MPI ケーススタディ Hexit: 今はヘッジファンドから 撤退する時期ですか? 2016 年 6 ⽉ ダニエル・リー博⼠ マイケル・マルコフ 「我々は市場 のピークにい ますか?」 機関投資家は、⻑期の上昇相場では、株式ベンチマークに対してヘ ッジファンドを不当に評価しがちです。それよりヘッジファンドの 運⽤が意図したマンデートに沿っているかどうか問われるべきで す。 2014 年後半、⼤⼿投資家である CalPERS がヘッジファンドから撤 退したのち、今年に⼊ってから AIG と MetLife 社も、ヘッジファン ド投資からの撤退を発表しました i。ヘッジファンドは⼀⾒したとこ ろ、⼤⼿機関投資家から⼈気が無くなっているように思われます。 そこで MPI は「今がヘッジファンドから撤退する本当にいい時期か どうか?」を問いかけてみました。 ヘッジファンドに批判的な⼈々は、 株式ベンチマークに対して平凡な Peak? MSCI World Index パフォーマンスと⾼い⼿数料を⾮ DJ Credit Suisse Hedge Fund Index 難します。危機後、ウォールスト Peak リートでは、そのような⽩熱とし た議論を⽣み出しました。 私たちはパフォーマンスを詳細に 調査するために、DJ クレディ・ス イス・ヘッジファンド・インデッ クス ii(net of fees、時価総額加 重)と、広義の株式ベンチマークで 12/04 12/05 12/06 12/07 12/08 12/09 12/10 12/11 12/12 12/13 12/14 04/16 ある MSCI ワールドインデックス Created with MPI Analytics (ドル建て)の累積パフォーマン スをチャート上にプロットしまし Historical Drawdowns た。私たちが考察するサンプル期 間は、マーケットが好転し始めた 2003 年 1 ⽉から 2016 年 4 ⽉ま でです。 -18% チャートを⾒ると、2003 年から 始まる 61 ヵ⽉間の上昇相場の 間、グローバル株式がヘッジファ ンドを上回ったことがはっきり分 かります iii。しかしながらその後 株式は、左下図のドローダウンチ -53% 12/04 12/05 12/06 12/07 12/08 12/09 12/10 12/11 12/12 12/13 12/14 04/16 ャートを⾒ると'07 年と'08 年の Created with MPI Analytics ⾦融危機によって引き起こされた 下げ相場において、-53%の損失に苦しみ、同じ期間ヘッジファン ドは、-18%と投資資本をうまく維持することができました iv。 Cumulative Performance 300 280 260 Growth of $100 240 220 200 180 160 140 120 100 80 12/02 12/03 0 Drawdown Return, % -10 -20 -30 -40 -50 -60 01/03 12/03 © 2016 Markov Processes International, Inc. 「ヘッジファ ンドは資本保 全とボラティ リティの低減、 ポートフォリ オ内の分散効 果、⼀般的に 優れた⻑期的 なリスク調整 後リターンの 提供を⽬指 す」 早送りして現在を⾒てみましょう。2009 年 3 ⽉に始まった現在 の上げ相場は既に 70 か⽉以上です v。この期間、株式市場はヘ ッジファンドの停滞を尻⽬に、170%以上の増加で回復しまし た。しかし、歴史が参考になるとすれば、また上げと下げの市場 のサイクルが不変だとすれば、株式市場が再びピークを迎えたこ のタイミングで、ヘッジファンドから撤退することは機関投資家 として道理にかなったことでしょうか? ポートフォリオ効率の改善 ヘッジファンドは、⻑期の株式市場の上昇局⾯において株式より アウトパフォームすることを⽬指して設計されていません。また そのように期待すべきでもありません。概して業界内ではファン ドそれぞれのパフォーマンスに重きを置いてしまいがちですが、 ヘッジファンドにおいては、資本の保全、ボラティリティの低 減、ポートフォリオ内の分散効果を促進、優れた⻑期のリスク調 整後リターンの提供を⽬指します vi。しかしながら、本当にこれ らの役割を果たしているでしょうか? 我々はそれを検証するた めにアセット・アロケーションツールを⽤いて、株、債券、キャ ッシュのポートフォリオに、ヘッジファンドを組み⼊れた場合の 評価を試みました。株式とヘッジファンドのベンチマークは上記 と同様で、債券のベンチマークは Barclays U.S. Aggregate Bond Index を、キャッシュは Merrill Lynch 3-month T-Bill index を使⽤します。投資制約については、“ロングのみ”で債 券、株、ヘッジファンドの最⼤ウェイトをそれぞれ 60%、 80%、25%と仮定します。分析には最⼤シャープレシオのポイ ントを測定するだけでなく、別途、基準点して 60/40 の割合の 株式/債券のポートフォリオも取り込みました。 ⽐較するのは 3 つの期間です。最初の期間は 2003 年 1 ⽉から 2009 年 6 ⽉です。これは株式市場の上昇が 2008 年の危機で終 了しその後マーケットの反発した時期と⼀致します。2 番⽬の期 間は、危機後の回復期間を含んだ 2003 年 1 ⽉から 2016 年 4 ⽉の全期間です。3 番⽬は 2009 Investor Experience Jan 2003 - Jun 2009: Rally...Crisis 年 7 ⽉から 2016 年 4 ⽉の直近の Efficient Frontier: Return vs. Risk Traditional Frontier 上昇相場だけを含んだ期間です。 