映画の興行価値予測

映画の興行価値予測
上智大学経済学部経営学科 網倉久永ゼミナール
A0042304 藤永恵吾
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藤永恵吾
目次
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序文
映画の興行価値について考えてみた。
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注意点
GAGA コミュニケーションズやジェームス・ウルマー氏など映画の興行価値を予測す
る人たちはどのような点に注意しているのか。それらを考えてみる。
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考察
注意点を元に興行価値とはどのようなものか。
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検証
「リクルート」(2004 年1月 17 日封切)の興行価値を予測してみる。
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結論
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映画の興行収入はよくギャンブルに例えられる。それは非常に収益の予想が困
難であるからだ。しかし、スピルバーグやジュリア・ロバーツといった監督、女優が出演
すればヒット間違いなしといった話も耳にする。つまり、監督やキャスティングといった
要素からある程度の収益予想が可能であるが、そのための指標が不足しているためにギャ
ンブルといわれているにすぎないのではないかと考えたのである。
実際に、映画ジャーナリストの James Ulmer はハリウッドの俳優や監督を観客
の人気ではなく興行価値で表した Ulmer’s Scale を世に送り出している。映画配給会社であ
るギャガ・コミュニケーションズにいたっては LINDA(Latest, Integrated Navigation
System with Data Analysis)という映画の興行価値をデータベースによって判断させてし
まうといったことをしている。かれらの実績からしても映画の興行的価値を予め判断する
ことは可能であると言える。では、どの程度の予測が可能であるのだろうか。注意する点
を考える。
【ⅰ】ジム・キャリーの場合
マスク(94)
54 億円
ライアーライアー(97)
200 億円
トゥルーマン・ショー(98)
141 億円
マン・オン・ザ・ムーン(99)
マジェスティック(01)
39 億円
32 億円
ブルース・オールマイティ(03)
270 億円
(北米概算)
このデータからはヒットメーカーと呼ばれるジム・キャリーの興行収益的価値にもば
らつきがあるように見える。が、「当たる」作品と「当たらない」作品のジャンルには若干
の差が見受けられる。『マスク』『ライアーライアー』などのコメディではヒットするが、
その一方では『トゥルーマン・ショー』『マン・オン・ザ・ムーン』『マジェスティック』
などのコメディというより演技力を重視するものではヒットしないこともあるようだ。つ
まり、観客は役者にある特定のイメージを期待し、合致するジャンルでなければ興行的な
『当たり』は期待できないのである。
【ⅱ】ジェームズ・ウルマーの場合
映画ジャーナリストで、ハリウッドの俳優・監督を興行価値でランキングしたジェー
ムズ・ウルマー氏によると、彼らの商品価値を決定する要因は4つ。それらは「プロモー
ション能力」
「キャリア管理能力」「プロフェッショナル度」
「才能」であるが、要するにブ
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ランドイメージを作り出す能力とそれを維持する能力である。具体的には、出演作品の宣
伝に協力的かどうか、作品選びのセンス、脚本選定能力などがそうである。それらで判断
した結果、ウルマー氏と一般的なハリウッド俳優のランキングの違いは多少の年代の差が
ある中でも明らかである。
James Ulmer's TOP 20 Stars
American Film Institute's ranking
1 Tom Cruise
A+
1 Harrison Ford
26 Whoopi Goldberg
2 Mel Gibson
A+
2 Sean Connery
27 Paul Newman
3 Tom Hanks
A+
3 Meg Ryan
28 Steve McQueen
4 Julia Roberts
A+
4 Clint Eastwood
29 Robert Redford
5 Brad Pitt
A+
5 Bruce Willis
30 Jane Fonda
6 Jim Carrey
A
6 Richard Gere
31 Cary Grant
7 Harrison Ford
A
7 Kevin Costner
32 Nastassja Kinski
8 George Clooney
A
8 Sylvester Stallone
33 Sean Penn
9 Russell Crowe
A
