紀子、崔 翼龍、渡辺 恭良、山田 久夫 培養中枢ニューロンの静止膜電位および膜抵抗に対する近赤外レーザー光の作用 第 24 回日本神経科学・第 44 回日本神経化学合同大会プログラム抄録集 115 頁 国立京都国際会館(京都・宝ヶ池) 43. 中村 夫左央、田中 彦、井上 雅彰、松村 正康、渡辺 2001 年 9 月 27 日 昭、溝川 滋一、川畑 麻美、笠原 恵美子、山口 浩二、倉恒 弘 恭良 強制水泳による疲労時の脳内および体内でのエネルギー基質の変化 第 24 回日本神経科学・第 44 回日本神経化学合同大会プログラム・抄録集 115 頁 国立京都国際会館(京都・宝ヶ池) 44. 溝川 滋一、松村 昭、田中 2001 年 9 月 27 日 雅彰、中村 夫左央、重松 誠、蔭山 勝弘、越智 宏暢、渡辺 恭良 マイクロ PET(positron emission tomography)を用いたイメージング 第 24 回日本神経科学・第 44 回日本神経化学合同大会プログラム・抄録集 115 頁 国立京都国際会館(京都・宝ヶ池) 45. 松村 昭、溝川 滋一、田中 2001 年 9 月 27 日 雅彰、中村 夫左央、渡辺 恭良 ポジトロン脳スライスオートラジオグラフィー 第 24 回日本神経科学・第 44 回日本神経化学合同大会プログラム・抄録集 115 頁 国立京都国際会館(京都・宝ヶ池) 46. 岩瀬 真生、尾内 己、山下 康臣、岡田 仰、武田 2001 年 9 月 27 日 裕之、横山 雅俊、山口 ちひろ、延澤 浩二、倉恒 秀二、吉川 弘彦、志水 彰、渡辺 悦次、塚田 秀夫、竹田 真 恭良 15 H2 O-PET によるヒトの笑いと随意顔面運動の比較 第 24 回日本神経科学・第 44 回日本神経化学合同大会プログラム・抄録集 116 頁 国立京都国際会館(京都・宝ヶ池) 47. 田島 世貴、山本 之、中村 茂幸、岩瀬 夫左央、塚田 2001 年 9 月 27 日 真生、梶本 秀夫、倉恒 修身、吉川 弘彦、志水 悦次、尾上 彰、三池 浩隆、横山 輝久、尾内 ちひろ、岡田 裕 康臣、渡辺 恭良 PET 試行時の疲労評価 第 24 回日本神経科学・第 44 回日本神経化学合同大会プログラム・抄録集 116 頁 国立京都国際会館(京都・宝ヶ池) 48. 横山 ちひろ、尾上 浩隆、山本 2001 年 9 月 27 日 茂幸、塚田 秀夫、渡辺 恭良 視覚弁別学習に関わる神経ネットワークの学習経験による変化 第 24 回日本神経科学・第 44 回日本神経化学合同大会プログラム・抄録集 145 頁 国立京都国際会館(京都・宝ヶ池) 49. 渡辺 2001 年 9 月 27 日 恭良 マイクロ PET を用いた生体内分子動態イメージング(Invited) 第 74 回日本生化学会大会プログラム号 66 頁 国立京都国際会館(京都・宝ヶ池) 50. 田中 雅彰、中村 夫左央、片岡 2001 年 10 月 27 日 洋祐、野崎 聡、松村 昭、溝川 滋一、川畑 麻美、渡辺 疲労動物モデルの作成とその評価 第 79 回日本生理学会大会予稿集 193 頁 51. 中村 夫左央、田中 雅彰、川畑 広島大学 麻美、松村 2002 年 3 月 29 日 昭、溝川 148 滋一、片岡 洋祐、渡辺 恭良 恭良 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 強制水泳による疲労時の脳内活動の変化 第 79 回日本生理学会大会予稿集 193 頁 [国際](計 1. 28 広島大学 2002 年 3 月 29 日 件) S. Tanaka-Nakadate, K. Nakadate, K. Muguruma, G. Kapatos and Y. Watanabe Ontogeny of the tetrahydrobiopterin biosynthetic enzyme GTP cyclohydrolase I in rat brain 29TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ Florida, U.S.A, Program p.95, Oct. 24, 1999. 2. N. Katsuyama, K. Imamura, H-K. Tanaka, H. Onoe, H. Tsukada and Y. Watanabe Activation of the macaque visual cortex in a color discrimination task studied by positron emission tomography 29TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ Florida, U.S.A, Program p.171, Oct. 25, 1999. 3. H. Onoe, M. Komori, K. Onoe, H. Takechi, H. Tsukada and Y. Watanabe Cortical networks recruited for internal clock: a positron emission tomography study in behaving monkeys 29TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ Florida, U.S.A, Program p.217, Oct. 25, 1999. 4. K. Imamura, H. Morii, T. Yamada, P. A. Kaub, Y. Watanabe and N. Mori Differential changes in messenger RNA expression of SCG10 family molecules in the LGN and visual cortex of kittens received direct cortical infusion of brain derived neurotrophic factor 29TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ Florida, U.S.A, Program p.237, Oct. 26, 1999. 5. T. Satoh, K. Furuta, K. Tomokiyo, M. Suzuki and Y. Watanabe Neurite outgrowth-/regeneration-promoting prostaglandinsv 29TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ Florida, U.S.A, Program p.285, Oct. 26, 1999. 6. Y. Watanabe, H. Kuratsune, K. Yamaguti, G. Lindh, B. Evengård, K. Matsumura, H. Onoe, G. Hagberg and B. Långström PET imaging of fatigue state in the brains of chronic fatigue syndrome patients 29TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ Florida, U.S.A, Program p.335, Oct. 27, 1999. 7. M. Kobayashi, K. Imamura, Y. Kataoka and Y. Watanabe Noradrenergic modulation of excitatory and inhibitory neural transmission in the visual cortex 29TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ Florida, U.S.A, Program p.407, Oct. 28, 1999. 8. K. Kishimoto, M. Ozaki, K. Nakadate, L. H. Xu, H. Kuroyanagi, Y. Suzuki, T. Shirasawa and Y. Watanabe A stimulus-and time-dependent, brain-specific novel phospholipase A2 29TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ Florida, U.S.A, Program p.410, Oct. 28, 1999. 9. K. Imamaura, H. Onoe, Y. Watanabe, H. Richiter, J. Andersson, H. Fischer, O. Franzen, M. Okura, H. Schneider and B. Långström. PET imaging of the adaptation to prism-induced inverted vision Fourth annual vision research conference: Functional brain imaging in vision./ Fort Lauderdale, Florida, U.S.A, Abstr. Book, 103:PS 2-3, April 28-29, 2000. 10. Yamamoto, S. Komai, M. Kobayashi, K. Imamura, Y. Watanabe. Developmental regulation of intracellular calcium response to noradrenaline and NMDA in primary visual cortex ARVO / Fort Lauderdale, Florida, U.S.A, Abst. Supp. Invest. Ophth. Vis. Sci., Vol. No.4, S565, April 30-May-5, 2000. 11. F. Nakamura, M. Tanaka, A. Matsumura, E. Kasahara, E. Satoh, K. Yamaguti, H. Kuratsune, M. Inoue & Y. Watanabe Behaviors of rat exhausrtion model with modified forced swim 30TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ New Orleans, U.S.A, Abstracts p.479, Nov. 5, 2000. 149 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 12. T. Satoh, K. Furuta, S. Namura, M. Suzuki and Y. Watanabe Novel neurotrophic compounds for cns neurons designed from cyclopentenone prostaglandins. 30TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ New Orleans, U.S.A, Abstracts p.602, Nov. 6, 2000. 13. Y. Watanabe, Y.L. Cui, H. Takamatsu, T. Kakiuchi, Y. Kataoka, T. Satoh, Y. Watanabe, T. Hosoya, M. Suzuki and H. Tsukada Neuroprotection by CNS-type prostacyclin receptor agonists in MCAO reperfusion models of gerbils and monkeys. 30TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ New Orleans, U.S.A, Abstracts p.770, Nov. 6, 2000. 14. K. Imamura, S. Tanaka, M. Kobayashi, M. Yamamoto, K. Nakadate and Y. Watanabe unctional architecture in hydrocephalic cat visual cortex. 30TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ New Orleans, U.S.A, Abstracts p.1079, Nov. 7, 2000. 15. M. Takeda, M. Kobayashi, N. Hattori, M. Fukunaga, N. Inoue, T. Sasabe, K. Imamura, Y. Nagai, T. Sawada and Y. Watanabe Cortical activation of sensory imagery ; a fMRI study in normal humam subjects. 30TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ New Orleans, U.S.A, Abstracts p.1500, Nov. 7, 2000. 16. K. Takahashi, Y. Watanabe, K. Matsumura, M. Bergstrom, A. Pissiota, O. Frans, M. Fredrikson and B. Långström PET studies with [3-11C] lactate in monkeys and humans. 30TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ New Orleans, U.S.A, Abstracts p.1730, Nov. 8, 2000. 17. M. Tanaka, F. Nakamura, M. Shigematsu, S. Mizokawa, K. Kageyama, K. Matsumura, M. Kobayashi, H. Ochi and Y. Watanabe Effects of lactate, (-)-(R)-3-hydroxybutyrate, and acetyl-L-carnitine on brain metabolism: Dynamic positron bioimaging study30TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ New Orleans, U.S.A, Abstracts p.1734, Nov. 8, 2000. 18. Y. Kataoka, Y.L. Cui and Y. Watanabe Photo-dynamic manipulation of brain neurotransmission and metabolism by low-level laser irradiation. 30TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ New Orleans, U.S.A, Abstracts p.1738, Nov. 8, 2000. 19. Y.L. Cui, Y. Kataoka and Y. Watanabe Photo-dynamic regulation of redox state and brain function. 30TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ New Orleans, U.S.A, Abstracts p.1738, Nov. 8, 2000. 20. C. Cao, K. Matsumura, M. Maeda and Y. Watanabe Pyrogenic cytokines induce cyclooxygenase-2 and cytokine receptors in brain blood vessels. 30TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ New Orleans, U.S.A, Abstracts p.1739, Nov. 8, 2000. 21. D. Nakatsuka, T. satoh, S, Tanaka-Nakladate, Y. Watanabe, I. Nagata, H. Kikuchi and S. Namura. Neuroprotection by mek inhibition with u0126 against oxidative stress. 30TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ New Orleans, U.S.A, Abstracts p.1884, Nov. 8, 2000. 22. M. Iwase, C. Yokoyama, H. Okada, E. Yoshikawa, M. Takeda, K. Yamashita, M. Takeda, K. Yamaguchi, H. Kuratsune, A. Shimizu, Y. Watanabe and Y. Ouchi Neural substrate of human laughter. 30TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ New Orleans, U.S.A, Abstracts p.2022, Nov. 8, 2000. 23. C. Yokoyama, H. Onoe, H. Tsukada and Y. Watanabe Transformation of the strategy by monkeys with the formation of a learning set. 30TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ New Orleans, U.S.A, Abstracts p.2243, Nov. 9, 2000. 150 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 24. F. Nakamura, M. Tanaka, A Matsumura, S. Mizokawa, S. Yamamoto, E. Kasahara, Y. Inoue, H. Kuratsune and Y. Watanabe. Glucose uptake into brain and organs of fatigued rat during and after the forced swim. 31TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ San Diego, U.S.A, Program p.113, November 10-15, 2001 25. M. Tanaka, F. Nakamura, Y. Kataoka, K. Yamaguti, S Nozaki, E. Kasahara, M. Inoue, H. Kuratsune, and Y. Watanabe. Estbablishment and assessment of an animal model of combined (mental and physical) fatigue. 31TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ San Diego, U.S.A, Program p.113, November 10-15, 2001 26. Y. Kataoka, Y. Tamura, Y.L. Cui, H. Yamada and Y. Watanabe. Effects of low-level laser irradiation on membrane potential and membrane resistance in cultured rat hippocampal neurons. 31TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ San Diego, U.S.A, Program p.271, November 10-15, 2001 27. L. Cui, Y. Kataoka, Y. Tamura, H. Yamada and Y. Watanabe. Spreading depression following local tissue oxidation in the cerebral cortex induces non-REM sleep in the rat. 31TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ San Diego, U.S.A, Program p.271, November 10-15, 2001 28. M. Iwase, Y. Ouchi, H. Okada, C. Yokoyama, S. Nobesawa, E. Yoshikawa, H. Tsukada, M. Terada, M. Takaeda, K.Yamashita, M.Takeda, K.Yamaguti, H. Kuratsune, A Shimizu and Y. Watanabe. Distinct neural substrates of human laughter and voluntary facial movement. 31TH Annual Meeting, Society for Neuroscience./ San Diego, U.S.A, Program p.331, November 10-15, 2001 4)特許出願等[件名、出願者氏名、出願年月日、特許番号 等] (計 0 件) 5)受賞等[件名、受賞者氏名、受賞年月日 等] (計 0 件) 151 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 2. 慢性疲労症候群等の病的疲労の研究 2.2. 疲労生体信号と神経・免疫・内分泌相関の調整 2.2.1. サイトカインの疲労生体信号への道筋 九州大学大学院医学研究院統合生理 片渕 要 俊彦 約 疲労動物モデルとして Poly I:C の腹腔内投与による感染疲労ラットを作成し、自発行動量の低下が投与後少な くとも一週間は持続することを示した。Poly I:C 投与によって、大脳皮質および視床下部の視索前野の IFN-α、 IFN-γ、5-HT トランスポーター、および p38α MAP キナーゼの mRNA 量が投与翌日から一週間にわたって増加した。 また、Poly I:C を無条件刺激、サッカリン水を条件刺激にして、行動量の低下を条件付けすることに成功した。 この条件付け行動は、5-HT 1A 受容体アゴニストの前投与で阻害された。 研究目的 免疫系情報伝達物質であるサイトカインが、おもにグリア細胞によって中枢神経内でも産生されることは、よ く知られている。脳内で産生されたサイトカインは、中枢神経系に作用し、自律神経や内分泌系、摂食、睡眠、 体温調節などに大きな影響を与えることが、行動学、電気生理学、および内分泌学的研究によって明らかになっ ている。これらのサイトカインの中枢神経作用と、疲労に伴う様々な兆候には多くの類似性があり、従って疲労 の発現や持続と脳内サイトカインとの関連が強く示唆される。 一方、脳内サイトカインの産生は、中枢神経系における感染などの炎症によって誘発されるだけでなく、拘束スト レスや環境ストレスなど、非炎症性ストレスによっても誘導される。そして、疲労もまた、様々なストレスによって 誘発され、さらに重症化、あるいは慢性化される。疲労の種類は、 (1)強制歩行などによる肉体的疲労、(2)拘束や 不安による精神的疲労、(3)暑熱暴露などによる環境疲労、および(4)感染や腫瘍、および自己免疫疾患などによる免 疫学的疲労、に分けることができる。これらの分類は、とりもなおさずストレスの分類法でもあり、従ってストレス と疲労とは、表裏一体をなすものであり、脳内のサイトカインはこれらを結ぶ、キーワードになると考えられる。 本研究課題である「サイトカインの疲労生体信号への道筋」の最終的な目標は、脳内で産生されるサイトカイ ンの、疲労の発生要因および疲労感の増強への関与を、神経生理学的および分子生物学的手法を用いて検討する ことであり、そのために、まず、①疲労による脳内サイトカインの産生動態を mRNA レベルで明らかにする手法と して、リアルタイムキャピラリーPCR 法を用いた mRNA の定量法を確立することを目標とした。さらに、②環境ス トレスとして暑熱暴露、および感染ストレスとしての PolyI:C 投与をラットに加え、自発運動量を指標に疲労動 物モデルを作成すること、③各種ストレス時の脳内局所のサイトカインや蛋白キナーゼ(p38 MAP キナーゼ)および IκBβ mRNA の発現量を定量的に測定し、サイトカインの脳内作用、および疲労の発現や持続に対する影響を、モ デル作成方法(ストレス)の違いを考慮しながら比較検討すること、④疲労因子としての脳内セロトニン(5-HT) 系の関与を検討するため、IFN-αおよび-γで誘導されることが知られている 5-HT トランスポーター (5-HTT) mRNA の発現量を検討すること、さらに⑤脳内 5-HT 動態に対する Poly I:C 投与の影響を、in vivo マイクロダイ 152 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 アリシス法を用いて検討し、⑥IFN-αによる疲労の発現と、古典的条件付けの脳内メカニズムとの関連に注目し、 Poly I:C を無条件刺激に用いて、発熱と活動量低下の条件付けを試み、その神経メカニズムと疲労との関連を考 察することなど、以上 6 点を研究の目的とした。 研究方法 1)リアルタイムキャピラリーPCR 法を応用した mRNA 定量法 キャピラリーを用い、PCR バッファー内のサイバーグリーン I による蛍光をサイクルごとに測定するリアルタイ ム PCR 法[1]を応用して、脳内局所のサイトカイン mRNA の定量を行った。 ラットを冷却した生理食塩水で潅流した後、脳を取りだし、大脳皮質、小脳、海馬、および視床下部の内側視 索前野(MPO)、外側視索前野(LPO)、室傍核(PVN)、外側野(LHA)、および腹内側核(VMH)の各ブロックを取り出し、 平成 11 年度に購入した自動核酸抽出装置を用いて、全 RNA を抽出し、さらに逆転写を行って cDNA を作成した。 そのうち一部は、通常のチューブを用いる PCR 法で目的とする cDNA の PCR 産物を作成し、これを精製して、既知 濃度の cDNA を含む段階希釈溶液を作成した。これらの段階希釈溶液、およびサンプルを同時にキャピラリーを用 いて増幅する際に、PCR バッファー液にサイバーグリーン I を入れておくと、PCR 時にサイバーグリーン I の蛍光 強度を、各サイクル毎に測定することによって、増幅曲線が作成される(図 1A)。そこで、増幅がプラトーに達す るより前のある一定の蛍光強度(図 1B 上の点線)において、cDNA 濃度の対数とサイクル数との標準直線を作成す ると、この標準直線から、同時に増幅したサンプルの cDNA 濃度を定量することができる(図 1B)。この方法を用 いると、サンプルの cDNA 濃度が少なくとも 100 コピー/μl まで測定できた。視床下部の各部位のサイトカインに ついてプライマーを設計し、PCR を行ったが、比較する際には、サンプルの RNA 量によるばらつきを補正するため、 ハウスキーピング遺伝子である gylceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase (G3PDH)の mRNA も同じサンプルで測 定し、その値で割ったものを用いた。また、この方法は、PCR 終了後、温度を変化させながら蛍光強度を連続的に 測定することで PCR 産物の融解曲線が得られる。従って融解曲線を微分し、ピークを観察することで目的とする PCR 産物が生成されたかどうか、あるいは単一なものかどうかが判定できるという利点がある。 A B Hypothalamus (MPO, LPO, PVN, LHA, and VMH) Fluorescence RNA Extraction RT-PCR (Tube) RT (cDNA) Cycles PCR Product log (cDNA) SYBR Green I PCR PCR 9 µl 95°C, 0sec 55°C, 0sec 72°C, 15sec Purificat ion + Dilution OD 260 # of Copies Cycles at Crossing Point Fluorescence at each cycle 図 1 リアルタイムキャピラリーPCR 法を用いた mRNA の定量方法 A、定量方法のブロック図。B、上段、cDNA の段階希釈溶液(細線)およびサンプル(太線)の増幅曲線。 下段、上段点線で設定した蛍光強度における各溶液のサイクル数(横軸)とそれぞれの cDNA 濃度の対数による 標準直線(黒丸を結んだ線)から、サンプル(白四角)の cDNA 濃度が推定できる。 153 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 2)疲労動物モデルの作成 ア)自発運動量の測定 ラットを用い、ホームケージ内に設置した直径約 30cm の回転かごに自由に入れるようにし、回転数を 1 分ごと にコンピュータに取り込んだ。 イ)暑熱暴露モデル 人工気候室において室温 36℃、湿度 60~70%の環境に一日 1 時間の暴露を、連続して 3 日間連続して与えた。 暑熱暴露の体温が上昇するのを確認し、再びホームケージに戻した。また、別の群では、暑熱暴露の直後および 1 日後に、脳を取り出し、サイトカインの mRNA を定量した。 ウ)Poly I:C による感染モデル ラットの自発運動量をホームケージ内に設置した回転ケージの回転数で測定し、回転数が安定したところで腹 腔内に Poly I:C (3mg/kg)を投与した。発熱を確認し、自発運動量は、Poly I:C 投与後 1 週間は観察した。また、 脳内サイトカインおよび 5-HTT の mRNA 量は、Poly I:C 投与の翌日および 1 週間後に脳を取り出し、測定した。 3)mRNA の定量 上述したリアルタイムキャピラリーPCR 法を応用して、ラットの大脳皮質、小脳、海馬、視床下部内側視索前野 (MPO)、外側視索前野(LPO)、室傍核(PVN)、外側野(LHA)、および腹内側核(VMH)を切り出してサイトカイン(IFNα、IL-1β、TNF-α、および IL-6)、および 5-HTT の mRNA を定量した。さらに、p38αMAP キナーゼおよび IκB βの mRNA についても測定した。これらの物質のプライマーと PCR 産物の大きさは、以下の通りであった。 センスプライマー アンチセンスプライマー IFN-α (488 bp) 5'-CCTGCCTCATACTCATAACC-3' 5'-CTTCTCTCAGTCTTCCCATC-3' IL-1β (378 bp) 5'-CAAAAATGCCTCGTGCTGTC-3' 5'-CCGACCATTGCTGTTTCCTA-3' IL-6 (602 bp) 5'-GTTGCCTTCTTGGGACTGAT-3' 5'-TAGGTTTGCCGAGTAGACCT-3' TNF-α (509 bp) 5'-GACCCTCACACTCAGATCAT-3' 5'-TAGGTTTGCCGAGTAGACCT-3' 5-HTT (313 bp) 5'-TTAGCATCTGGAAAGGCTGTC-3' 5'-CTTGTCATGCAGTTCACCAC-3' p38α (320 bp) 5’–TGAAGTGTCAGAAGCTTACCGA-3’ 5’-AAACAACGTTCTTCCGGTCAAC-3’ IκBβ (294 bp) 5’ -GAGTGTTGGTGACTGAGAGA-3’ 5’ –GGATGACAGCTACATGGAGT-3’ G3PDH (544 bp) 5'-AAAA GGGTCATCATCTCCGC-3' 5'-CAGCATCAAAGGTGGAGGA A-3' 4)in vivo マイクロダイアリシス法による脳内 5-HT 動態 透析チューブを用いて作成した半透膜プローブをラットの前頭前野に刺入し、1μl/min で環流しながら細胞外 液を回収し、20 分ごとのサンプル (20 μl)を高速液クロマトグラフィーで分離した後、電気化学検出器 (electrochemical detector, ECD)で、酸化還元電位により 5-HT 濃度を測定した。 5)疲労および発熱の条件付け 154 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 ラットの腹腔内に送信器を植え込み、テレメトリーシステムにより体温および運動量を測定しながら、1 日 30 分間 (9:00~9:30)の制限飲水を 2~3 週間行った(Pre)。Training 日には、水の代りに条件刺激としてサッカリン 水を与え、その直後に無条件刺激として Poly I:C (1mg/kg)を腹腔内投与した(Conditioned 群)。対照群は通常 通り水を与えて Poly I:C を投与した(Unconditioned 群)。その後 3 日間は、水を与え (Interval (Int.))、4 日 目にサッカリン水(条件刺激)を与えた (Test 日)。さらにその後数日間は、体温および運動量を測定した (Post)。 研究成果 1)暑熱暴露による脳内サイトカイン mRNA 動態 ラットを暑熱 (36℃)環境下に 1 時間暴露すると、体温が約 3℃上昇した。視床下部各部位の IFN-α mRNA は、 暑熱暴露によって内側視索前野 (MPO)、外側視索前野 (LPO)、室傍核 (PVN)、および腹内側核 (VMH)で著明に増 加し、IL-1βmRNA は、MPO および LPO では変化せず、PVN、視床下部外側野 (LHA)、および VMH で減少した。一方、 IL-6 および TNF-αmRNA 量は、暑熱暴露によって変化しなかった。 2)暑熱暴露および Poly I:C による自発行動量の変化 暑熱暴露および Poly I:C による自発行動量を比較すると、図 2 に示すように、明らかな相違が見られた。すな わち、36℃、1 時間の暑熱暴露では、自発運動量は初日のみ低下したが、その後連続して 2 日間暴露しても、活動 量はむしろ増加した。一方、腹腔内に Poly I:C (1mg/kg)を投与すると、自発運動量は投与翌日から低下し、8 日 目まで持続した。対照群として、生理食塩水を投与した。 % of Baseline 200 Total Running Activity Saline Poly I:C Heat Poly I:C (IP) * 150 100 * 50 * * * * * 36 °C, 1 hr 0 -3 -2 -1 1 2 3 4 5 6 7 図 2 Poly I:C (1mg/kg)による自発運動量の低下 Poly I:C (1m/kg)を腹腔内投与すると、8 日後まで自発運動量が低下した(▲) 。 暑熱暴露群(■)はむしろ運動量が増加した。*、生食群との比較、P<0.05 155 8 Days 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 3)Poly I:C による脳内サイトカインおよびその関連物質の mRNA 動態 ア)IFN-αおよび IL-1β mRNA の変動 Poly I:C および生理食塩水投与群後 1 日目および 8 日目のラットの脳を取りだし、その切片から、大脳皮質、 小脳、海馬、視床下部の MPO、LPO、PVN、LHA、および VMH の各部位の IFN-αmRNA の定量を行った。図 3 に示すよ うに、ラットの腹腔内に Poly I:C を注射して 1 日後では、IFN-α mRNA は大脳皮質、小脳、MPO、LPO で有意に増 加し、大脳皮質および MPO では 1 週間後でも増加は持続していた。また、PVN、VMH および海馬では 1 週間目の方 がより著明に増大していた。一方、 IL-1βmRNA は、Poly I:C 投与の翌日は IFN-αと同じ部位で増加していたが、 一週間後には、投与前のレベルに戻っていた。 すでに述べたように IFN-α mRNA は、暑熱暴露によっても増加するが、自発運動量は暑熱暴露によって 2 日目 以降はむしろ増加した(図 2)。そこで、Poly I:C との違いを mRNA レベルで検討するため、暑熱暴露の翌日に IFNα mRNA を定量したところ、 Poly I:C と異なり、IFN-α mRNA は、すでに投与前のレベルに戻っていた。 図3 Poly I:C による脳内 IFN-α mRNA の増加 イ)5-HTT mRNA の変動 強制歩行により疲労を誘発したラットの脳内で細胞外セロトニン濃度が上昇していることから、中枢性疲労に セロトニンの関与が示唆されているが、その詳細は不明な点が多い。一方、最近、グリア細胞において IFN-αが セロトニントランスポーター(5-HTT)の発現を促進することが明らかになった[2]。そこで、Poly I:C 投与によ る脳内 5-HTT mRNA 量を定量し、変化のパターンを IFN-αと比較検討した。 図 4 に示すように、Poly I:C の腹腔内投与によって、投与 1 日後には大脳皮質、MPO で増加し、これらは 1 週 間後も増加していた。また、PVN、VMH、および海馬では 1 週間後の方がより著明に増加していた。すなわち、Poly I:C 投与後の 5-HTT mRNA の増加パターンは、IFN-α mRNA の変化(図 3)とほとんど同じであった。 図4 Poly I:C による脳内 5-HTTmRNA の増加 156 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 ウ)p38 MAP キナーゼおよび IκBβ mRNA の動態 細胞が種々の刺激を受けると、増殖、炎症、およびアポトーシスに関連した様々な蛋白キナーゼや転写調節因子が 活性化される。そのなかで p38 MAP キナーゼ、および Nuclear Factor κB (NFκB)の活性化のマーカーである IκB βの mRNA について、Poly I:C による発現の変化を検討した。図 5 に示すように、p38 MAP キナーゼ mRNA は、MPO および PVN で増加し、IFN-α mRNA と同様、1 週間後までその増加は持続した。一方、IκBβ mRNA は、Poly I:C 投 与の翌日は増加していたが、1 週間後には元のレベルに戻っていた。この経過は、IL-1β mRNA と一致していた。 図5 Poly I:C による脳内 p38 MAP キナーゼおよび IκBβ mRNA の増加 4)Poly I:C による脳内 5-HT 濃度の変化 ラットの前頭前野に透析プローブを刺入し、5-HT 濃度が安定した後、Poly I:C を 3 mg/kg 腹腔内投与し、その 後約 6 時間測定した。その結果、前頭前野の 5-HT 濃度は、Poly I:C 投与によって約 3 時間後から、基礎値の 10 ~20%低下することが明らかになった。 5)発熱および活動量低下の条件付けの試み 1 日 30 分間の制限飲水をしたラットに、条件刺激としてサッカリン水を、無条件刺激として Poly I:C (1mg/kg) の腹腔内投与を行い、その 3 日後にサッカリン水を与えると、約 1 時間後に体温が上昇したことから、発熱が条 件付けされたことが示された。 図6 Conditioned および Unconditioned 群における条件刺激 (サッカリン水)投与前後の Resting Time 157 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 図 6 は、1 日のうちで自発運動がほとんどなく、じっとしている時間(Resting Time)の総和をグラフにしたも のである。Unconditioned 群では、Poly I:C 投与前(Pre)と比較して、Poly I:C 投与日(Training)、サッカリ ン水投与前日(Interval、Int.)、サッカリン水投与日(Test)、およびその翌日(Post)は、いずれも Resting Time が長い傾向が見られたが、それぞれ有意差はなかった(図 6 左)。しかし、Conditioned 群において、サッカリン 水だけを与えた日(Test)の Resting Time は、Pre および Post と比較して有意に増加していた(図 6 右)。すな わち、無条件刺激を Poly I:C、条件刺激をサッカリン水とすると、条件刺激によって活動量が低下したことから、 活動量低下の条件付けは成功したと考えられた。 さらに、活動量の条件付けにおける 5-HT 系の関与を検討するため、Test 日にサッカリン水(条件刺激)を提示 する前に 5-HT 1A 受容体アゴニストを腹腔内に前投与しておくと、活動量の低下が阻害された。 考 察 本研究によって、ストレス時における脳内のサイトカイン産生動態が明らかになった。mRNA の定量的測定法と しては、ミミック DNA あるは RNA を用いる競合的 RT-PCR 法が比較的定量性の高い方法であったが、最近は、リアル タイム PCR 法を用いた測定法も散見するようになった。本研究では、キャピラリーチューブを用いたリアルタイム PCR 法を用いた。PCR 産物の検出法としては、DNA 二重鎖に結合する蛍光色素であるサイバーグリーン I を用いた。 暑熱暴露により視床下部の MPO、PVN、および VMH において、IFN-α mRNA が有意に増加していた。一方、IL-1 βの mRNA はむしろ低下していたことから、同じストレス刺激でも、サイトカインによって産生動態に対する影響 は異なることが示された。ストレスによって脳内でサイトカインの産生が誘導される機序については、不明な点 が多い。しかし最近我々は、c-fos mRNA のアンチセンスオリゴ DNA を MPO に微量注入して FOS 蛋白の発現を阻害 すると、IFN-αの mRNA 量が低下することを見いだした。すなわち、IFN-α mRNA の転写調節に FOS 蛋白が関与し ていることが考えられる。 一方、ラットに温熱ストレスを 3 日間連続して加えても自発行動量は低下するどころか、むしろ上昇した。ラ ットにケージスイッチなどのマイルドなストレスを加えると、その後ラットは回転かごを回し始め、回転数は上 昇する。従って、本研究で観察された暑熱暴露後の自発行動量の増加は、ストレスに対する代償行為を反映して いる可能性がある。ところが、2 重鎖 RNA である Poly I:C を腹腔内に投与すると、自発運動量は投与後、少なく とも 1 週間にわたって自発運動量が投与前の 50~60%まで低下することが明らかになった(図 2)。従って Poly I:C は、感染疲労モデルの作成に用いうると考えられる。 脳内の IFN-α mRNA をリアルタイム RT-PCR 法で測定すると、大脳皮質、海馬、MPO、PVN、および VMH において、 Poly I:C 投与 1 週間後でも増加していた(図 3)。暑熱暴露によっても脳内の IFN-α mRNA が増加するが、活動量 は暑熱暴露によってむしろ増加することが明らかになった。IFN-α mRNA が暑熱暴露の翌日には著明に低下してい たのに対し、Poly I:C は mRNA の増加が 1 週間後まで持続し、自発運動量の低下も同様に持続していたことから、 脳内の IFN-αが疲労の発現に強く関与していることを示唆している。 従来から中枢性疲労のメカニズムとして 5-HT 説がある。これは、おもに強制歩行などの肉体的疲労において、 中枢神経系において 5-HT の合成が亢進し、細胞外 5-HT 濃度が上昇すること、脳内へのトリプトファンの取り込 みを抑制すると肉体的疲労度が低下すること、などが根拠になっているが、疲労のメカニズムにおける関与の詳 細は不明な点が多い。本研究において、Poly I:C の投与により自発運動量の低下と一致して大脳皮質や視床下部 の特定の部位で 5-HTT mRNA が増加し、前頭前野では、マイクロダイアリシス法で 5-HT の細胞外濃度が低下して いることが明らかになった。従来から、5-HTT はおもに 5-HT ニューロンの細胞体や樹状突起およびシナプス前終 末に発現することが知られている。5-HT ニューロン自体はおもに中脳の縫線核に存在し、従って 5-HTT ニューロ ンの神経終末しかない視床下部や大脳皮質で見いだされた 5-HTT mRNA が、5-HT ニューロン由来である可能性は考 えにくい。