高齢者におけるレーザー銃使用に伴う認知行動変容研究 社団法人日本ライフル射撃協会 研究助成事業報告書 平成19年3月 主任研究者 (慶應義塾大学 布 施 努 スポーツ医学研究センター) 目 次 緒 言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 目 的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 実 験 1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 実 験 2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 結 語 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 引 用 文 附 録 謝 辞 献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 緒 言 わが国は今、高齢化、長寿化の時代を迎えている。高齢期には、身体機能や体 力の低下とともに、生活機能の低下や閉じこもり、睡眠障害、あるいはうつ、認 知症などの様々な心理社会学的な問題が認められる。高齢者人口の増加は、介護 費用や医療費の増加などの社会問題につながっており、高齢者における心や身体 の 健 康 増 進 や 生 活 機 能 の 維 持 、 あ る い は 生 活 の 質 ( Quality of Life;QOL) の 向 上 への早急かつ効果的な対策と取り組みが重要かつ必要である。 医 療・福 祉・介 護 な ど の 領 域 を 中 心 に 、様 々 な 取 り 組 み が 進 め ら れ て い る 中 で 、 近年、有効な方策のひとつとして、運動やスポーツ、レクリエーションへの期待 が高まっているといえる。運動やスポーツ、あるいはレクリエーションには、薬 物の副作用もなく、さらには各自の体力や健康状態にあわせて行える種目が多数 存在するというメリットがある。高齢者でも安全に行えるトレーニング機器の開 発も進み、高齢者に対するマシーンを用いた筋力向上トレーニングなども、介護 予防事業の一環としての導入が進められている。 実際に、高齢者が運動やスポーツ、あるいはレクリエーションを実施すること によって、身体機能や体力を回復させることや、あるいは認知行動面やQOLを 改善し、自立した生活を送ることに有効な効果があるということは、数々の研究 成 果 と し て 報 告 さ れ て い る 。 例 え ば 、 佐 竹 ら ( 2004) の 研 究 で は 、 軽 度 要 介 護 高 齢者を対象に筋力増強トレーニングを中心とした運動プログラムを実施し、運動 介 入 前 後 に お い て 体 力 と 健 康 関 連 QOL に 有 意 な 改 善 を 認 め て い る 。 こ の 研 究 で は 、健 康 関 連 QOL を SF-36 指 標 を 用 い て 測 定 し 、8 項 目 の う ち「 身 体 機 能 」、 「日 常 役 割 機 能 ( 身 体 )」、「 身 体 の 痛 み 」、「 全 体 的 健 康 感 」、「 活 力 」、「 心 の 健 康 」 の 6 項 目 に お い て 改 善 が 認 め ら れ て い る 。 同 様 に 、 浅 井 ら ( 2001) の 研 究 で は 、 施 設 入 所 高 齢 者 を 対 象 に 運 動 を 行 い 、手 段 的 日 常 生 活 動 作( Instrumental Activity of Daily Living;IADL)、 抑 う つ 度 、 生 活 満 足 度 、 主 観 的 幸 福 感 、 お よ び 体 力 面 に ど のような影響を与えるかを調べている。その結果、抑うつ度の改善や筋力、平衡 性 、 敏 捷 性 と い っ た 体 力 面 の 向 上 が 認 め ら れ て い る 。 ま た 、 新 井 ら ( 2006) は 、 地域在宅の虚弱高齢者に対して「 、 包 括 的 高 齢 者 運 動 ト レ ー ニ ン グ 」の 介 入 を 行 い 、 健 康 関 連 QOL( SF-36 に よ り 測 定 )の「 心 の 健 康 」が 有 意 に 改 善 し た と も 述 べ て いる。このような筋力トレーニングなどの運動介入に伴う効果検証を行った研究 のほかにも、地域在住の高齢者が、スポーツ参加に伴って好ましい心理社会的効 1 果 を 得 る こ と も 明 ら か と な っ て い る 。松 尾( 2001)が 地 域 の ス ポ ー ツ 教 室 に 参 加 した高齢者を対象に行ったアンケート調査では、スポーツへの参加に伴って身体 面への自己効力感が増大し、友人ができるなどの社会的に好ましい影響が報告さ れ て い る 。須 貝 ら( 1996)の 研 究 で は 、高 齢 者 が 生 活 行 動 範 囲 が 広 く 行 え る こ と 、 つまり体力全般が高いことが健康度の高さにつながり、それが生活満足度を規定 する要因になっていることも示されている。 そしてまたレクリエーションは、デイサービスなどのリハビリテーション領域 に お い て 、 高 齢 者 の 生 き が い づ く り や QOL 向 上 の た め に 活 用 さ れ 、 そ の 効 果 が 認められている。レクリエーション活動自体に治療効果はないものの、活動を通 して身体的効果、知的効果、社会的効果、あるいは情緒的効果を意図的に活用す ることによって、参加者の状態を変化させることができると考えられる。近年で は 、「 も ぐ ら た た き 」 や 「 エ ア ホ ッ ケ ー 」 な ど の エ レ メ カ ( エ レ メ カ と は 、「 エ レ クトロニクス」と「メカトロニクス」から生み出された造語)とよばれる遊戯装 置が、リハビリテーションの一環として導入され、その効果の検討も進められて い る 。 久 保 ら ( 2003) は 、 介 護 老 人 保 健 施 設 に 入 所 ・ 通 所 し て い る 高 齢 者 を 対 象 に、もぐら叩き機を使用したゲームを 4 週間行い、自覚的運動強度、血圧、心拍 数の経時的変化を検討した。その結果、どの項目にも有意差は認められなかった が、継続的にゲームを行うことによって自覚的運動強度が低下し、対象者やその 家 族 か ら 、日 常 生 活 に お け る 動 作 量 が 向 上 し て い る と の 発 言 が 得 ら れ た 。同 様 に 、 高 杉 ら( 2004)も デ イ サ ー ビ ス に 通 所 し て い る 高 齢 者 を 対 象 に 、も ぐ ら 叩 き を 使 用した介入研究を行い、体力指標の改善効果を報告している。これらの研究は、 ゲーム機器が楽しみながら行える運動としての有効性を支持したものといえるだ ろう。そして、個人の興味は多様であり、レクリエーションの導入に関しては、 個人のニーズに応じたものを提供することによって、長期的な継続につながるこ と も 報 告 さ れ て い る ( 高 杉 ら , 2004)。 このように、運動やスポーツ、あるいはレクリエーションプログラムの恩恵が 認められているにも関わらず、高齢者における運動やスポーツ、レクリエーショ ンへの参加の割合はいまだ低く、この恩恵を十分に享受するにはいたっていない といえよう。高齢者を運動やスポーツ、さらにはレクリエーションへの参加へと 導 き 、継 続 を 促 す た め に は 、動 機 付 け の 問 題 も 考 慮 し な け れ ば な ら な い 。例 え ば 、 体力のなさや健康問題を抱えていることなど高齢者の身体的特性を考慮すれば、 2 できるだけ気軽に取り組める種目への参加を促すことから始めて、自らの健康度 に自信を高めていけるような行動の変容を意識した取り組みも必要であると思わ れる。 さて近年、射撃の持つユニークな特性を活かした新たなスポーツとして、赤外 線 レ ー ザ ー 銃 を 使 用 す る 「 デ ジ タ ル ス ポ ー ツ シ ュ ー テ ィ ン グ ( Degital Sports Shooting; DSS)」 が 開 発 さ れ た 。 射 撃 競 技 は 、 1896 年 開 催 の 第 1 回 ア テ ネ オ リ ンピック大会より実施されている種目であり、世界で多くの人々が親しんでいる スポーツのひとつといえる。しかしわが国においては、銃砲を使用する射撃は、 銃刀法の規制や射撃の練習場所が限定されるなどの制約によって、一部のごく限 られた人々のスポーツであり、一般的にはなじみが薄いのが現状である(日本ラ イ フ ル 射 撃 協 会 , 2007)。射 撃 は 、環 境 に 左 右 さ れ ず に 固 定 さ れ た 標 的 を 射 抜 く ク ローズドスキルであり、運動による影響が少ないというユニークな特性があり、 さらに、射撃を実施するにあたっては、体力に起因する部分が少ないことや、性 や年齢によるパフォーマンスの差がほかの競技ほど見られないことから、子ども から高齢者まで楽しめるスポーツとしての可能性を持っている。したがって、今 回 、安 全 性 を 考 慮 し 開 発 さ れ た DSS の 登 場 に よ っ て 、誰 で も 、ど こ で も 、そ し て 障害を有する人においても、射撃をスポーツとして気軽に楽しむことができるよ う に な っ た と 考 え ら れ る 。し か し 実 際 に は 、高 齢 者 が DSS を 行 う 機 会 は ま だ 少 な く 、 そ し て ま た 、 DSS 実 施 に 伴 う 効 果 に つ い て 検 討 さ れ た 研 究 は 皆 無 で あ る 。 目 的 以 上 の 背 景 を 踏 ま え て 、本 研 究 で は 、高 齢 者 が レ ー ザ ー 銃 を 用 い た DSS を 行 う こ と に よ り 、 高 齢 者 の 認 知 行 動 面 お よ び QOL に ど の よ う な 変 容 が 認 め ら れ る か について検討することを目的とした。 3 実験1 1.対象 今回の調査においては有意標本抽出法を用いた。東京都内の六つの高齢者施設 に 通 所 、 在 住 し て い る 65 歳 以 上 の 高 齢 者 を 対 象 に 、 研 究 の 趣 旨 を 説 明 ( 書 面 お よ び 口 頭 )、参 加 を 呼 び か け た 結 果 、DSS を 行 う 際 に 支 障 を き た さ な い 65 歳 以 上 の 高 齢 者 40 名 か ら 参 加 の 同 意 が 得 ら れ た 。 な お 、 実 験 の 途 中 に て 、 何 ら か の 不 都合があった場合は、参加者は実験の参加を拒否できるものとし、対象者の権利 を尊重した上で研究を行った。 同 意 の 得 ら れ た 40 名 を 、実 験 群( 21 名 )と コ ン ト ロ ー ル 群( 19 名 )の 2 群 に 分 け た 。実 験 群 は 男 性 5 名 、女 性 16 名 で あ り 、平 均 年 齢 は 81.8±5.6 歳 で あ っ た 。 コ ン ト ロ ー ル 群 は 男 性 7 名 、女 性 12 名 で あ り 、平 均 年 齢 は 78.9±6.4 歳 で あ っ た 。 表1には、各群別の対象者の要介護度の分布を示した。 