アジア債券市場育成に関する韓国の観点

アジア債券市場育成に関する韓国の観点
玄奭
犬飼重仁
1.はじめに
1997 年のアジアの金融危機は、アジア諸国にとって、実物経済の側面だけで
はなく金融経済の側面からも地域経済協力の必要性を強く感じさせた。 経済
危機以後、アジア域内では、様々な経済協力が行われてきた。例えば、自由貿
易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)は、貿易、投資や人の交流を促進する。
チェンマイ・イニシアティブ(CMI)は、二ヶ国の通貨交換(スワップ)の形式
によって、短期的な資金の融通を行い、通貨危機の再発生を予防する。そして、
アジア債券市場イニシアティブ(ABMI)は、アジア域内に蓄積された資金を域
内の投資に回すアジア域内インフラを創設する、といった努力が行われている。
また、EMEAP メンバーの中央銀行1は、アジア債券ファンドを設けて、アジア域
内の債券市場に共同で投資・運用し、投資家の観点からも域内金融協力を進め
ている。しかし、アメリカやヨーロッパに比べ、アジアは、域内貿易の規模は
大きく経済成長率も高いが、域内の資金取引はそれほど活発ではない。
アセアン+3ヶ国は、現在、域内の蓄積された資金を活用するためにアジア
債券市場を構築・開発しようと取り組んでいる。危機以後、各国の債券市場規
模は大きくなったが、国際市場で訓練され洗練された国際的な投資家やディー
ラーの不足や、異なる各国の法的及び制度的システムのせいで、各国の国内債
券市場は依然として分断されている。 従って、各国の国内金融市場のリンケ
ージを進め、かつオフショア発行のアジア債券市場の構築と促進を行うために
も、クロス・ボーダー証券決済インフラの整備は、非常に重要であると思われ
る。
本研究の目的は、アジア債券市場の必要性に関して簡単に触れてから、域内
の蓄積された資金を有効に活用できる手段としてのアジア債券市場の育成に当
っての、韓国と日本の制度的かつ法的障害要因を調べ、国際証券決済のデュア
ル・コアのアプローチの実現性に関して探ることにある。
1正式名称は、東アジア・オセアニア中央銀行役員会議。オーストラリア、中国、香港、
インドネシア、日本、韓国、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポー
ル、タイの 11 ヶ国・地域の中央銀行・通貨当局から構成される。
1
2.アジア債券市場育成の根拠
銀行借入の依存度が高い経済は、債券市場の未発達や不在によって、経済危
機の際、より高い費用負担を被ることになる。日本の銀行危機やアジアの金融
危機はその例であると言えよう。特に、銀行依存度の高いタイなどのアジア経
済は、海外から短期資金を調達し、長期投資するという、いわば、通貨と満期
のダブル・ミスマッチを経験した。また、債券の発行・流通市場における取引
から決まってくるべき利子率情報の不在によって、そこから派生するはずの金
融商品の開発や発達が障害される。しかしながら、域内債券市場の育成による
金融市場の多様化は、預金者および幅広い層の投資家に、債券市場を通じて、
より多い金融資産選択肢を提供する。企業にとっては、アジア域内の各国通貨
建ての国内およびオフショアの債券市場で、例えば、直接間接に中小企業のた
めの債券発行が可能であれば、債券発行で必要な資金が調達できる。すなわち、
アジア各国には、銀行中心とする間接金融市場を補完するに足る、国内の直接
金融(債券)市場が必要であると共に、それらの各国の市場をつなぎ補完しう
るような、市場のプロのためのアジア共同のオフショア資本市場(アジアボン
ド市場)が必要とされるのである。それによって、投資家及び企業、両者の厚
生が上がることになる。
以上のことから、域内で蓄積された資金を活用し、流通させることができ、
市場のリスクを最小限にできるようなアジア域内債券市場を育成する必要性が
十分にあると考えられる。
危機以後のアジアにおける外貨準備残高
2005 年現在で日本が保有している外貨準備残高を見ると、579.8 十億ドルに
至る。アメリカは、264.7 十億ドル、ユーロ地域は、117 十億ドル、そしてアジ
ア諸国は全体で 1301.4 十億ドルを保有している。 アジア諸国における外貨準
備残高のシェアは、2005 年の全世界の 45%にまで至っている。近年、高く累積
されたアメリカの経常収支赤字は、アジア諸国によるアメリカ国債購入やアメ
リカドルの保有によって補われる。
(犬飼、2005)このように、アジアで蓄積さ
れた資金は、アメリカやヨーロッパに流れ、その多くの資金は、アメリカから
投資やヘッジ・ファンドによる投資資金として戻ってくる。しかも、その大数
は、アジア以外の地域(例えば、アメリカやヨーロッパ)の金融機関や決済機関
2.1
を通して扱われている。
2
図 1) 外貨準備残高
Foreign Exchange Reserve Holdings
50
40
%
30
20
10
19
90
19
91
19
92
19
93
19
94
19
95
19
96
19
97
19
98
19
99
20
00
20
01
20
02
20
03
20
04
20
05
0
Year
UNITED STATES
JAPAN
EURO AREA(ECB)
ASIA
アジアにおけるヘッジ・ファンド
ヘッジファンド・インテリジェンスによると、アジアにおけるヘッジ・ファン
ドの残高は、2004 年 12 月の 59.118 十億ドルから、2005 年 12 月の 114.578 十
億ドルまで、たった一年でほぼ、2 倍になっている。アジアで運営されているヘ
ッジ・ファンドの数も 700 ほど存在すると言われる。このようなヘッジ・ファ
ンドの成長の一つの理由としては、インド、日本、香港、韓国などの経済が回
復し、成長しつつであるので、利益を求めるヘッジ・ファンドがアジアへ殺到
