JARI Research Journal 20160603 【技術資料】 燃料電池二輪車の技術基準に関する調査 Research on Technical Regulations for Fuel Cell Motorcycles 山田 英助 *1 Eisuke YAMADA 1. はじめに に関する技術基準をまとめる. 燃料電池自動車(FCV)は,従来の内燃機関の 代わりに燃料の水素を格納する高圧水素容器と駆 2. 車両区分 動電力を発生させる燃料電池スタックを搭載した FC 二輪車は,従来の内燃機関を原動機とする 自動車である.四輪車の FCV(FC 四輪車)は世 二輪市販車の外観を変えずに燃料電池システムを 界に先駆けて 2014 年 12 月 15 日に日本で量産型 搭載することが可能である 4).ただし,内燃機関 の市販が始まった 1). ではないため一般的な総排気量による区分は出来 一方,同様の駆動機構を概念とした燃料電池二 ない.電気を動力としているので,定格出力で区 輪車(FC 二輪車)は,2014 年 6 月 14 日に閣議 分される.法的には道路運送車両法,または道路 決定された規制改革実施計画の中で「道路運送車 交通法で区分される. 両法の保安基準や高圧ガス保安法の容器等の技術 表 1 に示すように原動機付自転車(原付)を含 2).この時点で道路 む二輪車を総排気量で法的に区分すると 50 cc, 運送車両法および高圧ガス保安法において FC 二 125 cc,250 cc,400 cc が境界で,電動車の場合 輪車は除外されていたため量産型の市販は難しい は定格出力 0.60 kW,1.00 kW が境界である.車 状況であった. 両サイズによっても部分的に境界はあるが,基本 基準策定」として掲げられた 四輪車と二輪車の特性の違いによって FCV と 的に,FC 二輪車は 1.00 kW 超の軽二輪(軽自動 しての安全性評価も異なることから,FC 二輪車 車の二輪自動車)に該当するものとして技術基準 に適した技術基準の整備が必要となる.二輪車は の整備は進められている. 四輪車よりも小さく軽く,転倒するなどの特性に 違いがある.これらを考慮した基準整備を行うた め,二輪車業界および関連機関等で FC 二輪車の 安全性に関する検討が行われている.一般財団法 表 1 二輪車の種別 道路運送車両法 人日本自動車研究所は基準整備のために資する試 原付一種 験データの取得および審議するための有識者委員 原付二種 会の運営などを通じて技術基準の作成に携わって 軽二輪 道路交通法 原付 普通二輪 きた. 大型二輪 準に関する告示等の改正により世界で初めて FC 二輪車の安全基準が策定された 3).高圧ガス保安 本調査では,整備が進められている FC 二輪車 *1 一般財団法人日本自動車研究所 FC・EV研究部 博士(工学) JARI Research Journal (cc) 電動車に限る 50 以下 0.60 以下 125 以下 1.00 以下 250 以下 1.00 超 400 超 2. 1 道路運送車両法 法の技術基準整備も議論が進められているところ である. 定格出力(kW) 400 以下 小型二輪 2016 年 2 月 23 日には,道路運送車両の保安基 総排気量 第二条で自動車,原動機付自転車(原付) ,軽車 両(自転車,馬車等)の三つを道路運送車両とし て定義している.原付は国土交通省令によって総 排気量または定格出力を規定した車で,自動車は - 1 - (2016.6) 原付以外の原動機により動く車のことである. 3. 車両の保安基準 さらに第三条では自動車を普通自動車,小型自 FC 四輪車に関しては,車両の保安基準が整備 動車,軽自動車,大型特殊自動車および小型特殊 されており,既に量産車が市販されている.二輪 自動車の 5 種に分類している.詳細な内容は道路 車には四輪車と異なる特性もあるので改めて基準 運送車両法施行規則の第二条に示されており,二 整備の検討が行われ,FC 四輪車を対象としてい 輪車が含まれるのは小型自動車と軽自動車で,表 る 世 界 技 術 規 則 第 13 号 ( Global Technical 1 では小型二輪と軽二輪として示している. Regulation No. 13(GTR13))をベースとした 電動車両の場合,定格出力 1.00 kW 以下は原付 FC 二輪車の基準が定められた 3),5).具体的な内容 と定められているが,国土交通省令の道路運送車 は,道路運送車両の保安基準の細目を定める告示 両の保安基準では高圧ガス容器を含む燃料装置に に新設された「別添 118 圧縮水素ガスを燃料とす 関する基準が原付に対して示されていない.従っ る二輪自動車及び側車付二輪自動車の燃料装置の て,原付は FC 二輪車の対象外とするのが適切で 技術基準」に示されている.FC 四輪車に対して ある.自動車に関しては,第十七条に高圧ガスを は「別添 100 圧縮水素ガスを燃料とする自動車の 燃料とする自動車の基準が示されている. 