表1 対象者の要介護度分布 実 験 群 ( 21 名 ) コ ン ト ロ ー ル 群 ( 19 名 ) 介護度 4 1 1 介護度 3 3 3 介護度 2 5 0 介護度 1 9 9 要支援 2 2 3 要支援 1 1 2 自立 0 1 2.実験方法 実 験 群 は 、DSS を 使 用 し た ゲ ー ム を 週 に 2 回( 1 回 あ た り 10 分 か ら 15 分 )、4 週 間 実 施 し た 。対 象 者 に は ゲ ー ム 1 回 に つ き 10 発 打 っ て も ら い 、ゲ ー ム は 1 日 3 回行った。なお、得点は即時フィードバックした。デジタルターゲットまでの距 離 は 、 3.3m、 5m、 10m と 設 定 可 能 で あ る が 、 今 回 は 3.3m を 基 本 と し 、 対 象 者 の能力に合わせて距離を延長した。なお、対象者の安全面に考慮し、ゲームは座 位にて実施した。一方、コントロール群に関しては、実験介入期間中は普段通り の生活を送ってもらうこととした。 4 3 . 使 用 機 材 ( DSS) の 説 明 DSS は「 デ ジ タ ル 銃 器 」、「 デ ジ タ ル タ ー ゲ ッ ト 」、「 パ ソ コ ン 」の 三 つ の 部 分 か ら 成 り 立 っ て い る ( 図 1)。 図1 デジタル・スポーツ・シューティング 「 デ ジ タ ル 銃 器 」部 分 は 、重 量 が 約 1kg で 、銃 口 か ら 赤 外 線 レ ー ザ ー を 発 射 す る よ う に な っ て い る 。「 デ ジ タ ル タ ー ゲ ッ ト 」 は 幅 230mm×高 さ 362mm×奥 行 250mm、 約 10k g と コ ン パ ク ト で 、 設 置 す る 場 所 を 選 ば な い 。 赤 外 線 レ ー ザ ー を 受 光 し 、 LAN で 接 続 さ れ た パ ソ コ ン に デ ー タ を 配 信 す る 。 最 後 に 「 パ ソ コ ン 」 部分では、 「 デ ジ タ ル タ ー ゲ ッ ト 」か ら 配 信 さ れ た デ ー タ を も と に 、得 点・着 弾 点 を 表 示 す る ( 図 2)。 図2 DSS ゲ ー ム 結 果 の パ ソ コ ン 表 示 画 面 照準点がリアルタイムにパソコン上に表示され、照準点が的に近づくと、音が な り 、ま た 照 準 が 中 心 に 近 づ く と 音 域 が 高 く な る( 日 本 ラ イ フ ル 射 撃 協 会 , 2007)。 5 6 4.効果測定の方法 DSS 介 入 期 間 の 前 後 に 健 康 関 連 QOL、 認 知 機 能 、 な ら び に 抑 う つ 状 態 を そ れ ぞれ質問紙を用いて測定した。さらに、各群の 5 名の対象者については、介入期 間の前後に主観的健康感、生活満足度に関する半構造化面接を実施した。この半 構造化面接に際しては、対象者は研究内容を書いた書面を事前に渡され、内容に ついて研究者より説明を受けた。その書面には、参加することは自由であり、イ ンタビューの途中で話したくないことは話さなくともかまわないこと、さらにい か な る 時 、い か な る 理 由 で も 途 中 で の 打 ち 切 り が 自 由 で あ る 旨 が 明 記 さ れ て い た 。 また、インタビューのビデオ撮影および研究目的でインタビュー内容を使用する 旨も説明された。同意した参加者からはその書面にサインをしてもらった。各イ ン タ ビ ュ ー は 30 分 か ら 45 分 間 行 わ れ た 。イ ン タ ビ ュ ー に お い て は 、本 人 に 確 認 のうえ、ビデオカメラを設置、録画を行い、その後逐語録を作成した。 半 構 造 化 面 接 を 行 っ た 各 群 5 名 に つ い て は 、施 設 職 員 に よ る 日 常 生 活 行 動 観 察 も 行 わ れ た 。行 動 観 察 は 、DSS 介 入 前 、介 入 期 間 中 、期 間 終 了 後 の 3 回( 1 回 に つき 3 日間測定)実施した。 5.測定指標 本 研 究 で 用 い た 質 問 紙 、半 構 造 化 面 接 の 内 容 お よ び 日 常 生 活 行 動 観 察 の 内 容 は 、 以下の通りである。 ( 1 ) 健 康 関 連 QOL 健 康 関 連 QOL の 尺 度 と し て 、 MOS Short-Form 36-Item Health Survey Ve rsion2.0( 以 下 SF-36v2 と 略 ) を 用 い た ( 福 原 ・ 鈴 鴨 , 2004)。 SF-36v2 は 、 36 項 目 か ら な る 質 問 紙 で あ り 、8 つ の 下 位 尺 度 に 分 か れ て い る( 表 2)。各 下 位 尺 度 ご と に 、 0 か ら 100 点 に 得 点 化 さ れ 、 点 数 が 高 い 方 が QOL が よ り 良 い こ と を 意味している。 表2 SF-36v2 の 8 つ の 下 位 尺 度 身 体 機 能 ( Physical Func tioning; P F) 活 力 ( Vital it y; VT) 日 常 役 割 機 能 ( 身 体 )( Role Physical; RP ) 社 会 生 活 機 能 ( Social Functioning; SF ) 身 体 の 痛 み ( Bodily Pain; BP) 日 常 役 割 機 能( 精 神 ) ( Role Emotion; RE) 全 体 的 健 康 感 ( General Health; GH) 心 の 健 康 ( Mental Health; MH) 7 (2)認知機能 認 知 機 能 に 関 し て は 、 Mini‐ Mental State Examination( 以 下 MMSE と 略 ) を 用 い た 。 MMSE は 、 Folstein ら ( 1975) に よ り 開 発 さ れ た 認 知 機 能 を 簡 便 に 調 査 す る 方 法 で あ る 。MMSE は 、言 語 性 テ ス ト 5 問 と 動 作 性 テ ス ト 6 問 か ら な る 、 計 11 問 で 構 成 さ れ て い る 。合 計 得 点 30 点 の う ち 、ど れ だ け の 得 点 が 得 ら れ た か に よ っ て 、 認 知 機 能 を 評 価 す る 尺 度 で あ る ( 小 澤 , 1999)。 (3)抑うつ度 高齢者における抑うつ度を測定する尺度としては、高齢者うつ評価尺度 ( Geriatric Depression Screening Scale; GDS)の 短 縮 版 を 用 い た 。こ の 尺 度 は 、 高齢者に焦点を当てたうつ病スクリーニングの尺度として開発された。短縮版は GDS の 30 項 目 の 中 か ら う つ 症 状 と 相 関 が 高 か っ た 15 項 目 を 選 び 作 成 し た も の で あ る 。15 項 目 の 質 問 に 対 し て 、 「はい」 「 い い え 」の 2 択 で 回 答 す る 方 式 で あ る 。 合 計 得 点 の 高 い ほ う が う つ 傾 向 が 高 い こ と を 示 す ( 笠 原 ら , 1995; 矢 冨 , 1994)。 (4)半構造化面接 高 齢 者 の 認 知 行 動 面 が DSS に 伴 い ど の よ う に 変 化 し た の か を 調 べ る た め に 、半 構 造 化 面 接 を 実 施 し た 。表 3 に 示 す 質 問 項 目 に 沿 っ て 面 接 を 行 う こ と に よ り 質 問 事項の偏りをなくすと同時に、状況に応じてより深くさまざまな情報を聞き出す ために、この半構造化面接方法を選択した。また面接は、訓練を受けた面接者が 実施した。 表3 半構造化面接の質問項目 ① 睡 眠 は 十 分 に と れ て い ま す か 。( 基 本 的 生 活 習 慣 ・ 睡 眠 ) ② ご 飯 を 美 味 し く 食 べ ら れ て い ま す か 。( 基 本 的 生 活 習 慣 ・ 食 事 ) ③ あ な た の 今 現 在 の 健 康 状 態 は い か が で す か 。( 健 康 度 ) ④ あ な た は 、 現 在 の 生 活 に 満 足 し て い ま す か 。( 生 活 満 足 度 ) ⑤ い つ も 明 る い 気 持 ち で 過 ご し た り し て い ま す か 。( 気 分 ) ⑥ 物 忘 れ な ど し て い ま せ ん か 。( 認 知 ) ⑦ 施 設 の 職 員 の 方 と 挨 拶 を 交 わ し た り 、会 話 を し て い ま す か 。 (コミュニケーション) ⑧ 施設居住者と挨拶を交わしたり、会話をしたり、友人付き合いをしていますか。 (人間関係) ⑨ 施 設 の 行 事 に 関 心 を 持 っ て 、 積 極 的 に 参 加 し て い ま す か 。( 社 会 へ の 関 心 ) ⑩ 買 い 物 に 出 か け た り 、 人 を 訪 ね た り と 外 出 し て い ま す か 。( 活 動 性 ) 8 (5)日常生活行動観察 半構造化面接で用いた質問項目と同じ内容について、施設職員に対象となる高 齢者の日常生活行動について観察してもたった。半構造化面接では、主観的健康 観と生活満足度を評価するのに対して、この観察では、日頃から対象の高齢者に 接 し て い る 施 設 職 員 か ら の 客 観 的 な 評 価 を 目 的 と し た 。 質 問 項 目 の 10 項 目 に 対 して、5 段階での評価を求めた。 6.データ分析 DSS 介 入 に よ っ て 、 SF-36v2、 MMSE、 お よ び GDS の 得 点 が 、 実 験 群 と コ ン ト ロ ー ル 群 に 差 異 が あ る か を 調 べ る た め に 、二 要 因 の 分 散 分 析 を 行 っ た 。さ ら に 、 実験群については、実験の前後で対応のある t 検定を行った。 半 構 造 化 面 接 で 得 ら れ た 質 的 な デ ー タ は 、 Berg( 1995)、 Pat ten( 1990) が 提 唱する質的分析法に基づき集められ分析された。この方法は、いろいろなスポー ツ 場 面 に お け る 研 究 で も 採 用 さ れ 、 成 功 し て い る (Gould, Eklund,& Jackson, 1993; Gould, Finch, & Jackson, 1993; Gould, Jackson, & Finch 1992)。 データ分析の手順は、表 4 に示すとおりである。 表4 半構造化面接のデータ分析の手順 ① すべての録画されたインタビューの逐語録を作成。 ② 研究者 3 名により分析グループを形成し、精通するまでインタビューに関する すべての逐語録を読み込む。 ③ インタビューの主要なセンテンスをキーワード、もしくは簡潔な文章でコード 化した。 ④ ③で抽出したコードのうち、不必要なものを削除し、グループ化を行った。 ⑤ グループ化した中のコードを検討し、一般化したテーマをグループに与えた。 9 7.結果 40 名 の う ち 、 統 計 解 析 に 用 い る こ と が で き た 対 象 者 数 は 、 実 験 群 が 11 名 ( 男 性 3 名 、 女 性 8 名 ; 平 均 年 齢 81.6±6.0 歳 ) で あ っ た 。 