生活用品からの放散化学物質測定方法と測定事例 生活科学総合センター相談事業部相談調査課主査 青木幸生 1 はじめに 近年、生活用品から放散されるさまざまな化学物質が原因と思われる、 “異臭がする”、 “喉や頭 が痛い”などといった苦情が、県・市町の相談窓口に寄せられている。 本報では、放散化学物質に係わる現行のガイドラインと課題、放散化学物質の各種測定方法に ついて述べた後、当センターにおいて継続実施している生活用品から放散される化学物質の調査 研究から、糊付き壁紙、小型リビング家具の測定事例について紹介する。 表 1. 室内空気中化学物質の室内濃度指針値 2 ガイドラインと課題 住宅やオフィスの高気密化に伴い、建材等から放散 される揮発性有機化合物(VOC)が原因で発症するシ ックハウス症候群やシックビル症候群が社会問題化 した。このため、厚生労働省は 1997 年 6 月にホルム アルデヒドの室内濃度指針(100μg/m3)を設定した。 その後の追加指針値設定により、現在までに、13 物 質の室内濃度指針値と総揮発性有機化合物(TVOC)の 暫定目標値(400μg/m3)の設定に至っている。表 1 に個別物質の室内濃度指針値を示す。 また、国土交通省は、建材から放散されるホルムア 指針値 μg/m3 揮発性有機化合物 設定日 ホルムアルデヒド 100 1997.6.13 アセトアルデヒド 48 2002.1.22 トルエン 260 2000.6.26 キシレン 870 2000.6.26 パラジクロロベンゼン 240 2000.6.26 3800 2000.12.15 220 2000.12.15 1 2000.12.15 フタル酸ジ-n-ブチル 220 2000.12.15 テトラデカン 330 2001.7.5 フタル酸ジ-2-エチルヘキシル 120 2001.7.5 ダイアジノン 0.29 2001.7.5 エチルベンゼン スチレン クロルピリホス フェノブカルブ 総揮発性有機化合物量(TVOC) ルデヒドの放散速度に応じて、使用面積を制限する改 * 33 2002.1.22 400 2000.12.15 *:暫定目標値 正建築基準法を 2003 年 7 月施行した。 これらの対策は、主に住宅や住宅用建材を対象としたもので、一定の効 果を上げている一方で、現在も指針値未設定物質による健康被害の報告が 散見される。また、近年、パソコン、家電製品、ケミカル用品、繊維・革 製品、書籍・文具等、身の回りにある生活用品の使用により、放散化学物 質に対する不快感等を訴えるケースも見られるようになっている。 3 放散化学物質に関する測定方法 JIS A1901 小形チャンバー法は、デシケータ法などの密封容器の中で 図 1. 小形チャンバー装置 測定される方法と異なり、換気のある実際の居住状態に近い状態での 測定を想定しており、換気回数を設定できるようになっている。チャ ンバー容積としては、20L~1000L が規定されている。適用対象は、 「建 築用ボード類、壁紙及び床材、建築材料としての接着剤、塗料および建 築用仕上塗料の塗膜、建築材料としての断熱材など」となっている。図 1 に、小形チャンバー装置の例(20L-4 チャンバーシステム)を示す。 JIS A1903 パッシブ法は、セルと呼ばれる密封形容器と捕集剤を用 いて、パッシブサンプリングを行う方法である。セル容積は 300mL で、 図 2. パッシブ法セル 検体表面に設置し、検体表面からのフラックス発生量を測定する。図 2 に、パッシブ法セルの例を 示す。適用対象は、 「建築用ボード類、壁紙、床材、断熱材及びそれらの施工に用いる接着剤、塗料 など」となっている。現場測定にも使用することができ、特に原因物質の発生源特定に活用される。 4 測定事例 糊付き壁紙 7 品目および小型リビング家具 4 品目に ついて、放散試験を実施し、定量 52 物質及び TVOC に測定を行った。 4.1 糊付き壁紙 TVOC の 7 日目の放散速度に基づくシミュレーション 図 3. 壁紙の TIC 例(1 日目) では、6 畳空間において、暫定目標値 400 μg/m3 の 4.90%~176.89%の環境負荷をもたらす結果が示され、1 週間程度の低減期間では十分でない可能性があった。 個別物質では、塩化ビニル樹脂系壁紙では、デカン をはじめとするアルカン類が比較的放散速度の高い 化合物として定量された。また、塩化ビニル樹脂系壁 図 4. TVOC 放散速度の経時変化 紙では、2-エチル-1-ヘキサノール(2E1H)が検出さ れ、接着剤にアクリル樹脂系接着剤を採用している壁 紙では、その放散速度が他に比べて大きい傾向が見ら れた。2E1H については、健康被害も報告されている。 参考に各壁紙の TIC パターンの例を図 3 に、TVOC 放 散速度の経時変化の例を図 4 に示す。 3 ンでは、6 畳空間において、暫定目標値 400 μg/m の 0.22%~21.58%の環境負荷をもたらす可能性が示さ れた。放散量トレンドについては、初期 TVOC 放散速 度値の 28.54%~85.35%を維持し、壁紙の場合より Emission rate of TVOC(μ g/(unit・h)) TVOC の 7 日目の放散速度に基づくシミュレーショ Fur.A Fur.B Fur.C Fur.D 1500 1000 500 1 0.5 Fur.A Fur.B Fur.C Fur.D 0 0 減衰が遅い特徴が見られた。 Emission rate of TVOC(a.u.) 図 5. 家具の TIC 例(1 日目) 4.2 小型リビング家具 0 2 4 6 0 Time(day) 2 4 6 Time(day) 図 6. TVOC 放散速度の経時変化 個別物質では、トリメチルベンゼン類、エチルトルエン類やテキサノールが検出された家具が あった。これらの物質については、健康被害も報告されている。参考に各家具の TIC パターンの 例を図 5 に、TVOC 放散速度の経時変化の例を図 6 に示す。 おわりに 壁紙施工初期、広範な面積の壁紙施工の場合や、複数台の新規家具を設置する場合には、放散 化学物質による濃度増分効果が重畳して室内環境に影響を与える場合も想定された。 壁紙や家具といった生活用品の種類により、放散化学物質種も多様であり、室内濃度指針値設 定物質以外に、大きな放散速度を示す化合物も見られ、今後も継続的な実態調査が必要である。 また、指針値未設定物質による問題への対応のため、TVOC 放散速度による放散化学物質の総量管 理を検討する必要がある。
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