一方、最近になって、アストロサイトが 5-HTT を発現していることが RT-PCR で確認され、機能的にも 158 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 選択的 5-HTT 再取り込み阻害剤(selective serotonin re-uptake inhibitor、SSRI)のターゲットとなっている ことが示された。従って本研究で大脳皮質や視床下部で検出された 5-HTT mRNA は、アストロサイト由来である可 能性が高い。また、Poly I:C 投与後の IFN-α mRNA の発現パターンと 5-HTT mRNA のそれとはほぼ一致しているこ とが明らかになったが、最近、培養アストロサイトにおいて、IFN-αが 5-HTT mRNA の発現を誘導することが示さ れた[2]。従って、本研究において脳局所で産生された 5-HTT mRNA は、同じ部位で産生された IFN-αによって誘 導されたと考えられる。 本研究によって、Poly I:C は、発熱を惹起するとともに、脳内に IFN-α、および 5-HTT を誘導し、自発運動量 を低下させることが明らかになった。さらに、無条件刺激に Poly I:C を、条件刺激にサッカリン水を用いること によって活動量の低下を条件付けすることに成功した。これまで、恐怖条件付けによる活動の抑制(freezing) が SSRI によってブロックされることが示されており、さらに本研究によって疲労の条件付けが 5-HT 1A アゴニス トによって阻害されることが明らかになった。これらのことを考慮すると、Poly I:C によって誘導された IFN-α が 5-HTT の発現を増加させ、細胞外の 5-HTT が減少することによって活動量の低下が起こると考えられる。条件 付けの阻害実験から、疲労の予防あるいは回復に 5-HT の reuptake inhibitor、および 5-HT 1A 受容体アゴニスト が有効である可能性が考えられる(図 7)。今後さらに、Poly I:C による感染疲労の条件付けモデルを用いて、そ の疲労の発現に関与する脳内部位、条件付けの神経メカニズムにおける IFN-αなどのサイトカイン、あるいは p38 MAP キナーゼ、および 5-HT 系の関与などについて、行動学的、電気生理学的、およびアンチセンスオリゴ DNA に よる 5-HTT の発現阻止実験などの分子生物学的手法を用いて研究を行う予定である。 IFN-αは、末梢で作用すると、NK 細胞活性を上昇させるにもかかわらず、ラット脳室内に投与すると、脾臓交 感神経活動の上昇を介して脾臓 NK 細胞活性が低下し[3、4]、その脳内作用部位として MPO が示唆されている[5、 6、7]。ストレスによって、免疫機能が修飾を受けることは知られていたが、その機序として脳内サイトカインが 重要であることが次第に明らかになってきた[8]。また、海馬に IFN-αが作用すると、長期増強現象を抑制し、 空間認知学習行動が障害される[9]。慢性疲労症候群においても、NK 細胞活性の低下や学習能力の低下が報告さ れていることから、脳内 IFN-αが、慢性疲労に何らかの役割を果たしている可能性は高いと考えられる。 図7 Poly I:C による疲労における 5-HT 系の関与 159 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 参考文献 [1] Morrison, T.B., Weis, J.J. and Wittwer, C.T.: Quantification of low-copy transcripts by continuous SYBR green I monitoring during amplification. BioTechniques 24: 954-962, 1998. [2] Morikawa, O., Sakai, N., Obara, H. and Saito, N.: Effects of interferon-a, ingerferon-g and camp on the transcriptional regulation of the serotonin transporter. Eur. J. Pharmacol. 349: 317-324, 1998. [3] Katafuchi, T., Take, S. and Hori, T.: Roles of sympathetic nervous system in the suppression of cytotoxicity of natural killer cells in the rat. [4] J. Physiol. (Lond.) 465: 343-357, 1993. Take, S., Mori, T., Katafuchi, T. et al.: Central interferonα inhibits the natural killer cytotoxicity through sympathetic innervation. Am. J. Physiol. 265: R453-R459, 1993. [5] Katafuchi, T., Ichijo, T., Take, S. et al.: Hypothalamic modulation of splenic natural killer cell activity in rats. J. Physiol. (Lond.) 471: 209-221, 1993. [6] Take, S., Uchimura, D., Kanemitsu, Y. et al.: Interferon-α acts at the preoptic hypothalamus to reduce natural killer cytotoxicity in rats. Am. J. Physiol. 268: R1406-R1410, 1995. [7] Hori, T., Katafuchi, T., Take, S. and Shimizu, T. Neuroimmuno-modulatory actions of hypothalamic interferon-α. Neuroimmuno-modulation 5: 172-177, 1998. [8] 片渕俊彦. ストレスと免疫系. 感染炎症免疫 28 (2): 106-115, 1998. [9] 片渕俊彦. IFN の神経系に対する作用.インターフェロン—その研究の歩みと臨床応用への可能性— 今西二 郎編: pp.112-121, ライフサイエンス, 東京, 1998. 成果の発表 1)原著論文による発表 イ)国外誌 1. Kamikawa, H., Katafuchi, T., Hosoi, M., Yamamoto, T. and Hori, T. Hyperalgesic response to noxious stimulation in genetically polydipsic mice. Brain Res. 846: 171-176, 1999. 2. Katafuchi, T., Li, A-J., Hirota, S., Kitamura, Y. and Hori, T. Impairment of spatial learning and hippocampal synaptic potentiation in c-kit mutant rats. Learn Mem. 7: 383-392, 2000. 3. Katafuchi, T., Kondo, T. and Hori, T. Comparable effects of adrenalectomy and C fiber depletion on delayed-type hypersensitivity in rats. Neuroimmunomodulation 9: 157-162, 2001. 4. Katafuchi, T., Takaki, A., Kondo, T. and Hori, T. Changes in brain cytokine mRNA due to heat stress in aged rats: possible role of bacterial translocation. 5. Prog. Biometeorol. 17: 173-183, 2001. Kondo, T., Katafuchi, T. and Hori, T. Stem cell factor modulates paired-pulse facilitation and long-term potentiation in the hippocampal mossy fiber-CA3 pathway in mice. Brain Res. 2002, in press. 2)原著以外による発表 ア)国内誌 1. 片渕俊彦.神経−免疫−内分泌. 免疫学からみた神経系と神経疾患, 吉田孝人, 糸山泰人, 錫村明生編,日 本医学館,p.149-158,1999. 2. 片渕俊彦.ストレスとサイトカイン.サイトカインと疾患.別冊 3. 片渕俊彦.神経・内分泌・免疫系連関とストレス応答.日本皮膚アレルギー学会雑誌,第 8 巻 第 3 号, 160 医学のあゆみ,107-111,2000. 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 56-61,2000. 4. 片渕俊彦.免疫機能と脳.日本 ME 学会雑誌,第 14 巻 第 11 号,65-72,2000. 5. 片渕俊彦.ストレスと免疫応答.臨床検査,第 45 巻 第 2 号,207-212,2001. 6. 堀哲郎,片渕俊彦. IL-6 の神経系への作用.Clinical Neuroscience,第 19 巻 第 6 号, 114-116,2001. 7. 片渕俊彦.脳・免疫系連関とストレス応答.神経研究の進歩,第 45 巻 第 6 号,884-890,2001. 8. 片渕俊彦.ラットの手術法.Freshman 技術講座 日本生理学雑誌,第 63 巻 第 10 号,261-270,2001. イ)国外誌 1. Hori, T., Katafuchi, T., Ota, K., Matsuda, T., Oka, T. and Oka, K. Evidence for the involvement of AV3V in the circulating IL-1β-to-brain communication. J. Therm. Biol. 25: 29-33, 2000. 2. Hori, T., Katafuchi, T. and Oka, T. Central cytokines: effects on peripheral immunity, inflammation and nociception. In: Psychoneuroimmunology. Third Edition volume 1 (Eds. Ader, R., Felten D.L. and Cohen, N.) Academic Press Inc., San Diego, p.517-545, 2001. 3. Katafuchi, T., Kondo, T., Take, S. and Hori, T. Autonomic and neuroendocrine modulation of cellular immunity. In: Thermotherapy for Neoplasia, Inflammation and Pain (Eds. Kosaka, M., Sugahara, T., Schmidt, K.L. and Simon, E.) Springer-Verlag Tokyo, Inc. Tokyo, p.252-257, 2001. 4. Hori, T., Kaizuka, Y., Takaki, A. and Katafuchi, T. Thermal stress and immunity. In: Thermotherapy for Neoplasia, Inflammation and Pain (Eds. Kosaka, M., Sugahara, T., Schmidt, K.L. and Simon, E.) Springer-Verlag Tokyo, Inc. Tokyo, p.242-251, 2001. 5. Katafuchi, T., Shi, Z., Take, S. and Hori, T. Hypothalamo-sympathetic control of cellular immunity. In: Catecholamine Research: From molecular insights to clinical medicine (Ed. Nagatsu, T., Nabeshima, T., McCarthy, R. and Goldstein, D.) Kluwer Academic/Plenum Publishers Inc. New York, 2002, in press. 3)口頭発表 ア)招待講演 1. Katafuchi, T. Neural modulation of splenic natural killer cell activity through the sympathetic nerve. International Conference "Mechanisms of Functioning of Visceral Systems" (dedicated to Academician Ivan Pavlov's 150-anniversary) Program p.163-164, (St. Peterburg, Russia) September 23-25, 1999. 2. 片渕俊彦.神経・免疫系連関とストレス.シンポジウム 1「環境とストレス」 第 25 回環境トキシコロジ ーシンポジウム・第 3 回衛生薬学フォーラム合同大会 3. 講演要旨集 S1-3, p.7, 1999. (名古屋)10 月. 片渕俊彦.神経・内分泌・免疫系連関とストレス応答.教育講演 第 30 回日本皮膚アレルギー学会 日 本皮膚アレルギー学会雑誌 8(1): 15-16, 2000. (大阪)7 月. 4. Katafuchi, T. Changes in brain cytokine mRNA due to heat stress in aged rats: possible role of bacterial translocation. The 20th International Symposium of UOEH "Physiological Evaluation of Working Capability in Aged Laborers" Abstracts p.22, (Kitakyushu) October 25-27, 2000. 5. 片渕俊彦.脳・免疫系連関とストレス応答.第 36 回 究連絡委員会 6. 脳のシンポジウム.日本学術会議、脳・神経学研 2001.(福岡)3 月. Katafuchi, T. and Hori, T. Hypothalamo-sympathetic control of cellular immunity. The 9th International Catecholamine Symposium Session 4. “Catecholamines and Cytokines” Abstracts S4-6, p.14, (Kyoto) March 31-April 5, 2001. 161 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 7. Katafuchi, T., Takaki, A. and Kondo, T. Role of bacterial translocation in hot environment-induced brain cytokines in aged rats. Session III Reactions of biological systems to the unfavorable environmental factors. The International Conference on Environmental Pollution. (Volgograd-Perm, Russia) September 18-25, 2001. 8. 片渕俊彦.脳・免疫系連関とストレス応答.シンポジウム 3「脳循環と代謝の病態生理」第 12 回日本病態 生理学会大会 9. 日本病態生理学会雑誌 10(2): 33, 2002. (愛媛)1 月. 片渕俊彦.環境ストレスと脳内サイトカイン.第 2 回環境生理シンポジウム(第 79 回日本生理学会大会 サテライトシンポジウム—人類生存への環境創造へ向けて— 抄録集 p.11, 2002. (広島)3 月. イ)応募・主催講演等 1. 片渕俊彦,八坂敏一,堀哲郎.脳内 c-fos 蛋白の機能的役割—アンチセンスオリゴ DNA によるノックダウ ン動物を用いた解析.シンポジウム 5「新しい統合生理学研究法の開発応用とその有用性」第 76 回日本生 理学会大会予稿集 2. 1C-S5-1, p.80, 1999. (長崎)3 月. 片渕俊彦,近藤哲哉、堀哲郎.Poly I:C による感染疲労の解析.第 51 回西日本生理学会抄録集 p.12, 2000. (北九州)11 月. 3. 片渕俊彦.疲労の生体信号としてのサイトカイン.シンポジウム「疲労と疲労感の神経メカニズム」第 78 回日本生理学会大会予稿集 4. S17-2, p.154, 2001. (京都)3 月. 片渕俊彦,近藤哲哉,久保和彦.脳内サイトカインと感情評価.シンポジウム「ゲノム時代と感情評価」 第 24 回日本神経科学、第 44 回日本神経化学合同大会抄録集 5. S53-5, p.202, 2001. (京都)9 月. 片渕俊彦,高木厚司,近藤哲哉.老化ラットにおける暑熱暴露時の脳内サイトカイン動態.第 79 回日本 生理学会大会予稿集 p.222, 2002. (広島)3 月. 162 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 2. 慢性疲労症候群等の病的疲労の研究 2.2. 疲労生体信号と神経・免疫・内分泌相関の調整 2.2.2. 疲労等による神経内分泌機構変調の動態解明 京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科 中島 要 敏博 約 疲労および疲労感発現の原因のひとつに長期の中枢性変調が考えられる。近年、ストレスが長期間にわたり脳 内情報伝達系に変調を惹起することが報告されている。そこで本研究は、ストレスによる神経・免疫・内分泌系 における即時的および長期的変調の両面から解析してきた。本年度は特に疲労回復因子の開発を目指し、ヒトお よびラットにリフレッシュ感があるとされる“みどりの香り”の作用を調べたところ、ラットの血漿 ACTH と体温 変動との双方において即時的のみならず長期的ストレス応答に対し軽減効果があることを見出した。 研究目的 1 回のストレスが 2~3 週間の長期間にわたり室傍核などの脳内情報伝達系に変調を引き起こすことがラットで 報告されている。慢性疲労の原因の一つにストレスによる長期の中枢性変調が考えられる。そこで内分泌系や免 疫系をはじめとする生体防御系調節に主要な役割を果たす CRH-ACTH 分泌系のストレスに起因する動態を解析して きた。これまで、1)1 回の拘束ストレスはストレス直後のみならず、6 日後でも血漿 ACTH 濃度を上昇させること、 2)脳内オキシトシンはストレスにより分泌され、ストレス後の長期間に及ぶ ACTH 動態にストレス時に分泌され た脳内オキシトシンが関与していること[1]、3)脳内解熱物質であることが解明されつつある[2,3]アラキド ン酸カスケード・チトクローム P-450(CYP-450)代謝産物である EET がストレスにより賦活される CRH-ACTH 系に 作用し、血漿 ACTH 濃度を増加させること。この EET による修飾はストレスの種類(拘束ストレスと IL-1 ストレ ス)に依存し、EET はストレス直後の ACTH 応答のみならず、長期応答にも作用することを見出してきた。 本年度は、疲労回復の手法開発を目指し、リフレッシュ効果があるとされる「みどりの香り」の即時的および 長期的ストレス応答に対する作用をラットを用いて解析し、疲労回復法開発への基礎的、科学的根拠を提供する 目的で研究を遂行した。ストレス応答の解析は、これまでの血漿 ACTH 濃度測定に加えて、深部体温を連続的に測 定することにより、生体防御の 3 調節系である内分泌系、免疫系及び自律神経系の動態を総合的に解析した。 嗅覚系を介した情報は、個および種の保存に重要な役割を果たしているが、これらの情報は食物摂取や生殖に おける場合を除き意識下のレベルで処理されることが多く、嗅覚情報の関与に気付かない場合がほとんどである。 そのため、意識することなく、生理活性を持つ多様なにおい物質を化学合成し、ヒトを取り巻く化学環境を変化 させてきた。本来、緑葉と共存してきたヒトがコンクリートと化学合成物質の檻の中に閉じ込められたことが疲 労感を訴えるヒトの増加の原因のひとつではないかと考えられる。 緑葉が放つみどりの香りは炭素数が 6 のアルコールおよびアルデヒド 8 種類からなり、植物における生合成系 か証明されている[4]。そのうち「新緑の香り」は青葉アルデヒドと青葉アルコールの比率が高く、「新茶の香り」は 青葉アルコールの濃度が特に高いことが知られている。みどりの香りはヒトに鎮静作用があることが明らかにさ 163 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 れ、ヒト事象関連電位(P-300)の抑制がその鎮静作用と関係するとの報告がある[5]。この研究において、青葉ア ルコール、青葉アルデヒドともに 0.03%の濃度で作用し、同じ濃度で等量混合すると効果が大幅に増加することが 見出された。次いで、緑の香りのリフレッシュ作用がヒトとラットを用いて調べられた[5]。リフレッシュ作用を、 1)快情動の促進、2)身体的感覚運動機能の促進、3)不快情動の軽減、4)身体的不快感の軽減に分類して研究が行われ、 1)については、みどりの香りが報酬刺激として快感を誘発することはなく、そのリフレッシュ作用が快情動の促進 によるものでないことがヒトの嗜好性試験、ラットの接近行動実験から示された。2)は、ヒトの画像刺激に対する単 純反応潜時および視覚弁別課題に対する選択反応時間と、ラットのオープンフィールド試験の結果より、みどりの香 りは簡単な視覚認知、運動反応機能および一般活動性に影響を及ぼさないことが明らかにされた。3)不安尺度試験 であるSTAI1 とSTAI2、および顔スケールを用いてヒトの情動に及ぼす影響、高架プラス迷路試験でラット の不安レベルを調べたところ、みどりの香りは不安レベルに影響を及ぼさないことがわかった。4)アナルゲジメー ターを用いてヒトの痛覚閾値を調べたところ、みどりの香りは痛覚閾値を上昇させ、鎮痛効果があることが明らかに された。さらに、ラットの Intruder test により、警戒行動が緑の香りにより減少することが示された。これらの研 究結果により、みどりの香りは一般的感覚運動機能や情動性に対しては明らかな作用を示さないが、ストレスに対す る反応を軽減することがヒトおよびラットで共通して観察された。さらに、強制水泳後にみどりの香りをかがせると、 ラットの活動性の減少が軽減することから、緑の香りに疲労回復効果があると示唆されている。 これらの研究成果に立脚し、みどりの香りによるストレス応答軽減効果をラットの血漿 ACTH 濃度および体温変 動を測定することにより、生理学的に実証する目的で本研究を企画した。ACTH は副腎皮質からの糖質コルチコイ ド、鉱質コルチコイド、性ホルモンの分泌を促進し、蛋白質、糖、脂質代謝、電解質代謝に影響を及ぼす内分泌 系への作用ばかりでなく、免疫系へ抑制的に作用することが知られている。体温は、脳温が視床下部の視索前野 および前視床下部(PO/AH)で検知されるばかりでなく、末梢からの入力が PO/AH において統合される。体温調節 情報は PO/AH から主として自律神経系に出力され、血管収縮および拡張反応や発汗を引き起こす。これとは別の 経路で PO/AH からの情報は下垂体前葉からの TSH 分泌に影響を及ぼし、甲状腺ホルモン分泌を調節することによ り、基礎代謝を制御し体温を調節している。つまり、血漿 ACTH および体温を計測することにより、脳から内分泌 系、免疫系および自律神経系の 3 調節系への出力の全体像を解析することができる(図 1)。 ストレス みどりの香 り 嗅覚 視床下部 免疫系 内分泌系 血漿 ACTH 測定 自律神経系 深部体温測定 図 1.みどりの香りの予想作用部位とその出力 164 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 研究方法 ウィスター系雄ラット(体重 170-250g)を用いた。ラットは 12 時間明、12 時間暗(6 時点灯、18 時消灯)の 明暗周期で 24±1℃に保たれた部屋で飼育した。水と固形飼料は自由に与えた。 1)みどりの香り みどりの香りは青葉アルデヒド(trans-2-hexenal)と青葉アルコール(cis-3-hexenol)おのおの 0.03%を triethyl citrate に溶解した液を等量混合して用いた。この液を 0.2 ml 脱脂綿に吸わせ、ラットの鼻先 1cm に 30 分間置くことにより匂い刺激とした。 2)血漿 ACTH 測定 拘束ストレスは 10 時から 12 時までの 2 時間とし、ACTH 濃度測定のための採血は拘束直後の 12 時(0 day グル ープ)、2 日後の 12 時(after 2 days グループ)に行い、血漿 ACTH の日周変動による影響を排除した。拘束時間 以外は水と固形飼料を自由に与えた。コントロールグループのラットにはストレスを与えず、12 時に採血した。 0 day グループのラットは、拘束開始前 1 時間、30 分、開始時、開始後 1 時間からおのおの 30 分間みどりの 香りを嗅がせた。コントロール群はストレスを与えず 10 時から香りを 30 分間かがせ、12 時に採血した。after 2 days グループは、拘束開始前 1 時間、30 分、開始時、開始後 1 時間、2 時間、4 時間、6 時間からおのおの 30 分 間みどりの香りを嗅がせ、コントロール群は 10 時から匂いを嗅がせた 2 日後の 12 時に採血した。 採血はラットを保持後 5 秒以内に断頭し、血液を EDTA コートしたチューブに採取、遠沈し(5000 rpm, 5 min)、 上清を採取し-20℃で保存した。保存した血漿は ACTH IRMA(Mitsubishi Chemical)キットを用いてラジオイム ノアッセイした。この手法の検出感度は 5 pg/ml である。 データは平均±標準誤差で示し、有意差検定は一元配置分散分析で行い、P<0.05 を有意差ありと判断した。 3)体温測定 体温測定 1 週間前にペントバルビタール麻酔下で(50 mg/kg ip)腹腔内へ温度センサ/送信機(PDT-4000, MiniMitter)を挿入した。拘束ストレスは 10 時から 12 時まで与えた。拘束時間以外は水と固形飼料を自由に与 えた。体温データは体温送信機を腹腔内に挿入されたラットを、チップを敷いたラットケージに 1 匹ずつ飼育し ておき、ケージごと体温受信ボード(ER-4000)に乗せ、受信ボードに接続したマイクロコンピュータ(PC/AT コ ンパチブル)に Dataquest Ⅲシステムを用いて取り込んだ。 体温はストレスを与える前日 10 時からストレス後 2 日の 12 時まで 10 分間隔で連続して測定した。ただし、拘 束ストレス中は拘束器具がステンレス製であることからデータを受信できず、その間の体温は測定できなかった。 体温データは ASCI ファイルに変換し、Microsoft Excel を用いて 2 次処理を行った。 データは平均 ± 標準誤 差で示し、P<0.05 を有意差ありと判断した。 研究成果 1)血漿 ACTH 動態 ア)即時応答におけるみどりの香りの作用 みどりの香りがストレス直後の血漿 ACTH 濃度に及ぼす影響を調べた。図 2 の赤色のバーはみどりの香りを嗅が せなかったラット、緑のバーはみどりの香りを嗅がせたラットのデータである。まず、みどりの香りがないと、 通常 42.2 ± 2.7 pg/ml である血漿 ACTH 濃度がストレスにより 444.2 ± 36.8 pg/ml と、約 10 倍に増加する。 この結果はこれまでの報告とよく一致する[7]。 ここで、みどりの香りをストレス前 1 時間および 30 分に嗅がせても増加した ACTH 濃度に影響がなかった(1 時 165 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 間前:F(1, 11) = 0.103, P = 0.75,30 分前:F(1, 11) = 0.136, P = 0.72)。ところが、ストレス開始時および ストレスを与えている途中であるストレス開始後 1 時間でみどりの香りをかがせると有意に ACTH 濃度増加を抑制 した(開始時:F (1, 11) = 5.06, P < 0.05, 1 時間後:F (1, 11) = 5.78, P < 0.05)。この実験結果より、 みどりの香りはストレス前に嗅いでも効果がなく、ストレスを受けているときに嗅ぐとストレスによる ACTH 濃度 上昇を軽減する効果があることがわかった。 ストレス後のみどりの香りの影響は実験のスケジュール上調べることが不可能である。また、ストレスを与え ないラットにみどりの香りを嗅がせても ACTH 濃度に変化はなかった(F (1, 11) = 0.212, P = 0.61)。よって、 みどりの香りが血漿 ACTH 濃度に及ぼす作用はストレス応答に特異的であると考えられる。 500 Plasma ACTH Concentration (pg/ml) 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 Before 1h Without G Before 30min 0 min With G After 1h No Stress 図 2.みどりの香りの血漿 ACTH 即時ストレス応答に対する効果 200 Plasma ACTH Concentration (pg/ml) 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0 Before 1h Before 30min 0 min After 1h Without G After 2h After 4h Ahter 6h With G No Stress 図 3.みどりの香りの血漿 ACTH 長期ストレス応答に対する効果 166 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 イ)長期応答におけるみどりの香りの作用 拘束ストレスを 1 回 2 時間だけ与えると、血漿 ACTH がその後ストレスを与えないでも高いレベルを保ち、スト レス後 6 日においてもコントロールラットに比べ、有意に高い値を示すことを本研究 1 年目に発見した[1]。そ こで、ストレス後 2 日のコントロールに比べ有意に高いレベルの ACTH 濃度が、ストレスの前後に嗅がせたみどり の香りにより影響を受けるか否かを調べ、ストレスが引き起こす内分泌系の長期にわたる変調に対するみどりの 香りの効果を調べた。 みどりの香りをストレス前 1 時間、30 分、ストレス開始時、ストレス後 1 時間、2 時間、4 時間、6 時間の各タ イミングで嗅がせ、ストレス終了後 48 時間での血漿 ACTH 濃度を測定した(図 3)。図中、緑のバーはみどりの香 りを嗅がせたグループ、赤色のバーは嗅がせなかったグループを示す。ストレス直後のデータと同様に、ストレ ス前 1 時間と 30 分にみどりの香りを嗅がせても、香りを嗅がせなかった群と比較して有意差は見られなかった(1 時間前:F(1, 11) =884.0, P = 0.70,30 分前:F(1, 11) = 0.689, P = 0.42)。これに対し、ストレス後 0 分(F (1, 12) = 14.2, P < 0.05)、1 時間(F (1, 11) = 8.94, P < 0.05)、2 時間(F (1, 11) = 5.63, P < 0.05)、 4 時間(F (1, 11) = 29.0, P < 0.05)および 6 時間(F (1, 10) = 24.9, P < 0.05)において ACTH 濃度上昇 を軽減した。この軽減された値とストレスを与えずにみどりの香りを嗅がせただけの群と比較するとストレス後 1 時間(F (1, 11) = 4.86, P = 0.05)、4 時間(F (1,11) = 0.419, P = 0.53)、6 時間(F (1, 10) = 0.983, P = 0.35)において有意差がなかった。この結果は、ストレスに対する長期応答、少なくともストレス後 2 日ではみどり の香りはストレスを受けなかった動物と同レベルまで血漿 ACTH 濃度を回復させていることを示している。なお、ス トレスを与えないラットにみどりの香りを嗅がせても ACTH 濃度に変化はなかった(F (1, 11) = 0.272, P = 0.61) 。 39 Body Temperature (℃) 38.5 38 37.5 37 36.5 10:00 12:00 14:00 16:00 18:00 20:00 22:00 0:00 2:00 Time the day before 図 4. 1st day 2nd day ストレスが体温に及ぼす影響 167 4:00 6:00 8:00 10:00 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 2)ストレスによる体温変化とみどりの香り ア)体温へのストレスの影響 ストレス前日の 10 時から 24 時間体温を測定し、これをコントロールとしてストレス直後の 12 時 20 分から測 定を再開し、2 日後の 12 時つまり長期応答の血漿 ACTH 濃度を測定したタイミングまで体温を測定した(図 4)。 ラットはヒトとは逆に明期に体温が低く、暗期に高い日周リズムを示す[8]。測定した最低体温は 12 時 30 分の 37.0 ± 0.10℃で、最高体温は 2 時 50 分の 38.1 ± 0.12℃であった。ストレス直後の体温は 38.6 ± 0.13℃で、 コントロールの 37.1 ± 0.09℃に比べ 1.5℃上昇した。この拘束ストレスによる高体温は以前より知られており [9]、脳内オピオイド系の関与が議論されている。このストレスによる高体温は 21 時 40 分までストレス後約 10 時間持続する。その後、コントロールと同様の体温変動を示すが、翌日の明期における体温の下降が見られず、 11 時 20 分から 20 時 40 分にわたりコントロールとの間に有意差が見られた。この間、最大の体温差は約 0.5℃高 い値を示した。その後はコントロールとの間に差は見られず、血漿 ACTH 濃度に差があるストレス 2 日後の 12 時 においても 37.6 ± 0.17℃と、コントロールの 37.2 ± 0.10℃に対して差がなかった。 39 Body Temperature (℃) 38.5 38 37.5 37 36.5 10:00 14:00 18:00 22:00 2:00 6:00 10:00 14:00 18:00 22:00 2:00 6:00 10:00 14:00 18:00 22:00 2:00 6:00 10:00 Time Without Green Odor With Green Odor 図 5.みどりの香りが体温に及ぼす影響 イ)みどりの香りと体温 1 日間の体温測定後、ストレス開始時にみどりの香りを嗅がせたグループと嗅がせなかったグループを比較した (図 5)。12 時に拘束ストレスを終了し、12 時 20 分から体温測定を再開したが、12 時 20 分は香りを嗅がせてい ないラットが高体温を示したが、12 時 30 分からは両グループの体温に差は見られなかった。即時応答の採血は 168 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 12 時に行うので、この時期にはおそらく両グループ間に体温差があるものと考えられる。その後、14 時 10 分か ら 22 時にかけてみどりの香りを嗅がせたラットは嗅がせなかったものより低体温つまりコントロールに近い値を 示した。この実験結果より、体温のストレスに対する即時応答のほぼ全期間において応答を軽減する働きがみど りの香りにあると考えられる。暗期の後半 0 時 50 分から 2 時 10 分にみどりの香りを嗅がせたグループは低い体 温を示した。 さらに、次の日の明期において 7 時 50 分から 10 時 20 分と 15 時 40 分から 16 時 20 分にわたりみどりの香りを 嗅がせたグループは、嗅がせなかったグループと比較して低い体温を示し、体温のストレスに対する長期応答に もみどりの香りが応答軽減作用を示すことが解明された。 考 察 本年度の研究により、緑葉が発する香りの主成分である“みどりの香り”がラットにおいて血漿 ACTH および深部 体温で観察されるストレス応答を軽減することを解明した。血漿 ACTH は免疫系と内分泌系、深部体温は内分泌系と 自律神経系の出力を反映するとされるので、みどりの香りは三つの生体調節系すべてに対し効果があると考えられる。 昨年までの研究過程において、1 回の拘束ストレスに対しストレス後 6 日間も血漿 ACTH 濃度に異常が持続する ことを発見した[1]。これまではスエーデン・カロリンスカ研究所から報告された、オキシトシンが長期にわた り血漿コルチコステロン・レベルを抑制することが知られているのみである[10]。本研究によりストレスと疲労 を結ぶ接点を見出したと考えられる。そこで、ストレス後 2 日目の長期応答に対するみどりの香りの効果を解析 したところ、ACTH 濃度はみどりの香りにより有意に抑制され、ストレス応答の軽減効果が見られたが、この時深 部体温はみどりの香りの有無により差が見られなかった。この結果について、体温では ACTH 応答よりストレスに 対する長期応答が小さいのか、あるいは自律神経系の長期応答が短期間に終了し、かつ、内分泌系の応答につい ては、ホルモンの種類によりみどりの香りによる効果が異なることが考えられる。あるいは内分泌系内において 長期応答には ACTH が主に関与しており、甲状腺ホルモンの関与が少ないためかもしれない。体温調節で主要な役 割を果たすホルモンは甲状腺ホルモンであり、ACTH との関係は今後検討すべき課題である。 血漿 ACTH 濃度における即時および長期応答の研究過程で、みどりの香りはストレス前に嗅いでもほとんど効果 が無いが、ストレスを受けている最中、さらにストレス後に嗅ぐと効果があることを発見した。ラットはストレ ス終了後 4 時間でみどりの香りを嗅ぐと ACTH 応答が軽減した。この成果はヒトに臨床的にみどりのかおりを用い る際に非常に有用であろう。なぜならストレスは予想できる場合が少なく、ストレスの悪影響を軽減したい場合 ストレス後に対処する場合がほとんどであると考えられる。 ACTH も体温も日周リズムがあるので、その影響を避けるためストレスを 10 時から 12 時まで与え、それに対する 応答を解析してきた。しかし、異なる時間帯に与えたストレスに対する応答およびみどりの香りの効果は未知である。 今後の研究課題として、異なる時間帯にストレスを与え、その応答に対するみどりの香りの作用解析が急務である。 ストレス応答は生体防御反応の一部である。当然の危惧として、みどりの香りという化学物質を嗅ぐことで、 本来発現する生体防御反応を修飾し生体に悪影響が出るのではないかと思うのは当然である。しかし考えてみる と、みどりの香りは緑葉の成分である。我々は元々みどりの香りの中で生活していたので、動物の生体調節系は この香りの存在を前提に成り立っている可能性がある。さらに推測すると、現在この香りと離れて生活している のでストレスの影響が長く続き、慢性的に疲労感を感じるヒトが多いのではないだろうか。 引用文献 [1] T. Nakashima, T. Noguchi, T. Furukawa, M. Yamasaki, S. Makino, S. Miyata and T. Kiyohara: Brain oxytocin augments stress-induced long-lasting plasma adrenocorticotropic hormone elevation in rats, 169 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 Neurosci. Lett., in press (2002). [2] T. Nakashima, Y. Harada, S. Miyata and T. Kiyohara: Inhibitors of cytochrome P-450 augment fever induced by interleukin-1β, Am. J. Physiol., 271, R1274-R1279 (1996). [3] T. Nakashima, Y. Yoshida, S. Miyata and T. Kiyohara: Hypothalamic 11,12- epoxyeicosatrienoic acid attenuates fever induced by central interleukin-1β in the rat, Neurosci. Lett., 310, 141-144 (2001). [4] A. Hatanaka: Biosynthesis of so-called “green odor” emitted by green leaves, in Comprehensive natural products chemistry, eds. D. Barton & K. Nakanishi, Klsevier Sci., Vol. 1, chap. 4, 83-116 (1999). [5] 菅野久信、内田誠也、佐藤信茂、畑中顯和、佐野孝太:緑の香りの事象電位に関する効果、日本味と匂い学 会誌,3,672-674 (1996). [6] 粟生修司、畑中顯和:緑の香りの生理作用と効用、Aroma Research,臨時増刊 1,(2001). [7] G. Aguilera: Regulation of pituitary ACTH secretion during chronic stress, Front. Neuroendocrinol., 15, 321-350 (1994). [8] R. Refinetti and M. Menaker: The circadian rhythm of body temperature, Physiol. Behav., 51, 613-637 (1992). [9] C. Vidal, C. Suaudeau and J. Jacob: Regulation of body temperature and nociception induced by non-noxious stress in rat, Brain Res., 297, 1-10 (1984). [10] M. Peterson, A. Hulting and K. Uvnäs-Moberg: Oxytocin causes a sustained decrease in plasma level of corticosterone in rats, Neurosci. Lett., 264, 41-44 (1999). 成果の発表 1)原著論文による発表 イ)国外誌 T. Nakashima, Y. Yoshida, S. Miyata and T. Kiyohara: Hypothalamic 11,12-epoxyeicosatrienoic acid attenuates fever induced by central interleukin-1β in the rat, Neurosci. Lett., 310: 141-144 (2001). T. Nakashima, T. Noguchi, T. Furukawa, M. Yamasaki, S. Makino, S. Miyata and T. Kiyohara: Brain oxytocin augments stress-induced long-lasting plasma adrenocorticotropic hormone elevation in rats, Neurosci. Lett., 321: 161-164 (2002). 