分 析 除 外 者 は 、 ア ン ケ ー ト に 欠 測 値 の あ っ た 4 名 、実 験 出 席 率 が 60% 以 下 の 5 名 、認 知 面 で 問 題 の あ る も の 1 名 の 10 名 と な っ た 。 な お 、 実 験 へ の 参 加 率 60% 以 下 の 対 象 者 の 脱 落 理 由 で あ る が 、「 介 入 期 間 中 に 入 院 、体 調 不 良 に な っ た( 2 名 )」、「 何 回 か DSS を 行 っ た が 興 味 が 持 て ず に 参 加 し な く な っ た ( 2 名 )」、 そ し て 「 手 が 不 自 由 で レ ー ザ ー 銃 を 握 る こ と が で き な い ( 1 名 )」 で あ っ た 。 一 方 、 コ ン ト ロ ー ル 群 は 17 名 ( 男 性 6 名 、 女 性 11 名 ; 平 均 年 齢 78.0 歳 ±6.1 歳 ) で あ っ た 。 コ ン ト ロ ー ル 群 に お い て は 、 対 象 者 19 名 の う ち 2 名 の ア ン ケ ー トに欠測値が認められたため、分析対象から除外した。表 5 には、有効対象者の 要介護度分布を示す。 表5 有効対象者の要介護度分布 実 験 群 ( 11 名 ) コ ン ト ロ ー ル 群 ( 17 名 ) 介護度 4 1 1 介護度 3 2 2 介護度 2 2 0 介護度 1 5 9 要支援 2 1 2 要支援 1 0 2 自立 0 1 10 (1) 分散分析の結果 DSS 介 入 前 後 に お け る SF-36v2、 MMSE、 お よ び GDS の 測 定 値 に つ い て 、 実 験群とコントロール群の差異を検討するために、二要因の分散分析を行った。そ の 結 果 、 GDS の み に 交 互 作 用 が 有 意 で あ っ た ( p<.05)( 表 6)。 表6 分散分析の結果 実験群 介入前 SF-36v2 PF 58.18±29.94 RP 77.85±33.81 BP 76.55±32.44 GH 66.45±24.72 VT 69.90±28.75 SF 85.23±22.23 RE 91.67±18.25 MH 75.45±18.37 MMSE 20.36± 6.02 GDS 4.73± 3.10 コントロール群 介入前 介入後 介入後 68.18±29.01 83.54±22.58 77.36±25.28 67.64±22.69 68.78±25.92 86.36±19.73 89.39±22.39 76.36±24.09 22.18± 6.15 6.18± 3.63 49.12±24.12 78.68±19.27 72.59±27.75 56.41±18.17 58.85±17.40 88.97±17.05 88.23±17.45 73.53±14.55 26.24± 3.83 6.06± 3.82 48.53±26.21 76.48±28.85 72.88±25.08 58.65±18.40 57.74±14.42 88.24±18.47 82.84±23.29 70.00±15.71 24.94± 5.18 5.12± 2.93 F値 1.846 0.440 0.003 0.024 0.000 0.034 0.071 0.460 3.370 5.368 P値 0.186 0.513 0.955 0.878 0.999 0.856 0.792 0.503 0.078 0.029 ** 平均値±標準偏差 **:p<0.05(交互作用) 次に、各尺度別の項目別の結果を詳細に示す。 1 ) SF-36v2 ① 身 体 機 能 ( PF) ■ ■ ● 実験群 コントロール群 ■ ● ● 介入前 図3 介入後 身体機能の結果 群 と 時 間 の 交 互 作 用 [ F(1,26)=1.85,n.s.]、 時 間 の 主 効 [F(1,26)=1.46,n.s.]、 群 の 主 効 果 [F(1,26)=2.21,n.s.]の い ず れ に も 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た ( 図 3)。 11 ② 日 常 役 割 機 能 ( 身 体 )( RP) ■ ■ ● 実験群 コントロール群 ● ■ ● 介入前 図4 介入後 日常役割機能(身体)の結果 群 と 時 間 の 交 互 作 用 [F(1,26)=0.44,n.s.]、時 間 の 主 効 果 [F(1,26)=0.09,n.s.]、群 の 主 効 果 [F(1,26)=0.71,n.s.]は 、 い ず れ も 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た ( 図 4)。 ③ 身 体 の 痛 み ( BP) ■ ● 実験群 コントロール群 ■ ■ ● ● 介入後 介入前 図5 身体の痛みの結果 群 と 時 間 の 交 互 作 用 [F(1,26)=0.00,n.s.]、時 間 の 主 効 果 [F(1,26)=0.01,n.s.]、群 の 主 効 果 [F(1,26)=0.19,n.s.]は 、 い ず れ も 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た ( 図 5)。 12 ④ 全 体 的 健 康 感 ( GH) ■ ■ ● 実験群 コントロール群 ■ ● ● 介入後 介入前 図6 全体的健康感の結果 群 と 時 間 の 交 互 作 用 [F(1,26)=0.02,n.s.]、時 間 の 主 効 果 [F(1,26)=0.25,n.s.]、群 の 主 効 果 [F(1,26)=1.75,n.s.]の い ず れ も 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た ( 図 6)。 ⑤ 活 力 ( VT) ■ ■ ● ■ 実験群 コントロール群 ● ● 介入前 図7 介入後 活力の結果 群 と 時 間 の 交 互 作 用 [F(1,26)=0.00,n.s.]、 時 間 の 主 効 果 [F(1,26)=0.10,n.s.]、 群 の 主 効 果 [F(1,26)=2.26,n.s.]、 い ず れ も 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た ( 図 7 )。 13 ⑥ 社 会 生 活 機 能 ( SF) ● ■ ● 実験群 コントロール群 ● ■ ■ 介入前 図8 介入後 社会生活機能の結果 群 と 時 間 の 交 互 作 用 [F(1,26)=0.03,n.s.]、時 間 の 主 効 果 [F(1,26)=0.00,n.s.]、群 の 主 効 果 [F(1,26)=0.28,n.s.]、 い ず れ も 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た ( 図 8)。 ⑦ 日 常 役 割 機 能 ( 精 神 )( RE) ■ ● ■ 実験群 コントロール群 ■ ● ● 介入後 介入前 図9 日常役割機能(精神)の結果 群 と 時 間 の 交 互 作 用 [F(1,26)=0.07,n.s.]、時 間 の 主 効 果 [F(1,26)=0.43,n.s.]、群 の 主 効 果 [F(1,26)=0.86,n.s.]、 い ず れ も 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た ( 図 9)。 14 ⑧ 心 の 健 康 ( MH) ■ ■ ● 実験群 コントロール群 ■ ● ● 介入前 図 10 介入後 心の健康の結果 群 と 時 間 の 交 互 作 用 [F(1,26)=0.46,n.s.]、時 間 の 主 効 果 [F(1,26)=0.16,n.s.]、群 の 主 効 果 [F(1,26)=0.47,n.s.]、 い ず れ も 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た ( 図 10)。 2 ) MMSE ■ ● 実験群 コントロール群 ● ● ■ ■ 介入前 図11 介入後 MMSE の 結 果 群 と 時 間 の 交 互 作 用 は 見 ら れ な か っ た [F(1,26)=3.37,n.s.]。 時 間 の 主 効 果 も 見 ら れ な か っ た [F(1,26)=0.10,n.s.]、 し か し 群 の 主 効 果 [F(1,26)=5.06,p<.05]が 5% 水 準 で 有 意 で あ っ た ( 図 11)。 15 3 ) GDS ■ ■ ● ● 実験群 コントロール群 ● ■ 介入前 介入後 図12 GDS の 結 果 GDS に 関 し て は 、 群 と 時 間 の 交 互 作 用 が 5% 水 準 で 有 意 で あ っ た [F(1,26)=5.37,p<.05]。 主 効 果 に つ い て は 、 時 間 [F(1,26)=0.25,n.s.]、 群 [F(1,26)=0.01,n.s.]共 に 有 意 な 差 は 認 め ら れ な か っ た ( 図 12)。 (2)t検定の結果 実験群における、介入期間前後の t 検定の結果は、全項目に有意差が認められ な か っ た ( 表 7)。 表7 実験群における介入前後の変化 対応サンプルの検定 対応サンプルの差 ペア 1 ペア 2 ペア 3 ペア 4 ペア 5 ペア 6 ペア 7 ペア 8 ペア 9 ペア 10 PF1 - PF2 RP1 - RP2 BP1 - BP2 GH1 - GH2 VT1 - VT2 SF1 - SF2 RE1 - RE2 MH1 - MH2 MMSE1 - MMSE GDS1 - GDS 平均値 -10.000 -5.682 -.818 -1.182 1.118 -1.136 2.282 -.909 -1.818 -1.455 標準偏差 16.432 23.286 26.320 17.244 15.772 32.813 29.128 20.593 4.285 3.205 平均値の 標準誤差 4.954 7.021 7.936 5.199 4.755 9.894 8.782 6.209 1.292 .966 16 差の 95% 信頼区間 下限 上限 -21.039 1.039 -21.326 9.962 -18.500 16.864 -12.767 10.403 -9.477 11.714 -23.181 20.908 -17.287 21.850 -14.744 12.926 -4.697 1.061 -3.608 .699 t値 -2.018 -.809 -.103 -.227 .235 -.115 .260 -.146 -1.407 -1.505 自由度 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 有意確率 (両側) .071 .437 .920 .825 .819 .911 .800 .887 .190 .163 (3) 半構造化面接の結果 半構造化面接で得られた発言は、表 8 に示すとおりである。全体的に実験群で は 、介 入 後 に 発 言 が 多 く な る 傾 向 が 見 ら れ た 。個 々 に よ っ て 発 言 内 容 は 異 な る が 、 全体的な傾向として実験群では介入後にネガティブな発言が見られ、コントロー ル群では特に目立った変化は見られなかった。 