国際交流基金 The Japan Foundation Performing Arts Network Japan Artist Interview 2016.8.16 アーティスト・インタビュー From Non-verbal Performance to 2.5-D Stages The Challenge of Walley Kinoshita ノンバーバル・パフォーマンスから 2.5 次元へ ウォーリー木下の挑戦 撮影:雨田芳明 Profile ウォーリー木下(うぉーりー・きのした ) 劇 作 家、演 出家。1971年、東 京都生まれ。 93年、神戸大学在学中に劇団☆世界一団を 結成。現在は sunday(劇団☆世界一団を改 称)の代表で、全作品の作・演出を担当。外 部公演も数多く手がける他、 「大阪ショートプ レイフェスティバル」 「PLAYPARK」 「多摩1キ 劇 団Sunday と ノ ン バ ー バ ル・ パ フ ォ ー マ ン ス・ ユ ニ ッ ト THE ORIGINAL TEMPO を率いるウォーリー木下。集団創作により、音楽、メディアアート、パ フォーマンスを融合させたデザインを信条とし、超人気漫画「ハイキュー !!」を舞 台化する 2.5次元にも挑戦。「コップひとつからでも演劇はできる 」という彼の演 劇観に迫る。 聞き手:大堀久美子 ロフェス 」 「ふじのくに せかい演劇祭『まちは ■ 劇場プロジェクト・ストレンジシード』」など、 演 劇祭のプロデュースやプログラムディレク ターも務める。また、ノンバーバル・パフォー マンス・ユニットのTHE ORIGINAL TEMPO (オリジナルテンポ )のプロデュース・演出を行 い、05年から韓国、台湾、英国、シンガポー ルなどで海外公演を行う。アイドルユニット・ 東京パフォーマンスドールの演出、演劇とラ イヴをミックスしたステージや、メディアアー トとパフォーミングアーツの融合する新しい 挑戦をし続けている。 小劇場からノンバーバル・パフォーマンスへ ─大学時代に劇団を旗揚げされていますが、演劇との出合いから伺えますか。 中学・高校ではずっとスポーツをやっていたので、大学では文科系サークルに入 りたいと思っていました。音楽をやるか、映画を撮るか、サークルを物色してい たときに、劇団・自由劇場の女の子が勧誘のビラを配っていて、そこに鴻上尚史 sunday さんの名前があったので興味をもって観に行きました。当時の僕にとって、鴻上 The Original Tempo イト・ニッポン 」のパーソナリティでした。それが初めて観た演劇らしい演劇だっ http://sunday-go.jp http://www.originaltempo.com さんに演劇人という認識ではなく、好きでずっと聞いていたラジオ番組「オールナ たこともあって、客入れの終わりに音楽が盛り上がり、暗転になっただけで感動 してしまった(笑)。次に明転したら、舞台上に役者がズラリと並び群唱を始めた。 ─鴻上さんの代表作『朝日のような夕日をつれて 』を学生劇団が上演していたん ですね。 ええ、一発で演劇に魅了されてしまいました。でも役者になりたいと思ったわ けではなく、スタッフをやりたくて 2年ほど舞台美術や照明、制作などに携わりま した。その後、脚本を書きたくなり、自由劇場のメンバーと 93年に劇団☆世界一 団を立ち上げました。当時、大阪大学や大阪工業大学の演劇サークルが熱心にテ ント公演をやっていて、そこから借りたテントをポートピアランドに建てて、旗 揚げ公演をやりました。ちょうどクリスマスの時期で、目の前のホテルに次々入っ ていくカップルを横目に、汚い服装で演劇をやっているオレたちの方がカッコイ イと勘違いして、ハマってしまった(笑)。 ─劇作・演出家としての手応えは、初期から感じていたのでしょうか。 当初は作家志向が強く、演出は他にやってくれる人がいないから仕方なく自分 でやる、という感覚でした。転機は 2001年。