9 Robert De Niro
34 Meryl Streep
10 Bruce Willis
A
10 Mel Gibson
35 Grace Kelly
11 Micheal Douglas
A
11 Anthony Hopkins
36 Winona Ryder
12 Will Smith
A
12 Ingrid Bergman
37 Elizabeth Taylor
13 Leonardo DiCaprio
A
13 Gregory Peck
38 Michelle Pfeiffer
14 Jack Nicholson
A
14 Audrey Hepburn
39 Humphrey Bogart
15 Nicole Kidman
A
15 Tom Cruise
40 Johnny Depp
16 Eddie Murphy
A
16 Arnold Schwarznegger
41 Kevin Spacey
17 Nicolas Cage
A
17 Faye Dunaway
42 Sandra Bullock
18 Sean Connery
A
18 Tommy Lee Jones
43 Brad Pitt
19 Mike Myers
A
19 Fred Astaire
44 Denzel Washington
20 Al PACINO
A
20 Marlon Brando
45 Katharine Hepburn
21 Al Pacino
46 Mira Sorvino
A は他 21 人(計 36 人)
22 Alain Delon
47 Gary Cooper
B+は 65 人
23 John Travolta
48 Daniel Day-Lewis
B は 150 人
24 Diane Keaton
49 Leonard DiCaprio
C は 297 人
25 Kim Basinger
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【ⅲ】初発率
ゲームソフトは高初期値低減型消費であり、発売直後の一週間での売上は総売上の
47%になるというデータがある。言い換えれば、一週間目のセールスがその作品自体の価
値を決定してしまうということである。第一週に映画を見る客とは、監督やキャスティン
グ、ストーリーによって生まれる固定客とその他の変動性の高い観客αである。しかしな
がらこのαは固定客の数に比例しながら存在しているのではないだろうか。この計画性の
無い客はキャスティングの知名度などの固定客の多い作品ほどよく見に行くと考えるから
である。よって、変動性が高いながらも予測できるのではないだろうか。
初発率(高初期値低減型消費)のグラフ
【ⅳ】映画館に来る人たち
映画館にわざわざ足を運ぶ人たちというのはどんな人達なのだろうか。終戦直後、映
画館には年間のべ8億人から10億人の人たちが観覧に行っていた。
(映画館の数も現在の
倍であるが。
)今の映画館での鑑賞人口はおよそ1億5千万人というのが1970年ごろか
らの決まった数値であるようだ。
しかし終戦間もないころと言えど、ニュース映画という映画の本来の役割はとうに消
え去り、芸術としての映画人口が8億から10億もいたのだ。いったいこれらの人々はど
こに消え去ったのか。
いろいろ考えうるが、私の答えはテレビ・ビデオの普及である。これらの普及に伴っ
て映画館での鑑賞人口が減少しているのと、現在のビデオでの映画鑑賞人口が8億 3310 万
人いるというのが理由である。ちょうど高度経済成長によって失われた数と一致するぐら
いである。
つまり、映画館に対しての消費者余剰の比較的低い層はビデオやテレビといった安価
な異なる手段を用いて映画をみようとしてきたのである。よって映画館に行く人たちとい
うのは比較的消費者余剰の高い、映画に感心の高い人たちであるだろう。(もちろん低い層
もある程度含まれるが。
)
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【ⅴ】考察
以上三点を考えて、映画の価値予測をしてみたい。予測するのは封切一週間の売上で
ある。厳密な意味でのクチコミ効果ではなく、パンフレットに記載してある程度の情報と
メディアでの宣伝の印象だけで意思決定をしている人々の数を予測するのである。この初
期一週間の客層は作品のキャストに興味のある固定客層と、そうでないその他変動客層に
分かれる。が、変動客層に至っても前述の通り母体となる固定客層の増減によって連動し
て増減すると考えるのでこれらは一つの集団として考えられる。
(固定客層と変動客層の比
率はわからない。たぶん、変動客層は20%程度であると思う。)
よって
① 映画の興行的価値は初発率によって基本的には求められるので、映画の価値は一週
間の売上で評価される。
② 映画の第一週目に行く人々は映画に対する感心が比較的高い人々である。
③ これらの人々はその関心の高さゆえに、意識的・無意識的にキャスト・スタッフの
個々人が持つ「ブランドイメージ」に強く影響される。
④ 結論として、この「ブランドイメージ」が過去のデータによって数値化できれば、
映画の興行価値を予測することができる。
【ⅵ】「リクルート」(2004年1月17日封切)の興行価値を予測する
監督:
ロジャー・ドナルドソン
脚本:
ロジャー・タウン