表8 半構造化面接の発言 ① 睡眠は十分にとれていますか。(基本的生活習慣・睡眠) 実験群 Sさん Hさん 介入前 はい はい 介入後 はい はい コントロール群 Uさん Nさん 介入前 まあまあ はい 介入後 まあまあ はい Wさん だいたい だいだい Tさん まあまあ はい Kさん はい はい Gさん 眠れない 薬を飲んで安定 ② ご飯は美味しく食べられていますか。(基本的生活習慣・食事) 実験群 Sさん Hさん 介入前 はい はい 介入後 はい はい コントロール群 Uさん Nさん 介入前 はい はい 介入後 はい はい Wさん 普通 普通 Tさん はい はい Kさん はい はい Gさん はい はい ③ あなたの今現在の健康状態はいかがですか。(健康度) 実験群 Sさん Hさん 介入前 良い はい 介入後 あまり良くなし 普通 コントロール群 Uさん Nさん 介入前 まあまあ わるい 介入後 まあまあ 前より良い Wさん まあまあ まあまあ Tさん まあまあ まあまあ Kさん 年相応でまあまあ いいえ Gさん まあまあ 腰・膝が痛い ④ あなたは、現在の生活に満足していますか。(生活満足度) 実験群 Sさん Hさん 介入前 いいえ はい 介入後 いいえ いいえ コントロール群 Uさん Nさん 介入前 はい はい 介入後 寂しいこともある はい Wさん いいえ いいえ Tさん はい はい Kさん まあまあ まあまあ Gさん まあまあ はい ⑤ いつも明るい気持ちで過ごしたりしていますか。(気分) 実験群 Sさん Hさん 介入前 努めて明るくしている まあまあ 介入後 だいたい努めて明るくしている努めて明るくしている コントロール群 Uさん Nさん 介入前 はい はい 介入後 努めて明るくしている 努めて明るくしている Wさん それほどでもない 努めて明るくしている Tさん はい はい Kさん まあまあ いいえ Gさん 努めて明るくしている はい ⑥ 物忘れなどしていませんか。(認知) 実験群 Sさん 介入前 はい 介入後 はい コントロール群 Uさん 介入前 はい 介入後 はい Wさん はい はい Tさん はい はい Kさん はい はい Gさん はい はい Hさん はい はい Nさん はい はい ⑦ 施設の職員の方と挨拶を交わしたり、会話をしていますか。(コミュニケーション) 実験群 Sさん Hさん Wさん 介入前 交わすように努力している はい 相手次第 介入後 消極的に対応 消極的に対応 苦手 コントロール群 Uさん Nさん Tさん 介入前 はい 消極的に対応 はい 介入後 はい 積極的に対応 はい Kさん はい はい Gさん はい はい ⑧ 施設居住者と挨拶を交わしたり、会話をしたり、友人付き合いをしていますか。(人間関係) 実験群 Sさん Hさん Wさん 介入前 なし はい あまりなし 介入後 消極的に対応 あり あまりなし コントロール群 Uさん Nさん Tさん 介入前 はい まあまあ対応 はい 介入後 はい 対応している はい Kさん はい はい Gさん はい はい ⑨ 施設の行事に関心を持って、積極的に参加していますか。(社会への関心) 実験群 Sさん Hさん 介入前 消極的に参加 はい 介入後 だいたいは参加 だいたいは参加 コントロール群 Uさん Nさん 介入前 はい はい 介入後 はい はい Kさん はい はい Gさん まだ機会がない 選択して参加 Wさん したいがやらない 心がけているがやらない Tさん はい 努めて参加している ⑩ 買い物に出かけたり、人を訪ねたりと外出していますか。(活動性) 実験群 Sさん Hさん Wさん Kさん 介入前 低い いいえ 動きたいけれど制限されている介助があれば活動する 介入後 低い 動きたいけれど制限されている動きたいけれど目的がない 介助があれば活動する コントロール群 Uさん Nさん Tさん Gさん はい 介入前 介助があれば活動する 動きたいが障害により動けない動きたくない 介入後 介助があれば活動する 動きたいが障害により動けない動きたいが制限があるので動 はい 17 (4)日常生活行動観察データの分析結果 日 常 生 活 行 動 観 察 デ ー タ に 関 し て は 、項 目 ご と に 算 出 さ れ た 3 日 間 の 平 均 点 を グ ラ フ に 表 し た 。各 群 5 名 の う ち 有 効 デ ー タ に 含 ま れ る 対 象 者 は 両 群 と も 4 名 で あ っ た 。以 下 の 図 を 参 考 に す る と 、DSS 介 入 前 後 で は 日 常 生 活 行 動 に は 目 立 っ た 変 化 は 認 め ら れ な か っ た ( 図 13)。 睡眠 健康度 食事 5 5 5 4 4 4 3 3 3 2 2 2 1 1 1 0 0 0 1 2 満足度 1 3 2 気分 3 5 5 5 4 4 4 3 3 3 2 2 2 1 1 1 1 2 コミュニケーション 1 3 2 人間関係 3 5 5 5 4 4 4 3 3 3 2 2 2 1 1 1 1 2 活動性 1 3 3 1 2 社会性 3 1 2 3 0 0 0 2 認知 0 0 0 1 2 3 5 4 実験群 コントロール群 3 2 1 0 1 2 3 図13 日常生活行動観察の時系列変化 (5) 個別データの検討結果 SF-36v2、 MMSE な ら び に GDS の 介 入 前 後 に お け る 測 定 値 を 、 個 別 に グ ラ フ に 示 し た ( 図 14)。 実 験 群 11 名 の 中 で 、 2 名 ( Y さ ん と O さ ん ) の SF-36v2 測 定 値 が 上 昇 傾 向 に あ っ た 。ま た I さ ん は 、身 体 の 痛 み( BP)と 社 会 生 活 機 能( SF) 以外で上昇傾向が認められた。なお、この 3 名のデータは四角で囲い示した。 18 KさんMMSE KさんSF36 KさんGDS 120 30 15 100 25 12 80 20 60 15 40 10 20 5 0 9 6 3 0 1 MさんSF36 2 120 30 100 25 80 20 60 15 40 10 20 5 0 1 AさんSF36 2 1 30 100 25 80 20 60 15 40 10 20 5 0 2 1 SさんSF36 2 1 AさんMMSE 0 2 15 3 0 SさんMMSE 1 2 25 12 80 20 60 15 40 10 20 5 SさんGDS 2 9 6 3 0 0 1 FさんSF36 2 1 2 FさんGDS FさんMMSE 120 30 15 100 25 12 80 20 60 15 40 10 20 5 9 6 3 0 0 2 2 6 100 0 AさんGDS 9 15 1 1 12 1 2 2 3 30 1 MさんGDS 6 120 0 1 9 0 0 15 12 0 120 MさんMMSE 1 2 19 1 2 PF RP BP GH VT SF RE MH WさんSF36 WさんGDS WさんMMSE 120 30 15 100 25 12 80 20 60 15 40 10 20 5 0 0 1 KさんSF36 2 9 6 3 0 1 KさんMMSE 2 120 30 15 100 25 12 80 20 60 15 40 10 20 5 1 KさんGDS 2 1 HさんGDS 2 9 6 3 0 0 0 1 HさんSF36 1 2 HさんMMSE 2 120 30 15 100 25 12 80 20 60 15 40 10 20 5 9 6 0 1 2 3 0 0 1 OさんSF36 1 2 OさんMMSE OさんGDS 120 30 15 100 25 12 80 20 60 15 40 10 20 5 0 9 6 3 0 0 1 IさんSF36 2 1 IさんMMSE 1 2 120 30 15 100 25 12 80 20 60 15 40 10 20 5 0 YさんSF36 2 3 0 1 YさんMMSE 1 2 30 15 100 25 12 80 20 60 15 40 10 20 5 2 2 6 3 0 1 図14 YさんGDS 9 0 1 2 6 120 0 IさんGDS 9 0 1 2 2 個別データの時系列変化 20 1 2 8.考察 今回の実験では、統計的には有意差は見られない項目が多かった。交互作用に 唯 一 有 意 差 が あ っ た GDS に つ い て は 、 介 入 前 よ り 介 入 後 の 数 値 が 高 い 結 果 と な っ た 。こ の GDS の 測 定 値 を 見 て み る と 、11 名 中 3 名 の 増 加 量 が 目 立 っ て 多 い( 表 9)。 こ の 3 名 は 、 実 験 群 の 半 構 造 化 面 接 の 対 象 者 と な っ て い る の で 、 個 別 に 半 構 造化面接の発言や状態を分析することにした。 表9 実 験 群 に お け る GDS の 変 化 量 GDS変化量 (1)事例 1 Kさん -3 Mさん 0 Aさん 1 Sさん 0 Fさん 0 Wさん 7* Kさん 5* Hさん 6* Iさん 1 Oさん 1 Yさん -2 K さ ん ( 85 歳 、 女 性 ) 介入後インタビュー当日は、風邪と腰痛で体調がすぐれないようであった。介 入前のインタビューは座位で行ったが、介入後のインタビューでは「腰が痛くて 座っていられない」状態であったため、インタビューは本人の了解を得て、自室 の ベ ッ ド に て 、側 臥 位 で 行 っ た 。ま た 身 体 的 な 理 由 で 、 「 死 に た い 」と の 発 言 も 見 られた。 (2)事例 2 H さ ん ( 78 歳 、 女 性 ) H さ ん も K さ ん と 同 様 に 介 入 後 ア ン ケ ー ト 時 に 風 邪 を ひ い て い た 。ま た 、同 じ施設に入所している配偶者の入院が長引き、1 ヶ月も帰宅していないため、 不安な心理状態であったと考えられる。 半構造化面接では生活満足度についての質問に対し、介入前には認められな かった不満の発言が見られるようになった。 「 生 活 に 満 足 な ん て な い で す よ 。」 「 外 に 出 た い で す の で 。 お 買 い 物 で も い い し 、 お 散 歩 で も い い し 。」 21 この点については、入所施設において、生活リズムが 4 週間のうちに変化 し た と は 考 え に く く 、4 週 間 の DSS 介 入 期 間 を 経 て イ ン タ ビ ュ ア ー と の 信 頼 関 係 がより強化された結果、不満を表出できるようになったと考えることが妥当で ある。そのことは次の会話からも推測できる。インタビュアーの「いつも明る い 気 持 ち で 過 ご し て い ま す か ? 」と の 質 問 に 対 し て 介 入 前 イ ン タ ビ ュ ー で は「 は い 。 だ い た い 過 ご し て い ま す 。」 と 答 え た の に 対 し て 、 介 入 後 は 「 そ う で す ね 。 考 え て も し ょ う が な い し ね 。」 と 変 化 し て き て い る 。 Goetz and LeCompte (1984)も 指 摘 す る よ う に 、 同 じ 質 問 で も 社 会 的 状 況 に よ り 違 う 反 応 が 返 っ て く ることがある。今回で言えば、被験者の施設に対する遠慮とインタビュアーと の関係が発言に変化をもたらしたと考えられる。 (3)事例 3 W さん ( 78 歳 、 男 性 ) 高齢者施設の施設長から、他の入居者との関わりが少なく、レクリエーション プ ロ グ ラ ム に も 参 加 頻 度 が 低 い た め 、 DSS へ の 参 加 を 促 さ れ た ケ ー ス で あ っ た 。 W さ ん は 狩 猟 経 験 が あ り 、本 実 験 に は 休 み な く 参 加 し た 。介 入 後 の イ ン タ ビ ュ ー においても射撃について自ら積極的に話しをしていた。 「 こ ん な は ず じ ゃ な か っ た 。私 は も っ と ま し だ と 思 っ て い た( DSS の 結 果 を 受 け て )。あ ん ま り 経 験 が な い ね 。狩 猟 の ほ う は あ る け れ ど 、オ リ ン ピ ッ ク は ( 競 技 と し て の 射 撃 と い う 意 味 )。 あ ん な 風 に 。」 「( イ ン タ ビ ュ ワ ー に 向 け て ) ど お ? 射 撃 の ほ う は 。」 W さ ん に と っ て DSS が 興 味 あ る も の で あ り 、H さ ん と 同 様 に 、4 週 間 の ゲ ー ム 期間を経て、インタビュワーとの信頼関係が構築され、介入前と介入後の発言に 変化が認められるようになった。 施設入居高齢者は、介護をされる対象であり、介護する側との関係構築には難 しい要因が少なくない。しかし本実験のように、部外者が関わりを持ち、生活に ついての質問することによって、自らの問題点の意識化につながったとも考えら れ る ( 表 10 参 照 )。 22 表10 問 DSS 介 入 前 後 に お け る W さ ん の イ ン タ ビ ュ ー 内 容 の 変 化 いつも明るい気持ちで過ごしていますか。 介入前「それほどでもない」 介入後「そういう風に心がけている。ま、そういう風にいるべきな ん だ ろ う な 。」 問 施設の職員の方と挨拶を交わしたり、会話をしていますか。 介 入 前 「 無 愛 想 と わ か っ て く れ れ ば 、 話 し た り す る 。」 介入後「なんちゃら話をするよりも、どっちかつうと、こんにちは を 欠 か す ほ う で は な い か と 。」 問 施設の行事に関心を持って、積極的に参加していますか。 介 入 前 「 参 加 し た い と は 思 う 。」 介 入 後 「 心 が け て は い る け ど ね 。」 以上の 3 名において、うつ得点が上昇した理由を述べた。半構造化面接に おい ては、全体的に介入後に発言が多くなる傾向があった。今回の研究では施設入居 高齢者にとって、外部の人間が関わりを持つことによって、介入後により気持ち の表出を促す結果になったのではないかと思われる。このように、質的研究にお い て 社 会 的 状 況 や 他 人 の 存 在 が 被 験 者 の 話 す こ と に 影 響 を 及 ぼ す 点 は Goetz and LeCompte (1984)や Locke ら (1989)も 指 摘 す る の と 同 様 で あ る 。 次 に MMSE の 分 析 に お い て 、 群 の 主 効 果 が 認 め ら れ た 点 に つ い て は 、 そ も そ も今回の研究での被験者の振り分けが影響したことが考えられた。実験群とコン ト ロ ー ル 群 の 対 象 者 に つ い て 、参 加 の 同 意 を 得 ら れ た 6 施 設 を 各 3 施 設 ず つ に 割 り付けるという方法を取ったため、認知機能においては当初からグループ間に差 が 生 じ て い た と 推 察 さ れ る 。 ま た 、 SF-36v2 に つ い て は 、 全 体 的 に 有 意 な 改 善 が 認 め ら れ な か っ た が 、個 別 に DSS の 効 果 の 詳 細 な 検 討 を 試 み た 。個 別 デ ー タ を 見 ると、全体的に介入前と介入後で数値が上昇や下降が様々である。しかし、Oさ ん と Y さ ん 2 名 の SF-36v2 の グ ラ フ に お い て 、 得 点 が 全 て 上 昇 し 、 I さ ん も ほ ぼ 全 て の 得 点 が 上 昇 し て い た 。 こ れ は 、 DSS の ゲ ー ム の 介 入 が QOL を 改 善 す る と いう可能性を示唆したと考えられたが、そのメカニズムは明らかではない。した が っ て 、 こ の QOL 改 善 の メ カ ニ ズ ム を 詳 細 に 検 証 す る た め に 、 実 験 2 と し て 一 部の人を対象に半構造化面接を実施した。 23 実験2 1.目的 実 験 1 の 測 定 結 果 を 踏 ま え た 後 、共 同 研 究 者 で 協 議 し 追 加 検 討 が 必 要 な 被 験 者 に対して反抗増加面接を実験 2 として行った。 2.対象と方法 実 験 1 で の 量 的 デ ー タ を 基 に 実 験 群 11 名 の 個 別 デ ー タ を 調 査 し た ( 図 1 4 )。 そ の 結 果 、DSS 介 入 後 に 得 点 が 上 昇 傾 向 に あ っ た 対 象 者 が 3 名 い た 。こ の 3 名 で あ る O さ ん 、 Y さ ん 、 I さ ん と DSS 介 入 期 間 の 途 中 で ド ロ ッ プ ア ウ ト し た N さ ん の 計 4 名 を 対 象 に 、結 果 が 良 好 で あ っ た 理 由 あ る い は ド ロ ッ プ ア ウ ト の 理 由 を 、 半 構 造 化 面 接 に て 詳 細 に 検 討 し た 。 半 構 造 化 面 接 に お け る 質 問 内 容 は 、 表 11 に 示すとおりである。 調査方法の信頼性、妥当性は実験 1 と同様とした。インタビューはひとりに つ い て 約 30 分 か ら 50 分 間 行 わ れ た 。イ ン タ ビ ュ ー 中 に ビ デ オ カ メ ラ で 音 声 を 録 音 して逐語録を作成した。面接は訓練を受けた面接者が実施した。 表11 半構造化面接における質問項目の内容 【上昇傾向群】 ① なぜデジタルスポーツシューティングに熱中したのか。 ② DSS を 行 う こ と に よ っ て 、 日 常 生 活 に 変 化 が あ っ た か 。 ③ 介 入 期 間 に DSS 以 外 の 要 因 で 何 か 日 常 生 活 の 変 化 が あ っ た か 。 ④ 背景(運動歴など) 【ドロップアウト者】 ① な ぜ DSS の ゲ ー ム に 参 加 し な か っ た の か 。 ② 他のレクリエーションには興味があるか。 ③ 背景(運動歴など) 24 3.結果 半 構 造 化 面 接 の 質 問 項 目 に 対 し て の 発 言 を 以 下 に 示 す ( 表 12 と 表 13)。 表12 上昇傾向群の発言内容について ①なぜ DSS に熱中したのか O さん 好奇心があった やりやすかった Y さん 無心になってやれるものだったから I さん 昔軍隊でやっていたから ②DSS を行うことによって、日常生活に変化があったか O さん 娘に会うとライフルについて話す ボケ防止になる Y さん 心が落ち着いた I さん 特になし ③介入期間に DSS 以外の要因で何か日常生活の変化があったか O さん 特に変化はない Y さん 特に変化はない I さん 特に変化はない ④背景(運動歴など) O さん 運動は上手なほうではない Y さん 運動は嫌いではない 陸上・水泳をやっていた I さん 兵器修理の部隊に入っていた 表13 ドロップアウト者の発言内容について ①なぜ DSS のゲームに参加しなかったのか N さん 興味がなかった 当たらないと、いらいらする ②他のレクリエーションには興味があるか N さん 散歩 新しいことはやる気がない ③背景 N さん ダンスをやっていた 上 昇 傾 向 群 で は 、 DSS 以 外 の 要 因 で 生 活 の 変 化 が あ っ た 対 象 者 は い な か っ た 。 25 4.考察 実験 2 での半構造化面接の発言は、対象者ごとに異なり様々である。高齢者の ニーズに多様性があるため、個別に評価することが重要である。したがって半構 造化面接の内容を個別に検討する。 (1)事例1 O さ ん ( 92 歳 ・ 女 性 ・ 要 支 援 2 ・ 上 昇 傾 向 群 ) O さ ん は DSS に 大 変 興 味 を 持 っ て 参 加 し 、こ ち ら か ら 声 か け を し な く と も 進 ん で 参 加 し て い た 。 SF-36v2 の 数 値 デ ー タ も 、 全 体 的 に 上 昇 し て い る 。 O さ ん は 好 奇 心 が 旺 盛 で あ り 、 そ の 性 格 が DSS に 対 し て も 影 響 し て い た と 思 わ れ た 。 「 割 合 な ん で も 好 奇 心 が 有 る ほ う な ん で 。」 「 何 で も 新 し い も の や っ て み た い 、 っ て い う ね 。」 「 新 し い こ と を 知 ろ う と す る 気 持 ち は あ る わ ね 。」 「 や り だ す と 、 す ご く 熱 中 す る 。」 「 ど う や っ た ら 、 入 る か な あ と 思 っ て 一 生 懸 命 ね 、 研 究 す る か ら 。」 高齢者の特徴である身体機能の低下により、可能な行動が限られてくるため、 生活に対する満足度が低下することは一般的に知られているが、O さんの発言に も、多くの事柄に興味を抱きながらも、実際にできない不満が表出されていた。 「そっちこっち駄目よ。耳悪いし、目悪いしね。だからね、講義なんかよ く 聴 き に 行 く ん だ け ど ね 、こ の 頃 は ね 、耳 が あ れ だ か ら 、駄 目 な の よ ね 。 だ け ど 、 聞 こ え る と き は ね 、 そ う い う の 行 き ま し た よ 。」 「映画でもお芝居でも見たいですしねえ。最近たってほら耳がもうちょっ と良いときね。お芝居だってね、あの、友達で取ってくれる人があった の、いいお席をね。それで行ってたりしたけど、ここんとこはね、ちょ っ と ね 、 も う 諦 め た わ 。」 し か し な が ら 、 DSS に 関 し て は 、 O さ ん 自 身 の 身 体 面 の 制 約 が あ る 中 で も 熱 中 し て 取 り 組 む こ と が で き て い た 。 O さ ん は 眼 鏡 を か け て お り 、 読 書 や TV な ど は 眼 が つ か れ や す い 。 し か し DSS は 、 眼 の こ と を 気 に す る 様 子 も な か っ た 。 26 「 も っ と 読 み た い と こ い っ ぱ い あ る ん だ け ど 、 な か な か 読 め な い け ど ね 。」 「 左 目 が 悪 い の で 、 な ん か 疲 れ や す い し ね 。」 「だってね、テレビでも下へ字幕出すのよね。それだって、全部終わりま で 読 み き れ な い と き が 多 い か ら ね 。」 