3)口頭発表 イ)応募・主催講演等 T. Nakashima, T. Noguchi, T. Furukawa, S. Makino and T. Kiyohara: Modulation of the HPA axis by oxytocin and cytochrome P-450 metabolite, Christchurch, New Zealand [XXXIV International Congless of Physiological Sciences, August 2001] 赤松真理子、中島敏博、清原壽一:ストレス応答に対するみどりの香りの作用、広島 大会、2002 年 3 月] 170 [第 79 回日本生理学会 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 2. 慢性疲労症候群等の病的疲労の研究 2.2. 疲労生体信号と神経・免疫・内分泌相関の調整 2.2.3. 疲労等による摂食及び高次脳機能変調様式の解明 富山大学工学部 佐々木 和男 要 約 慢性疲労患者の情動に関係した脳部位で有意に減少しているアセチルカルニチンに関し、1)末梢性及び中枢性 に摂食を抑制し、これが視床下部外側野(摂食中枢)ニューロン活動の抑制による可能性があること、2)フェントン 反応によるヒドロキシラジカルの発生や培養細胞のヒドロキシラジカルによる細胞死を抑制するなど抗酸化作用を 示すこと、3)老化促進モデルマウス (SAMP8) 脳における脂質過酸化を抑制し、学習・記憶能の低下を防ぐこと、が 判明した。また、 「みどりの香り」が拘束時のセロトニン代謝の増大を有意に抑えることも明らかになった。 研究目的 疲労関連物質として慢性疲労症候群の患者脳、とくに情動に関連する脳部位で有意にその濃度が低下している ことが知られているアセチルカルニチンに着目し、アセチルカルニチンがラットの摂食行動に与える影響並びに 摂食中枢及び視床下部腹内側核(満腹中枢)ニューロン活動に与える影響につき検討するとともに[1]、Electron Spin Resonance (ESR)や培養細胞を用いてアセチルカルニチンの抗酸化作用についても調べる。さらに、高い酸 化ストレスにさらされ、学習・記憶が障害されている SAMP8 に慢性的にアセチルカルニチンを投与し、脳の脂質 過酸化物や学習・記憶についても検討する。また、疲労や疲労感を軽減する観点から、拘束ストレス時のアミン 代謝や摂食量に対する「みどりの香り」の作用についても調べ、疲労、ストレス、疲労関連物質による摂食及び 高次脳機能の変調様式並びにその変調防御策の一端を明らかにすることを目的とする。 研究方法 1)摂食量の測定 ラットの摂食に対する腹腔内及び脳室内投与アセチルカルニチンの作用につき検討した。実験には 7 または 8 週令の Wistar 系雄性ラットを用い、12 h/12 h(明期:6:00~18:00)の明暗サイクル下で粉末食により飼育した。 腹腔内投与(n=10)の場合には 0.1 ml の生理食塩水中に 25 mg/kg、50 mg/kg、100 mg/kg 及び 200 mg/kg のアセ チルカルニチンを溶解し、投与した。脳室内投与(n=7)の場合には、麻酔下で第 3 脳室内に薬物投与用カニュー レを慢性的に留置し、術後 1 週間してから実験を行った。アセチルカルニチンは 3 nmol 及び 30 nmol の濃度で生 理食塩水に溶解し、1 μl/min の速度で 10 μl を投与した。腹腔内投与及び脳室内投与いずれの場合でも薬物投 与前日の摂食量を対照として用いた。摂食量としては 3 時間(18:00~21:00)、夜間(18:00~6:00)、昼間(6:00 ~18:00)及び 1 日摂食量(18:00~18:00)を測定した。 171 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 2)電気生理 実験には 5 週令の Wistar 系雄性ラットを用いた。エーテルで麻酔後、断頭し、脳を摘出した。摘出した脳から さらにビブラトームで摂食中枢及び満腹中枢を含む厚さ 400μm の前額断脳切片標本を作製した。脳切片標本は 95%O2-5%CO2 ガスでバブリングした室温のリンガー液中で少なくとも 1 時間プレインキュベーションした後、記録 槽に移した。記録槽には 1 ml/min の流速で 95%O2-5%CO2 ガスでバブリングしたリンガー液を潅流した。ニューロ ン活動はガラス微小電極を用いて細胞外記録し、前置及び主増幅器により増幅した。さらに、増幅した信号をパ ソコンに取り込み、1 秒間あたりのスパイク数をカウントし、ハードディスクに連続的に記録した。アセチルカル ニチンは 1、10 及び 100 nM の濃度になるようリンガー液に溶解し、3 分間投与した。 3)Electron Spin Resonance (ESR)を用いたスピントラッピング法 鉄-過酸化水素フェントン反応系で発生するヒドロキシラジカルを 5,5-dimethyl-1-pyroline-N-oxide (DMPO) でトラップし、ヒドロキシラジカルと DMPO の付加体を指標に、アセチルカルニチン及びカルニチンの抗酸化作用 を検討した。1.5 ml のマイクロテストチューブに、0.1、0.5、1、5、10、20 mM のアセチルカルニチン溶液また はカルニチン溶液を 100 μl、10 mM の DMPO 溶液を 800 μl、20 mM の過酸化水素溶液を 50 μl、2 mM の塩化鉄(Ⅱ) 溶液を 50 μl の順で添加し、ボルテックスで 10 秒間攪拌した。攪拌後、直ちに 2 本の毛細管に反応液を 25μl ずつ(全量 50 μl)分取し、毛細管の底を粘土で閉じて毛細管に付いた余分な水分をキムワイプでふき取り、ESR チューブに入れ ESR 測定装置にセットした。測定条件を設定した後、反応開始(塩化鉄溶液の添加時を反応開始 とした)から、3 分後に ESR 測定を行なった。各濃度におけるシグナルの強度は、コントロールであるフェントン 反応のみを 100%としたときの相対値として表した。 4)モデル神経細胞の培養 光フェントン試薬 NP-Ⅲ[2]に紫外線を照射するとヒドロキシラジカルが発生し、PC-12 細胞の細胞死を招く。 この PC-12 細胞の細胞死に対するアセチルカルニチン及びカルニチンの保護作用につき検討した。まず、紫外線 の照射時間並びに NP-Ⅲの濃度を決定することを試みた。照射時間の決定では、24 穴プレートに PC-12 細胞が接 着しているのを確認後、培養液を吸い取り、PBS を加えた。CO2 インキュベータ内で 30 分間静置後ピペッティング し、それぞれをマイクロチューブに移し、トランスイルミネータで紫外線を 1 から 5 分間照射した。照射後 1200 rpm で 8 分間遠心し、細胞を沈殿させ上清を吸い取り、これに 1 ml の培養液を加え、ボルテックスで攪拌した。その 後 24 穴プレートに戻し、24 時間培養後ヘモサイトメータで生細胞数を計測した。結果は対照の生細胞数を 1 とし たときの割合で表した。その結果、1、2、3、4 分の照射では生細胞数の割合は対照に比べ有意に変化しなかった が、5 分間の照射ではその割合は有意に減少した。そこで、以後の実験では照射時間を平均値が対照と同程度であ った 2 分間とした。NP-Ⅲの濃度に関しては、PBS に 1 から 5 μM の NP-Ⅲを加えたこと及び紫外線照射時間を 2 分間としたこと以外、上と同様の実験手順であった。 5)脂質過酸化物の測定 1-naphthyldiphenylphosphine (NDPP)が脂質過酸化物(LOOH; Lipid hydroperoxides)と定量的に反応して 1-naphthyldiphenylphosphine oxide (NDPPO)になることを利用し、生成した NDPPO を HPLC で高感度に測定する ことにより、そのピーク高さから脂質過酸化物量を定量することができる[3]。この方法により SAMP8 脳における 脂質過酸化物の量を調べた。すべての作業は氷上で行い、室内は暗くし、室温 20 ℃以下で行なった。また、実験 に使用する器具類はすべて 5%(v/v)硝酸溶液に 8 時間以上浸し、脱金属処理した。脳を 5 倍量の PBS(-)溶液中 でホモジナイズ(2000 rpm×10 回)した。ホモジネート 1ml を脂質過酸化物量測定に使用し、残りはタンパク質定 量に用いた。ホモジネート 1ml とクロロホルム:メタノール(2:1, 0.01% BHT 含有)溶液 3 ml をテフロン製 遠心管(5 ml 容量)に移し入れ 1 分間手でよく振り混ぜた。遠心分離(2000 rpm, 2 分)を行った後、クロロホル 172 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 ム相をあらかじめ窒素置換(30 秒)しておいたナスフラスコ(25 ml 容量)に分取した。クロロホルム相を移し 入れたナスフラスコ内を再び窒素ガスで 30 秒置換した。テフロン製遠心管にクロロホルム 2 ml を添加再度 1 分 間よく振り、遠心分離(2000 rpm 2 分)を行なった。再びクロロホルム相をナスフラスコに分取し、ナスフラス コ内を窒素ガスで 30 秒置換した。集めたクロロホルム相をエバポレーターを用いて常温で減圧乾固した。残渣に 300 μl クロロホルムを加えて再溶解した(これを脂質抽出液とした)。脂質抽出液 100 μl と 2 mM NDPP 100 μl を褐色試験管に加え、ボルテックスで 10 秒撹拌した。遠心分離(2000 rpm、2 分)した後、60 ℃で 1 時間反 応させた。反応溶液を氷中で冷却した後、撹拌、遠心分離(2000 rpm、2 分)した。反応溶液は使用するまで氷中 で保存した。各試料溶液中の脂質過酸化物量は既知濃度の NDPPO(40μM)溶液のピーク高さとの比較により算出 した。毎時測定において、標準物質として 25 μM、50μM クメンヒドロペルオキシドを NDPP と反応させた溶液を 調製し、反応率の確認を行った。HPLCのカラムには、Cosmosil No. 390-47)を使用した。HPLC 測定条件は UV 検出波長 292 5C18 カラム(4.6×150mm;ナカライテスク, Code nm、移動相 85%メタノール(メタノール:蒸留水= 85:15)、流速 1ml/分、注入量 10 μl で行った。測定終了後、移動相を 100%メタノールに交換し、流速 1 ml/ 分で 1 時間カラムの洗浄を行った。 蛋白質の定量は次のように行った。脳ホモジネートを PBS(-)溶液で 400 倍希釈した。この希釈溶液 400 μl に 試薬 A 液 200 μl、試薬 B 液 1600 μl を添加し、ボルテックスで 10 秒撹拌した。分光光度計で 750 nm の吸光度 を測定した。スタンダードには牛血清アルブミン(BSA)を用いた。BSA 10 mg を PBS(-)溶液 10 ml に溶解さ せ 1 mg/ml の BSA 溶液を調製し、この溶液を希釈して 40、80、120、160、200 μg/ml の BSA 溶液を調製した。各 濃度 BSA 溶液 400 μl に試薬 A 液 200 μl、試薬 B 液 1600 μl を添加し、検量線を作成した。 6)受動的回避学習 SAMP8 を 3 群に分け、それぞれに生理食塩水、100 mg/kg 及び 400 mg/kg のアセチルカルニチンを投与した。投 与方法は腹腔内投与で、生後 3 週目から隔日に 4 ヶ月齢まで続けた。4 ヶ月後、ステップスルー型の受動的回避学 習課題[4]を用いて、学習・記憶能力を測定した。十分実験装置に慣れさせた後、明室に SAMP8 を置き、暗室に入 るまでの時間を測定した(獲得試行、acquisition trial)。暗室にはいると直ちに明室と暗室のドアを閉め電気 ショックを与えた。電気ショックの強度は 1mA であった。24 時間後、再び SAMP8 を明室に入れ、暗室へはいるま での時間を測定した(想起試行、retention trial)。 7)マイクロディアリーシス ネンブタール麻酔下ラットの摂食中枢に透析膜をもつマイクロディアリーシスプローブを慢性的に植え込んだ。 手術侵襲から快復後、透析液をプローブに潅流し、回収液中のセロトニン(5-HT)、5-HT 代謝産物(5-HIAA)、ドー パミン(DA)、DA 代謝産物(HVA、DOPAC)量を高速液体クロマトグラフで拘束前(200 分)、中(200 分)、後(200 分)に わたり 25 分間隔で測定した。「みどりの香り」は拘束中ラットの鼻先のチップに 200 μl たらした。 研究成果 1)摂食行動に対するアセチルカルニチンの作用 図 1 及び 2 はそれぞれ夜間及び 1 日摂食量と腹腔内投与アセチルカルニチンの関係を示したものである。25 mg/kg、50 mg/kg 及び 100 mg/kg のアセチルカルニチンを投与しても対照と比較して両摂食量には変化が認められ なかった。しかし、200 mg/kg のアセチルカルニチンを投与すると両摂食量は有意に減少した。減少の程度は夜間 量及び 1 日量で同じく 3.7 g であった。いずれの投与量でも 3 時間及び昼間摂食量に変化はなかった。 図 3 及び 4 はそれぞれ夜間及び 1 日摂食量と脳室内投与アセチルカルニチンの関係を示したものである。3 nmol のアセチルカルニチン投与は有意に夜間及び 1 日摂食量を抑制した。抑制の程度は夜間量で 6.6 g、1 日量で 8.0 g 173 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 であった。一方、30 nmol のアセチルカルニチン投与は夜間量のみを抑制し、1 日量には変化がなかった。夜間摂 食量の減少の程度は 3.3 g であった。いずれの濃度においても 3 時間及び昼間摂食量に変化はなかった。 total night 30 30 対照群 投与群 25 25 20 20 摂食量(g) 摂食量(g) 対照群 * 15 10 投与群 * 15 10 5 5 0 0 25mg/kg 図1 25mg/kg 50mg/kg 100mg/kg 200mg/kg アセチルカルニチン濃度 アセチルカルニチン濃度 夜間摂食量(腹腔内投与) 図2 night 25 対照群 50mg/kg 100mg/kg 200mg/kg 1 日摂食量(腹腔内投与) total 25 対照群 投与群 20 20 15 15 投与群 * 摂食量(g) * 摂食量(g) * * 10 5 10 5 0 3nmol 図3 0 30nmol アセチルカルニチン濃度 3nmol 30nmol アセチルカルニチン濃度 夜間摂食量(脳室内投与) 図4 1 日摂食量(脳室内投与) 2)摂食中枢及び満腹中枢ニューロン活動に対するアセチルカルニチンの作用 16 個の摂食中枢ニューロンに 1 nM のアセチルカルニチンを投与したところ、11 個(69%)は促進-抑制、1 個(6%) は促進された。残りの 4 個(25%)は無変化であった。また、65 個の摂食中枢ニューロンに 10 nM のアセチルカルニ チンを投与したところ、9 個(14%)が促進-抑制、8 個(12%)が抑制、1 個(2%)が促進された。47 個(72%)は無変化 であった。100 nM のアセチルカルニチンの場合には記録した 38 個の摂食中枢ニューロン中 3 個(9%)が促進-抑制、 1 個(3%)が抑制され、残りの 34 個(89%)は無変化であった。図 5 はそれぞれ 10 nM 及び 100nM のアセチルカルニ チン投与で抑制された例を示す。一方、図 6 は 10 nM で促進されたニューロン活動の例を示す。摂食中枢とは異 174 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 なり、満腹中枢のニューロンはアセチルカルニチンにほとんど反応しなかった。1 nM のアセチルカルニチンは記 録した 20 個のニューロン中 1 個(5%)だけを促進、他の 19 個(95%)のニューロンには無効であった。10 nM のアセ チルカルニチンも記録した 20 個のニューロン中 1 個(5%)だけを促進し、残りの 19 個(95%)には無効であった。 図5 抑制された摂食中枢ニューロン活動(ALC:アセチルカルニチン) 図6 促進された摂食中枢ニューロン活動(ALC:アセチルカルニチン) 3)鉄-過酸化水素フェントン反応系におけるアセチルカルニチン及びカルニチンの抗酸化作用 図 7 はカルニチン(左)及びアセチルカルニチン(右)の濃度変化に対する DMPO-OH の ESR スペクトルの変化 を示したものである。各スペクトル両側のシグナルは標準物質マンガンに対するもので、中の 4 つが DMPO-OH の シグナルである。この内、左から 2 番目のシグナルを見ると、カルニチンの場合その濃度が 0.1 mM 及び 0.5 mM ではシグナルの大きさは対照に比べ小さいが、1 mM から 20 mM にかけて次第に大きくなることがわかる。一方、 アセチルカルニチンの場合は、シグナルの大きさは 0.1 mM から 20 mM にかけて小さいままである。これをまとめ たのが図 8 である。アセチルカルニチンの DMPO-OH シグナル強度は 1 mM から 20 mM にかけて 15%から 20%であ るが、カルニチンの場合には 1 mM から次第に増加し、5、10、20 mM ではそれぞれ 50%、70%、90%となりアセチ ルカルニチンの強度とは明らかに有意な差がある。1 mM からのカルニチンで DMPO-OH シグナルの強度が大きくな る理由として、2 価の鉄と過酸化水素によるフェントン反応によって発生した 3 価の鉄がカルニチンと錯体を形成 し、これに過酸化水素がさらに作用することによってよりヒドロキシラジカルを発生させることが考えられる。 そこで UV スペクトロメータで吸収係数を測定することにより 3 価の鉄とカルニチンあるいはアセチルカルニチン との間での錯体形成を調べた。図 9 がその結果である(左:カルニチン、右:アセチルカルニチン)。カルニチン の場合、高濃度になると波長 300 nM での吸収係数が減少し、350 nM での吸収係数は増加した。一方、アセチルカ ルニチンの場合には 300 nM での吸収係数が減少するだけであった。 175 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 DMPO-OH signal intensity (100% of control) 図 7 カルニチン(左)及びアセチルカルニチン(右)の濃度変化に対する ESR スペクトル 140 L-carnitine acetyl-L-carnitine 120 * * 100 *** ** 80 *** ** * 60 ** 40 *** 20 0 0 0.1 0.5 1 5 10 20 Reagent concentration(mM) 図 8 フェントン反応による DMPO-OH 形成に対するアセチルカルニチン及びカルニチンの効果 176 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 図 9 3 価の鉄とカルニチン(左)及びアセチルカルニチン(右)との錯体形成(スペクトル変化) 4)ヒドロキシラジカルによるモデル神経細胞 PC-12 の細胞死に対するアセチルカルニチンの保護作用 NP-Ⅲの濃度に関し、1 μM では生細胞数の割合に対照と比べ有意な変化はなかったが、2 から 5 μM の濃度で は生細胞数の割合は有意に減少した。さらに、0.5 から 2 μM の範囲で紫外線を照射(ヒドロキシラジカルが発生) した場合としなかった(ヒドロキシラジカル発生せず)場合につき、生細胞数の割合を調べた。その結果、使用 した NP-Ⅲのいずれの濃度でも紫外線を照射した群で有意に生細胞数の割合が減少した。そこで、以後の実験では NP-Ⅲの濃度として 1 μM を用いることにした。なお、NP-Ⅲの溶媒であるアセトニトリルは PC-12 細胞の生存に 全く影響を及ぼさなかった。 紫外線照射時間 2 分、NP-Ⅲの濃度 1 μM という条件下でアセチルカルニチン並びにカルニチンのヒドロキシラ ジカルに対する抗酸化作用を PC-12 細胞の生細胞数の割合で検討した。アセチルカルニチン及びカルニチンは PBS に NP-Ⅲと同時に加えた。濃度はいずれの場合でも 25、50、75、100 μM であった。図 10 はアセチルカルニチン の結果である。アセチルカルニチンを加えない場合(0 μM)、生細胞数の割合は約 0.6 であった。アセチルカル ニチンを 25 μM 及び 50 μM 加えると生細胞数の割合はそれぞれ約 0.7 及び 0.8 と増加した。しかし、アセチル カルニチンの濃度をさらに 75 μM 及び 100 μM と増加すると、逆に生細胞数の割合はそれぞれ約 0.7 及び 0.6 と 減少した。統計的検定の結果、25 μM での生細胞数の割合はアセチルカルニチンを加えない場合の生細胞数の割 合に比べ有意に高かった(p<0.001)。図 11 はカルニチンの結果である。25 μM で生細胞数の割合は約 0.7 とカ ルニチン投与群では最も高いが、カルニチンを投与しない場合に比べ有意な増加ではなかった。 PC12D UV2min NP‐Ⅲ1μM+Acetyl-L-carnitine Viability 1.2 *** 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 ctrl 0μM 25μM 50μM 75μM 100μM Acetyl-L-carnitine concentration UV(-) UV(+) N=8 Mean±SEM 図 10 ヒドロキシラジカルによる PC-12 細胞の細胞死に対するアセチルカルニチンの抗酸化作用 177 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 PC12D UV2min NP‐Ⅲ1μM+L-carnitine 1.2 NS Viability 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 Ctrl 0μM 25μM 50μM 75μM 100μM L-carnitine concentaration UV(-) UV(+) N=8 Mean±SEM 図 11 ヒドロキシラジカルによる PC-12 細胞の細胞死に対するカルニチンの抗酸化作用 5)SAMP8 脳における脂質過酸化物の定量 図 12 は 1 及び 2 ヶ月齢の SAMR1(対照、ヒストグラム左カラム、 n=6)及び SAMP8(ヒストグラム右カラム、 n=8) 脳における脂質過酸化物量を示したものである。1 ヶ月齢では SAMR1 及び SAMP8 の脂質酸化物量はそれぞれ 92.7 及び 93.1pmol/mg protein で、両者の間には有意な差がなかった。一方、2 ヶ月齢ではそれらは 119.9 及び 188.1pmpl/mg protein になり、SAMP8 での脂質過酸化物は SAMR1 に比べ有意に高かった(p<0.05)。1 ヶ月齢と 2 ヶ月齢の比較では、SAMR1 には有意な差はなかったが、SAMP8 で有意な差が認められた(p<0.01)。すなわち、SAMP8 では 2 ヶ月齢から脳組織が酸化的損傷を受け、結果として脂質過酸化物が増加するということが明らかになった。 800 LOOH (pmol/mg protein) (Each value is the mean +/- S.E.) 600 R1 P8 * NS 400 200 0 1 図 12 2 Months SAMP8 脳の脂質酸化物量 6)SAMP8 の受動的回避学習及び脂質過酸化物に対するアセチルカルニチンの作用 上述の研究でアセチルカルニチンには抗酸化作用があり、また SAMP8 の脳が酸化的ストレスを受けていること が明らかになった。そこで、SAMP8 にアセチルカルニチンを投与することにより、その抗酸化作用で酸化的ストレ スが緩和され、結果的に学習・記憶が改善されるか否かを検討した。図 13 がその結果である。獲得試行ではいず れの群でもその潜時は 20 から 30 秒にあり、各群間に有意な差はなかった。一方、想起試行では生理食塩水投与 群(n=6)の潜時は 52.2 秒、100(n=11)及び 400 mg/kg(n=6)アセチルカルニチン投与群の潜時はそれぞれ 98.1 及び 135.5 秒であった。統計的検定の結果は 400 mg/kg 投与群の潜時が生理食塩水投与群の潜時に比べ有意に長 いことを示す。脂質過酸化物は対照群に比べ 400 mg/kg 投与群で有意に低かった(図 14)。 178 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 180.00 300 * Saline LOOH (pmol/mg protein) 100 mg/kg ALC 150.00 Latency (sec) 400 mg/kg ALC 120.00 90.00 60.00 * N.S. 200 100 30.00 0 0.00 Before foot shock 24 h Saline 100mg/kg 400mg/kg after foot shock 図 13 アセチルカルニチンによる回避学習潜時の増大 図 14 アセチルカルニチンによる脂質過酸化の減少 7)拘束時ラットの 5-HT 及び DA 代謝に対する青葉アルデヒドの作用 ラットを拘束すると 25 分後に摂食中枢の 5-HT 代謝は有意に増加し、50 分後にはほぼ対象のレベルに戻った。 一方、5-HT の代謝産物である 5-HIAA は拘束開始時から拘束後も増大した(図 15)。拘束時に青葉アルデヒドを嗅 がせると、5-HT 及び 5-HIAA の増大は有意に減少した。拘束時、DA 代謝産物の HVA 及び DOPAC も増大したが、青 葉アルデヒドはこの増大には効果がなかった。摂食に関し、拘束は 3 時間摂食量を有意に減少した。しかし、拘 束時に青葉アルデヒドを嗅がせると摂食量の減少は消失した。 400 200 n=5 350 250 * * 120 100 100 80 200 Time (min) 図 15 60 -200 400 * *** ** 140 150 0 * ** *** *** * * 160 Immobilization 200 50 -200 Hexenal Solvent 180 5HIAA ( % of Baseline ) 5-HT ( % of Baseline ) 300 n=5 Hexenal Solvent Immobilization 0 200 Time (min) 拘束ストレスによる 5-HT 代謝増強に対する青葉アルデヒドの作用 179 400 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 考 察 アセチルカルニチンの末梢投与及び中枢投与で摂食量が低下した。したがって、アセチルカルニチンには摂食 抑制作用があることが明らかになった。中枢投与の場合には 30 nmol の投与に比べ、3 nmol の投与において摂食 抑制の程度が大きかった。したがって、アセチルカルニチンの摂食抑制作用には至適濃度がある可能性が示唆さ れた。末梢投与による摂食抑制の機序は本実験からは明らかでないが、アセチルカルニチンが脳血液関門を通る ことから、中枢性に作用している可能性がある。 アセチルカルニチンによる摂食抑制の中枢機序を知るため、摂食中枢及び満腹中枢ニューロンに対するアセチ ルカルニチンの作用を調べた。満腹中枢のニューロンはほとんどアセチルカルニチンに反応しなかったが、摂食 中枢のニューロンはアセチルカルニチンに反応した。反応様式としてはアセチアセチルカルニチン投与後ニュー ロン活動が一過性に促進されその後強力に抑制されるものが多かった。この反応の主効果を抑制と考えれば、1 nM のアセチルカルニチンで抑制されるニューロンは 69%、10 nM で 26%、100 nM で 12%であった。これまでの研究で 摂食中枢ニューロン活動の抑制は摂食の低下に結びつくと考えられていることから[5]、本実験の結果はアセチル カルニチンが摂食を中枢性に抑制する機序はアセチルカルニチンが摂食中枢ニューロン活動を抑制することによ ると考えられる。低濃度のアセチルカルニチンでより強い摂食抑制が起こるという事実も、低濃度のアセチルカ ルニチンがより多くの摂食中枢ニューロンを抑制するという本実験結果で説明できると考えられる。 アセチルカルニチン存在下で鉄-過酸化水素によるフェントン反応を引き起こすと、アセチルカルニチン濃度 が 0.1 から 20 mM の範囲で DMPO とヒドロキシラジカルの付加体の量が 1/5 から 1/10 に減少することが明らかに なった[6]。一方、カルニチンの場合 0.1 から 1 mM の範囲では付加体の量は 1/5 から 1/3 に減少したが、5 から 20mM の範囲では減少の程度は減弱し、アセチルカルニチンの場合と比較すると有意に高い値を示した。すなわち、 アセチルカルニチンは低濃度から高濃度までラジカルの発生を抑える抗酸化作用を示すが、カルニチンは高濃度 になるとラジカルの発生を逆に促進する作用をもつことが判明した。このカルニチンの作用と同様の作用を示す 物質が乳酸である。Ali ら[7]は、乳酸が鉄-過酸化水素フェントン反応系で発生する 3 価の鉄と錯体を形成し、 これに過酸化水素が作用することでより多くのヒドロキシラジカルが発生することを明らかにした。そこで錯体 が形成されると、300 nm での吸光係数が減少し、350 nm での吸光係数が増大することを指標に、カルニチンによ る錯体形成を UV スペクトロメータで調べたところ、乳酸の場合と同様であった。したがって、カルニチンが高濃 度で生体内に存在することは生体にとって好ましい状態ではない可能性が示唆された。 アセチルカルニチン及びカルニチンが実際神経細胞に対し抗酸化作用を示すか否かを PC-12 細胞の培養系で調 べた結果、アセチルカルニチンには 50μM で確かに抗酸化作用があり、ヒドロキシラジカルによる細胞死が抑制 されることが明らかになった。これまでの慢性疲労に関する研究によると、慢性疲労症候群の患者の脳では情動 に関係する部位でアセチルカルニチンの濃度が低下していることが知られている。本実験の結果は、常に酸化的 ストレスにさらされている脳部位でアセチルカルニチン濃度が低下すると、その抗酸化作用が十分発揮できず、 その部位での組織に障害が生じ、結果的に神経回路が機能しなくなる可能性を示唆するのかもしれない。 SAMP8 は生後 2 から 3 ヶ月目で学習・記憶機能が低下することで知られている。これが酸化的ストレスによるの かどうかを調べるため、脳の脂質過酸化物の量を測定したところ、2 ヶ月齢のラットで有意に増加していた。実際、 抗酸化作用をもつアセチルカルニチンを 3 ヶ月にわたり SAMP8 腹腔内に投与しておくと、脂質過酸化物量は有意 に低下し、学習・記憶機能は有意に改善された。Prickaerts ら[8]も、ストレプトゾトシンを投与するとラットの 空間学習は障害されるが、アセチルカルニチンを慢性的に投与しておくとこれが改善されることを報告している。 Caprioli ら[9]も、アセチルカルニチンを慢性的に投与しておくと低下した老齢ラットの空間学習能力が改善され ることを報告している。これらの結果は、アセチルカルニチンが抗酸化作用等をとおして脳組織の障害を保護し、 結果的に学習・記憶を改善する作用をもつことを示唆する。 疲労や疲労感を和らげる伝統療法に森林浴がある。森林では木々の葉が、いわゆる「みどりの香り」をだす。 そこで、 「みどりの香り」の成分の一つである青葉アルデヒドをラットの拘束中に嗅がせたところ、拘束時に増大 180 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 する 5-HT 代謝が有意に減弱することが判明した。減弱の機序は現在明らかでないが、嗅細胞にウイルスを感染さ せると 5-HT を産生する背側縫線核の細胞が障害されることから[10]、青葉アルデヒドにより背側縫線核の 5-HT 細胞の活動は抑制され、5-HT 代謝が抑えられる可能性がある。 引用文献 [1] Oomura Y.: Significance of glucose, insulin, and free fatty acid on the hypothalamic feeding and satiety neurons. In D. Novin, W. Wyrwicka and G.A. Bray (Eds.), Hunger: Basic Mechanisms and Clinical Implications, Raven Press, New York, pp.145-157, 1976. [2] Matsugo S., Mizuno M. and Konishi T.: Free radical generating and scavenging compounds as a new type of drug. Cur. Med. Chem., 2:763-790, 1995. [3] Tokumaru S., Tsukamoto I., Iguchi H., Kojo S.: Specific and sensitive determination of lipid peroxides with chemical derivatization into 1-naphtyldiphenylphosphine oxide and high-performance liquid chromatography. Anal. chem. Acta., 307:97-102, 1995. [4] Sasaki K., Tooyama I., Li A.-J., Oomura Y. and Kimura H.: Effects of an acidic fibroblast growth factor fragment analog on learning and memory and on medial septum cholinergic neurons in senescence-accelerated mice. Neurosci., 92:1287-1294, 1999. [5] Oomura Y., Ooyama H., Naka F., Yamamoto T. Ono T. and Kobayashi N.: Some stochastical patterns of single unit discharges in the cat hypothalamus under chronic conditions. Ann. N.Y. Acad. Sci., 157:666-689, 1969. [6] Yasui F., Imai Y., Matsugo S., Sasaki K. and Konishi T.: Antioxidant and/or prooxidant activities of carnitine and its derivative on the hydroxyl radical generation by the Fenton reaction. ITT Lett. Batt. New Technol. & Med., in press. [7] Ali M.A., Yasui F., Matsugo S. and Konishi T.: The lactate-dependent enhancement of hydroxyl radical generation by the Fenton reaction. Free Radic. Res., 32: 429-438, 2000. [8] Prickaerts J. Blokland A., Honig W., Meng F. and Jolles J.: Spatial discrimination learning and choline acetyltransferase activity in streptozotocin-treated rats; effects of chronic treatment with acetyl-L-carnitine. Brain Res., 674:142-146, 1995. [9] Caprioli A., Markowska A.L. and Olton D.S.: Acetyl-L-carnitine: chronic treatment improves spatial acquisition in a new environment in aged rats. J. Gerontol. A Biol. Sci. Med. Sci., 50: B232-236, 1995. [10] Mohammed A.K., Maehlen J., Magnusson O., Fonnum F. and Kristensson K.: Persistent changes in behaviour and brain serotonin during ageing in rats subjected to infant nasal virus infection. Neurobiol. Aging, 13:83-87, 1992. 成果の発表 1)原著論文による発表 ア)国外誌 1. Leptin effects on feeding-related hypothalamic and peripheral neuronal activities in normal and obese rats. Shiraishi T., Sasaki K., Niijima A. and Oomura Y., Nutrition 15:576-578, 1999. 2. Effects of leptin and orexin-A on food intake and feeding related hypothalamic neurons. Shiraishi 181 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 T., Oomura Y., Sasaki K. and Wayner M.J., Physiol. & Behav., 71:251-261, 2000. 3. Age-dependent changes in lipid perooxide levels in peripheral organs, but not in brain, in senescence-accelerated mice. Matsugo S., Kitagawa T., Minami S., Esashi Y., Oomura Y., Tokumaru S., Kojo S., Matsushima K. and Sasaki K., Neurosci. Lett., 278:105-108, 2000. 4. Yasui F., Imai Y., Matsugo S., Sasaki K. and Konishi T.: Antioxidant and/or prooxidant activities of carnitine and its derivative on the hydroxyl radical generation by the Fenton reaction. ITT Lett. Batt. New Technol. & Med., in press. 2)原著論文以外による発表 ア)国内誌 1. 佐々木和男、白石武昌、大村 裕、オレキシンと摂食調節. Clin. Neurosci., 19:85-86, 2001. 3)口頭発表 イ)応募・主催講演等 1. Oomura Y., Hori N., Shiraishi T., Sasaki K. and Takeda H.: Leptin suppresses food intake through the hypothalamus and facilitates learning and memory through the hippocampus. 25th SEIRIKEN Int. Symp. on Ion Channels & Receptors in Cell Physiol., Okazaki, Jan., 1999. 2. Sasaki K., Ishibashi M., Kawahara N., Yamato T., Shiraishi T. and Oomura Y.: Actions of leptin on neurons of arcuate nucleus in Wistar and Zucker rats. 8th Annual Meeting of Int. Behav. Neuroscience Society, Nancy, June, 1999. 3. Shiraishi T., Sasaki K., Niijima A. and Oomura Y.: Roles of leptin and orexins as an endogenous feeding modulators in rats: behavioral and electrophysiological evidence. Satellite Symp. on Brain Mechanisms and Ingestion, Nancy, June, 1999. 4. Oomura Y., Hori N., Shiraishi T., Sasaki K., Aou S. and Li X.-L.: Endogenous satiety substances, 2-buten 4-olide, aFGF and leptin facilitate learning and memory through the hippocampus. 8th Annual Meeting of Int. Behav. Neuroscience Society, Nancy, June, 1999. 5. Oomura Y., Hori N., Shiraishi T., Sasaki K. and Takeda H.: Endogenous satiety substances, 2-buten-4-olide, acidic fibroblast growth factor (aFGF) and leptin facilitate learning and memory through the hippocampus. Int. Conf. devoted to 150th anniversary of Prof. Pavlov’s birth, St. Petersburg, Sept., 1999. 6. Sasaki K., Kawahara N., Ishibashi M., Kow L.-M., Shiraishi T., Muramoto K. and Oomura Y.: Effects of leptin and orexin-A on the neuronal activity of the arcuate nucleus(ARC) in rats. 29th Annual Meeting of Society for Neuroscience, Miami, Oct., 1999. 7. Oomura Y., Hori N., Aou S., Li X., Sasaki K. and Shiraishi T.: Learning, memory and the hippocampal activity in genetically obese rodents. 29th Annual Meeting of Society for Neuroscience, Miami, Oct., 1999. 8. 大村 裕、粟生修司、李学良、堀 伸顕、佐々木和男:内在性摂食調節物質及び空腹物質の学習記憶に対 する作用機構.第 16 回微量栄養素研究会抄録集、18、1999. 9. 大村 裕、堀 信顕、白石武昌、佐々木和男、武田弘志、辻 稔:満腹物質レプチンの海馬を介する学習 記憶促進.第 9 回日本病態生理学会大会、岡山、1999 年 1 月. 10. 白石武昌、佐々木和男、新島 旭、大村 裕:ラット摂食行動とニューロン活動に対する内在性摂食調節 物質レプチンとオレキシンの作用.第 76 回日本生理学会大会、長崎、1999 年 3 月. 182 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 11. 一ノ瀬充行、澤田正史、佐々木和男、大村 裕:免疫担当細胞マクロファージに対するオレキシンとレプ チンの作用.第 76 回日本生理学会大会、長崎、1999 年 3 月. 12. 佐々木和男、堀 信顕、白石 武昌、大村 裕:学習・記憶に対する内在性摂食調節物質レプチンの作用. 第 76 回日本生理学会大会、長崎、1999 年 3 月. 13. 松郷誠一、南 誠賢、江指慶春、佐々木和男:加齢に伴う老化促進マウスの脳の酸化損傷.日本化学会春 季年会、横浜、1999 年 3 月. 14. 大村 裕、粟生修司、李 学良、堀 信顕、佐々木和男:内在性満腹及び空腹物質の学習記憶に対する作 用機構.第 26 回日本脳科学会、岡山、1999 年 5 月. 15. 佐々木和男、石橋 賢、河原伸行、白石武昌、大村 裕:ラット弓状核ニューロンに対するレプチンの作 用.