それまでも、劇団の公演を行うなど お世話になっていた神戸アートヴィレッジセンター(KAVC)から、震災5年目の 1 国際交流基金 The Japan Foundation Performing Arts Network Japan Artist Interview From Non-verbal Performance to 2.5-D Stages The Challenge of Walley Kinoshita ノンバーバル・パフォーマンスから 2.5次元へ ウォーリー木下の挑戦 復興事業としてプロデュース公演をやらないかと声をかけてもらいました。KVAC は 1995年の阪神・淡路大震災の年に開館した複合文化施設です。震災のこともあ るので、より多くの人が関われる企画の方がいいのではと考え、フェスティバル を提案しました。 演劇だけでなく、ダンス、漫才、音楽など多ジャンルのアーティストが一堂に 会し、ロックフェスのように 1日何作も短編作品が見られるようにしたいと思いま ハイパープロジェクション演劇 「ハイキュー !!」 2015年11月初 演。 集 英 社「週 刊 少 年ジャン プ」に連 載中の古 舘春 一の大 人気 漫画「ハイ キュー !!」をプロジェクション・マッピング、ダ ンス、演劇、音楽を融合して舞台化した作品。 幼い頃に見た “小さな巨人” に魅せられ、バレー ボールを始めた少年・日向翔陽が烏野高校排 球部に入部。天才プレイヤーの影山飛雄と出 会い、個性的な仲間たちとともに成長していく 姿を描く。 原作:古舘春一「ハイキュー !!」 演出:ウォーリー木下 脚本:中屋敷法仁・ウォーリー木下 音楽:和田俊輔 振付:左 HIDALI 最新作のハイパープロジェクション演劇「ハイ した。それが「KOBE Short Play Festival ~神戸短編演劇祭」です。僕自身は作 品を提供せず、フェスティバル・ディレクターに徹しました。これまで関わりの なかったジャンル、アーティストの作品を大量に観ることで、「入口や登り方が違 うだけで、表現者として登ろうとしている山はみんな同じなんだ 」と気づきました。 ちょうど劇団活動に行き詰まりを感じていたこともあり、もっといろんな山の登 り方を考えようと、2002年に音楽、美術、デザイン、映像などのクリエーターと 一緒に「THE ORIGINAL TEMPO(オリジナルテンポ )」を立ち上げました。 ─オリジナルテンポは、「音と光と日用品でできたパフォーマンスグループ 」が キャッチフレーズです。音楽(リズム )を小道具や光を使って遊ぶノンバーバルの パフォーマンス『喋るな、遊べ !!』 (2007年初演)は、08、09年にエディンバラ国 際フェスティバルのフリンジで五つ星、13年にシビウ国際演劇祭などに招聘され、 好評を得ました。 ユニットを立ち上げた当初は、普通に台詞を喋っていました。本編の合間にコン キュー !!」“烏野、復 活! ” の公 演予定は 次の トのような即興劇をやっていて、一言も喋らない主人公を登場させたりしている間 東京:2016年10月28日 (金)~11月6日 (日) たとえば机の上にあるコップなどの小物を投げ合うとか。すると、そこにリズム 通り。 AiiA 2.5 Theater Tokyo 岩手:2016年11月12日 (土)~13日 (日) 田園ホール 矢巾町文化会館 福岡:2016年11月17日 (木)~20日 (日) キャナルシティ劇場 大阪:2016年11月24日 (木)~27日 (日) 梅田芸術劇場 メインホール 東京凱旋:2016年12月1日 (木)~ 4日 (日) AiiA 2.5 Theater Tokyo に「喋らないパフォーマンス 」の可能性に気づきました。言葉を使わない替わりに、 やテンポが生まれ、一つのシーンになる。音楽家も参加していたので、動きに合 わせて演奏してもらえば、パフォーマンスとして成立すると思いました。そうやっ てできたのが『喋るな、遊べ !!』です。 劇作家志望で始めた演劇ですが、家族や生い立ちなど書かずにはいられないよう な過去やトラウマがあるわけでもなく、何を書けばいいのか見失っていたところが ありました。オリジナルテンポをやることで、演出という仕事を見直す機会になり、 書くべきものを持たない自分にこそ、目の前にある日常のもの・ことの見方を変 えて、異なる世界を立ち上げる演出という作業が向いているのではないかと思う ようになりました。 07年にもうひとつ、IST零番館という大阪の小劇場の企画「テラヤマ博~演劇編 ~」に参加しました。