「 本 を 読 み の は 疲 れ る が 、あ の 、な ん か DSS を や り だ す と す ご く 熱 中 す る 」 さらに、O さんの場合はテニスのような身体機能が要求されるスポーツに関 し て は 現 在 の 健 康 状 態 で は 実 施 が 困 難 で あ る が 、そ の 点 DSS に 関 し て は 、座 位 で行うことができることや、デジタルターゲットまでの距離を調整可能である た め に 、残 存 機 能 の 面 か ら 考 え て み て も O さ ん に 適 応 し て い た と 言 え る 。ま た 、 射撃競技に対して、O さんにはネガティブイメージはなかったと言える。 「スポーツはね、あんまり上手な方じゃないのよね。あんまりやらなかっ た ね え 。」 「( テ ニ ス に 関 し て ) 第 一 動 け な い わ よ 、 私 。」 「 私 は ね 、 ゲ ー ト ボ ー ル 馬 鹿 に し て い た の 。 だ か ら や ら な か っ た の 。」 「( 射 撃 に 関 し て ) や り や す か っ た わ ね 。 そ れ に 集 中 す る か ら 。」 ま た 、 DSS の ゲ ー ム を 行 っ た 日 に は 、 娘 さ ん と DSS を 話 題 に 会 話 が あ る と の 報 告 が 見 ら れ た 。 DSS が き っ か け に 、 身 近 な 人 と の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン が 豊 か に な っ た と 考 え ら れ た 。 O さ ん の グ ラ フ を 見 る と 、 社 会 生 活 機 能 ( SF ) が 大 き く 上 昇 し て い る 。こ の 項 目 は 過 去 1 ヶ 月 間 に 家 族 、友 人 、近 所 の 人 、そ の 他 仲 間 と の 普 段 の 付 き 合 い が 、身 体 的 あ る い は 心 理 的 な 理 由 で 妨 げ ら れ た か ど う か を 測 定するものである。今回 O さんのこの項目が上昇していたということは、普段 の付き合いが量的に、より良好になっていることが伺える。 「 帰 っ て か ら は ね 、 会 う と ね 、 い ろ い ろ や っ て き た こ と 話 す わ よ 。」 「 娘 と 話 し て る の が 一 番 い い わ ね 。」 O さ ん に と っ て は 、 DSS ゲ ー ム に 熱 中 し た 要 因 と し て 、 CS バ ラ ン ス が 取 れ て い た 可 能 性 が あ る( ス ー ザ ン・A・ジ ャ ク ソ ン & ミ ハ イ・チ ク セ ン ト ミ ハ イ , 2005 )。 27 CS バ ラ ン ス と は 、 挑 戦 水 準 と 技 能 水 準 の バ ラ ン ス が 取 れ て い る 状 態 で あ る 。 DSS の 技 能 水 準 が 挑 戦 水 準 よ り 高 け れ ば 、退 屈 し て し ま い 、挑 戦 水 準 が 技 能 水 準 より高ければ、 「 自 分 に は で き な い 」と 自 己 効 力 感 の 低 下 を 導 く こ と に つ な が る か もしれない。どちらの場合も最終的にはその競技を離脱する結果になるだろう。 CS バ ラ ン ス が 取 れ た 状 態 で は 、 ゲ ー ム に 内 発 的 に 動 機 付 け ら れ 、 高 齢 者 は 充 実 し た 楽 し い 時 間 を 過 ご す こ と に な り 、主 観 的 な 満 足 度 が 増 加 し 、QOL の 向 上 に つ な が る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。O さ ん に 関 し て は こ の 均 衡 状 態 が 保 た れ て い た た め 、 ゲ ー ム に 熱 中 し 、 QOL も 向 上 し た と 考 え ら れ る 。 「 ど う や っ た ら 入 る か な と 思 っ て 一 生 懸 命 ね 、 研 究 す る か ら 。」 「簡単なゲームよりもある程度自分が頑張らないとうまくいかないぐらい のゲームが楽しい」 「 そ う し て い る う ち に ( 研 究 )、 集 中 し て き ち ゃ う 、 熱 心 に な る 」 「自分でもほら、どうやったら入るかなと思うでしょ。そういうのがいい わ ね 。 頭 も 使 う し 。」 O さ ん の 場 合 、 好 奇 心 の 強 さ と 、 DSS の CS バ ラ ン ス が 保 た れ た こ と に よ る 熱 中、さらにゲームが他者とのコミュニケーションにつながり、社会的な満足度の 向 上 に 伴 っ て 、QOL も 向 上 し た と 考 え ら れ た 。介 入 期 間 に 特 に 主 だ っ た 生 活 の 変 化 は な い と 発 言 し て い る こ と か ら 、 DSS を 行 っ た こ と が SF-36v2 の 得 点 を 向 上 させた主要な要因であると考察された。 (2)事例 2 Y さ ん ( 80 歳 ・ 女 性 ・ 要 介 護 1 ・ 上 昇 傾 向 群 ) Y さ ん は 、 Bandura( 1977;1986 )が 指 摘 す る よ う 、自 分 よ り も 10 歳 以 上 年 齢 の 離 れ た O さ ん が DSS を 行 っ て い る と い う 代 理 体 験 を 通 し て 、 自 分 に も で き る と い う 自 己 効 力 感 が 生 じ て 、 DSS に 参 加 す る 気 に な っ た 。 「O さん、あの方見て、ああ、私もあれくらいまで生きて、こういう風に で き る か な あ 、 な ん て 思 い ま し た 。 ほ ん と 、 O さ ん を 励 み に し て 。」 「なかなかしっかりした奥様で。あの方を励みにして、今日もリハビリに 行 く ん だ な と 思 っ て 。そ れ で 来 た ら 、 『 Y さ ん 、ラ イ フ ル あ る か ら や っ て 28 み ま せ ん か 』 っ て 言 わ れ て 。」 そ し て ま た 、Y さ ん は 、以 前 に 行 っ て い た 水 泳 と 今 回 の DSS が 、心 理 的 な 特 徴 に共通する点を見出したようであり、ゲームに引き込まれていったようである。 「こうやっていると、心が集中するじゃないですか。下手なことやったら い け な い な 、 な ん て 思 っ て 。」 「 心 を 無 心 に し て 、 真 ん 中 を 狙 っ て と い う 気 持 ち が 、 良 か っ た 。」 「( 水 泳 に つ い て )無 心 に な っ て 泳 が な い と 手 も 足 も 動 か な く な る し 、だ か ら は ま り 込 ん で し ま う 。」 Y さんは、現在、水泳に関しては行っていない。Y さんは腰痛を抱えており、 歩くのが困難である。プールで歩くのを勧められるが、興味はあるけれど、面倒 になってしまっている。身体を使ったエクササイズに興味があるが、留まってし ま っ て い る 。 一 方 、 DSS は 、 手 軽 に 取 り 組 む こ と が で き 、 Y さ ん の 身 体 的 な 制 約 に関係なく実施することができたことから、継続につながったといえる。 「温水プールだからそんなに寒くないし、そこ行って温まってきて、ちょ っと汗流してこようかな、なんて思うときもありますけど、それが行く の が 面 倒 く さ く な っ て き て 。」 「ほらここに来てね、こうして黙って座ってやらしていただいたから、あ れだったけど、来てください、って言われるんだったら、やっぱちょっ と 無 理 だ っ た で す よ ね 。」 こ の よ う に 、 Y さ ん の 場 合 、 も と も と 運 動 に 興 味 を 持 っ て い た た め に 、 DSS に 対しても熱中しやすかった。実験期間中に、日常生活において具体的な変化はな い よ う で あ っ た が 、イ ン タ ビ ュ ー で は 、 「心が落ち着いたかなっていう気はありま す ね 。」 と 報 告 が 得 ら れ た 。 SF-36v2 の 得 点 向 上 は 、 DSS に 熱 中 す る こ と に よ っ て 、 精 神 的 に 充 足 し QOL が 向 上 し た と 考 え る こ と も 可 能 で あ る 。 29 (3)事例 3 I さ ん ( 85 歳 ・ 男 性 ・ 要 介 護 1 ・ 上 昇 傾 向 群 ) I さ ん は 、戦 争 経 験 者 で あ り 、戦 時 中 は 、兵 器 の 修 理 専 門 部 隊 に 入 隊 し て い た 。 このような軍隊の経験が、今回のゲームに熱中する要因になったと考えられた。 そして戦争を体験していても、射撃についてのマイナスイメージを抱くことはな かった。 「 昔 、 軍 隊 で や っ て い た か ら 。 200 メ ー ト ル く ら い 百 発 百 中 。」 「( 軍 隊 を 経 験 し た が 、 銃 を 持 つ こ と は ) 懐 か し い と 思 う 。」 また I さんは、持病も抱えている。 「膝が痛い」 「普段はなんともないが、化膿してしまって(胸の)手術をする必要があ る 。」 こ の よ う な 、痛 み や 身 体 的 な 制 約 が あ る 中 で も 、 DSS は 気 軽 に 取 り 組 め 、そ し て 過 去 の 射 撃 経 験 が 後 押 し と な り 、DSS に 集 中 し て 取 り 組 む こ と が で き た こ と が 発言からも伺える。なお、介入期間の日常生活の変化は特になかった。 「精神の集中力にいいゲームでしたね。照準を当てようとするでしょ。 あ れ が や っ ぱ り 。」 「 あ あ い う の は 良 い で す ね 。 あ れ は ( 機 器 ) 精 巧 だ か ら 。」 「 集 中 力 が な い と 当 た ら な い か ら 。 あ と は 精 神 修 練 。」 以 上 の 3 名 の イ ン タ ビ ュ ー 結 果 を 検 討 す る こ と に よ っ て 、DSS を 使 用 し た ゲ ー ムの介入は、他のスポーツと異なり、体力に起因しないため、残存機能の限られ た高齢者に対しても有効であることがわかった。競技として手軽に楽しめ、技術 的な導入レベルが低いことから楽しみを感じやすく、それに伴って自己効力感が 高まったといえる。そのうえ、会話が増えるなどの社会的に良好な効果もあいま っ て 、 結 果 と し て QOL の 向 上 に つ な が っ た の で は な い だ ろ う か 。 た だ し 、 こ の ような結果は日常生活のほかの側面に般化するかについては、本研究では知るこ とができなかった。 30 (4)事例4 N さ ん ( 81 歳 ・ 女 性 ・ 要 介 護 1 ・ ド ロ ッ プ ア ウ ト ) N さ ん の 実 験 出 席 率 は 37.5 % で あ っ た 。加 齢 に 伴 っ て 、N さ ん は 新 し い こ と に 興味の低下し、自ら積極的に活動に参加する意欲が減った様子であった。 「( 昔 お 芝 居 や 映 画 の 株 主 優 待 券 を も ら っ て 、 よ く 行 っ て い た 。) も う 興 味 な い し ね 。」 (若いころは社交ダンスをしていた。インタビュワーの「例えば施設で社 交 ダ ン ス の ク ラ ブ が あ っ た ら 、や っ て み よ う と 思 い ま す 。」