1年を通して注意が必要なOAS

ア
アレルギーの診断と検査
進
進化するアレルギー検査
現代の私たちの
患者が増加傾向にあり、一年を通して
口腔アレルギー症候群
注目のアレルゲン
注意が必要なOAS
OAS(Oral Allergy Syndrome:口腔アレルギー症候群)
は、
原因食物が口腔粘膜などに接触することで、その周辺に
かゆみや浮腫などのアレルギー反応が引き起こされるものです。
食物アレルギーの特殊型として位置づけられ、近年、患者は
増加傾向にあります1)。多くの場合、花粉症に合併し、中でも
ハンノキやシラカンバ花粉症との合併が良く知られていますが、
他にも注意すべきものがあります。
OASが花粉症に合併しやすいのは、花粉と果実、種実中に
それぞれ類似した構造のタンパク質が含まれており、それらが
アレルゲンとして働いているためです。OASと花粉症のこう
した関係を知れば、他の雑草花粉症に合併するOASがあっ
てもなんら不思議ではありません。
実際にイネ科雑草のカモガヤ花粉ではナス科やウリ科の
食物と、キク科雑草のブタクサ、ヨモギ花粉ではウリ科や
セリ科の食物と、それぞれ共通抗原性があることが報告され
ています(図)。OASはこれらの花粉飛散期に症状を発現し
やすくなりますので、ハンノキ、シラカンバ花粉の飛散期が
過ぎた後も引き続き注意が必要となります。
兵庫県東播磨地域で実施された調査の結果では、ヨモギ
特異的IgE陽性者(クラス2以上)の11.8%、ブタクサ特異的
IgE陽性者の3.8%、カモガヤ特異的IgE陽性者の2.6%に、
なんらかの果物あるいは野菜に対するOAS症状発現の既往
があったことが報告されています2)。特異的IgEがクラス3以上
であった被験者に限定すると、OASの既往はそれぞれ17.6%、
6.9%、2.9%となり、花粉に対する特異的IgE抗体価が高い
場合ほど、OAS症状を発現するリスクが高くなると推察され
ます。また、OAS症状を発現した原因食品で最も頻度が高かっ
たのはメロンで、次いでスイカ、キウイ、リンゴの順でした。
アレルゲンをタンパク質の分子レベル(アレルゲンコンポー
ネント)で捉えることを
“Molecular Allergology”
と呼び、アレ
ルギー性疾患の診断や治療への応用が研究されています3)。
例えば、花粉症の原因となっているアレルゲンコンポーネント
を調べておけば、関連する果物を食べたときに症状が誘発
されるかどうかを予測できるかもしれません。欧州では、シラ
カンバ花 粉症に合 併するリンゴやモモなどバラ科果物の
OAS研究を通じてMolecular Allergologyの研究が盛んに
なったという背景もあり、OASに関連した研究が盛んですが、
最近ではGly m 4(グリエムフォー)というコンポーネント
の利用によって豆乳アレルギーの診断精度が向上するとの
報告もあります4)。すでに臨床応用されたものにはω-5 グリア
ジンによる小麦アレルギーの診断などがあり、血液検査に
よる、より正確な食物アレルギーの診断が可能になってきて
います。今後は、花粉症やペットアレルギーなど、吸入アレル
ゲンについても詳細な研究が進んでいくことでしょう。
1)池澤善郎:アレルギー科 18:537-545,2004
2)足立厚子,堀川達弥:アレルギー 55(7)
:811-819,2006
3)松倉節子,相原道子:アレルギー・免疫 17(6)
:1031-1038,2010
4)福田恭子 他:J Environ Dermatol Cutan Allergol 1(2)
:124-130, 2007
図 OAS口腔アレルギー症候群 ∼関連する原因花粉の植生と食物∼
近年、我われが生活する住宅では、断熱・気密性が高まり、
快適な住宅環境を得ることが可能になりました。
しかし、
人間に
とって快適な生活環境は、真菌にとっても増殖に適した環境と
なっています。室内の気密性が高まり外部からの空気の流入