第 22 回日本神経科学大会、大阪、1999 年 7 月. 16. 大村 裕、堀 信顕、粟生修司、李 学良、佐々木和男、大村 裕:遺伝性肥満 Zucker ラットおよび db/db マウスの学習記憶.第 22 回日本神経科学大会、大阪、1999 年 7 月. 17. 松郷誠一、南 誠賢、北川隆洋、得丸定子、小城勝相、松島綱治、大村 裕、江指慶春、佐々木和男:S AMの加齢に伴う脂質過酸化物量変化-新評価システムの構築と応用.第 15 回老化促進モデルマウス(S AM)研究協議会、徳島、1999 年 7 月. 18. 白石武昌、新島 旭、佐々木和男、大村 裕:内在性摂食調節物質レプチンとオレキシンの行動科学.第 20 回日本肥満学会、東京、1999. 19. 大村 裕、粟生修司、李 学良、堀 伸顕、佐々木和男、白石武昌:遺伝性肥満ズッカーラット及び db/db マウスと学習記憶の関連.第 20 回日本肥満学会、東京、1999. 20. 佐々木和男、河原伸行、石橋 賢、白石武昌、大村 裕:ラット弓状核ニューロン活動に対するレプチン 及びオレキシンの作用.第 20 回日本肥満学会、東京、1999. 21. Sasaki K, Matsugo S. Tokumaru S. and Oomura Y: Lipid peroxide levels in brain and peripheral organs in senescence-accelerated mice. 9th International Behavioral Neuroscience Society Meeting, Denver, Apr., 2000. 22. Shiraishi T., Sasaki K. and Oomura Y.: Effects of various endogenous feeding regulating substances on the hypothalamic neuronal activity and feeding in rats. 9th International Behavioral Neuroscience Society Meeting, Denver, Apr., 2000. 23. Sasaki K., Kawahara N., Ishibashi M., Shiraishi T. and Oomura Y.: Effects of neuropeptide-Y (NPY), leptin and orexin-A on the activity of the arcuate neurons in rats. 9th International Behavioral Neuroscience Society Meeting, Denver, Apr., 2000. 24. Oomura Y., Aou S., Li X.L., Li A.J., Sasaki K. and Shiraishi T.: Orexin-A suppresses spatial memory formation and LTP in Schaffer collatera/commissural affernt-CA1 synapses. 9th International Behavioral Neuroscience Society Meeting, Denver, Apr., 2000. 25. Matsugo S., Tokumaru S., Matsushima K. and Sasaki K.: Age-dependent changes in lipid peroxide levels in peripheral organs, but not in brain, in senescence-accelerated mice. 10th Biennial Meeting of the Society for Free Radical Research International, Kyoto, Oct. 2000. 26. Sasaki K., Kawahara N., Ishibashi M., Shiraishi T., Muramoto K. and Oomura Y.: Effects of orexin-A and –B on neuronal activity of the ventromedial part of the arcuate nucleus in rats. 30th Annual Meeting Society for Neuroscience, New Orleans, Nov. 2000. 27. Oomura Y., Aou S., Li X.L., Li A., Sasaki K., Shiraishi T. and Wayner M.J.: Suppression of spatial memory and long-term potentiation by orexin-A. 30th Annual Meeting Society for Neuroscience, New Orleans, Nov., 2000. 183 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 28. Kow L.-M., Otsubo S., Shibuya I., Phaff D.W. and Sasaki K.: Selective estrogenic influence on inhibitory actions of opioids in ventromedial hypothalamic neurons. 30th Annual Meeting Society for Neuroscience, New Orleans, Nov., 2000. 29. 大村 裕、粟生修司、李 学良、李 愛軍、佐々木和男、白石武昌:空腹物質オレキシンの学習記憶に対 する作用.第 10 回日本病態生理学会、 福島, 2000 年 1 月. 30. 佐々木和男、河原伸行、白石武昌、大村 裕:ラット弓状核腹内側部ニューロン活動に対する orexin-A 及び orexin-B の作用. 第 2 回オレキシン研究会 31. 白石武昌、佐々木和男、大村 東京、2000 年 2 月. 裕:視床下部性摂食調節機構に対するオレキシンの役割:視床下部諸核の 神経活動と摂食行動.第 2 回オレキシン研究会、2000 年 2 月. 32. 佐々木和男、河原伸行、石橋 賢、白石武昌、大村 裕:オレキシンは弓状核ニューロン活動を促進す. 第 23 回日本神経科学学会・第 10 回日本神経回路学会合同大会、横浜、2000 年 9 月. 33. 白石武昌、佐々木和男、大村 裕:視床下部性エネルギーの代謝調節機構におけるニューロペプタイド系 の役割.第 23 回日本神経科学学会・第 10 回日本神経回路学会合同大会、横浜、2000 年 9 月. 34. 河原伸行、塚田 章、佐々木和男:視床下部弓状核腹内側部のニューロン活動におけるオレキシンの作用. 平成 12 年度電気関係学会北陸支部連合大会、金沢、2000 年 9 月. 35. 江指慶春、斎藤益満、塚田 章、松郷誠一、磯部正治、佐々木和男:アセチルカルニチンの神経組織障害 保護作用に関する研究.平成 12 年度電気関係学会北陸支部連合大会、金沢、2000 年 9 月. 36. 佐々木和男、河原伸行、石橋 賢、白石武昌、大村 裕:ラット弓状核腹内側部ニューロン活動に対する orexin-A 及び-B の作用。第 21 回日本肥満学会、名古屋、2000 年 10 月. 37. 大村 裕、粟生修司、李 学良、堀 信顕、Armstrong D. 佐々木和男、白石武昌:ob/ob、db/db マウス および Zucker ラットの学習・記憶。第 21 回日本肥満学会、名古屋、2000 年 10 月. 38. 白石武昌、佐々木和男、大村 裕:視床下部ニューロンと内在性 neuropeptides のエネルギー代謝調節機 構における役割。第 21 回日本肥満学会、名古屋、2000 年 10 月. 39. Oomura Y., Hori N., Shiraishi T., Aou S., Li A., Fukunaga K. and Sasaki K.: Central mechanism of the effect of leptin on learning and memory. Soc. for Study on Ingestive Behavior, Philadelphia, June, 2001. 40. Oomura Y., Hori N., Shiraishi T. Aou S., Li A., Fukunaga K. and Sasaki K.: Endogenous satiety substances facilitate learning and memory. Chinese-Japanese Pathophysiology Cong. II, Chontsu, Aug., 2001. 41. Oomura Y., Hori N., Shiraishi T., Fukunaga K., Takeda T. and Sasaki K.: Leptin activates the brain function. 13th Int. Cong. Physiol. Food and Fluid Intake, Queensland, Aug., 2001. 42. Ishibashi M. Oomura Y. Sasaki K. and Shiraishi T.: Ionic mechanism of the effct of endogenous food intake control substances on the hypothalamic neurons. 34th Int. Cong. on Physiol. Sci., Christchurch, Aug., 2001. 43. Sasaki K., Yamada Y., Ishibashi M., Nakazato M., Shiraishi T., Oomura Y. and Muramoto K.: Effect of Ghrelin and orexin on neuronal activity in the medial arcuate nucleus of rats. 31st Annual Meeting of Soc. for Neurosci., San Diego, Nov., 2001. 44. Oomura Y., Sasaki K., Ishibashi M. and Shiraishi T.: Effect of leptin and orexin on receptor channels of hypothalamic neurons in rats. 31st Annual Meeting of Soc. for Neurosci., San Diego, Nov., 2001. 45. 大村 裕、白石武昌、武田弘志、福永浩司、佐々木和男:内在性満腹物質レプチンによる高次脳機能-学 習記憶の促進.第 11 回日本病態生理学会大会、福岡、2001 年 1 月. 46. 白石武昌、佐々木和男、大村 裕:NPY の摂食誘発はいかなる作用機序によるのか.第 11 回日本病態生理 184 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 学会大会、福岡、2001 年 1 月. 47. 佐々木和男、河原伸行、山田泰英、石橋 賢、白石武昌、大村 裕:ラット弓状核腹内側核ニューロン活 動に対する MCH、オレキシン及びレプチンの作用.第 78 回日本生理学会大会予稿集、148、京都、2001 年 3 月. 48. 松郷誠一、安井文彦、江指慶春、佐々木和男、松島綱治:老化促進モデルマウスの脳及び末梢臓器におけ る脂質酸化物量の加齢変化.日本化学会、2001 年. 49. 大村 裕、白石武昌、武田弘志、福永浩司、矢田俊彦、佐々木和男:レプチンは脳の高次機能を促進させ る.第 24 回日本神経科学、第 44 回日本神経化学合同大会、京都、2001 年 9 月. 50. 佐々木和男、山田泰英、石橋 賢、白石武昌、中里雅光、大村 裕:ラット弓状核腹内側核ニューロン活 動に対する種々の新規摂食調節物質の作用.第 24 回日本神経科学、第 44 回日本神経化学合同大会、京都、 2001 年 9 月. 51. 大坪靖一、山田泰英、塚田 章、馬場欣哉、佐々木和男:腹側被蓋野ニューロン活動に対する CART の作 用.平成 13 年度電気関係学会北陸支部大会、富山、2001 年 10 月. 52. 山田泰英、塚田 章、馬場欣哉、佐々木和男:視床下部弓状核ニューロン活動に対するグレリンの作用. 平成 13 年度電気関係学会北陸支部大会、富山、2001 年 10 月. 53. 川本康治、塚田 章、馬場欣哉、佐々木和男:拘束ストレス下ラットの脳機能に対する緑の香りの作用. 平成 13 年度電気関係学会北陸支部大会、富山、2001 年 10 月. 185 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 2. 慢性疲労症候群等の病的疲労の研究 2.2. 疲労生体信号と神経・免疫・内分泌相関の調整 2.2.4. 活性酸素代謝とレドックス制御系の役割解析 大阪市立大学大学院医学研究科生化学分子病態学 井上 要 正康 約 急性及び慢性の疲労病態における酸化ストレスの関与を明らかにするために、トレッドミル及び水浸ケージで 飼育した疲労ラットの体内抗酸化物質レベル及びその代謝動態を解析した。 トレッドミルによる疲労負荷ラットでは、血中のグルタチオンおよび脳脊髄液中のアスコルビン酸濃度が有意 に変化することが判明した。この所見は、疲労病態に両抗酸化物質の代謝が大きく関与している事を示唆する。 また、DNA アレイを用いた解析により、両疲労負荷ラットにおいて特に腎での遺伝子発現が激的に抑制されること が判明した。この際、約 10%近い遺伝子の発現が低下することから、強度の疲労では腎の代謝が激変しているこ とが示唆された。 研究目的 生体は生命維持に莫大なエネルギーを必要とし、このために多量の酸素を消費している。この酸素の数%は平 - 時でも中間生成物である活性酸素種(1O2, O2 , H2O2,・OH など)となっている。これらの活性酸素種に対し、生体 内には種々の抗酸化酵素や抗酸化物質が存在し、活性酸素代謝を安全に制御している。グルタチオンの代謝は、臓器 内サイクルに加え肝腎を中心とする臓器間サイクルを形成し、細胞内外のグルタチオンレベルやレドックス状態を一 定に保持している。生体内の酸化(物質)と還元(物質)のレドックスバランスが活性酸素優位になった状態を酸化 ストレスと呼ぶが、これが生体の抗酸化代謝を変化させ、生理機能制御や病態発現に深く関与している。 これら分子群のクロストークにより様々な生理的および病理的過程が制御されているため、そのバランスが崩 れると様々な病態を誘起し、疲労病態もその中に含まれる。特に、酸化ストレスの強度が生体応答能力の限界を 越えると、循環代謝系を中心に大きな歪みが生じる。多くの活性酸素種は不安定なために生体レベルで定量評価 することは困難であるが、それらの反応に共役する抗酸化分子群の動的変化は酸化ストレスの実体を把握するた めのマーカーになりうる。疲労研究では、活動負荷や、ストレスによる代謝的な歪み、その中枢性検知機構、及 び末梢応答病態の解明が重要であり、以下の点を解析し、これらに関連する問題の解決を目指す。 1)急性及び慢性疲労ラットにおける生化学的パラメータの検討:活性酸素代謝産物とその関連抗酸化物質(グル タチオン、アスコルビン酸など)の体内動態を明らかにする。 2)急性及び慢性疲労ラットにおける遺伝子発現:DNA マクロアレイを用い、疲労により脳、肝、腎などで変動す る遺伝子発現動態の変化を解析する。 186 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 研究方法 1)動物 8-9 週齢 Wistar 雄ラット用い、自由摂食下で実験を行った。 2)疲労負荷条件 a) 円型トレッドミル(OSAKA MICRO SYSTEM)を用いて 1.2 m/min の速度でラットを 18 時間、および 48 時間走 行させ、血液、脳脊髄液、および各臓器を採取して解析した。 b) ラットを床敷き飼育ケージの代わりに 1.5 ㎝水深ケージで 5 日間飼育した。 3)疲労度測定 ロータロッド(MK-660A 室町機械株式会社)を 3-12 rpm で回転させ、ラットがロータ上から落下するまでの滞 在時間を測定して疲労度の指標とした。 〈サンプル処理〉 エーテル麻酔下にマウスの腹大動脈よりヘパリン採血した後、4℃の生食で臓器を灌流した。血液は採血後 直ちに 4℃ 15,000 rpm で遠心し、プラズマを分離後に最終濃度 5%の TCA で酸処理した。各臓器は採取後直 ちに最終濃度 5%の TCA でホモジナイズし 4℃、10,000 rpm で 30 分遠心後、上清を採取して測定に用いた。 〈総グルタチオン量 (GSH + GSSG) の測定〉 Tietze と Ellman らの酵素リサイクリング方法により組織サンプル中の総グルタチオン量を測定した。NADPH とグルタチオンレダクターゼ存在下に GSH と GSSG のリサイクリング法により DTNB から TNB の生成速度を 412 nm の吸光度変化により検出した。 〈アスコルビン酸の測定〉 VX-ODS カラムを用いた HPLC により化学検出器(L-ECD-6A (Shimadzu)) で還元型アスコルビン酸を測定した。 〈mRNA 発現の解析〉 上記 a) 及び b) ラットより脳、肝、腎を直ちに採取し、液体窒素で凍結後 RNA を抽出してクロンテック ア トラスラット DNA アレイ 1.2 で遺伝子発現状態を解析した。 研究成果 1)トレッドミル負荷後の疲労度 トレッドミル中で 1.2 m/min の速度で 18 時間および 48 時間走行させたラットの疲労強度をロータロッドで測 定した。解析の結果、コントロール群と比較し、実験群のドラム上滞在時間は有意な変化を示した(Fig. 1)。特 に、ドラムの回転速度を上げると、滞在時間は有意に低下した。 2)抗酸化物質濃度 コントロール群に比べ、疲労負荷群では肝臓中の SH 濃度が有意に低下した。また、血漿中のグルタチオン濃度 は顕著な一過性低下を示した。また、脳脊髄液 (CSF) 中のアスコルビン酸濃度も疲労負荷ラットでは著明な一過 性低下を示した。一方、脳や肝のグルタチオンとアスコルビン酸のレベルは 2 群間で有意な差は見られなかった (Fig. 2, 3, 4)。 3)遺伝子発現 トレッドミル疲労負荷ラット(Running 48 h)ではコントロールラットに比べ、腎臓の遺伝子の約 10%の発現 が強く抑制されていた。一方、脳や肝では著明に変動する遺伝子は 1%以下であった(Fig. 5)。また、水浸ケー 187 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 ジラット(Water-stress 5 days)でもトレッドミル疲労負荷ラット同様に腎臓で発現が抑制される遺伝子が多く、 これら違ったモデルの疲労負荷ラット間において、同様の遺伝子群の変化が認められた(Fig. 6)。一方、脳にお いてはこれらの疲労負荷ラット間において 5 つの共通遺伝子の変動が認められたが、その発現の増減は逆の様相 を示した(Fig. 7)。今後、変化している遺伝子群の機能単位の解析を行う予定である。 Fig. 1 Effect of Fatigue on Equilibrium Capability Fig. 2 Effect of Fatigue on Thiol Status 188 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 Fig. 3 Fig. 4 Effect of Fatigue on Glutathione Status Effect of Fatigue on Ascorbic Acid Status 189 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 Fig. 5 Effect of Fatigue on Tissue Gene Expression 190 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 Fig. 6 Fig. 7 Effect of Fatigue on Real Gene Expression Effect of Fatigue on Cerebral Gene Expression 191 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 考 察 GSH は、グルタチオンペルオキシダーゼ (GPx)の 存在下に過酸化物 (ROOH) や過酸化水素 (H2O2) を還元処理す るのみならずフリーラジカル (FR) と直接反応することにより酸化ストレスから生体を防御している。このため、生 体に酸化ストレスが負荷されると、グルタチオン代謝動態が変動して生体のレドックス状態を正常に維持するように 働く。逆に、グルタチオン代謝制御能が不十分であれば、酸化ストレスにより様々な病態が誘起される。 好気的生物では活性酸素種が常に産生されているので、酸化ストレスが誘起されやすい。そのため、種々の病 態時に組織や細胞を活性酸素ストレスから保護する上で、肝腎を中心とするグルタチオン代謝サイクルはきわめ て重要である。 チオール代謝系に影響する諸因子は、レドックス変化を介して生体にさまざまな代謝変化を誘起する。グルタ チオンやシステインを含む低分子チオールは、さまざまな酵素や受容体の活性、ホルモン作用、細胞内シグナル 伝達、遺伝子発現、細胞増殖分化などに関与する。酸化還元状態の変化が SH/SS 変換を介して細胞の代謝を制御 していることも知られている。特に活性反応中心に遊離SH基あるいはジスルフィド基を有する酵素群では、 GSH/GSSG の存在比の変化やチオレドキシンの動態により、その活性が強く影響される。 今回用いた不眠運動ストレス負荷ラットにおいては、ロータロッドの回転数を低速から高速に変化させたとこ ろ、疲労度の指標であるドラム上の滞在時間がコントロール群に比べ低下した。異なる回転数の負荷が神経系へ 与える影響は不明であるが、今後、他のストレス強度測定系の結果と合わせて解析することにより、更に詳しく 様相を明らかにする予定である。 今回実施したストレス負荷ラットでは血中のグルタチオンおよび脳脊髄液中のアスコルビン酸濃度が有意に変 化することより、疲労病態時には両抗酸化物質の代謝が大きく変動している事が示唆された。 一方、 DNA アレイの結果より、脳や肝に比べ腎臓では数多くの遺伝子群の発現が強く抑制されることが観察さ れた。また、水浸ケージで飼育した疲労ラットにおいても同様に、腎臓で遺伝子発現が強く抑制されていた。こ れら異なる負荷の疲労病態においても共通の遺伝子発現や代謝動態が強く影響されることが示唆された。今後、 変動する遺伝子群の同定とその生物学的な意義を更に詳しく検討することで疲労病態の背景で共通に変動する分 子を明らかにすることが可能であろう。 成果の発表 原著論文 ・M. Kashiba, E. Kasahara, K. C. Chien, M. Inoue : Fates and vascular action of s-nitrosoglutathione and related compounds in the circulation. Archives of Biochemistry & Biophysics 363: 213-218, 1999 ・A.Kashiwagi, H. Hanada, M. Yabuki, T. Kanno, R. Ishisaka, J. Sasaki, M. Inoue, K. Utsumi : Thyroxine enhancement and the role of reactive oxygen species in tadpole tail apoptosis. Free Radical Biology &Med. 26: 1001-1009, 1999 ・Y. Takehara, H. Nakahara, S. Okada, K. Yamaoka, K. Hamazaki, A.Yamazato, M. Inoue, K. Utsumi : Oxygen concentration regulates NO-dependent relaxation of aortic smooth muscles. Free Rad. Res. 30(): 287-294, 1999・ ・I. Imada, E. F. Sato, M. Miyamoto, Y. Ichimori, Y. Minamiyama, R. Konaka, M. Inoue : Analysis of reactive oxygen spieces generated by neutrophils using a chemilumenescence probe L-012. Analytical Biochemistry 271: 53-58, 1999 ・Y. Minamiyama, S. Takemura, T. Akiyama, S. Imaoka, M. Inoue, Y. Funae, S. Okada : Isoforms of cytochrome P450 on organic nitrate-dereved nitric oxide release in human heart vessels. FEBS Letters 452: 165-169, 1999 192 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 ・S. Takemura, Y. Minamiyama, S. Imaoka, Y. Funae, K. Hirohashi, M. Inoue, H. Kinoshita : Hepatic cytochrome P450 is directly inactivated by nitric oxide, not by inflammatory cytokines, in the early phase of endotoxemia. J. of Hepatology 30: 1035-1044, 1999 ・M. Inoue, M. Nishikawa, E. F. Sato, K. Matsuno, J. Sasaki : Synthesis of superoxide dusmutase derivative that specifically accumulates in renal proximal tubule cells. Archives of Biochemistry and Biophysics 368: 354-360, 1999 ・R. Konaka, E. Kasahara, W.C.Dunlap, Y. Yamamoto, K. Chien, M. Inoue : Irradiation of titanium dioxide generates both singlet oxygen and superoxide anion. Free Radical Biol.& Med. 27: 294-300, 1999 ・M. Inoue, M. Nishikawa, E. F. Sato, P. AH-Mee, M. Kashiba, Y. Takehara, K. 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Understanding the Process of Aging: 57-71, 1999 ・Inoue, M., Nishikawa, M., Sato,E. F.,Kasahara, E., Chien, K.C.,Miyoshi, M., Takehara, Y., Utsumi, 194 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 K. : Role of cross-talk of nitric oxide, superoxide, and molecular oxygen in the regulation of gastrointestinal functions and enteric bacteria. 17: 3-11, 1999 ・K. Suzumura, E. Kasahara, K. C. Chien, M. Inoue : Turnover of glutathione and ascorbic acid is suppressed inhyperlipidemic rabbits. Lipoprotein Metabolism and Atherogenesis: 160-162, 2000 ・Y. Yamamoto, N. Imai, R. Mashima, R. Konaka, M. Inoue, W. C. Dunlap : Singlet oxygen from irradiated titanium dioxide and zinc oxide. 319: 29-37, 2000 ・M. Inoue, E. 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Utsumi : Roles of long chain fatty acids and carnitine in mitochondrial membrane permeability transition Biochemical pharmacology 62: 1-10, 2001 総 説 ・井上正康 : 活性酸素酸素と生命潮流 老年消化器病 11: 257-262, 1999 ・井上正康, 中野修治, 近藤宇史 : フリーラジカルと疾患現代医療 31: 2422-2432, 1999 ・井上正康、西川学 : 活性酸素と NOーその生理機能と病理機能ー 医学のあゆみ 190: 902-907, 1999 ・今田伊助、佐藤英介、井上正康 : 生体における活性酸素・フリーラジカルの産生と消去 化学と生物 37: 411-419, 1999 ・南山幸子,竹村茂一, 今岡進, 葛城邦浩, 井上正康 : 一酸化窒素(NO)による肝ミクロゾームチトクローム P450 の修飾機構 薬理と治療 27: 37-42, 1999 竹村茂一, 坂田親治, 葛城邦浩, 木下博明, 南山幸子, 井上正康: 敗血症時の肝チトクローム P450 の変化 とその意義薬理と治療 27: 31-35, 1999 ・南山幸子, 笠原恵美子, 今田伊助, 井上正康 : 細胞内活性酸素測定の問題点 炎症と免疫 8: 119-125, 2000 ・西口修平, 康 典利, 井上正康 : 高齢者肝細胞癌のマネジメント ・前田憲作 朴 雅美 老年消化器病 2: 61-64, 2000 井上正康: 生体内における酸化ストレスとその防御系 血圧 別冊 8(5): 453-458, 2001 ・吉良幸美 ・笠原恵美子 井上正康 : 生体とフリーラジカル CLINICAL NEUROSCIENNCE 別冊 19(5): 520-523, 2001 ・南山幸子 井上正康 : 老化と機序と運動 臨床 竹村茂一 スポーツ医学 別冊 18(2): 226-232, 2001 井上正康 : 肝と活性酸素 現代医療 33(9): 58-63, 2001 ・西川学、井上正康 : 炎症性腸疾患における活性酸素の役割 臨床免疫 36(3): 385-389, 2001 195 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 口頭発表 ・国内 招待講演 井上正康、西川学、三好真美、朴 雅美、佐藤英介、内海耕慥 活性酸素 NO 系のスーパーシステムと生体防御 第 74 回日本生化学会、2001 年 10 月、京都 西川学、西口修平、常 宝君、佐藤英介、井上正康 ウイルス性肝炎の肝発癌過程におけるミトコンドリア遺伝子変異 第 74 回日本生化学会、2001 年 10 月、京都 加柴美里、笠原恵美子、岡純、梅垣敬三、井上正康、末松誠 血流空間の酸化還元動態調節と白血球—内皮細胞相互作用:新規アスコルビン酸欠乏動物を用いた解析 第 74 回日本生化学会、2001 年 10 月、京都 佐藤英介、山本祐司、樋口允子、井上正康 NO の消化器内細菌に対する影響と感染防御 第 72 回日本生化学会、1999 年 10 月、横浜 井上正康、笠原恵美子、佐藤英介 酸化ストレスと疲労 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会、2000 年 2 月、大阪 応募・主催講演等 58 件 ・海外 招待講演 EF Sato, Y Yamamoto, H Higuchi, M Inoue S. mutans that generates the superoxide radical is resistant to nitric oxide SFRRI 2000, Kyoto, Japan, October, 2000 M Inoue, M Nishikawa, AM Park, EF Sato, K Utsumi Cross-Talk of nitric oxide, superoxide and molecular oxygen, A majesty aerobic life SFRRI 2000, Kyoto, Japan, October, 2000 T Kanno, K Arita, T Utsumi, T Furuno, T Yoshioka, M Inoue, K Utsumi Mitochondrial membrane permeability trasition and its sensitivity to L-carnitine SFRRI 2000, Kyoto, Japan, October, 2000 K Kashiba, J Oka, E Kasahara, T Inayama, T Ishikawa, M Nishikimi, M Inoue, S Inoue Ascorbic acid metabolism is impaired in streptozotocin-induced diabetic rat 196 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 SFRRI 2000, Kyoto, Japan, October, 2000 M Inoue, AM Park , M Miyoshi, M Nishikawa,, EF Sato Cross-Talk of nitric oxide, superoxide and oxygen constitutes, A supersystem for the disease mechanism against pathogens The second International Sympasium on Natural Antioxidants: Molecular Mechanisims and Health effects, Beijing, China, June, 2001 応募・主催講演等 12 件 197 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 3. 疲労病態制御技術の開発 3.1. 疲労の定量化・指標化と疲労を和らげる生活の提言 3.1.1. 疲労の定量化及び指標化技術の開発 大阪大学大学院医学系研究科血液腫瘍内科学 倉恒 弘彦 研究協力者 大阪外国語大学・梶本 修身 研究協力者 大阪大学大学院医学系研究科・高橋 励 研究協力者 大阪大学大学院医学系研究科血液腫瘍内科学・山口 浩二 研究協力者 関西福祉科学大学・上田 素子、桑原 美樹、池田 直美、中谷 文香、志水 彰 研究協力者 大阪市立大学大学院医学研究科システム神経科学・田島 要 世貴、渡辺 恭良 約 疲労感は個人により表出や表現が様々であるにも関わらず、その客観的な評価法は確立しておらず、疲労強度 (重症度)は質問紙法や visual analogue scale などの主観的な情報に頼らざるを得ないのが現状である。そこ で、我々は疲労時には 1)刺激に対する反応時間の遅延や思考力・集中力の低下がみられること、2)動作が緩慢 で行動量も低下することなどに着目し、脳機能の変化や行動特性を調べることにより疲労を客観的に捕らえるこ とができないかを検討した。 脳機能の評価としては、独自に開発した ATMT ソフトウェアを用いて慢性疲労症候群(CFS)患者と健常者を対 象に検討した結果、CFS 患者では、健常者に比して精神疲労を来しやすく作業能力の低下を代償・補完することが 困難であることが明らかになった。また、ATMT 成績の低下は CFS の重症度とも相関する可能性が示され、ATMT が CFS のような病的疲労の評価に有用である可能性が考えられた。健常者を対象とした運動負荷による疲労では、運 動により主観的な疲労感と身体(筋肉)疲労は強まったものの精神作業能力はむしろ向上する結果が得られ、疲 労感と精神疲労は必ずしも一致しないことも判明した。 次に、Dual Test を用いた脳機能の評価では、CFS 患者で全ての課題で omission error に有意にエラー数が多 く、また反応時間にも延長がみられ、病的疲労に伴う脳・神経機能低下の存在が確認された。一方、健常者で急 性疲労をおこさせるように身体運動負荷を行った後調べた場合、注意の強度や持続性に低下はみられずむしろ反 応時間は短縮していたが、反応時間の変動係数が上昇していた。通常の生活の中では、過労状態に陥っていても 明らかな身体異常やミスがおきるまで過労状況に気付かないことが多く疲労蓄積の要因となっているが、Dual Test による疲労の評価を行うことは、疲労による身体の変化を早期に検出できる可能性が考えられた。 行動の変化については、モーションピクチャーシステムを用いて行動の俊敏性や行動特性を評価したところ、 運動負荷による疲労では断続立ち座りにより移動距離が短縮され、パフォーマンスの低下を最小限にするための 代償反応がみられたが、疲労を定量化できるような指標は見いだすことは出来なかった。そこで、アクティグラ フを用いて行動量を検討したところ、20~40 歳代の健常者の検討では加齢とともに行動量が少し減少する傾向が みられ、特に 40 代の男性で顕著であった。CFS患者の検討では、現在のところ症例数が少なく統計的な評価は できていないが、睡眠時間の延長とともに覚醒時における行動量の低下が顕著であり、病的な慢性疲労の指標と なる可能性が考えられた。 198 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 最後に、疲労の客観的で簡便な指標となる因子の同定は、疲労の制御技術を開発する上において極めて重要な テーマの 1 つである。現在、疲労/疲労感と関連が疑われるタウリンや活性酸素関連物資、血液粘度、TGF-βな どのサイトカインの検討や疲労に関連している遺伝子についての解析や、ポジトロンCTを用いた局所脳血流量 やアセチルカルニチン、神経伝達物質代謝の変化の解析を進めており、第 2 期研究ではこれらの成績を含めた包 括的な研究成果より簡便で客観的な疲労の定量法の同定を行う予定である。 研究目的 今日の社会は急激に社会構造に変化をきたし、労働環境や生活環境は大きく変化してきていて、そこには過大 な肉体的、時間的労働の強制のほかに作業環境の中により精神的緊張を強いる要素が増加してきている。そのた め疲労を感じている国民は著しく増加してきており、1,999 年旧厚生省疲労調査研究班が行った疫学調査結果でも、 一般地域住民の約 6 割が疲労を感じているという。しかし、疲労は自覚的、主観的な要素の強い症状のため客観 的な疲労度の評価は極めて困難であり、このことが疲労研究を進める上での 1 つの障害となってきた。そこで、 本研究では疲労の客観的な指標となるような血液因子の同定を試みるとともに、疲労状態に陥ると注意力・集中 力の低下、反応時間の遅延、2 つのことを同時に処理する能力の低下などがみられることに着目し、Advanced Trail Making Test(ATMT)や Dual task を用いた疲労・疲労感の定量的評価を行なった。また、疲れた場合は動作が緩 慢になり、行動量も低下することより、モーションキャプチャーシステムやアクティーグラフを用いて運動時の 手足の動きや頭の位置、行動量の変化などについて検討し、客観的な疲労・倦怠感の評価法の開発を試みた。 研究方法 ア)ATMT(Advanced Trail Making Test)を用いた精神疲労の客観的評価 4 16 8 19 24 3 14 20 7 10 対象に、タッチパネルディスプレイ上に提示された 1~25 ま での数字(①②③・・)を素早く押す視覚探索反応課題【Fig.1】 17 16 8 18 99 12 11 19 3 2 20 15 23 7 13 21 10 25 6 17 16 25 応時間が測定でき、また反応毎にすべての target を再配置 12 4 15 3 2 きの要領で線を引く課題)とは異なり、target 毎の探索反 8 13 24 10 17 26 5 っていた TMT(ランダムに配置された 1~25 の数字を一筆書 20 19 21 24 14 7 14 22 6 を用いて精神疲労の客観的評価を試みた。従来、A4 紙で行 R課題 target 2 1が消えて、 26が出現 他の数字配置: ランダム F課題 target 2 1が消えて、 26が出現 他の数字配置: そのまま 4 た健常者 28 名(33.6±7.2 歳、男性 14 名・女性 14 名)を 13 7 25 5 21 ±8.9 歳、男性 10 名・女性 13 名)と年齢・性別を合致させ 23 15 2 【対象と方法】CFS の診断基準を満たす外来患者 23 名(33.7 【 Fi g. 1】 A T MT 課題出現パターン target 1 1~25の数字が ランダムに出現 1 22 6 12 9 12 11 18 15 9 22 18 26 23 5 11 させることや反応済 target を消して新規に target を追加発 生させることが可能である。そのことにより課題遂行中にみ られる精神疲労の増大、探索効率を高めるためのワーキング メモリー活用度などの評価が可能である。パソコンのタッチ パネル上に提示された 1~25 までの数字のうち、ターゲット の数字を押すとその数字が消えて新たな数字が任意の位置に出現する(1 を押すと 1 が消えて 26 が出現、2 を押 すと 2 が消えて 27 が出現・・)。 〔固定(F)課題〕では、出現した数字の配置は固定されているが、 〔ランダム(R) 課題〕では、反応毎に全ての数字配置が変わる。この 2 種類の課題における target 毎の座標(ベクトル)と探索反 応時間を記録した。 また、一般健常者 12 名を対象に、40 分間、400mトラックを毎周、個人が規定した時間で走る運動負荷を行い、 運動に伴う疲労の前後での変化を検討した。 199 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 イ)Dual task を用いた疲労・疲労感の定量的評価 【対象と方法】被験者眼前の画面に視覚刺激系列を 1500 ミリ秒間ずつ連続 100 回呈示し、このうち標的刺激に対 してできるだけ速やかかつ正確にボタン押しで反応させるタスクを作成した。本タスクは呈示刺激・標的刺激が 少しずつ異なる 3 課題(X 課題、SX 課題、DX 課題)からなり、後述する被験者群にこれらを連続して施行した。 X 課題は選択反応課題であり、画面中央に 1 から 5 の数字を 20%の等確率で呈示し、被験者は標的刺激である 数字 3 が呈示されたときに片手でボタンを押して反応する。SX課題およびDX課題はX課題を第一課題として、 これに第二課題を付加した Dual task であり、被験者は二つの課題に対して独立にボタン押しで反応する。SX 課 題の第二課題は視覚走査課題(S課題= Spatial 課題)である。X 課題の刺激呈示と同時に画面上部のランダムな 位置に 50%の出現確率で標的刺激である図形(円)が呈示される。また DX 課題(= Doubled X 課題)の第二課題 は、標的刺激を 2 および 4 に変え、出現確率を 40%とした X 課題である。画面の左右にそれぞれ 1 から 5 の数字 を独立した刺激系列で呈示し、それぞれに対して独立に両課題を行う。検査施行には全て同一のパーソナルコン ピュータを用い、また刺激の連続呈示および結果の記録(刺激内容、反応の有無及び刺激呈示からボタン押しま でのミリ秒単位の反応時間)はソフトウェアにより自動的に行わせた。得られた記録から、分析指標としてエラ ー数、さらにエラーを Commission Error(以下 CE)と Omission Error(以下 OE)に分類してそれぞれの数、反 応時間の個人内平均値、反応時間の個人内変動係数を算出した。 被験者としては、CFS 患者 13 名(以下 CF 群)、健常対照者 17 名(以下 HC 群)を対象とした。