と い う 質 問 に 対 し て )「 思 わ な い 。 も う 年 取 っ て や だ よ 。」 「 な か な か 自 分 が 出 向 い て ま で や ろ う と い う の は ね 。」 ま た N さ ん は 、身 体 を よ り 積 極 的 に 動 か す こ と が 好 き な の で 、DSS に 対 し て は あまり興味が持てなかったと発言している。 「 あ あ い う の は 駄 目 。」 「( ラ イ フ ル に つ い て ) や っ た 、 や っ た 。 や っ た け ど 、 ぜ ん ぜ ん 駄 目 。」 「( 身 体 が 動 か な く な っ て き た か ら ) そ う い う 意 味 で は 、 散 歩 ね 。」 「 散 歩 も い や で や る わ け じ ゃ な い か ら 。だ か ら 今 日 は こ の 道 か ら 行 っ て 、 向 こ う の 坂 下 っ て と か 、 そ う い う 風 に 道 を 変 え な が ら ね 。」 「 そ ん な に 歩 き ま せ ん よ 。 10 分 ぐ ら い で す か ね 。」 「 う ち に じ っ と し て い る よ り は い い ん じ ゃ な い の 。」 「 身 体 を 動 か し た ほ う が 私 は 好 き 。」 実 験 開 始 当 初 は 、DSS に 挑 戦 し て み た が 、N さ ん の 技 能 水 準 が 機 材 の 要 求 す る 挑戦水準にあわなかったことや、レーザー銃が重たく、うまく支えることができ ずにコントロールができないことが影響して、なかなか的に当たらずに楽しさを 感 じ る こ と が で き な か っ た 様 子 が う か が え た 。こ の こ と が 、 DSS へ の 興 味 を 低 下 させたと考えられた。このような機器の不適応も、N さんのドロップアウトの要 因のひとつとなっていた。 31 「 こ う や っ て 、じ っ と で し ょ 。 ( ラ イ フ ル の 構 え を し て み せ な が ら )手 が 震 え る し 。」 「 そ れ で 思 う よ う な と こ ろ に い か な い の で 、 い ら い ら す る 。」 本 実 験 で は 、N さ ん を 含 め て 5 名 が ド ロ ッ プ ア ウ ト し た 。体 調 不 良 や 入 院 な ど の 身 体 的 な 問 題 で ド ロ ッ プ ア ウ ト し た 2 名 以 外 に 、機 器 の 不 適 応 に 関 す る 発 言 も 得 ら れ た 。 重 量 が 約 1kg あ る レ ー ザ ー 銃 を 保 持 し た ま ま 静 止 す る と い う 動 作 が 、 一部の高齢者にとっては、難しい課題であったことがうかがえた。今回使用した DSS は 、競 技 選 手 の 練 習 用 に 開 発 さ れ て い る の で 、今 後 は 、機 器 を 改 良 す る な ど の 工 夫 に よ り 、も っ と 高 齢 者 が DSS を 楽 し む こ と が で き る よ う に な る の で は な い かと思われた。 32 結 語 今 回 は DSS の QOL へ の 影 響 に つ い て は 、統 計 的 な 有 意 差 が 認 め ら れ な か っ た 。 その理由としては、限られた実験期間、高齢者の体調、被験者と実験機器のバラ ンス不適応、及び社会的な要因が考えられる。しかしながら、個別データを検討 し て み る と 、 一 部 の 高 齢 者 に お い て は 、 DSS 介 入 前 後 に お い て SF-36v2 の 測 定 値 に 上 昇 傾 向 が 認 め ら れ て お り 、QOL が 向 上 す る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。個 々 の レ クリエーションに対するニーズは多様であり、画一化されたプログラムでは、受 益 者 の ニ ー ズ に こ た え る こ と は 出 来 な い こ と が わ か っ て い る( 吉 田・芽 野 ,2005 ; 荘 村 ,1995 ; 西 谷 ,1998 )。 特 に 高 齢 者 施 設 で の レ ク リ エ ー シ ョ ン は 、 多 様 な プ ロ グ ラ ム を 提 供 す る こ と に よ り 、各 個 人 の モ チ ベ ー シ ョ ン に 働 き か け る こ と が QOL 向上に重要になってくると考えられた。 実 験 2 に よ る 個 別 調 査 か ら も 、射 撃 は そ の ス ポ ー ツ 特 性 か ら 特 別 な 体 力 、筋 力 、 俊敏性を必要としないため、加齢に伴い運動機能が低下している高齢者にも対応 できるスポーツである点は明らかである。その為、身体機能低下が制限事項とな らず自己効力感や有能感を獲得しやすい。自己効力感から生じる効力予期は行動 変 容 に と っ て 重 要 な 要 因 で あ る ( Bandura, 1977 )。 Patricia(1984) の 調 査 で は 、 老人が水泳プログラム参加することにより生じた自己効力感が、日常生活場面に おける一般的自己効力感を高める可能性を報告している。本実験で確認できたの は 、運 動 機 能 の 程 度 に 左 右 さ れ な い DSS に よ る ス ポ ー ツ レ ク リ エ ー シ ョ ン か ら 生 じ た 「 で き る 」 と い う 自 己 効 力 感 ま で で あ る が 、 Patricia(1984) の 調 査 同 様 に 日 常 生 活 に 般 化 さ れ る こ と も 期 待 さ れ る 。そ う な れ ば DSS は 高 齢 者 の レ ク リ エ ー シ ョンプログラムとしてさらに注目すべき種目となる。今回のリサーチにおいては 実験期間が限られていたため、自己効力感の日常生活への般化についてまでは確 認することが出来なかったが、今後は長期にわたり、質的・量的リサーチを行い この点を調査することが期待される。 今回の実験で測定結果に有意な改善が認められなかった理由をいくつかあげる こ と が で き る 。 ま ず は 、 最 終 的 に 統 計 分 析 に 有 効 で あ っ た 対 象 者 の 数 が 11 名 と 少なかった点である。高齢者を対象とした実験の際に常に付きまとう問題である が、高齢者自体の体調は不安定であり、今回のように限られた実験期間、なかで も4週間という介入期間では、高齢な被験者の体調不良が起きた場合のスケジュ ールの対処が困難であった。 33 今 回 、 DSS を 実 施 し 何 人 か の 被 験 者 は 没 入 経 験 を 体 験 し 、逆 に 何 人 か の 被 験 者 は ド ロ ッ プ ア ウ ト し た 。被 験 者 の DSS に 対 す る 興 味 、嗜 好 も あ る が 、被 験 者 の 技 術 水 準 と 競 技 水 準 の バ ラ ン ス に よ り 両 者 が 生 じ た の で は な い だ ろ う か 。DSS 自 体 が高性能であるために、一部の高齢者がゲームを楽しむまで技術が向上できなか っ た 。そ の た め 、ド ロ ッ プ ア ウ ト す る 者 が 存 在 し た り 、QOL が 有 意 に 変 化 す る ま で に 至 ら な か っ た 可 能 性 も あ る 。被 験 者 の DSS の 得 点 は 各 々 の 射 撃 距 離 が 正 確 で な い た め 参 考 に し か な ら な い が 、没 入 体 験 を も っ た 被 験 者 は 高 得 点 を 示 し て い る 。 Csikszentmihalyi(2000) は 、 仕 事 や 遊 び か ら 内 発 的 な 報 酬 を 見 出 し て 楽 し さ を 感じている人を調査し、その楽しさからフロー・モデルを構築した。このモデル の中では、その行為に対する挑戦水準が行為者の技術水準を上回れば心配や不安 が 生 じ 、 そ の 逆 は 退 屈 が 生 じ る 。 両 者 が つ り 合 う と こ ろ ( CS バ ラ ン ス ) で 内 発 的 報 酬 に よ る 楽 し さ が 生 じ る と し て い る 。今 回 の 調 査 で 使 用 し た DSS が 高 性 能 で あ っ た た め 、 あ る 被 験 者 層 で は CS バ ラ ン ス が 明 ら か に 悪 か っ た と 考 え ら れ る 。 その結果、被験者の中には、挑戦水準が高すぎうまく出来ないことから、不安や 不 快 を 生 じ て ド ロ ッ プ ア ウ ト し て い っ た と 考 え ら れ る 。 一 方 、 CS バ ラ ン ス は 客 観的な技能水準ではなく、当面の技術課題との関わりのなかで自分の技術を知覚 す る 主 観 的 な 技 術 水 準 な の で 、 CS バ ラ ン ス が う ま く 取 れ た 被 験 者 に と っ て は 、 D S S と い う 高 性 能 な 機 材 を 使 用 し 、 CS バ ラ ン ス が 明 確 に な り や す い 挑 戦 課 題 に 挑 戦 し 、 自 分 は 出 来 る と 認 識 す る こ と に よ り 、 よ り QOL を 向 上 し や す か っ た のではないだろうか。 さ ら に Goetz and LeCompte (1984) や Locke(1989) も 指 摘 し て い る よ う に 、 質 的研究においては社会的状況により、被験者が自由にどんな情報でも話してくれ るとは限らない。つまりある状況下では自由に話せても、状況が異なればたとえ 同じ質問をされても用心して話さないことも起こりえる。またインタビュアーの 存在が、話すことに影響を及ぼす要因となることも明らかである。今回の実験に お け る GDS の 変 化 は 、 こ の 社 会 的 状 況 要 因 が 寄 与 し て い る と 考 え ら れ た 。 ま ず 被験者は施設に入居しており、インタビューの場所として施設内の会議室が用い られたため当初のインタビューにおいては、施設関係者や自分の家族に対する遠 慮があり自由に発言できていなかった。また、事前インタビュー時にインタビュ アーと被験者のラポールの構築もなされていたが、4 週間の実験期間に週 2 回被 験 者 と 会 い DSS を 行 っ た 。結 果 と し て 、実 験 者 が そ の 期 間 に お け る 被 験 者 に 対 し 34 ての最多高齢者施設訪問者となってしまった。そのため、事後インタビュー時に はより深いラポールが成立してしまい、事前インタビューに比しより自由な発言 が得られた。今後の調査では介入期間を延長し、インタビューの回数も増やし、 タ イ ミ ン グ も 考 慮 す る こ と に よ り 、 よ り 正 確 な QOL の 変 化 を 検 討 で き る 可 能 性 がある。 今 回 の 実 験 を 通 じ て 、DSS は そ の 特 性 で あ る 運 動 に よ る 影 響 が す く な い ス ポ ー ツである点を生かして、個々のニーズに対応するレクリエーションの一種目とし て 重 要 な 位 置 を 占 め る こ と が わ か っ た 。一 部 の 高 齢 者 に つ い て は 、 DSS の 実 施 が QOL の 向 上 に 寄 与 す る 可 能 性 が 示 さ れ た 。 