が少なく高湿度になり、真菌が発生しやすいことが、真菌に
よる健康障害の背景にあるとされています。
室内空気中の主要真菌であるクラドスポリウムやペニシリ
ウムは、梅雨時から9月にかけて増加します。一方、室内塵中の
真菌は年間を通じて大きな変動はなく、主なものはアスペル
ギルス、クラドスポリウム、ペニシリウムなどです 1)。これらの
真菌は、ペットの飼育、換気不良、湿気、カーペット、水漏れで
増加することが海外の研究で確認されています 2-4)。また、
高温多湿の季節はエアコンを使用する頻度が高くなりますが、
エアコンのフィルターには汚れがたまりやすく、付着する真菌
量も多いと言われています5)。アスペルギルスやペニシリウムは、
室内塵や食品、繊維などに分布し汚染すると大量の胞子を
放出することからアレルゲンとして重視されます 5)。
成人気管支喘息患者における感作アレルゲンの全国調査 6)
によると、各真菌の抗体保有率はアスペルギルス16.6%、
アルテルナリア9.5%、クラドスポリウム6.8%でした。加齢に
伴い、他の吸入アレルゲンの抗体保有率が低下するのに対し、
アスペルギルスの抗体保有率は年齢による差がないと報告
されています。
また、屋外真菌は6∼10月に冬季の5倍以上に増加し、
レンズ
皮革
紙・書籍
冷蔵庫
靴
衣類
エアコン
木材・繊維
アスペルギルス
ペニシリウム
食物アレルギーというと子供の病気、という認識が一般的
かもしれません。しかし、成人においても食物アレルギーは
決してまれではありません。全国のアレルギー専門施設を対象
とした疫学調査では、食物アレルギー症例のうち9.2%が
20歳以上の成人例であったとしています(図1)1)。この調査は
医療機関を受診した症例の集積調査ですが、成人の場合、
軽症例では食物アレルギーと気付かなかったり、気付いて
いてもわざわざ医療機関を受診しなかったりする場合も少なく
ないと考えられます。それにもかかわらず20歳以上の成人
食物アレルギー症例が9.2%を占めるということは、潜在的
な成人食物アレルギー患者は相当数存在すると考えるべき
でしょう2)。
また、当科でも2007年にアレルギー学会にて成人アナ
フィラキシー63例の報告をしましたが、食物による症例が
37例と60%近くを占めました3)。
成人の食物アレルギーはその原因食品と臨床像において、
小児の場合と大きく異なっています。上述の調査にもある
ように、成人の食物アレルギーにおける原因食品では甲殻類、
小麦、果物類が上位を占めます(図2)1)。甲殻類アレルギーの
症状はのどのかゆみや、食物依存性運動誘 発アナフィラ
キシーなど様々ですが、成人小麦アレルギーのほとんどが
運動誘発アナフィラキシーとして発症します。この病態の
診断にはω-5 グリアジン特異IgE検査が非常に有用です 4)。
また、果物アレルギーでは、新鮮な食品による口腔アレルギー
症候群(OAS)として発症することが多く、このような場合は
特異的IgE検査に加え、新鮮な食品によるPrick-Prick test
が必要となります。また、OASは花粉症と関連して発症する
ことが多く、果物に対するIgEの測定と併せてカバノキ科※1や
イネ科※2、キク科※3などの花粉に対する感作の確認が診断に
非常に役に立ちます。
図2の第4位に魚類が挙げられていますが、
図1 即時型食物アレルギーの年齢分布
(人)
450
クラドスポリウム
カビアレルギー対策については【アレ
アレルギー
ア
ル ー情報室
ルギ
情報 】検索よりダウンロードできます
情報室
400
350
屋内で見られる
カビの特徴*
トマト
じゅうたん
ヒノキ
アルテルナリア
ニンジン・セロリ・キウイ・トマト・ピーナッツ・ヘーゼルナッツ(ハシバミ)
・ジャガイモ・レタス・クリ・ピスタチオ・
ヒマワリの種、香辛料(マスタード・コリアンダー・クミン)
トマト
和室
ヒノキ科