HC 群のうち 7 例 では、急性の疲労を生じると考えられる身体運動の後にも本タスクを遂行させた(以下 AF 群)。 ウ)モーションキャプチャーシステムを用いた疲労の評価 【対象と方法】被検者は健常人 13 名(24.6±7.3 歳、男性 10 名・女性 3 名)であり、運動負荷は、無酸素運動 を 8 名、有酸素運動を 5 名行った。 (無酸素運動:20W/min.の負荷増加率でエルゴメータを用い、もうこげないと いう所まで施行。5 分の休憩をはさみ同様の負荷を計 3 回施行。有酸素運動:心拍数が 120/min.程度を維持でき る負荷として 60w 定常負荷のエルゴメータを用い 4 時間継続)。自覚的疲労感に関して運動前後に Visual Analogue Scale にて評価した。行動の測定には Oxford Metrics 社の 3 次元モーションキャプチャーシステムである Vicon を用いた。これは、体表面上につけられた赤外線反射マーカーを複数台の赤外線カメラでとらえ、各マーカーの 3 次元位置情報をコンピュータ上で再構築するものである。測定誤差は 1mm 以内になるようキャリブレーションし、 サンプリングレート 120Hz で測定を行った。マーカーは、頭頂部・前額・左右側頭・第 7 頸椎・第 10 胸椎・左右 肩関節・左右肘関節・左右手関節・左右上前腸骨棘・左右後腸骨棘・左右大転子・左右膝関節・左右足関節の計 22 カ所につけた。測定対象とした行動は背もたれのない丸椅子からの合図にあわせて立ち座りを行うもの、背も たれのない丸椅子から連続して立ち座りするもの、両上肢を床面に水平に体幹正面に伸展し、合図にあわせて交 互に 45 度振り上げすぐに元の位置に戻すものの 3 動作について測定を行った。行動解析は、それぞれの動作にお ける速度、平均加速度、移動距離、立ち座り動作においては起立相軌跡における接線の傾きを求めた。 エ)アクティーグラフを用いた行動量の評価 健康な 20~40 代の大学生・大学職員(女性 15 例、男性 16 例)、大阪大学医学部付属病院に通院中のCFS患 者 5 名に、A.M.I 社製アクティグラフを左前腕に連続的に装着させ、5 日以上にわたる時系列データを記録した。 本機は 0.1G 以上の加速度が生じた回数を 1 分間毎に積算し、その 1 分間の身体活動量の代表値とする。 【解析】Cole の式を当てはめて睡眠と覚醒を判定し、1 週間中の睡眠時間、覚醒時・睡眠時それぞれの身体活動 量の個人平均値を求めた。 オ)疲労・疲労感と相関する血液因子の同定と相互の関連についての検討 血清アシルカルニチン、血清 DHEA-S、 尿中 17-KSS /17OHCS 比、 種々のサイトカイン(TGF-β、IFN、TNF な 200 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 ど)、血清尿酸値、血清アラントイン値、血清尿酸/アラントイン比、血 清 タ ウ リ ン 値 、ビ リ ル ビ ン 酸 化 物 、 細 胞 内 N A D P 、A T P 、血液中アドレナリン、ドーパミン、尿中VMAについて測定し疲労状態との関連を検討す るとともに、第 1 班の先生方と共同して個々の検査異常相互の関連性について検討した。 研究成果 ア)ATMT(Advanced Trail Making Test)を用いた精神疲労の客観的評価 CFS では、一部で課題前半から反応時間が遅い者もみられたが、①R課題前半は健常者とほぼ同等の成績である にも関わらず、後半(target16~25)の反応時間の遅延が健常者に比べ有意に大きく、健常者に比して「疲労しや すい」ことが示された(R課題 後半/ 前半 反応時間比:健常者群 1.24±0.07、CFS 群 1.36±0.27,p<0.05)。ま た、②F課題では、健常者で後半に反応時間の短縮が顕著にみられたが、CFS では後半がむしろ遅延していた(F 課題 後半/ 前半 反応時間比:健常者群 0.92±0.07、CFS 群 1.28±0.36,p<0.01)。しかし、③CFS 群でも、R課 題後半に対するF課題後半の反応時間比(F課題後半/R課題後半 反応時間比)は健常者と同程度であったこと から、配置記憶を探索に有効利用している(working memory が機能している)ことが示された(R 課題 後半/ R 課題後半 反応時間比:健常者群 0.63±0.05、CFS 群 0.64±0.13,n.s.)。 一方、健常者対象運動負荷試験では反復横跳びの減少(筋肉疲労)を惹起し、かつ VAS 及び POMS では自覚的な 「疲労感」を有意に高めたにもかかわらず、内田・クレペリンテスト及び ATMT-R 課題では、負荷後にむしろ成績 が向上する傾向を認めた。又、POMS では「活力」が向上し、 「抑うつ」が軽減した。4 時間の運動負荷においても、 ATMT-R 課題では、成績が向上する傾向がみられた。 イ)Dual task を用いた疲労・疲労感の定量的評価 全ての課題において CF 群では HC 群よりもエラー数が大きく、特に全ての課題で OE 数に HC 群と CF 群の間で有 意な差がみられた。一方 CE 数には一貫した差がみられなかった。 両群とも SX 課題、DX 課題ともに、第二課題の反応時間が第一課題よりも短かった。また両群ともX課題-SX 課題-DX 課題の順に反応時間が延長したが、HC 群では第一刺激・第二刺激ともに延長の度合いはほぼ一定であっ たのに対して、CF 群ではSX課題の第一課題で著明に反応時間が延長し、第二課題では延長が軽度であるという 特徴的な傾向を示した。このため SX 課題の第二課題以外の、全ての条件下で CF 群では HC 群に比して反応時間が 有意に延長していた。SX 課題の第一課題・第二課題ともに交互作用がみとめられた。 HC 群ではX課題において反応時間が増大するにつれて反応時間の変動係数が減少する関係がみとめられた。S X課題の第一課題では一定の傾向を示さず、DX 課題の第一課題では逆に増加する傾向をみとめた。一方 CF 群では X課題から反応時間が増大するにつれて反応時間の変動係数が増大する関係が認められた。反応時間の変動係数 を群間で比較すると、X 課題・SX 課題で CF 群が HC 群に比して有意に増大していたが、DX 課題では差がなかった。 HC 群ではDX課題の第二課題において、CF 群ではSX課題の第二課題においてこの群内平均値・分散ともに最大 であった。 HC 群のうち運動負荷を行った AF 群の運動前後での比較を行ったところエラー数、OE 数、CE 数については差が なかった。反応時間は運動後に X 課題で有意に短縮しており、SX 課題の第一課題では差がなかった。反応時間の 変動係数は運動後に有意に増加していた。 ウ)モーションキャプチャーシステムを用いた疲労の評価 断続立ち座りについては、有酸素運動群の起立相における移動距離が負荷前に比べて負荷後が有意に短縮して いた。しかし、連続立ち座りでは負荷前後でほとんど変化がみられなかった。上肢挙上では、統計学的有為差は 付かなかったがやはり、利き手ではない左手にやや移動距離が短縮する傾向がみられた。 201 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 エ)アクティーグラフを用いた行動量の評価 性別では女性が男性よりも覚醒時平均活動量が大きい(p<0.01, Mann-Whitney の U 検定)が、同じ年代の男女 間では 40 代でのみ差があった(p<0.05, Mann-Whitney の U 検定)。男女それぞれにおいて年代間比較すると、男 性では 40 代の覚醒時平均活動量が他の年代に比べて小さいが、少数例のため有意ではなかった(p=0.089, Kruskal-Wallis 検定・多重比較)。一方女性では年代間の差をみとめなかった。さらに男性では 40 代の睡眠時間 が他の年代に比べ長く(p<0.05, Mann-Whitney の U 検定)、女性では年代間の差をみとめなかった。男性では、 統計学的に有意ではないが睡眠時間と覚醒時平均活動量の間に負の相関関係が存在する可能性があり(Pearson's r=-0.53, p=0.064)、疲労に関係した現象かもしれない。睡眠中の身体活動量については 40 代男性を含めて各群 間に差はなく、少なくともこの点からみた睡眠の質には問題はないと考えられた。一方、CFS 患者の検討では多く の患者で睡眠時間が明らかに延長しており、また覚醒時における平均活動量は健常者に比較して明らかに低下し ている症例が多くみられた。 オ)疲労・疲労感と相関する血液因子の同定 運動後の疲労では、嫌気性解糖系が亢進する結果として筋肉中や血中の乳酸、ピルビン酸、尿酸などが上昇す ることがよく知られているが、日常の社会生活で生じる疲労/疲労感と相関するような血液因子はこれまで明ら かでなかった。我々は、慢性的に激しい疲労状態が持続する CFS 患者を対象に種々の血液因子について検討した ところ、血清アシルカルニチン、血清 dehydroepiandrosterone sulfate(DHEA-S)が減少し、TGF-β、2-5A合成 酵素活性が上昇していることを見出した。また、マウスなどを用いた疲労の動物モデルの検討では、還元型/酸 化型アスコルビン酸の比率が低下することや活性酸素を処理する SOD 関連遺伝子の発現が低下している可能性が 明らかになってきた。 考 察 ATMT を用いた疲労評価の結果からは、CFS では「疲労している」のではなく「疲労しやすい」こと、あるいは 「疲労を(持続的に)代償・補完しにくい」ことが明らかになった。これらの成績は、CFS 重症度と相関する可能 性があることから、今後、疲労の評価及び定量化においてATMTが有用である可能性が示唆された。また、健 常者の運動後の検討では、精神疲労を精神作業能力の低下と定義した場合においては、「疲労感」と「精神疲労」 は必ずしも相関しないことが明らかになり、今後、精神疲労の定量化を図るうえで、 「自覚的な疲労感」と疲労現 象としてみられる「精神疲労」を明確に区別して検討する必要があると考えられた。 次に、Dual Test による疲労の評価では慢性疲労状態にあるCFS患者ではエラーが多く反応時間が延長してい た。Dual Test は精神・神経機能のうち主に注意機能および処理能力を評価していると思われるため、CFS 患者は 注意機能あるいは処理能力に問題がある可能性が明らかになった。持続的な注意を必要とするタスクにおいて、 エラーのうち CE は反応時間との trade-off に主に関係し、OE は注意の強度(= 覚醒度)・持続性あるいは処理を 短時間で行う能力に関係すると考えられるため、CFS 患者では注意の強度・持続性に問題がある可能性もある。一 方、急性疲労状態でのX課題においては、エラーの増加は検出されず反応時間が短縮していた。この Dual Test における運動負荷後の反応時間の短縮は、ATMT-R課題でも負荷後に成績が向上する傾向がみられたのと同様に、 運動負荷により精神疲労を生じるとすると一見矛盾しているようにみえる。しかし、反応時間の変動係数を調べ てみると明らかに増加しており、疲労代償期の 1 つの特徴かもしれない。 疲労状態は、①疲労が全くない状態、②疲労が蓄積してきているが、一定の時間であれば代償することが可能 な状態、③疲労のためにエラーや反応時間の遅延がみられる状態、の 3 つに分類することができる。日常生活で は、労働などの結果疲労の蓄積がみられることも多々あるが明らかなエラーをすることは稀である。また、疲れ を感じてあくびや集中力の低下がみられるような状況でも、短時間の検査などでは対応が可能であり異常は見つ 202 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 からない。これは疲労が交感神経などの緊張により代償されている状態である。このような中、これまでの検査 法では客観的に疲労状態を評価することが困難であったが、②の状況でも反応時間の変動係数などに明らかな変 化がおきている可能性を見いだしたことは、過労の予防などにもつながる貴重な成績である。 今回、モーションキャプチャーシステムを用いて運動後の疲労について四肢の動き(速度・加速度)について も検討したが、断続立ち座りにより移動距離が短縮され、パフォーマンスの低下を最小限にするための代償反応 がみられたが、疲労を定量化できるような指標は見いだすことは出来なかった。これは、代償期の疲労状態は検 査を受けている一定時間当たりの随意運動の変化で調べてみても余り変化がみられないことを示唆している。そ こで、疲労状態の動きの変化を明らかにするため、単位時間当たりの動きの変化を 1 日単位で捕らえることの出 来るアクティーグラフを用いた行動量の計測を行ったところ、健常者では性・年令によって行動量に差がある可 能性が示されるとともに、慢性疲労症候群患者では睡眠時間が延長し、また覚醒時における平均活動量も健常者 に比較して明らかに低下していることが明らかになってきた。したがって、疲労に伴う動きの変化という観点か らアクティーグラフを用いた行動量の計測は疲労状態と良く相関する指標となると思われる。 現在、スウェーデンとの共同研究により健常者に頭脳負荷を加え疲労を誘発した場合の局所脳血流量、局所脳 アセチルカルニチン取り込みの変化、ドーパミン及びセロトニン合成の変化については検討中であり、第 2 期研 究では疲労状態では脳神経系にどのような変化があるのかを明らかにするとともに、この研究にて明らかになっ てきた成績をもとに、疲労/疲労感の客観的指標となる因子の簡易測定系の技術を確立し、一般診療の場におい ても容易に検索できるような疲労測定法の開発を行う予定である。 最後に、今回の第 1 期の研究では、疲労、疲労感を簡便にかつ客観的に評価できるような血液因子は同定する ことができなかったが、CFS 患者で見出された種々の血液因子の異常について、第 1 班との共同研究として相互関 連の検討を行なったところ、種々のヘルペスウイルスの再活性化とともに TGF-βやインターフェロンなどの様々 なサイトカインの産生異常がみられること、TGF-βの上昇は DHEA-S の減少と関連していること、DHEA-S の減少が 血液中のアシルカルニチンの代謝異常と結びつくこと、アシルカルニチンは脳に取り込まれて利用されているこ と、IFN の異常がリボヌクレアーゼを介してカルニチン代謝の異常にも影響していることなどが判明、当初研究班 が目標とした仮説(慢性的な疲労にはウイルス感染、社会心理的ストレス→免疫・内分泌ホメオスタシスの悪循 環→免疫抑制サイトカインの上昇(TGFβなど)→ニューロステロイドの低下→脳局所のアシルカルニチン代謝異 常→ミトコンドリア障害→グルタミン酸・GABA(γ-アミノ酪酸)などの主要アミノ酸ニューロトランスミッタ ーの低下継続→慢性疲労感)の根拠となる成績が得られ、班研究の方向性が正しかったことが確認された。第 2 期研究ではこれらの成績を含めた包括的な研究成果により、簡便で客観的な疲労の定量法の同定を行なう予定で ある。 引用文献 なし 成果の発表 1)原著論文による発表 ア)国内[発表題名、発表者名、発表誌名等(雑誌名、巻、号、頁、年 等)](計 1. 11 件) 感染症の新しい展開-germ theory を超えて-慢性疲労症候群(CFS)、倉恒弘彦、近藤一博、生田和良、 山西弘一、渡辺恭良、木谷照夫、日本内科学会雑誌 90(12):2431-2437,2001 2. 慢性疲労症候群の病因・病態、倉恒弘彦、炎症と免疫 3. 疲労と未病-疲労の分子神経メカニズム、渡辺恭良、倉恒弘彦、医学のあゆみ 203 9(1):68-74, 2001. 198(3):245-251, 2001. 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 4. 初診の診断技術:全身倦怠感、倉恒弘彦、Modern Physician.21(5):537-542,2001. 5. 慢性疲労症候群、倉恒弘彦、疲労の科学(井上正康、倉恒弘彦、渡辺恭良編)pp106-118,2001. 6. 補中益気湯が有効であった慢性疲労症候群(CFS)の症例、倉恒弘彦、実地医療のための THE KAMPO 10:8-9,2001 7. 日本人慢性疲労症候群患者における血清中抗 DFS70 抗体、室 慶直、倉恒弘彦、アレルギーの臨床 20(10):74-78,2000. 8. 慢性疲労症候群、倉恒弘彦、日本臨床(別冊)領域別症候群 32:531-534, 2000. 9. 慢性疲労症候群(CFS)、倉恒弘彦、家庭の医学 平成 12 年版 :509, 2000. 10. 全身倦怠感、倉恒弘彦、プライマリケア/主要症候 :157-164, 1999. 11. 慢性疲労症候群、倉恒弘彦、感染症予防必携 320-322, 1999. イ)国外[発表題名、発表者名、発表誌名等(雑誌名、巻、号、頁、年 等)](計 1. 7 +(1)件) Brain regions involved in fatigue sensation: Reduced acetylcarnitine uptake into the brain. Kuratsune, H., Yamaguti, K., Lindh, G., Evengård, B., Hagberg, G., Matsumura K., Iwase M., Onoe H., Takahashi M., Machii T., Kanakura Y., Kitani T., Långström B., Watanabe Y. Neuroimage (Submitted, 2001). 2. Acquired activated protein C resistance is associated with the coexistence of anti-prothrombin antibodies and lupus anticoagulant activity in patients with systemic lupus erythematosus. Nojima J., Kuratsune H., Suehisa E., Kawasaki T., Machii T., Kitani T., Iwatani Y., Kanakura Y. Br J Haematol (in press, 2001). 3. Delaying Brain Mitochondrial Decay and Aging with Mitochondrial Antioxidants and Metabolites. Liu J., Atamna H., Kuratsune H., Ames BN. Ann New York Acad Sci (in press, 2001) 4. The elevation of natural killer cell activity induced by laughter in a crossover designed. Takahashi K., Yamashita K., Iwase M., Tatsumoto Y., Ue H., Kuratsune H., Shimizu A., Takeda M. Int J Mol Med 8(6):645-50, 2001. 5. Anti-prothrombin antibodies combined to lupus anticoagulant activity is an essential risk factor for venous thromboembolism in patients with SLE. Nojima J., Kuratsune H., Suehisa E., Futsukaichi Y., Yamanishi H., Machii T., Kitani T., Iwatani Y., Kanakura Y. Br J Haematol 114 (3):647-654, 2001. 6. Prevalence of antibodies toβ2-glycoprotein I, pro-thrombin, protein C, protein S, and annexin V in SLE patients and their relation to thrombotic and thrombocytopenic complications. Nojima J., Kuratsune H., Suehisa E., Futsukaichi Y., Yamanishi H., Machii T., Iwatani Y., Kanakura Y. Clin Chem. 47(6):1008-15, 2001. 7. Effect of TGF- 1 on the cell growth and EBV reactivation in EBV-infected epithelial cell lines. Fukuda, M., Yanagihara, K., Tajima, M., Kuratsune, H., and Sairenji1, T. Virology 15;288(1):109-18, 2001. 8. Borna disease virus infection in two family clusters of patients with chronic fatigue syndrome. Nakaya T, Takahashi, H., Nakamura, Y., Kuratsune, H., Kitani, T., Machii T, Yamanishi, K., Ikuta K. Microbiol Immunol 43(7):679-689,1999. 2)原著論文以外による発表の内訳 ア)国内 [発表題名、発表者名、発表誌名等(雑誌名、巻、号、頁、年 等)](計 204 9 件) 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 1. 慢性疲労症候群、倉恒弘彦、きょうの健康 156(3):133-141,2001 2. 専門医に聞く-慢性疲労症候群、倉恒弘彦、元気生活 3. 慢性疲労症候群とは?倉恒弘彦、働く人の安全と健康 2(4):341-343,2001 4. 現代の奇病 5. 慢性疲労症候群、倉恒弘彦、婦人公論 6. ストレスやウイルス感染が原因で発症する慢性疲労症候群、倉恒弘彦、栄養と料理 66(6):79-85,2000. 7. 慢性疲労症候群、こんなときは専門医へ、倉恒弘彦、はつらつ 4 月号:12-13,2000. 8. わかってきた慢性疲労症候群、倉恒弘彦、きょうの健康 151(10):106-107,2000 9. 慢性疲労症候群、倉恒弘彦、健 28(4):38-41, 1999. 79(8):45-49,2001 慢性疲労症候群はこうして治せ、倉恒弘彦、文藝春秋 78(6):378-387, 2000. 85(8):160-162, 2000 イ)国外[発表題名、発表者名、発表誌名等(雑誌名、巻、号、頁、年 等)] (計 0 件) 3)口頭発表 ア)学会発表(国内) 1. 第 11 回日本疫学会(平成 13 年 1 月 25-26 日:茨城県)。日本における疲労の実態。簑輪眞澄,谷畑健生, 松本美富士,倉恒弘彦,木谷照夫. 2. 第 12 回日本疫学会(平成 13 年 1 月 24-26 日:東京)。外来受診者における疲労についての研究。簑輪眞 澄,谷畑健生,松本美富士,倉恒弘彦,木谷照夫. 3. 第 12 回日本疫学会(平成 13 年 1 月 24-26 日:東京) 。慢性疲労は鬱状態および睡眠障害と関連があるか。 谷畑健生,簑輪眞澄,松本美富士,倉恒弘彦,木谷照夫. 4. 第 6 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.16-17:熊本)(一般・口演)【2-14 C】acetyl -L- carnitine と 【2-14 C】acetate の脳への取込み.山口浩二、倉恒弘彦、待井隆志、金倉譲、木谷照夫、松村潔、渡辺 恭良. 5. 第 6 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.16-17:熊本)(一般・口演)慢性疲労症候群患者リンパ球にお ける 2,5A 合成酵素(2,5AS)活性について.生田和史、大西英子、西連寺剛、倉恒弘彦、宗川吉汪、山西弘 一、木谷照夫、渡辺恭良. 6. 第 6 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.16-17:熊本)(一般・口演)慢性疲労は鬱状態および睡眠障害 と関連があるか.谷畑健生、簑輪眞澄、倉恒弘彦、松本美富士、木谷照夫. 7. 第 6 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.16-17:熊本) (一般・口演) (シンポジウム)モーションキャプ チャーシステムを用いた疲労の評価.田島世貴、中村夫左央、松村昭、田中雅彰、渡辺恭良、山口浩二、 高橋励、倉恒弘彦、片岡洋祐、梶本修身、三池輝久、友田明美. 8. 平成 13 年度厚生科学研究費補助金健康科学総合研究事業「 疲労の実態調査と健康づくりのための疲労回 復手法に関する研究 」班会議(2.16〜17:熊本)日本における疲労の実態とリスクファクター.簑輪眞 澄、谷畑健生、松本美富士、倉恒弘彦、木谷照夫. 9. 平成 13 年度厚生科学研究費補助金健康科学総合研究事業「 疲労の実態調査と健康づくりのための疲労回 復手法に関する研究 」班会議(2.16〜17:熊本)慢性疲労症候群の予後及び予後に影響する精神医学的 要因について.岡嶋詳二、高橋励、高橋清武、梶本修身、志水彰、倉恒弘彦、山口浩二. 10. 平成 13 年度厚生科学研究費補助金健康科学総合研究事業「 疲労の実態調査と健康づくりのための疲労回 復手法に関する研究 」班会議(2.16〜17:熊本)CFS 患者における PET 解析.倉恒弘彦、山口浩二、待井 隆志、金倉譲、木谷照夫、Gurdrun Lindh、Birgitta Evengård、Bengt Långström、渡辺恭良. 11. 第 78 回 日本生理学会(3.29:同志社大学)(シンポジウム)慢性疲労症候群の病因・病態.倉恒弘彦. 12. 第 23 回 生物学的精神医学会(4.11:長崎) (口演)PET によるヒトの笑いの神経基盤の解明.岩瀬真生、 205 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 尾内康臣、岡田裕之、横山ちひろ、延澤秀二、吉川悦次、塚田秀夫、竹田真己、山下仰、武田雅俊、山口 浩二、倉恒弘彦、志水彰、渡辺恭良. 13. 第 63 回 日本血液学会総会(4.19-21:名古屋)(口演)抗リン脂質抗体の認識抗原の違いと Venous Thromboembolism(VTE)との関連.野島順三、末久悦次、倉恒弘彦、待井隆志、金倉譲. 14. 公開シンポジウム“疲れ”の科学と処方箋(9.6:ドーンセンター)(特別講演)疲労と病気.倉恒弘彦. 15. 科学技術振興調整費生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関す る総合的研究」平成 13 年度第 1 回班会議(9.7-8:大阪市立大学)ヒトヘルペスウイルス 6 の中枢神経系 での潜伏感染と慢性疲労症候群との関係.近藤一博、山西弘一、倉恒弘彦. 16. 科学技術振興調整費生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関す る総合的研究」平成 13 年度第 1 回班会議(9.7-8:大阪市立大学)疲労病態における EB ウイルス感染と 免疫応答異常.西連寺剛、生田和史、下村登規夫、倉恒弘彦、渡辺恭良. 17. 科学技術振興調整費生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関す る総合的研究」平成 13 年度第 1 回班会議(9.7-8:大阪市立大学)健常人ボランティアにおける疲労負荷 のPET研究.田島世貴、山本茂幸、岩瀬真生、尾内康臣、岡田裕之、吉川悦次、尾上浩隆、塚田秀夫、 横山ちひろ、倉恒弘彦、志水彰、三池輝久、渡辺恭良. 18. 第 12 回 日本臨床スポーツ医学会(11.3:筑波) (ポスター)馬術競技の循環機能への影響、心電図記録 による解析.池田卓也、倉恒弘彦. 19. 第 5 回慢性疲労症候群研究会(平成 12 年 2 月 19-20 日:大阪府)。日本における疲労の実態とリスクファ クター。簑輪眞澄. 20. 第 5 回慢性疲労症候群研究会(平成 12 年 2 月 19-20 日:大阪府)。地域における慢性疲労症候群用疲労の 有症率およびリスクファクター。谷畑健生,簑輪眞澄,松本美富士,倉恒弘彦,木谷照夫. 21. 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.19-20:大阪大学)(特別講演)慢性疲労症候群 (CFS)の病因・ 病態.倉恒弘彦. 22. 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.19-20:大阪大学)(一般・口演)[2-14C]acetyl-L- carnitine のマウスにおける脳内代謝物分析.山口浩二、倉恒弘彦、待井隆志、金倉譲、松村潔、木谷照夫、渡辺恭 良. 23. 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.19-20:大阪大学)(一般・口演)滑動性追従眼球運動を用いた 疲労感の定量的測定の試み.高橋励、岡嶋詳二、倉恒弘彦、山口浩二、志水彰. 24. 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.19-20:大阪大学)(一般・口演)中枢性疲労の定量化の試み. 片岡洋祐、崔翼龍、渡辺恭良、山口浩二、倉恒弘彦. 25. 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.19-20:大阪大学)(一般・口演)慢性疲労症候群患者血清中に おけるインターフェロンα(IFN-α)について.生田和史、大西英子、西連寺剛、山西弘一、倉恒弘彦、 木谷照夫. 26. 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.19-20:大阪大学) (一般・口演)慢性疲労症候群(CFS)患者に おけるボルナ病ウイルス(BDV)感染の疫学的検索.朝長啓造、笹尾芙蓉子、渡辺真紀子、小林剛、生田 和良、倉恒弘彦. 27. 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.19-20:大阪大学)(一般・口演)地域における慢性疲労症候群 様疲労の有症率およびリスクファクター.谷畑健生、簑輪眞澄、松本美富士、倉恒弘彦、木谷照夫. 28. 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.19-20:大阪大学) (一般・口演)PET によるヒトの笑いに関連し た脳内回路の解明.岩瀬真生、尾内康臣、岡田裕之、志水彰、倉恒弘彦、渡辺恭良. 29. 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.19-20:大阪大学)(一般・口演)慢性疲労症候群患者における 血清中抗 SCS-70 抗体.室慶直、倉恒弘彦. 206 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 30. 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.19-20:大阪大学) (一般・口演)慢性疲労症候群(CFS)の予後 について-第三報-.岡嶋詳二、梶本修身、志水彰、倉恒弘彦、山口浩二. 31. 第 1 回 科学技術振興調整費生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防 御に関する研究」班会議(7.13-14:軽井沢).日本人慢性疲労症候群における主要自己免疫応答“抗 DFS-70 抗体”室慶直、倉恒弘彦. 32. 第 1 回 科学技術振興調整費生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防 御に関する研究」班会議(7.13-14:軽井沢).モーションキャプチャーシステムを用いた疲労評価.田島 世貴、中村夫左央、倉恒弘彦. 33. 第 1 回 科学技術振興調整費生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防 御に関する研究」班会議(7.13-14:軽井沢).タッチパネルを用いた疲労評価.梶本修身*、倉恒弘彦. 34. 第 1 回 科学技術振興調整費生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防 御に関する研究」班会議(7.13-14:軽井沢).Dual Task による疲労評価.高橋励、倉恒弘彦. 35. 第 17 回京阪血液研究会(9.30:守口市) (口演)抗リン脂質抗体の認識抗原の違いと血栓合併症との関連. 野島順三、末久悦次、倉恒弘彦、待井隆志、金倉譲. 36. 第 1 回 Neurobehavior 研究会(11.7:東京)(特別講演)CFS Research in Japan.倉恒弘彦. 37. 第 4 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.27-28:名古屋市) (ワークショップ)疲労病の原因は何か-CFS は内分泌/代謝疾患か?倉恒弘彦. 38. 第 4 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.27-28:名古屋市)(一般演題)[2-14C]acetyl-L- carnitine の 脳内代謝物分析.山口浩二、倉恒弘彦、待井隆志、金倉譲、松村潔、木谷照夫、渡辺恭良. 39. 第 4 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.27-28:名古屋市)(一般演題)脳における疲労関連物質のイメ ージング:ポジトロン標識トレーサを用いたアプローチ.松村潔、小林茂夫、小林真之、渡辺恭良、M. Bergström、B. Långström、倉恒弘彦. 40. 第 4 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.27-28:名古屋市)(一般演題)慢性疲労症候群患者血清中にお ける IL-10 及び IL-4 について.西連寺剛、小山佳久、大西英子、倉田毅、山西弘一、倉恒弘彦、木谷照夫. 41. 第 4 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.27-28:名古屋市)(一般演題)慢性疲労症候群(CFS)の予 後について—第二報—.岡嶋詳二、梶本修身、志水彰、山口浩二、倉恒弘彦. 42. 第 4 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.27-28:名古屋市)(一般演題)地域および医療機関外来におけ る慢性疲労調査の計画.簑輪眞澄、倉恒弘彦、木谷照夫. 43. 第 4 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.27-28:名古屋市)(一般演題)慢性疲労症候群患者対照研究実 施計画.簑輪眞澄、松本美富士、倉恒弘彦、木谷照夫. 44. 第 4 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.27-28:名古屋市)(一般演題)慢性疲労症候群患者に対する断 食療法の効果についての検討.平谷和幸、藤田晃人、甲田光雄、倉恒弘彦. 45. 第 61 回日本血液学会総会(4.19-21:東京都) (示説)抗カルジオリピン抗体(aCL)とループスアンチコ アグラント(LA)による血小板活性化促進作用.野島順三、末久悦次、倉恒弘彦、待井隆志、木谷照夫、 金倉譲、網野信行. 46. 第 22 回日本神経科学学会(7.6-8:大阪府) (シンポジウム)疲労・疲労感のイメージング.渡辺恭良、倉 恒弘彦、山口浩二、松村潔、Bengt Långström. 47. 第 12 回 日本総合病院精神医学会(12.3-4:佐賀市) (口演)慢性疲労症候群に対する精神科的治療の効 果. 48. 高橋清武、志水彰、岡嶋詳二、山下仰、岩瀬真生、高橋励、梶本修身、武田雅俊、倉恒弘彦. 49. 平成 11 年度疲労の実態調査と健康づくりのための疲労回復手法に関する研究班会議(12.6:東京) (口演) 慢性疲労症候群の病因・病態(仮説)倉恒弘彦. 207 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 イ)学会発表(国外) 1. Uppsala University PET Center Symposium (August 15-19,2001:Sweden)(Oral) PET in the frontier of science, PET studies in CFS. Hirohiko Kuratsune. 2. The 16th WORLD CONGRESS on PSYCHOSOMATIC MEDICINE (August 24-29,2001:Sweden)(Oral) Pathogenetic mechanisms potentially involved in the cause of chronic fatigue syndrome, Brain regions involved in fatigue sensation: reduced acetylcarnitine uptake in the brain. Hirohiko Kuratsune. 3. 3rd International Symposium on Molecular Medicine (October 19-21,2000:Hersonissos, Crete, Greece) (Oral) Brain regions involved with sense of fatigue: Reduced acetylcarnitine uptake with PET into Brodmann’s area 9, 24 and 33 in patients with chronic fatigue syndrome. Hirohiko Kuratsune. 4. Second World Congress on CFS and Related Disorders (September 9-12,1999:Brussels, Belguim)(Oral) Brain regions responsible for fatigue sense? Reduced acetylcarnitine uptake with PET into Brodmann’s area 9 and 24 in patients with CFS. Hirohiko Kuratsune. 5. 29th Annual Meeting of Society for Neuroscience (October 23-28,1999:Miami, FLA, USA)(Oral)PET imaging of fatigue state in the brains of chronic fatigue syndrome patients. Yasuyoshi Watanabe, Hirohiko Kuratsune, Kouzi Yamaguti, Gudrun Lindh, Birgitta Evengård, Kiyoshi Matsumura, Hirotaka Onoe, Gisela Hagberg, Bengt Långström. 4)特許等出願等 ア)特許取得 なし イ)実用新案登録 なし ウ)その他 なし 208 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 3. 疲労病態制御技術の開発 3.1. 疲労の定量化・指標化と疲労を和らげる生活の提言 3.1.2. 伝承療法等の評価と疲労を和らげる生活の提言 株式会社地域計画研究所 中平 要 和伸、栗原 奈王子 約 疲労や疲労感の軽減に奏功するといわれてきた伝承療法等について,文献・雑誌等を収集し情報を整理した。 これらの情報をもとに,伝承療法等の内容・効果等についての第 1 次データベースを作成した。第 1 次データベ ース作成を踏まえ,市民対象にアンケート調査を行い,伝承療法等の活用状況と効果を把握した。その結果をも とに,第 2 次データベースを作成した。これらの結果から,疲労及び疲労感に関する治療方法のおよび評価法の 確立を行い,すべての成果を総合して,疲労を和らげることのできる国民生活について提言を行った。 研究目的 鍼灸,マッサージ,低周波,伝承薬,栄養剤等の伝承療法等の調査およびデータベース化を行うとともに, 「慢 性疲労症候群等の病的疲労の研究」および「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムの解明」の成果を背景に, 治療方法のとりまとめとその評価法確立を行い,これらの成果を総合して疲労を和らげることのできる国民生活 について提言することを目的とした。 研究方法 国民は,①疲労度を自己判定する方法,②疲労を軽減する方法,③治療・指導専門機関などの情報を必要とし ているとの考え方から,研究内容を以下のとおり設定した。 1)伝承療法等の第 1 次データベースの作成 鍼灸,マッサージ,入浴・温浴,低周波・磁気治療,和漢伝承薬,気功,栄養ビタミン剤,各種リラクゼーシ ョン法など,疲労を回復すると考えられる方法の資料を入手し,第 1 次データベースを作成する。 (情報入手の方法) 健康・保健関係の文献・雑誌等からの情報収集,専門家へのヒアリング調査 2)伝承療法等の第 2 次データベースの作成 第 1 次データべースをもとに,市民に対するアンケート調査により,伝承療法等の活用状況と効果を把握し, 第 2 次データベースを作成する。 (アンケートの主要項目) 属性(性別,年齢,職業など) 疲労度を判定することができる項目 209 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 気質や体質を分類できる項目 ライフイベント・ライフスタイル 現在行っている療法(療法名,内容,実施方法,情報の入手先など) 療法の効果 3)伝承療法等の評価指標の開発 上記のデータベースをもとに,伝承療法等の効果を評価する指標を開発する。 4)疲労を和らげることのできる国民生活への提言のまとめ 上記の結果を総合して,疲労を和らげることのできる国民生活についての提言をまとめる。 健康・保健関係の文献・雑誌等の収集 鍼灸等の専門家などへのヒアリング調査 平 成 11 年 度 伝承療法等の第1次データベースの作成 市民アンケート調査による 伝承療法等の活用状況と効果の把握 平 成 12 年 度 伝承療法等の第2次データベースの作成 第 1 班 ・ 第 2 班 へ の 情 報 提 供 疲労定量化・指標化技術の開発 疲労病態の治療技術の開発 第1班・第2班の研究・評価 治療方法の評価指標の開発 平 成 13 年 度 疲労をやわらげることのできる国民生活への提言のまとめ 凡例: は担当テーマの範囲 図 1.研究作業フロー 研究成果 1)伝承療法等の第 1 次データベースの作成 ア)収集情報 これまで,疲労や疲労感の軽減に奏功するといわれてきた方法について調査し,体系的に整理した。 収集情報の体系化の考え方は以下のとおりである。まず,疲労や疲労感の軽減方法を実施する場合に働きかけ る対象部位として,「身体」と「こころ」の 2 つに大別し,身体は,さらに「全身(局所)」,「眼」,「耳」,「鼻」, 210 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 「その他」に分類した。次に,それぞれの対象部位に応じて,考えられる方法(動作)を設定した。 このような体系化の考え方に即して,収集した情報を表 1 のように整理した。 表 1.疲労や疲労感の軽減方法の体系 方法の対象部位 法(動作) 具体的方法 動かす 体操,気功,ヨガ,真向法,太極拳,呼吸法,導引術 横たわる 睡眠,ウォーターベッド さする,揉む マッサージ,海水マッサージ,推拿(すいな),アーユルべーダ 押す 指圧,青竹踏み,リフレクソロジー,爪刺激 さす 鍼 熱する 灸 暖める 入浴,サウナ,温泉 食べる・飲む 薬膳,自然医食,栄養補助食品,健康食品,漢方薬,栄養ドリンク 剤,白金コロイド液,お茶,お酒,クロレラ,ローヤルゼリー,高 麗人参エキス,梅,ニンニク,ハーブ,ビタミン,βカロチン,キ チン・キトサン,プロポリス,抗酸化物,アスパラギン酸,タウリ ン,クエン酸 振動する 低周波治療 磁力線をあてる 磁気治療,磁気ネックレス その他 電気風呂,カイロプラクティック,漸進的弛緩法 眼 みる 光療法,色療法 耳 聞く,聴く 音楽療法 鼻 臭う 全身 (局所) 身 方 体 芳香療法(アロマテラピー) その他 こころ オフピーク通勤,完全熟睡法,姿勢,体位法,咀嚼法 笑う 笑い療法 自然とふれあう 森林浴,園芸療法 動物とふれあう アニマルセラピー 人とのコミュニケーション カウンセリング,集団療法 その他 瞑想法,自律訓練法,アファメーション,イメージトレーニング イ)データベースの概要 収集情報の項目と様式は下記のとおりである。 