Frontier w/ Hedge Funds 7 Max Sharpe 60/40 Portfolio Cash Bonds Equity Hedge Funds 6 Return, % 60/40 Portfolio 5 Max Sharpe 4 分析結果を上記の期間に対応す る 3 つのリスク/リターン・フロ ンティア図で⽰します: 3 2 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 Risk (Std Deviation), % Created with MPI Analytics © 2016 Markov Processes International, Inc. ページ 2 Investor Experience Jan 2003 - Apr 2016: Rally...Crisis...Rally Efficient Frontier: Return vs. Risk 9 Traditional Frontier Frontier w/ Hedge Funds Max Sharpe 60/40 Portfolio Cash Bonds Equity Hedge Funds 8 7 60/40 Portfolio Return, % 6 5 Max Sharpe 4 3 2 1 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 Risk (Std Deviation), % Created with MPI Analytics Investor Experience July 2009 - Apr 2016: Rally... Efficient Frontier: Return vs. Risk 12 Traditional Frontier Frontier w/ Hedge Funds Max Sharpe 60/40 Portfolio Cash Bonds Equity Hedge Funds 11 10 9 60/40 Portfolio Return, % 8 7 6 5 ⾚線がキャッシュ、債券、株式 が配分された伝統的なポートフ ォリオで、⻘線はヘッジファン ドを組み⼊れた(最⾼ 25%ま で)ポートフォリオの有効フロ ンティア viiを表しています(チ ャート軸は年率の値を表してい ます)。 最初の 2 つのケースでは、ヘッ ジファンドを組み⼊れたものは、 どのリスクレベルにおいても効 率的であったことがわかります。 市場が回復した期間(20032016)でさえ、最初のケースほ ど顕著ではありませんがヘッジ ファンドは分散効果をもたらし ています viii。 4 Max Sharpe 3 2 1 0 0 2 4 6 8 10 Risk (Std Deviation), % 「著しい市場 混乱の期間を 考慮した場合、 ヘッジファン ドへの配分は 価値を持つ」 直近の市場回復の(20092016)3 番⽬の例においては、 12 14 16 ヘッジファンドに配分したもの Created with MPI Analytics は、⼀般的なポートフォリオに ⽐べて⼤きな改善効果はみられ ませんでした。これは、最近の市場パフォーマンスをみてヘ ッジファンドの配分を低く提唱している⼈々の⾒⽅を⽀持す るようにみられます。しかし、我々の分析が⽰すように、著 しい市場混乱の期間を考慮した場合、ヘッジファンドの配分 は価値を持つと⾔えます。次のチャートは最も保守的なもの から最も積極的なポートフォリオまで、各有効フロンティア に沿った効率的な配分を⽰しています。 売りはご⽤⼼! 危機の期間を含んだ 2 つのケースにおいて、ヘッジファンド を最⼤制約 25%とした有効フロンティア配分が、⾮常に早く 25%に達することは注⽬に値します。これは、ヘッジファン ドの配分が⼩さすぎる(例えば 1%)ものは、正当化がより難し く、”へッジファンドから撤退する CalPERS 決定は、我々の 以前の分析結果”と同じことを⽰します。 © 2016 Markov Processes International, Inc. ページ 3 Investor Experience Jan 2003 - Jun 2009: Rally...Crisis Efficient Allocations 100 Traditional Frontier Hedge Funds Equity Bonds Cash 80 60 Weight, % 40 20 0 100 Frontier w/ Hedge Funds 80 60 40 20 0 0.0 0.8 1.4 2.1 2.7 3.3 4.0 4.6 5.2 5.8 6.5 7.1 7.7 8.3 9.0 9.6 10.2 Ris k (95% CVaR), % Created with MPI Analytics Investor Experience Jan 2003 - Apr 2016: Rally...Crisis...Rally Efficient Allocations 100 Traditional Frontier Hedge Funds Equity Bonds Cash 80 60 Weight, % 40 20 0 100 Frontier w/ Hedge Funds 80 60 40 20 0 0.0 0.3 0.7 1.0 1.4 1.7 2.1 2.4 2.8 3.1 3.5 3.8 4.1 4.5 4.8 5.2 5.5 5.9 6.2 6.6 6.9 7.2 7.6 7.9 8.3 8.6 9.0 Ris k (95% CVaR), % Created with MPI Analytics Investor Experience July 2009 - Apr 2016: Rally... Efficient Allocations 100 さらに私たちは、ヘッジファン ド投資の代替として使⽤する DJ Credit Suisse Hedge Fund Index にも注意しなければなり ません。