しているとの事情がある。これは、アジアで蓄積された資金がアメリカに流れ、
ヘッジ・ファンドになってアジアに戻ってくるということインプライしているとい
えよう。したがって、域内で蓄積された資金を、同じ域内で効果的に活用でき
るインフラが必要になるのである。
2.2
3
図 2) アジアにおけるヘッジ・ファンド
HedgeFunds in Asia
140
114.57
120
billion $
100
77.33
80
60
40
49.06
59.11
35.21
23.32
20
0
Jun-03
Dec-03
Jun-04
Dec-04
Jun-05
Dec-05
出所) ヘッジファンド・インテリジェンス
図 3) アジアヘッジ/ ユーロヘッジ中央値/ 絶対収益
出所) ヘッジファンド・インテリジェンス
アジアにおける金融仲介機能の空洞化
アジア企業のユーロ債の発行は、主に域外、アメリカやヨーロッパの金融機
関と決済機関によって引き受けられている。この国際債券市場では、アメリカ
やヨーロッパの金融機関が独占的な地位を占めている。表1を見ると、アジア
出身の引受業者は、サムライ債を扱う金融機関以外は、数少ない。このような
2.3
4
現状は、金融仲介機能の空洞化を引き起こしていることを示している可能性が
ある。
表 1) 国際債市場における主幹事会社のパフォーマンス(2005 年 8 月)
シェア
会社
ランク
金額
手数料(%)
発行件数
(%)
Deutsche Bank AG
1
7.50
131,937
0.29
622
Citigroup
2
7.00
123,301
0.26
495
Barclays Capital
3
5.60
97,407
0.24
426
JP Morgan
4
5.60
97,366
0.33
435
HSBC
5
5.20
91,102
0.24
463
UBS
6
4.60
80,237
0.47
400
Morgan Stanley
7
4.20
73,159
0.30
233
BNP Paribas Group
8
4.10
71,995
0.23
303
Goldman Sachs & Co
9
4.00
69,891
0.21
174
Lehman Brothers
10
4.00
69,719
0.22
237
Credit Suisse First Boston
11
3.90
68,499
0.49
276
ABN AMRO
12
3.40
59,421
0.29
289
Dresdner Kleinwort Wasserstein
13
3.30
57,055
0.23
316
Merrill Lynch & Co
14
3.20
55,339
0.24
243
Royal Bank of Scotland
15
2.60
45,288
0.39
224
Societe Generale
16
2.60
45,135
0.17
139
Hypovereinsbank
17
1.90
33,789
0.28
233
Nomura Holdings Inc
18
1.80
30,747
0.22
146
Bank of America
19
1.70
30,035
0.37
205
Landesbank Barden-Wuerttemberg
20
1.60
27,295
0.27
240
Bank NV
出所) Bloomberg, Jeon YongSuk (2005)
韓国関連の国際債券市場においても、韓国産業銀行、デウ証券会社、ウリ証
券投資会社など、三つの金融機関しか上位 20 位に入っていないのが現状である。
アメリカやヨーロッパの上位 5 社が、市場のシェアの 50%以上を占めている。韓
国の金融機関の低い参加率は、国内金融市場の未発達、国内証券会社の低い信
頼度、マネジメント能力や海外とのネットワークの不在に起因していると考え
られる。さらに、アジア金融危機以後、アジア各国の金融市場は、市場中心シ
ステムに合わせ再編成されたり、アジア企業の直接資金調達の需要が増加して
いるにもかかわらず、アジアの多くの国の国内金融市場の構造は非常に弱く、
その金融サービス市場も外国の資本に浸食されている。
5
表 2) 韓国関連国際債券市場における主幹事会社のパフォーマンス(2005 年 8 月)
シェア
会社
ランク
金額
手数料(%)
発行件数
(%)
JP Morgan
1
14.00
1,238
0.50
6
Citigroup
2
12.30
1,088
0.46
9
Barclays Capital
3
8.60
762
0.29
7
ABN AMRO Bank NV
4
8.40
743
0.16
6
UBS
5
7.20
642
0.99
5
BNP Paribas Group
6
6.60
580
0.60
11
Credit Suisse First Boston
7
5.50
483
0.15
3
Deutsche Bank AG
8
5.10
451
0.61
3
HSBC
9
3.90
348
0.28
6
Korea Development Bank
10
3.80
340
0.30
4
Daiwa Securities SMBC Co Ltd
11
3.70
326
0.30
5
Merrill Lynch & Co
12
3.70
325
1.38
4
Bank of America
13
3.20
282
n/a
6
Standard Chartered PLC
14
3.20
280
n/a
16
Mizuho
15
1.90
168
0.35
1
Nomura Holdings Inc
16
1.90
168
0.00
5
Lehman Brothers
17
1.70
150
n/a
1
Goldman Sachs & Co
18
1.10
100
n/a
1
Daewoo Securities Co Ltd
19
1.10
100
0.30
2