これは、寺山修司の作品を 1時間に再構築するもので、僕は 詩やエッセー、名言などいろいろな言葉をコラージュした『書を捨てよ、町に出よ う、とか 』をつくりました。その際に調べた寺山さんと演劇実験室◎天井桟敷の活 動が非常に面白くて。街頭演劇、海外への志など、その後の自分の活動に大きな 影響を受けました。 ─ちなみに同世代で影響を受けた演劇人はいますか。 大阪では、扇町ミュージアムスクエアで同世代の劇団や関西の先輩劇団、近鉄 劇場で東京から来る第三舞台や夢の遊眠社などが並行して観られる環境にはあり ました。印象に残っていると言えば……学生時代に観た東京サンシャインボーイ ズの『もはやこれまで 』 (92年初演 三谷幸喜 作・演出)です。サンシャインボー イズの中では地味な作品ですが、観念的な演劇ではなく、三谷さんの平易な会話 にこだわったシチュエーション・コメディは、演劇がもつ面白さを再確認させて くれたように思います。 2 国際交流基金 The Japan Foundation Performing Arts Network Japan Artist Interview From Non-verbal Performance to 2.5-D Stages The Challenge of Walley Kinoshita ノンバーバル・パフォーマンスから 2.5次元へ ウォーリー木下の挑戦 ─音楽と映像などのビジュアル要素がウォーリーさんの作品では重要な要素に なっていますが、そのルーツはどこにあるのでしょう。 実は音楽は苦手分野なんです。時代ごとにいろいろなものは聴いてはいました が、こだわりがなくて、コンプレックスになるほど。ただ、自由劇場時代の先輩 が「このぐらい聴いておけ 」と何百枚も CD を貸してくれて、半強制的に音楽漬け にしてくれた。「ビートルズを聴くなら、ルーツとして黒人音楽も聴かなきゃダメ 「ハイキュー !!」“頂の景色” ©古舘春一/集英社・ハイパープロジェクショ ン演劇「ハイキュー !!」製作委員会 だ 」という感じで、洋楽などはかなり体系的に仕込んでもらいました。その蓄積に 今も助けられています。 映像や美術については、演劇活動の初期に KAVC で実験的なことをやらせても らった経験が大きい。当時KAVC には岡野亜紀子さん、福島史子さんというプロ デューサーがいて、ほぼ年1作ペースでプロデュース公演をやらせてもらいました。 KAVC にはホールの他に映画館やギャラリーがあり、ホールと映画館の 2館同時に 行う作品や、ジャンルを超えた人とのコラボなどチャレンジをさせてもらいまし た。 普通、劇団には俳優、劇作家・演出家、それと制作者がいて、テクニカルのプ ランナーなどは作品によって外部に依頼します。でも僕は、むしろ逆の方が良い んじゃないかと考えるようになり、オリジナルテンポを立ち上げた当初はスタッ フだけのチームでした。フィリップ・ドゥクフレが、舞台で使う人形や美術などを、 冬の間、アトリエに籠もってスタッフと一緒に創作するという話しを聞いたこと がありますが、僕も俳優との稽古よりプランナーとの創作作業にウエイトを置く 方が好きなんだと思いました。 ─その作業に劇作は含まれないのですか。 もちろんテキスト、言葉は作品に必要なパーツですが、逆に音楽や照明などと 同じ要素のひとつでしかないとも言える。「今回は音楽なし 」という選択と同様に、 僕は「言葉はなし 」という選択もあっていいと思うし、オリジナルテンポではそう いうスタンスで創作をしています。 「俳優が戯曲を読み、台詞を覚えて稽古場に来る 」という演劇では一般的な仕組 みが、オーバーかも知れませんが、僕には「舞台に立つ人」を狭めているように思 えます。台詞が覚えられなくても、たとえばダンスで舞台に立てるかもしれないし、 より幅広い出演者・表現者に作品への門戸を開くために、言葉にこだわらない創 作をしたいと思いました。ちなみに、俳優のトレーニングの一環として、戯曲や 台本のある作品でも「一度台詞なしで全部やってみましょう 」という稽古をするこ ともあります。 ─戯曲を使わないで、どのように作品を立ち上げていくのですか。 アイデアの元は一枚の絵や写真、先ほども話した一つのコップでも良い。