表 2.収集情報の項目と様式 項 目 内 方法名 方法の対象部位 キーワード 考案者 内容 図・絵・写真 効果 効果の科学的根拠 メーカー 文献・資料名 211 容 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 2)伝承療法等の第 2 次データベースの作成 ア)研究の方法 15 歳~64 歳までの大阪府民 3,000 人を無作為に抽出し,調査対象として,無記名のアンケートを実施した。有 効回収票は 1,219 件(有効回収率 40.6%)であった。 イ)研究の成果 ①疲労の状況 現在疲れやだるさを感じている人,あるいは過去 1 年間に疲れやだるさを感じたことのある人の割合は,全体 で 85.1%を占めている。男性は 45~49 歳,女性は 30~34 歳の時にとくに疲れを感じている。このように多数の 人が疲労を感じているが,医療機関に行かない理由について尋ねると,全体の 72.8%の人は, 「通常の社会生活が でき,労働も行くほどの症状ではないと思うから」と答え,75.6%の人が「疲れやだるさを医療機関で診察して もらえない」から疲労感があっても,医療機関にいかないと答えている。 ②伝承療法等の活用状況 現在疲れやだるさを感じている人,あるいは過去 1 年間に疲れやだるさを感じたことのある人の伝承療法等の 活用状況では,全体の 94.1%の人が何らかの形で活用しているが,伝承療法別の活用状況ではかなりのばらつき がみられた。最も多く活用されているのは,入浴(56.0%)で,次いでコーヒー(36.2%),入浴剤(32.7%), ビタミン剤(28.0%),日本茶(26.4%),体操(22.6%),お酒(22.6%),栄養ドリンク剤(21.9%)など入浴 系と食品系が多く,最も少ないものでカラーパンクチャー,色体テープ,身体中心集団療法がいずれも 0.2%とな っている。また,健康保険が適用されている漢方薬および医師の同意があれば健康保険の適用になる療法(あん ま・マッサージ,指圧,灸,鍼)については,マッサージ(19.5%)から灸(2.2%)までばらつきがみられた。 多くの人は複数の伝承療法を活用しており,入浴や食品を中心に,マッサージ,指圧,鍼灸,睡眠,運動等を 組み合わせて実施している。 表 3.年齢階層別の伝承療法の実施状況(%) 15~29歳 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60~64歳 年齢不詳 N 睡眠 18.4 20.7 19.6 20.7 21.8 0.0 195 運動 33.5 35.7 40.7 46.4 58.4 100.0 400 マッサージ 24.1 36.2 34.5 35.1 30.7 0.0 312 指圧 15.9 15.0 17.5 13.1 11.9 0.0 146 鍼灸 2.4 7.5 8.2 9.0 9.9 0.0 68 入浴 71.0 74.6 78.4 74.8 81.2 100.0 734 食品 54.7 57.7 69.1 74.8 75.2 100.0 634 医薬品 健康器具・物 理療法 42.4 47.4 50.0 45.9 53.5 0.0 458 4.5 14.1 20.1 18.0 15.8 0.0 136 趣味的 27.3 18.8 13.9 9.9 17.8 0.0 174 心理的療法 自然や動物と のふれあい 4.5 2.8 3.6 1.8 4.0 0.0 32 15.9 17.8 20.6 23.9 15.8 100.0 187 日常的 38.8 32.9 35.1 37.4 46.5 100.0 364 その他 4.1 4.7 5.2 8.1 8.9 0.0 57 245 213 194 222 101 1 976 回答者数(N) 70%以上 50~70%未満 212 30~50%未満 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 ③伝承療法等の効果 伝承療法等の効果については,活用されている割合の高低に関わらず,効果が「あった」と認めている人の割合 も高低がみられた。例えば,活用されている割合が 18.1%の「笑い」については,55.3%の人が効果が「あった」 と認めている。また,健康保険が適用されている漢方薬や,医師の同意があれば健康保険の適用になる療法等(あん ま,マッサージ,指圧,鍼,灸)については,効果が「あった」と認めている人の割合は他の療法よりも高い。 効果があった伝承療法としては,指圧,マッサージ,あんま,整体,ヨガ,鍼灸,カイロプラティック,温泉,サ ウナ,入浴等の身体に直接働きかける療法を挙げる人が多いが,アニマルセラピー,森林浴,笑い等を挙げる人もいる。 活用状況と効果の関係性をみると,相関は必ずしも高くないという結果が得られた。 % 50% 療法名 0% 100% 指圧 アニマル(動物)セラ マッサージ 按摩(あんま) 森林浴 整体 音楽療法 ヨガ 鍼(はり) 園芸療法 体操 温泉 カイロプラクティック 笑い サウナ 磁気治療 漢方薬 混雑時の通勤をさけ 入浴 身体の緊張をゆるめて 灸(きゅう) 低周波治療 呼吸法 栄養ドリンク剤 芳香療法(アロマテラピー) 青竹踏み ビタミン剤 姿勢を正しく保つ 入浴剤 枕(香りや磁気など) ハーブ ニンニク ローヤルゼリー 高麗にんじんエキス 食事のときによくかむ お酒 紅茶 電気風呂 プロポリス コーヒー 梅 日本茶 クロレラ 効果があった 効果がなかった 図 2.伝承療法の効果の状況 213 無回答 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 表 4.効果がった療法の期間構成(N=20 未満は除く) 療法名 1年未満 1年以上 N コーヒー 2.4 94.4 アニマル(動物)セラピー 5.9 92.6 園芸療法 8.3 91.7 笑い 6.6 91.2 混雑時の通勤をさける 8.9 91.1 日本茶 6.7 91.0 お酒 5.8 90.4 漢方薬 9.8 90.2 入浴 4.4 90.0 食事のときによくかむ 6.4 89.4 森林浴 5.7 88.7 呼吸法 11.5 88.5 音楽療法 11.7 86.2 姿勢を正しく保つ 12.2 85.6 紅茶 15.6 82.8 身体の緊張をゆるめていく 18.8 81.3 梅 16.2 81.1 低周波治療 20.3 78.0 サウナ 18.1 77.8 クロレラ 22.2 77.8 温泉 14.2 76.8 ビタミン剤 21.3 76.3 栄養ドリンク剤 18.9 76.2 カイロプラクティック 20.0 76.0 電気風呂 25.0 75.0 按摩(あんま) 19.7 73.7 ハーブ 27.3 72.7 磁気治療 27.8 72.2 マッサージ 20.8 71.3 ローヤルゼリー 23.5 70.6 ヨガ 23.5 70.6 ニンニク 22.8 70.2 高麗にんじんエキス 20.0 70.0 入浴剤 24.7 69.1 灸(きゅう) 33.3 66.7 枕(香りや磁気など) 33.8 66.2 指圧 29.2 64.6 芳香療法(アロマテラピー) 33.3 64.1 青竹踏み 26.8 63.4 鍼(はり) 34.2 63.2 整体 27.9 62.8 体操 37.1 60.6 プロポリス 50.0 35.7 214 375 77 62 188 67 274 234 60 581 104 64 41 116 157 167 49 112 92 101 28 208 290 227 34 22 88 43 26 203 34 21 114 21 339 23 132 73 65 69 49 52 234 40 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 表 5.伝承療法等の活用状況と効果 単位:% 活用して 効果が「あ 活用して 効 果 いる人の った」人の 療 法 名 いる人の あった 少 し なかっ わから 無回答 割 合 割 合 割 合 あった た な い 30%以上 入浴 56.0 37.5 29.6 1.2 22.5 9.1 温泉 20.1 36.1 38.5 1.9 17.8 5.8 体操 22.6 28.6 46.2 1.7 20.1 3.4 20%以上 栄養ドリンク剤 21.9 25.6 37.4 5.3 29.1 2.6 20%以上 30%未満 ビタミン剤 28.0 21.7 36.6 3.1 32.8 5.9 入浴剤 32.7 20.4 32.2 4.7 37.8 5.0 お酒 22.6 20.1 24.4 6.4 43.2 6.0 20%未満 日本茶 26.4 15.0 17.5 3.6 51.8 12.0 コーヒー 36.2 12.8 20.5 4.5 53.9 8.3 笑い 18.1 55.3 17.6 1.1 18.1 8.0 30%以上 音楽療法 11.2 35.3 45.7 1.7 12.9 4.3 マッサージ 19.5 34.2 53.5 1.5 6.4 4.5 10%以上 20%以上 食事のときによくかむ 10.0 28.8 16.3 4.8 42.3 7.7 20%未満 30%未満 姿勢を正しく保つ 15.1 23.6 33.8 1.9 33.1 7.6 枕(香りや磁気など) 12.7 18.9 32.6 8.3 35.6 4.5 20%未満 梅 10.8 17.0 16.1 0.0 59.8 7.1 紅茶 16.1 16.8 21.6 6.0 47.9 7.8 ニンニク 11.0 14.9 35.1 3.5 40.4 6.1 アニマル(動物)セラピー 7.4 57.1 31.2 1.3 7.8 2.6 指圧 7.0 47.9 41.1 2.7 6.8 1.4 整体 5.0 44.2 38.5 5.8 11.5 0.0 30%以上 漢方薬 5.8 40.0 28.3 1.7 21.7 8.3 按摩(あんま) 8.5 37.5 48.9 2.3 8.0 3.4 5%以上 園芸療法 6.0 37.1 40.3 1.6 19.4 1.6 10%未満 混雑時の通勤をさける 6.5 32.8 34.3 1.5 25.4 6.0 森林浴 6.2 32.8 50.0 0.0 14.1 3.1 20%以上 サウナ 9.7 28.7 42.6 2.0 20.8 5.9 低周波治療 8.9 15.2 48.9 4.3 26.1 5.4 20%未満 青竹踏み 6.7 13.0 46.4 2.9 33.3 4.3 芳香療法(アロマテラピー) 6.3 9.2 50.8 4.6 33.8 1.5 2.0 47.6 33.3 4.8 9.5 4.8 ヨガ 3.3 47.1 26.5 5.9 14.7 5.9 カイロプラクティック 磁気治療 2.5 46.2 23.1 0.0 26.9 30%以上 鍼(はり) 4.7 40.8 36.7 8.2 12.2 2.0 身体の緊張をゆるめていく 4.7 40.8 24.5 2.0 24.5 8.2 2%以上 灸(きゅう) 2.2 39.1 26.1 8.7 17.4 8.7 5%未満 呼吸法 4.0 31.7 31.7 4.9 31.7 0.0 20%以上 高麗にんじんエキス 2.0 23.8 23.8 14.3 33.3 4.8 30%未満 ローヤルゼリー 3.3 20.6 29.4 0.0 41.2 8.8 4.1 18.6 32.6 4.7 39.5 4.7 ハーブ 20%未満 電気風呂 2.1 18.2 18.2 9.1 45.5 9.1 プロポリス 3.9 17.5 17.5 5.0 55.0 5.0 クロレラ 2.7 14.3 17.9 3.6 53.6 10.7 215 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 ④第 2 次データベースの作成 平成 11 年度に作成した第 1 次データベース(伝承療法等の内容)に,伝承療法等別の活用状況と効果について の集計結果を合せ,第 2 次データベースとして作成した。 3)伝承療法等の評価指標の開発 上記までの結果より,多数の人が疲労を感じていることが判明した。全体の 72.8%の人が通常の社会生活がで き,労働も可能な状態にあるが,倦怠感があり,休息が必要な人は全体の 10%強を占めており,疲労症状ととも に,社会生活は営まれているという状況にある。 多数の人々は疲労を理由に医療機関に行くほどの症状ではないと感じているだけでなく,疲れやだるさの症状 をどこでみてもらえるのかわからないからと答えている。また,疲労感があっても,全体の多くの人が,医師・ 病院が自分の疲労を治してくれるとは考えていない。近代医学・西洋医学が顕在化した症状や病因に対して効果 的に対処され,実態論として有効性が認識されてはいるが,疲労の面では有効性の点からは,未だ対応できてい ない証左であろう。今回の総合研究でメカニズムや対策は解明されつつあるが,一般人側から見たら,疲労感の 除去という解決目標にはまだ距離があり,近代医学・西洋医学の領域が症状の改善には十分寄与しているとはい えない状況にあるではないだろうか。それは,伝承療法等の活用について尋ねると,疲労を感じている人の 94.1% の人がなんらかの形の伝承療法を試みているという結果が示している。しかし,試みている一般市民も各種の伝 承療法が疲労の除去に有効でないという不信感こそ持ち得てはいないが,全幅の信頼感を置いているというわけ ではないことは,活用状況を見れば明らかである。 上記までの結果を踏まえ,伝承療法の評価を実施していく際の評価基準を作成するために政策科学的なアプロ ーチを試みた。 はじめに,伝承療法実施の目的を一般市民の健康観から 2 つに大別した。将来を見渡すと,誰しもが,加齢等 の理由から現在以上に健康面での改善は望むことはできないという観念下にある。その場合,将来において望み 得ることは, 「現状の維持もしくは予防」と「将来顕在化するであろう病状の軽減もしくは対処」である。このた め,①「疲労の予防・抑制」と②「顕在する疲労への対処」の分類軸を設定した。 次いで,療法の効果について,データベースから把握される「効果」について, 「効果を客観的に認めることが できるのか」という観点から, 「療法効果を客観的に認めることができる」ものと「療法効果を客観的に認めるこ とができない」に分類した。ここでいう「客観性」とは,科学的な検証,他者からの検証,療法を実施した本人 からの検証を含んだものであり,何らかの形で症状の改善等について発露が示されるものとして扱っている。し たがって,絶対的な症状の改善だけでなく, 「以前よりもよくなった」といった相対的な症状の改善も含んでいる。 以上の分類軸に基づくと,療法は大別して 4 分類があることになる。さらに療法実施の目標とするレベルには, ①絶対化された目標と②相対化された目標がある。 このため,各分類別に療法の効果基準は,その療法がどの分野に属するのかという観点から構築していくこと が考えられる。 216 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 療法効果の検証性 療法効果を客観的に認めることができる 第2分類 第1分類 専門家による診断を受けながら,進めていく治療分野 ※到達目標が専門家により 絶対化される療法 疲 労 の 予 防 ・ 抑 制 ※到達目標が専門家により 絶対化される療法 第3分類 第4分類 ※到達目標が受療者により 相対化される療法 顕 在 す る 疲 労 へ の 対 処 ※到達目標が受療者により 相対化される療法 療法が持つ影響(危険性,効果の無さ等)について学習しなが ら,自らの責任において受ける治療分野 療法効果を客観的に認めにくい ㈱地域計画研究所作成 図 3.療法の効果の関係性 217 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 4)疲労を和らげることのできる国民生活への提言のまとめ 今回の調査においては,スクリーニング結果より 66 種類の伝承療法を対象とした。これら伝承療法の中には, いわゆる科学的な観点からの検証されているものからそうでないものまでも含まれているが,歴史的にみても古 来から我々の生活に深く根付いたものや,健康産業の成長によりマスコミ等の媒体を通じて周知する人が増え, 普及が進んでいる療法などさまざまなものがある。また,3)において示したように療法の効果は,症状そのもの の改善効果だけではなく,療法を採用する側の事情によっては,がん患者等の場合には,改善効果よりも受療し ているとことから得られる安心感,やすらぎ,改善への希望といった効果がある。このため,療法を採用する人 がある限り,一概には「効果が無い」という判定を下すことはできなかった。 健康ブーム等と相まって,伝承療法等は我々の生活に着実に入りつつある。これら伝承療法が我々の生活に入 り,健康で安心のある生活を進めていくために想定される政策手段はリスク・コミュニケーションの観点から政 策手段を提言として整理すると図 4 のとおりである。 ステークホルダー : 一般市民 療法の制御可能性 Ⅰ領域 (療法実施) Ⅱ領域 (教育・学習) マニュアル講習 講師の派遣 学習会の支援 専門機関情報の公開 治療・指導員等の訓練 療 法 の 確 実 性 制 御 可 能 性 が あ る 療 法 不確定性 外部評価の実施と公開 療法・効果の評価 評価情報の公開・開放 説明会の開催 療法実施マニュアルの作成 疲労回復マニュアルの作成 法令の遵守 療法実施組織の構築 確定性 制 御 可 能 性 が な い 療 法 法令の順守状況の監視 保有情報(データ,プロセス) の開示 専門機関情報の公開 モニタリングへの市民参加 (モニタリング) Ⅳ領域 (評価) Ⅲ領域 療法の制御可能性 各領域において可能な方策・手段 218 療 法 の 確 実 性 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 考 察 療法の効果に関する基準づくりに向けた議論の場を設ける必要性がある。 単なる科学性の根拠だけでなく,文化的, 倫理的な面からも効果を考察すると,伝承療法自体の普及促進につながり,健康社会づくりへと向かうと考える。 引用文献 なし 成果の発表 なし 219 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 3. 疲労病態制御技術の開発 3.2. 疲労病態の治療技術の開発に関する研究 大阪大学大学院医学系研究科血液腫瘍内科学 倉恒 弘彦 鳥取大学医学部生命科学科生体情報学講座 西連寺 剛 熊本大学医学部小児発達学 三池 輝久 研究協力者 国立公衆衛生院疫学部・簑輪 眞澄、谷畑 健生 研究協力者(株)ツムラ漢方生薬研究所・木戸 敏孝、溝口 和臣、石毛 敦 研究協力者 大阪大学大学院医学系研究科血液腫瘍内科学・山口 浩二 要 約 慢性疲労の治療に目を向けてみると、未だに疲労・疲労感のメカニズムが明らかで無いことより根本的な治療 法は見つかっておらず、鎮痛・消炎剤や安定剤などを用いた代償的な治療が行われているに過ぎない。そこで、 本研究では疲労病態の治療技術の開発を目指して以下の研究を行った。①一般医療機関受診患者の疫学調査とリ スクファクターの検討、②脳内代謝に影響を与える薬剤の慢性疲労症候群(CFS)患者への有効性の検証、③CFS 患者の脳内代謝異常(セロトニン代謝、ドーパミン代謝、局所脳血流量、アセチルカルニチン代謝など)の検討、 ④アセチル-L-カルニチンの脳内代謝物分析、⑤疲労の回復手法の 1 つとして用いられている緑茶の成分であるカ フェイン、テアニン、アルギニンの作用について動物を用いて科学的検証、⑥疲労モデル動物の確立と疲労治療 薬としての漢方薬およびアセチルカルニチンの有用性の科学的検証。 目的と方法 (①一般医療機関受診患者の疫学調査とリスクファクターの検討、⑥疲労モデル動物の確立と疲労治療薬として の漢方薬およびアセチルカルニチンの有用性の科学的検証については、研究協力者報告書として別記) ②脳内代謝に影響を与える薬剤の慢性疲労症候群(CFS)患者への有効性の検証 うつ病患者に対してセロトニン再吸収阻害剤(フルボキサミン:商品名デプロメール)やドーパミン分泌を促すアマ ンタジン(商品名:シンメトレル)にて治療を行うと疲労/倦怠感の軽減がみられることがあることより、疲労・倦 怠感の改善にもこのような薬剤が有効である可能性が考えられる。そこで、大阪大学医学部附属病院に通院している CFS 患者を対象に、フルボキサミンやアマンタジンを投与し、その有効性や副作用について検討した。 ③CFS 患者の脳内代謝異常の検討 疲労感を最終的に認知しているのは脳であることより、慢性疲労を認める代表的な疾患である慢性疲労症候群 220 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 (CFS)の脳内代異常の有無(セロトニン代謝、ドーパミン代謝、局所脳血流量、アセチルカルニチン代謝など) についてポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)を用いて検討した。 ④アセチル-L-カルニチンの脳内代謝物分析 我々は、血液中のアセチルカルニチンが脳内に取り込まれ利用されていることを見出したことより、その生理 学的な意義を明らかにするため[2-14C]acetyl-L-carnitine (ACM)をマウスに経静脈的に投与し、その脳内代謝産 物の解析を試みた。また、神経伝達物質の合成に利用されるアセチル基の脳内への輸送においてアセチルカルニ チンに特異性がみられるのか否かを検証するため、最も単純な構造のアセチル基化合物である[2-14C]acetate (ACT)と ACM のマウス脳内における取り込み部位の相違やアセチル基の挙動の違いを比較検討した。 ⑤疲労の回復手法の 1 つとして用いられている緑茶の成分であるカフェイン、テアニン、アルギニンの作用につ いて動物を用いて科学的検証 喫茶養生記(1211 年)によると「茶は精神を落ち着かせ、五臓の調和を保ち、身体の疲労を除いて安らかにさ せる」とあり、既に鎌倉時代より疲労の回復作用が体験的に知られていた。そこで、ウイスター系雄性ラットに 対して緑茶の成分であるカフェイン、テアニン、アルギニンを 0.5mg を単独、または 3 種の混合物を腹腔内に投 与し、血中カテコールアミンや血中ケトン体の変化を測定した。 研究成果と考案 ②脳内代謝に影響を与える薬剤の慢性疲労症候群(CFS)患者への有効性の検証 研究成果:フルボキサミンは 39 例の CFS 患者に投与(25mg/日より開始)したところ、頭がボーとする、眠 気、吐き気、食欲低下、倦怠感の増悪などの症状が認められ 11 例が 2 週間以内に脱落した。2 ヶ月間以上服薬可 能であった 28 例について疲労感の軽減、活動用の変化などに対する治療効果を検討したところ、無効 13 例(46.4%)、 やや有効 5 例(17.9%)、有効 8 例(28.6%)、著効 2 例(7.1%)で、有効と著効を合わせた 10 例(35.7%)で効果 が認められた。一方、アマンタジンは 22 例の CFS 患者に 200mg/日を投与したところ、3 例の症例が思考力・ 集中力の低下、肩こり、疲労感の増悪、ふらつき感などがみられ脱落した。評価可能症例は 19 例で、疲労感の軽 減、活動用の変化などに対する治療効果を検討では、無効 4 例(21.1%)、やや有効 6 例(31.6%)、有効 8 例(42.1%)、 著効 2 例(5.3%)で、有効と著効を合わせた 9 例(47.4%)で効果が認められた。アマンタジンは、最近ボルナ病ウイ ルスに対する抗ウイルス作用が報告されていることより、19 例の症例をボルナ病ウイルスに対する抗体やウイルスRNAの有 無により 2 群に分けて検討したところ、抗体陽性例では 6/11 例(54.5%)で効果がみられたのに対し、抗体陰性 例では 2/6 例(33.3%)で効果がみられたに過ぎず、またRNA陽性例でも 4/8 例(50.0%)で効果がみられた のに対し、RNA陰性例では 1/4 例(25.0%)で効果がみられたに過ぎず、ボルナ病ウイルスに対する抗体陽性例・R NA陽性例の有効率が高い傾向がみられ、アマンタジンに関してはドーパミン分泌作用とともに抗ウイルス作用につ いても考慮する必要があると思われた。考案:セロトニン再吸収阻害剤やドーパミン分泌を促す薬剤が一部の症 例では疲労・倦怠感の治療薬となりうることが確認され、CFS 患者においてもセロトニン神経系やドーパミン神経 系の異常が関与している可能性が示唆された。 ③CFS 患者の脳内代謝異常の検討 研究成果:スウェーデンのカロリンスカ研究所フディンゲ病院に通院中の CFS 患者 8 名と年令・性の一致する健 常者 8 例に対してウプサラ大学 PET センターとの共同研究として局所脳血流量やアシルカルニチン代謝について 検討を行ったところ、CFS 患者群では脳の前頭前野、前帯状回、眼窩前頭野、島皮質、視覚野などの神経細胞の活 動性が低下しており、特に前頭前野と前帯状回においては有意にアシルカルニチンの取り込みが低下しているこ 221 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 とが判明した。また、臨床治療成績の解析結果よりセロトニン代謝やドーパミン代謝の異常が疲労の遷延関連し ている可能性が考えられたことより、うつ症状のあまりみられない CFS 患者に対して L-5-HTP や L-DOPA の脳内へ の取り込みについて PET を用いて検討を加えたところ、前帯状回(BA24 野)と視床において L-5-HTP の取り込み が低下していることが判明した。この成績は、疲労病態においてもセロトニン代謝の異常が関連していることを しめす世界で初めてのものであり、CFS の治療としても SSRI が有効であることを検証する極めて重要な所見であ る。現在、年齢・性の一致した健常者コントロールに対するセロトニン代謝とドーパミン代謝の解析が進行中で あり、脳内代謝のどのような変化が慢性疲労と結びついているのかを明らかにすることができると考えている。 ④アセチル-L-カルニチンの脳内代謝物分析 研究成果:脳内代謝産物の解析より、ACM は神経伝達物質であるグルタミン酸、アスパラギン酸やGABA等の生 合成に利用されていることが判明した。また、神経細胞が密に存在する大脳皮質、小脳顆粒層、延髄、視床、海 馬、弓状核、乳頭体、膝状体、橋、手綱核、下丘、延髄等の領域では、ACM が ACT に比べ有意に取り込みが高いこ とが明らかになった。ACM 投与群では視床内諸核についてもいくつか同定可能であり、大脳皮質では層構造を認め、 Ⅱ、Ⅳ、Ⅴ層に取り込まれているのが観察された。また、脳ホモジネートの分析より酢酸は有機酸分画へ代謝さ れる割合が多く、一方アセチルカルニチンはアミノ酸分画へ代謝される割合が多いことが判明した。考案:脳に おいて酢酸は主にグリア細胞に取り込まれエネルギー基質として利用されているのに対して、アセチルカルニチ ンはより優先的に神経細胞に取り込まれ、グルタミン酸等の神経伝達物質合成等に利用されていることが明らか になり、CFS 患者において見出した前頭前野と前帯状回におけるアシルカルニチンの取り込み低下は、神経伝達物 質の合成の低下を介して臨床症状と関連していることが明らかになった。 ⑤疲労の回復手法の 1 つとして用いられている緑茶の成分であるカフェイン、テアニン、アルギニンの作用につ いて動物を用いて科学的検証 研究成果:カフェイン投与群では血中ドーパミンが対照群に比較して有意に上昇することが明らかになった。ド ーパミンの上昇は、A系神経伝達物質として作用し、快感や意欲をもたらしていることが推察される。一方、ア ルギニン投与群もドーパミンのやや上昇傾向がみられたが、3 種混合物投与群ではカフェイン単独投与群に比較し てその上昇が低く、カフェインのドーパミンへの影響をテアニンが抑制することが判明した。また、アドレナリ ンや、ノルアドレナリンも同様の上昇傾向がみられた。一方、疲労の指標物質の 1 つであるケトン体、3 ヒドロキ シ酪酸、アセト酢酸について検討したところ、テアニン及びアルギニン投与群において対照群に比べて減少傾向 がみられた。考案:茶には運動性疲労の回復に有効である成分と、精神疲労の回復に効果がみられる成分が含ま れており、この相乗作用により疲労回復もたらしていることが推測された。 引用文献 なし 成果の発表 1)原著論文による発表 ア)国内[発表題名、発表者名、発表誌名等(雑誌名、巻、号、頁、年 等)] 1. 感染症の新しい展開-germ theory を超えて-慢性疲労症候群(CFS)、倉恒弘彦、近藤一博、生田和良、 山西弘一、渡辺恭良、木谷照夫、日本内科学会雑誌 2. 慢性疲労症候群の病因・病態、倉恒弘彦、炎症と免疫 90(12):2431-2437,2001 222 9(1):68-74, 2001. 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 3. 疲労と未病-疲労の分子神経メカニズム、渡辺恭良、倉恒弘彦、医学のあゆみ 198(3):245-251, 2001. 4. 初診の診断技術:全身倦怠感、倉恒弘彦、Modern Physician.21(5):537-542,2001. 5. 慢性疲労症候群、倉恒弘彦、疲労の科学(井上正康、倉恒弘彦、渡辺恭良編)pp106-118,2001. 6. 補中益気湯が有効であった慢性疲労症候群(CFS)の症例、倉恒弘彦、実地医療のための THE KAMPO 10:8-9,2001 7. 小児の慢性疲労症候群(CFS)における生体リズム異常、友田明美、上土井貴子、三池輝久、 臨床体温, 19; 13-18, 2001. 8. 日本人慢性疲労症候群患者における血清中抗 DFS70 抗体、室 慶直、倉恒弘彦、アレルギーの臨床 20(10):74-78,2000. 9. 慢性疲労症候群、倉恒弘彦、日本臨床(別冊)領域別症候群 32:531-534, 2000. 10. 慢性疲労症候群(CFS)、倉恒弘彦、家庭の医学 平成 12 年版 :509, 2000. 11. 全身倦怠感、倉恒弘彦、プライマリケア/主要症候 :157-164, 1999. 12. 慢性疲労症候群、倉恒弘彦、感染症予防必携 320-322, 1999. イ)国外[発表題名、発表者名、発表誌名等(雑誌名、巻、号、頁、年 等)] 1. Brain regions involved in fatigue sensation: Reduced acetylcarnitine uptake into the brain. Kuratsune, H., Yamaguti, K., Lindh, G., Evengård, B., Hagberg, G., Matsumura K., Iwase M., Onoe H., Takahashi M., Machii T., Kanakura Y., Kitani T., Långström B., Watanabe Y. Neuroimage (Submitted, 2002). 2. Acquired activated protein C resistance is associated with the coexistence of anti-prothrombin antibodies and lupus anticoagulant activity in patients with systemic lupus erythematosus. Nojima J., Kuratsune H., Suehisa E., Kawasaki T., Machii T., Kitani T., Iwatani Y., Kanakura Y. Br J Haematol (in press, 2002). 3. Delaying Brain Mitochondrial Decay and Aging with Mitochondrial Antioxidants and Metabolites. Liu J., Atamna H., Kuratsune H., Ames BN. Ann New York Acad Sci 959:133-166, 2002. 4. Evidence of lytic infection of Epstein-Barr virus (EBV) in EBV-positive gastric carcinoma. Hoshikawa, Y., Satoh, Y., and Sairenji, T. 5. J. Med. Virol. 84, 1-9, 2002. Distinct patterns of mitogen-activated protein kinase phosphorylation and Epstein-Barr virus gene expression in Burkitt’s lymphoma cell lines versus B lymphoblastoid cell lines. Satoh, T., Fukuda, M., and Sairenji, T. Virus Genes (in press, 2002). 6. The elevation of natural killer cell activity induced by laughter in a crossover designed. Takahashi K., Yamashita K., Iwase M., Tatsumoto Y., Ue H., Kuratsune H., Shimizu A., Takeda M. Int J Mol Med 8(6):645-50, 2001. 7. Anti-prothrombin antibodies combined to lupus anticoagulant activity is an essential risk factor for venous thromboembolism in patients with SLE. Nojima J., Kuratsune H., Suehisa E., Futsukaichi Y., Yamanishi H., Machii T., Kitani T., Iwatani Y., Kanakura Y. Br J Haematol 114 (3):647-654, 2001. 8. Prevalence of antibodies toβ2-glycoprotein I, pro-thrombin, protein C, protein S, and annexin V in SLE patients and their relation to thrombotic and thrombocytopenic complications. Nojima J., Kuratsune H., Suehisa E., Futsukaichi Y., Yamanishi H., Machii T., Iwatani Y., Kanakura Y. Clin Chem. 47(6):1008-15, 2001. 9. Effect of TGF-β1 on the cell growth and EBV reactivation in EBV-infected epithelial cell lines. 223 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 Fukuda, M., Yanagihara, K., Tajima, M., Kuratsune, H., and Sairenji1, T. Virology 15;288(1):109-18, 2001. 10. 12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate induces Epstein-Barr virus reactivation via N F-κB and AP-1 as regulated by protein kinase C and mitogen-activated protein kinase. Gao, X., Ikuta, K., Tajima, M., and Sairenji, T. Virology 286, 91-99, 2001. 11. Effect of transforming grown factor-β1 on the cell growth and Epstein-Barr virus (EBV) reactivation in EBV-infected epithelial cell lines. Fukuda, M., Ikuta,K., Yanagihara, K., Tajima, M., Kuratsune, H., Kurata, T., and Sairenji, T. Virology 288, 109-118, 2001. 12. Spontaneous reduction in Epstein-Barr virus (EBV) DNA copy in EBV-infected epithelial cell lines. Kanamori, M., Murakami, M., Takahashi, T., Kamada, N., Tajima, M., Okinaga, K., Miyazawa, Y., Kurata, T., and Sairenji, T. Microbes and Infection 3, 1085-1091, 2001. 13. A case of exaggerated mosquito-bite hypersensitivity with Epstein-Barr virus positive inflammatory cells in the bite lesion. Ohsawa, T., Morimura, T., Hagari, Y., Kawakami, T., Mihara, M., Hirai, K., Ikuta, K., Murakami, M., Sairenji, T., and Mihara, T. Acta Derm Venereol 81, 360-363, 2001. 14. Chronic fatigue and abnormal biological rhythms in school children. Tomoda A, Jhodoi T, Miike T. JCFS, 60: 607-612, 2001. 15. Effects of exogenous melatonin on pituitary hormones in humans. Ninomiya T, Iwatani N, Tomoda A, Miike T. Blackwell Science Ltd Clinical Physiology 21, 3, 292-299, 2001. 16. Tumorigenesis of Epstein-Barr virus-positive epithelial cell lines derived from gastric tissues in the SCID mouse. Murakami, M., Hoshikawa, Y., Satoh, Y., Ito, H., Tajima, M., Okinaga, K., Miyazawa, Y., Kurata, T. and Sairenji, T. Virology 277: 20-26, 2000. 17. Differential effects of TPA on cell growth and Epstein-Barr virus reactivation in epithelial cell lines derived from gastric tissues and B cell line Raji. Kanamori, M., Tajima, M., Satoh, Y., Hoshikawa, Y., Miyazawa, Y., Okinaga, K., Kurata, T. and Sairenji, T. Virus Genes 20: 117-25, 2000. 18. Detection of Epstein-Barr virus in salivas and throat washings in healthy adults and children. Ikuta, K., Satoh, Y., Hoshikawa, Y. and Sairenji, T. Microbes and Infection 2: 115-120, 2000. 19. Inhibition of cell growth and Epstein-Barr virus reactivation by CD40 stimulation in Epstein-Barr virus-transformed B cells. Fukuda, M., Satoh, T., Takanashi, M., Hirai, K., Ohnishi, E., and Sairenji, T. Viral Immunol. 13: 215-229, 2000. 20. Chronic fatigue syndrome in childhood. Tomoda A, Miike T, et al. Brain & Dev, 22: 60-64, 2000. 21. Borna disease virus infection in two family clusters of patients with chronic fatigue syndrome. Nakaya T, Takahashi, H., Nakamura, Y., Kuratsune, H., Kitani, T., Machii T, Yamanishi, K., Ikuta K. Microbiol Immunol 43(7):679-689, 1999. 22. Nitric oxide down-regulates Epstein-Barr virus reactivation in epithelial cell lines. Gao, X., Tajima, M. and Sairenji, T. Virology 258: 375-381, 1999. 23. Epstein-Barr virus (EBV) infection and gastric carcinoma. The approach through EBV infected epithelial cell lines. Sairenji, T. Jpn. J. Infect Dis. 52: 110-112, 1999. 24. Identification of an alternative form of caspase-9 in human gastric cancer cell lines: a role of a caspase-9 variant in apoptosis resistance. Izawa, M., Mori, T., Satoh, T., Teramachi, A. and Sairenji, T. Apoptosis 4: 321-325, 1999. 25. Chronic fatigue syndrome (CFS) in childhood. Tomoda A, Miike T, Yamada E, Ogawa M, Honda H, Moroi T, Ohtani Y, Morishita S. Brain & Dev, 21: 51-55, 1999. 224 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 26. Effect of long-term melatonin administration on melanin metabolism and skin color in school phobic children and adolescents with sleep disturbance. Tomoda A, Miike T, Iwatani N, Ninomiya T, Mabe H, Kageshita T, Ito S. Curr Ther Res, 60: 607-612, 1999. 2)原著論文以外による発表の内訳 ア)国内 [発表題名、発表者名、発表誌名等(雑誌名、巻、号、頁、年 等)] 1. 慢性疲労症候群、倉恒弘彦、きょうの健康 156(3):133-141,2001 2. 専門医に聞く-慢性疲労症候群、倉恒弘彦、元気生活 3. 慢性疲労症候群とは?倉恒弘彦、働く人の安全と健康 2(4):341-343,2001 4. 睡眠障害、三池輝久、小児科臨床 2001;54:1268−76. 5. こども達の生活環境と生きる力、三池輝久、学校保健研究、2001;4 6. 不登校にまつわる小児の倦怠感、三池輝久、ストレスと臨床 7. 眠剤の適応と留意点、上土井貴子、三池輝久、小児看護 8. 現代の奇病 9. 慢性疲労症候群、倉恒弘彦、婦人公論 79(8):45-49,2001 2:459−64 2001;8:8−12. 986-989 2001 慢性疲労症候群はこうして治せ、倉恒弘彦、文藝春秋 78(6):378-387, 2000. 