14 輸入ダイズ穀粒における遺伝子組換え体の混入率及び トウモロコシ

道衛研所報 Rep. Hokkaido Inst. Pub. Health, 54, 93-95(2004)
輸入ダイズ穀粒における遺伝子組換え体の混入率及び
トウモロコシ加工食品中の CBH 351遺伝子の有無について
Rate of Genetically Modified Organisms in Imported Soybean Grain and
Presence of CBH 351 Gene in Processed-corn Foods
鈴木
智宏
孝口 裕一
加藤 芳伸
Tomohiro SUZUKI, Hirokazu KOUGUCHI and Yoshinobu KATOH
最近,遺伝子を組換えたダイズやトウモロコシなどが米
検 出 用 と 確 認 用 プ ラ イ マーセット 及 び 内 在 性 遺 伝 子
国,カナダなどから輸入され,加工食品に利用されている. (Zein)増幅プライマーセット(Nippon Gene 社製)と
多くの遺伝子組換え食品が流通するようになったことで,
AmpliTaq Gold(Applied Biosystems 社製)を 用した.
厚生労働省は平成 13年4月1日より遺伝子組換え食品の
DNA 増幅のための反応液は最終濃度が1×PCR buffer,
1.5mM MgCl ,0.2mM dNTPs,0.2μM センスプライ
安全性審査及び表示の義務化を行った .このことから
遺伝子組換え体混入割合が5%以上 や 遺伝子組換え
マー,0.2μM アンチセンスプライマー,AmpliTaq Gold
0.625 Units,DNA 1ng/μL と な る よ う に 調 製 し た.
不 別 のものには遺伝子組換え体 用の表示をしなけれ
ばならなくなった.そこで,表示が適正であるか,あるい
は安全性未審査のトウモロコシなどの遺伝子組換え食品が
PCR 反応は 95℃で 10 間保った後,95℃ 30秒間,60℃
30秒間,72℃ 30秒間を1サイクルとして 40サイクル,
流通していないかを確認するために組換え遺伝子(リコン
最後に 72℃7 間の条件で行った.
ビナント DNA)の定量及び定性試験を行うことが必要と
4.定量 PCR
なった.
遺伝子組換えダイズには,Cauliflower mosaic virus 35
S promoter (CaM V 35S)及び除草剤 Roundup に阻害さ
北海道では,平成 15年度から遺伝子組換え食品の収去
検査が実施されている.今回,輸入ダイズ穀粒における遺
れ な い Agrobacterium
tumefaciens 由 来 の 5-Enolpyruvylshikimate-3-phosphate synthase (EPSPS)遺伝
子が組み込まれている.そこで,ダイズ中の遺伝子組換え
伝子組換え体(品種名:Roundup Ready Soybean)の混
入割合及びトウモロコシ加工食品中の安全性未審査の遺伝
子組換え体(品種名:CBH 351,商品名スターリンク)
DNA 含有率の定量にあたっては,CaMV 35S と EPSPS
を増幅するためのプライマーセット(RRS)を用いた.
の有無について調べたのでその結果について報告する.
方
また,遺伝子組換え体の含有率を算出するためにダイズに
法
普遍的に内在するレクチン遺伝子の定量も併せて行った.
1.試 料
RRS と レ ク チ ン 定 量 プ ラ イ マーセット 及 び TaqM an
Probe は Nippon Gene 社製,TaqMan Universal Master
道立の 26保 所にて平成 15年 10月から平成 16年3月
までに収去された輸入ダイズ穀粒( 別生産流通管理が行
mix は Applied Biosystems 社製を 用した.
定 量 PCR 反 応 液 は,1×TaqMan Universal Master
Mix,0.5μM センスプライマー,0.5μM アンチセンス
われているもの)50検体及び道内で流通しているトウモ
ロコシ加工食品 30検体を 析に 用した.
2.DNA の抽出
厚生労働省の
プライマー,0.2μM TaqM an Probe,DNA 2ng/μL と
なるように調製した.これを内在遺伝子及び組換え遺伝子
組換え DNA 技術応用食品の検査方法
に従い,定性及び定量 PCR 試験のために1検体当たり2
の定量のための PCR プレートに
注した.定量 PCR 条
件及びデータ解析は,厚生労働省の 組換え DNA 技術応
g の 末試料を精 して 用し,CTAB 法及びシリカゲ
ル膜タイプキット法を用いて DNA を抽出した .なお,
用食品の検査方法 , 農林水産省消費技術センターJAS
析 試 験 ハ ン ド ブック に 従 い ,ABI PRISM 7700
シ リ カ ゲ ル 膜 タ イ プ キット 法 に よ る DNA 抽 出 に は
DNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN 社製)を 用した.
3.定性 PCR
(Applied Biosystems 社製)で定量した.組換え体の含有
率は次式により求めた.なお,組換え体の含有率が 0.5%
PCR 反応には,遺伝子組換えトウモロコシ(CBH 351)
以下の場合,検出せずとした.
93
含有率(%)
=組換え遺伝子コピー数/内在遺伝子コピー数
一 方,Table 2に は 安 全 性 未 審 査 の 遺 伝 子 組 換 え 体
×(100/内標比)
CBH 351(スターリンク)の有無を調べたトウモロコシ
加工食品 30検体を示した.PCR により Zein 遺伝子とリ
内標比:1.05
結果及び
コンビナント DNA を増幅した結果は Fig.1に示した.