絵を眺 めながら浮かんだ言葉を紡いだり、コップをさまざまに動かしながらその動きに 音楽を重ねたり、コップを既存の物語の主人公に見立てたりすることもあります。 集団創作のようにみんなでつくっていく。それは先にお話した「作家としての自分 に核となるものが乏しい 」という感覚に通じる部分かもしれません。他者とコミュ ニケーションを取ることで、自分の中に創作上のアイデアが生まれてくる。そう いうタイプの演出家なのだと思います。 ─活動の初期段階でフェスティバル・ディレクターなどを経験したことが、そ うした創作方法に繋がっていますか。 それもありますが、劇団をやっていたときに、自分がやりたいことを俳優にやっ 3 国際交流基金 The Japan Foundation Performing Arts Network Japan Artist Interview From Non-verbal Performance to 2.5-D Stages The Challenge of Walley Kinoshita ノンバーバル・パフォーマンスから 2.5次元へ ウォーリー木下の挑戦 「ハイキュー !!」“頂の景色” ©古舘春一/集英社・ハイパープロジェクショ ン演劇「ハイキュー !!」製作委員会 てもらうより、俳優がやりたいと言ったことをやってもらう方が、明らかに成果 が上がるという経験を度々しました。みんながみんな成熟した俳優ではないカン パニーでは、俳優が自発的にみつけた、やりたいと思った表現を選びながら前進 する方が、作品にも彼らにもプラスになる。そういう実感から今のようなやり方 になりました。 アイドルグループの演出をきっかけに 2.5次元の世界へ ─近年は、ハイパープロジェクション演劇と銘打った漫画原作の「ハイキュー !!」 をはじめ、種々のプロデュース公演の演出家として活躍されています。そのきっ かけはどのようなものだったのでしょう。 「東京パフォーマンスドール(TPD)」というアイドルグループが再始動する際に、 渋谷の元映画館だった劇場CBGK シブゲキ !! で 1年間のロングラン公演を行うプ ロジェクトが立ち上がりました。そのプロデューサーが、僕のノンバーバル・パ フォーマンスやプロジェクション・マッピングを使った作品などを観てくれてい て、演出家に指名されました。それで、ライブと演劇を融合させた PLAY×LIVE『1 ×0 』を 13年につくりました。 ─アイドルグループのためのロングラン作品は、それまでの小劇場の創作とは 枠組みが大きく異なるものです。新たな発見や創作方法の変化はありましたか。 『1×0 』をやる前、オリジナルテンポで海外公演したのがきっかけになり、韓国 とスロベニアで国際共同制作をする機会をいただいたんです。スロベニアでは、相 手から徹底してヒアリングを行い、それを僕が演出家として具現化するというつ くり方になった。自分の持つ文脈、文化的な背景や共有する芸術的な背景が全く 異なる人との創作は初めてで、トラブルもありましたが、「どんな作品でも、初め てものを見るようにフラットでクリアな思考で臨めばいいんだ 」と気づいた。その ことが、今に続くプロデュース作品を演出するときのスタンスになっています。 だから、全員が 10代の女の子という TPD も、僕にとっては外国人のカンパニー と同じ(笑)。言葉もなかなか通じない状況から始めて、一つずつ共有できる感覚 を増やし、共同創作に近づけることにこだわりました。アイドルとしての魅力を すべて舞台に盛り込むのがミッションだったので、宝塚歌劇の公演をイメージし ました。前半は演劇的な時間、後半はショーにして、それがひとつの世界になる よう全員を本人役にして、観客はアイドルのライブを応援する感覚で演劇を体験 できるようにしました。プロジェクション・マッピングや、自分が応援するアイ ドルの情報が映し出される眼鏡(スマートグラス )なども導入しました。 演劇と違って、アイドルとその作品に自分の人生をリンクさせたいという欲求 が観客が劇場に集まってくる。そういう観客に向けて、作品を通じて何を発信し ていくか、どう要求に応えていくかは、その後に続く 2.5次元ミュージカルの創作 にも糧となる体験でした。2.5次元の作品は、ファンの方とどうコミュニケートす るかが重要なテーマですから。 ─ そ し て、 取 り 組 ん だ の が、 高 校 の バ レ ー 部 員 た ち を 主 人 公 に し た「ハ イ キュー !!」の舞台化です。漫画、アニメ、ゲームを舞台化したコンテンツは 2.5次 元ミュージカルと呼ばれて、今、日本でとても注目されています。「ハイキュー !!」 もその大ヒット作の 1本です。 実は、自分が「ハイキュー !!」をやるまで、先行する 2.5次元作品を観たことが 4 国際交流基金 The Japan Foundation Performing Arts Network Japan Artist Interview From Non-verbal Performance to 2.5-D Stages The Challenge of Walley Kinoshita ノンバーバル・パフォーマンスから 2.5次元へ ウォーリー木下の挑戦 ありませんでした。それどころか原作の漫画も読んだことがなかった(苦笑)。学 生時代は週刊漫画誌を読んでいましたが、それ以降は限られた作家の単行本を読 むぐらいで‥‥。演出の誘いを受けたときに、プロデューサーの松田誠さんにそ うしたことは伝えたのですが、「原作を使った新しい演劇がつくりたかったから依 頼したので、気にしなくていい 」と言ってくださって。お陰で余分な緊張をせずに 取り組めました。 「ハイキュー !!」の原作を読んでみたら、僕のスポーツ漫画の固定概念と違い、必 殺ワザや魔球の類が出てこない。語弊があるかもしれませんが、「地味な部活の話」 なんです。何度か読み返すうちに「これは人間ドラマとして見せたほうが面白い 」 と思い、脚本を担当する中屋敷法仁君(劇団柿喰う客の劇作家・演出家)と打合せ しました。 ─二人の間では、どのようなやり取りがあったのですか。 中屋敷君は原作の大ファンでした。僕が「パフォーマンス要素の強い作品にした い 」という意図を伝えたら、彼は「ト書きは一切書かない。原作の台詞を抜粋して、 それを構成した台本をつくる 」と。なので、キャラクターがどういう会話をするか の流れを中屋敷君がつくり、試合のシーンなどは僕がつくるという分業で、上演 台本を形にしていきました。 原作担当編集の方と相談しながらつくらせていただきましたが、「「ハイキュー !!」 素晴らしい作品で、漫画の段階で既に完成しているので、演劇で同じことをする のは不可能だから、演劇として素晴らしい作品になるよう、納得のいく創作にし てください。そのための変更や創作はウォーリーさんに一任します 」と言ってくだ さった。そのことには今も感謝しています。まぁ、中屋敷君が原作を非常にリス ペクトしているので、不用意にいじるなんてことはありませんでしたが(笑)。 ─パフォーマンスとして見せるト書きの部分、たとえばバレーボールの試合の シーンではプロジェクション・マッピングやダンス、ライブカメラでの映像など、 多くの要素で構成されています。どのように整理し、シーンとして配分していっ たのでしょうか。 台本は絵コンテのようになっていて、俳優の立ち位置まで書き込んであります。 最初は俳優を入れないで、僕と振付家とダンサーとでワイワイといろいろなこと を試しながら試合のシーンをつくりました。こういう集団創作的なプロセスである 程度のベースをつくり、それから俳優に入ってもらう。すると今度は登場人物の キャラクターが加わるので、それに応じて動きの調整や台詞の調整を行い、バレー ボール指導の方からのアドバイスなども受けます。 音楽の要素も非常に大きいので、個人的には音楽劇をつくっている感覚に似てい ました。「2秒ブレイク、台詞が入り、そのあと曲が復活」というような、スコアと 台詞の細かな合致が必要で。音楽の和田俊輔君にもずっと現場に入ってもらって、 稽古場でスコアを改訂してもらいました。 僕が 2.5次元作品の一番の特徴だと思っているのは、文章のテキストがあると同 時に、原作の「画」というデザインのテキストがあるということ。「ハイキュー !! 」 には「ハイキュー !!」独自のデザインがあって、それを舞台に使わない手はないと 思いました。それで原作の画、コマを舞台に出して、それが舞台のベースやリズ ムをつくり、シーンの見るべきアングルを教えてくれたり、デザインの特殊性を 舞台のムーブメントに翻訳したりしました。