燃料装置の技術基準」がある.国際的には GTR13 電動車両では,原付より定格出力の高い小型二 および燃料電池自動車に関する国連規則第 134 号 輪と軽二輪の分類に定格出力は関係しない.総排 (United Nations Regulation No. 134)6)にも規 気量で区分できない FC 二輪車の場合,小型二輪 定されている.ここでは,FC 四輪車と異なる主 と軽二輪は車両サイズにより区分される.軽二輪 な内容を以下に示す. の車両サイズは長さ 2.50 m 以下, 幅 1.30 m 以下, 高さ 2.00 m 以下の制限が課されている.現行の 3. 1 容器の保護 市販二輪車でもこのサイズ以上は,1500 cc を超 二輪車は容易に転倒する.軽いので事故時に大 えるような大型車の極一部である.従って,基本 きな加速度が発生する.この時,容器の破裂など 的に FC 二輪車は道路運送車両法の軽二輪に該当 の重大な事故を防ぐため,容器および容器の附属 するものとして技術基準の整備が進められている. 品を保護する必要がある. なお,軽二輪は継続検査(車検)の対象外で, 別添 118 には転倒時等に容器および附属品が路 小型二輪は車検対象である.FC 四輪車にも車検 面と直接接触しないこと,表 2 に示す加速度が加 はある.従って,軽二輪の FC 二輪車は,FC 四 わった場合でも容器が車両に固定されていること 輪車と違って,車検がない状況を考慮する必要が などが保護要件として定められている.この加速 ある. 度は,二輪車関連の事故統計を考慮して設定され たものである 5).参考に,別添 100 に規定されて いる「貨物の運送の用に供する車両総重量 3.5 t 2. 2 道路交通法 第二条に自動車,原付,軽車両及びトロリーバ 未満の自動車」の加速度も示す.一般的な二輪車 スの四つが車両として定義されている.さらに第 の総重量は 0.1~0.2 t 程度で,四輪車より相当軽 三条で自動車の種類を 7 種類に区分している.詳 いので事故時に二輪車に発生する加速度は大きい. 細な分類は道路交通法施行規則の第二条に示され ており,二輪車が該当するのは大型自動二輪車と 表 2 事故時の想定加速度 5) 普通自動二輪車で,表 1 では大型二輪と普通二輪 車両 として示している. 走行方向 ±617 m/s2 ±78.4 m/s2 ±196 m/s2 ±426 二輪車 電動二輪車の場合,定格出力による大型二輪区 3.5t 未満の自動車 走行方向に直角な水平方向 m/s2 分は規定されていないので FC 二輪車も定格出力 によって大型二輪に区分されることはない. 3. 2 容器安全弁 車両火災等で容器内圧力が異常に上昇すると, JARI Research Journal - 2 - (2016.6) 容器の破裂等の重大な事故につながる恐れがある. 「国際圧縮水素自動車燃料装置用附属品」(GTR それを回避するために容器安全弁が取り付けられ 附属品)として定められている. ている.この容器安全弁は,容器に直接取り付け 今のところ FC 二輪車の容器および附属品に関 られており,熱により一回限定で作動して高圧水 する技術基準は定められていないが,FC 四輪車 素を放出する安全装置である.FCV に搭載する容 と同様に GTR13 をベースとした議論が進められ 器には取り付ける必要がある. ている.ここでは,既にある FC 四輪車の技術基 安全弁が作動すると,大量の水素が短時間に放 出され,場合によっては火災となるため,消火活 準と FC 二輪車で考えられている技術基準の相違 と課題点を示す. 動などで放出方向から近づくのは危険である.従 って,放出方向を規定して危険な方向を認識して 4. 1 圧力 おく必要がある.FC 四輪車では車両前方への排 高圧にするほど航続距離が長くなり利便性は向 出を禁止しているが,FC 二輪車では車体の底面 上するが,安全を確保する技術基準は厳しくなる. から垂直下方向以外の排出を禁止している.FC 現在,GTR 容器には最大 70 MPa(ゲージ圧力. 二輪車の火災時には放出方向を特定できるので, 以下同じ.)まで充填できることが,容器保安規則 事故対応時の安全性が高まる.事故時は転倒して の例示基準の「別添 11 国際圧縮水素自動車燃料 いる可能性が高いが,車両下側から FC 二輪車に 装置用容器の技術基準の解釈」で定められている. より詳細には,公称使用圧力の上限が 70 MPa 近づいてはいけない. また,安全弁からの高圧ガスの放出過程では, で,最高充填圧力の上限が 87.5 MPa(公称使用 原理的にロケットエンジンと同様な推力が発生す 圧力の 125%)である.この GTR 容器の公称使用 る.FC 四輪車では問題にならないが,軽い FC 圧力とは,15°C における水素の圧力で,動作特性 二輪車では発生する推力の大きさによっては,車 を表す基準値である.一般的に,FCV の概要を説 体が激しく動く恐れがある.