スギ
畳
キク科
ヨモギ
スイカ・メロン・バナナ・ズッキーニ・キュウリ
靴箱
日本アレルギー学会指導医
喘 息予 防・管 理 ガイドライン
2009の作成委員も務める。
カモガヤ
居間
メロン・スイカ・トマト・オレンジ・ジャガイモ・タマネギ・セロリ・キウイ・米・小麦
山口 正雄 先生
押入れ
准教授
乾燥環境
ハウスダスト
イネ科
オオアワ
ガエリ
帝京大学医学部内科学講座
呼吸器・アレルギー学
結露した壁
バラ科
(リンゴ・モモ・洋ナシ・イチゴ・ナシ・スモモ・アンズ・サクランボ)
、
ヘーゼルナッツ
(ハシバミ)
・クルミ・アーモンド・ココナッツ・
ピーナッツ・セロリ・ニンジン・ジャガイモ・キウイ・オレンジ・メロン・ライチ、
香辛料
(マスタード・パプリカ・コリアンダー・トウガラシ)
湿性環境
空中
シラ
カンバ
カビの
生息場所*
台所
ハンノキ
バラ科(リンゴ・モモ・イチゴ・ナシ・ビワ・サクランボ)
、ウリ科(メロン・スイカ・キュウリ)
、ダイズ(豆乳)
・キウイ・オレンジ・
ヤマイモ・マンゴー・アボカド・ヘーゼルナッツ(ハシバミ)
・ニンジン・セロリ・ジャガイモ・トマト・ゴボウ
ブタクサ
1)高鳥浩介:アレルギー 54(6)
:531-535,2005
2)O’
connor GT et al:J Allergy Clin Immunol 114(3)
:599-606,2004
3)Matheson MC et al:Clin Exp Allergy 33(9)
:1281-1288, 2003
4)Burge HA:J Allergy Clin Immunol 110(4)
:544-552, 2002
5)高鳥浩介:アレルギー・免疫 15(9)
:1164-1171, 2008
6)足立 満 他:アレルギー・免疫 13(4)
:548-554,2006
7)奥田 稔:耳鼻20補2:297-344,1974
8)信太隆夫 他:医療 42(6)
:521-529,1988
9)O’
Hollaren MT et al:N Engl J Med 324(6)
:359-363,1991
10)Targonski PV et al:J Allergy Clin Immunol 95(5)
:955-961,1995
11)Denning DW et al:Eur Respir J 27(3)
:615-626,2006
12)Black PN et al:Allergy 55(5)
:501-504,2000
排水口
花粉との関連が報告されている食物3) (野菜・果物・ナッツ類)
5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
その多くは好湿性真菌であるアルテルナリアやクラドスポリ
ウムです。アレルギー性鼻炎では、アルテルナリアは誘発試験
における陽性率が他の真菌よりも高く、重要な真菌です 7)。
また、アルテルナリアの抗原量は夏から秋にかけて多くなる
ことから、イネ科・キク科の花粉飛散時期と重なるため、
これら
との鑑別が難しく、特異的IgE検査等を活用し、適切な抗原
診断を行うことが必要です 8)。
諸外国では6∼9月に若年成人の喘息患者における喘息死
が増加することが知られており、この季節、屋外に増加する
アルテルナリア、
クラドスポリウムなどの真菌がその要因として
多く報告されています9-11)。6∼9月に発生する喘息死の多くは
真菌が原因であり、発作によるICU入院患者の40%以上が
アルテルナリアに感作されていたという報告もあります11、12)。
吸入アレルゲンと言えば、ダニやスギが最初に思い浮かび
ますが、我われの生活と密接に関わっている真菌についても
注意深くアレルゲン診断を行うことが重要だと考えます。
赤字はイムノキャップで測定可能
カバノキ科
2月 3月 4月
診断のポイント
トイレ
花粉飛散時期 植生および時期は地域により若干異なる。