Woori Investment & Securities Co Ltd
20
1.00
92
0.30
1
出所) Bloomberg, Jeon YongSuk (2005)
3. アジア債券市場構築に際しての、法的ないし規制上の障害要因
3.1 源泉徴収税
韓国の居住者の定義は、一年以上韓国に居住した者を言う。居住者及び非居
住者は、証券取引に関するキャピタル・ゲインには税金を払う必要はない。し
かし、債券取引には適用がないが、株式取引には、証券取引税が課税される。
なお、税率は、二ヶ国間の租税条約などによって、2 重税額控除の適用を受け、
多くの場合、減税されるか完全に免除される。
6
債券保有による外国投資家に対する課税
利子所得に対する源泉徴収税
キャピタル・ゲイン税
日本
日本国債には非課税(但し、幾つの条件を 非課税
満たす場合)
韓国
全てのタイプの債券の利子所得の 25%
Source)
AsianBondOnline, Asian Development Bank, 著者により更新
非課税
図 4-1) 国公債の主体別保有シェア
国公債の主体別保有シェア
100%
80%
60%
40%
20%
0%1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
年
金融部門
政府部門
企業部門
個人
海外
図 4-2) 社債(金融債含む)の主体別保有シェア
社債・金融債の主体別保有シェア
100%
80%
60%
40%
20%
0%
1990
1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
年
金融部門
政府部門
企業部門
出所) 韓国銀行, 各年度の資金循環表から作成
7
個人
海外
外国投資家の韓国債券市場への参加が低い理由は、まず、債券の利子所得に
課される源泉徴収税と厄介な税払戻しの手続きである。韓国では、利子所得に
対する源泉徴収税は、非居住者にも課されている。したがって、韓国の債券市
場は、外国投資家にとっては、それ程、魅力的ではないと思われる。また、レ
ポ市場(債券の貸借取引市場)の未発達により、リスクをヘッジすることがで
きない。韓国のレポ市場の歴史が短いこと、またレポ市場の参加範囲が広いこ
とから、多くの機関投資家達は、コール市場を選好している。したがって、国
内市場において多くの投資家を誘うだけではなく、アジア債券市場の発達のた
めにも、源泉徴収税制度を見直す必要がある。
3.2 証券発行の規制
非居住者によってウォン建てで発行される債券は、
“アリラン・ボンド2”と呼
ばれる。韓国政府は、
“アリラン・ボンド”市場を促進するために韓国語の書類
の負担を減らしている。しかし、韓国で非居住者が発行した証券は、韓国の格
付け機関の審査を受けなければならない。
非居住者による債券発行
日本
韓国
許可されている。
許可されている(必要に
よって、事前に財政経済
部の許可必要)
必須ではない/必須ではな
い
必須/必須ではない
準拠法
日本法
韓国法
ドキュメンテーション
日本語
韓国語
承認を得るまでの時間
1-2 週間
n.a.
発行プロセスの期間
2-3 ヶ月
2 週間
非居住者による債券発
行
現地格付3/リスティング
出所) Takeuchi (2005)
3.3 資本規制
韓国の非居住者は投資登録証(IRC)を金融監督院から取得する必要がある。
また非居住者投資家は、場外市場(OTC)での直接取引は許容されていない。外
国投資家の韓国ウォンの購入は証券取引に限られている。
2
3
付録参照。
韓国では格付会社 3 社がある。韓国信用評価(KIS), 韓国企業評価, 韓国信用情報(NICE)
8
資本規制
現地通貨
資本流出
資本流入
日本
制限なし
韓国
制限なし
出所)
外国通貨
資本流出
資本流入
制限なし
金額は持ち込み
申告した範囲に
制限される
申告要
AsianBondOnline, Asian Development Bank
3.4
クロス・ボーダーリンクの危険性
リンクは、預託、与信、証券貸出、カストディアンのあり方を決める。そし
て、決済サービス、機能の選択によって、リンクのデザインが決まる。なぜな
らば、各国の法的構成や証券決済機構(CSD)が異なるからである。リンク
は、また、参加者に必要とされる担保の費用を下げ、クロス・ボーダー決済に
参加する仲介機関の数も減らす。しかし、CSDのリンクは各国を跨ぎ、お互
いに違う法律の下で置かれているので、証券決済機構は、関係のリスクを引き
下げられるように慎重にリンクを設計しなければならない。その結果、CSD
は、国内業務において直面することよりもより複雑かつ挑戦的な法的および業
務上の問題に取り組まなければならない。
債券の清算と決済
国際的なリンケージ
日本
韓国
EuroClear (ICSD)
EuroClear, ClearStream4
CMU (香港)
JSSC (日本)5
RTGS/DVP
有り
有り
決済サイクル
T+3
T+1
国債の決済機関
日本銀行の Japan-NET
韓国証券預託院
JGB サービス
(韓国証券取引所(KRX))に
よって運営
非上場社債の決済機関
取引相手は日本債券決済ネット
韓国証券預託院
ワークを利用(JB Net).
(韓国証券取引所(KRX))に
振替決済制度は 2006 年 1 月から
よって運営
4
韓国証券預託院は、韓国の投資家が保有している国際債を保管するための口座を設けてい
る。(一方的リンケージ)
5 韓国の企業が日本と韓国両国の証券取引所に上場する場合、日本の証券保管振替機構は、
上場されている株式を保管するために統合口座を韓国証券預託院に開設している。(株式保
管のための一方的リンケージ)
9
スタート。
証券取引所で取引され
日本銀行- Japan NET
韓国証券預託院
ている債券の決済機関
(韓国証券取引所(KRX))に
(国債と社債)
よって運営.