基本的に放出孔を小 明する時に使われる「最大 70 MPa まで水素を圧 さくすれば推力は抑制できるので対応は可能であ 縮」といった言い回しはこの値を指す.実質的に る.ただし,放出孔が小さいと推力の持続時間は は,高温になると気体の圧力は上昇するので 70 長くなり水素の放出にも時間がかかるので放出孔 MPa を超える状態もあり得る.特に水素を充填す の大きさは適正に設計される必要がある. る時は, 気体の圧縮効果によって温度は上昇する. 充填後に冷えてくると圧力は低下する.15°C の時 に 70 MPa であれば良いので,特に充填の終盤は 4. 容器 燃料の水素のエネルギー密度は常温常圧下でガ もっと高温で高圧になっている可能性がある.そ ソリンと比較して著しく低いので,車両に搭載し れを考慮したのが最高充填圧力で,充填中にかか た専用の高圧ガス容器に圧縮して格納することで る最高の圧力を定めたものである.温度の上限は エネルギー密度を高めている.このように水素を 容器の保全の観点から 85°C とされている 7).85°C 圧縮することで FCV は航続距離を従来のガソリ の 87.5 MPa と 15°C の 70 MPa の状態が等密度 ン車と同等レベルまで向上させている.しかしな とされている. さて,FC 二輪車の容器に求められる構造や性 がら,高圧を実現するには安全を担保するための 能は,サイズ以外は GTR 容器と同等と考えられ 技術基準が必要となる. 現在,FC 四輪車で主に使用されている容器は, る.既に制定された FC 二輪車の車両の技術基準 経済産業省令の容器保安規則で「国際圧縮水素自 では,車両で容器を保護するようになっているの 動車燃料装置用容器」 (GTR 容器)と定義されて で FC 二輪車の容器自体の性能は GTR 容器と変 いるものである.これは国際基準の GTR13 に適 わらないといえる.従って,FC 二輪車の容器に 合した容器を意味している.また,容器の附属品 対する圧力の制限値は GTR 容器と同等になると に関する技術基準も必要で,GTR 容器と同様に 考えられる. JARI Research Journal - 3 - (2016.6) 一方,FC 二輪車への水素充填に関しては,市 とが想定されている.自家用乗用自動車の車検は 場投入時期に合わせて小容量タンク(0.4~1 kg) 初回が 3 年,以降は 2 年とされているので,通常 用充填プロトコル規格の整備をする為の準備が進 は車検と同時に容器再検査を実施していれば容器 められている 8)~11). が期限切れになることはない.そもそも容器再検 査の期限切れの状態では車検に合格しないことに 4. 2 内容積 なっている. 容器の内容積が大きいほど水素搭載量が増える 一方,2. 1 で述べたように FC 二輪車が軽二輪 ので航続距離は長くできるが,FC 四輪車用の である場合,車検はない.従って,車検と同時に GTR 容器の上限は別添 11 で 330 L とされている. 容器再検査を実施する FC 四輪車とは異なる状況 市販されている FC 四輪車のトヨタ MIRAI は となる.FC 二輪車のユーザーには,車検はない 122.4 L, ホンダ CLARITY FUEL CELL は 141 L が定期的な容器再検査の必要性が周知されておく である.車両が小さい FC 二輪車は,さらに小さ ことが望まれる.FC 二輪車の関連業界等でも, い容積になると想定される.燃料容器として搭載 容器再検査を確実に実施できるような対策を検討 が許容できるサイズは,20 L 以下ぐらいが妥当と しているところである. みられる. 一方,GTR 容器の 330 L の根拠から FC 二輪車 5. まとめ の容器容積を想定することが可能である.その根 FC二輪車の技術基準として,既に策定された道 拠は GTR13 に示されており,容器から透過する 路運送車両法に関する基準と,整備の議論が進め 水素があってもガレージ内が危険な状態にならな られている高圧ガス保安法に関する基準をまとめ い上限値を 330 L と規定している.安全を維持で た.電気に関する安全性などは除外しているが, きる状態として,ガレージ内の水素濃度が 1 vol% FC四輪車との違いが技術基準に確認できる.将来, を超えないように規定している.透過量は容器の 技術基準が整備されてFC二輪車が市販された際 大きさに依存するので,FC 二輪車のサイズに見 には,従来のガソリン二輪車との違いも配慮して 合った小さい容器では透過量も少なくなる.しか 安全運転することが望まれる.また,道路運送車 しながら,二輪車のガレージサイズは小さい.こ 両法に関する基準は世界で初めて策定されたもの れらの事を考慮して,FC 二輪車の容器の内容積 で,日本から国際基準への展開が期待される13). の上限は 23 L に定められる見込みである 12). 謝辞 日本自動車工業会の燃料電池二輪車WGで技術基準に 4. 