1月
∼気管支喘息とアレルギー性鼻炎∼
浴室
種
成人食物アレルギー
洗面所
科
真菌
身近にいる
クラドスポリウム(クロカビ)
、アルテルナリア(ススカビ)は湿気の多い浴室、
台所、結露した壁など、ペニシリウム(アオカビ)
、アスペルギルス(コウジカビ)は
比較的乾燥に強く、ハウスダスト、押入れ、靴箱などからも検出されます。
300
*資料提供:
NPO法人カビ相談センター
※20歳以降は10歳区切りで (人)
まとめて集計しているので
注意を要する。
50
250
講師
50
0
後藤 穣 先生
図2 成人の主な原因食物
No.1
20歳
以上
No.2
No.3
No.4
No.5
甲殻類
小麦
果物類
魚類
そば
18%
15%
13%
11%
7%
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20s 30s 40s 50s 60s 70s
(歳)
アルテルナリア(ススカビ)
ファディア社発行 ALLAZiN Springより
アスペルギルス(コウジカビ)
ペニシリウム(アオカビ)
で測定できる主な成人の食物アレルゲン
*サバなどの魚類にいる寄生虫
1)今井孝成、海老澤元宏:平成20年度厚生労働科学研究報告書
2)今井孝成:アレルギー・免疫 17(6)
:998-1003,2010
3)福冨友馬 他:アレルギー 56(8,9)
:233,2007
4)Matsuo et al.:Allergy 63(2)
:233-236, 2008
5)高山かおる:アレルギー・免疫 17(6)
:1040-1045,2010
6)伊藤浩明 他:アレルギー 56(8,9)
:223,2007
7)高岡有理 他:アレルギー 56(8,9)
:224,2007
8)掛水夏恵 他:アレルギー 52(10)
:1022-1026,2003
9)福島 聡 他:アレルギー 56(3,4)
:P61,2003
10)長谷川美紀 他:アレルギー 55(8,9)
:MS9-3,2006
11)亀山梨奈 他:アレルギー 55(11)
:1429-1432,2006
気管支喘息などのアレルギー疾患の
診療に取り組むかたわらアレルゲン
分析にも精力的に取り組まれる。
お問い合わせ先
クラドスポリウム(クロカビ)
0120-489-211
1103-MO-162-1
64%
エビ、カニ、小麦、グルテン、
ω-5 グリアジン、
リンゴ、モモ、メロン、
洋ナシ、サバ、アジ、クルミ、カシューナッツ、アニサキス* 日本アレルギー学会指導医(耳鼻科)
、
日本耳鼻咽喉科学会認定専門医など
を務める。
∼ アレルギー診断の明日へ ∼
小計★
★5%以上を占める上位5抗原の小計
福冨 友馬 先生
20s 30s 40s 50s 60s 70s
100
日本医科大学耳鼻咽喉科
※1 カバノキ科:ハンノキ、シラカンバなど ※2 イネ科:カモガヤ、オオアワガエリなど
※3 キク科:ブタクサ、ヨモギなど
国立病院機構 相模原病院
アレルギー科
200
150
当科の症例では、魚でアレルギー症状をきたした患者さんは
まれで、実際には、寄生虫のアニサキスのアレルギーである
ことがほとんどです5)。したがって、魚介類を摂取してアレ
ルギー症状を起こす患者さんの診療では、魚そのものに
対する特異的IgE検査に加え、アニサキスに対する特異的
IgE検査が必須になります。他にも、近年では食品表示奨励
項目であるクルミやカシューナッツ等のナッツ類による発症例
も多く報告されています 6-11)。また、バナナ、アボカドなどの
アレルギーを疑う患者さんでは、ラテックスアレルギーの有無
についても検査する必要があります。
このように成人食物アレルギーの原因アレルゲンの診断
には、成人独特の原因食品と病態を踏まえたうえで、アレル
ギー検査を進めていくことが必要です。
発行
URL:http://www.phadia.jp