何千ものヘッジファン ドの時価総額加重平均なので、 幅広く分散化されており、単⼀ のファンドあるいは、ほんの 1 握りのファンドの実績は反映し てません。 Traditional Frontier Hedge Funds Equity Bonds Cash 80 60 分散効果の評価 通常、アセット・アロケーショ ン分析は、⼀般投資家からコン サルタントにいたるまで幅広く ⽤いられます。前提条件として 主な資産クラスの推定値やそれ に伴う制約条件が決定されます。 (私たちがこの分析で使⽤した ヒストリカルの期間を必ずしも 使⽤する必要はありません) 今回私たちは、リスクプレミア ム、イールドカーブあるいは相 関の推定作業を⾏わず市場で観 察された過去の結果としてヒス トリカルのデータを選択しまし た。 Weight, % 40 20 0 100 Frontier w/ Hedge Funds 80 60 40 20 0 0.0 0.3 0.5 0.8 1.1 1.3 1.6 1.9 2.2 2.4 2.7 3.0 3.2 3.5 3.8 4.0 4.3 4.6 4.8 5.1 5.4 5.6 5.9 6.2 6.5 6.7 7.0 7.3 Ris k (95% CVaR), % Created with MPI Analytics 要約すると、投資家はヘッジファンド投資から⼿を引くという早急な決定を下す前に、ポートフ ォリオ全体や種々のマーケット環境やヘッジファンドの役割などを総括的に考慮しなければなら ないと思っています。どの投資家もヘッジファンドの配分決定を早急に判断する前に⼤切な監査 と同様に捉え、様々な分析を⾏い精査することが⼤切です。しかしながら、明らかに、投資家が ヘッジファンドを回避する正当な理由 (⾼いフィー、低い透明性、⾮流動性など) がありますが、 株式ベンチマークを追随しているか?だけを理由の 1 つとすべきではないと考えられます! © 2016 Markov Processes International, Inc. ページ 4 脚注 i 2016 年 5 ⽉ 12 ⽇付のニューヨークタイムズによると、アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)は、 昨年の終わりの時点で 110 億ドルあったヘッジファンドのエクスポージャーを 2017 年の終わりまでに半分に減らし 55 億ドルにすると発表した。MetLife は$1.8 億から$6 億へ、ヘッジファンドのポートフォリオを 3 分の 2 に⼤幅に 削減することを発表した。 ii 時価総額加重のヘッジファンドインデックスは、 均等加重のインデックスに⽐べ、より現実的な投資者経験を表し ているという私たちの⾒解を反映する。 iii 2003 年以前は、DJ クレディ・スイス HF インデックスに表されるヘッジファンドは、 MSCI ワールド・インデッ クスで表される世界株式より⼤幅にパフォーマンスを上回った。 iv -53%および-18%のドローダウンは、株式(MSCI ワールド・インデックス)およびヘッジファンド(DJ クレディ・ スイス HF インデックス)への投資のピーク値から投資者が被る最⼤のロスを表します。 v Putman Investments によると、 平均的な上昇相場は、1949 年以降およそ 44 ヵ⽉続きました。 vi 現在の上昇相場であっても、シャープレシオを⽐較すると DJ クレディ・スイス・ヘッジファンド・インデックスは 1.29 で MSCI ワールド・インデックスの 0.99 をアウトパフォームしました。 vii 有効フロンティアは、リターンが同じであれば、最もリスクが⼩さい選択肢が、リスクが同じであれば最もリター ンが⼤きい選択肢が採⽤される最適ポートフォリオの組み合わせです。この分析については、私たちは平均分散最適化 (MVO)を適⽤しましたが、CVaR(ETL)のようなテールリスクに注⽬した⽬的関数の使⽤でも同様の結果を⽣みました。 viii これは驚くべきことではなく、MVO および同様の最適化から予期されます。私たちは、改善の重要性のより深い 理解を得るために統計のリサンプリングのような感受性テストを使⽤することを推奨します。 MPI に関して MPI(Markov Processes International, Inc)は投資リサーチ、分析およびテクノロジーのグ ローバルプロバイダーです。MPI の提供するソリューションは、年⾦基⾦、機関投資家、コ ンサルタント、プライベートバンク、リサーチグループ、ヘッジファンド、ヘッジファンド オブ ファンズ、投資顧問およびファイナンシャル・アドバイザーを含む、⾦融サービス業界 の皆様にご利⽤いただいております。 弊社⽶国サイト: http://www.markovprocesses.com 弊社⽇本サイト: http://www.mpi‐japan.com © 2016 Markov Processes International, Inc. ページ 5
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