出所) AsianBondsOnline (http://asianbondsonline.adb.org),
著者により更新
4.証券決済のデュアル・コアのアプローチの実現性に関して
デュアル・コアのアプローチの証券決済とは、日本の居住者による国際債の
発行の場合に、例えば韓国の CSD を国際的証券決済機関(ICSD)として使い、
一方で、韓国居住者など日本以外の発行体による国際債の発行の場合に、日本
の CSD(東京の保振機構、ないし大阪の機関など)を国際的証券決済機関(ICSD)
として使うことを指す。
ユーロ債市場におけるユーロクリア(ベルギー)とクリアストリーム(ルク
センブルグ)の2大決済機関のように、この二つのアジアの異なる国に存在す
る証券決済機関を、「二つのコア(Dual core)」の ICSD として使うことで、欧
州の2大決済機関に頼ることなく、アジア内で発行・流通を自己完結的に行うこ
とのできるオフショア債市場創設が可能となるのではないのか。ちなみに、英
国居住者発行の債券が、ユーロクリアもしくはクリアストリームで決済されれ
ば、その債券はユーロ債(国際債・オフショア債)として認識される。ベルギ
ーの居住者発行の債券は、ユーロクリアではなくクリアストリームで決済され
てはじめてユーロ債として認識される。
このアプローチは、幾つかの問題を除いては、実現可能である。韓国の企業
が、債券を発行し、その債券を外国投資家に売る場合には、その外国投資家は、
韓国の証券業の監視規制に従わなければならない。したがって、外国投資家は、
自分あるいは、代理人を金融監督院(FSS)に登録し、韓国為替銀行に口座を開
設しなければならない。しかしながら、韓国では、モニターリングのために、
オムニバス口座(乗り合い馬車(混蔵寄託)方式の代理人名義の証券保管口座)
を設けることができない。
また、為替取引規制の 7 条 28 項によると、海外で証券を売ろうとする者は、
海外の証券決済機構などに証券を保管しなければならない。だから、韓国企業
が発行した証券は、日本の証券保管振替機構(JASDEC)に保管される。しかし、
証券発行は、韓国の財政経済部に報告しなければならない、また、その場合に、
韓国の証券は、韓国のウォンでは、決済できないといった問題がある。 デュ
アル・コアのアプローチが円滑に作動するためには、上の制度的な障害要因が
10
廃止または緩和されなければならない。
アジア債券がユーロ債(国際債・オフショア債)として認識されるためには、
まず、各国の証券決済機構のリンケージや協力の下で、アジア債券を保管可能
な債券として指定する必要がある。それで、各国の法律が、海外の証券決済機
構の名義で、統合口座を開設することを許容しなければならない。上の条件を
満たし、場外(OTC)取引が可能であれば、それは、完全に国際アジア債券とし
て決済できる。しかし、このような双方的なリンケージは、複雑な構造になっ
て、維持・管理の面でコストがかかり、登録されている証券決済機構の間しか
決済ができない短所がある。その代案としては、韓国では、アジアセットルと
いう新しい国際証券決済機構の創設を提案している。(Oh et al, 2004)
Reference
Asian Development Bank, Asian Economic Cooperation and Integration, 2005
Asian Development Bank, “Asian Bond Standards”
(http://asianbondsonline.adb.org/documents/Asian_Bonds_Standard_2005
_May.pdf)
Asian Development Bank, Bond Market Settlement and Emerging Linkages in
Selected
ASEAN+3 Countries, June 2005
BIS, “Recommendations for Securities Settlement Systems,” November 2001
Huh (2005), “Establishing and Operating a Regional ICSD (“AsiaSettle”)
for Asian Bond Markets” Presented at NIRA seminar
Inukai Shigehito (2005), “東アジア域内共通の金融資本市場構築への課題”
(中国北京市人民大会堂講演)
Jeon, YongSuk (2005), “Perspectives and Main Businesses of Lead Manager
Companies in Global Bond Issuance”, Korea Development Bank (in Korean)
Oh, et al (2004), “Building a Settlement Infrastructure for the Asian Bond
Markets:AsiaSettle”, KIF Financial Economics Series No. 2004-02
Takeuchi Atsushi (2005), “Study of Impediments to Cross-border Bond
Investment and Issuance in Asian Countries”, Asian Bonds Online Website
Yoshida (2006), “Framework for Dual Core Asian International CSD”
Presented at NIRA-ADB Joint Seminar, 27 March 2006.
11
付録1
I.アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)
1.背景
アジアでは、高い貯蓄率にもかかわらず、経済発展に必要な中・長期の投資
資金が十分に供給されていません。民間貯蓄をアジアの経済発展に必要な中長
期の資金ニーズに結び付け、通貨・期間のミスマッチを解消するためには、銀
行融資に過度に依存することなく、アジア域内の債券市場を育成することが重
要です。
最終目標は、アジアの貯蓄をアジアの民間事業者が長期の資本形成・投資に
動員できるよう、アジア域内通貨建ての債券の発行を可能とするようなアジア
債券市場の整備を目指すことです。
2.基本的考え方
多様な通貨・期間の債券をできる限り大量に発行し、市場に厚みを持たせる
とともに、保証や格付機関等の環境整備を行うことで、債券発行企業・投資家
双方にとって使いやすい、流動性の高い債券市場を育成します。
そのため、ASEAN+3(日中韓)のプロセスの中で各国が協力して、中
長期的措置も含め、さまざまな項目を包括的に検討することが必要です。
この検討を進めるにあたって、ASEAN+3ヶ国は、わが国が主導的役割
を果たすことを期待しています。
3.主要な検討項目
(1) 債券発行主体の拡大・通貨建ての多様化
① ベンチマーク形成のための各国政府による国債発行の促進
② 政府・政府系金融機関による債券発行の促進 ― 調達した資金を民間企業へ融資
③ 多数のローンを束ね、保証等も活用 ― 中小企業の債券市場からの資金調達に道
④ 国際金融機関や政府機関による現地通貨建て債券発行の促進
⑤ 海外直接投資を行う主体が資金を調達するための現地での債券発行を促進
⑥ 債券の通貨建ての拡大 ― 現地通貨や通貨バスケットによる債券の導入
(2) 環境整備
① 保証の活用 ― 国際機関等の保証の活用、アジア信用保証機構の設立の検討
② 域内格付機関の育成 ― アジアの経済・社会状況を熟知した格付機関の育成
③ 情報の発信 ―― 域内の優良企業、経済・社会状況等を紹介
④ 決済システムの強化・協調
⑤ 技術支援 ―― 債券市場の発展を阻害する要因を特定、技術支援で解消
12
キャパシティー・ビルディングが重要
II.