ま た 、 DSS が 開 発 さ れ た こ と に よ り 、射 撃 競 技 の 持 つ ス ポ ー ツ と し て の 特 性 を 広 く 一 般 に 生 か す こ と が で き る よ う に な っ た 。本 研 究 よ り 、DSS が あ る 人 の QOL 向 上 に 有 効 で あ る こ と が わ か っ た 。し か し こ れ は 、高 齢 者 に 限 っ た こ と で は な く 、 幅 広 い 年 齢 層 で も DSS に 伴 う 効 果 が 得 ら れ る 可 能 性 も あ る 。 ド イ ツ に お い て は 、 Hans-Heinrich (1998) が 、 ス ポ ー ツ 射 撃 の 8 歳 か ら 12 歳 の 子 ど も に 与 え る 影 響 を調べた結果、運動能力の中でもコーディネーション能力を向上させる可能性が 示 唆 さ れ て い る 。例 え ば 、 DSS を ス ポ ー ツ と し て の 課 題 と 捕 ら え て 挑 戦 す る こ と により、スポーツの自己効力感や有能感を高め、それが他のスポーツへと般化で きるかもしれない。今後は、わが国においても、ドイツの研究成果を参考に、青 少 年 期 に 実 施 さ れ る 運 動 プ ロ グ ラ ム と し て の DSS の 有 効 性 の 検 討 が 待 た れ る と ころである。例えば、高校大学受験などの理由でまとまった運動時間が取れない 青少年向けてのプログラムや、すでに特定のスポーツに打ち込んでいる青少年へ の ト レ ー ニ ン グ プ ロ グ ラ ム の 一 部 と し て DSS を 導 入 し 、 そ の 認 知 行 動 面 や QOL への効果について、アンケートやインタビューほか、生理指標なども用いながら 検討することが期待される。 35 引用文献 新 井 武 志 ・ 大 渕 修 一 ・ 逸 見 治 ・ 稲 葉 康 子 ・ 柴 喜 崇 ・ 二 見 俊 郎 (2006). 地 域 在 住 虚弱高齢者への運動介入による身体機能改善と精神心理面の関係 理学療法学, 33, 118-125. 浅 井 英 典 ・ 新 開 省 二 ・ 井 門 恵 理 子 (2001). 虚 弱 高 齢 者 の QOL に 対 す る 短 期 間 の 定 期 的 な 運 動 指 導 の 有 効 性 体 育 学 研 究 , 46, 269-279. 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Mini-Mental State Examination (MMSE) 5.半構造化面接用紙 6.日常生活行動観察用紙 2006 年 9 月 高齢者におけるレーザー銃使用に伴う認知行動変容研究参加のお願い 今回、慶應義塾大学スポーツ研究センターにて「高齢者におけるレーザー銃使用に伴う認 知行動変容研究」を実施することとなりました。射撃は、実施するに当たり体力に起因する 部分が少ないスポーツであり、子どもから高齢者まで楽しむことができます。近年、安全面 を考慮して赤外線レーザーを使用した銃が開発されました。そこで本研究では、レーザー銃 を使用し高齢者の方の認知行動面にいかなる変化が認められるかを調査します。研究に参加 していただくにあたり、この書面にてどのようなことをしていただくかご説明させていただ きます。 ご参加を同意いただけました方は、以下の研究調査にご協力願います。 1. デ ジ タ ル 射 撃 ゲ ー ム の 開 始 前 に 、ア ン ケ ー ト と イ ン タ ビ ュ ー に 答 え て い た だ き ま す 。 2. デジタル射撃ゲームに 4 週間の間、参加していただきます。 ゲ ー ム の 実 施 頻 度 は 週 に 2 日 、 1 回 当 た り 10 分 か ら 15 分 で す 。 3. デ ジ タ ル 射 撃 ゲ ー ム の 終 了 後 に 、ア ン ケ ー ト と イ ン タ ビ ュ ー に 答 え て い た だ き ま す 。 4. 施設管理者による日常生活行動観察に応じていただきます。 今 回 の 調 査 に は 、ご 自 身 の 自 由 意 志 で ご 参 加 く だ さ い 。研 究 へ の 参 加 を ご 負 担 と 感 じ た り 、 たとえ調査の途中でもやめたいと感じましたら、速やかに離脱することができます。また、 インタビューなどで答えたくない質問は、お答えにならなくとも結構です。それによってご 参加いただいた方に不利益が生じることはいっさいありません。 また、インタビューをはじめ各調査においてビデオカメラを使用させていただきます。こ れは調査を迅速に進めるため、また正確なデータ収集のための方法です。インタビューやア ンケートで質問の意味が理解できない場合は、遠慮なくインタビュアーにお伝えください。 質問の意味を説明いたします。 上記の内容をご理解の上、ご協力いただけるようでしたらご署名をお願いいたします。 以上の説明で趣旨を理解しました 調査責任者 ので、調査に協力します。 慶應義塾大学スポーツ医学研究センター 2006年 月 日 布 施 ご署名 努 (電 話 :045-566-1090) 【GDS】 各 設 問 に 対 し て 、「 は い 」 ま た は 「 い い え 」 で 答 え て く だ さ い 。 項 目 1 0 いいえ はい 1 毎日の生活に満足していますか 2 毎日の活動力や周囲に対する興味が低下したと思いますか はい いいえ 3 生活が空虚だと思いますか はい いいえ 4 毎日が退屈だと思うことが多いですか はい いいえ 5 大抵は機嫌が良く過ごすことが多いですか いいえ はい 6 将来の漠然とした不安に駆られることが多いですか はい いいえ 7 多くの場合は自分が幸福だと思いますか いいえ はい 8 自分が無力だなあと思うことが多いですか はい いいえ 9 外出したり何か新しいことをするよりも家にいたいと思いますか はい いいえ 10 なによりもまず、物忘れが気になりますか はい いいえ 11 いま生きていることが素晴らしいと思いますか いいえ はい 12 生きていても仕方がないと思う気持ちになることがありますか はい いいえ 13 自分が活気にあふれていると思いますか いいえ はい 14 希望がないと思うことがありますか はい いいえ 15 周りの人があなたより幸せそうに見えますか はい いいえ 半 構 造 化 面 接 用 紙 No. 2006 年 月 日 氏名: 担当者: (1) 睡眠は十分にとれていますか? (2) ご飯を美味しく食べられていますか? (3) あなたの今現在の健康状態はいかがですか? (4) あなたは現在の生活に満足していますか? (5) いつも明るい気持ちで過ごしたりしていますか? (6) 物忘れなどしていませんか? (7) 施設の職員の方と挨拶を交わしたり、会話をしていますか? ( 8 ) 施 設 居 住 者 と 挨 拶 を 交 わ し た り 、会 話 を し た り 、友 人 つ き あ い を し て い ま すか? (9) 施設の行事に関心を持って、積極的に参加していますか? (10)買い物にでかけたり、人をたずねたりと外出していますか? 日 常 生 活 行 動 観 察 用 紙 N o. 2006 年 月 日 氏名: 担当者: ■それぞれの項目について、5 段階にて評価をお願いします。該当する番号を丸で囲んでください。 (1)睡眠は十分にとれていますか?(基本的な生活習慣) 1=よく眠れていない 2=あまり眠れていない 4=よく眠れている 5=ぐっすりと眠れている 3=普通 (2)食事は十分に食べられていますか?(基本的な生活習慣) 1=あまり食べていない 2=少し残している 4=よく食べている 5=とてもよく食べている 3=食欲は普通である (3)健康状態はいかがですか?(健康度) 1=あまりよくない 2=ややよくない 4=よい 5=とてもよい 3=どちらともいえない (4)生活に満足している様子がみられますか?(生活満足度) 1=不満を述べている 2=やや不満を述べている 4=やや満足している 5=とても満足している 3=どちらともいえない (5)表情は明るい(笑顔が見られたり)ですか?(気分) 1=くらい表情が多い 2=あまり笑顔が見られない 4=笑顔がみられる 5=笑顔がとてもよくみられる 3=どちらともいえない (6)同じことを繰り返しいったり、物忘れなどしていませんか?(認知面) 1=物忘れがひどい 2=やや物忘れがある 4=物忘れはあまりない 5=物忘れはない 3=どちらともいえない (7)施設の職員の方と挨拶を交わしたり、会話をしていますか?(コミュニケーション) 1=挨拶や会話が全くない 2=挨拶や会話をあまりしない 3=どちらともいえない 4=挨拶や会話をよくする 5=挨拶や会話をとてもよく交わす (8)施設居住者と挨拶を交わしたり、会話をしたり、友人つきあいをしていますか?(人間関係) 1=つきあいが全くない 2=つきあいをあまりしていない 4=一部の人とのつきあいがみられる 3=挨拶程度のつきあい 5=いろんな人と広くつきあいがみられる (9)施設の行事に関心を持って、積極的に参加していますか?(社会への関心) 1=まったく参加しない 2=あまり参加しない 4=よく参加する 5=いつも参加している 3=ときどき参加する (10)買い物にでかけたり、人をたずねたりと外出していますか?(活動性) 1=まったくない 2=あまりない 4=よくある 5=とてもよくある 3=ときどきある 謝 辞 本研究は、社団法人日本ライフル射撃協会からの研究助成をいただき、慶応義 塾大学スポーツ医学研究センターの大西祥平氏、独立行政法人雇用・能力開発機 構職業能力開発総合大学校非常勤講師の木下直子氏、ならびに慶應義塾大学大学 院健康マネジメント研究科の萩原彩氏の協力を得て行いました。研究成果の一部 に つ い て は 、 萩 原 彩 氏 の 修 士 論 文 と し て 2007 年 2 月 に 発 表 さ れ ま し た 。 さ ら に 本研究の実験データの収集に際して、介護付老人ホーム応援家族福生、成増、立 川 に 入 居 の 高 齢 者 の 方 々 、そ し て リ ハ ビ リ・ス テ ー シ ョ ン AKI 乃 木 坂 、田 町 の デ イサービスに通所の高齢者の方々、ならびに施設職員の皆様の多大なるご協力を いただきました。ここにあらためて感謝申し上げます。 【研究プロジェクトメンバー】 主任研究者 布施 努 (慶応義塾大学 スポーツ医学研究センター) 共同研究者 大西 祥平(慶応義塾大学 スポーツ医学研究センター) 木下 直 子 ( 独 立 行 政 法 人 雇 用・能 力 開 発 機 構 職 業 能 力 開 発 総 合 大 学 校 ) 萩原 彩 (慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科) 高齢者におけるレーザー銃使用に伴う認知行動変容研究 社団法人日本ライフル射撃協会 研究助成事業報告書 発行年月日 平成19年3月 発 主任研究者 行 慶應義塾大学 スポーツ医学研究センター 布 施 〒 223-0061 努 神 奈 川 県 横 浜 市 港 北 区 日 吉 4− 1− 1 TEL : 045 − 566 − 1090
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