85(8):160-162, 2000 10. ストレスやウイルス感染が原因で発症する慢性疲労症候群、倉恒弘彦、栄養と料理 66(6):79-85,2000. 11. 慢性疲労症候群、こんなときは専門医へ、倉恒弘彦、はつらつ 4 月号:12-13,2000. 12. わかってきた慢性疲労症候群、倉恒弘彦、きょうの健康 151(10):106-107,2000 13. EB ウイルス感染と胃癌、西連寺 剛、臨床と微生物 27: 413-417, 2000. 14. 小児の睡眠障害と疲労感、三池輝久、久日児誌 2000;104:1~4。 15. 睡眠・身体リズムの乱れ、三池輝久、小児内科 2000;32:1317−1322. 16. 小児の睡眠障害と慢性疲労、三池輝久、小児科 2001;42:265−73. 17. 慢性疲労症候群、倉恒弘彦、健 28(4):38-41, 1999. 18. EB ウイルスの B 細胞内活性化機構、西連寺 19. Herpesviruses and Immunity; 西連寺 M. Plenum Press, NY and London 剛、臨床と微生物 26: 471-475, 1999. 剛、Edited by Medveczky,P.G., Friedman, H., and Bendinelli, (書評)ウイルス 49: 86-88, 1999. 20. EB ウイルスの潜伏感染と再活性化、西連寺 剛、LIP(倉田 毅、天野富美夫 編集)菜根出版 pp. 140-148, 1999. 21. 生体リズムと不登校(不出社)、三池輝久、川崎晃一編:生体リズムと健康、学会センター関西、大阪、 学会出版センター、東京、pp39−64,1999. 22. よい子のストレスと疲れ、三池輝久、児童心理,1999;53:38ー43. 23. 不登校状態の実態調査と生活リズムの変調に関する研究(分担研究者 三池輝久),平成 10 年度厚生科学 研究(子ども家庭総合研究事業)報告書(第 3/6),20-23, 1999 24. 生体リズムと健康ー生体リズムと不登校、三池輝久ほか、(不出社)学会センター関西, 39-64, 25. 生体リズムを基本にーふえるフクロウ症候群、三池輝久ほか、食べもの通信社, 31-41, イ)国外 1. 1999 1999 [発表題名、発表者名、発表誌名等(雑誌名、巻、号、頁、年 等)] Charactarization of EBV-infected epithelial cell lines from gastric cancer bearing tissues. In: Epstein-Barr virus and human cancer. Sairenji, T., Tajima, M., Takasaka, N., Gao, X., Kanamori, M., Murakami, M., Okinaga, K., Satoh, Y., Hoshikawa, Y., Ito, H., Miyazawa, Y., and Kurata, T. Current Topics in Microbiology and Immunology 258, pp. 185-198. Springer-Verlag (Berlin Heidelberg. New York), 2001. 225 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 3)口頭発表 ア)学会発表(国内) 1. 第 11 回日本疫学会(平成 13 年 1 月 25-26 日:茨城県)。日本における疲労の実態。簑輪眞澄,谷畑健生, 松本美富士,倉恒弘彦,木谷照夫. 2. 第 12 回日本疫学会(平成 13 年 1 月 24-26 日:東京)。外来受診者における疲労についての研究。簑輪眞 澄,谷畑健生,松本美富士,倉恒弘彦,木谷照夫. 3. 第 12 回日本疫学会(平成 13 年 1 月 24-26 日:東京) 。慢性疲労は鬱状態および睡眠障害と関連があるか。 谷畑健生,簑輪眞澄,松本美富士,倉恒弘彦,木谷照夫. 4. 第 6 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.16-17:熊本)(一般・口演)【2-14 C】acetyl -L- carnitine と 【2-14 C】acetate の脳への取込み.山口浩二、倉恒弘彦、待井隆志、金倉譲、木谷照夫、松村潔、渡辺 恭良. 5. 第 6 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.16-17:熊本)(一般・口演)慢性疲労症候群患者リンパ球にお ける 2,5A 合成酵素(2,5AS)活性について.生田和史、大西英子、西連寺剛、倉恒弘彦、宗川吉汪、山西弘 一、木谷照夫、渡辺恭良. 6. 第 6 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.16-17:熊本)(一般・口演)慢性疲労は鬱状態および睡眠障害 と関連があるか.谷畑健生、簑輪眞澄、倉恒弘彦、松本美富士、木谷照夫. 7. 第 6 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.16-17:熊本) (一般・口演) (シンポジウム)モーションキャプ チャーシステムを用いた疲労の評価.田島世貴、中村夫左央、松村昭、田中雅彰、渡辺恭良、山口浩二、 高橋励、倉恒弘彦、片岡洋祐、梶本修身、三池輝久、友田明美. 8. 平成 13 年度厚生科学研究費補助金健康科学総合研究事業「 疲労の実態調査と健康づくりのための疲労回 復手法に関する研究 」班会議(2.16〜17:熊本)日本における疲労の実態とリスクファクター.簑輪眞 澄、谷畑健生、松本美富士、倉恒弘彦、木谷照夫. 9. 平成 13 年度厚生科学研究費補助金健康科学総合研究事業「 疲労の実態調査と健康づくりのための疲労回 復手法に関する研究 」班会議(2.16〜17:熊本)慢性疲労症候群の予後及び予後に影響する精神医学的 要因について.岡嶋詳二、高橋励、高橋清武、梶本修身、志水彰、倉恒弘彦、山口浩二. 10. 平成 13 年度厚生科学研究費補助金健康科学総合研究事業「 疲労の実態調査と健康づくりのための疲労回 復手法に関する研究 」班会議(2.16〜17:熊本)CFS 患者における PET 解析.倉恒弘彦、山口浩二、待井 隆志、金倉譲、木谷照夫、Gurdrun Lindh、Birgitta Evengård、Bengt Långström、渡辺恭良. 11. 第 78 回 日本生理学会(3.29:同志社大学)(シンポジウム)慢性疲労症候群の病因・病態.倉恒弘彦. 12. 第 23 回 生物学的精神医学会(4.11:長崎) (口演)PET によるヒトの笑いの神経基盤の解明.岩瀬真生、 尾内康臣、岡田裕之、横山ちひろ、延澤秀二、吉川悦次、塚田秀夫、竹田真己、山下仰、武田雅俊、山口 浩二、倉恒弘彦、志水彰、渡辺恭良. 13. 第 63 回 日本血液学会総会(4.19-21:名古屋)(口演)抗リン脂質抗体の認識抗原の違いと Venous Thromboembolism(VTE)との関連.野島順三、末久悦次、倉恒弘彦、待井隆志、金倉譲. 14. 公開シンポジウム“疲れ”の科学と処方箋(9.6:ドーンセンター)(特別講演)疲労と病気.倉恒弘彦. 15. 科学技術振興調整費生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関す る総合的研究」平成 13 年度第 1 回班会議(9.7-8:大阪市立大学)ヒトヘルペスウイルス 6 の中枢神経系 での潜伏感染と慢性疲労症候群との関係.近藤一博、山西弘一、倉恒弘彦. 16. 科学技術振興調整費生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関す る総合的研究」平成 13 年度第 1 回班会議(9.7-8:大阪市立大学)疲労病態における EB ウイルス感染と 免疫応答異常.西連寺剛、生田和史、下村登規夫、倉恒弘彦、渡辺恭良. 17. 科学技術振興調整費生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関す 226 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 る総合的研究」平成 13 年度第 1 回班会議(9.7-8:大阪市立大学)健常人ボランティアにおける疲労負荷 のPET研究.田島世貴、山本茂幸、岩瀬真生、尾内康臣、岡田裕之、吉川悦次、尾上浩隆、塚田秀夫、 横山ちひろ、倉恒弘彦、志水彰、三池輝久、渡辺恭良. 18. 第 12 回 日本臨床スポーツ医学会(11.3:筑波) (ポスター)馬術競技の循環機能への影響、心電図記録 による解析.池田卓也、倉恒弘彦. 19. 第 5 回慢性疲労症候群研究会(平成 12 年 2 月 19-20 日:大阪府)。日本における疲労の実態とリスクファ クター。簑輪眞澄. 20. 第 5 回慢性疲労症候群研究会(平成 12 年 2 月 19-20 日:大阪府) 。地域における慢性疲労症候群用疲労の 有症率およびリスクファクター。谷畑健生,簑輪眞澄,松本美富士,倉恒弘彦,木谷照夫. 21. 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.19-20:大阪大学)(特別講演)慢性疲労症候群 (CFS)の病因・ 病態.倉恒弘彦. 22. 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.19-20:大阪大学)(一般・口演)[2-14C]acetyl-L-carnitine の マウスにおける脳内代謝物分析.山口浩二、倉恒弘彦、待井隆志、金倉譲、松村潔、木谷照夫、渡辺恭良. 23. 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.19-20:大阪大学)(一般・口演)滑動性追従眼球運動を用いた 疲労感の定量的測定の試み.高橋励、岡嶋詳二、倉恒弘彦、山口浩二、志水彰. 24. 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.19-20:大阪大学)(一般・口演)中枢性疲労の定量化の試み. 片岡洋祐、崔翼龍、渡辺恭良、山口浩二、倉恒弘彦. 25. 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.19-20:大阪大学)(一般・口演)慢性疲労症候群患者血清中に おけるインターフェロンα(IFN-α)について.生田和史、大西英子、西連寺剛、山西弘一、倉恒弘彦、 木谷照夫. 26. 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.19-20:大阪大学) (一般・口演)慢性疲労症候群(CFS)患者に おけるボルナ病ウイルス(BDV)感染の疫学的検索.朝長啓造、笹尾芙蓉子、渡辺真紀子、小林剛、生田 和良、倉恒弘彦. 27. 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.19-20:大阪大学)(一般・口演)地域における慢性疲労症候群 様疲労の有症率およびリスクファクター.谷畑健生、簑輪眞澄、松本美富士、倉恒弘彦、木谷照夫. 28. 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.19-20:大阪大学) (一般・口演)PET によるヒトの笑いに関連し た脳内回路の解明.岩瀬真生、尾内康臣、岡田裕之、志水彰、倉恒弘彦、渡辺恭良. 29. 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.19-20:大阪大学)(一般・口演)慢性疲労症候群患者における 血清中抗 SCS-70 抗体.室慶直、倉恒弘彦. 30. 第 5 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.19-20:大阪大学) (一般・口演)慢性疲労症候群(CFS)の予後 について-第三報-.岡嶋詳二、梶本修身、志水彰、倉恒弘彦、山口浩二. 31. 第 1 回 科学技術振興調整費生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防 御に関する研究」班会議(7.13-14:軽井沢).日本人慢性疲労症候群における主要自己免疫応答“抗 DFS-70 抗体”室慶直、倉恒弘彦. 32. 第 1 回 科学技術振興調整費生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防 御に関する研究」班会議(7.13-14:軽井沢).モーションキャプチャーシステムを用いた疲労評価.田島 世貴、中村夫左央、倉恒弘彦. 33. 第 1 回 科学技術振興調整費生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防 御に関する研究」班会議(7.13-14:軽井沢).タッチパネルを用いた疲労評価.梶本修身*、倉恒弘彦. 34. 第 1 回 科学技術振興調整費生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防 御に関する研究」班会議(7.13-14:軽井沢).Dual Task による疲労評価.高橋励、倉恒弘彦. 35. 第 17 回京阪血液研究会(9.30:守口市) (口演)抗リン脂質抗体の認識抗原の違いと血栓合併症との関連. 227 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 野島順三、末久悦次、倉恒弘彦、待井隆志、金倉譲. 36. 第 1 回 Neurobehavior 研究会(11.7:東京)(特別講演)CFS Research in Japan.倉恒弘彦. 37. 第 4 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.27-28:名古屋市)(ワークショップ)疲労病の原因は何か-CFS は内分泌/代謝疾患か?倉恒弘彦. 38. 第 4 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.27-28:名古屋市)(一般演題)[2-14C]acetyl-L- carnitine の 脳内代謝物分析.山口浩二、倉恒弘彦、待井隆志、金倉譲、松村潔、木谷照夫、渡辺恭良. 39. 第 4 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.27-28:名古屋市)(一般演題)脳における疲労関連物質のイメ ージング:ポジトロン標識トレーサを用いたアプローチ.松村潔、小林茂夫、小林真之、渡辺恭良、M. Bergström、B. Långström、倉恒弘彦. 40. 第 4 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.27-28:名古屋市)(一般演題)慢性疲労症候群患者血清中にお ける IL-10 及び IL-4 について.西連寺剛、小山佳久、大西英子、倉田毅、山西弘一、倉恒弘彦、木谷照夫. 41. 第 4 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.27-28:名古屋市)(一般演題)慢性疲労症候群(CFS)の予 後について—第二報—.岡嶋詳二、梶本修身、志水彰、山口浩二、倉恒弘彦. 42. 第 4 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.27-28:名古屋市)(一般演題)地域および医療機関外来におけ る慢性疲労調査の計画.簑輪眞澄、倉恒弘彦、木谷照夫. 43. 第 4 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.27-28:名古屋市)(一般演題)慢性疲労症候群患者対照研究実 施計画.簑輪眞澄、松本美富士、倉恒弘彦、木谷照夫. 44. 第 4 回慢性疲労症候群(CFS)研究会(2.27-28:名古屋市)(一般演題)慢性疲労症候群患者に対する断 食療法の効果についての検討.平谷和幸、藤田晃人、甲田光雄、倉恒弘彦. 45. 第 61 回日本血液学会総会(4.19-21:東京都) (示説)抗カルジオリピン抗体(aCL)とループスアンチコ アグラント(LA)による血小板活性化促進作用.野島順三、末久悦次、倉恒弘彦、待井隆志、木谷照夫、 金倉譲、網野信行. 46. 第 22 回日本神経科学学会(7.6-8:大阪府) (シンポジウム)疲労・疲労感のイメージング.渡辺恭良、倉 恒弘彦、山口浩二、松村潔、Bengt Långström. 47. 第 12 回 日本総合病院精神医学会(12.3-4:佐賀市) (口演)慢性疲労症候群に対する精神科的治療の効 果. 48. 高橋清武、志水彰、岡嶋詳二、山下仰、岩瀬真生、高橋励、梶本修身、武田雅俊、倉恒弘彦. 49. 平成 11 年度疲労の実態調査と健康づくりのための疲労回復手法に関する研究班会議(12.6:東京) (口演) 慢性疲労症候群の病因・病態(仮説)倉恒弘彦. イ)学会発表(国外) 1. Uppsala University PET Center Symposium (August 15-19,2001:Sweden)(Oral) PET in the frontier of science, PET studies in CFS. Hirohiko Kuratsune. 2. The 16th WORLD CONGRESS on PSYCHOSOMATIC MEDICINE (August 24-29,2001:Sweden)(Oral) Pathogenetic mechanisms potentially involved in the cause of chronic fatigue syndrome, Brain regions involved in fatigue sensation: reduced acetylcarnitine uptake in the brain. Hirohiko Kuratsune. 3. 3rd International Symposium on Molecular Medicine (October 19-21,2000:Hersonissos, Crete, Greece) (Oral) Brain regions involved with sense of fatigue: Reduced acetylcarnitine uptake with PET into Brodmann’s area 9, 24 and 33 in patients with chronic fatigue syndrome. Hirohiko Kuratsune. 4. Second World Congress on CFS and Related Disorders (September 9-12,1999:Brussels, Belguim)(Oral) Brain regions responsible for fatigue sense? Reduced acetylcarnitine uptake with PET into Brodmann’s area 9 and 24 in patients with CFS. Hirohiko Kuratsune. 228 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 5. 29th Annual Meeting of Society for Neuroscience (October 23-28,1999:Miami, FLA, USA)(Oral)PET imaging of fatigue state in the brains of chronic fatigue syndrome patients. Yasuyoshi Watanabe, Hirohiko Kuratsune, Kouzi Yamaguti, Gudrun Lindh, Birgitta Evengård, Kiyoshi Matsumura, Hirotaka Onoe, Gisela Hagberg, Bengt Långström. 4)特許等出願等 1. 特許取得 なし 2. 実用新案登録 なし 3. その他 なし 229 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 3. 疲労病態制御技術の開発 3.2.疲労の定量化・指標化と疲労を和らげる生活の提言 3.2.1. 一般医療機関受診患者の疫学調査とリスクファクターの検討 大阪大学大学院医学系研究科血液腫瘍内科学 倉恒 弘彦 研究協力者 国立公衆衛生院疫学部・簑輪 眞澄、谷畑 健生 研究協力者 豊川市民病院・松本 美富士 研究協力者 堺市民病院・木谷 照夫 要 約 平成 13 年にわれわれは医療機関外来受診者を対象に疲労の実態調査を行った。この研究によれば,現在疲労を 感じると答えたもの 66.8%に達しており,多くにものが疲労を感じていることがうかがわれる。また小児期からの 疲労を含まない 6 か月以上の長期にわたる疲労-慢性疲労-を感じているものが 45.2%におよんでいることが明 らかになった。本研究では,医療機関の外来を受診する人のうち疲労や慢性疲労を訴える人がどの程度いるのか, そのうち疲労を主訴として受診する人がどの程度いるのか,またそれらに医師はどのような診断をしているのか を明らかにした。 研究目的 平成 11 年に地域住民を対象にわれわれが行った疲労の実態調査によれば,現在疲労を感じると答えたもの 59.1%に達しており,多くにものが疲労を感じていることがうかがわれる。また小児期からの疲労を含まない 6 か 月以上の長期にわたる疲労-慢性疲労-を感じているものが 35.8%におよんでいることや,慢性疲労についての いくつかのリスクファクターが明らかになった。一方で疲労や慢性疲労をもつものに対して医師がどのような診 断をしているのかも興味があるところであるが,地域調査では無作為性を重視するためにそこまで踏み込んだ調 査を行わなかった。そこで平成 12 年に医療機関外来受診者の疲労の実態を明らかにし,医師が疲労および慢性疲 労を感じる患者の主訴に対して診断を行ったかを明らかにする目的で医療機関外来受診者調査を行った。 研究方法 対象と方法 1.医療機関外来受診者調査 愛知県豊川市医師会に所属する医療機関のうち本調査に協力可能な 19 か所の医療機関に調査の依頼をした。平 成 12 年 7-8 月の調査期間中に設定した調査日に受診した調査に協力可能な 15-64 歳の男女を対象とした。対象 者に調査票を記名してもらい,当該医療機関への郵送またはその場での回収を行った。医師は対象者の主訴,診 断を記入した。個人情報を守るために回収された調査票および医師記入の調査票は対象者の名前および住所がか 230 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 かれたものを廃棄して合本し,調査終了後協力医療機関でまとめて国立公衆衛生院疫学部へ送付してもらった。 未回答者には協力医療機関より 2 回の督促を行った。調査内容は,調査対象者には疲労の有無,その理由(内科的・ 精神科的な病気によるもの,運動・過労のような明確な原因によるもの,および原因不明の疲労に分類),休息に よる回復の有無,疲労の程度,持続期間,各種の症状,最近 1 年間の疲労(有無,理由,回復,程度,期間,症状),既往歴 (既往症および生殖歴を含む),飲酒,喫煙,睡眠問題,ストレス,食生活,冷房機使用,ライフイベント,新築家屋へ の転居,ペット,居住環境(ごみ捨て場,高圧線),海外旅行,性格,SDS,性,年齢,学歴,職業等とした。医師への調査 は対象者の主訴,受診した原因疾患の診断,背景にある疾患の診断とした。 調査票返送数は発送全 2180 通のうち 1808 通(82.9%)であり,性,年齢,疲労の有無,疲労の期間の記入されて いないものを除く有効回答は 1767 通(81.1%)であった(図 1)。 図1 医療機関外来受診者疲労調査の解析の流れ 2.分析方法 現在疲れを感じている期間が 6 か月以上継続しており, 「子供の頃から疲労がある」を除いた疲労を「慢性疲労」 と分類した。疲労の原因により, 「内科的な病気,精神的な病気による慢性疲労」を「病気による」, 「激しい運動 や仕事(残業のしすぎ)など明確な原因のある慢性疲労」を「明確な原因」, 「原因が分からない慢性疲労」を「原 因不明」と分類し, 「現在および過去 1 年ともに疲労を感じたことはない」ものを「疲労はない」と分類した。ま た,疲労の程度として, 「日常生活には支障がない」, 「通学,仕事などは無理して何とかこなしているが,しばし ば疲れやだるさを感じ,以前に比べて能率や作業量が明らかに低下している。」, 「さらに時に学校,仕事,家事な どを休んだ」,「さらにしばしば学校,仕事,家事などを休んだ」,「休学・退学や休職・退職をして休養した。も しくは,自分では家事を行うことができず誰かにお願いした。」5 段階を設定した。 231 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 研究成果 1. 現在の疲労 現在の疲労の有症率は男女合計で 66.8%。疲労の有症者は性・年齢階級別では 25-34 歳群に疲労がもっとも多 く,年齢が増えるに従い減少した。男は女に比べて疲労を感じる割合は低かった。疲労の原因としては明確な原 因の有症率が原因不明のものよりも高かった。明確な原因の有症者は 35-44 歳群に多く,原因不明は 25-34 歳群 に多くみられた(表 1)。一晩で疲労が回復するものとしないものの割合は,睡眠で疲労が回復しないものの割合 が高く,年齢階級では 35-44 歳でもっとも高かった(表 2)。 疲労の程度は,以前に比べて仕事などの能率や作業量の低下を訴える人が男女合計で 49.6%あり,この割合は 病気による疲労,明確な原因による疲労,原因不明の疲労の順に高かった。病気による疲労,明確な原因による 疲労ともに女にその割合が大きかったが,原因不明の疲労は男が高かった(表 3)。疲労を訴えるものの学歴は, 疲労のないものに比べて明確な原因のものが短大以上の高学歴が多く,ついで原因不明のものであった(表 4) 。 現在疲労があるもののうち,疲労を主訴として医療機関にかかった人は疲労全体で 1 割程度おり,病気による疲 労,明確な原因による疲労,原因不明の疲労の順の割合で,原因不明のものは 2.5%であった(表 5)。 2. 疲労を感じた期間の割合,疲労の原因および慢性疲労の有症率 6 ヶ月以上の期間疲労を感じた人(慢性疲労)は男女合計 45.2%であり,女に比べて男の割合は低かった。5 か 月以下の期間疲労を感じた人に比べて 6 か月以上のものの割合が高かった。子供の時から疲労を感じる人はわず かであった(表 6)。 外来受診者における慢性疲労の有症率は男女合計で 45.2%であった。慢性疲労の原因としては病気によるもの が最も多く,明確な原因によるもの次いで原因不明なものが続いた。病気によるものは年齢と共に有症率が高く なるが,一方で明確な原因による慢性疲労は 35-44 歳が,原因不明の慢性疲労は 25-34 歳がその割合が高く,ど ちらとも 55-65 歳がもっとも低かった(表 7)。 慢性疲労の程度については,病気によるものが仕事などの能率や作業量の低下を訴える率が最も高く,特に休 職や・退職,家事を他の人に任していることが多かった。また,明確な原因と原因不明は支障なく働いている率 は同程度であった。しかし原因不明のものは明確な原因に比べて程度の悪いもの「しばしば学校,仕事,家事な どを休んだ」,「休学・退学や休職・退職をして休養した。もしくは,自分では家事を行うことができず誰かにお 願いした」の割合が高かった(表 8)。慢性疲労者で明確な原因による疲労の原因は男では残業・長時間労働我の 割合が最も高く,ついで仕事や仕事量であった。年齢階級別では,25-34 歳が最も高かった。女では,仕事や仕事 量の割合が最も高く,ついで立位の作業であった。年齢階級では 15-24 歳の割合が高かった表(9)。慢性疲労を 訴えるものの学歴は,疲労のないものに比べて明確な原因のものが短大以上の高学歴が多く,ついで原因不明の ものであった(表 10)。 3. 慢性疲労者の主訴と主訴に対する医師の診断 慢性疲労者のうち,疲労を主訴として医療機関にかかった人は全体で 8.5%程度おり,病気による疲労,明確な 原因による疲労,原因不明の疲労の順であった(表 11)。また疲労を主訴とするもの以外の主訴については部右記 によるものは男女とも検診が最も多く,明確な原因は,男は風邪症状,女は低血圧や動悸がおおく,原因不明の ものは男では腹痛,女はめまいの割合が高かった(表 13)。疲労を主訴とするものへの医師の診断で割合の高いも のは,病気によるものは男の肝臓疾患,女の糖尿病,明確な原因は男の慢性肝炎,女の脂肪肝,原因不明は男の 肝臓疾患など,女の鉄欠乏性貧血および脂肪肝であった(表 13)。 232 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 表1 現在の疲労 現在疲労を感じる 明確な原因 原因不明 病気による n 男 15-24 25-34 35-44 45-54 55-65 全年齢 女 15-24 25-34 35-44 45-54 55-65 全年齢 男女計 15-24 25-34 35-44 45-54 55-65 全年齢 表2 % n % n 過去1年に 疲労を感じた 合計 % n % n 疲労はない % n 調査数 % n % 1 6 21 50 79 157 ( 0.0) (8.9) (16.3) (25.2) (25.7) (21.0) 16 21 34 41 43 155 (44.1) (25.0) (33.7) (20.6) (15.3) (22.1) 6 18 23 37 41 125 (14.7) (28.6) (24.4) (21.3) (14.5) (19.1) 23 45 78 128 163 437 (60.5) (60.0) (69.0) (66.0) (54.2) (60.6) 9 15 23 32 64 143 (23.5) (19.6) (18.6) (16.1) (20.9) (19.3) 6 15 12 34 74 141 (17.6) (17.9) (7.0) (16.8) (23.7) (18.4) 38 75 113 194 301 721 (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) 7 22 34 71 117 251 (9.3) (11.5) (21.9) (22.6) (28.2) (22.1) 14 43 49 76 71 253 (25.9) (32.0) (32.1) (26.6) (18.2) (25.2) 21 44 49 60 66 240 (31.5) (29.5) (28.5) (19.8) (19.2) (23.0) 42 109 132 207 254 744 (68.9) (74.7) (82.5) (69.0) (67.0) (71.1) 12 30 21 59 62 184 (20.4) (21.3) (13.1) (19.8) (16.2) (17.8) 7 7 7 34 63 118 (13.0) (5.7) (4.4) (11.1) (18.2) (11.9) 61 146 160 300 379 1046 (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) 8 28 55 121 196 408 ( 8.1) (12.7) (20.1) (24.5) (28.8) (23.1) 30 64 83 117 114 408 (30.3) (29.0) (30.4) (23.7) (16.8) (23.1) 27 62 72 97 107 365 (27.3) (28.1) (26.4) (19.6) (15.7) (20.7) 65 154 210 335 417 1181 (65.7) (69.7) (76.9) (67.8) (61.3) (66.8) 21 45 44 91 126 327 99 221 273 494 680 1767 (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (21.2) (20.4) (16.1) (18.4) (18.5) (18.5) 13 22 19 68 137 259 (13.1) (10.0) ( 7.0) (13.8) (20.1) (14.7) 現在の疲労の程度 病気による n % 累積% 明確な原因 n % 累積% n 原因不明 % 累積% n 疲労合計 % 累積% 男性 休職・退職, 家事をお願いする しばしば休む 時に休む 作業量低下 支障なし 合計 8 ( 5 12 64 66 155 5.2) ( ( 3.2) ( 7.7) ( 41.3) ( 42.6) (100.0) 5.2) ( 8.4) ( 16.1) ( 57.4) (100.0) 0 ( 1 8 47 99 155 0.0) ( 0.0) ( 0.6) ( 5.2) ( 30.3) ( 63.9) (100.0) ( 0.6) ( 5.8) ( 36.1) (100.0) 2 ( 2 2 49 70 125 1.6) ( 1.6) ( 1.6) ( 1.6) ( 39.2) ( 56.0) (100.0) ( 3.2) ( 4.8) ( 44.0) (100.0) 10 ( 2.3) ( 8 22 160 235 435 ( 1.8) ( 5.1) ( 36.8) ( 54.0) (100.0) 2.3) ( 4.1) ( 9.2) ( 46.0) (100.0) 女性 休職・退職, 家事をお願いする しばしば休む 時に休む 作業量低下 支障なし 合計 8 ( 11 16 118 96 249 3.2) ( ( 4.4) ( 6.4) ( 47.4) ( 38.6) (100.0) 3.2) ( 7.6) ( 14.1) ( 61.4) (100.0) 1 ( 3 8 117 122 251 0.4) ( 0.4) ( 1.2) ( 3.2) ( 46.6) ( 48.6) (100.0) ( 1.6) ( 4.8) ( 51.4) (100.0) 3 ( 7 5 85 139 239 1.3) ( 1.3) ( 2.9) ( 2.1) ( 35.6) ( 58.2) (100.0) ( 4.2) ( 6.3) ( 41.8) (100.0) 12 ( 1.6) ( 21 29 320 357 739 ( 2.8) ( 3.9) ( 43.3) ( 48.3) (100.0) 1.6) ( 4.5) ( 8.4) ( 51.7) (100.0) 合計 休職・退職, 家事をお願いする しばしば休む 時に休む 作業量低下 支障なし 合計 16 ( 16 28 182 162 404 4.0) ( ( 4.0) ( 6.9) ( 45.0) ( 40.1) (100.0) 4.0) ( 7.9) ( 14.9) ( 59.9) (100.0) 1 ( 4 16 164 221 406 0.2) ( 0.2) ( 1.0) ( 3.9) ( 40.4) ( 54.4) (100.0) ( 1.2) ( 5.2) ( 45.6) (100.0) 233 5 ( 9 7 134 209 364 1.4) ( 1.4) ( 2.5) ( 1.9) ( 36.8) ( 57.4) (100.0) ( 3.8) ( 5.8) ( 42.6) (100.0) 22 ( 1.9) ( 29 51 480 592 1174 ( 2.5) ( 4.3) ( 40.9) ( 50.4) (100.0) 1.9) ( 4.3) ( 8.7) ( 49.6) (100.0) 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 表3 一晩で疲労が回復する人としない人の有症率 調査数 n 男 15-24 25-34 35-44 45-54 55-64 合計 女 15-24 25-34 35-44 45-54 55-64 合計 男女計 15-24 25-34 35-44 45-54 55-64 合計 表4 1晩で回復する疲労の有症率 明確な原因 原因不明 病気による n % n % n % 1晩で疲労の回復しない疲労の有症率 病気による 明確な原因 原因不明 疲労合計 n % n % n % n % 疲労合計 n % 23 45 78 128 163 437 0 2 5 20 38 65 ( 0.0) ( 4.4) ( 6.4) (15.6) (23.3) (14.9) 8 8 14 20 21 71 (34.8) (17.8) (17.9) (15.6) (12.9) (16.2) 2 9 4 19 23 57 ( 8.7) (20.0) ( 5.1) (14.8) (14.1) (13.0) 10 19 23 59 82 193 (43.5) (42.2) (29.5) (46.1) (50.3) (44.2) 1 4 16 29 41 91 ( 4.3) ( 8.9) (20.5) (22.7) (25.2) (20.8) 8 13 20 21 21 83 (34.8) (28.9) (25.6) (16.4) (12.9) (19.0) 4 9 18 17 18 66 (17.4) (20.0) (23.1) (13.3) (11.0) (15.1) 13 26 54 67 80 240 (56.5) (57.8) (69.2) (52.3) (49.1) (54.9) 42 109 132 207 254 744 1 10 9 26 47 93 ( 2.4) ( 9.2) ( 6.8) (12.6) (18.5) (12.5) 8 16 23 41 42 130 (19.0) (14.7) (17.4) (19.8) (16.5) (17.5) 14 20 23 32 31 120 (33.3) (18.3) (17.4) (15.5) (12.2) (16.1) 23 46 55 99 120 343 (54.8) (42.2) (41.7) (47.8) (47.2) (46.1) 6 12 24 44 69 155 (14.3) (11.0) (18.2) (21.3) (27.2) (20.8) 6 27 25 34 27 119 (14.3) (24.8) (18.9) (16.4) (10.6) (16.0) 7 22 23 28 35 115 (16.7) (20.2) (17.4) (13.5) (13.8) (15.5) 19 61 72 106 131 389 (45.2) (56.0) (54.5) (51.2) (51.6) (52.3) 65 154 210 335 417 1181 1 12 14 46 85 158 ( 1.5) ( 7.8) ( 6.7) (13.7) (20.4) (13.4) 16 24 37 61 63 201 (24.6) (15.6) (17.6) (18.2) (15.1) (17.0) 16 29 27 51 54 177 (24.6) (18.8) (12.9) (15.2) (12.9) (15.0) 33 65 78 158 202 536 (50.8) (42.2) (37.1) (47.2) (48.4) (45.4) 7 16 40 73 110 246 (10.8) (10.4) (19.0) (21.8) (26.4) (20.8) 14 40 45 55 48 202 (21.5) (26.0) (21.4) (16.4) (11.5) (17.1) 11 31 41 45 53 181 (16.9) (20.1) (19.5) (13.4) (12.7) (15.3) 32 87 126 173 211 629 (49.2) (56.5) (60.0) (51.6) (50.6) (53.3) 疲労を訴える人の学歴(24 歳以上年齢調整) 疲労訴えるもの 明確な原因 病気による n 男 大卒 短大,専門学校 高卒 中卒以下 女 大卒 短大,専門学校 高卒 中卒以下 男女計 大卒 短大,専門学校 高卒 中卒以下 % n % 疲労なし 原因不明 n % n % 34 10 65 46 (17.8) ( 5.2) (34.1) (24.1) 46 10 56 27 (44.2) ( 9.6) (53.9) (26.0) 34 7 53 25 (26.3) ( 5.4) (41.0) (19.3) 24 13 53 45 (15.7) ( 8.5) (34.8) (29.5) 5 41 122 75 ( 2.0) (16.6) (49.4) (28.7) 20 58 116 45 (10.6) (30.7) (61.4) (17.5) 15 52 109 42 ( 9.1) (31.5) (66.0) (17.9) 1 12 45 53 ( 0.4) ( 5.3) (19.7) (44.6) 39 51 187 121 ( 9.2) (12.0) (44.2) (28.6) 66 68 172 72 (22.5) (23.2) (58.7) (17.8) 49 59 162 67 (16.9) (20.4) (55.9) (18.6) 25 25 98 98 ( 6.5) ( 6.5) (25.5) (37.5) 234 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 表5 現在疲労がある人のうち疲労を主訴として医療機関を受診した人の割合 疲労者のうち疲労を主訴とするもの 明確な原因 原因不明 病気による n 男性 15-24 25-34 35-44 45-54 55-65 全年齢 女性 15-24 25-34 35-44 45-54 55-65 全年齢 男女計 15-24 25-34 35-44 45-54 55-65 全年齢 表6 % n % n 疲労者合計 合計 % n % n % 0 0 6 7 16 29 ( ( ( ( ( ( 0.0) 0.0) 7.7) 5.5) 9.8) 6.6) 2 1 5 6 3 17 ( ( ( ( ( ( 8.7) 2.2) 6.4) 4.7) 1.8) 3.9) 0 2 1 6 1 10 ( ( ( ( ( ( 0.0) 4.4) 1.3) 4.7) 0.6) 2.3) 2 3 12 19 20 56 ( 8.7) ( 6.7) (15.4) (14.8) (12.3) (12.8) 23 45 78 128 163 437 (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) 2 3 5 6 18 34 ( ( ( ( ( ( 4.8) 2.8) 3.8) 2.9) 7.1) 4.6) 1 1 5 8 5 20 ( ( ( ( ( ( 2.4) 0.9) 3.8) 3.9) 2.0) 2.7) 1 7 3 0 9 20 ( ( ( ( ( ( 2.4) 6.4) 2.3) 0.0) 3.5) 2.7) 4 11 13 14 32 74 ( 9.5) (10.1) ( 9.8) ( 6.8) (12.6) ( 9.9) 42 109 132 207 254 744 (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) 2 3 11 13 34 63 ( ( ( ( ( ( 3.1) 1.9) 5.2) 3.9) 8.2) 5.3) 3 2 10 14 8 37 ( ( ( ( ( ( 4.6) 1.3) 4.8) 4.2) 1.9) 3.1) 1 9 4 6 10 30 ( ( ( ( ( ( 1.5) 5.8) 1.9) 1.8) 2.4) 2.5) 6 14 25 33 52 130 ( 9.2) ( 9.1) (11.9) ( 9.9) (12.5) (11.0) 65 154 210 335 417 1181 (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) 現在の疲労を感じた期間 現在疲労を感じる 5か月以下 n % 男 15-24 25-34 35-44 45-54 55-64 全年齢 女 15-24 25-34 35-44 45-54 55-64 全年齢 男女計 15-24 25-34 35-44 45-54 55-64 全年齢 6か月以上 子どもの時から n % n % 合計 n % 過去1年に 疲労を感じた n % 疲労はない n % 調査数 n % 10 17 33 39 36 135 (26.3) (22.7) (29.2) (20.1) (12.0) (18.7) 13 28 45 89 126 301 (34.2) (37.3) (39.8) (45.9) (41.9) (41.7) 0 0 0 0 1 1 ( ( ( ( ( ( 0.0) 0.0) 0.0) 0.0) 0.3) 0.1) 23 45 78 128 163 437 (60.5) (60.0) (69.0) (66.0) (54.2) (60.6) 9 15 23 32 64 143 (23.7) (20.0) (20.4) (16.5) (21.3) (19.8) 6 15 12 34 74 141 (15.8) (20.0) (10.6) (17.5) (24.6) (19.6) 38 75 113 194 301 721 (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) 24 47 40 54 68 233 (39.3) (32.2) (25.0) (18.0) (17.9) (22.3) 17 61 90 148 182 498 (27.9) (41.8) (56.3) (49.3) (48.0) (47.6) 1 1 2 5 4 13 ( ( ( ( ( ( 1.6) 0.7) 1.3) 1.7) 1.1) 1.2) 42 109 132 207 254 744 (68.9) (74.7) (82.5) (69.0) (67.0) (71.1) 12 30 21 59 62 184 (19.7) (20.5) (13.1) (19.7) (16.4) (17.6) 7 7 7 34 63 118 (11.5) ( 4.8) ( 4.4) (11.3) (16.6) (11.3) 61 146 160 300 379 1046 (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) 34 64 73 93 104 368 (34.3) (29.0) (26.7) (18.8) (15.3) (20.8) 30 89 135 237 308 799 (30.3) (40.3) (49.5) (48.0) (45.3) (45.2) 1 1 2 5 5 14 ( ( ( ( ( ( 1.0) 0.5) 0.7) 1.0) 0.7) 0.8) 65 154 210 335 417 1181 (65.7) (69.7) (76.9) (67.8) (61.3) (66.8) 21 45 44 91 126 327 (21.2) (20.4) (16.1) (18.4) (18.5) (18.5) 13 22 19 68 137 259 (13.1) (10.0) ( 7.0) (13.8) (20.1) (14.7) 99 221 273 494 680 1767 (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) 235 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 表7 慢性疲労を訴える人の割合 病気による n 男性 15-24 25-34 35-44 45-54 55-65 全年齢 女性 15-24 25-34 35-44 45-54 55-65 全年齢 男女計 15-24 25-34 35-44 45-54 55-65 全年齢 表8 明確な原因 % n 原因不明 % n 慢性疲労合計 % n 調査数 % 1 2 12 39 66 120 ( 2.6) ( 2.7) (10.6) (20.1) (21.9) (16.6) 6 15 18 26 32 97 (15.8) (20.0) (15.9) (13.4) (10.6) (13.5) 6 11 15 24 28 84 (15.8) (14.7) (13.3) (12.4) ( 9.3) (11.7) 13 28 45 89 126 301 (34.2) (37.3) (39.8) (45.9) (41.9) (41.7) 38 75 113 194 301 721 (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) 3 11 28 58 90 190 ( 4.9) ( 7.5) (17.5) (19.3) (23.7) (18.2) 4 22 33 49 51 159 ( 6.6) (15.1) (20.6) (16.3) (13.5) (15.2) 10 28 29 41 41 149 (16.4) (19.2) (18.1) (13.7) (10.8) (14.2) 17 61 90 148 182 498 (27.9) (41.8) (56.3) (49.3) (48.0) (47.6) 61 146 160 300 379 1046 (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) 4 13 40 97 156 310 ( 4.0) ( 5.9) (14.7) (19.6) (22.9) (17.5) 10 37 51 75 83 256 (10.1) (16.7) (18.7) (15.2) (12.2) (14.5) 16 39 44 65 69 233 (16.2) (17.6) (16.1) (13.2) (10.1) (13.2) 30 89 135 237 308 799 (30.3) (40.3) (49.5) (48.0) (45.3) (45.2) 99 221 273 494 680 1767 (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) 慢性疲労の程度 病気による n % 累積% 明確な原因 n % 累積% n 原因不明 % 累積% n 疲労合計 % 累積% 男性 休職・退職, 家事をお願いする しばしば休む 時に休む 作業量低下 支障なし 合計 6 ( 5.0) ( 5 8 53 48 120 ( 4.2) ( 6.7) ( 44.2) ( 40.0) (100.0) 6 9 12 92 69 188 ( 3.2) ( 5.0) ( 9.2) ( 15.8) ( 60.0) (100.0) 0 ( 0.0) ( 0.0) 1 6 29 61 97 1 ( 1.2) ( 1.2) ( 1.0) ( 7.2) ( 37.1) (100.0) 2 2 34 45 84 ( 0.0) ( 0.0) 1 6 3 56 82 148 ( 1.0) ( 6.2) ( 29.9) ( 62.9) (100.0) 7 ( 2.3) ( 2.3) ( 3.6) ( 6.0) ( 46.4) (100.0) 8 16 116 154 301 ( 2.7) ( 5.3) ( 38.5) ( 51.2) (100.0) ( 0.7) ( 0.7) 7 17 23 226 222 495 ( ( 2.4) ( 2.4) ( 40.5) ( 53.6) (100.0) ( 5.0) ( 10.3) ( 48.8) (100.0) 女性 休職・退職, 家事をお願いする しばしば休む 時に休む 作業量低下 支障なし 合計 ( 4.8) ( 6.4) ( 48.9) ( 36.7) (100.0) 3.2) ( 8.0) ( 14.4) ( 63.3) (100.0) 0 2 8 78 71 159 ( 1.3) ( 5.0) ( 49.1) ( 44.7) (100.0) ( 1.3) ( 6.3) ( 55.3) (100.0) ( 4.1) ( 2.0) ( 37.8) ( 55.4) (100.0) ( 4.7) ( 6.8) ( 44.6) (100.0) 1.4) ( 1.4) ( 3.4) ( 4.6) ( 45.7) ( 44.8) (100.0) ( 4.8) ( 9.5) ( 55.2) (100.0) 合計 休職・退職, 家事をお願いする しばしば休む 時に休む 作業量低下 支障なし 合計 12 ( 3.9) ( 14 20 145 117 308 ( 4.5) ( 6.5) ( 47.1) ( 38.0) (100.0) 3.9) ( 8.4) ( 14.9) ( 62.0) (100.0) 0 ( 0.0) ( 0.0) 3 14 107 132 256 ( 1.2) ( 5.5) ( 41.8) ( 51.6) (100.0) ( 1.2) ( 6.6) ( 48.4) (100.0) 236 2 ( 0.9) ( 0.9) 8 5 90 127 232 ( 3.4) ( 2.2) ( 38.8) ( 54.7) (100.0) ( 4.3) ( 6.5) ( 45.3) (100.0) 14 ( 25 39 342 376 796 1.8) ( 1.8) ( 3.1) ( 4.9) ( 43.0) ( 47.2) (100.0) ( 4.9) ( 9.8) ( 52.8) (100.0) 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 表9 慢性疲労者のうち仕事など明確な原因による疲労の原因となるもの(複数回答) 男 年齢 調査数 15-24 n= 6 残業・長時間労働 仕事・アルバイト・仕事量が多い ストレス 肉体労働 睡眠不足 肩腰などの体の痛みや不調 夜勤を含む不規則交代勤務 自動車の運転 労働環境の不備 暑さ,夏ばて 女 年齢 調査数 (16.7) (16.7) (16.7) ( 0.0) ( 0.0) ( 0.0) ( 0.0) ( 0.0) (16.7) ( 0.0) 6 6 4 1 2 0 0 0 1 2 2 1 1 0 0 0 0 1 1 0 0 0 35-44 n= 18 (40.0) (40.0) (26.7) ( 6.7) (13.3) ( 0.0) ( 0.0) ( 0.0) ( 6.7) (13.3) 25-34 n= 22 15-24 n= 4 仕事・アルバイト・仕事量が多い 立位の作業 睡眠不足 肉体労働 残業・長時間労働 育児 肩腰などの体の痛みや不調 人間関係 少ない休日 労働環境の不備 スポーツ・余暇 ストレス 表 10 1 1 1 0 0 0 0 0 1 0 25-34 n= 15 (50.0) (25.0) (25.0) ( 0.0) ( 0.0) ( 0.0) ( 0.0) (25.0) (25.0) ( 0.0) ( 0.0) ( 0.0) 10 0 7 2 4 3 1 3 1 1 0 2 6 2 3 0 2 2 1 1 0 2 45-54 n= 26 (33.3) (11.1) (16.7) ( 0.0) (11.1) (11.1) ( 5.6) ( 5.6) ( 0.0) (11.1) 6 6 5 3 2 3 1 2 2 1 35-44 n= 33 (45.5) ( 0.0) (31.8) ( 9.1) (18.2) (13.6) ( 4.5) (13.6) ( 4.5) ( 4.5) ( 0.0) ( 9.1) 7 6 4 1 1 5 5 2 1 2 3 3 (21.2) (18.2) (12.1) ( 3.0) ( 3.0) (15.2) (15.2) ( 6.1) ( 3.0) ( 6.1) ( 9.1) ( 9.1) 55-64 n= 32 (23.1) (23.1) (19.2) (11.5) ( 7.7) (11.5) ( 3.8) ( 7.7) ( 7.7) ( 3.8) 6 8 0 6 2 2 3 2 1 0 合計 n= 97 (18.8) (25.0) ( 0.0) (18.8) ( 6.3) ( 6.3) ( 9.4) ( 6.3) ( 3.1) ( 0.0) 25 23 13 10 8 7 5 5 5 5 (25.8) (23.7) (13.4) (10.3) ( 8.2) ( 7.2) ( 5.2) ( 5.2) ( 5.2) ( 5.2) 45-54 n= 49 55-64 n= 51 合計 n= 159 11 8 3 6 7 1 4 2 4 3 0 4 22 7 2 7 4 3 1 2 3 3 6 0 52 22 17 16 16 12 11 10 10 9 9 9 (22.4) (16.3) ( 6.1) (12.2) (14.3) ( 2.0) ( 8.2) ( 4.1) ( 8.2) ( 6.1) ( 0.0) ( 8.2) (43.1) (13.7) ( 3.9) (13.7) ( 7.8) ( 5.9) ( 2.0) ( 3.9) ( 5.9) ( 5.9) (11.8) ( 0.0) (32.7) (13.8) (10.7) (10.1) (10.1) ( 7.5) ( 6.9) ( 6.3) ( 6.3) ( 5.7) ( 5.7) ( 5.7) 慢性疲労を訴える人の学歴(24 歳以上年齢調整) 慢性疲労を訴えるもの 病気による 明確な原因 n 男 大卒 短大,専門学校 高卒 中卒以下 女 大卒 短大,専門学校 高卒 中卒以下 男女計 大卒 短大,専門学校 高卒 中卒以下 % n % 疲労なし 原因不明 n % n % 29 7 48 34 (14.0) ( 3.4) (23.2) (16.4) 33 7 34 17 (25.8) ( 5.5) (26.6) (13.3) 27 3 32 16 (21.0) ( 2.3) (24.9) (12.5) 24 13 53 45 (15.1) ( 8.2) (33.3) (28.3) 4 33 92 57 ( 1.5) (12.7) (35.4) (21.9) 8 44 74 29 ( 3.6) (19.9) (33.5) (13.1) 12 32 68 26 ( 6.3) (16.8) (35.7) (13.6) 1 12 45 53 ( 0.4) ( 4.9) (18.5) (21.8) 33 40 140 91 ( 7.1) ( 8.7) (30.3) (19.7) 41 51 108 46 (11.7) (14.5) (30.8) (13.1) 39 35 100 42 (12.3) (11.0) (31.4) (13.2) 25 25 98 98 ( 6.2) ( 6.2) (24.2) (24.2) 237 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 表 11 慢性疲労がある人のうち疲労を主訴として医療機関を受診した人の割合 慢性疲労のうち疲労を主訴とするもの 明確な原因 原因不明 病気による n 男性 15-24 25-34 35-44 45-54 55-65 全年齢 女性 15-24 25-34 35-44 45-54 55-65 全年齢 男女計 15-24 25-34 35-44 45-54 55-65 全年齢 表 12 男 % 0 0 3 6 15 24 ( 0.0) ( 0.0) ( 6.7) ( 6.7) (11.9) ( 8.0) 0 2 5 5 11 23 ( ( ( ( ( ( 0 2 8 11 26 47 ( ( ( ( ( ( % n % n % n % 0 0 2 5 2 9 ( ( ( ( ( ( 0.0) 0.0) 4.4) 5.6) 1.6) 3.0) 0 1 0 2 0 3 ( ( ( ( ( ( 0.0) 3.6) 0.0) 2.2) 0.0) 1.0) 1 1 5 8 12 27 ( 7.7) ( 3.6) (11.1) ( 9.0) ( 9.5) ( 9.0) 13 28 45 89 126 301 (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) 0.0) 3.3) 5.6) 3.4) 6.0) 4.6) 1 1 3 7 4 16 ( ( ( ( ( ( 5.9) 1.6) 3.3) 4.7) 2.2) 3.2) 1 3 2 0 6 12 ( ( ( ( ( ( 5.9) 4.9) 2.2) 0.0) 3.3) 2.4) 1 3 9 12 16 41 ( 5.9) ( 4.9) (10.0) ( 8.1) ( 8.8) ( 8.2) 17 61 90 148 182 498 (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) 0.0) 2.2) 5.9) 4.6) 8.4) 5.9) 1 1 5 12 6 25 ( ( ( ( ( ( 3.3) 1.1) 3.7) 5.1) 1.9) 3.1) 1 4 2 2 6 15 ( ( ( ( ( ( 3.3) 4.5) 1.5) 0.8) 1.9) 1.9) 2 4 14 20 28 68 ( 6.7) ( 4.5) (10.4) ( 8.4) ( 9.1) ( 8.5) 30 89 135 237 308 799 (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) 慢性疲労患者の主訴(疲労を主訴とするもの以外,上位 10) 病気による 検診 その他関節炎 腹痛 高血圧 咽頭痛,胸痛 めまい 高脂血症 食欲不振 咳 頭痛 女 n 慢性疲労者合計 合計 病気による その他関節炎 肩こり 高血圧 腹痛 咳 呼吸の異常,過呼吸 手のこわばり 咽頭痛,胸痛 頭痛 皮膚感覚障害,しびれ 明確な原因 原因不明 n = 81 n = 79 n (%) n (%) 8 (10) 鼻水,鼻づまり 12 (15) 腹痛 6 ( 7) 咽頭痛,胸痛 6 ( 8) 高血圧 6 ( 7) その他関節炎 6 ( 8) その他関節炎 6 ( 7) 掻痒 5 ( 6) 鼻水,鼻づまり 5 ( 6) 頭痛 4 ( 5) 咽頭痛,胸痛 5 ( 6) 高血圧 4 ( 5) 検診 4 ( 5) 腹痛 4 ( 5) 膝関節症 4 ( 5) 下痢 4 ( 5) その他整形学的症状 4 ( 5) 高脂血症 3 ( 4) 咳 4 ( 5) 肩こり 3 ( 4) 高尿酸血症 検診 3 ( 4) 下痢 黄疸 3 ( 4) 掻痒 悪心,嘔吐 3 ( 4) 肩こり,肩関節周囲炎 腰痛 頭痛 n = 72 n (%) 9 (13) 8 (11) 5 ( 7) 5 ( 7) 4 ( 6) 4 ( 6) 3 ( 4) 3 ( 4) 3 ( 4) 2 ( 3) 2 ( 3) 2 ( 3) 2 ( 3) 2 ( 3) 2 ( 3) 明確な原因 原因不明 n = 147 n = 131 n (%) n (%) 18 (12) 低血圧 12 ( 9) めまい 13 ( 9) 動悸,心拍の異常 11 ( 8) 血糖値上昇 10 ( 7) 末梢神経、Bell麻痺 11 ( 8) 腰痛 9 ( 6) 甲状腺機能低下症 10 ( 8) 胸やけ,げっぷ 8 ( 5) 耳漏 10 ( 8) 不明熱,発熱 8 ( 5) 口内炎,口角炎 9 ( 7) 片麻痺 8 ( 5) サルコイドーシス 8 ( 6) 咳 7 ( 5) 疣ぜい 8 ( 6) 物忘れ 7 ( 5) 胃がん 7 ( 5) 消化器の異常 6 ( 4) 複視 7 ( 5) 視力障害 吐血,下血,血便 n = 127 n (%) 10 ( 8) 10 ( 8) 9 ( 7) 8 ( 6) 8 ( 6) 8 ( 6) 6 ( 5) 6 ( 5) 5 ( 4) 5 ( 4) 5 ( 4) 238 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 表 13 疲労を主訴とする慢性疲労者への医師の診断 男 病気による 明確な原因 原因不明 n = 24 n= 9 n= 3 n (%) n (%) n (%) 肝臓疾患 1 (33) 糖尿病 6 (25) 慢性肝炎 3 (33) 肝 肝臓疾患 10 (42) 腎臓疾患 3 (33) 腎臓疾患 1 (33) 腎臓疾患 4 (17) 糖尿病 1 (11) 高血圧 1 (33) 心臓疾患 2 ( 8) 心臓疾患 1 (11) 高脂血症 1 (33) 高血圧 2 ( 8) 神経症 1 (11) 神経症 1 ( 4) 高血圧 1 (11) 癌(腫瘍) 1 ( 4) 高脂血症 1 (11) 肺炎 1 ( 4) 湿疹 1 (11) アルコール依存 1 ( 4) 高尿酸血症 1 (11) 腎炎 1 ( 4) 高脂血症 1 ( 4) 湿疹 1 ( 4) 高尿酸血症 1 ( 4) 1 ( 4) 急性上気道感染症 慢性膵炎 1 ( 4) 女 病気による 明確な原因 原因不明 n = 23 n = 16 n = 12 n (%) n (%) n (%) 糖尿病 5 (22) 鉄欠乏性貧血 2 (13) 膵炎 1 ( 8) SLE 3 (13) 心臓疾患 1 ( 6) 鉄欠乏性貧血 2 (17) RA 2 ( 9) 癌(腫瘍) 1 ( 6) 心臓疾患 1 ( 8) 1 ( 6) 湿疹 1 ( 8) MCTD 1 ( 4) 急性上気道感染症 自律神経失調症 2 ( 9) 胃潰瘍 1 ( 6) 癌(腫瘍) 1 ( 8) 心臓疾患 2 ( 9) 脂肪肝 4 (25) 胃潰瘍 1 ( 8) 高血圧 2 ( 9) 慢性膵炎 2 (13) 脂肪肝 2 (17) 癌(腫瘍) 1 ( 4) 湿疹 1 ( 6) 重症筋無力症 1 ( 8) 頭痛 1 ( 4) うつ病 2 (13) MCTD 1 ( 8) 鉄欠乏性貧血 1 ( 4) 重症筋無力症 1 ( 6) うつ病 1 ( 8) 高脂血症 1 ( 4) MCTD 1 ( 6) 慢性疲労症候群 1 ( 8) 1 ( 8) 心身症 1 ( 4) 慢性疲労症候群 1 ( 6) 急性上気道感染症 神経症 1 ( 4) うつ病 2 ( 9) 睡眠障害 1 ( 4) Parkinson症候群 1 ( 4) 重症筋無力症 1 ( 4) 脂肪肝 1 ( 4) 肝臓疾患 4 (17) 消化器疾患 1 ( 4) 239 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 考 察 疲労特に慢性疲労は人の生活の質(quality of life:QOL)を低下させるものとして重要な原因と考えられる。 欧米ではこの問題を以前より課題とされ研究されてきた 1-7)が,わが国ではいままでほとんど研究されてこなかっ た。今まで住民の疲労調査をわれわれは行ったが,外来受診者調査と比べて,疲労及び慢性疲労の有症率は大き くは変わらなかった。また高学歴者に疲労および慢性疲労の有症率が高いことは日本と米英オーストラリアの研 究と違いがないことが明らかになった。 疲労および慢性疲労を自覚しながらも,疲労を主訴に外来受診するものが極めて少ないことが明らかになった。 これを解決するには外来受診環境を明らかにする必要があると思われる。疲労を主訴とする原因不明の慢性疲労 者のうち,ほとんど診断が成されており,多くは医師によって疲労の原因が明らかにされている。われわれの研 究において原因不明の慢性疲労者は諸外国に比べて多いが,今後同様な調査を行う場合,医師の診断は必要では ないかと思われる。 引用文献 [1] Glazer R, Keicolt-Glazer W. Am J Med 1998; 105 (3A): 35S-42S. [2] Lange G, Wang S, et al. Am J Med 1998; 105 (3A): 50S-3S. [3] Wessely S, Chalder T, et al. Am J Public Health; 87 (9): 1449-55. [4] Jason LA, Taylor RR, et al. J nervous Mental Disease; 188 (9): 568-576. [5] Skapinakis P, Lewis G, et al. Am J Psychiatry; 157 (9): 1492-8. [6] Couper J. Australian NewZealand Journal of Psychiatry; 34 (5): 762-9. [7] Nisenbaum R., Reyes M, et al. Am J Epidemiol; 148 (1): 72-7. 成果の発表 1)原著論文による発表 なし 2)原著論文以外による発表(レビュー等) なし 3)口頭発表 ア)学会発表 第 12 回日本疫学会(平成 13 年 1 月 24-26 日:東京)。外来受診者における疲労についての研究。簑輪眞澄, 谷畑健生,松本美富士,倉恒弘彦,木谷照夫 第 12 回日本疫学会(平成 13 年 1 月 24-26 日:東京)。慢性疲労は鬱状態および睡眠障害と関連があるか。谷 畑健生,簑輪眞澄,松本美富士,倉恒弘彦,木谷照夫 第 5 回慢性疲労症候群研究会(平成 12 年 2 月 19-20 日:大阪府) 。日本における疲労の実態とリスクファクター。 簑輪眞澄 第 5 回慢性疲労症候群研究会(平成 12 年 2 月 19-20 日:大阪府)。地域における慢性疲労症候群用疲労の有症 率およびリスクファクター。谷畑健生,簑輪眞澄,松本美富士,倉恒弘彦,木谷照夫 240 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 第 6 回慢性疲労症候群研究会(平成 13 年 2 月 16-17 日:熊本県) 。日本における疲労の実態とリスクファクター。 簑輪眞澄,谷畑健生,松本美富士,倉恒弘彦,木谷照夫 第 6 回慢性疲労症候群研究会(平成 13 年 2 月 16-17 日:熊本県)。慢性疲労は鬱状態および睡眠障害と関連が あるか。谷畑健生,簑輪眞澄,松本美富士,倉恒弘彦,木谷照夫 第 11 回日本疫学会(平成 13 年 1 月 25-26 日:茨城県)。日本における疲労の実態。簑輪眞澄,谷畑健生,松 本美富士,倉恒弘彦,木谷照夫 4)特許等出願等 1. 特許取得 なし 2. 実用新案登録 なし 3. その他 なし 241 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 3. 疲労病態制御技術の開発 3.2. 疲労病態の治療技術の開発に関する研究 3.2.6. 疲労モデル動物の確立と疲労治療薬としての漢方薬およびアセチルカルニチンの 有用性の科学的検証 大阪大学大学院医学系研究科血液腫瘍内科学 倉恒 弘彦 研究協力者(株)ツムラ漢方生薬研究所 木戸 要 敏孝、溝口 和臣、石毛 敦 約 長期水浸拘束ストレス負荷ラットの行動学的(新規環境下における自発運動量、重量負荷強制遊泳試験)およ び生化学的(血漿中 total carnitine, free carnitine, 各種臓器中 glutathione, ascorbic acid レベル)が評 価され、その特徴が検証された。その結果、本モデル動物は疲労モデルあるいは疲労しやすい動物モデルとして 確認された。そこで、本疲労モデル動物を用いて補中益気湯(TJ-41)および acetyl-L-carnitine の疲労除去効 果を重量負荷強制遊泳試験にて評価したところ、TJ-41 はストレス負荷に伴い発現する疲労感の除去作用および回 復促進作用を、acetyl-L-carnitine は疲労回復促進作用を有する可能性が示唆された。 研究目的 補中益気湯(TJ-41)は本来、虚を補い、疲労病を回復することで、生体本来が持つ治癒力を高める補剤の代表薬 剤であり、高齢者の不定愁訴の軽減や、感染防御、食欲増強などの効果が期待される。近年、TJ-41 の薬効に関する 臨床・基礎研究が数多くなされ、担癌状態における放射線・化学療法時の免疫賦活作用をはじめとする副作用軽減作 用(1-4) 、MRSA(5) 、Candida albicans(6) 、Influenza および Herpes virus 感染防御作用(7,8) 、消化器機能改 善作用などが明らかとされている。しかしながら、効能・効果に記載されている術後・病後の体力回復や疲労倦怠感 に対する薬効についての研究は全くなされていない。すなわち、今後迎えるであろう高齢化社会における TJ-41 の役 割・存在意義を明確にするためにも、疲労感に対する TJ-41 の効果を検討する意味があると考える。 疲労感の発現メカニズムあるいは薬物の効果を詳細に検討するためには疲労を呈する実験動物モデルが必要と なる。しかしながら、現状において、疲労モデルと認知されたモデルは運動負荷モデル動物でしかなく、ヒトで 問題とされる精神的ストレスを引き金とした疲労モデルは報告されていない。なぜなら、現状において、明確な 疲労原因・関連物質が見いだされていないからである。 近年、大阪大学、倉恒先生らにより慢性疲労症候群患者で血清中 acyl carnitine レベルが減少していること(9)、 京都大学、井上先生らによりで運動負荷ラットの脳脊髄液中における TGF-βレベルが上昇し、この TGF-βが正常 動物の疲労感を誘導することが報告された(10)。また、溝口らにより、長期に水浸拘束ストレスをラットに負荷 することで、空間作業記憶障害を呈するモデル動物が報告されている(11)。 以上の情報から、溝口らのモデル動物が疲労モデルとなりうるかについて検証するため、行動学的・生化学的 に特徴を明らかにする。また、治療薬として期待される TJ-41 および acetyl-L-carnitine の効果を重量負荷強制 242 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 遊泳試験にて評価する。 研究方法 1.実験動物 長期水浸拘束ストレス負荷ラット作成のために、 日本クレアより購入された 9 週齢雄性 Wistar ラットが用いられた。 2.水浸拘束ストレス 水浸拘束ストレスラットはラットを身動きできない容積のケージに拘束し、水温 21℃の水に 1 日 2 時間水浸し て作成された。重量負荷強制遊泳試験による遊泳時間の評価はストレス負荷期間が 3 日間、7 日間、2 週間、4 週 間及び 4 週間ストレスを負荷した後、10 日間の回復期間をおいた群で検討された。 3.重量負荷強制遊泳試験装置 重量負荷強制遊泳試験は内径 23cm、高さ 40cm の黒色円筒容器に水深 32cm になるように水(水温 23℃)を入れ て行われた。遊泳時間の評価は動物に体重の 6%のおもりを尾部付け根に装着し、頭部が完全に 5 秒あるいは 10 秒間水没するまでの時間を測定した。 4.血清中 total carnitine、free carnitine レベルおよび臓器中 glutathione、ascorbic acid レベルの測定 測定用血漿は、5 時間絶食された動物の腹部下大動脈より全血をヘパリン存在下で採取し、遠心分離にて調整さ れた。採血後、肝臓、腎臓、脳および脳脊髄液が採取された。得られたサンプルは液体窒素にて凍結後、-80 度で 保存された。保存された血漿および脳脊髄液は大阪大学倉恒先生へ、肝臓、腎臓および脳は大阪市立大学井上先 生へ送付され、各種生化学的測定が行われた。 研究成果 体重変化:長期水浸拘束ストレス負荷ラットの体重変化が Fig.1 に示されている。下向きの矢印はストレス負荷 開始日時を、上向きの矢印はストレス負荷終了日時を表している。いずれの群においてもストレス負荷開始直後 から体重の増加率は減少した。一方、4 週間ストレス負荷の後、10 日間の回復期間を与えられた群の体重はスト レス負荷終了とともに回復し、control 群と同等の体重増加率を示した。なお、摂食量についてはストレス負荷開 始 10 日までは有意に減少したが、それ以降は control 群と同等の摂食量が観察された(データには示さず)。 すでに報告されている特徴:すでに報告されている長期ストレス負荷ラットの特徴として、前頭前野における dopamine および dopamine 代謝物レベルの変化が Table.1 に、T 迷路を用いた空間作業記憶の評価結果が Fig.2 に 示されている。Dopamine レベルはストレス負荷 2 週間目までは有意に増加し、4 週間では逆に有意に減少した。 また、ストレス 4 週間負荷後 10 日間のストレスを負荷しない回復期間を与えた群において有意な dopamine の低 下が維持されていた。一方、ストレスを 4 週間負荷し、さらに 10 日間の回復期間をおいた群の空間作業記憶は有 意に低下しており、この低下は dopamine D1 receptor の agonist である SKF の投与により回復し、dopamine D1 receptor の antagonist である SCH により、再び低下した。 新規環境下における自発運動量:水浸拘束ストレスを 4 週間負荷し、さらに 10 日間の回復期間をおいた動物の新 規環境下における自発運動量が Fig.3 に示されている。ストレスを負荷していない control 群と比較して自発運 動量に相違は見いだされなかった。 243 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 重量負荷強制遊泳試験:水浸拘束ストレス負荷動物の疲労度を重量負荷強制遊泳試験にて評価した結果が Fig.4 に示されている。ストレス負荷 2 週間目までは遊泳時間の延長が観察されたが、4 週間では逆に減少した。この遊 泳時間の減少は 10 日間のストレス回復期間をおいた群でも維持されていた。 血漿中 total carnitine および free carnitine レベル:長期ストレス負荷ラットの血漿中 total carnitine およ び free carnitine レベルの変化が Fig.5 に示されている。ストレス負荷により各種 carnitine レベルは変化しな かった。 各種臓器中の glutathione および ascorbic acid レベル:長期ストレス負荷ラットの各種臓器中還元型 glutathione レベルが Fig.6 に、ascorbic acid レベルが Fig.7 に示されている。還元型 glutathione レベルはストレス負荷に 伴い変化しなかった。一方、肝臓中 ascorbic acid レベルはストレス負荷に伴い減少し、ストレス負荷解放後に おいても低値を維持した。腎臓および血漿中 ascorbic acid レベルはストレス負荷に伴い減少し、ストレス解放 後は定常値に回復した。さらに脳内 ascorbic acid レベルはストレス負荷期間中で変化しなかったが、回復期に おいて低値を示した。 疲労に対する TJ-41 および acetyl-L-carnitine の効果:長期ストレス負荷ラットの疲労に対する TJ-41 および acetyl-L-carnitine の効果が Fig.8 及び Fig.9 に示されている。ストレス負荷により減少した遊泳時間が TJ-41 の投与により有意に延長した。一方、Fig.9 は 1 回目の遊泳の後、30 分間の休息時間を与え、再び重量負荷強制 遊泳試験を行った結果である。TJ-41 および acetyl-L-carnitine は 2 回目の遊泳時間を有意に延長した。 考 察 本実験で用いられた長期水浸拘束ストレス負荷ラットは前頭前野における dopamine 放出量が低下しており、空 間作業記憶が低下していることがすでに報告されている(11)。この空間作業記憶の低下は dopamine の agonist により回復し、antagonist の投与により再び低下することから、ストレス負荷に伴う dopamine 作動性神経系の down regulation が関与していると考えられる。本検討は上記の長期水浸拘束ストレス負荷ラットが疲労モデルと 呼べるかどうかについて検証するため行われた。 本検討により、長期水浸拘束ストレス負荷ラットの特徴がいくつか明らかとなった。長期水浸拘束ストレスは 自発運動量には変化をもたらさないが、重量負荷強制遊泳試験にて疲労感を発現すること。さらに、各種臓器中 ascorbic acid レベルを減少させることが認められた。特に、ascorbic acid を合成する肝臓においてストレス負 荷期間およびストレス解放後で低値を示すことから、ストレスに対応する何らかの肝機能変化が生じているもの と考えられる。また、脳内の ascorbic acid レベルはストレス負荷期間で減少せず、回復期で減少することから、 ストレスに伴う変化を修復する目的で ascorbic acid の代謝が促進した結果であると考えられる。現状において、 これらの変化が疲労発現メカニズムにどのように関与するかについて定かでないが、水浸拘束ストレスという精 神的ストレス応答の一つとして興味深い結果であると言える。 一般的に行動学的検討は動物の中枢神経活動を評価する上で簡便であり、様々な情報を得ることができるが、 一方で、解釈が困難になることもある。そこで、本検討では疲労度を簡便に評価できる系として重量負荷強制遊 泳私権の確立も併せて試みた。一般に強制遊泳試験はうつの評価系として用いられるが、その手法は水中での無 動時間を評価する系である。そこで、動物におもりを負荷したところ、動物はおぼれまいとして泳ぎ続け、最終 的には疲労により水面まで顔を持ち上げる泳力がなくなり、水没する。すなわち、重量負荷強制遊泳試験は遊泳 し続ける持久力を評価する系であり、疲労のしやすさ・疲労感の発言時間を評価できる系である。そこで、この 評価系を用いて、長期水浸拘束ストレス負荷ラットが疲労モデルとなりうるかについて検証を行った。 244 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 水浸拘束ストレスを負荷することにより 2 週間目までは遊泳時間が延長し、4 週間及び 4 週間ストレスを負荷し た後、10 日間の回復期間をおいた場合でも遊泳時間が減少する結果が得られた。すなわち、本モデルは疲労しや すい動物であり、一種の疲労モデルと言える。なお、本検討でストレス負荷 2 週間目までは逆に延長する結果が 得られているが、一般的に、ストレス負荷に伴って、自発運動量や遊泳時間が増加するケースが報告されており、 本実験結果も関連がある可能性が考えられる。また、本モデルは溝口らのうつモデルと同一のものであり、溝口 らによる検討では水浸拘束ストレスを負荷することで、dopamine 作動性神経系のダウンレギュレートが観察され ている。このモデルでは脳の前頭前野における dopamine 放出はストレス負荷 2 週間目までは増加し、4 週間では 逆に減少する。また、ストレス負荷による dopamine 放出の減少は 10 日間の回復期間をおいても低値を保つ。以 上のことを考えると、ストレスを負荷した時の遊泳時間は dopamine 放出とパラレルな変化であり、遊泳時間と dopamine 作動性神経活動との関与が示唆される。 以上のことより、長期水浸拘束ストレスは精神的ストレスを引き金とした疲労モデル動物であり、重量負荷強 制遊泳試験と組み合わせることにより疲労除去作用が期待される薬物の評価ができると考えられる。そこで、補 剤と呼ばれる漢方薬の一つである TJ-41 および疲労感の発現に関与すると考えられている acetyl-L-carnitine の 薬効が評価された。その結果、ストレス負荷により減少した遊泳時間が TJ-41 の投与により有意に延長した。す なわち、TJ-41 は疲労の発現を抑制したと考えられる。一般的に運動負荷による疲労感は時間あるいは休息により 回復する。そこで、遊泳という運動負荷により誘導された疲労の回復に対する薬効を検討するため、1 回目の遊泳 の後、30 分間の休息時間を与え、再び重量負荷強制遊泳試験を行った。その結果、TJ-41 および acetyl-L-carnitine は 2 回目の遊泳時間を有意に延長した。以上のことから、TJ-41 は様々なストレスにより疲れやすい体を元気にす ることで疲労感の発現を抑制するとともに、一度発現した疲労感の回復を促す。一方、acetyl-L-carnitine は疲 労の発現を直接的に抑制することはないが、疲労の回復を促進し、なかなか疲れがとれないケースに有効である 可能性が示唆された。 引用文献 [1] Cho, J.M., Sato, N., Kikuchi, K.: Prohylatic antitumor effect of Hochu-ekki-to (TJ-41) by enhancing natural killer cell activity. In Vivo, 5, 389-392 (1991) [2] Iwama, H., Amagaya, S., Ogihara, Y.: Effects of five kampohozais on the mitogenic activity of lipopolysaccharide, concanavalin A phorbol myristate acetate and phytohemagglutinin in vivo. J. Ethnopharmacol., 18, 193-204 (1986) [3] Kataoka, T., Akagawa, K.S., Tokunaga, T., Nagao, S.: Activation of macrophages with Hochu-ekki-to. Jpn. J. Cancer Chemother., 16, 1490-1493 (1989) [4] Hosokawa, Y.: Radioprotective effects of Chinese medicinal prescriptions in mice. J. Med. Pharm. Soc., 3, 164-169 (1986) [5] Matsui, K., Uechi, Y., Horiguchi, A., Yang G., Kitada, Y., Ono, Y., Ogata, Y., Wang, X., Li, N., Komatsu, Y., Shimizu, S., Yamaguchi, N.: Antibacterial effect of the kampo herbal medicine, Hochu-ekki-to on methicillin-resistant Staphylococcus aureus positive mice. Jpn. J. Orient. Med., 48, 357-367 (1997) [6] Abe, S., Tansho, S., Ishibashi, H., Akagawa, G., Komatsu, Y., Yamaguchi, H., Protection of immunosuppressed mice from lethal Candida infection by oral administration of a kampo medicine, Hochu-ekki-to. Immunopharm. Immunotoxicol., 21, 331-342 (1999) [7] Mori, K., Kido, T., Daikuhara, H., Sakakibara, I., Sakata, T., Shimizu, K., Amagaya, S., Sasaki, H., Komatsu, Y.: Effect of Hochu-ekki-to ( TJ-41 ), a Japanese herbal medicine, on the survival of mice infected with influenza wirus. Antiviral Research, 44, 103-111 (1999) 245 疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究 [8] Kido, T., Mori, K., Daikuhara, H., Tsuchiya, H., Ishige, A., Sasaki, H.: The protective effect of Hochu-ekki-to ( TJ-41 ), a Japanese herbal medicine, against HSV-1 infection in mitomycin C-treated mice. Anticancer Research, 20, 4109-4114 (2000) [9] Kuratsune, H., Yamaguti, K., Lindh, G., Evengard, B., Takahashi, M., Matsumura, K., Takaishi, J., Kawata, S., Langstrom, B., Kanakura, Y., Kitani, T., Watanabe, Y.: Low levels of serum acylcarnitine in chronic fatigue syndrome and chronic hepatitis type C, but not seen in other diseases. Int. J. Molecular Med., 2, 51-56 (1998) [10]Inoue, K., Yamazaki, H., Manabe, Y., Fukuda, C., Hanai, K., Fushiki, T.: Transforming growth factor-beta activated during exercise in brain depressed spontaneous motor activity of animals. Relevance to central fatigue. Brain Research, 846, 145-153 (1999) [11] Mizoguchi, K., Yuzurihara, M., Ishige, A., Sasaki, H., Chui, D-H., Tabira, T.: Chronic stress induces impairment of spatial working memory because of prefrontal dopaminergic dysfunction. J. Neuroscience, 20(4), 1568-1574 (2000) 成果の発表 1)原著論文による発表 なし 2)原著論文以外による発表(レビュー等) なし 3)口頭発表 なし 4)特許等出願等 1.特許取得 なし 2.実用新案登録 なし 3.その他 なし 246
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