チェンマイ・イニシアティブ (Chiang Mai Initiative)
1.背景
1997 年∼98 年のアジア通貨危機の経験を背景に、1999 年 11 月の ASEAN+3 (日
中韓)首脳会議(マニラ)において、ASEAN+3ヶ国首脳が「東アジアにおける自
助・支援メカニズムの強化」の必要性に言及しました。これを踏まえ、2000 年
5 月の ASEAN+3蔵相会議(チェンマイ)において、東アジア域内における通貨
危機のような事態の予防・対処のための二ヶ国間通貨スワップ取極(BSA)のネ
ットワークの構築等を内容とするチェンマイ・イニシアティブ(Chiang Mai
Initiative: CMI)が合意されました。これまでに、日本、中国、韓国、インド
ネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの間で BSA のネットワ
ークが構築されており、その規模は、2005 年 4 月末時点では総額 395 億ドルに
達しています。
2005 年 5 月の第 8 回 ASEAN+3財務大臣会議(イスタンブール)においては、CMI
を、より効果的かつより規律ある枠組みにするための強化策として、①域内経
済サーベイランスの CMI の枠組みへの統合と強化、②スワップ発動プロセスの
明確化と集団的意思決定メカニズムの確立、③規模の大幅な拡大、及び④スワ
ップ引出しメカニズムの改善を行うことについて合意がなされ、今後は、CMI の
更なる強化に向け、マルチ化への方策等を検討していくことになりました。
2.第 8 回 ASEAN+3(日中韓)財務大臣会議 共同声明の主なポイント
チェンマイ・イニシアティブ(CMI)については、CMI をより効果的かつより
規律ある枠組みにすることにより、東アジアの自助・支援メカニズムを強化す
るとの我々の決意を再確認。見直しの基本原則として、①短期流動性問題への
対処、②既存の国際的枠組みの補完、との CMI の中核的目的を堅持。
国際金融市場における脆弱性は依然として残っているが、他方、2000 年以来地
域の経済・金融情勢が改善し、地域金融協力が進展していることに鑑み、以下
の措置に合意:
1) 域内経済サーベイランスの CMI の枠組みへの統合と強化:市場の不規則
な動きを早期に発見し、政策面での是正措置を速やかにする。既存の国際金融
機関の取組みを補完するような効果的な域内サーベイランス能力の向上を目指
す。
2)スワップ発動プロセスの明確化と集団的意思決定メカニズムの確立:マル
チ化の第一歩として、緊急時において関係する二ヶ国間通貨スワップ取極(BSA)
が一体的かつ迅速に発動できるようにする。
13
3)規模の大幅な拡大:規模拡大は、①既存取極の拡大、②新規取極の締結、
及び③片務的取極の双務化を通じて行う。二ヶ国間交渉によるものの、加盟国
は既存個別スワップ取極(BSA)の 100%までの拡大による枠組みの強化に賛成。
なお、ASEAN スワップ協定の 10 億ドルから 20 億ドルへの拡大を決定したことに
留意。
4) スワップ引出しメカニズムの改善:従来からの規律正しい条件をしっかり
と維持しつつ、突然の市場の混乱に臨機応変に対処するべく、IMF プログラムな
しに発動可能なスワップ額の上限を現在の 10%から 20%に引上げ。
14
付録2
韓国の債券市場
-発行市場と流通市場-
1. 韓国の企業の資金調達
韓国企業の資金調達の構造変化は、金融制度と密接な関係を持つ。経済開発
過程に置いて、銀行などの金融機関が重要な役割を果たして来たことは周知の
事実である。このような銀行中心の金融システムは 1980 年代に入ってからは、
株式市場などの資本市場育成政策により、資本市場も企業金融供給の一役を果
たし始めた。
企業の資金調達の構造を資金循環表から見ると、アジア経済危機をきっかけ
に直接金融の比率が間接金融の比率を逆転する構造変化を見せている。危機前
後に株式や社債発行などの直接金融の比率が逆転して上回ってきたが、それは
金融再編成を経験したノンバンクからの借入額が大幅減少したからである。そ
の一方、直接金融の依存度はノンバンクの主な商品であるコマーシャルペーパ
の発行が、危機以後、不振だったにもかかわらず、社債および株式発行が非常
に増加してきた。その理由は、1998 年の場合、金融再編成によって 自己資本比
率(BIS)に拘束される銀行から借入が困難になり、相対的に信用度の良好な企
業は社債市場から大量の資金を調達したからである。
このような企業の資金調達の変化は、アジア危機以後、金融機関の再編成に
関わっている。金融機関および企業の再編成により、金融市場の資金がシフト
され、その結果、企業の資金供給へ影響を与えざるを得なくなった。
図 1 によると、危機以前 1997 年に比べて、株式発行による資金調達の規模は
大幅増加している。このような企業金融の供給の非定常的な変化は、企業の資
金調達構造へ直接に影響を与えている。アジア金融危機以後、1998 年に入って
からは、銀行は、不良債権を減らす方法として、危険な企業への貸付を回避し
た。そのゆえ、株式市場、社債市場、コマーシャルペーパ市場では、割と安全
だと見なされた大手企業へ資金が集中する現象が起こった。
図1.企業の資金調達構成(ストック)
15
企業の資金調達構成
100%
80%
60%
40%
20%
0%
1990
1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
年
国公債
社債・金融債
CP
外債
株式
金融機関から借入
出所:韓国銀行、各年度の資金循環表から作成
2. 債券市場の現状
韓国の資本市場育成政策は、主に株式市場を中心に行われて来た。債券市場
の発達は相対的に遅れて、1970 年代半ばまでは、社債の取引は少なく、国債の
