一過性全健忘

一過性全健忘
平成24年11月2日 救急部カンファレンス
Papez(パペッツ)の記憶回路
Papez(パペッツ)の記憶回路
アルツハイマー病
視床梗塞
Wernicke脳症
健忘症とは
定義
日常生活の出来事の記憶が障害されていて、
その症状が意識障害や認知症によって
生じたものではないこと
健忘症とは
逆向性健忘
疾患発症前に起こった
出来事を思い出せない
前向性健忘
疾患発症
疾患発症後の新しい
出来事を記憶できない
現在
過去
長期記憶
短期
記憶
(1分以内に消失)
遠隔
近時
記憶
記憶
(何十年にも及ぶ) (数分∼数日)
未来
一過性全健忘
(Transient global amnesia : TGA)
頭部外傷等の明らかな誘因なく、突然新たな記憶が全く
できなくなる病態(=前向性健忘)。
自分の置かれている状況が把握できなくなり、周囲に
質問を繰り返す。名前、家族の顔、昔の出来事等は
発作中も保たれる。運転も可能。また発作中の新たな
記憶はできないので、発作終了後も記憶は欠落したまま。
通常24時間以内に消失する。
徐々に新たな記憶ができるようになってくる。
50歳以降に多い。
通常一生に一回のみ。
5−20%程度は再発する。
一過性全健忘の症候
「今日は何日?」
「(自分は)どうしてここにいるの?」
「記憶がない」
などとひっきりなしに言い始める。
答えを聞いて一度は納得するが、それを記憶に
とどめることができず次々に忘れ、さも今初めて
自分が気付いたかのように、同じ質問や言葉を
繰り返す。
診断
1.発作中の情報が目撃者から得られる。
自分がいる場所、何をしているかを必ず周囲に尋ねる。
2.発作中、明らかな前向性健忘がある。
時に逆行性健忘も認める。
3.意識障害はなく、健忘以外の高次脳機能障害はない。
4.発作中、四肢麻痺のような神経学的異常はない。
5.てんかんの徴候はない。
側頭葉てんかんの除外が必要。
6.発作は24時間以内に消失する。
TIA(海馬を含む脳血管障害)の除外が必要。
7.最近の頭部打撲やてんかん発作はない。
Hodges et al., 1990
検査
脳波
通常異常なし。側頭葉てんかんの除外目的。
頭部CT/MRI
脳血管障害(TIAを含む)の除外目的に必要。
一過性全健忘に特徴的な異常がでることもある(後述)。
脳血流シンチ
発作中から発作後早期に海馬(時に視床)の血流低下が起こり得る。
てんかんなら血流は増加。
採血
凝固系、ビタミンB1等。やはり他疾患の鑑別目的。
®救急外来では症候的に診断せざるを得ない。
一過性全健忘のMRI所見
発症24∼72時間後に
海馬にDWI、T2、FLAIR
高信号を呈することが
ある。
上記高信号は一過性で
永続的ではない。
60日後には消失
Lancet Neurol. 2010; 9(2): 205-214
原因
1954年 Haugeによって椎骨動脈造影後の
一過性記憶障害が初めて報告
1958年 Fisher と Adamsが同様の症状を呈し
た12例を報告し一過性全健忘と命名
いまだに原因は不明のまま。
最近、頭部MRI DWI異常が報告されるようになった。
誘因・原因
① 情動(不安、ストレス)、体性感覚刺激(寒冷、
プール、入浴、疼痛)、自律神経関連症状(嘔吐、
咳嗽)等を契機に発症することが多い。
② 脳静脈うっ滞の報告あり。一過性に海馬の
機能低下が生じる?
③ 片頭痛との関連(頭痛発作中に発症)も報
告されている。一過性血流低下は虚血ではなく
血管収縮などの乏血?
④ 脳卒中の危険因子を有する例は少ない。
治療
予後は良好であるので、通常治療は必要なし。
ただし、救急外来で診た場合は、脳血管障害や
側頭葉てんかんの除外のために、後日精査を
勧めることが望ましい。