「ナチュラル」
カート・ウィマー
「スフィア」
ミッチ・ガレイザー
制作:
「13days」「カクテル」
「大いなる遺産」
ロジャー・バーンバウム
ゲイリー・バーバー
「シックスセンス」「インサイダー」
「シックスセンス」「インサイダー」
撮影:
スチュアート・ドライバーグ
音楽:
クラウス・バデルト
キャスト:
「プリティ・ブライド」
アル・パチーノ
「グラディエーター」「ハンニバル」
「ゴッド・ファーザー」
コリン・ファレル
「マイノリティ・リポート」
ブリジット・モイナハン
ガブリエル・マクト
「コヨーテ・アグリー」
「スピン・シティ」
こうして見てみるとどのキャスト・スタッフの関連作品も一応の有名作品が並ぶ。だ
が、個人の知名度としてはアル・パチーノとコリン・ファレルぐらいである。つまり、興
行的に人を呼び寄せる力があるのはこの二人とかろうじてブリジット・モイナハンぐらい
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であろう。なかでも特筆すべきはコリン・ファレルである。アル・パチーノの興行的影響
力はすでに落ちてきていて、かつてのような力はないと考えるからだ。そこでコリン・フ
ァレルを中心に考えてみる。
[コリン・ファレルの主な出演作の興行収入(北米グロス・概算)]
14 万ドル
1600 万円
「ジャスティス」(02)
1900 万ドル
21 億円
「フォーンブース」(02)
4660 万ドル
52 億円
「デアデビル」(02)
1 億 1147 万ドル
125 億円
「S.W.A.T.」
(03)
1 億 1270 万ドル
126 億円
「タイガーランド」(00)
「タイガーランド」以降、彼の出演した作品の興行収入は回を追うごとに増してきて
いる。このデータの上限を才能として、下限との差をブランド維持能力とすると、基本的
にはその役者のブランド力がでそうである。が、この場合、コリン・ファレルは新人であ
るのであまり初期の興行収益は下限として不向きであるように考えた。
「リクルート」は 130 億円ぐらいであると思う。アル・パチーノも興行価値に加わる
のと、映画のストーリーもサスペンスで今までの作品に比べて引きつけられるものがある
からである。彼の今現在の興行的な才能が 125 億程度であるならばその限界ぎりぎりの数
値である 130 億程度が見込まれる。映画の初発率が 47%とは思えないが、61 億 1000 万円
程度か。ちなみにドルでは、57 万 3301 ドル。コリン・ファレルの日本でのデータがどう
しても手に入らなかったので、アメリカと日本の市場規模の単純計算で「リクルート」の
日本での興行価値を計算する。17 億 9134 万円(第一週のセールス
1 ドル=106.58 円で
計算)ということになる。
日本
アメリカ
フランス
イギリス
市場規模
1935 億円
6600 億円
920 億円
850 億円
封切本数
278 本
421 本
160 本
65 本
スクリーン数
1933 館
30825 館
3900 館
2200 館
1スクリーンあたりの人口
63000 人
9000 人
25000 人
27000 人
平均料金
1260 円
460 円
800 円
590 円
観客動員数
年間鑑賞回数
15300 万人 139000 万人 12500 万人
1.22 回
4.88 回
6
2.42 回
14800 万人
2.25 回
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【ⅶ】感想
興行価値を知るということはもはや世間の関心の一つになってしまっている。ギ
ャガ・コミュニケーションズにいたっては映画をデータベースによって価値判断をさせ、
配給業界をリードしている。つまり、映画はもうデータで観衆の興味を知るには十分な歴
史を抱えているのだと思う。今回の私のデータはあまりに少なく、簡単なものであるが、
この程度の予想がどの程度当たるのかに興味があった。参考文献にも挙げている大高宏雄
氏の予想ではこれよりも簡単な予想でほとんど当たっているらしいので。
バイヤーによる感覚的な買い付けから大幅にデータによる買い付けに移行すれば、
映画を買うという行為のリスクが軽減され、リスクのある「新しい作品」の買い付けも積
極的にできるようになるのであろうと思う。
<参考文献>
大高宏雄
鹿砦社
「興行価値
商品としての映画論」
1996 年
大出玲子とシネマオレンジ
主婦と生活社
「平成 13 年
「女の視点でみれば映画は2倍面白くなる」
1991 年
特定サービス産業実態調査報告書
経済産業省経済政策局調査統計部
「平成 13 年
2003 年
特定サービス産業実態調査報告書
経済産業省経済政策局調査統計部
映画制作・配給業・ビデオ発売業編」
映画館編」
2003 年
「Invitation 映画スターというビジネス」
ぴあ
2003 年 11 月
キネマ旬報
全映画作品データベース
http://www.walkerplus.com/movie/kinejun/index.cgi
社団法人 日本映画製作者連盟ホームページ
http://www.eiren.org/
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