一部のみ取引された6。1972 年の金利引下げで、景気上乗により、企業の資金需
要が増加した反面、銀行貸出などの間接金融による資金調達が困難になって、
社債を通した資金調達の必要性が増大し始めた。その後、1973 年 8・3 措置が取
られ、私債凍結及び企業開示誘導などによって、社債市場が多少萎縮したが、
1974 年以後、金利を下方調節し社債市場の活性化のために「社債保障制度」を
導入し、社債発行による企業資金調達が活発になった。1978 年以後からは、企
業の資金調達源として、社債発行が株式発行を圧倒した。だが、1988 から 1989
までには、株式市場の好況で株式発行による資金調達が大きくなった。
1989 年以後、株式市場の停滞下で、有償増資と企業公開が抑止され、物価不
安を恐れた通貨当局が銀行貸出を抑止し、企業の資金需要が社債市場へ集中さ
れた。したがって、金融当局は社債発行活性化を通じた企業資金調達を円滑に
するために、投資信託会社以外にも、銀行・保険・基金などの社債引受団への
参加、3 年以上満期の社債発行手数料収益を自由化、市中銀行の私募社債の引受
業務を許容するなどの措置をとった。その結果、1990 年中、社債発行の規模は、
前年対比 60%弱増加した反面、株式発行を通した資金調達の規模は前年対比 80%
6
基本的に国債は国債引受団が発行物量を全額引き受ける方式で、社債は起債調整協議会を
通して債券発行物量を調整する方式で消化した。
16
減少した。
1997 年末、金融危機以後、銀行貸出の萎縮(貸し渋り)が発生。企業の円滑
な資金調達を支えるために、社債発行限度を自己資本の 2 倍から4倍(1997 年
12 月)へ拡大し、証券会社の社債総額引受制度を義務化(1998 年 8 月)し、資
産流動化に関する法律(1998 年 9 月)と住宅抵当債券流動化会社法(1999 年1
月)を制定し、資産流動化証券の発行を通した資金調達が可能になった。
1999 年 3 月には、国債専門流通市場が設けられ、7 月には国債専門ディーラ
ー制度が導入されてから、国債の円滑な消化と国債市場の活性化に寄与した。
2000 年代に入ってから、資本市場の先進化のために、制度整備が行われた。ま
ず、債券市場は、ディーラー間の債券仲介会社設立7(2002 年 2 月)、国債専門
ディーラー(PD, primary dealer)に対する金融支援体制の準備(2000 年 3 月)、
民間債券評価会社設立の許可(2000 年 6 月)及び債券時価評価制度の全面施行
(2000 年 7 月)、国債入札方式を複数金利決定方式から単一金利決定方式へ変更
(2000 年 8 月)、債券決済日を当日(T+0)から翌日(T+1)へ変更(2003
年 6 月)など、債券市場の活性化と効率性を高めるために、各々の制度が改善
された。
韓国の債券市場の対外開放は、国内外の金利格差と国内債券需要基盤などが
考慮されたので、遅れて来た。1994 年 7 月、外国人の中小企業発行の無保証上
場転換社債の買取が許容されて以来、外国人投資専用の中小企業の無保証社債
発行の許容(1997 年 1 月)、中小企業の無保証中長期社債および大企業の無保証
転換社債買取の許容(1997 年 6 月)、など、外国人に対する市場開放が段階的に
拡大されて来たが、1997 年 12 月には、すべての上場債券に対して、外国人の投
資限度の規制が完全に廃止された。
主要債券発行機関、根拠法、発行限度
債券名
発行機関
根拠法
発行限度
国庫債券
政府
国債法
国会の同意限度
外国為替平衡基金債券
政府
為替取引法
国会の同意限度
国民住宅債券
政府
住宅法
国会の同意限度
通貨安定証券
韓国銀行
韓国銀行法
M2の 50%以内
銀行債
銀行
銀行法
自己資本の 3 倍以内
事業債
株式会社
商法
純資産額の 4 倍以内
産業金融債券
韓国産業銀行
韓国産業銀行法
資本金及び積立金の
7
債券取引・仲介機能を拡充するために導入され、6 月からは韓国資金仲介株式会社がディ
ーラー間債券仲介業務(IDB, Inter-dealer broker)を兼業し、その後、KIDB 債券仲介株
式会社も参加している。
17
30 倍以内
韓国電力債券
韓国電力会社
韓国電力会社法
資本金及び積立金の
2倍以内
預金保険基金債券
預金保険公社
預金者保護法
国会の同意限度
預金保険基金債券
預金保険公社
預金者保護法
国会の同意限度
韓国資産管理公社
韓国資産管理公社法
国会の同意限度
償還基金債券
不良債券整理基金債券
債券発行推移
国債
地方債
特殊債8
金融債9
(単位:億ウォン)
社債
合計
1996
88,728
4,485
52,677
71,684 299,025
516,599
1997
68,278
18,018
244,093
437,890 343,221
1,111,500
1998 169,889
21,895
528,799 4,118,299 560,003
5,398,885
1999 291,912
25,041
384,608 1,054,246 306,714
2,062,521
2000 247,003
16,189
260,904 1,423,321 586,628
2,534,045
2001 331,192
16,267
476,567 1,211,314 871,849
2,907,189
2002 317,690
19,767
121,134 1,488,234 775,220
2,722,045
2003 628,602
19,678
136,316 1,573,668 617,575
2,975,839
2004 751,164
18,925
210,512 2,133,831 503,790
3,618,222
出所)財政経済部の“財政金融統計”、金融監督院の“金融統計月報”
3.