察
末から CTAB 法あるい
Fig.1に示すように,28検体のトウモロコシ加工食品か
ら CBH 351遺伝子は検出されなかった.これらの加工食
はシリカゲル膜タイプキット法を用いて抽出・精製した
品にはスターリンクの混入はないものと判定したが,2検
DNA の 260nm と 280nm に お け る 吸 光 度 比 は,1.7∼
2.2の範囲にあり定量 PCR を行うのに十 な純度であっ
体は CBH 351遺伝子の確認ができなかった(検出不能)
.
た.これらの DNA を用いて TaqM an-PCR 法によりリ
かったことによる.これは,食品の製造過程で DNA が切
コンビナント DNA の定量を行い組換え体の混入率を算出
断・
輸入ダイズ穀粒 50検体の各
検出不能とした理由は,Zein 遺伝子の増幅が認められな
解されたために PCR に必要な長さの DNA を回収
することができなかったためと えられる.ポップコーン
した.その結果,Table 1に示したように 50検体中4検
体に組換え体の混入が認められた.混入率は1∼3%であ
の中には,DNA の切断・ 解を引き起こす高温・高圧処
理行程を経て製造されるものもあることから,このような
り,5%を下回る結果であったことから遺伝子組換え体
用の有無の表示に問題はなかった(Table 1) .
今回,調査に 用した輸入ダイズの原産国は米国産 32
食品から DNA を回収するには,抽出・精製法をさらに検
検体,中国産 12検体,カナダ産6検体であった(Table
今回試験したトウモロコシ加工食品は,アイスクリーム
1)
.これらの検体の中で4検体に遺伝子組換え体の混入が
やコーンスターチを除けばスイートコーン缶詰やポップ
確認され,全てが米国産ダイズであった.このことから,
コーン等のトウモロコシその も の の 加 工 食 品 で あった
北海道内で流通している輸入ダイズの多くが米国産である
(Table 2)
.最 近,わ が 国 で は ト ウ モ ロ コ シ 半 加 工 品
こと,原産国にて 別生産流通管理されているダイズ穀粒
(コーングリッツ,コーンミール等)の輸入・消費が増加
であっても,産地によっては微量な遺伝子組換え体の混入
している.今後は,コーングリッツ,コーンミール等の半
が認められる場合があった.
加工食品についても CBH 351遺伝子の有無を検討する必
討する必要がある.
Table 1 Rate of Genetically Modified Organism (Roundup Ready Soybean) in Imported-soybean Grain
Sample No.
Rate of GM O
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
ND
ND
ND
ND
3%
ND
ND
ND
2%
ND
ND
ND
ND
1%
ND
1%
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
Country of origin
China
USA
USA
USA
USA
USA
USA
USA
USA
Canada
China
China
USA
USA
USA
USA
China
USA
USA
China
USA
USA
Canada
China
China
GM O:Genetically modified Organism, ND:No detection
94
Sample No.
Rate of GMO
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
Country of origin
USA
USA
Canada
USA
USA
USA
Canada
USA
China
USA
USA
China
Canada
USA
China
USA
USA
USA
China
USA
USA
China
USA
Canada
USA
Table 2 Processed-corn Foods Tested
in This Inspection
Sample No. Contents of sample
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
Boiled whole kernel corn
Boiled whole kernel corn
Canned corn (whole kernel sweet corn)
Pop corn
Canned corn (whole kernel sweet corn)
Pop corn
Corn snack-cake
Boiled corn (whole)
Canned corn (whole kernel sweet corn)
Corn snack-cake
Baked corn snack-cake
Corn starch
Corn starch
Pop corn
Pop corn (before heating)
Pop corn
Pop corn (before heating)
Pop corn
Pop corn
Corn starch
Icecream with corn powder
Boiled sweet corn
Corn snack-cake
Pop corn
Canned corn (whole kernel sweet corn)
Canned corn (whole kernel sweet corn)
Pop corn
Canned corn (whole kernel sweet corn)
Pop corn
Boiled whole kernel corn
Fig.1 Agarose Gel Electropherogram of PCR
/Zein nProducts Amplified with Zein n5′
3′
/CBH02and CaM035′
3′Primer Pairs
M : 1Kb size standard ladder, P: positive control (Zein; 157bp,
CBH351;170bp), No. 1∼30:sample number corresponding to the
number in Table 2
要があると える.
文
稿を終えるにあたり,試料採取にご協力いただきました
献
1) 厚生労働省食品保 部長通知食発第 79号 食品衛生法施
行規則及び乳及び乳製品の成 規格等に関する省令の一部
を改正する省令等の施行について 平成 13年3月 15日,
厚生労働省食品保 部企画課長・監視安全課長通知食企発
第3号,食監発第 47号 遺伝子組換え食品に関する表示
について 平成 13年3月 21日
2) 厚生労働省:組換え DNA 技術応用食品の検査法,2001
3) 農林水産省消費技術センター:JAS 析試験ハンドブッ
ク遺伝子組換え食品検査・ 析マニュアル改定2版,独立
行政法人農林水産省消費技術センター,東京,2002
北海道保 福祉部食品衛生課及び道立保 所の諸氏ならび
に関係機関各位に深謝いたします.
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