だから稽古場でも原作の漫画を開き ながら、いかにその動きや描写を立体化、再構築化するかを検討し続けました。 5 国際交流基金 The Japan Foundation Performing Arts Network Japan Artist Interview From Non-verbal Performance to 2.5-D Stages The Challenge of Walley Kinoshita ノンバーバル・パフォーマンスから 2.5次元へ ウォーリー木下の挑戦 ─「バレーボール 」という題材から生まれた演出プランはありますか。 サッカーやバスケットボール、野球など他のスポーツのプレイは、ボールが地 面に接していますが、バレーボールのプレイは基本空中で行うものです。なので、 アクティングエリアを通常の演劇より上に向かって設定しないと表現できないと 思いました。同時に、その「上へ上へ 」という志向は、決してスーパーヒーローで はない登場人物たちが、成長しようとするドラマの展開にも重なっていく。非常 に上手くできていますよね。 ─キャラクターが明解な登場人物を俳優たちが演じるための演技指導はどうさ れたのでしょうか。 ビジュアルは原作にできるだけ忠実にを心がけましたが、キャラクターの演技に ついては僕から指示することはあまりやりません。というか、そもそもそうした役 づくりを細かくすることが得意じゃなくて(苦笑)。シーンにおける立ち位置や顔 の角度などは言葉にしますし、作品がもつ価値観や精神性について共有しますが、 こと役については俳優がつくってきたものを見せてもらって話し合うスタイルで す。 ─ 2.5次元の舞台作品を手掛けたことで演劇観に変化がありましたか。また、ど のような可能性を感じていますか。 30代はじめ、「演出家になろう 」と腹を括った時に思ったことのひとつが「コッ プひとつしかない状態でも演劇はできる。何でも演劇になる 」ということでした。 以来、僕はずっと「演劇とは何か 」を考え続けているように思います。その中で「ハ イキュー !! 」に出合い、舞台上で人間の魅力を描く重要性に改めて気づいた。そこ に今、大きな可能性を感じています。 「ハイキュー !!」は誰も死なないドラマですが、世の中の戯曲の多くには「死」が 描かれていて、生まれるか死ぬかの話がとても多いんです、それが最大のドラマツ ルギーだから。でも 10代の男の子たちが、ひたすらバレーボールに打ち込み、誰 も死ぬことがない「ハイキュー !!」でも、観客を感動させるドラマをつくることが できる。そんな、ストレートな「物語」に対しての信頼を、自分の中で回復できた のはこの作品と出合えたからだと思います。2.5次元作品の可能性について語れる ほど、僕はまだ深く関われてはいませんが、このジャンルのように多くの要素が 関わる創作の現場で、僕が多くを得たように、演出家を育てていくような仕組み ができたらいいなと思いました。 ─戯曲とは異なる出発点から舞台をつくり上げるには多くの視点と多彩な表現 をまとめ上げる手腕が必要。確かに演出家としての地力を問われると思います。 僕は、演劇の劇作家・戯曲至上主義の傾向が性に合わなくて、一時、戯曲から 離れてノンバーバルにいったところがあります。でも 2.5次元作品のような、漫画 やアニメを原作にした舞台づくりでは、戯曲からの創作とは異なるスキルが必要に なる。僕の憧れている人のひとりがコミュニティデザイナーの山崎亮さんなんです が、「ハイキュー !! 」のような舞台をつくることは、コミュニティデザインに近い 作業のような気がします。創作のためのチーム、上演する「場」、それを観て満足 してもらいたい観客についてまでデザインしなければ、作品は成立しませんから。 そうして生まれた作品を観た方たちが、そこで感じたことをそれぞれ持ち帰り、 自分たちの日常生活に何かしら還元してもらえればそれに勝ることはない。そう いうことが劇団であれ、外部の作品であれ、僕が演劇でやりたいことなのかもし れません。 Copyright (c) 2016 The Japan Foundation, All Rights Reserved 6
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