発行市場
3.1 国債市場
国債専門ディーラー制度
1999 年7月、国債の円滑な消化と国債市場の活性化のために、国債専門ディ
ーラー制度を導入し、国債自己売買業務の取扱金融機関(銀行、証券会社、総
合金融会社)の中から、国債引受及び流通実績が優れた金融機関を国債専門デ
ィーラーとして選定した。選定された国債専門ディーラーは次のような義務と
権利が与えられる。
国債専門ディーラーの義務と権利
8
特殊債は、特殊法によって設立された特殊法人が発行する債券として、土地開発債、電力
公社債などがある。
9 金融債は、
特殊債の中で、発行主体が銀行である債券として、通貨安定証券、産業金融債、
国民銀行債、中小企業債などがある。
18
債専門ディーラーの義務
国債の発行市場
3 ヶ月ことに満期別の国債総発行物量の 5%以上を引受
国債専門
国債指標種目は国債専門流通市場のみで取引
流通市場10
国債指標種目に関する売却収益率の呼値と購買収益率の呼値を持続
的に提出して取引すること
提出した呼値が全量売買で採決された場合、60 分(売買取引時間基
準)以内で再び呼値を提出してその呼値の数量は額面基準で 100 億
ウォン以上であること
三ヶ月間の国債専門流通市場での国債取引の実績が同期間の当該専
門ディーラーの総国債取引量の 40%以上を取引すること
国債流通市場
顧客が優先的に取引を要請する場合、該当国債(国債指標種目除外)
に対する呼値を提示し、取引に応じる
三ヶ月間の国債取引実績が同期間の国債全体取引量の 5%以上を取引
すること
半年間ことに自己売買向けの国債保有平残を 1000 億ウォン以上に維
持すること
国債早期償還際、三ヶ月間ことに早期償還金額の 5%以上を政府から
落札をもらうこと
国債専門ディーラーの権利
国債管理業務へ
国債競争入札及び早期償還に優先的に参加する権利が与えられ、一
優先的に参加
般人の入札参加を代行
政府の国際管理者との定期的な協議及び情報提供を通じて、主要政
策決定事項に対する意見提示
国債引受及び
国債発行及び流通の円滑化のために国債引受金融及び流通金融を低
流通金融支援
い金利で支援
国債発行及び償還メカニズム
国債は、国債法により、財政経済部長官が中央政府の各部署から発行要請を
受け、発行計画案を作成した後、国会の審議と議決を経て発行する。現在、国
民住宅債券及び粮穀証券を除いた国債発行の事務は韓国銀行が代行して、通常
10国債専門流通市場とは一般的に国債専門ディーラーなど市場造成活動を担当する一部の
金融機関だけが参加する市場として、大量取引を通じて国債価格が決まるので、指標金利
を形成する中心になり、国債の流動性を高めるにも非常に重要である。韓国では、1999 年
3 月証券取引所内で国債専門ディーラー、予備国債専門ディーラー、国債ディーラーなど、
機関投資家の国債卸売取引のために、競争売買市場である国債専門流通市場が設けられた。
19
発行予定日(一般的に水曜日)二営業日前に国債専門ディーラーを対象にし、
競争入札を行う。入札形態は従来の書面入札から 1999 年 1 月から韓国銀行の
BOK-Wire を通じた電子入札へ変更された。
入札は月曜日 13:20 から 14:00 まで、40 分間行われ、入札方式は発行予定
金額の範囲内で単一金利決定方式を適用する。資金決済は発行当日行われ、
BOK-Wire を通して、発行代金が入金されたら、韓国銀行は即時、証券預託院へ
一括登録を通報して、口座振替が行われ取引が終わる。
国債と財政証券の償還は韓国銀行が元利金を支給日に証券預託院の韓国銀行
当座預金口座へ元金を一括入金すると、証券預託院は国債保有機関の韓国銀行
当座預金口座または、取引銀行の韓国銀行の当座預金口座へ元利金を入金した
ら終わる。また、国民住宅債券の場合は、両債券の保有機関が社債の元利金の
償還手続きと同じく、満期日(利子支給日)に償還業務代行機関である国民銀
行や農協の充てへ債権と利表を交換し、元利金を回収する。
3.2 社債市場
社債は、募集方法によって、公募発行と私募発行で区別され、公募発行の場
合は、引受機関である証券会社が総額を引き受ける方式で発行される反面、私
募発行の場合は、発行企業の最終買収者と発行条件を直接協議してから発行さ
れる。発行金額は、商法 470 条により、会社が現在保有している純財産額の 4
倍以内で制限されている。満期は、一般的に 1,2,3,5 年で発行されている。
社債発行メカニズム
発行会社は、引受機関(主に証券会社)を選定し、発行事務を委任する。そ
して、引受機関は、発行社債を総額引受した後、買収者(銀行、投資信託運用
会社、保険会社などの機関投資家)に当日、社債を売り渡す。この際、引受機
関は引受負担を減らすために、発行計画を立てるとき、予め買収者を探す。買
収者は取引銀行へ売買採決の内容を通報し、社債発行企業へ代金支給を指示す
る。発行企業は、買受機関の取引銀行から社債発行資金を取引当日に受け取る。
一方、社債の受け渡しは証券会社が社債を買収者名義で証券預託院に開設され
た口座へ登録して終わる。
社債償還メカニズム
社債の元金償還及び利子支給は、発行企業と証券預託院、元利金支給及び代
行銀行及び債券交換代行銀行、元利金償還、代行証券会社を通して行われる。
証券預託院は、元利金支給日の二日前に、元利金支給代行銀行へ元利金の支給
20
日が近づいたことを知らせ、満期日に、債券交換代行銀行を通して満期社債と
利表の交換へ回付して、発行企業が元利金支給代行銀行へ予め預けた元利金が、
債券交換代行銀行を通して、元利金償還代行証券会社へ入金され、社債保有者