3 再検査 容器を初めて使用する前に,定められた検査に 合格する必要がある.同様に,容器の附属品も検 関する多くの議論を行うことができた.ここに,燃料電池 二輪車WGメンバーに感謝の意を記す. 査に合格する必要がある.これらは容器検査と附 属品検査として高圧ガス保安法に規定されている. 参考文献 1) 2) Toyota, Honda get ready to launch their FCVs, Fuel Cells Bulletin, Vol.2014, 11, p.1 (2014) 内閣府:http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/ 3) publication/130614/item1.pdf (2016.4.26) 国道交通省:http://www.mlit.go.jp/report/press/jido 4) sha07_hh_000199.html (2016.4.26) 山本, 燃料電池二輪車「バーグマン フューエルセル また,容器と附属品は定期的な再検査が必要で, 充填できる期限が定められている.GTR 容器の場 合,最初は 4 年 1 月,次から 2 年 3 月が再検査の 期限で,最長 15 年まで容器を使用することが出 来る.再検査の内容は,容器検査所(高圧ガス保 スクーター」の開発, 自動車技術会 Moror Ring, 34 安法に登録の規定あり)で実施する外観検査と漏 えい試験である.FC 二輪車に搭載される容器に ついても同様の規定が課されると考えられる. 5) 容器と附属品の再検査は車検と同時に受けるこ JARI Research Journal - 4 - (2012) Technical Standards on Fuel-Cell Motorcycles in Japan, 58th GRSP:http://www.unece.org/filead (2016.6) 6) min/DAM/trans/doc/2015/wp29grsp/GRSP-58-12r1 e.pdf (2016.4.26) UNECE, UN Vehicle Regulations 1958 Agreement:http://www.unece.org/trans/main/wp2 9/wp29regs121-140.html (2016.4.26) SAE International, J2579: Standard for Fuel Systems in Fuel Cell and Other Hydrogen Vehicles (2013) 8) E. Yamada, W. Hiraki, and H. Muramatsu, Thermal characteristics of hydrogen tank developed for fuel cell motorcycles during fast filling, Fuel Cell Seminar & Energy Exposition, Los Angeles, California, USA (2015) 9) E. Yamada, W. Hiraki, and H. Muramatsu, Hydrogen fast filling to a type IV tank developed for motorcycles, International Conference on Hydrogen Safety, Yokohama, Japan (2015) 10) W. Hiraki, E. Yamada, and H. Muramatsu, Thermal comparison during hydrogen fast filling to type III and type IV tank developed for motorcycles, World Hydrogen Technologies Convention (WHTC), Sydney, Australia (2015) 11) 山田英助, 開渉, 村松仁, 燃料電池二輪車用の高圧水 7) 素容器への急速充填, 自動車技術会秋季大会学術講 演会, 北九州 (2015) 12) 経済産業省 産業構造審議会 保安分科会 高圧ガス小 委員会(第9回)資料7「燃料電池二輪車の容器関係基 準の整備について」:http://www.meti.go.jp/committ ee/sankoushin/hoan/koatsu_gas/pdf/009_07_00.pdf (2016.4.26) 13) 日本自動車工業会, 二輪車産業政策ロードマップ:ht tp://www.jama.or.jp/motorcycle/roadmap/pdf/roadm ap.pdf (2016.4.26) JARI Research Journal - 5 - (2016.6)
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