は元利金償還代行証券会社から元利金を回収する。
4. 流通市場
債券の流通市場は大きく分けて、場外(OTC:店頭)市場と場内市場で構成さ
れている。多くの債券は場外市場で取引され、主に証券会社の単純仲介を通し
て行われている。一方、場内市場は証券取引所内で設置され、一般債券市場と
国債専門流通市場で区別される。
債券の場外市場と場内市場の比較
場外市場(OTC)
取引参加機関
場内市場
証券会社単純仲介
IDB仲介
一般債券市場
国債専門流通市場
制限なし
機関投資家、
証券取引所
国債専門ディーラー
基金、投信、
正会員
予備ディーラー
ミューチュア
ルファンド
取引仲介機関
証券会社
IDB
証券取引所
証券取引所
主要取引種目
すべての債券
左同
小額国公債・株
国庫債券
式関連社債
売買方式
相手売買
事実上相手売
競争売買
買
(自動売買シ
左同
ステム)
売買時間
制限なし
左同
09:00−15:00
左同
通常 09:00−15:30
決済時点
翌日決済
左同
当日決済
翌日決済
最初売買単位
制限なし
左同
小額国公債、
100 億ウォン
通常 100 億ウォン
1,000 ウォン
その他債券、10
万ウォン
4.1 場外(OTC)市場
債券の取引は、多くの証券会社(IDBを含む)を仲介機関として場外で行
われている。これは、債券の種目が多様で、取引条件も標準化されてないので、
証券取引所市場の自動売買システムを通しては、円滑な取引が困難だからであ
21
る。 場外市場は、取引の特性上、売買時間の制限はないが、普段、銀行の営
業時間の範囲内で(09:00∼15:30)取引される。取引単位は、慣行的に 100
億ウォンである。取引が行われたら、買取機関は自分の取引先銀行へ売出機関
充てに代金支給を支持し、買取機関は証券会社を通し、証券預託院に口座振替
を要請する。資金及び債券決済は通常、取引の翌日(T+1)に行われる。
4.2 場内市場
場内市場は、証券取引所で上場された債券を対象にし、標準化された取引
方式によって、取引が行われ、組織的な市場として証券取引所内で設置されて
いる。大きく一般債券市場と国債専門流通市場で区別される。
証券取引所の一般債券市場
不特定多数の一般投資者が参加する市場として、国債専門流通市場で別で取
引される国公債を除いてすべての取引所の上場債券が取引対象だが、現在は、
小額国公債と上場転換社債が主に取引されている。
国債専門流通市場
国債専門流通市場は、一般的に国債専門ディーラーなど、マーケットプレヤ
ーの一部、金融機関のみが参加している市場で、大量で取引されて国債価格が
決定されているので、指標金利を形成するに重心になり、流動性を高めるのに
も重要になっている。
5. アリラン・ボンド市場
アリラン・ボンドは、非居住者が韓国の資本市場でウォン建て発行の外国債
を言う。アリラン・ボンドは、1995 年 9 月に初めてアジア開発銀行アジア開発
ファンド資金の納入のために一億ドルを発行してから 1997 年 4 月と 5 月に IBRD
と EBRD によって発行されたことがある。特に IBRD と EBRD によるアリラン・ボ
ンド発行の場合は、ADB 発行とは異なり、総発行量の 25%を海外市場で販売した
ことが特徴である。
アリラン・ボンド発行の効果は、まず、代金決済はアメリカドルで行われる
が、ウォン建てなので、ウォンの対外認知度を向上することにより、ウォンの
国際化を図ることができる。そして世界的に金融機関が発行した債券が国内債
券市場で流通され国内債券市場を活性化させることに寄与する。 アリラン・ボ
ンドの発行制度は、1995 年 5 月国際機関のウォン建て債券発行を許容し、1996
年 12 月からは非居住者のウォン建て債券発行を自由化させることによって、現
在は、国際機関から外国政府及び地方政府、公共機関、金融機関、外国企業な
22
どへ拡大されている。しかし、以下の制度的障害要因で、あまり活性化されて
いないのが現状である。
①外国人による 1 年満期の短期社債の発行は許可事項である。
なぜならば、短期社債の場合、ヘッジ・ファンドが、その国家の通貨に対す
る投機的な攻撃手段になる可能性がある。 このような投機的攻撃からウォン
を守るために外国為替管理法上許可事項になっている。
②
外国企業の財務情報公示基準を緩和
金融監督院第三次定例会議(2003 年 1 月 24 日)で“有価証券の発行及び公示
などに関する規定”の改定)
今回の規定改訂によって、外国企業の債券発行の重要な制約要因であった国
内会計基準による要約財務諸表などの作成提出義務が完全に免除されることに
より、外国為替取引方によるウォン建て証券発行申告の手続きだけ済めば、外
国企業も国内企業と同じ条件で債券を発行することになった。
③ 公募発行の際のデューデリジェンス
義務違反に対する発行者の責任限界に関しての法的不確実性
義務違反関連の訴訟に提起された場合、その責任の限界に対する解釈や判例
がない。また、訴訟に負けた場合、賠償の責任限度にも関して不確実である。
④
私募社債登録発行に対する基準がない。
Reference
我が国の金融制度、韓国銀行
Websites
韓国銀行:www.bok.or.kr
韓国金融監督院:www.fss.or.kr
韓国財政経済部:www.mofe.go.kr
韓国証券業協会:www.ksda.or.kr
韓国証券預託院:www.ksd.or.kr
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